説明

テトラヒドロイソキノリン誘導体、その製造方法及び医薬的使用

【課題】医薬化学に属するある種のテトラヒドロイソキノリン誘導体(I)、その製造方法、医学的組成物および医学的使用、特に鎮痛におけるκ−オピオイド受容体刺激剤としての使用。一般式(I)の置換基R、R、R、Rは本明細書で定義する通りである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬化学分野に関し、詳細にはある種のテトラヒドロイソキノリン誘導体及びその製造方法、医薬組成物及び医学的使用に関し、より詳細には鎮痛剤のκ−オピオイド受容体作動薬としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
κ−受容体はμ−,δ−,σ−及びORL−1受容体と共にオピオイド受容体ファミリーに属する。モルヒネに代表されるμ−受容体作動薬は強力な鎮痛作用を有するが、その副作用、例えば依存症及び中毒などのために、臨床的使用には多くの制限がある。中枢選択的κ−受容体作動薬は、鎮痛の目的で使用できるばかりでなく、モルヒネ様副作用を回避する効力も有する。また、鎮痛、消炎鎮痛、抗痛覚過敏、陣痛治療の目的で使用可能であり、水利尿薬、かゆみ止め薬として使用でき、かつ抗けいれん薬治療、抗高血圧、神経保護、HIV感染治療の目的で使用可能であり、更にコカイン及びモルヒネ中毒からの離脱にも使用可能である。従って、選択的κ−受容体作動薬は良好な応用展望を有する。


【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は一連の新規なテトラヒドロイソキノリン誘導体を開示する。本発明の化合物は、放射性リガンド結合アッセイにより、κ−受容体に対して非常に高い親和性及び選択性を示す。マウスを用いた鎮痛試験においては、良好な鎮痛活性を示す。
【0004】
本発明の化合物の一般式Iを以下に示す。
【化1】

式中、Rは、
【化2】

を表し、
は、各々独立して、H、F、Cl、Br、C−Cアルキル、ORまたはNRを表すか、あるいは一緒になって5,6−メチレンジオキシ、6,7−メチレンジオキシまたは7,8−メチレンジオキシを形成しており、
及びRは、各々独立して、H、F、Cl、Br、トリフルオロメチル、C−Cアルキル、OR、NRを表すか、あるいは一緒になって4,5−メチレンジオキシ、5,6−メチレンジオキシまたは6,7−メチレンジオキシを形成しており、
は、H、C−Cアルキル、アリル、C−Cシクロアルキル(好ましくはシクロプロピル、シクロブチルまたはシクロペンチル)を表し、
及びRは、各々独立して、H、C−Cアルキル、C−Cアルキルアシル(好ましくはホルミル、アセチルまたはプロピオニル)またはC−Cアルキルスルホニル(好ましくはメチルスルホニルまたはエチルスルホニル)を表し、
及びRは、各々独立して、H、C−Cアルキル、アリル、C−Cアルキルアシル(好ましくはホルミル、アセチルまたはプロピオニル)またはC−Cアルキルスルホニル(好ましくはメチルスルホニルまたはエチルスルホニル)を表すか、あるいはN原子と一緒になって3−7員の環基を形成している。
【0005】
上述の一般式Iで表される好適な化合物を以下に示す。
は、
【化3】

を表し、
は、各々独立して、H、F、Cl、メチル、ヒドロキシ、メトキシ、ジメチルアミノを表すか、あるいは一緒になって5,6−メチレンジオキシまたは6,7−メチレンジオキシ基を形成しており、
及びRは、各々独立して、H、F、Cl、メチル、ヒドロキシル、メトキシ、ジメチルアミノを表すか、あるいは一緒になって4,5−メチレンジオキシ、5,6−メチレンジオキシまたは6,7−メチレンジオキシを形成している。
【0006】
より好適な該化合物は以下である。
は、
【化4】

を表し、Rは、各々独立して、H、F、Clまたはメトキシを表し、R及びRは、H、F、Clまたはメトキシを表す。
【0007】
最も好適な該化合物は以下である。
は、
【化5】

を表し、RはH、RはH、RはClを表す。
【0008】
本発明に基づき、製薬学的に許容される塩としては、上述の一般式Iで表される化合物と、塩酸、臭化水素酸、硫酸、炭酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、マレイン酸、メシル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸またはアルギニンなどの酸との酸付加塩が挙げられる。
【0009】
本発明の化合物の例を以下に示す。
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−1)
1−(3−メチル−ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−2)
1−(3−ヒドロキシ−ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−3)
1−(3−オキソ−ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−4)
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−5)
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−6)
1−(3−ヒドロキシ−ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−7)
1−(3−メチル−ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−8)
1−(3−オキソ−ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−9)
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジクロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−10)
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5−フルオロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−11)
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(4−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−12)
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−13)
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−14)
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−15)
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジクロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−16)
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5−フルオロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−17)
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−18)
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−19)
7−ヒドロキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−20)
7−ヒドロキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−21)
7−ヒドロキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジクロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−22)
7−ヒドロキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5−フルオロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−23)
7−ヒドロキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−24)
7−ヒドロキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−25)
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−26)
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−27)
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジクロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−28)
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5−フルオロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−29)
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−30)
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−31)。
【0010】
本発明の一般式(I)で表される化合物の製造方法を以下に示す。
【化6】

【0011】
式(VI)で表される化合物と式(XI)で表される化合物とを、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)または1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDCI)のいずれかから選んだ縮合剤と、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)または1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)のいずれかから選んだ触媒と、の存在下で、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはジメチルスルホキシドのいずれかから選んだ溶媒の中で反応させることで、一般式(I)の化合物が得られる。及び
【0012】
1−(ピロリジン−1−メチル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン系列の中間体(VI)は(置換)β−フェニルエチルアミン(すなわち一般式IIで表される化合物)を原料として合成されるが、以下にその製造方法を示す。
【化7】





【0013】
2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボン酸系列の中間体(XI)は、(置換)ベンズアルデヒド(一般式VII)を原料として合成されるが、以下にその製造方法を示す。
【化8】

【0014】
放射性リガンド結合試験の結果によると、一般式(I)で表される化合物及びその製薬学的に許容される塩は、κ−受容体に対する非常に高い親和性を有し、一方μ−受容体に対しする親和性は低いまたは極めて低いものであり、κ−受容体に対して非常に良好な選択性を示す。マウスを用いたホットプレート法及びライジング法疼痛モデルでの鎮痛能力試験では、良好な鎮痛作用を示す。
【0015】
また、鎮痛能力を測定するための疼痛モデルである、マウスを用いたホットプレート法及びライジング法においては、良好な鎮痛作用を示す。
【0016】
本発明は、更に、κ−オピオイド受容体作動薬に関連した疾患を治療するための医薬組成物に関し、これは、一般式(I)で表される化合物を有効用量含有し、かつ製薬学的に許容される担体を含有する。本医薬組成物は、一般的な剤形、すなわち普通の錠剤及びカプセル、徐放性の錠剤及びカプセル、放出制御性の錠剤及びカプセル、あるいは注射液などに用いることができる。
【0017】
本発明は、更にまた、一般式(I)で表される化合物を用いた、κ−オピオイド受容体作動薬に関連した疾患の治療または予防のための薬剤の製造方法に関し、このκ−オピオイド受容体作動薬に関連した疾患を治療または予防するための薬剤としては、鎮痛、消炎鎮痛、抗痛覚過敏及び陣痛治療用の薬剤、または抗けいれん薬治療、抗高血圧、神経保護またはHIV感染治療用の薬剤、またはコカイン及びモルヒネ中毒離脱用の薬剤、または水利尿薬、かゆみ止め薬などを挙げることができる。上記κ−オピオイド受容体作動薬に関連した疾患として最も適しているのは、手術または癌による痛みである。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】薬剤耐性試験の比較結果を示す。下方のひし形付きの線はモルヒネの線であり、上方の四角形付きの線は化合物I−6(25μg/kg)の線である。モルヒネでは耐性が生じ、3日間の連続投与(7mg/kg)により効果が見られなくなったため、4日目から投与量を10mg/kgに増やしている。
【図2】化合物I−6を10日間投与した後にナロキソンを3mg/kg投与した際の、マウスの跳躍状態を示す(**基準群と比較、p<0.01)。
【図3】化合物I−6を10日間投与した後にナロキソンを3mg/kg投与した際の、マウスの体重減少を示す(**基準群と比較、p<0.05)。
【図4】化合物I−6のモルヒネ中毒に対する抑制効果を示す(*モルヒネ群と比較、p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
活性化合物の製造実施例を以下に示す。
RY−1型の融点管;
Nicolet Impact 410 IR分光計、KBrペレット;
Bruker AM−500 NMR分光計、内部標準TMSを用いたH−NMR;
HP1100質量分析器;
Agilent 1100シリーズのLC/MSD Trap SL;
Carlo Erba 1106元素分析装置。

【0020】
[実施例1]
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−1)の製造
【0021】
N−(2−フェニルエチル)−2−クロロアセトアミド(III−1)
500mlの3つ口ボトルにβ−フェニルエチルアミンを36.3g(0.3モル)、炭酸ナトリウムを31.8g(0.3モル)及びジクロロメタンを300ml加え、氷浴で0℃に温度制御し、撹拌を行いながら塩化クロロアセチル40.68g(0.36モル)を1時間以内にゆっくり滴加し、撹拌を行いながら10℃で更に2時間反応させると白濁溶液が生じ、氷水を150mlゆっくり加えた後、有機層を分離する。この有機層を逐次的に10%の希塩酸及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧蒸留によって溶媒を除去し、その残留物をメタノール−水で再結晶化させ、濾過し、乾燥させることで、白色針状結晶であるIII−1を36g得た。収率は61%、融点は61−63℃(文献値:60−63℃)であった。
【0022】
塩酸1−クロロメチル−3,4−ジヒドロイソキノリン(IV−1)
500mlの3つ口ボトルにキシレンを300ml及び五酸化リンを28.4g(0.2モル)加え、機械的に撹拌を行いながら温度を140℃に上昇させ、化合物III−19.48g(0.048モル)を複数回に分けて窒素ガス保護下で加えると、溶液が直ちに黄色になるので、その後還流下で3時間反応させる。冷却した後、傾けてキシレンを流出させる。固体状残留物に氷浴冷却下で氷水を450mlゆっくり加え、溶液を0.5時間撹拌し、50%NaOHでpHを11に調整した後、エチルエーテルで抽出して、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥させる。次に濾過し、その濾液に氷浴下で無水HClガスを導入すると、濁っていた溶液が透明になり、黄色の固体がボトルの壁に析出するので、傾けて溶媒を流出させてから加熱乾燥させることで、IV−1を5.3g得た。収率は51%、融点は161−163℃(文献値:163−164℃)であった。
【0023】
1−(ピロリジン−1−メチル)−3,4−ジヒドロイソキノリン(V−1)
100mlの3つ口ボトルに窒素ガス保護下でメタノールを40ml及びテトラヒドロピロールを3.55g(0.05モル)加え、氷浴で温度を0℃に制御し、撹拌を行いながら化合物IV−1を2.66g(0.0123モル)含有させたメタノール溶液をゆっくり滴加する。滴加後、反応溶液の温度を室温にまで上昇させ、一晩反応させることで、次の反応工程で直接用いることができる赤色透明の溶液V−1を得た。

【0024】
1−(ピロリジン−1−メチル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(VI−1)
氷浴で温度を0℃に制御しながら、上記工程で得たV−1溶液に、複数回に分けてNaBHを1.68g(0.025モル)加えると、水素ガスが放出され、反応溶液は黄濁液に変わる。その3時間後反応溶液の温度を室温まで上昇させ、蒸発させて溶媒を除去し、その残留物をNaOHで処理してからエチルエーテルで抽出する。そのエーテル層を無水Na2SO4で一晩乾燥させる。次に濾過し、溶媒を蒸発させて除去することでオレンジ色の油状粗生成物VI−1を1.46g得た。収率は55%で、この粗生成物を次の反応工程で直接用いる。
【0025】
マロン酸2−ベンジルジエチル(VIII−a)
250mlの茄子形フラスコに、ベンズアルデヒドを21.2g(0.2モル)、マロン酸ジエチルを32g(0.2モル)、ピペリジンを1.2ml、安息香酸を0.6g及びベンゼンを60ml加え、激しい還流が起こるまで温度を上昇させ、水分離器を用いて水を分離し、18時間反応させ、減圧蒸留によってベンゼンを除去し、クロロホルム−水を用いて抽出し、その有機層を水、1モル/lの塩酸及び飽和炭酸水素ナトリウム溶液で逐次的に洗浄した後、無水Na2SO4で一晩乾燥させる。濾過した後、減圧蒸留によって溶媒を除去することで赤橙色の油状化合物VIII−aを42.5g得た。収率は80%で、この化合物を次の反応工程で直接用いる(沸点が140−142℃/4mmHgの高純度のエステルを蒸留で得ることができる)。
【0026】
プロピオン酸β−フェニル−β−シアノエチル(IX−a)
1Lの3つ口フラスコに、化合物VIII−aを50g(0.2025モル)と、KCNを14g(0.215モル)含有する水溶液を20ml及びエタノールを500mlとを加え、65−75℃になるまで加熱し、撹拌を行いながら18時間反応させる。反応終了後、15℃まで冷却し、濾過してKHCOを除去し、濾過ケーキを20mlのエタノールで洗浄して濾液と一緒にする。希塩酸を5ml用いて注意深く酸性にし、減圧濃縮によって半固体状態にする。その後冷却して、エチルエーテル−水を用いて抽出し、その有機層を無水塩化カルシウムで乾燥させ、濾過した後、減圧蒸留によって溶媒を除去することで赤色の油状化合物IX−aを27g得た。収率は66%でこの化合物を次の反応工程で直接用いる(沸点が161−164℃/8mmHgの高純度のエステルを蒸留で得ることができる)。
【0027】
フェニルブタン二酸(X−1)
250mlの茄子形フラスコに、化合物IX−aを35g(0.172モル)及び濃塩酸を125ml加え、加熱して18時間還流させると赤橙色の固体が析出し、それを水で再結晶化させ、活性炭を用いて脱色させることで淡いオレンジ色の液体を得る。次いで、凍結させることで、白色固体であるX−1が27.5g析出した。収率は70%、。融点は163−164°(文献値:163−164°)であった。
【0028】
2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボン酸(XI−1)
25mlの3つ口フラスコに、化合物X−1の粗生成物を3g(0.017モル)及びSOClを3ml加え、機械的に撹拌しながら加熱して0.5時間還流させた後、若干冷却してから、無水ニトロベンゼンを6ml及び無水AlClを3g(0.0225モル)加え、80℃で1.5時間反応させる。これを75mlの氷水に注ぎ込み、水蒸気蒸留してニトロベンゼンを全部除去し、活性炭を1.5g加え脱色し、熱濾過し、急速振盪で冷却することで、融点が84℃の水を含有する白色の酸が得られ、これを乾燥させることで、最終的に)無水の酸XI−1を1.2g得た。収率は61%、融点は119−120℃(文献値:120℃)であった。
【0029】
50mlの3つ口フラスコに、化合物VI−1を0.97g(4.5ミリモル)、化合物XI−1を0.95g(5.4ミリモル)、触媒量のDMAP及びCHClを20ml加え、温度を氷浴で0℃に制御し、0.5時間撹拌し、DCC1.3g(6.3ミリモル)を10mlのCHClに溶解させた溶液をゆっくり滴加し、窒素ガス保護下室温で一晩反応させる。反応溶液が濁った赤橙色の溶液に変わっていることを確認し、濾過を行いDCUを除去した後、石油エーテル:酢酸エチル:トリエチルアミン=4:1:0.1を用いてカラムクロマトグラフィーにかけることで、白色固体であるI−1を0.67g得た。収率は40%、融点は120−122℃であった。
【化9】

【0030】
[実施例2]
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−5)
【0031】
アクリル酸α−シアノ−β−(3,4−ジメトキシフェニル)−エチル(VIII−b−2)
250mlの茄子形フラスコに、3,4−ジメトキシベンズアルデヒドを26g(0.16モル)、シアノ酢酸エチルを18g(0.16モル)、ピペリジンを0.8ml、酢酸を2.4g及びベンゼンを60ml加え、温度を120−130℃に上昇させて激しい還流を起こさせ、水分離器を用いて水を分離しながら12時間反応させる。減圧蒸留でベンゼンを除去し、次いでその反応溶液に氷水を注ぎ込むことで黄色の固体を沈澱させ、濾過した後、乾燥させることで、淡黄色結晶であるVIII−b−2を41g得た(収率はほぼ理論値)。融点は、154−156℃(文献値:156℃)であった。
【0032】
プロピオン酸α,β−ジシアノ−β−(3,4−ジメトキシフェニル)−エチル(IX−b−2)
250mlの3つ口フラスコに、化合物VIII−b−2を52.2g(0.2モル)、KCNが14.3g(0.22モル)入っている水溶液を15ml、CHOHを180ml加え、撹拌を行いながら還流下で40分間反応させる。その後冷却し、希塩酸を注意深く添加して酸性にし、室温で一晩撹拌する。濾過して乾燥することで白色の固体を得る。その濾液を冷蔵庫に入れて固体を再び沈澱させ、クロロホルム−水を用いて抽出した後、減圧蒸留でクロロホルムを除去することで、白色固体であるIX−b−2を35g得た。収率は60%、融点は92−94℃(文献値:93−95℃)であった。
【0033】
3,4−ジメトキシフェニルブタン二酸(X−2)
化合物IX−b−2に対してX−1の調製で用いた操作と同じ操作を行い、加熱して8時間還流させ、粗生成物を水で再結晶化させた後、活性炭を用いて脱色することで、白色固体であるX−2を得た。収率は75%で、融点は173−174℃(文献値:172−174℃)であった。
【0034】
5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボン酸(XI−2)
25mlの3つ口フラスコにPPAを30g(反応体重量の15倍)加え、機械的に撹拌しながら温度を70℃に上昇させ、化合物X−2を2g(8.47ミリモル)加えると、反応系の色が灰色から黄色、そして暗赤色に変わり、窒素保護下70℃で4時間反応させ、氷水の中に注ぎ込み、クロロホルムで抽出した後、蒸発させることで淡黄色の固体を得た。次いで水を用いて再結晶化させることで白色固体であるXI−2を1.3g得た。収率は70%で、融点は190−190.5℃(文献値:190−191℃)であった。
【0035】
化合物VI−1及びX−2にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、白色固体であるI−5を得た。収率は35%で、融点は124−125℃であった。

【0036】
[実施例3]
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−6)
【0037】
アクリル酸α−シアノ−β−(3−クロロフェニル)エチル(VIII−b−3)
3−クロロベンズアルデヒドを原料として、VIII−b−2の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、黄色の結晶であるVIII−b−3を得た。収率はほぼ理論値で、融点は100−101℃(文献値:101℃)であった。
【0038】
プロピオン酸α−ジシアノ−β−(3−クロロフェニル)エチル(IX−b−3)
500mlの3つ口フラスコに、化合物VIII−b−3を53g(0.225モル)、KCNが15.5g(0.237モル)入っている水溶液を16ml及びエタノールを330ml加え、撹拌を行いながら室温で18時間反応させる。希塩酸を注意深く加えて酸性にし、濾過を行って不溶な固体物を除去し、減圧濃縮し、クロロホルム−水を用いて抽出した後、減圧蒸留でクロロホルムを除去することで、褐色の油状物であるIX−b−3を36g、62%の収率で得る。
【0039】
3−クロロフェニルコハク酸(X−3)
化合物IX−b−3にX−1の調製で用いた操作と同じ操作を行い、加熱して8時間還流させ、粗生成物をエチルエーテル−石油エーテルで再結晶化させた後、活性炭を用いて脱色することで、融点が158−160℃(文献値:161−162℃)の白色固体であるX−3を70%の収率で得る。
【0040】
6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボン酸(XI−3)/4−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボン酸(XI−4)
化合物X−3にXI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、XI−3とXI−4の混合物を肉色の固体として得る。カラムクロマトグラフィーによる分離で、融点が146−148℃(文献値:148−151℃)の白色固体であるXI−3を50%の収率で得、かつ融点が171−174℃(文献値:171−174℃)の白色固体であるXI−4も10%の収率で得る。
【0041】
化合物VI−1及びXI−3にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が120℃の白色固体であるI−6を38%の収率で得た。
【化10】

【0042】
アセトンに化合物I−6を3g(7.35モル)溶解させ、氷浴の中で無水HClガスを導入することで、白色固体が析出し、I−6・HClを2.9g得ることができた。収率は90%、融点が281−282℃であった。

【0043】
[実施例4]
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(4−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−12)
【0044】
化合物VI−1及び化合物XI−4にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が135−136℃の白色固体であるI−12を40%の収率で得た

【0045】
[実施例5]
1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−13)
【0046】
アクリル酸α−シアノ−β−(3−メトキシフェニル)エチル(VIII−b−4)
3−メトキシベンズアルデヒドを原料として用い、VIII−b−2の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、オレンジ色の油状物であるVIII−b−4をほぼ理論値の収率で得、それを次の反応工程で直接用いることができる。
【0047】
プロピオン酸α,β−ジシアノ−β−(3−メトキシフェニル)エチル(IX−b−4)
500mlの3つ口フラスコに化合物VIII−b−4を69.3g(0.3モル)、KCNが25.35g(0.39モル)入っている水溶液を25ml及びエタノールを480ml加え、撹拌を行いながら室温で18時間反応させ、希塩酸を注意深く加えて酸性にし、冷蔵し、濾過し、乾燥させることで黄土色の固体を得た後、エタノール−水で再結晶化させ、融点が73℃の白色固体であるIX−b−4を46.44g、60%の収率で得る。
【0048】
3−メトキシフェニルコハク酸(X−4)
化合物IX−b−4にX−1の調製で示した手順と同じ手順を行い、加熱して8時間還流させ、粗生成物をアセトンで再結晶化させた後、活性炭を用いて脱色することで、融点が174−175℃(文献値:174−175℃)の白色固体であるX−4を78%の収率で得る。
【0049】
6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボン酸(XI−5)
化合物X−4にXI−2の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が186−187.5℃(文献値:186−187.5℃)の白色固体であるXI−5を75%の収率で得る。
【0050】
化合物VI−1及びXI−5にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が143−144℃の白色固体であるI−13を37%の収率で得る。

【0051】
実施例6
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−14)
【0052】
N−[2−(4−メトキシフェネチル)−エチル]−2−クロロアセトアミド(III−2)
4−メトキシフェニルエチルアミンを原料として用い、III−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が99−100℃(文献値:99−100℃)の白色結晶であるIII−2を72%の収率で得る。
【0053】
塩酸1−クロロメチル−7−メトキシ−3,4−ジヒドロイソキノリン(IV−2)
化合物III−2にIV−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が138−141℃(文献値:138−141℃)の黄色固体であるIV−2を64%の収率で得る。
【0054】
1−(ピロリジン−1−メチル)−7−メトキシ−3,4−ジヒドロイソキノリン(V−2)
化合物IV−2にV−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、褐色がかった黄色の透明な液体であるV−2を得て、それを次の反応工程で直接用いる。
【0055】
1−(ピロリジン−1−イルメチル)−7−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(VI−2)
化合物V−2にVI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、オレンジ色の油であるVI−2粗生成物を60%の収率で得て、それを次の反応工程で直接用いる。
【0056】
化合物VI−2及びXI−1にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が135−136℃の白色固体であるI−14を42%の収率で得た。


【0057】
[実施例7]
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−15)
化合物VI−2及び化合物XI−2にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が122−124℃の白色固体であるI−15を39%の収率で得た。

【0058】
[実施例8]
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−18)
化合物VI−2及びXI−3にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が151−153℃の白色固体であるI−18を40%の収率で得た。





【0059】
[実施例9]
7−メトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−19)
化合物VI−2及び化合物XI−5にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が144−145℃の白色固体であるI−19を34%の収率で得た。

【0060】
[実施例10]
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−26)
【0061】
N−[2−(3,4−ジメトキシフェネチル)−エチル]−2−クロロアセトアミド(III−3)
3,4−ジメトキシフェニルエチルアミンを原料として使用し、これにIII−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が94−95℃(文献値:94−95℃)の白色結晶であるIII−3を62%の収率で得る。
【0062】
塩酸1−クロロメチル−6,7−ジメトキシ−3,4−ジヒドロイソキノリン(IV−3)
化合物III−3にIV−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が194−196℃(文献値:196℃)の黄色固体であるIV−3を57%の収率で得る。
【0063】
1−(ピロリジン−1−メチル)−6,7−ジメトキシ−3,4−ジヒドロイソキノリン(V−3)
化合物IV−3にV−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、褐色がかった黄色の透明な液体であるV−3を得て、それを次の工程の反応で直接用いる。
【0064】
1−(ピロリジン−1−メチル)−6,7−ジメトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(VI−3)
化合物V−3にVI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、オレンジ色の油であるVI−3粗生成物を55%の収率で得て、それを次の工程の反応で直接用いる。
【0065】
化合物VI−3及びXI−1にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が174−175℃の白色固体であるI−26を42%の収率で得た。

【0066】
[実施例11]
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(5,6−ジメトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−27)
化合物VI−3及び化合物XI−2にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が125℃の白色固体であるI−27を33%の収率で得た。

【0067】
[実施例12]
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−クロロ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−30)
化合物VI−3及び化合物XI−3にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が178−179℃の白色固体であるI−30を35%の収率で得た。

【0068】
[実施例13]
6,7−ジメトキシ−1−(ピロリジン−1−メチル)−2−(6−メトキシ−2,3−ジヒドロ−インデン−3−ケト−1−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(I−31)
化合物VI−3及び化合物XI−5にI−1の調製で用いた操作と同じ操作を行うことで、融点が193−195℃の白色固体であるI−31を44%の収率で得た。

[実験実施例]
【0069】
[実験実施例1:放射性リガンドと受容体の結合試験]
実験用試験管を全結合管と非特異的結合管に分け、競合リガンドをいろいろな濃度で加えておいたサンプル管を数グループ準備する。全結合管には発現した膜受容体蛋白質を20μgに相当する量で加え、かつ[H]ジプレノルフィン(0.5nM)(1.44Pbq/モル、広域スペクトルのオピオイド拮抗薬、Amersham)を加え、相当する非特異的結合管には更に1μMのナロキソン(広域スペクトルのオピオイド拮抗薬、Sigma)も加え、サンプル管には評価する化合物をいろいろな濃度で加え、最終体積を50mMのTris(Amresco)−HCl(pH7.4)で100μlに調整する。インキュベーションを30℃で30分間実施した後、各試験管を氷水の中に入れることで反応を停止させる。Milliporeサンプル収集装置及びGF/(Whatman)ガラス繊維濾紙を用いて、減圧濾過を実施する。50mMの氷冷Tris−HCl(pH7.4)を4mlずつ用いて該濾紙を3回洗浄した後乾燥させ、0.5mlのEppendorff管に入れた後、親油性のシンチレーション液(上海▲試剤▼一厂)を0.5ml加える。Beckman LS 6500多機能液体シンチレーションカウンターで放射能の強度を測定し、下記の計算式に基づいて阻害率を計算する。各濃度毎に管を3本用意し、それぞれの管を別々に3−4回実験した。

計算方法
IC50値を、ソフトウエアPrism4.0を用いて計算する。
Ki=IC50/(1+[L]/K) ([L]は添加した標識付きリガンドの濃度であり、Kは放射性リガンドの平衡解離定数である。)
【0070】
一部の化合物が示した薬理学的試験の結果は下記の通りである。
[本発明の一部の化合物とκ−受容体の競合結合実験データ]
【表1】

【0071】
[本発明の一部の化合物とκ−オピオイド受容体の親和性(Ki)及び競合結合(IC50)値]
【表2】

【0072】
[本発明の一部の化合物とμ−オピオイド受容体の親和性(Ki)及び競合結合(IC50)値及び受容体選択率μKi/κKi値]
【表3】

【0073】
[実験実施例2:鎮痛試験でマウスを用いたホットプレート方法及びライジング方法]
主題化合物が示す鎮痛効力の測定を、マウスホットプレート方法及びマウスライジング方法(徐叔云 編≪▲薬▼理▲実験▼方法学≫第二版、人民▲衛▼生出版社、1991年)を用いて実施した。
【0074】
マウスホットプレート方法:
1.材料:
実験動物:昆明マウス(メス、18−22g)
2.方法:
(1)正常なマウスの選択:試験室の温度を約22℃に制御し、痛み閾値検出器のホットプレートの温度を55℃に調整し、マウスをホットプレート上に置いた時からマウスが後ろ足をなめ始める時までの時間を痛み閾値として記録し、この試験を20分の間隔で2回繰り返し、そして平均痛み閾値が30秒以下のマウスを適格なマウスとした。
(2)実験マウス:上記の適格なマウスを無作為にそれぞれ10匹のマウスから成る群に分けて、それらに皮下注射する。
各群のマウスに、薬剤投与後5、15、30、5及び60分後にそれぞれ痛みの反応時間を1回測定し、反応まで1分以上場合を有効であるとした。
【0075】
マウスライジング法:
I−6を皮下注射で投与し、その30分後に0.6%の酢酸溶液(10ml/kg)を腹腔内投与し、15分以内にライジング症状が現出したマウスの数を記録した。
3.実験結果
モルヒネと比較して、化合物I−1及びI−6は強力な鎮痛効果を有した。マウスホットプレート方法及びマウスライジング方法で示した鎮痛活性を表4に示す。
【0076】
[化合物I−1及び化合物I−6の鎮痛実験結果]
【表4】

【0077】
[実験実施例3:化合物I−6の急性毒性試験]
1.実験方法
徐叔云 編≪▲薬▼理▲実験▼方法学≫第二版(人民▲衛▼生出版社、1991年)、秦伯益 著≪新▲薬評価▼概▲論▼≫(人民▲衛▼生出版社、1999年、第二版)に基づいて、化合物I−6の急性毒性を測定した。
昆明マウス(体重18−22g、メスは6週齢、オスは4−5週齢)を準備し、それぞれマウス20匹ずつ(メスとオス半数ずつ)の群に無作為に分ける。これらのマウスに、投与前1−2日間、順応飼育を受けさせる。化合物I−6を、それぞれ60mg/kg、50mg/kg、40mg/kg及び30mg/kgの量の4つの投薬群に腹腔内投与する。投与後のマウスに通常通り餌を与え、各群の状態例えば飲水、食餌、排泄、活動及び毛の色等を毎日観察し、体重を1日置きに測定し、このような観察を2週間継続する。
2.実験結果
この試験の結果により、腹腔内投与を30mg/kgの量で行ってもマウスの飲水、食餌、排泄、活動及び毛の色には全く影響を及ぼさないことが判明した。化合物I−6のLD50値は40.147(36.805−43.792)mg/kgであった。

【0078】
[実験実施例4:化合物I−6の鎮痛耐性試験]
1.実験方法
実験対象にはオスの昆明マウス(18−20g)を用い、生理食塩水群、モルヒネ群及びI−6群に分ける。
投与方法:
生理食塩水群:各マウスに0.2mL皮下投与
モルヒネ群:1−3日目には、7mg/kg皮下注射
4−7日目には、10mg/kg皮下注射
8−9日目には、15mg/kg皮下注射
I−6群: 1−9日目に、25μg/kg皮下注射
マウスホットプレート法で評価することとし、投与を9日間継続して、投与前と投与後の鎮痛効果を毎日測定した。3日間の継続投与によって、鎮痛効果が減弱した場合には薬剤の濃度を高くし、鎮痛効果に変化がなかった場合は薬剤の濃度を変化させない。
2.実験結果
化合物I−6は、マウスによる試験において、モルヒネと比較して有意に薬剤耐性の発現が抑制されていた。結果を下記図に示すように、モルヒネでは2日目から鎮痛効果が減弱し、3日目には7mg/kgでの有意な鎮痛効果がなくなった。そのため鎮痛効果を回復させるため、モルヒネ投与量を増やす必要があった。一方、化合物I−6はそのような現象を全く示さなかった。結果を図1に示す。
【0079】
[実験実施例5:化合物I−6長期投与後の身体的依存性試験]
1.実験方法:
実験対象にはオスの昆明マウス(18−20g)を用い、生理食塩水群、モルヒネ群及びI−6群に分ける。
投与方法:
生理食塩水群:各マウスに、0.2mLの皮下注射投与を10日間連続して実施した。
モルヒネ群:1日2回8時間の投与間隔をあけた皮下注射を毎日10日間行った。投与量は20、40、60、80、100mg/kgと漸増させながら、5回目の注射からは100mg/kgを10日目まで維持した。
I−6群:1日2回8時間の投与間隔をあけた皮下注射を毎日10日間行った。投与量は50、100、150、200、300μg/kgと漸増させながら、5回目の注射からは100mg/kgを10日目まで維持した。
10日目の最終投与を行ってから2時間後に、各群にナロキソンを3mg/kgの量で腹腔内投与し、ナロキソン投与から20分間の跳躍回数及び体重減少を観察した。
2.実験結果
ナロキソン誘導によるモルヒネの身体的依存を示すマウスの跳躍回数及び体重減少を比較することにより、化合物I−6は連続投与後にモルヒネ様の身体的依存を引き起こさないことが分かった。図2及び図3に示すように、I−6を10日間連続投与したマウスでは、ナロキソン3mg/kg腹腔内投与後の跳躍試験及び体重減少は、生理食塩水群と同様の結果を示した。
【0080】
[実験実施例6:モルヒネによって引き起こされた身体的依存の、化合物I−6に対する影響試験]
1.実験方法:
実験対象にはオスの昆明マウス(18−20g)を用い、生理食塩水群、モルヒネ群及びI−6+モルヒネ群に分ける。
投与方法:
生理食塩水群:各マウスに0.2mLの皮下注射投与を10日間連続して実施した。
モルヒネ群:1日2回8時間の投与間隔をあけた皮下注射を毎日10日間行った。投与量は20、40、60、80、100mg/kgと漸増させながら、5回目の注射からは100mg/kgを10日目まで維持した。
I−6+モルヒネ群:1日2回8時間の投与間隔をあけた皮下注射によるモルヒネ投与を毎日10日間行った。投与量は20、40、60、80、100mg/kgと漸増させながら、5回目の注射からは100mg/kgを10日目まで維持した。毎日のモルヒネ投与の10分前に、予めI−6を300μg/kg腹腔内投与していた。
10日目の最終投与を行ってから2時間後に、各群にナロキソンを3mg/kgの量で腹腔内投与し、ナロキソン投与から20分間の跳躍回数及び体重減少を観察した。
2.実験結果
この結果により、化合物I−6はモルヒネによって引き起こされる身体的依存に対する拮抗作用を有することが分かる。ナロキソン誘導後のマウスの跳躍回数を指標として用いた。モルヒネを投与する10分前に予め化合物I−6を300μg/kg毎日腹腔内投与することにより、ナロキソン誘導マウスの跳躍回数を有意に減少させることができた。その結果を図4に示す。

なお、実験実施例における化合物の符号は、製造実施例における化合物の符号と同じである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される化合物またはその製薬学的に許容される塩。
【化11】

[式中、Rは、
【化12】

を表し、
は、各々独立して、H、F、Cl、Br、C−Cアルキル、ORまたはNRを表すか、あるいは一緒になって5,6−メチレンジオキシ、6,7−メチレンジオキシまたは7,8−メチレンジオキシを形成しており、
及びRは、各々独立して、H、F、Cl、Br、トリフルオロメチル、C−Cアルキル、OR、NRを表すか、あるいは一緒になって4,5−メチレンジオキシ、5,6−メチレンジオキシまたは6,7−メチレンジオキシを形成しており、
は、H、C−Cアルキル及びアリルを表し、
及びRは、各々独立して、H及びC−Cアルキルを表し、
及びRは、独立して、H、C−Cアルキル及びアリルを表す。]

【請求項2】

【化13】

を表し、
は、各々独立して、H、F、Cl、メチル、メトキシを表すか、あるいは一緒になって5,6−メチレンジオキシまたは6,7−メチレンジオキシを形成しており、
及びRは、各々独立して、H、F、Cl、メチル、メトキシ、ジメチルアミノを表すか、あるいは一緒になって4,5−メチレンジオキシ、5,6−メチレンジオキシまたは6,7−メチレンジオキシを形成している、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、
【化14】

を表し、Rは、各々独立して、H、F、Clまたはメトキシを表し、R及びRは、各々独立して、H、F、Clまたはメトキシを表す、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
が、
【化15】

を表し、RがH、RがH、RがClを表す、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記製薬学的に許容される塩が、前記一般式Iで表される化合物と、塩酸、臭化水素酸、硫酸、炭酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、マレイン酸、メチルスルホン酸、フェニルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸またはアルギニンなどの酸から生じさせた酸付加塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物を製造する方法であって、
【化16】

式(VI)で表される化合物と式(XI)で表される化合物とを、ジシクロヘキシルカルボジイミドまたは塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドから選択した縮合剤及び4−ジメチルアミノピリジンまたは1−ヒドロキシベンゾトリアゾールから選択した触媒の存在下で、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはジメチルスルホキシドから選択した溶媒中で反応させることで、R、R、R及びRが請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物を得ることからなる方法。
【請求項7】
前記一般式(I)で表される化合物を有効な量で含有し、かつ製薬学的に許容される担体を含有する、医薬組成物。
【請求項8】
κ−オピオイド受容体作動薬に関連した疾患の治療または予防のための薬剤を製造するための、請求項1−5のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項9】
κ−オピオイド受容体作動薬に関連した疾患の治療または予防のための前記薬剤が、鎮痛、消炎鎮痛、抗痛覚過敏及び陣痛治療用の薬剤、または抗けいれん治療、抗高血圧、神経保護及びHIV感染治療の目的で用いられる薬剤、またはコカイン及びモルヒネ中毒の離脱で用いられる薬剤、または水利尿薬またはかゆみ止め薬として用いられる薬剤から選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
κ−オピオイド受容体作動薬に関連した前記疾患が、手術または癌による痛みである、請求項9に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−542731(P2009−542731A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518705(P2009−518705)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【国際出願番号】PCT/CN2007/002115
【国際公開番号】WO2008/009215
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509011743)チャイナ ファーマシューティカル ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】CHINA PHARMACEUTICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】24, Tong Jia Xiang Nanjing 210009 (CN)
【出願人】(509011765)シャンハイ インスティテュート オブ マテリア メディカ、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンスィズ (1)
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI INSTITUTE OF MATERIA MEDICA,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】555 Zu Chong Zhi Road Zhang Jiang Hi−Tech Park Pudong Shanghai 201203 (CN)
【出願人】(509011547)ヤンツー リバー ファーマシューティカル グループ シーオー.,エルティーディ. (1)
【氏名又は名称原語表記】YANGTZE RIVER PHARMACEUTICAL GROUP CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】1 South Yangtze River Road Taizhou Jiangsu 225321 (CN)
【Fターム(参考)】