説明

テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法

【課題】テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドおよびテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物の工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】ジメチルスルホンの存在下、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとを反応させるテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法、および該テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)


(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコール化合物とを反応させる式(2)


(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、医農薬中間体として重要な化合物である。テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法としては、例えば、オートクレーブ中、無溶媒でテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとを反応させる方法(例えば、非特許文献1参照。)、スルホラン、ジグライム、ジフェニルスルホン、ニトロベンゼン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンまたはベンゾニトリル中でテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとを反応させる方法(例えば、特許文献1参照。)、触媒としてカリックスアレンを用いてスルホラン中でテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとを反応させる方法(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。しかしながら、これらの方法では、高温高圧の条件が必要であったり、高価な触媒が必要であったりする点で問題があり、さらなる改良法の開発が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特公平4−66220号公報
【特許文献2】中国特許公開第1458137号明細書
【非特許文献1】Probl. Organ. Sinteza, Akad. Nauk SSSR, Otd. Obshch. i Tekhn. Khim.1965年、105〜108頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、本発明者は、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとの反応を用いるテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法について鋭意検討したところ、ジメチルスルホンの存在下にかかる反応を実施すれば、高価な触媒を用いることなく、常圧条件下でも効率よくフッ素化反応が進行することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、ジメチルスルホンの存在下、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとを反応させるテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、特殊な反応装置や高価な触媒を用いることなく、回収可能なジメチルスルホンを溶媒として用いてフッ素化反応を実施することにより、医農薬原料等として利用可能なテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを効率よく製造することができるため、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドは、例えば特公平2−11571号公報等に記載の公知の方法により製造することができる。
【0009】
フッ化カリウムは、市販のものを用いてもよいし、例えば水酸化カリウムとフッ化水素とから得られるものを用いてもよい。粒径は小さい方が好ましく、含水量は少ない方が好ましい。かかる好ましいフッ化カリウムとしては、例えばスプレイドライ法で得たフッ化カリウムが挙げられる。
【0010】
フッ化カリウムの使用量は、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して、通常6モル倍以上であれば本発明の目的を達することができ、その上限は特にないが、経済的な観点から好ましくは6〜10モル倍の範囲である。
【0011】
ジメチルスルホンは、市販のものを用いてもよいし、例えば、ジメチルスルホキシドを過酸化水素等の酸化剤で酸化する等の公知の方法(例えば、米国特許第6552231号明細書参照。)により合成したものを用いてもよい。
【0012】
ジメチルスルホンの使用量は、特に制限されないが、実用的には、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して0.1〜20重量倍、好ましくは2〜10重量倍の範囲である。
【0013】
反応温度は、通常120〜200℃の範囲である。
【0014】
本反応は、さらに、反応に不活性な有機溶媒の存在下に反応を実施することが好ましい。かかる反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド等のN,N−ジアルキルアミド溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ベンゾニトリル等の芳香族炭化水素溶媒;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素溶媒;などが挙げられる。かかる反応に不活性な有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を同時に用いてもよい。
【0015】
なかでも、その沸点がジメチルスルホンの沸点よりも低く、かつ、その融点がジメチルスルホンの融点よりも低い有機溶媒を用いることがより好ましく、反応に不活性で、沸点が100〜200℃である有機溶媒がさらに好ましく、反応に不活性で、沸点が100〜200℃であり、融点が50℃以下である有機溶媒が特に好ましい。
【0016】
反応に不活性な有機溶媒の使用量は、ジメチルスルホンに対し、通常0.001〜0.5重量倍であり、好ましくは0.001〜0.2重量倍の範囲である。
【0017】
本反応は、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド、フッ化カリウム、ジメチルスルホンおよび必要により反応に不活性な有機溶媒とを混合し、所定の温度に加熱し、攪拌することにより実施される。混合順序は特に限定されないが、予め反応系内を脱水処理した後に反応を実施することが好ましい。脱水処理の方法としては、例えば、フッ化カリウムとジメチルスルホンとを混合し、加熱する方法;トルエン、キシレン等の水と共沸する有機溶媒を用いて、フッ化カリウムとジメチルスルホンとの混合物を共沸脱水する方法;等が挙げられる。かかる脱水処理を施した後の混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとを混合すればよい。
【0018】
本反応は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0019】
反応終了後、例えば減圧蒸留等の通常の単離操作により、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを単離することができる。得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、例えば精留等の通常の精製方法により、さらに精製してもよい。
【0020】
また、得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと、式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコール化合物(以下、アルコール(1)と略記する。)とを反応させることにより、式(2)
【化2】

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物(以下、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)と略記する。)を製造することができる。以下、かかるエステル化反応について説明する。
【0021】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、上記反応により得られる混合物をそのまま用いてもよいし、該混合物から単離した後に用いてもよい。操作が簡便であること、および後述するジメチルスルホンの回収リサイクルの観点から、好ましくは、上記反応後の混合物をそのまま用いる。
【0022】
Rで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基が挙げられる。
【0023】
アルコール(1)としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。かかるアルコール(1)は、通常、市販のものを用いることができる。
【0024】
アルコール(1)の使用量は、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2モル倍以上であり、その上限は特に制限されず、溶媒を兼ねて過剰量用いてもよいが、実用的には、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して2〜50モル倍の範囲である。
【0025】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとして、上記反応後の混合物をそのまま用いる場合は、有機溶媒を新たに使用することなく実施することができるが、単離されたものを用いる場合は、有機溶媒の存在下に実施することが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;などが挙げられる。有機溶媒の使用量は、特に限定されない。
【0026】
エステル化反応により、腐食性を有するフッ化水素が副生する。したがって、例えば、塩基の存在下に反応を実施したり、不活性ガスを吹き込みながら反応を実施したり、減圧下で反応を実施したりすることにより、フッ化水素を反応系内に滞留させないことが工業的に好ましい。より好ましくは、塩基の存在下に反応を実施するか、または、不活性ガスを吹き込みながら反応を実施する。
【0027】
塩基の存在下に反応を実施する場合に用いる塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の3級アミン化合物;ピリジン、コリジン、キノリン等の含窒素芳香族化合物;酢酸ナトリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート等のアルカリ金属アルコラート;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩;などが挙げられる。含窒素芳香族化合物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸水素塩を用いることがより好ましい。
【0028】
かかる塩基の使用量は、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2〜5モル倍の範囲である。
【0029】
不活性ガスとしては、例えば窒素、二酸化炭素、空気等が挙げられる。不活性ガスの吹き込み流量は反応混合物に対して、通常1容量%/分以上であり、その上限は特にないが、操作性の点で、30容量%/分以下が好ましい。
【0030】
減圧下に反応を実施する場合の圧力は、通常6〜100kPaの範囲である。
【0031】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコール(1)との混合順序は特に限定されないが、塩基の非存在下に反応を実施する場合は、アルコール(1)にテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを加えることが好ましい。塩基の存在下に反応を実施する場合は、反応温度条件下で、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと塩基との混合物にアルコール(1)を加えるか、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに、塩基とアルコール(1)の混合物を加えることが好ましい。
【0032】
エステル化反応の温度は特に限定されず、通常0〜100℃の範囲である。塩基の存在下に反応を実施する場合は、0〜30℃の範囲が好ましい。
【0033】
エステル化反応は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0034】
反応終了後、反応混合物に、以下に例示する単離手段を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を単離することができる。なお、反応混合物中には、通常、塩化カリウムや、用いた塩基由来の塩等が析出するので、必要によりろ過処理等を施し、塩を除去した後に単離処理を施せばよい。後述するように、ジメチルスルホンをリサイクル使用する場合は、この段階で塩を除去しておくことが好ましい。
【0035】
<単離手段1>
例えば、反応混合物に蒸留処理を施してアルコール(1)や有機溶媒を留去し、得られた蒸留残渣と水とを混合することにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を結晶として析出させることができる。かかる結晶をろ過処理により分取すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を単離することができる。
【0036】
<単離手段2>
例えば、反応混合物と水とを、必要により水との相溶性が低い有機溶媒の存在下に混合し、分液処理を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を有機層として取り出すこともできる。かかる有機層を蒸留処理すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を単離することができる。ここで、水との相溶性が低い有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;などが挙げられ、その使用量は特に限定されない。
【0037】
単離手段により得られたテトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)は、例えば晶析、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段により、さらに精製してもよい。
【0038】
かかるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)としては、例えば2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−プロピル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−ブチル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(tert−ブチル)等が挙げられる。
【0039】
エステル化反応において、原料であるテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとしてフッ素化反応後の混合物をそのまま用いた場合は、フッ素化反応に用いたジメチルスルホンを容易に回収することができる。例えば、上記単離手段1を施した場合はろ液として、上記単離手段2を施した場合は水層として、それぞれジメチルスルホン水溶液を回収できる。回収されたジメチルスルホン水溶液は、蒸留処理等により水を除去すれば、フッ素化反応にリサイクル使用することができる。また、回収されたジメチルスルホン水溶液が無機塩を含む場合には、必要に応じ脱塩処理やろ過処理等により無機塩を除去した後、フッ素化反応にリサイクル使用することもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0041】
実施例1
還流冷却管を付した50mlフラスコに、フッ化カリウム(スプレイドライ品)2.3g、ジメチルスルホン8.5gおよびトルエン20gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンのほぼ全量を留去し、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとキシレン600mgを仕込み、145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら6時間保温・攪拌した。反応中、フラスコ上部や冷却管にジメチルスルホンの固体の付着は見られなかった。反応後、室温まで冷却し、メタノールを10g加え、析出した結晶を細かく砕いた後、室温で1時間攪拌した。析出している結晶を、ろ過後、結晶をメタノール5gで洗浄し、ろ液と洗液とを合一し、濃縮操作によりメタノールを留去した。濃縮残渣に水を30g加えると、結晶が析出した。ろ過により得られた結晶を水洗し、乾燥することにより、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルを薄黄色結晶として1.3g得た。ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの含量は90.0%であった。収率:87%
【0042】
実施例2
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム480mg、ジメチルスルホン3.0gおよびトルエン10gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンのほぼ全量を留去し、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド340mgを仕込み、150℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応中、フラスコ上部にジメチルスルホンの固体が付着してしまい、反応終了時には攪拌ができない状態であった。反応後、室温まで冷却し、メタノールを10g加え、析出した結晶を細かく砕いた後、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:50%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:21%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):23%
【0043】
実施例3
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3g、ジメチルスルホン8.5gおよびトルエン20gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンのほぼ全量を留去し、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとキシレン590mgを仕込み、145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応中、フラスコ上部や冷却管にジメチルスルホンの固体の付着は見られなかった。反応後、110℃まで冷却し、キシレン20gを加えた後、有機層の一部をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いた分析により、主生成物として2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドが得られ、原料は消失していることを確認した。この溶液を60℃まで冷却し、メタノールを5g加え、60℃で1時間攪拌した。さらに室温まで冷却後、水30gを加え、攪拌すると2層の溶液となった。分液操作により有機層を分取し、水層をトルエン10gで1回抽出し、得られた有機層と先の有機層とを合一し、水洗後、有機層を濃縮して、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルを褐色結晶として1.5g得た。ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの含量は77.3%であった。収率:84%
【0044】
実施例4
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3g、ジメチルスルホン8.5gおよびトルエン20gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンのほぼ全量を留去し、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとキシレン150mgを仕込み、145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら2時間保温・攪拌した。反応中、フラスコ上部や冷却管にジメチルスルホンの固体の付着は見られなかった。反応後、反応混合物を110℃まで冷却した。別の100mlフラスコにメタノール25gを仕込んで10℃に冷却し、ここに、上記反応混合物を加えた後、得られた混合物を60℃に昇温し、1時間保温攪拌した。析出した結晶を、ろ過後、結晶をメタノール5gで洗浄し、ろ液と洗液とを合一し、そこに水17gを加えた後、濃縮操作によりメタノールを留去した。濃縮残渣をトルエン10gで2回抽出し、有機層を合一した後、濃縮し、乾燥することにより、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルを薄黄色結晶として1.38g得た。ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの含量は92.5%であった。収率:96%
また、トルエン抽出後の水層として、ジメチルスルホンを回収した。水層の重量は27gであった。
【0045】
実施例5
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例4で得たトルエン抽出後の水層27gとトルエン20gを仕込み、内温130℃に加熱し、前記水層中の水を、トルエンとの共沸混合物として除去した。これに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンのほぼ全量を留去し、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとキシレン150mgを仕込み、145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3時間保温・攪拌した。反応中、フラスコ上部や冷却管にジメチルスルホンの固体の付着は見られなかった。反応後、室温まで冷却し、メタノールを10g加え、析出した結晶を細かく砕いた後、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:73%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:12%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):11%
【0046】
実施例6
還流冷却管を付した500mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム23g、ジメチルスルホン85gおよびトルエン30gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンの留出が見られなくなるまで保温した。さらに、同温度で、20mmHg(2.67kPa相当)まで減圧し、トルエンをほぼ全量留去し、窒素で常圧にし、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド17gとトルエン1.5gを仕込み、145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3時間保温・攪拌した。反応中、フラスコ上部や冷却管にジメチルスルホンの固体の付着は見られなかった。反応後、110℃まで冷却し、トルエン300g加え、さらに60℃まで冷却した。ここに、メタノール100gを加えた後、窒素ガスを吹き込みながら、室温で10時間攪拌した。攪拌後、濃縮操作によりメタノールを留去し、濃縮残渣に水200gと炭酸カリウム6.9gを加え、攪拌後、分液し、有機層を得た。有機層を、濃縮、乾燥することにより、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルを薄黄色結晶として13.2g得た。ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの含量は90.0%であった。収率:89%
【0047】
実施例7
還流冷却管を付した50mlフラスコに、フッ化カリウム(粉末品)2.3g、ジメチルスルホン8.5gおよびトルエン20gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンのほぼ全量を留去し、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとキシレン150mgを仕込み、145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3時間保温・攪拌した。反応中、フラスコ上部や冷却管にジメチルスルホンの固体の付着は見られなかった。反応後、110℃まで冷却し、トルエン20gを加え、さらに10℃まで冷却した後、炭酸カリウム1.4gを加え、次いでメタノール2gを加え、同温度で4時間攪拌した。析出した結晶を、ろ過後、結晶をメタノール5gで洗浄し、ろ液と洗液とを合一し、濃縮操作によりメタノールとトルエンを留去した。濃縮残渣に水を30g加えると、結晶が析出した。ろ過により得られた結晶を水洗し、乾燥することにより、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルを薄黄色結晶として1.1g得た。ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの含量は85.0%であった。収率:72%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:6%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):6%
【0048】
比較例1
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3g、スルホラン8.5gおよびトルエン20gを仕込んだ。得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンのほぼ全量を留去し、得られた混合物を内温100℃まで冷却した。該混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gを仕込み、155℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを10g加え、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
ジフルオロ−ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):27%
2−フルオロ−3,5,6−トリクロロテレフタル酸ジメチルの収率:35%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:38%
【産業上の利用可能性】
【0049】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドおよびテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物は、例えば、中国特許公開第1458137号明細書等に記載の方法により、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールや2,3,5,6−テトラフルオロパラメチルベンジルアルコールに導くことができる。これらの化合物は、家庭用殺虫剤の中間体として有用であることが知られている(例えば、特許第2606892号公報参照。)。したがって、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドおよびテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物は、医農薬原料として利用でき、かかる化合物を工業的に有利に製造することができる点において、本発明は産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルホンの存在下、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとを反応させるテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造方法。
【請求項2】
反応に不活性な有機溶媒の存在下に反応を実施する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応に不活性な有機溶媒が、エーテル溶媒、N,N−ジアルキルアミド溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂肪族炭化水素溶媒からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機溶媒である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応に不活性な有機溶媒が、その沸点がジメチルスルホンの沸点よりも低く、かつ、その融点がジメチルスルホンの融点よりも低い有機溶媒である請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
反応に不活性な有機溶媒の沸点が、100〜200℃の範囲である請求項2〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
反応に不活性な有機溶媒の使用量が、ジメチルスルホンに対して0.001〜0.5重量倍である請求項2〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコール化合物とを反応させる式(2)
【化2】

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物の製造方法。
【請求項8】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)で示されるアルコール化合物との反応を、塩基の存在下に実施する請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
塩基が、含窒素芳香族化合物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)で示されるアルコール化合物との反応を、不活性ガスを吹き込みながら実施する請求項7に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−182426(P2007−182426A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311239(P2006−311239)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】