説明

テレスコピック式油圧緩衝器

【課題】圧縮時に良好なクッション性能を与えることができるテレスコピック式油圧緩衝器を提供する。
【解決手段】フォークボルト側スリーブ94とフリーピストン側スリーブ67は、外筒室27とサブタンク室53とを連通し、サブタンク室53内の余剰オイルを外筒室27にブローするための連通路を形成する。フリーピストン61の体積補償室側には、連通路に臨む背圧受け部としてのフリーピストン側スリーブ67の軸方向端面67aが形成され、軸方向端面67aの受圧面積は、フリーピストン61のサブタンク室側の受圧面積より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のフロントフォーク等に適用されるテレスコピック式油圧緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフロントフォークとしては、フリーピストンの背後側で気体室(体積補償室)を画成するダンパシリンダにブロー孔を設けた構造が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この場合、サブタンク内の油圧が所定圧になるとフリーピストンが摺動し、このブロー孔を介してオイルを車体側チューブとダンパシリンダとの間に形成された外筒室にブローして、ダンパシリンダ内の高圧化を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−280826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のフロントフォークでは、圧縮時に外筒室内のエア圧が上昇し、ブロー孔からエアが逆流する。このエアにより、フリーピストンの気体室側の面全体に背圧がかかるため、クッション性能が硬くなる場合がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧縮時に良好なクッション性能を与えることができるテレスコピック式油圧緩衝器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、
互いに摺動自在に嵌合する車体側チューブ及び車輪側チューブと、
該車体側チューブの上端部側から下方へ延びるように該車体側チューブ内に設けられたダンパシリンダと、
前記車輪側チューブの下端部側から上方へ延びるように該車輪側チューブ内に設けられたピストンロッドと、
該ピストンロッドの上端部に設けられると共に、前記ダンパシリンダの内部に摺動自在に取り付けられ、前記ダンパシリンダの内部をピストン側油室とロッド側油室に区画するメインピストンと、
前記メインピストンより前記車体側チューブの上端部側で前記ダンパシリンダ内に取り付けられ、前記ダンパシリンダの内部を前記ピストン側油室とサブタンク室に区画し、減衰力発生装置を有するサブピストンと、
前記サブピストンより前記車体側チューブの上端部側で前記ダンパシリンダの内部に摺動自在に取り付けられ、前記ダンパシリンダの内周面に摺接して前記ダンパシリンダの内部を前記サブタンク室と気体室に区画するフリーピストンと、
前記気体室に設けられ、該フリーピストンを押圧するフリーピストン用スプリングと、
前記フリーピストンが外挿された状態で前記ダンパシリンダの内部に設けられ、前記フリーピストンの摺動を案内するガイドロッドと、
を備えたテレスコピック式油圧緩衝器において、
前記フリーピストンが摺動して前記サブタンク室の容積が所定以上になったとき、前記車体側チューブと前記ダンパシリンダとの間に形成された外筒室と前記サブタンク室とを連通して、前記サブタンク室内の余剰オイルを前記外筒室にブローするための連通路が、前記フリーピストンと前記ガイドロッドとの間に、前記気体室から遮断されて形成されることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記フリーピストンの前記気体室側には、前記連通路に臨む背圧受け部が形成され、前記背圧受け部は、その受圧面積が前記フリーピストンの前記サブタンク室側の受圧面積より小さくなるように形成されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記車体側チューブの一端部開口を閉塞するフォークボルト本体と、前記ガイドロッドと同心に下方に向かって延び、前記ダンパシリンダの内径より小径な部分を含んだフォークボルト側スリーブと、を有するフォークボルトをさらに備え、
前記フリーピストンは、前記ガイドロッドと同心に上方に向かって延び、外径が前記フォークボルト側スリーブより小径で、内径が前記ガイドロッドより大径のフリーピストン側スリーブを備え、
前記フリーピストン側スリーブは、前記フォークボルト側スリーブ内を摺動自在に嵌合し、
前記フリーピストン側スリーブの摺動領域より上方の前記フォークボルト側スリーブには、前記外筒室に連通する連通孔が形成されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加えて、
前記フリーピストン側スリーブの上端には、前記連通路に臨む背圧受け部が形成され、前記背圧受け部は、その受圧面積が前記フリーピストンの前記サブタンク室側の受圧面積より小さくなるように形成されることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の構成に加えて、
前記フリーピストンは、前記ダンパシリンダの内周面に摺接するフリーピストン本体と、前記フリーピストン側スリーブとを備え、
前記フリーピストン本体の外周面には、前記フリーピストン本体の外周面と前記ダンパシリンダとの間をシールする第1シール部材が設けられ、
前記フリーピストン本体の内周面には、前記フリーピストン本体の内周面と前記ガイドロッドの外周面との間をシールする第2シール部材が設けられ、
前記フリーピストン側スリーブの外周面には、フリーピストン側スリーブの外周面とフォークボルト側スリーブの内周面との間をシールする第3シール部材が設けられることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の構成に加えて、
前記ガイドロッドは、前記フリーピストンが所定量移動した際に前記第2シール部材が対向する軸方向位置の外周面に、縮径部を有する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、フリーピストンが摺動してサブタンク室の容積が所定以上になったとき、外筒室とサブタンク室とを連通して、サブタンク室内の余剰オイルを外筒室にブローするための連通路が、前記フリーピストンと前記ガイドロッドとの間に、前記気体室から遮断されて形成される。これにより、油圧緩衝器の圧縮時に、上昇する外筒室のエア圧が背圧としてフリーピストンに作動する際、背圧を小さく設定でき、クッション性能が硬くなることが抑えられ、良好なクッション性能を与えることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、フリーピストンの気体室側に形成された背圧受け部は、その受圧面積がフリーピストンのサブタンク室側の受圧面積より小さくなるように形成される。従って、気体室側とサブタンク室側のフリーピストンの受圧面積を変更することで、フリーピストンが受ける上記背圧を小さく設定することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、フォークボルトは、ガイドロッドと同心に下方に向かって延び、ダンパシリンダの内径より小径な部分を含んだフォークボルト側スリーブを備え、フリーピストンは、ガイドロッドと同心に上方に向かって延び、外径がフォークボルト側スリーブより小径で、内径がガイドロッドより大径のフリーピストン側スリーブを備え、フリーピストン側スリーブは、フォークボルト側スリーブ内を摺動自在に嵌合し、フリーピストン側スリーブの摺動領域より上方のフォークボルト側スリーブには、外筒室に連通する連通孔が形成される。これにより、フォークボルトとフリーピストンの比較的簡単な構造により、フリーピストンが受ける上記背圧を小さく設定することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、フリーピストン側スリーブの上端に形成された背圧受け部は、その受圧面積がフリーピストンのサブタンク室側の受圧面積より小さくなるように形成される。従って、フリーピストン側スリーブに形成された背圧受け部によって、気体室側とサブタンク室側のフリーピストンの受圧面積を変更することで、フリーピストンが受ける上記背圧を小さく設定することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、フリーピストン本体の外周面に、フリーピストン本体の外周面とダンパシリンダとの間をシールする第1シール部材が設けられ、フリーピストン本体の内周面に、フリーピストン本体の内周面とガイドロッドの外周面との間をシールする第2シール部材が設けられ、フリーピストン側スリーブの外周面には、フリーピストン側スリーブの外周面とフォークボルト側スリーブの内周面との間をシールする第3シール部材が設けられる。これにより、圧縮時にサブタンク室や気体室にエアが抜けることが抑えられ、適切な背圧がフリーピストンの背圧受け部に掛かる構造となる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、ガイドロッドは、フリーピストンが所定量移動した際に第2シール部材が対向する軸方向位置の外周面に、縮径部を有する。これにより、サブタンク室内のオイル量が所定の量に達すると、フリーピストンが所定量移動して第2シール部材が縮径部に至り、余剰オイルは、サブタンク室から縮径部を経てガイドロッドの外周面とフリーピストン側スリーブの内周面との間の隙間を通過し、連通孔を介して外筒室にブローされる。したがって、背圧を小さく設定できる構造をとりながら、余剰オイルを外筒室にブローすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のフロントフォークが適用される自動二輪車を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態のフロントフォークを一部破断して示す断面図である。
【図3】図2のフロントフォークの要部拡大断面図である。
【図4】フリーピストンが上昇してサブタンク室内のオイルが外筒室にブローされる状態を示す、図3に対応する要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のテレスコピック式油圧緩衝器の一実施形態に係るフロントフォークについて、図1〜図4を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明が適用される自動二輪車110は、車体フレーム111を、前端に設けられるヘッドパイプ112と、ヘッドパイプ112から後ろ下がりに延びる左右一対のメインフレーム113と、メインフレーム113の後端部に連結され下方に延びる左右一対のセンタフレーム114と、左右一対のセンタフレーム114の下端部を車幅方向に連結するクロスメンバ115と、ヘッドパイプ112から下方に延びる左右一対のダウンフレーム116と、メインフレーム113の中間部から下方に延びて各ダウンフレーム116の下端部とそれぞれ連結される左右一対の補強フレーム117と、各ダウンフレーム116及び各補強フレーム117の下端部に接続されるダウンチューブ118と、から構成する。メインフレーム113、クロスメンバ115、及びダウンチューブ118にはエンジン150が懸架されている。また、センタフレーム114及び下端部及びダウンチューブ118の下端部には、エンジン150の下方を覆うスキッドプレート160が取り付けられる。
【0021】
また、自動二輪車110は、ヘッドパイプ112に操向可能に支持されるフロントフォーク10と、フロントフォーク10の下端部に回転可能に支持される前輪WFと、フロントフォーク10の上端部に取り付けられる操舵用のハンドル22と、を備える。フロントフォーク10にはフロントフェンダ123が設けられ、このフロントフェンダ123によって前輪WFの上側が覆われている。また、自動二輪車110は、センタフレーム114間で不図示のピボット軸を介して揺動自在に支持されるリヤフォーク124と、リヤフォーク124の後端部に回転可能に支持される後輪WRと、を備える。なお、メインフレーム113には、燃料タンク125が搭載され、その上からリヤフェンダ127が一体的に形成された車体カバー126が取り付けられている。
【0022】
エンジン150は、水冷式の単気筒エンジンであって、その外殻は、主に、クランクケース151と、クランクケース151の前方上端部に取り付けられるシリンダブロック152と、シリンダブロック152の上端部に取り付けられるシリンダヘッド153と、シリンダヘッド153の上部開口を覆うシリンダヘッドカバー154と、クランクケース151の左側面の開口を覆うACG(発電機)カバー155と、クランクケース151の右側面の開口を覆う不図示のクラッチカバーと、によって構成される。
【0023】
また、図1に示すように、シリンダヘッド153の不図示の吸気ポートには、吸気管191を介してスロットルボディ192が接続され、このスロットルボディ192の上流端には、接続管193を介してエアクリーナ194が接続される。また、シリンダヘッド153の不図示の排気ポートには、排気管195を介してマフラー196が接続される。
【0024】

図2に示すように、フロントフォーク10は、車体側チューブ(アウタチューブ)11内に車輪側チューブ(インナチューブ)12を摺動自在に挿入し、両チューブ11、12の間に懸架スプリング13を介装するとともに、単筒型ダンパ14を倒立にして内装している。
【0025】
車体側チューブ11の下端内周部には車輪側チューブ12の外周部が摺接するブッシュ15が嵌着され、車輪側チューブ12の上端外周部には車体側チューブ11の内周部が摺接するブッシュ16が嵌着されている。
【0026】
車体側チューブ11はアッパブラケット17Aとロアブラケット17Bを介して車体側に支持され、車輪側チューブ12は車軸ブラケット18を介して車軸に結合される。
【0027】
車体側チューブ11の上端部には、フォークボルト19のフォークボルト本体91がOリングを介して液密に螺着されている。また、ダンパ14のダンパシリンダ21(上シリンダチューブ21A)の上端部は、フォークボルト19に螺合されており、上シリンダチューブ21Aの上端部開口は、フォークボルト19により閉塞される。ダンパ14のダンパシリンダ21は、上下2つのシリンダチューブ21A、21Bに2分され、それらの接合体とされている。従って、ダンパシリンダ21は、車体側チューブ11の上端部側から下方へ延びるように、車体側チューブ11内に設けられている。
【0028】
車輪側チューブ12の下端部内周にはオイルロックカラー23がOリングを介して液密に嵌装され、このオイルロックカラー23をボトムボルト24で車軸ブラケット18にOリングを介して液密に固定してある。また、ボトムボルト24にはダンパ14のピストンロッド(中空ロッド)22の基端部が螺着されるとともにロックナット24Aでロックされ、このピストンロッド22の先端部をダンパシリンダ21に挿入してある。ピストンロッド22は、車輪側チューブ12の下端部側から上方へ延びるように、車輪側チューブ12内に設けられている。
【0029】
ダンパシリンダ21の下端側の開口部には、シールキャップ29が螺着され、シールキャップ29の下端部の外周部には、オイルロックピース30が遊嵌して設けられている。また、ピストンロッド22とシールキャップ29との間には、ガイドブッシュ49が挿入されている。
【0030】
懸架スプリング13は、オイルロックカラー23の基端部外周面に装着したスプリング受け25と、ダンパシリンダ21(下シリンダチューブ21B)の中間部の外周面に固定したスプリング受け26との間に介装されている。また、車体側チューブ11及び車輪側チューブ12の内部、即ち、車体側チューブ11及び車輪側チューブ12と、ダンパシリンダ21との間に形成される外筒室27には油室27Aとエア室27Bとが設けられ、エア室27Bに閉じ込められている気体が気体ばねを構成する。これらの懸架ばね13と気体ばねの弾発力が、車両が路面から受ける衝撃力を吸収する。
【0031】
ダンパ14は、ピストンバルブ装置40と、ベースバルブ装置50とを有している。ダンパ14は、ピストンバルブ装置40とベースバルブ装置50の発生する減衰力により、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の伸縮振動を抑制する。
【0032】
ピストンバルブ装置40は、ピストンロッド22の先端部(上端部)にピストンホルダ41を装着し、このピストンホルダ41にメインピストン42を装着している。メインピストン42は、ダンパシリンダ21Bの内部を摺接し、ダンパシリンダ21Bの内部をピストンロッド22が収容されないピストン側油室43Aとピストンロッド22が収容されるロッド側油室43Bとに区画する。メインピストン42は、伸側バルブ44Aを備えてピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとを連絡可能とする伸側流路44と、圧側バルブ45Aを備えてピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとを連絡可能とする圧側流路45とを備える。
【0033】
また、ピストンバルブ装置40は、ボトムボルト24に枢支されたアジャスタ46に結合されている減衰力調整ロッド47をピストンロッド22の中空部に通し、アジャスタ46の回転操作により軸方向に進退する減衰力調整ロッド47の先端のニードル47Aにより、ピストンホルダ41に設けてあるピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとのバイパス路48の流路面積を調整可能とする。
【0034】
図3にも示すように、ベースバルブ装置50は、前述のフォークボルト19にガイドロッド51を螺着するとともに、ガイドロッド51の先端部にナット51B等によりサブピストン52を保持している。サブピストン52は、メインピストン42より車体側チューブ11の上端部側で、上シリンダチューブ21Aの内周部に液密に接し、前述のピストン側油室43Aの上方にサブタンク室53を区画形成する。サブピストン52は、圧側バルブ54Aを備えてピストン側油室43Aとサブタンク室53とを連絡可能とする圧側流路54と、伸側バルブ55Aを備えてピストン側油室43Aとサブタンク室53とを連絡可能とする伸側流路55とを備える。また、ハウジングホルダ51Aは、圧側流路54と伸側流路55とをバイパスしてピストン側油室43Aとサブタンク室53とを連絡可能とするバイパス流路56を備える。
【0035】
フォークボルト19内に設けられた減衰力調整ロッド58は、アジャスタ59を備えるとともに、ガイドロッド51に挿入され、アジャスタ59の回転操作により軸方向に進退する先端のニードル58Aによりバイパス流路56の流路面積を調整可能とする。なお、フォークボルト19は頭部端面の中央部にアジャスタ59とそのホルダ59Aを埋め込み保持している。
【0036】
また、ベースバルブ装置50は、サブピストン52より車体側チューブ11の上端部側の、上シリンダチューブ21Aの内部でガイドロッド51に外挿され、該上シリンダチューブ21Aとガイドロッド51に沿って液密に摺動するフリーピストン61を備える。フリーピストン61は、上シリンダチューブ21Aと摺接するフリーピストン本体66と、フォークボルト19に形成されたフォークボルト側スリーブ94内を摺動自在に嵌合するフリーピストン側スリーブ67と、を備える。フリーピストン側スリーブ67は、該フリーピストン本体66からガイドロッド51と同心に上方に伸び、外径D1は、フォークボルト側スリーブ93の内径D7より小径に設定され、内径D2は、ガイドロッド51の外径D3より大径で、フリーピストン本体66の内径と一様に形成されている。
【0037】
フリーピストン本体66の外周面には、Oリングを有する第1シール部材81が設けられ、フリーピストン本体66の外周面と上シリンダチューブ21Aとの間をシールする。フリーピストン本体66の内周面には、Oリングを有する第2シール部材82が設けられ、フリーピストン本体66の内周面とガイドロッド51の外周面との間をシールする。フリーピストン側スリーブ67の外周面には、Oリングを有する第3シール部材83が設けられ、フリーピストン側スリーブ67の外周面とフォークボルト側スリーブ93の内周面との間をシールする。
【0038】
これにより、フリーピストン61は、サブピストン52側でピストン側油室43Aに連通しているサブタンク室53と、エアが収容されるフォークボルト19側の体積補償室(気体室)53Bとを区画する。また、フリーピストン61とフォークボルト19との間には、所定の加圧荷重を有するようにフリーピストン用スプリング62が介装される。
【0039】
そして、フリーピストン61は、ダンパシリンダ21にピストンロッド22が進入、退出することにより、ピストンロッド22の進入、退出容積分に相当するダンパシリンダ21内の油量変化を上下動して補償する。ダンパシリンダ21内にピストンロッド22が進入する圧縮時に、このスプリング62が収縮し、この時のスプリング62のバネ力によって、ダンパシリンダ21内の油室が加圧される。
【0040】
ここで、フォークボルト19は、車体側チューブ11と螺着して車体側チューブ11の一端部開口を閉塞するフォークボルト本体91と、ガイドロッド51と同心でフォークボルト本体91から下方に延びるフォークボルト側スリーブ94と、を有する。フォークボルト側スリーブ94は、外周面にダンパシリンダ21が螺合するシリンダ取付部93を有し、該シリンダ取付部93より下方のストレート部分94aの外径D4は、ダンパシリンダ21の内径D5より小径に形成される。また、フォークボルト側スリーブ94のシリンダ取付部93より上方部分92は、外径D6がシリンダ取付部93より大径、且つ、フォークボルト本体91より小径(即ち、車体側チューブ11の内径D8より小径)に形成されており、径方向に延びる複数の連通孔92aが形成されている。従って、フォークボルト19は、外周面がフォークボルト本体91、連通孔92aが形成される部分92、シリンダ取付部93、ストレート部分94aの順に外径が小径となるように、複数の段差を持って筒状に形成される。
【0041】
また、フォークボルト側スリーブ94の内周面は、ガイドロッド51の外周面との間に摺動するフリーピストン側スリーブ67を収容するように一様内径D7を有し、ガイドロッド51の外周面との間に環状空間68を画成する。従って、環状空間68は、フリーピストン側スリーブ67が摺動する摺動領域を形成するが、環状空間68は、フリーピストン側スリーブ67の摺動領域よりも上方まで長く形成されている(図3参照。)。従って、連通孔92aは、該摺動領域よりも上方のフォークボルト側スリーブ94の内周面に開口し、フォークボルト側スリーブ94の内周面とガイドロッド51の外周面との間に画成される環状空間68と、外筒室27とを連通する。
【0042】
なお、図示しないが、フォークボルト19には、フロントフォーク10の伸縮によって車体側チューブ11と車輪側チューブ12の摺動部から外筒室27に侵入した空気を排出するための排気プラグや、体積補償室53B内の気圧、及び油量を調整するための調整プラグが設けられている。
【0043】
また、ガイドロッド51は、フリーピストン61が所定量移動した際に第2シール部材82が対向する軸方向位置の外周面に、外径が残りの部分より小径の縮径部51Cを有する。そして、ダンパシリンダ21内に溜まった余剰オイルが増加し、サブタンク室53内のオイル量が所定の量に達すると、図3に示すように、フリーピストン61が所定量移動して第2シール部材82が縮径部51Cに至る。これにより、第2シール部材82と縮径部51Cとの間に隙間が形成され、余剰オイルは、サブタンク室53から縮径部51Cを経てガイドロッド51の外周面とフリーピストン側スリーブ67の内周面との間の隙間gを通過し、環状空間68、連通孔92aを介して外筒室27にブローされる。
このため、本実施形態では、連通路は、縮径部51C、ガイドロッド51の外周面とフリーピストン側スリーブ67の内周面との間の隙間g、フォークボルト側スリーブ94の内周面とガイドロッド51の外周面との間に画成される環状空間68、連通孔92を含む。また、連通路を構成する環状空間68に臨むフリーピストン側スリーブ67の軸方向端面67aは、圧縮時に連通孔92aを介して流入する外筒室27からのエア圧を受ける背圧受け部を構成する。
【0044】
また、上述したように、フリーピストン側スリーブ67の内径とフリーピストン本体66の内径は一様である一方、フリーピストン側スリーブ67の外径はフリーピストン本体66の外径より小径に形成されている。従って、フリーピストン側スリーブ67の軸方向端面67aの受圧面積は、フリーピストン本体66のサブタンク室側の受圧面積よりも小さい。
【0045】
このように構成されたフロントフォーク10は以下の如くに減衰作用を行なう。
【0046】
フロントフォーク10の圧縮時には、ベースバルブ装置50において、サブピストン52のニードル58A或いは圧側バルブ54Aを流れる油により圧側減衰力を生じる。具体的には、ダンパシリンダ21に進入したピストンロッド22の進入容積分の油が、ピストン側油室43Aからサブピストン52のバイパス流路56、もしくは圧側流路54を通ってサブタンク室53に排出される。このとき、ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が低速のときには、バイパス流路56に設けてあるニードル58Aによる絞り抵抗により圧側の減衰力を得る。この減衰力は、アジャスタ59によるニードル58Aの位置調整により調整される。また、ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が中高速のときには、ピストン側油室43Aから圧側流路54を通る油が圧側バルブ54Aを撓み変形させてサブタンク室53に導かれ、圧側の減衰力を生ずる。一方、ピストンバルブ装置40においては、ピストン側油室43Aの油が圧側流路45を通り圧側バルブ45Aを開いてロッド側油室43Bへ導かれ、必要に応じた設定の圧側減衰力を生じる。
【0047】
フロントフォーク10の伸長時には、ピストンバルブ装置40において、メインピストン42のニードル47A或いは伸側バルブ44Aを流れる油により伸側減衰力を生じる。具体的には、ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が低速のとき、ロッド側油室43Bの油がニードル47Aのあるバイパス路48を通ってピストン側油室43Aへ導かれ、この間のニードル47Aによる絞り抵抗により伸側の減衰力を生ずる。この減衰力は、アジャスタ46によるニードル47Aの位置調整により調整される。ダンパシリンダ21とピストンロッド22の相対速度が中高速のときには、ロッド側油室43Bの油が伸側流路44を通り伸側バルブ44Aを撓み変形させてピストン側油室43Aへ導かれ、伸側の減衰力を生ずる。一方、ベースバルブ装置50のおいては、ダンパシリンダ21から退出するピストンロッド22の退出容積分の油が、サブタンク室53からサブピストン52の伸側流路55を通ってピストン側油室43Aに還流され、所望の減衰力を発生させる。
【0048】
これらの圧側と伸側の減衰力により、フロントフォーク10の伸縮振動が抑制される。
【0049】
尚、フロントフォーク10の最圧縮時には、ダンパシリンダ21の下シリンダチューブ21Bの下端部のオイルロックピース30が、車輪側チューブ12の下端部に設けてあるオイルロックカラー23に嵌合し、両者の間で圧縮した油によりオイルロック作用を生ぜしめ、ダンパ20の底つきを防止する。
【0050】
また、フロントフォーク10の最伸長時には、ピストンロッド22に設けているピストンホルダ41の下端面が、シールキャップ29に支持されているリバウンドスプリング32に衝合し、伸び切りの緩衝作用を果たす。
【0051】
ここで、フロントフォーク10の圧縮時には、外筒室27のエア圧が上昇するため、連通孔92aを介して環状空間68内にエアが逆流して、フリーピストン側スリーブ67の軸方向端面67aに背圧が掛かる。このため、フロントフォーク10の圧縮時におけるフリーピストン61の押圧力は、フリーピストン用スプリング62のバネ力に、外筒室27のエア圧によるバネ力を加えることができる。ただし、連通路は、フリーピストン61とガイドロッド51との間に、体積膨張室53Bから遮断されて形成されているので、体積膨張室53Bに臨むフリーピストン本体66の面には背圧が掛からず、上記したように、背圧はフリーピストン側スリーブ67の軸方向端面67aに掛かる。フリーピストン側スリーブ67の軸方向端面67aの受圧面積は、フリーピストン本体66のサブタンク室側の受圧面積と比べて小さくなっているので、背圧を小さく設定でき、クッション性能を良好にできる。
【0052】
また、オイルシール35は、フロントフォーク10がストロークするたびに、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の内部の油室27に位置するピストンロッド22の外周面に付着した作動油をダンパシリンダ21の内部に持ち込む。従って、長期の使用により、ダンパシリンダ21の内部の油室43A,43B、サブタンク室53の作動油が徐々に増加し、フリーピストン61がその増加により上方へ移動する。ここで、経時的に溜まった余剰オイルによりフリーピストン61に設けられた第2シール部材82が縮径部51Cと対向する位置まで上昇した場合には、図4の矢印に示すように、縮径部51C、隙間g、環状空間68、連通孔92aを介して外筒室27に油をブローすることができ、ダンパシリンダ21内のオイル量、圧力を調整することができる。
【0053】
従って、本実施形態によれば、フリーピストン61が摺動してサブタンク室53の容積が所定以上になったとき、外筒室27とサブタンク室53とを連通して、サブタンク室53内の余剰オイルを外筒室27にブローするための連通路が、フリーピストン61とガイドロッド51との間において、体積補償室53Bから遮断されて形成される。これにより、フロントフォーク10の圧縮時に、上昇する外筒室27のエア圧が連通路を介して背圧としてフリーピストン61に作動するが、連通路は体積補償室53Bから遮断されることで、背圧が小さく設定でき、良好なクッション性能を与えることができる。
【0054】
フリーピストン61の体積補償室側、即ち、フリーピストン側スリーブの上端には、連通路に臨む背圧受け部としてのフリーピストン側スリーブ67の軸方向端面67aが形成され、軸方向端面67aは、その受圧面積がフリーピストン61のサブタンク室側の受圧面積より小さくなるように形成される。従って、体積補償室側とサブタンク室側のフリーピストン61の受圧面積を変更することで、フリーピストン61が受ける上記背圧を小さく設定することができる。
【0055】
また、フォークボルト19は、ガイドロッド51と同心に下方に向かって延び、ダンパシリンダ21の内径D5より小径なストレート部分94aを含んだフォークボルト側スリーブ94を備え、フリーピストン61は、ガイドロッド51と同心に上方に向かって延び、外径D1がフォークボルト側スリーブより小径で、内径D2がガイドロッド51より大径のフリーピストン側スリーブ67を備え、フリーピストン側スリーブ67は、フォークボルト側スリーブ94内を摺動自在に嵌合し、フリーピストン側スリーブ67の摺動領域より上方のフォークボルト側スリーブ94には、外筒室27に連通する連通孔92aが形成される。これにより、フォークボルト19とフリーピストン67の比較的簡単な構造により、フリーピストン61が受ける上記背圧を小さく設定することができる。
【0056】
さらに、フリーピストン本体66の外周面に、フリーピストン本体66の外周面とダンパシリンダ21との間をシールする第1シール部材81が設けられ、フリーピストン本体66の内周面に、フリーピストン本体66の内周面とガイドロッド51の外周面との間をシールする第2シール部材82が設けられ、フリーピストン側スリーブ67の外周面には、フリーピストン側スリーブ67の外周面とフォークボルト側スリーブ94の内周面との間をシールする第3シール部材83が設けられる。これにより、圧縮時にサブタンク室53や体積補償室53Bにエアが抜けることが抑えられ、適切な背圧がフリーピストン61の軸方向端面67aに掛かる構造となる。
【0057】
また、ガイドロッド51は、フリーピストン61が所定量移動した際に第2シール部材82が対向する軸方向位置の外周面に、縮径部51Cを有する。これにより、サブタンク室53内のオイル量が所定の量に達すると、フリーピストン61が所定量移動して第2シール部材82が縮径部51Cに至り、余剰オイルは、サブタンク室53から縮径部51Cを経てガイドロッド51の外周面とフリーピストン側スリーブ67の内周面との間の隙間gを通過し、連通孔92aを介して外筒室27にブローされる。したがって、背圧を小さく設定できる構造をとりながら、余剰オイルを外筒室27にブローすることができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10 フロントフォーク
11 車体側チューブ
12 車輪側チューブ
19 フォークボルト
21 ダンパシリンダ
22 ピストンロッド
27 外筒室
29 シールキャップ
32 リバウンドスプリング
35 オイルシール
40 ピストンバルブ装置
42 メインピストン
43A ピストン側油室
43B ロッド側油室
50 ベースバルブ装置
51 ガイドロッド
51C 縮径部
52 サブピストン
53 サブタンク室
53B 体積補償室(気体室)
61 フリーピストン
62 フリーピストン用スプリング
66 フリーピストン本体
67 フリーピストン側スリーブ
81 第1シール部材
82 第2シール部材
83 第3シール部材
91 フォークボルト本体
92a 連通孔
94 フォークボルト側スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺動自在に嵌合する車体側チューブ及び車輪側チューブと、
該車体側チューブの上端部側から下方へ延びるように該車体側チューブ内に設けられたダンパシリンダと、
前記車輪側チューブの下端部側から上方へ延びるように該車輪側チューブ内に設けられたピストンロッドと、
該ピストンロッドの上端部に設けられると共に、前記ダンパシリンダの内部に摺動自在に取り付けられ、前記ダンパシリンダの内部をピストン側油室とロッド側油室に区画するメインピストンと、
前記メインピストンより前記車体側チューブの上端部側で前記ダンパシリンダ内に取り付けられ、前記ダンパシリンダの内部を前記ピストン側油室とサブタンク室に区画し、減衰力発生装置を有するサブピストンと、
前記サブピストンより前記車体側チューブの上端部側で前記ダンパシリンダの内部に摺動自在に取り付けられ、前記ダンパシリンダの内周面に摺接して前記ダンパシリンダの内部を前記サブタンク室と気体室に区画するフリーピストンと、
前記気体室に設けられ、該フリーピストンを押圧するフリーピストン用スプリングと、
前記フリーピストンが外挿された状態で前記ダンパシリンダの内部に設けられ、前記フリーピストンの摺動を案内するガイドロッドと、
を備えたテレスコピック式油圧緩衝器において、
前記フリーピストンが摺動して前記サブタンク室の容積が所定以上になったとき、前記車体側チューブと前記ダンパシリンダとの間に形成された外筒室と前記サブタンク室とを連通して、前記サブタンク室内の余剰オイルを前記外筒室にブローするための連通路が、前記フリーピストンと前記ガイドロッドとの間に、前記気体室から遮断されて形成されることを特徴とするテレスコピック式油圧緩衝器。
【請求項2】
前記フリーピストンの前記気体室側には、前記連通路に臨む背圧受け部が形成され、前記背圧受け部は、その受圧面積が前記フリーピストンの前記サブタンク室側の受圧面積より小さくなるように形成されることを特徴とする請求項1に記載のテレスコピック式油圧緩衝器。
【請求項3】
前記車体側チューブの一端部開口を閉塞するフォークボルト本体と、前記ガイドロッドと同心に下方に向かって延び、前記ダンパシリンダの内径より小径な部分を含んだフォークボルト側スリーブと、を有するフォークボルトをさらに備え、
前記フリーピストンは、前記ガイドロッドと同心に上方に向かって延び、外径が前記フォークボルト側スリーブより小径で、内径が前記ガイドロッドより大径のフリーピストン側スリーブを備え、
前記フリーピストン側スリーブは、前記フォークボルト側スリーブ内を摺動自在に嵌合し、
前記フリーピストン側スリーブの摺動領域より上方の前記フォークボルト側スリーブには、前記外筒室に連通する連通孔が形成されることを特徴とする請求項1に記載のテレスコピック式油圧緩衝器。
【請求項4】
前記フリーピストン側スリーブの上端には、前記連通路に臨む背圧受け部が形成され、前記背圧受け部は、その受圧面積が前記フリーピストンの前記サブタンク室側の受圧面積より小さくなるように形成されることを特徴とする請求項3に記載のテレスコピック式油圧緩衝器。
【請求項5】
前記フリーピストンは、前記ダンパシリンダの内周面に摺接するフリーピストン本体と、前記フリーピストン側スリーブとを備え、
前記フリーピストン本体の外周面には、前記フリーピストン本体の外周面と前記ダンパシリンダとの間をシールする第1シール部材が設けられ、
前記フリーピストン本体の内周面には、前記フリーピストン本体の内周面と前記ガイドロッドの外周面との間をシールする第2シール部材が設けられ、
前記フリーピストン側スリーブの外周面には、フリーピストン側スリーブの外周面とフォークボルト側スリーブの内周面との間をシールする第3シール部材が設けられることを特徴とする請求項3または4に記載のテレスコピック式油圧緩衝器。
【請求項6】
前記ガイドロッドは、前記フリーピストンが所定量移動した際に前記第2シール部材が対向する軸方向位置の外周面に、縮径部を有することを特徴とする請求項5に記載のテレスコピック式油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−276044(P2010−276044A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126484(P2009−126484)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】