説明

テンプレート押圧ウェハ研磨方式

【課題】研磨時に外周部を含むウェハの全面を均一に加圧して該ウェハの特に外周部の変形を抑制し、この変形によるウェハの過剰研磨等の欠陥発生を防止し、リテーナリング一体型のテンプレートとしてウェハの自動搬送の構築を可能とし、該自動搬送等の際の研磨ヘッドへのウェハの真空吸着を安定化させ、さらには径、厚み等のサイズ違いのウェハも容易・確実に研磨可能とする。
【解決手段】底面部にウェハWを嵌合させる嵌合用凹部が形成されたテンプレートと研磨ヘッド側に取り付けられてテンプレートの周囲を包囲する円環状のリテーナリングとを一体化したリテーナリング一体化テンプレート10を備え、該リテーナリング一体化テンプレート10における嵌合用凹部11にウェハWを嵌合させ、リテーナリング一体化テンプレート10を介してウェハWをプラテン2上の研磨パッド6に押し付けるとともに研磨ヘッドをプラテン2に対し相対回転させてウェハWを研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンプレート押圧ウェハ研磨方式に関するものであり、特に、研磨時にウェハの過剰研磨等の欠陥発生を防止し、リテーナリングとテンプレートとを一体化してウェハの自動搬送の構築を可能とし、さらには該自動搬送等の際の研磨ヘッドへのウェハの真空吸着を安定化させることが可能なテンプレート押圧ウェハ研磨方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のテンプレート押圧ウェハ研磨方式としては、例えば本出願人の特許出願に係る特願2010−132336号の願書に添付した明細書及び図面に開示されているようなものがある。この先願に係る技術は、ウェハを、研磨ヘッドにおけるキャリアの下面部に設けられた圧力エア層でプラテン上の研磨パッドに押圧するとともに該研磨ヘッドに設けられたリテーナリングで周囲を包囲し、研磨ヘッドをプラテンに対し相対回転させてウェハを研磨するテンプレート押圧ウェハ研磨方式であって、前記圧力エア層は、前記キャリアの下面と周縁部が前記リテーナリングに保持された弾性シートと前記キャリアの下面に該下面の周縁に沿って環状に凸設されたエアシールとで囲まれたエア室に圧縮エアを供給することにより形成されている。キャリアの下面には、圧縮エアを供給するためのエア吹出し口と真空吸引用のバキューム孔及び該バキューム孔に通じる吸着溝とが形成されている。また前記リテーナリングの内径に対応した直径の円板状体の底面にウェハの外径とほぼ同径の嵌合用凹部が形成されたテンプレートが該リテーナリングとは別体の部材として備えられ、研磨の際に、ウェハは該テンプレートにおける嵌合用凹部に嵌合されてテンプレートを介して前記圧力エア層でプラテン上の研磨パッドに押圧されるとともに当該テンプレートを介して前記リテーナリングで周囲が包囲されるように構成されている。前記弾性シートの適所には、複数の孔が開穿され、該孔はウェハの搬送時には真空吸着用の吸着用孔として機能し、研磨時には前記エア室を形成するためテンプレートの上面に密着して閉止される。
【0003】
そして、圧力エア層となるエア室の周囲を形成しているエアシールの内径よりも小径の嵌合用凹部に嵌合されているウェハには、研磨時に外周部を含めて、その全面に圧力エア層からの押圧力が均一にかかる。また、ウェハは、その周囲がテンプレートを介してリテーナリングで周囲を包囲されている。このため、研磨時にはリテーナリングの内周面にテンプレートの外側面の部分で接触し、リテーナリングの内周面に対する接触面積が拡大されている。したがって、リテーナリングとの接触面積が広くなって、リテーナリングの内周面に衝突するように接触する際のウェハに発生する応力、即ちウェハに作用する変形力は小さくなる。この結果、外周部を含めたウェハ全面の均一加圧とあいまって、研磨時におけるウェハの変形、特に外周部の変形が抑制され、研磨後のウェハに過剰研磨等の欠陥が発生することがない。
【0004】
上記のようなテンプレート押圧ウェハ研磨方式に関連する従来技術として、例えば、次のようなウェハ研磨装置が知られている。この従来技術は、ウェハの周囲を包囲し、研磨時にウェハと共にプラテン上の研磨パッドに接触して該研磨パッドにおける研磨面の盛り上がりを押さえるリテーナリングが備えられ、ウェハは、周縁部がリテーナリングに保持された保護シートに吸着されてプラテン上に運ばれる。この後、ウェハ裏面に研磨圧力を伝える圧力流体層が、キャリア下面に設けられたエア噴出し部材と前記保護シートとの間に形成され、ウェハは該圧力流体層により保護シートを介して研磨パッドに押圧される。そして、該ウェハの押圧状態においてプラテンの回転駆動部を起動してプラテンと共に研磨パッドを一方向に回転させ、これと同時に研磨ヘッドの回転駆動部を起動してウェハをプラテン側の回転に対し相対回転させることにより、ウェハを研磨するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、従来、例えば、次のようなウェハ変形抑制装置及びウェハ変形抑制方法が知られている。この従来技術は、リテーナリングで包囲されたウェハをキャリアの下面部に設けられた圧力エア層で研磨パッドに押し付けて研磨するCMP装置におけるウェハ変形抑制装置であって、ウェハの上面に該ウェハ径とほぼ同等の直径を有する平面視円形の補強部材が貼り付けられ、該補強部材をウェハに貼り付けたまま該ウェハを研磨するように構成されている。前記圧力エア層は、キャリアの下面と周縁部がリテーナリングに保持された弾性シート等との間に形成されるとともに、キャリアの下面には、圧縮エアを供給するためのエア吹出し口と真空吸引用のバキューム孔とが形成され、弾性シートの適所には、複数の孔が開穿され、該孔はウェハの搬送時には真空吸着用の吸着用孔として機能し、研磨時にはエア圧供給用孔として機能する。この圧力エア層の形成、キャリアの下面へのバキューム孔の形成及び弾性シートへの吸着用孔の開穿等の構成部分は、前記特願2010−132336号の願書に添付した明細書及び図面に開示されている技術におけるものとほぼ同様である。そして、補強部材はウェハ径とほぼ同等の直径を有し、貼着材を介してウェハ上面に一体に貼り付けられている。したがって、研磨時にウェハが移動してリテーナリングに衝突しても該リテーナリングからウェハに作用する変形力は補強部材により緩和吸収される。その結果、ウェハに作用する衝撃力に対する耐性強度が実質的に増大する。研磨時にウェハが移動してリテーナリングに衝突した場合でもリテーナリングからウェハに作用する変形力が補強部材により吸収除去されるので、リテーナリングとの接触・衝撃によるウェハの研磨形状の変形、特に該ウェハの外周縁部の座屈変形を抑制することができると共に、該変形によるウェハ外周縁部の研磨不良を防止することができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3085948号公報
【特許文献2】特開2009−10227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先願である特願2010−132336号に係る技術においては、テンプレートにおける嵌合用凹部に嵌合されているウェハには、研磨時に外周部を含めて、その全面に圧力エア層からの押圧力が均一にかかる。また、ウェハは、その周囲がテンプレートを介してリテーナリングで周囲を包囲され、研磨時にはリテーナリングの内周面にテンプレートの外側面の部分で接触し、リテーナリングの内周面に対する接触面積が拡大されている。この結果、外周部を含めたウェハ全面の均一加圧とあいまって、研磨時におけるウェハの変形、特に外周部の変形が抑制され、研磨後のウェハに過剰研磨等の欠陥が発生しない。しかしながら、ウェハを嵌合する嵌合用凹部が形成されたテンプレートは、リテーナリングとは別体の部材として構成されて二重構造となっていたためウェハの自動搬送の構築が難しい。また、この自動搬送の際、ウェハは、テンプレートの嵌合用凹部に嵌合された状態で該テンプレートがキャリアの下面に形成された真空吸引用のバキューム孔に通じる吸着溝と弾性シートに開穿され真空吸着用の吸着用孔を介して真空吸引されることにより、研磨ヘッド側に真空吸着される。しかしながら、キャリア下面の吸着溝と弾性シートの吸着用孔との間には、何らの位置合わせ手段も講じられていなかったため、該吸着溝と吸着用孔とが合っていないと研磨ヘッド側へのウェハの真空吸着が不安定になる。
【0008】
特許文献1に記載の従来技術においては、ウェハの周囲を包囲するリテーナリングは、ウェハを安定して内嵌させるために、その内径がウェハの外径よりも所要量大きく、余裕を持たせて作られている。このような寸法関係から、研磨をしていない状況下では、ウェハはリテーナリングの中央部側に位置しているが、一旦研磨が始まるとウェハはリテーナリング内を研磨パッドの回転方向に滑り動く。その結果、ウェハの外周部がリテーナリングの内周面に衝突するように接触する。この衝突時にウェハに発生する応力は、リテーナリングの単位面積当たりの反力(外力)の大きさに相当し、ウェハ中心部は、衝突時の外力を受ける部分から十分離れているため、外力と応力がほぼ等しくなり、また圧力流体層により加圧が行われているため変形が生じることは殆どない。しかし、接触面積が小さい外周縁の部分でリテーナリングの内周面に衝突するように接触するウェハの外周部は、リテーナリングからの反力(外力)が大きくなるとともに、圧力流体層による加圧も不十分になり易い。このため、ウェハの外周部には、リテーナリング内周面との衝突力により変形が発生する虞がある。そして、変形が発生した場合は、ウェハの研磨表面における圧力分布が不均等になり、特にウェハ外周部の研磨レートが増大して、研磨後のウェハに過剰研磨等の欠陥が発生する。また、本従来技術において研磨に供されるウェハは、その外径がリテーナリングの内径よりも所要量小さく、その周囲をリテーナリングに包囲されて該リテーナリングに安定して内嵌させ得るものに限られる。そのため、使用されているリテーナリングの内径に合った外径のウェハしか研磨することができない。
【0009】
また、特許文献2に記載の従来技術においては、研磨時にウェハが移動してリテーナリングに衝突した場合でもリテーナリングからウェハに作用する変形力が補強部材により吸収除去されるので、ウェハの外周縁部の座屈変形を抑制することができると共に、該変形によるウェハ外周縁部の研磨不良を防止することができる。そして、自動搬送等の際、ウェハは、その上面に補強部材が貼り付けられた状態でキャリアの下面に形成された真空吸引用のバキューム孔と弾性シートに開穿され真空吸着用の吸着用孔を介して真空吸引されることにより、研磨ヘッド側に真空吸着される。しかしながら、前記特願2010−132336号の願書に添付した明細書及び図面に開示されている技術におけるものとほぼ同様に、キャリア下面のバキューム孔と弾性シートの吸着用孔との間には、何らの位置合わせ手段も講じられていなかったため、該バキューム孔と吸着用孔とが合っていないと研磨ヘッド側へのウェハの真空吸着が不安定になる。
【0010】
そこで、研磨時に外周部を含むウェハの全面を均一に加圧して該ウェハの特に外周部の変形を抑制し、この変形によるウェハの過剰研磨等の欠陥発生を防止し、リテーナリング一体型のテンプレートとしてウェハの自動搬送の構築を可能とし、該自動搬送等の際の研磨ヘッドへのウェハの真空吸着を安定化させ、さらには径、厚み等のサイズ違いのウェハも容易・確実に研磨可能とするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、底面部にウェハを嵌合させる嵌合用凹部が形成されたテンプレートと研磨ヘッド側に取り付けられて前記テンプレートの周囲を包囲する円環状のリテーナリングとを一体化したリテーナリング一体化テンプレートを備え、該リテーナリング一体化テンプレートにおける嵌合用凹部に前記ウェハを嵌合させ、該リテーナリング一体化テンプレートを介して該ウェハをプラテン上の研磨パッドに押し付けるとともに前記研磨ヘッドを前記プラテンに対し相対回転させて前記ウェハを研磨するテンプレート押圧ウェハ研磨方式を提供する。
【0012】
この構成によれば、リテーナリング一体化テンプレートにおける嵌合用凹部に嵌合されているウェハには、研磨時にその外周部を含めた全面に該リテーナリング一体化テンプレート上に形成される圧力エア層等からの押圧力が均一にかかる。またウェハの外周部が直接リテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作がなく、さらにはテンプレートの外側面がリテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作がないことから、これらの動作が生じるときのウェハに発生する応力、即ちウェハに作用する変形力は全く生じない。この結果、研磨時におけるウェハの変形、特に外周部の変形が抑制され、研磨後のウェハに過剰研磨等の欠陥が発生しない。さらに、ウェハを嵌合させる嵌合用凹部が形成されているテンプレート部分は、リテーナリングと一体化されて研磨ヘッド側に固定されていることで、自動搬送によるウェハの受け渡しが可能となって、ウェハの自動搬送の構築が可能となる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記リテーナリング一体化テンプレートにおける外周部のリテーナリング相当領域にリテーナリングホルダが固着され、前記リテーナリング一体化テンプレートは前記リテーナリングホルダを介して上記研磨ヘッド側に取り付けられているテンプレート押圧ウェハ研磨方式を提供する。
【0014】
この構成によれば、リテーナリング一体化テンプレートは、その外周部のリテーナリング相当領域にリテーナリングホルダが固着され、このリテーナリングホルダが固着された状態でスナップリングの嵌脱により研磨ヘッドに対し取付け、取外しが可能となっている。したがって、嵌合用凹部の内径、嵌合深さ等を可能な範囲で変えた複数個のリテーナリング一体化テンプレートに、それぞれリテーナリングホルダを固着したものを予め準備しておくことで、リテーナリング一体化テンプレートは径、厚み等のサイズ違いのウェハにも対応可能となって、これらのウェハも確実に研磨することが可能となる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、上記リテーナリング一体化テンプレートにおける外周部のリテーナリング相当領域に上記リテーナリングホルダを固着する際には、上記研磨ヘッドにおけるキャリアの下面部に形成された真空吸着溝と一定の位置関係にある上記リテーナリングホルダ上の第1の位置合わせ用指標と、上記リテーナリング一体化テンプレートにおける嵌合用凹部の天井部に開穿された吸着孔の位置に関連する該リテーナリング一体化テンプレート上の第2の位置合わせ用指標とを位置合わせするように構成したテンプレート押圧ウェハ研磨方式を提供する。
【0016】
この構成によれば、リテーナリング一体化テンプレートにおける外周部のリテーナリング相当領域に対しリテーナリングホルダは両面テープ等を用いて固着される。この固着の際、リテーナリングホルダ上の第1の位置合わせ用指標とリテーナリング一体化テンプレート上の第2の位置合わせ用指標とを位置合わせすることで、キャリアの下面部に形成された真空吸着溝の位置とリテーナリング一体化テンプレートに開穿された吸着孔の位置とが合って、自動搬送等の際の研磨ヘッドへのウェハの真空吸着を安定化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明は、リテーナリング一体化テンプレートにおける嵌合用凹部に嵌合されているウェハには、研磨時にその外周部を含めた全面に圧力エア層等からの押圧力が均一にかかって外周部を含むウェハの全面を均一に加圧することができる。またウェハの外周部が直接リテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作及びテンプレートの外側面がリテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作がないことから、これらの動作が生じるときのウェハに作用する変形力は全く生じない。このため研磨時におけるウェハの変形、特に外周部の変形が抑制されて、ウェハの過剰研磨等の欠陥発生を防止することができる。また、ウェハを嵌合させる嵌合用凹部が形成されているテンプレート部分は研磨ヘッド側に固定されていることでウェハの自動搬送の構築が可能となるという利点がある。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えてさらに、リテーナリング一体化テンプレートは、外周部のリテーナリング相当領域にリテーナリングホルダが固着され、このリテーナリングホルダが固着された状態でスナップリングの嵌脱により研磨ヘッドに対し取付け、取外しが可能となっている。したがって、嵌合用凹部の内径、嵌合深さ等を変えた複数個のリテーナリング一体化テンプレートに、それぞれリテーナリングホルダを固着したものを予め準備しておくことで、径、厚み等のサイズ違いのウェハにも対応可能となって、これらのウェハも容易・確実に研磨することができるという利点がある。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加えてさらに、リテーナリング一体化テンプレートにおける外周部のリテーナリング相当領域にリテーナリングホルダを両面テープ等を用いて固着する際に、リテーナリングホルダ上の第1の位置合わせ用指標とリテーナリング一体化テンプレート上の第2の位置合わせ用指標とを位置合わせすることで、キャリアの下面部に形成された真空吸着溝の位置とリテーナリング一体化テンプレートに開穿された吸着孔の位置とを合わせることができて、自動搬送等の際の研磨ヘッドへのウェハの真空吸着を安定化させることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例に係るテンプレート押圧ウェハ研磨方式に適用されるウェハ研磨装置の斜視図。
【図2】図1のウェハ研磨装置における要部断面図。
【図3】本発明の実施例に係るテンプレート押圧ウェハ研磨方式の作用を先願に係る特願2010−132336号の願書に添付した明細書及び図面に開示されている技術と比較して説明するための要部断面図であり、(a)〜(c)は本発明の実施例の各作用を説明するための図、(d)〜(f)は前記(a)〜(c)のそれぞれに対応した前記先願に係る技術を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、研磨時に外周部を含むウェハの全面を均一に加圧して該ウェハの特に外周部の変形を抑制し、この変形によるウェハの過剰研磨等の欠陥発生を防止し、リテーナリング一体型のテンプレートとしてウェハの自動搬送の構築を可能とし、該自動搬送等の際の研磨ヘッドへのウェハの真空吸着を安定化させ、さらには径、厚み等のサイズ違いのウェハも容易・確実に研磨可能とするという目的を達成するために、底面部にウェハを嵌合させる嵌合用凹部が形成されたテンプレートと研磨ヘッド側に取り付けられて前記テンプレートの周囲を包囲する円環状のリテーナリングとを一体化したリテーナリング一体化テンプレートを備え、該リテーナリング一体化テンプレートにおける嵌合用凹部に前記ウェハを嵌合させ、該リテーナリング一体化テンプレートを介して該ウェハをプラテン上の研磨パッドに押し付けるとともに前記研磨ヘッドを前記プラテンに対し相対回転させて前記ウェハを研磨することにより実現した。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の好適な実施例を図1乃至図3の(a)〜(f)を参照して説明する。まず、本実施例に係るテンプレート押圧ウェハ研磨方式に適用されるウェハ研磨装置の構成を図1及び図2を用いて説明する。
【0023】
図1においてウェハ研磨装置(CMP装置)1は、主としてプラテン2と、研磨ヘッド3とから構成されている。前記プラテン2は、円盤状に形成され、その下面中央には回転軸4が連結されており、モータ5の駆動によって矢印A方向へ回転する。プラテン2の上面には研磨パッド6が貼付されており、該研磨パッド6上に図示しないノズルから研磨剤と化学薬品との混合物であるスラリーが供給される。
【0024】
前記研磨ヘッド3は、前記プラテン2よりも小形の円盤状に形成されたヘッド本体の上面中央に回転軸7が連結され、該回転軸7に軸着された図示しないモータで駆動されて矢印B方向に回転する。研磨ヘッド3は、図示しない昇降装置によって上下移動自在に設けられており、後述するリテーナリング一体化テンプレートに研磨対象のウェハを嵌合させる際に上昇移動される。また、研磨ヘッド3は、ウェハを研磨する際には下降移動されて研磨パッド6に押圧当接される。
【0025】
研磨ヘッド3には、図2に示すようにヘッド本体の中央部に、図示しないキャリア押圧手段を介して上下方向に所要量移動可能にキャリア8が配設されている。そして、該キャリア8の下方に、圧力エア層が形成されるエア室9となる空間領域を介して、前記先願に係る特願2010−132336号の願書に添付した明細書及び図面に開示されているテンプレートとリテーナリングとを一体化した形のリテーナリング一体化テンプレート10が設けられている。
【0026】
該リテーナリング一体化テンプレート10は、中央部にウェハWの外径とほぼ同径の嵌合用凹部11が形成された円環状のテンプレート本体10aと、該テンプレート本体10a上に順に積層されたそれぞれ円形の緩衝材12及び弾性基材13とで構成されている。テンプレート本体10aは、機械的強度の優れたガラスエポキシ等のプラスチックで作製されている。天井面が緩衝材12と弾性基材13との積層体で形成された嵌合用凹部11の深さは、該嵌合用凹部11にウェハWを嵌合させたとき、リテーナリング一体化テンプレート10の下面とウェハWの下面とが面一になるように形成されている。嵌合用凹部11の天井面における緩衝材12と弾性基材13の積層体部分には、後述するキャリア8下面の複数個の吸着溝の形成態様に対応した複数位置に吸着孔14が開穿されている。
【0027】
リテーナリング一体化テンプレート10における外周部のリテーナリング相当領域10bには両面テープ等により環状のリテーナリングホルダ15が固着され、該環状のリテーナリングホルダ15は同様に環状のスナップリング16等を介して研磨ヘッド3に設けられたリテーナリング押圧部材17に連結されている。リテーナリング相当領域10bは、リテーナリングホルダ15及びリテーナリング押圧部材17等を介して図示しないリテーナリング押圧手段からの押圧力が伝達されて研磨パッド6に押し付けられる。
【0028】
前記キャリア8下方のエア室9は、該キャリア8の下面8aと、リテーナリング一体化テンプレート10上面部の弾性基材13と、キャリア8の下面8aに該下面の周縁に沿って環状に凸設されたエアシール8bとで囲まれた空間領域により形成されている。
【0029】
前記キャリア8の下面8aには、中心部から放射状に真空吸着用の複数個の吸着溝18が形成され、該複数個の吸着溝18内のキャリア下面8a部には、図示しないバキュームラインに通じるバキューム孔19が適宜間隔をおいて複数個形成されている。該複数個のバキューム孔19は前記複数個の吸着溝18内以外のキャリア下面8a部に形成して該複数個の吸着溝18に適宜に通じるようにしてもよい。
【0030】
また、前記複数個のバキューム孔19の形成に加えて、吸着溝18内等のキャリア下面8a部の適宜の部位には、図示しないエアフロートラインに通じる複数個のエア噴出孔が形成されている。なお、前記複数個のバキューム孔19をバルブ等により前記バキュームラインとエアフロートラインに切換え接続して、複数個のバキューム孔19をエア噴出孔に兼用させるとともに複数個の吸着溝18をエア溝に兼用させてもよい。キャリア下面8aの真空吸着部もしくはエア噴出部を溝状に形成することで吸着対象もしくは加圧対象の均一吸引もしくは均一加圧が可能となる。バキュームラインからのバキューム作用及びエアフロートラインからの圧縮エアの供給等は図示しない制御部からの指令信号によって行われる。
【0031】
前記環状のリテーナリングホルダ15には、適宜の目印等によりスナップリング16を介して前記キャリア8と所定の位置関係を以って取り付けられたとき、該キャリア8の下面8aに形成された吸着溝18と一定の位置関係を持つ第1の位置合わせ用指標としての第1の位置合わせ用孔20が形成されている。これに対応してリテーナリング一体化テンプレート10におけるリテーナリング相当領域10bには嵌合用凹部11の天井部に開穿された吸着孔14の位置に関連する第2の位置合わせ用指標としての第2の位置合わせ用孔21が形成されている。
【0032】
前述のリテーナリング一体化テンプレート10における外周部のリテーナリング相当領域10bに、両面テープ等により環状のリテーナリングホルダ15を固着する際にリテーナリングホルダ15上の第1の位置合わせ用孔20とリテーナリング一体化テンプレート10上の第2の位置合わせ用孔21とを位置合わせすることで、キャリア8の下面8aに形成された吸着溝18の位置とリテーナリング一体化テンプレート10における嵌合用凹部11の天井部に開穿された吸着孔14の位置とが合って、自動搬送等の際の研磨ヘッド3へのウェハWの真空吸着が安定化する。
【0033】
次に、上述のように構成されたテンプレート押圧ウェハ研磨方式の作用を、図3の(a)〜(f)を用いて説明する。図3(a)に示すように、リテーナリング一体化テンプレート10における嵌合用凹部11に嵌合されているウェハWには、研磨時にその外周部を含めた全面に該リテーナリング一体化テンプレート10上のエア室9に形成される圧力エア層等からの押圧力が均一にかかる。またウェハWの外周部が直接リテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作がなく、さらにはテンプレートの外側面がリテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作がないことから、これらの動作が生じるときのウェハWに発生する応力、即ちウェハWに作用する変形力は全く生じない。この結果、研磨時におけるウェハWの変形、特に外周部の変形が抑制され、研磨後のウェハWに過剰研磨等の欠陥が発生しない。そして、上記のようにウェハWを嵌合させる嵌合用凹部11は、研磨ヘッド3側に固定されたリテーナリング一体化テンプレート10の中央部に形成されていることで、自動搬送によるウェハWの受け渡しが可能となって、ウェハWの自動搬送の構築が可能となる。
【0034】
これに対し、図3(d)に示すように、先願に係る技術においては、ウェハWを嵌合する嵌合用凹部が形成されたテンプレート22は、リテーナリング23とは別体の部材として構成されて二重構造となっていたためウェハWの自動搬送の構築は難しい。
【0035】
リテーナリング一体化テンプレート10は、外周部のリテーナリング相当領域10bの部分に両面テープ等により環状のリテーナリングホルダ15が固着されている。この固着の際に、図3(b)に示すように、リテーナリングホルダ15上の第1の位置合わせ用孔20とリテーナリング一体化テンプレート10上の第2の位置合わせ用孔21とを位置合わせすることで、キャリア8の下面8aに形成された吸着溝18の位置とリテーナリング一体化テンプレート10における嵌合用凹部11の天井部に開穿された吸着孔14の位置とが合って、自動搬送等の際の研磨ヘッド3へのウェハWの真空吸着を安定化させることが可能となる。また、研磨ヘッド3へのウェハWの真空吸着の際、キャリア下面8aのエアシール8bがリテーナリング一体化テンプレート10における弾性基材13に密接して真空シールされる。
【0036】
これに対し、図3(e)に示すように、先願に係る技術においては、バキューム孔19に通じるキャリア8下面の吸着溝18と弾性シート24の吸着用孔25との間には、何らの位置合わせ手段も講じられていなかったため、吸着溝18と吸着用孔25とが合っていないと搬送時等における研磨ヘッド側へのウェハWの真空吸着が不安定になる虞がある。
【0037】
リテーナリング一体化テンプレート10は、図3(c)に示すように、その外周部のリテーナリング相当領域10bの部分に両面テープ等によりリテーナリングホルダ15が固着されている。そして、リテーナリング一体化テンプレート10は、このリテーナリングホルダ15が固着された状態でスナップリング16の嵌脱により研磨ヘッド3に対し取付け、取外しが可能となっている。したがって、嵌合用凹部の内径、嵌合深さ等を可能な範囲で変えた複数個のリテーナリング一体化テンプレート10に、それぞれリテーナリングホルダ15を固着したものを予め準備しておくことで、リテーナリング一体化テンプレート10は径、厚み等のサイズ違いのウェハWにも対応可能となって、これらのウェハWも確実に研磨することが可能となる。また、使用済みのリテーナリング一体化テンプレート10から両面テープ等の部分でリテーナリングホルダ15を剥がすことで該リテーナリングホルダ15のみは再利用することが可能である。
【0038】
この点では、図3(f)に示すように、先願に係る技術においても、嵌合用凹部の内径、嵌合深さ等を可能な範囲で変えた複数個のテンプレート22を予め準備しておくことで、サイズ違いのウェハWにも対応可能である。
【0039】
上述したように、本実施例に係るテンプレート押圧ウェハ研磨方式においては、リテーナリング一体化テンプレート10における嵌合用凹部11に嵌合されているウェハWには、研磨時にその外周部を含めた全面に圧力エア層等からの押圧力が均一にかかって外周部を含むウェハWの全面を均一に加圧することができる。またウェハWの外周部が直接リテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作及びテンプレートの外側面がリテーナリングの内周面に衝突するように接触するという動作がないことから、これらの動作が生じるときのウェハWに作用する変形力は全く生じない。このため研磨時におけるウェハWの変形、特に外周部の変形が抑制されて、ウェハWの過剰研磨等の欠陥発生を防止することができる。
【0040】
ウェハWを嵌合させる嵌合用凹部11が形成されているリテーナリング一体化テンプレート10は研磨ヘッド3側に固定されていることでウェハWの自動搬送の構築が可能になる。
【0041】
リテーナリング一体化テンプレート10は、外周部のリテーナリング相当領域10bにリテーナリングホルダ15が固着され、このリテーナリングホルダ15が固着された状態でスナップリング16の嵌脱により研磨ヘッド3に対し取付け、取外しが可能となっている。したがって、嵌合用凹部11の内径、嵌合深さ等を変えた複数個のリテーナリング一体化テンプレート10に、それぞれリテーナリングホルダ15を固着したものを予め準備しておくことで、径、厚み等のサイズ違いのウェハWにも対応可能となって、これらのウェハWも容易・確実に研磨することができる。
【0042】
リテーナリング一体化テンプレート10における外周部のリテーナリング相当領域10bにリテーナリングホルダ15を両面テープ等を用いて固着する際に、リテーナリングホルダ15上の第1の位置合わせ用孔20とリテーナリング一体化テンプレート10上の第2の位置合わせ用孔21とを位置合わせすることで、キャリア8の下面部に形成された吸着溝18の位置とリテーナリング一体化テンプレート10に開穿された吸着孔14の位置とを合わせることができて、自動搬送等の際の研磨ヘッド3へのウェハWの真空吸着を安定化させることができる。
【0043】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
研磨時に外周部を含むウェハ等の全面を均一に加圧して該ウェハ等の特に外周部の変形を抑制し、この変形によるウェハ等の過剰研磨等の欠陥発生を防止し、リテーナリング一体型のテンプレートとしてウェハ等の自動搬送の構築を可能とし、該自動搬送等の際の研磨ヘッドへのウェハ等の真空吸着を安定化させ、さらには径、厚み等のサイズ違いのウェハ等も容易・確実に研磨可能とすることが不可欠な半導体ウェハ以外のプレートの研磨装置にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 ウェハ研磨装置
2 プラテン
3 研磨ヘッド
4 回転軸
5 モータ
6 研磨パッド
7 回転軸
8 キャリア
8a キャリアの下面
8b エアシール
9 エア室
10 リテーナリング一体化テンプレート
10a テンプレート本体
10b リテーナリング相当領域
11 嵌合用凹部
12 緩衝材
13 弾性基材
14 吸着孔
15 リテーナリングホルダ
16 スナップリング
17 リテーナリング押圧部材
18 吸着溝
19 バキューム孔
20 第1の位置合わせ用孔(第1の位置合わせ用指標)
21 第2の位置合わせ用孔(第2の位置合わせ用指標)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面部にウェハを嵌合させる嵌合用凹部が形成されたテンプレートと研磨ヘッド側に取り付けられて前記テンプレートの周囲を包囲する円環状のリテーナリングとを一体化したリテーナリング一体化テンプレートを備え、該リテーナリング一体化テンプレートにおける嵌合用凹部に前記ウェハを嵌合させ、該リテーナリング一体化テンプレートを介して該ウェハをプラテン上の研磨パッドに押し付けるとともに前記研磨ヘッドを前記プラテンに対し相対回転させて前記ウェハを研磨することを特徴とするテンプレート押圧ウェハ研磨方式。
【請求項2】
上記リテーナリング一体化テンプレートにおける外周部のリテーナリング相当領域にリテーナリングホルダが固着され、前記リテーナリング一体化テンプレートは前記リテーナリングホルダを介して上記研磨ヘッド側に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載のテンプレート押圧ウェハ研磨方式。
【請求項3】
上記リテーナリング一体化テンプレートにおける外周部のリテーナリング相当領域に上記リテーナリングホルダを固着する際には、上記研磨ヘッドにおけるキャリアの下面部に形成された真空吸着溝と一定の位置関係にある上記リテーナリングホルダ上の第1の位置合わせ用指標と、上記リテーナリング一体化テンプレートにおける嵌合用凹部の天井部に開穿された吸着孔の位置に関連する該リテーナリング一体化テンプレート上の第2の位置合わせ用指標とを位置合わせするように構成したことを特徴とする請求項2記載のテンプレート押圧ウェハ研磨方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94918(P2013−94918A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241513(P2011−241513)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】