説明

テーラードブランク材の品質管理方法及び品質管理システム

【課題】 分業化された後も、製品品質情報などとの連携をとることを狙ったもので、生産者・需要家間の連携をとることにより、テーラードブランク材の一貫した品質管理が確立することができるテーラードブランク材の品質管理方法及び品質管理システムを提供する。
【解決手段】 鋼板を溶接加工してテーラードブランク材として需要家に出荷する過程で、溶接加工完了時に前記テーラードブランク材の素材情報及び溶接加工情報を関連付けた識別記号を生成する識別記号生成ステップと、生成した識別記号をレーザマーキング手段によって前記テーラードブランク材に不揮発状態で記録する識別記号記録ステップと、需要家でのプレス加工・製造工程を経た後の前記テーラードブランク材の不具合発生時に、当該テーラードブランク材に記録された前記識別記号に基づき、溶接加工からプレス加工・製造工程に至るまでの不具合原因を究明する不具合究明ステップとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を溶接して形成したテーラードブランク材の品質管理方法及び品質管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車ボデーの生産は自動車メーカーで内作されていたものが多いが、合理化、生産効率を上げていく中で、例えば自動車ボデーの内装部分の部品は、外注されつつある。
例えばドアパネルの外装部品は塗装後自動車の外観を決める最終製品的な部分もあって、外注ではなく内作されるが、ドアパネルの内装側部品は、外注化されるなど分業の形が徐々に拡大しつつある。
【0003】
その例としてテーラードブランク(Tailored blank)材がある。
このテーラードブランク材利用技術は,開発当初は,使用材料の歩留改善を目的として使用される場合もあったが,少ないプレス金型で,材料を最適に配置した部品の製造が可能となるため,自動車の高性能化,軽量化に欠かせない生産技術となっており、テーラードブランク材の成形性,外観などの観点から.溶接方法としてはレーザ溶接が主に用いられている。
【0004】
テーラードブランクとは板材を溶接した後にプレス成形を行うもので、特許文献1〜2に示すように、テーラードブランクのレーザ溶接技術の提案が開示されている。したがって外注先ではこれらレーザ溶接技術に従って溶接製品であるテーラードブランク材を製造することが行われる。
一方、自動車側の管理においては、特許文献3に示されるように、部品を生産しその部品を組み立てて製品とする生産設備を、品質基準を満たす製品が生産されていくまで支援する管理などを活用している。
なお、レーザマーキング技術としては、特許文献5,6に示す技術がある。
【特許文献1】特開平8-174246号公報
【特許文献2】特開2003-164989号公報
【特許文献3】特許第3284760号公報
【特許文献4】特開平11-216590号公報
【特許文献5】特許第3526935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1〜2にかかわる製造形態では、品質は生産者(外注先)に任せ(生産者で保証)、プレス工程以降の残りの製造工程を自動車メーカー側で製作管理という形態をとることになる。このいわゆる分業体制では、生産者は指定された部品を指定の製造法で品質管理を行うこととなり、特許文献3で言うところの管理体制から外されてしまうことになるという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、分業化された後も、製品品質情報などとの連携をとることを狙ったもので、生産者・需要家間の連携をとることにより、テーラードブランク材の一貫した品質管理が確立することができるテーラードブランク材の品質管理方法及び品質管理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は上記目的を達成するために、請求項1に係るテーラードブランク材の品質管理方法は、鋼板を溶接加工してテーラードブランク材として需要家に出荷する過程で、溶接加工完了時に前記テーラードブランク材の素材情報及び溶接加工情報を関連付ける識別記号を生成する識別記号生成ステップと、生成した識別記号をレーザマーキング手段によって前記テーラードブランク材に不揮発状態で記録する識別記号記録ステップと、前記識別記号を前記素材情報及び溶接加工情報と関連付けて格納する情報格納ステップと、需要家でのプレス加工・製造工程を経た後の前記テーラードブランク材の不具合発生時に、当該テーラードブランク材に記録された前記識別記号に基づき、溶接加工からプレス加工・製造工程に至るまでの不具合原因を究明する不具合究明ステップとを備えていることを特徴としている。
これにより、製作した溶接製品の需要家側での不具合を連携がなされた情報の中で管理することができる。
【0007】
また、請求項2に係るテーラードブランク品質管理方法は、請求項1に係る発明において、前記識別記号記録ステップは、前記レーザマーキングによって、テーラードブランク材を構成する被溶接用鋼板の表面に施されためっき、表面処理等の表面処理層へ許容される深さで識別記号を目視可能な状態で記録することを特徴としている。
これにより、溶接製品として表面処理を施された鋼板を使用しても、表面処理層にダメージを与えることなく識別ができ、かつ、溶接製品はプレス加工されるが、プレス加工に先立ち洗浄工程を経るが、この工程後も当該識別は残存して、不具合発生時、この不具合が、溶接製品の素材によるものなのか、溶接条件によるものなのか、あるいはプレス条件によるものなのか、識別記号を手がかりに、製作した溶接製品の需要家側での不具合を連携がなされた情報の中で管理することができる。
【0008】
さらに、請求項3に係るテーラードブランク材の品質管理方法は、請求項1に係る発明において、前記識別記号記録ステップは、前記テーラードブランク材のプレス加工、塗装処理後も確認できるマーキング深さで識別記号を当該テーラードブランク材表面に施すことを特徴としている。
このマーキング形態をとることにより、前記識別記号を手がかりに、製作した溶接製品の需要家側での不具合を連携がなされた情報の中で管理することができる他、組み立てた後も、この識別記号は確認できるものとなって、品質保証の一環を担うことができる。
【0009】
さらにまた、請求項4に係るテーラードブランク材の品質管理方法は、請求項1乃至3の何れか1つの発明において、前記情報格納ステップは、テーラードブランク材に記録される前記素材情報及び溶接加工情報に、溶接ビード形状情報、ピンホールセンサー情報等による溶接結果情報を含めて識別記号に関連付けして記憶手段に格納するように構成されていることを特徴としている。
これによれば、テーラードブランク材の素材情報及び溶接加工情報と、溶接結果情報とを識別記号に関連付けして記憶手段に格納することにより、識別記号をもとにこれに関連する情報を直ちに検索することができる。
【0010】
なおさらに、請求項5に係るテーラードブランク材の品質管理方法は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、前記テーラードブランク材と、需要家での製造・加工過程の情報とを関連付け、当該需要家での製造・加工過程の情報に基づきテーラードブランク材の溶接条件を最適化させるステップ有することを特徴としている。
ここでは、製造・加工過程の情報をもとに最適溶接条件を求めるなどの改良を行うことができるようになる。
【0011】
また、請求項6に係るテーラードブランク材の品質管理方法は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、溶接ビード形状情報、ピンホールセンサー情報等の溶接結果情報に基づいて前記テーラードブランク材のランク分けを行い、ランク分けされたテーラードクランク材毎に溶接結果情報に基づいて需要家での製造・加工条件を変更するステップを有することを特徴としている。
これによれば、溶接製品の溶接結果から不具合のでない需要家での製造・加工条件を提言できることになる。
【0012】
さらに、請求項7に係るテーラードブランク材の品質管理方法は、請求項6に係る発明において、溶接ビード形状情報、ピンホールセンサー情報等の溶接結果情報からランク分けを行うに当たり、欠陥が殆ど無い場合の過剰判定基準を基に判別するようにし、前記需要家での製造・加工過程のテーラードブランク材判定情報に基づき、前記過剰判定基準を修正することを特徴としている。
これによれば、テーラードブランク材の溶接結果から、需要家での製造・加工条件に適する溶接適否判定基準を作成することできるようになる。
【0013】
さらにまた、請求項8に係るテーラードブランク材の品質管理システムは、鋼板を溶接加工してテーラードブランク材として需要家に出荷する際、溶接加工完了時に前記テーラードブランク材の素材情報、溶接加工情報及び溶接結果情報と識別記号とを関連付けて記憶する情報格納手段と、前記溶接加工情報から前記テーラードブランク材のランクを分類する分類手段と、前記識別記号をレーザマーキング手段により前記テーラードブランク材板面に記録する識別記号加工手段と、需要家における製造・加工情報を前記識別記号に従って収集する情報収集手段と、前記需要家における製造・加工情報と前記識別記号を対比させ溶接条件情報及び素材情報の適正状態を判定するテーラードブランク材の品質判定手段とを備えたことを特徴としている。
【0014】
なおさらに、請求項9に係るテーラードブランク材の品質管理システムは、請求項8に係る発明において、前記分類手段は、溶接ビード形状情報、ピンホールセンサ情報に基づく、欠陥が殆ど無い過剰判定基準を基にテーラードブランク材の判定を行い、前記需要家での製造・加工過程のテーラードブランク材判定情報に基づき、前記過剰判定基準を修正し、テーラードブランク材の判定基準を決定・訂正する判定基準補正手段を備えたことを特徴としている。
【0015】
また、請求項10に係るテーラードブランク材の品質管理システムは、請求項8に係る発明において、前記溶接加工情報から被溶接製品のランクを分類する分類手段によって区別された鉄鋼の溶接製品に応じて、需要家における製造・加工条件の変更を提示する提示手段を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一貫した溶接製品の品質管理を行うことができると共に、需要家における開発担当としての役割を担うことができるようになる。
また、本発明によれば、熱延鋼板、冷延鋼板あるいは表面処理鋼板などを用いたテーラードブランク材の識別記号記録手段としてレーザマーキングによる識別を施し、テーラードブランク材の品質管理データとして素材情報及び溶接に関する加工情報などテーラードブランク材製造迄の履歴を記憶手段に格納した上、当該テーラードブランク材が需要家での製造・加工(プレス)情報を経た際の不具合(欠陥発生)との追跡・照会を可能として原因究明を実現することができる。
【0017】
また、溶接関連情報に基づき、該当溶接製品の需要家での製造・加工に際し、製造・加工条件などの変更指示も可能となる他、需要家での製造・加工情報に基づき、当該テーラードブランク材の溶接条件などの改良を図ることができなど、テーラードブランク材の需要家を含む最終加工までの一連の製品品質管理も実現される。また、識別記号をもとにテーラードブランク材の情報が収集できるため、需要家での製造・加工に対する素材・溶接設計の提案も実現できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態を示すテーラードブランク材を生産する生産ラインを示す概略構成図であって、テーラードブランク材の一部である薄板素材1を供給する薄板素材テーブル2と、テーサードブランク材の残りとなる厚板素材3を供給する厚板素材テーブル4とがレーザ溶接装置5の左右両側に所定距離を保って配設されている。薄板素材テーブル2及び厚板素材テーブル4上に載置された薄板素材1及び厚板素材3は搬送ロボット6及び7によってレーザ溶接装置3上に両者の溶接部を突き合わせた状態で載置される。
そして、レーザ溶接装置5のレーザ溶接機5dで薄板素材1及び厚板素材3が溶接されてテーラードブランク材8が形成される。
【0019】
レーザ溶接装置5は、図2にその一例を示すように、駆動ローラ5a及び従動ローラ5b間に張設された搬送ベルト5c上に所定の載置位置で、薄板素材1及び厚板素材3が互いの溶接位置を突き合わせて載置される。この搬送ベルト5cの載置位置より後方側に上方から対向するレーザ溶接機5dが配設されている。このレーザ溶接機5dの近傍に溶接加工情報採取装置5Aが配設されている。この溶接加工情報採取装置5Aは、レーザ溶接機5dの搬送ベルト5cを挟んで下側位置に配設されたレーザ溶接時の裏面側の溶接プラズマを検出するプラズマセンサ5eと、レーザ溶接機5dの後方側に配設されたレーザ溶接機5dで薄板素材1及び厚板素材3を溶接した形成されたテーラードブランク材の表溶接ビード形状を検出する表溶接ビード形状センサ5fと、この表溶接ビード形状センサ5fの後方側に配設されたテーラードブランク材8の溶接位置に発生するピンポールを検出するピンホールセンサ5gとから構成されている。
【0020】
ここで、プラズマセンサ5eで検出した裏面の溶接プラズマ量に基づいてテーラードブランク材8の溶接部における溶け込み不良及び溶接位置不良(オフシーム)の溶接欠陥を検出することができ、表溶接ビード形状センサ5fによって溶接ビードの凹凸欠陥を検出することができ、ピンホールセンサ5gによって、テーラードブランク材8の溶接部に発生するピンホール欠陥を検出することができる。すなわち、溶接加工情報採取装置5Aによる欠陥情報を含む溶接結果情報を入力可能としている。
【0021】
そして、さらに必要に応じ、出荷時の荷姿を整えることができるように、搬送ベルト5cの駆動ローラ5aより後方側の一方の側部に所定間隔を保ってエンボス加工設備9が配設され、レーザ溶接装置5の搬送ベルト5cで搬送されたテーラードブランク材8が搬送ロボット10によってエンボス加工設備9に搬送され、このエンボス加工設備9でエンボス加工されたテーラードブランク材8が搬送ロボット10によって加工済みテーラードブランク材8を載置する載置テーブル11上に搬送され、この載置テーブル11上に載置されたテーラードブランク材8が搬送ロボット12によって製品パレットP上に載置されて出荷される。
【0022】
一方、レーザ溶接装置5における溶接加工情報採取装置5Aの後方側には、このレーザ溶接装置5で形成されたテーラードブランク材8に識別可能な固有の識別記号を記録する識別記号加工手段としてのレーザマーキング装置21が配設されている。
このレーザマーキング装置21の一例を示すと、レーザマーキング装置21は、例えば特開平11−216590号公報に記載されているように、レーザ発振器から出力されたレーザ光が光ファイバの一端に入射され、この光ファイバの他端から出射されるレーザ光をテーラードブランク材8上で走査させる反射ミラーと、この反射ミラーによって走査されるレーザ光を集光するfθレンズと、光ファイバの出射側に設けられた光ファイバから出射されるレーザ光のビーム断面の周辺部分がテーラードブランク材8に照射するのを阻止し、中心部分だけをテーラードブランク材8に照射させる板状部材とを備えており、テーラードブランク材8に識別可能な固有の識別記号を記録(マーキング)する。
【0023】
ここで、レーザマーキング装置21は、テーラードブランク材8に対する識別記号の記録を、電気めっき鋼板、表面処理鋼板に対しては、鋼板表面に施されためっき、表面処理膜(層)の性能に影響を与えないように、めっき層、表面処理層の表面に施す。すなわち、めっき、表面処理等の表面処理層の表面に、需要家から許容される深さで識別記号のレーザマーキングを施し、めっき層、表面処理層の性能を確保するか、又は需要家から要求された表面処理性能とレーザマーキングで加工される深さを考慮して表面処理層厚を決定して製造した鋼板を用い、この鋼板に識別記号のレーザマーキングを施す。さらには、めっき層、表面処理層に製造時生じるうねり量の範囲内の深さでレーザマーキングを施す。
【0024】
これにより、めっきや表面処理を施された鋼板にレーザマーキングを施しても、表面処理層にダメージを与えることなく、表面処理性能にも影響を与えずレーザマーキング識別を可能にすることができる。
そして、テーラードブランク材8は後述するように需要家においてプレス加工される際、プレス加工に先立ち洗浄工程を経るが、この工程後も当該識別は残存して、識別記号を手がかりに、製作したテーラードブランク材8の需要家側での不具合を連携がなされた情報の中で管理することができるようになる。
【0025】
また、レーザマーキングであれば、自動車用テーラードブランク材の薄板素材1及び厚板素材3には、防錆油塗布が行われるが、防錆油塗布鋼板であっても、マーキングが可能である。また、熱延鋼板、冷延鋼板を使用する場合には、レーザマーキング深さにめっき、表面処理の層を考慮する必要がないためマーキングは容易であるが、品質保証を考慮したとき、レーザマーキングによる識別は、プレス加工、塗装処理後も確認できるマーキング深さでテーラードブランク材8の表面にレーザマーキングによる識別記号の加工を施す。このようにマーキング深さを自由に選定できる点でもレーザマーキングによる識別は容易であり、かつ有用である点から好ましい。
【0026】
このレーザマーキングは、プレス加工後も、さらに塗装処理後も識別記号が視認可能であるため、プレス加工のみならずプレス加工後組み立てられて自動車となった完成品後の異常も識別記号から異常追及も実現できることになる。
因みに、識別記号付与に従来のインクジェット方式を用いた場合には、前述した防錆油塗布鋼板に識別記号を印字すると、ニジミが発生すると共に、プレス加工前の洗浄工程での洗浄でプレス完了まで正確な識別状態(判読可能な印字状態)を維持できない。また、インクジェットによる設備への汚れ、詰まり等設備メンテナンスの問題が発生する。これに対して、レーザマーキング方式では、表面処理層あるいは鋼板に直接、識別記号を加工できるため、前記防錆油塗布鋼板であっても、明瞭な識別加工を行うことができ、洗浄工程を経てプレス加工後も目視できる識別となる。
【0027】
すなわち、テーラードブランク材8は後述するように需要家でプレス加工されるが、このプレス加工に先立ち洗浄工程を経る。レーザマーキングによる識別記号によれば、この工程後も当該識別記号は残存して、プレス加工時の不具合発生時、この不具合が、テーラードブランク材8の素材によるものなのか、溶接条件によるものなのか、あるいはプレス条件によるものなのかを、プレス加工したテーラードブランク材に記録されている識別記号を手がかりに、解明することが可能となる。これにより、単にテーラードブランク材を製造・供給する形から、製造したテーラードブランク材の需要家側での不具合発生などを識別記号で連携がなされた情報の中で共有してテーラードブランク材の品質管理をすることが可能となる。
【0028】
そして、各搬送ロボット6,7,10,12は、図3に示すように、プログラマブルコントローラ等の制御装置13Aによってシーケンス制御される。
一方、制御装置13Aでは、搬送ロボット6,7,10及び12の作動を制御し、制御装置13Bでは、搬送ベルト5cを駆動する駆動ローラ5aと、レーザ溶接機5dと、プラズマセンサ5e、表溶接ビード形状センサ5f及びピンホールセンサ5gを制御し、テーラードブランク材8毎に設定されたレーザ溶接機5cの溶接データと、溶接速度(駆動ローラ5aの速度)と、プラズマセンサ5e、表溶接ビード形状センサ5f及びピンホールセンサ5gで検出された溶接プラズマ量データ、溶接ビード形状データ、及びピンホール検出データが図3に示すように情報処理端末14に入力される。これら制御装置13A及び13Bと情報処理端末14は、これらの統括制御を司る中央情報処理装置13に接続されている。
【0029】
情報処理端末14は、中央情報処理装置13を通じてローカルエリアネットワーク等のネットワーク15を介して品質管理システムサーバ16に接続されており、この品質管理システムサーバ16に品質管理データベース17が構築されている。なお、レーザマーキング装置21は、中央情報処理装置13あるいは情報処理端末14からテーラードブランク材8が形成される毎に生成される識別記号をテーラードブランク材表面に記録する。
【0030】
一方、品質管理システムサーバ16には、後述するテーラードブランク材を購入して加工する需要家に配設された情報処理端末18及び19とインターネットや公衆データ回線網等のネットワーク20を介して接続されている。
そして、情報処理端末14は、テーラードブランク材8が形成される毎に、識別可能な文字、数字等で構成される固有の識別記号を生成し、生成した識別記号を薄板素材1及び厚板素材3の品種(熱間圧延鋼板、冷間圧延鋼板、表面処理鋼板等)、板厚、材質を現す素材情報と、レーザ溶接装置3で薄板素材1及び厚板素材3を溶接する際のレーザ溶接条件、溶接品質データ等の溶接関連情報と関連付けて品質管理データベース17に登録すると共に、プラズマセンサ5e、表溶接ビード形状センサ5f及びピンホールセンサ5gで検出された溶接プラズマ量データ、溶接ビード形状データ、及びピンホール検出データでなる溶接結果情報に基づいて完成したテーラードブランク材8のランク判定を行い、その判定結果を識別記号と関連付けして品質管理データベース17に登録するデータ登録処理を行い、さらに後述する需要家でのプレス加工後の欠陥情報に基づいて溶接条件や素材条件を変更する加工条件変更処理を行う。なお、テーラードブランク材8が形成される毎に、情報処理端末14で、識別記号を生成される他の手段として、テーラードブランク材の素材情報とレーザ溶接データ、溶接結果情報を収集する都度品質管理データベース側で識別情報を生成するようにしてもよい。
【0031】
ここで、データ登録処理は、図4に示すように、先ず、ステップS1でレーザ溶接装置5でテーラードブランク材8の溶接が完了したか否かを判定し、テーラードブランク材8の溶接が完了してないときにはこれが完了するまで待機し、テーラードブランク材8の溶接が完了したときには、ステップS2に移行する。なお、ここでの溶接完了か否かは、レーザ溶接機5dの溶接の他、プラズマセンサ5e、表溶接ビード形状センサ5f及びピンホールセンサ5gまでの溶接結果情報を採取するまでの完了とするが、レーザ要請器5dの溶接完了までとすることもできる。
【0032】
このステップS2では、完成したテーラードブランク材8に固有の識別記号を生成し、次いでステップS3に移行して、生成した識別記号をレーザマーキング装置21に出力してからステップS4に移行する。
このステップS4では、製作したテーラードブランク材8の前記素材情報及び溶接関連情報を収集し、次いでステップS5に移行して、プラズマセンサ5e、表溶接ビード形状センサ5f及びピンホールセンサ5gで検出された溶接プラズマ量データ、溶接ビード形状データ、及びピンホール検出データを溶接結果情報として読込み、次いでステップS6に移行して、収集した素材情報、溶接関連情報及び読込んだ溶接結果情報と、生成した識別記号とを関連付けしてネットワークを介して品質管理データベース17に登録する。
【0033】
次いで、ステップS7に移行して、読込んだ溶接結果情報に基づいて、制作したテーラードブランク材8が、溶接プラズマ量データが溶け込み不良や溶接位置不良が無いことを表し、溶接ビード形状データが、ビード形状が良好であることを表し、ピンホール検出データがピンホールが無いことを表す正常なA合格品であるか否かを判定し、テーラードブランク材8がA合格品であるときにはステップS8に移行して、品質管理データベース17の該当する識別記号のランク記憶領域にA合格品を登録してから前記ステップS1に戻り、テーラードブランク材8がA合格品ではないときにはステップS9に移行する。
【0034】
このステップS9では、溶接プラズマ量データ、ピンホール検出データ及び溶接ビード形状データに基づいて、溶接プラズマ量及びピンホール検出数が所定値以内で且つ溶接ビード形状が所定形状範囲内であるB合格品であるか否かを判定し、テーラードブランク材8がB合格品であるときには、ステップS10に移行して、品質管理データベース17の該当する識別記号のランク記憶領域にB合格品を登録してから前記ステップS1に戻り、テーラードブランク材8がB合格品ではないときには、ステップS11に移行する。
【0035】
このステップS11では、プラズマ量データ,ピンホール検出数及び溶接ビード形状データに基づいて、例えば溶け込み不良及び溶接位置不良が存在しないC合格品であるか否かを判定し、C合格品であるときにはステップS12に移行して、品質管理データベース17の該当する識別記号のランク記憶領域にC合格品を登録してからステップS1に戻り、テーラードブランク材8がC合格品ではないときには不良品であると判断してステップS12に移行して、品質管理データベース17の該当する識別記号のランク記憶領域に不良品を登録してからステップS1に戻る。
【0036】
この図4の処理において、ステップS2、S4〜S6の処理が情報格納手段に対応し、ステップS7〜S13の処理が分類手段に対応している。
また、情報処理端末14では、品質管理データベース17のランク記憶領域に記憶されている合格品ランクに基づいて出荷可能であるか否かを判定する。この出荷判定は、A合格品についてはそのまま出荷処理を行うが、それ以外の合格品についてはアラーム材として出荷ライン上から排出し、溶接加工データの照合、目視検査、テストなどを行って、出荷可能なテーラードブランク材であるか否かの判定を行い、この判定結果が出荷可能であるときには「判定出荷可能」テーラードブランク材として、一纏めにして梱包ラインに回し、需要家に送り出し、出荷不能なテーラードブランク材は、廃棄処分とする。
【0037】
ここで、上述したランク判定を行う場合に、新たな仕様のテーラードブランク材8を製造する場合には、図5に示す判定基準設定処理を実行する。この判定基準設定処理は、先ず、ステップS15で、3つの溶接欠陥データに基づいて欠陥の無いテーラードブランク材をA合格品として設定し、次いでステップS16に移行して、B合格品の初期判定基準としてこのA合格品に近い溶接プラズマ量、ピンホール検出数、溶接ビード形状などの溶接結果情報から設定する。例えば、溶接結果情報の内ピンホール数を少ない初期設定値に設定し、次いでステップS17に移行して、需要家で後述するようにプレス割れによる欠陥情報が登録されたか否かを判定し、欠陥情報が登録されたときには処理を終了し、欠陥情報が登録されないときには、ステップS18に移行して、所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過していないときにはこれが経過するまで待機し、所定時間が経過したときには、ステップS19に移行して、現在のB合格品の判定基準として設定されているピンホール数を予め設定した所定数だけ増加させた値を新たな判定基準値として設定し、次いでステップS20に移行して判定基準値が予め設定した最低判定基準値に達したか否かを判定し、最低判定基準値に達していないときには前記ステップS15に戻り、最低判定基準値に達したときには処理を終了する。なお、前記所定時間経過とは、B合格品のプレス加工完了予定期間等をさす。また、本例ではピンホールを例にとったが、溶接プラズマ量、溶接ビード形状も前記ステップにより判定基準設定処理を順次行ったり、さらには溶接プラズマ量、ピンホール検出数及び溶接ビード形状を同時に収集して判定基準設定処理を行ったり、また、新たに溶接欠陥検出センサが開発された場合、その情報を取込んだりしてもよい。
【0038】
この図5の処理が判定基準値補正手段に対応している。
また、情報処理端末14では、図6に示す溶接条件変更処理を実行する。この溶接条件変更処理は、先ず、ステップS21で後述するように、需要家の情報処理端末18,19からプレス加工情報及びプレス割れや組み付け作業時に発生する欠陥情報が品質管理データベース17に登録されたか否かを判定し、欠陥情報が登録されていないときには欠陥情報が登録されるまで待機し、結果情報が登録されたときには、ステップS22に移行して、欠陥情報に関連付けされている識別記号を抽出し、次いでステップS23に移行して、抽出した識別記号に基づいて品質管理データベース17をアクセスして、識別記号に関連する素材情報、溶接加工情報及び溶接結果情報を読出し、次いでステップS24に移行して、素材情報、溶接加工情報及び溶接結果情報とプレス加工情報及び欠陥情報とに基づいて、欠陥発生原因を解析し、次いでステップS25に移行して、欠陥発生原因解析結果に基づいてプレス割れを抑制するための素材情報の変更や溶接加工条件の変更を行う条件変更処理を行ってから前記ステップS21に戻る。なお、素材情報の変更や溶接加工条件変更に加え、プレス加工条件を加え、プレスと塗油増量、プレス加工速度の増減などのプレス加工条件の変更を含めて行ってもよい。
【0039】
この図6の溶接条件変更処理がテーラードブランク材の品質判定手段に対応している。
また、需要家では、図7に示すように、入荷されるテーラードブランク材8をプレス前洗浄装置31に供給して洗浄液で洗浄するプレス前洗浄処理を行った後、洗浄後のテーラードブランク材8をプレス機32に供給してプレス加工を行うことにより、例えば自動車のドアパネル33に加工し、加工したドアパネル33を自動車の生産ライン34に供給して、自動車ボデーに組み付け、完成した自動車ボデーを塗装装置35に供給して塗装した後、内装品を装着すると共に、タイヤを装着して自動車を完成させる。
【0040】
このとき、テーラードブランク材8をプレス機32でプレス加工してドアパネル33を加工したときに、完成したドアパネル33のプレス割れの有無を例えば目視検査装置36で検査し、その検査結果に基づいて自動車ボデーに組み付けるか廃棄処理するかを決定する。
そして、需要家に配設された情報処理端末18又は19では、図8に示す加工制御処理を実行する。
【0041】
この加工制御処理は、先ず、ステップS31に移行して、テーラードブランク材8のプレス加工が終了したか否かを判定し、プレス加工が終了していないときにはこれが終了するまで待機し、プレス加工が終了したときにはステップS32に移行して、プレス加工を完了したドアパネル33に記録されている識別記号がキーボード8aによって入力されたか否かを判定し、識別記号が入力されていないときにはこれが入力されるまで待機し、識別記号が入力されたときにはステップS33に移行する。なお、識別記号入力の他、ここでの識別記号の入力とは好ましくは欠陥発生時の欠陥発生テーラードブランク材に記録されている識別記号の入力さす。すなわち、欠陥発生時に該当する識別記号を入力とすることでたりる。入力がない場合、欠陥なしとして処理するかあるいは所定時間の経過を待ってステップS33に移行する。
【0042】
このステップS33では、プレス機32でのプレス加工データを読込み、次いでステップS34に移行して、読込んだプレス加工データを識別記号に関連付けて品質管理データベース17に登録し、次いでステップS35に移行して、目視検査部36の検査結果が入力されたか否かを判定し、これが入力されていないときには検査結果が入力されるまで待機し、検査結果が入力されたときにはステップS36に移行する。こステップS33、S36も欠陥を生じたテーラードブランク材8の識別記号を入力するようにしてもよい。
【0043】
このステップS36では、プレス割れ等の欠陥が目視検査で発見されたか否かを判定し、プレス加工での欠陥が発生していないときにはステップS37に移行して、品質管理データベース17の該当する識別記号に関連付けしてプレス加工が良好であることを表す検査結果を登録してからステップS31に戻り、プレス加工での欠陥が発生しているときにはステップS38に移行して、品質管理データベース17に該当する識別記号に関連付けしてプレス割れ等の欠陥情報を登録する。なお、該欠陥情報の登録蓄積により、テーラードブランク材の素材、溶接加工法、プレス加工による欠陥発生の解析が可能となり、例えばプレス割れ発生し易い場合は、ステップS39に移行して、プレス速度の低下やプレス金型間隙の調整指示、プレス用潤滑剤増量等によってプレス割れの発生を抑制する新たなプレス加工条件を設定し、次いでステップS40に移行して、設定した新たなプレス加工条件をプレス機32の制御部33に出力してからステップS31に戻ることもできる。同様に素材によりプレス割れ発生し易い場合プレス加工条件の設定の他、新たな素材の提示を行うこともできる。溶接加工も同様に割れを生じている溶接加工条件の解析も可能となる。
【0044】
この図7の加工制御処理において、ステップS32〜S38の処理が情報収集手段に対応し、ステップS39及びS40の処理が提示手段に対応している。
次に、上記実施形態の動作を説明する。
テーラードブランク材8を製造する製造ラインでは、先ず、図9に示すように、製造するテーラードブランク材8に対応する薄板鋼板コイル1a及び厚板鋼板コイル3aから所定寸法の薄板素材1及び厚板素材3を順次切り出し、これら薄板素材1及び厚板素材3を夫々薄板素材テーブル4及び厚板素材テーブル5に載置する。
【0045】
この状態で、搬送ロボット6及び7によって薄板素材1及び厚板素材3をレーザ溶接装置5の搬送ベルト5c上の所定位置に互いの溶接位置を突き合わせた状態で載置する。その後、駆動ローラ5aを回転駆動して搬送ベルト5cを搬送させて、薄板素材1及び厚板素材3をレーザ溶接機5dの直下に搬送して、レーザ溶接機5dで予め設定されたレーザ溶接条件でレーザ溶接を行う。このとき、薄板素材1及び厚板素材3の裏側のプラズマ量がプラズマセンサ5eで検出され、検出されたプラズマ量が情報処理端末14に入力される。
【0046】
その後、レーザ溶接装置5による薄板素材1及び厚板素材3の溶接が完了すると、両素材が結合されてテーラードブランク材8が形成される。形成されたテーラードブランク材8は、搬送ベルト5cによって表溶接ビード形状センサ5f位置に搬送されて溶接ビード形状が検出され、検出された溶接ビード形状データが情報処理端末14に入力される。
その後、搬送ベルト5cがさらに搬送されてテーラードブランク材8がピンホールセンサ5g位置に搬送され、このピンホールセンサ5gによってピンホールが検出され、検出されたピンホール検出データが情報処理端末14に入力される。
【0047】
情報処理端末14では、テーラードブランク材8が形成されると、固有の識別記号が生成され、生成された識別記号がレーザマーキング装置21に出力される。このレーザマーキング装置21では、形成されたテーラードブランク材8に入力された識別記号をレーザマーキングによって後のプレス加工後でも視認可能となるように所定深さで記録する。
また、情報処理端末14では、形成したテーラードブランク材8の素材情報及び溶接加工情報を収集し、収集した素材情報及び溶接加工情報を識別記号に関連付けして品質管理データベース17に登録する。
【0048】
さらに情報処理端末14では、プラズマセンサ5e、表溶接ビード形状センサ5f及びピンホールセンサ5gで検出された溶接プラズマ量データ、溶接ビード形状データ、及びピンホール検出データに基づいて完成したテーラードブランク材8のランク判定を行い、欠陥のないA合格品、ピンホール数が所定数以内のB合格品、ピンホール数が所定数を超えるが溶け込み不良や溶接位置不良が生じていないC合格品、これら以外の不良品とにランク分けし、ランク分けした合格品ランクを品質管理データベース17に識別記号に関連付けして登録する。
【0049】
そして、A合格品については例えばテーラードブランク材8を自動車部品として使用する場合には防錆油を塗布してから梱包ラインで梱包して需要家への出荷処理を行い、B合格品及びC合格品についてはアラーム材として製造ラインから外し、別溶接加工情報データファイルとの照合、目視検査、テストなどを行って出荷可能であるか否かを判定し、出荷可能であるときには、判定出荷可能テーラードブランク材として、あるいは需要家でのプレス加工条件を変更すれば出荷対象となるテーラードブランク材として、一纏めにして梱包ラインに搬送し、需要家に出荷する。
【0050】
そして、需要家では、搬入されたテーラードブランク材8が欠陥のないA合格品であるときには、プレス前洗浄装置31で洗浄した後に、プレス機32に供給し、このプレス機32の制御部32aに予め設定されたプレス加工条件でプレス加工を行ってドアパネル33を形成する。
そして、プレス加工中及び/又は形成した後のドアパネル33を目視検査部36で検査することにより、プレス割れによる欠陥が発生しているか否かを検査し、プレス割れによる欠陥が発生していないときには、プレス加工の加工条件及びテーラードブランク材の溶接条件等の加工条件が適正であると判断して、プレス加工後のドアパネル33に残る識別記号を視認して、これを情報処理端末18又は19にキーボード18a又は19aから入力することにより、プレス加工が正常であることを表す正常データ及びプレス加工条件を品質管理データベース17に登録する。
【0051】
ところが、テーラードブランク材8をプレス機32でプレス加工してドアパネル33を形成したときに、プレス割れを生じたときには、これがプレス加工中検出されるか目視検査部36で検出されることにより、情報処理端末18又は19で、非破壊検査装置36の検査結果である欠陥情報をドアパネル33から視認した識別記号と関連付けて品質管理データベース17に登録する。
【0052】
これと同時に、プレス割れが発生したドアパネル33の識別記号をもとに品質管理データベース17をアクセスして、テーラードブランク材8の素材情報、溶接関連情報、溶接結果情報を抽出し、抽出した各情報をディスプレイ18b又は19bに表示することにより、プレス割れの発生原因を究明することができる。
そして、プレス割れの発生原因の究明結果に基づいて、プレス機32のプレス加工条件が不適合である場合には、プレス速度を低下させたり、プレス金型間隙の調整したりすることにより、プレス割れを抑制する新たなプレス加工条件を設定し、設定したプレス加工条件をプレス機32の制御部32aに出力して、プレス割れを抑制したプレス加工を行う。
【0053】
一方、プレス割れの発生原因の究明結果が、出発材であるテーラードブランク材8の素材情報、溶接関連情報、溶接結果情報に問題があるものであるときには、原因究明結果に応じて薄板素材1及び厚板素材3の素材情報を変更したり、レーザ溶接条件を変更したりすることにより、プレス割れに強いテーラードブランク材8を製造する。
そして、プレス割りの発生原因の究明については、テーラードブランク材8の製造元と需要家とで個別に行うこともでき、或いは両者の技術者が集まって会議を開いて検討することもできる。
【0054】
すなわち、テーラードブランク材8の製造元では、情報処理端末14から品質管理データベース17にアクセスして、この品質管理データベース17に格納されるプレス割れによる欠陥情報の登録を監視することにより、プレス割れによる欠陥情報が登録された時点で、欠陥情報に関連付けされている識別記号に基づいて素材情報、溶接関連情報、溶接結果情報、プレス割れによる欠陥情報を抽出し、これら各情報を情報処理端末14のディスプレイ14bに表示することにより、プレス割れの原因究明を行うことができる。
【0055】
一方、テーラードブランク材8の製造元で、B合格品やC合格品を一纏めとして需要家に出荷し、これを需要家側で受け取った場合には、各種合格品のテーラードブランク材8に記録されている識別記号を情報処理端末18又は19のキーボード18a又は19aから入力することにより、この情報処理端末18又は19から品質管理データベース17にアクセスすることにより、該当するテーラードブランク材8の素材情報、溶接関連情報及び溶接結果情報を情報処理端末18又は19のディスプレイ18b又は19bに表示することができ、表示された各情報に基づいてプレス機32で、各テーラードブランク材8毎に最適なプレス加工条件を設定し、これをプレス機32の制御部32aに出力することにより、B合格品やC合格品でもプレス割れを抑制したプレス加工を行って、ドアパネル33を形成することができる。
【0056】
このB合格品やC合格品を使用したプレス加工でプレス割れによる欠陥が生じない場合には、このことをテーラードブランク材の製造元にフィードバックすることにより、テーラードブランク材8におけるB合格品のランク判定の基準値を低下させることにより、プレス割れを生じないB合格品の許容範囲を増加させることができる。
特に、新規な仕様のテーラードブランク材8を製造する場合には、欠陥の無いA合格品について問題がないが、B合格品の判定基準としてよりA合格品に近い過剰判定基準を初期設定し、需要家でのプレス割れによる欠陥情報の頻度やプレス割れの発生状況に応じて順次B合格品の判定基準を低下させるようにすることがプレス割れによる欠陥が大量に発生することを確実に防止することができる意味で好ましい。
【0057】
このように、上記実施形態によると、薄板素材1及び厚板素材3をレーザ溶接して形成したテーラードブランク材8にレーザマーキング装置21で固有の識別記号を後のプレス加工後でも視認可能なように記録しておき、品質管理データベース17に製造したテーラードブランク材8毎に、識別記号に関連付けして、素材情報、溶接関連情報、溶接結果情報、プレス加工情報、プレス割れによる欠陥情報を登録することにより、テーラードブランク材8から製品としてのドアパネル33に加工した後まで、欠陥情報の管理を行うことができるので、テーラードブランク材8の品質管理を正確に行うことができる。
【0058】
しかも、テーラードブランク材8の製造元や需要家のように情報処理仕様が異なる場合でもインターネット等のネットワークを介して共通の品質管理データベース17にアクセスすることができ、両者でプレス割れの発生状況等を逐次監視することができ、ドアパネル33のようなプレス加工製品を製造する場合に、最適な溶接条件やプレス条件を設定することができ、最終的なプレス加工製品の品質を高精度に維持することができる。
【0059】
さらに、プレス割れによる欠陥が発生した場合に、識別記号に基づいて直ちに関連情報を品質管理データベース17から取得することができ、原因究明を迅速に行うことができる。
さらに、欠陥情報、溶接加工情報など自由な情報が的確に採取できるため、これら情報を総合して逆に新素材(鋼板)の提案を行うことが可能にもなり、需要家における開発担当としての役割を担うことができるようになる。
なお、上記実施形態においては、テーラードブランク材8の製造元と需要家とが異なる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、テーラードブランク材8の製造とこれを使用したプレス加工製品の製造とを一括して行う場合にも本発明を適用することができる。
【0060】
また、上記実施形態においては、プレス加工時に発生するプレス割りによる欠陥が発生したときに、その原因を究明する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、プレス加工によってドアパネル33を形成した後に、自動車ボディーへの組み付け過程で割れ等が発生した場合でも、識別記号を視認することができれば、この識別情報を情報処理端末に入力して品質管理データベース17にアクセスすることにより、該当するテーラードブランク材8の素材情報、溶接関連情報、溶接結果情報、プレス加工情報、非破壊検査情報の一連の情報を迅速に抽出することができ、欠陥の原因究明を迅速に行うことができる。
【0061】
また、テーラードブランク材8のランク判定は、プラズマセンサ5e、溶接ビード形状センサ5f及びピンホールセンサ5gの3種のセンサ情報から、欠陥のないテーラードブランク材をA合格、ピンホール数、ビード形状からB合格、プラズマセンサ情報等からC合格、及び全3種センサー情報から不良の判定を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、このランク判定は、前記した3種センサー情報を組み合わせて判定しても、個々のセンサー情報毎に判断して総合的に判定するようにしても良く、また、需要家との協議で決定しても良く、任意に設定することができる。
【0062】
さらに、上記実施形態においては、プレス割れによる欠陥を目視検査部36で検査する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、非破壊検査装置等自動化された検査によってプレス割れを検出し、プレス割れのデジタル画像等の情報を情報処理端末18又は19に入力することにより、品質管理データベース17に識別記号に関連付けて登録するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態を示すテーラードブランク材製造元の概略構成図である。
【図2】図1のレーザ溶接装置の一例を示す断面図である。
【図3】本発明のシステム構成図である。
【図4】情報処理端末14で実行するデータ登録処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】情報処理端末14で実行する判定基準設定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図6】情報処理端末14で実行する溶接条件変更処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】需要家での処理系統を示す系統図である。
【図8】需要家での情報処理端末で実行する加工制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】製造元でのテーラードブランク材の加工手順を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1…薄板素材、2…薄板素材テーブル、3…厚板素材、4…厚板素材テーブル、5…レーザ溶接装置、5c…搬送ベルト、5e…プラズマセンサ、5f…溶接ビード形状センサ、5g…ピンホールセンサ、6,7…搬送ロボット、8…テーラードブランク材、10,12…搬送ロボット、13…中央情報処理装置、13A,13B…制御装置、14…情報処理端末、15…ネットワーク、16…品質管理システムサーバ、17…品質管理データベース、18,19…情報処理端末、20…ネットワーク、21…レーザマーキング装置、31…プレス前洗浄装置、32…プレス機、32a…制御部、33…ドアパネル、34…自動車生産ライン、35…塗装装置、36…目視検査部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を溶接加工してテーラードブランク材として需要家に出荷する過程で、溶接加工完了時に前記テーラードブランク材の素材情報及び溶接加工情報を関連付ける識別記号を生成する識別記号生成ステップと、生成した識別記号をレーザマーキング手段によって前記テーラードブランク材に不揮発状態で記録する識別記号記録ステップと、前記識別記号を前記素材情報及び溶接加工情報と関連付けて格納する情報格納ステップと、需要家でのプレス加工・製造工程を経た後の前記テーラードブランク材の不具合発生時に、当該テーラードブランク材に記録された前記識別記号に基づき、溶接加工からプレス加工・製造工程に至るまでの不具合原因を究明する不具合究明ステップとを備えていることを特徴とするテーラードブランク材の品質管理方法。
【請求項2】
前記識別記号記録ステップは、前記レーザマーキングによって、テーラードブランク材を構成する被溶接用鋼板の表面に施されためっき、表面処理等の表面処理層へ許容される深さで識別記号を目視可能な状態で記録することを特徴とする請求項1記載のテーラードブランク材の品質管理方法。
【請求項3】
前記識別記号記録ステップは、前記テーラードブランク材のプレス加工、塗装処理後も確認できるマーキング深さで識別記号を当該テーラードブランク材表面に施すことを特徴とする請求項1記載のテーラードブランク材の品質管理方法。
【請求項4】
前記情報格納ステップは、テーラードブランク材に記録される前記素材情報及び溶接加工情報に、溶接ビード形状情報、ピンホールセンサ情報等の溶接結果情報を含めて識別記号に関連付けして記憶手段に格納するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載のテーラードブランク材の品質管理方法。
【請求項5】
前記テーラードブランク材と、需要家での製造・加工過程の情報とを関連付け、当該需要家での製造・加工過程の情報に基づきテーラードブランク材の溶接条件を最適化させるステップ有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載のテーラードブランク材の品質管理方法。
【請求項6】
溶接ビード形状情報、ピンホールセンサ情報等の溶接結果情報に基づいて前記テーラードブランク材のランク分けを行い、ランク分けされたテーラードクランク材毎に溶接結果情報に基づいて需要家での製造・加工条件を変更するステップを有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載のテーラードブランク材の品質管理方法。
【請求項7】
溶接ビード形状情報、ピンホールセンサ情報等の溶接結果情報からランク分けを行うに当たり、欠陥が殆ど無い場合の過剰判定基準を基に判別するようにし、前記需要家での製造・加工過程のテーラードブランク材判定情報に基づき、前記過剰判定基準を修正することを特徴とする請求項6記載のテーラードブランク材の品質管理方法。
【請求項8】
鋼板を溶接加工してテーラードブランク材として需要家に出荷する際、溶接加工完了時に被溶接鋼板の素材情報、溶接加工情報及び溶接結果情報と識別記号とを関連付けて記憶する情報格納手段と、前記溶接加工情報から被溶接製品のランクを分類する分類手段と、前記識別記号をレーザマーキング手段により前記テーラードブランク材板面に記録する識別記号加工手段と、需要家における製造・加工情報を前記識別記号に従って収集する情報収集手段と、前記需要家における製造・加工情報と前記識別記号を対比させ溶接条件情報及び素材情報の適正状態を判定するテーラードブランク材の品質判定手段とを備えたことを特徴とするテーラードブランク材の品質管理システム。
【請求項9】
前記分類手段は、溶接ビード形状情報、ピンホールセンサー情報に基づく、欠陥が殆ど無い過剰判定基準を基にテーラードブランク材の判定を行い、前記需要家での製造・加工過程のテーラードブランク材判定情報に基づき、前記過剰判定基準を修正し、テーラードブランク材の判定基準を決定・訂正する判定基準補正手段を備えたことを特徴とする請求項8記載のテーラードブランク材の品質管理システム。
【請求項10】
前記溶接結果情報から被溶接製品のランクを分類する分類手段によって区別されたテーラードブランク材に応じて、需要家における製造・加工条件の変更を提示する提示手段を有することを特徴とする請求項8記載のテーラードブランク材の品質管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−65490(P2006−65490A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245425(P2004−245425)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】