説明

ディジタル医用放射線画像の局所の観察条件を最適化する方法

【課題】 医用放射線画像を観察する際、表示ウインドウレベル・幅範囲より高いか低いデータ領域を観察する場合、その領域内
1点を1クリックという簡単な操作だけで、コンピューターが自動的に、観察領域に最適化したウインドウレベル・幅を算出する。
【解決手段】
平滑化したデータからヒストグラムを作成し、距離要素で重み付けし、平滑化する。ウインドウレベルは
(局所領域の濃度の平均+クリック点濃度)/2とする。
局所のヒストグラムは、クリック点の画素値が領域内で特に高いか低いとき、さらに不連続になるので、差分2乗平均の特徴量による補正を行う。また、ポアソン分布の標準偏差により補正する。局所が、データ平均値の大きく異なる
2領域の境界の場合、クリック点近傍の最大最小値の差にガウス分布の標準偏差×2を加え、ウインドウ幅とする。これにより煩雑な操作なく、局所に適したウインドウレベル・幅を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野の放射線機器により取得された、白黒ディジタル画像の局所の観察条件を決定する際に、観察者が局所領域内
1点を1クリックするだけで、その局所に最適化した観察条件を、コンピューターにより算出する方法に関するものである。
局所に最適化した観察条件とは、医用放射線領域で用いられている白黒ディジタル画像をモニターに表示し観察・診断する場合、観察したい領域のデータだけを、その表示装置のダイナミックレンジを最大限に使用して表示するための、観察条件のことである。
この観察条件は、ウインドウレベルとウインドウ幅という数値の組である。ウインドウレベルは、画像データの中で、観察者が観察したいデータ範囲の中心値として、ウインドウ幅は、そのウインドウレベルを中心として、観察するデータ範囲の、1/2として定義されている。医療分野で放射線画像の画像データは、モニターの表示能力と観察者の濃淡分別能力の限界のため、全データから、ウインドウレベルを中心として、ウインドウ幅の数値範囲だけに入るデータに濃淡を付けて表示された画像を観察する。そのとき、それ以上の範囲のデータは白色に、それ以下の範囲のデータは黒色に表示される。
ウインドウレベルとウインドウ幅という
2種の数値を、1組の条件を表すものとして、ウインドウレベル・幅と短縮語として使用する。
【0002】
本発明は白黒画像を対象としている。
【0003】
本発明は、医用放射線画像の他、医用核磁気共鳴イメージング装置により作成された画像に適応可能である。
【背景技術】
【0004】
医用放射線画像の観察は、従来フィルムにより行われてきたが、近年ディジタルデータとしてコンピュータ内に記録し、モニターにより観察することが一般化したきた。このディジタル画像データはウインドウレベル・幅を観察者により調整され、診断などが行われる。
このウインドウレベル・幅の決定方法は、人体から、X線CTなどディジタル医用放射線機器を使用し、取得した情報から病変や正常構造を判別するために、作業者が経験から決めることが一般的であり、観察者によって画像観察の際のウインドウレベル・幅の数値が異なり、客観性がないことがあった。
【0005】
医用放射線画像の観察時に、白、または黒くなっている領域に病変が存在することもあるが、その場合は、その領域の構造を判別することができないのでウインドウレベル・幅を再調整する必要がある。その際、観察者は、画像上でマウスドラッグ操作やダイヤルなどの調整スイッチにより、画像を見ながらウインドウレベル・幅を調整することが一般的であるが、マウスパッドを複数回往復するなど、多数回の操作を伴い煩雑となることがある。
【0006】
ユーザーインターフェースに、特定のウインドレベル・幅に変更するためのプリセット機能を備え、ボタン1つで変更する事も、多くの画像観察装置が行っているが、選択できるプリセット値には数に限りがある。初期表示時には、白色または黒色で表示されている領域のデータは、画像により大きく値が異なることが多く、その局所に適したプリセットを準備することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、ディジタル医用放射線画像の観察時に、不適切なウインドウ条件で表示される局所があったとき、その領域のある1点を、観察しようとする場合、煩雑な操作を要した点である。
【0008】
局所領域の画像処理を行うにあたり、画像上で
2領域の境界に相当する部分の観察には、大きくウインドウ幅を拡大するなど、煩雑な操作を要した点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
局所領域として、クリックした点を含む縦横15×15画素の領域を計算領域とし、平滑化処理した画像データからヒストグラムを作成する。
【0010】
遠い距離にある点の情報は、中心の情報より重要性が低いので、距離要素として、
画素数−距離の2乗
をヒストグラムの各段階に加える。これにより計算点がクリック点、すなわち領域の中心に近ければ、ヒストグラム上で、その点の画素値の度数が大きくなる。観察者はクリック点に最大の関心を持っているので、この距離要素を加える処理により、関心の度合いがヒストグラムに反映する。
ヒストグラム上で、クリック点を含む度数分布の上限と下限をウインドウ幅とする。
ウインドウレベルは、
(関心領域全画素値の平均+クリック点の画素値)/2
とする。
【0011】
観察対象となる局所領域は、領域内のデータ数が少ないため、ヒストグラム作成に使用する標本数が少ないので、領域のヒストグラムは、領域内データの最大値から最小値まで、不連続で偏った分布となる。このため、ヒストグラムを10点平滑化する。
【0012】
ウインドウ幅は、ウインドウレベルの絶対値が大きいほど広くすることが医療放射線画像観察において一般的であるので、局所領域のデータ分布を離散的として、ポアソン分布を適用すると、
観測値の幅=ポアソン分布の標準偏差
から、
ウインドウ幅の範囲=
1+√((クリック点画素値−全画像データの平均)/(全画像データの最大値―全画像データの平均))
をウインドウ幅に乗ずる。これにより、局所のデータが大きいときにウインドウ幅が大きくなることに対応する。
【0013】
クリックされた場所が、極端に高い、または低い画素値であるとき、局所領域にある画素値の最大最小範囲がさらに広がるため、ヒストグラム上で単位データあたりの標本数がさらに少なくなり、クリック点画素値を含むヒストグラムは連続にならず、かつ近傍の点も、領域内として視覚的に認識できても、ヒストグラムは大きく異なり、算出結果は不安定になる。この特徴がある領域は、
A=クリック点画素値―領域内のある画素値
として
差分2乗平均=√(Σ(A)×(A)/関心領域の画素数)
を算出すると、
差分2乗平均>2×標準偏差
が成立することは、ガウス分布と大きくクリック点画素値が離れることにより明らかである。このとき、
2×標準偏差×差分2乗平均/標準偏差×距離要素=2×差分2乗平均/距離要素
をウインドウ幅とする。
【0014】
局所領域内でデータの平均値が大きく異なる
2領域の境界では、クリック点の画素値を含む領域のヒストグラムは、さらに不連続になる。または多数のピークを持つようになる。これを
局所の標準偏差=局所領域のガウス分布での標準偏差、として
(画像データの最大値―画像データの最小値)/3>
クリック点周辺5×5領域の最大値―クリック点周辺5×5領域の最小値+局所の標準偏差
の条件にあう場合とし、ウインドウ幅を、
ウインドウ幅=
クリック点周辺5×5領域の最大値―クリック点周辺5×5領域の最小値+2×局所の標準偏差
と算出する。
この場合、領域が画像全体に近いデータ分布を示すとして、標準偏差はデータの分布をガウス分布として計算し、データの広がりを
2領域分として2×標準偏差とし、差分2乗平均と標準偏差の比率を考慮してウインドウ幅とする。
【発明の効果】
【0015】
医用放射線画像の観察において、不適切な条件で表示されている部分の、1点1クリックという最も簡単な操作で指定したX、Y座標の組だけから、その局所に適したウインドレベル・幅を算出する。
最適なウインドレベル・幅にしたい箇所の特定は、マウスなどの入力装置により「画像上の1点を1クリック」のみである。この操作は、手のほか足を用いて、マウスやトラックボールなどの機器で入力可能なほど簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は画像上で局所観察領域の選択方法を示した説明図であり、観察者はウインドウレベル・幅の条件範囲外で、白色として表示されている局所をクリックする。
【図2】図2はクリックした後の計算結果により、クリック点付近の画像データに、ウインドウレベル・幅の条件が最適化され、その部分の構造が明らかとなり表示された状態である。
【図3】図3は本発明のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の実施例である。1は画像観察装置、2は入力装置、3は画像観察装置上でクリックする位置を示すポインタ、4はクリックした際のポインタ座標と、画像データから、局所に最適化されたウインドウレベル・幅を計算するコンピューターである。2の入力装置を動かすことにより、3の画像観察装置上のポインタが動かし、操作者が観察したい局所を示す1点を決定し、1クリックすると、適切なウインドウレベル・幅を算出する。
図2が実施結果である。観察したい局所に最適化されたウインドウレベル・幅を算出し、その条件で画像が再表示される。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明により、不適切な観察条件で表示されている医用放射線画像の局所を、適切なウインドウレベル・幅の観察条件へ変更する操作を、1点シングルクリックのみで簡単に行うことができる。この方法により、マウスの他、トラックボールなどの入力機器により、手による操作の他に、足による操作で観察条件の変更を行うことが可能であり、両手で他の作業を行いながら、ウインドウレベル・幅の観察条件を変更することができる。
【0019】
医用放射線機器によるデータ取得の後、生成された画像上では、各々の臓器・組織が、各々を観察するのに適したウインドウレベル・幅を持っていることが多い。そのため、一定のウインドウレベル・幅で通常観察される臓器・組織に対しては、本発明による、局所に対して算出したウインドウレベル・幅が、臓器・組織全体を観察するために適したウインドウレベル・幅となる。
【符号の説明】
【0020】
1 画像表示装置
2 入力装置
3 ポインタ
4 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスなどの入力装置を用い、医用放射線画像表示機器上のポインターを局所領域上に合わせ、シングルクリック1回のみの操作で画像上観察したい局所の
X、Y座標1組を取得する事により、局所領域の画像観察に適したウインドウレベル・幅を算出する方法。
【請求項2】
シングルクリック1回のみの操作で、画像上観察したい局所の
X、Y座標1組を与える事により、クリック点の距離要素の加算、差分2乗平均によるクリック点近傍データ分布の特徴判別、局所領域の各データは、統計的にポアソン分布に従うことによるウインドウ幅の標準偏差による補正により、局所領域の画像観察に適したウインドウレベル・幅を算出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−120668(P2011−120668A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279141(P2009−279141)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(709006987)
【Fターム(参考)】