説明

ディスクブレーキ

【課題】コスト面で有利な、信頼性の高いディスクブレーキを提供すること。
【解決手段】車輪と共に回転するロータを跨ぐキャリパと、ロータの軸方向に移動可能にキャリパに支持されキャリパ内に収容されたピストンの作動によりロータに押圧されるパッドとを有し、該パッドがそのロータの径方向外側を支持部材によって保持され、そのロータの径方向内側をパッドの端面に当接するピン21で支持されるディスクブレーキにおいて、ピン21に、その外周に軸方向に延在する軸方向溝29が形成され、キャリパに形成される有底孔へ圧入される圧入部23と、該圧入部よりも大径の鍔部25と、該鍔部を挟み圧入部から軸方向反対方向に延在し、パッドと当接する支持部27とを設けると共に、鍔部とキャリパとの間に弾性部材43を介装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキに関し、特に、ディスクブレーキのキャリパに取り付けられるパッドの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来来のディスクブレーキとして、車輪と共に回転するロータを跨ぐキャリパと、ロータの軸方向に移動可能にキャリパに支持されキャリパ内に収容されたピストンの作動によりロータに押圧されるパッドとを有し、パッドがそのロータの外周側を支持部材によって保持され、ロータの内周側をパッドの端面に当接するピンで支持されるものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−121174号
【0004】
上記した特許文献1に開示されたディスクブレーキにおいては、パッドはアルミ合金製のキャリパに固定された結合ピンにより、その上部(ロータの径方向外側)を吊り下げられると共にその下部(ロータの径方向内側)をキャリパに固定されたピンにより支持されている。パッドの下部を支持するピンは、キャリパに設けられた貫通孔にキャリパの内側から挿入され、ピンの反対側(キャリパの外側)からボルトで締め付けることによって、キャリパに固定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1のディスクブレーキは、パッドの下部においてキャリパの貫通孔にピンを挿入し、ピンの反対側からボルトをピンにネジ止めしているので、ピンの強度を確保するためにピンの径を所定量にする必要がある。そのため、キャリパ全体の大型化や重量の増大を招くという問題がある。更に、ボルトをキャリパの外側からピンに向けて挿入しているので、キャリパの表面にボルトが露出し、キャリパの意匠性が損なわれ、特に車両デザインとのマッチングを図る上で、様々な制約を受ける問題もある。
また、キャリパの多くがアルミニウム合金製で成形されている一方で、パッドを支えるための強度を確保するため、ピンもボルトもステンレス合金などを用いる必要があり、キャリパとピン、キャリパとボルトとの接合部分が雨水などに被水した場合に腐食を起こすことも懸念される。
また、ピンとボルトとをネジ止めによって固定しているので、組付け時にはボルトの締め付けトルクを管理する必要があり、ディスクブレーキの製造コストが嵩むという問題もある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、コスト面で有利な、信頼性の高いディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、車輪と共に回転するロータを跨ぐキャリパと、前記ロータの軸方向に移動可能に前記キャリパに支持され前記キャリパ内に収容されたピストンの作動により前記ロータに押圧されるパッドとを有し、該パッドがその前記ロータの径方向外側を支持部材によって保持され、その前記ロータの径方向内側をパッドの端面に当接するピンで支持されるディスクブレーキにおいて、前記ピンが、その外周に軸方向に延在する軸方向溝が形成され、前記キャリパに形成される有底孔へ圧入される圧入部と、該圧入部よりも大径の鍔部と、該鍔部を挟み前記圧入部から軸方向反対方向に延在し、前記パッドと当接する支持部とを有し、前記鍔部と前記キャリパとの間に弾性部材が介装されていることに特徴がある。
【0008】
上記のように構成した本発明においては、ロータの内周側でパッドを支持するピンが、圧入部をキャリパの有底孔に圧入されることにより固定されると共に、キャリパと鍔部との間に介装される弾性部材によって、キャリパとピンが直接接合する部分が外部雰囲気に曝されることが防止される。このため、雨水に被水した場合であっても、キャリパとピンとの接合部分の腐食が防止され得る。また、キャリパの外側にピンが露出することがなく、キャリパの意匠性が向上され得る。
更に、ピンの圧入部は外周に軸方向溝が形成されているため、ピンの圧入時にキャリパ有底孔の内部の空気が軸方向溝を通って外部へ排気されるため、ピンの圧入工程に細かな管理を必要とすることなく、良好にディスクブレーキの組付けを行われる。
【0009】
上記した構成において、圧入部の外周にローレット加工を施したローレット部を設けることも可能である。この場合には、ローレット部により、圧入部がキャリパに形成した有底孔に噛み合って強固にピンをキャリパに固定し得る。
【0010】
また、上記した構成において、キャリパとピンが異なる材料で成形されていることが好ましく、この場合にはキャリパがアルミニウム合金、前記ピンがステンレス合金又は炭素鋼で夫々成形されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に従ったディスクブレーキの第一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1におけるピン周辺の拡大図である。
【図3】図1におけるピン単体の斜視図である。
【図4】本発明に従ったディスクブレーキの第二実施形態におけるピン周辺図である。
【図5】本発明に従ったディスクブレーキの第三実施形態におけるピン周辺図である。
【図6】図5におけるピン単体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に従った実施形態を図面に基づいて説明する。
(第一実施形態)
図1に示すように、ディスクブレーキ10は、アルミ合金製のキャリパ11を備え、キャリパ11は、アウターボディ13と、インナーボディ15と、支持部材41とから構成されている。アウターボディ13とインナーボディ15は、図示しない車輪と共に回転するロータ39を挟むように配置されている。支持部材41は、ステンレス合金製であり、キャリパ11のロータ39外周側において、ロータ39の軸方向にアウターボディ13とインナーボディ15を連結しており、これによりキャリパ11がロータ39を跨ぐように配置される。更に、支持部材41は、ロータ39の両側面に配置されるパッド33、34の裏板37、38を貫通しており、これによりパッド33,34がロータ39の軸方向に移動可能に支持部材41に吊り下げられている。なお、アウターボディ13とインナーボディ15は、一体成形されていて、ロータ39の周方向両端にて連結されている。
【0013】
キャリパ11のアウターボディ13、インナーボディ15には、互いに対向する有底シリンダ孔が形成されており、該有底孔にはピストン31、32が夫々液密的に摺動可能に収容されている。ピストン31、32のロータ39側には、裏板37、38とライニング35、36で構成されるパッド33、34が配設されている。パッド33、34は、キャリパ11の有底シリンダ孔に付与される油圧によってピストン31、32が摺動と、ピストン31、32によりロータ39の側面にライニング35、36を押圧され、制動力を発生させる。
【0014】
なお、本実施形態では、軽量且つ剛性に優れたディスクブレーキとするため、キャリパ11の材料をアルミニウム合金、支持部材41の材料をステンレス合金としたが、キャリパ11の材料としては、軽量化のために、アルミニウムに代表される軽金属またはその合金が望ましく、剛性確保の観点から支持部材41の材料としては、ステンレス合金に代表される剛性の高い金属またはその合金を適宜選択することが望ましい。
【0015】
次に、パッド33、34のキャリパ11への取り付け方法の詳細を説明する。
図1に示すように、キャリパ11のロータ39内周側に、アウターボディ13とインナーボディ15の夫々に有底孔17、18が設けられており、有底孔17、18にはステンレス合金製のピン21、22が夫々圧入されている。図3に示すように、ピン21は、キャリパ11の有底孔17,18へ圧入される圧入部23と、該圧入部23よりも大径の鍔部25と、該鍔部25を挟み圧入部23から軸方向反対方向に延在し、パッドと当接する支持部27とを備えている。ピン21の圧入部23の外周には、圧入部23の先端から鍔部25の側面に至り軸方向に延在する軸方向溝29が形成されている。ピン21をアウターボディ13に圧入した状態を拡大した図2に示すように、鍔部25とアウターボディ13との間には、リング状の弾性部材43が介装されている。弾性部材43は鍔部25とアウターボディ13に液密的に当接しており、これにより、ステンレス合金製のピン21とアルミニウム合金製のアウターボディ13とが直接接合する部分が外部雰囲気に曝されない構造とされ、雨水などに被水した場合に腐食が起こることが防止され、ピン21のアウターボディ13への強固な固定状態を維持することができる。ピン22の構成及びピン22のインナーボディ15への圧入構造も上記と同じであるので説明は省略する。なお、弾性部材43の材質は、EPDMまたはフッ素ゴムで成形すると良い。また、ピン21の支持部27は、裏板37をロータ39の径方向内側で下側からパッド33が摺動可能に支持している。
【0016】
ピン21の圧入時には、キャリパ有底孔17の内部の空気が軸方向溝29を通って外部へ排気される。このため、ピン21の圧入工程に細かな管理を必要とすることなく、良好にディスクブレーキの組付けを行うことができる。
【0017】
(第ニ実施形態)
図4に示す第ニ実施形態を以下に説明する。なお、図4をおいて、上記した第一実施形態と同じ構成には第一実施形態と同じ番号符号を付し、その説明は省略する。第ニ実施形態では、第一実施形態のピン21に対応するピン51が、アウターボディ13の有底孔へ圧入される圧入部53と、該圧入部23よりも大径の鍔部55と、該鍔部55と圧入部53との間に段付状に形成される鍔部55よりも小径の当接部52と、鍔部55を挟み圧入部53から軸方向反対方向に延在し、パッドと当接する支持部57とを備えている。ピン51の圧入部53の外周には、圧入部53の先端から当接部52のに至り軸方向に延在する軸方向溝59が形成されており、当接部52には軸方向溝59の一端に連通する径方向溝が形成されている。
【0018】
本第ニ実施形態においても、ピン51の圧入時には、キャリパ有底孔の内部の空気が軸方向溝59を通って外部へ排気される。このため、ピン51の圧入工程に細かな管理を必要とすることなく、良好にディスクブレーキの組付けを行うことができる。また、本実施形態のピン51は、ピン51の当接部52がアウターボディ13に対して面で接合することによって、アウターボディ13に対して確実に垂直に支持部57を突出させる(位置決めをする)ことが可能となり、ピストン31を摺動させる際にパッド33をロータ39に対して傾いて押圧させることを確実に防止することができる。
なお、図示はしないが、当接部52は、圧入時の位置決め手段であるため、当接部52を鍔部55の外周縁部に環状に形成しても良い。
【0019】
(第三実施形態)
図5、図6に第三実施形態を示す。本実施形態では、図6に示すように、有底孔71を段付孔とし、ピン61の有底孔への挿入領域60が大径部63と小径部65の段付状に形成している。図5に示すように、有底孔71にピン61の大径部63と小径部65が夫々圧入されるように、有底孔71の内径は、圧入方向に縮径し、また、挿入領域62には、部分的に有底孔71に圧入されない隙間73が形成されている。なお、大径部63、小径部65の外周にはローレット溝が形成されている。
ここで、軸方向の単位長さ当たりの小径部65と有底孔71との接触面積は、大径部63と有底孔71との接触面積よりも小さいため、単位長さ当たりの圧入に必要な力は小径部65の方が大径部63よりも小さくなる。したがって、本実施形態におけるピン61及び有底孔71のように、挿入領域60に大径部63及び小径部65を設け、有底孔71内に隙間を形成する構造とすることで、パッド33を支持するのに十分な軸方向長さを確保しつつ、圧入する際の力を省力することができ、組付性が向上される。
【0020】
上記したように、本発明によれば、組付性に優れ、コスト面で有利な、信頼性の高いディスクブレーキを得ることができる。
【符号の説明】
【0021】
10・・・ディスクブレーキ、11・・・キャリパ、21、22、51・・・ピン、23、53・・・圧入部、25、55・・・鍔部、27、57・・・支持部、29、59・・・軸方向溝、31、32・・・ピストン、33、34・・・パッド、39・・・ロータ、41・・・支持部材、43・・・弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータを跨ぐキャリパと、前記ロータの軸方向に移動可能に前記キャリパに支持され前記キャリパ内に収容されたピストンの作動により前記ロータに押圧されるパッドとを有し、該パッドがその前記ロータの径方向外側を支持部材によって保持され、その前記ロータの径方向内側をパッドの端面に当接するピンで支持されるディスクブレーキにおいて、前記ピンが、その外周に軸方向に延在する軸方向溝が形成され、前記キャリパに形成される有底孔へ圧入される圧入部と、該圧入部よりも大径の鍔部と、該鍔部を挟み前記圧入部から軸方向反対方向に延在し、前記パッドと当接する支持部とを有し、前記鍔部と前記キャリパとの間に弾性部材が介装されていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記圧入部の外周にローレット加工を施したローレット部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記キャリパと前記ピンが異なる材料で成形されていることを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記キャリパがアルミニウム合金、前記ピンがステンレス合金又は炭素鋼で夫々成形されていることを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−214681(P2011−214681A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84712(P2010−84712)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】