説明

ディスプレイの評価方法およびそれに用いる評価装置

【課題】動画表示時の観視方向に依存した色変動による表示性能の劣化を、総合的に評価可能とする。
【解決手段】動画像表示時における色再現特性を評価するディスプレイ評価方法であって、評価対象ディスプレイ21の表示画面位置毎に、複数の観視方向に対する観視方向階調データを用意する。サンプル画像Aを評価対象ディスプレイ21に映出して任意の方向から観視した予測観視画像Bを、観視方向階調データから解析的に求める。これらサンプル画像Aと予測観視画像Bを評価対象ディスプレイ21に一定速度でスクロール表示させ、スクロールに追従させて撮像して評価用画像を取得し、サンプル画像領域と予測観察画像領域の画面内対応位置における色差を求める。この色差に基づいて評価対象ディスプレイ21の動画像色再現性の評価値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイなどの動画像における色再現特性を評価するディスプレイの評価方法およびそれに用いる評価装置に関し、特に、視野角に依存した色階調変化を正確に評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平面表示装置である液晶ディスプレイは、画質が向上し、PCモニタや家庭向けTV用途として広く利用されるようになってきた。その一方で液晶ディスプレイ特有の問題点に、観視角度に依存する輝度・色味変動がある。このような観視角度依存性が存在すると、観察者がどの方向からディスプレイを見るかによって表示像の色が異なってしまう問題がある。例えば、液晶ディスプレイを真正面から見ているときの表示色に対し、同一色を表示していても、この液晶ディスプレイを斜めから見たときの色の見え方は異なってしまう。従来、このような観視角度依存性を評価するには静止画像において例えば白、黒、グレーや肌色、空色などの特定色の色変動を確認することで観視角度に依存する色変化評価が行われていた。
【0003】
また、液晶ディスプレイでは、液晶の応答速度などに起因して、動画表示時にボヤケ(動きボケ)が生じ易いことから動画性能の改善が課題となっている。従来、液晶ディスプレイの動画性能評価は、液晶の応答速度を測定することにより代用されてきたが、動画性能の劣化と対応しにくい中間調に対しての評価も含めると多大な情報量となり測定に莫大な時間を要した。このような不具合を解消しようとしたものに例えば特許文献1には、測定対象となる画面上で測定パターンを移動させながら画像センサを追従移動させて静止パターンを撮影し、撮影された画像分布に現われるぼやけ幅(ラインエッジのボケ)を観測することで、画面の動画質を評価可能とする動画質評価方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、評価対象ディスプレイに標識画像を表示させるドライバと、標識画像を撮影するカメラと、カメラを移動させるカメラムーバと、ドライバ、カメラ、およびカメラムーバを同期制御して標識画像を所定の動画速度で移動させ移動中の標識画像にカメラを向けて撮影する制御器とを備えることで、ディスプレイの動画性能を評価可能とする動画性能評価装置が記載されている。
【特許文献1】特開2004−363798号公報
【特許文献2】特開2002−291001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、行われていた観視角度に依存する色変化評価は、すべて静止画像に関してのみの評価方法であり、動画表示時における観視角度に依存した色変化評価を行うことはできなかった。また、動画性能を評価可能とする従来の評価手段は、正面からの測定を想定しており、異なる観視角度における評価を行うことはできなかった。すなわち、見た目の違和感に重要となる動画時のボヤケを含むディスプレイの総合的な視野角変動を評価できるような評価手段が存在しなかった。また、ラインのエッジボケを解析する特許文献1の動画質評価方法では、疑似輪郭を定量化することが困難であったため、液晶ディスプレイと比較評価を行うことができなかった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、動画表示時の観視方向に依存した色変動による表示性能の劣化を、総合的に評価できるディスプレイの評価方法およびそれに用いる評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) カラー画像を表示するディスプレイの動画像表示時における色再現特性を評価するディスプレイの評価方法であって、
評価対象ディスプレイの表示画面位置毎に、それぞれ複数の観視方向に対する観察光の情報を求めた観視方向階調データを予め用意し、
特定のサンプル画像を前記評価対象ディスプレイに映出して任意の方向から観視した場合の予測観視画像を、前記観視方向階調データから解析的に求め、
前記サンプル画像と前記予測観視画像とを前記評価対象ディスプレイに並列に配置したパターンで映出させるとともに、該パターンを一定速度でスクロール表示させ、
前記パターンを前記スクロールに追従させて撮像して評価用画像を取得し、
前記評価用画像中の前記サンプル画像の領域と前記予測観察画像の領域に対し、双方の領域間で画面内対応位置における色差をそれぞれ求め、
前記色差に基づいて前記ディスプレイの動画像色再現性の評価値を算出するディスプレイの評価方法。
【0007】
このディスプレイの評価方法によれば、まず、評価対象ディスプレイにおける複数の観視方向において観視方向階調データが測色され記憶される。この観視方向階調データを用いてサンプル画像を任意の方向から観視した予測観視画像を生成する。つまり、任意の角度から観視したサンプル画像を階調データ分得る。そして、評価対象ディスプレイに、サンプル画像と特定観視方向からの予測観視画像を並列に表示させ、一定の速度でスクロールさせた状態で追従カメラにて撮像し評価用画像を取得する。この評価用画像からサンプル画像と予測観視画像の色差に基づいた動画像色再現性の評価値を算出する。この評価値を全ての観視方向について得ることで、動画像の観視方向依存性や動きボケが評価可能となる。つまり、見た目の違和感に重要となる動画表示時のボヤケを含むディスプレイの総合的な評価が可能となる。
【0008】
(2) (1)のディスプレイの評価方法であって、
前記動画像色再現性の評価値が、前記評価用画像中の前記サンプル画像の領域と前記予測観察画像の領域との対応位置における色差を領域全体で総和を求め、該総和を前記領域の大きさで除した平均値であるディスプレイの評価方法。
【0009】
このディスプレイの評価方法によれば、評価対象の領域内に複数存在する色差が一つの平均値として表され、所望の領域全体が簡単な数値として定量評価可能となる。
【0010】
(3) (1)または(2)のディスプレイの評価方法であって、
前記動画像色再現性の評価値が、観視方向に対応して重み付け処理した評価値であるディスプレイの評価方法。
【0011】
このディスプレイの評価方法によれば、例えば表示性能が厳格に評価されなければならない正面近傍からの観視方向における評価値には大きい重み付け処理がなされ、表示性能がさほど厳格に評価されない画面上下左右端に近い斜めからの観視方向における評価値には小さい重み付け処理がなされる。このように、観視方向によって評価基準が変えられることで、実効的な評価が可能となる。
【0012】
(4) (1)〜(3)のいずれか1つのディスプレイの評価方法であって、
前記観視方向階調データが、前記評価対象ディスプレイを原色表示したときの各観視角度からの観察輝度および色度を、表示階調値毎に測定して求めた原色階調データであるディスプレイの評価方法。
【0013】
このディスプレイの評価方法によれば、観視方向階調データが、複数色の原色、すなわち、RGB表示毎の階調データとして得られ、原色表示色毎の動画像色再現性の評価が可能となる。
【0014】
(5) (1)〜(4)のいずれか1つのディスプレイの評価方法であって、
前記対応位置における色差を、それぞれ前記観視方向に対応して同一色差値を等高線表示した色差分布表示用データを求めるディスプレイの評価方法。
【0015】
このディスプレイの評価方法によれば、同一色差位置と異なる色差位置とがそれぞれ線によって結ばれた等高線状の図となって表され、色差の大小関係と、その大小関係の及ぶ領域とが同時に視覚的に評価可能となる。
【0016】
(6) (1)〜(5)のいずれか1つのディスプレイの評価方法であって、
前記色差の算出に用いる色空間として、CIE1976 L色空間を使用するディスプレイの評価方法。
【0017】
このディスプレイの評価方法によれば、比較的小さい色差の算出に用いて好適となる。
【0018】
(7) (1)〜(5)のいずれか1つのディスプレイの評価方法であって、
前記色差の算出に用いる色空間として、CIE1976 L色空間を使用するディスプレイの評価方法。
【0019】
このディスプレイの評価方法によれば、簡単な式での算出が可能となり、色再現を行う応用時において、微妙な色の差があまり問題とならない。
【0020】
(8) (1)〜(5)のいずれか1つのディスプレイの評価方法であって、
前記色差の算出に用いる色空間として、CIECAM02で定義されるLHC空間を使用するディスプレイの評価方法。
【0021】
このディスプレイの評価方法によれば、照明光源やその明るさ等の観察条件によって観察対象の色がどのように変化するかを推定した上での評価が可能となる。
【0022】
(9) カラー画像を表示するディスプレイの動画像表示時における色再現特性を評価するディスプレイ評価装置であって、
評価対象ディスプレイの表示画面位置毎に、それぞれ複数の観視方向に対する観察光の情報を求めて観視方向階調データを生成する観視方向階調データ生成手段と、
特定のサンプル画像を前記評価対象ディスプレイに映出して任意の方向から観視した場合の予測観視画像を、前記各観視方向階調データから解析的に求める予測観視画像生成手段と、
前記サンプル画像と前記予測観視画像とを前記評価対象ディスプレイに並列に配置したパターンで映出させるとともに、該パターンを一定速度でスクロール表示させるビデオ信号発生手段と、
前記パターンを前記スクロールに追従させて撮像して評価用画像を取得する撮像手段と、
前記評価用画像中の前記サンプル画像の領域と前記予測観察画像の領域に対し、双方の領域間で画面内対応位置における色差をそれぞれ求め、前記色差に基づいて前記ディスプレイの動画像色再現性の評価値を算出する演算手段と、
を備えたディスプレイの評価装置。
【0023】
このディスプレイの評価装置によれば、サンプル画像の任意方向から観視した予測観視画像が各観視方向階調データから解析的に求められ、スクロール表示させたサンプル画像と予測観視画像が追従撮像により評価用画像として取得される。演算手段にて評価用画像中のサンプル画像と予測観察画像の画面内対応位置における色差が求められ、この色差に基づいて動画像色再現性の評価値が算出される。
【0024】
(10) (9)のディスプレイの評価装置であって、
前記撮像手段が、撮像カメラと、該撮像カメラを前記スクロールの移動速度に同期して前記評価用ディスプレイに対して移動させるカメラ移動機構と、
を備えたディスプレイの評価装置。
【0025】
このディスプレイの評価装置によれば、撮像カメラがカメラ移動機構によってスクロール表示と同期して移動されることで、動画表示に伴って刻々と変化するパターンの観察光を積分して蓄積した追従撮像画像が得られる。
【0026】
(11) (9)または(10)のディスプレイの評価装置であって、
前記対応位置における色差をそれぞれ前記観視方向に対応して同一色差値を等高線表示する色差マップ表示手段を備えたディスプレイの評価装置。
【0027】
このディスプレイの評価装置によれば、同一色差位置と異なる色差位置とがそれぞれ線によって結ばれた等高線状の画像となって色差マップ表示手段に表示され、色差の大小関係と、その大小関係の及ぶ領域とが同時に視覚的に評価可能となる。
【0028】
(12) コンピュータに、(1)〜(8)のいずれか1つのディスプレイの評価方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
【0029】
このディスプレイの評価プログラムによれば、動画像色再現性を評価するために必要となる観視方向階調データ、予測観視画像、評価用画像、評価値を取得するための複雑な手順が迅速に再現性良く実行可能となり、動画表示時の動きボケや視野角に依存する色変動による表示性能の劣化を、短時間かつ的確に総合評価できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るディスプレイの評価方法によれば、サンプル画像を任意の方向から観視した場合の予測観視画像を観視方向階調データから求め、スクロールさせたサンプル画像と予測観視画像を追従撮像して評価用画像を取得し、サンプル画像と予測観察画像の双方の画面内対応位置における色差をそれぞれ求め、この色差に基づき動画像色再現性の評価値を算出するので、液晶ディスプレイなどにおいて、動画表示時の動きボケや視野角に依存する色階調変化(色変動)による表示性能の劣化を総合的に評価することができる。また、従来手法では困難であった疑似輪郭の定量化も可能となり、液晶ディスプレイとPDPの動きボケに対する比較評価も可能とすることができる。
【0031】
本発明に係るディスプレイの評価装置によれば、予測観視画像生成手段にてサンプル画像の任意方向から観視した予測観視画像を各観視方向階調データから解析的に求め、ビデオ信号発生手段にてスクロール表示させたサンプル画像と予測観視画像を撮像手段にて追従撮像して評価用画像を取得し、演算手段にて評価用画像中のサンプル画像と予測観察画像の画面内対応位置における色差を求め、この色差に基づいて動画像色再現性の評価値を算出するので、動きボケと視野角依存性を同時に評価し、液晶ディスプレイなどにおいて、動画表示時の動きボケや視野角に依存する色階調変化(色変動)による表示性能の劣化を総合的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係るディスプレイの評価方法およびそれに用いる評価装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る評価装置の概略構成図である。
本実施の形態によるディスプレイ評価装置100は、カラー画像を表示する平面表示装置(ディスプレイ)の動画像表示時における色再現特性を評価可能とする。そのための主要な構成要件として、観視方向階調データ生成手段11と、予測観視画像生成手段としての画像合成部13と、ビデオ信号発生手段としてのビデオ信号発生器15と、撮像手段17と、演算手段としての制御部19とを備える。
【0033】
本実施の形態では評価対象ディスプレイ21として液晶ディスプレイが用いられる。液晶ディスプレイは、液晶層を挟む2つの透明電極と、透明電極の上に設けられるカラーフィルタとを備えてカラー画像を表示するもので、近接するR(赤色),G(緑色),B(青色)の3つのカラーフィルタによって1画素が構成されている。なお、本実施の形態では、評価対象ディスプレイ21が液晶ディスプレイである場合を例に説明するが、評価対象ディスプレイ21は、例えばプラズマディスプレイパネル:PDPなどの他の平面表示装置であってもよい。
【0034】
観視方向階調データ生成手段11は、階調データ生成部23と、測色装置25とを備える。測色装置25は、図示しない移動ステージに取り付けられて評価対象ディスプレイ21の表示面に対して様々な方向から測色が可能である。
図2は(a)に観視方向、(b)に観視方向別データテーブル、(c)に任意観視方向における原色毎かつ表示領域毎の観視方向階調データを表した説明図である。本実施の形態では、図2(a)に示すように、評価対象ディスプレイ21の表示面27に対する任意の方位角φM、表示面27に対する任意の極角(表示面27に立てた垂直線Nに対する角度)θMの方向から測色を行うことが可能となっている。観視方向階調データ生成手段11は、評価対象ディスプレイ21の表示画面位置毎に、それぞれ複数の観視方向に対する観察光の情報を求めて観視方向階調データD(θM,φM)(図2(b)参照)を生成する。生成された観視方向階調データD(θM,φM)は、RGB階調データメモリ29に記憶される。
【0035】
予測観視画像生成手段である画像合成部13は、サンプル画像メモリ31から特定のサンプル画像Aを評価対象ディスプレイ21に映出して任意の方向から観視した場合の予測観視画像Bを、各観視方向階調データD(θM,φM)から解析的に求める。
【0036】
ビデオ信号発生器15は、サンプル画像Aと予測観視画像Bを評価対象ディスプレイ21に上下並列に配置したパターンPTで映出させるとともに、このパターンPTを一定速度vでスクロール表示可能とする。
【0037】
撮像手段17は、撮像カメラ33と、この撮像カメラ33をスクロールの移動速度vに同期して評価対象ディスプレイ21に対して移動させるカメラ移動機構35を備える。撮像手段17は、パターンPTをスクロールに追従させて撮像して評価用画像C(図6参照)を取得する。評価用画像Cは、評価用画像メモリ30に記憶される。カメラ移動機構35は、追従駆動部37によって動画移動方向に駆動制御される。撮像カメラ33がカメラ移動機構35によってスクロール表示と同期して移動されることで、動画表示に伴って刻々と変化するパターンPTの観察光を積分して蓄積した追従撮像画像(評価用画像C)として得られるようになっている。
【0038】
上記した階調データ生成部23、測色装置25、画像合成部13、ビデオ信号発生器15、RGB階調データメモリ29、サンプル画像メモリ31、追従駆動部37は、演算手段としての制御部19に接続されている。制御部19は、CPUとメモリと入出力インターフェースを有したコンピュータ39からなり、上記した階調データ生成部23、画像合成部13は、コンピュータ39の内部メモリに格納された一定処理手順のプログラムにより、その機能を発揮する。
【0039】
制御部19には色差算出部41が接続される。色差算出部41は、後述するように評価用画像Cの色差を算出する。つまり、色差算出部41は、評価用画像C中のサンプル画像Aの領域と予測観視画像Bの領域に対し、双方の領域間で画面内対応位置における色差をそれぞれ求める。制御部19は、求めた色差に基づいて評価対象ディスプレイ21の動画像色再現性の評価値を算出する。色差算出部41の後段には重み付け処理部45が接続され、重み付け処理部45では観視方向に応じて評価値の重み付け処理が施される。そして、重み付け処理された総合評価値を評価結果表示部47に表示する。
【0040】
なお、ディスプレイ評価装置100は、対応位置における色差をそれぞれ観視方向に対応して同一色差値を等高線表示する色差マップ表示部43を備えるものであってもよい。色差マップ表示部43を備えることで、同一色差位置と異なる色差位置とがそれぞれ線によって結ばれた等高線状の画像となって表示され、色差の大小関係と、その大小関係の及ぶ領域とが同時に視覚的に評価可能となる。
【0041】
以上の構成により、ディスプレイ評価装置100では、評価対象ディスプレイ21でサンプル画像Aの任意方向から観視した予測観視画像Bが各観視方向階調データD(θM,φM)から解析的に求められ、評価対象ディスプレイ21にスクロール表示させたサンプル画像Aと予測観視画像Bが追従撮像により評価用画像Cとして取得される。そして、色差算出部41により評価用画像C中のサンプル画像Aと予測観視画像Bの画面内対応位置における色差が求められ、この色差に基づいて制御部19が動画像色再現性の評価値を算出する。
【0042】
したがって、ディスプレイ評価装置100によれば、動きボケと視野角依存性を同時に評価し、液晶ディスプレイなどにおいて、動画表示時の動きボケや視野角に依存する色階調変化(色変動)による表示性能の劣化を総合的に評価することができる。
【0043】
また、コンピュータ39に、上記評価方法を実行させるための各ステップをプログラムとして格納したので、動画像色再現性を評価するために必要となる各観視方向階調データD(θM,φM)、予測観視画像B、評価用画像C、評価値を取得するための複雑な手順が迅速に再現性良く実行可能となる。これにより、動画表示時の動きボケや視野角に依存する色変動による表示性能の劣化を、短時間かつ的確に総合評価できるようになっている。
【0044】
次に、上記構成のディスプレイ評価装置100を用いたディスプレイの評価方法について、さらに詳細に説明する。
図3は本発明に係る評価方法の基本的な手順を表すフローチャート、図4は或る点Pから画像を見たときに規定される観視方向の説明図、図5は或る点Pから見た各表示領域の異なる観視角度を表す説明図である。
評価対象ディスプレイ21の評価を実施するに先立ち、図2及び図3〜図5に示す以下の準備を行う。
【0045】
まず、図3に示すステップ1(以下、S1と略記する)では、図2(a)に示すように、各観視方向からの評価対象ディスプレイ21のRGB階調データを測定する。測色装置25は、図2(b)に示す0〜p°の極角θM、0〜q°の方位角φMによる観視方向で、複数の観視方向に対する観察光の情報を撮像して求めて、観視方向階調データD(θM,φM)を生成する。なお、本実施の形態では一例としてp=89°、q=360°としている。観視方向階調データD(θM,φM)は、図2(c)に示すように、RGB色毎、かつ表示領域(i,j)毎に生成されてRGB階調データメモリ29に記憶される。これにより、評価対象ディスプレイ21の表示画面位置毎に、それぞれ複数の観視方向に対する観察光の情報を求めた観視方向階調データが予め用意されることになる。なお、それぞれの観視方向階調データは、評価対象ディスプレイ21に複数の階調値毎にRGB色をそれぞれ表示させて観察光の情報を求めるため、複数の階調数分の観視方向階調データとなる。
【0046】
つまり、本実施の形態では、観視方向階調データD(θM,φM)は、評価対象ディスプレイ21を原色表示したときの各観視角度からの観察輝度および色度を、表示階調値毎に測定して求めた原色階調データとなる。これにより、観視方向階調データが、複数の原色、すなわち、RGB表示毎の階調データとして得られ、各原色表示色の動画像色再現性の評価が可能となる。
【0047】
次に、S2において、図4に示すように、特定のサンプル画像Aを評価対象ディスプレイ21に映出し、任意の方向から観視した場合の予測観視画像(図6のBに相当)を、観視方向階調データD(θM,φM)から解析的に求める。例えば或る点P(θ,φ)から見た時の表示画面の各(i,j)位置の極角θ,方位角φをθv(i,j),φv(i,j)とする。或る観視点Pが決められると、各(i,j)の位置では図5に示すような、それぞれ異なる観視角度(θv(i,j),φv(i,j))となる。これら観視角度に応じた階調データがRGB階調データメモリ29から参照されて予測観視画像Bが合成される。
【0048】
ここで、図6にスクロール画像とその観察光を積分して蓄積した追従撮像画像の説明図を示した。
S3においては、サンプル画像Aと予測観視画像Bを評価対象ディスプレイ21に図6に示すパターンPTとして並列に表示させ、このパターンPTを一定速度vでスクロール表示させる。そして、S4において、撮像カメラ33によりパターンPTをスクロールに追従させて撮像し、追従撮像画像である評価用画像Cを取得する。この際、スクロール状態にあるサンプル画像Aと予測観視画像Bとを目視によって比較評価して簡便的にディスプレイを評価してもよい。
【0049】
次に、S5において、評価用画像Cにおけるサンプル画像Aの領域と予測観視画像Bの領域に対し、双方の領域間で画面内対応位置における色差をそれぞれ求め、動画像色再現性の評価値を求める。
図7に図3のS5の処理に相当するフローチャートを示した。動画像色再現性の評価値は、評価用画像Cから任意の方法で求めることができるが、ここでは次のように求めることを一例として掲げる。
【0050】
動画像色再現性の評価値は、評価用画像C中のサンプル画像Aの領域と予測観視画像Bの領域との対応位置における色差を領域全体で総和を求め、この総和を領域の大きさで除した平均値とすることができる。これにより、評価対象の領域内に複数存在する色差が一つの平均値として表され、所望の領域全体が簡単な数値として定量評価可能となる。
【0051】
ここで、色差の算出に用いる色空間としては、CIE1976 L色空間、CIE1976 L色空間、またはCIECAM02(Colour Appearance Model 2002)で定義されるLHC空間を使用することができる。CIE1976 L色空間は、比較的小さい色差の算出に用いて好適となる。CIE1976 L色空間は、簡単な式での算出が可能となり、色再現を行う応用時において、微妙な色の差があまり問題とならない。CIECAM02の入力は、対象とする色の三刺激値と観察条件を表わす種々のパラメータである。出力として明るさQ,明度J,色相角h,色相成分H,カラフルネスM,クロマC,飽和度Sが得られる。色差の算出に用いる色空間として、CIECAM02で定義されるLHC空間を使用することで、照明光源やその明るさ等の観察条件によって観察対象の色がどのように変化するかを推定した上での評価が可能となる。
【0052】
まず、色差の算出に先立ち、評価対象ディスプレイ21のRの各階調毎に、X,Y,Z三刺激値fX,R(k),fY,R(k),fZ,R(k)を求める。階調kは1階調毎ではなく、例えば10階調毎に変化させて三刺激値を求めても良い。また、X,Y,Z三刺激値fX,R(k),fY,R(k),fZ,R(k)は、上述した観視方向の全てについて求めておく。
【0053】
次に、同様にして、評価対象ディスプレイ21のGの各階調毎に、X,Y,Z三刺激値fX,G(k),fY,G(k),fZ,G(k)を求める。また、評価対象ディスプレイ21のBの各階調毎に、X,Y,Z三刺激値fX,B(k),fY,B(k),fZ,B(k)を求める。以下では、これらをまとめて測色三刺激値と呼ぶ。
【0054】
これにより、評価対象ディスプレイ21の1つの画素に対し、階調kの関数で示される測色三刺激値が得られる。この測色三刺激値をRGB階調データメモリ29に記憶しておく。
【0055】
評価用画像Cのデータが入力されると、制御部19は、RGB階調データメモリ29から測色三刺激値を取得し、サンプル画像Aと予測観視画像BとのX,Y,Z三刺激値を算出する(S9)。
【0056】
X,Y,Z三刺激値は、以下の式(1)に、画素に表示される色信号r,g,bの各階調を代入することで求める。
X=fX,R(k)+fX,G(k)+fX,B(k)
Y=fY,R(k)+fY,G(k)+fY,B(k) ・・・(1)
Z=fZ,R(k)+fZ,G(k)+fZ,B(k)
【0057】
次に、評価用画像Cが評価対象ディスプレイ21に表示された状態で、サンプル画像Aと予測観視画像Bの対応画素間の色の違いを、色空間内における色差ΔEとして、式(1)で求めた三刺激値を用いて算出する(S10)。
【0058】
図8に色差算出の様子を模式的に表した説明図を示した。色差ΔEは、サンプル画像Aと予測観視画像Bの三刺激値に対して、画面内対応位置同士を照合して、双方の差分をそれぞれ求める。
【0059】
次いで、S11において、サンプル画像内で色差の総和SUM(ΔE)を算出する。そして、S12において、総和SUM(ΔE)をサンプル画像の画素数で除算して評価値Ev(平均色差)を算出する。
【0060】
再び図3に戻り、S6において、全ての観視方向における評価値Evが得られたか否かを判断する。全ての観視方向の評価値Evが得られていないときは、S7で他の角度から観視した予測観視画像Bを合成し、この予測観視画像Bに対する色差を前述同様の処理により求めることを繰り返し行う。
【0061】
全ての観視方向における評価値Evは、図9に色差を観視方向ごとにマトリクス表示した説明図に示すように、極角θと方位角φとの組み合わせで得られる。
次に、これらの評価値Evに対して観視方向の重み付け処理を行い、総合評価値を求める(S8)。
これら観視方向毎の評価値は、重み付け処理部45により重み付け処理される。この場合、重み付け処理の内容は、例えば表示性能が厳格に評価されなければならない正面近傍からの観視方向における評価値には大きい重み付け処理がなされ、表示性能がさほど厳格に評価されない画面上下左右端に近い斜めからの観視方向における評価値には小さい重み付け処理がなされる。これにより、観視方向によって評価基準が変えられ、実効的な評価が可能な評価パラメータが得られる。
【0062】
最後に、得られた総合評価値を、評価結果表示部47(図1参照)に表示する。また、サンプル画像の対応位置における色差を、それぞれ観視方向に対応して同一色差値を等高線表示した色差分布表示用データを求め、色差マップ表示部43に表示させてもよい。この色差分布表示用データは、例えば図10に示すように極角θと方位角φとの極座標表示の形態で等高線表示することができる。このように等高線表示させることで、色差の大小関係と、その大小関係の及ぶ領域とが同時に視覚的に評価可能となる。
【0063】
このように、上記の評価方法では、サンプル画像Aと予測観視画像Bの色差に基づき動画像色再現性の評価値を算出する。この評価値を全ての観視方向について得ることで、動画像色差により動きボケと視野角依存性とが同時に評価可能となる。つまり、見た目の違和感に重要となる動画時のボヤケを含むディスプレイの総合的な視野角変動が評価可能となる。
【0064】
したがって、上記ディスプレイの評価方法によれば、サンプル画像Aを任意の方向から観視した場合の予測観視画像Bを観視方向階調データD(θM,φM)から求め、サンプル画像Aと予測観視画像Bとを同一画面上に映出させてスクロールする。このスクロールさせたサンプル画像Aと予測観視画像Bを追従撮像して評価用画像Cを取得し、サンプル画像Aと予測観視画像Bの双方の画面内対応位置における色差をそれぞれ求め、この色差に基づき動画像色再現性の評価値を算出する。これにより、液晶ディスプレイなどのディスプレイを、動画表示時における観視方向に依存した色階調変化(色変動)による表示性能の劣化を総合的に評価することができる。したがって、従来手法では困難であった疑似輪郭の定量化も可能なり、液晶ディスプレイやPDP等の種々のディスプレイに対して、動画像の色再現評価が容易に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る評価装置の概略構成図である。
【図2】(a)に観視方向、(b)に観視方向別データテーブル、(c)に任意観視方向における原色毎かつ表示領域毎の観視方向階調データを表した説明図である。
【図3】本発明に係る評価方法の基本的な手順を表すフローチャートである。
【図4】或る点Pから画像を見たときに規定される観視方向の説明図である。
【図5】或る点Pから見た各表示領域の異なる観視角度を表す説明図である。
【図6】スクロール画像とその観察光を積分して蓄積した追従撮像画像の説明図である。
【図7】平均色差を算出する手順のフローチャートである。
【図8】平均色差算出の様子を模式的に表した説明図である。
【図9】色差を観視方向毎にマトリクス表示した説明図である。
【図10】同一色差値を等高線表示する色差分布を表す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
11 観視方向階調データ生成手段
13 予測観視画像生成手段
15 ビデオ信号発生手段
17 撮像手段
19 制御部(演算手段)
21 評価対象ディスプレイ
33 撮像カメラ
35 カメラ移動機構
39 コンピュータ
43 色差マップ表示手段
100 ディスプレイ評価装置
A サンプル画像
B 予測観視画像
C 評価用画像
D 観視方向階調データ
PT パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラー画像を表示するディスプレイの動画像表示時における色再現特性を評価するディスプレイの評価方法であって、
評価対象ディスプレイの表示画面位置毎に、それぞれ複数の観視方向に対する観察光の情報を求めた観視方向階調データを予め用意し、
特定のサンプル画像を前記評価対象ディスプレイに映出して任意の方向から観視した場合の予測観視画像を、前記観視方向階調データから解析的に求め、
前記サンプル画像と前記予測観視画像とを前記評価対象ディスプレイに並列に配置したパターンで映出させるとともに、該パターンを一定速度でスクロール表示させ、
前記パターンを前記スクロールに追従させて撮像して評価用画像を取得し、
前記評価用画像中の前記サンプル画像の領域と前記予測観察画像の領域に対し、双方の領域間で画面内対応位置における色差をそれぞれ求め、
前記色差に基づいて前記ディスプレイの動画像色再現性の評価値を算出するディスプレイの評価方法。
【請求項2】
請求項1記載のディスプレイの評価方法であって、
前記動画像色再現性の評価値が、前記評価用画像中の前記サンプル画像の領域と前記予測観察画像の領域との対応位置における色差を領域全体で総和を求め、該総和を前記領域の大きさで除した平均値であるディスプレイの評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のディスプレイの評価方法であって、
前記動画像色再現性の評価値が、観視方向に対応して重み付け処理した評価値であるディスプレイの評価方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のディスプレイの評価方法であって、
前記観視方向階調データが、前記評価対象ディスプレイを原色表示したときの各観視角度からの観察輝度および色度を、表示階調値毎に測定して求めた原色階調データであるディスプレイの評価方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のディスプレイの評価方法であって、
前記対応位置における色差を、それぞれ前記観視方向に対応して同一色差値を等高線表示した色差分布表示用データを求めるディスプレイの評価方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項記載のディスプレイの評価方法であって、
前記色差の算出に用いる色空間として、CIE1976 L色空間を使用するディスプレイの評価方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか1項記載のディスプレイの評価方法であって、
前記色差の算出に用いる色空間として、CIE1976 L色空間を使用するディスプレイの評価方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項記載のディスプレイの評価方法であって、
前記色差の算出に用いる色空間として、CIECAM02で定義されるLHC空間を使用するディスプレイの評価方法。
【請求項9】
カラー画像を表示するディスプレイの動画像表示時における色再現特性を評価するディスプレイ評価装置であって、
評価対象ディスプレイの表示画面位置毎に、それぞれ複数の観視方向に対する観察光の情報を求めて観視方向階調データを生成する観視方向階調データ生成手段と、
特定のサンプル画像を前記評価対象ディスプレイに映出して任意の方向から観視した場合の予測観視画像を、前記各観視方向階調データから解析的に求める予測観視画像生成手段と、
前記サンプル画像と前記予測観視画像とを前記評価対象ディスプレイに並列に配置したパターンで映出させるとともに、該パターンを一定速度でスクロール表示させるビデオ信号発生手段と、
前記パターンを前記スクロールに追従させて撮像して評価用画像を取得する撮像手段と、
前記評価用画像中の前記サンプル画像の領域と前記予測観察画像の領域に対し、双方の領域間で画面内対応位置における色差をそれぞれ求め、前記色差に基づいて前記ディスプレイの動画像色再現性の評価値を算出する演算手段と、
を備えたディスプレイの評価装置。
【請求項10】
請求項9記載のディスプレイの評価装置であって、
前記撮像手段が、撮像カメラと、該撮像カメラを前記スクロールの移動速度に同期して前記評価用ディスプレイに対して移動させるカメラ移動機構と、
を備えたディスプレイの評価装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10記載のディスプレイの評価装置であって、
前記対応位置における色差をそれぞれ前記観視方向に対応して同一色差値を等高線表示する色差マップ表示手段を備えたディスプレイの評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−157219(P2009−157219A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337190(P2007−337190)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】