説明

ディーゼル動車駆動装置の制御システム

【課題】目標エンジン動作点を設定し、実エンジン動作点が目標エンジン動作点上を追従するようにインバータ装置を制御することにより、排出ガス低減や燃料消費量の低減を図ることができる電気式ディーゼル動車駆動装置を提供する。
【解決手段】エンジン制御装置においては、インバータ装置の消費電力を含む消費電力合計値「ΣP」26とエンジン動作点「P(n)」28の情報とを比較し、エンジン動作点(消費電力合計値「ΣP」26に対応)がP(n)±δの範囲に収まっていない場合には、エンジン回転数指令部からのエンジン回転数指令値を調整して、エンジン動作点が所望の動作点範囲内(P(n)±δpの範囲内)となるようなエンジン回転数指令調整値「n**」24を生成し、エンジンへ伝達する。エンジン出力の時間応答は、インバータ制御装置へ入力され、インバータ装置の交流電力で駆動する主電動機のトルクを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、エンジンにより駆動される発電機と、発電機の出力する交流電力を直流電力へ変換するコンバータと、直流電力を変換して交流電力を生成するインバータ装置と、生成された交流電力で駆動されて車両を推進させる主電動機とを備え、エンジン動作点に応じてエンジンとインバータとを制御する電気式ディーゼル動車駆動装置の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
全世界的な環境負荷低減に向けての動きから、エンジン、特に石油や天然ガスに由来する燃料を燃焼させて使用するエンジンに対する低燃費要求、排出ガスに関する規制は厳しくなる方向である。これに対して、近年の技術革新に伴い、エンジンの燃焼最適化や排出ガス後処理技術の開発、電子制御の採用などによって、エンジン単体としての性能は大幅に向上してきている。
【0003】
一方、エンジンの高性能化に伴い、エンジンが吹き上がる際の応答性能や、定常状態での動作点などに制約がある場合もでてきており、エンジン制御としても過渡状態、定常状態を問わず、今まで以上に極め細やかな動作点管理が必要となってきている。
【0004】
電気式ディーゼル動車駆動装置にあっては、駆動力を与えるエンジン出力と、インバータ装置及び補助電源装置等のエンジンによって駆動される発電機が電力を供給する先の装置が担う全ての負荷とをバランスさせることが求められる。このような出力と負荷とのバランスを達成・維持するには、エンジンの回転数制御とインバータ装置及び補助電源装置の出力制御との間で緊密な協調制御を図り、エンジンの極め細やかな動作点管理を行う必要がある。
【0005】
また、負荷の急激な増加による過負荷とエンジンストールを回避するために、素早い負荷制限や負荷遮断などの制御も必要となる。更に、電気式ディーゼル動車については、エンジンの応答性能が列車の加速性能や運転時分に影響することから、前記のエンジン動作点を守りつつ、エンジンの応答性能を十分に活用しながら、エンジン出力とインバータ装置の負荷及び補助電源装置の負荷との協調を図る必要がある。
【0006】
電気式ディーゼル機関車を対象にして、エンジンの応答性を考慮し、エンジンストールを回避するために車両負荷がエンジン出力を超えないよう主電動機トルクを制御する発明の一例として、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1に開示された内燃機関型電気機関車用制御装置は、ノッチ信号によって決まるエンジン目標回転数N1と現在の回転数N2を用いた回転数の関数によって主電動機トルク指令値を制限する構成となっている。即ち、主幹制御器から出力されるノッチ指令に従って、エンジン回転数指令発生器がディーゼルエンジンの回転数指令値をディーゼルエンジンに出力し、これら主幹制御器やエンジン回転数指令発生器の出力及びディーゼルエンジンの実回転数信号の入力を受けた強調制御部がエンジン回転数に合致したトルク指令値を出力し、このトルク指令値とトルク制限値との入力を受けたトルク指令制限器が上限が制限されたトルク指令値をインバータ制御装置に出力することにより、インバータ装置側が負荷を取りすぎないように制御し、それによって、エンジンの吹き上がりよりも負荷の増加が速くならないようにフィードフォワード的に制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−115907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の内燃機関型電気機関車用制御装置における制御方式では、エンジンが目標回転数に到達するまでの過渡状態において、インバータ負荷がエンジン出力を超えないように制御することはできるが、目標回転数に到達するまでの動作点については指定することが難しい。特に、ノッチを徐々に進段させるのではなく、最初から主幹制御器において最大ノッチに入れるなどの場合、エンジンの実際の動作点は、理想の動作点から大きく外れる懸念がある。また、特許文献1に開示されている構成では、ノッチ信号に応じてエンジン回転数が一対一に対応しており、ノッチ信号が同じ値を取る定常状態の場合でも、補助電源負荷に変動などが生じると、エンジンの動作点が変動し、理想的な動作点から外れて駆動される可能性がある。
【0009】
そこで、電気式ディーゼル動車駆動装置にあっては、エンジンの動作状態が排出ガスや燃料消費量の低減等の観点から所望の動作点上での動作となるように、エンジンとインバータ装置とについて極め細やかな協調した動作点管理を行う点で解決すべき課題がある。
本発明の目的は、エンジンの定常状態及び過渡状態での動作点管理に重点を置き、例えば排出ガスや燃料消費量の低減などの観点から所望の動作点上でのエンジンの動作制御を可能にするディーゼル動車駆動装置の制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるディーゼル動車駆動装置の制御システムは、エンジンと、前記エンジンにより駆動される発電機と、前記発電機の出力する交流電力を直流電力へ変換するコンバータと、車両を推進させる主電動機と、前記直流電力を変換して交流電力を生成して前記主電動機を駆動するインバータ装置とを備える列車制御システムであって、前記エンジンの制御目標となるエンジン動作点を予め設定し、前記エンジンの実動作点が前記設定されたエンジン動作点に追従するように前記インバータ装置を制御することを特徴としている。
【0011】
前記課題を解決するため本発明の望ましい態様の一つは、所望のエンジン動作点を予め設定し、エンジン回転数が上昇する際には、前記エンジン動作点からエンジン出力時間変化量dP/dtを計算し、インバータ装置において、前記エンジン出力時間変化量dP/dtに基づいて主電動機トルク指令値を制御することで、応答性能を犠牲にすることなく、所望のエンジン動作点に沿って出力が立上ることを可能にすることを特徴とする列車制御システムである。また、定常状態においては、列車全体のインバータ装置負荷、補助電源装置負荷を監視することで、負荷変動などによって所望のエンジン動作点とずれが生じても、予め設定したエンジン動作点上で駆動されるよう、エンジン回転数指令を調整する機能を有することを特徴とする列車制御システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ノッチ進段による過渡的なエンジン出力上昇時や、定常状態での負荷変動などによるエンジン出力変動などの際にも、エンジン応答性能を犠牲にせず、所望のエンジン動作点上でエンジンを制御することができ、エンジン排気悪化の防止や最適燃費点での運転が可能となる。また、所望のエンジン動作点の他にエンジン動作点上限値およびエンジン出力リミッタを設定することで、急激な負荷上昇が発生してエンジンの動作点が前記の動作点を超過した場合に、インバータ装置負荷もしくは補助電源装置負荷を速やかに制限もしくは遮断することでエンジンストールを回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるディーゼル動車駆動装置の制御システムにおける一実施形態の機器構成、制御構成を示す図である。
【図2】エンジン動作点管理部におけるエンジン動作点を示すブロック図である。
【図3】エンジン動作点調整部における動作点調整方法を示す図である。
【図4】エンジン動作点調整部でのエンジン回転数調整値の処理を示す図である。
【図5】エンジン動作点調整部での過負荷時の処理を示す図である。
【図6】エンジン応答特性管理部での処理を示す図である。
【図7】インバータ制御装置における一実施形態の制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明によるディーゼル動車駆動装置の制御システムの実施形態について説明をする。
【0015】
図1は本発明における第一のシステム実施形態を示す図である。
車両1に搭載されたエンジン2の出力軸は発電機3の入力軸に接続され、発電機3によって発電された交流電力はコンバータ装置4によって一定電圧の直流電力に変換される。その直流電力は、一台又は複数台のインバータ装置(ここではインバータ装置5で代表する)、及び一台又は複数台の補助電源装置(ここでは補助電源装置7で代表する)に供給される。インバータ装置5は、一台又は複数台の主電動機6A,…6Nを駆動し、車両を推進する電気式ディーゼル動車の主回路構成となっている。この主回路を駆動する制御装置は、エンジン制御部9、コンバータ制御装置10、補助電源制御装置11及びインバータ制御装置12から構成されている。
【0016】
図1は、単一の車両1に全ての装置が搭載された電気式ディーゼル機関車と同様の構成で記述しているが、各装置を複数の車両に分散搭載する構成も可能である。この場合、車両間を跨ぐ複数機器の信号伝送については、配線の引通しによる伝送も可能であるが、車両制御装置を媒介した構成も可能である。
【0017】
次に各制御装置の動作について説明する。
エンジン制御部9では、まず、エンジン回転数指令生成部18が,運転台8からのノッチ信号「N」22を受けて、ノッチ信号「N」22に対応したエンジン回転数指令値「n*」23を生成する。次に、エンジン動作点調整部19では、詳細については後述するが、当該エンジン回転数指令値「n*」23、データベース機能としてエンジンの特性を記憶しているエンジン動作点管理部20からの必要エンジン回転数「np」27、エンジン動作点「P(n)」28、消費電力計算部38からの消費電力合計値「ΣP」26の情報を用いて、エンジンが所望の動作点上で駆動されるように、エンジン回転数調整値「n**」24をエンジン2へ出力する。エンジン2は、当該エンジン回転数調整値「n**」24を目標値として定回転数制御を行う。逆に、エンジン2からは、実エンジン回転数「n」25がエンジン制御部9に入力される。
【0018】
ノッチ信号「N」22の上昇などによりエンジン回転数が上昇する場合に、エンジン動作点管理部20では、実エンジン回転数「n」25でのエンジン出力回転数変化率「dP(n)/dn」31、即ち、記憶しているエンジンの特性からエンジン出力P(n)の当該「n」25について微分して実エンジン回転数「n」25における変化率を計算してエンジン応答特性管理部21へ出力する。エンジン応答特性管理部21では、実エンジン回転数「n」25及びエンジン出力回転数変化率「dP(n)/dn」31の入力を受けて、当該実エンジン回転数「n」25でのエンジン時間応答特性を用いて、エンジン出力時間変化率「dP(n)/dt」32を計算し、当該エンジン出力時間変化率「dP(n)/dt」32をインバータ制御装置12へ伝達する。
【0019】
エンジン動作点調整部19は、エンジン動作点管理部20からの、エンジン動作点上限値「Po(n)」29及びエンジン出力リミッタ値「Pm(n)」30と、消費電力計算部38からの消費電力合計値「ΣP」26の情報を用いて、エンジンの動作点が過負荷の上限を超えた場合に、インバータ制御装置12に対して、所望の動作点に戻すのに適切な負荷制限指令「ΔP」33を与える機能も有している。エンジン動作点調整部19は、また、エンジンの動作点がエンジン出力リミッタ値「Pm(n)」30に達した場合に、編成内の一部又は全てのインバータ装置、若しくは補助電源装置の特定負荷に対して、負荷遮断指令「K」34を伝達する機能も有している。
【0020】
次にコンバータ制御装置の動作について説明する。
コンバータ制御装置10は、運転台8からのノッチ信号「N」22、エンジン2からの実エンジン回転数「n」25、発電機電流検出器13からの発電機電流検出値「I」35及び直流電圧検出器14からの直流電圧検出値「Ecf」37に基づいて、コンバータ装置4の直流出力電圧を負荷状態によらず一定に制御するように、コンバータ装置駆動信号「PWMc」36によってコンバータ装置4を駆動する。
【0021】
図1は自励式の交流発電機3とコンバータ装置4の構成として記載しているが、励磁回路を有する巻線型同期発電機とダイオード整流器の場合でも対応可能である。この場合、直流電圧検出器14からの直流電圧検出値「Ecf」37に基づき、巻線型同期発電機の励磁電流を調整することで、コンバータ制御装置10と同等の直流電圧一定制御が同様に実現可能である。
【0022】
次に補助電源制御装置の動作について説明する。
補助電源制御装置11は、補助電源装置7に対して補助電源装置駆動信号「PWMa」42を出力し、補助電源装置7は、当該補助電源装置駆動信号「PWMa」42を受けて、その出力が一定電圧、一定周波数の交流電圧となるように駆動される。また、補助電源入力電流検出器17からの補助電源入力電流検出値「IAPS」41と、直流電圧検出器14からの直流電圧検出値「Ecf」37に基づいて、補助電源装置消費電力「PAPS」39を演算し、消費電力計算部38へ伝達する。また、エンジン2の動作点が出力リミッタ値「Pm(n)」30に達した場合に、エンジン制御部9から負荷遮断指令「K」34が補助電源制御装置11に伝達される。補助電源制御装置11では、当該指令Kを受けて、遮断が可能な特定負荷があれば、当該の負荷に対して遮断指令を出力し、エンジンの負荷軽減を実現する。
【0023】
次にインバータ制御装置12の動作について説明する。
インバータ制御装置12においては、主電動機トルク指令生成部44は、運転台8からのノッチ信号「N」22と、主電動機6A,…6Nから得られる主電動機回転数検出値「fr」53から計算される車両速度から、対応する主電動機トルク指令値「T*」54を生成する。主電動機トルク指令生成部44から主電動機トルク指令値「T*」54を受ける主電動機トルク指令調整部45は、詳細については後述するが、エンジン出力が上昇する際には、主電動機トルク変化率計算部48からの主電動機トルク時間変化率「dT/dt」57によって、主電動機トルク指令値「T*」54を制御することで、主電動機トルク指令調整値「T**」55を生成し、エンジン動作点が過負荷状態となった際には、主電動機トルク絞り量計算部43からの主電動機トルク絞り量「ΔT」58によって、主電動機トルク指令値「T*」54を制御することで、主電動機トルク指令調整値「T**」55を生成する。
【0024】
インバータベクトル制御演算部46は、前記した主電動機トルク指令調整値「T**」55に基づいてインバータ装置駆動信号「PWMi」51を生成し、当該駆動信号「PWMi」51によりインバータ装置5を駆動する。主電動機トルク計算部47では、主電動機電流検出器16から得られる主電動機電流検出値「I」52と、主電動機6A,…6Nから得られる主電動機回転数検出値「fr」53から主電動機トルク「T」56を計算し、主電動機トルク変化率計算部48ではエンジン制御部9から伝達されるエンジン出力時間変化率「dP(n)/dt」32と、主電動機トルク計算部47からの主電動機トルク「T」56から、主電動機トルク時間変化率「dT/dt」57を生成する。
【0025】
主電動機トルク絞り量計算部43では、詳細については後述するが、エンジン動作点が過負荷状態となった際に、エンジン制御部9から伝達される負荷制限指令「ΔP」33と、電動機6A,…6Nから得られる主電動機回転数検出値「fr」53から、主電動機トルク絞り量「ΔT」58を生成する。
【0026】
エンジン動作点が出力リミッタに達した場合には、エンジン制御部9から伝達される負荷遮断指令「K」34を保護動作指令として伝送し、インバータベクトル制御演算部46でインバータ装置駆動信号「PWMi」51を即時遮断することで、エンジン2の速やかな負荷低減を実現し、エンジンストールを回避することが可能である。
【0027】
インバータ制御装置12の消費電力計算部49では、インバータ入力電流検出器15からのインバータ入力電流検出値「IINV」50と、直流電圧検出器14からの直流電圧検出値「Ecf」37とに基づいて、インバータ装置消費電力「PINV」40を演算し、消費電力計算部38へ伝達する。
【0028】
消費電力計算部38では、エンジンによって駆動される発電機が電力を供給する、編成内の全てのインバータ装置(インバータ装置5で代表する)、全ての補助電源装置(補助電源装置装置7で代表する)、及びエンジン補機96のエンジン補機動力「PAUX」97の消費電力を足し合わせ、消費電力合計値「ΣP」26を演算し、エンジン制御部9へ伝達する。
【0029】
以上のように、本発明であるディーゼル動車駆動装置の制御システムによれば、所望のエンジン動作点を設定し、エンジン制御装置9とインバータ制御装置12との間で、エンジン出力時間変化率「dP(n)/dt」32、負荷低減指令「ΔP」33、負荷遮断指令「K」34、消費電力合計値「ΣP」26を相互に伝達することで、所望のエンジンの動作点を予め設定し、その動作点にエンジンが追従するようにインバータ装置を制御することが可能となる。また、エンジンの動作点について上限値及び出力リミッタを設定し、エンジンの動作点を監視しているので、急激な負荷上昇が発生したことによってエンジンの動作点がその上限値及び出力リミッタを超過した場合には、インバータ装置の負荷を制限又は遮断し、補助電源装置の特定負荷を遮断することで、エンジンストールを回避し、所望の動作点へ速やかに復帰させることが可能な列車制御システムを実現できる。
【0030】
図2は本発明によるディーゼル動車駆動装置の制御システムにおけるエンジン動作点管理部20の一構成例を示す図である。
【0031】
エンジン動作点管理部20においては、エンジン2の出力範囲内で所望のエンジン動作点「P(n)」28がエンジン出力Pとエンジン回転数nとの関係で設定されている。一例として、車両駆動用エンジンの中には、エンジン出力がエンジン回転数の累乗の関係となるよう動作点を設定するよう指定されたものも存在する。また、エンジン動作点管理部20には、エンジン応答が追いつかない急激な負荷上昇が発生した際に、エンジンストールを発生させないように、エンジン動作点上限値「Po(n)」29と、エンジン出力リミッタ「Pm(n)」30とが同様に設定されている。エンジン出力リミッタ「Pm(n)」30は、エンジンストール寸前の動作点(特性線)を示しており、エンジン動作点上限値「Po(n)」29はその手前の状態の動作点を示している。エンジン動作点「P(n)」28については、例えば燃費最小となる動作点とすれば燃料消費量の低減が可能であり、排気負荷が最小となる動作点とすれば環境性能を重視したエンジン制御が実現可能であり、設定に自由度を有することが特徴である。
【0032】
エンジン動作点管理部20では、実エンジン回転数「n」25を元に、対応するエンジン動作点出力「P(n)」28、エンジン動作点上限値「Po(n)」29、エンジン出力リミッタ「Pm(n)」30を出力すると同時に、実エンジン回転数「n」25におけるエンジン動作点の出力変化率「dP(n)/dn」31を計算する機能を有している。エンジン動作点管理部20は、また、消費電力合計値「ΣP」26に基づいて、エンジン動作点「P(n)」28の逆関数から必要エンジン回転数np(=P−1(ΣP)を計算する機能も有している。ここで、エンジン出力回転数変化率「dP/dn」31と実エンジン回転数「n」25の関係を別途設定することで、エンジン動作点の逐次微分計算を無くし、計算負荷低減を図ることも可能である。これらの動作点設定はテーブルで与える構成や、近似多項式で与える構成などが考えられるが、同等の入出力を提供するのであれば種類は問わない。
【0033】
また、エンジン動作点をエンジン出力Pとエンジン回転数nとの関係で設定するとしたが、エンジン出力と車両構成から一定の関係で導き出されるエンジン、インバータ装置、主電動機に関する諸量で表記することも可能である。
【0034】
すなわち、本発明によると、例えば燃費最小となる動作点や、排気負荷が最小となる動作点など、目的に応じてエンジン動作点を設定でき、所望の動作点上でエンジンを制御できるディーゼル動車駆動装置の制御システムが構築可能である。
【0035】
図3は本ディーゼル動車駆動装置の制御システムにおけるエンジン動作点調整部19での動作点調整の一例を示した図である。
【0036】
エンジン動作点調整部19は、エンジン動作点管理部20に設定した、所望のエンジン動作点(目標エンジン動作点)「P(n)」28に対して、制御目標の領域がP(n)±δpとなるようエンジン動作点出力変動幅「δp」59を設定する。
【0037】
エンジン動作点調整部19では、消費電力計算部38からの消費電力合計値「ΣP」26と、エンジン動作点管理部20からのエンジン動作点「P(n)」28の動作点情報を比較し、エンジン動作点(消費電力合計値「ΣP」26に対応)がP(n)±δの範囲に収まっていない場合(消費電力合計値「ΣP」26と、変動幅「δp」59を考慮したエンジン動作点「P(n)」28との間に見合わない差異がある)には、エンジン回転数指令部18からのエンジン回転数指令値「n*」23を調整して、エンジン動作点が所望の動作点範囲内、即ち、P(n)±δpの範囲内となるようなエンジン回転数指令調整値「n**」24を生成し、エンジン2へ伝達する。なお、エンジン動作点回転数変動幅δn74は、エンジン動作点「P(n)」28に対して、エンジン回転数指令調整値「n**」24と実エンジン回転数「n」25との比較において、両者の間の偏差が許容される予め設定した設定値である。
【0038】
エンジン動作点調整部19で考えられる動作モードは図3の(a)〜(d)に対応した下記の4通りである。
(a):所望のエンジン動作点の範囲内でエンジンが制御されている場合、現状のエンジン回転数指令調整値「n**」24を維持する。
(b):所望のエンジン動作点「P(n)」28よりも消費電力合計値「ΣP」26が小さいため、所望のエンジン動作点の範囲内(P(n)±δp)となるようにエンジン回転数指令調整値「n**」24を下げるよう制御する場合。
(c):所望のエンジン動作点「P(n)」28よりも消費電力合計値「ΣP」26が大きいため、所望のエンジン動作点の範囲内(P(n)±δp)となるようにエンジン回転数指令調整値「n**」24を上げるよう制御する場合。
(d):所望のエンジン動作点「P(n)」28よりも消費電力合計値「ΣP」26が大きく、かつ、エンジン最大出力を超えているので、所望のエンジン動作点の範囲内となるようインバータ装置12に負荷制限指令「ΔP」33を伝達し、所望のエンジン動作点の範囲内となるよう制御する場合。
【0039】
すなわち、本ディーゼル動車駆動装置の制御システムによると、定常状態においてインバータ装置5や補助電源装置7に負荷変動が生じた場合や、エンジン回転数上昇中や上昇完了後に、所望のエンジン動作点と実際の動作点に差異が生じる場合でも、エンジン回転数指令調整値「n**」を調整することで、所望のエンジン動作点上での制御を可能とする制御システムが構築可能である。
【0040】
図4は本ディーゼル動車駆動装置の制御システムにおけるエンジン動作点調整部19での、エンジン動作点を調整する際のフローチャートの一構成例を示した図である。エンジン動作点調整部19は、後述するように、入力部60、比較部61〜65、処理部66〜71及び出力部72,73を備えている。
【0041】
まず、入力部60においては、実エンジン回転数をn、エンジン回転数指令をn*、消費電力合計値をΣP、必要エンジン回転数をnp(=P-1(ΣP);Pの逆関数で消費電力合計値がΣPであるときのエンジン回転数np)とする。また、図示していないが、エンジン動作点回転数変動幅をδnとし、エンジン動作点出力変動幅をδpとする。
比較部61では、運転台8からのノッチ信号「N」22に対応してエンジン回転数指令部生成部18で生成されたエンジン回転数指令値「n*」23が変化したかどうかを演算周期毎に判定する。
エンジン回転数指令値「n*」23が変化した場合には、処理部66にて、当該変化した指令値「n*」23がエンジン回転数指令調整値「n**」24とされ、当該エンジン回転数指令調整値「n**」24が出力部72からエンジン2に入力される。このように、ノッチ信号「N」22が変化すると、それに対応したエンジン回転数指令「n*」23が優先的にエンジン回転数指令調整値「n**」24に反映される。比較部61において、エンジン回転数指令「n*」23に変化がない場合は、次の比較部62へ移行する。
【0042】
比較部62では、エンジン回転数指令調整値「n**」24と実エンジン回転数「n」25を比較して、両者の偏差が予め設定した設定値であるエンジン動作点回転数変動幅δn74(図3参照)より大きいか否かが判定される。両者の偏差がエンジン動作点回転数変動幅δn74よりも大きい(比較判断が「NO」)場合には、大きな指令調整値「n**」24に実エンジン回転数「n」25が追いついていない、即ち、エンジンが吹き上がっていない状態と判断し、処理部67にてエンジン回転数指令「n*」がエンジン回転数指令調整値「n**」とされて、出力部72からエンジン2へ直接渡す。
一方、両者の偏差がエンジン動作点回転数変動幅「δn」74よりも小さい場合には、エンジンの応答が完了した状態(エンジンが回転数指令調整値に従って吹き上がった)と判断して、次の比較部63へ移行する。
【0043】
比較部63では、消費電力計算部38からの消費電力合計値「ΣP」26と、エンジン動作点管理部20からのエンジン動作点「P(n)」28とを比較して、両者の偏差が予め設定したエンジン動作点出力変動幅「δp」59(図3参照)よりも小さい場合には、エンジン動作点が所望の動作点変動範囲P(n)±δpに収まっていると判断できるので、処理部68にて現在のエンジン回転数指令調整値(前回値)「n**」24を維持し、出力部72からエンジン2へ渡される。
一方、両者の偏差がエンジン動作点出力変動幅「δp」59よりも大きい場合には、次の比較部64へ移行する。
【0044】
比較部64では、消費電力計算部38からの消費電力合計値「ΣP」26と、エンジン動作点管理部20からのエンジン動作点変動幅の下限値P(n)−δpとを比較して、消費電力合計値「ΣP」26の方が小さい場合には、実際のエンジン動作点が所望のエンジン動作点出力変動幅を下回っていると判断して、処理部69にて、消費電力合計値「ΣP」26に見合った必要エンジン回転数np=P−1(ΣP)をエンジン回転数指令調整値「n**」24として設定し、出力部72からエンジン2へ渡される。これにより、実エンジン回転数「n」25は低下し、エンジン動作点領域内で駆動されることとなる。
一方、比較部64において、消費電力合計値「ΣP」26が、エンジン動作点出力変動幅の下限値P(n)−δpよりも大きい場合、即ち、比較部63での判別結果と併せると、消費電力合計値「ΣP」26が、エンジン動作点出力変動幅の上限値P(n)−δpよりも大きい場合には、所望のエンジン動作点出力範囲内でエンジンを駆動するためには、エンジン回転数の上昇が必要となる。
【0045】
比較部65では、実エンジン回転数「n」25がエンジン最大回転数「nmax」75と等しいか判別する。
両者が等しくない場合は、エンジン回転数を上昇させることが可能であるので、処理部70にて、エンジン動作点管理部からの必要エンジン回転数「np=P-1(ΣP)」27を、エンジン回転数指令調整値「n**」として設定するが、ここで、必要エンジン回転数「np」27がエンジン最大回転数「nmax」75を超過しないよう、両者の最小値をエンジン回転数指令調整値「n**」24として設定し、出力部72からエンジン2へ渡される。
【0046】
一方、実エンジン回転数「n」25がエンジン最大回転数「nmax」75と等しくなっても、更に消費電力合計値「ΣP」26がエンジン最大回転数「nmax」75でのエンジン動作点出力変動幅の上限値P(n)+δpよりも大きい場合は、処理部71にて偏差分P=ΣP−P(nmax)を算出し、出力部73にてインバータ装置への負荷制限指令「ΔP」33として伝達してエンジン出力を減らすことで、エンジン動作点を所望のエンジン出力変動幅P(n)±δp内に調整する。
ここでは所望のエンジン動作点上でのエンジン制御を重視して処理部71を記載したがが、エンジン最大回転数「nmax」75でのエンジン動作点P(nmax)±δpとエンジン最大出力との間に出力の余裕がある場合は、所望のエンジン動作点は外れるが、エンジン最大出力まではインバータ装置の負荷を低減しないでエンジンを制御することも可能である。
【0047】
図5は本ディーゼル動車駆動装置の制御システムにおけるエンジンに過負荷が発生した際のエンジンとインバータ装置の一制御例を示した図である。
【0048】
図5の左側(a)に示すように、時刻0での実エンジン回転数76をn、時刻0でのエンジン出力制限値78をPo(n)、インバータ制御装置12への時刻0での負荷制限量80をP、時刻0での消費電力合計値82をΣP、時刻0での必要エンジン回転数84をnpとする。また、時刻kでの実エンジン回転数77をn、時刻kでのエンジン出力制限値79をPo(n)、インバータ制御装置12への時刻kでの負荷制限量81をP、時刻kでの消費電力合計値83をΣPとする。
【0049】
ここで、時刻0にて補助電源装置7の急激な負荷増加などによってエンジン出力が急増して、時刻0での消費電力合計値「ΣP」82が、時刻0でのエンジン出力制限値「Po(n)」78を超過した場合、エンジン動作点管理部20からの時刻0での必要エンジン回転数「np(=P-1(ΣP))」84をエンジン回転数指令調整値「n**」24として与え、所望の動作点上にて時刻0での消費電力合計値「ΣP」82を出力することが可能な動作点まで回転数上昇指令を出す。このままではエンジン回転数上昇完了までの間、所望のエンジン動作点から外れて制御されることとなるので、時刻0において、所望のエンジン動作点まで戻すのに必要な負荷制限指令を、
ΔP=ΣP−Po(n)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
によって演算し、インバータ装置12にて時刻0での負荷制限指令「ΔP」80を基に主電動機トルク指令値「T*」54を制限する。これによってエンジンは速やかに過負荷領域から所望の動作点上へと回復するが、その後は、エンジン回転数の上昇に伴い、エンジンが出力できる動作点上の出力が増加するので、時刻kにおいては、下記(2)式に従って、インバータ装置12への時刻kでの負荷制限指令「ΔP」81を徐々に小さくしていく。
ΔP=ΔPk−1−{P(n)−ΣPk−1}・・・・・・・・・・・・(2)
【0050】
これによってエンジン出力に過負荷が生じた場合、インバータ装置5の負荷制限を行うことで、速やかにエンジン動作点上まで負荷制限を行い、所望のエンジン動作点へと復帰させた後は、所望のエンジン動作点に沿ってインバータ制御装置12の負荷制限を徐々に解除していく。時刻kでの負荷制限量「P」81が0になった時点で、一連のリミッタ動作は完了し、エンジン回転数指令調整値「n**」24を現在の実エンジン回転数「n」25の値に置き換え、エンジン回転数を保持する。
【0051】
上記のエンジン過負荷抑制に代えて、簡易なエンジン過負荷抑制制御として、式(1)を基にインバータ制御装置12に時刻0での負荷制限指令「P」80を伝送して負荷制限をした後、インバータ制御装置12において、エンジン応答時間を考慮して負荷制限量を一定の割合で小さくしていく制御方法などがある。この方法によると、エンジン回転数の上昇中は所望のエンジン動作点からは、ややずれることになるが、式(2)のような逐次計算が不要になるなど計算を簡略化できるメリットがある。
【0052】
補助電源装置7やインバータ装置5での負荷増加が大きく、エンジン動作点管理部20に予め設定したエンジン出力制限値「Po(n)」29を超過し、更にエンジン出力リミット「Pm(n)」30に達した場合には、過負荷によるエンジンストールの懸念がある。これを避けるため、エンジン動作点調整部19は、エンジン2により駆動される発電機3が電力を供給する、編成内の全て又は一部のインバータ装置5、若しくは補助電源装置7の特定負荷に対して負荷遮断指令「K」34を伝達し、これを受けたインバータ制御装置12又は補助電源制御装置11は即座に負荷遮断の保護動作を行う。
これによりエンジンストールを回避し、所定のリセット操作をすることで運転継続を可能にする。
【0053】
一方、図5の右側(b)に示すように、エンジン本体が所望の動作点を有し、負荷状態を認識する機能を有し、外部に状態信号(ロードシグナル「S」85)を供給することができるエンジンである場合、ロードシグナル「S」85を用いて、同等の負荷抑制機能、負荷遮断機能を実現することができる。所望のエンジン動作点「P(n)」28に対応するロードシグナル1「S1」86、エンジン動作点上限値「Po(n)」29に対応するロードシグナル2「S2」87、エンジン出力リミッタ値「Pm(n)」30に対応するロードシグナル3「S3」88とすると、エンジン動作点調整部19にてロードシグナル1「S1」86、ロードシグナル2「S2」87、ロードシグナル3「S3」88の閾値を設定し、通常はエンジンから伝達されるロードシグナル「S」がロードシグナル1「S1」86となるようエンジン回転数調整値「n**」24を制御する。エンジンから伝達されるロードシグナル「S」がロードシグナル2「S2」87を超過した場合には、ロードシグナル1「S1」86から超過分のロードシグナル量から負荷制限指令「ΔP」33を生成し、また、エンジンから伝達されるロードシグナル「S」がロードシグナル3「S3」88を超過した場合には、負荷遮断指令「K」34を生成し、インバータ装置12へ伝達することで、前記のエンジン動作点管理部20を用いた制御と同等の機能を実現できる。
【0054】
即ち、本ディーゼル動車駆動装置の制御システムによると、急激な負荷上昇が発生して、エンジンの動作点がエンジンの動作点上限値を超過した場合に、インバータ装置の負荷制限を行うことで、所望の動作点へ速やかに復帰させることが可能で、また、エンジンの動作点が出力リミッタを超過した場合に、全て又は一部のインバータ装置、若しくは補助電源装置の特定負荷を遮断することで、エンジンストールを回避することが可能な制御システムを実現できる。
【0055】
図6は本ディーゼル動車駆動装置の制御システムにおけるエンジン応答特性管理部21の一構成例を示す図である。
【0056】
エンジン応答特性管理部21には、エンジン固有の特性として、エンジン動作点管理部20に設定した所望のエンジン動作点「P(n)」28でエンジンを制御した際の、エンジン回転数と応答時間特性89を設定し、実エンジン回転数「n」25に対応するエンジン回転数変化率「dn/dt」90を計算する機能を有している。また、予めエンジンの応答時間特性89を微分して、エンジン回転数変化率「dn/dt」90とエンジン回転数の特性として設定しても良いし、全回転数領域にわたってエンジン回転数変化率「dn/dt」90が一定とみなせる場合は定数として与えることで簡略化も可能である。エンジン応答特性管理部21では、エンジン応答時間特性89から演算した、実エンジン回転数「n」25でのエンジン回転数変化率「dn/dt」90と、前記エンジン動作点管理部20からのエンジン出力回転数変化率「dP(n)/dn」31から、
{dP(n)/dn}×{dn/dt}=dP(n)/dt・・・・・・・・(3)
により、エンジン出力時間変化率「dP(n)/dt」32を計算し、インバータ制御装置12へ伝達する。
【0057】
本ディーゼル動車駆動装置の制御システムによると、所望のエンジン動作点に沿ってエンジン出力を上昇させ、更に前記エンジン動作点上でエンジンを制御した際の、エンジン応答特性から計算したエンジン出力時間変化率「dP(n)/dt」32を用いて、インバータ装置5の負荷上昇を制御するため、エンジンを所望の動作点上で制御し、かつ、エンジンの応答特性を犠牲にせず、エンジンとインバータ装置の協調制御を実現する制御システムを構築可能である。
【0058】
図7は本ディーゼル動車駆動装置の制御システムにおけるインバータ制御装置12の内部構成図の一構成例を示す図である。
【0059】
まず、主電動機トルク変化率計算部48の構成方法について以下に示す。
エンジン出力Pは、Kを比例定数として以下のように記述できる。
P=Pt+Pa・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
Pt=K×M×F×V・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ここで、P:エンジン出力、Pt:駆動装置負荷、Pa:補助電源装置負荷、F:引張力、V:車両速度、M:主電動機数である。
補助電源装置負荷Paを一定として(4)、(5)の両辺を時間tで微分すると、
dP/dt=dPt/dt
=K×M×d/dt(F×V)
=K×M×(V×dF/dt+F×dV/dt)
=K’×M×(V×dT/dt+T×dV/dt)・・・・・・(6)
よって、
dT/dt={1/(K’×M×V)}×dP/dt−(T/V)×dV/dt
・・・・・(7)
となる。ここでK’:比例定数、T:主電動機トルクである。
【0060】
(6)式において、特に車両が駅などから出発する際は、車速が0付近であるから第2項が支配的になり、ある速度でノッチを入れた場合の再力行の場合は、第1項が支配的になることを示している。
(7)式より、エンジン出力時間変化率「dP/dt」32と、主電動機トルク計算部47にて主電動機電流検出値「I」52から計算される主電動機トルク「T」56と、速度計算部91にて主電動機回転数検出値「fr」53から計算される車両速度「V」94と、前記車両速度の変化率(加速度)dV/dtから、主電動機トルク時間変化率「dT/dt」57が計算される。
【0061】
次に、主電動機トルク絞り量計算部43の構成方法について以下に示す。
主電動機トルク絞り量「T」58は以下のように記述できる。
P=C×T×V×M
であるから、
T=C’×P/V/M・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ここで、C、C’:比例定数、M:主電動機数、V:車両速度である。
負荷制限指令「P」33、車両速度「V」94から、(8)式に基づき主電動機トルク絞り量「T」58が計算される。
【0062】
図7において、主電動機トルク指令調整部45は、主電動機トルク立上げ制御部92と主電動機トルク制限部93とから構成される。前者の主電動機トルク立上げ制御部92は、主電動機トルク指令生成部44にて生成される主電動機トルク指令「T*」54を、前記主電動機トルク変化率計算部48で計算された主電動機トルク時間変化率「dT/dt」57を用いて制御し、主電動機トルク指令調整仮値「T***」95を一旦生成する。その後、後者の主電動機トルク制限部93が、主電動機トルク絞り量計算部43にて計算された主電動機トルク絞り量「T」58によって、主電動機トルク指令調整仮値「T***」95を制御し、主電動機トルク指令調整値「T**」55を生成する。エンジンが過負荷状態ではない場合は、主電動機トルク制限部93でのトルク絞りは行われず、主電動機トルク指令調整仮値「T***」95が、そのまま主電動機トルク指令調整値「T**」55として出力される。インバータベクトル制御演算部46では、主電動機トルク指令調整値「T**」55、主電動機電流検出値「I」52及び車両速度「V」94を基に、インバータ装置駆動信号「PWMi」51を生成し、インバータ装置5を駆動する。
【0063】
一方、エンジンの動作点が予め設定したエンジン出力リミッタ「Pm(n)」30を超過した場合、エンジン制御部9から負荷遮断指令「K」34が伝達される。インバータベクトル制御演算部46では、負荷遮断指令「K」34が伝達されると、インバータ装置駆動信号「PWMi」51を即座に停止し、負荷遮断を行うことで、過負荷によるエンジンストールを防止する保護システムを構築する。
【0064】
なお、本図では主電動機トルクを制御量としてブロック図を記載したが、主電動機電流が制御量の場合も同様の考え方で制御システムが構築可能である。
【0065】
本発明であるディーゼル動車駆動装置の制御システムによれば、エンジンの制御目標となるエンジンの動作点を予め設定し、その動作点にエンジンが追従するようにインバータ装置を制御し、急激な負荷上昇が発生して、エンジンの動作点が前記エンジンの動作点上限値を超過した場合に、インバータ装置の負荷制限を行うことで、所望の動作点へ速やかに復帰させることが可能で、また、エンジンの動作点が前記出力リミッタを超過した場合に、全てもしくは一部のインバータ装置、もしくは補助電源装置の特定負荷を遮断することで、エンジンストールを回避することが可能な列車制御システムを実現できる。
【符号の説明】
【0066】
1…車両 2…エンジン
3…交流発電機 4…コンバータ装置
5…インバータ装置 6A、6N…主電動機
7…補助電源装置 8…運転台
9…エンジン制御部 10…コンバータ制御装置
11…補助電源制御装置 12…インバータ制御装置
13…発電機電流検出器 14…直流電圧検出器
15…インバータ入力電流検出器 16…主電動機電流検出器
17…補助電源入力電流検出器 18…エンジン回転数指令生成部
19…エンジン動作点調整部 20…エンジン動作点管理部
21…エンジン応答特性管理部 22…ノッチ信号
23…エンジン回転数指令 24…エンジン回転数指令調整値
25…実エンジン回転数 26…消費電力合計値
27…必要エンジン回転数 28…エンジン動作点
29…エンジン動作点上限値 30…エンジン出力リミッタ値
31…エンジン出力回転数変化率 32…エンジン出力時間変化率
33…負荷制限指令 34…負荷遮断指令
35…発電機電流 36…コンバータ装置駆動信号
37…直流電圧検出値 38…消費電力計算部
39…補助電源装置消費電力 40…インバータ装置消費電力
41…補助電源入力電流検出値 42…補助電源装置駆動信号
43…主電動機トルク絞り量計算部 44…主電動機トルク指令生成部
45…主電動機トルク指令調整部 46…インバータベクトル制御演算部
47…主電動機トルク計算部 48…主電動機トルク変化率計算部
49…インバータ消費電力計算部 50…インバータ入力電流検出値
51…インバータ装置駆動信号 52…主電動機電流検出値
53…主電動機回転数検出値 54…主電動機トルク指令値
55…主電動機トルク指令調整値 56…主電動機トルク計算値
57…主電動機トルク時間変化率 58…主電動機トルク絞り量
59…エンジン動作点出力変動幅 60…入力部
61〜65…比較部 66〜71…処理部
72,73…出力部 74…エンジン動作点回転数変動幅
75…エンジン最大回転数 76…時刻0での実エンジン回転数
77…時刻kでの実エンジン回転数 78…時刻0でのエンジン出力制限値
79…時刻kでのエンジン出力制限値 80…時刻0での負荷制限指令
81…時刻kでの負荷制限指令 82…時刻0での消費電力合計値
83…時刻kでの消費電力合計値 84…時刻0での必要エンジン回転数
85…ロードシグナル 86…ロードシグナル1
87…ロードシグナル2 88…ロードシグナル3
89…エンジン応答時間特性 90…エンジン回転数変化率
91…速度計算部 92…主電動機トルク立上げ制御部
93…主電動機トルク制限部 94…車両速度
95…主電動機トルク指令調整仮値 96…エンジン補機
97…エンジン補機動力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンにより駆動される発電機と、前記発電機の出力する交流電力を直流電力へ変換するコンバータと、車両を推進させる主電動機と、前記直流電力を変換して生成した交流電力によって前記主電動機を駆動するインバータ装置と、を備えるディーゼル動車駆動装置において、
前記エンジンの制御目標となる目標エンジン動作点を予め設定し、実際のエンジン動作点である実エンジン動作点が前記目標エンジン動作点に追従するように前記インバータ装置を制御すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記目標エンジン動作点として設定された前記制御目標となるエンジン回転数指令値に基づいてエンジン回転数制御のための制御信号を出力するエンジン制御部と、前記主電動機のトルクを制御するため前記インバータ装置を制御するインバータ駆動信号を前記インバータ装置に出力するインバータ制御装置と、を備えており、
前記エンジン制御部は前記実エンジン動作点における動作点情報を前記インバータ制御装置に出力し、前記インバータ制御装置は、前記動作点情報に基づいて、前記実エンジン動作点が前記目標エンジン動作点に追従するように、前記インバータ装置を制御することを特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記エンジン制御部は、前記目標エンジン動作点を前記エンジン出力Pと前記エンジン回転数nの関係で設定するエンジン動作点管理部と、前記エンジンの応答特性を前記エンジン回転数nと応答時間tの関係で設定するとともに、前記エンジン回転数が変化する際に、前記エンジン動作点と前記エンジンの前記応答特性とに基づいて実際の前記エンジン回転数に対応したエンジン出力時間変化率dP/dtを計算し且つ前記インバータ制御装置に出力するエンジン応答特性管理部とを備えており、
前記インバータ制御装置は、前記エンジン出力時間変化率dP/dtを用いて前記主電動機のトルクを制御すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記エンジン動作点管理部は、前記目標エンジン動作点を前記エンジン出力Pと前記エンジン回転数nの関係からエンジン出力回転数変化率dP/dnとして設定し、
前記エンジン応答特性管理部は、前記エンジンの回転数変化率dn/dtを一定として設定し、実際の前記エンジン回転数に対応した前記エンジン出力時間変化率dP/dtを計算し且つ前記インバータ制御装置に伝達すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記インバータ制御装置は、前記エンジン制御部から出力される前記エンジン出力時間変化量dP/dtに基づいて、前記主電動機におけるトルクについて主電動機トルク時間変化率dT/dtを計算する主電動機トルク変化率計算部を備えており、
前記インバータ制御装置は、前記主電動機トルク時間変化率dT/dtに基づいて、前記インバータ装置の主電動機トルク指令値を制御することにより、前記エンジン動作点が前記目標エンジン動作点に追従するように前記インバータ装置を制御すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項6】
請求項2に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記制御システムには、前記エンジンにより駆動される前記発電機が電力を供給する全ての機器の消費電力を計算する消費電力計算部が備わっており、
前記エンジン制御部は、前記目標エンジン動作点を設定するエンジン動作点管理部と、前記実エンジン動作点を監視するとともに、前記消費電力計算部からの消費電力合計値ΣPと前記エンジン動作点管理部からの前記動作点情報P(n)とに基づいて、前記実エンジン動作点が前記目標動作点上となるように、前記エンジン回転数指令値を調整するエンジン動作点調整部とを備えていること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項7】
請求項6に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記エンジン制御装置は、運転台に設けられた主幹制御器から出力されるノッチ信号に応じて前記エンジン回転数指令値を生成するエンジン回転数指令生成部を備えていることを特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記エンジン動作点管理部は、前記消費電力計算部からの前記消費電力合計値ΣPと、前記エンジンの前記動作点情報P(n)との間に差異があることに応じて、前記エンジン動作点上で前記消費電力合計値ΣPに見合った必要エンジン回転数npを生成し、
前記エンジン動作点調整部は、前記必要エンジン回転数npを、前記エンジンに出力される前記エンジン回転数指令値とするエンジン回転数指令調整を行うことで、前記実エンジン動作点が前記目標エンジン動作点上となるように制御すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項9】
請求項2に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記エンジン制御部は、前記エンジンが出力可能なエンジン動作点の上限値をエンジン動作点上限値として設定するエンジン動作点管理部と、前記実エンジン動作点を監視し、且つ急激な負荷上昇などに起因して前記実エンジン動作点が前記エンジン動作点上限値を超過することに応答して、前記発電機が電力を供給する全てもしくは一部の前記インバータ装置に負荷制限指令及びその制限量を伝達するエンジン動作点調整部とを備えており、
前記インバータ制御装置は、前記エンジン動作点調整部からの前記負荷制限指令及びその制限量の入力を受けて、速やかに前記主電動機のトルクを制御するための主電動機トルク指令値を必要量だけ調整して前記インバータ装置に出力することにより、前記実エンジン動作点を前記目標エンジン動作点上へと復帰させること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項10】
請求項9に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記エンジンが負荷状態を認識し外部に状態信号を供給可能である場合に、
前記エンジン動作点調整部は、前記状態信号の前記エンジン動作点上限値に相当する閾値を設定し、急激な負荷上昇が生じて前記状態信号が前記閾値に達することに応答して、前記インバータ制御装置における前記主電動機トルク指令の調整と前記エンジン動作点の前記目標エンジン動作点上への復帰とのため、前記エンジンにより駆動される前記発電機が電力を供給する全てもしくは一部の前記インバータ装置に前記負荷制限指令とその制限量を伝達すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項11】
請求項2に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記直流電力を変換して補機電力を供給する補助電源装置を備えており、
前記エンジン制御部は、前記エンジンのストール回避のための前記エンジン動作点のリミッタをエンジン出力リミッタとして設定するエンジン動作点管理部と、前記実エンジン動作点を監視し、且つ急激な負荷上昇などに起因して前記実エンジン動作点が前記エンジン出力リミッタに達することに応答して、前記発電機が電力を供給する全てもしくは一部の前記インバータ装置又は前記補助電源装置の特定負荷に対して、負荷遮断指令を伝達するエンジン動作点調整部とを備えており、
前記インバータ制御装置は、前記エンジン動作点調整部からの前記負荷遮断指令の入力を受けて、前記インバータ装置又は前記補助電源装置の前記特定負荷を速やかに負荷遮断すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。
【請求項12】
請求項11に記載のディーゼル動車駆動装置の制御システムにおいて、
前記エンジンが負荷状態を認識し外部に状態信号を供給可能である場合に、
前記エンジン動作点調整部は、前記状態信号の前記エンジン出力リミッタに相当する閾値を設定し、急激な負荷上昇が生じて前記状態信号が前記閾値に達することに応答して、前記インバータ制御装置における前記インバータ装置又は前記補助電源装置の特定負荷の速やかな負荷遮断のため、前記エンジンにより駆動される前記発電機が電力を供給する全てもしくは一部の前記インバータ装置又は前記補助電源装置の特定負荷に対して負荷遮断指令を伝達すること
を特徴とするディーゼル動車駆動装置の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−191715(P2012−191715A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51776(P2011−51776)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】