説明

ディーゼル機関用潤滑油組成物

【課題】高塩基価のサリシレート系清浄剤とジチオリン酸亜鉛を含有し、塩基価が15mgKOH/g以上となる場合に添加剤の相互作用による粘度増加や塩基価の低下を抑制することができる、ディーゼル機関用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の組成物は、潤滑油基油と、該基油に配合する、塩基価100mgKOH/g以上のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、組成物の塩基価が15mgKOH/g以上のディーゼル機関用潤滑油組成物であって、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を含有するか、若しくはセカンダリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛を含み、且つ組成物が無灰分散剤を全く含有しないか、窒素量として0.005質量%未満含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル機関用潤滑油組成物に関し、詳しくは、漁船用ディーゼル機関、トランクピストン機関等の船舶用ディーゼル機関等のディーゼル機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
C重油やA重油等の硫黄含有量が0.01質量%以上の燃料を使用するディーゼル機関は、燃焼に伴い発生する硫酸によるシリンダーの腐食を抑制するために、少なくとも塩基価が10mgKOH/g以上の内燃機関用潤滑油が一般的に推奨されている。
近年これらの内燃機関用潤滑油は、高効率化により、燃焼温度が高くなっているため、耐熱性により優れることが求められている。また、最近の舶用内燃機関には、アンチポリッシングの装着が検討されているが、これにより潤滑油の消費量は減少し、潤滑油の補給回数や補給量が少なくなるメリットが生じる一方、舶用内燃機関の潤滑条件は一層厳しさを増す状況となる。さらに潤滑油の長期の使用により、煤混入量も大幅に増大することは避けられない状況となるため、煤による異常摩耗や粘度上昇の抑制手段も必要とされる。
このような観点から、従来の舶用等のディーゼルエンジン油としては、酸化安定性や耐熱性の高いサリシレート系添加剤の使用、高塩基価の潤滑油の使用、煤分散性やスラッジ分散性の高いコハク酸イミド系分散剤の使用、あるいは、ジチオリン酸亜鉛等の極圧剤の使用が検討されている(例えば特許文献1〜15参照)。
【0003】
しかしながら、本明者らの検討によると、高塩基価のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛と、コハク酸イミド系分散剤とを併用した場合、潤滑油の塩基価が15mgKOH/g以上である場合には、煤の混入だけでなく、これら添加剤の相互作用により、潤滑油の粘度が増加してしまうことが判明した。この粘度増加は、潤滑油の塩基価が15mgKOH/g未満の場合や、塩基価の小さいサリシレート系清浄剤を使用した場合には起こりにくいため、上記の場合に特有の現象であることも判明した。さらには、この粘度増加に伴い、潤滑油の塩基価も低下することが判明した。
一方、一部の内燃機関では潤滑油の劣化や煤等の混入による不溶解分や劣化の原因となる水を分離除去するために遠心清浄機や各種フィルタ、ストレーナー等の浄油装置が使用されることがある。このような遠心清浄機等の浄油装置は、その浄油条件が緩い場合、スラッジ、摩耗粉あるいは水分等の不純物の除去が不十分となるため、その浄油条件が厳しいほど好ましい。しかし、遠心清浄機等の浄油装置においては、潤滑油中の添加剤及び水が高温で接触して加水分解が起こりやすく、あるいは添加剤の相互作用による沈殿が生成しやすく、そのため、例えば、摩耗防止性能、高温清浄性能等の潤滑油の初期性能を早期に低下させることがある。潤滑油にコハク酸イミド系分散剤を過度に含有させると、水分離性が悪くなるため、浄油装置の機能が十分発揮できなくなり、従って、浄油装置を装着した内燃機関においては、煤分散性やスラッジ分散性が期待されるコハク酸イミド系分散剤を過度に使用した潤滑油の使用は制限せざるを得ない状況にある。
【特許文献1】特開2002−275491号公報
【特許文献2】特表2002−515933号公報
【特許文献3】特表2002−501974号公報
【特許文献4】特表2002−500262号公報
【特許文献5】特開2002−241780号公報
【特許文献6】特開2005−281614号公報
【特許文献7】特開平11−29784号公報
【特許文献8】特開平8−253782号公報
【特許文献9】特開昭59−27994号公報
【特許文献10】特開平8−283764号公報
【特許文献11】特開平11−1694号公報
【特許文献12】特開平10−102082号公報
【特許文献13】特開平10−121081号公報
【特許文献14】特開平10−121082号公報
【特許文献15】特開平9−111275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐熱性を高めるための高塩基価のサリシレート系清浄剤と、極圧性を高めるためのジチオリン酸亜鉛と、あるいはさらに煤分散性やスラッジ分散性を向上させるためのコハク酸イミド系分散剤等の無灰分散剤を併用し、潤滑油の塩基価が15mgKOH/g以上とした場合においても、これら添加剤の相互作用による潤滑油の粘度増加を抑制することができ、さらには組成物の塩基価の保持性能を高めることができるディーゼル機関用潤滑油組成物を提供することにある。
本発明の別の課題は、水分離性が重要である浄油装置を装着したディーゼル機関において、煤や不溶解分の分散性が期待できるコハク酸イミド系分散剤等の無灰分散剤の使用が制限される中で、高塩基価のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛とを併用し、潤滑油の塩基価が15mgKOH/g以上とした場合においても、これら添加剤の相互作用による潤滑油の粘度増加を抑制することができ、さらには組成物の塩基価の保持性能を高めることができるディーゼル機関用潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らの検討によると、高塩基価のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛との併用による潤滑油の上記粘度増加は、煤や不溶解分の分散性を向上させるためにコハク酸イミド系分散剤等の無灰分散剤を併用する場合、ジチオリン酸亜鉛のタイプによらず生じ、コハク酸イミド系分散剤等の無灰分散剤の追添や一般的なアミン系酸化防止剤やビスフェノール系酸化防止剤では抑制しえないことが判明した。そして、特定の酸化防止剤を使用して初めてこの粘度増加を抑制できることが判明した。また、高塩基価のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛併用による潤滑油の上記粘度増加は、コハク酸イミド系分散剤等の無灰分散剤を使用しないか、ごくわずかしか使用しない場合には、ジチオリン酸亜鉛のタイプによりその度合いが異なり、特定のジチオリン酸亜鉛を使用することでこの粘度増加を抑制しうることが判明した。しかし、コハク酸イミド系分散剤等の無灰分散剤を過度に使用した場合には、この粘度増加抑制効果が消失してしまうことも判明した。
【0006】
すなわち、本発明によれば、潤滑油基油と、該基油に配合する、塩基価100mgKOH/g以上のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、組成物の塩基価が15mgKOH/g以上のディーゼル機関用潤滑油組成物であって、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を含有することを特徴とするディーゼル機関用潤滑油組成物(以下、組成物(A)と略すことがある)が提供される。
また本発明によれば、無灰分散剤を窒素量として0.005質量%以上含有する組成物(A)が提供される。
さらに本発明によれば、潤滑油基油と、該基油に配合する、塩基価100mgKOH/g以上のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、組成物の塩基価が15mgKOH/g以上のディーゼル機関用潤滑油組成物であって、該ジチオリン酸亜鉛が、セカンダリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛を含み、該組成物が無灰分散剤を全く含有しないか、窒素量として0.005質量%未満含有することを特徴とするディーゼル機関用潤滑油組成物(以下、組成物(B)と略すことがあり、組成物(A)及び組成物(B)をまとめて本発明の組成物ということがある)が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物(A)は、上記構成により、多量の高塩基性のサリシレート系清浄剤とジチオリン酸亜鉛とを併用した際に、添加剤同士の相互作用による粘度増加を抑制でき、さらには、塩基価の低下を抑制できる。また、該粘度増加を抑制しながら、耐熱性に優れる高塩基性のサリシレート系清浄剤を多量に配合できるとともに、ジチオリン酸亜鉛を併用して極圧性又は摩耗防止性あるいは酸化防止性を向上させることができる。
本発明の組成物(B)は、上記に加え、無灰分散剤を含有しないか、含有するとしても極わずかに制限されるので、遠心分離器等の浄油装置を備えたディーゼル機関に対し、該浄油装置における加水分解安定性が良好となり、長期使用に耐えうる性能を保持できる。
従って、本発明の組成物は、硫黄分が0.01質量%、好ましくは0.1質量%以上のA重油やC重油等の燃料を用いる漁船用ディーゼル機関、トランクピストンディーゼル機関等の船舶用ディーゼル機関用の内燃機関用だけでなく、該燃料を用いる発電用ディーゼル機関、鉄道車両用ディーゼル機関用の潤滑油組成物としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。
本発明の組成物は、硫黄分が0.01質量%の燃料を用いる漁船用ディーゼル機関、トランクピストンディーゼル機関等の船舶用ディーゼル機関用、あるいは、該燃料を用いる発電用ディーゼル機関、鉄道車両用ディーゼル機関用として好適に用いることができる。
硫黄分が0.01質量%以上の燃料としては、例えば、A重油、B重油、C重油、アスファルト、原油等が挙げられ、その硫黄分は、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3.5質量%である。また、該燃料は、通常、アスファルテン分や残留炭素分を、少なくとも残留炭素分(JIS K 2270)が0.02質量%以上(10%残留炭素分が0.2質量%以上)含むものである。
【0009】
本発明の組成物に用いる潤滑油基油は特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油が使用できる。
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油が例示できる。
【0010】
鉱油系基油の全芳香族分は特に制限はないが、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を越える場合は、酸化安定性が劣る恐れがある。
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
鉱油系基油中の硫黄分は特に制限はないが、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。硫黄分は0質量%でも良いが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。鉱油系基油が、硫黄分をある程度含むことにより、添加剤の溶解性を十分に高めることができる。
【0011】
合成系基油としては、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物が例示できる。
【0012】
本発明では、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油、油脂又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油が挙げられる。
【0013】
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は4〜50mm2/sが好ましく、より好ましくは6〜40mm2/s、特に好ましくは8〜35mm2/sである。潤滑油基油の100℃での動粘度が50mm2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が4mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなる恐れがある。
【0014】
本発明に用いる潤滑油基油としては、100℃での動粘度が4mm2/s以上17mm2/s未満の潤滑油基油及び/又は100℃での動粘度が17〜50mm2/sの潤滑油基油を含有することが好ましい。100℃における動粘度が4mm2/s以上17mm2/s未満の潤滑油基油としては、例えば、SAE10〜40等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は5.6mm2/s以上、より好ましくは9.3mm2/s以上であり、好ましくは14mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下である。また、100℃における動粘度が17〜50mm2/sの潤滑油基油としては、例えば、SAE50、ブライトストック等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は、好ましくは20mm2/s以上、より好ましくは25mm2/s以上であり、好ましくは40mm2/s以下、より好ましくは35mm2/s以下である。
本発明の組成物においては、100℃での動粘度が4mm2/s以上17mm2/s未満の潤滑油基油を主成分、例えば、基油全量基準で50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有させ、必要に応じて100℃での動粘度が17〜50mm2/sの潤滑油基油を配合することができる。
【0015】
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックス、GTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度、コンプレックスエステル系基油、HVI−PAO系基油のような150〜250程度であるが、添加剤の溶解性や貯蔵安定性の点で120以下が好ましく、110以下が特に望ましい。
【0016】
本発明の組成物は、塩基価が100mgKOH/g以上のサリシレート系清浄剤を含有する。
サリシレート系清浄剤としてはその構造に特に制限はないが、炭素数1〜40のアルキル基を1〜2個有するサリチル酸の金属塩、好ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0017】
サリシレート系清浄剤としては、高温清浄性や加水分解安定性により優れる点でジアルキルサリチル酸金属塩を含むものが好ましい。すなわち、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が0を越え100mol%以下、好ましくは5mol%以上、より好ましくは10mol%以上であるサリシレート系清浄剤が望ましい。一方、低温粘度特性により優れる点で、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が高いものが好ましく、例えば、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜100mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が0〜15mol%であって、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が40〜100mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩であることが好ましい。
【0018】
モノアルキルサリチル酸金属塩は、3−アルキルサリチル酸金属塩、4−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等のアルキル基を1つ有するアルキルサリチル酸金属塩を意味し、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、通常85〜100mol%、好ましくは88〜98mol%、さらに好ましくは90〜95mol%であり、モノアルキルサリチル酸金属塩以外のアルキルサリチル酸金属塩、例えばジアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、通常0〜15mol%、好ましくは2〜12mol%、さらに好ましくは5〜10mol%である。
また、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、通常40〜100mol%、好ましくは45〜80mol%、さらに好ましくは50〜60mol%である。
なお、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の合計の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、上記3−アルキルサリチル酸金属塩、ジアルキルサリチル酸金属塩を除いた構成比に相当し、通常0〜60mol%、好ましくは20〜50mol%、さらに好ましくは30〜45mol%である。ジアルキルサリチル酸金属塩を少量含むことで高温清浄性、低温特性に優れ、加水分解安定性にも優れる組成物を得ることができ、3−アルキルサリシレートの構成比を40mol%以上とすることで、5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比を相対的に低くすることができ、油溶性を向上させることができる。
【0019】
サリシレート系清浄剤を構成するアルキルサリチル酸金属塩におけるアルキル基としては、炭素数10〜40、好ましくは炭素数10〜19又は炭素数20〜30、さらに好ましくは炭素数14〜18又は炭素数20〜26のアルキル基であり、低温粘度特性に優れる点で、炭素数14〜18のアルキル基が望ましく、煤分散性に優れる点で炭素数20〜30のアルキル基が望ましい。
炭素数10〜40のアルキル基としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基が挙げられる。これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であってもよく、1級アルキル基、2級アルキル基、3級アルキル基であってもよいが、本発明においては上記所望のサリチル酸金属塩を得やすい点で、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0020】
アルキルサリチル酸金属塩における金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属が挙げられ、カルシウム、マグネシウムであることが好ましく、カルシウムであることが特に好ましい。
【0021】
サリシレート系清浄剤は、公知の方法等で製造でき特に制限はないが、例えば、フェノール1molに対し1mol又はそれ以上の、エチレン、プロピレン、ブテン等の重合体又は共重合体等の炭素数10〜40のオレフィン、好ましくはエチレン重合体等の直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションし、炭酸ガス等でカルボキシレーションする方法、あるいはサリチル酸1molに対し1mol又はそれ以上の当該オレフィン、好ましくは当該直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションする方法等により得たモノアルキルサリチル酸を主成分とするアルキルサリチル酸に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としたり、さらにアルカリ金属塩をアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。
ここで、フェノール又はサリチル酸とオレフィンの反応割合を、好ましくは、例えば1:1〜1.15(モル比)、より好ましくは1:1.05〜1.1(モル比)に制御することで、モノアルキルサリチル酸金属塩とジアルキルサリチル酸金属塩の構成比を所望の割合に制御することができる。また、オレフィンとして直鎖α−オレフィンを用いることで、3−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等の構成比を本願所望の割合に制御しやすくなるとともに、本発明において好ましい2級アルキルを有するアルキルサリチル酸金属塩を主成分として得ることができるため特に好ましい。
なお、オレフィンとして分岐オレフィンを用いた場合には、ほぼ5−アルキルサリチル酸金属塩のみを得やすいが、本願所望の構成となるように3−アルキルサリチル酸金属塩等を混合して油溶性を改善する必要があり、製造プロセスが多様化する点で好ましくない。
【0022】
サリシレート系清浄剤は、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金サリシレート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
なお、これらの反応は、通常、ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等の溶媒中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、特に2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0023】
サリシレート系清浄剤として最も好ましいものとしては、高温清浄性と加水分解安定性並びに低温粘度特性のバランスに優れる点から、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜95mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が5〜15mol%、であり、モノアルキルサリチル酸金属塩である、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が50〜60mol%、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が35〜45mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩が挙げられる。ここでいうアルキル基は、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0024】
本発明において、サリシレート系清浄剤の塩基価は、100mgKOH/g以上であることが必要であり、好ましくは150〜500mgKOH/g、より好ましくは160〜450mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上あるいは3種以上を併用することができる。例えば、塩基価が100〜200mgKOH/g未満のサリシレート系清浄剤、塩基価が200〜300mgKOH/gのサリシレート系清浄剤、塩基価が300mgKOH/gを超え、450mgKOH/g未満のサリシレート系清浄剤から選ばれる1種又は2種以上あるいは3種以上を併用しても良い。100mgKOH/g未満のサリシレート系清浄剤を用いても、ジチオリン酸亜鉛との相互作用による粘度増加は小さいが、本発明の課題となる対象から外れるものであるだけでなく、摩耗防止性の悪化や塩基価を15mgKOH/g以上とするために含有させる量が多量となり、経済性の点で好ましくない。
本発明においては、塩基価が200〜300mgKOH/gの(過)塩基性サリシレート系清浄剤を使用する場合、塩基価が200mgKOH/g未満又は300mgKOH/gを越える(過)塩基性サリシレート系清浄剤を単独で使用する場合と比べ、ジチオリン酸亜鉛等との相互作用による粘度増加が相対的に大きい傾向にあるため、塩基価が200〜300mgKOH/gの(過)塩基性サリシレート系清浄剤を含有する場合においても粘度増加を十分に抑制することが重要となる。
なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
本発明の組成物において、サリシレート系清浄剤の含有量は、組成物全量基準で、通常1〜30質量%、好ましくは5〜15質量%、さらに好ましくは7〜10質量%である。
【0025】
本発明の組成物には、上記サリシレート系清浄剤を単独で使用しても良いが、さらにフェネート系清浄剤やスルホネート系清浄剤等の他の金属系清浄剤を併用しても良い。しかし、過塩基性サリシレートとスルホネート系清浄剤を多量に配合すると、ミセル安定性が悪化し、沈殿しやすくなるため、フェネート系清浄剤を併用することが特に好ましい。
フェネート系清浄剤としては、例えば、炭素数4〜30、好ましくは炭素数10〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノールと硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイドアルカリ土類金属塩、又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
フェネート系清浄剤の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/g、より好ましくは150〜300mgKOH/gである。
フェネート系清浄剤を使用する場合の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、通常0.1〜30質量%、好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは1.5〜3質量%である。
【0026】
本発明において、サリシレート系清浄剤とフェネート系清浄剤を併用する場合、その塩基価負担率は特に制限はないが、サリシレート系清浄剤とフェネート系清浄剤に起因する合計塩基価に対し、サリシレート系清浄剤の塩基価の負担率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上であり、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。サリシレート系清浄剤の塩基価負担率を高めることで、耐熱性に優れた潤滑油組成物を得ることができ、フェネート系清浄剤を併用することで、粘度増加をさらに抑制しやすい潤滑油組成物を得ることができる。
【0027】
本発明の組成物に使用可能なスルホネート系清浄剤としては、中性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性アルカリ土類金属スルホネート又はこれらの2種以上の混合物が挙げられ、その塩基価は、通常0〜500mgKOH/gの範囲から選ばれる。
スルホネート系清浄剤としては、カルシウムスルホネート系清浄剤、マグネシウムスルホネート系清浄剤が好ましく、カルシウムスルホネート系清浄剤が特に好ましい。
スルホネート系清浄剤を使用する場合の含有量は特に制限はないが、通常0.1〜30質量%の範囲から選ばれるが、上記したミセル安定性の懸念があるため、その配合量は少ない方が良い。
【0028】
本発明の組成物は、極圧性や摩耗防止性あるいは酸化防止性を付与するためにジチオリン酸亜鉛を含有する。
ジチオリン酸亜鉛としては、式(1)で表されるジチオリン酸亜鉛が例示できる。
【0029】
【化1】

【0030】
式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ個別に、炭素数1〜18のアルキル基、アリール基又は炭素数7〜18のアルキルアリール基を示す。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられ、特に炭素数3〜8のアルキル基が一般的に用いられる。アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、第1級(プライマリー)アルキル基でも第2級(セカンダリー)アルキル基でも良い。
式(1)で示されるジチオリン酸亜鉛の製造にあたり、R1、R2、R3及びR4を導入する際にα−オレフィンの混合物を原料とする場合があるが、この場合、式(1)で表される化合物としては互いに異なる構造のアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物となる。
【0031】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基が挙げられる。これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また全ての置換異性体が含まれる。
【0032】
ジチオリン酸亜鉛の具体的な化合物としては、例えば、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(1,3−ジメチルブチル)ジチオリン酸亜鉛、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0033】
本発明の組成物(A)において、ジチオリン酸亜鉛は、第1級アルキル基又は第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の使用が好ましく、いずれの場合であっても後述するエステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を使用することで、高塩基性サリシレート系清浄剤とジチオリン酸亜鉛との相互作用による粘度増加を抑制することができる。
エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を使用する場合、後述する無灰分散剤を併用すると、さらなる粘度増加抑制効果が発揮される。しかし、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤に代えて、アミン系酸化防止剤やビスフェノール系酸化防止剤を使用しても上記粘度増加抑制効果は発揮されない。
【0034】
本発明の組成物(B)において、ジチオリン酸亜鉛は、セカンダリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛、中でも炭素数3〜6の第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛、特に炭素数3及び/又は6の第2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の使用が肝要である。これに代えてプライマリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用しても、上記粘度増加抑制効果は発現されない。
本発明の組成物(B)は、後述する無灰分散剤が過度に含まれると、相互作用によりセカンダリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛による粘度増加抑制効果が損なわれてしまうため、無灰分散剤を全く含まないか、含むとしてもその含有量は制限されなければならない。
このように組成物(A)及び組成物(B)により、添加剤同士の相互作用が複雑に絡み合うため、添加剤の組み合わせや使用する用途の選択は極めて重要となる。
【0035】
本発明の組成物において上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、リン量として通常0.01〜0.2質量%、好ましくは0.02〜0.1質量%、特に好ましくは0.03〜0.06質量%である。
前記サリシレート系清浄剤を含む金属系清浄剤に起因する組成物中の金属量(M)あるいはサリシレート系清浄剤に起因する組成物中の金属量(M')と、前記ジチオリン酸亜鉛に起因するリン量(P)との質量比(M/P)あるいは(M'/P)は特に制限はないが、好ましくは4以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。M/PあるいはM'/P比が高いほど、上記粘度増加を大幅に改善することができる。
【0036】
本発明の組成物(A)においては、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を含有することが重要である。また、これは組成物(B)に配合することもできる。
エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤としては、潤滑油用として公知の任意のものが使用可能であり特に限定されず、例えば、式(2)又は式(3)で表される化合物の中から選ばれる1種または2種以上の化合物が好ましく挙げられる。
【0037】
【化2】

【0038】
式(2)中、R30は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R31は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R32は炭素数1〜6のアルキレン基を、またR33は炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。また、式(3)中、R9及びR13はそれぞれ個別に、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R10及びR14はそれぞれ個別に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R11及びR12はそれぞれ個別に、炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Xは炭素数1〜18のアルキレン基又は−R15−S−R16−を示す。但し、R15及びR16はそれぞれ個別に、炭素数1〜6のアルキレン基を示す。
【0039】
30の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられるが、組成物が酸化安定性に優れる点から、tert−ブチル基が好ましい。
31としては、水素原子又は上述したような炭素数1〜4のアルキル基が挙げられるが、組成物が酸化安定性に優れる点から、メチル基又はtert−ブチル基が好ましい。
32で示される炭素数1〜6のアルキレン基は、直鎖状でも分枝状であっても良く、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基(ジメチレン基)、エチルメチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、トリメチレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が挙げられる。式(2)で示される化合物が少ない反応工程で製造できる点で、R32は炭素数1〜2のアルキレン基、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基(ジメチレン基)であることがより好ましい。
【0040】
33で示される炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でも良く、またアルケニル基の二重結合の位置も任意で良く、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシ基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、オクタデカジエニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基が挙げられる。
33は、基油に対する溶解性に優れる点から、炭素数4〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が好ましく、炭素数6〜12の直鎖状又は分枝状アルキル基がより好ましく、炭素数6〜12の分枝状アルキル基が特に好ましい。
【0041】
式(2)で表される化合物の中では、R32が炭素数1〜2のアルキレン基であり、R33が炭素数6〜12の直鎖状又は分枝状アルキル基であるものがより好ましく、R32が炭素数1〜2のアルキレン基であり、R33が炭素数6〜12の分枝状アルキル基であるものが特に好ましい。
【0042】
式(2)で表される化合物としては、例えば、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ヘキシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘキシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ヘプチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘプチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−オクチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソオクチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸2−エチルヘキシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ノニル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソノニル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−デシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ウンデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソウンデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ドデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソドデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ヘキシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘキシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ヘプチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘプチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−オクチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソオクチル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸2−エチルヘキシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ノニル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソノニル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−デシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ウンデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソウンデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ドデシル、(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソドデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ヘキシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘキシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ヘプチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソヘプチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−オクチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソオクチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸2−エチルヘキシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ノニル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソノニル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−デシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ウンデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソウンデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸n−ドデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)酢酸イソドデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ヘキシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘキシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ヘプチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソヘプチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−オクチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソオクチル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸2−エチルヘキシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ノニル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソノニル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−デシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ウンデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソウンデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n−ドデシル、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸イソドデシル、又はこれら2種以上の混合物が好ましく挙げられる。
【0043】
9及びR13の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、組成物が酸化安定性に優れる点から、ともにtert−ブチル基であるのが好ましい。
10及びR14は、水素原子又は上述したような炭素数1〜4のアルキル基が挙げられるが、組成物が酸化安定性に優れる点から、それぞれ個別に、メチル基又はtert−ブチル基であるのが好ましい。
11及びR12の炭素数1〜6のアルキレン基は、直鎖状でも分枝状であっても良く、例えば、それぞれ個別に、R32について上述した各種アルキレン基が挙げられる。式(3)で表される化合物が少ない反応工程で製造できる点およびその原料の入手が容易である点で、R11及びR12はそれぞれ個別に、炭素数1〜2のアルキレン基、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基(ジメチレン基)がより好ましい。
Xの炭素数1〜18のアルキレン基は直鎖状でも分枝状でも良く、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基(ジメチレン基)、エチルメチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、トリメチレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基が挙げられる。原料入手の容易さ等から、炭素数1〜6のアルキレン基、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基(ジメチレン基)、エチルメチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、トリメチレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基がより好ましく、エチレン基(ジメチレン基)、トリメチレン基、直鎖ブチレン基(テトラメチレン基)、直鎖ペンチレン基(ペンタメチレン基)、直鎖ヘキシレン基(ヘキサメチレン基)等の炭素数2〜6の直鎖アルキレン基が特に好ましい。
【0044】
式(3)で表される化合物の中で、Xが炭素数1〜18のアルキレン基である場合の化合物として特に好ましいものとしては、式(4)で表されるテトラメチレン ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)若しくは式(5)で表されるヘキサメチレン ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)が挙げられる。
【化3】

【0045】
式(3)中のXが−R15−S−R16−である場合のR15及びR16である炭素数1〜6のアルキレン基は、直鎖状でも分枝状であっても良く、それぞれ個別に、R32について上述したような各種アルキレン基が挙げられる。式(3)の化合物を製造する際の原料が入手しやすいことから、R15及びR16は、それぞれ個別に、炭素数1〜3のアルキレン基、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基(ジメチレン基)、エチルメチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、トリメチレン基であることがより好ましい。
【0046】
式(3)で表されるアルキルフェノールの中で、Xが−R15−S−R16−である場合の化合物として特に好ましいものとしては、例えば、式(6)で示されるチオジエチレン ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)]化合物が挙げられる。
【化4】

【0047】
式(2)又は式(3)で表される化合物以外の、その他のエステル結合を有するフェノール系酸化防止剤としては、例えば、式(7)で示されるペンタエリスリトール テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)化合物を例示することができる。
【化5】

【0048】
本発明の組成物における上記エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。5質量%を超える量を含有させても、含有量に見合うだけの効果が期待できず、また、0.01質量%未満の場合には、十分な効果が得られない場合もあるため、上記範囲とすることが好ましい。
【0049】
本発明の組成物(A)は、無灰分散剤を併用することで、より一層の上記粘度増加抑制効果が得られる。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができる。例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体が挙げられる。
含窒素化合物としては、例えば、コハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン、マンニッヒ塩基が挙げられ、その誘導体としては、これら含窒素化合物にホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素化合物、(チオ)リン酸、(チオ)リン酸塩等のリン化合物、有機酸、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等を作用させた誘導体が挙げられる。本発明においては、これらの中から任意に選ばれる1種あるいは2種以上を配合することができる。
【0050】
前記アルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、本発明の組成物の低温流動性が悪化する恐れがある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
無灰分散剤としては、高温清浄性の点からモノタイプ及び/又はビスタイプのコハク酸イミド系無灰分散剤、特にビスタイプのコハク酸イミド系無灰分散剤が好ましく、また、コハク酸イミド系無灰分散剤としては、ホウ素を含有していても、含有していなくても良いが、耐焼付き性の点でホウ素を含有しているものであることが特に好ましい。
本発明の組成物(A)において、無灰分散剤を配合する場合の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、通常0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜4質量%、さらに好ましくは1〜3質量%であり、窒素量としての含有量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.015質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.04質量%以下である。無灰分散剤の含有量が上記未満の場合でも良好な粘度増加抑制効果を発揮できるが、上記範囲とすることで、より一層の粘度増加抑制効果が発揮されることとなり、また、煤分散性能も向上される。
【0051】
本発明の組成物(B)においては、無灰分散剤を過度に使用すると、前述したセカンダリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛の効果を阻害してしまう恐れがある。また、遠心分離器等の浄油装置を備えたディーゼル機関に使用した場合に、加水分解安定性を損ない初期の潤滑油性能を長期間保持できなくなる恐れがある。従って、本発明の組成物(B)は、無灰分散剤を全く使用しないか、使用するとしても、組成物全量基準で、窒素量として0.005質量%未満とすることが望ましい。
【0052】
本発明の組成物は、上記構成により高塩基性のサリシレート系清浄剤とジチオリン酸亜鉛との相互作用による組成物の粘度増加抑制や塩基価の保持性を高めることができるが、更にその性能を向上させるために、又は、その他の目的に応じて、本発明の組成物には、潤滑油に一般的に使用される任意の添加剤を添加することができる。
このような添加剤としては、例えば、上記以外の酸化防止剤、上記以外の摩耗防止剤又は極圧剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、又は着色剤が挙げられ。
【0053】
上記以外の酸化防止剤としては、エステル結合を有しないフェノール系酸化防止剤、例えば、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノール(DBPC)、4,4'−メチレンビス−(2,6−ジターシャリーブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン、(アルキル)フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤あるいは金属系酸化防止剤が挙げられる。上記以外の酸化防止剤を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
【0054】
上記以外の摩耗防止剤又は極圧剤としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤又は極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
本発明の組成物において、摩耗防止剤又は極圧剤を使用する場合の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0055】
摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤が挙げられる。摩擦調整剤を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0056】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1000000、好ましくは100000〜900000である。また、粘度指数向上剤を使用する場合の配合割合は、組成物全量基準で通常0.1〜20質量%である。
【0057】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステルが挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテルが挙げられる。
【0058】
これらの添加剤を本発明の組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
【0059】
本発明の組成物の塩基価は、アスファルテンを含有する高硫黄燃料を使用する場合に対しても優れた高温清浄性と酸中和性能を付加するために、15mgKOH/g以上であり、好ましくは15〜100mgKOH/g、より好ましくは20〜80mgKOH/g、さらに好ましくは20〜70mgKOH/gである。ここで塩基価とは、ASTM D−2896により測定される塩基価を示す。
本発明の組成物の100℃における動粘度は特に制限はないが、好ましくは6〜50mm2/s、より好ましくは9.3〜30mm2/s、特に好ましくは12.5〜21.9mm2/sである。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。
本発明の組成物の硫酸灰分量は特に制限はないが、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。ここでいう硫酸灰分とは、JIS K2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されない。
実施例1〜9、比較例1〜12、参考例1〜2
表1及び表2に示す組成に従い、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜9)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜12)、参考用の潤滑油組成物(参考例1〜2)をそれぞれ調製した。得られた組成物をJIS K 2514の4.項に準拠した方法(ISOT)により、165.5℃、48時間強制劣化させ、試験後の組成物について動粘度、酸価、塩基価、ペンタン不溶分(B法)、ラッカードを測定した。結果を表1及び2に示す。また、得られた結果と、新油の動粘度及び塩基価から、新油に対する試験後の組成物の粘度比、塩基価保持率を算出した。結果を表1及び2に示す。
【0061】
尚、表1中の1)〜10)及び表2中の1)〜12)は以下のとおりである。
(表1)
1)100℃動粘度:7.2mm2/s、粘度指数100
2)100℃動粘度:10.5mm2/s、粘度指数95
3)100℃動粘度:32mm2/s、粘度指数95
4)170BN、230BN及び320BNの過塩基性Caサリシレート混合物
5)255BNの過塩基性Caフェネート
6)1ryC8アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛
7)2ryC3/C6アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛
8)ホウ素含有コハク酸イミド系分散剤(窒素量:2質量%、ホウ素量0.5質量%)
9)オクチル-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
10)ジアルキルジフェニルアミン
(表2)
1)100℃動粘度:7.2mm2/s、粘度指数100
2)100℃動粘度:10.5mm2/s、粘度指数95
3)100℃動粘度:32mm2/s、粘度指数95
4)230BNの過塩基性Caサリシレート
5)1ryC8アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛
6)2ryC3/C6アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛
7)ホウ素含有コハク酸イミド系分散剤(窒素量:2質量%、ホウ素量0.5質量%)
8)オクチル-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
9)チオジエチレン ビス[3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
10)4,4'-メチレンビス-(2,6-ジターシャリーブチルフェノール)
11)ジアルキルジフェニルアミン
12)60BNの中性Caサリシレート
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
(参考例の結果)
表1及び2の参考例1及び2の結果から、高塩基性サリシレート系清浄剤を含む金属系清浄剤の含有量が少なく、塩基価(過塩素酸法)が15mgKOH/g未満又はカルシウム量が0.5質量%未満の潤滑油組成物(参考例1)、あるいは、塩基価(過塩素酸法)が100mgKOH/g未満のサリシレート系清浄剤を使用した場合(参考例2)においては、劣化後の粘度増加は小さく、本発明の課題にあるような、サリシレート系清浄剤とジチオリン酸亜鉛との相互作用による粘度増加は小さい。従って、本発明の課題は、高塩基性サリシレートを含む金属系清浄剤を多量に含む場合に、ジチオリン酸亜鉛との相互作用による粘度増加が顕著となる特有の現象を解決することにある。
【0065】
(組成物(A)の結果)
表1及び2の結果から、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を使用した本発明の組成物(A)(実施例1〜5、8及び9)は、劣化後の粘度増加が極めて小さく、また、塩基価の保持率も高いことがわかる。なお、無灰分散剤を窒素量として0.005質量%以上含むことによって上記効果が一層高まっていることが確認されている。それに対し、組成物(B)以外の組成物であって、無灰酸化防止剤を含有しない組成物(比較例1、3、4,6〜9)、酸化防止剤として、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤の代わりにアミン系酸化防止剤を使用した組成物(比較例2、5、11及び12)、エステル結合を有しないビスフェノール系酸化防止剤を使用した組成物(比較例10)では、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を使用した組成物よりも粘度増加が大きく、塩基価の保持率も低いことがわかる。
なお、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を使用しない場合には、無灰分散剤使用による効果は認められないか、本発明の効果よりも小さく、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を使用せず、無灰分散剤を特定量以上含む場合には、ジチオリン酸亜鉛のアルキル基のタイプによる効果は認められない。このことは、酸化防止剤としてエステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を使用することで初めて、高塩基性のサリシレート系清浄剤とジチオリン酸亜鉛との相互作用による粘度増加及び塩基価の低下を抑制できるという、全く予想しえない格別な効果が得られたことがわかる。
【0066】
(組成物(B)の結果)
表1及び2の結果から、無灰分散剤を含まず、セカンダリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用した組成物(B)(実施例6、7)は、劣化後の粘度増加が極めて小さく、また、塩基価の保持率も高いことがわかる。これに対し、無灰分散剤を含まず、プライマリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用した組成物(比較例8)、比較例8の組成物にアミン系酸化防止剤を使用した組成物(比較例12)、あるいは、セカンダリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用したとしても、無灰分散剤を特定量以上含有する組成物(比較例3、6、7)では、組成物(B)に比べ粘度増加が大きく、塩基価の保持率も低いことがわかる。このことから、セカンダリーアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用する効果は、無灰分散剤により阻害されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、該基油に配合する、塩基価100mgKOH/g以上のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、組成物の塩基価が15mgKOH/g以上のディーゼル機関用潤滑油組成物であって、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤を含有することを特徴とするディーゼル機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
無灰分散剤を窒素量として0.005質量%以上含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
潤滑油基油と、該基油に配合する、塩基価100mgKOH/g以上のサリシレート系清浄剤と、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、組成物の塩基価が15mgKOH/g以上のディーゼル機関用潤滑油組成物であって、該ジチオリン酸亜鉛が、セカンダリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛を含み、該組成物が無灰分散剤を全く含有しないか、窒素量として0.005質量%未満含有することを特徴とするディーゼル機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
浄油装置を備えたディーゼル機関用であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
塩基価100〜300mgKOH/gのフェネート系清浄剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
組成物中のサリシレート系清浄剤に起因する金属の含有量(M)と、ジチオリン酸亜鉛に起因するリン含有量(P)との質量比(M/P)が4以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
アンチポリッシング装置を備えたディーゼル機関用であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。

【公開番号】特開2008−239775(P2008−239775A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81694(P2007−81694)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】