説明

デクスパンテノール、カルシウムイオン、およびリン酸塩を含まない薬学的組成物、ならびにカルシウムキレート剤および眼科的に適合性の粘性調節剤の使用

本発明は、デクスパンテノール、カルシウムイオン、およびリン酸塩を含まず、少なくとも1つのカルシウムキレート剤、および少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤、ならびに必要に応じて1つ以上の薬学的賦形剤を含む薬学的組成物に関する。本発明はさらに、上皮欠損の処置および/または予防のための、リン酸塩を含まない薬学的組成物の製造のための、カルシウムキレート剤および眼科的に適合性の粘性調節剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デクスパンテノール、カルシウムイオン、およびリン酸塩を含まない薬学的組成物に関する。本発明はさらに、上皮欠損の処置および/または予防のための、リン酸塩を含まない薬学的組成物の製造のための、カルシウムキレート剤および眼科的に適合性の粘性調節剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
粘性調節剤、特にヒアルロン酸およびヒアルロン酸塩は、眼の湿潤異常において、すなわち「ドライアイ」症候群(これはまた乾燥症候群、または他に乾燥症候と呼ばれる)において、ならびに湿潤異常から生じる上皮病変の処置のために使用される。
【0003】
「ドライアイ」症候群において、これらの症状はそれ自体、とりわけ、眼における、焼け、刺激、砂粒感、およびかすみ目において現われる。これらの症状は、涙液の流れおよび/または涙液層の機能的な異常に起因し得る。
【0004】
ドライアイ症候群の治療のための、リン酸塩緩衝液およびヒアルロン酸を含有する液滴の使用が知られる(Israeli Journal of Medical Science 1997、33、194〜197頁、British Journal of Ophthalmology、2002、86、181〜184頁)。EP 0698388 A1はさらに、人工的な涙液を記載し、これはヒアルロン酸、カルシウムイオン、クエン酸塩、およびリン酸塩イオンを含む。
【0005】
しかし、リン酸塩は、内因性カルシウムまたは内因性カルシウムイオンと、または薬学的調製物に中に含まれるカルシウムイオンと、難溶性のリン酸カルシウムを不都合にも形成し、これは眼の角膜および結膜の中や上に取り込まれ得るかまたはそこに沈着され得る。これらの取り込みおよび/または沈着はまた、石灰化または硬化症と呼ばれ得、そして角膜の混濁に起因して視力のかなりの低下を導く。この角膜の変性はまた、角靱帯変性または帯状角膜変性と呼ばれる。角膜の僅かな混濁であっても、まぶしさに対する非常に増加された感受性を導き、これはリン酸カルシウムの沈着または取り込みで生じる光散乱に起因し得る。それにより、夜間の視力は非常に損なわれる。このような難溶性のリン酸カルシウムまたは他の難溶性のカルシウム化合物の沈着は特に、角膜および/または結膜の上皮欠損に対して生じ得る。
【0006】
リン酸カルシウム沈着に起因する潜在的な副作用を考慮して、従って、上記の不都合を軽減および/または排除し、ならびに眼に対する局所的な適用に適した薬学的組成物を有することが所望される。
【0007】
DE 101 61 110 A1は、少なくともパンテノールおよび/またはパントテン酸、ならびにヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩、ならびに必要に応じて薬学的賦形剤を含む薬学的組成物を開示する。DE 101 61 110 A1において開示される薬学的組成物は、ドライアイ症候群の処置のために使用される。
【0008】
DE 602 03 691 T2は、デクスパンテノールを含むコンタクトレンズケア組成物を開示する。デクスパンテノールを含むケア組成物で処置されたコンタクトレンズは、乾性および/または刺激性の眼の場合において、装着するのに適切である。
【0009】
EP 0 414 373 A2は、眼に対する外科的手術の間の、等張性の、浸透圧的に平衡化された塩溶液としての使用のための、カルシウムを含み、およびリン酸塩を含まない、ヒアルロン酸塩を含む組成物を開示する。
【0010】
US 4,409,205は、哺乳動物の眼において不規則に構造化された涙液層の正常化における使用のための、眼科的溶液を開示する。US 4,409,205から知られる組成物は、涙からのタンパク質様物質の沈殿を防止し、そして沈着したタンパク質様物質の再溶解を促進する。
【0011】
WO 84/04681は、ドライアイ症候群を軽減するためのさらなる眼科的溶液を開示し、その組成物はカルボキシビニルポリマーを含む。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明が基づく目的は、デクスパンテノール、カルシウムイオン、およびリン酸塩を含まない、薬学的組成物により達成され、これは少なくとも1つのカルシウムキレート剤、ならびにコンドロイチン硫酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル樹脂、ポリエチレングリコール、多糖、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択される、少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤、ならびに必要に応じて1つの薬学的賦形剤または多数の薬学的賦形剤を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物の好ましい改善は、従属請求項2〜9において示される。
【0014】
本発明に従う薬学的組成物は、眼の表面、好ましくは眼の角膜および/または結膜における上皮欠損を伴う眼の表面に局所的に適用される。上皮欠損は、例えば、眼における損傷および/または手術により引き起こされ得る。
【0015】
本発明の意味の範囲内で、「リン酸塩を含まない薬学的組成物」は、7mmol/l未満のリン酸塩イオン、好ましくは3mmol/l未満のリン酸塩イオン、特に好ましくは1mmol/l未満のリン酸塩イオンを含み、および非常に好ましくはリン酸塩イオンをなんら含まない薬学的組成物を意味するとして理解される。
【0016】
本発明の意味の範囲内で、用語「リン酸塩イオン」は、特に、PO3−、HPO2−、および/またはHPOを意味するとして理解される。
【0017】
本発明の意味の範囲内で、粘性調節剤は、粘性を増加する作用を有する物質として指定される。
【0018】
本発明の意味の範囲内で、「眼科的適合性」は、特に、眼に対する刺激がない、および好ましくは視力に対して有害な影響がなんら生じないことを意味するとして理解される。
【0019】
好ましくは、粘性調節剤は粘弾性挙動を示す。粘弾性挙動は、本発明に従って、粘性が、圧縮、張力、剪断、および/または剪断応力の作用の下で変化することを意味するとして理解される。特に好ましくは、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物は、粘性調節剤により非ニュートン液体の挙動を示す。
【0020】
粘性は好ましくは、2〜1000mPa・sの範囲、さらに好ましくは2〜500mPa・sの範囲、特に好ましくは2〜100mPa・sの範囲にある。
【0021】
粘性を増加する作用は、眼の表面に適用されたリン酸塩を含まない薬学的組成物が、増加された滞留時間を有すること、および遅延された様式で眼の表面から再び流出することを、極めて有利に引き起こす。粘性調節剤の非ニュートン流動挙動は、眼における使用のために顕著な特徴、すなわち、粘性は、剪断速度の増加とともに減少することを求める。粘性調節剤を含む、リン酸塩を含まない薬学的組成物の、眼の表面への適用後、眼瞼のまばたきにより、剪断応力がリン酸塩を含まない薬学的組成物にかかり、それにより最初に増加された粘性が減少される。眼瞼のまばたきにより、粘性は減少され、それにより均一な層が眼の表面に形成される。まばたき後、粘性は増加し、それによりその層は眼の表面に十分に付着し、そして遅延された様式においてのみ流出する。
【0022】
好ましくは、粘性調節剤は、眼に対する流動促進剤および潤滑剤として作用する。流動促進剤および潤滑剤の作用は、眼の表面、特に角膜が、損傷、特に上皮病変を示す場合、特に有利である。
【0023】
好ましい実施態様によれば、粘性調節剤の量は、約0.005重量%〜約5重量%、好ましくは約0.01重量%〜約1重量%であり、各場合において、リン酸塩を含まない薬学的組成物の総重量に基づく。
【0024】
本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物は、眼科的に適合性の粘性調節剤として、コンドロイチン硫酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル樹脂、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体、多糖、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、および/またはそれらの混合物を含む。特に好ましくは、使用される眼科的に適合性の粘性調節剤は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、および/またはそれらの混合物である。
【0025】
ヒアルロン酸は、眼の硝子体液の構成成分であり、そのために、ヒトの身体にとって異物ではない。この理由のために、ヒアルロン酸は、免疫学的な観点から適合性が非常に高い。さらに、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩は、ムチンに対して構造類似性を有する。ムチンは、三層の涙液層の最も下層を形成し、そして角膜および結膜の上皮の至適な湿潤を提供する。
【0026】
さらにヒアルロン酸は、眼における使用のために顕著な特徴を示し、すなわち、粘性は、剪断速度の増加とともに減少する。従って、ヒアルロン酸は非ニュートン流動挙動を有する。
【0027】
ヒアルロン酸および/またはその塩の、ヒアルロン酸塩、および特に、ヒアルロン酸ナトリウムは、顕著な視覚上の特性を有し、そのため処置された患者において視力の低下はなんら生じない。
【0028】
ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩は、ウシの眼の硝子体液から、または他にニワトリの鶏冠からまた単離され得る。ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩はさらにまた、細菌株を用いて薬学的品質で産生され得る。使用され得るヒアルロン酸の塩は、例えば、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、および/またはヒアルロン酸マグネシウムである。ヒアルロン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0029】
これらの物理的特性のために、ヒアルロン酸ナトリウム水溶液および/またはヒアルロン酸は、視力の低下を伴わずに、結膜および角膜の上皮において良好な付着作用および長期間の滞留時間を有する流動促進剤および潤滑剤として特に適切である。
【0030】
さらなる実施態様によれば、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩は、50000〜10000000ダルトン、好ましくは約250000〜5000000ダルトンの範囲である分子量を有する。特に好ましくは、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の分子量は、50000〜4000000ダルトンである。非常に好ましくは、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩は、約1500000〜3500000ダルトンの分子量を有する。ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩は、好ましくは、0.01〜1.0重量%、さらに好ましくは0.05〜0.8重量%、特に好ましくは0.08〜0.4重量%の濃度において使用され、各場合において、リン酸塩を含まない薬学的組成物の総重量に基づく。
【0031】
例えばヒアルロン酸ナトリウムのような、使用される、高分子量のヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩は、低い濃度にて高い粘弾性を引き起こす。その分子鎖は絡んだランダムな配列で溶液中に存在する。眼瞼の動きにより行使される剪断力の影響下で、高分子はほぼ平行に配列される。剪断力の影響下での3次元構造におけるこの変化は、顕著な粘弾性特性に恐らく重要である。
【0032】
本発明の意味の範囲内で、カルシウムキレート剤は、好ましくは、Caイオンを錯体化および/または結合することによりカルシウム塩の沈殿を防止する物質を意味するとして理解される。
【0033】
好ましくは、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物のカルシウムキレート剤は、クエン酸塩、クエン酸、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、EGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−テトラ酢酸)、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0034】
特に好ましくは、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物は、クエン酸塩緩衝液を含む。クエン酸塩緩衝液は、一方で緩衝液系として作用し、および他方でカルシウムキレート剤として作用し、それによりさらなる緩衝液系の添加がもはや必須でなくなるので、クエン酸緩衝液の使用は特に有利である。
【0035】
1つの実施態様において、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物は、0.04〜0.06mg/mlのクエン酸および7.5〜9.5mg/mlのクエン酸三ナトリウム二水和物を含み、本発明に従う薬学的組成物のpHは、好ましくは、6.6〜7.8である。
【0036】
クエン酸緩衝液の調製のために、クエン酸および、一次、二次、および/または三次のクエン酸塩が使用され得る。使用されるクエン酸塩は、好ましくは、クエン酸のアルカリ金属塩、さらに好ましくはクエン酸ナトリウムである。好ましくは、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、および/またはクエン酸三ナトリウムが使用される。
【0037】
1つの実施態様において、カルシウムキレート剤は、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物中に、0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、特に好ましくは0.5〜3重量%の濃度において存在し、各場合において、薬学的組成物の総重量に基づく。さらなる実施態様において、カルシウムキレート剤は、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物中に、0.8〜1.0重量%の濃度において存在し、各場合において、薬学的組成物の総重量に基づく。
【0038】
リン酸塩を含まない薬学的組成物自体はカルシウムイオンを含まない。本発明の意味の範囲内で、カルシウムイオンを含まないというのは、リン酸塩を含まない薬学的組成物が0.3mmol/l未満のカルシウムイオン、好ましくは0.1mmol/l未満のカルシウムイオンを含み、および特に好ましくはカルシウムイオンをなんら含まないことを意味する。
【0039】
リン酸塩イオンの不存在のために、および少なくとも1つのカルシウムキレート剤の存在のために、本発明に従う薬学的組成物は、角膜において沈着または取り込みを導き得、その結果、リン酸カルシウム錯体および/またはリン酸カルシウム化合物および/または他の難溶性のCa化合物による光散乱に起因した視力のかなりの制限を導き得る、リン酸カルシウム錯体および/またはリン酸カルシウム化合物および/または他の難溶性のCa化合物の眼における生成を防止する。難溶性カルシウム化合物は、好ましくは、角膜において沈着または取り込みを形成する化合物を意味するとして理解される。
【0040】
カルシウムキレート剤は、生理学的に存在するカルシウムイオンと錯体形成し、その結果、眼の角膜および/または結膜における沈着または取り込みを導き得る難溶性のカルシウム化合物、特にリン酸カルシウム化合物の形成を妨げる。
【0041】
本発明に従う薬学的組成物は、角膜および/または結膜における石灰化を防止または軽減する。さらに、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物により、好ましくはまた既に沈着した、リン酸カルシウム錯体および/またはリン酸カルシウム化合物および/または他の難溶性カルシウム化合物が、角膜から、および/または角膜の外に、溶け出すことが可能である。
【0042】
ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩の顕著な流動促進剤および潤滑剤の特性は、カルシウムキレート剤と相乗的に相互作用し、これは本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物で処置された眼において、角膜中にカルシウムを含む化合物または錯体が沈着および/または取り込まれることを防止し、そして適合性が非常に高い湿潤溶液の提供を可能にする。
【0043】
驚くべきことに、リン酸塩イオンを含まない、ヒアルロン酸を含む溶液および/またはヒアルロン酸塩を含む溶液の粘性は、リン酸塩イオンを含む、同一の量のヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩を有する溶液の粘性よりも高いということが見出された。有利なことに、低濃度のヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩が、従って、眼の長く持続する湿潤を達成するために、本発明に従うリン酸塩を含まない組成物中で用いられ得る。ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩は、薬学的品質において非常に高価であるので、かなりの費用が節約できる。
【0044】
好ましくは、リン酸塩を含まない薬学的組成物は、防腐剤を含まない形態で提供される。防腐剤は、角膜前涙液層を傷害し得、そして表面の角膜上皮細胞の多くの微絨毛および微細ひだの減少を導き得る。従って、防腐剤を含む眼科的薬学的組成物を用いた長期間の治療は、それ自体で上皮傷害を導き得る。特に、汎用される塩化ベンザルコニウムは多大な障害の可能性を有する。眼の所望される治療を考慮して、防腐剤の添加による刺激は、それゆえ、回避されるべきである。さらに、防腐剤は、眼の上皮の再生を妨げ、それゆえ、既に障害を受けた眼、例えば、乾燥症候群における、または外傷後の、例えば外科的介入後の、眼の治療において回避されるべきである。
【0045】
1つの実施態様において、本発明に従う薬学的組成物は、パンテノール、パントテン酸、ヘパリン、モキサベリン、および/またはそれらの塩を含まない。
【0046】
パンテノールまたはパントテン酸という用語はさらにまた、それらの誘導体を意味するとして理解されるべきである。パンテノールは、例えば、デクスパンテノールとして存在し得る。パントテン酸はまた、その塩であるパンテトン酸塩、例えばパントテン酸ナトリウムを意味するとして理解されるべきである。
【0047】
用語「ヘパリン」は、「ヘパリン活性を有するムコ多糖」を意味するとして理解されるべきである。「ヘパリン活性を有するムコ多糖」は、好ましくは、ヘパリンに匹敵する生物学的な、または生理学的な活性を有する任意のムコ多糖またはグルコサミノグリカンを意味するとして理解されるべきである。ヘパリン活性を有するムコ多糖は、例えば、ヘパリノイド、ヒトヘパリン、動物ヘパリン、組換えヘパリン、化学的に修飾されたヘパリン、酵素的に修飾されたヘパリン、短縮されたヘパリン、低分子量ヘパリン、ヘパラン硫酸、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0048】
好ましい実施態様によれば、上記の薬物のパンテノール、特にデクスパンテノール、パントテン酸、ヘパリン、モキサベリン、および/またはそれらの塩は、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物中に含まれない。
【0049】
パンテノールを含まない、特にデクスパンテノールを含まない、リン酸塩を含まない組成物が、眼の角膜および/または結膜における上皮欠損の処置に非常に適切であることが、全く驚くべきことに明らかになった。活性物質のパンテノール、特にデクスパンテノールは、創傷の治癒において広範囲に使用されるが、眼の角膜および/または結膜の損傷の場合においては、リン酸塩を含まない薬学的組成物がパンテノールを含まない、特にデクスパンテノールを含まない場合、非常に良好な治癒が生じることが全く不可解なことに明らかになった。従って、本発明は、少量の成分のみを含み、そして顕著な活性特性を有する薬学的組成物の提供を可能にする。従って、本発明に従う組成物は、活性物質のデクスパンテノールが不十分な治癒作用を持っていようがいまいが調剤され得るので、よりコスト効率よく製造され得る。
【0050】
本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物を使用する場合、リン酸カルシウム化合物のような難溶性のカルシウム化合物のさらなる取り込みおよび/または沈着は生じない。他方、従来のリン酸塩緩衝液を含む眼のための調製物を使用する場合、特に、リン酸カルシウム化合物の取り込みおよび/または沈着が、眼の角膜および/または結膜を治癒する際にも生じる。
【0051】
従って、本発明に従う組成物を使用する場合、眼の角膜および/または結膜の中および/または上における、これらの取り込みおよび/または沈着が確実に回避され、そして同時に眼の角膜および/または結膜の非常に良好な治癒が得られるので、本発明は大きな進歩を示す。
【0052】
好ましい実施態様によれば、リン酸塩を含まない薬学的組成物は、少なくとも1つのカルシウムキレート剤および少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤、ならびに必要に応じて1つの薬学的賦形剤または多数の薬学的賦形剤からなる。この場合において、「少なくとも1つ」は、リン酸塩を含まない薬学的組成物が、1つ以上のカルシウムキレート剤および1つ以上の眼科的に適合性の粘性調節剤、ならびに必要に応じて1つ以上の薬学的賦形剤からなることを意味する。
【0053】
特に好ましい実施態様によれば、リン酸塩を含まない薬学的組成物は、クエン酸および/またはクエン酸塩、ならびにヒアルロン酸塩および/またはヒアルロン酸、ならびに必要に応じて1つの薬学的賦形剤または多数の薬学的賦形剤からなる。
【0054】
1つの実施態様において、本発明に従う薬学的組成物は、カルシウムキレート剤、ヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸塩に加えてさらなる薬物を含まない。本発明の意味の範囲内で、薬物は、特に、生体内で、疾患の予防、治癒、および/または緩和を引き起こす物質を意味するとして理解されるべきである。
【0055】
好ましくは、本発明に従う防腐剤を含まない薬学的組成物の保存および放出のために、「PTAtoday」1996年、第12号、1230〜1232頁に記載されているCOMOD(登録商標)システムが使用され、これは本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物の滅菌保存および反復性の放出を可能にする。もちろん、従来の単回用量の容器がまた使用され得、これは使用後に破棄される。
【0056】
1つの実施態様において、リン酸塩を含まない薬学的組成物はさらに、眼科的に適合性である薬学的賦形剤を含み得る。ここで薬学的賦形剤は、好ましくは、リン酸塩イオンを含まない。
【0057】
好ましくは、薬学的賦形剤は、無機緩衝物質、有機緩衝物質、無機塩、有機塩、粘性調節剤、溶媒、可溶化剤、溶液促進剤、塩形成剤、塩類、粘性および濃度影響剤、ゲル形成剤、乳化剤、可溶化剤、湿潤剤、展着剤、酸化防止剤、防腐剤、充填剤および担体、浸透圧調節剤、ならびにそれらの混合物からなる群より選択される。
【0058】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、溶液、懸濁液もしくは乳化液の、ゲルの、軟膏もしくはペーストの、または粉末、顆粒、もしくは錠剤の形態で存在することがさらに好ましい。リン酸塩を含まない薬学的組成物は好ましくは、眼科用薬剤であり、さらに好ましくは局所適用のための眼科用薬剤である。
【0059】
眼用軟膏または眼用ゲルの形態でのリン酸塩を含まない薬学的組成物の提供の場合、これは、例えば、コレステロール、羊毛脂、羊毛脂アルコール、セタノールなどのような乳化剤の添加を伴ってまたは伴わないで、例えば、ワセリンまたはパラフィン中に提供される。
【0060】
好ましい実施態様によれば、リン酸塩を含まない薬学的組成物は、これが眼の表面に適用され得るように、溶液の形態で、例えば、点眼液または眼用スプレーの形態で存在する。
【0061】
1つの実施態様において、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物の浸透圧は、100〜900mOsm/lである。
【0062】
好ましい実施態様によれば、この場合における好ましい水溶液は、涙液に基づいた、等張溶液である。等張溶液において、浸透圧は、好ましくは200〜350mOsm/l、好ましくは300mOsm/lである。さらに好ましい実施態様によれば、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物は、低浸透圧である。この場合、浸透圧は、例えば、約160〜180mOsm/lであり得る。特に、ドライアイを伴う患者において涙液層の異常に高い浸透圧が補正されなくてはならない場合、低浸透圧溶液が使用される。処置される症候群に応じて、高浸透圧溶液はまた有利であり得る。この場合において、薬学的組成物はまた、700〜900mOsm/lの特に高い浸透圧を有し得る。
【0063】
水溶液の等張化のために、塩化ナトリウム、ホウ酸、ソルビトール、グリセロールなどが好ましくは使用される。
【0064】
水溶液のpHは、好ましくは、pH5〜9の範囲、さらに好ましくはpH6.8〜7.6の範囲、特に好ましくはpH7.2〜7.4の範囲である。pHの調節のために、例えば、酢酸塩緩衝液、酢酸塩/ホウ酸塩緩衝液、ホウ酸塩緩衝液のような緩衝溶液が使用され得る。しかし、本発明によれば、リン酸塩緩衝液は使用されない。
【0065】
もちろん、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物は、固体の形態で存在し、これは適用の前に先ず、例えば緩衝溶液のような水溶液中に溶解される。固体の、例えば緩衝水溶液中への溶解後、その溶液は滅菌濾過され得、次いで眼用スプレーまたは点眼液として眼の表面に適用され得る。好ましくは、固体および溶媒は、別々に保存される場合、既に滅菌された形態で存在し、それにより溶液の調製後の滅菌濾過は必要なくなる。従って、使用者は、混合液または溶液の調製後に、リン酸塩を含まない薬学的組成物を直接的に適用し得る。
【0066】
例えば、粉末、顆粒、または錠剤のような、固体の形態でのリン酸塩を含まない薬学的組成物の提供の場合、リン酸塩を含まない薬学的組成物は好ましくは、クエン酸ナトリウムおよび/またはクエン酸、ならびにヒアルロン酸および/またはヒアルロン酸ナトリウムを、これらの化合物が水中で非常に高い可溶性であるので、含む。
【0067】
基本的に、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物はまた、眼用錠剤の形態で、結膜嚢に導入され得る。眼用錠剤は、涙液の作用のもとで迅速に溶解する。
【0068】
しかし、好ましくは、リン酸塩を含まない薬学的組成物の適用は、点眼液、眼用スプレー、および/または眼用ゲルの形態で行われる。
【0069】
溶液または固体の適用の前に、化合物は互いに、所望される量的比率で混合され、そして溶解され、続いて水または粉末水溶液の添加を伴って滅菌濾過される。
【0070】
本発明が基づく目的はさらに、角膜および/または結膜における上皮欠損の処置および/または予防のための、リン酸塩を含まない薬学的組成物の製造のための、少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤および少なくとも1つのカルシウムキレート剤の使用により達成される。
【0071】
本発明に従う使用の好ましい改善は、従属請求項11〜28において示される。
【0072】
本発明によれば、リン酸塩を含まない薬学的組成物が、石灰化または靱帯角膜の混濁を処置および/または予防するための1つの実施態様において使用される。特に石灰化は、上皮欠損に対して生じ、これは異なる原因を有し得る。
【0073】
例えば、上皮欠損は、機械的および/または化学的な作用により生じる上皮欠損、外科的介入後の上皮欠損、眼の表面の湿潤異常に起因する上皮欠損、防腐剤を含む薬学的組成物での、もしくはコンタクトレンズでの、長期間の処置に起因する上皮欠損からなる群より選択される。上皮欠損、例えば、傷口、化学的熱傷、および病変は、難溶性カルシウム化合物、特にリン酸カルシウムの、眼の角膜の中および/または上における、取り込みおよび/または沈着を可能にする。
【0074】
例えば、湿潤異常は、シェーグレン症候群、乾燥症候群、およびコンタクトレンズ装着者における湿潤異常からなる群より選択される。眼における湿潤異常は、眼の中または眼の表面上での摩損の増加を導く。単にこの摩損の結果として、上皮欠損は生じ得、これは石灰化の危険性を有意に増加する。
【0075】
機械的作用により引き起こされる上皮欠損は、例えば、事故に関連する損傷であり得る。
【0076】
化学的作用により引き起こされる上皮損傷は、例えば、酸および/またはアルカリでの化学的熱傷に起因し得る。
【0077】
1つの実施態様において、外科的介入は、眼の前部における外科的介入、レンズ挿入術での白内障摘出、屈折矯正外科的介入、角膜および角膜移植における介入からなる群より選択される。
【0078】
1つの実施態様において、本発明に従う眼科的なリン酸塩を含まない薬学的組成物は、長期間の処置、特に眼における慢性疾患の処置において用いられる。特に、本発明に従う眼科的なリン酸塩を含有しない薬学的組成物は、アレルギーおよび/または緑内障の長期間の処置において用いられる。本発明の意味の範囲内で、長期間の処置は、好ましくは1年よりも長い、特に好ましくは1ヶ月よりも長い、非常に好ましくは1週間よりも長い処置を意味するとして理解される。
【0079】
好ましくは、本発明に従う使用において、リン酸塩を含まない組成物は、カルシウムを含まず、および/またはデクスパンテノールを含まない。
【0080】
さらに好ましい実施態様によれば、本発明に従う使用において、粘性調節剤は、コンドロイチン硫酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル樹脂、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体、多糖、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0081】
リン酸塩を含まない薬学的組成物はさらに、人工涙液として、例えば、コンタクトレンズ装着者の場合において再湿潤化のために使用され得る。
【0082】
ところで、本発明に従う使用に関して、参照は、本発明に従う組成物についての上述の実施態様に対してなされ、これは本発明に従う使用の場合においてもまた準用される。
【実施例】
【0083】
実施例1:
1mlの点眼液は、以下を含む:
ヒアルロン酸ナトリウム(MW:1.5×10〜3.5 10Da)
1.0mg
ソルビトール 32.0mg
クエン酸、無水物 0.05mg
クエン酸ナトリウム×2HO 8.5mg
注入のための水 1.0mlにする
pH6.8〜7.6
【0084】
実施例2:
ヒアルロン酸ナトリウム(MW:1.5×10〜3.5 10Da)
5.0mg
クエン酸、無水物 29.5mg
クエン酸ナトリウム×2HO 500mg
注入のための水 50mlにする
pH6.25
109mOsm/kg
【0085】
実施例3:
ヒアルロン酸ナトリウム(MW:1.5×10〜3.5 10Da)
10.0mg
クエン酸、無水物 0.3mg
クエン酸ナトリウム×2HO 50mg
グリセロール、無水物 2500mg
注入のための水 100mlにする
pH7.11
270mOsm/kg
【0086】
実施例1〜3に従って用いられるクエン酸ナトリウムは、薬局方品質のクエン酸三ナトリウム二水和物である。実施例1〜3に従う組成物は、等張化および等水化のためのさらなる構成成分を含み得る。
【0087】
実施例4:
本実施例において、点眼液の治癒作用が、リン酸塩を含む点眼液および本発明に従うリン酸塩を含まない点眼液の角膜における硬化および石灰化の現象を考慮して、互いに比較された。
【0088】
この場合において比較のために使用されたリン酸塩を含む点眼液は、以下の組成を有した:
ヒアルロン酸ナトリウム(MW:1.5×10〜3.5×10Da) 1mg
ソルビトール 27mg
リン酸塩緩衝液pH7.2 50mM
注入目的のための水 1mlにする
【0089】
この場合における本発明に従うリン酸塩を含まない点眼液は、以下の組成を有した:
ヒアルロン酸ナトリウム(MW:1.5×10〜3.5×10Da) 1mg
ソルビトール 32mg
クエン酸、無水物 0.05mg
クエン酸ナトリウム×2HO 8.5mg
注入のための水 1mlにする
pH7.2
【0090】
眼の角膜における硬化または石灰化の現象を考慮した治癒作用が、二酸化炭素ガスで殺されたばかりのウサギから、眼を摘出した後に取り出された角膜に対して調査された。網膜、脈絡膜、水晶体、および虹彩を取り除いた後、強膜の残留物を伴う角膜は、培養槽中の保持装置に固定された。次いで角膜の後方に位置する前眼房は、培養槽中で、培養培地で注意深く満たされた。
【0091】
使用した培養培地は、Biochrom、Berlin、GermanyからのEarle’s MEM T031−05であった。培養培地のpHは、NaHCOの添加でpH7.2に調節された。
【0092】
培養培地は、10μl/分の流速での連続的な流動下で、絶えず交換された。人工前房の平均容量は、0.5〜0.9mlであり、角膜の曲率に依存した。結果として、培養培地の交換は、50〜90分間にわたって行われた。
【0093】
角膜は、恒温器中で、100%の大気湿度のもと、32℃にて、滅菌条件下で培養された。
【0094】
角膜における石灰化の現象を考慮した治癒作用を調査するために、歯科医用グラインダー(Arkansas grinder 638XF、Meisinger、Germany)を使用して、角膜表面が、それぞれ約0.2〜1.5mmの面積を有する4つの小さなびらんの形態に傷つけられた。
【0095】
角膜頂点の上部に、滴下カニューレが、角膜上にこれが中央に滴下するように配置された。マイクロポンプを使用して、一滴の液体は各場合において約30μlの培養培地の容量を伴い、リン酸塩を含む点眼液またはリン酸塩を含まない点眼液が、一時間当たりで適用された。
【0096】
培養培地の点眼液は、リン酸塩を含むまたはリン酸塩を含まない点眼液で処置された角膜の比較のためのコントロールとして供した。
【0097】
角膜における石灰化の現象を調査することを可能にするために、14.58mmol/lのCaCl濃度を有する、塩化カルシウムを含む生理食塩水溶液が、さらに角膜上に一滴(30μl)/時間で滴下された。塩化カルシウムを含む生理学的塩溶液の滴下は、見せかけの涙液分泌のために供した。遊離カルシウムイオンの濃度は、ここでは、分泌される涙液中のカルシウム含量に対応する。
【0098】
あるいは、点眼液または塩化カルシウム溶液の滴下は、各場合において30分間隔で行われた。
【0099】
調査された角膜は、試験において完全に生存可能であった。生存能力は、培養槽の培地中のpH、ならびにグルコースおよび乳酸塩濃度により測定された。全ての値は、測定期間にわたって一定であった。
【0100】
測定期間は、各場合において4日間であった。
【0101】
角膜の石灰化および治癒に関する結果は表1にまとめられる。
【0102】
【表1】

【0103】
表の説明
1)n.d.:決定せず
2)%での治癒の詳細は、角膜損傷の元来の面積に対する、治癒された面積の大きさを示す。
3)石灰化の強度は数値1〜5により示され、評価は肉眼で行われ、そして数値は以下の評価を表す:
0:硬化現象なし
1:初期の硬化が肉眼で認識される
2:僅かな硬化
3:中程度に重篤な硬化
4:重篤な硬化
5:完全な硬化
【0104】
処置されたおよび未処置の角膜の顕微鏡写真が、図1〜9において透過光観察の下に示される。培養条件下で、維持され、およびマウントされ、そしてまた処置された、ウサギの眼の角膜が、各場合において、見られるべきである。
【0105】
結果:
カルシウムキレート剤を含み、リン酸塩を含まない点眼液での、眼の角膜および/または結膜における上皮欠損の処置において、角膜表面の石灰化が生じなかった、すなわち、特にリン酸カルシウム化合物の取り込みが生じなかったということが、全く驚くべきことに示された。
【0106】
さらに、本発明に従うリン酸塩を含まない薬学的組成物は、創傷治癒のために広範な程度をもって習慣的に使用されるデクスパンテノールの不在下であっても、眼の損傷された角膜の非常に良好な治癒をもたらすことが驚くべきことに明らかになった。
【0107】
表1から、2〜3回の実験コースにわたって平均された治癒率は、培養培地の場合は73.8%であり、リン酸塩を含む点眼液の場合は57%であり、そしてリン酸塩を含まない点眼液の場合は94.9%であったことが明らかである。
【0108】
約4の平均評価数で角膜表面の重篤な石灰化が生じたリン酸塩を含む点眼液での処置とは異なり、リン酸塩を含まない点眼液を使用した場合、角膜の表面の石灰化は全く測定することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】歯科医用グラインダーを使用してどのように角膜損傷が適用されるのかを示す。
【図2】角膜表面に対する損傷、摩損ともまたいわれる、が示される。
【図3】眼の角膜に与えられた損傷は、フルオレセインによる染色でより良好に可視化される。
【図4】実施例4からの、リン酸塩を含まない点眼液を用いた実験の開始時の損傷された角膜を示す。
【図5】リン酸塩を含まない点眼液を4日間滴下した後の、図4由来の角膜を示す。図5から、リン酸塩を含まない点眼液の4日間の滴下後には、角膜表面の石灰化は全く生じなかったことが明らかである。
【図6】実施例4からの、リン酸塩を含む点眼液を用いた実験の開始時の角膜を示す。
【図7】リン酸塩を含む点眼液を4日間滴下した後の、図6由来の角膜を示す。図7から、リン酸塩を含む点眼液の4日間の滴下後には、角膜の表面の重篤な石灰化が生じたことが明らかである。
【図8】実施例4において記載されたように、培養培地を用いたコントロール実験の開始時の角膜を示す。
【図9】培養培地を4日間滴下した後の、図8由来の角膜表面を示す。図9から明らかなように、培養培地の4日間の滴下後には、中程度の重篤から重篤まで、角膜表面の石灰化が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デクスパンテノール、カルシウムイオン、およびリン酸塩を含まず、少なくとも1つのカルシウムキレート剤、ならびにコンドロイチン硫酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル樹脂、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体、多糖、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体および、それらの混合物からなる群より選択される、少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤、ならびに必要に応じて1つの薬学的賦形剤または多数の薬学的賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
粘性調節剤の量が、約0.005重量%〜約5重量%、好ましくは約0.01重量%〜約1重量%であり、各場合において、リン酸塩を含まない薬学的組成物の総重量に基づく、請求項1に記載のリン酸塩を含まない薬学的組成物。
【請求項3】
ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、および/またはそれらの誘導体が、約50000〜約10000000ダルトン、好ましくは約250000〜約5000000ダルトンの範囲にある分子量を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
ヒアルロン酸塩が、ヒアルロン酸ナトリウムであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のリン酸塩を含まない薬学的組成物。
【請求項5】
カルシウムキレート剤が、クエン酸塩、クエン酸、EDTA、EGTA、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のリン酸塩を含まない薬学的組成物。
【請求項6】
薬学的賦形剤が、無機緩衝物質、有機緩衝物質、無機塩、有機塩、粘性調節剤、溶媒、可溶化剤、溶液促進剤、塩形成剤、粘性および濃度影響剤、ゲル形成剤、乳化剤、可溶化剤、湿潤剤、展着剤、酸化防止剤、防腐剤、充填剤および担体、浸透圧調節剤、ならびにそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のリン酸塩を含まない薬学的組成物。
【請求項7】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、溶液、液滴、スプレー、懸濁液もしくは乳化液、ゲル、軟膏もしくはペースト、粉末もしくは顆粒、または錠剤の形態で存在することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のリン酸塩を含まない薬学的組成物。
【請求項8】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、モキサベリン、ヘパリン、および/またはパントテン酸を含まないことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のリン酸塩を含まない薬学的組成物。
【請求項9】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、少なくとも1つのカルシウムキレート剤、および少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤、ならびに必要に応じて1つの薬学的賦形剤または多数の薬学的賦形剤からなることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載のリン酸塩を含まない薬学的組成物。
【請求項10】
眼の角膜および/または結膜における上皮欠損の処置および/または予防のための、リン酸塩を含まない薬学的組成物の製造のための、少なくとも1つのカルシウムキレート剤および少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤の使用。
【請求項11】
上皮欠損が、機械的および/または化学的な作用により生じる上皮欠損、外科的介入後の上皮欠損、眼の表面の湿潤異常に起因する上皮欠損、防腐剤を含む薬学的組成物での、もしくはコンタクトレンズでの、長期間の処置に起因する上皮欠損からなる群より選択されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、長期間の適用のために用いられることを特徴とする、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
長期間の使用が、緑内障において、およびアレルギーにおいて行われることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
眼の角膜および/または結膜における、難溶性のカルシウム化合物の取り込みおよび/または沈着、特に石灰化が、防止および/または減少されることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
湿潤異常が、シェーグレン症候群、乾燥症候群、およびコンタクトレンズ装着者における眼の湿潤異常からなる群より選択されることを特徴とする、請求項11〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
外科的介入が、眼の前部における外科的介入、レンズ挿入術での白内障摘出、屈折矯正外科的介入、角膜および角膜移植における介入、ならびに結膜における介入からなる群より選択されることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、カルシウムイオンを含まないことを特徴とする、請求項10〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
粘性調節剤の量が、約0.005重量%〜約5重量%、好ましくは約0.01重量%〜約1重量%であり、各場合において、リン酸塩を含まない薬学的組成物の総重量に基づくことを特徴とする、請求項10〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
粘性調節剤が、コンドロイチン硫酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル樹脂、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体、多糖、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項10〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、および/またはそれらの誘導体が、約50000〜約10000000ダルトン、好ましくは約250000〜約5000000ダルトンの範囲にある分子量を有することを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
ヒアルロン酸塩が、ヒアルロン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項19または20に記載の使用。
【請求項22】
カルシウムキレート剤が、クエン酸塩、クエン酸、EDTA、EGTA、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項10〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
薬学的組成物がさらに、薬学的賦形剤を含むことを特徴とする、請求項10〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
薬学的賦形剤が、無機緩衝物質、有機緩衝物質、無機塩、有機塩、粘性調節剤、溶媒、可溶化剤、溶液促進剤、塩形成剤、粘性および濃度影響剤、ゲル形成剤、乳化剤、可溶化剤、湿潤剤、展着剤、酸化防止剤、防腐剤、充填剤および担体、浸透圧調節剤、ならびにそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、溶液、液滴、スプレー、懸濁液もしくは乳化液、ゲル、軟膏もしくはペースト、粉末もしくは顆粒、または錠剤の形態で存在することを特徴とする、請求項10〜24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、モキサベリン、ヘパリン、パンテノール、および/またはパントテン酸を含まないことを特徴とする、請求項10〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、さらなる薬物を含まないことを特徴とする、請求項10〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
リン酸塩を含まない薬学的組成物が、少なくとも1つのカルシウムキレート剤、および少なくとも1つの眼科的に適合性の粘性調節剤、ならびに必要に応じて1つの薬学的賦形剤または多数の薬学的賦形剤からなることを特徴とする、請求項10〜27のいずれか1項に記載の使用。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−515921(P2009−515921A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540522(P2008−540522)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011053
【国際公開番号】WO2007/057201
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(504228243)ウーアザファルマ アールツナイミッテル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント カンパニー カーゲー (3)
【氏名又は名称原語表記】URSAPHARM Arzneimittel GmbH & Co.KG
【Fターム(参考)】