説明

デジタル無線機のAFC回路及びAFC制御方法

【課題】デジタル無線機においてFM検波出力に含まれる直流オフセットに基づいて発振周波数を補正する際、受信品質が悪化した状態では直流オフセットが正確な周波数ズレに対応せず誤った周波数補正を行うことになる。本発明は、このような不具合を防止し、安定した周波数維持が可能なデジタル無線機のAFC回路及びその制御方法を提供する。
【解決手段】デジタル無線機のAFC回路を、同期ワード候補シンボルデータに基づいて周波数ズレ量を示す直流オフセット量を検出する手段と、同期状態の良否を判断するしきい値手段と、同期状態であって、且つ、受信品質がしきい値より良好の場合にのみ直流オフセット量に対応して局部発振手段の周波数補正処理を行うように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル無線機の自動周波数制御回路及びAFC制御方法に関し、詳細には、既知の固定データパターンを検出して同期を図るデジタル無線通信機等に用いて好適な、自動周波数制御回路及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、業務用無線機(Land Mobile Radio)を始めとして各種無線通信システムでは周波数利用効率の観点から一チャネル当たりの占有周波数帯域の狭帯域化とデジタル化が推進されている。デジタル化に際し、例えば業務用無線システムにおいては、従来のアナログ方式との併存や共用が容易なFSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移変調)、PSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)等が採用されている。
一方、占有周波数帯域が狭帯域化されると、伝送すべき情報(データ)によって変調する周波数偏移量や位相偏移量が小さくなり、所謂、変調度が浅くなるので、送受信周波数の僅かなズレや変動によってデータエラーが発生する傾向が大きくなる。一般的に、送受信の周波数のズレや変動は、温度変化や経年変化に起因する送受信機の局部発振器の発振周波数の変動や、受信復調回路の素子周波数特性の変動によって生じるので、通常、無線送受信機には、AFC(Auto Frequency Control:自動周波数制御)機能が備えられているが、狭帯域化された無線機においては局部発振器の周波数を正確に制御する機能が極めて重要である。
従来のAFC手段としては種々のものが提案されている。例えば、図8に示すように、基地局(Base Station:ベース・ステーション)101と携帯無線機102が通信する無線システムにおいて、基地局101から送信される下り回線周波数fc_b(Down)と携帯無線機102から送信される上り回線周波数fc_s(UP)+Δfとの両者間にΔfのズレが有る場合を考える。通常、基地局101では消費電力や形状寸法等の制限が厳しく要求されないので、恒温槽付きの高精度温度補償水晶発振器を使用して安定した周波数信号を発生するように構成されている。消費電力や小型化等の厳しい制限が要求される携帯無線機102は、基地局から送信される安定した周波数信号を受信し、その周波数情報を用いて自局の局部発振器の周波数を補正することによって、基地局101と同等の周波数安定度を得るように構成されている。
【0003】
ところで、携帯無線機102側の局部発振器を基地局101からの送信周波数信号に同期させる方法としては、幾つかの方法が知られている。図9は、従来のデジタル無線機におけるAFC回路及びその制御方法の例を説明するためのブロック図である。この例に示す無線機では、伝達すべきデータをフレーム単位で送受信するもので、送信機側で各フレームの所定位置、例えば、フレーム先頭に特定の信号配列パターンを有する同期信号(フレーム同期ワード:Frame Sync Word、以下「SYNC」と略称)を配置して送信し、受信機側ではこのSYNCを検出することにより、各フレーム内に配列されている各情報を検出して処理するためのタイミング情報を得るシステムである。このような無線通信システムにおいて、FM検波した後に、上述したSYNCを検出して同期処理を行う際に、周波数ズレに伴う直流オフセット成分(以下「DCオフセット」とも略称する)をSYNC部DC計算手段において抽出し、そのオフセット量に対応して、又は、そのDCオフセットが小さくなるように局部発振器としての電圧制御温度補償水晶発振器(Voltage Controlled Temperature Compensated Crystal Oscillator:VC-TCXO)を制御するものが知られている。
また、他の方法としては、図10に示すように、FM検波信号からDCオフセット成分を抽出する手段として、SYNC部DC計算手段に代えて低域フィルタ(LPF)を用いるものも知られている。
なお、同一出願人は、特許文献1に示す同期ワード検出手段を提案しているので、後述する本発明のDCオフセット量検出手段等として利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−150472公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のAFC回路やその制御方法では、以下に説明するような不具合が考えられる。
周知のように移動無線通信システムでは電波環境の変動が著しく、着信電波のレベルが大きく変動するので、常に正確にSYNCを検出できるとは限らない。また、同期判断を迅速化するために、同期検出結果を、ある一定の範囲の誤り(誤差)を許容した同期用しきい値と比較して、誤差がしきい値により許容する値以下の場合、同期検出と判断することが一般的であるが、このようなシステムでは、同期状態と判断された場合であっても、ある程度のビットエラーが含まれることになる。
図11は、上述の図9に示した回路におけるAFC制御の様子を示すもので、各フレームの先頭に付されたSYNCから、周波数ズレに対応したDCオフセットを抽出し、そのレベルに応じてVC-TCXOを制御する様子を示している。この場合、着信電界強度が悪化すると、SYNCデータビットの検出正解率が低下し、DCオフセット値が不正確になり、その結果、フレーム毎にVC-TCXO制御信号レベルが変動することになる。即ち、発振周波数は基地局からの着信信号に許容された範囲以内で一致している状態でもDCオフセット量が実際の周波数ズレ量と異なる値を示すことがあるので、フレーム毎にVC-TCXO制御信号レベルがばらけたものとなる。
【0006】
また、FM検波信号に含まれるDCオフセット量を取り出す方法として、図10に示すようにLPFを使用する場合は、上述したような電界強度悪化に伴う周波数制御変動は軽減されるものの、低い周波数成分(直流成分)を取り出すためのLPFでは、その時定数が大きくなるので、図12(a)、(b)に示すように周波数が定常状態に収束するまでに相当の時間を要する。従って迅速な同期確保が困難であり、同期捕捉するまでの間、正常な通信が出来なくなる。
なお、移動無線機(携帯電話機や車載無線機等)から送信する電波の周波数変動を、基地局側で補正(追従)する方法もあるが、移動無線機の数が多くなると、基地局側の設備負担が大きくなる他、通話品質の低下を招く場合もある。
本発明は、これらの諸事情に鑑みてなされたものであって、着信電界強度が変動する場合であっても、安定した周波数制御が可能なデジタル無線機のAFC回路及びAFC制御方法を提供することを目的としている。
例えば、FM変調方式を採用するデジタル無線機においては、周波数ズレはFM検波出力に含まれる直流オフセット量として検出されるが、受信品質が悪化した状態では直流オフセットが正確な周波数ズレに対応しない場合がある。本発明は、そのような誤った値に基づいた周波数補正を行うことを防止したデジタル無線機のAFC回路及びその制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1記載のデジタル無線機のAFC回路は、受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得し、既知の同期ワードデータと比較して同期判定を行う同期判定手段と、発振周波数を制御可能な局部発振手段と、を有するデジタル無線機のAFC回路において、上記同期ワード候補シンボルデータに基づいて、周波数ズレに応じて発生する直流オフセット量を検出するオフセット量検出手段と、同期状態の良否を判断するDC有効分散しきい値比較手段と、この比較手段により同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に上記直流オフセット量に対応して前記局部発振手段の周波数補正を行うように構成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明では、請求項1記載のデジタル無線機のAFC回路において、上記同期判定手段は、同期ワード候補シンボルデータ(Xi)と既知の同期ワードシンボルデータ(fsi)とのシンボル誤差(Yi)を求めるシンボル誤差演算手段と、上記シンボル誤差演算手段によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値(E)を求めるシンボル誤差平均演算手段と、上記シンボル誤差演算手段によって求めた同期ワード候補の各シンボル誤差(Yi)とシンボル誤差平均値(E)との減算を行うシンボル誤差平均減算手段と、上記同期ワード候補全シンボルについて、シンボル誤差平均減算値の自乗値から誤差分散値(δ2)を算出する誤差分散演算手段と、上記誤差分散値(δ2)を予め設定した同期判定用しきい値と比較することによって、その同期ワード候補が同期ワードであるか否かを判断する同期ワード判断手段を備えたものであり、上記DC有効分散しきい値比較手段は、同期判定用しきい値より良好な同期状態を判断するための第二のしきい値としてDC有効分散しきい値が設定され、同期ワード判断手段により同期検出と判断された状態において、上記誤差分散値(δ2)をDC有効分散しきい値と比較し、同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に、上記シンボル誤差平均値(E)を直流オフセット量とみなし、この直流オフセット量に対応して局部発振手段の周波数補正を行うことを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の発明はデジタル無線機のAFC制御方法に関するもので、受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得し、既知の同期ワードデータと比較して同期判定を行う同期判定手段と、発振周波数を制御可能な局部発振手段と、を有するデジタル無線機のAFC制御方法において、同期ワード候補シンボルデータに基づいて、周波数ズレに応じて発生する直流オフセット量を検出するオフセット量検出処理と、同期状態の良否を判断するDC有効分散しきい値比較処理と、このDC有効分散しきい値比較処理により同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に直流オフセット量に対応して局部発振手段の周波数を補正する処理を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のデジタル無線機のAFC制御方法において、上記同期判定処理は、同期ワード候補シンボルデータ(Xi)と既知の同期ワードシンボルデータ(fsi)とのシンボル誤差(Yi)を求めるシンボル誤差演算処理と、シンボル誤差演算処理によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値(E)を求めるシンボル誤差平均演算処理と、上記シンボル誤差演算処理によって求めた同期ワード候補の各シンボル誤差(Yi)とシンボル誤差平均値(E)との減算を行うシンボル誤差平均減算処理と、同期ワード候補全シンボルについて、シンボル誤差平均減算値の自乗値から誤差分散値(δ2)を算出する誤差分散演算処理と、上記誤差分散値(δ2)を予め設定した同期判定用しきい値と比較することによって、その同期ワード候補が同期ワードであるか否かを判断する同期ワード判断処理を含むものであり、上記DC有効分散しきい値比較処理は、同期判定用しきい値より良好な同期状態を判断するための第二のしきい値としてDC有効分散しきい値が設定され、同期ワード判断処理により同期検出と判断された状態において、誤差分散値(δ2)をDC有効分散しきい値と比較し、同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に、シンボル誤差平均値(E)を直流オフセット量とみなし、この直流オフセット量に対応して局部発振手段の周波数補正を行う処理を含むことを特徴とする。
なお、シンボル誤差演算手段(処理)によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値(E)を求めるシンボル誤差平均演算手段(処理)における「全シンボル」とは、一つのフレームの全シンボルに限定する必要はなく、目的とするシンボル誤差平均が得られる数であればよく、通信システムに応じて予め設定した数のシンボルであればよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上述したように無線機のAFC回路において、同期ワード候補シンボルデータに基づいて周波数ズレに応じて発生する直流オフセット量を検出するとともに、受信品質の良否又は同期状態の良否を判断するDC有効分散しきい値比較手段により同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合にのみ、直流オフセット量に対応して局部発振手段の周波数補正を行うように構成し、又は、制御したので、同期検出状態であっても、同期状態、即ち受信品質状態がしきい値以上でない場合は、その時得られた直流オフセット量が正確な周波数ズレを示していないものと判断して、周波数補正を行なわない。
従って、デジタル無線機において直流オフセットに基づいて発振周波数補正を行う際、直流オフセットが正確な周波数ズレに対応しない場合に、誤った周波数補正を行うことを防止し、正確で安定した周波数制御を行い得るデジタル無線機のAFC回路及び、その制御が実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のAFC回路を備えた無線機の一実施形態を示すブロック図。
【図2】本発明のAFC回路の制御例を説明するための図で、(a)はフレームデータ構成図、(b)はVC-TCXO(局部信発振器)の制御信号波形図。
【図3】本発明のAFC制御例を示すフローチャート。
【図4】本発明のAFC制御の変形例を示すフローチャート。
【図5】従来のAFC回路の周波数制御例を示すイメージ図。
【図6】本発明における周波数制御例を示す図であり、(a)はSYNC同期検出分散値とDC有効分散しきい値との関係を示す図、(b)は周波数制御イメージ図。
【図7】本発明における周波数制御の具体例を示すDC有効分散値と補正周波数ばらつき範囲との関係をグラフで示す図。
【図8】無線システム例を示す概要図。
【図9】従来のAFC回路を備えた無線機の一例を示すブロック図。
【図10】従来のAFC回路を備えた無線機の他の例を示すブロック図。
【図11】従来のAFC回路の制御例を説明する図で、(a)はフレームデータ構成図、(b)は局部発振器の制御信号波形図。
【図12】従来のAFC回路制御の他の例を説明する図で、(a)はフレームデータ構成図、(b)は局部信発振器の制御信号波形図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の一実施形態を示すデジタル方式の移動無線機(携帯無線機)の概要ブロック図である。この例に示す携帯無線機は、受信用アンテナ1、第一混合器(MIX)2、第一中間周波数(First IF 周波数)を取り出す第一の帯域フィルタ(BPF)3、第二混合器(MIX)4、第二中間周波数(Second IF 周波数)を取り出す第二の帯域フィルタ(BPF)5、第二帯域フィルタの出力信号を検波するFM検波器6、検波した信号からシンボル値を検出するシンボル検出部7、上述したフレーム先頭のSYNC(フレーム同期ワード)を検出してフレーム同期を図るフレーム同期検出部(SYNC同期検出)10が受信部(RX)の主たる構成ブロックである。
【0014】
また、本発明におけるAFC制御の対象であって、基準となる周波数信号を発生するVC-TCXO(電圧制御温度補償水晶発振器)11は、上記フレーム同期検出部10から供給されるSYNC DCオフセット信号によって発振周波数が制御される。このVC-TCXO11の発振周波数信号は、所望のチャネル周波数に変換する機能等を備えたフェーズロックループ(PLL)回路12を経て、電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO)13に供給され、更に、VCO13の出力の一部は、第一混合器2への第一ローカル発振信号を発生する第一ローカル発振器14に供給される。
また、送信部TXは、VCO13を構成ブロックの一部として含み、図示を省略した送信制御部により送信データ等を生成するとともに、デジタル変調部(Digital mod)15に供給され、デジタル変調信号となる。その信号がVCO13に供給されるとともに、その出力信号が所要レベルに増幅されて、送信用アンテナ15から送信電波として放出される。なお、上記第二の混合器4には、第二ローカル信号を供給する第二局部発振器17を備えている。
【0015】
本発明に係るこの実施例において特徴的なところは、上記SYNC同期検出部10の構成及び処理部分であり、以下のように構成され、且つ、制御される。
即ち、SYNC同期検出部10は、SYNC部分散計算処理部18と、その分散値計算処理の結果に基づいて同期判定、あるいは受信品質良否判定を行う同期判定処理部19と、同期判定信号、あるいは受信品質良否判定信号と上記SYNC部分散処理部18からの信号とに基づいてDCオフセット信号を発生するSYNCDC計算処理部20と、上記SYNC部分散計算処理部18及びSYNCDC計算処理部20からの信号に基づき、供給された分散値と予め設定したDC有効分散しきい値とを比較するDC判定処理部21とを含んで構成されている。
【0016】
SYNC部分散処理部18は、既知の固定パターン(理想シンボルパターン)であるフレーム同期ワードと受信信号の波形パターンとの分散値を計算する機能を有する。ここで算出された分散値は、特許文献1にも示されているように着信電界強度、つまり受信品質の良否に応じたものとなり、同期の有無、あるいは、その時の受信状態(受信品質の良否)を判断する手段として使用可能である。そこで、計算された分散値をDC判定部21に供給し、予め設定したDC有効分散しきい値と比較することによって、その時の受信状態(受信品質の良否)を判断する。そして、予め設定したしきい値より受信品質が良好の場合に、その時に計算されたDCオフセット量を示す誤差平均値に基づいて、局部発振器VC-TCXO11の周波数補正処理を行う。
即ち、分散値が大きい状態は着信電界強度が小さく、そのときのDCオフセット量が正確に周波数ズレ量を現していない状態であると判断して、周波数補正処理を行わず、分散値が一定値以下の場合においてのみ周波数補正処理を行う。
【0017】
このように、本発明では図1に示すように、受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得し、既知の同期ワードデータと比較して同期判定を行う同期判定手段と、発振周波数を制御可能な局部発振手段と、を有するデジタル無線機のAFC回路において、
同期ワード候補シンボルデータに基づいて同期判定を行う際に、周波数ズレに応じて発生する直流オフセット量を検出するオフセット量検出手段と、
同期検出判定手段に備えた同期状態の良否を判断するしきい値比較手段と、このしきい値比較手段により同期状態がしきい値より良好と判断された場合に周波数オフセット量に対応して局部発振手段の周波数補正を行うように構成したことを特徴としている。
従って、従来のように受信品質が不良の状態において、DCオフセットに基づく周波数補正を行うことによる不具合を解消し、正確な周波数制御が可能なAFC回路、あるいはAFC制御方法を提供することができる。
【0018】
図2は、本発明の効果の一例を示す図である。同図2(a)に示す第1フレーム乃至第3フレームについて、先頭のSYNCデータに関し上述したシンボル誤差平均値Eを求めれば、夫々のフレームにおけるDCオフセット量、即ち周波数ズレの量が検出できる。また、同時に各フレームにおける同期状態、つまり受信品質の良否を判断し、同期検出状態、あるいは受信品質が予め設定したしきい値より良好の状態の場合にのみ周波数補正処理を実行する。その結果同図2(b)に示すように、第2フレームにおける受信品質状態が悪い場合は、そのフレームについて周波数補正処理を行わないので、上記図11とその関連する説明において述べたように、フレームによって周波数が変動すると云った不具合を解消することができる。
【0019】
以下、本発明についての具体的な処理例について詳細に説明するが、同一出願人は特許文献1に開示したように分散値を用いてフレーム同期を判断する手段を提案しており、この例に限定するものではないが、本発明においても、この手段を用いることができる。なお、特許文献1では、同期判定を主眼としたものであり、DCオフセット信号の計算はその処理過程において有られるものであるが、本発明において、DCオフセット計算部分のみを利用する場合と、同期判定を含めて利用する場合の両者が考えられる。
つまり、本発明においては周波数ズレの量をDCオフセット量として判断するが、その周波数ズレ計算(DC計算)は特許文献1に示されているように、シンボルパターンの分散計算を行う処理過程で求めるシンボルパターンの誤差の平均値を使用することができる。この際の計算式は、
E=(1/N)Σfsi−Xi ・・・(式1)
ここで、EはFS(同期ワード:SYNC)の誤差平均値(周波数ズレ)、fsiは同期ワードFSのシンボル値、NはFSシンボル数、Xiは検波信号であり、iは0からN−1の値をとる。
また、同期状態を判断するために、次の(式2)に示す誤差分散値(δ2)を求める。
δ2=(1/N)Σ(Yi−E)2i=fsi−Xi ・・・(式2)
ここで、δ2はFSとの誤差分散(FS相関値)、YiはFSシンボルと検波信号との誤差であり、iは0からN−1の値をとる。
即ち、(式1)は、既知の同期ワードFSのシンボル値と受信検波後の検波信号の差について、所要ビットの誤差平均値を計算したものであり、FM検波器では周波数のズレは直流(DC)値として出力されるので、周波数ズレの平均値と見ることができる。
【0020】
(式2)を用いて同期検出する方法については、特許文献1に開示されている。受信検波信号の誤差分散値(δ2)は、FS相関値に対応する値であるが、相関値が同期状態で最大値をとるのに対し、誤差分散値(δ2)は(式2)から明らかなように、理想的な同期状態において最小値をとり、相関値と同様に、その値によって同期の有無を判断することができる。
なお、ここではFSとの誤差平均値(周波数ズレ)をE、FSのシンボル値をfs、計算対象のシンボル数をN、検波信号をX、FSシンボルと検波信号との誤差をY、FSとの誤差分散をδ2と表記しているが、特許文献1では、夫々、D、Foff、n、a、s、・・・等にて示しているので、適宜置き換えて特許文献1の説明を参照することが出来る。また、特許文献1に示した計算式では、平均を求めるためにシンボル数nでの除算を行っていない場合も含むが、この(1/n)は単なる定数値であるので省略しても式の意味は異ならない。
【0021】
図3は本発明に係るAFC制御手順の概要例を示すフローチャートであり、図1のブロック図を参照しながら制御例を説明する。図3において、処理が開始されると、上述したようにFM検波器6により検波した信号に基づいて、SYNC同期検出部10において同期検出が行われる。その後、(式2)に示した分散値δ2を算出し、算出分散値δ2が、予め設定したDC有効分散しきい値より小さいか否かを判断する(S1)。このDC有効分散しきい値は、同期状態の良否を判断するためのしきい値である。この判断において、予め設定したDC有効分散しきい値より同期状態が良好である場合は(S1、Yes)、(式1)に示した誤差平均値Eを、周波数ズレを示すDCオフセット量とみなして、VC−TCXO11の発振周波数を補正する(S2)。
一方、上記ステップS1において、分散値δ2が予め設定したDC有効分散しきい値より大きい場合は、同期状態が不良であり、そのときのDCオフセット値が一定値以上のビットエラーを含んだものと判断して、その時のフレーム同期検出に際して得られたシンボル誤差平均値(周波数ズレ)に基づく周波数制御は行わず、それ以前の状態を維持する(S1、No)。
この例は、分散値δ2が予め設定したDC有効分散しきい値より大きいか小さいかによって同期状態の良否を判断し、同期状態が良好である場合にのみ、その際に得られたて得られたシンボル誤差平均値(周波数ズレ)に基づいて局部発振器の周波数制御を行うものである。なお、この例における同期検波手段としては、従来から知られている方法を使用すればよいが、上述したように、同一出願人になる特許文献1の発明を利用すれば、更に、効率よく本発明を実施することが出来る。
【0022】
図4は、本発明に係る他のAFC制御例を説明するフローチャートであり、特許文献1に開示した同期手段を利用したものである。この例では、処理が開始されると、受信・検波処理を行い(S10)、受信信号から同期ワード候補のシンボルデータ(fsi)を取り込み(S11)、シンボル誤差Yi(=fsi−Xi)を計算する(S12)。この式で(i)は、各フレームのSYNCのシンボル番号であり、ここではSYNCの全ビット数とするが、同期状況判定や、受信状態判断に必要なビット数であれば、必ずしも全ビット数である必要はない。
次に、SYNCシンボル数Nについてシンボル誤差の平均を演算し(S13)、このシンボル誤差平均E(=(1/N)Σfsi−Xi)を用いて(式2)に示す誤差分散δ2(=(1/N)Σ(Yi−E)2)を算出する(S14)。この誤差分散値は、特許文献1において詳細に説明したように、同期状態を判断する上で使用可能である。そこで、その手法に倣って、予め設定した同期判定用しきい値(同期用しきい値)と比較して、同期状態であるか否かを判断する(S15)。この判断において同期検出の場合は(S15、Yes)、次に、同様に同期状態を示す誤差分散値δ2を、同期状態の良否を判断するための第二のしきい値である「DC有効分散しきい値」と比較する(S16)。この判断において誤差分散値δ2がDC有効分散しきい値より小さい場合は、同期状態が良好であるものと判断して(S16、Yes)、既に計算済みである誤差平均EをDCオフセット量(周波数ズレ量)とみなして、局部発振器VC-TCVOの周波数を補正する(S17)。
【0023】
なお、上記処理S15において誤差分散値δ2が同期用しきい値より大きい場合は、非同期状態と判断して、処理を終了するか、若しくは、S10に戻って、新たな同期ワード候補のシンボルデータについて、同様の処理を繰返す。また、上記処理S16において誤差分散値δ2がDC有効分散しきい値より大きい場合は、同期は得られているが、同期状態、又は、受信品質状態が良好でないと判断して(S16、No)、そのとき得られたDCオフセットに基づく周波数補正処理を行うことなく(S18)、S10に戻って新たな同期ワード候補のシンボルデータについて同様の処理を繰返すが、又は、処理を終了する。
図4に示す例では、S15とS16に二つのしきい値が設定されているが、第一のしきい値は同期判定のためのしきい値であり、迅速な同期捕捉のために、必要最小限の通信品質において同期捕捉が可能なように比較的ビットエラー率に対する許容範囲が広く設定されるのが一般的である。それに対し、第二のしきい値であるDC有効分散しきい値は、その時の誤差平均Eが正確なDCオフセット量を示しているか否かを判断するものである。従って、その大小関係は、同期用しきい値>DC有効分散しきい値と設定する。
このように、同期した状態において更に、同期状態の良否を判断した上で発振周波数の補正を行うことにより、目的とする周波数補正機能が安定したものとなる。
【0024】
図5及び図6は、本発明の効果を説明するための図である。先ず、図5に示すように、各フレームおいて同期が検出されることのみを条件に、そのときのDCオフセット量に基づいて発振周波数を補正する例を考えると、同期判定における許容ビットエラー率が大きい場合は、システムが要求する周波数安定度(許容範囲Δf)を逸脱する場合が有り得る。図5においては、マル破線で囲った部分がそれに該当する。このように許容値を逸脱した周波数で送信すると、これを受信する基地局では、周波数追従に時間や処理負担が増加するので、シンボルエラーの発生率が悪化する可能性がある。
【0025】
一方、本発明では図6に示すように、このような不具合が除去できる。即ち、図6(a)はSYNC同期検出における分散値δ2と、DC有効分散しきい値との関係を示す図で、δ2は通信品質(同期状態)が良好な程、レベルは小さくなる(理想状態ではレベルゼロ)。そこで、同期用しきい値(一点鎖線)に比べて小さいレベルのDC有効分散しきい値(実線)を設定すれば、同図6(b)に示すように、同期が検出された場合であっても通信品質が不良で、システムが要求する周波数安定度を保つ上で好ましくない場合には、そのことを判断して周波数の補正を行わないように制御可能である。従って、この回路及び制御方法によれば、基地局と携帯無線機間においてシステム上要求される周波数精度を保証して、送受信することができる。
実際に本発明を実施した場合の周波数ばらつき範囲(Hz)とDC有効分散しきい値との関係を計算した例を図7に示す。この例は、APCO P25規格に基づくシステムのフレームを用いてシミュレーションしたもので、BER=5%の環境下において、DC有効分散値毎にDC値(周波数ズレ計算値)のばらつき(5σ相当)を示している。なお、DC有効分散しきい値は、シンボル値(±1、±3)で計算した分散値を示す。
この図から明らかなように、DC有効分散しきい値によって、周波数のばらつき範囲が変化する。例えば、周波数安定度の許容範囲が160Hzの場合は、DC有効分散しきい値を1に設定し、許容範囲が200Hzの場合は、DC有効分散しきい値を4に設定すればよいことが分かる。
【0026】
本発明は以上説明した例に限定する必要はなく、種々変形が可能である。例えば、発振周波数を補正するタイミングとして、同期検出時やデータ検出時を避けて行うことにより、周波数制御による周波数の変動に起因して、検出中のデータにエラーが発生することを防止することも可能であろう。また、それ以前の周波数誤差が許容範囲内である場合であって、現在の処理における周波数誤差が、それ以前の周波数補正における周波数誤差と比較して僅少(一定値以下)である場合は周波数補正処理を行わないことにすれば、周波数補正によるビットエラー発生を低減する上で有用であろう。
また、シンボル誤差平均値(E)を求めるシンボル誤差平均演算手段(処理)における「全シンボル」として、一つのフレームの全シンボルに限定する必要はなく、目的とするシンボル誤差平均が得られる数であればよいが、更に、受信品質状態に応じて必要最小限のシンボル数に変更するように構成し、又は、制御することも、迅速なAFC制御を行う上で有効な場合があろう。
更に、上述した実施形態のAFC回路、又はAFC制御方法を、それぞれプログラム化すれば、DSPやCPUを搭載した通信機にこれらプログラムやデータをインストールすることによって、本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
6 FM検波器、7 シンボル検出部、10 フレーム同期検出部(SYNC同期検出部)、11 局部発振器(VC-TCXO)、13 電圧制御発振器(VCO)、18 SYNC分散値計算部、19 同期判定部、20 SYNC部DC計算部、21 DC判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得し、既知の同期ワードデータと比較して同期判定を行う同期判定手段と、発振周波数を制御可能な局部発振手段と、を有するデジタル無線機のAFC回路において、
前記同期ワード候補シンボルデータに基づいて、周波数ズレに応じて発生する直流オフセット量を検出するオフセット量検出手段と、
同期状態の良否を判断するDC有効分散しきい値比較手段と、この比較手段により同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に前記直流オフセット量に対応して前記局部発振手段の周波数補正を行うように構成したことを特徴とするデジタル無線機のAFC回路。
【請求項2】
請求項1記載のデジタル無線機のAFC回路において、
前記同期判定手段は、同期ワード候補シンボルデータ(Xi)と前記既知の同期ワードシンボルデータ(fsi)とのシンボル誤差(Yi)を求めるシンボル誤差演算手段と、前記シンボル誤差演算手段によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値(E)を求めるシンボル誤差平均演算手段と、
前記シンボル誤差演算手段によって求めた同期ワード候補の各シンボル誤差(Yi)と前記シンボル誤差平均値(E)との減算を行うシンボル誤差平均減算手段と、前記同期ワード候補全シンボルについて、前記シンボル誤差平均減算値の自乗値から誤差分散値(δ2)を算出する誤差分散演算手段と、前記誤差分散値(δ2)を予め設定した同期判定用しきい値と比較することによって、当該同期ワード候補が同期ワードであるか否かを判断する同期ワード判断手段を備えたものであり、
前記DC有効分散しきい値比較手段は、前記同期判定用しきい値より良好な同期状態を判断するための第二のしきい値としてDC有効分散しきい値が設定され、前記同期ワード判断手段により同期検出と判断された状態において、前記誤差分散値(δ2)を前記DC有効分散しきい値と比較し、同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に、前記シンボル誤差平均値(E)を前記直流オフセット量とみなし、この直流オフセット量に対応して前記局部発振手段の周波数補正を行うことを特徴とするデジタル無線機のAFC回路。
【請求項3】
受信信号波形から同期ワード候補シンボルデータを取得し、既知の同期ワードデータと比較して同期判定を行う同期判定手段と、発振周波数を制御可能な局部発振手段と、を有するデジタル無線機のAFC制御方法において、
前記同期ワード候補シンボルデータに基づいて、周波数ズレに応じて発生する直流オフセット量を検出するオフセット量検出処理と、
同期状態の良否を判断するDC有効分散しきい値比較処理と、このDC有効分散しきい値比較処理により同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に前記直流オフセット量に対応して前記局部発振手段の周波数を補正する処理とを含むことを特徴とするデジタル無線機のAFC制御方法。
【請求項4】
請求項3記載のデジタル無線機のAFC制御方法において、
前記同期判定処理は、同期ワード候補シンボルデータ(Xi)と前記既知の同期ワードシンボルデータ(fsi)とのシンボル誤差(Yi)を求めるシンボル誤差演算処理と、前記シンボル誤差演算処理によって求めた全シンボルに対するシンボル誤差平均値(E)を求めるシンボル誤差平均演算処理と、
前記シンボル誤差演算処理によって求めた同期ワード候補の各シンボル誤差(Yi)と前記シンボル誤差平均値(E)との減算を行うシンボル誤差平均減算処理と、前記同期ワード候補全シンボルについて、前記シンボル誤差平均減算値の自乗値から誤差分散値(δ2)を算出する誤差分散演算処理と、前記誤差分散値(δ2)を予め設定した同期判定用しきい値と比較することによって、当該同期ワード候補が同期ワードであるか否かを判断する同期ワード判断処理を含むものであり、
前記DC有効分散しきい値比較処理は、前記同期判定用しきい値より良好な同期状態を判断するための第二のしきい値としてDC有効分散しきい値が設定され、前記同期ワード判断処理により同期検出と判断された状態において、前記誤差分散値(δ2)を前記DC有効分散しきい値と比較し、同期状態がDC有効分散しきい値より良好と判断された場合に、前記シンボル誤差平均値(E)を前記直流オフセット量とみなし、この直流オフセット量に対応して前記局部発振手段の周波数補正を行う処理とを含むことを特徴とするデジタル無線機のAFC制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−278622(P2010−278622A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127655(P2009−127655)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】