説明

デフレクタ及びそれを用いた噴霧ノズル

【課題】均一な噴霧密度を維持しつつ、厚み方向にさらに広い角度で噴霧するのに有用なデフレクタ及びそれを用いた噴霧ノズルを提供する。
【解決手段】噴霧ノズルは、ノズル本体1の軸線方向に延びて形成された主流路2と、この主流路の下流側で流路径が狭まり、かつノズル本体1の先端部で開口する吐出口(噴射孔)4を有する吐出流路3と、前記吐出口4の上流側の主流路2内に配設され、かつ上流からの流体を分流するためのデフレクタ7とを備えており、前記デフレクタの下流面に凹部又は溝部8が形成され、前記デフレクタ7の上流端と吐出流路3との間のノズル本体1の内部側壁には、前記デフレクタ7により分流された流体が衝突可能な衝突壁9が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水、洗浄水などを噴霧するのに有用な噴霧ノズル(スプレーノズル)と、この噴霧ノズルの流路内に配設されるデフレクタ(又は分流部材)に関する。より詳細には、本発明は、スプレーパターンや衝突力などの特性を制御するのに有用であり、ノズル内部に配設可能なデフレクタ(邪魔板又は分流部材の形状)及びそれを用いた噴霧ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
噴射ノズルにおいて、デフレクタ(又はロッド)をノズル本体の内部流路に設けて、流れをスプレーの厚み方向に分流させ、厚み方向の噴射角度を大きくすることが提案されている。例えば、実用新案登録第2588803号公報(特許文献1)には、ノズル本体の一端の液入口より他端の液噴射口近傍にかけて、中心軸線に沿って、同一断面積の液通路を形成すると共に、該液通路の液噴射口側に連続して先端に向かって縮小する圧縮液通路を形成し、該圧縮液通路と上記液通路との境界部分に上記中心軸線と直交する方向にデフレクタを取り付け、上記液通路より流入する液をデフレクタと衝突させて外側へと分流させ、分流させた液を圧縮液通路の先端側に形成した液噴射口で衝突させて噴射する構成としている液噴射ノズルが開示されている。この文献には、細長い矩形状の分流板部と、この板部の両端部に形成され、かつ液通路の内周面に適合した円弧面を有する取付部とを備えたI字状デフレクタが記載されている。
【0003】
特開2004−16846号公報(特許文献2)には、ノズル本体の中心軸線に沿って、流入口より噴射側先端の円弧状主孔に向けて流路を設け、上記ノズル本体の噴射側先端の平坦面に直径方向の切り込みを設けると共に、この切り込みは長さ方向の両端より中心に向けて深さ方向に傾斜し、該切り込みの中央部は上記主孔の先端と連通させて幅の長い主噴射孔を形成し、かつ、上記主孔の基部に、上記切り込み方向と平行なデフレクタを上記主噴射孔と対向させて流路を横断させて取り付け、上記流入口側より流入する流体を上記デフレクタと衝突させて上記主噴射孔の幅方向と直交する厚さ方向に分流させ、厚さ方向の噴霧角度を増大させる構成としているノズルが開示されている。この文献には、上記切り込み方向と直交方向の上記主孔の両側に副孔を連通させて形成し、これら副孔を上記切り込みの対向する両側面に開口させ、上記主噴射孔の両側に副噴射孔を連通させることも記載されている。さらに、特許文献2には、厚肉矩形状の分流板部と、この板部の両端に形成され、かつ流路内周面に適合した外周縁が円弧状の取付部とを備えたデフレクタ、流路軸線方向の断面形状が三角形状、台形状、楕円形状などの分流部を有するデフレクタが記載されている。
【0004】
これらのノズルでは、流体をデフレクタと衝突させて分流させ、噴射孔で合流させて衝突させることにより、デフレクタの板部に対して直交する方向(厚み方向)に拡がった噴霧パターンを形成している。しかし、これらのデフレクタでは、厚み方向に広い角度範囲で均一な噴霧密度の噴霧パターンを形成することが困難である。
【0005】
特許第4301776号公報(特許文献3)には、ボディの中心軸線に沿った大径の流入孔を設け、該流入孔の先端に隔壁を介して複数の独立孔を対称位置に形成し、各独立孔の噴射側は流路面積を漸次縮小して先端を閉鎖しており、ボディの噴射側端面に直径方向の切込部を設け、上記切込部により上記各独立孔の先端閉鎖部より離れた中心軸線側の側面が切り欠かれ、切込部の側面と底面でL字状に開口する噴口を設け、各独立孔の先端閉鎖部から上記噴口へと流体が戻るように形成されており、上記切込部の両側に対向して形成される各噴口より噴出する流体同士の衝突で噴霧厚さを拡げ、この切込部の内部で上記各噴口から噴射される流体を上記切込部によりガイドして噴霧幅を規制し、供給する液体流量を1〜25L/minの範囲で調節しても噴霧幅を均一にできるノズルが開示されている。この文献には、前記隔壁の先端を断面円弧状の凹部、断面円弧状の凸部あるいは平坦面とすることも記載されている。
【0006】
このノズルでは、隔壁の先端部に断面円弧状の凹部を形成することにより、凹部を撹拌室として機能させ、噴霧の拡散を増進できる。しかし、隔壁構造を必要とするため、構造が複雑化するだけでなく、隔壁の先端部に凹部を形成するため、凹部の形成域が限定される。そのため、簡便かつ簡単な構造で、均一な噴霧密度を維持しつつ、広い角度で厚み方向に噴霧できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第2588803号公報(実用新案登録請求の範囲、図1)
【特許文献2】特開2004−16846号公報(特許請求の範囲、段落[0023][0031]、図4、図7)
【特許文献3】特許第4301776号公報(特許請求の範囲、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、均一な噴霧密度を維持しつつ、厚み方向にさらに広い角度で噴霧するのに有用なデフレクタ及びそれを用いた噴霧ノズルを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、簡単な構造で、厚み方向に広い角度で噴霧するのに有用なデフレクタ及びそれを用いた噴霧ノズルを提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、厚み方向に広い角度で噴霧可能な二流体噴霧ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ノズル本体の先端部で開口する吐出口の上流側に、下流面に凹部又は溝部が形成されたデフレクタ(又は分流部材)を配設し、ノズル本体の上流からの流体を分流すると、流体の流れに伴って凹部又は溝部が負圧となり効率よく乱流が生じ、吐出口からの流体の噴霧角度を効率よく拡大できること、このようなデフレクタ(又は分流部材)を、デフレクタにより分流された流体が衝突可能な衝突壁を有するノズル本体内に装着すると、分流された流体が吐出口から直線的に吐出するのを防止しつつ、さらに効率よく流体を乱流化でき、吐出口からの流体の噴霧角度をさらに拡大できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のデフレクタは、ノズル本体の先端部で開口する吐出口の上流側に配設され、かつノズル本体の上流からの流体を分流するためのデフレクタ(又は分流部材)であって、流体を乱流化するための凹部又は溝部が下流面に形成されている。このようなデフレクタ(又は分流部材)において、凹部又は溝部の断面形状はコ字状又はV字状であってもよい。さらに、デフレクタ(又は分流部材)は、上流方向に向かって幅狭となる形状のデフレクタ本体(下流方向に向かって末広がり形状の本体)と、このデフレクタ本体の下流面に形成され、かつ吐出口を横断する方向に長軸が延びる凹部又は溝部とを備えていてもよい。
【0013】
このようなデフレクタ(又は分流部材)では、ノズル本体の上流から供給された流体は、デフレクタの上流端により分流され、分流された流体の流動に伴って、デフレクタの下流面に形成された凹部又は溝部(断面コ字状又はV字状などの凹部又は溝部)が負圧となり、分流された流体が乱流化される。上流方向が幅狭く、下流方向に向かって幅が大きなデフレクタを用いると、流体を効率よく分流できるとともに、下流側の端面では大きな幅(又は面積)を確保しつつ、凹部又は溝部を形成できる。そのため、流体の乱流効率をさらに向上できる。なお、デフレクタの下流に衝突壁がない場合には、分流された流体が、さらに乱流化されることなく、吐出口から流体が直線的に吐出するため、噴霧角度を拡大することが困難である。
【0014】
さらに、本発明は、ノズル本体の軸線方向に延びて形成された主流路と、この主流路の下流側で流路径が狭まり、かつノズル本体の先端部で開口する吐出口噴射孔を有する吐出流路と、前記吐出口の上流側の主流路内に配設され、かつ上流からの流体を分流するための前記デフレクタ(又は分流部材)とを備えた噴霧ノズルであって、前記デフレクタ(又は分流部材)の下流面に凹部又は溝部が形成され、前記デフレクタの上流端と吐出流路との間(デフレクタの上流端よりも下流側)のノズル本体の内部側壁に、前記デフレクタ(又は分流部材)により分流された流体が衝突可能な衝突壁が形成されている噴霧ノズルも包含する。このような噴霧ノズルでは、デフレクタ(又は分流部材)により流体を乱流化できるだけでなく、衝突壁との衝突によりさらに流体を乱流化でき、厚み方向の噴霧角度をさらに拡大して均一に噴霧できる。
【0015】
なお、前記吐出流路は、ノズル本体の先端部にいくにつれて流路幅が漸次狭まる湾曲内壁で形成され、吐出口が円筒状開口部の中心軸を横断する切り欠き溝により楕円形状に形成されていてもよい。また、吐出口は、ノズル本体の先端部で楕円形状の形態で開口する主噴射孔と、この主噴射孔の短軸方向の両側部に位置し、前記主噴射孔と吐出流路で通じる副噴射孔とを備えており、前記ノズル本体の軸線方向に対して直交する方向において、前記副噴射孔の開口縁が主噴射孔の短軸方向の開口縁と同じ又は主噴射孔の短軸方向の開口縁よりも外側に位置していてもよい。より具体的には、吐出口は、ノズル本体の先端部で楕円形状の形態で開口する主噴射孔[例えば、半球面状(又は断面円弧状)の内壁を有し、かつノズル本体の先端部で楕円形状の形態で開口する主噴射孔]と、この主噴射孔の短軸方向の両側部に位置する副噴射孔[例えば、半球面状(又は断面円弧状)の内壁を有し、かつ前記主噴射孔の吐出流路に対して交差する方向に開口する副噴射孔]とを備えていてもよい。さらに、前記ノズル本体の軸線方向に対して直交する方向において、前記副噴射孔の開口縁が主噴射孔の短軸方向の開口縁と同じ又は主噴射孔の短軸方向の開口縁よりも外側に位置していてもよい。さらには、衝突壁は、デフレクタの下流端と接するノズル本体の内部側壁に形成してもよい。本発明の噴霧ノズルは一流体ノズルであってもよく、二流体ノズルであってもよい。副噴射孔を有する噴霧ノズルは二流体ノズル(例えば、空気と水との二流体を噴霧するノズル)として適している。
【0016】
なお、本明細書において「デフレクタ」は、流体を分流させる限り、流体に対する邪魔板として機能してもよく、邪魔板的な要素が少なく、流体を分流させるための部材として機能してもよい。そのため、「デフレクタ」は「分流部材」ということもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、デフレクタ(又は分流部材)により、均一な噴霧密度を維持しつつ、さらに広い角度で厚み方向に噴霧できる。また、簡単な構造で、厚み方向に広い角度で噴霧できる。さらに、二流体噴霧ノズルとすることにより、厚み方向に広い角度で噴霧可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の噴霧ノズルを示す概略断面斜視図である。
【図2】図2は図1の噴霧ノズルを示す概略断面図である。
【図3】図3は図1の噴霧ノズルを示す概略斜視図である。
【図4】図4は図1の噴霧ノズルを示す概略平面図である。
【図5】図5は図1の噴霧ノズルのデフレクタを示す概略斜視図である。
【図6】図6は本発明の噴霧ノズルの他の例を示す概略断面斜視図である。
【図7】図7は図6に示す噴霧ノズルのデフレクタを示す概略斜視図である。
【図8】図8は比較例1及び実施例1の噴霧試験の結果を示すグラフである。
【図9】図9は比較例2の噴霧試験の結果を示すグラフである。
【図10】図10は実施例2の噴霧試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、添付図面を参照しつつ本願発明を詳細に説明する。図1〜図5は本発明の噴霧ノズルの一例を示す図面であり、図1は本発明の噴霧ノズルを示す概略断面斜視図、図2は図1の噴霧ノズルを示す概略断面図、図3は図1の噴霧ノズルを示す概略斜視図、図4は図1の噴霧ノズルを示す概略平面図、図5は図1の噴霧ノズルのデフレクタを示す概略斜視図である。
【0020】
本発明の噴霧ノズルは、ノズル本体1の軸線方向に延びて形成された円筒状の主流路2と、この主流路2の下流側で流路径が湾曲して狭まり、かつノズル本体1の先端部で開口する吐出口(又は噴射孔)4を有する吐出流路(紡錘形状の吐出流路)3と、前記吐出口4の上流側の主流路2内に配設され、かつ上流からの流体を分流するためのデフレクタ7とを備えている。前記吐出流路3は、ノズル本体1の先端部にいくにつれて流路幅が漸次狭まる湾曲内壁で形成され、前記吐出口4の平面形状は、円筒状開口部の中心軸を横断する切り欠き溝5により楕円形状(又は細長形状)に形成されている。この例では、図示されるように、切り欠き溝5は、断面V状の形態の切り欠き溝と、このV字状切り欠き溝の下部に形成された断面U字状の切り溝とを有し、ノズル本体1の先端部では、長軸/短軸比が2〜4程度の楕円形状の吐出口4が開口している。
【0021】
さらに、前記吐出流路3は、半球面状(断面円弧状など)の内壁を有し、かつノズル本体1の先端部で楕円形状(平面形状が楕円形状)の形態で開口する主噴射孔(吐出口)4と、この主噴射孔4の短軸方向の両側部に位置するとともに、半球面状(断面円弧状など)の内壁を有し、かつ前記主噴射孔4の吐出流路3で開口する副噴射孔6とを備えている。これらの副噴射孔6は、下流端が湾曲して閉じ、吐出流路3側が開口している。すなわち、副噴射孔6は、吐出流路3に対して交差する方向(例えば、斜め下流方向又は直交する方向)に開口している。さらに、前記ノズル本体1の軸線方向に対して直交する方向(吐出口4の長軸方向に対して直交する方向)において、前記副噴射孔6の開口縁は、主噴射孔4の短軸方向の開口縁よりも外側(軸芯から遠ざかる側部方向側)に位置している。
【0022】
さらに、デフレクタ7は、上流方向に向かって幅狭となる断面形状のデフレクタ本体(下流方向に向かって末広がり形状の本体)7aと、このデフレクタ本体7aの幅広の下流面(下流側の端面)に長手方向に沿って全長に亘り形成された断面コ字状の溝部8とを備えており、この溝部8の長軸は、楕円形状の吐出口4を横断する方向に延びている。この例では、前記溝部8の延出方向を楕円形状の吐出口4の長軸方向に向けて、デフレクタ7が配設されている。
【0023】
そして、前記デフレクタ7の上流端と吐出流路3との間(すなわち、デフレクタ7の上流端よりも下流側)のノズル本体1の内部側壁には、前記デフレクタ7により分流された流体が衝突可能な衝突壁9が形成されている。すなわち、デフレクタ7の下流端は前記副噴射孔6の底面を形成する壁部に接した状態で、ノズル本体1の主流路2にデフレクタ7が装着されており、デフレクタ7の下流端の両側部には、前記副噴射孔6の底面を形成する壁部で形成された衝突壁(段差壁)9が形成されている。なお、この衝突壁9は、デフレクタ7の下流端の両側部(幅方向の両側部)から遠ざかる方向にいくにつれて幅狭に形成されている。
【0024】
上流方向の端部内壁に形成された装着部(螺合部)を利用して、このような噴霧ノズルを気体(空気など)及び液体(水など)の供給ユニットに装着し、上流から気体及び液体を供給すると、デフレクタ7により流体(気液混合流体)を分流して乱流化できるだけでなく、衝突壁9との衝突によりさらに流体を乱流化できる。また、乱流化された流体は副噴射孔6の内壁に沿って流れ、副噴射孔6の開口部からの流体が、主噴射孔4の吐出流路3で軸方向に流れる流体(主噴射孔4に至る流体)に対して対向して衝突するとともに、デフレクタ7の下流面に形成された溝部8によりデフレクタ7の下流域が負圧となるため、吐出流路3では流体を極めて効率よく乱流化できる。そのため、吐出口4からは、厚み方向の噴霧角度をさらに拡大して流体(気液混合流体)を均一に噴霧できる。
【0025】
なお、デフレクタ及び吐出流路の形態は、前記の例に限らず、種々の形態が採用できる。 図6は本発明の噴霧ノズルの他の例を示す概略断面斜視図であり、図7は図6に示す噴霧ノズルのデフレクタを示す概略斜視図である。
【0026】
この例の噴霧ノズルは、副噴射孔6を備えておらず、吐出流路13は主噴射孔(吐出口)14を有しており、主噴射孔(吐出口)14は、円筒状開口部の中心軸を横断し、かつ前記図1のノズルよりも深いV字状の切り欠き溝15により平面形状が楕円形状に形成されている。さらに、デフレクタ17は、ノズル本体11の主流路12の内径に応じた長さのデフレクタ本体17aと、このデフレクタ本体17aの両端部に扇状に突出して形成され、かつノズル本体11の主流路12の内壁に装着可能な周壁を有する扇状装着部17bと、前記デフレクタ本体17aの下流面に、デフレクタ本体17aの長手方向に沿って形成された凹部18とを備えており、この凹部18は平面形状が楕円形状に形成されている。また、ノズル本体17aの主流路12と吐出流路13との間には円周方向に衝突壁(段差周壁)19が形成されている。
【0027】
このような噴霧ノズルでも、上流から流体を供給すると、デフレクタ17により流体を分流して乱流化できるだけでなく、衝突壁19との衝突によりさらに流体を乱流化できる。また、流体の流動に伴って、デフレクタ17の下流面に形成された凹部18によりデフレクタ17の下流面域が負圧となるため、乱流化された流体は、吐出流路13で極めて効率よく乱流化できる。そのため、吐出口(主噴射孔)14からは、厚み方向の噴霧角度をさらに拡大して流体を均一に噴霧できる。
【0028】
なお、デフレクタは、ノズル本体の主流路に装着可能であり、かつノズル本体の上流からの流体を分流可能な形態を有していればよく、断面矩形の板状、上流方向に向かって幅広となる形状などであってもよいが、流体の分流及び乱流化が容易な形態、例えば、上流方向に向かって幅狭となる形状のデフレクタ本体(末広がり形状の本体)で形成するのが有利である。このような形態のデフレクタにおいて、側面の傾斜角度は、デフレクタの軸線に対して、1〜30°、好ましくは3〜25°、さらに好ましくは5〜20°(例えば、7〜15°)程度であってもよい。また、デフレクタの下流面(下流側の端面)の幅は、ノズルの性能やサイズなどに応じて選択でき、例えば、主流路の内径を「100」としたとき、主流路の内径に対して5〜50、好ましくは7〜30、さらに好ましくは10〜25程度であってもよい。また、デフレクタの下流面の幅は、吐出口の短径以上(例えば、吐出口の短径を1としたとき、1〜10、好ましくは1.1〜5、さらに好ましくは1.1〜4、特に1.2〜3程度)であってもよい。
【0029】
デフレクタの下流面には、前記溝部に限らず流体を乱流化するための凹部を形成してもよい。また、溝部及び凹部の断面形状は、U字状などであってもよく、コ字状又はV字状であってもよい。また、溝部及び凹部の平面形状は矩形状又は楕円形状などであってもよく、溝部及び凹部は、デフレクタの下流面の長手方向に沿って、非連続的に(又は散在して)形成してもよいが、通常、連続して形成されている。さらに、溝部及び凹部の深さ/幅比(幅に対する深さの割合)は、デフレクタの下流域で負圧を生成させ、流体を効率よく乱流化できる範囲であればよく、例えば、0.3/1〜10/1、好ましくは0.5/1〜5/1、さらに好ましくは0.7/1〜3/1程度であってもよい。溝部及び凹部の幅は、噴霧ノズルの性能やサイズなどに応じて選択でき、通常、主流路の内径を「100」としたとき、主流路の内径に対して1〜50、好ましくは5〜35、さらに好ましくは8〜25(例えば、10〜20)程度であってもよい。また、溝部及び凹部の幅は、例えば、1〜5mm(例えば、1〜3mm)、好ましくは1.5〜3.5mm程度であってもよい。
【0030】
デフレクタは、ノズル本体の先端部で開口する吐出口の上流側(特に、吐出口の上流側の主流路内)に配設すればよく、デフレクタの溝部及び凹部を、吐出口を横断する方向(吐出口の長軸方向又はほぼ長軸方向)に長軸を向けてデフレクタを配設してもよい。また、溝部及び凹部の幅は、吐出口の短径以下(例えば、吐出口の短径を1としたとき、0.1〜1、好ましくは0.25〜0.8、さらに好ましくは0.3〜0.6程度)であってもよい。
【0031】
噴霧ノズルにおいて、ノズル本体は、通常、ノズル本体の軸線方向に延びて形成された主流路と、この主流路の下流側で流路径が狭まり、かつノズル本体の先端部で開口する吐出口(噴射孔)を有する吐出流路とを備えている。吐出流路は、ノズル本体の先端部にいくにつれて流路幅が漸次狭まる形態、例えば、流路幅が直線状に狭まる円錐状内壁で形成してもよく、湾曲内壁(半球面状の内壁)で形成してもよい。換言すれば、吐出流路は、円錐状流路であってもよく半球面又は半紡錘状流路であってもよい。
【0032】
吐出口(主噴射孔)の平面形状は、通常、円筒状開口部の中心軸を横断する切り欠き溝により楕円形状に形成されているが、円形状、方形状などであってもよい。また、楕円形状の吐出口(主噴射孔)において、長軸/短軸比は、10/1〜1.2/1(例えば、10/1〜1.5/1)、好ましくは8/1〜2/1(例えば、7/1〜2.5/1)程度であってもよい。
【0033】
さらに、吐出流路は、ノズル本体の先端部で開口する主噴射孔(吐出口、楕円形状の形態で開口する主噴射孔など)と、この主噴射孔に隣接して、前記主噴射孔と吐出流路で通じる副噴射孔とを備えていてもよい。副噴射孔は吐出流路の側壁の周方向及び/又は軸方向の適所に形成でき、副噴射孔の数は1〜6(好ましくは2〜4)程度の範囲から選択できる。複数の副噴射孔は、吐出流路を介して、非対向状態であってもよく、互いに対向していてもよい。例えば、複数の副噴射孔は、主噴射孔の周方向に等間隔に互いに対向して形成してもよく、例えば、楕円形状の主噴射孔の短軸方向の両側部に互いに隣接し、かつ互いに対向する4つの副噴射孔を有していてもよい。副噴射孔は、楕円形状の主噴射孔の少なくとも短軸方向の両側部に位置し(特に互いに対向する両側部に位置し)、前記主噴射孔と吐出流路で通じている。さらに、吐出口(又は吐出流路)は、吐出口から上流方向に向かって直線的又は湾曲して流路径が拡がる凹部内壁(例えば、半球面状(断面円弧状)の内壁)を有し、かつノズル本体の先端部で開口する主噴射孔(楕円形状の形態で開口する主噴射孔など)と、この主噴射孔の短軸方向の両側部に位置するとともに、吐出流路から側部方向に向かって直線的又は湾曲して拡がる(又は窪んだ)凹部内壁(例えば、多角体状の内壁、半楕円体状の内壁、半球面状(断面円弧状)の内壁、底面が平坦な凹部内壁など)を有し、かつ前記主噴射孔の吐出流路(又は吐出流路の軸線方向)に対して交差する方向(例えば、直交する方向)に開口する副噴射孔とを備えていてもよい。また、副噴射孔は、下流端が閉じ、吐出流路側が開口している。このような副噴射孔を有するノズルでは、流体の乱流効率を大きく高めることでできる。また、副噴射孔を有するノズルは、二流体噴霧又は一流体噴射に適している。
【0034】
副噴射孔の開口縁は、吐出流路内に位置していてもよいが、通常、前記ノズル本体の軸線方向に対して直交する方向において、主噴射孔の短軸方向の開口縁とほぼ同じ位置、又は主噴射孔の短軸方向の開口縁よりも外側(半径方向の外側)に位置する場合が多い。
【0035】
なお、衝突壁がない場合には、分流された流体が、乱流化されることなく、吐出口から流体が直線的に吐出するため、噴霧角度を拡大することが困難である。本発明では、デフレクタにより分流された流体を衝突により乱流化するため、前記衝突壁は、前記デフレクタの上流端よりも下流側に位置している。衝突壁は、通常、前記デフレクタの上流端と吐出流路との間(デフレクタの上流端よりも下流側)のノズル本体の内部側壁に形成する場合が多い。特に、衝突壁は、デフレクタを係止しつつ、流体を分流し乱流化するため、デフレクタの下流端と接するノズル本体の内部側壁に形成する場合が多い。衝突壁は、周方向に散在していてもよく連続して形成してもよい。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
比較例1及び実施例1
図1に示すように、ノズル本体の先端部で開口し、切り込み溝により楕円形状に形成された主噴射孔と、主噴射孔の両側に形成され、吐出流路に向かって開口する副噴射孔とを備えた噴霧ノズルを用いた。比較例1では、幅4mm、長さ(主流路の内径方向の長さ)14mm、高さ(主流路の軸方向の長さ)8mmの矩形状(又は板状)のデフレクタを噴霧ノズルに装着し、実施例1では、図1〜図5に示すように、下流端の幅7.2mm、上流端の幅1mm、長さ(主流路の内径方向の長さ)14mm、高さ(主流路の軸方向の長さ)13.4mmの断面台形状(又は末広がり状)であり、下流面(下流側の端面)に幅2.5mm、深さ2mmの溝部を有するデフレクタを装着した。このノズルは、図1及び図2に示されるように、前記副噴射孔の上流側内壁により衝突壁を形成している。そして、ノズルの吐出口から空気量3m/h、水量10L/minで噴霧し、噴射距離130mmでのスプレー厚み方向の水量密度分布を測定したところ、図8に示す結果を得た(実線は実施例1の結果、破線は比較例1の結果を示す)。図8から明らかなように、凹溝により、噴霧角度が拡大した。
【0038】
比較例2及び実施例2
図6及び図7に示すように、ノズル本体の先端部で開口し、切り込み溝により楕円形状に形成された主噴射孔(吐出口)を有する噴霧ノズルを用いた。流路の噴射側先端を円弧状の主孔とし、ノズル本体の噴射側先端の端面には切り込みを設けている。比較例2では、比較例1と同じデフレクタを噴霧ノズルに装着し、実施例2では、図6及び図7に示すように、デフレクタ本体17aが、高さ(主流路の軸方向の長さ)8mm、下流端の幅5mm、上流端の幅3mm、長さ(主流路の経方向の長さ)14mmの断面台形状(又は末広がり状)であり、扇状装着部17bの外径が19mmであり、下流面(下流側の端面)に幅2mm、深さ4mm及び長さ10mmの凹溝を有するデフレクタを装着した。このノズルは、図6に示されるように、前記吐出流路と主流路との段部により衝突壁を形成している。これらのノズルの吐出口から水量60L/minで噴霧し、噴射距離150mmでのスプレー厚み方向の衝突力分布を測定したところ、図9(比較例2)及び図10(実施例2)に示す結果を得た。図9と図10との対比から、比較例2に比べて実施例2では、凹溝により、噴霧角度が拡大した。なお、衝突力分布は受圧部φ20mmのセンサーを用いて測定した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、一流体(例えば、水などの液体、又は空気などの気体)又は二流体(例えば、水などの液体と空気などの気体との混合流体)を均一に噴霧するのに適している。そのため、本発明は、被噴霧体又は被冷却体(連続鍛造による鋼材又は鋼板など)の冷却(特に均一な冷却)、被処理体の洗浄(特に均一な洗浄)などに有効に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1,11…ノズル本体
2,12…主流路
3,13…吐出流路
4,14…吐出口(主噴射孔)
5,15…切り欠き溝
6…副噴射孔
7,17…デフレクタ
7a,17a…デフレクタ本体
8…溝部
18…凹部
9,19…衝突壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル本体の先端部で開口する吐出口の上流側に配設され、かつノズル本体の上流からの流体を分流するためのデフレクタであって、流体を乱流化するための凹部又は溝部が下流面に形成されているデフレクタ。
【請求項2】
凹部又は溝部の断面形状がコ字状又はV字状である請求項1記載のデフレクタ。
【請求項3】
上流方向に向かって幅狭となる形状のデフレクタ本体と、このデフレクタ本体の下流面に形成され、かつ吐出口を横断する方向に長軸が延びる凹部又は溝部とを備えている請求項1又は2記載のデフレクタ。
【請求項4】
ノズル本体の軸線方向に延びて形成された主流路と、この主流路の下流側で流路径が狭まり、かつノズル本体の先端部で開口する吐出口噴射孔を有する吐出流路と、前記吐出口の上流側の主流路内に配設され、かつ上流からの流体を分流するための請求項1〜3のいずれかに記載のデフレクタとを備えた噴霧ノズルであって、前記デフレクタの下流面に凹部又は溝部が形成され、前記デフレクタの上流端と吐出流路との間のノズル本体の内部側壁に、前記デフレクタにより分流された流体が衝突可能な衝突壁が形成されている噴霧ノズル。
【請求項5】
吐出流路が、ノズル本体の先端部にいくにつれて流路幅が漸次狭まる湾曲内壁で形成され、吐出口が円筒状開口部の中心軸を横断する切り欠き溝により楕円形状に形成されている請求項4記載の噴霧ノズル。
【請求項6】
吐出口が、ノズル本体の先端部で楕円形状の形態で開口する主噴射孔と、この主噴射孔の短軸方向の両側部に位置し、前記主噴射孔と吐出流路で通じる副噴射孔とを備えており、前記ノズル本体の軸線方向に対して直交する方向において、前記副噴射孔の開口縁が主噴射孔の短軸方向の開口縁と同じ又は主噴射孔の短軸方向の開口縁よりも外側に位置する請求項4又は5記載の噴霧ノズル。
【請求項7】
吐出口が、半球面状の内壁を有し、かつノズル本体の先端部で楕円形状の形態で開口する主噴射孔と、この主噴射孔の短軸方向の両側部に位置するとともに、半球面状の内壁を有し、かつ前記主噴射孔の吐出流路に対して交差する方向に開口する副噴射孔とを備えており、前記ノズル本体の軸線方向に対して直交する方向において、前記副噴射孔の開口縁が主噴射孔の短軸方向の開口縁と同じ又は主噴射孔の短軸方向の開口縁よりも外側に位置する請求項4〜6のいずれかに記載の噴霧ノズル。
【請求項8】
衝突壁が、デフレクタの下流端と接するノズル本体の内部側壁に形成されている請求項4〜7のいずれかに記載の噴霧ノズル。
【請求項9】
二流体ノズルである請求項4〜8のいずれかに記載の噴霧ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−67781(P2011−67781A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222045(P2009−222045)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000142023)株式会社共立合金製作所 (24)
【Fターム(参考)】