説明

デュアルモード発振器

【課題】 2種類の周波数を発振出力させつつ、同時に時計信号も出力できるデュアルモード発振器を提供する。
【解決手段】 1つの水晶振動子11から基本波信号と3倍波信号を発振する水晶発振部1と、3倍波信号を1/3に分周する分周器2と、分周器からの出力と基本波信号を乗算するミキサー3と、ミキサーからの出力について低帯域を通過させるローパスフィルター4とを備え、ローパスフィルターからの出力が時計用信号になるよう水晶振動子の電極の寸法を調整したデュアルモード発振器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の異なる周波数を発振出力するデュアルモード発振器に係り、特に、2種類の周波数以外に時計用信号の周波数も出力できるデュアルモード発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
従来、時計用信号(32.768kHz)を出力するために、特有な音叉型水晶振動子を用いていた。
音叉型水晶振動子は、振動子寸法が大きく、また、環境温度変化による周波数変動が大きい。
【0003】
通常、短冊状の水晶振動子にて周波数の低い時計信号(32.768kHz)を得るには、分周方法が取られているが、整数分周では特定の振動子(32.768kHzの整数倍の周波数fを持つもの)しか使用できない。
【0004】
少数分周を用いた場合、任意の周波数の振動子から時計信号を得るには、複雑な分周回路と分周を設定するための多数のメモリが必要になる。
【0005】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開2006−345009号公報「周波数逓倍器、信号発生器及び送受信回路」(三菱電機株式会社)[特許文献1]、特開2009−130544号公報「クロック信号発生回路」(パナソニック株式会社)[特許文献2]、実開平05−059981号公報「無線送信機」(株式会社ケンウッド)[特許文献3]がある。
【0006】
特許文献1には、分配器で入力信号を分配し、一方を特定の帯域を通過させ、他方を低域通過させて、乗算して帯域通過させることが示されている。
特許文献2には、PLL回路130で基準クロック信号をN1逓倍し、分周回路140で1/N分周し、PLL回路150でN2逓倍することが示されている。
特許文献3には、局部発振周波数を分周し、変調してミキサーで局部発振周波数と混合してバンドパスフィルターで帯域通過させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−345009号公報
【特許文献2】特開2009−130544号公報
【特許文献3】実開平05−059981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の発振器では、2種類の周波数を発振させつつ、同時に時計信号も出力可能な構成を簡易に実現できるものとはなっていないという問題点があった。
【0009】
また、特許文献1〜3では、2種類の周波数を発振させつつ、時計信号も同時に発振できる簡易な構成とはなっていないものである。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、2種類の周波数を発振出力させつつ、同時に時計信号も出力できるデュアルモード発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、基本波とn倍波の異なる周波数を発振出力するデュアルモード発振器であって、1つの水晶振動子、当該水晶振動子の基本波を発振させる基本波発振器、当該水晶振動子のn倍波を発振させるn倍波発振器を備える水晶発振部と、n倍波の周波数を分岐して入力し、1/nに分周する1/n分周器と、基本波の周波数を分岐して入力し、1/n分周器からの出力を入力して乗算するミキサーと、ミキサーからの出力について低域の周波数を通過させる低域通過フィルターとを有することを特徴とする。
【0012】
本発明は、上記デュアルモード発振器において、水晶発振部の水晶振動子に形成される電極を付加する又は削る加工を可能としたことを特徴とする。
【0013】
本発明は、上記デュアルモード発振器において、水晶発振部のn倍波発振器は、3倍の周波数を発振する3倍波発振器であり、1/n分周器は、1/3に分周する1/3分周器であることを特徴とする。
【0014】
本発明は、上記デュアルモード発振器において、水晶発振部のn倍波発振器は、5倍の周波数を発振する5倍波発振器であり、1/n分周器は、1/5に分周する1/5分周器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基本波とn倍波の異なる周波数を発振出力するデュアルモード発振器であって、1つの水晶振動子、当該水晶振動子の基本波を発振させる基本波発振器、当該水晶振動子のn倍波を発振させるn倍波発振器を備える水晶発振部と、n倍波の周波数を分岐して入力し、1/nに分周する1/n分周器と、基本波の周波数を分岐して入力し、1/n分周器からの出力を入力して乗算するミキサーと、ミキサーからの出力について低域の周波数を通過させる低域通過フィルターとを有するものとしているので、2種類の周波数を発振出力させつつ、同時に時計信号も出力できる構成を簡易に実現できる効果がある。
【0016】
本発明によれば、水晶発振部の水晶振動子に形成される電極をけずり加工可能とした上記デュアルモード発振器としているので、電極をけずることで時計信号の周波数を調整できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るデュアルモード発振器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係るデュアルモード発振器は、1つの水晶振動子から基本波信号とn倍波信号を発振する水晶発振部と、n倍波信号を1/nに分周する分周器と、分周器からの出力と基本波信号を乗算するミキサーと、ミキサーからの出力について低帯域を通過させるローパスフィルターとを備え、ローパスフィルターからの出力が時計用信号になるよう水晶振動子の電極の寸法を調整したものであり、基本波及びn倍波の信号を発振出力すると共に、同時に時計用信号も発振出力できるものである。
【0019】
[デュアルモード発振器:図1]
本発明の実施の形態に係るデュアルモード発振器について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るデュアルモード発振器の構成図である。
本発明の実施の形態に係るデュアルモード発振器(本発振器)は、図1に示すように、水晶振動部1と、1/3分周器2と、ミキサー3と、低域通過フィルター4とを基本的に有している。
【0020】
図1では、水晶振動部1が基本波と3倍波を同時に発振するため、1/3分周器を用いているが、水晶振動部1が基本波と5倍波を同時に発振するものであれば、1/5分周器を用い、水晶振動部1が基本波とn倍波を同時に発振するものであれば、1/n分周器を用いるものとなる。
【0021】
[各部]
本発振器の各部について具体的に説明する。
[水晶振動部1]
水晶振動部1は、水晶振動子11と、基本波発振器12と、3倍波発振器13とを備え、基本波信号f1と3倍波信号f3を同時に発振出力する。
水晶振動子11は、振動出力を基本波発振器12及び3倍波発振器13に出力する。
基本波発振器12は、水晶振動子11の基本波を発振させ、基本波信号f1の周波数を発振出力する。
3倍波発振器13は、水晶振動子11の3倍波を発振させ、3倍波信号f3の周波数を発振出力する。
水晶振動部1から基本波信号f1の周波数と3倍波信号f3の周波数が出力されると共に、各周波数は分岐して、基本波信号f1の周波数はミキサー3に、3倍波信号f3の周波数は1/3分周器2に出力される。
【0022】
[1/3分周器2]
1/3分周器2は、水晶振動部1から3倍波信号f3を入力し、1/3に分周して、ミキサー3に出力する。
【0023】
[ミキサー3]
ミキサー3は、水晶振動部1から基本波信号f1を入力し、1/3分周器2から1/3分周された3倍波信号f3(f3/3)を入力し、両信号を乗算してローパスフィルター4に出力する。
具体的には、ミキサー3における乗算により、高い周波数fH、すなわち(f1+f3/3)と低い周波数fL、すなわち|f1−f3/3|の2つの周波数成分が出力される。
【0024】
[低域通過フィルター4]
低域通過フィルター(LPF:Low Pass Filter)4は、ミキサー3から出力された2つの周波数成分の内、低い周波数fLの|f1−f3/3|の成分(低帯域成分)のみを通過させる。
【0025】
[本発振器の動作]
本発振器は、水晶振動部1から基本波信号f1と3倍波信号f3を発振させ、1/3分周器2で3倍波信号f3を1/3に分周する。
分周された1/3・f3と基本波信号f1をミキサー3に入力させ、ミキサー3から出力される2つの周波数fH、fLをLPF4に出力させる。
LPF4は、fL、つまり、|f1−f3/3|の成分を通過させて出力する。
【0026】
[動作原理]
ここで、本発振器における動作原理について説明する。
低い周波数fLは、水晶振動子の基本波と3倍波の3分の1との差であるが、形成される水晶振動子の電極の形状寸法によって、通常、±数百kHzの範囲内で発生する。
【0027】
そこで、水晶振動子11の励振電極の電極寸法を下記の式を満足させるように設計しておけば、32.768kHzの時計信号を得ることができる。
L=|f1−f3/3|=32.768kHz
【0028】
但し、設計段階で、精密に寸法を設計したとしても、製造段階で誤差が生じる可能性があるので、予め32.768kHzを少し越えるか下回る値に設計しておき、製造された本発振器の時計信号を測定しながら、水晶振動子11の電極について厚み又は幅、若しくはその両方を付加するか削るかにて32.768kHzとなるよう調整する。
【0029】
通常の水晶発振(MHz)は、周波数f1又はf3を使用しつつ、同時に時計用32.768kHzを出力する水晶発振器を実現することができる。
【0030】
[実施の形態の効果]
本発振器によれば、1つの水晶振動子11から基本波信号とn倍波信号を出力しつつ、n倍波信号を1/n分周して基本波とミキサー3でミキシングし、低帯域の周波数(fL=|f1−f3/3|)をLPF4で通過させて、時計用32.768kHzの信号を簡易な構成で得ることができる効果がある。
【0031】
また、本発振器は、水晶振動子11の電極を付加するか削るかによって、時計用32.768kHzの信号に容易に調整できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、2種類の周波数を発振出力させつつ、同時に時計信号も出力できるデュアルモード発振器に好適である。
【符号の説明】
【0033】
1...水晶発振部、 2...1/3分周器、 3...ミキサー、 4...ローパスフィルター、 11...水晶振動子、 12...基本波発振器、 13...3倍波発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本波とn倍波の異なる周波数を発振出力するデュアルモード発振器であって、
1つの水晶振動子、前記水晶振動子の基本波を発振させる基本波発振器、前記水晶振動子のn倍波を発振させるn倍波発振器を備える水晶発振部と、
前記n倍波の周波数を分岐して入力し、1/nに分周する1/n分周器と、
前記基本波の周波数を分岐して入力し、前記1/n分周器からの出力を入力して乗算するミキサーと、
前記ミキサーからの出力について低域の周波数を通過させる低域通過フィルターとを有することを特徴とするデュアルモード発振器。
【請求項2】
水晶発振部の水晶振動子に形成される電極を付加する又は削る加工を可能としたことを特徴とする請求項1記載のデュアルモード発振器。
【請求項3】
水晶発振部のn倍波発振器は、3倍の周波数を発振する3倍波発振器であり、
1/n分周器は、1/3に分周する1/3分周器であることを特徴とする請求項1又は2記載のデュアルモード発振器。
【請求項4】
水晶発振部のn倍波発振器は、5倍の周波数を発振する5倍波発振器であり、
1/n分周器は、1/5に分周する1/5分周器であることを特徴とする請求項1又は2記載のデュアルモード発振器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−100150(P2012−100150A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247526(P2010−247526)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】