説明

データ同期サーバ、システム、及びデータ転送帯域制御方法

【課題】 遠隔拠点に設置される分散データセンタ間でアプリケーションのデータ同期を、各アプリケーションの要求遅延を出来るだけ満たすよう制御する。
【解決手段】 データ同期システムは、ネットワークパス110に接続された複数のデータ同期サーバ105、107間でデータの転送を行う。データ同期サーバ105は、アプリケーションサーバ102の複数のアプリケーションのデータの、他のデータ同期サーバ107への転送に掛かる、ネットワークパス110上の転送遅延を算出し、これらの転送遅延が、それぞれのアプリケーションの要求遅延を超過する時間を予測し、全てのアプリケーションの要求遅延を超過する時間が同じになるよう、アプリケーション毎のデータの送信レートを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ同期システム、特に遠隔拠点に設置される分散データセンタ間でアプリケーションのデータ同期を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディザスタリカバリやグリッド計算のために、ネットワークを利用した遠隔拠点に設置された分散データセンタ間で、データ同期サーバを利用したデータ同期のニーズが高まっている。また最近、次世代ネットワークを構築する「ネットワーク仮想化技術」が注目、研究されている。このネットワーク仮想化技術の特長として、通信遅延まで含めた通信品質の保証と、仮想ネットワークの帯域変更によるネットワーク資源の効率的な利用がある。
【0003】
このようなネットワーク資源の効率的利用のため、従来、優先付けキューイング(Priority Queuing:PQ)法や、重み付けキューイング(Weighted Fair Queuing:WFQ)などの手法が知れている(非特許文献1参照)。また、アプリケーション毎に経路を選択する広域ネットワーク(Wide Area Network:WAN)通信の遅延削減方式などが検討されている(非特許文献2参照)。また、関連する特許文献として、バッファメモリに残っているデータの遅延時間を通信の制御に反映する通信装置に関する特許文献1や、広域拠点間でのデータ同期のために、同期サーバ間を接続するネットワークパス、帯域、許容遅延を算出、設定するデータ同期システムに関する特許文献2などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−245992号公報
【特許文献2】国際公開WO2010−109767号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】長健二朗、「インターネットにおけるQoS 制御技術〜Diffserv」Internet Week 99、パシフィコ横浜、1999年12月14日
【非特許文献2】澤勇太他、「経路選択を用いた広域ネットワーク通信の遅延削減方式の提案と評価」、ワークショップ2010、電子情報通信学会、新世代ネットワーク時限研究専門委員会、2010年8月17日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
種々の情報が転送される現状のネットワークの内、インターネットでは、バーストトラフィックなど流入量の急激な変動によって、データの遅延やデータパケット損失が発生している。一方、専用線やVPN(Virtual Private Network)では、上記の問題解決の対策として、オーバープロビジョニング(Over-provisioning)を行っているため、平均帯域使用率は10%以下に留まっている。
【0007】
さらに、遠隔拠点に設置された分散データセンタ間におけるデータ同期サーバでは、アプリケーション毎の要求遅延を満たすため、適切に送信レートを制御したいとの要請がある。しかし、上述したPQ法においては、常に高優先データを優先的に転送する手法を取るため、低優先のクラスに属するアプリケーションのデータの流入量が急激に増加し、転送遅延が急激に大きくなった場合には、対応することが出来ないという課題がある。また、上述したWFQ法においては、各クラスに属するアプリケーションのデータの送信レートである流出量を、クラス毎の流入量の比率と同じ比率に調整するよう制御しているため、高優先のクラスの転送遅延がその要求遅延をすぐに超過してしまい、適切に要求遅延を満たすことが出来ないという課題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決し、各アプリケーションやクラスの要求遅延を出来るだけ満たすことが可能なデータ同期サーバ、システム、及びデータ転送帯域制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明においては、ネットワークパスに接続された他のデータ同期サーバとの間でデータの転送を行うデータ同期サーバであって、データ同期サーバは、処理部と、複数のアプリケーション毎のデータを蓄積するバッファを有する記憶部とを備え、処理部は、ネットワークパスの複数のアプリケーション毎のデータの転送にかかる転送遅延を算出し、複数のアプリケーション毎の要求遅延を満たすように、アプリケーション毎のデータのバッファからの送信レートを制御する構成のデータ同期サーバ、当該サーバを利用するデータ同期システム、及び当該サーバにおけるデータ転送帯域制御方法を提供する。
【0010】
また、上記の目的を達成するため、本発明においては、上記のデータ同期サーバであって、処理部は、複数のアプリケーション毎のデータの転送にかかる遅延が、アプリケーション毎のデータの要求遅延を超過する時間を、算出した転送遅延より予測し、予測した全てのアプリケーションのデータの要求遅延を超過する時間が同じになるよう、複数のアプリケーション毎のデータの送信レートを制御する構成のデータ同期サーバ、当該サーバを利用するデータ同期システム、及び当該サーバにおけるデータ転送帯域制御方法を提供する。
【0011】
更に、上記の目的を達成するため、本発明においては、上記のデータ同期サーバであって、処理部は、複数のアプリケーション毎のデータの送出レートの総和が、ネットワークパスへの割り当て帯域を超過する時間を、算出した転送遅延より予測し、予測した超過する時間より前の時点で、ネットワークパスを制御する制御サーバに対し、ネットワークパスの帯域変更を要求する構成のデータ同期サーバ、当該サーバを利用するデータ同期システム、及び当該サーバにおけるデータ転送帯域制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、トラフィックが変動する環境に置いて、各アプリケーションのデータの流入量の変化に対して、要求遅延が満たせなくなるタイミング(遅延破たん)を可能な限り遅くすることができる。また、各アプリケーションのデータの転送遅延を予測することにより、事前に帯域増の要求を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施例のデータ同期システムの全体構成の一例を示す図である。
【図2】第1の実施例に係る、データ同期サーバの一構成例を示すブロック図である。
【図3】第1の実施例に係る、各アプリケーションの転送遅延のデータの算出フローを示す図である。
【図4】第1の実施例のデータ同期システムの全体構成の他の例を示す図である。
【図5】第1の実施例に係る、パス帯域変更要求を行う場合の処理フローの一例を示す図である。
【図6】第1の実施例に係る、データ同期システムで用いるデータパケットのフォーマットの一例を示す図である。
【図7】第1の実施例に係る、データ同期システムにおける流量観測データ記憶部の流入量テーブルの一例を示す図である。
【図8】第1の実施例に係る、データ同期システムにおけるバッファ蓄積量観測データ記憶部の蓄積量テーブルの一例を示す図である。
【図9】第1の実施例に係る、データ同期システムにおける設定値記憶部の要求遅延テーブルの一例を示す図である。
【図10】本発明のデータ同期システムの効果を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。なお、本明細書において、物理ネットワークや仮想ネットワークにおけるデータを転送するための通信経路を、ネットワークパスあるいは単にパスと呼ぶ。また、本明細書におけるデータ同期サーバとは、アプリケーションサーバからのデータ格納要求や取得要求に応じて、自身の記憶部にデータを保持、あるいは取り出しを行い、更に保持するデータをアプリケーション毎に指定されている他のデータ同期サーバのデータと同じ値に設定するものをいう。このデータ同期サーバは、データ同期システム等におけるデータ同期装置として機能するものである。
【実施例1】
【0015】
図1に、第1の実施例のデータ同期システムの全体構成の一例を示した。同図において、データ同期システムは、ネットワーク100上のパス110を介して相互に接続される制御サーバ101、分散データセンタ102、103を備えている。なお、ネットワーク100は、少なくとも一つ以上の広域網(Wide Area Network:WAN)などから構成され、その内部にはスイッチ、ルータ、伝送装置などの転送装置を含んでいる。パス110は、上述の通り、物理ネットワーク或いは仮想ネットワークを用いて形成されるネットワークパスであり、その実現手段は何ら限定されるものではない。また、分散データセンタ102、103は、2個に限らず何個接続されていても良い。
【0016】
データセンタ102、103にはそれぞれアプリケーションサーバ104、106、及びデータ同期サーバ105、107を備え、データ同期サーバには管理者用入力端末108、109が接続されている。管理者用入力端末108、109は、管理者により各データセンタを利用管理するために用いられる。それぞれのアプリケーションサーバ104、106は、複数のアプリケーションAP1、AP2、AP3−−−が動作するが、それぞれのアプリケーションサーバ104、106上で動作するアプリケーションは同じものであっても、異なったものであっても良い。いずれの場合であっても、パス110を介して、複数のアプリケーションAP1、AP2、AP3−−−のデータが転送される。なお、このアプリケーションの種類内容に限定はないが、その一例として、モバイルアプリケーションサーバにおける車載センサデータの収集や、地震センサからのデータの収集、監視カメラからの映像収集のアプリケーションなどが挙げられる。
【0017】
図1における制御サーバ101、アプリケーションサーバ104、106、データ同期装置として機能するデータ同期サーバ105、107、更には管理者用入力端末108、109は、全て通信インタフェースを備えたコンピュータ装置で構成されるものであり、その内部に内部バス等で相互に接続された、中央処理部(Central Processing Unit:CPU)からなる処理部、半導体メモリやハードディスクデバイス(HDD)等の記憶部や、通信インタフェース(Interface:IF)を備えている。このデータ同期サーバ105、107は、パス110の帯域内での、複数のアプリケーションの送信レートの変更は行うことはできるが、パス110全体の帯域の変更は、制御サーバ101に事前に変更要求をすることが必要である。
【0018】
なお、図1は、データ同期システムの一構成例であり、他の構成、例えば図4に示すようなデータ同期システムに対しても本実施例は適用できることはいうまでもない。
【0019】
図4において、400は仮想ネットワーク、401は制御サーバ、402、403はデータセンタ、404、407はアプリケーションサーバ、405、406はデータ同期サーバ、408、409は管理者用入力端末、410はネットワークパスを示している。同図より明らかな様に、このデータ同期システムにあっては、データ同期装置としてのデータ同期サーバは、各データセンタ402、403内でなく、ネットワーク400内に位置している構成である。なお、図示を省略したが、アプリケーションサーバ404、407では、各種アプリケーションが動作することは図1のシステムと同様である。以下、実施例のシステムの処理動作の説明では、図1に示したデータ同期システムを中心に説明するが、図4のデータ同期システムにおいても同様である。
【0020】
図2に、第1の実施例のデータ同期装置として機能するデータ同期サーバ105、107の一構成例を示した。なお、説明の便宜上、データ同期サーバ105を例示して説明するが、データ同期サーバ107も同一の構成を備えている。本実施例のデータ同期サーバ105は、同図に明らかなように、上記の通り、通常のコンピュータ構成を備え、内部バス240にて相互に接続された制御処理部200と、同期データ処理部210と、制御データ記憶部220と、同期データ記憶部230、通信インタフェースIF250とから構成される。制御処理部200と同期データ処理部210は、一個或いは複数個のCPUで構成される。
【0021】
また、制御処理部200は、設定値入力部201、流入量観測部202、バッファ蓄積量観測部203、遅延予測部204、送信レート計算部205、ネットワーク帯域計算部206、制御サーバ通信部207等の機能ブロックを備えており、CPU等の処理部で実行される機能プログラム等で提供できる。また、制御データ記憶部220内には、流量観測データ記憶部221、バッファ蓄積量観測データ記憶部222、設定値記憶部223が形成され、各種のテーブルを記憶する。
【0022】
図1のデータ同期システムにおいて、まずデータセンタ102にあるアプリケーションサーバ104が、内部で動作するアプリケーションに関する同期データを、データ同期サーバ105に対して送信する。この同期データは、データ同期サーバ105の内部バス240を経由して、同期データ処理部210の同期データ送受信部211に送られる。同期データ送受信部211は、同期データ記憶部230内の同期データ格納部231に同期データを格納する。同時に、同期データ送受信部211は、この同期データを通信IF250経由で、もう一方のデータセンタ103にあるデータ同期サーバ107に送信する。送信された同期データはネットワークパス110を経由してデータ同期サーバ107の通信IF250を経由して同期データ送受信部211に受信された後、同期データ格納部231に格納される。
【0023】
続いて、図2のデータ同期サーバ105の制御処理部200の動作処理について説明する。システム管理者は、管理者用入力端末108から各アプリケーションのデータに対する要求遅延に関するデータを入力する。入力した要求遅延に関するデータは、通信IF250を経由して設定値入力部201に送信される。設定値入力201は、この入力された要求遅延に関するデータを、後で図9を用いて説明する制御データ記憶部220の設定値記憶部223のテーブル中に記憶する。
【0024】
次に、流入量観察部202は、同期データ記憶部230内の同期データ格納部231に随時、例えば1秒毎に問合せを行い、各アプリケーションからの同期データの流入量を取得する。この流入量としては、例えば、単位時間当たりに新たに格納された各アプリケーション毎の同期データの量が利用できる。取得したアプリケーション毎の流入量を、後で図7を用いて説明する流入量観測データ記憶部221のテーブル中に記録する。一方、バッファ蓄積量観測部203も同期データ格納部231に随時、例えば1秒毎に問合せを行い、バッファ蓄積量、すなわち同期データ格納部231に蓄積されている同期データの量を取得し、後で図8を用いて説明するバッファ蓄積量観測データ記憶部222のテーブル中に記録する。
【0025】
図3は本実施例における図2のデータ同期サーバ105の制御処理部200で、ネットワークパス110上の各アプリケーションのデータの転送遅延を算出する算出フローを示している。
【0026】
制御処理部200の遅延予測部204は、図3のステップ301において転送遅延の予測値の計算を開始すると、まず設定値記憶部223より該当アプリケーションの要求遅延のデータを取得し、流量観測データ記憶部221より流入量を取得し、バッファ蓄積量観測データ記憶部222よりバッファ蓄積量を取得する。そして、これらの情報に基づいて各アプリケーションの転送遅延を算出する。なおこの転送遅延の算出方法の一例は後で説明する。遅延予測部204は、算出した転送遅延を送信レート計算部205に送信する。
【0027】
ステップ302において、送信レート計算部205は各アプリケーションの最適な送信レートを計算する。引き続き、ステップ303において、送信レート計算部205は、各アプリケーションの送信レートの変更が必要か否かを判断し、もし必要な場合は、ステップ304において、その送信レートを同期データ送受信部211に送信する。そして、同期データ送受信部211は、受信した送信レートに基づいて、データ同期サーバ105からデータ同期サーバ107へのネットワークパス110の当該同期データの送信レートを変更する。
【0028】
また、ステップ305において、送信レート計算部205が、計算によって得られた各アプリケーションの送信レートを、ネットワーク帯域計算部206に送信する。ネットワーク帯域計算部206は、各アプリケーションの送信レートの総和を計算してネットワークパス110に必要な帯域を求める。
【0029】
ステップ306にて、ネットワーク帯域計算部206は、そのネットワークパス110に必要な合計の帯域が、現在のネットワークパス110に割り当てられている帯域を“a”分後に超過するため、ネットワークパス110の帯域を変更する必要があると判断した場合は、ステップ307にてネットワーク帯域計算部206は、通信IF250経由で、制御サーバ101にネットワークパス110の帯域変更要求を出す。
【0030】
図5は、本実施例のデータ同期システムにおけるデータ同期サーバ105のネットワーク帯域計算部206から制御サーバ101に、上述したネットワークパス110の帯域変更要求を行う場合の処理フローの一例を示している。同図において、データ同期サーバ105が、ステップ501においてネットワークパスの帯域変更判断が必要との判断を行った場合、ネットワークパス変更要求502が制御サーバ101に送信される。
【0031】
制御サーバ101では、帯域変更要求502を受信した場合、ステップ503において、ネットワークパスの帯域変更可否判断503を行う。そして、その判断結果である帯域変更可否通知504を返信すると共に、変更可との判断の場合、ステップ505において、ネットワークパス110の帯域変更を開始する。ステップ506にてネットワークパス帯域変更が完了すると、ネットワークパス帯域変更完了通知507をデータ同期サーバ105に送信する。このネットワークパス帯域変更完了通知507を受信したデータ同期サーバ105の同期データ送受信部211は、このネットワークパス帯域変更完了通知507に基づき、ネットワークパス110の送信レートの変更を実行する(508)。
【0032】
図6は本実施例1のデータ同期システムのネットワークパスを介してデータセンタ間で送受信されるデータパケットのフォーマットの一例を示す図である。同図にみるように、パケットフォーマット600は、パケットヘッダ601、アプリケーション識別子(Identifier:ID)602、ペイロード603から構成され、アプリケーションIDを識別することによりデータパケットがどのアプリケーションのものかが判別できる。
【0033】
図7、図8、図9は、上述した本実施例におけるデータ同期システムのデータ同期サーバの制御データ記憶部220中に蓄積されるテーブルの一例を示している。図7は流入量観測データ記憶部テーブルであり、図2の流入量観測データ記憶部221中に記憶される。このテーブルにより、各アプリケーションID701に対応する流入量702(kbps)を知ることができる。
【0034】
同様に、図8はバッファ蓄積量観測データ記憶部テーブルであり、図2のバッファ蓄積量観測データ記憶部222中に記憶される。このテーブルにより、各アプリケーションID801に対応する蓄積量802(KB)を知ることができる。
一方、図9は設定値記憶部テーブルであり、図2の設定値記憶部223中に記憶され、このテーブルにより、各アプリケーションID901に対応する要求遅延902(msec)を知ることができる。
【0035】
ここで、上述した図2のデータ同期サーバ105の制御処理部200の遅延予測部204における転送遅延の算出法の一例を説明する。本具体例においては、アプリケーション毎に算出する転送遅延は、バッファ遅延量とバッファからデータが送信される送信レートから算出する例を説明する。
【0036】
まず、下式1より各アプリケーションの時刻tにおけるバッファ蓄積量を予測する。バッファ蓄積量はキュー長で表わすこととする。
【0037】
【数1】

【0038】
ここで、Ak,t :時刻tにおけるアプリケーションkのキュー長(未知数)
Ak,t0 :時刻t0におけるアプリケーションkのキュー長(計測値)
Bk,in (t):アプリケーションkのトラフィック量[bps](未知数)
Bk,rate : データ同期サーバが送信するアプリケーションkのトラフィック
の送信レート[bps](既知)
そして、上述したように本実施例のデータ同期サーバでは、同一のネットワークパスを利用する複数のアプリケーションのうち、要求遅延が制御周期より長いアプリケーション(k=m+1〜n)の要求遅延を満たせなくなる(Ak,t=Ak,limitになる)時刻tkが同一になるように、送信レートBk,rate’を計算する。
【0039】
アプリkが要求遅延を満たせなくなる時刻tkは、下式2で表わされる。
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、(k=m+1〜n)、および下式3である。
【0042】
【数3】

【0043】
なお、Vlはネットワークパスlの帯域である。本実施例においては、ネットワークパス110に対応するが、ネットワーク100中には、ネットワークパス110以外に複数のネットワークパスが存在しうる。
【0044】
上述の通り、本実施例のデータ同期サーバにおいては、全てのアプリの要求遅延を満たせなくなる時刻が同一になればよいから、tm+1=tm+2=tm+3=…=tn≡tall である。以上の式を満たすBk,rate’(k=m+1〜n)を算出する。その解法は連立非線形方程式を解くことになるため、例えば、ニュートンラプソン法を用いて算出することができる。以上により、本実施例において、各アプリケーションに対する転送遅延を算出することができる。
【0045】
なお、以上の説明により、各アプリケーションに対する要求遅延を満たして遅延破たんを可能な限り遅らせるための転送遅延の算出法の一例を説明したが、各アプリケーションが要求遅延を満たしつつ、遅延破たんを可能な限り遅らせるための転送遅延の算出法は、上述したバッファ遅延量と送信レートを用いる方法に限定されないことは言うまでもない。
【0046】
例えば、アプリケーション毎のデータのバッファへの流入量と送信レートよりデータ転送にかかる転送遅延を算出することができる。上述したデータ蓄積量は、バッファへのデータ流入量の積分値、すなわち、今まで流入してきたデータの総量と、送信レートの積分値、すなわち、今まで送出してきたデータの総量の差分により求めることができるからである。また、逆にデータの蓄積量と送信レートの積分値の和より、データ流入量の積分値を求めることができるので、同様に転送遅延を算出することが可能である。すなわち、アプリケーション毎のデータの流入量、バッファのデータ蓄積量、及び送信レートを適宜利用することにより、データ転送にかかる転送遅延を算出するができる。
【0047】
また、上述の説明においては、アプリケーション毎に転送遅延を算出するよう説明したが、各アプリケーションが属するクラス毎に対応して転送遅延を算出することもできる。この場合、各クラスには、帯域と要求遅延が同様の、少なくとも1個のアプリケーションが属しているクラス毎の要求遅延を考慮して転送遅延を算出し、データ転送の帯域を制御することになるが、使用する算出手法は、転送遅延をクラス単位で算出すること以外は同じでよいことは言うまでもない。
【0048】
以上説明した、本実施例のデータ同期システムにおいては、予測した転送遅延に基づき、要求遅延を満たすように制御することにより、遅延破たんを可能な限り遅らせるよう制御することができる。
【0049】
図10に、第1の実施例よるデータ同期システムによる効果を説明するための図を示した。図10の上段に、ある時点における各アプリケーション毎のデータの流入量とバッファ蓄積量と流出量を示した。なお、このデータの流出量はデータ転送帯域、送信レートと等価である。図10並びに同図の説明において、便宜上、アプリケーションをアプリと略記する。同図より明らかなように、アプリAは帯域が100Mbps、要求遅延が10msec、アプリBは帯域が200Mbps、要求遅延が200msec、アプリCは帯域が700Mbps、要求遅延が2.5secであり、合計流入量は1Gbpsであるとする。この時点において、各アプリに対応する流出量、送信レートは、流入量と同じ値を維持しており、バッファ蓄積量(1sec当たり)は全て0(零)Mbitであるとする。
【0050】
この状態から、図10の下段に示すように、アプリAの流入量が100Mbps、アプリBの流入量が800Mbps、アプリCの流入量が700Mbpsの合計流入量が1.6Gbpsに変化した場合、本実施例のデータ同期システムにおいては、上述の通り、データセンタ102内のデータ同期サーバ105の制御処理部200において転送遅延の予測値を計算する。その結果、図10の下部のバッファ蓄積量(1sec当たり)に示すように、アプリB、アプリCでは、それぞれ1秒後の転送遅延が、143msec、2.5sec増加すると予測され、そのバッファ蓄積量は、アプリAは0(零)M bit、アプリBは100Mbit、アプリCは500Mbitになると計算される。
【0051】
この場合、本実施例のデータ同期システムにおいては、各アプリに対するデータのネットワークパスへの流出量1000、すなわち送信レートを100Mbps、700Mbps、200Mbpsに制御することにより、全てのアプリの要求遅延を満たしつつ、遅延破たんを可能な限り遅らせることができる。
【0052】
以上の効果は、アプリA、アプリB、アプリCを、クラスA、クラスB、クラスCとした場合にも、同様に得ることができる。いいかえるなら、何れかのクラスに属するアプリケーション各々のクラス単位での要求遅延を満たすように、適切に送信レートを制御することにより、同等の効果を得ることができる。
【0053】
以上詳述したように、本実施例よれば、各アプリケーションや各クラスの遅延を予測し、ネットワークパス上のトラフィックが増加した場合、それぞれのアプリケーションやクラスのデータの転送帯域、送信レートを調整することにより、全てのアプリケーションやクラスのデータの転送遅延が要求遅延を越えてしまうタイミング(遅延破たん)を可能な限り遅くすることができる。また、そのタイミングが到来する前に、ネットワークパスの帯域増の要求をネットワークの制御サーバに対して送信することにより、遅延破たんを防止することが可能となる。
【0054】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。例えば、上述した実施例におけるデータ同期サーバは、遠隔拠点に設置された分散データセンタの存在を前提にして説明したが、データセンタがなくても、アプリケーションサーバ間の同期データの同期制御を行うデータ同期サーバにも適用できる。
【0055】
また、上記の各サーバ中の構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスクに限らず、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、またはICカード等の記録媒体におくことができるし、必要に応じてネットワーク等を介してダウンロードすることも可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、データ同期システム、特に遠隔拠点に設置される分散データセンタ間でアプリケーションのデータ同期を行うための技術として有用である。
【符号の説明】
【0057】
100、400 ネットワーク
101、401 制御サーバ
102、103、402、403 データセンタ
104、106、404、407 アプリケーションサーバ
105、107、405、406 データ同期サーバ
108、109、408、409 管理者用入力端末
110、410 ネットワークパス
200 制御処理部
201 設定値入力部
202 流入量観測部
203 バッファ蓄積量観測部
204 遅延予測部
205 送信レート計算部
206 ネットワーク帯域計算部
207 制御サーバ通信部
210 同期データ処理部
211 同期データ送受信部
220 制御データ記憶部
221 流入量観測データ記憶部
222 バッファ蓄積量観測データ記憶部
223 設定値記憶部
230 同期データ記憶部
231 同期データ格納部
240 内部バス
250 通信IF
600 パケットフォーマット
601 パケットヘッダ
602、701、801、901 アプリケーションID
603 ペイロード
700 流入量観測データ記憶部テーブル
702 流入量(kbps)
800 バッファ蓄積量観測データ記憶部テーブル
802 蓄積量(KB)
900 設定値記憶部テーブル
902 要求遅延(msec)
1000 再設定されたネットワークパスの流出量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークパスに接続された他のデータ同期サーバとの間でデータの転送を行うデータ同期サーバであって、
前記データ同期サーバは、処理部と、複数のアプリケーション毎のデータを蓄積するバッファを有する記憶部とを備え、
前記処理部は、前記ネットワークパスの、複数のアプリケーション毎のデータの転送に掛かる転送遅延を算出し、複数の前記アプリケーション毎の要求遅延を満たすように、前記アプリケーション毎のデータの前記バッファからの送信レートを制御する、
ことを特徴とするデータ同期サーバ。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ同期サーバであって、
前記処理部は、
前記アプリケーション毎のデータの前記バッファへの流入量と前記送信レートより前記転送遅延を算出する、
ことを特徴とするデータ同期サーバ。
【請求項3】
請求項1に記載のデータ同期サーバであって、
前記処理部は、
前記アプリケーション毎のデータの前記バッファのデータ蓄積量と前記送信レートより前記転送遅延を算出する、
ことを特徴とするデータ同期サーバ。
【請求項4】
請求項1に記載のデータ同期サーバであって、
前記処理部は、
前記アプリケーション毎のデータの前記バッファへの流入量、前記バッファのデータ蓄積量、前記送信レートにより前記転送遅延を算出する、
ことを特徴とするデータ同期サーバ。
【請求項5】
請求項1に記載のデータ同期サーバであって、
前記処理部は、
複数の前記アプリケーション毎のデータの転送にかかる遅延が、前記アプリケーション毎のデータの前記要求遅延を超過する時間を、算出した前記転送遅延より予測し、予測した全ての前記アプリケーションのデータの前記要求遅延を超過する時間が同じになるよう、複数の前記アプリケーション毎のデータの前記送信レートを制御する、
ことを特徴とするデータ同期サーバ。
【請求項6】
請求項1に記載のデータ同期サーバであって、
前記処理部は、
複数の前記アプリケーション毎のデータの前記送出レートの総和が、前記ネットワークパスへの割り当て帯域を超過する時間を、算出した前記転送遅延より予測し、予測した前記超過する時間より前の時点で、前記ネットワークパスを制御する制御サーバに対し、前記ネットワークパスの帯域変更を要求する、
ことを特徴とするデータ同期サーバ。
【請求項7】
制御サーバによって制御されるネットワークパスに接続された複数のデータ同期サーバ間でデータの転送を行うデータ同期システムであって、
前記データ同期サーバは、処理部と、複数のアプリケーション毎のデータを蓄積するバッファを有する記憶部とを備え、
前記処理部は、前記ネットワークパスの、複数のアプリケーション毎のデータの転送に掛かる転送遅延を算出し、複数の前記アプリケーション毎の要求遅延を満たすように、前記アプリケーション毎のデータの前記バッファからの送信レートを制御する、
ことを特徴とするデータ同期システム。
【請求項8】
請求項7に記載のデータ同期システムであって、
前記データ同期サーバの前記処理部は、
前記アプリケーション毎のデータの前記バッファへの流入量と前記送信レートより前記転送遅延を算出する、
ことを特徴とするデータ同期システム。
【請求項9】
請求項7に記載のデータ同期システムであって、
前記データ同期サーバの前記処理部は、
前記アプリケーション毎のデータの前記バッファのデータ蓄積量と前記送信レートより前記転送遅延を算出する、
ことを特徴とするデータ同期システム。
【請求項10】
請求項7に記載のデータ同期システムであって、
前記データ同期サーバの前記処理部は、
前記アプリケーション毎のデータの前記バッファへの流入量、前記バッファのデータ蓄積量、前記送信レートにより前記転送遅延を算出する、
ことを特徴とするデータ同期システム。
【請求項11】
請求項7に記載のデータ同期システムであって、
前記データ同期サーバの前記処理部は、
複数の前記アプリケーション毎のデータの転送にかかる遅延が、前記アプリケーション毎のデータの前記要求遅延を超過する時間を、算出した前記転送遅延より予測し、予測した全ての前記アプリケーションのデータの前記要求遅延を超過する時間が同じになるよう、複数の前記アプリケーション毎のデータの前記送信レートを制御する、
ことを特徴とするデータ同期システム。
【請求項12】
請求項7に記載のデータ同期システムであって、
前記データ同期サーバの前記処理部は、
複数の前記アプリケーション毎のデータの前記送出レートの総和が、前記ネットワークパスへの割り当て帯域を超過する時間を、算出した前記転送遅延より予測し、予測した前記超過する時間より前の時点で、前記制御サーバに対し、前記ネットワークパスの帯域変更を要求する、
ことを特徴とするデータ同期システム。
【請求項13】
ネットワークパスに接続された他のデータ同期サーバとの間でデータの転送を行うデータ同期サーバよるデータ転送帯域制御方法であって、
前記データ同期サーバは、
前記ネットワークパスの、複数のアプリケーション毎のデータの転送に掛かる転送遅延を算出し、複数の前記アプリケーション毎の要求遅延を満たすように、前記アプリケーション毎のデータの前記バッファからの送信レートを制御する、
ことを特徴とするデータ転送帯域制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載のデータ転送帯域制御方法であって、
前記データ同期サーバは、
複数の前記アプリケーション毎のデータの転送にかかる遅延が、前記アプリケーション毎のデータの前記要求遅延を超過する時間を、算出した前記転送遅延より予測し、予測した全ての前記アプリケーションのデータの前記要求遅延を超過する時間が同じになるよう、複数の前記アプリケーション毎のデータの前記送信レートを制御する、
ことを特徴とするデータ転送帯域制御方法。
【請求項15】
請求項13に記載のデータ転送帯域制御方法であって、
前記データ同期サーバは、
複数の前記アプリケーション毎のデータの前記送出レートの総和が、前記ネットワークパスへの割り当て帯域を超過する時間を、算出した前記転送遅延より予測し、予測した前記超過する時間より前の時点で、前記ネットワークパスを制御する制御サーバに対し、前記ネットワークパスの帯域変更を要求する、
ことを特徴とするデータ転送帯域制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−199729(P2012−199729A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61879(P2011−61879)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人情報通信研究機構、ネットワーク仮想化を活用したデータサービスアプリケーション基盤技術に関する研究開発 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】