説明

データ記憶媒体用ガラス基板の製造方法及びガラス基板

【課題】耐衝撃性に優れ、かつディスク形状の安定化を両立するデータ記憶媒体用ガラス基板及びその製造方法の提供。
【解決手段】基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬し、該基板用ガラスの表面及び裏面に圧縮層を形成する化学強化処理工程を含むデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法であって、基板用ガラスがアルカリ成分としてリチウムイオンを含有し、混合溶融塩が硝酸ナトリウム、硝酸カリウムおよび質量百分率表示で硝酸リチウムを1〜6%含有し、基板用ガラスを混合溶融塩に特定の温度範囲および時間の条件下で浸漬するデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク、光ディスク等のデータ記憶媒体に用いられるガラス基板の製造方法およびガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク、光ディスク等のデータ記憶媒体基板用ガラス(以下、「基板用ガラス」ともいう)として、たとえば高ヤング率のリチウム含有アルミノシリケート系ガラスまたはそれに化学強化処理を施したもの(たとえば特許文献1参照)が使用されている。
【0003】
近年、ハードディスクドライブの記憶容量の増大に伴い、高記録密度化がハイペースで進行し、動作時の振動特性、衝撃特性に対する要求はますます厳しいものになってきている。また、ハードディスクドライブの小型化に伴い、非動作時における衝撃特性に対する要求も大きく、これらの要求に応えるため、化学強化処理を施し、基板用ガラスの主表面等に圧縮応力層を形成し、強度の向上が図られている。(たとえば特許文献2参照)
【0004】
しかし、高記録密度化に伴い、強度に対する要求と同時に、ガラス主表面における表面性状(キズや付着物等)や、平坦度、うねりそして粗さといったディスク形状に対する精度に対する要求も年々厳しくなっており、化学強化処理を施すことによる表面性状やディスク形状の変化が問題になってきている。
【0005】
そこで、たとえば特許文献3のように、化学強化後にラップ研磨、精密研磨を施したり、最終洗浄で化学強化塩や強化塩中に含まれるコンタミが起因となる付着物の除去に工夫をしたりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−180969号公報
【特許文献2】特開平10−198942号公報
【特許文献3】特開2006−324006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学強化処理はそれだけでもデータ記憶媒体用ガラス基板の作製プロセスにおいて負荷がかかるプロセスである。化学強化処理後に研磨や特殊な洗浄プロセスを入れることは、より負荷が大きくなり、製造プロセスを圧迫するおそれがある。
【0008】
そこで本発明は、化学強化処理後に特別な処理を施さなくとも、ディスク形状の安定化が図れるデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法およびデータ記憶媒体用ガラス基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明者が研究を重ねた結果、化学強化の処理時間が形状変化、特にうねりに対して感度が高いことを突き止めた。
【0010】
また、特定の条件下で化学強化処理することにより、また、好ましくは基板用ガラスの組成と化学強化処理に用いる混合溶融塩の組成をうまく組合わせて、化学強化処理後に特別な処理を施さなくとも、ディスク形状が安定化し、特にうねりの発生が少なく、かつ化学強化も十分である、データ記憶媒体用ガラス基板の製造方法を見出した。このようにすることにより形状変化を抑制しつつ、強化も十分にすることが可能になる。
【0011】
すなわち、アルカリ成分としてリチウムイオンを含有する基板用ガラスを硝酸リチウムを適量含有する混合溶融塩に、特定の温度範囲および時間の条件で浸漬して、化学強化処理することで、化学強化処理後のガラス形状の変化を抑制し、かつ強化も十分であることを見出した。ここで、混合溶融塩に硝酸リチウムを添加する手法は、特開2004−259402号公報に記載されているが、極微量の範囲内では、強化の安定性は保たれるが、形状の変化を抑制する効果は見出されなかった。
【0012】
本発明は、以下よりなる。
1.基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬し、該基板用ガラスの表面及び裏面に圧縮層を形成する化学強化処理工程を含むデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法であって、
基板用ガラスがアルカリ成分としてリチウムイオンを含有し、
混合溶融塩が硝酸ナトリウム、硝酸カリウムおよび質量百分率表示で硝酸リチウムを1〜6%含有し、
基板用ガラスを混合溶融塩に、325℃以上475℃以下の処理温度にて30分間以下の処理時間で浸漬し、かつ以下の式を満足する、データ記憶媒体用ガラス基板の製造方法。尚、Tは処理温度(単位:℃)、tは処理時間(単位:秒)である。
1900≦T×log(t)≦2900
2.化学強化処理を施した基板用ガラスのJISR1607準拠、IF法により測定した破壊靱性値Kの値が1.2MPa・m1/2以上である前項1記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
3.前記混合溶融塩が、質量百分率表示で、硝酸ナトリウムを28〜55%、硝酸カリウムを40〜69%含有し、混合溶融塩の融点が250℃以下である前項1または2記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
4.前記化学強化処理工程において、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する工程が1つに限られることを特徴とする前項1〜3のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
5.前記化学強化処理工程において、混合溶融塩に浸漬する基板用ガラスの温度が、混合溶融塩の融点以上である前項1〜4のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
6.前記化学強化処理工程において、ガラス基板を混合溶融塩に浸漬した後に徐冷せずに、基板用ガラスの温度が300℃以下となった後に、100℃/分以上の冷却速度でガラス基板を冷媒に接触させて急冷させることを特徴とする前項1〜5のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
7.前記化学強化処理工程後に、基板用ガラスを再研磨しないことを特徴とする前項1〜6のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
8.前記基板用ガラスが、酸化物基準のモル%表示で、SiOを58〜66%、Alを11〜17%、MgOを0〜4%、LiOを8〜16%、NaOを2〜9%含有し、LiO+NaOが13〜21%である前項1〜7のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
9.前記ガラス基板におけるLiOの含有量(酸化物基準のモル%)をLiO、NaOおよびKOの含有量の合計で除した値が0.4以上である前項1〜9のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
10.前記化学強化処理を施した基板用ガラスから成形される記憶媒体用ガラスディスクの平坦度が3μm以下、2.5インチディスクの中心から平均16〜28mm間の面のカットオフ値0.4〜5mm間の算術平均うねり(Wa)が0.6nm以下、および算術平均粗さ(Ra)が0.15nm以下である前項1〜9のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
11.前項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたデータ記憶媒体用ガラス基板。
12.前項11に記載のデータ記憶媒体用ガラス基板の上に、磁気記録層が形成されているデータ記憶媒体。
13.基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬し、該基板用ガラスの表面及び裏面に圧縮層を形成する化学強化処理工程を含むデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法であって、
基板用ガラスがアルカリ成分としてリチウムイオンを含有し、
混合溶融塩が硝酸ナトリウム、硝酸カリウムおよび質量百分率表示で硝酸リチウムを1〜6%含有し、
基板用ガラスを混合溶融塩に、325℃以上425℃未満にて5〜30分間浸漬する、
データ記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
14.基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬し、該基板用ガラスの表面及び裏面に圧縮層を形成する化学強化処理工程を含むデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法であって、
基板用ガラスがアルカリ成分としてリチウムイオンを含有し、
混合溶融塩が硝酸ナトリウム、硝酸カリウムおよび質量百分率表示で硝酸リチウムを1〜6%含有し、
基板用ガラスを混合溶融塩に、425℃以上475℃以下にて3〜20分間浸漬する、
データ記憶媒体用ガラス基板の製造方法。なお、当該時間は典型的には5〜20分間である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、化学強化処理後に特別な処理を施さなくとも、耐衝撃性に優れ、かつディスク形状の安定化が図ることができ、特にうねりの発生が少ないデータ記憶媒体用ガラス基板を得ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法では、用いる基板用ガラスの組成および化学強化処理工程以外は特に限定されず適切に選択すればよく、典型的には従来公知の工程を適用できる。
【0015】
例えば、各成分の原料を後述する組成となるように調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、従来公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形して基板用ガラスとし、徐冷する。
【0016】
ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法およびダウンドロー法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好適である。また、フロート法以外の連続成形法、すなわち、フュージョン法およびダウンドロー法も好適である
【0017】
成形した基板用ガラスを必要に応じて研削・研磨処理し、化学強化処理をした後、洗浄および乾燥して、所定の形状・寸法のデータ記憶媒体用ガラス基板とする。
【0018】
化学強化処理とは、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬し、該基板用ガラスの表面及び裏面に圧縮層を形成する処理である。本発明の製造方法においては、研削・研磨処理の後に化学強化処理を行ってもよいし、先に化学強化処理を行ってから、研削・研磨処理を行ってもよい。また、研削・研磨処理がある段階まで進んだ時点で化学強化処理を行い、その後に、研削・研磨処理の残りの工程を行ってもよい。
【0019】
また、洗浄および乾燥工程は特に限定されず、例えば多槽の洗浄槽で、超音波を印加し、中性洗剤、純水と順次洗浄し、スピンドライで乾燥させる。また、中性洗剤ではなく、温水を用いたり、純水の後にIPA(イソプロピルアルコール)の洗浄槽を通し、IPAベーパー乾燥によりガラスを引き上げて得てもよい。
【0020】
上記のようにして得られる本発明のデータ記憶媒体用ガラス基板は、厚みが典型的には0.5〜1.5mm、直径が48〜93mmである円形ガラス板であることが好ましい。また、磁気ディスク用ガラス基板等においては、通常その中央に直径が15〜25mmである孔を形成することが好ましい。
【0021】
[基板用ガラス]
(組成)
本発明の製造方法に用いる基板用ガラスはアルカリ成分としてリチウムイオンを含有するガラスである。以下に本発明の製造方法に用いる基板用ガラスの組成の好適なもの(前記8に記載)について説明する。なお、特に断らない限り各成分の含有量はモル百分率で表示する。
【0022】
(1)SiO
SiOは基板用ガラスの骨格を形成する成分であり、必須である。基板用ガラス中のSiOの含有量は、58%以上であることが好ましく、61%以上がより好ましい。また、66%以下であることが好ましい。
【0023】
基板用ガラス中のSiOの含有量が58%未満では、耐酸性もしくは耐候性が低下する、密度(d)が大きくなる、ガラスにキズが付きやすくなる。または、液相温度(T)が上昇しガラスが不安定になる。また、66%超では、溶解温度および粘度が10dPa・sとなる温度(T)が上昇しガラスの溶解、成形が困難となる、ヤング率(E)もしくは比弾性率(E/d)が低下する、またはガラスの−50〜70℃における平均線膨張係数(α)が小さくなる。
【0024】
基板用ガラスの耐酸性をより高めたい場合、基板用ガラス中のSiOの含有量は、62%以上が好ましく、62.5%以上がより好ましく、63.5%以上が特に好ましい。
【0025】
(2)Al
AlはTg、耐候性、ヤング率を高くする効果を有し、さらに化学強化においてイオン交換能を高める成分であり、必須である。ガラス中のAlの含有量は、11%以上が好ましく、12%以上がより好ましい。また、17%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0026】
基板用ガラス中のAlの含有量が11%以下では前記効果が小さくなり、化学強化をしても十分な耐衝撃性が得られなくなるおそれがある。17%超では溶解温度およびTが上昇し基板用ガラスの溶解、成形が困難となり、αが小さくなる、またはTが高くなりすぎるおそれがある。
【0027】
耐酸性をより高めたい場合、基板用ガラス中のAlの含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは14%以下である。耐酸性を特に高めたい場合、基板用ガラス中のSiOの含有量を63.5%以上、Alの含有量を14%以下とすることが好ましい。
【0028】
(3)Li
LiOはE、E/d若しくはαを大きくするとともに、基板用ガラスの溶解性を向上させる効果を有する。さらに、本発明における化学強化の主交換イオンはLiからNaへの交換であるため、必須である。基板用ガラス中のLiOの含有量は、8%以上であることが好ましく、9%以上がより好ましく、10%以上が特に好ましい。また、16%以下であることが好ましく、15%以下がより好ましく、14%以下とすることが特に好ましい。
【0029】
基板用ガラス中のLiOの含有量が8%未満では前記効果が小さい。また、16%超では、耐酸性もしくは耐候性が低下し、またはTgが低くなる。
【0030】
(4)Na
NaOはαを大きくするとともに、基板用ガラスの溶解性を向上させる効果があるため必須である。基板用ガラス中のNaOの含有量は、2%以上であることが好ましく、3%以上がより好ましい。また、9%以下であることが好ましく、7.5%以下がより好ましく、7%以下が特に好ましい。
【0031】
基板用ガラス中のNaOの含有量が2%未満では前記効果が小さい。また、9%超では、化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる、耐酸性もしくは耐候性が低下する、またはTgが低くなるおそれがある。
【0032】
(5)LiO+Na
基板用ガラス中のLiOおよびNaOの含有量の合計は、13%以上であることが好ましく、14%以上がより好ましい。また、21%以下であることが好ましく、20%以下がより好ましい。
【0033】
基板用ガラス中のLiOおよびNaOの含有量の合計が13%未満では、化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる、αが小さくなる、またはガラスの溶解性が低下する。また、21%超ではTgが低くなりすぎ、化学強化処理をしても応力緩和が起こり、強化が残らない、また、耐酸性または耐候性が低下するおそれがある。
【0034】
(6)K
Oはαを大きくする、または基板用ガラスの溶解性を向上させる効果がある。基板用ガラス中のKOの含有量は、2.5%以上とすることが好ましく、3%以上とすることがより好ましい。また、8%以下とすることが好ましく、6%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが特に好ましい。
【0035】
基板用ガラス中のKOの含有量を2.5%未満としてNaOを増加させαを維持しようとすると耐候性が低下する。また、8%超では化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる、耐酸性もしくは耐候性が低下する、またはE若しくはE/dが低下するおそれがある。
【0036】
基板用ガラスがKOを含有する場合、基板用ガラス中のLiOの含有量をLiO、NaOおよびKOの含有量の合計(RO)で除した値が0.4以上であることが好ましく、0.5以上がより好ましい。
【0037】
基板用ガラス中のLiOの含有量をLiO、NaOおよびKOの含有量の合計(RO)で除した値が0.4未満では、化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる、または、溶融塩に浸漬することにより、バルクガラスよりも強度が低下するおそれがある。
【0038】
(7)MgO
MgOは必須ではないが、耐候性を維持したままE、E/dまたはαを大きくし、基板用ガラスを傷つきにくくするとともに、基板用ガラスの溶解性を向上させる効果がある。基板用ガラス中のMgOの含有量は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また、典型的には1%以上とすることが好ましい。基板用ガラス中のMgOの含有量が4%超では化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる、またはTが高くなりすぎる。
【0039】
(8)TiO
TiOは必須ではないが、E、E/dもしくはTgを高くする、または耐候性を高くする効果がある。基板用ガラス中のTiOの含有量は4%以下が好ましく、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。また、0.3%以上が好ましく、0.6%以上がより好ましく、0.8%以上とすることが特に好ましい。基板用ガラス中のTiOの含有量が4%超ではTが高くなりすぎるか、または分相現象が起りやすくなるおそれがある。
【0040】
基板用ガラス中のAl、MgOおよびTiOの含有量の合計は12%以上とすることが好ましい。12%未満では、耐候性を維持したままEまたはE/dを高くすることが困難になるおそれがある。
【0041】
(9)ZrO
ZrOは必須ではないが、化学強化処理を行う際、イオン交換速度を高める効果があり、強化が入りやすくなる、また、耐候性を維持したままEもしくはE/dを大きくする、Tgを高くする、基板用ガラスの溶解性を向上させるなどの効果がある。基板用ガラス中のZrOの含有量は3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。3%超ではdが大きくなり、ガラスにキズが付きやすくなるとともに、Tが高くなりすぎるおそれがある。
【0042】
本発明の製造方法に用いる基板用ガラスの好適なものは本質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。その場合、当該他の成分の含有量の合計は好ましくは5%以下であり、典型的には2%以下とすることが好ましい。
【0043】
たとえば、CaO、SrOまたはBaOは、基板用ガラスの耐候性を維持したままαを大きくするとともに、基板用ガラスの溶解性を向上させるため、合計で5%まで基板用ガラスに含有してもよい。基板用ガラス中のCaO、SrOまたはBaOの含有量が5%超では化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる、dが大きくなる、または基板用ガラスにキズが付きやすくなる。好ましくは合計で2%以下であり、典型的には1%以下とすることが好ましい。
【0044】
また、基板用ガラスは、SO、Cl、As、SbおよびSnO等の清澄剤を合計で2%まで含有してもよい。また、Fe、CoおよびNiOなどの着色剤を合計で2%まで含有してもよい。
【0045】
なお、Bはアルカリ金属酸化物成分と共存すると非常に揮散しやすくなるため、基板用ガラスに含有しないことが好ましく、含有する場合であってもその含有量は1%未満、好ましくは0.5%未満である。
【0046】
(ガラス転移点)
基板用ガラスのガラス転移点(Tg)は510℃以上であることが好ましい。510℃未満では化学強化溶融塩の最適温度に対して小さくなり、応力緩和がおきて、十分な強化が得られなくなるおそれがある。より好ましくは525℃以上である。
【0047】
(平均線膨張係数)
基板用ガラスの−50〜70℃における平均線膨張係数(α)は60×10−7/℃以上であることが好ましく、65×10−7/℃以上がより好ましく、70×10−7/℃以上が特に好ましく、73×10−7/℃以上が最も好ましい。また、典型的には90×10−7/℃以下であることが好ましい。60×10−7/℃未満では、従来使用されている基板用ガラスのαよりも小さく、一方、基板に取り付けられるハブの金属のαは典型的には100×10−7/℃以上であるので、ハブと基板用ガラスのαの差が大きくなり基板用ガラスが割れやすくなるおそれがある。
【0048】
(粘度)
基板用ガラスは、その粘度が10dPa・sとなる温度(T)と液相温度(T)との差ΔT(=T−T)が−70℃以上であることが好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上が特に好ましく、20℃以上が最も好ましい。−70℃未満ではガラス板への成形が困難になるおそれがある。また、0℃未満ではフロート成形が困難になるおそれがある。。
【0049】
(密度)
基板用ガラスの密度は2.6g/cm以下であることが好ましく、2.5g/cm以下がより好ましい。2.6g/cm超ではデータ記録媒体の軽量化が困難になる、記録媒体の駆動に要する消費電力が増大する、ディスク回転時に風損の影響を受けて振動し読み取りエラーが起きやすくなるおそれがある、または、記録媒体が衝撃を受けた際に基板がたわみやすくなって応力が発生し割れやすくなるおそれがある。
【0050】
(ヤング率)
基板用ガラスのヤング率は75〜90GPaであることが好ましく、78GPa以上がより好ましく、80GPa以上が最も好ましい。また、典型的には87GPa以下である。ガラスのヤング率が75GPa未満ではディスク回転時に風損の影響を受けて振動し読み取りエラーが起きやすくなるおそれがある、または、記録媒体が衝撃を受けた際に基板がたわみやすくなって応力が発生し割れやすくなるおそれがある。90GPa超では研磨レートが低下するおそれがある、または、局所的な応力が発生して割れが生じやすくなるおそれがある。
【0051】
[化学強化処理工程]
(混合溶融塩)
本発明の製造方法における化学強化処理工程で用いる混合溶融塩の組成について以下に説明する。なお、特に断らない限り各成分の含有量は質量百分率で表示する。
【0052】
(1)硝酸リチウム
硝酸リチウムは、溶融塩中でのLiがイオン交換の際、ガラス表層の強化圧縮層における面内分布を均一にする効果を有し、化学強化処理後のガラスの形状変化を抑制する働きをするため必須である。混合溶融塩における硝酸リチウムの含有量は、1%以上であり、2%以上が好ましい。また、6%以下であり、4%以下がより好ましい。
【0053】
混合溶融塩における硝酸リチウムの含有量が1%未満では、前記効果が小さくなる。また、6%超では、逆に基板用ガラス中のNaやKがLiとの交換を促進され、強化されにくくなるおそれがある。また、基板用ガラス表層が圧縮層ではなく引張り層になり、バルクガラスよりも強度が小さくなるおそれがある。
【0054】
(2)硝酸ナトリウム
硝酸ナトリウムは、本発明のガラス基板の製造方法において、混合溶融塩中でのNaがガラス中のLiとイオン交換されることにより主たる強化が発現されるため必須である。混合溶融塩における硝酸ナトリウムの含有量は28%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。また、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましい。
【0055】
混合溶融塩における硝酸ナトリウムの含有量が28%未満では、化学強化されにくくなるとともに、混合溶融塩の融点が上がり、混合溶融塩の取り扱いが困難になるおそれがある。また、55%超では、混合溶融塩の融点が上がり、溶融塩の取り扱いが困難になるおそれがある、または、化学強化処理後のガラスの形状変化が大きくなるおそれがある。
【0056】
(3)硝酸カリウム
本発明のガラス基板の製造方法において、硝酸カリウムは、混合溶融塩中でのKがガラス中のLiやNaとイオン交換される速度が前記LiとNaのイオン交換に比べ遅いため、主たる強化イオンではないが、凝固点降下により、混合溶融塩の融点を下げ、かつ硝酸リチウムのように、含有量を多くしすぎると強化されにくくなるということがないため必須である。混合溶融塩における硝酸カリウムの含有量は40%以上が好ましく、43%以上がより好ましい。また、69%以下が好ましく、65%以下がより好ましい。
【0057】
混合溶融塩における硝酸カリウムの含有量が40%未満では、混合溶融塩の融点が上がり、溶融塩の取り扱いが困難になるおそれがある。また、69%超では、混合溶融塩の融点が上がり、溶融塩の取り扱いが困難になるおそれがあるとともに、化学強化されにくくなる。
【0058】
本発明の製造方法に用いる混合溶融塩は本質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、たとえば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウムおよび硫酸バリウム等のアルカリ硫酸塩、アルカリ塩化塩、アルカリ土類硫酸塩、並びにアルカリ土類塩化塩などが挙げられる。
【0059】
これらのその他の成分の混合溶融塩における含有量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。当該範囲内であれば、その他の成分は、溶融混合塩の溶解中における揮散を防ぐ効果がある。また、5%超では化学強化処理を行う際、強化が入りにくくなる。
【0060】
本発明の製造方法に用いる混合溶融塩の融点は250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましい。混合溶融塩の融点が250℃より大きいと、化学強化処理後に基板用ガラスを引き上げる際、付着した溶融塩が凝固して基板用ガラスの表面に応力を発生させ、後述するデータ記憶媒体用ガラスディスクの平坦度、算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)を大きくするおそれがある。
【0061】
(化学強化処理の条件)
化学強化処理とは、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬し、該基板用ガラスの表面及び裏面に圧縮層を形成する処理である。本発明の製造方法において、化学強化処理の処理条件は、特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択することができる。
【0062】
(1)混合溶融塩の加熱温度および浸漬時間
混合溶融塩の加熱温度および基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する時間は、それぞれ325℃以上475℃以下、30分間以下であり、かつ以下の式で表される値(CSC)が3200以上4500以下を満足することが必須である。尚、Tは処理温度(単位:K)、tは処理時間(単位:秒)である。
CSC=T×log(t
【0063】
混合溶融塩の加熱温度が325℃未満では、イオン交換速度が遅くなり、短時間で強化が入りにくくなるおそれがある。また、475℃超では後述するデータ記憶媒体用ガラスディスクの平坦度、算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)が化学強化処理により大きくなるおそれがある。
【0064】
また、混合溶融塩の加熱温度の上限は、本発明の製造方法に用いるガラスの(Tg−100)℃未満であることが好ましい。(Tg−100)℃よりも高いと、応力緩和により、イオン交換は生じてもガラスに十分な強化が入らなくなるおそれがある。
【0065】
基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する時間は、30分間以下が好ましい。30分間超では、前記処理温度範囲内において、後述するデータ記憶媒体用ガラスディスクの平坦度、算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)が化学強化処理により大きくなるおそれがある、または、製造プロセスにおけるタクトが低下して、コストを圧迫するおそれがある。
【0066】
また、CSCの値が1900未満では、処理温度と処理時間のバランスが悪く、ガラスに十分な強化が入らなくなるおそれがある。好ましくは、2000以上、より好ましくは2200以上である。2900超では、処理温度に対する処理時間が長すぎて、後述するデータ記憶媒体用ガラスディスクの平坦度、算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)が化学強化処理により大きくなるおそれがある。好ましくは2800以下である。
【0067】
また、混合溶融塩の加熱温度および基板用ガラスを混合溶融塩に接触させる時間は、以下の(I)および(II)のいずれか1としてもよい。
(I)325℃以上425℃未満に加熱した混合溶融塩に基板用ガラスを5〜30分間浸漬する。
(II)425℃以上475℃以下に加熱した混合溶融塩に基板用ガラスを3〜20分間浸漬する。
【0068】
なお、本発明の製造方法では、化学強化処理化工程において、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する工程は、1つの工程に限られることが好ましい。
【0069】
(2)混合溶融塩の予熱温度
基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する前に、基板用ガラスの温度が混合溶融塩の融点以上の温度となるように、基板用ガラスを予熱しておくことが好ましい。これは、混合溶融塩に浸漬する際のガラス表面における溶融塩の凝固を防ぎ、イオン交換速度の低下や、強化層のガラス面内分布が不均一になることを抑制するためである。
【0070】
混合溶融塩の予熱温度は400℃未満であることが好ましく、350℃以下がより好ましい。400℃以上では、予熱時に残留応力の影響や、サンプルホルダーとの接触箇所などにおけるガラス面内温度の不均一により、形状が変化してしまうおそれがある。
【0071】
(3)基板用ガラスの冷却
基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する工程の後に徐冷工程を経ずに、30秒から2分待機させて基板用ガラスの温度が300℃以下になった後に、ガラスを冷媒に接触させて急冷することが好ましい。基板用ガラスの冷却速度は、100℃/分以上が好ましい。また、4000℃/分以下が好ましく、3000℃/分以下がより好ましい。
【0072】
基板用ガラスの冷却速度が100℃/分未満であると、冷却過程においても基板用ガラス上に付着した溶融塩によって、その接触箇所のみイオン交換が進行し、強化層のガラス面内分布が不均一になるため、後述するデータ記憶媒体用ガラスディスクの平坦度、算術平均うねり(Wa)が大きくなるおそれがある。
【0073】
また、基板用ガラスの冷却速度が4000℃/分超であると算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)が大きくなるおそれがある。また、待機を経ずに冷媒と接触させて急冷するとヒートショックにより基板用ガラスが割れる可能性がある。さらに、算術平均うねり(Wa)、算術平均粗さ(Ra)が大きくなるおそれがある。
【0074】
また、本発明の製造方法においては、化学強化処理工程後に、基板用ガラスを再研磨しないことが好ましい。本発明の製造方法によれば、化学強化処理工程後に基板用ガラスを再研磨しなくても、基板用ガラスの形状が十分に安定しているためである。
【0075】
(化学強化処理を施した基板用ガラスおよびガラスディスクの特性)
次に、上記化学強化処理を施した基板用ガラス、および該基板用ガラスから成形されるガラスディスクの特性について説明する。
【0076】
(1)破壊靱性値K
化学強化処理を施した基板用ガラスは、JISR1607準拠、IF法により測定した破壊靱性値Kの値が1.2MPa・m1/2以上であることが好ましく、1.4MPa・m1/2以上がより好ましく、1.6MPa・m1/2以上が特に好ましい。基板用ガラスのKが1.2MPa・m1/2未満では十分な耐衝撃性が得られないおそれがある。
【0077】
(2)K/Kbulk
化学強化処理を施した基板用ガラスは、化学強化処理前にIF法により測定した破壊靱性値Kbulkで除した値K/Kbulkが、1.2以上であることが好ましく、1.5以上が好ましく、2.0以上が特に好ましい。基板用ガラスのK/Kbulkが1.2未満であれば化学強化処理を施す意味が問われる。
【0078】
(3)平坦度
化学強化処理を施した基板用ガラスの平坦度は3μm以下であることが好ましい。ここで平坦度とは、例えば2.5インチディスクの場合、ディスク中心から半径13から32.5mm間における全エリアのPeak−Valley値をいう。データ記憶媒体用ガラスディスクの平坦度が3μm超ではディスク回転時の振動振幅が大きくなるおそれがある。
【0079】
(4)算術平均うねり(Wa)
化学強化処理を施した基板用ガラスのの算術平均うねり(Wa)は0.6nm以下であることが好ましく、0.5nm以下がより好ましい。ここでWaとは、例えば2.5インチディスクの場合、ディスク中心から半径16mm〜28mm間の面のカットオフ値0.4〜5mm間の算術平均うねりをいう。データ記憶媒体用ガラスディスクのWaが0.6nm超ではヘッドクラッシュを起こすおそれがある。
【0080】
(5)算術平均粗さ(Ra)
化学強化処理を施した基板用ガラスの算術平均粗さ(Ra)は0.15nm以下であることが好ましく、0.14nm以下がより好ましく、0.12nm以下が特に好ましい。ここでRaとは、10μm×10μmのエリアの算術平均粗さをいう。データ記憶媒体用ガラスディスクのRaが0.15nm超では、ヘッドクラッシュを起こすおそれがある、または、磁性膜を製膜する際、結晶の配向性制御がしにくくなるおそれがある。
【0081】
[データ記憶媒体]
本発明のデータ記憶媒体においては、本発明のデータ記憶媒体用ガラス基板の主表面に少なくとも磁気記録層たる磁性層が形成されており、その他に必要に応じて下地層、保護層、潤滑層および凹凸制御層などが形成される場合がある。
【0082】
磁性層としては、例えば、Co−Cr系、Co−Cr−Pt系、Co−Ni−Cr系、Co−Ni−Cr−Pt系、Co−Ni−Pt系およびCo−Cr−Ta系などのCo系合金が挙げられる。
【0083】
耐久性や磁気特性を向上するために、磁性層の下に設けられる下地層としては、例えば、Ni層、Ni−P層、Cr層およびSiO2層などが挙げられる。Cr層、Cr合金層および他の材料からなる金属または合金層を、磁性層の上または下に設けてもよい。
【0084】
保護層としては、例えば、50〜1000Åの厚みのカーボンまたはシリカの層が挙げられる。また、潤滑層を形成するためには、例えば、30Å程度の厚みのパーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤が使用できる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
[基板用ガラス]
表1および2に用いた基板用ガラス1〜16の組成を示す。
【0086】
表1の基板用ガラス1〜3は、フロート法により得られたガラス板を用いた。
【0087】
表1の基板用ガラス1〜3については、内径20mm、外径65mmのディスク状に切り出し、ラッピング工程、酸化セリウムによる研磨工程の後、最後にコロイダルシリカによる最終研磨工程、洗浄工程を経て、厚みが0.635mm、平坦度が3μm以下、Waが0.60nm以下、Raが0.15nm以下の2.5インチディスクをKbulk(単位:MPa・m1/2)及び化学強化処理用サンプルとして用いた。表1中の「Disk」は、このように調製したサンプルを示す。
【0088】
表1および2の基板用ガラス4〜16は、SiOからKOまでの欄にモル百分率表示で示す組成となるように、原料を調合して混合し、白金るつぼを用いて1550〜1650℃の温度で3〜5時間溶解した。次いで溶融ガラスを流し出して板状に成形し、徐冷して基板用ガラスを調製した。
【0089】
表1および2の基板用ガラス4〜16については、厚さが0.8〜1mm、大きさが4cm×4cmのガラス板の両面を酸化セリウムで鏡面研磨し、炭酸カルシウムおよび中性洗剤を用いて洗浄したものをKbulk及び化学強化処理用サンプルとして用いた。表1および2中の「Plate」は、このように調製したサンプルを示す。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
[混合溶融塩]
表3および表4に化学強化処理に用いた混合溶融塩1〜17の組成を示す。表3および4の混合溶融塩1〜17について、硝酸リチウムから硝酸カリウムまでの欄に質量百分率表示で示す組成となるように、原料を1〜2kg調合して混合し、SUS製容器を用いて450℃で溶解、撹拌した後、所定の処理温度で保持、温度が安定したところで化学強化を行った。また、融点(M.P)の測定は、前記化学強化用混合溶融塩の一部を凝固させたものを粉砕し、粉体にして示差走査熱量測定(DSC)により測定した。なお、表3および4中の「−」は測定しなかったことを示す。
【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
[評価方法]
基板用ガラスについて、Tg(単位:℃)、α(単位:×10−7/℃)、密度d(単位:g/cm)、ヤング率E(単位:GPa)、比弾性率E/d(単位:MNm/kg)、粘度が10Pとなる温度T(単位:℃)、液相温度T(単位:℃)、Kbulk(単位:MPa・m1/2)を以下に示す方法により測定または評価した。
【0096】
(1)ガラス転移点(Tg)(単位:℃)
示差熱膨張計を用いて、石英ガラスを参照試料として室温から5℃/分の割合で昇温した際のガラスの伸び率を、ガラスが軟化してもはや伸びが観測されなくなる温度、すなわち屈伏点まで測定し、熱膨張曲線における屈曲点に相当する温度をガラス転移点とした。
【0097】
(2)平均線膨張係数(α)(単位:×10−7/℃)
液体窒素を用い、−150℃近傍まで試料温度を下げた後、前記Tgの測定と同様な測定方法で得られた熱膨張曲線から−50〜70℃における平均線膨張係数を算出した。
【0098】
(3)密度(d)(単位:g/cm
アルキメデス法により測定した。
【0099】
(4)ヤング率(E)(単位:GPa)
厚さが4〜10mm、大きさが約4cm×4cmのガラス板について、超音波パルス法により測定した。
【0100】
(5)粘度が10Pとなる温度(T)(単位:℃)
粘度が10Pとなる温度を回転粘度計により測定し、Tとした。
【0101】
(6)液相温度(T)(単位:℃)
:約1cm×1cm×0.8cmのガラス片を白金皿に置き、960〜1200℃の温度範囲で20℃刻みに設定された電気炉中に3時間熱処理した。そのガラスを大気放冷後、顕微鏡で観察し、結晶が析出している温度範囲を液相温度とした。
【0102】
(7)破壊靱性値(Kbulk)(単位:MPa・m1/2
前記サンプルを用い、JISR1607準拠のIF法により破壊靱性値を求めた。すなわち、ビッカース硬度計を用い、押し込み荷重5kgf、保持時間15秒で圧痕を導入し、圧痕の対角線長さとき裂長さを15秒待機後に試験機付属の顕微鏡を用いて測定することを10回繰り返し、以下の式より得た。
=0.026×(E×P)1/2×a×c−3/2
ここで、Eはヤング率で前記方法で測定した値を用いた。また、Pは押し込み荷重、aは圧痕の対角線長さの平均の半分、き裂長さの平均の半分である。
【0103】
また、化学強化処理を施した基板用ガラスについて、K(単位:MPa・m1/2)、平坦度(単位:μm)、Wa(単位:nm)、Ra(単位:nm)を以下に示す方法により測定または評価した。
(8)平坦度(単位:μm)(単位:nm)
ディスク中心から半径13から32.5mm間における全エリアのPeak−Valley値をOptiflatを用いて測定した。
【0104】
(9)算術平均うねり(Wa)(単位:nm)
ガラスディスクのWaは、ディスク中心から半径16mm〜28mm間の面のカットオフ値0.4〜5mm間の算術平均うねりをOptiflatを用いて測定した。
【0105】
(10)算術平均粗さ(Ra)(単位:nm)
10μm×10μmのエリアの算術平均粗さを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。
【0106】
[参考例1]
【0107】
一般的に用いられる硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの共晶点近傍組成である、表3に示す組成の混合溶融塩3に、表1および2に示す組成の基板用ガラス1〜16を、400℃にて0.5時間浸漬して、化学強化処理した。
【0108】
化学強化処理を施した基板用ガラスの特性を評価した結果を表5および6に示す。表4および5において、例1〜16は参考例である。なお、表5および6中の「−」は測定しなかったことを示す。また、表5および6において、( )内は推定値を示す。
【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
表5および6に示したように、LiOを含有しない基板用ガラス3は、化学強化処理を施した結果、Kの値が、LiOを含有する基板用ガラスと比較して低く、化学強化されにくいことがわかった。また、酸化物基準のモル%表示でSiOを58〜66%、Alを11〜17%、MgOを0〜4%、LiOを8〜16%、NaOを2〜9%含有し、LiO+NaOが13〜21%であって、LiOの含有量(酸化物基準のモル%)をLiO、NaOおよびKOの含有量の合計で除した値が0.4以上という条件を満たしている基板用ガラス1、2、5、10、11、14は、当該条件を満たしていない例3、4、6〜9、12、13、15と比較して、Kの値が高かった。また、当該条件を満たしている例16は例9、12、15と同程度のKの値を示した。これらの結果から、当該条件を満たしている基板用ガラスは、化学強化しやすいことがわかった。
【0112】
[実施例1]
表1の基板用ガラス1を、表7〜9に示す条件で化学強化処理を行った。なお、予熱は表記載の温度で10分間行い、「−」は予熱しなかったことを示す。冷却条件は冷却開始温度、冷媒温度(水、温水など)、及び必要に応じて徐冷炉を用いることにより制御した。その後、化学強化処理を施した基板用ガラスおよびガラスディスク特性を評価した。その結果を表7〜9に示す。表7および8の例1〜14は参考例、表9の例15〜17、21は比較例、例18〜20は実施例である。なお、表7〜9中の「−」は測定しなかったことを示す。
【0113】
【表7】

【0114】
【表8】

【0115】
【表9】

【0116】
表7および8に示すように、硝酸リチウムを1〜6質量%含有する混合溶融塩6〜9を用いて化学強化処理した例6〜9は、例1〜5、10〜14と比較して、KまたはWaの値が良好であった。
【0117】
また、表9に示すように、硝酸リチウムを1〜6質量%含有する混合溶融塩6、10または11を用いて化学強化処理した例18〜20は、例15〜17および21と比較して、KまたはWaの値が良好であった。
【0118】
これらの結果から、リチウムイオンを含有する基板用ガラスの化学強化処理には、硝酸リチウムを1〜6質量%含有する混合溶融塩が適していることがわかった。
【0119】
[実施例2]
表10〜13に示す条件で、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する温度を350〜450℃の間で、浸漬時間を3〜120分間の間で変化させて化学強化処理した。なお、予熱は表記載の温度で10分間行い、「−」は予熱しなかったことを示す。冷却条件は、冷却開始温度、冷媒温度(水、温水など)、及び必要に応じて徐冷炉を用いることにより制御した。
【0120】
化学強化処理を施した基板用ガラスの特性を評価した結果を表10〜13に示す。なお、表10〜13中の「−」は測定しなかったことを示す。表10〜13の例1〜5、9、11〜20、24〜28は実施例、例6〜8、10、21〜23、29〜32は比較例である。
【0121】
【表10】

【0122】
【表11】

【0123】
【表12】

【0124】
【表13】

【0125】
表10〜13に示すように、CSCの値が1900未満の化学強化処理温度と時間の条件である例8、10は、Kの値が1.2以下であった。一方で処理時間が3分、温度が450℃の例26は、処理時間が短くてもCSCの値は2000超であり、十分な強化がされていた。
【0126】
表10〜13に示すように、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する時間が30分間超の例6、7、21〜23、29〜32はWaの値が、例1〜5、13、14、16〜20、25、27、28と比較して高かった。また、30分間以下でも、CSCの値が2900超の例29、30は、Waの値が、例1〜5、13、14、16〜20、25、27、28と比較して高かった。
【0127】
表13に示すように、化学強化処理温度が450℃、混合溶融塩が例6の例25、29、31の平坦度の値は、同じ処理温度で混合溶融塩の硝酸リチウム含有量の高い例7の混合溶融塩で処理した例27、28、30、32と比較して高かった。これらの結果から、平坦度は、処理温度と混合溶融塩中の硝酸リチウムの含有量に相関があることがわかった。
【0128】
表11および12に示すように、例23のRaは、例23より処理時間の短い例14、19、22と比較して高かった。この結果から、Raは処理時間に相関があることがわかった。
【0129】
これらの結果から、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する処理温度と処理時間に対して平坦度、Wa、Raの中で最も敏感なのはWaであることがわかった。また、Waの値は、処理温度が325℃以上475℃以下の範囲内で、処理時間が30分間以下、かつCSCの値が2900以下であれば、化学強化処理後の基板用ガラスのWaは0.6nm以下に抑えられることがわかった。
【0130】
したがって、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する処理温度が325℃以上475℃以下の範囲内で、処理時間が30分間以下、かつCSCの値が1900〜2900の間であれば、強化が十分であり、形状も安定化することがわかった。
【0131】
[実施例3]
表14に示す条件で、基板用ガラス1を混合溶融塩7を用いて化学強化した後、徐冷・急冷した。なお、予熱は表記載の温度で10分間行い、「−」は予熱しなかったことを示す。冷却条件は、冷却開始温度、冷媒温度(水、温水など)、及び必要に応じて徐冷炉を用いることにより制御した。
【0132】
化学強化処理を施した基板用ガラスの特性を評価した結果を表14に示す。表14の例1〜11は実施例である。
【0133】
【表14】

【0134】
表14に示すように、混合溶融塩を予熱しないで化学強化処理した例1に対し、予熱した混合溶融塩を用いた例2はKが高かった。また、400℃で予熱した混合溶融塩を用いた例3は、300℃で予熱した混合溶融塩を用いた例2に対して平坦度の値が高かった。これらの結果から、予熱した混合溶融塩を用いて化学強化処理することによりKが向上し、予熱温度を400℃未満とすることにより、基板用ガラスの形状が安定化することがわかった。
【0135】
また、例3〜5の結果から、化学強化処理後に基板用ガラスを急冷させると基板用ガラスの形状が安定化することがわかった。さらに、例5〜11の結果から、基板用ガラスの冷却速度が4000℃/分超であると、WaとRaの値が高くなることがわかった。
【0136】
[実施例4]
表15および16に示すように基板用ガラスと混合溶融塩を組み合わせて化学強化処理した。なお、冷却条件は、冷却開始温度、冷媒温度(水、温水など)、及び必要に応じて徐冷炉を用いることにより制御した。
【0137】
化学強化処理を施した基板用ガラスの特性を評価した結果を表15および16に示す。なお、表15および16中の「−」は測定しなかったことを示す。表15および16の例5〜18は実施例、例1〜4は比較例である。Kの欄における「×」は、化学強化中もしくは洗浄中に表層に引張り層が形成されたことにより自壊し、測定できなかったことを示す。
【0138】
【表15】

【0139】
【表16】

【0140】
表15に示すように、LiOを含有する基板用ガラス5を用いた例6はKの値が1.2以上であったのに対し、LiOを含有しない基板用ガラス3を用いた例4は、化学強化中もしくは洗浄中に表層に引張り層が形成されたことにより自壊し、測定できなかった。また、LiOの含有量が酸化物基準のモル%表示で8%未満である基板用ガラスを用いた例7〜10は、LiOを9%含有する基板用ガラスを用いた例11と比較してKの値が低いか、測定不能であった。これは、本発明の強化発現が、LiとNaのイオン交換に起因しているからである。これらの結果から、基板用ガラスにおけるLiOの含有量は、酸化物基準のモル%表示で8%以上が好ましいことが分かった。
【0141】
また、LiOの含有量(酸化物基準のモル%)をLiO、NaOおよびKOの含有量の合計(RO)で除した値が0.4未満である基板用ガラス6〜9を用いた例7〜10は、当該値が0.4以上である基板用ガラス10を用いた例11と比較してKの値が低かった。これは、本発明の強化発現が、LiとNaのイオン交換に起因しているからである。基板用ガラス中のNa及びKの含有量が多いと前記イオン交換が妨げられ、逆に基板用ガラス中にLiが入ることにより、強度の低下を招く。この結果から、基板用ガラスのLiOの含有量(酸化物基準のモル%)をLiO、NaOおよびKOの含有量の合計(RO)で除した値は0.4以上が好ましいことが分かった。
【0142】
さらに、Alの含有量が酸化物基準のモル%表示で11%未満である基板用ガラス4および12を用いた例5および14は、Alの含有量が11%以上である基板用ガラス11を用いた例12と比較してKの値が低かった。これは、Alがイオン交換速度を速める効果があるからである。この結果から、基板用ガラスにおけるAlの含有量は、酸化物基準のモル%表示で11%以上が好ましいことが分かった。
【0143】
また、SiOの含有量が酸化物基準のモル%表示で58%未満である基板用ガラス13を用いた例15は、SiOの含有量が58%以上である基板用ガラス14を用いた例16と比較して、Kの値が低かった。これは、LiO+NaOの含有量合計に対してSiOの含有量が減ることにより、Tgが下がり、イオン交換しても応力緩和により、十分な強化が得られないからである。この結果から、基板用ガラスにおけるSiOの含有量は、酸化物基準のモル%表示で58%以上が好ましいことが分かった。
【0144】
また、MgOの含有量が酸化物基準のモル%表示で4%超である基板用ガラス15を用いた例17は、MgOの含有量が4%以下である基板用ガラス5を用いた例6と比較して、Kの値が低かった。これは、MgOがガラス中のアルカリ成分の移動を妨げるため、イオン交換速度が低下し、十分な強化が得られないからである。この結果から、基板用ガラスにおけるMgOの含有量は、酸化物基準のモル%表示で4%以下が好ましいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬し、該基板用ガラスの表面及び裏面に圧縮層を形成する化学強化処理工程を含むデータ記憶媒体用ガラス基板の製造方法であって、
基板用ガラスがアルカリ成分としてリチウムイオンを含有し、
混合溶融塩が硝酸ナトリウム、硝酸カリウムおよび質量百分率表示で硝酸リチウムを1〜6%含有し、基板用ガラスを混合溶融塩に、325℃以上475℃以下の処理温度にて30分間以下の処理時間で浸漬し、かつ以下の式を満足する、データ記憶媒体用ガラス基板の製造方法。尚、Tは処理温度(単位:K)、tは処理時間(単位:秒)である。
1900≦T×log(t)≦2900
【請求項2】
化学強化処理を施した基板用ガラスのJISR1607準拠、IF法により測定した破壊靱性値Kの値が1.2MPa・m1/2以上である請求項1記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶融塩が、質量百分率表示で、硝酸ナトリウムを28〜55%、硝酸カリウムを40〜69%含有し、混合溶融塩の融点が250℃以下である請求項1または2記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記化学強化処理工程において、基板用ガラスを混合溶融塩に浸漬する工程が1つに限られることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記化学強化処理工程において、混合溶融塩に浸漬する基板用ガラスの温度が、混合溶融塩の融点以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記化学強化処理工程において、ガラス基板を混合溶融塩に浸漬した後に徐冷せずに、基板用ガラスの温度が300℃以下となった後に、100℃/分以上の冷却速度でガラス基板を冷媒に接触させて急冷させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記化学強化処理工程後に、基板用ガラスを再研磨しないことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板用ガラスが、酸化物基準のモル%表示で、SiOを58〜66%、Alを11〜17%、MgOを0〜4%、LiOを8〜16%、NaOを2〜9%含有し、LiO+NaOが13〜21%である請求項1〜7のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス基板が、におけるLiOの含有量(酸化物基準のモル%)をLiO、NaOおよびKOの含有量の合計で除した値が0.4以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記化学強化処理を施した基板用ガラスから成形される記憶媒体用ガラスディスクの平坦度が3μm以下、2.5インチディスクの中心から平均16〜28mm間の面のカットオフ値0.4〜5mm間の算術平均うねり(Wa)が0.6nm以下、および算術平均粗さ(Ra)が0.15nm以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の記憶媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたデータ記憶媒体用ガラス基板。
【請求項12】
請求項11に記載のデータ記憶媒体用ガラス基板の上に、磁気記録層が形成されているデータ記憶媒体。

【公開番号】特開2011−134367(P2011−134367A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290872(P2009−290872)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】