トグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法
【課題】 トグル式の型締装置の能力にマッチングした最適なセッティングを行うことにより、トグル式射出成形機であっても樹脂の自然圧縮を可能にし、成形品の高度の品質及び均質性を確保する成形方法を可能にする。
【解決手段】 電動駆動部8によりトグルリンク機構7を介して金型2の開閉を行う型締装置Mcを備えるトグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定のパーティング開量Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる成形型締力Fcと成形射出圧力Piを設定する。
【解決手段】 電動駆動部8によりトグルリンク機構7を介して金型2の開閉を行う型締装置Mcを備えるトグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定のパーティング開量Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる成形型締力Fcと成形射出圧力Piを設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動駆動部によりトグルリンク機構を介して金型に対する型締めを行う型締装置を備えるトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出圧縮成形法などの成形原理が基本的に異なる成形法を除く通常の射出成形方法では、金型に高圧の型締力を付加して型締を行うことがいわば常識的な成形法になっているが、一方において、二酸化炭素の排出削減や資源節約等の地球環境保護の観点から、射出成形機等の産業機械には、省エネルギ化が要請されている。
【0003】
そこで、このような要請に応えるため、本出願人は、既に、特許文献1により、型開閉装置に支持された固定型と可動型を有する金型に射出装置から溶融樹脂を射出充填して射出成形を行うに際し、予め、射出成形時に溶融樹脂が侵入しない固定型と可動型間の隙間(設定間隔)を設定し、成形時に、設定間隔に基づく隙間を空けた状態で金型を閉じ、この金型に射出装置から溶融樹脂を射出充填するとともに、少なくとも射出充填中は設定間隔が固定されるように可動型に対する位置制御を行うようにした射出成形方法を提案した。この射出成形方法によれば、金型に対する圧力は、必要な時に必要な量だけ付加されるため、二酸化炭素の排出削減や資源節約等の地球環境保護の観点からの省エネルギ化の要請に応えることができるとともに、成形時における金型内のガス抜きを確実かつ安定に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−118349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1の射出成形方法をはじめ、従来における射出成形機の成形方法は、次のような解決すべき課題が存在した。
【0006】
第一に、基本的には、型締装置の型締条件を固定条件として設定し、これに基づいて、射出装置の射出条件を設定するため、射出条件を正確かつ的確に設定した場合であっても、金型に充填された樹脂は、金型や型締機構における温度変動等の影響を受けるとともに、最終的な成形品の品質及び均質性も影響を受ける。特に、温度や圧力等に敏感に影響を受けやすい特性を有する樹脂の場合には、この問題が大きくなり、高度の成形品質を確保する観点からは更なる改善の余地があった。
【0007】
第二に、成形条件は、主に射出装置側で設定するため、射出速度,速度切換位置,速度圧力切換位置,射出圧力,保圧力等の正確性の要求される射出条件をはじめ、正確な計量が要求される計量値等の計量条件を含む各種成形条件を設定する必要がある。したがって、成形条件に対する設定作業が容易でないとともに、成形時における動作制御も煩雑化する。しかも、通常、射出速度に対する多段の制御や保圧に対する制御などの一連の制御が行われるため、成形サイクル時間が長くなる傾向があり、成形サイクル時間の短縮化、更には量産性を高めるには限界があった。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るトグル式射出成形機のセッティング方法は、上述した課題を解決するため、金型2の一方の固定型2cを支持する固定盤3と圧受盤4間に架設したタイバー5…に、金型2の他方の可動型2mを支持する可動盤6をスライド自在に装填するとともに、圧受盤4と可動盤6間にトグルリンク機構7を配設し、圧受盤4に設けた電動駆動部8によりトグルリンク機構7を介して金型2に対する型締めを行う型締装置Mcを備えるトグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間(パーティング開量)Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)Fcsと射出圧力(成形射出圧力)Pisを設定するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るトグル式射出成形機の成形方法は、上述した課題を解決するため、金型2の一方の固定型2cを支持する固定盤3と圧受盤4間に架設したタイバー5…に、金型2の他方の可動型2mを支持する可動盤6をスライド自在に装填し、かつ圧受盤4と可動盤6間にトグルリンク機構7を配設するとともに、圧受盤4に設けた電動駆動部8によりトグルリンク機構7を駆動して金型2に対する型締めを行う型締装置Mcを備えるトグル式射出成形機Mにより成形を行うに際し、予め、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定のパーティング開量Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)Fcsと射出圧力(成形射出圧力)Pisを設定し、生産時に、成形型締力Fcsにより型締装置Mcを型締し、かつ成形射出圧力Pisをリミット圧力Psとして設定し、射出装置Miを駆動して金型2に対する樹脂Rの射出充填を行った後、所定の冷却時間Zcの経過後に成形品Gの取出しを行うようにしたことを特徴とする。
【0011】
一方、本発明は、好適な実施の態様により、電動駆動部8は、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する駆動モータ12を備えて構成できる。なお、型位置Xcは、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs付近となるように型厚調整することが望ましい。また、型位置Xcは、予め設定した、型締力Fc,定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式(100)により算出してもよいし、或いは、電動駆動部8の定格トルクTs又はこの定格トルクTsよりも低い値を目標トルクTtとして設定するとともに、型位置Xcを段階的に変化させ、各型位置Xc…における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置Xc…毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクTsが目標トルクTtに達したなら、このときの型位置Xcよりも手前の段階における型位置Xcを用いてもよい。
【発明の効果】
【0012】
このような手法による本発明に係るトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) トグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定のパーティング開量Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを設定するようにしたため、トグル式射出成形機Mであっても油圧式射出成形機と同様の作用、即ち、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisとの相対的な力関係により、金型2への樹脂Rの充填時に可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用、及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用、の双方を実現できるとともに、トグル式の型締装置Mcの能力にマッチングした最適なセッティングを行うことができる。これにより、特に、ヒケの発生しない良好な平坦性(平面性)、更には、成形品の高度の品質及び均質性を確保できる。
【0014】
(2) 成形に際しては、成形射出圧力Pisと成形型締力Fcsを設定すれば足りるため、相互に影響し合う、射出速度,速度切換位置,速度圧力切換位置,射出圧力,保圧力等の正確性の要求される射出条件をはじめ、正確な計量が要求される計量値等の計量条件を含む各種成形条件の設定は不要となる。したがって、成形条件のシンプル化及び設定容易化、更には品質管理の容易化を図ることができるとともに、生産時における動作制御も容易に行うことができる。しかも、射出速度に対する多段の制御や保圧に対する制御などの一連の制御が不要となるなど、成形サイクル時間の短縮を図れるとともに、量産性及び経済性を高めることができるという成形に伴う基本的な効果を得ることができる。このため、この成形方法は、特に、温度や圧力等に敏感に影響を受けやすい特性を有する低粘性の樹脂Rの成形に最適となる。
【0015】
(3) 好適な態様により、電動駆動部8を、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する駆動モータ12を備えて構成すれば、基本的かつ汎用的な形態を有する電動駆動部8故に、本発明に係るセッティング方法及び成形方法を容易かつ確実に適用できる
【0016】
(4) 好適な態様により、型位置Xcを、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs付近となるように型厚調整すれば、過負荷を回避しつつトグルリンク機構7の屈曲量を最大にできるため、成形時において、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用を良好に実現する観点から最も大きなパフォーマンスを得ることができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、型位置Xcを、予め設定した、型締力Fc,定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式(100)により算出するようにすれば、定格トルクTs及び係数(パラメータK1,K2)は既知となるため、必要とする望ましい型位置Xcは、オペレータが目標の型締力Fcを入力するのみで、容易かつ速やかに得れるとともに、型厚調整機構の利用により自動で設定可能となる。
【0018】
(6) 好適な態様により、型位置Xcとして、電動駆動部8の定格トルクTs又はこの定格トルクTsよりも低い値を目標トルクTtとして設定するとともに、型位置Xcを段階的に変化させ、各型位置Xc…における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置Xc…毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクTsが目標トルクTtに達したなら、このときの型位置Xcよりも手前の段階における型位置Xcを用いるようにすれば、使用するトグル式射出成形機Mにとっての最適な型位置Xcをその都度得れるため、的確な型位置Xcを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適実施形態に係るセッティング方法に用いる型位置算出式の設定方法を説明するためのフローチャート、
【図2】同セッティング方法の実施に用いるトグル式射出成形機の構成図、
【図3】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型位置に対する保持トルクの個別特性図、
【図4】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型位置に対する保持トルクの全体特性図、
【図5】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型位置に対する保持トルクの全体特性を一次関数化した特性図、
【図6】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型締力に対する傾き度合及びY軸切片値の特性図、
【図7】本発明の好適実施形態に係る成形方法を用いた場合の時間に対するパーティング開量の変化特性図、
【図8】同成形方法の設定時の処理手順を説明するためのフローチャート、
【図9】同成形方法の生産時の処理手順を説明するためのフローチャート、
【図10】同成形方法の金型の状態を示す模式図、
【図11】本発明の変更実施形態に係るセッティング方法を説明するためのフローチャート、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係るセッティング方法を含む成形方法の実施に用いるトグル式射出成形機Mの構成について、図2を参照して説明する。
【0022】
図2中、Mで示すトグル式射出成形機は、トグル式の型締装置Mcと射出装置Miを備える。型締装置Mcは、離間して配した固定盤3と圧受盤4を備え、固定盤3は不図示の機台上に固定されるとともに、圧受盤4は当該機台上に進退変位可能に支持される。また、固定盤3と圧受盤4間には、四本のタイバー5…を架設する。この場合、各タイバー5…の前端は、固定盤3に固定するとともに、各タイバー5…の後端は、圧受盤4に対して挿通させる。さらに、タイバー5…には、可動盤6をスライド自在に装填する。この可動盤6は可動型2mを支持するとともに、固定盤3は固定型2cを支持し、可動型2mと固定型2cは金型2を構成する。圧受盤4と可動盤6間にはトグルリンク機構7を配設する。トグルリンク機構7は、圧受盤4に軸支した一対の第一リンク7a,7aと、可動盤6に軸支した一対の出力リンク7c,7cと、第一リンク7a,7aと出力リンク7c,7cの支軸に結合した一対の第二リンク7b,7bを有し、この第二リンク7b,7bはクロスヘッド7hに軸支する。
【0023】
一方、圧受盤4には電動駆動部8を配設する。電動駆動部8は、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する回転駆動部21を備える。ボールねじ機構11は、圧受盤4に回動自在に支持されたボールねじ部11sと、このボールねじ部11sに螺合し、かつクロスヘッド7hに一体に設けたボールナット部11nを備えるとともに、回転駆動部21は、駆動モータ12を構成するサーボモータ12sと、このサーボモータ12sに付設して当該サーボモータ12sの回転数を検出するロータリエンコーダ12eと、サーボモータ12sのシャフトに取付けた駆動ギア22と、ボールねじ部11sに取付けた被動ギア23と、この駆動ギア22と被動ギア23間に架け渡したタイミングベルト24を備える。
【0024】
これにより、サーボモータ12sを作動させれば、駆動ギア22が回転し、駆動ギア22の回転は、タイミングベルト24を介して被動ギア23に伝達され、ボールねじ部11sが回転することによりボールナット部11nが進退移動する。この結果、ボールナット部11nと一体のクロスヘッド7hが進退移動し、トグルリンク機構7が屈曲又は伸長し、可動盤6が型開方向(後退方向)又は型閉方向(前進方向)へ進退移動する。このように、電動駆動部8を、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する駆動モータ12を備えて構成すれば、基本的かつ汎用的な形態を有する電動駆動部8故に、後述する本発明に係るセッティング方法及び成形方法を容易かつ確実に適用できる利点がある。
【0025】
さらに、圧受盤4には型厚調整機構25を付設する。型厚調整機構25は、四本のタイバー5…の後端側にねじ部26…を形成し、各ねじ部26…にそれぞれ調整ナット27…を螺合して構成したねじ機構28…を備える。この場合、調整ナット27…は圧受盤4に対するストッパを兼ねている。また、圧受盤4の側面には、圧受盤4を移動させる駆動源となるギアードモータ29を取付ける。このギアードモータ29は、型厚調整用の駆動モータとなる。ギアードモータ29は、モータ本体部30を備え、このモータ本体部30は、後半部に設けた誘導モータによるモータ部と前半部に設けることにより当該モータ部の回転が入力する減速ギア機構とを内蔵し、モータ本体部30の前端面には、減速ギア機構の回転が出力する出力シャフトが突出する。さらに、モータ本体部30の後端面からはモータ部におけるモータシャフトが突出し、このモータシャフトに対して位置をロックし又はロック解除するモータブレーキ部32及びモータシャフトの回転数を検出するロータリエンコーダ33を付設する。このロータリエンコーダ33は、インクリメンタルエンコーダを利用し、基準位置に対するエンコーダパルスの発生数により絶対位置の検出を行うことができる。
【0026】
一方、モータ本体部30から突出する出力シャフトの前端側には、駆動ギア34を取付けるとともに、各調整ナット27…には、それぞれスモールギア35…を一体に取付ける。この場合、各調整ナット27…とスモールギア35…はそれぞれ同軸上に位置する。また、各スモールギア35…及び駆動ギア34に噛合するラージギア36を配設する。ラージギア36は、リング形に形成し、内周面に沿って設けたレール部が圧受盤5に取付けた複数の支持ローラにより支持されている。これにより、ギアードモータ29を作動させれば、駆動ギア34の回転によりラージギア36が回転するとともに、このラージギア36の回転により各スモールギア35…が同時に同一方向に回転する。そして、各スモールギア35…と一体に回転する各調整ナット27…がタイバー5…のねじ部26…に沿って進退変位するため、圧受盤4も進退変位し、その前後方向位置が調整される。なお、モータ本体部30の回転を調整ナット27…に伝達する回転伝達機構としてギア伝達機構を例示したがベルト伝達機構であっても勿論よい。
【0027】
他方、射出装置Miは、先端に射出ノズル41nを有する加熱筒41を備えるとともに、この加熱筒41の内部に挿通するスクリュ42を備え、このスクリュ42の後端は不図示のスクリュ駆動部に接続する。これにより、射出装置Miでは、加熱筒41の後部に備える不図示のホッパーから加熱筒41の内部に成形材料が供給される。そして、スクリュ42の回転により成形材料が可塑化溶融されるとともに、溶融された樹脂Rは、スクリュ42の前進により金型2に射出充填される。
【0028】
さらに、成形機コントローラ51を備える。この成形機コントローラ51にはディスプレイユニット52が付属し、このディスプレイユニット52は、ディスプレイ52dとこのディスプレイ52dに付設したタッチパネル52tを備える。このタッチパネル52tは操作部(入力部)を構成し、各種設定操作及び選択操作等を行うことができる。また、前述したサーボモータ12s及びギアードモータ29は、成形機コントローラ51に内蔵するモータドライバに接続するとともに、各ロータリエンコーダ12e及び33は成形機コントローラ51の入力ポートに接続する。成形機コントローラ51は、CPU及び内部メモリ等のハードウェアを内蔵するとともに、各種ソフトウェアを格納するコンピュータ機能を備えている。したがって、内部メモリには、各種演算処理及び各種制御処理(シーケンス制御)を実行するため処理プログラムをインストールするプログラム書込エリア及び各種データ(データベース)類を書込むデータ書込エリアが含まれる。特に、処理プログラムには、本実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法を含む成形方法を実行するためのアプリケーション処理プログラムが含まれる。
【0029】
次に、本実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法について、図1〜図10を参照して説明する。
【0030】
まず、本実施形態に係る基本的な成形方法は、少なくとも金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締装置Mcを使用する。したがって、このような要請に応え得る適切な型締装置としては、駆動源として油圧を用いる直圧式の型締装置が存在する。これに対して、トグル式の型締装置Mcは、通常、型締時にトグルリンク機構7をロックアップ状態、即ち、トグルリンク機構7を伸長し切った状態で使用するため、可動型2mの位置はいわばロックされた状態になり、基本的な使用態様では、樹脂の自然圧縮が不可能となる。なお、ロックアップ状態であっても、樹脂圧による冷却時の収縮量に相当する型開量までタイバーが延伸して金型が開く型締力を設定し、充填完了後にタイバーの弾性回復力により型閉させる成形方法も知られているが、この方法はタイバーの伸縮に依存するため、温度変動等の外乱が伸縮量に直接影響し、成形品質にバラツキを生じるとともに、成形不良の低減も困難となる。しかも、充填中は型締力が増加し、型閉時に樹脂が強制圧縮されるため、自然圧縮とは言えない状態となる。
【0031】
そこで、本実施形態に係る成形方法は、トグルリンク機構7を非ロックアップ状態にすることにより、任意の型締力Fcの設定を可能にした。しかし、この場合、トグルリンク機構7は屈曲した状態となるため、特に、屈曲量(型位置Xc)を大きくした状態で型締力Fcを大きく設定したような場合には、サーボモータ12sが過負荷となり、保護回路のONによりサーボモータ12sがフリーとなる。この結果、ブレーキ制御もフリーとなり金型2等の破損を招く虞れがある。このように、トグル式の型締装置Mcでは、任意の型締力Fcを設定しようとした場合、非ロックアップ状態にすることにより、設定自体は可能であるとしても、型締装置Mcの能力にマッチングした的確な型締力Fcを設定するのは容易でない。結局、試行錯誤による長い設定時間が必要となるとともに、余裕の無い設定を行った場合には、金型2等の破損を招きやすくなる。
【0032】
本実施形態に係るセッティング方法は、トグル式の型締装置Mcであっても、少なくとも金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの圧縮(自然圧縮)が可能となるセッティングを容易に実現、即ち、電動駆動部8(サーボモータ12s)の負荷トルクTdが定格トルクTs以下、望ましくは定格トルクTs付近になることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)Fcsと射出圧力(成形射出圧力)Pisを設定するようにしたものである。このため、本実施形態に係るセッティング方法では、予め設定した、型締力Fc,電動駆動部8(サーボモータ12s)の定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式により、目的の型位置Xc(屈曲量)を容易に算出できるようにした。
【0033】
以下、この型位置算出式の設定方法について、図3〜図6を参照しつつ図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0034】
今、トグルリンク機構7がロックアップ状態となる圧受盤4の位置(型位置Xc)を0とし、型位置Xcを段階的に大きくすることによりトグルリンク機構7の屈曲量が大きくなるものとする。まず、図3(a)〜(i)に示すように、複数の型締力Fc…における型位置Xc〔mm〕と保持トルクTh(=負荷トルクTd)の関係を求める。例示は、複数の型締力Fc…として、型締力Fc=10,15,20,25…50〔%〕を選定し、この結果を図3(a),(b),(c)…(i)に示した。なお、例示の場合、定格トルクTsは500〔kN〕であるため、例えば、型締力Fc=10〔%〕は、50〔kN〕に対応する。
【0035】
最初に、最も小さい型締力Fc=10〔%〕を成形機コントローラ51に設定する(ステップS1)。また、最も小さい型位置Xc(例示の場合、0.3〔mm〕程度)を成形機コントローラ51に設定し、型厚調整機構25による型厚調整を行う(ステップS2)。この場合、型開時に型厚調整開始キーをONにすれば、ギアードモータ29が作動し、この回転が各スモールギア35…に伝達されることにより、各スモールギア35…に一体の各調整ナット27…が同時に同一方向に回転する。これにより、圧受盤4がタイバー5…上を前進変位し、設定した型位置Xc分だけ前進して停止する型厚調整が行われる。
【0036】
次いで、型締動作を実行する(ステップS3)。型締動作ではサーボモータ12sが作動し、このサーボモータ12sの回転がボールねじ機構11に伝達される。これにより、クロスヘッド7hが前進し、この前進変位は、トグルリンク機構7を介して可動盤6に伝達される。可動盤6は、高速移動した後、低速移動に移行し、可動型2mは固定型2cに当接する。可動型2mが固定型2cに当接した後は、型締力Fcの監視により、型締力Fcが10〔%〕(50〔kN〕)に達した時点で可動盤6を停止させ、サーボモータ12sの位置を保持する(ステップS4)。なお、型締力Fcは、例えば、タイバー5…に付設した型締力センサ等の公知の検出手段により検出できる。一方、この場合、トグルリンク機構7は非ロックアップ状態となるため、このときの電動駆動部8(サーボモータ12s)の保持トルクThを検出する(ステップS5)。なお、保持トルクFhは、サーボモータ12sに流れる負荷電流の大きさ等から算出する公知の検出手段により検出できる。そして、同様の動作に基づく保持トルクThの検出をN回繰り返して行い、得られたN回分の保持トルクTh…の平均値を算出する(ステップS6,S7)。
【0037】
次いで、型締力Fc=10〔%〕はそのままとし、型位置Xcを次の大きさに変更し、同様の動作を繰り返すことにより保持トルクThの検出を行う(ステップS8,S2…)。例示は、型位置Xcを0.5〔mm〕程度ずつ変更(増加)した場合を示す。これにより、図3(a)に示すように、型締力Fc=10〔%〕に設定し、型位置Xcを順次大きくしたときの保持トルクTh〔%〕の変化特性を求めることができる。なお、保持トルクTh〔%〕とは、定格トルクTsを100〔%〕にしたときの値である。図3(a)から明らかなように、型位置Xcに対する保持トルクThはほぼ比例的に変化する。したがって、この変化特性は、仮想線で示す直線Fhsのように一次関数化することができる(ステップS9)。この一次関数は、最小二乗法で求めることができる。図中、Fhは保持力〔kN〕を示し、この保持力Fhは、型位置Xcが0.5〔mm〕以上でほぼ一定となる。これは型締力Fcの保持に増力率(トグルリンク機構7の拡大率)が影響していることを示している。
【0038】
さらに、型締力Fcを次の段階における15〔%〕に変更し、同様の動作を繰り返して行うことにより保持トルクFh…の検出を行う(ステップS10,S1…)。これにより、図3(b)〜(i)に示すように、図3(a)と同様の変化特性を異なる型締力Fc…毎に得ることができる。以上により得られた全ての変化特性を一緒に描いたものが図4となる。なお、図中、Fc=10〔%〕…は、符号Fc10…により示している。また、図5は、図4における各変化特性を一次関数化したものである。図5から明らかなように、各変化特性Fc10,Fc15,Fc20…は、ほぼ等間隔となり概ね比例していることが分かる。そこで、各変化特性の傾き度合Ds(ΔTh/ΔXc)を求め、型締力Fcに対する傾きをプロットすれば、図6に示すようになる。同図から明らかなように、傾き度合Dsは、型締力Fcの大きさにほぼ比例する(ステップS11)。このため、この変化特性を、仮想線で示す直線Dssのように一次関数化することができる(ステップS12)。なお、Dyは各変化特性のY軸切片値を示す。
【0039】
以上の結果から、型締力Fcに対して過負荷にならない型位置Xc(屈曲量)を一次関数式により表すことができる。以下、この算出式の設定について具体的に説明する。まず、図3〜図6の関係をまとめると、保持トルクTh=Ds×Xc×Dy(ただし、Ds:傾き度合,Xc:型位置,Dy:Y軸切片値)の関係が成立する。また、傾き度合Dsとオフセット値Dcは、図6の特性から分かるため、型位置Xcは、概ねXc=(Ts−Dy)/(Ds×Fc−Dc)の式により表される。なお、Tsは定格トルク〔%〕,Fcは型締力〔kN〕である。
【0040】
そして、この式を、一般式に置換すれば、
Xc〔mm〕=(Ts−K2)/(Fc×K1 ) … (100)
が得られる。
【0041】
この場合、K1,K2は成形機固有のパラメータであり、一例として、K1は0.5程度、K2は10〔%〕程度に選定できる(ステップS13)。なお、Tsは定格トルク〔%〕、Fcは設定する型締力〔%〕である。そして、このようにして得られた型位置算出式(100)は、型締力Fcの設定から過負荷にならない型位置Xc(屈曲量)の算出式として用いることができるため、この型位置算出式(100)を、成形機コントローラ51に設定(登録)する(ステップS14)。なお、この型位置算出式(100)はマニュアルにより求めて設定してもよいし、予め設定した自動作成プログラムにより自動で求めて設定してもよい。
【0042】
このように、型位置Xcを、予め設定した、型締力Fc,定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式(100)により算出するようにすれば、既知となる定格トルクTs及び係数(パラメータK1,K2)は既知となるため、必要とする望ましい型位置Xcは、オペレータが目標の型締力Fcを入力するのみで、容易かつ速やかに得れるとともに、型厚調整機構の利用により自動で設定可能となる。
【0043】
次に、本実施形態に係るトグル式射出成形機Mの成形方法について、図7〜図10を参照して説明する。
【0044】
まず、本実施形態に係る成形方法の概要は、
(A) 予め、生産時に使用する成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを求めるとともに、これらを成形条件として設定する。この際、
(x) 射出充填時に、固定型2cと可動型2m間に適切なパーティング開量(自然隙間)Lmが生じること、
(y) 成形品Gには、バリ,ヒケ及びソリ等の成形不良が発生しないこと、
を条件とする。
【0045】
また、自然隙間Lmは、ガス抜き及び樹脂Rの圧縮(自然圧縮)を考慮して、最大時のパーティング開量となる成形隙間Lmpと、冷却時間Tcが経過した後のパーティング開量となる残留隙間Lmrを考慮し、
(xa) 成形隙間Lmpは、0.03〜0.30〔mm〕、
(xb) 残留隙間Lmrは、0.01〜0.10〔mm〕、
の各許容範囲を満たすことを条件とする。
【0046】
(B) 生産時には、設定した成形型締力Fcsにより型締を行うこと、成形射出圧力Pisをリミット圧力に設定すること、の成形条件により樹脂Rは単純に射出する。
【0047】
したがって、このような成形方法によれば、射出充填時には、金型2において自然隙間Lm及び自然圧縮が発生する。この結果、射出装置Miにより射出充填される樹脂Rの挙動が不安定であっても、型締装置Mcが不安定な樹脂Rの挙動に適応し、高度の品質及び均質性を有する成形品Gが得られる。
【0048】
次に、具体的な処理手順について説明する。まず、予め、成形条件となる成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを求めるとともに、成形条件として設定する。図8に、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを求めて設定する処理手順を説明するためのフローチャートを示す。
【0049】
最初に、型締装置Mcのトグルリンク機構7のセッティングを行う。即ち、前述した型位置算出式(100)を利用して、トグルリンク機構7が最適な屈曲量となる非ロックアップ状態に型位置Xcを設定する。具体的には、オペレータが、型締力Fc(及び定格トルクTs)を入力すれば、この入力に基づいて型位置算出式(100)による演算が行われ、型位置Xcが算出されるとともに、型厚調整機構25により圧受盤4の位置(型位置Xc)が自動で調整(変更)される。この際、基本的には、型締力Fc=100〔%〕,定格トルクTs=100〔%〕を入力することができるが、必要により、射出成形機Mや成形品等を考慮して、例えば、型締力Fc=90〔%〕,定格トルクTs=90〔%〕のように入力することもできる。また、定格トルクTsは、前述したパラメータK1,K2と同様、予め固定値として登録し、型締力のみを入力できるようにしてもよい。この型位置Xcの設定により、電動駆動部8の負荷トルクTdは定格トルクTs付近又は定格トルクTs以下となるように型厚調整される。特に、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs付近になるように設定を行えば、過負荷を回避しつつトグルリンク機構7の屈曲量を最大にできるため、成形時において、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用を良好に実現する観点から最も大きなパフォーマンスを得れる利点がある。
【0050】
次いで、射出装置Mi側の射出条件となる射出圧力Piを初期設定する(ステップS21)。このときの射出圧力Piは、射出装置Miの能力(駆動力)に基づく射出圧力Piを設定できる。射出装置Miの能力としては、例えば、駆動源として駆動モータ(サーボモータ)を使用している場合には、定格出力(定格トルク)を考慮することができる。さらに、型締装置Mc側の型締条件となる型締力Fcを初期設定する(ステップS22)。このときの型締力Fcは、型締装置Mcの能力(駆動力)を考慮して設定できる。したがって、この場合の設定値は100〔%〕であってもよい。
【0051】
そして、初期設定した型締力Fcに対する最適化処理を行うことにより生産時に用いる成形型締力Fcsを求めるとともに、初期設定した射出圧力Piに対する最適化処理を行うことにより生産時に用いる成形射出圧力Pisを求める(ステップS23,S24)。型締力Fc及び射出圧力Piを最適化する方法の一例について説明する。今、初期設定した型締力Fc及び射出圧力Piを用いて試射した結果、成形隙間Lmp及び残留隙間Lmrはいずれも0となったものとする。したがって、型締力Fcが大きいため、バリは発生しないが、ヒケ,ソリ,ガス抜きに関してはいずれも不良となる。
【0052】
そこで、型締力Fcの大きさ及び射出圧力Piの大きさを、段階的に低下、即ち、型締力Fc〔%〕を、90,80,70…20,10と段階的に低下させ、それぞれの段階で試射を行うことにより、固定型2cと可動型2m間のパーティング開量Lmを測定するとともに、成形品Gの良否状態を観察する(ステップS25,S26)。この場合、射出圧力Piについては、型締力を変更(低下)した際に、適宜、射出圧力Piも変更(低下)し、樹脂Rが金型2に対して正常に充填しなくなる手前の大きさを選択すればよい。そして、求めた成形射出圧力Pisは、生産時の射出圧力に対するリミッタ圧力Psとして設定する(ステップS27)。また、型締力Fcを段階的に低下させた際には、型位置算出式(100)により型位置Xcが算出され、算出された型位置Xcになるように、型厚調整機構25により圧受盤4の位置(型位置Xc)が自動で調整(変更)される。
【0053】
一方、試射の結果、一例として、型締力Fcを20,30〔%〕に設定した際に、成形隙間Lmp及び残留隙間Lmrはいずれも許容範囲を満たした場合を想定する。即ち、成形隙間Lmpは、0.03〜0.30〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲をも満たし、かつ残留隙間Lmrも、0.01〜0.10〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲を満たしたものとする。また、バリ,ヒケ及びソリのいずれも発生しないとともに、ガス抜きも良好に行われ、良品成形品を得たものとする。したがって、成形型締力Fcsは、設定の条件を満たす型締力20又は30〔%〕から選択して設定することができる。そして、選択した型締力Fcは、生産時に型締を行う際の成形型締力Fcsとして設定する(ステップS28)。
【0054】
なお、成形隙間Lmpが、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲を満たすとともに、残留隙間Lmrが、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲を満たすことがバリの発生しない最良成形品を得ることができるが、バリは成形品取出後に除去できるとともに、少しのバリがあっても良品として使用できる場合もあるため、低度のバリ発生は即不良品となるわけではない。したがって、不良品の条件として必ずしもバリを含める必要はない。なお、実際の設定に際しては、例えば、型締力を、30,20,10等のように、数回程度の変更実施により目的の成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisを求めることができる。また、型締力Fc及び射出圧力Piの大きさは、オペレータが任意に設定してもよいし、射出成形機Mに備えるオートチューニング機能等を併用しつつ自動又は半自動により求めてもよい。オートチューニング機能を利用した場合には、バリが発生する直前の型締力Fcを容易に求めることができる。
【0055】
一方、射出装置Miの射出速度Vdに対する速度限界値VLを設定する(ステップS29)。この速度限界値VLは、必ずしも設定する必要はないが、設定することにより、万が一、射出速度Vdが過度に速くなった場合でも、金型2やスクリュ22等に対して機械的な保護を図ることができる。したがって、速度限界値VLには、金型2やスクリュ22等に対して機械的な保護を図ることができる大きさを設定する。さらに、他の必要事項の設定を行う(ステップS30)。他の必要事項の設定としては、補正機能により補正する際に使用する補正係数等を適用できる。以上、ここまでの処理は、本実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法に基づく処理となり、また、本実施形態に係るトグル式射出成形機の成形方法の一部となる。
【0056】
次に、生産時の具体的な処理手順について説明する。図9は、成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisを用いた生産時の処理手順を説明するためのフローチャートを示す。
【0057】
まず、射出装置Miでは樹脂Rを可塑化して射出準備を行う(ステップS31)。本実施形態に係る成形方法では、一般的な成形法のように、樹脂Rを正確に計量する計量工程は不要である。即ち、一般的な計量工程における計量動作は行うが、正確な計量値を得るための計量制御は行わない。いわば樹脂Rが不足する前に樹脂Rを追加する動作となる。また、型締装置Mcのサーボモータ12sを作動させ、型締力が成形型締力Fcsとなるように、金型2に対する型締を行う(ステップS32)。このときの金型2の状態を図10(a)に示す。なお、前述したように、トグルリンク機構7は非ロックアップ状態になっている。
【0058】
次いで、射出装置Miにより金型2に対して樹脂Rの射出充填を行う(ステップS33)。この場合、スクリュは定格動作により前進させればよく、スクリュに対する速度制御及び圧力制御は不要である。これにより、加熱筒内の可塑化溶融した樹脂Rは金型2のキャビティ内に充填される(ステップS34)。樹脂Rの充填に伴い、図7に示すように、射出圧力Pdが上昇する。そして、リミット圧力Psに近づき、リミット圧力Psに達すれば、リミット圧力Psに維持するための制御、即ち、オーバーシュートを防止する制御が行われ、射出圧力Pdはリミット圧力Ps(成形射出圧力Pis)に維持される(ステップS35,S36)。したがって、射出動作では実質的な一圧制御が行われる。なお、図7中、Vdは射出速度を示す。
【0059】
また、金型2のキャビティ内に樹脂Rが満たされることにより、金型2は樹脂Rに加圧され、固定型2cと可動型2m間にパーティング開量Lmが生じるとともに、最大時には成形隙間Lmpが生じる(ステップS37)。この成形隙間Lmpは、予め設定した成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisにより、0.03〜0.30〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲となり、良好なガス抜きが行われるとともに、不良の排除された良品成形が行われる。このときの金型2の状態を図10(b)に示す。一方、時間の経過に伴って、金型2のキャビティ内における樹脂Rの固化が進行するとともに、この固化に伴って、樹脂Rの圧縮(自然圧縮)が行われる(ステップS38)。
【0060】
そして、設定した冷却時間Zcが経過すれば、サーボモータ12sを作動させ、可動型2mを後退させることにより型開きを行うとともに、突出し機構により、可動型2mに付着した成形品Gの突き出しを行う(ステップS39,S40)。これにより、成形品Gが取り出され、一成形サイクルが終了する。なお、冷却時間Tcは、射出開始時点tsからの経過時間として予め設定することができる。また、図7に示すように、冷却時間Zcの経過した時点では、樹脂Rの自然圧縮により、固定型2cと可動型2m間の残留隙間Lmrは、予め設定した成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisにより、0.01〜0.10〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲となり、金型2のキャビティ内における樹脂Rに対する自然圧縮が確実に行われるとともに、成形品Gにおける高度の品質及び均質性が確保される。このときの金型2の状態を図10(c)に示す。この後、次の成形が継続する場合には、同様に、樹脂Rを可塑化して射出準備を行うとともに、以降は、型締、射出、冷却等の処理を同様に行えばよい(ステップS41,S31,S32…)。
【0061】
よって、このような本実施形態に係る射出成形機Mのセッティング方法及び成形方法によれば、トグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを設定するようにしたため、トグル式射出成形機Mであっても油圧式射出成形機と同様の作用、即ち、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisとの相対的な力関係により、金型2への樹脂Rの充填時に可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用、及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用、の双方を実現できるとともに、トグル式の型締装置Mcの能力にマッチングした最適なセッティングを行うことができる。これにより、特に、ヒケの発生しない良好な平坦性(平面性)、更には、成形品の高度の品質及び均質性を確保できる。
【0062】
また、成形に際しては、成形射出圧力Pisと成形型締力Fcsを設定すれば足り、相互に影響し合う、射出速度,速度切換位置,速度圧力切換位置,射出圧力,保圧力等の正確性の要求される射出条件をはじめ、正確な計量が要求される計量値等の計量条件を含む各種成形条件の設定は不要となる。したがって、成形条件のシンプル化及び設定容易化、更には品質管理の容易化を図ることができるとともに、生産時における動作制御も容易に行うことができる。しかも、射出速度に対する多段の制御や保圧に対する制御などの一連の制御が不要となるなど、成形サイクル時間の短縮を図れるとともに、量産性及び経済性を高めることができるという成形に伴う基本的な効果を得ることができる。このため、この成形方法は、特に、温度や圧力等に敏感に影響を受けやすい特性を有する低粘性の樹脂Rの成形に最適となる。
【0063】
他方、図11には、本発明の変更実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法をフローチャートで示す。
【0064】
変更実施形態に係るセッティング方法は、型位置Xcとして、電動駆動部8の定格トルクTs又はこの定格トルクTsよりも低い値を目標トルクTtとして設定するとともに、型位置Xcを段階的に変化させ、各型位置Xc…における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置Xc…毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクTsが目標トルクTtに達したなら、このときの型位置Xcよりも手前の段階における型位置Xcを用いるようにしたものである。したがって、このような変更実施形態に係るセッティング方法を用いれば、使用するトグル式射出成形機Mにとっての最適な型位置Xcをその都度得れるため、的確な型位置Xcを用いることができる。
【0065】
以下、具体的な処理手順について説明する。まず、最も小さい値となる最初の型位置Xc(例えば、0.5〔mm〕)を設定する(ステップS51)。次いで、型厚調整機構25を作動させ、設定した型位置Xcとなるように型厚の調整(変更)を行う(ステップS52)。次いで、型締動作を実行し、可動型2mが固定型2cに当接したならその位置に停止するように可動型2m(又はクロスヘッド7h)の位置に対するフィードバック制御を行う(ステップS53)。この場合、可動型2mと固定型2cが当接した際の当接力(型締力)はできるだけ小さい方が望ましい。なお、この際、トグルリンク機構7は非ロックアップ状態になる。
【0066】
次いで、射出装置Miにより溶融した樹脂Rの射出充填を行う(ステップS54)。一方、射出充填時における電動駆動部8(サーボモータ12s)の負荷トルクTdを検出する(ステップS55)。射出充填により金型2内の樹脂圧は徐々に高まるため、電動駆動部8(サーボモータ12s)の負荷トルクTdも対応して増加する。この際、負荷トルクTdと目標トルクTtの関係が、Td≧Ttの条件を満たすか否か、即ち、負荷トルクTdが目標トルクTt以上になるか否かを監視(判定)する(ステップS56)。負荷トルクTdが目標トルクTt以上にならずに射出充填が終了したなら、次の段階、即ち、トグルリンク機構7の屈曲量をより大きくする型位置Xc(例えば、1.0〔mm〕)を設定する(ステップS57,S58)。
【0067】
この後、同様に型厚調整機構25を作動させ、設定した型位置Xcとなるように型厚の調整(変更)を行うとともに、型締動作を実行し、可動型2mが固定型2cに当接したなら、その位置に停止するように可動型2mの位置に対するフィードバック制御を行う。また、射出装置Miにより溶融した樹脂Rの射出充填を行い、負荷トルクTdと目標トルクTtの関係が、Td≧Ttの条件を満たすか否か、即ち、負荷トルクTdが目標トルクTt以上になるか否かを監視(判定)する処理を、Td≧Ttの条件を満たすまで順次繰り返して行う(ステップS52,S53,S54,S55,S56…)。
【0068】
そして、以上の処理により、所定の型位置Xcのときに、Td≧Ttの条件を満たした場合を想定する。この場合、負荷トルクTdが目標トルクTt以上になり、過負荷が生じたことを意味するため、この時点で処理を終了し、直前の段階における型位置Xcを、目的の型位置Xcとして設定する(ステップS56,S59,S60)。なお、最初に設定した型位置Xc(ステップS51)において、Td≧Ttの条件を満たした場合には、異常が考えられるため、この場合には、アラームや処理停止等の必要な異常対応処理を行う(ステップS59,S61)。そして、この後は、前述した図8に示したフローチャートに従って、型締力Fcと射出圧力Piに対する最適化を行い、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを設定できるとともに、本実施形態に係る前述した成形方法を行うことができる。
【0069】
以上、好適実施形態及び変更実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,手法,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、型位置算出式(100)は、一例であり、必ずしも型位置算出式(100)に限定されるものではない。特に、型位置算出式(100)におけるパラメータK1…の数量は、二つのパラメータK1,K2を例示したが、必要により一つでもよいし、三つ以上でもよい。他方、冷却時間Tcの経過後における可動型2mと固定型2c間に所定の残留隙間Lmrを生じさせることが望ましいが、残留隙間Lmrを生じさせない場合を排除するものではない。また、成形隙間Lmpとして、0.03〜0.30〔mm〕の許容範囲を、残留隙間Lmrとして、0.01〜0.10〔mm〕の許容範囲をそれぞれ例示したが、これらの範囲に限定されるものではなく、新しい樹脂Rの種類等に応じて変更可能である。さらに、成形射出圧力Piは、良品成形可能な最小値又はその近傍の値に設定することが望ましいが、このような最小値又はその近傍の値以外となる場合を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係るセッティング方法及び成形方法は、電動駆動部によりトグルリンク機構を介して金型に対する型締めを行う型締装置を備える各種のトグル式射出成形機に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
2:金型,2c:固定型,2m:可動型,3:固定盤,4:圧受盤,5…:タイバー,6:可動盤,7:トグルリンク機構,7h:クロスヘッド,8:電動駆動部,11:ボールねじ機構,12:駆動モータ,Mc:型締装置,M:トグル式射出成形機,Xc:型位置,R:樹脂,Lm:隙間,G:成形品
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動駆動部によりトグルリンク機構を介して金型に対する型締めを行う型締装置を備えるトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出圧縮成形法などの成形原理が基本的に異なる成形法を除く通常の射出成形方法では、金型に高圧の型締力を付加して型締を行うことがいわば常識的な成形法になっているが、一方において、二酸化炭素の排出削減や資源節約等の地球環境保護の観点から、射出成形機等の産業機械には、省エネルギ化が要請されている。
【0003】
そこで、このような要請に応えるため、本出願人は、既に、特許文献1により、型開閉装置に支持された固定型と可動型を有する金型に射出装置から溶融樹脂を射出充填して射出成形を行うに際し、予め、射出成形時に溶融樹脂が侵入しない固定型と可動型間の隙間(設定間隔)を設定し、成形時に、設定間隔に基づく隙間を空けた状態で金型を閉じ、この金型に射出装置から溶融樹脂を射出充填するとともに、少なくとも射出充填中は設定間隔が固定されるように可動型に対する位置制御を行うようにした射出成形方法を提案した。この射出成形方法によれば、金型に対する圧力は、必要な時に必要な量だけ付加されるため、二酸化炭素の排出削減や資源節約等の地球環境保護の観点からの省エネルギ化の要請に応えることができるとともに、成形時における金型内のガス抜きを確実かつ安定に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−118349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1の射出成形方法をはじめ、従来における射出成形機の成形方法は、次のような解決すべき課題が存在した。
【0006】
第一に、基本的には、型締装置の型締条件を固定条件として設定し、これに基づいて、射出装置の射出条件を設定するため、射出条件を正確かつ的確に設定した場合であっても、金型に充填された樹脂は、金型や型締機構における温度変動等の影響を受けるとともに、最終的な成形品の品質及び均質性も影響を受ける。特に、温度や圧力等に敏感に影響を受けやすい特性を有する樹脂の場合には、この問題が大きくなり、高度の成形品質を確保する観点からは更なる改善の余地があった。
【0007】
第二に、成形条件は、主に射出装置側で設定するため、射出速度,速度切換位置,速度圧力切換位置,射出圧力,保圧力等の正確性の要求される射出条件をはじめ、正確な計量が要求される計量値等の計量条件を含む各種成形条件を設定する必要がある。したがって、成形条件に対する設定作業が容易でないとともに、成形時における動作制御も煩雑化する。しかも、通常、射出速度に対する多段の制御や保圧に対する制御などの一連の制御が行われるため、成形サイクル時間が長くなる傾向があり、成形サイクル時間の短縮化、更には量産性を高めるには限界があった。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るトグル式射出成形機のセッティング方法は、上述した課題を解決するため、金型2の一方の固定型2cを支持する固定盤3と圧受盤4間に架設したタイバー5…に、金型2の他方の可動型2mを支持する可動盤6をスライド自在に装填するとともに、圧受盤4と可動盤6間にトグルリンク機構7を配設し、圧受盤4に設けた電動駆動部8によりトグルリンク機構7を介して金型2に対する型締めを行う型締装置Mcを備えるトグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間(パーティング開量)Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)Fcsと射出圧力(成形射出圧力)Pisを設定するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るトグル式射出成形機の成形方法は、上述した課題を解決するため、金型2の一方の固定型2cを支持する固定盤3と圧受盤4間に架設したタイバー5…に、金型2の他方の可動型2mを支持する可動盤6をスライド自在に装填し、かつ圧受盤4と可動盤6間にトグルリンク機構7を配設するとともに、圧受盤4に設けた電動駆動部8によりトグルリンク機構7を駆動して金型2に対する型締めを行う型締装置Mcを備えるトグル式射出成形機Mにより成形を行うに際し、予め、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定のパーティング開量Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)Fcsと射出圧力(成形射出圧力)Pisを設定し、生産時に、成形型締力Fcsにより型締装置Mcを型締し、かつ成形射出圧力Pisをリミット圧力Psとして設定し、射出装置Miを駆動して金型2に対する樹脂Rの射出充填を行った後、所定の冷却時間Zcの経過後に成形品Gの取出しを行うようにしたことを特徴とする。
【0011】
一方、本発明は、好適な実施の態様により、電動駆動部8は、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する駆動モータ12を備えて構成できる。なお、型位置Xcは、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs付近となるように型厚調整することが望ましい。また、型位置Xcは、予め設定した、型締力Fc,定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式(100)により算出してもよいし、或いは、電動駆動部8の定格トルクTs又はこの定格トルクTsよりも低い値を目標トルクTtとして設定するとともに、型位置Xcを段階的に変化させ、各型位置Xc…における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置Xc…毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクTsが目標トルクTtに達したなら、このときの型位置Xcよりも手前の段階における型位置Xcを用いてもよい。
【発明の効果】
【0012】
このような手法による本発明に係るトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) トグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定のパーティング開量Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを設定するようにしたため、トグル式射出成形機Mであっても油圧式射出成形機と同様の作用、即ち、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisとの相対的な力関係により、金型2への樹脂Rの充填時に可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用、及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用、の双方を実現できるとともに、トグル式の型締装置Mcの能力にマッチングした最適なセッティングを行うことができる。これにより、特に、ヒケの発生しない良好な平坦性(平面性)、更には、成形品の高度の品質及び均質性を確保できる。
【0014】
(2) 成形に際しては、成形射出圧力Pisと成形型締力Fcsを設定すれば足りるため、相互に影響し合う、射出速度,速度切換位置,速度圧力切換位置,射出圧力,保圧力等の正確性の要求される射出条件をはじめ、正確な計量が要求される計量値等の計量条件を含む各種成形条件の設定は不要となる。したがって、成形条件のシンプル化及び設定容易化、更には品質管理の容易化を図ることができるとともに、生産時における動作制御も容易に行うことができる。しかも、射出速度に対する多段の制御や保圧に対する制御などの一連の制御が不要となるなど、成形サイクル時間の短縮を図れるとともに、量産性及び経済性を高めることができるという成形に伴う基本的な効果を得ることができる。このため、この成形方法は、特に、温度や圧力等に敏感に影響を受けやすい特性を有する低粘性の樹脂Rの成形に最適となる。
【0015】
(3) 好適な態様により、電動駆動部8を、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する駆動モータ12を備えて構成すれば、基本的かつ汎用的な形態を有する電動駆動部8故に、本発明に係るセッティング方法及び成形方法を容易かつ確実に適用できる
【0016】
(4) 好適な態様により、型位置Xcを、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs付近となるように型厚調整すれば、過負荷を回避しつつトグルリンク機構7の屈曲量を最大にできるため、成形時において、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用を良好に実現する観点から最も大きなパフォーマンスを得ることができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、型位置Xcを、予め設定した、型締力Fc,定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式(100)により算出するようにすれば、定格トルクTs及び係数(パラメータK1,K2)は既知となるため、必要とする望ましい型位置Xcは、オペレータが目標の型締力Fcを入力するのみで、容易かつ速やかに得れるとともに、型厚調整機構の利用により自動で設定可能となる。
【0018】
(6) 好適な態様により、型位置Xcとして、電動駆動部8の定格トルクTs又はこの定格トルクTsよりも低い値を目標トルクTtとして設定するとともに、型位置Xcを段階的に変化させ、各型位置Xc…における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置Xc…毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクTsが目標トルクTtに達したなら、このときの型位置Xcよりも手前の段階における型位置Xcを用いるようにすれば、使用するトグル式射出成形機Mにとっての最適な型位置Xcをその都度得れるため、的確な型位置Xcを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適実施形態に係るセッティング方法に用いる型位置算出式の設定方法を説明するためのフローチャート、
【図2】同セッティング方法の実施に用いるトグル式射出成形機の構成図、
【図3】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型位置に対する保持トルクの個別特性図、
【図4】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型位置に対する保持トルクの全体特性図、
【図5】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型位置に対する保持トルクの全体特性を一次関数化した特性図、
【図6】同セッティング方法に用いる型位置算出式を設定する際に利用する型締力に対する傾き度合及びY軸切片値の特性図、
【図7】本発明の好適実施形態に係る成形方法を用いた場合の時間に対するパーティング開量の変化特性図、
【図8】同成形方法の設定時の処理手順を説明するためのフローチャート、
【図9】同成形方法の生産時の処理手順を説明するためのフローチャート、
【図10】同成形方法の金型の状態を示す模式図、
【図11】本発明の変更実施形態に係るセッティング方法を説明するためのフローチャート、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係るセッティング方法を含む成形方法の実施に用いるトグル式射出成形機Mの構成について、図2を参照して説明する。
【0022】
図2中、Mで示すトグル式射出成形機は、トグル式の型締装置Mcと射出装置Miを備える。型締装置Mcは、離間して配した固定盤3と圧受盤4を備え、固定盤3は不図示の機台上に固定されるとともに、圧受盤4は当該機台上に進退変位可能に支持される。また、固定盤3と圧受盤4間には、四本のタイバー5…を架設する。この場合、各タイバー5…の前端は、固定盤3に固定するとともに、各タイバー5…の後端は、圧受盤4に対して挿通させる。さらに、タイバー5…には、可動盤6をスライド自在に装填する。この可動盤6は可動型2mを支持するとともに、固定盤3は固定型2cを支持し、可動型2mと固定型2cは金型2を構成する。圧受盤4と可動盤6間にはトグルリンク機構7を配設する。トグルリンク機構7は、圧受盤4に軸支した一対の第一リンク7a,7aと、可動盤6に軸支した一対の出力リンク7c,7cと、第一リンク7a,7aと出力リンク7c,7cの支軸に結合した一対の第二リンク7b,7bを有し、この第二リンク7b,7bはクロスヘッド7hに軸支する。
【0023】
一方、圧受盤4には電動駆動部8を配設する。電動駆動部8は、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する回転駆動部21を備える。ボールねじ機構11は、圧受盤4に回動自在に支持されたボールねじ部11sと、このボールねじ部11sに螺合し、かつクロスヘッド7hに一体に設けたボールナット部11nを備えるとともに、回転駆動部21は、駆動モータ12を構成するサーボモータ12sと、このサーボモータ12sに付設して当該サーボモータ12sの回転数を検出するロータリエンコーダ12eと、サーボモータ12sのシャフトに取付けた駆動ギア22と、ボールねじ部11sに取付けた被動ギア23と、この駆動ギア22と被動ギア23間に架け渡したタイミングベルト24を備える。
【0024】
これにより、サーボモータ12sを作動させれば、駆動ギア22が回転し、駆動ギア22の回転は、タイミングベルト24を介して被動ギア23に伝達され、ボールねじ部11sが回転することによりボールナット部11nが進退移動する。この結果、ボールナット部11nと一体のクロスヘッド7hが進退移動し、トグルリンク機構7が屈曲又は伸長し、可動盤6が型開方向(後退方向)又は型閉方向(前進方向)へ進退移動する。このように、電動駆動部8を、トグルリンク機構7のクロスヘッド7hを進退移動させるボールねじ機構11と、このボールねじ機構11に回転を入力する駆動モータ12を備えて構成すれば、基本的かつ汎用的な形態を有する電動駆動部8故に、後述する本発明に係るセッティング方法及び成形方法を容易かつ確実に適用できる利点がある。
【0025】
さらに、圧受盤4には型厚調整機構25を付設する。型厚調整機構25は、四本のタイバー5…の後端側にねじ部26…を形成し、各ねじ部26…にそれぞれ調整ナット27…を螺合して構成したねじ機構28…を備える。この場合、調整ナット27…は圧受盤4に対するストッパを兼ねている。また、圧受盤4の側面には、圧受盤4を移動させる駆動源となるギアードモータ29を取付ける。このギアードモータ29は、型厚調整用の駆動モータとなる。ギアードモータ29は、モータ本体部30を備え、このモータ本体部30は、後半部に設けた誘導モータによるモータ部と前半部に設けることにより当該モータ部の回転が入力する減速ギア機構とを内蔵し、モータ本体部30の前端面には、減速ギア機構の回転が出力する出力シャフトが突出する。さらに、モータ本体部30の後端面からはモータ部におけるモータシャフトが突出し、このモータシャフトに対して位置をロックし又はロック解除するモータブレーキ部32及びモータシャフトの回転数を検出するロータリエンコーダ33を付設する。このロータリエンコーダ33は、インクリメンタルエンコーダを利用し、基準位置に対するエンコーダパルスの発生数により絶対位置の検出を行うことができる。
【0026】
一方、モータ本体部30から突出する出力シャフトの前端側には、駆動ギア34を取付けるとともに、各調整ナット27…には、それぞれスモールギア35…を一体に取付ける。この場合、各調整ナット27…とスモールギア35…はそれぞれ同軸上に位置する。また、各スモールギア35…及び駆動ギア34に噛合するラージギア36を配設する。ラージギア36は、リング形に形成し、内周面に沿って設けたレール部が圧受盤5に取付けた複数の支持ローラにより支持されている。これにより、ギアードモータ29を作動させれば、駆動ギア34の回転によりラージギア36が回転するとともに、このラージギア36の回転により各スモールギア35…が同時に同一方向に回転する。そして、各スモールギア35…と一体に回転する各調整ナット27…がタイバー5…のねじ部26…に沿って進退変位するため、圧受盤4も進退変位し、その前後方向位置が調整される。なお、モータ本体部30の回転を調整ナット27…に伝達する回転伝達機構としてギア伝達機構を例示したがベルト伝達機構であっても勿論よい。
【0027】
他方、射出装置Miは、先端に射出ノズル41nを有する加熱筒41を備えるとともに、この加熱筒41の内部に挿通するスクリュ42を備え、このスクリュ42の後端は不図示のスクリュ駆動部に接続する。これにより、射出装置Miでは、加熱筒41の後部に備える不図示のホッパーから加熱筒41の内部に成形材料が供給される。そして、スクリュ42の回転により成形材料が可塑化溶融されるとともに、溶融された樹脂Rは、スクリュ42の前進により金型2に射出充填される。
【0028】
さらに、成形機コントローラ51を備える。この成形機コントローラ51にはディスプレイユニット52が付属し、このディスプレイユニット52は、ディスプレイ52dとこのディスプレイ52dに付設したタッチパネル52tを備える。このタッチパネル52tは操作部(入力部)を構成し、各種設定操作及び選択操作等を行うことができる。また、前述したサーボモータ12s及びギアードモータ29は、成形機コントローラ51に内蔵するモータドライバに接続するとともに、各ロータリエンコーダ12e及び33は成形機コントローラ51の入力ポートに接続する。成形機コントローラ51は、CPU及び内部メモリ等のハードウェアを内蔵するとともに、各種ソフトウェアを格納するコンピュータ機能を備えている。したがって、内部メモリには、各種演算処理及び各種制御処理(シーケンス制御)を実行するため処理プログラムをインストールするプログラム書込エリア及び各種データ(データベース)類を書込むデータ書込エリアが含まれる。特に、処理プログラムには、本実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法を含む成形方法を実行するためのアプリケーション処理プログラムが含まれる。
【0029】
次に、本実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法及び成形方法について、図1〜図10を参照して説明する。
【0030】
まず、本実施形態に係る基本的な成形方法は、少なくとも金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締装置Mcを使用する。したがって、このような要請に応え得る適切な型締装置としては、駆動源として油圧を用いる直圧式の型締装置が存在する。これに対して、トグル式の型締装置Mcは、通常、型締時にトグルリンク機構7をロックアップ状態、即ち、トグルリンク機構7を伸長し切った状態で使用するため、可動型2mの位置はいわばロックされた状態になり、基本的な使用態様では、樹脂の自然圧縮が不可能となる。なお、ロックアップ状態であっても、樹脂圧による冷却時の収縮量に相当する型開量までタイバーが延伸して金型が開く型締力を設定し、充填完了後にタイバーの弾性回復力により型閉させる成形方法も知られているが、この方法はタイバーの伸縮に依存するため、温度変動等の外乱が伸縮量に直接影響し、成形品質にバラツキを生じるとともに、成形不良の低減も困難となる。しかも、充填中は型締力が増加し、型閉時に樹脂が強制圧縮されるため、自然圧縮とは言えない状態となる。
【0031】
そこで、本実施形態に係る成形方法は、トグルリンク機構7を非ロックアップ状態にすることにより、任意の型締力Fcの設定を可能にした。しかし、この場合、トグルリンク機構7は屈曲した状態となるため、特に、屈曲量(型位置Xc)を大きくした状態で型締力Fcを大きく設定したような場合には、サーボモータ12sが過負荷となり、保護回路のONによりサーボモータ12sがフリーとなる。この結果、ブレーキ制御もフリーとなり金型2等の破損を招く虞れがある。このように、トグル式の型締装置Mcでは、任意の型締力Fcを設定しようとした場合、非ロックアップ状態にすることにより、設定自体は可能であるとしても、型締装置Mcの能力にマッチングした的確な型締力Fcを設定するのは容易でない。結局、試行錯誤による長い設定時間が必要となるとともに、余裕の無い設定を行った場合には、金型2等の破損を招きやすくなる。
【0032】
本実施形態に係るセッティング方法は、トグル式の型締装置Mcであっても、少なくとも金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの圧縮(自然圧縮)が可能となるセッティングを容易に実現、即ち、電動駆動部8(サーボモータ12s)の負荷トルクTdが定格トルクTs以下、望ましくは定格トルクTs付近になることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)Fcsと射出圧力(成形射出圧力)Pisを設定するようにしたものである。このため、本実施形態に係るセッティング方法では、予め設定した、型締力Fc,電動駆動部8(サーボモータ12s)の定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式により、目的の型位置Xc(屈曲量)を容易に算出できるようにした。
【0033】
以下、この型位置算出式の設定方法について、図3〜図6を参照しつつ図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0034】
今、トグルリンク機構7がロックアップ状態となる圧受盤4の位置(型位置Xc)を0とし、型位置Xcを段階的に大きくすることによりトグルリンク機構7の屈曲量が大きくなるものとする。まず、図3(a)〜(i)に示すように、複数の型締力Fc…における型位置Xc〔mm〕と保持トルクTh(=負荷トルクTd)の関係を求める。例示は、複数の型締力Fc…として、型締力Fc=10,15,20,25…50〔%〕を選定し、この結果を図3(a),(b),(c)…(i)に示した。なお、例示の場合、定格トルクTsは500〔kN〕であるため、例えば、型締力Fc=10〔%〕は、50〔kN〕に対応する。
【0035】
最初に、最も小さい型締力Fc=10〔%〕を成形機コントローラ51に設定する(ステップS1)。また、最も小さい型位置Xc(例示の場合、0.3〔mm〕程度)を成形機コントローラ51に設定し、型厚調整機構25による型厚調整を行う(ステップS2)。この場合、型開時に型厚調整開始キーをONにすれば、ギアードモータ29が作動し、この回転が各スモールギア35…に伝達されることにより、各スモールギア35…に一体の各調整ナット27…が同時に同一方向に回転する。これにより、圧受盤4がタイバー5…上を前進変位し、設定した型位置Xc分だけ前進して停止する型厚調整が行われる。
【0036】
次いで、型締動作を実行する(ステップS3)。型締動作ではサーボモータ12sが作動し、このサーボモータ12sの回転がボールねじ機構11に伝達される。これにより、クロスヘッド7hが前進し、この前進変位は、トグルリンク機構7を介して可動盤6に伝達される。可動盤6は、高速移動した後、低速移動に移行し、可動型2mは固定型2cに当接する。可動型2mが固定型2cに当接した後は、型締力Fcの監視により、型締力Fcが10〔%〕(50〔kN〕)に達した時点で可動盤6を停止させ、サーボモータ12sの位置を保持する(ステップS4)。なお、型締力Fcは、例えば、タイバー5…に付設した型締力センサ等の公知の検出手段により検出できる。一方、この場合、トグルリンク機構7は非ロックアップ状態となるため、このときの電動駆動部8(サーボモータ12s)の保持トルクThを検出する(ステップS5)。なお、保持トルクFhは、サーボモータ12sに流れる負荷電流の大きさ等から算出する公知の検出手段により検出できる。そして、同様の動作に基づく保持トルクThの検出をN回繰り返して行い、得られたN回分の保持トルクTh…の平均値を算出する(ステップS6,S7)。
【0037】
次いで、型締力Fc=10〔%〕はそのままとし、型位置Xcを次の大きさに変更し、同様の動作を繰り返すことにより保持トルクThの検出を行う(ステップS8,S2…)。例示は、型位置Xcを0.5〔mm〕程度ずつ変更(増加)した場合を示す。これにより、図3(a)に示すように、型締力Fc=10〔%〕に設定し、型位置Xcを順次大きくしたときの保持トルクTh〔%〕の変化特性を求めることができる。なお、保持トルクTh〔%〕とは、定格トルクTsを100〔%〕にしたときの値である。図3(a)から明らかなように、型位置Xcに対する保持トルクThはほぼ比例的に変化する。したがって、この変化特性は、仮想線で示す直線Fhsのように一次関数化することができる(ステップS9)。この一次関数は、最小二乗法で求めることができる。図中、Fhは保持力〔kN〕を示し、この保持力Fhは、型位置Xcが0.5〔mm〕以上でほぼ一定となる。これは型締力Fcの保持に増力率(トグルリンク機構7の拡大率)が影響していることを示している。
【0038】
さらに、型締力Fcを次の段階における15〔%〕に変更し、同様の動作を繰り返して行うことにより保持トルクFh…の検出を行う(ステップS10,S1…)。これにより、図3(b)〜(i)に示すように、図3(a)と同様の変化特性を異なる型締力Fc…毎に得ることができる。以上により得られた全ての変化特性を一緒に描いたものが図4となる。なお、図中、Fc=10〔%〕…は、符号Fc10…により示している。また、図5は、図4における各変化特性を一次関数化したものである。図5から明らかなように、各変化特性Fc10,Fc15,Fc20…は、ほぼ等間隔となり概ね比例していることが分かる。そこで、各変化特性の傾き度合Ds(ΔTh/ΔXc)を求め、型締力Fcに対する傾きをプロットすれば、図6に示すようになる。同図から明らかなように、傾き度合Dsは、型締力Fcの大きさにほぼ比例する(ステップS11)。このため、この変化特性を、仮想線で示す直線Dssのように一次関数化することができる(ステップS12)。なお、Dyは各変化特性のY軸切片値を示す。
【0039】
以上の結果から、型締力Fcに対して過負荷にならない型位置Xc(屈曲量)を一次関数式により表すことができる。以下、この算出式の設定について具体的に説明する。まず、図3〜図6の関係をまとめると、保持トルクTh=Ds×Xc×Dy(ただし、Ds:傾き度合,Xc:型位置,Dy:Y軸切片値)の関係が成立する。また、傾き度合Dsとオフセット値Dcは、図6の特性から分かるため、型位置Xcは、概ねXc=(Ts−Dy)/(Ds×Fc−Dc)の式により表される。なお、Tsは定格トルク〔%〕,Fcは型締力〔kN〕である。
【0040】
そして、この式を、一般式に置換すれば、
Xc〔mm〕=(Ts−K2)/(Fc×K1 ) … (100)
が得られる。
【0041】
この場合、K1,K2は成形機固有のパラメータであり、一例として、K1は0.5程度、K2は10〔%〕程度に選定できる(ステップS13)。なお、Tsは定格トルク〔%〕、Fcは設定する型締力〔%〕である。そして、このようにして得られた型位置算出式(100)は、型締力Fcの設定から過負荷にならない型位置Xc(屈曲量)の算出式として用いることができるため、この型位置算出式(100)を、成形機コントローラ51に設定(登録)する(ステップS14)。なお、この型位置算出式(100)はマニュアルにより求めて設定してもよいし、予め設定した自動作成プログラムにより自動で求めて設定してもよい。
【0042】
このように、型位置Xcを、予め設定した、型締力Fc,定格トルクTs,及び一又は二以上のパラメータK1,K2を含む型位置算出式(100)により算出するようにすれば、既知となる定格トルクTs及び係数(パラメータK1,K2)は既知となるため、必要とする望ましい型位置Xcは、オペレータが目標の型締力Fcを入力するのみで、容易かつ速やかに得れるとともに、型厚調整機構の利用により自動で設定可能となる。
【0043】
次に、本実施形態に係るトグル式射出成形機Mの成形方法について、図7〜図10を参照して説明する。
【0044】
まず、本実施形態に係る成形方法の概要は、
(A) 予め、生産時に使用する成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを求めるとともに、これらを成形条件として設定する。この際、
(x) 射出充填時に、固定型2cと可動型2m間に適切なパーティング開量(自然隙間)Lmが生じること、
(y) 成形品Gには、バリ,ヒケ及びソリ等の成形不良が発生しないこと、
を条件とする。
【0045】
また、自然隙間Lmは、ガス抜き及び樹脂Rの圧縮(自然圧縮)を考慮して、最大時のパーティング開量となる成形隙間Lmpと、冷却時間Tcが経過した後のパーティング開量となる残留隙間Lmrを考慮し、
(xa) 成形隙間Lmpは、0.03〜0.30〔mm〕、
(xb) 残留隙間Lmrは、0.01〜0.10〔mm〕、
の各許容範囲を満たすことを条件とする。
【0046】
(B) 生産時には、設定した成形型締力Fcsにより型締を行うこと、成形射出圧力Pisをリミット圧力に設定すること、の成形条件により樹脂Rは単純に射出する。
【0047】
したがって、このような成形方法によれば、射出充填時には、金型2において自然隙間Lm及び自然圧縮が発生する。この結果、射出装置Miにより射出充填される樹脂Rの挙動が不安定であっても、型締装置Mcが不安定な樹脂Rの挙動に適応し、高度の品質及び均質性を有する成形品Gが得られる。
【0048】
次に、具体的な処理手順について説明する。まず、予め、成形条件となる成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを求めるとともに、成形条件として設定する。図8に、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを求めて設定する処理手順を説明するためのフローチャートを示す。
【0049】
最初に、型締装置Mcのトグルリンク機構7のセッティングを行う。即ち、前述した型位置算出式(100)を利用して、トグルリンク機構7が最適な屈曲量となる非ロックアップ状態に型位置Xcを設定する。具体的には、オペレータが、型締力Fc(及び定格トルクTs)を入力すれば、この入力に基づいて型位置算出式(100)による演算が行われ、型位置Xcが算出されるとともに、型厚調整機構25により圧受盤4の位置(型位置Xc)が自動で調整(変更)される。この際、基本的には、型締力Fc=100〔%〕,定格トルクTs=100〔%〕を入力することができるが、必要により、射出成形機Mや成形品等を考慮して、例えば、型締力Fc=90〔%〕,定格トルクTs=90〔%〕のように入力することもできる。また、定格トルクTsは、前述したパラメータK1,K2と同様、予め固定値として登録し、型締力のみを入力できるようにしてもよい。この型位置Xcの設定により、電動駆動部8の負荷トルクTdは定格トルクTs付近又は定格トルクTs以下となるように型厚調整される。特に、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs付近になるように設定を行えば、過負荷を回避しつつトグルリンク機構7の屈曲量を最大にできるため、成形時において、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用を良好に実現する観点から最も大きなパフォーマンスを得れる利点がある。
【0050】
次いで、射出装置Mi側の射出条件となる射出圧力Piを初期設定する(ステップS21)。このときの射出圧力Piは、射出装置Miの能力(駆動力)に基づく射出圧力Piを設定できる。射出装置Miの能力としては、例えば、駆動源として駆動モータ(サーボモータ)を使用している場合には、定格出力(定格トルク)を考慮することができる。さらに、型締装置Mc側の型締条件となる型締力Fcを初期設定する(ステップS22)。このときの型締力Fcは、型締装置Mcの能力(駆動力)を考慮して設定できる。したがって、この場合の設定値は100〔%〕であってもよい。
【0051】
そして、初期設定した型締力Fcに対する最適化処理を行うことにより生産時に用いる成形型締力Fcsを求めるとともに、初期設定した射出圧力Piに対する最適化処理を行うことにより生産時に用いる成形射出圧力Pisを求める(ステップS23,S24)。型締力Fc及び射出圧力Piを最適化する方法の一例について説明する。今、初期設定した型締力Fc及び射出圧力Piを用いて試射した結果、成形隙間Lmp及び残留隙間Lmrはいずれも0となったものとする。したがって、型締力Fcが大きいため、バリは発生しないが、ヒケ,ソリ,ガス抜きに関してはいずれも不良となる。
【0052】
そこで、型締力Fcの大きさ及び射出圧力Piの大きさを、段階的に低下、即ち、型締力Fc〔%〕を、90,80,70…20,10と段階的に低下させ、それぞれの段階で試射を行うことにより、固定型2cと可動型2m間のパーティング開量Lmを測定するとともに、成形品Gの良否状態を観察する(ステップS25,S26)。この場合、射出圧力Piについては、型締力を変更(低下)した際に、適宜、射出圧力Piも変更(低下)し、樹脂Rが金型2に対して正常に充填しなくなる手前の大きさを選択すればよい。そして、求めた成形射出圧力Pisは、生産時の射出圧力に対するリミッタ圧力Psとして設定する(ステップS27)。また、型締力Fcを段階的に低下させた際には、型位置算出式(100)により型位置Xcが算出され、算出された型位置Xcになるように、型厚調整機構25により圧受盤4の位置(型位置Xc)が自動で調整(変更)される。
【0053】
一方、試射の結果、一例として、型締力Fcを20,30〔%〕に設定した際に、成形隙間Lmp及び残留隙間Lmrはいずれも許容範囲を満たした場合を想定する。即ち、成形隙間Lmpは、0.03〜0.30〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲をも満たし、かつ残留隙間Lmrも、0.01〜0.10〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲を満たしたものとする。また、バリ,ヒケ及びソリのいずれも発生しないとともに、ガス抜きも良好に行われ、良品成形品を得たものとする。したがって、成形型締力Fcsは、設定の条件を満たす型締力20又は30〔%〕から選択して設定することができる。そして、選択した型締力Fcは、生産時に型締を行う際の成形型締力Fcsとして設定する(ステップS28)。
【0054】
なお、成形隙間Lmpが、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲を満たすとともに、残留隙間Lmrが、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲を満たすことがバリの発生しない最良成形品を得ることができるが、バリは成形品取出後に除去できるとともに、少しのバリがあっても良品として使用できる場合もあるため、低度のバリ発生は即不良品となるわけではない。したがって、不良品の条件として必ずしもバリを含める必要はない。なお、実際の設定に際しては、例えば、型締力を、30,20,10等のように、数回程度の変更実施により目的の成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisを求めることができる。また、型締力Fc及び射出圧力Piの大きさは、オペレータが任意に設定してもよいし、射出成形機Mに備えるオートチューニング機能等を併用しつつ自動又は半自動により求めてもよい。オートチューニング機能を利用した場合には、バリが発生する直前の型締力Fcを容易に求めることができる。
【0055】
一方、射出装置Miの射出速度Vdに対する速度限界値VLを設定する(ステップS29)。この速度限界値VLは、必ずしも設定する必要はないが、設定することにより、万が一、射出速度Vdが過度に速くなった場合でも、金型2やスクリュ22等に対して機械的な保護を図ることができる。したがって、速度限界値VLには、金型2やスクリュ22等に対して機械的な保護を図ることができる大きさを設定する。さらに、他の必要事項の設定を行う(ステップS30)。他の必要事項の設定としては、補正機能により補正する際に使用する補正係数等を適用できる。以上、ここまでの処理は、本実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法に基づく処理となり、また、本実施形態に係るトグル式射出成形機の成形方法の一部となる。
【0056】
次に、生産時の具体的な処理手順について説明する。図9は、成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisを用いた生産時の処理手順を説明するためのフローチャートを示す。
【0057】
まず、射出装置Miでは樹脂Rを可塑化して射出準備を行う(ステップS31)。本実施形態に係る成形方法では、一般的な成形法のように、樹脂Rを正確に計量する計量工程は不要である。即ち、一般的な計量工程における計量動作は行うが、正確な計量値を得るための計量制御は行わない。いわば樹脂Rが不足する前に樹脂Rを追加する動作となる。また、型締装置Mcのサーボモータ12sを作動させ、型締力が成形型締力Fcsとなるように、金型2に対する型締を行う(ステップS32)。このときの金型2の状態を図10(a)に示す。なお、前述したように、トグルリンク機構7は非ロックアップ状態になっている。
【0058】
次いで、射出装置Miにより金型2に対して樹脂Rの射出充填を行う(ステップS33)。この場合、スクリュは定格動作により前進させればよく、スクリュに対する速度制御及び圧力制御は不要である。これにより、加熱筒内の可塑化溶融した樹脂Rは金型2のキャビティ内に充填される(ステップS34)。樹脂Rの充填に伴い、図7に示すように、射出圧力Pdが上昇する。そして、リミット圧力Psに近づき、リミット圧力Psに達すれば、リミット圧力Psに維持するための制御、即ち、オーバーシュートを防止する制御が行われ、射出圧力Pdはリミット圧力Ps(成形射出圧力Pis)に維持される(ステップS35,S36)。したがって、射出動作では実質的な一圧制御が行われる。なお、図7中、Vdは射出速度を示す。
【0059】
また、金型2のキャビティ内に樹脂Rが満たされることにより、金型2は樹脂Rに加圧され、固定型2cと可動型2m間にパーティング開量Lmが生じるとともに、最大時には成形隙間Lmpが生じる(ステップS37)。この成形隙間Lmpは、予め設定した成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisにより、0.03〜0.30〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.03〜0.20〔mm〕の許容範囲となり、良好なガス抜きが行われるとともに、不良の排除された良品成形が行われる。このときの金型2の状態を図10(b)に示す。一方、時間の経過に伴って、金型2のキャビティ内における樹脂Rの固化が進行するとともに、この固化に伴って、樹脂Rの圧縮(自然圧縮)が行われる(ステップS38)。
【0060】
そして、設定した冷却時間Zcが経過すれば、サーボモータ12sを作動させ、可動型2mを後退させることにより型開きを行うとともに、突出し機構により、可動型2mに付着した成形品Gの突き出しを行う(ステップS39,S40)。これにより、成形品Gが取り出され、一成形サイクルが終了する。なお、冷却時間Tcは、射出開始時点tsからの経過時間として予め設定することができる。また、図7に示すように、冷却時間Zcの経過した時点では、樹脂Rの自然圧縮により、固定型2cと可動型2m間の残留隙間Lmrは、予め設定した成形型締力Fcs及び成形射出圧力Pisにより、0.01〜0.10〔mm〕の許容範囲、望ましくは、0.01〜0.04〔mm〕の許容範囲となり、金型2のキャビティ内における樹脂Rに対する自然圧縮が確実に行われるとともに、成形品Gにおける高度の品質及び均質性が確保される。このときの金型2の状態を図10(c)に示す。この後、次の成形が継続する場合には、同様に、樹脂Rを可塑化して射出準備を行うとともに、以降は、型締、射出、冷却等の処理を同様に行えばよい(ステップS41,S31,S32…)。
【0061】
よって、このような本実施形態に係る射出成形機Mのセッティング方法及び成形方法によれば、トグル式射出成形機Mのセッティングを行うに際し、電動駆動部8の負荷トルクTdが定格トルクTs以下となることを条件に、トグルリンク機構7が非ロックアップ状態となる型位置Xcに型厚調整するとともに、金型2への樹脂Rの充填時に、可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmが生じ、かつ金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮が可能となる成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを設定するようにしたため、トグル式射出成形機Mであっても油圧式射出成形機と同様の作用、即ち、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisとの相対的な力関係により、金型2への樹脂Rの充填時に可動型2mと固定型2c間に所定の隙間Lmを生じさせる作用、及び金型2内の樹脂Rの固化に伴って樹脂Rの自然圧縮を可能にする作用、の双方を実現できるとともに、トグル式の型締装置Mcの能力にマッチングした最適なセッティングを行うことができる。これにより、特に、ヒケの発生しない良好な平坦性(平面性)、更には、成形品の高度の品質及び均質性を確保できる。
【0062】
また、成形に際しては、成形射出圧力Pisと成形型締力Fcsを設定すれば足り、相互に影響し合う、射出速度,速度切換位置,速度圧力切換位置,射出圧力,保圧力等の正確性の要求される射出条件をはじめ、正確な計量が要求される計量値等の計量条件を含む各種成形条件の設定は不要となる。したがって、成形条件のシンプル化及び設定容易化、更には品質管理の容易化を図ることができるとともに、生産時における動作制御も容易に行うことができる。しかも、射出速度に対する多段の制御や保圧に対する制御などの一連の制御が不要となるなど、成形サイクル時間の短縮を図れるとともに、量産性及び経済性を高めることができるという成形に伴う基本的な効果を得ることができる。このため、この成形方法は、特に、温度や圧力等に敏感に影響を受けやすい特性を有する低粘性の樹脂Rの成形に最適となる。
【0063】
他方、図11には、本発明の変更実施形態に係るトグル式射出成形機のセッティング方法をフローチャートで示す。
【0064】
変更実施形態に係るセッティング方法は、型位置Xcとして、電動駆動部8の定格トルクTs又はこの定格トルクTsよりも低い値を目標トルクTtとして設定するとともに、型位置Xcを段階的に変化させ、各型位置Xc…における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置Xc…毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクTsが目標トルクTtに達したなら、このときの型位置Xcよりも手前の段階における型位置Xcを用いるようにしたものである。したがって、このような変更実施形態に係るセッティング方法を用いれば、使用するトグル式射出成形機Mにとっての最適な型位置Xcをその都度得れるため、的確な型位置Xcを用いることができる。
【0065】
以下、具体的な処理手順について説明する。まず、最も小さい値となる最初の型位置Xc(例えば、0.5〔mm〕)を設定する(ステップS51)。次いで、型厚調整機構25を作動させ、設定した型位置Xcとなるように型厚の調整(変更)を行う(ステップS52)。次いで、型締動作を実行し、可動型2mが固定型2cに当接したならその位置に停止するように可動型2m(又はクロスヘッド7h)の位置に対するフィードバック制御を行う(ステップS53)。この場合、可動型2mと固定型2cが当接した際の当接力(型締力)はできるだけ小さい方が望ましい。なお、この際、トグルリンク機構7は非ロックアップ状態になる。
【0066】
次いで、射出装置Miにより溶融した樹脂Rの射出充填を行う(ステップS54)。一方、射出充填時における電動駆動部8(サーボモータ12s)の負荷トルクTdを検出する(ステップS55)。射出充填により金型2内の樹脂圧は徐々に高まるため、電動駆動部8(サーボモータ12s)の負荷トルクTdも対応して増加する。この際、負荷トルクTdと目標トルクTtの関係が、Td≧Ttの条件を満たすか否か、即ち、負荷トルクTdが目標トルクTt以上になるか否かを監視(判定)する(ステップS56)。負荷トルクTdが目標トルクTt以上にならずに射出充填が終了したなら、次の段階、即ち、トグルリンク機構7の屈曲量をより大きくする型位置Xc(例えば、1.0〔mm〕)を設定する(ステップS57,S58)。
【0067】
この後、同様に型厚調整機構25を作動させ、設定した型位置Xcとなるように型厚の調整(変更)を行うとともに、型締動作を実行し、可動型2mが固定型2cに当接したなら、その位置に停止するように可動型2mの位置に対するフィードバック制御を行う。また、射出装置Miにより溶融した樹脂Rの射出充填を行い、負荷トルクTdと目標トルクTtの関係が、Td≧Ttの条件を満たすか否か、即ち、負荷トルクTdが目標トルクTt以上になるか否かを監視(判定)する処理を、Td≧Ttの条件を満たすまで順次繰り返して行う(ステップS52,S53,S54,S55,S56…)。
【0068】
そして、以上の処理により、所定の型位置Xcのときに、Td≧Ttの条件を満たした場合を想定する。この場合、負荷トルクTdが目標トルクTt以上になり、過負荷が生じたことを意味するため、この時点で処理を終了し、直前の段階における型位置Xcを、目的の型位置Xcとして設定する(ステップS56,S59,S60)。なお、最初に設定した型位置Xc(ステップS51)において、Td≧Ttの条件を満たした場合には、異常が考えられるため、この場合には、アラームや処理停止等の必要な異常対応処理を行う(ステップS59,S61)。そして、この後は、前述した図8に示したフローチャートに従って、型締力Fcと射出圧力Piに対する最適化を行い、成形型締力Fcsと成形射出圧力Pisを設定できるとともに、本実施形態に係る前述した成形方法を行うことができる。
【0069】
以上、好適実施形態及び変更実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,手法,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、型位置算出式(100)は、一例であり、必ずしも型位置算出式(100)に限定されるものではない。特に、型位置算出式(100)におけるパラメータK1…の数量は、二つのパラメータK1,K2を例示したが、必要により一つでもよいし、三つ以上でもよい。他方、冷却時間Tcの経過後における可動型2mと固定型2c間に所定の残留隙間Lmrを生じさせることが望ましいが、残留隙間Lmrを生じさせない場合を排除するものではない。また、成形隙間Lmpとして、0.03〜0.30〔mm〕の許容範囲を、残留隙間Lmrとして、0.01〜0.10〔mm〕の許容範囲をそれぞれ例示したが、これらの範囲に限定されるものではなく、新しい樹脂Rの種類等に応じて変更可能である。さらに、成形射出圧力Piは、良品成形可能な最小値又はその近傍の値に設定することが望ましいが、このような最小値又はその近傍の値以外となる場合を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係るセッティング方法及び成形方法は、電動駆動部によりトグルリンク機構を介して金型に対する型締めを行う型締装置を備える各種のトグル式射出成形機に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
2:金型,2c:固定型,2m:可動型,3:固定盤,4:圧受盤,5…:タイバー,6:可動盤,7:トグルリンク機構,7h:クロスヘッド,8:電動駆動部,11:ボールねじ機構,12:駆動モータ,Mc:型締装置,M:トグル式射出成形機,Xc:型位置,R:樹脂,Lm:隙間,G:成形品
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の一方の固定型を支持する固定盤と圧受盤間に架設したタイバーに、金型の他方の可動型を支持する可動盤をスライド自在に装填するとともに、前記圧受盤と前記可動盤間にトグルリンク機構を配設し、前記圧受盤に設けた電動駆動部により前記トグルリンク機構を介して前記金型に対する型締めを行う型締装置を備えるトグル式射出成形機のセッティング方法であって、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク以下となることを条件に、前記トグルリンク機構が非ロックアップ状態となる型位置に型厚調整するとともに、前記金型への樹脂の充填時に、前記可動型と前記固定型間に所定の隙間(パーティング開量)が生じ、かつ前記金型内の樹脂の固化に伴って樹脂の自然圧縮が可能となる型締力と射出圧力を設定することを特徴とするトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項2】
前記電動駆動部は、前記トグルリンク機構のクロスヘッドを進退移動させるボールねじ機構と、このボールねじ機構に回転を入力する駆動モータを備えることを特徴とする請求項1記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項3】
前記型位置は、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク付近となるように型厚調整することを特徴とする請求項1又は2記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項4】
前記型位置は、予め設定した、型締力,定格トルク,及び一又は二以上のパラメータを含む型位置算出式により算出することを特徴とする請求項1,2又は3記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項5】
前記型位置は、前記電動駆動部の定格トルク又はこの定格トルクよりも低い値を目標トルクとして設定するとともに、型位置を段階的に変化させ、各型位置における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクが前記目標トルクに達したなら、このときの型位置よりも手前の段階における型位置を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項6】
金型の一方の固定型を支持する固定盤と圧受盤間に架設したタイバーに、金型の他方の可動型を支持する可動盤をスライド自在に装填し、かつ前記圧受盤と前記可動盤間にトグルリンク機構を配設するとともに、前記圧受盤に設けた電動駆動部により前記トグルリンク機構を駆動して前記金型に対する型締めを行う型締装置を備えるトグル式射出成形機の成形方法であって、予め、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク以下となることを条件に、前記トグルリンク機構が非ロックアップ状態となる型位置に型厚調整するとともに、前記金型への樹脂の充填時に前記可動型と前記固定型間に所定のパーティング開量が生じ、かつ前記金型内の樹脂の固化に伴って樹脂の自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)と射出圧力(成形射出圧力)を設定し、生産時に、前記成形型締力により前記型締装置を型締し、かつ前記成形射出圧力をリミット圧力として設定し、前記射出装置を駆動して前記金型に対する樹脂の射出充填を行った後、所定の冷却時間の経過後に成形品の取出しを行うことを特徴とするトグル式射出成形機の成形方法。
【請求項7】
前記型位置は、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク付近となるように型厚調整することを特徴とする請求項6記載のトグル式射出成形機の成形方法。
【請求項1】
金型の一方の固定型を支持する固定盤と圧受盤間に架設したタイバーに、金型の他方の可動型を支持する可動盤をスライド自在に装填するとともに、前記圧受盤と前記可動盤間にトグルリンク機構を配設し、前記圧受盤に設けた電動駆動部により前記トグルリンク機構を介して前記金型に対する型締めを行う型締装置を備えるトグル式射出成形機のセッティング方法であって、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク以下となることを条件に、前記トグルリンク機構が非ロックアップ状態となる型位置に型厚調整するとともに、前記金型への樹脂の充填時に、前記可動型と前記固定型間に所定の隙間(パーティング開量)が生じ、かつ前記金型内の樹脂の固化に伴って樹脂の自然圧縮が可能となる型締力と射出圧力を設定することを特徴とするトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項2】
前記電動駆動部は、前記トグルリンク機構のクロスヘッドを進退移動させるボールねじ機構と、このボールねじ機構に回転を入力する駆動モータを備えることを特徴とする請求項1記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項3】
前記型位置は、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク付近となるように型厚調整することを特徴とする請求項1又は2記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項4】
前記型位置は、予め設定した、型締力,定格トルク,及び一又は二以上のパラメータを含む型位置算出式により算出することを特徴とする請求項1,2又は3記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項5】
前記型位置は、前記電動駆動部の定格トルク又はこの定格トルクよりも低い値を目標トルクとして設定するとともに、型位置を段階的に変化させ、各型位置における型厚調整及び所定の型締位置における位置制御を行うことにより、各型位置毎に試射を順次行い、試射時における負荷トルクが前記目標トルクに達したなら、このときの型位置よりも手前の段階における型位置を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のトグル式射出成形機のセッティング方法。
【請求項6】
金型の一方の固定型を支持する固定盤と圧受盤間に架設したタイバーに、金型の他方の可動型を支持する可動盤をスライド自在に装填し、かつ前記圧受盤と前記可動盤間にトグルリンク機構を配設するとともに、前記圧受盤に設けた電動駆動部により前記トグルリンク機構を駆動して前記金型に対する型締めを行う型締装置を備えるトグル式射出成形機の成形方法であって、予め、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク以下となることを条件に、前記トグルリンク機構が非ロックアップ状態となる型位置に型厚調整するとともに、前記金型への樹脂の充填時に前記可動型と前記固定型間に所定のパーティング開量が生じ、かつ前記金型内の樹脂の固化に伴って樹脂の自然圧縮が可能となる型締力(成形型締力)と射出圧力(成形射出圧力)を設定し、生産時に、前記成形型締力により前記型締装置を型締し、かつ前記成形射出圧力をリミット圧力として設定し、前記射出装置を駆動して前記金型に対する樹脂の射出充填を行った後、所定の冷却時間の経過後に成形品の取出しを行うことを特徴とするトグル式射出成形機の成形方法。
【請求項7】
前記型位置は、前記電動駆動部の負荷トルクが定格トルク付近となるように型厚調整することを特徴とする請求項6記載のトグル式射出成形機の成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−31952(P2013−31952A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168970(P2011−168970)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】
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