説明

トコフェロールに加えて他の少なくとも1種の薬活性材料も含有する化学化合物

本発明は、ラセミ化合物、鏡像異性体またはジアステレオマー形態の一般式I
【化1】


[式中、Rは、変えられる薬活性材料分子の不変部分を表し、Bはスペーサーを表し、そしてTocは、式
【化2】


(R’、R”およびR’”はHまたはメチルに相当する)を伴ってトコフェロールを表し、そしてAはC=X、SO、XまたはCHを表し、ここで、XはO、SまたはNR(n≧1の時)に相当するか或はSまたはNR(n=0の時)に相当し、そしてBは基X−R−Yを意味し、ここで、YはC=X、SOまたはC(XR)Rに相当し、そしてnは0から6、好適には0、1、2または3に相当し、そしてmは1または2を表し、RはH、CからC10−アルキル、好適にはCからC−アルキル、またはアリールもしくはHet、またはCからC−スペーサー、好適にはCからC−スペーサーを通して結合しているアリールもしくはHet基を表し、そしてRはアルキレン、アリーレンまたはHetスペーサーばかりでなくこれらの組み合わせから成る群から選択され、ここで、後者は互いに直接または基Aもしくは基X−A−Xを通して連結しており、ここで、oおよびpは0、1または2に相当し、そして後者は同じまたは異なってもよく、そしてRおよびRはH、CからC10−アルキル、好適にはC−C−アルキル、またはアリールもしくはHet、またはCからC−スペーサー、好適にはCからC−スペーサーを通して結合しているアリールもしくはHet基を表す]
で表される化学化合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トコフェロールに加えて他の少なくとも1種の薬活性材料(pharmaceutical active ingredient)も含有する化学化合物、これらの化学化合物を製造する方法ばかりでなくそれらを薬剤またはプロドラッグ(prodrugs)として用いることに関する。
【0002】
そのような化学化合物を薬剤またはプロドラッグとして用いると、トコフェロールが抗酸化作用を及ぼし、逆に、もう一方の薬活性材料は、好適には、トコフェロールに直接またはスペーサー(spacer)を通して連結している非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。このように「2種類の薬活性材料の組み合わせを化学的に結合させると」、結果として効果がより高いばかりでなく適合性(compatible)がより高い誘導体がもたらされる。ここで請求する化合物から薬活性材料とトコフェロールが患者である有機体の中で代謝過程、例えば酵素の触媒作用によるエステル加水分解などによって放出された後、前記活性材料とトコフェロールがそれらの公知作用を及ぼし得る。物理化学的パラメーターを最適にすることで融食作用(resorption)を向上させかつ中枢神経系(CNS)による活性材料の吸収を向上させることを通して、そのような効果の向上をもたらす。適合性の向上は、主に、局所的に生じ得る毒性効果が低下したこと、例えばカルボン酸の官能を覆い隠すことによってNSAID成分が胃腸管の中で局所的に誘発する毒性効果が低下したことばかりでなく化合物がCNSに吸収される度合が高くなったことで抹消中の活性材料濃度が低下したことなどに起因し得る。
【0003】
加うるに、本発明は、上述した化学化合物を製造する方法ばかりでなくそれらを中枢神経系の変性疾患、例えばアルツハイマー病、レヴィー小体痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病(舞踏病)、マルチシステム萎縮症(multisystem atrophy)および他の同様な病気、例えばまたTNF(腫瘍壊死因子)−アルファ、IL(インターロイキン)−1ベータ、IL(インターロイキン)−6および/またはIL(インターロイキン)−8によって引き起こされる病気、または他の病気、例えば痛み、糖尿病などを治療または予防するための薬剤物質またはプロドラッグとして用いることにも関する。また、詳細には、本発明に従う化学化合物をラジカルのストレスによる影響を受ける病気、例えば呼吸器系の病気、例えば肺の炎症など、消化器系の病気、血管系の病気、例えば白血病、異常血色素病など、関節組織の病気、例えばリウマチなど、目の病気、例えば白内障などを治療するための薬剤の製造で用いることも本発明の主題である。本発明に従う化学化合物は、明らかに、炎症および/または酸化的ストレスが生じる病気を治療および予防するための薬剤を製造する目的で用いるに適する。従って、本発明は、前文としての条項および以下に記述する条項によって本明細書に包含させる化学化合物の製造そして本化学化合物をあらゆる状態の患者で用いることを包含する。
【背景技術】
【0004】
以下に、本発明の医学的背景をより詳細に説明する。
【0005】
上述した神経変性疾患では炎症過程がいくつかの点で必須な役割を果たす。以前の研究では、脳の中で炎症過程が起こるのは血液脳関門が損傷を受けた場合のみであると考えられていた。しかしながら、後に、脳に固有の炎症過程が起こって持続する可能性があることが確かめられた。
【0006】
現在では、特にアルツハイマー病の場合には病気の開始時そして病気が進行する時に炎症過程が極めて決定的に関与していると認識されている。このことは数多くの疫学的研究で実証されている(非特許文献1、2)。そのようにNSAIDがアルツハイマー病の経過に積極的な効果を示すと言った論文は、また、アルツハイマー患者および神経原線維のもつれ(NFT)とβ−アミロイド斑の両方を有する老齢対照患者(older control patients)の皮質に存在する推定シナプス数(免疫組織学的データまたはシナプスの損失を基に測定)がNFTおよびB−アミロイド沈着の存在と相互に関係するよりも炎症マーカー(inflammation markers)とずっと強力に関係している点でも裏付けされている(非特許文献3)。
【0007】
アルツハイマー病の場合でさえ、炎症反応は、時として、時には既に存在する損傷の後遺症である。それにも拘らず、アルツハイマー病の場合の脳では、いくつかの炎症性疾患、例えば喘息、関節炎などの場合の他の体領域と同様に、炎症が進行する可能性が高くかつその後に前記炎症によって引き起こされる損傷の方が元々の病理学的変化よりも大きいこともあり得る。しかしながら、多くの場合、β−アミロイド斑は必ずしもアルツハイマー病の引き金および進行に充分であるとは限らないと考えられている。これに関連して、炎症反応は確率が高い補足的要因であり、また臨床的症状を呈する必要もある(非特許文献3)。β−アミロイドを食塩水に入れて補体蛋白質を活性化させるとそれの毒性が1000xに及んで高くなることは有利である(非特許文献4)。凝集しているβ−アミロイドが示す毒性の方が凝集していないβ−アミロイド(より容易に溶解する)のそれよりも有意に高い。補体蛋白質Clqがβ−アミロイドの凝集度合を高めることをインビトロで立証することができた(非特許文献5)。このことは特に凝集しているβ−アミロイドがClqを活性にすると考えるならば重要であると思われる(非特許文献6)。β−アミロイドに加えて、また、神経変性で必須な役割を果たすタウ病変(tau pathology)も炎症過程および補体系の活性化に密に関係している(非特許文献7)。
【0008】
炎症過程の場合、炎症を支持するサイトカイン(pro−inflammatory cytokines)、例えばインターロイキン1、いろいろな細胞型の腫瘍壊死因子アルファなどが相当する刺激(これには、例えばリポ多糖体ばかりでなくいろいろな形態の細胞ストレスが含まれる)に反応して放出される。上述した神経変性過程に加えて、上述したようにサイトカインの放出量が高くなることも、いろいろな病気、例えば関節リウマチ、パジェット病、骨粗鬆症、多発性骨髄腫、ブドウ膜炎、急性もしくは慢性の骨髄性白血病、ベータ細胞の損失(またインスリン依存性糖尿病の徴候も伴う如き)、変形性関節症、リウマチ様脊椎炎、尿酸性関節炎、炎症性腸疾患、成人呼吸窮迫症候群、乾癬、クローン病、アレルギー性鼻炎、潰瘍性大腸炎、過敏症、接触性皮膚炎、喘息、筋肉変性、悪液質、ライター症候群、インスリン依存性および非依存性糖尿病、拒絶反応、虚血後の再潅流障害、アテローム性動脈硬化症、脳外傷、多発性硬化症、脳マラリア、敗血症、敗血症性ショック、毒素性ショック症候群、感染誘発熱および筋肉痛などばかりでなくいろいろなウイルス(HIV 1、HIV 2、HIV 3、CMV、インフルエンザウイルス、アデノウイルスおよびヘルペスウイルス)による感染に関連している。従って、本発明は、また、本発明に従う化学化合物を上述した病気を治療するための薬剤を製造する目的で用いることにも関する。
【0009】
神経変性疾患では、初期段階および後期段階の両方で酸化的ストレスが特に重要な要因に相当する(非特許文献8)。特に中枢神経系は数多くの解剖学、生理学および生化学特性が理由でラジカルによって引き起こされる損傷に関して危険であることが示唆されている、即ち特に脳が消費する酸素の量は他の体領域に比較して多い。これを数で表すと体重のほんの2%が要求するOの比率が総Oの20%であることを意味する。その結果として特にラジカルが発生する可能性が高い。これに関連して、いくつかの細胞成分が酸化的ストレスによって変化することが立証されている:即ち蛋白質(非特許文献9)、脂質(非特許文献10、11、12)、核に加えてミトコンドリアのDNA(非特許文献13、14)およびRNA(非特許文献15)が影響を受けることが文献に繰り返し示されている。予防手段に関して、卒中の危険性を軽減するには酸化的ストレスを低くするのが非常に有効である(非特許文献16、17)。しかしながら、虚血中および虚血直後にもまたラジカル酸素化合物(ROS)が生じ、これは神経細胞の生存率に有害な影響を与える。たいてい、それによってもたらされる細胞生物学的変化が持続する期間の方がエキサイトキシティー(excitoxicity)自身のそれよりも長い。低酸素状態の時に起こる脂質過酸化反応過程中に毒性のある反応生成物、例えばアルデヒド4−ヒドロキシノネナールなどが生じ、それによって細胞の壊死およびアポトーシスによる死滅の両方がもたらされる(非特許文献12)。また、急性期中に存在する他の因子も抗酸化作用を有する物質によって決定的な度合で肯定的な影響を受け得る可能性が高い(非特許文献18)。従って、卒中によって引き起こされる損傷の場合、最初の数時間の間、酸化的ストレスが重要な役割を果たし、かつ数日後でも、反応生成物の寿命が長いことで重要な役割を果たす。
【0010】
8−ヒドロキシグアノシン(8OHG)の含有量を測定することで、酸化的ストレスが高いことがアルツハイマー病の極初期の特徴であることを立証することができた(非特許文献19)。アルツハイマー病に関して最も認められている2つの理論の主要な成分、即ちβ−アミロイド病変およびタウ病変の両方が生じることと酸化的ストレスとの関連性はいくつかの参考文献に示されているように低い(非特許文献20)。特に、アルツハイマー病の初期、即ち細胞外βアミロイド沈着が生じる前でさえ、それによってβ−アミロイドが細胞内に集中する(非特許文献21)。また、そのような病気では酸化的ストレスが特に初期段階中に顕著であることから、例えばβ−アミロイドが金属イオンと結合することによる連結(非特許文献19)または神経原線維のもつれ(非特許文献22)の後に過酸化水素が直接生じ得る可能性も非常に高い。ミトコンドリアの機能不良が別の説明であり、これは、そのような初期にラジカルのストレスが増強された形態で生じることで容易に立証可能である(非特許文献23)。
【0011】
α−シヌクレイン(Synuclein)、即ちまた凝集する傾向が高い蛋白質もまた結果として酸化的ストレスを高め、これはパーキンソン病の病理学の焦点である。インビボ研究およびインビトロ研究は時にはα−シヌクレインと直接には関係していないが、パーキンソン病の進行において酸化的ストレスが初期の非常に顕著な検出可能パラメーターであることを示している(非特許文献24、25、26)。
【0012】
上述した病気に加えて、神経変性病の分野でも、酸化的ストレスによって不整脈、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、肺の炎症、脳浮腫、出血性および非出血性梗塞、例えば卒中など、胃粘膜の病気、膵臓の病気、肝硬変、白血病、異常血色素病、敗血症、いろいろな形態の糖尿病、ストレス反応、分泌系の病気、例えば腎臓の炎症、腎不全など、支持器官(supporting apparatus)の病気、例えばリウマチなど、感覚器官の病気、例えば白内障などになる可能性があるか、或は酸化的ストレスがそのような病気の進行の大きな一因になるか或はさもなければ回復期過程に影響を与える可能性がある。
【0013】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を長期に渡って用いると、それは極めて顕著な胃毒性(gastrotoxicity)を伴う。それによる治療期間がより長くなると、結果として、胃粘膜の刺激、胃の出血ばかりでなく潰瘍の発生が比較的頻繁に起こってしまう。NSAIDは胃潰瘍および十二指腸潰瘍の2番目の最も一般的な原因である。出血が起こると生命にかかわる可能性がある。このことは大きな問題に相当する、と言うのは、神経変性疾患の場合に有効な治療はほとんどが長期の治療のみであると思われるからである。
【0014】
薬剤の副作用に関しては、NSAID、例えばイブプロフェンなどが統計学的に主要な位置を占めている。NSAIDの副作用に関してNew England Journal of Medicineに示されている報告では、米国において壊死で死亡する人は毎年16000人である。(非特許文献27)。
【0015】
文献に示されているように、いくつかのイブプロフェン誘導体が示す毒性の方がイブプロフェンのそれよりも有意に低い(非特許文献28)。
【0016】
上述したように、中枢神経系の変性病を治療する目的でNSAIDを用いることは著しく有利でありかつ現実に可能である。既に述べたように、抗酸化効果を有する物質、例えばビタミンEなどもまた将来性のあるアプローチである。しかしながら、この2種類の治療手段の効果は、そのような活性物質、特にNSAIDが血液脳関門を通り抜けてCNSの中に入り込むことができるとしても非常に限られた度合のみであると言った点で制限されている。
【0017】
血液脳関門通過を向上させる方策は、プロドラッグ(produrgs)、即ち自身が示す生物学的活性は僅かのみであるか或は全くない化合物を生じさせる方策である。実際に活性のある材料が放出されるのは代謝過程によってのみであり、その後、それらが作用を及ぼし得る(非特許文献29)。請求する化合物はいわゆる「互いが担体のプロドラッグ(Carrier−Mutual Produrgs」、即ちNSAIDとトコフェロールのそれぞれが本発明に従うもう一方の成分の担体であるとして見なすことができる。本化合物の特性を大きな度合で変えることができるようにする目的で、活性材料の基と基の間にスペーサー(spacer)を補った2成分プロドラッグ、従って3成分プロドラッグもまた本発明に従う誘導体に相当する。そのようなスペーサーによって融食作用およびCNS近接性(accessibility)ばかりでなくまた加水分解の度合および速度も変えることができる。
【非特許文献1】McGeer、1992
【非特許文献2】Akiyama 2000
【非特許文献3】Rogers他、1995
【非特許文献4】Shalit他、1994
【非特許文献5】Webster他、1994
【非特許文献6】Jiang他、1994
【非特許文献7】Shen他、2001
【非特許文献8】Butterfield他、2002
【非特許文献9】MarkesberyおよびCarney 1999
【非特許文献10】Sayre他、1997
【非特許文献11】Montine他、1998
【非特許文献12】McKracken他、2001
【非特許文献13】Mecocci他、1994
【非特許文献14】Gabbita他、1998
【非特許文献15】Nunomura他、1999
【非特許文献16】ChenおよびZhou、2001
【非特許文献17】Mattson他、2001
【非特許文献18】El KossiおよびZakhary M.M.、2001
【非特許文献19】Nunomura他、2001
【非特許文献20】Pappolla,M.A.他、2002
【非特許文献21】Gouras他、2000
【非特許文献22】Sayre他、2000
【非特許文献23】Hirai他、2001
【非特許文献24】Migliore他、2002
【非特許文献25】Munch他、2000
【非特許文献26】RoghaniおよびBehzadi、2001
【非特許文献27】Wolfe他、1999
【非特許文献28】Lolli他、2001
【非特許文献29】Albert、1958
【発明の開示】
【0018】
ラセミ化合物、鏡像異性体およびジアステレオマーばかりでなく生理学的に無害な塩および溶媒和物の形態、特に水化物に加えてアルコールとの付加化合物の形態の一般式Iで表される化学的化合物が本発明の主題である。本化合物は、この化合物の中に薬活性材料「R−A」に加えてトコフェロール「Toc」が存在していてこれらが式
【0019】
【化1】

【0020】
に従って酸素原子によって場合により1個以上のスペーサーBを通して互いに連結していることで区別される。
【0021】
基Rは、変えられる薬活性材料分子の不変部分を表す。このように、構造R−A−OH[部分的構造「A」をC=XまたはSOとして表すことができる場合]またはR−AH[A=Xの場合]は用いる薬活性材料に起因し得る。
【0022】
Rの記号は、特に、NSAID、例えばアセチルサリチル酸、ジクロフェニックアシッド(diclofenic acid)、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ナプロキセンおよびこれらの誘導体、特にインドメタシンの還元生成物(この場合にはCON部分構造が形式的に−CHNに置き換わる)およびケトプロフェンの還元生成物(この場合にはケト−カルボニル基が形式的に−CH(OH)−または−CH−に置き換わる)などのアシル基を表す。
【0023】
省略形Tocはトコフェロール基を表し、ここで、R’、R”およびR’”はHまたはメチルを意味する。下記の式から分かるであろうように、これには不斉C原子が3個存在し、従ってジアステレオマー形態が8個存在する。本発明に従い、あらゆるジアステレオマーばかりでなくこれらの混合物も請求する。
【0024】
【化2】

【0025】
本発明は、あらゆる可能なラセミ化合物、鏡像異性体およびジアステレオマーに関して一般式Iで表される化学化合物を包含する。式Iで表される化合物の中に酸性もしくは塩基性の部分構造が存在する場合(例えばメフェナム酸またはジクロフェニックアシッドの誘導体の場合)、それらの生理学的に無害な塩もまた本発明の主題である。加うるに、また、本発明は、化合物Iおよびこれらの生理学的に無害な塩ばかりでなく溶媒和物、特に水化物およびアルコール付加化合物も包含する。
【0026】
基が数カ所に存在し得る場合、例えば置換基「X」などの場合、それらの全部に関して、それらの意味は互いに独立していることが適用される。
【0027】
AはC=X、SO、XまたはCHを表し、ここで、
XはO、SまたはNR(n≧1の時)を表すか或はSまたはNR(n=0の時)を表し、
Bは基X−R−Yを表し、ここで、
YはC=X、SOまたはC(XR)Rを表し、
nは0、1、2、3、4、5または6を意味し、好適には0、1、2または3であり、
mは1または2(好適)を表し、
はH、C−C10−アルキル基(好適にはC−C−アルキル基)、アリール基、Het基、またはC−C−スペーサー(好適にはC−C)を通して結合しているアリールもしくはHet基を表す。
【0028】
はアルキレン、アリーレンまたはHetスペーサーを表すか、或はそれらの組み合わせを表し、ここで、後者は互いに直接にか或はこの上でAとして定義した官能または基X−A−Xを通して連結している。前記スペーサーは基「アルキル」、「アリール」および「Het」と同様に定義可能である。
【0029】
oおよびpは0、1または2を表し、これらは同じまたは異なっていてもよい。
【0030】
およびRはH、C−C10−アルキル基(好適にはC−C−アルキル基)、アリール基、Het基、またはC−C−スペーサー(好適にはC−C)を通して結合しているアリールもしくはHet基を表す。
【0031】
アルキル基を、少なくとも1つの位置が好適にはF、Cl、Br、CN、NO、NR、CHO、SOアルキル、OR、COR、COOR、COCORまたはCONRで置換されているか或は置換されていない非分枝、分枝または環状の飽和または二重および/または三重結合を伴う部分不飽和炭化水素として定義する。このアルキル基が置換基を2個以上含有する場合、後者は同じまたは異なってもよい。このようなアルキル基は好適にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、シクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルである。
【0032】
アリール基は、少なくとも1つの位置が好適にはF、Cl、Br、CN、アルキル、CF、NO、NR、CHO、SOアルキル、OH、OR、COR、COOR、COCOR、CONRまたはCSNRで置換されているか或はアリールもしくはHetで置換されているフェニル基または置換されていないフェニル基を表す。前記フェニル基は追加的環と縮合していてもよい。
【0033】
Het基は、5から10個の環員を有することに加えてヘテロ原子、好適には窒素、酸素および/または硫黄を少なくとも1個有しかつ場合により炭素環状化合物もしくは複素環式化合物が縮合していてもよい一環状もしくは二環状の飽和、不飽和もしくは芳香複素環式化合物を表す。
【0034】
およびRはH、C−C10−アルキル基、好適にはC−C−アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、またはC−Cスペーサー、好適にはC−Cスペーサーを通して結合しているアリールもしくはヘテロアリール基を表す。
【0035】
加うるに、本発明は、一般式(I)で表される化学化合物を製造する方法にも関する。
【0036】
A=COでn=0の本発明に従うタイプI−1の化合物(このような化合物の場合のそれらはO−アシルトコフェロールである)を製造しようとする場合には異なる方法を用いることができる。原則として、2種類の変法を利用することができる、即ち一方ではトコフェロールを相当する遊離カルボン酸と直接反応させることによるエステル化を利用することができ、他方では、トコフェロールのフェノール誘導体に活性カルボン酸誘導体によるアシル化反応を受けさせることを利用することができる。そのような変法を以下により詳細に示す。
【0037】
【化3】

【0038】
A)請求するタイプI−1の化合物の合成は遊離カルボン酸から出発してそれをトコフェロールと反応させることで実施可能である。
【0039】
【化4】

【0040】
例えば、このような変法では下記の手順が適切である:
A1) 反応を有機縮合剤の存在下で実施する。適切な縮合剤の例はジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、チオニルジイミダゾール(ThDI)および1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール(HBT)である。
A2) 反応を無機縮合剤、例えば無機無水物、例えば五酸化燐など、または無機酸ハライド、例えばオキシ塩化燐などの存在下で実施する。
A3) 反応を酸触媒を用いた縮合反応として実施する。この目的で、非酸化性の強酸を触媒量で添加するのが適切である。それは無機性質(例えば濃硫酸)および有機性質(例えばベンゼンスルホン酸またはトルエンスルホン酸)の両方であり得る。この方法では縮合反応中に生じた水を例えば共沸蒸留および水分離器を用いた分離などで連続的に除去するのが価値有ることであることを確かめた。
【0041】
不活性溶媒または溶媒混合物中で実施可能であるが、しかしながら、場合により溶媒を存在させなくても実施可能である。この反応をA)に従って実施する場合には成分が反応性を示すばかりでなく溶媒を用いることから反応を−10から250℃で実施する、即ち反応は一般に低温(一般に室温)でも起こり、そしてB)もしくはC)に従うエステル化の場合には通常は相対的に過激な条件が必要であり、これは主に変法C)に当てはまる、と言うのは、その場合には水を蒸留で連続的に分離する必要があるからである。
【0042】
B)カルボン酸がアシル化反応で示す反応性は一般に相対的に低いことから、通常はカルボン酸誘導体を用いる。以下に主張する方法は、より高い反応性を示すカルボン酸誘導体を用いる方法である。また、そのような活性化された化合物をインサイチュで生じさせ、そのような誘導体を反応混合物から単離しないで更に求核性トコフェロールと直接反応させることで、請求する構造Iで表される化合物を生じさせることも可能である。
【0043】
【化5】

【0044】
A=COでn=0の本発明に従うタイプIの化合物の製造方法の例を以下に示す。
B1) 酸ハライド、通常は酸クロライドまたは酸ブロマイドを用いたエステル合成を塩基(通常はトリエチルアミン、トリエチルアミン/4−ジメチルアミノピリジン、ピリジン、ピリジン/4−ジメチルアミノピリジン、N−メチル−モルホリン、ヒューニッヒ塩基)の存在下で実施するのが特に良好に価値が有ることを確かめた。酸ハロゲン化物の生成では、無機性質(例えば塩化チオニル)または有機性質(例えば塩化オクザリルまたは2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン)のいろいろな反応体を用いることができ、1槽方法でエステルを合成しようとする場合にもまた特に2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンによる活性化が非常に良好であり、この場合には主に酸クロライドが生じた後にそれが直接更に反応する。
B2) 代替として、トコフェロールに酸無水物によるアシル化を受けさせることを通して目標の化合物を製造することも可能である。この反応を場合により塩基、例えばピリジンなどを添加して実施してもよい。この方法に従うアシル化剤として、薬剤物質の高純度無水物ばかりでなく混合無水物も適切であり、好適には薬剤物質の無水物とカルボン酸モノエステルを用いる。
B3) 請求するタイプIの化合物を再エステル化で生じさせる:このような方法では、容易に開裂し得るエステル(例えばメチルエステルまたはエチルエステルばかりでなくまたチオエステル)をトコフェロールと反応させる。
B4) 代替技術は、最初にトコフェロールのフェノール官能に脱プロトンを受けさせた後に生じたフェノラートを活性酸誘導体(特に酸クロライドまたは酸無水物)と反応させることで相当する目標化合物に変化させることで区別される。
【0045】
この上に示したように、この上で行った記述はX=COでn=0の化合物、即ちエステルに当てはまる。基「A」が他の官能の1つを表す誘導体は、一般に公知の方法に類似した様式で入手可能であり、それらを標準的な研究、例えば「Houben−Weyl:Methoden der Organischen Chemie[有機化学方法]」、Georg Thieme Verlag、Stuttgartなどの中に見つけだすことができる。
【0046】
加うるに、この上に記述したカルボン酸エステルに後で誘導化(derivatize)を受けさせることも可能である。これは特に−COOToc部分構造に還元を受けさせて−CHOTocを生じさせることを包含する。従って、このような後の誘導化が直接的エステル化の変法に相当する。化合物R−CHOHは、例えば生物学的に活性なカルボン酸の還元形態になり得る。
【0047】
n≧1の本発明に従う構造Iで表される化合物の製造を、形式的に、成分である活性材料(構造I中の不変部分をRと呼ぶ)とスペーサー(B)とトコフェロールを用いて実施する。これらの成分の連結はいろいろな方法およびいろいろな順で実施可能である。必要な反応段階は、構造Iで表される化合物の中のそのような置換基、特に「A」およびスペーサー「B」に依存する。このような反応段階には酸化、還元、エーテル開裂、アシル化、アルキル置換などの過程が含まれ、それらは本分野の技術者に良く知られている。また、保護基、特に標準的なヒドロキシルおよびアミノ保護基の使用も必要であり、例えばヒドロキシル官能の場合にはp−メトキシベンジル基を保護基として用いるのが特に好適であることに加えて、アミノ保護基としてはベンジル基が特に好適である。
【0048】
以下に示す図式では、化合物Iを生じさせるに適した変法をいくつか示す。しかしながら、これらの変法は単に説明の目的で用いるものであり、本発明の範囲を後者に限定するものでない。
【0049】
これらの反応では一般に二官能誘導体をしばしば用いることを注目すべきである。前記に従い、如何なる場合にも相当する成分自身が反応しない、即ち分子間反応も分子内反応も起こらない、即ち二官能成分に存在する官能の一方のみが誘導化を受けるような条件を選択する。これは一方では反応条件、例えば反応温度、溶媒、補助用塩基または補助用酸、触媒および/または反応時間などを選択によってできるだけ好ましくなるように実施するか或は適切な保護基を用いることで達成可能である。保護基技術の使用は単離した生成物および反応混合物の両方に可能であり、また、同じことが保護基の開裂にも当てはまる。明瞭さの目的で保護基を反応図式には全く示さない。しかしながら、多くの場合、そのような技術を排除するのは不可能である。保護基が必要な時に問題になる配合が決まっている場合にどの保護基を用いると最良の結果を達成することができるかを本分野の技術者は認識するであろう。保護基を用いた研究の例をまた合成実施例にも示す。加うるに、示した成分1種または2種以上に場合により主に活性化を受けさせる必要があることも注目すべきである。それが必要な場合にどのような活性化方法を実施することができかを本分野の技術者は認識するであろう。必要に応じて公知の変換反応を用いて活性化を実施することができる。
【0050】
以下の図式3にそのような「3成分生成物」(スペーサー成分を伴う化合物)を生じさせるに適したいろいろな変法を示す。
【0051】
【化6】

【0052】
n≧1のタイプIの化合物を多段階で合成する変法では、図式に示すように、最初にスペーサー−トコフェロール付加体の生成を示す。その後に活性材料と反応させることで基Rを導入し、このようにして本発明に従う化合物Iを生じさせる。加うるに、このような変法Cは、前記成分の中のどれに脱離基を持たせるか、即ち脱離基を持たせるのは導入すべき活性材料であるか或はスペーサー成分であるかそして使用する化合物の中のどれに受容体官能を持たせるかによって区別され得る(過程C1およびC2を参照)。代替手順を変法Dに見ることができる。この場合には、最初に活性材料とスペーサーを互いに連結させた後、最終的にトコフェロールのみと反応させる。方法D1とD2の別の相違点をこの上に記述した方法Cと同様にして実施する。個々の成分を連結させるに必要な反応段階は、関係する化合物の中に存在する置換基に依存し、主にアシル化反応およびアルキル置換反応が必須な役割を果たす。このような反応スキームは文献に記述されている方法に類似した様式で実施可能である。後者は本分野の技術者に公知であり、さらなる記述は全く必要ないであろう。
【0053】
このような反応スキームを、また、2成分中間段階物を単にインサイチュで生じさせた後に反応混合物から単離することなく更に反応させることができる様式で実施することも可能である。この記述した合成変法の中の1つの適切さまたは好適さに関する一般的評価を行うのは不可能である。むしろ、例えば必要な出発材料の利用性または後者の入手性および各場合に必要な保護基技術の利用性などによって適切な過程の選択が生じる。必要な出発材料は一般に公知または商業的に入手可能であり、未知の遊離体(educts)は公知方法に類似した様式で製造可能である。
【0054】
請求する化合物の合成をまた前記3成分を適切な反応条件下で用いて直接行うことも可能であるが、その場合には例えば結果として得られる所望化合物の収率が低くなってしまう。
【0055】
A=COでn=1でB=O−CHCOのタイプIの化合物である構造I−2で表される化合物を基にして、請求する化合物を合成する時の鍵となる段階を以下により詳細に説明する。しかしながら、この目的で選択する物質の種類も示す実施例も単に説明の目的で用いるものであり、本発明をそれらの範囲に限定するものでない。以下に行う記述もまた置換誘導体に直接または若干の修飾を伴わせて割り当て可能である。
【0056】
【化7】

【0057】
化合物I−2ではグリコール酸成分をスペーサーとして存在させるが、この成分の導入はこの上で考察した変法に相当するいろいろな様式で実施可能であり(この時点では保護基を示さない)、例えば
・ A1−A3の下に記述した方法の1つに従って活性グリコール酸もしくは遊離グリコール酸をトコフェロールと反応させた後に活性材料R−COOHまたはこれの活性誘導体と反応させることによるO−アシル化を起こさせる(=変法C1)
・ 最初にα−ハロ酢酸もしくは活性誘導体、例えばα−ハロアセチルハライドなどと反応させるが、2個のハロゲン原子が示す高い反応性は異なることから、トコフェロールによるアシル化のみが起こり、その後、この場合には、遊離活性材料(R−COOH)との反応を塩基存在下の適切な反応条件下で起こさせることで、活性材料分子のカルボン酸官能にアルキル置換を受けさせる(=変法C2)
・ 最初にR−COOHもしくは活性誘導体とグリコール酸を反応させることで活性材料分子にアシル化を受けさせた後にトコフェロールにO−アシル化を適切な反応条件下または前以て活性化を受けさせておいた後に起こさせる(変法D1)
・ 活性材料にα−ハロ酢酸または誘導体(しかしながら活性化されていない)によるアルキル置換反応でエステル化を受けさせた後にトコフェロールのアシル化を起こさせる(変法D2)。この場合、例えば活性化を2番目の段階の前に行う。
【0058】
また、CまたはDで用いた遊離体から出発してあらゆる成分の直接的反応を実施することも可能である。
【0059】
ここに考察した変法を以下の図式4に示す。
【0060】
【化8】

【0061】
そのような合成方策の1つ(D2)(この時には保護基を考慮に入れる)を以下の実験の下で実施例を基にしてより詳細に説明する(また図式5も参照)。しかしながら、記述した他の方法または他の類似した方法の中の1つに比べて必ずしもそれから方法の好適さを引き出すことができるとは限らない。
【0062】
実験の下に示す方法に従ってそのような二重カルボン酸エステルを構築しようとする場合の最初の段階は酸性の活性材料とスペーサーを連結させる段階である。このような活性材料−グリコール酸エステルの製造は例えばアルキル置換反応などで実施可能である。遊離のα−ハロ酢酸を用いると望ましくない副生成物が生じる可能性があり、カルボン酸官能を保護しておいた化合物の使用が価値有ることを確認した。追加的合成段階に関して、非常に穏やかな反応条件下で開裂し得る保護基を選択することができる。例えば、適切なベンジルエステルはそのような要求を満足させる、と言うのは、そのようなエステルは経験から選択的に開裂し得ることが分かっているからである。
【0063】
O−アシル化グリコール酸ベンジルエステルを生じさせようとする場合には、個々の活性材料、例えば相当するNSAIDなどの溶液を補助用塩基と混合した後、生じたカルボン酸塩アニオンをブロモ酢酸ベンジルエステルと反応させることで相当するO−アシル化グリコール酸エステルに変化させる。
【0064】
その保護基を水素添加分解で開裂させた後にカルボン酸官能を例えば相当する酸クロライドなどに変化させることで活性化させ(これは例えば遊離カルボン酸を2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンおよびN−メチルモルホリンと反応させることなどで実施可能である)、それにトコフェロールによるエステル化を受けさせることで、ここに請求する3成分プロドラッグを得ることができる。
【0065】
【化9】

【0066】
置換様式に応じて、記述するタイプIの化合物ばかりでなくそれらの前駆体にさらなる官能化(functionalized)を文献で公知の方法に従って受けさせることも可能である。このような誘導化には酸化、還元、エーテルの開裂、アシル化、アルキル置換などの過程が含まれ、これらは本分野の技術者に良く知られている。
【0067】
そのような担体結合プロドラッグ(carrier−linked prodrugs)に加えて、また、バイオプレカーサー(bioprecursors)として見なすことができる、即ち加水分解以外の代謝で相当する2成分もしくは3成分プロドラッグに変化するか或は活性材料に直接変化し得る化合物も請求する。しかしながら、以下に示す化合物は、そのような種類のバイオプレカーサーと担体が組み合わされたプロドラッグ(combined bioprecursor−carrier prodrug)の単なる例であり、本発明の範囲をそのような範囲に限定するものでない。
【0068】
NSAIDであるケトプロフェンに存在するケト官能が例えば誘導化の任意選択であり、後者を還元によって相当するアルコールまたはメチレン基に変化させることができる。更に、有機体の中でベンズヒドロールまたはジフェニルメタン部分構造が酸化されてベンゾフェノン構造が生じ得る。
【0069】
そのようなバイオプレカーサーと担体が組み合わされたプロドラッグの製造は還元反応で実施可能でありかつこの還元反応はいろいろな段階で実施可能である。記述した合成手順には水添段階が含まれていることから、その段階でケトンに還元を受けさせるのが有利である。
【0070】
【化10】

【0071】
新規な2成分および3成分プロドラッグを合成する方策の例
以下に本発明を実施するに適した態様を基にして本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本実施例は単に説明の目的で用いるものであり、本発明の範囲をそれの範囲に限定するものでない。
例としてNSAID−トコフェロール−エステルの2成分プロドラッグを合成する方法
1槽方法:
40mlのアセトニトリルの中に個々のカルボン酸を1.3当量(2.80−4.85ミリモル)入れて懸濁させ、0.33当量(0.72−1.24ミリモル)の2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンに加えて1.1当量(2.37−4.10ミリモル)のN−メチルモルホリンと一緒に混合した後、室温で2.5時間撹拌する。1.0当量(2.15−3.73ミリモル)のα−トコフェロール(約5mlの無水ジクロロメタンに溶解)および触媒量の4−ジメチルアミノピリジンを加えた後の反応バッチ(batch)を45−50℃に加熱して、この温度で変換ができるだけ完了するまで撹拌する(反応を薄層クロマトグラム=TLCで監視)。
【0072】
処理では、溶媒を真空下で留出させた後、その残留物をジクロロメタンで取り上げる。その有機相を2Mの塩酸そして飽和重炭酸ナトリウム溶液で洗浄した後に水で中性になるまで洗浄し、飽和塩化ナトリウム溶液で予備乾燥させ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留出させる。次に、そのようにして得た粗生成物を例えばカラムクロマトグラフィーなどで精製する。
2段階合成:
1当量の個々のカルボン酸を、標準的な方法の1つを用いて、即ち例えばそれを塩化チオニルまたは塩化オクザリルなどで処理することなどで、相当するカルボン酸クロライドに変化させる。反応が完了した後に得た粗生成物は相当する求核剤(例えばα−トコフェロール)にアシル化を受けさせる目的で直接または精製(好適には蒸留による)後に使用可能である。アシル化では、ほぼ等しい量の活性カルボン酸と求核剤を補助用塩基(好適にはトリエチルアミンまたはピリジン)の存在下で不活性溶媒(例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなど)中で反応させる[場合によりアシル化用触媒(好適には4−ジメチルアミノピリジン)を添加した後に]。
【0073】
このようにして製造可能な化合物のいくつかの例を以下に示す:
【実施例1】
【0074】
【化11】

【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【実施例2】
【0077】
【化12】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【実施例3】
【0080】
【化13】

【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【実施例4】
【0083】
【化14】

【0084】
【表7】

【0085】
【表8】

【0086】
例としてNSAID−グリコール酸−トコフェロールエステルの3成分プロドラッグを合成する方法
ベンジルエステルの製造
20mlの無水N,N−ジメチルホルムアミドの中に個々のカルボン酸を1当量(4.5−9.0ミリモル)入れて懸濁させ、1.5当量(6.75−13.5ミリモル)の炭酸カリウムおよびスパチュラ先端部1杯量のヨウ化ナトリウムと一緒に混合する。次に、絶えず撹拌しつつ氷で冷却しながら、5.0当量(22.5−45.0ミリモル)のブロモ酢酸ベンジルエステル(10mlの無水N,N−ジメチルホルムアミドに溶解)を1時間以内に滴下する。このバッチを変換ができるだけ完了するまで撹拌し、反応時間は16−18時間(TLCで反応を監視)である。
【0087】
反応が終了した後の反応溶液を約50mlの氷水に加えると沈澱物が生じ、後者を吸引を伴わせて濾別した後、水で数回そして石油エーテルで洗浄する。得た粗生成物をジイソプロピルエーテルから再結晶化させ、得た高純度物質を乾燥器内で一定重量に到達するまで乾燥させる。
【0088】
沈澱物が生じた場合には、水相をジクロロメタンで徹底的に抽出する。その有機相を一緒にして飽和塩化ナトリウム溶液で数回洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させる。次に、溶媒を留出させる。N,N−ジメチルホルムアミドはカラムクロマトグラフィーを乱す影響を有することから、それを除去する目的で、その残留物をエーテルで取り上げた後、そのエーテル相を水に加えて飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄する。無水硫酸ナトリウムを用いた乾燥を行った後、溶媒を留出させ、そして得た粗生成物をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、LM:1)PE(ブロモ酢酸ベンジルエステルを溶離させる)、2)エーテル(生成物を溶離させる)]で精製する。
水添による保護基の開裂
150mlのテトラヒドロフランに個々のベンジルエステル誘導体を1.0当量(4.92−8.17ミリモル)に入れて溶解させ、窒素で3分間覆った後、活性炭に担持されているパラジウムをベンジルエステル1g当たり0.2g混合する。高くて50Psiの圧力下で振とうを絶えず行いながらそれに水添を室温で受けさせる(反応時間:2.5−24時間、反応をTLCで監視する)。
【0089】
反応が終了した後の溶液を再び窒素で覆い、触媒を濾別した後、溶媒を真空下で留出させる。得た粗生成物を適切な溶媒(例えばジイソプロピルエーテル)を用いた再結晶化またはカラムクロマトグラフィーのいずれかで精製する。
活性化そしてトコフェロールによるエステル化
40mlのアセトニトリルの中に個々のグリコール酸誘導体を1.3当量(1.50−3.98ミリモル)入れて懸濁させ、0.33当量(0.38−0.97ミリモル)の2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンおよび1.1当量(1.27−3.20ミリモル)のN−メチルモルホリンと一緒に混合した後、室温で2.5−3時間撹拌する。1.0当量(1.15−2.91ミリモル)のα−トコフェロール(約5mlの無水ジクロロメタンに溶解)およびスパチュラ先端部一杯量の4−ジメチルアミノピリジンを加えた後の反応バッチを45−60℃に加熱して、変換ができるだけ完了するまで撹拌する:反応時間は17−65.5時間である(反応をTLCで監視)。
【0090】
処理では、溶媒を真空下で留出させた後、その残留物を酢酸エチルで取り上げ、その有機相を2Mの塩酸そして飽和重炭酸ナトリウム溶液で洗浄した後に水で中性になるまで洗浄し、飽和塩化ナトリウム溶液で予備乾燥させる。無水硫酸ナトリウムを用いた乾燥を行った後、溶媒を完全に留出させ、そのようにして得た粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製する。
【実施例5】
【0091】
【化15】

【0092】
【表9】

【0093】
【表10】

【実施例6】
【0094】
【化16】

【0095】
【表11】

【0096】
【表12】

【実施例7】
【0097】
【化17】

【0098】
【表13】

【0099】
【表14】

【実施例8】
【0100】
【化18】

【0101】
【表15】

【0102】
【表16】

【実施例9】
【0103】
【化19】

【0104】
【表17】

【0105】
【表18】

【0106】
バイオプレカーサーと担体が組み合わされたプロドラッグの実施例
ケト官能を50Psiの水素と適切な触媒の存在下でベンジル保護基が開裂を起こす範囲内で反応させることでそれの還元を実施し、水素が必要量で吸収された後、反応を停止させる。次に、相当するO−アシル化グリコール酸に活性化を受けさせた後、それをトコフェロールと反応させる。
【実施例10】
【0107】
【化20】

【0108】
【表19】

【0109】
【表20】

【実施例11】
【0110】
【化21】

【0111】
【表21】

【0112】
【表22】

【0113】
トコフェロールと他の少なくとも1種の薬活性材料を含有する本発明に従う化学化合物は特に炎症性疾患の治療または予防で用いるに適する、と言うのは、それらは異なる薬活性材料群に属することから好適には非ステロイド性抗炎症薬の群から選択した薬活性材料が炎症過程を軽減または妨害する一方でトコフェロール基が抗酸化剤として働くからである。このような化学化合物では、用いた薬活性材料と用いたトコフェロールが互いに直接またはスペーサーを通して結合している。このように化学的に結合させた2種類の薬活性材料の組み合わせを薬剤またはプロドラッグとして用いるともたらされる効果の度合がより高くなるか或は患者に対する適合性が向上する。このような有利な効果は、特に、例えば中枢神経系の病気などで治療が長期に渡る時に必要に応じて使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラセミ化合物、鏡像異性体またはジアステレオマー形態の式I
【化1】

[式中、Rは、変えられる薬活性材料分子の不変部分を表し、Bはスペーサーを表し、そしてTocは、式
【化2】

(R’、R”およびR’”はHまたはメチルに相当する)を伴ってトコフェロールを表し、そしてAはC=X、SO、XまたはCHを表し、ここで、XはO、SまたはNR(n≧1の時)に相当するか或はSまたはNR(n=0の時)に相当し、そしてBは基X−R−Yを意味し、ここで、YはC=X、SOまたはC(XR)Rに相当し、そしてnは0から6、好適には0、1、2または3に相当し、そしてmは1または2を表し、RはH、CからC10−アルキル、好適にはCからC−アルキル、またはアリールもしくはHet、またはCからC−スペーサー、好適にはCからC−スペーサーを通して結合しているアリールもしくはHet基を表し、そしてRはアルキレン、アリーレンまたはHetスペーサーばかりでなくこれらの組み合わせから成る群から選択され、ここで、後者は互いに直接または基Aもしくは基X−A−Xを通して連結しており、ここで、oおよびpは0、1または2に相当し、そして後者は同じまたは異なってもよく、そしてRおよびRはH、CからC10−アルキル、好適にはC−C−アルキル、またはアリールもしくはHet、またはCからC−スペーサー、好適にはCからC−スペーサーを通して結合しているアリールもしくはHet基を表す]
で表される化学化合物。
【請求項2】
AがC=Oに相当する場合のR−Aが非ステロイド性抗炎症薬の群の薬活性材料のアシル基を表す請求項1記載の一般式Iで表される化合物。
【請求項3】
AがC=Oに相当する場合のR−Aがアセチルサリチル酸、ジクロフェニックアシッド、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ナプロキセンおよびこれらの誘導体、特にインドメタシンおよびケトプロフェンの還元生成物の群から選択される非ステロイド性抗炎症薬のアシル基を表す請求項2記載の化合物。
【請求項4】
基R、R、RおよびRが、少なくとも1つの位置が好適にはF、Cl、Br、CN、NO、NR、CHO、SOアルキル、OR、COR、COOR、COCORまたはCONRで置換されているか或は置換されていない非分枝、分枝または環状の飽和または二重および/または三重結合を1つまたは2つ以上伴う部分不飽和炭化水素の群から選択される請求項1記載の一般式Iで表される化学化合物。
【請求項5】
前記アリール基が、少なくとも1つの位置が好適にはF、Cl、Br、CN、アルキル、CF、NO、NR、CHO、SOアルキル、OH、OR、COR、COOR、COCOR、CONRまたはCSNRで置換されているか或は場合により他の環状化合物と縮合するようにアリールもしくはHetで置換されているか或は置換されていないフェニル基の群から選択される請求項1記載の一般式Iで表される化学化合物。
【請求項6】
前記アルキルもしくはアリール基が請求項4および/または5記載の意味を有する一般式Iで表される化学化合物であって、基RおよびRがH、CからC10−アルキル、アリールまたはヘテロアリールを表すか、或はCからC−スペーサーを通して結合しているアリールもしくはヘテロアリール基を表すことを特徴とする化学化合物。
【請求項7】
請求項2から6の1項記載の置換基を有する請求項1記載の一般式Iで表される化学化合物であって、Het基が、5から10個の環員を有しかつヘテロ原子、好適には窒素、酸素および/または硫黄を少なくとも1個有していて場合により別の炭素環状化合物または複素環式化合物と縮合していてもよい一環状もしくは二環状の飽和、不飽和もしくは芳香複素環式化合物の群から選択される化合物を表す化学化合物。
【請求項8】
ラセミ化合物、鏡像異性体またはジアステレオマー形態の一般式I(1)
【化3】

[式中、RおよびTocは、請求項1から7の1項記載の意味を有する]
で表される化学化合物。
【請求項9】
ラセミ化合物、鏡像異性体またはジアステレオマー形態の一般式I(2)
【化4】

[式中、R、スペーサーおよびTocは、請求項1から7の1項記載の意味を有する]
で表される化学化合物。
【請求項10】
ラセミ化合物、鏡像異性体またはジアステレオマー形態の一般式I(3)
【化5】

[式中、RおよびTocは、請求項1から7の1項記載の意味を有する]
で表される化学化合物。
【請求項11】
非ステロイド性抗炎症薬とトコフェロールが互いの担体として結合しているプロドラッグであって、請求項1から10の1項記載の少なくとも1種の化学化合物を単離された形態または生理学的に無害な塩および/または溶媒和物として含有するプロドラッグ。
【請求項12】
バイオプレカーサーと担体が組み合わされたプロドラッグであって、請求項1から10の1項記載の少なくとも1種の化学化合物を単離された形態または生理学的に無害な塩および/または溶媒和物として含有するプロドラッグ。
【請求項13】
薬活性基Rまたはトコフェロール基が1種以上の追加的誘導化を受けている請求項12記載のバイオプレカーサーと担体が組み合わされたプロドラッグ。
【請求項14】
請求項12または13記載のバイオプレカーサーと担体が組み合わされたプロドラッグを製造する方法であって、前記バイオプレカーサーの特徴である官能を還元反応で導入する方法。
【請求項15】
請求項1から10の1項記載の少なくとも1種の化学化合物を単離された形態または生理学的に無害な塩および/または溶媒和物として含有する薬剤。
【請求項16】
請求項15記載の薬剤を製造する方法であって、請求項1から10の1項記載の少なくとも1種の化学化合物を単離された形態および/または相当する生理学的に無害な塩および/または溶媒和物の形態で薬剤学に一般的な添加剤と混合する方法。
【請求項17】
中枢神経系の変性疾患、例えばアルツハイマー病、レヴィー小体痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病(舞踏病)、マルチシステム萎縮症および他の同様な病気などを治療または予防するための薬剤を製造する目的で請求項1から10の1項記載の化学化合物を単離された形態または相当する生理学的に無害な塩および/または溶媒和物の形態で用いる使用。
【請求項18】
痛み状態または炎症反応を治療、特に慢性状態を長期治療するための薬剤を製造する目的で請求項1から10の1項記載の化学化合物を単離された形態または相当する生理学的に無害な塩および/または溶媒和物の形態で用いる使用。
【請求項19】
経口、経皮、経粘膜、直腸、吸入または脳室内様式で投与可能な薬剤を製造する目的で請求項1から10の1項記載の化学化合物を単離された形態または相当する生理学的に無害な塩および/または溶媒和物の形態で用いる使用。
【請求項20】
移植および/または注射および/または注入に適した薬剤投与形態物を製造する目的で請求項1から10の1項記載の化学化合物を単離された形態または相当する生理学的に無害な塩および/または溶媒和物の形態で用いる使用。

【公表番号】特表2007−537979(P2007−537979A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519721(P2006−519721)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/AT2004/000234
【国際公開番号】WO2005/007650
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504238415)ジエイエスダブリユー−リサーチ・フオルシユンクスラバー・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (2)
【Fターム(参考)】