説明

トナー担持ローラの製造方法、現像装置および画像形成装置

【課題】表面に規則的な凹凸を有するトナー担持ローラの製造方法および該トナー担持ローラを使用する現像装置ならびに画像形成装置において、シール部材へのトナー付着に起因するトナー漏れやフィルミング等の問題を防止する。
【解決手段】円筒状または円柱状のローラ素材400の外周面に、互いに異なるピッチP1a,P2aの突起をそれぞれ有するダイス901および902を押し当てながら回転させることにより、つるまき線状の第1の溝401と、第1の溝と交わるつるまき線状の第2の溝402とを形成する。形成される第1の溝401のピッチP1bと、第2の溝のピッチP2bとのピッチ比を非整数比とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面に規則的な凹凸を有するトナー担持ローラの製造方法および該トナー担持ローラを用いた現像装置ならびに画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
像担持体上に担持された静電潜像をトナーにより現像する技術においては、略円筒形状に形成され表面にトナーを担持するトナー担持ローラを像担持体に対向配置したものが広く使用されている。本願出願人は、このようなトナー担持ローラの表面に担持されるトナーの特性を改善するため、円筒形状に形成されたローラの表面に規則的に配置された凸部と、該凸部の周囲を取り囲む凹部とを設けたトナー担持ローラを採用した現像装置について先に開示した(特許文献1参照)。このような構造は、表面の凹凸パターンが管理されて均一であるために、ローラ表面に担持されるトナー層の厚さや帯電量等を制御しやすいという利点がある。
【0003】
上記のように構成された画像形成装置においては、トナー担持ローラたる現像ローラと現像器ハウジングとの間隙に、現像ローラ表面に当接するシールを設けてトナーの漏れ出しを防止している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−121948号公報(段落0053、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術においては、シールを現像ローラの回転方向に沿った、いわゆるトレイル方向に当接させることにより、現像ローラ表面のトナーの掻き取りを防止している。しかしながら、表面にトナーが付着した現像ローラに対してシール部材を圧接させているため、トナーがシール部材の表面に付着することが避けられない。このようなシール部材へのトナー付着は、シール不良によるトナー漏れや、固着したトナーが現像ローラ表面に付着することに起因するフィルミングの原因となり得る。
【0006】
特に、上記従来技術のようにトナー担持ローラ表面に規則性のある凹凸パターンを設けている場合、シール部材へのトナー付着も規則性を持って現れることとなり、このような局所的なトナー付着によって、トナー漏れやフィルミング等を引き起こしやすくなることが考えられる。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、表面に規則的な凹凸を有するトナー担持ローラの製造方法および該トナー担持ローラを使用する現像装置ならびに画像形成装置において、シール部材へのトナー付着に起因するトナー漏れやフィルミング等の問題を防止することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかるトナー担持ローラの製造方法は、円筒状または円柱状をなし、その外周面にトナーを担持するための凹凸部を有するトナー担持ローラの製造方法であって、上記目的を達成するため、円筒状または円柱状のローラ素材を用意する工程と、前記ローラ素材の外周面に、つるまき線状の第1の溝を形成する工程と、前記ローラ素材の外周面に、前記第1の溝と交わるつるまき線状の第2の溝を形成する工程とを備えている。
【0009】
この発明の第1の態様では、前記第1の溝と前記第2の溝とのピッチ比を非整数比とする。また、この発明の第2の態様では、前記第1の溝の螺旋角と前記第2の溝の螺旋角とを互いに異ならせる。これらの態様によれば、シール部材にトナーが付着するのを抑制することのできるトナー担持ローラを提供することが可能である。その理由は以下の通りである。
【0010】
ローラ素材の外周面に互いに交わるつるまき線状の第1および第2の溝を形成することにより、ローラ素材の外周面にはいわゆる綾目格子状の凹部が形成される。その結果、このような格子状の凹部に囲まれてそれぞれが略平行四辺形を有する多数の凸部がトナー担持ローラの外周面に形成されることになる。このとき、第1および第2の溝の螺旋角を非同一、またはそれらのつるまき線のピッチの比を非整数比とするので、トナー担持ローラ外周面の周方向に並ぶ各凸部の間では、トナー担持ローラの軸心に平行な軸方向における位置が少しずつずれることになる。
【0011】
このようにして製造されたトナー担持ローラでは、凸部はシール部材に付着したトナーを掻き取る作用を有し、特に、凸部の平行四辺形の各頂点のうち、ローラの回転に伴うトナー担持ローラ表面の移動方向において最前方側に位置する頂点が最もトナー掻き取り効果が大きい。そして、トナー担持ローラをシール部材と当接させた状態で回転させると、シール部材と当接する平行四辺形の頂点の位置が、回転に伴ってその回転軸方向に少しずつ移動してゆく。このため、平行四辺形の頂点によるトナーの掻き取りは軸方向においてまんべんなく行われ、局所的なトナー付着が解消される。
【0012】
このように、この発明にかかるトナー担持ローラの製造方法によれば、シール部材にトナーが付着するのを抑制し、その結果として、シール部材へのトナー付着に起因するトナー漏れやフィルミング等の問題を防止することのできるトナー担持ローラを製造することが可能である。なお、これらの製造方法において、上記第1および第2の溝はそれぞれ多条に形成してもよい。
【0013】
これらの製造方法においては、例えば、前記第1の溝を形成する工程では、前記第1の溝を形成するための突起部を有する第1の工具を前記ローラ素材の外周面に押し当て前記ローラ素材を回転させながらその軸方向に移動させる一方、前記第2の溝を形成する工程では、前記第2の溝を形成するための突起部を有する第2の工具を前記ローラ素材の外周面に押し当て前記ローラ素材を回転させながらその軸方向に移動させ、しかも、前記第1の工具と前記第2の工具とを互いに異なる形状とするようにしてもよい。このように、互いに形状の異なる2種類の工具によってローラ素材表面を加工することにより、シール部材にトナーが付着するのを抑制することのできるトナー担持ローラを製造することができる。
【0014】
この場合において、加工は例えば切削または転造によって行うことができる。また、2種類の工具をローラ素材表面の互いに異なる位置に押し当てることにより、第1の溝を形成する工程と第2の溝を形成する工程とを同時に実行するようにしてもよい。
【0015】
例えば、前記第1の溝を形成するための突起部を有する第1の工具と、前記第2の溝を形成するための突起部を有する第2の工具とを前記ローラ素材に押し当てて前記ローラ素材を回転させることにより、前記第1の溝を形成する工程および前記第2の溝を形成する工程とを同時に実行するようにしてもよい。このようにすれば、上記のような特徴を有するトナー担持ローラを短時間で効率よく製造することが可能となる。
【0016】
また、この発明にかかる現像装置は、上記目的を達成するため、内部にトナーを貯留するハウジングと、略円筒または略円柱形状に形成されるとともに前記ハウジングに回転自在に軸着され、その表面に帯電トナーを担持しながら回転してトナーを前記ハウジングの外部に搬送するトナー担持ローラと、前記ハウジング外部からハウジング内へ向かう前記トナー担持ローラ表面に当接してトナー漏れを防止するシール部材とを備え、前記トナー担持ローラは、規則的に配置された複数の凸部および該凸部を取り囲む凹部をその表面に有しており、前記複数の凸部それぞれの頂面は互いに同一の円筒面の一部をなしており、各凸部の前記頂面の周囲のうち前記トナー担持ローラの回転に伴う移動方向において最も先頭に位置する部分を当該凸部の先頭部と定義したとき、前記トナー担持ローラが1周する間に前記各凸部それぞれの前記先頭部が描く軌跡同士の、前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における間隔の最大値が、前記トナーの体積平均粒径よりも小さいことを特徴としている。
【0017】
このように構成された発明では、各凸部の先頭部によるシール部材上のトナー掻き取り作用が得られ、各先頭部の軌跡上にあるシール部材の表面に付着したトナーはこの作用により掻き取られる。シール部材表面のうちいずれの先頭部の軌跡にも含まれない領域のトナーは掻き取りを受けないことになるので、このような領域をできるだけなくすことが望ましい。この発明では。各軌跡の間隔が最も大きい箇所でもトナーの体積平均粒径未満としてなるようにしているので、少なくとも平均的な粒径以上の粒径を有するトナーについては、シール部材表面から確実に掻き取ることができる。すなわち、この発明によれば、シール部材にトナーが付着するのを抑制し、シール部材へのトナー付着に起因するトナー漏れやフィルミング等の問題を防止することができる。
【0018】
特に、前記間隔の最大値を0とすれば、シール部材表面の全領域を先頭部と当接させることができ、トナー掻き取り効果を最大にすることができる。
【0019】
また、前記凸部のそれぞれについて、当該凸部の前記先頭部と、当該凸部に隣接する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい凸部の前記先頭部との間の前記軸方向における間隔が、0より大きく前記トナーの体積平均粒径よりも小さくなるようにしてもよい。
【0020】
一の凸部とこれに隣接する凸部との間で先頭部同士の軸方向における間隔が0であるということは、両凸部が軸方向において同一位置にあることを意味するが、このような構成では両凸部の先頭部がシール部材表面の同一位置に当接することとなり、先頭部によるトナー掻き取り効果が局所的にしか得られない。これに対し、両凸部の軸方向位置を異ならせると、シール部材表面の互いに異なる位置でそれぞれの先頭部によるトナー掻き取り効果を得ることが可能である。このとき、その位置の差をトナーの体積平均粒径よりも小さくすることで、平均的な粒径以上の粒径を有するトナーをシール部材表面から確実に掻き取ることができる。
【0021】
また、前記凸部のそれぞれについて、当該凸部に隣接し前記移動方向において当該凸部よりも前方側に位置する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい前方側隣接凸部の前記先頭部と、当該凸部に隣接し前記移動方向において当該凸部よりも後方側に位置する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい後方側隣接凸部の前記先頭部とが、前記軸方向において互いに位置が異なるようにしてもよい。
【0022】
このようにすると、トナー担持ローラの回転に伴って前方側隣接凸部、当該凸部および後方側隣接凸部が順にシール部材に当接するとき、先頭部の当接位置が全て異なることとなる。これにより、より確実にトナーを掻き取ることができる。特に、前記軸方向において、前記前方側隣接凸部と前記後方側隣接凸部とが、当該凸部を挟んで互いに反対側に位置するように構成するのが好ましい。こうすれば、トナー担持ローラの回転に伴って先頭部がシール部材に当接する位置、つまりトナーの掻き取り効果の得られる位置が軸方向に沿って次第に移動してゆくこととなり、1つの先頭部との当接で掻き取りきれなかったトナーを次の先頭部により掻き取ることができる。
【0023】
また、前記複数の凸部それぞれの頂面は、前記移動方向における前方側に最も突出した頂点を有しており、該頂点が前記先頭部を構成することが望ましい。このような頂点はトナーの掻き取り効果が大きいので、頂面の先頭部に頂点を設けることで、より効果的にシール部材表面のトナーを掻き取ることができる。
【0024】
また、この発明にかかる現像装置の他の態様は、上記目的を達成するため、内部にトナーを貯留するハウジングと、略円筒または略円柱形状に形成されるとともに前記ハウジングに回転自在に軸着され、その表面に帯電トナーを担持しながら回転してトナーを前記ハウジングの外部に搬送するトナー担持ローラと、前記ハウジング外部からハウジング内へ向かう前記トナー担持ローラ表面に当接してトナー漏れを防止するシール部材とを備え、前記トナー担持ローラは、規則的に配置された複数の凸部および該凸部を取り囲む凹部をその表面に有しており、前記複数の凸部それぞれの頂面は、互いに同一の円筒面の一部をなすとともに前記トナー担持ローラ表面の移動方向における前方側に最も突出した頂点を有しており、互いに隣接する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい2つの凸部それぞれの前記頂点同士を前記円筒面に沿った最短距離で結んだ線がいずれも、前記円筒面上の単一のつるまき線の一部をなすことを特徴としている。
【0025】
このように構成された発明では、トナー担持ローラ表面の全ての凸部の頂点が、円筒面上の単一のつるまき線上に位置していることになる。このため、トナー担持ローラの回転に伴って、シール部材に当接する凸部の頂点の位置は微小距離ずつずれてゆき、トナー担持ローラがちょうど1周した時点で、最初に当接していた位置と重なることになる。このようにすると、トナー担持ローラ表面の移動方向に沿って互いに隣接する頂点間の軸方向における位置の差を最小にすることができ、しかも軸方向の全領域においてシール部材上のトナー掻き取り効果を均等にすることができる。このため、粒径の小さな粒子についても確実に掻き取ることができ、またその掻き取り効果は軸方向において均等である。したがって、この発明によれば、シール部材にトナーが付着するのを抑制し、シール部材へのトナー付着に起因するトナー漏れやフィルミング等の問題を防止することができる。
【0026】
また、この発明にかかる画像形成装置は、上記目的を達成するため、静電潜像を担持する潜像担持体と、内部にトナーを貯留するハウジングと、略円筒または略円柱形状に形成されるとともに前記ハウジングに回転自在に軸着され、その表面に帯電トナーを担持しながら回転してトナーを前記潜像担持体との対向位置に搬送するトナー担持ローラと、前記ハウジング外部からハウジング内へ向かう前記トナー担持ローラ表面に当接してトナー漏れを防止するシール部材とを備え、前記トナー担持ローラは、規則的に配置された複数の凸部および該凸部を取り囲む凹部をその表面に有しており、前記複数の凸部それぞれの頂面は互いに同一の円筒面の一部をなしており、各凸部の前記頂面の周囲のうち前記トナー担持ローラの回転に伴う移動方向において最も先頭に位置する部分を当該凸部の先頭部と定義したとき、前記トナー担持ローラが1周する間に前記各凸部それぞれの前記先頭部が描く軌跡同士の、前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における間隔の最大値が、前記トナーの体積平均粒径よりも小さいことを特徴としている。
【0027】
このように構成された発明では、上記した現像装置と同様に、シール部材にトナーが付着するのを抑制し、シール部材へのトナー付着に起因するトナー漏れやフィルミング等の問題を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1はこの発明を適用した画像形成装置の一実施形態を示す図である。また、図2は図1の画像形成装置の電気的構成を示すブロック図である。この装置は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の4色のトナー(現像剤)を重ね合わせてフルカラー画像を形成したり、ブラック(K)のトナーのみを用いてモノクロ画像を形成する画像形成装置である。この画像形成装置では、ホストコンピュータなどの外部装置から画像信号がメインコントローラ11に与えられると、このメインコントローラ11からの指令に応じてエンジンコントローラ10に設けられたCPU101がエンジン部EG各部を制御して所定の画像形成動作を実行し、シートSに画像信号に対応する画像を形成する。
【0029】
このエンジン部EGでは、感光体22が図1の矢印方向D1に回転自在に設けられている。また、この感光体22の周りにその回転方向D1に沿って、帯電ユニット23、ロータリー現像ユニット4およびクリーニング部25がそれぞれ配置されている。帯電ユニット23は所定の帯電バイアスを印加されており、感光体22の外周面を所定の表面電位に均一に帯電させる。クリーニング部25は一次転写後に感光体22の表面に残留付着したトナーを除去し、内部に設けられた廃トナータンクに回収する。これらの感光体22、帯電ユニット23およびクリーニング部25は一体的に感光体カートリッジ2を構成しており、この感光体カートリッジ2は一体として装置本体に対し着脱自在となっている。
【0030】
そして、この帯電ユニット23によって帯電された感光体22の外周面に向けて露光ユニット6から光ビームLが照射される。この露光ユニット6は、外部装置から与えられた画像信号に応じて光ビームLを感光体22上に露光して画像信号に対応する静電潜像を形成する。
【0031】
こうして形成された静電潜像は現像ユニット4によってトナー現像される。すなわち、この画像形成装置では、現像ユニット4は、図1紙面に直交する回転軸中心に回転自在に設けられた支持フレーム40、支持フレーム40に対して着脱自在のカートリッジとして構成されてそれぞれの色のトナーを内蔵するイエロー用の現像器4Y、シアン用の現像器4C、マゼンタ用の現像器4M、およびブラック用の現像器4Kを備えている。この現像ユニット4は、エンジンコントローラ10により制御されている。そして、このエンジンコントローラ10からの制御指令に基づいて、現像ユニット4が回転駆動されるとともにこれらの現像器4Y、4C、4M、4Kが選択的に感光体22と所定のギャップを隔てて対向する所定の現像位置に位置決めされると、当該現像器に設けられて選択された色のトナーを担持する現像ローラ44が感光体22に対し対向配置され、その対向位置において現像ローラ44から感光体22の表面にトナーを付与する。これによって、感光体22上の静電潜像が選択トナー色で顕像化される。
【0032】
図3は現像器の外観を示す図である。また、図4は現像器の構造および現像バイアス波形を示す図である。より詳しくは、図4(a)は現像器の構造を示す断面図である。また、図4(b)は現像バイアス波形と感光体表面電位との関係を示す図である。各現像器4Y、4C、4M、4Kはいずれも同一構造を有している。したがって、ここでは、現像器4Kの構成について図3および図4(a)を参照しながらさらに詳しく説明するが、その他の現像器4Y、4C、4Mについてもその構造および機能は同じである。
【0033】
この現像器4Kでは、その内部に一成分トナーTを収容するハウジング41に供給ローラ43および現像ローラ44が軸着されており、当該現像器4Kが上記現像位置に位置決めされると、現像ローラ44が感光体2と現像ギャップDGを隔てて対向位置決めされるとともに、これらのローラ43、44が本体側に設けられた回転駆動部(図示省略)と係合されて所定の方向に回転する。供給ローラ43は例えば発泡ウレタンゴム、シリコンゴムなどの弾性材料により円筒状に形成されている。また、現像ローラ44は、銅、アルミニウム、ステンレス等の金属または合金により円筒状に形成されている。そして、2つのローラ43、44が接触しながら回転することでトナーが現像ローラ44の表面に擦り付けられて所定厚みのトナー層が現像ローラ44表面に形成される。ここでは負帯電トナーを用いた例について説明するが、正帯電トナーであってもよい。
【0034】
ハウジング41の内部空間は隔壁41aによって第1室411および第2室412に仕切られている。供給ローラ43および現像ローラ44はともに第2室412に設けられており、これらのローラの回転に伴って第2室412内のトナーが流動し攪拌されながら現像ローラ44の表面に供給される。一方、第1室411に貯留されているトナーは、供給ローラ43および現像ローラ44とは隔離されているので、これらの回転によっては流動しない。このトナーは、現像ユニット4が現像器を保持したまま回転することによって、第2室412に貯留されたトナーと混合され攪拌される。
【0035】
このように、この現像器では、ハウジング内部を2室に仕切り、供給ローラ43および現像ローラ44の周囲をハウジング41の側壁および隔壁41aで囲み比較的容積の小さい第2室412を設けることにより、トナー残量が少なくなった場合でも、トナーが効率よく現像ローラ44の近傍に供給されるようにしている。また、第1室411から第2室412へのトナー供給およびトナー全体の攪拌を現像ユニット4の回転によって行うようにすることで、現像器内部にトナー攪拌のための攪拌部材(オーガ)を省いたオーガレス構造を実現している。
【0036】
また、この現像器4Kでは、現像ローラ44の表面に形成されるトナー層の厚みを所定厚みに規制するための規制ブレード46が配置されている。この規制ブレード46は、ステンレスやリン青銅などの弾性を有する板状部材461と、板状部材461の先端部に取り付けられたシリコンゴムやウレタンゴムなどの樹脂部材からなる弾性部材462とで構成されている。この板状部材461の後端部はハウジング41に固着されており、図4の矢印に示す現像ローラ44の回転方向D4において、板状部材461の先端部に取り付けられた弾性部材462が板状部材461の後端部よりも上流側に位置するように配設されている。そして、その弾性部材462が現像ローラ44表面に弾性的に当接することで規制ニップを形成し、現像ローラ44の表面に形成されるトナー層を最終的に所定の厚みに規制する。
【0037】
このようにして現像ローラ44の表面に形成されたトナー層は、現像ローラ44の回転によって順次、その表面に静電潜像が形成されている感光体2との対向位置に搬送される。そして、エンジンコントローラ10に制御されるバイアス用電源140からの現像バイアスが現像ローラ44に印加される。図4(b)に示すように、感光体22の表面電位Vsは、帯電ユニット23により均一に帯電された後露光ユニット6からの光ビームLの照射を受けた露光部では残留電位Vr程度にまで低下し、光ビームLが照射されなかった非露光部ではほぼ均一の電位Voとなっている。一方、現像ローラ44に与えられる現像バイアスVbは直流電位Vaveを重畳した矩形波交流電圧であり、そのピーク間電圧を符号Vppにより表す。このような現像バイアスVbが印加されることにより、現像ローラ44上に担持されたトナーは現像ギャップDGにおいて飛翔して感光体22の表面各部にその表面電位Vsに応じて部分的に付着し、こうして感光体22上の静電潜像が当該トナー色のトナー像として顕像化される。
【0038】
現像バイアス電圧Vbとしては、例えば、ピーク間電圧Vppが1500V、周波数が3kHz程度の矩形波電圧を用いることができる。また、その直流成分Vaveは、感光体22の残留電位Vrとの電位差がいわゆる現像コントラストとなり画像濃度に影響を与えるので、所定の画像濃度を得るために必要な値とすることができる。
【0039】
さらに、ハウジング41には、現像ローラ44の回転方向において感光体22との対向位置よりも下流側で現像ローラ44表面に圧接されたシール部材47が設けられている。シール部材47は、ポリエチレン、ナイロンまたはフッ素樹脂などの柔軟性を有する材料により形成され、現像ローラ44の回転軸に平行な軸方向Xに沿って延びる帯状のフィルムであり、長手方向Xに直交する短手方向における一方端部がハウジング41に固着されるとともに、他方端部が現像ローラ44表面に当接されている。他方端部は現像ローラ44の回転方向D4における下流側に向かうように、いわゆるトレイル方向に現像ローラ44に当接されており、感光体22との対向位置を通過した現像ローラ44表面に残留しているトナーをハウジング41内に案内するともに、ハウジング内のトナーが外部へ漏れ出すのを防止している。
【0040】
図5は現像ローラおよびその表面の部分拡大図を示す図である。現像ローラ44は略円筒形のローラ状に形成されており、その長手方向の両端にはローラと同軸にシャフト440が設けられており、該シャフト440が現像器本体により軸支されて現像ローラ44全体が回転自在となっている。現像ローラ44表面のうちその中央部44aには、図5の部分拡大図(点線円内)に示すように、規則的に配置された複数の凸部441と、それらの凸部441を取り囲む凹部442とが設けられている。
【0041】
複数の凸部441のそれぞれは、図5紙面の手前側に向けて突出しており、各凸部441の頂面は、現像ローラ44の回転軸と同軸である単一の円筒面の一部をそれぞれ成している。以下ではこの仮想的な円筒面を現像ローラ44の「包絡円筒面」と称する。また、凹部442は凸部441の周りを網目状に取り囲む連続した溝となっており、凹部442全体も現像ローラ44の回転軸と同軸かつ凸部の成す円筒面とは異なる1つの円筒面を成す。そして、凸部441とそれを取り囲む凹部442との間は緩やかな斜面443によって繋がれている。すなわち、該斜面443の法線は現像ローラ44の半径方向外向き(図において上方)、つまり現像ローラ44の回転軸から遠ざかる方向の成分を有する。
【0042】
図6は現像ローラの表面構造をより詳細に示す図である。より詳しくは、略円筒面をなす現像ローラ44表面を平面に展開した図である。上記したように、現像ローラ44の表面には多数の凸部441が設けられている。各凸部441は、図6において斜め方向の格子状に形成された凹部442に囲まれており、現像ローラ44の軸方向Xに対して傾斜角αおよびβをそれぞれ有する線SaおよびSbに沿ってそれぞれ等間隔に配列されている。ここで、2つの傾斜角α、βをいずれも45度とする一方、線SaのピッチAと、線SbのピッチBとを互いに僅かに異なる値としている。ここでは、A>Bとする。この結果、各凸部441の頂面4411は軸方向Xおよび移動方向D4において線対称性を有する菱形ではなく、非対称な略平行四辺形となる。
【0043】
また、1つの凸部441の頂面4411のうち現像ローラ44の回転に伴う移動方向の先頭側に位置する先頭側頂点4412と、当該凸部に隣接する凸部のうちで軸方向Xにおける位置の差が最も小さいものの頂面の先頭側頂点とを結ぶ線が軸方向Xに対してなす角は90度から少しずれた値となる。例えば、図6に示す1つの凸部441aに着目すると、これに隣接する凸部のうち軸方向Xにおける位置の差が最も小さいのは、図6において当該凸部441aの略下方(移動方向D4において後方)に位置する凸部441bである。この凸部441bは、図6において当該凸部441aの真下ではなく、僅かに右方向にずれた位置にある。
【0044】
したがって、両凸部441a、441bがそれぞれ有する頂面の先頭側頂点4412a、4412bを結んだ線Svは図6において右下がりの線となり、そのX方向となす角γは90度より僅かに大きい。凸部441bの略下方に位置する凸部441cの先頭側頂点4412cも、同じ線Sv上にある。このような関係は、現像ローラ44表面の各凸部441においてもそれぞれ同様に成立する。
【0045】
このため、現像ローラ44表面上における各凸部441の配置は、各凸部441が線Svに沿って等間隔に配列されたものと見ることもできる。以下の説明においては、線Svに沿った凸部441の列を「凸部列」と称する。なお、図6では現像ローラ44表面を平面状に展開したものを示しているのでこの線Svは直線として表されているが、実際には現像ローラ44の包絡円筒面に沿った曲線となる。
【0046】
ここで、後の説明のために、以下のように符号を定義しておく。1つの凸部と、当該凸部に隣接する凸部のうち軸方向Xにおける位置の差が最も小さいものとのそれぞれの先頭側頂点間の、現像ローラ44表面の移動方向D4に沿った距離を符号L1により表す。この値L1は、凸部列上において互いに隣接する凸部間のピッチを表す。ここでいう「距離」は、現像ローラ44表面がなす包絡円筒面上に沿った距離であり、このことは以下の定義においても同様である。また、これら2つの先頭側頂点間の軸方向Xに沿った距離を符号L3により表す。この値L3は、凸部列上で隣接する2つの凸部の軸方向Xにおける位置ずれ量を表している。また、1つの凸部と、これに隣接する凸部のうち方向D4における位置の差が最も小さいものとのそれぞれの先頭側頂点間の、軸方向Xにおける位置の差を符号L2により表す。この値L2は、隣接する凸部列間のピッチを表している。
【0047】
図1に戻って画像形成装置の説明を続ける。上記のようにして現像ユニット4で現像されたトナー像は、一次転写領域TR1で転写ユニット7の中間転写ベルト71上に一次転写される。転写ユニット7は、複数のローラ72〜75に掛け渡された中間転写ベルト71と、ローラ73を回転駆動することで中間転写ベルト71を所定の回転方向D2に回転させる駆動部(図示省略)とを備えている。そして、カラー画像をシートSに転写する場合には、感光体22上に形成される各色のトナー像を中間転写ベルト71上に重ね合わせてカラー画像を形成するとともに、カセット8から1枚ずつ取り出され搬送経路Fに沿って二次転写領域TR2まで搬送されてくるシートS上にカラー画像を二次転写する。
【0048】
このとき、中間転写ベルト71上の画像をシートS上の所定位置に正しく転写するため、二次転写領域TR2にシートSを送り込むタイミングが管理されている。具体的には、搬送経路F上において二次転写領域TR2の手前側にゲートローラ81が設けられており、中間転写ベルト71の周回移動のタイミングに合わせてゲートローラ81が回転することにより、シートSが所定のタイミングで二次転写領域TR2に送り込まれる。
【0049】
また、こうしてカラー画像が形成されたシートSは定着ユニット9によりトナー像を定着され、排出前ローラ82および排出ローラ83を経由して装置本体の上面部に設けられた排出トレイ部89に搬送される。また、シートSの両面に画像を形成する場合には、上記のようにして片面に画像を形成されたシートSの後端部が排出前ローラ82後方の反転位置PRまで搬送されてきた時点で排出ローラ83の回転方向を反転し、これによりシートSは反転搬送経路FRに沿って矢印D3方向に搬送される。そして、ゲートローラ81の手前で再び搬送経路Fに乗せられるが、このとき、二次転写領域TR2において中間転写ベルト71と当接し画像を転写されるシートSの面は、先に画像が転写された面とは反対の面である。このようにして、シートSの両面に画像を形成することができる。
【0050】
また、図2に示すように、各現像器4Y,4C,4Mおよび4Kには該現像器の製造ロットや使用履歴、内蔵トナーの残量などに関するデータを記憶するメモリ91〜94がそれぞれ設けられている。さらに、各現像器4Y,4C,4M、4Kには無線通信器49Y、49C、49M、49Kがそれぞれ設けられている。そして、必要に応じて、これらが選択的に本体側に設けられた無線通信器109と非接触にてデータ通信を行い、インターフェース105を介してCPU101と各メモリ91〜94との間でデータの送受を行って該現像器に関する消耗品管理等の各種情報の管理を行っている。なお、この画像形成装置では、無線通信等の電磁的手段を用いて非接触にてデータ送受を行っているが、本体側および各現像器側にコネクタ等を設け、コネクタ等を機械的に嵌合させることで相互にデータ送受を行うようにしてもよい。
【0051】
また、この装置では、図2に示すように、メインコントローラ11のCPU111により制御される表示部12を備えている。この表示部12は、例えば液晶ディスプレイにより構成され、CPU111からの制御指令に応じて、ユーザへの操作案内や画像形成動作の進行状況、さらに装置の異常発生やいずれかのユニットの交換時期などを知らせるための所定のメッセージを表示する。
【0052】
なお、図2において、符号113はホストコンピュータなどの外部装置よりインターフェース112を介して与えられた画像を記憶するためにメインコントローラ11に設けられた画像メモリである。また、符号106はCPU101が実行する演算プログラムやエンジン部EGを制御するための制御データなどを記憶するためのROM、また符号107はCPU101における演算結果やその他のデータを一時的に記憶するRAMである。
【0053】
また、ローラ75の近傍には、クリーナ76が配置されている。このクリーナ76は図示を省略する電磁クラッチによってローラ75に対して近接・離間移動可能となっている。そして、ローラ75側に移動した状態でクリーナ76のブレードがローラ75に掛け渡された中間転写ベルト71の表面に当接し、二次転写後に中間転写ベルト71の外周面に残留付着しているトナーを除去する。
【0054】
さらに、ローラ75の近傍には、濃度センサ60が配置されている。この濃度センサ60は、中間転写ベルト71の表面に対向して設けられており、必要に応じ、中間転写ベルト71の外周面に形成されるトナー像の画像濃度を測定する。そして、その測定結果に基づき、この装置では、画像品質に影響を与える装置各部の動作条件、例えば各現像器に与える現像バイアスや、露光ビームLの強度、さらには装置の階調補正特性などの調整を行っている。
【0055】
この濃度センサ60は、例えば反射型フォトセンサを用いて、中間転写ベルト71上の所定面積の領域の濃淡に対応した信号を出力するように構成されている。そして、CPU101は、中間転写ベルト71を周回移動させながらこの濃度センサ60からの出力信号を定期的にサンプリングすることで、中間転写ベルト71上のトナー像各部の画像濃度を検出することができる。
【0056】
次に、上記のように構成された画像形成装置の現像器4K等における、現像ローラ44上のトナー層規制の詳細について説明する。上記のようにトナーを担持する現像ローラ44表面に凹凸を設けた構成においては、その凸部441および凹部442の双方にトナーを担持させることが可能であるが、この実施形態では、規制ブレード46を直接現像ローラ44表面の凸部441に当接することにより凸部441のトナーを除去するようにしていう。このようにする理由は以下の通りである。
【0057】
まず、凸部441に均一なトナー層を形成するためには規制ブレード46と凸部441とのギャップの精密な管理が必要となるが、凹部442のみにトナーを担持させるためには規制ブレード46と凸部442とを当接させて凸部441のトナーを全て除去すればよいので実現が比較的容易である。また、搬送されるトナーの量は規制ブレード46と凹部442との隙間に生じる空間の容積によって決まるので、トナー搬送量を安定させることができる。
【0058】
また、搬送されるトナー層の良好さという点においても利点がある。すなわち、凸部441にトナーを担持させると規制ブレード46との摺擦に起因するトナーの劣化が起こりやすい。具体的には、トナーの流動性や帯電性が低下したり、トナーが圧粉状態となり凝集したり現像ローラ44に固着してフィルミングを生じさせるなどの問題がある。これに対し、規制ブレード46からの押圧をあまり受けない凹部442にトナーを担持させるとこのような問題が起こりにくい。また、凸部441に担持されるトナーと凹部442に担持されるトナーとでは規制ブレード46との摺擦のされ方が大きく異なるため、トナーの帯電量のばらつきが大きくなることが予想されるが、凹部442のみにトナーを担持させることでこのようなばらつきも抑えられる。
【0059】
特に近年では、画像の高精細化やトナー消費量および消費電力の削減を実現するためにトナーの小粒径化や定着温度の低温化が求められているが、上記の構成はこのような要求にも対応することが可能なものである。小粒径トナーにおいては帯電の立ち上がりが鈍いにもかかわらず飽和帯電量が高いため、凸部441に担持されたトナーは凹部442に担持されたトナーよりも帯電量が著しく高く(過帯電)なる傾向にある。このような帯電量の差はいわゆる現像履歴として画像に現れる。また、低融点トナーでは摺擦によるトナー同士または現像ローラ44等への固着が起きやすい。しかしながら、凹部442のみにトナーを担持する上記の構成ではこのような問題は生じにくい。
【0060】
次に、本発明の主題であるシール部材47へのトナー固着の問題について検討する。上記したトナーの固着などの問題は、規制ブレード46や現像ローラ44だけでなく、シール部材47に対しても起こり得る問題である。図4(a)に示すように、シール部材47は現像ローラ44表面にトレイル方向に当接されている。このような構成は現像器外へのトナー飛散を防止する上で必要なものであるが、結果的に現像ローラ44上のトナーが現像ローラ44とシール部材47とに挟まれて押圧され、現像ローラ44やシール部材47へのトナー固着を招くおそれがある。
【0061】
図7は従来技術の画像形成装置におけるトナー固着の様子を示す模式図である。ここでは、図7(a)に示すように、回転方向Dz4に回転する現像ローラZ44にシール部材Z47を当接させ、シール部材Z47の表面状態を観察した。現像ローラZ44の表面構造は前記した特許文献1(特開2007−121948号公報)に記載されたものであり、図7(b)に示すように、略菱形の頂面を有する多数の凸部Z441が規則的に配列されたものである。この構成では、現像ローラZ44の回転に伴う表面の移動方向Dz4における各凸部Z441の先頭側頂点Z442は、軸方向XXに直交する線に沿って一列に並んでいる。
【0062】
このような装置において図7(a)に示す矢印AA方向からシール部材Z47の表面を観察したところ、図7(b)に示すように、現像ローラZ44に当接しているシール部材Z47の表面領域において、現像ローラZ44の回転方向Dz4における上流側端部Z471から下流側端部Z472に向けて尾を引くように、スジ状にトナーが固着していることが認められた。このスジは、トナー粒子およびトナー粒子から脱落した外添剤がシール部材47上で互いに凝集または融着したものである。また、このスジは軸方向(XX方向)に周期的に現れており、その周期は現像ローラZ44表面の凸部Z441の軸方向の配列ピッチと相関性がある。
【0063】
このような現象は以下のモデルにより説明することができる。各凸部Z441のうち、現像ローラの回転に伴う移動方向Dz4において最も先頭側に位置する先頭側頂点Z442は、シール部材Z47と当接した際にシール部材表面に付着したトナーを掻き落とす作用を有する。掻き取られたトナーは凸部Z441頂面の稜線に沿って左右に押しやられてゆくと考えられる。図7(a)に示すように、この現像ローラでは、各凸部Z441の先頭側頂点Z442がXX方向において互いに重なり合うような位置関係にあるため、シール部材表面では各凸部Z441の先頭側頂点Z442と当接する位置と、当接しない位置とがXX方向に交互に現れる。このため、先頭側頂点Z442と当接する位置では効果的に付着トナーが除去される一方、当接がない位置では、トナー除去効果が少ないことに加えて周辺からの除去トナーが流れ込んでくることとなる。その結果、シール部材表面には、凸部Z441の配列ピッチに対応したスジ状の周期的なトナー固着が生じる。
【0064】
そこで、この実施形態では、現像ローラ表面における凸部の配列を工夫することにより、シール部材表面へのトナー固着を防止するようにしている。すなわち、この実施形態では、図6に示すように、現像ローラ44表面の凸部列を、軸方向Xに直交させるのでなく僅かに傾けている。このようにすることによるシール部材上のトナー付着防止効果について、次に説明する。
【0065】
図8はこの実施形態におけるシール部材のトナー付着防止効果を説明するための図である。この実施形態の現像ローラ44の表面では、図8に示すように、現像ローラ表面の移動方向D4とは少し異なる方向の線Svに沿って各凸部441が配列されている。このため、現像ローラ44が回転すると、凸部441の各先頭側頂点4412が順番に、少しずつ位置を変えながらシール部材47表面に当接してゆくことになる。
【0066】
例えば、時刻t1において、現像ローラ44に当接するシール部材47の表面領域のうち現像ローラ44の回転方向D4における最上流側端部が図8のQ1−Q1線上にあったとする。このとき、各凸部のうち符号441dで示す凸部の先頭側頂点4412dがシール部材47の最上流側端部と当接する。現像ローラ44が回転し時刻t2になると、凸部441dの略後方に位置する凸部441eの先頭側頂点4412eが、先に頂点4412dが当接した位置とは少し(図8において右方に)ずれた位置でシール部材47の最上流側端部に当接する。同様に、現像ローラ44の回転に伴い凸部の先頭側頂点とシール部材47との当接位置は少し位置を変えてゆく。軸方向Xにおける他の位置においても同様である。
【0067】
各時刻におけるシール部材47と凸部441の先頭側頂点4412との当接位置を示す点をX軸上に投影すると、投影された点の集合は、シール部材47の最上流側端部のうち、現像ローラ44の回転によって凸部441の先頭側頂点と当接する可能性のある全ての箇所を表すことになる。図8では一部しか図示していないが、この実施形態では、X軸上に投影されたこれらの点はほとんど隙間なくX軸上に並ぶこととなる。このことは、シール部材47表面のほとんどの領域が、現像ローラ44が1周回転する間に少なくとも1回、凸部441の先頭側頂点4412との当接を受けることを意味している。
【0068】
前記したように、凸部441の先頭側頂点4412は、シール部材47と当接した際にはシール部材47上のトナーを掻き取るように作用する。したがって、この実施形態では、現像ローラ44の回転により、シール部材47のほとんどの領域が凸部441の先頭側頂点4412との当接によるトナー掻き取り作用を受けることになる。このように、この実施形態では、シール部材47に付着したトナーの掻き取り効果がほぼ全域で得られるため、シール部材47へのトナー固着が防止され、特に従来技術のような周期的なスジ状のトナー固着が現れることがない。
【0069】
次に、シール部材47へのトナー固着を効果的に防止するための定量的な要件について説明する。シール部材47の全領域で、凸部441の先頭側頂点4412によるトナー掻き取り効果を得るためには、シール部材47の表面領域のうち凸部441の先頭側頂点4412と当接しない部分ができるだけ少ない方がよい。また、その当接しない領域の軸方向(X方向)の幅ができるだけ小さい方がよい。
【0070】
図9は現像ローラの回転に伴う凸部の先頭側頂点の軌跡を示す図である。現像ローラ44表面上の任意の凸部441fを考えたとき、その凸部頂面の先頭側頂点を通り現像ローラ44の回転軸AXを中心とする円Cfを定義することができる。この円Cfは、現像ローラ44が回転したときの凸部441fの先頭側頂点の軌跡を表しており、以下ではこの円Cfを当該凸部441fの「軌跡円」と称する。現像ローラ44表面に当接するシール部材47の表面領域のうち、この軌跡円上にある位置では、凸部441fの先頭側頂面によるトナー掻き取り効果が期待できる。
【0071】
同様に、現像ローラ44表面上の他の凸部についても同様の軌跡円を定義することができる。ここで、もう1つの凸部441gの先頭側頂面を通り現像ローラ44の回転軸AXを中心とする軌跡円を符号Cgにより表し、2つの軌跡円CfおよびCgのX方向における間隔を符号Pにより表す。
【0072】
全ての凸部の軌跡円を現像ローラ44上に仮想的に描いたとき、多数の円が現像ローラ44表面を取り巻くように描かれるが、これらの軌跡円の隙間の領域は、シール部材47表面に対する凸部によるトナー掻き取り効果が弱い領域である。したがって、シール部材47上の全領域で良好なトナー掻き取り効果を得るには、互いに隣接する軌跡円間の間隔Pができるだけ小さいことが好ましく、より具体的には、最も間隔の広い部分でも、使用されるトナーの体積平均粒径より小さいことが望ましい。
【0073】
軌跡円間の間隔がトナーの体積平均粒径以上の部分が存在する場合、この部分に対応するシール部材47表面には平均的な粒径またはそれ以上の粒径を有するトナーの付着を許容してしまうことになる。このような付着トナーはさらなるトナーの付着を招き、次第にシール部材47表面に固着する。一方、軌跡円間の間隔Pが最大でもトナーの体積平均粒径未満の値となるようにすれば、平均的な粒径以上のトナーは凸部との当接により確実に掻き取られる。
【0074】
特に、凸部列上で隣接している2つの凸部(例えば図6における凸部441aと凸部441b)間で、それらの頂面の先頭側頂点の軸方向における位置の差L3をトナーの体積平均粒径未満とすることがより好ましい。また、凸部列に沿って隣接する各凸部間の軸方向における位置ずれの方向が同一でかつその量が均一であることがより好ましい。その理由は次の通りである。原理的には、シール部材47表面の各箇所が、現像ローラ44が1周する間に少なくとも1回凸部の頂点と当接すればよく、この意味においては、現像ローラ44の回転に伴う凸部頂点のシール部材47への当接位置の変化はランダムなものであってもよい。
【0075】
しかしながら、凸部の当接のたびに当接位置を大きく変化させた場合、1つの凸部との当接で取りきれなかった、あるいは軸方向に沿って側方に押しやられたトナーが、次の凸部との当接時にその頂点以外の部分と当接すると、凸部は掻き取りよりもむしろトナーをシール部材に押し付けるように作用してしまうおそれがある。これを防止しトナーを確実に掻き取るためには、1つの凸部頂点のシール部材への当接位置と、これに続いてシール部材に当接する他の1つの凸部頂点の当接位置との間は、互いに異なり、しかもその差はできるだけ小さいことが望ましく、最大でもトナーの体積平均粒径未満であることが望ましい。また、トナーがシール部材上の特定の領域で往復しないように、軸方向における凸部の位置ずれの方向が同じであることが望ましい。
【0076】
なお、この実施形態では各凸部441の頂面4411の形状を斜め向きの略平行四辺形としているため、現像ローラ44表面の移動方向D4において最も前方側に位置し、回転に伴って最初にシール部材47と当接するのは該平行四辺形の1つの頂点である。したがってこの頂点の軌跡円は幅を持たず、厳密には各凸部の軌跡円を互いにオーバーラップさせることができない。しかしながら、先頭側頂点4412に代えて、現像ローラ44表面の移動方向D4における先頭側に軸方向に平行な辺を有する形状の凸部を設ければ、この辺がなす軌跡は一定の幅を有する円筒形状となるので、これらを互いにオーバーラップさせて、互いの間隔をゼロにすることが可能である。このとき、シール部材47表面の全域が必ず凸部との当接を受けて、付着トナーをより確実に取り去ることが可能となる。
【0077】
また、図6に示した各部の寸法を使って、次式:
(2πR/L1)・L3 ≧ L2 … (式1)
の関係が成立するように、凸部441の寸法および配置にかかる値L1、L2およびL3を設定してもよい。ただし、符号Rは現像ローラ44の包絡円筒面の半径である。この式の意味するところは次の通りである。
【0078】
上式において、値(2πR)は包絡円筒面の円周を表している。したがって、この値を、凸部列上で隣接する2つの凸部の頂点間の距離L1で割った値(2πR/L1)は、現像ローラ44の1周中に存在する凸部の数を表している。したがって、この値(2πR/L1)に、凸部列における隣接凸部間の位置ずれ量に相当する値L3を乗じた(式1)左辺の値は、この位置ずれ量を現像ローラ1周分にわたって積算したものである。一方、(式1)右辺の値L2は、隣接する2つの凸部列の間隔を表している。
【0079】
したがって、(式1)の意味するところは、ある凸部列に属する各凸部441のシール部材47への当接位置の、現像ローラ44が1周する間の移動量が、隣接する凸部列間のピッチ以上である、という関係である。図8に示したように、ある凸部列に属する凸部のシール部材47への当接位置は、現像ローラ44の回転に伴ってその軸方向へ移動してゆくが、上記(式1)の関係を満たす場合、1つの凸部列に属する各凸部によってカバーされるシール部材への当接位置と、これに隣接する別の凸部列に属する各凸部によってカバーされるシール部材への当接位置との間に大きな隙間が生じない。これにより、シール部材47表面へのトナー残留が抑制される。特に好ましいのは、上記(式1)において等号が成立する場合である。
【0080】
図10は凸部の好ましい配列を示す図である。図6に示した、各凸部列の配列方向を示す線Svは、この線上にある先頭側頂点4412a、4412b等がいずれも現像ローラ44の包絡円筒面上にあることから、同円筒面上のつるまき線の一部をなしている。つまり、これらの凸部の先頭側頂点4412a、4412bおよび4412cは、現像ローラ44の包絡円筒面上の同一のつるまき線上に存在している。
【0081】
このように、現像ローラ44表面の移動方向D4に沿って並ぶ各凸部441それぞれの先頭側頂点4412を順番に結んでゆくと、図10に符号H1およびH2で示すように、現像ローラ44の包絡円筒面上のつるまき線となる。当該つるまき線のピッチは、現像ローラ44表面の移動方向D4において隣接する凸部間の該方向D4における位置の差(図6に示す値L1)および軸方向Xにおける位置の差(図6に示す値L2)によって決まる。そして、このつるまき線のピッチが原理的に最も小さくなるのは、図10に符号H1で示すように、現像ローラ44表面において凸部列の1つを通るつるまき線が現像ローラ44の周囲を1周して、さらに軸方向Xにおいてこの凸部列と隣接する凸部列上を通る場合である。このとき、現像ローラ44上の全ての凸部の先頭側頂点が単一のつるまき線上に位置することになる。この場合のつるまき線のピッチは、凸部列のピッチと同一であり、図6に示す値L2に等しい。
【0082】
このようにした場合、現像ローラ44の回転に伴って、凸部列に沿った各凸部441の先頭側頂点4412がシール部材47と当接する位置は少しずつ軸方向に移動し、現像ローラ44がちょうど1周したときに、隣の凸部列に属する凸部が当接していた位置の直近位置に達することになる。つまり、この場合、現像ローラ44表面に設けられた各凸部441の先頭側頂点4412は、全て異なる位置においてシール部材47表面に当接し、二つ以上の先頭側頂点が互いに同一位置でシール部材47表面に当接することはない。このとき、シール部材47表面で凸部441の先頭側頂点と当接する箇所の数が最大(つまり凸部の数と同じ)となり、しかもそれらの箇所の間隔は一定かつ最小となる。したがって、シール部材47に付着したトナーに対する掻き取り効果も、シール部材47表面の広い領域において均一とすることができる。
【0083】
上記(式1)において等号が成立する条件とは、まさにここで説明したような位置関係に各凸部441が配列されていることである。すなわち、現像ローラ44が1周する間の凸部441の軸方向位置ずれ量の積算値が凸部列のピッチと同じであるとき、各凸部441の先頭側頂点4412は全て異なる位置でシール部材47と当接し、かつそれらの当接位置の間隔が一定となる。
【0084】
なお、上記のように各凸部441が全て単一のつるまき線上に配置されることが望ましいが、必要十分なトナー掻き取り効果を得るという点において、このことは必須というわけではない。すなわち、各凸部441が複数のつるまき線上に配列されていてもよい。図10の符号H2で示す例では、ある凸部列に沿ったつるまき線H2が、これに隣接する凸部列ではなくさらにその隣の凸部列を通過するように、各凸部441が配列されている。つるまき線H2上に位置する凸部列間に挟まれた凸部列に属する各凸部も、つるまき線H2と平行な別のつるまき線上に配置されている。つまりこの場合、現像ローラ44上の各凸部441は、現像ローラ44上の2条のつるまき線に沿って配置されていると言える。
【0085】
このような配列のとき、シール部材47表面の同一箇所が、現像ローラ44が1周する間に、互いに隣接する凸部列にそれぞれ属する2つの凸部に当接することになる。すなわち、凸部列の配列を2条のつるまき線状としたとき、現像ローラ1周当たりのシール部材47表面の同一箇所への凸部の先頭側頂点の当接回数は1条の場合の2倍となるが、当接箇所間の間隔も2倍となる。すなわち、当接回数の増加による掻き取りの効果は向上するが、間隔が粗くなることで、細かい粒子をシール部材47上に残留させてしまう可能性が高まる。ただし、シール部材47表面から除去すべき粒子の想定される大きさよりも当接箇所間の間隔が小さければ、このことは特に問題とならない。より多い条数の場合も同様に考えることができる。
【0086】
以上のように、この実施形態では、トナーの掻き取り効果が高い各凸部441の先頭側頂点4412の軸方向位置が少しずつずれるように、現像ローラ44表面に凸部を配列している。このような構成によれば、現像ローラ44の回転に伴って、各先頭側頂点4412のシール部材47への当接位置が少しずつ変化してゆくので、トナーの掻き取り効果の不均一が生じず、現像ローラ44表面に当接するシール部材47の表面領域の全体で、高いトナー掻き取り効果を得ることができる。その結果、この実施形態では、シール部材47へのトナー固着を防止して、これに起因するトナー漏れや画質劣化等の問題を未然に防止することが可能である。
【0087】
なお、上記のように凸部の軸方向位置を少しずつ変化させた配置を開示した公知例として、特開2003−57940号公報(特に、図4)がある。しかしながら、同公報には、凸部の位置ずれ量をどのように設定するかについては一切記載されておらず、特に、トナー粒径との関係や、各凸部を結んでなるつるまき線の形状等については全く考慮されていないものである。
【0088】
次に、上記のような現像ローラ44の製造方法について説明する。図7に示す従来技術の現像ローラ、すなわち凸部列が現像ローラ表面の移動方向に沿って並ぶ現像ローラの製造方法については、本願出願人が先に開示した例えば特開2007−127800号公報や特開2007−140080号公報などに記載されている。一方、本実施形態における現像ローラ44については、これらの文献に記載された製造方法を改良した製造方法によって製造することが可能である。具体的には、以下に説明するようにダイスの形状を変えることによって製造することができる。
【0089】
図11はこの発明にかかる現像ローラの製造方法の概要を示す図である。本実施形態の現像ローラ44は、銅、アルミニウム、ステンレス等の金属または合金製の円筒形状を有するローラ素材400に、互いに交わる二種類の溝を形成することによって製造することができる。より具体的には、図11に示すように、互いに同一方向に回転する1対のダイス901、902をローラ素材400の表面に押し当てながら所定方向に送る通し転造法によって、つるまき線状の第1の溝401および第2の溝402を形成する。
【0090】
ダイス901の回転軸とローラ素材400の中心軸とは平行ではなくわずかに(例えば1度)傾けられる。また、ダイス902の回転軸とローラ素材400の中心軸との間も、上記とは反対方向かつ同じ大きさ(例えば−1度)に傾けられる。こうすることにより、ローラ素材400にはダイス901および902の回転に起因するスラスト力が作用することとなり、ダイス901および902を回転させるとローラ素材400が軸方向に沿って送られることになる。図11に示す例では、ダイス901および902の回転によってローラ素材400は回転しながら図の右方向に送られる。
【0091】
ダイス901、902のそれぞれは、円筒の外周面に螺旋状の突起を有する形状となっている。ダイス901における該螺旋のピッチをP1a、螺旋角をθ1aとする。この突起をローラ素材400に押し当てることにより、ローラ素材400の表面が塑性変形して、つるまき線状でピッチP1bおよび螺旋角θ1bを有する第1の溝401が刻まれる。ここで、第1の溝の螺旋角θ1bは、ダイス901の突起の螺旋角θ1aと、ローラ中心軸に対するダイス901の回転軸の傾きの大きさとによって決めることができる。また、図11に破線で示す三角形から、90度から第1の溝401の螺旋角θ1bを引いた値が、図6に示した傾斜角αに相当していることがわかる。第1の溝401は、1条、多条のいずれであってもよく、ダイスの形状によって選択可能である。
【0092】
また、ダイス902に設けられた突起の螺旋のピッチをP2a、螺旋角をθ2aとする。この突起をローラ素材400に押し当てることにより、ピッチがP2b、螺旋角がθ2bのつるまき線状の第2の溝402が刻まれる。また、図11に破線で示す三角形から、180度から第2の溝402の螺旋角θ2bを引いた値が、図6に示した傾斜角βに相当していることがわかる。第2の溝402も、1条、多条のいずれであってもよい。
【0093】
こうすることにより、ローラ素材400の外周面には格子状に交わる2種類の溝が刻まれて、この溝が現像ローラ表面の凹部442として機能する。また、溝に囲まれた多数の突起部が現像ローラ表面の凸部441として機能することとなる。各凸部の頂面は、もとのローラ素材400の表面そのままであって、当然にこれらはいずれも単一の円筒面の一部をなしている。
【0094】
ここで、第1の溝を形成するためのダイス901と、第2の溝を形成するためのダイス902との間で、そのピッチを僅かに異ならせてP1a≠P1bとすると、ローラ素材400の表面に刻まれる第1の溝のピッチP1bと第2の溝のピッチP1bとの間も異なった値となる。第1の溝のピッチP1bが図6の凸部配列ピッチAに関係する一方、第2の溝のピッチP2bが図6のもう1方向の凸部配列ピッチBに関係しているので、これにより、配列ピッチA、Bが互いに異なる本実施形態の現像ローラ44の表面構造を形成することができる。
【0095】
なお、2組のダイスのピッチ比については、非整数比とすることが望ましい。というのは、ピッチ比を整数比とした場合、凸部の位置変化のパターンは、いくつかの位置の間を交互に変化するものに限定されてしまい、凸部との当接によるトナー除去効果が局所的になってしまうからである。例えば、ピッチ比が1:2である場合、1つの凸部列に属する各凸部の頂点は、軸方向において2つの位置を交互に取るだけで、その他の位置を取り得ない。これによりシール部材上の固着トナーによるスジのピッチは図7(b)に示すものの半分となるが、シール部材全体で十分なトナー除去効果が得られるとは言い難い。
【0096】
また、第1の溝を形成するためのダイス901と、第2の溝を形成するためのダイス902との間で、その螺旋角θ1a、θ2a(より厳密には、これらに両ダイスの回転軸の傾きも加えた角度)を僅かに異なる値に設定し、ローラ素材400上に形成される第1および第2の溝の螺旋角θ1bおよびθ2bを互いに異ならせることによっても、図6の配列とは少し異なるものの、これと同様に軸方向位置が少しずつ移動してゆく凸部列を形成することが可能である。
【0097】
図12は凸部の形状および配列の他の例を示す図である。2組のダイスそれぞれのピッチを同一とする一方、螺旋角θ1a、θ2aを異ならせて図11と同様にローラ素材400の表面を加工した場合を考える。この場合、図12に示すように、それぞれの螺旋角に対応した2種類の溝が現像ローラ表面に刻まれることによって凹部446が形成され、これらの溝に囲まれて、配列ピッチAとBとが同一で、傾斜角α、βが直交しない凸部445の配列が形成される。このような構造においても、同一凸部列において隣接する各凸部445の頂面4451の先頭側頂点4452を結ぶ線がX方向に対してなす角γは90度以外の値を取る。つまり、このような構成によっても、現像ローラの回転に伴いシール部材に当接する凸部445の位置は軸方向Xに少しずつ移動してゆき、シール部材の各所でトナーの掻き取り効果を発揮させることができる。
【0098】
図13はこの発明にかかる現像ローラの製造方法を示すフローチャートである。最初に、ローラ素材400の下処理を行う(ステップS101)。ここでの下処理は、例えばローラ素材400となるべき金属円筒または円柱を作成したり、その表面を平滑に仕上げるための処理などである。そして、このローラ素材400を図示しない転造加工機にセットし(ステップS102)、第1のダイス、すなわちダイス901と、第2のダイス、すなわちダイス902とをローラ素材400に押し当てた状態でこれらのダイスを回転させることにより、第1の溝401および第2の溝402を形成する(ステップS103)。第1および第2のダイスを回転させることによりローラ素材400は回転しながら軸方向に沿って送られ、これによりローラ素材400表面の所定領域に連続的に第1および第2の溝を形成することができる。最後に、こうして2種類の溝を形成されたローラ素材400を洗浄したり、表面のストレスを取るための熱処理等の後処理を行って(ステップS104)、現像ローラとなるべきローラ素材の加工が完了する。
【0099】
以上のように、この製造方法によれば、互いに同一円筒面の一部をなし、しかも、回転に伴う表面の移動方向に沿って並ぶ各凸部の軸方向位置が少しずつ変化してゆく凸部およびこれを囲む凹部を有する現像ローラを製造することができる。そして、こうして製造された現像ローラは、シール部材と当接しながら回転することにより、シール部材上の付着トナーを効果的に除去することが可能である。
【0100】
なお、本願出願人が先に開示した前出の特開2007−140080号公報では、「互いに異なる型を用いて2種類の溝を形成してもよい」旨の記載があるが(例えば段落0012)、どのような形状の型を組み合わせるのか、またその組み合わせで製造された現像ローラがどのような技術的意義を有するのかについては、具体的には開示していない。
【0101】
図14はこの発明の効果を説明するための図である。図14において数値例1ないし数値例4として示す各部の寸法を有する4種類の現像ローラを試作し、その特性を評価した。ここでは、斜め方向の凸部の配列の傾斜角α、βを一定とし、そのピッチA、Bを変化させた。また、評価項目としては、(1)固着トナーによるシール部材47上のフィルミング発生の有無、(2)現像ローラ44表面、特にその凸部441へのトナー固着による現像ローラ44上のフィルミング発生の有無、(3)現像ローラ等にトナーが付着したことに起因するスジ状の画像欠陥(画像スジ)発生の有無、(4)現像ローラ表面に担持されるトナーの帯電リセット性の良否に起因して生じる現像履歴現象の有無、(5)画像へのカブリの程度、(6)現像器外へのトナー飛散の程度、を用いた。
【0102】
数値例1および2に示すように、凸部列における隣接凸部間の軸方向位置ずれ量L3がトナーの体積平均粒径Daveよりも小さく、かつ現像ローラ1周分の該位置ずれ量の積算値(2πR/L1)・L3が軸方向の凸部配列ピッチL2と同等またはこれより大きいときに、各評価項目において良好な結果を得られた。特に、現像ローラ1周分の凸部位置ずれ量の積算値(2πR/L1)・L3が軸方向の凸部配列ピッチL2とほぼ等しいときに、最も良好であった。
【0103】
これに対して、現像ローラ1周分の凸部位置ずれ量の積算値(2πR/L1)・L3が軸方向の凸部配列ピッチL2よりも小さい数値例3の構成や、凸部列における隣接凸部間の軸方向位置ずれ量L3がトナーの体積平均粒径Daveよりも大きい数値例4の構成では、いずれの評価項目においてもよい結果を得ることができなかった。このことから、本発明がシール部材や現像ローラへのトナー固着防止に効果的に寄与していることがわかる。
【0104】
以上説明したように、この実施形態では、現像器4Y、4M、4Cおよび4Kがそれぞれ本発明の「現像装置」として機能しており、現像ローラ44が本発明の「トナー担持ローラ」として機能している。また、この実施形態の現像ローラ44表面において、各凸部441が有する頂面4411の先頭側頂点4412が、本発明の「先頭部」に相当している。また、図8に示す凸部441bから見た凸部441aおよび凸部441cがそれぞれ本発明の「前方側隣接凸部」および「後方側隣接凸部」に相当している。また、上記実施形態では、感光体22が本発明の「潜像担持体」として機能している。
【0105】
また、上記実施形態では、1組のダイス901および902が、それぞれ本発明の「第1の工具」および「第2の工具」として機能している。
【0106】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記した現像ローラの製造方法においては、回転するダイスを押し当ててローラ素材表面を塑性変形させる、いわゆる通し転造法によって現像ローラ表面の凹凸構造を形成しているが、これに限定されるものではなく、例えば回転しながら軸方向に移動するローラ素材にバイトを押し当ててローラ素材表面の切削することによって溝を形成するようにしてもよい。
【0107】
また、上記した製造方法では、互いに交わる2種類の溝を同時に形成しているが、例えば、2種類の溝をそれぞれ別工程で個別に形成するようにしてもよい。
【0108】
また、上記実施形態の現像ローラは、互いに交わる2種類の溝を形成する通し転造法により形成されたものであるため、その頂面が略平行四辺形を有する多数の凸部を有するものであるが、本発明の条件を満たすものであれば、凸部の形状はこれに限定されず、また他の製造方法により製造されたものであってもよい。
【0109】
また、上記実施形態の現像ローラ44では、斜め方向における凸部の配列の傾斜角α、βをそれぞれ45°、135°としているが、これらの数値はこれに限定されるものでなく、適宜に変更してもよい。また、各部の寸法についても同様である。
【0110】
さらに、上記各実施形態は、複数の現像器を回転するロータリー現像ユニットに装着したいわゆるロータリー現像方式の画像形成装置に本発明を適用したものであるが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、例えば複数の現像器を転写媒体の回転方向に沿って並べたいわゆるタンデム現像方式の画像形成装置や、現像器を1個のみ備えたモノクロ画像形成装置に対しても、本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】この発明を適用した画像形成装置の一実施形態を示す図。
【図2】図1の画像形成装置の電気的構成を示すブロック図。
【図3】現像器の外観を示す図。
【図4】現像器の構造および現像バイアス波形を示す図。
【図5】現像ローラおよびその表面の部分拡大図を示す図。
【図6】現像ローラの表面構造をより詳細に示す図。
【図7】従来技術の画像形成装置におけるトナー固着の様子を示す模式図。
【図8】シール部材のトナー付着防止効果を説明するための図。
【図9】現像ローラの回転に伴う凸部の先頭側頂点の軌跡を示す図。
【図10】凸部の好ましい配列を示す図。
【図11】この発明にかかる現像ローラの製造方法の概要を示す図。
【図12】凸部の形状および配列の他の例を示す図。
【図13】この発明にかかる現像ローラの製造方法を示すフローチャート。
【図14】この発明の効果を説明するための図。
【符号の説明】
【0112】
4Y,4M,4C,4K…現像器(現像装置)、 22…感光体(潜像担持体)、 44…現像ローラ(トナー担持ローラ)、 47…シール部材、 400…ローラ素材、 441…凸部、 442…凹部、 4412…(凸部頂面の)先頭側頂点(先頭部)、 441a…(凸部441bから見た)前方側隣接凸部、 441c…(凸部441bから見た)後方側隣接凸部、 901…ダイス(第1の工具)、 902…ダイス(第2の工具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状または円柱状をなし、その外周面にトナーを担持するための凹凸部を有するトナー担持ローラの製造方法であって、
円筒状または円柱状のローラ素材を用意する工程と、
前記ローラ素材の外周面に、つるまき線状の第1の溝を形成する工程と、
前記ローラ素材の外周面に、前記第1の溝と交わるつるまき線状の第2の溝を形成する工程と
を備え、しかも、
前記第1の溝と前記第2の溝とのピッチ比を非整数比とする
ことを特徴とするトナー担持ローラの製造方法。
【請求項2】
円筒状または円柱状をなし、その外周面にトナーを担持するための凹凸部を有するトナー担持ローラの製造方法であって、
円筒状または円柱状のローラ素材を用意する工程と、
前記ローラ素材の外周面に、つるまき線状の第1の溝を形成する工程と、
前記ローラ素材の外周面に、前記第1の溝と交わるつるまき線状の第2の溝を形成する工程と
を備え、しかも、
前記第1の溝の螺旋角と、前記第2の溝の螺旋角とを互いに異ならせる
ことを特徴とするトナー担持ローラの製造方法。
【請求項3】
前記第1の溝を形成する工程では、前記第1の溝を形成するための突起部を有する第1の工具を前記ローラ素材の外周面に押し当て前記ローラ素材を回転させながらその軸方向に移動させる一方、前記第2の溝を形成する工程では、前記第2の溝を形成するための突起部を有する第2の工具を前記ローラ素材の外周面に押し当て前記ローラ素材を回転させながらその軸方向に移動させ、しかも、
前記第1の工具と前記第2の工具とを互いに異なる形状とする請求項1または2に記載のトナー担持ローラの製造方法。
【請求項4】
前記第1の溝を形成するための突起部を有する第1の工具と、前記第2の溝を形成するための突起部を有する第2の工具とを前記ローラ素材に押し当てて前記ローラ素材を回転させることにより、前記第1の溝を形成する工程および前記第2の溝を形成する工程とを同時に実行する請求項1ないし3のいずれかに記載のトナー担持ローラの製造方法。
【請求項5】
内部にトナーを貯留するハウジングと、
略円筒または略円柱形状に形成されるとともに前記ハウジングに回転自在に軸着され、その表面に帯電トナーを担持しながら回転してトナーを前記ハウジングの外部に搬送するトナー担持ローラと、
前記ハウジング外部からハウジング内へ向かう前記トナー担持ローラ表面に当接してトナー漏れを防止するシール部材と
を備え、
前記トナー担持ローラは、規則的に配置された複数の凸部および該凸部を取り囲む凹部をその表面に有しており、
前記複数の凸部それぞれの頂面は互いに同一の円筒面の一部をなしており、各凸部の前記頂面の周囲のうち前記トナー担持ローラの回転に伴う移動方向において最も先頭に位置する部分を当該凸部の先頭部と定義したとき、
前記トナー担持ローラが1周する間に前記各凸部それぞれの前記先頭部が描く軌跡同士の、前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における間隔の最大値が、前記トナーの体積平均粒径よりも小さい
ことを特徴とする現像装置。
【請求項6】
前記間隔の最大値が0である請求項5に記載の現像装置。
【請求項7】
前記凸部のそれぞれについて、当該凸部の前記先頭部と、当該凸部に隣接する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい凸部の前記先頭部との間の前記軸方向における間隔が、0より大きく前記トナーの体積平均粒径よりも小さい請求項5に記載の現像装置。
【請求項8】
前記凸部のそれぞれについて、当該凸部に隣接し前記移動方向において当該凸部よりも前方側に位置する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい前方側隣接凸部の前記先頭部と、当該凸部に隣接し前記移動方向において当該凸部よりも後方側に位置する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい後方側隣接凸部の前記先頭部とが、前記軸方向において互いに位置が異なる請求項7に記載の現像装置。
【請求項9】
前記軸方向において、前記前方側隣接凸部と前記後方側隣接凸部とが、当該凸部を挟んで互いに反対側に位置する請求項8に記載の現像装置。
【請求項10】
前記複数の凸部それぞれの頂面は、前記移動方向における前方側に最も突出した頂点を有しており、該頂点が前記先頭部を構成する請求項5ないし9のいずれかに記載の現像装置。
【請求項11】
内部にトナーを貯留するハウジングと、
略円筒または略円柱形状に形成されるとともに前記ハウジングに回転自在に軸着され、その表面に帯電トナーを担持しながら回転してトナーを前記ハウジングの外部に搬送するトナー担持ローラと、
前記ハウジング外部からハウジング内へ向かう前記トナー担持ローラ表面に当接してトナー漏れを防止するシール部材と
を備え、
前記トナー担持ローラは、規則的に配置された複数の凸部および該凸部を取り囲む凹部をその表面に有しており、
前記複数の凸部それぞれの頂面は、互いに同一の円筒面の一部をなすとともに前記トナー担持ローラ表面の移動方向における前方側に最も突出した頂点を有しており、
互いに隣接する凸部のうち前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における位置の差が最も小さい2つの凸部それぞれの前記頂点同士を前記円筒面に沿った最短距離で結んだ線がいずれも、前記円筒面上の単一のつるまき線の一部をなす
ことを特徴とする現像装置。
【請求項12】
静電潜像を担持する潜像担持体と、
内部にトナーを貯留するハウジングと、
略円筒または略円柱形状に形成されるとともに前記ハウジングに回転自在に軸着され、その表面に帯電トナーを担持しながら回転してトナーを前記潜像担持体との対向位置に搬送するトナー担持ローラと、
前記ハウジング外部からハウジング内へ向かう前記トナー担持ローラ表面に当接してトナー漏れを防止するシール部材と
を備え、
前記トナー担持ローラは、規則的に配置された複数の凸部および該凸部を取り囲む凹部をその表面に有しており、
前記複数の凸部それぞれの頂面は互いに同一の円筒面の一部をなしており、各凸部の前記頂面の周囲のうち前記トナー担持ローラの回転に伴う移動方向において最も先頭に位置する部分を当該凸部の先頭部と定義したとき、前記トナー担持ローラが1周する間に前記各凸部それぞれの前記先頭部が描く軌跡同士の、前記トナー担持ローラの回転軸に平行な軸方向における間隔の最大値が、前記トナーの体積平均粒径よりも小さい
ことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−175289(P2009−175289A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12148(P2008−12148)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】