説明

トナー用ポリエステル樹脂の製造方法およびトナー用ポリエステル樹脂組成物

【課題】 低温定着性、耐ホットオフセット及び保存安定性に優れる電子写真トナーを好適に得ることができるトナー用ポリエステル樹脂の製造方法とトナー用ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基と反応する基を含有するワックス(W)を重縮合するトナー用ポリエステル樹脂の製造方法、ポリエステル樹脂とワックスとを含有するトナー用ポリエステル樹脂組成物であり、該ポリエステル樹脂が多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基と反応する基を含有するワックス(W)を重縮合して得られるポリエステル樹脂(Z)であるトナー用ポリエステル樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温定着性、耐ホットオフセット及び保存安定性に優れるヒ−トロ−ル定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができるトナー用ポリエステル樹脂の製造方法と低温定着性、耐ホットオフセット及び保存安定性に優れるヒ−トロ−ル定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができるトナー用ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
感光体上に形成された静電気潜像を電子写真トナーにより可視化し、さらに転写等の工程を経て媒体上に情報を定着させるいわゆる電子写真印刷方式において、印刷速度の高速化が図れることからヒ−トロ−ル(熱ロ−ル)によって電子写真トナーを媒体上に融着させる方式(ヒートロール定着方式)が現在の主流となっている。
【0003】
このヒートロール定着方式において、近年の環境保全意識の高まりからできるだけ使用する熱エネルギ−を低減しようとする傾向が顕著となっている。すなわち、より低温で定着させることができる電子写真トナーが求められている。
【0004】
しかしながら、ヒートロール定着方式に用いる電子写真トナーには定着ロールにオフセット(高温オフセット)しない性能が求められるため、電子写真トナーに使用されてきた結着樹脂(バインダ−)は高分子量の熱可塑性樹脂や、部分的に架橋した熱可塑性樹脂が主に使用されてきた。これらの樹脂の溶融は高温で行わなければならず、そのため、これらの樹脂を用いた電子写真トナーを用いて印刷を行うには該電子写真トナーを溶融し定着させる温度(定着温度)を高く設定する必要がある。その結果として、近時の省エネルギ−指向という社会的要請を十分満足させるに至っていないのが現状である。
【0005】
ところで、小型プリンターなどに代表されるオイルレス定着器を装備した印刷機に用いる電子写真用トナーは、ヒートロールからの離型剤として電子写真ナー中にワックスを内添するのが主流である。具体的には、結着樹脂、顔料、ワックス及び必要に応じて他の添加剤を溶融混練し、粉砕・分級して電子写真トナーを得ている。しかしながら、ポリエステル樹脂はワックスとの相溶性が悪く溶融混練工程において、ワックスを樹脂中に均一に分散させることが困難である。このようなワックス分散が不均一な電子写真トナーは定着ロールにオフセットしやすい。また、保存安定性も良好でない。
【0006】
低温定着性、耐ホットオフセットを両立させる電子写真トナーポリエステル樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系ワックスを添加して重合されたワックス内添ポリエステル樹脂が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。具体的には、例えば、特許文献1の参考例6において多塩基酸と多価アルコールとエポキシ基含有化合物とをポリエステル樹脂の原料にはなりえないワックス、例えば、多塩基酸や多価アルコール等が有する官能基と反応する基を有さないポリオレフィンワックス(例えば、特許文献1の実施例で用いている三洋化成工業株式会社製のビスコール550Pやクラリアントジャパン株式会社製のPE130等)の存在下重合して得られたポリエステルが開示されている。しかしながら、該特許文献1に開示されたポリエステル樹脂を用いて得られる電子写真トナーでも、低温定着性、耐ホットオフセット性が十分ではない。
【0007】
【特許文献1】特開2002−148844公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、低温定着性、耐ホットオフセットに優れ、更に、保存安定性も良好なヒ−トロ−ル定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができるトナー用ポリエステル樹脂の製造方法と、低温定着性、耐ホットオフセット及び保存安定性に優れるヒ−トロ−ル定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができるトナー用ポリエステル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、下記の知見を見出した。
(1)前記特許文献1において多塩基酸、多価アルコール、エポキシ基含有化合物に加え、これらが有する官能基の少なくとも一つと反応する基を有するワックス成分をポリエステル樹脂の原料とすることにより、ワックス成分が取り込まれたポリエステル樹脂が得られる。
【0010】
(2)本願発明の参考例1〜3及び比較参考例1〜4から明らかな通り、ワックス成分が取込まれたポリエステル樹脂は前記特許文献1のようにワックス成分が取込まれないポリエステル樹脂に比べてトナー化する際のワックスの平均粒径をはるかに小さくすることができる。具体的には、参考例中最も悪い成績である参考例3の平均粒径2.0μmと比較参考例中最も良い成績である比較参考例2の3.6μmとを比較しても1.7倍も平均粒径を小さくできる。つまり、前記ワックス成分が取込まれたポリエステル樹脂は引用文献1のように単にポリエステル樹脂合成時に添加するのみでポリエステル樹脂中に取込まれない場合に比べて1.7倍もワックスの分散性能に優れる。このワックスの分散性能の向上により低温定着性と耐ホットオフセットに優れる電子写真トナーが得られる。このように前記ワックス成分が取り込まれたポリエステル樹脂の顕著な効果は前記特許文献1の記載や示唆から予想される効果以上の効果である
【0011】
(3)前記ワックス成分が取り込まれたポリエステル樹脂は添加するワックスを均一にポリエステル樹脂中に分散するので、得られる電子写真トナーは保存安定性も良好である。
【0012】
(4)前記ワックス成分が取り込まれたポリエステル樹脂の合成に用いるワックス成分とトナー化する際に用いるワックス成分は同一のものであっても良いし、異なるものでも良いため、電子写真トナー設計における選択幅も広い。
本発明は上記知見により完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基の少なくとも一つと反応する基を含有するワックス(W)を重縮合することを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、ポリエステル樹脂とワックスとを含有するトナー用ポリエステル樹脂組成物であり、該ポリエステル樹脂が多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基の少なくとも一つと反応する基を含有するワックス(W)を重縮合して得られるポリエステル樹脂(Z)であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、低温定着性、耐ホットオフセットに優れ、更に、保存安定性も良好なヒ−トロ−ル定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができるトナー用ポリエステル樹脂を容易に提供できる。また、本発明のトナー用ポリエステル樹脂組成物を用いることにより低温定着性、耐ホットオフセットに優れ、更に、保存安定性も良好なヒ−トロ−ル定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法は、多塩基酸(A)、多価アルコール(B)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基の少なくとも一つと反応する基を含有するワックス(W)を重縮合することを特徴とする。ここで用いる多塩基酸(A)としては、例えば、ジカルボン酸等の多塩基酸、多塩基酸の無水物あるいは多塩基酸のアルキルエステルの如き反応性誘導体等が挙げられる。
【0017】
前記多塩基酸(A)の具体例としては、例えば、ジカルボン酸としては、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマ−ル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、修酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、ドデシルコハク酸、ドデシル無水コハク酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、デカン−1,10−ジカルボン酸等の脂肪族二塩基酸;
【0018】
フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸およびその無水物、ヘキサヒドロフタル酸およびその無水物、テトラブロムフタル酸およびその無水物、テトラクロルフタル酸およびその無水物、ヘット酸およびその無水物、ハイミック酸およびその無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族または脂環族の二塩基酸類等が挙げられる。
【0019】
前記多塩基酸のアルキルエステルが有するアルキル基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。
【0020】
さらに、3官能以上の多塩基酸として、1分子中に3個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸およびその反応性誘導体も使用することができる。これらの代表的なものを挙げると、トリメリット酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0021】
さらに、上記した多塩基酸類は、そのカルボキシル基の一部または全部がアルキルエステル、アルケニルエステルまたはアリ−ルエステルとなっているものも使用できる。
【0022】
また、ポリエステル樹脂を調製する際に、原料成分として、たとえばジメチロ−ルプロピオン酸あるいはジメチロ−ルブタン酸の如き3官能の原料成分としてのヒドロキシ酸あるいは6−ヒドロキシヘキサン酸のような、1分子中に水酸基とカルボキシル基を併有する化合物あるいはそれらの反応性誘導体も使用できる。
【0023】
前記した多塩基酸類はそれぞれ単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0024】
本発明の製造方法で用いる多塩基酸(A)としては、2〜4価の多塩基酸、2〜4価の多塩基酸の酸無水物及び2〜4価の多塩基酸の低級アルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のアルキルエステルおよびイソフタル酸のアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸がより好ましい。
【0025】
さらに、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸のような一塩基酸も本発明の効果を損なわない範囲内で併用することができる。
【0026】
本発明で用いる多価アルコール(B)としては、例えば、2価のアルコールとしては、ビスフェノ−ルA、ビスフェノ−ルAのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノ−ルAの誘導体類;エチレングリコ−ル、1,2−プロピレングリコ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル等の脂肪族ジオ−ル類;シクロヘキサンジメタノ−ル等の脂環族のジオ−ル類等が挙げられる。
【0027】
3官能以上のアルコールとしては、3個以上の水酸基を有する化合物も使用することができ、その代表的なものとして、グリセリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、ソルビト−ル、1,2,3,6−ヘキサンテトロ−ル、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリト−ル、ジペンタエリスリト−ル、2−メチルプロパントリオ−ル、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレ−ト等が挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法で用いる多価アルコール(B)としては2〜6価の脂肪族アルコールが好ましく2〜6価の低級脂肪族アルコールがより好ましくエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールが特に好ましい。
【0029】
本発明で用いるエポキシ基含有化合物(C)は、1分子中にエポキシ基を1個以上含む化合物である。具体的には、例えば、分子中にエポキシ基を1個有するモノエポキシ化合物や、分子中にエポキシ基を2個以上有するポリエポキシ化合物等が挙げられる。
【0030】
前記モノエポキシ化合物としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステル、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、αーオレフィンオキサイド、モノエポキシ脂肪酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0031】
前記アルキルフェニルグリシジルエーテルとしては、例えばクレジルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル等が挙げられる。アルキルグリシジルエ−テルとしては、例えばブチルグリシジルエーテル、2ーエチルヘキシルグリシジルエーテルである。
【0032】
前記アルキルグリシジルエステルとしては、例えば、下記一般式で表される化合物等が挙げられる。
【0033】
【化1】

【0034】
前記一般式において、R〜Rはそれぞれ炭素原子数1〜25のアルキル基を表す。R〜Rは好ましくは、それぞれ炭素原子数1〜10のアルキル基である。
【0035】
前記アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルとしては、例えばブチルフェノール等の低級アルキルフェノールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの付加物のグリシジルエーテルである。具体的には、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテルのグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルのグリシジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルのグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールモノフェニルエーテルのグリシジルエーテル、プロピレングリコールモノ(p−t−ブチル)フェニルエーテルのグリシジルエーテル、エチレングリコールモノノニルフェニルエーテルのグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0036】
前記モノエポキシ化合物の中でも、アルキルグリシジルエステルが好ましく、炭素原子数4〜20のアルキルグリシジルエステルがより好ましく、ネオデカン酸のグリシジルエステルが更に好ましい。このネオデカンサン酸のグリシジルエステルは、例えば、「カ−ジュラE10」の商品名でシェルケミカル社製から入手できる。
【0037】
前記分子中にエポキシ基を2個以上有するポリエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルS型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂、フェノ−ルノボラック型エポキシ樹脂、クレゾ−ルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、グリシジルメタアクリレ−ト(GMA)を共重合して得られるビニル系重合体もエポキシ基含有化合物(C)として使用することができる。
【0038】
更に下記に示す化合物もエポキシ基含有化合物(C)として使用することができる。具体的には、例えば、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトールまたは水添ビスフェノールAの如き、各種の脂肪族ないしは脂環式ポリオールのポリグリシジルエーテル類;
【0039】
ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールSもしくはビスフェノールFの如き、各種の芳香族系ジオールのポリグリシジルエーテル類;上掲したような芳香族系ジオール類のエチレンオキシドもしくはプロピレンオキシド付加体の如き、該芳香族系ジオール誘導体類のジグリシジルエーテル類;
【0040】
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールもしくはポリテトラメチレングリコールの如き、各種のポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレ−トのポリグリシジルエーテル類;アジピン酸、ブタンテトラカルボン酸、プロパントリカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくはトリメリット酸の如き、各種の脂肪族ないしは芳香族ポリカルボン酸のポリグリシジルエステル類;
【0041】
ブタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、ドデカジエン、シクロオクタジエン、α−ピネンもしくはビニルシクロヘキセンの如き、各種の炭化水素系ジエンの種々のビスエポキシド類;ビス(3,4ーエポキシシクロヘキシルメチル)アジペートもしくは3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートの如き、各種の脂環式ポリエポキシ化合物;またはポリブタジエンもしくはポリイソプレンの如き、各種のジエンポリマーの種々のエポキシ化物;
【0042】
各種のエポキシ基含有ビニル単量体の種々の単独重合体またはエポキシ基含有ビニル単量体と、(メタ)アクリル系ビニル単量体類、ビニルエステル系ビニル単量体類、ビニルエーテル系ビニル単量体類、芳香族ビニル系ビニル単量体類、フルオロオレフィン系ビニル単量体類等のエポキシ基含有ビニル単量体と共重合可能な単量体とを共重合させることによって得られる、エポキシ基含有のアクリル系共重合体、ビニルエステル系共重合体、フルオロオレフィン系共重合体等の種々のビニル系共重合体類等が挙げられる。
【0043】
前記ポリエポキシ化合物の中でも、エポキシ基を2〜10個有するエポキシ化合物が好ましく、エポキシ基を2〜8個有するエポキシ化合物がより好ましく、エポキシ基を2〜4個有するエポキシ化合物が更に好ましい。これらのエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルS型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂、フェノ−ルノボラック型エポキシ樹脂、クレゾ−ルノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上のポリエポキシ化合物を好ましく使用できる。
【0044】
本発明で用いるエポキシ基含有化合物(C)の中でも、モノエポキシ化合物とポリエポキシ化合物の混合物が好ましい。混合物中のモノエポキシ化合物とポリエポキシ化合物の割合としては重量比で(モノエポキシ化合物)/(ポリエポキシ化合物)が10/90〜70/30が好ましい。
【0045】
本発明で用いるワックス(W)は、前記(A)、(B)、(C)が有する官能基の少なくとも一つと反応する基を含有する。このようなワックスとしては、多塩基酸(A)のカルボキシル基と反応する基を有するワックスとしては、例えば、水酸基含有ポリプロピレンワックス等が挙げられる。多価アルコール(B)の水酸基と反応する基を有するワックスとしては、例えば、酸化ポリエチレンワックス、マレイン酸変性ポリプロピレンワックス、カルナウバワックス等が挙げられる。エポキシ基含有化合物(C)のエポキシ基と反応する基を有するワックスとしては、例えば、酸化ポリエチレンワックス、マレイン化ポリプロピレンワックス、カルナウバワックス等が挙げられる。
【0046】
本発明の製造方法ではワックス(W)として、下記一般式(1)で示されるワックスを用いることが本発明の製造方法で得られるポリエステル樹脂を用いて電子写真トナーを製造する際に添加するワックスの分散性がより向上する理由から好ましい。
【0047】
【化2】

(式中、Rは炭素原子数50〜1000の炭化水素基で、Xはカルボキシル基、水酸基およびアルキルエステル基からなる群から選ばれる基である。)
【0048】
前記一般式(1)においてRは150〜500の炭化水素基がより好ましい。
【0049】
本発明の製造方法は、多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)および前記(A)、(B)、(C)が有する官能基と反応する基を含有するワックス(W)を重縮合することを特徴とする。例えば、前記多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)およびワックス(W)を窒素雰囲気中で加熱下に脱水縮合させる方法等が挙げられる。この際使用される装置としては、窒素導入口、温度計、攪拌装置、精留塔等を備えた反応容器の如き回分式の製造装置が好適に使用できるほか、脱気口を備えた押し出し機や連続式の反応装置、混練機等も使用できる。また、上記脱水縮合の際、必要に応じて反応系を減圧することによって、エステル化反応を促進することもできる。さらに、エステル化反応の促進のために、種々の触媒を添加することもできる。
【0050】
原料の添加順序は特に定める必要はないが、ワックスは反応途中で入れた方が脱水をスムーズに行わせることができる為に好ましい。
【0051】
本発明の製造方法において重縮合する際の温度は、例えば50〜300℃であり、100〜250℃がより好ましい。
【0052】
本発明の製造方法において重縮合する重合時間としては、例えば、重合温度が50〜250℃のときは通常5〜50時間である。
【0053】
本発明の製造方法では前記ワックス(W)を(A)、(B)、(C)および(W)の合計100重量部に対して0.5〜50重量部用いてポリエステル樹脂を合成するのが後添加するワックス類の分散性がより向上する理由から好ましい。
【0054】
本発明の製造方法では、得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度が40℃〜90℃となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合することにより多様な定着条件に対応できる電子写真トナーが得られることから好ましく、50〜80℃となるように重縮合するのがより好ましい。
【0055】
本発明の製造方法では、得られるポリエステル樹脂の軟化点が90℃〜190℃となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合することにより多様な定着条件に対応できる電子写真トナーが得られることから好ましく、100〜180℃となるように重縮合するのがより好ましい。
【0056】
また、本発明の製造方法では、得られるポリエステル樹脂のポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)が500〜10,000となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合することにより多様な定着条件に対応できる電子写真トナーが得られることから好ましく、2,000〜9,000となるように重縮合するのがより好ましい。
【0057】
更に、本発明の製造方法では、得られるポリエステル樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)が4,000〜500,000となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合することにより多様な定着条件に対応できる電子写真トナーが得られることから好ましく、5,000〜400,000となるように重縮合するのがより好ましい。
【0058】
本発明の製造方法では得られるポリエステル樹脂の溶融粘度は電子写真トナーとして使用できる範囲にあればいずれも使用することができる。中でも、本発明の製造方法では得られるポリエステル樹脂の高化式フロ−テスタ−による流動開始温度(Tfb)が60〜170℃となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合するのが好ましく、70〜160℃となるように重縮合するのがより好ましい。
【0059】
また、本発明の製造方法では得られるポリエステル樹脂の高化式フロ−テスタ−によるプランジャ−の1/2降下温度(T1/2)が100〜200℃となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合するのが好ましく、110〜190℃となるように重縮合するのがより好ましい。
【0060】
前記Tfbとは高化式フロ−テスタ−〔島津製作所(株)製CFT−500D〕において、温度/ピストンストロ−ク曲線の流出開始点の温度で表示される温度を言う。測定の際の荷重10Kg、昇温速度6℃/分である。また、T1/2とは高化式フロ−テスタ−〔島津製作所(株)製CFT−500D〕においてプランジャ−(ピストン)が流出開始から流出終了までの工程において中間点にきたときの温度をいう。
【0061】
本発明のトナー用ポリエステル樹脂組成物はポリエステル樹脂とワックスとを含有するトナー用ポリエステル樹脂組成物であり、該ポリエステル樹脂が多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基の少なくとも一つと反応する基を含有するワックス(W)を重縮合して得られるポリエステル樹脂(Z)であることを特徴とする。
【0062】
前記ポリエステル樹脂(Z)を調製するのに用いる多塩基酸(A)としては、例えば、前記本発明の製造方法で用いる多塩基酸等を用いることができる。ポリエステル樹脂(Z)は、多塩基酸(A)として2〜4価の多塩基酸、2〜4価の多塩基酸の酸無水物及び2〜4価の多塩基酸のアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸を用いて得られるポリエステル樹脂が好ましく、多塩基酸(A)としてテレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のアルキルエステルおよびイソフタル酸のアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸からなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸を用いて得られるポリエステル樹脂がより好ましい。
【0063】
前記ポリエステル樹脂(Z)を調製するのに用いる多価アルコール(B)としては、例えば、前記本発明の製造方法で用いる多価アルコール等を用いることができる。ポリエステル樹脂(Z)は多価アルコール(B)として2〜6価の脂肪族多価アルコールを用いて得られるポリエステル樹脂が好ましく、多価アルコール(B)としてエチレングリコール、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールを用いて得られるポリエステル樹脂がより好ましい。
【0064】
前記ポリエステル樹脂(Z)を調製するのに用いるエポキシ基含有化合物(C)としては例えば、前記本発明の製造方法で用いるエポキシ基含有化合物等を用いることができる。ポリエステル樹脂(Z)はエポキシ基含有化合物(C)としてモノエポキシ化合物と、2〜4個のエポキシ基を有するエポキシ化合物との混合物を用いて得られるポリエステル樹脂が好ましく、エポキシ基含有化合物(C)としてモノエポキシ化合物としてネオデカン酸のグリシジルエステルと、2〜4個のエポキシ基を有するエポキシ化合物としてビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルS型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂、フェノ−ルノボラック型エポキシ樹脂、クレゾ−ルノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上のポリエポキシ化合物とを含有する混合物を用いて得られるポリエステル樹脂がより好ましい。
【0065】
前記ポリエステル樹脂(Z)を調製するのに用いるワックス(W)としては、例えば、前記本発明の製造方法で用いるワックス等を用いることができる。ポリエステル樹脂(Z)は前記ポリエステル樹脂(Z)がワックス(W)として前記一般式(1)で示されるワックスを用いて得られるポリエステル樹脂がより好ましい。また、ポリエステル樹脂(Z)はワックス(W)を(A)、(B)、(C)および(W)の合計100重量部に対して0.1〜50重量部用いて得られるポリエステル樹脂が好ましい。
【0066】
本発明のトナー用樹脂組成物に用いるポリエステル樹脂(Z)は、例えば、本発明の製造法方法により好ましく用いることができる。ポリエステル樹脂(Z)はガラス転移温度が40℃〜90℃のポリエステル樹脂が好ましく50〜80℃のポリエステル樹脂がより好ましい。ポリエステル樹脂(Z)は軟化点が90℃〜190℃のポリエステル樹脂が好ましく、100〜180℃のポリエステル樹脂がより好ましい。
【0067】
ポリエステル樹脂(Z)はポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)が500〜10,000のポリエステル樹脂が好ましく、2,000〜9,000のポリエステル樹脂がより好ましい。
【0068】
ポリエステル樹脂(Z)はポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)が4,000〜500,000のポリエステル樹脂が好ましく5,000〜400,000のポリエステル樹脂がより好ましい。
【0069】
本発明のトナー用樹脂組成物に用いるワックスとしては、例えば、前記ワックス(W)やそれ以外のワックス等が挙げられる。ワックスは前記ワックス(W)と同じものを使用しても良いし、異なるものを使用しても良い。
【0070】
前記ワックス(W)以外のワックスとしては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリアミド系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、合成エステル系ワックス、各種天然ワックス等が挙げられる。中でもカルナウバワックス、モンタン系エステルワックス、ライスワックス、カイガラムシワックス、ポリプロピレンワックスが好ましい。
【0071】
ポリエステル樹脂(Z)を重合する際にワックス(W)を多量に含有させておくことにより、ポリエステル樹脂とワックスとを含有する電子写真トナー用樹脂組成物とすることができる。また、ポリエステル樹脂(Z)を重合後、ワックスを添加することによりポリエステル樹脂とワックスとを含有する電子写真トナー用樹脂組成物とすることもできる。
【0072】
本発明の製造方法で得られる電子写真トナー用ポリエステル樹脂や本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて電子写真トナーを調製する方法としては、以下の工程を含む調製方法が挙げられる。まず、本発明の製造方法で得られる電子写真トナー用ポリエステル樹脂や本発明のポリエステル樹脂組成物と着色剤と必要に応じて帯電制御剤、ワックス、流動調整剤等をヘンシェルミキサ−などで予備混合して混合物を調製した後、この混合物を3本ロ−ル、加圧ニ−ダ−、2軸押し出し機等の装置で溶融混練し、混練物を得る。ついで、この混練物を冷却し、粗粉砕した後タ−ボミル等を用いた機械粉砕法あるいはジェットミルを用いたエア−式粉砕法等の方法によって所定の粒子径のトナ−粒子を得る。さらに必要に応じてこのトナ−粒子を風力分級機等により分級することが一般的である。通常は体積平均粒子径として、5〜15μmとなるように調製される。また、このように調製されたトナ−粒子に対し、粉体の流動性改良や帯電特性の改良のため外添剤としてシリカ粉末、酸化チタン、アルミナ等の微粒子が混合されるのが一般的である。
【0073】
前記着色剤としては、例えば、黒色トナ−の場合サ−マルブラック法、アセチレンブラック法、チャンネルブラック法、ファ−ネスブラック法、ランプブラック法等により製造される各種のカ−ボンブラックが挙げられる。カラ−トナ−の場合、フタロシアニンブル−、アニリンブル−、カルコオイルブル−、ウルトラマリンブル−、メチレンブル−クロライド、マラカイトグリ−ンオクサレ−ト、クロムイエロ−、キノリンイエロ−、デュポンオイルレッド、ロ−ズベンガル等の顔料やニグロシン系またはロ−ダミン系染料などがあり、これらは、それぞれ単独で使用できるし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
前記帯電制御剤としては低分子化合物から高分子化合物まで種々の物質が使用できるが、代表的なものを挙げると、ニグロシン染料、4級アンモニウム塩化合物、アミノ基を有するモノマ−を単独重合あるいは共重合してなる高分子化合物や、有機金属錯体、キレ−ト化合物等がある。
【0075】
前記ワックスは複写機あるいはプリンタ−等の定着ロ−ルにトナ−がオフセットすることを防止し、かつ低温定着が可能となるよう添加されるが、その代表的なものを挙げると、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリアミド系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、合成エステル系ワックス、各種天然ワックス等を適宜用いることができるが、中でもカルナウバワックス、モンタン系エステルワックス、ライスワックス及び/又はカイガラムシワックスを用いることが好ましい。
【0076】
前記流動調整剤はトナ−の流動性を向上させるために添加されるが、例えばフッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末、湿式法若しくは乾式法のシリカ微粉末等を使用することができる。
【0077】
本発明の電子写真トナー用樹脂組成物を用いて得られる電子写真トナーは2成分現像剤あるいは非磁性1成分現像剤などとして使用した場合、従来の電子写真トナ−と比較して飛躍的に低い定着温度で印刷が可能となり、しかも電子写真トナ−の熱安定性も良好であり、さらに結着樹脂自体の弾性の低下がなくオフセット現象のない優れた電子写真トナ−を得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下に合成例、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。例中の部は、特に記載しない限り重量基準である。
【0079】
合成例1(カルボキシル基を有するワックスの製造)
特開2004−75749の実施例に記載された方法を参考にカルボキシル基を有するワックスを製造した。具体的には以下に記載する方法で製造した。
2Lのステンレス製オートクレーブ中に炭素数が150〜200のポリエチレンワックスの混合物500gを溶融させ、内部温度165℃で撹拌速度を200rpmとし、乾燥空気を1.2L/minの流量で溶融物中に導入した。0.7MPa乾燥空気を導入しながら反応温度165℃、0,7MPaに維持し、6時間反応させた。得られた反応性生物は溶融粘度250mPa・s、酸価15.1KOHmg/gであった。得られたカルボキシル基含有ポリエチレンワックスを(PE−A1)と略記する。
【0080】
実施例1
精留塔、撹拌装置、窒素ガス導入口、温度計を備えた内容積5Lのフラスコに、エチレングリコール368g、ネオペンチルグリコール615g、テレフタル酸ジメチル1,038g及び酢酸亜鉛2水和物1.0gを仕込み、2時間を要して215℃に昇温し、そのまま215℃で3時間反応させた。その後テレフタル酸888g、パラーt―ブチル安息香酸178g、エピクロン850〔大日本インキ化学工業(株)製のビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂(エポキシ基の含有量0.005モル/g)〕35g、(PE−A1)425g及びジブチル錫オキサイド1.8gを仕込み、2時間を要して温度を240℃まで上げ、240℃で酸価が12以下になるまで反応を進めてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂は最終酸価が11.2mgKOH/g、高化式フロ−テスタ−による溶融粘度(T1/2)が105℃、示差走査熱量分析(DSC)法によるガラス転移温度(Tg)が52℃、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるテトラヒドロフラン(THF)可溶分の数平均分子量(Mn)が3,500、重量平均分子量(Mw)が9,800であった。これをポリエステル樹脂(P−1)と略記する。尚、ポリエステル樹脂(P−1)の特性値を第1表に示す。
【0081】
実施例2
精留塔、撹拌装置、窒素ガス導入口、温度計を備えた内容積5リットルのフラスコにエチレングリコ−ル623g、ネオペンチルグリコ−ル696g及びエピクロン830〔大日本インキ化学工業(株)製のビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂(エポキシ基の含有量0.005モル/g〕79gを仕込み、1時間を要して温度を120℃まで上げ、反応系内が均一に攪拌されていることを確認した後、ジブチル錫オキサイド2.5gを投入した。次いで、テレフタル酸2,672g及びネオデカン酸グリシジルエステル(カ−ジュラE10:シェル社製)80gを仕込み、生成する水を留去しながら同温度から240℃まで10時間を要して温度を上げた。更に(PE−A1)108gを添加し、同温度でさらに8時間脱水縮合反応を継続し、酸価が10.8mgKOH/gで、T1/2で185℃になるまで反応させてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂はDSC法によるTgが67℃、GPC法によるTHF可溶分のMnが6,700、Mwが375,000であったこれを。これをポリエステル樹脂(P―2)と略記する。尚、ポリエステル樹脂(P−2)の特性値を第1表に示す。
【0082】
比較例1
精留塔、撹拌装置、窒素ガス導入口、温度計を備えた内容積5Lのフラスコに、エチレングリコール515g、ネオペンチルグリコール861g、テレフタル酸ジメチル1,453g、及び酢酸亜鉛2水和物1.5gを仕込み、2時間を要して215℃に昇温し、そのまま215℃で3時間反応させた。その後テレフタル酸1,243g、パラーt―ブチル安息香酸281g、エピクロン850 49g及びジブチル錫オキサイド2.8gを仕込み、2時間を要して温度を240℃まで上げ、酸価が12以下になるまで反応を進めてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂は最終酸価が12.0mgKOH/g、T1/2が105℃、DSC法によるTgが57℃、GPC法によるTHF可溶分のMnが3,000、Mwが7,000であった。これを比較対照用ポリエステル樹脂(Q−1)と略記する。尚、ポリエステル樹脂(Q−1)の特性値を第1表に示す。
【0083】
比較例2
精留塔、撹拌装置、窒素ガス導入口、温度計を備えた内容積5リットルのフラスコにエチレングリコ−ル534g、ネオペンチルグリコ−ル597g及びエピクロン830 68gを仕込み、1時間を要して温度を120℃まで上げ、反応系内が均一に攪拌されていることを確認した後、ジブチル錫オキサイド2.0gを投入した。次いで、テレフタル酸2,290g及びネオデカン酸グリシジルエステル(カ−ジュラE10:シェル社製)68gを仕込み、生成する水を留去しながら同温度から240℃まで10時間を要して温度を上げた。同温度でさらに8時間脱水縮合反応を継続し、酸価が11.9mgKOH/gで、T1/2が183℃になるまで反応させてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂はDSC法によるTgが68℃、GPC法によるTHF可溶分のMnが7,200,Mwが320,000であった。これを比較対照用ポリエステル樹脂(Q−2)と略記する。尚、ポリエステル樹脂(Q−2)の特性値を第1表に示す。
【0084】
比較例3
精留塔、撹拌装置、窒素ガス導入口、温度計を備えた内容積5リットルのフラスコにエチレングリコ−ル534g、ネオペンチルグリコ−ル597g及びエピクロン830 68gを仕込み、1時間を要して温度を120℃まで上げ、反応系内が均一に攪拌されていることを確認した後、ジブチル錫オキサイド2.1gを投入した。次いで、テレフタル酸2,290g及びネオデカン酸グリシジルエステル(カ−ジュラE10:シェル社製)68gを仕込み、生成する水を留去しながら同温度から240℃まで10時間を要して温度を上げた。更にビスコール660P(三洋化成株式会社製のポリプロピレンワックス、酸価=0)159gを添加し、同温度でさらに8時間脱水縮合反応を継続し、酸価が11.5mgKOH/gで、T1/2が182℃になるまで反応させてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂はDSC法によるTgが67℃、GPC法によるTHF可溶分のMnが6,100,Mwが304,000であった。これを比較対照用ポリエステル樹脂(Q−3)と略記する。尚、ポリエステル樹脂(Q−3)の特性値を第1表に示す。尚、前記ビスコール660Pは多塩基酸(テレフタル酸)、多価アルコール(エチレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル)及びエポキシ基含有化合物(エピクロン830)と反応するいずれの基を有しておらず、ワックス成分はポリエステル樹脂(Q−3)に化学的に結合していない。
【0085】
試験例1
ポリエステル樹脂(P−1)、ポリエステル樹脂(Q−2)、着色剤、ワックス及び帯電制御剤を第2表に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサ−で混合後、2軸押し出し機によって溶融混練して混練物を得た。その後混練物を冷却・粗粉砕し、更にジェットミルを用いて微粉砕した。ついで微粉砕物を分級し体積平均粒子径が10μmとなるように調製し、樹脂微粒子を調整した。
【0086】
この樹脂微粒子100重量部に、シリカHDK3050EP〔ワッカ−ケミカルズ(株)製のシリカ粉末〕1重量部を添加しヘンシェルミキサ−にて混合し電子写真トナーを得た。これらを電子写真トナー1と略記する。電子写真トナー1の低温定着性、定着強度、耐ホットオフセット性及び保存安定性の評価を下記方法に従って評価した。評価結果を電子写真トナーの流動開始温度(Tfb)、プランジャーの1/2降下温度(T1/2)と共に第3表に示す。
【0087】
<低温定着性の評価方法>
熱ロ−ルの設定温度を5℃きざみに80℃から210℃まで変化させ、ベタ印刷部分にメンディングテ−プ(住友スリ−M株式会社製)を貼り付け、さらに同テ−プを一定速度で一定方向に剥離させたときの剥離前後の画像濃度をマクベス濃度計(RD−918)で測定し、その剥離前の値に対する剥離後の濃度値の比率を%で表示した場合に、その値が80%以上となる温度を定着開始温度とした。この温度が低いほど低温定着性の良好な電子写真トナ−である。
【0088】
<定着強度の評価方法>
熱ロ−ルの設定温度を120℃としてベタ印刷を行い、得られたベタ印刷面の画像濃度をマクベス濃度計で測定した。ベタ印刷面にメンディングテ−プを貼り付け、同テ−プを一定速度で一定方向に剥離させたときの剥離前後の画像濃度をマクベス濃度計で測定し、その剥離前の値に対する剥離後の濃度値の比率を%で表示した。この値が大きいほど定着強度が強い電子写真トナ−である。
【0089】
<耐ホットオフセット性の評価方法>
熱ロ−ルの設定温度を5℃きざみに80℃から210℃まで変化させたときに、ホットオフセット現象が目視で確認できる最低の温度をホットオフセット発生温度とした。この温度が高いほど耐オフセット性が良好な電子写真トナ−である。
【0090】
<保存安定性の評価方法>
50gの電子写真トナ−1を100ccのポリエチレン製容器(内蓋あり)に入れ密封し、57℃で相対湿度50%に調整された恒温機で7日間保存した後のトナ−粉の凝集状態で評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎:保存前と変化なく流動性も良好である。
○:容器から出して手で触ってみるとわずかに凝集した微小な塊があり手でほぐれる。
△:容器から紙の上に出してみると容器の形状が約半分程度保たれた状態で出るが、塊を手でほぐすとほぐれる。
×:容器から紙の上に出してみると容器の形状がそのまま保たれた状態で出、手でほぐしてみると固い凝集塊がある。
【0091】
尚、上記評価試験において定着ロ−ル等の条件設定は以下のとおりである。
ロ−ル材質:上;ポリテトラフルオロエチレン、下;シリコ−ン
上ロ−ル荷重:20Kg
ニップ幅:10mm
紙送り速度:80cm/sec
【0092】
試験例2及び3
第2表に示した配合割合を用いる以外は実施例1と同様にして電子写真トナー2及び電子写真トナー3を得た。試験例1と同様にして評価を行い、その結果を第3表に示す。
【0093】
比較試験例1〜4
第2表に示した配合割合を用いる以外は試験例1と同様にして比較対照用電子写真トナー1〜比較対照用電子写真トナー4を得た。実施例1と同様にして評価を行い、その結果を第3表に示す。
【0094】
参考例1
ポリエステル樹脂(P−1)97部及びTOWAX−1PF(東亜化成株式会社製のカルナバワックス)3部を第4表に示す割合で配合し、ラボプラストミル(東洋精機株式会社製の混練機)により125℃で10分間混練した。その後混練物を冷却・粗粉砕し、ワックス分散ポリエステル樹脂を得た。得られたワックス分散ポリエステル樹脂をテトラヒドロフランに溶解させて、ワックス粒子が分散した分散液を得た。その後、ワックス粒子の粒度分布を遠心型粒度分布測定装置〔(株)HORIBA製作所製「堀場超遠心自動粒度分布測定装置CAPA−700」〕を用いて測定し、ワックスの平均分散粒径を求めた。この平均粒径をワックス分散性の評価結果とした。平均粒径が小さいほど電子写真トナーを調製する際に添加するワックスの分散性が良好で、ポリエステル樹脂とワックスが均一に混合することを表す。測定結果を第4表に示す。尚、ポリエステル樹脂にワックスが均一に分散することにより、保存安定性と耐ホットオフセット性に優れる電子写真トナーが得られると考えている。
【0095】
参考例2、3及び比較参考例1〜3
第4表に示す配合割合を用いた以外は参考例1と同様にしてワックス粒子が分散した分散液を得た。参考例1と同様にしてワックスの平均粒径を求め、その結果を第4表に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
※第2表、第3表の脚注
Elf8:エルフテックス8(米国キャボット社製カ−ボンブラックの商品名)
1PF :TOWAX1PF(東亜化成(株)製カルバナワックス)
650P:ビスコ−ル650P〔三洋化成(株)製ポリプロピレンワックス〕
PE−A1:合成例1で合成したカルボキシル基含有ワックス
E−84:ボントロンE−84〔オリエント化学(株)製サリチル酸金属錯体〕
【0100】
【表4】

【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
第4表の脚注
1PF :TOWAX1PF(東亜化成(株)製カルバナワックス)
650P:ビスコ−ル650P〔三洋化成(株)製ポリプロピレンワックス〕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基の少なくとも一つと反応する基を含有するワックス(W)を重縮合することを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記多塩基酸(A)として2〜4価の多塩基酸、2〜4価の多塩基酸の酸無水物及び2〜4価の多塩基酸のアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸を用いる請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記多塩基酸(A)としてテレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のアルキルエステルおよびイソフタル酸のアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸を用いる請求項2記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記多価アルコール(B)として2〜6価の脂肪族多価アルコールを用いる請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記多価アルコール(B)としてエチレングリコール、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールを
用いる請求項4記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ基含有化合物(C)としてモノエポキシ化合物と、2〜4個のエポキシ基を有するエポキシ化合物との混合物を用いる請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記エポキシ基含有化合物(C)がモノエポキシ化合物としてネオデカン酸のグリシジルエステルであり、且つ、2〜4個のエポキシ基を有するエポキシ化合物としてビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルS型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂、フェノ−ルノボラック型エポキシ樹脂およびクレゾ−ルノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上のポリエポキシ化合物の混合物である請求項6記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記ワックス(W)として下記一般式(1)で示されるワックスを用いる請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【化1】

(式中、Rは炭素原子数50〜1000の炭化水素基で、Xはカルボキシル基、水酸基およびアルキルエステル基からなる群から選ばれる基である。)
【請求項9】
前記ワックス(W)を(A)、(B)、(C)および(W)の合計100重量部に対して0.1〜50重量部用いる請求項1記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度が40℃〜90℃で、軟化点が90℃〜200℃となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合する請求項1〜9のいずれか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
得られるポリエステル樹脂のポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)が500〜10,000で、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)が5,000〜500,000となるように前記(A)、(B)、(C)および(W)を重縮合する請求項1〜9のいずれか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項12】
ポリエステル樹脂とワックスとを含有するトナー用ポリエステル樹脂組成物であり、該ポリエステル樹脂が多塩基酸(A)、多価アルコール(B)、エポキシ基含有化合物(C)ならびに前記(A)、(B)、(C)が有する官能基の少なくとも一つと反応する基を含有するワックス(W)を重縮合して得られるポリエステル樹脂(Z)であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項13】
前記ポリエステル樹脂(Z)が多塩基酸(A)として2〜4価の多塩基酸、2〜4価の多塩基酸の酸無水物及び2〜4価の多塩基酸のアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸を用いて得られるポリエステル樹脂である請求項12記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリエステル樹脂(Z)が多塩基酸(A)としてテレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のアルキルエステルおよびイソフタル酸のアルキルエステルからなる群から選ばれる1種以上の多塩基酸を用いて得られるポリエステル樹脂である請求項13記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項15】
前記ポリエステル樹脂(Z)が多価アルコール(B)として2〜6価の脂肪族多価アルコールを用いて得られるポリエステル樹脂である請求項12記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項16】
前記ポリエステル樹脂(Z)が多価アルコール(B)としてエチレングリコール、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールを用いて得られるポリエステル樹脂である請求項15記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項17】
前記ポリエステル樹脂(Z)がエポキシ基含有化合物(C)としてモノエポキシ化合物と、2〜4個のエポキシ基を有するエポキシ化合物との混合物を用いて得られるポリエステル樹脂である請求項12記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項18】
前記ポリエステル樹脂(Z)がエポキシ基含有化合物(C)としてモノエポキシ化合物としてネオデカン酸のグリシジルエステルと、2〜4個のエポキシ基を有するエポキシ化合物としてビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルS型エポキシ樹脂、ビスフェノ−ルF型エポキシ樹脂、フェノ−ルノボラック型エポキシ樹脂、クレゾ−ルノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上のポリエポキシ化合物とを含有する混合物を用いて得られるポリエステル樹脂である請求項17記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項19】
前記ポリエステル樹脂(Z)がワックス(W)として下記一般式(1)で示されるワックスを用いて得られるポリエステル樹脂である請求項12記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【化2】

(式中、Rは炭素原子数50〜1000の炭化水素基で、Xはカルボキシル基、水酸基およびアルキルエステル基からなる群から選ばれる基である。)
【請求項20】
前記ポリエステル樹脂(Z)がワックス(W)を(A)、(B)、(C)および(W)の合計100重量部に対して0.1〜50重量部用いて得られるポリエステル樹脂である請求項19記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項21】
前記ポリエステル樹脂(Z)のガラス転移温度が40℃〜90℃で、軟化点が90℃〜200℃である請求項12〜19のいずれか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項22】
前記ポリエステル樹脂(Z)のポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)が500〜10,000で、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)が5,000〜500,000である請求項12〜19のいずれか1項記載のトナー用ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−193315(P2007−193315A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341214(P2006−341214)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】