説明

トマト抽出物を含有する生活習慣病改善剤

【課題】生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防または改善に有用な医薬品および飲食品の提供。
【解決手段】ナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを有効成分とするPPAR活性化剤。当該抽出物またはその活性フラクションには、以下の化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種が含まれることが好ましい。化合物(I)は9−oxo−10(E),12(Z)−octadecadienoic acid、化合物(II)は9−oxo−10(E),12(E)−octadecadienoic acid、化合物(III)は13−oxo−9(Z),11(E)−octadecadienoic acid、化合物(IV)は13−oxo−9(E),11(E)−octadecadienoic acidである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマトやナス等のナス科植物の抽出物を含有する生活習慣病改善剤に関するものであり、詳細には、ナス科植物由来のPPAR活性化能を有する抽出物またはその活性フラクションを有効成分とする生活習慣病の予防または改善用の医薬または飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化により、国民一人あたりの脂肪摂取量が上昇し、糖尿病、脂質異常症(高脂血症等)、高血圧、肥満などの生活習慣病と呼ばれる疾患が急激に増加している。また、メタボリックシンドロームは、代謝症候群、シンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群とも呼ばれる複合生活習慣病であり、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上を併せもった状態のことを言う。メタボリックシンドロームになると、糖尿病、高血圧症、高脂血症の一歩手前の段階でも、これらが内臓脂肪型肥満をベースに複数重なることによって、動脈硬化を進行させ、心臓病や脳卒中といった動脈硬化性疾患発症の相対的危険度が増すことが、国内外の疫学調査で明らかとなっている。
【0003】
我が国では、2008年4月よりメタボリックシンドローム発症予防を目的に40歳以上の国民を対象として特定健康診断が開始され、国民のメタボリックシンドロームに対する関心が非常に高まっている。現在、メタボリックシンドロームの予防および治療には、糖尿病、高脂血症あるいは高血圧の治療薬が適応されており、疾病状態によっては、複数の薬剤服用を伴っている。
【0004】
脂質代謝異常やインスリン抵抗性等の病態を改善する薬剤として、チアゾリジン誘導体
(ピオグリタゾン、トログリタゾンなど)やフィブレート製剤(フェノフィブレートやベザフィブレートなど)があり、これらはPPAR(Peroxisome Proliferator Activated Receptor;ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体)のアゴニストとして作用することが明らかにされている。前者は主に脂肪組織に分布するPPARγを、後者は肝臓、腎臓、心臓、消化管に存在するPPARαをターゲットとして作用する。
【0005】
植物は多種多様な代謝産物およびそれらの中間体を含有しており、個々の植物それ自体を創薬における「化合物ライブラリー」の類似体と見なすことができる。特に遺伝子情報が詳細に判明しているトマトやナスなどのナス科植物においては、効率的生産法・先端的育種法の開発へと展開できる可能性が高い。最近、トマト摂取は循環器系糖尿病合併症のリスクを軽減することが報告され抗生活習慣病食品素材として有望であると考えられる。したがって、トマトやナスなどのナス科植物中にPPARを活性化させる成分を見出すことができれば、生活習慣病の予防や改善に高い効果を有する医薬や飲食品の開発が期待できる。
【0006】
トマト抽出物を抗生活習慣病食品素材として使用することに関する研究は従来行われており、例えば特許文献1には、トマト等のカロテノイドを含む野菜の抽出物を有効成分として含有する抗肥満剤が開示されている。また、例えば特許文献2には、血漿トリグリセライド濃度を下げるための薬剤を製造するために、水溶性トマト抽出物またはその活性フラクションを使用することが開示されている。しかし、トマト抽出物にPPAR活性化能を有する成分が含有されていることは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−95930号公報
【特許文献2】特表2008−530076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防または改善に有用なナス科植物由来の物質または成分を見出し、これを含有する医薬品および飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]ナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを有効成分とするPPAR活性化剤。
[2]ナス科植物がトマトまたはナスである前記[1]に記載のPPAR活性化剤。
[3]ナス科植物がトマトである前記[1]に記載のPPAR活性化剤。
[4]抽出物またはその活性フラクションが脂溶性である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
[5]PPARが、PPARαおよび/またはPPARγである前記[1]〜[4]のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
[6]抽出物またはその活性フラクションが以下の化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種を含む前記[1]〜[5]のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
【化1】

[7]以下の化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種を有効成分とするPPAR活性化剤。
【化2】

[8]生活習慣病の予防または改善用である前記[1]〜[7]のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
[9]メタボリックシンドロームの予防または改善用である前記[1]〜[7]のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
[10]生活習慣病が、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、内臓脂肪型肥満または脂肪肝である前記[8]に記載のPPAR活性化剤。
[11]前記[1]〜[10]のいずれかに記載のPPAR活性化剤を含有する医薬。
[12]前記[1]〜[10]のいずれかに記載のPPAR活性化剤を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを有効成分とするPPAR活性化剤を提供することができる。当該PPAR活性化剤を含有する医薬および飲食品は、生活習慣病の予防または改善に有用である。また、当該PPAR活性化剤を含有する医薬および飲食品は、メタボリックシンドロームの予防または改善に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】トマト凍結乾燥粉末をエタノール抽出後、ヘキサン抽出し、さらにシリカゲルオープンカラムを用いた分画により得たPPARα活性フラクションをODSカラムによるHPLCに供し、得られたフラクションのPPARα活性を測定した結果を示す図である。
【図2】図1の結果から得られたPPARα活性フラクションを、異なるODSカラムによる2回目のHPLCに供し、得られたフラクションのPPARα活性を測定した結果を示す図である。
【図3】PPARα活性フラクション(RF57)をLC/MS/MS解析に供し、その溶出時間の結果を示した図であり、(a)は13−oxo−ODAおよび9−oxo−ODAの混合物の結果、(b)は13−oxo−ODAの結果、(c)は9−oxo−ODAの結果であり、(d)はRF57の結果を示す図である。
【図4】PPARα活性フラクション(RF57)をLC/MS/MS解析に供し、そのフラグメントパターンの結果を示した図であり、(a)は13−oxo−9(Z),11(E)−ODAの結果であり、(b)は13−oxo−9(E),11(E)−ODAの結果、(c)は9−oxo−10(E),12(Z)−ODAの結果、(d)は9−oxo−10(E),12(E)−ODAの結果、(e)はRF57の結果を示す図である。
【図5】PPARα活性フラクション(RF57)をLC/MS/MS解析に供し、その吸収波長の結果を示した図であり、(a)は13−oxo−9(Z),11(E)−ODAの結果、(b)は13−oxo−9(E),11(E)−ODAの結果であり、(c)は9−oxo−10(E),12(Z)−ODAの結果、(d)は9−oxo−10(E),12(E)−ODAの結果、(e)はRF57の結果を示す図である。
【図6】トマト(ふりこま)果実の凍結乾燥物、既製のトマトジュースの凍結乾燥物、およびトマトジュースの原料トマト(NDM736)果実の凍結乾燥物をそれぞれエタノール抽出し、その抽出物をLC/MS/MS解析に供した結果を示した図であり、(a)はふりこま果実の結果、(b)はNDM736果実の結果、(c)はトマトジュースの結果を示す図である。
【図7】RF57、ならびに9−oxo−10(E),12(E)−ODAの類縁体化合物のPPARα活性化能を、PPARαレポーターアッセイを用いて測定した結果を示す図である。
【図8】RF57、ならびに9−oxo−10(E),12(E)−ODAの類縁体化合物のPPARγ活性化能を、PPARγレポーターアッセイを用いて測定した結果を示す図である。
【図9】肝臓細胞における脂肪酸β酸化関連遺伝子発現に関するRF57の効果を評価した結果を示す図である。
【図10】肝臓細胞におけるトリグリセリド(TG)蓄積に関するRF57の効果を評価した結果を示す図である。
【図11】肝臓細胞における酸素消費に関するRF57の効果を評価した結果を示す図である。
【図12】肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)を用いた試験において、血糖値を測定した結果を示す図である。
【図13】肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)を用いた試験において、血中トリグリセリド(TG)を測定した結果を示す図である。
【図14】肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)を用いた試験において、経口糖負荷試験の負荷後血糖値の推移を示す図である。
【図15】肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)を用いた試験において、経口糖負荷試験実施後の血中インスリン濃度を測定した結果を示す図である。
【図16】肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)を用いた試験において、肝臓中のTG蓄積量を測定した結果を示す図である。
【図17】肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)を用いた試験において、肝臓における脂肪酸β酸化関連遺伝子発現量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを有効成分とするPPAR活性化剤を提供する。ナス科植物は特に限定されないが、トマト、ナス等のナス属植物が好ましい。より好ましくはトマトまたはナスであり、特に好ましくはトマトである。抽出物はナス科植物の植物体の全部または一部(葉、茎、根、花、果実など)から抽出したものであればよい。トマトの場合、果実を含む植物体からの抽出物が好ましく、熟した果実を含む植物体からの抽出物がより好ましい。
【0013】
活性化フラクションは、ナス科植物の抽出物から単離されたフラクションであって、PPAR活性化能を有するフラクションを意味する。ナス科植物の抽出物または当該抽出物から単離されたフラクションがPPAR活性化能を有することは、公知のPPAR活性測定法を用いて確認することができる。公知のPPAR活性測定法としては、例えば、Gotoら(T. Goto et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 337 (2005) 440-445)に記載のPPARレポーターアッセイなどが挙げられる。
【0014】
抽出物またはその活性フラクションは脂溶性であることが好ましい。脂溶性の抽出物は、例えば、ナス科植物の植物体、搾汁液、またはこれらの乾燥物や凍結乾燥物から疎水性の有機溶媒で抽出することにより取得することができる。疎水性の有機溶媒としては、例えば、エタノールなどのアルコール類、ヘキサンなどの炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのアルキルハライド等が挙げられる。
【0015】
PPARは哺乳類ではα、δおよびγの3種類のアイソフォームが知られている。本発明のPPAR活性化剤は、PPARα、δおよびγのいずれか1種を活性化できるものであればよいが、PPARαまたはPPARγを活性化できることが好ましく、PPARαおよびPPARγを活性化できることがより好ましい。PPARαは主に肝臓や骨格筋で脂肪酸の輸送や代謝に関連する遺伝子の発現を制御しており(Willson T. M. et al., J. Med. Chem. 43(4) 527-550 2000)、脂質代謝に深く関与していることから、高脂血症等の脂質異常症のための薬剤の標的タンパクとして注目されている。PPARγは、脂肪細胞の分化を司る調節因子であることが明らかにされている(Cell 79 : 1147-1156, 1994)。したがって、PPARγ活性化物質は、脂肪細胞分化を促進することにより、血液中の糖および遊離脂肪酸を低下させ、筋肉の遊離脂肪酸の低下とインスリン抵抗性を改善することができる。それゆえ、PPARαおよび/またはPPARγを活性化できる成分は、生活習慣病の予防もしくは改善に有用である。
【0016】
本発明のPPAR活性化剤は、以下の化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【化3】

【0017】
化合物(I)は9−oxo−10(E),12(Z)−octadecadienoic acid、化合物(II)は9−oxo−10(E),12(E)−octadecadienoic acid、化合物(III)は13−oxo−9(Z),11(E)−octadecadienoic acid、化合物(IV)は13−oxo−9(E),11(E)−octadecadienoic acidである。本発明者は、トマト果実には主として化合物(I)が存在するが、トマト抽出物の分画操作を行うことにより、主たる化合物が化合物(II)に変換されていることを確認し、トマトの加工品であるトマトジュースには化合物(I)〜(IV)の全てが存在することを確認している。したがって、詳細は不明であるが、これらの類縁化合物は、トマト抽出物の分画操作や加工操作により相互に変換されるものと考えられる。また、本発明者は、これらの化合物がそれぞれ単独でもPPARαおよびPPARγ活性化能を有していることを確認している。したがって、本発明のPPAR活性化剤には、上記化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種を有効成分として含有するものも含まれる。
【0018】
上記化合物(I)〜(IV)を含むナス科植物の抽出物の活性フラクションは、例えば以下の方法により調製することができる。例えばトマト果実を材料とする場合、トマト果実の凍結乾燥粉末を調製し、これをエタノールなどのアルコール類、ヘキサンなどの炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類またはジクロロメタン、クロロホルムなどのアルキルハライドで抽出する。抽出溶媒の量は原料の乾燥粉末に対し通常3〜20倍(w/w)である。また抽出温度は室温から使用する溶媒の沸騰点までの範囲でいずれでもよい。抽出液をろ過して残渣と分離したのち、濃縮してエキスを調製する。得られたエキスを、シリカゲルを固定相とするカラムクロマトグラフィーに付し、シリカゲルの通常10〜100倍(w/w)量の、例えばヘキサン:酢酸エチルの混合溶媒(ヘキサン100%−酢酸エチル100%のグラジエント)で溶離する溶離液中のPPAR活性を測定し、PPAR活性を有する溶離液を集め濃縮する。さらに、濃縮残留物を、逆相系シリカゲルを固定相とするカラムクロマトグラフィー(HPLC等)に付し、逆相系シリカゲルの通常10〜200倍(w/w)量の、例えばアセトニトリル/水の30−100%グラジエントで溶離して、得られたフラクションのPPAR活性を測定する。PPAR活性を有する溶離液を集めて濃縮し、逆相系シリカゲルを固定相とするカラムクロマトグラフィーを繰り返すことにより、高PPAR活性を有するフラクションを調製することができる。
【0019】
溶離液のPPAR活性を測定する方法は特に限定されず、公知のPPAR活性測定法を用いることができる。例えば、Gotoら(T. Goto et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 337 (2005) 440-445)に記載のPPARレポーターアッセイを好適に用いることができる。
【0020】
また、上記化合物(I)〜(IV)は、例えば、Kuklevら(D. Kuklev et al., Chemistry and Physics of Lipids 85 (1997) 125-134)等に記載の方法およびこれに準じた方法にしたがって合成することができる。
【0021】
本発明のPPAR活性化剤は、in vitroおよびin vivoの薬理試験において、脂肪酸代謝活性化作用、血糖値上昇抑制(抗糖尿病)作用、高脂血症抑制作用、脂肪肝抑制作用、耐糖能改善作用、血中インスリン上昇抑制作用を有することが確認されていることから(実施例4、5参照)、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、内臓脂肪型肥満、脂肪肝等の生活習慣病を予防または改善するために好適に用いることができる。
【0022】
また、本発明のPPAR活性化剤は、上記の薬理作用を有することから、メタボリックシンドロームを予防または改善するために好適に用いることができる。わが国では、以下の(1)に加えて(2)〜(4)のうち2つ以上が当てはまるとメタボリックシンドロームと診断される。
(1)腹囲(へそ周り)が、男性の場合は85cm以上、女性の場合は90cm以上
(2)中性脂肪が150mg/dL以上、HDLコレステロールが40mg/dL未満、のいずれか、または両方
(3)最高(収縮期)血圧が130mmHg以上、最低(拡張期)血圧が85mmHg以上、のいずれか、または両方
(4)空腹時血糖値が110mg/dL以上
本発明のPPAR活性化剤をメタボリックシンドロームの診断基準を満たすヒトに適用すれば、少なくとも高血糖および脂質異常が改善されるので、治療対象を外れることが期待できる。
【0023】
本発明のPPAR活性化剤は、PPAR活性化作用を有する薬剤の適用対象とされる疾患、例えば、糖尿病(1型糖尿病、2型糖尿病等)、脂質異常症(高トリグリセライド血症、高LDL血症、低HDL血症等)、糖尿病性合併症(神経障害、腎症、網膜症、白内障等)、耐糖能不全(IGT)、肥満、骨粗鬆症、悪液質、脂肪肝、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群、妊娠糖尿病、腎臓疾患、筋ジストロフィー、心筋梗塞、狭心症、脳血管障害、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、高インスリン血症、高インスリン血症における知覚障害、腫瘍(白血病、乳癌、前立腺癌、皮膚癌等)、過敏性腸症候群、急性または慢性下痢、内臓肥満症候群などの疾患を予防または改善するために、好適に用いることができる。
【0024】
本発明は、上記本発明のPPAR活性化剤を含有する生活習慣病の予防または改善用医薬を提供する。また、本発明は、上記本発明のPPAR活性化剤を含有するメタボリックシンドロームの予防または改善用医薬を提供する。
【0025】
本発明の医薬は、経口または非経口のいずれかの経路で哺乳動物に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)などが挙げられる。これらの製剤は、当該分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等を担体として使用できる。
【0026】
経口用の固形剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等)は、有効成分を賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合し、常法に従って製剤化することができる。必要に応じて、コーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。
【0027】
経口用の液剤(水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等)は、有効成分を一般的に用いられる希釈剤(精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化して製剤化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0028】
注射剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、有効成分を溶剤に溶解、懸濁または乳化して製剤化される。溶剤として、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって製造される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0029】
本発明は、上記本発明のPPAR活性化剤を含有する生活習慣病の予防または改善用飲食品を提供する。また、本発明は、上記本発明のPPAR活性化剤を含有するメタボリックシンドロームの予防または改善用飲食品を提供する。「飲食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品が含まれる。
【0030】
本発明に好適な飲食品は特に限定されない。具体例には、例えば、いわゆる栄養補助食品(サプリメント)としての錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等を挙げることができる。これ以外には、例えば茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、そば、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子およびパン類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品、加工乳、発酵乳等の乳製品、サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品、ソース、たれ等の調味料、カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品、アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓などを挙げることができる。
【0031】
本発明の医薬および飲食品は、人類が長年摂取してきたトマトやナスの抽出物を有効成分とするものであるから、毒性が低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いられる。また、PPARαアゴニストはげっ歯類に対して肝臓の重量を増加(ペルオキシソームを増加)させる副作用があるが、本発明のPPAR活性化剤は、マウスの肝臓を肥大させなかったことから(実施例5参照)、本発明の医薬および飲食品は高い安全性を有するものと考えられる。
【0032】
本発明の医薬および飲食品の投与量または摂取量は、患者または摂取者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、本発明の医薬を経口投与する場合、成人1人当たり0.5〜100mg/kg体重、好ましくは1〜50mg/kg体重の範囲で、また、非経口的に投与する場合は0.05〜50mg/kg体重、好ましくは0.5〜50mg/kg体重の範囲で一日1〜3回に分けて投与することができる。また、食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり100〜6000mgの範囲、好ましくは200〜3000mgの範囲の摂取量となるように配合することができる。
【0033】
さらに、本発明は、生活習慣病の予防または改善用医薬の製造のためのナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを有効成分とするPPAR活性化剤の使用を提供する。また、メタボリックシンドロームの予防または改善用医薬の製造のためのナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを有効成分とするPPAR活性化剤の使用を提供する。
また、本発明は、PPAR活性化能を有するナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを哺乳動物に投与する生活習慣病の予防または改善方法を提供する。また、PPAR活性化能を有するナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを哺乳動物に投与するメタボリックシンドロームの予防または改善方法を提供する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1:トマト抽出物のPPARα活性フラクションの同定〕
(1−1)トマト抽出物の調製
トマト(加工用品種「ふりこま」)の果実破砕物を凍結乾燥し、トマト凍結乾燥粉末を得た。これにエタノールを添加して24時間振とうし、抽出液を濃縮乾固した。さらに、ヘキサン抽出を行い、抽出液を濃縮乾固した後、シリカゲルオープンカラムに担持させて、ヘキサン−酢酸エチルの混合溶媒で溶出、分画を行った。続いて、ODSカラムによるHPLC分画を2回行い、1分ごとにフラクションを得た。
シリカゲルオープンカラムにおける溶出には、ヘキサン100%、ヘキサン:酢酸エチル=3:1、ヘキサン:酢酸エチル=1:1、ヘキサン:酢酸エチル=1:3、酢酸エチル100%をこの順に各ステップ500mLで溶出し、回収した各溶出液のPPARα活性を測定した。
1回目のHPLCには、逆相5C18−AR−II ODSカラム(カラムA、ナカライテスク)を用いた。移動相にはアセトニトリル/水の30−100%グラジエント(0−60分)を用い、流速は1mL/分とした。1分ごとに1mLずつフラクションを回収し、各フラクションのPPARα活性を測定した。
2回目のHPLCには、逆相TSKgel ODS−100Vカラム(カラムB、東ソー)を用いた。移動相にはアセトニトリル/水の30−100%グラジエント(0−60分)を用い、流速は0.5mL/分とした。1分ごとに0.5mLずつフラクションを回収し、各フラクションのPPARα活性を測定した。
【0036】
(1−2)PPARα活性測定方法
PPARα活性測定には、PPARαレポーターアッセイを用いた。PPARαレポーターアッセイは、Gotoら(T. Goto et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 337 (2005) 440-445)に記載の方法に準じて行った。すなわち、細胞には、p4xUASg−tk−luc(レポータープラスミド)、pM−hPPARα(GAL4のDNA結合ドメインとヒトPPARαのリガンド結合ドメインとのキメラタンパク質用発現ベクター)、pCMX−CBP(CBP(cAMP-response element-binding protein(CREB)-binding protein)用発現ベクター)およびpRL−CMV(トランスフェクション効率を標準化するための内部のコントロール)をトランスフェクションしたCV−1細胞(アフリカミドリザル腎細胞由来細胞株)を使用した。培地には、10%牛胎児血清、ペニシリン/ストレプトマイシン(10mg/mL)を含有するDMEM培地を使用した。
【0037】
CV−1細胞にリポフェクタミン(Invitrogen)を用いて上記ベクターをトランスフェクションし、24時間培養した。続いて、PPARα活性測定用サンプルを含む培地に交換し、さらに24時間培養した。ルシフェラーゼ活性の測定には、Dual−Luciferase(R) Reporter Assay System(Promega)およびルミノメーター(MicroLumat Plus、ベルトールジャパン)を使用し、試薬および装置の取扱説明書に従って、ルシフェラーゼ活性を測定した。なお、陽性対照として、既知のPPARαアゴニストであるGW−7647(2-[4-[2-[1-(4-シクロヘキシルブチル)-3-シクロヘキシルウレイド]エチル]フェニルチオ]イソ酪酸)を使用した。
【0038】
(1−3)結果
シリカゲルオープンカラムを用いた分画により、ヘキサン:酢酸エチル=3:1で溶出したフラクションにPPARα活性が認められ、これ以外の分画にはPPARα活性が認められなかった。
PPARα活性が認められたヘキサン:酢酸エチル=3:1で溶出したフラクションを1回目のHPLCに供し、得られたフラクションのPPARα活性を測定した。40分〜45分のフラクションのPPARα活性測定結果を図1に示した。図1から明らかなように、42〜43分のフラクション(F42、F43)に強いPPARα活性が認められた。
1回目のHPLCにおいて、PPARα活性が認められたフラクションを集めて2回目のHPLCに供した。2回目のHPLCで得られたフラクションの54分〜59分のPPARα活性測定結果を図2に示した。図2から明らかなように、57分のフラクション(RF57)に強いPPARα活性が認められた。
【0039】
〔実施例2:トマト抽出物のPPARα活性フラクション(RF57)中に含有される機能性成分の同定〕
RF57のLC/MS解析を行い、RF57に含まれるPPARα活性化成分は、組成式C1830の化合物であることが明らかとなった。さらに、NMRを用いてこのPPARα活性化成分の構造解析を行った結果、この成分はC18のケト不飽和脂肪酸であり、最大吸収波長(276nmで)からケトン基とジエンは共役していることが推察された。この結果から、PPARα活性化成分の候補物質として、13−oxo−9,11−octadecadienoic acid(13−oxo−ODA)および9−oxo−10,12−octadecadienoic acid(9−oxo−ODA)が考えられた。
【0040】
候補物質をさらに絞り込むために、LC/MS/MS解析を行って平面構造を推定し、PPARα活性化成分のケトン基とジエンの位置を確認した。LC/MS/MS解析による溶出時間の結果を図3(a)〜(d)に示した。(a)は13−oxo−ODAおよび9−oxo−ODAの混合物の結果であり、(b)は13−oxo−ODAの結果であり、(c)は9−oxo−ODAの結果であり、(d)はRF57の結果である。
LC/MS/MS解析によるフラグメントパターンの結果を図4(a)〜(e)に示した。(a)は13−oxo−9(Z),11(E)−ODAの結果であり、(b)は13−oxo−9(E),11(E)−ODAの結果であり、(c)は9−oxo−10(E),12(Z)−ODAの結果であり、(d)は9−oxo−10(E),12(E)−ODAの結果であり、(e)はRF57の結果である。
LC/MS/MS解析による吸収波長の結果を図5(a)〜(e)に示した。(a)は13−oxo−9(Z),11(E)−ODAの結果であり、(b)は13−oxo−9(E),11(E)−ODAの結果であり、(c)は9−oxo−10(E),12(Z)−ODAの結果であり、(d)は9−oxo−10(E),12(E)−ODAの結果であり、(e)はRF57の結果である。
図3、図4および図5に示した結果から、RF57に含まれるPPARα活性化成分は、9−oxo−10(E),12(E)−ODAであることが明らかとなった。
【0041】
〔実施例3:トマト果実、トマトジュースに含まれるPPARα活性化成分の同定〕
分画操作を施していないトマト果実や既製のトマトジュースにも、9−oxo−10(E),12(E)−ODAが含まれるか否かを確認した。すなわち、トマト(ふりこま)果実の凍結乾燥物、既製のトマトジュースの凍結乾燥物、およびトマトジュースの原料トマト(NDM736)果実の凍結乾燥物をそれぞれエタノール抽出し、その抽出物をLC/MS/MS解析に供した。
結果を図6(a)〜(c)に示した。(a)はふりこま果実の結果であり、(b)はNDM736果実の結果であり、(c)はトマトジュースの結果である。興味深いことに、トマト果実に存在するPPARα活性化成分は、RF57から同定された9−oxo−10(E),12(E)−ODAではなく、その幾何異性体である9−oxo−10(E),12(Z)−ODAが主体であることが明らかとなった。また、トマトジュース中には、9−oxo−10(E),12(E)−ODA以外に3種類の類縁体化合物(9−oxo−10(E),12(Z)−ODA、13−oxo−9(Z),11(E)−ODA、13−oxo−9(E),11(E)−ODA)が同定された。これらの結果から、分画操作や加工操作により、類縁体化合物が生成するものと推測された。
【0042】
トマト果実およびトマトジュースから同定された9−oxo−10(E),12(E)−ODA以外の類縁体化合物(9−oxo−10(E),12(Z)−ODA、13−oxo−9(Z),11(E)−ODA、13−oxo−9(E),11(E)−ODA)をPPARαレポーターアッセイに供し、PPARα活性化能を有することを確認した。
結果を図7に示した。図7から明らかなように、これらの類縁体化合物も、RF57と同様に強いPPARα活性化能を有していた。
【0043】
〔実施例4:PPARγ活性化能の確認〕
9−oxo−10(E),12(E)−ODAを含むRF57、および9−oxo−10(E),12(E)−ODAの類縁体化合物(9−oxo−10(E),12(Z)−ODA、13−oxo−9(Z),11(E)−ODA、13−oxo−9(E),11(E)−ODA)について、PPARγ活性化能を有するか否かを確認するために、PPARγレポーターアッセイを行った。PPARγレポーターアッセイは、上記実施例1の(1−2)に記載のPPARαレポーターアッセイの方法において、pM−hPPARα(GAL4のDNA結合ドメインとヒトPPARαのリガンド結合ドメインとのキメラタンパク質用発現ベクター)をpM−hPPARγ(GAL4のDNA結合ドメインとヒトPPARγのリガンド結合ドメインとのキメラタンパク質用発現ベクター)に変更し、陽性対照を、既知のPPARγアゴニストであるTroglitazone((+)-5-[4-[(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)メトキシ]ベンジル]-2,4-チアゾリジンジオン)に変更して実施した。
結果を図8に示した。図8から明らかなように、RF57および9−oxo−10(E),12(E)−ODAの類縁体化合物の類縁体化合物は、いずれもPPARγ活性化能を有していることが確認された。
【0044】
〔実施例5:RF57の機能解析〕
(5−1)肝臓細胞における脂肪酸β酸化関連遺伝子発現に関する評価
遺伝子導入によりPPARαを高発現させたHepG2細胞(ヒト肝臓由来)を12wellプレートに4×10個/wellで播種し、24時間インキュベートした。サンプル(RF57またはGW−7647)を添加した培地に交換し、24時間インキュベートした。細胞を回収し、β酸化関連遺伝子CPT1A(carnitine palmitoyltransferase 1A)のmRNA発現量を定量的RT−PCR法で測定した。
結果を図9に示した。図9から明らかなように、培地にRF57を添加することにより、CPT1AのmRNA発現量がコントロールに対して有意に増加した。なお、統計処理にはunpaired Student’s t−testを用いた。図中、*はp<0.05を表す。
【0045】
(5−2)肝臓細胞におけるトリグリセリド(TG)蓄積に関する評価
遺伝子導入によりPPARαを高発現させたHepG2細胞を12wellプレートに4×10個/wellで播種し、24時間インキュベートした。オレイン酸を添加した培地に交換し、24時間インキュベートした。RF57を添加した培地に交換し、24時間インキュベートした。細胞を回収し、細胞内のTG蓄積量をTGキット(Wako)を用いて測定した。
結果を図10に示した。図10から明らかなように、培地にRF57を添加することにより、細胞内のTG蓄積量がコントロール(OA+)に対して有意に減少した。図中、*はp<0.05を表す。
【0046】
(5−3)肝臓細胞における酸素消費に関する評価
C57BL/6Jマウス(6週齢、♂)から肝細胞を門脈潅流法により分離し、初代培養肝細胞を調製した。得られた初代培養肝細胞をプレート(XF24専用プレート)に5×10個/wellで播種し、2時間インキュベートした。RF57を添加した培地(濃度10μMまたは20μM)に交換し、24時間インキュベートした。酸素消費量測定装置XF24(Seahorse Bioscience社製)にて、肝臓細胞の酸素消費量を測定した。
結果を図11に示した。図11から明らかなように、培地にRF57を20μMの濃度で添加することにより、肝細胞における酸素消費量(OCR)が有意に増加した。図中、*はp<0.05を表す。
【0047】
以上の機能解析結果から、RF57は、肝細胞に対してPPARα活性化による脂肪燃焼作用を介した脂肪蓄積抑制作用を有するものと考えられた。
【0048】
〔実施例6:肥満・糖尿病モデルマウス(KKA)による評価〕
(6−1)動物および飼育
KKA/TaJcl(♂、日本クレア)を4週齢で購入し、4日間一般飼料を与えて予備飼育した。予備飼育終了後、下記の(1)〜(4)の4群に群分けして高脂肪飼料に切り替えて、試験を開始した。動物は個別に飼育し、高脂肪飼料を4週間給餌した。被験物質には、混餌飼料を大量調製することが容易であることから、合成13−oxo−ODAを使用した。また、陽性コントロールには、公知の高脂血症薬(PPARアゴニスト)であるベザフィブレート(Beza)を使用した。合成13−oxo−ODAおよびBezaは、下記の濃度になるように飼料に添加し、混餌投与した。
(1) コントロール群(n=7)
(2) 0.05%Beza摂食群(n=6)
(3) 0.02%合成13−oxo−ODA摂食群(n=6)
(4) 0.05%合成13−oxo−ODA摂食群(n=8)
【0049】
(6−2)血糖値および血中トリグリセリド(TG)の測定
実験開始前(0日目)、7日目、14日目および21日目に採血して、血糖値(血漿中グルコース濃度)を測定した。また、21日目には血中TG濃度を測定した。
血糖値血糖値の測定結果を図12に示した。図12から明らかなように、合成13−oxo−ODA摂食群はいずれの濃度においても、0.05%Beza摂食群と同様に、高脂肪飼料の摂食による血糖値の上昇を有意に抑制した。図中、*はp<0.05を表す。
血中TG濃度の測定結果を図13に示した。図13から明らかなように、0.05%合成13−oxo−ODA摂食群は、0.05%Beza摂食群と同様に、高脂肪飼料の摂食による高脂血症の発症を有意に抑制した。図中、*はp<0.05を表す。
【0050】
(6−3)経口糖負荷試験(OGTT、Oral glucose tolerance test)
試験開始25日目に経口糖負荷試験を実施した。具体的には、マウスを17時間絶食後、尾静脈から採血を行い(これを0分とする)、1.5mg/g体重となるようにD−(+)−グルコースを経口投与した。以降、15、30、60、90および120分後にそれぞれ尾静脈から採血を行い血糖値を測定した。
糖負荷後の血糖値の推移を図14に示した。図14から明らかなように、0.05%合成13−oxo−ODA摂食群は、0.05%Beza摂食群と同様に、糖負荷後の血糖値の上昇を有意に抑制した。図中、*はp<0.05を、**はp<0.01を表す。
血中インスリン濃度の測定結果を図15に示した。図15から明らかなように、合成13−oxo−ODA摂食群はいずれの濃度においても、0.05%Beza摂食群と同様に、高脂肪飼料の摂食によるインスリン値の上昇(高インスリン血漿と呼ばれ、糖代謝機能が悪化した状態)を有意に抑制した。図中、*はp<0.05を、**はp<0.01を表す。
【0051】
(6−4)肝臓重量、肝臓脂肪蓄積量および肝臓における脂肪酸β酸化関連酵素遺伝子発現量の評価
試験開始28日目にマウスを安楽死させ肝臓を摘出した。得られた肝臓の重量を測定した後、肝臓中のTGはイソプロパノールでホモジナイズすることにより抽出し、アセチルアセトンを用いた発色法により定量した。また、肝臓における脂肪酸β酸化関連遺伝子mRNAは、キアゾール(QUIAGEN)を用いて抽出し、Rneasy Mini Kit(QUIAGEN)により精製した。mRNA発現量は定量的RT−PCR法で測定した。
肝臓中のTG蓄積量を測定した結果を図16に示した。図16から明らかなように、合成13−oxo−ODA摂食群では、肝臓中のTG蓄積量が用量依存的に減少した。図中、*はp<0.05を表す。
肝臓における脂肪酸β酸化関連遺伝子発現量を測定した結果を図17に示した。図17から明らかなように、合成13−oxo−ODA摂食群では、肝臓中の脂肪酸β酸化関連遺伝子CPT1AのmRNA発現量が、用量依存的に増加した。図中、*はp<0.05を表す。
肝臓重量を測定した結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、0.05%Beza摂食群の肝臓重量は、コントロール群と比較して有意に増加していたが、合成13−oxo−ODA摂食群は、いずれの濃度でも肝臓重量を増加させなかった。一般に、PPARαアゴニストは、マウスやラット等のげっ歯類に対して肝臓の重量を増加(ペルオキシソームを増加)させる副作用があることが知られている。この結果から、本発明のPPAR活性化剤は、肝臓肥大の副作用を発症させない点で安全性が高く、非常に有用であると考えられる。
【0054】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナス科植物の抽出物またはその活性フラクションを有効成分とするPPAR活性化剤。
【請求項2】
ナス科植物がトマトまたはナスである請求項1に記載のPPAR活性化剤。
【請求項3】
ナス科植物がトマトである請求項1に記載のPPAR活性化剤。
【請求項4】
抽出物またはその活性フラクションが脂溶性である請求項1〜3のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
【請求項5】
PPARが、PPARαおよび/またはPPARγである請求項1〜4のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
【請求項6】
抽出物またはその活性フラクションが以下の化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種を含む請求項1〜5のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
【化1】

【請求項7】
以下の化合物(I)〜(IV)の少なくとも1種を有効成分とするPPAR活性化剤。
【化2】

【請求項8】
生活習慣病の予防または改善用である請求項1〜7のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
【請求項9】
メタボリックシンドロームの予防または改善用である請求項1〜7のいずれかに記載のPPAR活性化剤。
【請求項10】
生活習慣病が、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、内臓脂肪型肥満または脂肪肝である請求項8に記載のPPAR活性化剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のPPAR活性化剤を含有する医薬。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のPPAR活性化剤を含有する飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−184411(P2011−184411A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53886(P2010−53886)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、農業・食品産業技術総合研究機構「トマト由来抗肥満・抗生活習慣病成分の解析と応用基盤研究」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(596175810)財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所 (40)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【出願人】(000104559)日本デルモンテ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】