トランスバーサル型フィルタ
【課題】圧電基板上に設けた入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方の電極指に重み付けを行ったトランスバーサル型フィルタにおいて、この重み付けを行ったIDT電極の端面から出力される弾性波の回折を抑えて、広帯域幅、高平坦性及び高選択性のトランスバーサル型フィルタを提供すること。
【解決手段】入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方の電極において、弾性波の伝搬方向に対して中央部には電極指の開口長を連続的に変化させるアポタイズ方式により重み付けを行ったアポタイズ領域を形成し、その両側に開口長を浮き電極により1/n化してn個のトラックを形成するドッグレッグ方式により重み付けを行ったドッグレッグ領域を形成する。そして、このドッグレッグ領域の各トラック内を更にアポタイズ方式により電極指の重み付けを行う。
【解決手段】入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方の電極において、弾性波の伝搬方向に対して中央部には電極指の開口長を連続的に変化させるアポタイズ方式により重み付けを行ったアポタイズ領域を形成し、その両側に開口長を浮き電極により1/n化してn個のトラックを形成するドッグレッグ方式により重み付けを行ったドッグレッグ領域を形成する。そして、このドッグレッグ領域の各トラック内を更にアポタイズ方式により電極指の重み付けを行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW(Surface Acoustic Wave)等の弾性波を利用したトランスバーサル型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
SAWデバイスは、弾性表面波を利用したものであり、圧電基板上にIDT(インターディジタルトランスデューサ)と呼ばれる電極を配置し、電気信号と弾性波との間の電気−機械相互変換を行って周波数選択(帯域フィルタ)特性を持たせたものである。このようなSAWデバイスの一つであるSAWフィルタは、例えばテレビ放送用中継局などの各種通信機用のバンドパスフィルタとして利用されている。近年においては、2011年のアナログ放送からデジタル放送への移行が決定されており、このデジタル放送中継局用のバンドパスフィルタの特性としては通過周波数帯域が広いことが求められている。また、このフィルタは、図15に示すように、他の固定通信用のバンドパスフィルタの規格と比べて通過周波数帯域における信号レベルの平坦性が高く、また選択性が高い(減衰傾度が急峻である)ことが求められている。そこで、このフィルタとしては、周波数特性の振幅と位相とが独立して設計可能であることから、一般的にトランスバーサル型フィルタが用いられている。
【0003】
このフィルタ100は、例えば図16(a)に示すように、圧電基板101上に形成された入力側(送信側)IDT電極102と出力側(受信側)IDT電極103とを備えている。この電極102、103は、弾性波の進行方向に向き合うように形成されており、夫々弾性波の伝搬方向に平行となるように形成された一対のバスバー104、104と、弾性波の伝搬方向に対して直交方向にこのバスバー104、104から交互に櫛歯状に伸び出す多数本の電極指105と、を備えている。尚、電極102、103の外側(圧電基板101の長手方向両端)に形成されたダンパー106、106は、電極102、103から伝搬する不要な弾性波を吸収するためのものである。また、電極102、103間には、この電極102、103間におけるカップリングを抑えるための図示しないシールド電極が形成されている。
電極102、103の一方例えば出力側IDT電極103においては、図17(a)に概略的に示すように、互い違いに伸び出す電極指105、105の交差幅である開口長Lができるだけ長くなるように、つまり電極指105の先端とバスバー104との間の間隙Dができるだけ小さくなるように、また開口長Lが各々の電極指105において一定となるように形成されて正規型電極をなしている。
【0004】
一方、電極102、103の他方例えば入力側IDT電極102においては、同図(b)に概略的に示すように開口長Lが弾性波の伝搬方向において連続的に変化するように形成されてアポタイズ型電極をなしている。具体的には、この入力側IDT電極102における電極指105は、既述の図16(a)に示すように弾性波の伝搬方向において中央部にて開口長Lが最大値である幅Aとなり、この両側において開口長Lが例えばほぼゼロとなるまで徐々に小さくなるように形成されている。従って、この領域においては、多数の間隙Dにより概略楕円形の図形が描かれていると言える。この概略楕円形の領域をメインローブMと呼ぶと、このメインローブMの両側には、最大開口長Lが幅Aよりも小さい寸法例えば幅Bとなるように電極指105が形成された領域(サイドローブS1と呼ぶ)が配置されている。このサイドローブS1、S1の外側(電極102の端部側)には、同様に最大開口長Lが幅Bよりも小さいサイドローブS2、S2が形成されており、また図示を省略しているが、このサイドローブS2、S2の外側には、このサイドローブS2よりも最大開口長Lが徐々に小さくなるサイドローブS3、S4、、、、、Snが配置されている。尚、弾性波の伝搬方向において、各ローブ内では間隙Dが上下交互に順番に形成されているが、各ローブ間の境界ではこの順番を逆転させるために間隙Dを上下の一方に連続して2カ所配置することによって、隣接するローブ間において発生する弾性波の位相を反転させるようにしている。
【0005】
このフィルタ100では、入力側IDT電極102に電気信号が入力されると、当該入力側IDT電極102において交差する電極指105、105間毎に電界が形成されて圧電基板101が歪み、弾性波例えば表面弾性波(SAW(Surface Acoustic Wave))が生じる。この電界は電極指105、105の交差領域であるタップで形成されるので、この入力側IDT電極102では夫々の開口長Lに応じた強度の多数の弾性波が生じることとなる。これらの弾性波は、例えば出力側IDT電極103に向かって伝搬していくが、弾性波の発生するタップの位置と出力側IDT電極103例えば当該出力側IDT電極103の左端との距離が各々の弾性波によって異なる。そのため、入力側IDT電極102の右端で発生した弾性波が初めに出力側IDT電極103に到達し、その後当該右端よりも左側で発生した弾性波が順次出力側IDT電極103に到達していくこととなる。
【0006】
そして、これらの弾性波が出力側IDT電極103において電気信号に変換されるので、時間の経過と共に連続的に強度の変化する信号(時間応答)が取得される。そのためこの時間応答は、図16(b)の右側に示すように、入力側IDT電極102の左端から右端までの開口長Lに対応する振幅強度を持つ波形となる。このように、入力側IDT電極102では、各々の開口長Lを変化させることによって電極指105に重み付けして、所望の振幅強度の時間応答が得られるようにしている。尚、出力側IDT電極103では、入力側IDT電極102から伝搬してきた弾性波のうち、一部が受信されて電気信号に変換され、残りの弾性波が当該出力側IDT電極103にて反射して入力側IDT電極102に戻っていくこととなる。そして、入力側IDT電極102に戻された弾性波は、再度入力側IDT電極102にて反射して出力側IDT電極103に伝搬していき、出力側IDT電極103においてその一部が受信されて電気信号に変換され、残りが入力側IDT電極102に向かって反射される。こうして弾性波は、出力側IDT電極103にて全てのエネルギーが電気信号に変換されるか、あるいは電極102、103を介して圧電基板101の端部側に伝搬してダンパー106において吸収されるまで、入力側IDT電極102と出力側IDT電極103との間において反射を繰り返すこととなる。
【0007】
そして、図16(b)の左側に示すように、この時間応答をフーリエ変換することにより、特定の周波数領域が取り出された周波数応答が得られる。この時、入力側IDT電極102における各々のローブの重み付け値によって、出力側IDT電極103にて取り出される周波数の振幅強度(フィルタ100の挿入損失)が変わることになる。一方、所定のしきい値よりも重み付け値が小さくなる程、つまり例えば入力側IDT電極102の端部側に向かう程、その領域にて励振される弾性波は、周波数の振幅強度へ及ぼす影響よりも、帯域内での平坦度(図16中の「C」)及び減衰特性(図16中「D」)に及ぼす影響が大きくなっていくことになる。
【0008】
このようなフィルタ100において、既述のように通過周波数帯域を広げるためには、一般的には例えばサイドローブSの数(タップの数)を多くする手法が採られる。しかし、上記のようにメインローブMからサイドローブSnに向かって最大開口長Lが徐々に小さくなっていることから、サイドローブSの数が多くなると、入力側IDT電極102の両端部における開口長Lが極めて小さくなる。そのため、図18(a)、(b)に示すように、弾性波は、例えば入力側IDT電極102の右端から出力されるとき、回折によって弾性波の伝搬方向に対して直交方向に大きく広がってしまう。また、例えば入力側IDT電極102の左端において発生した弾性波についても、当該入力側IDT電極102内を右側に向かって伝搬していく時に、同様に回折により弾性波の伝搬方向に対して直交方向に大きく広がってしまう。そして、この回折により出力側IDT電極103のバスバー104、104間の領域から例えば上下方向に外れた領域に弾性波が伝搬した場合には、受信されない弾性波が生じてエネルギーの損失となってしまう。その結果、図19に点線で示すように、回折がない場合(実線)と比べて、平坦度及び減衰特性が劣化してしまう。尚、既述のように、入力側IDT電極102の左側に向かうほど、出力側IDT電極103に至るまでの弾性波の伝搬距離が長くなるので、入力側IDT電極102の左端では右端よりも回折損が大きくなってしまう。
【0009】
一方、電極指105に重み付けを行う方法としては、上記のアポタイズ法以外にも、例えば図20(a)に示すように、例えば一方のバスバー104(この例では下側のバスバー104)から複数本の電極指105を連続的に形成することによって、弾性波が発生する間隔(位置)を調整するようにした間引き法が知られている。また、同図(b)に示すように、開口長Lが1/n(n:正数)となる位置にバスバー104と平行に伸びる浮き電極107を配置して、バスバー104、104間の領域である伝搬領域をn個の伝搬路であるトラックに分割すると共に、バスバー104と直交方向に伸びる電極指108をこの浮き電極107に形成して、各トラックにおいて電極指105(108)を互い違いとなるように配置することで発生する弾性波の振幅を1/n化するドッグレッグ法なども知られている。これらの方法であれば、既述のアポタイズ法よりも開口長Lを長くとることができるので、弾性波の振幅が小さくなるように重み付けを行った場合であっても弾性波の回折を抑えることができる。
【0010】
しかし、間引き法では電極指105の有無により重み付けを行っているので、アポタイズ法のように連続的に重み付けを行うことができず、重み付け量が離散的となってしまうため特性の表現力に欠ける。そのためこの方法だけでは通過周波数帯域の広帯域化や、通過周波数帯域における信号レベルの平坦性の向上、あるいは減衰特性の向上(選択性を高める)を図るには不向きである。また、ドッグレッグ法では伝搬領域の分割数(トラックの数)により重み付けを行っているので、同様に重み付け量が離散的となってしまう。更に、浮き電極107は外部(入力ポート、出力ポートあるいはアース)に接続されていないので、電極指105(108)の交差幅が同じであっても、電極指105及び電極指108間において励振される電界(k1)と、電極指108及び電極指108において励振される電界(k2)と、には僅かながらも差が生じてしまう。そのためこれらの電界により発生する弾性波同士の干渉を抑えるために、分割数の異なる領域間に例えば電極指105(108)を形成せずに、強制的に重み付け値をゼロとする隙間Kを設けることが好ましい。従って、多数の分割領域を形成すると、つまり重み付け量の異なる領域を多くすると、この隙間Kが多くなるので、図21に示すように、帯域内に不要なうねりが生じてしまう。
【0011】
以上の重み付け法は、図22に示すように一長一短があり、どの方法も既述の規格を満たすには不十分である。また、電極102、103の双方の電極指105に上記のいずれかの方法により重み付けを行う方法や、あるいは一方の電極102(103)のメインローブMに近い領域をアポタイズ法により重み付けし、サイドローブSnつまり電極102(103)の端部に近接する領域を間引き法により重み付けして回折損を抑える方法が知られているが、どちらの方法も既述の規格を満たすには不十分である。特許文献1〜6には、ドッグレッグ法などの重み付け法について記載されているが、上記の課題については検討されていない。
【0012】
【特許文献1】特開2004−320714
【特許文献2】特開昭56−132807
【特許文献3】特開平5−29874
【特許文献4】特開平5−183371
【特許文献5】特開平7−50548
【特許文献6】特開平10−303692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような事情に基づいて行われたものであり、その目的は、圧電基板上に設けた入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方の電極指に重み付けを行ったトランスバーサル型フィルタにおいて、この重み付けを行ったIDT電極から出力される弾性波の回折を抑えて、通過周波数帯域が広く、またこの通過周波数帯域における信号レベルの平坦性が高く、更に選択性が高い(減衰傾度が急峻である)トランスバーサル型フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のトランスバーサル型フィルタは、
多数本の電極指を備えた入力側IDT電極から伝搬する弾性波を多数本の電極指を備えた出力側IDT電極にて受信するように構成され、電極指間にて励振あるいは受信される弾性波の振幅の大きさが各々の電極指間で変化するように前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の電極指に重み付けを行ったトランスバーサル型フィルタにおいて、
入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方は、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ領域と、弾性波の伝搬方向において前記アポタイズ領域に隣接する領域の少なくとも一方に形成され、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画したドッグレッグ領域と、を備え、
前記複数の伝搬路の各々には、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ複合領域が形成されており、
前記アポタイズ領域は、電極指の重み付け量がこのアポタイズ方式により重み付けを行った入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方における最大値となるように交差幅が調整された少なくとも2本の電極指を含んでいることを特徴とする。
【0015】
前記アポタイズ領域は、前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、前記ドッグレッグ領域は、前記アポタイズ領域における弾性波の入力側及び出力側のうち少なくとも一方に接続されていることが好ましい。
前記アポタイズ領域は、弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するメインローブと、このメインローブの両側のいずれか一方の領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するサイドローブと、を備え、
前記サイドローブの中央における電極指の重み付け量は、前記メインローブの中央における電極指の重み付け量よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0016】
前記ドッグレッグ領域における前記アポタイズ領域の反対側の領域には、間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き領域が接続されていてもよいし、あるいはドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域が当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画され、当該伝搬路の各々において間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き複合領域が接続されていても良い。
前記アポタイズ領域と前記ドッグレッグ領域との間及び前記ドッグレッグ領域と前記間引き複合領域とにおいてドッグレッグ方式により区画された伝搬路の数が異なる領域間の境界には、電極指の重み付け量がゼロの領域が介設されていることが好ましい。
前記入力側IDT電極と前記出力側IDT電極との間には、当該入力側IDT電極と出力側IDT電極との間におけるカップリングを抑えるためのシールド電極が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のトランスバーサル型フィルタによれば、圧電基板上に形成した入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方において、電極指の重み付け量がこの電極における最大値となる領域にアポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ領域を形成すると共に、弾性波の伝搬方向において当該アポタイズ領域に隣接する領域の少なくとも一方には、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画したアポタイズ複合領域を形成し、更に各々の伝搬路では、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行っている。そのため、アポタイズ領域では、電極指の重み付けをきめ細かに連続的に行うことができ、またアポタイズ複合領域では、アポタイズ方式のみにより電極指に重み付けを行った場合よりも電極指同士の交差幅を大きく取ることができるので、電極指の重み付けをきめ細やかに連続的に行いながらも当該アポタイズ複合領域から出力される弾性波の回折を抑えることができる。そのため、フィルタ全体としては、出力信号が目的とする強度となるように当該フィルタを正確に設計でき、更に回折により失われる弾性波のエネルギーを小さく抑えることができるので、通過周波数帯域における信号レベルの平坦性を高めることができ、また信号の選択性(減衰特性)を高めることができる。
【0018】
また、このアポタイズ複合領域におけるアポタイズ領域の反対側の領域には、間引き方式により電極指の交差位置を間引いた間引き領域を形成しているので、電極指の交差幅を長く取ることができ、弾性波の回折を抑えることができる。更に、例えば上記のアポタイズ複合領域では、伝搬路の区画数を増やすことによって、また間引き領域では電極指の交差位置を間引くことによって、電極指同士の交差幅を長く取りながらも重み付け量を小さくすることができるので、電極指の本数を増やして弾性波が励振あるいは受信される電極指の交差領域を多く形成できる。そのため、弾性波の回折を抑えると共にフィルタの通過周波数帯域を広くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態であるトランスバーサル型フィルタについて、図1〜図6を参照して説明する。このトランスバーサル型フィルタは、圧電基板11の表面に当該圧電基板11の長手方向に離間して形成された入力側(送信側)IDT電極12と出力側(受信側)IDT電極13とを備えている。これらの電極12、13間には、電極12、13間におけるカップリングを抑えるためのシールド電極17が形成されている。このシールド電極17は、例えば金属が一面に形成された膜や、あるいは弾性波の伝搬方向に対して直交方向に伸びる多数本の電極指とこれらの電極指の両端を接続するための一対のバスバーとを備えたグレーティング電極などとして構成される。圧電基板11の長手方向の両端側における電極12、13の側方位置には、電極12、13を介して当該両端に伝搬してきた不要な弾性波を吸収するためのダンパー16a、16bが夫々配置されている。
【0020】
電極12、13は、夫々弾性波の伝搬方向に平行となるように形成された一対のバスバー14、14と、弾性波の伝搬方向に対して直交方向にこのバスバー14、14から交互に櫛歯状に伸び出す多数本の電極指15と、を備えている。この一対のバスバー14、14間の領域は、弾性波の伝搬領域をなす。この電極指15は、例えば2本ずつが組となって互い違いに配置されているが、後述の図2、図4、図6では一部図示を省略している。入力側IDT電極12では、一方のバスバー14は入力ポート21に接続され、他方のバスバー14は接地されている。出力側IDT電極13では、一方のバスバー14は出力ポート22に接続され、他方のバスバー14は接地されている。尚、図1においては、この電極指15を模式的に示している。
【0021】
入力側IDT電極12は、弾性波の伝搬方向に対して直交方向に概略的に3つの領域に区画されており、中央部にはアポタイズ領域31が形成され、このアポタイズ領域31の両側に隣接する領域には、このアポタイズ領域31を挟むようにドッグレッグ領域51、51が形成されている。図3に示すように、電極指15の交差幅を開口長Lとすると、このアポタイズ領域31は、図2に示すようにこの開口長Lが弾性波の伝搬方向(図1中右方向)に連続的に変化するように形成されている。また、一対のバスバー14、14からは、相対向するように電極指15、15が伸び出しており、この相対向する電極指15、15の先端部同士の間には、間隙Dが形成されている。そして、各々の電極指15、15間において、この間隙Dが同じ開口寸法となるように、一方のバスバー14から伸び出す電極指15の長さに応じて、他方のバスバー14から伸び出す電極指15の長さが調整されている。
【0022】
従って、入力側IDT電極12の中央領域では、多数の間隙Dにより概略楕円形状の図形が描かれていると言える。この概略楕円形状の領域をメインローブMと呼ぶこととすると、このメインローブMでは、このアポタイズ領域31の中心位置において開口長Lが当該アポタイズ領域31における最大値となり、その両側では開口長Lがほぼゼロとなるまで徐々に小さくなるように電極指15が配置されている。このメインローブMの両側には、同様に間隙Dが概略楕円状に配置された領域であるサイドローブSが例えば夫々複数個例えば4つずつ形成されており、これらのサイドローブSにおける開口長Lの最大値は、メインローブMから離れるにつれて、メインローブMの開口長Lの最大値から徐々に小さくなるように重み付けされている。
【0023】
尚、この図2においては、図を判別しやすくするためにバスバー14や電極指15の太さ、交差する一組の電極指15、15の本数などを簡略化して示しているが、実際には図3や図17、図20のように所定の幅を持ち、また2本の電極指15、15同士が一組となって交差している。また、この図2ではサイドローブSの数や位置、開口長Lなどについても模式的に示している。以下の図4、図6についても同様である。また、弾性波の伝搬方向において、各ローブ内では間隙Dが上下交互に順番に形成されているが、各ローブ間の境界ではこの順番を逆転させるために間隙Dを上下の一方に連続して2カ所配置することによって、隣接するローブ間において発生する弾性波の位相を反転させるようにしている。
【0024】
アポタイズ領域31の両側には、ドッグレッグ領域51、51が配置されており、このドッグレッグ領域51は、既述の図1に示すように、アポタイズ領域31に隣接するアポタイズ複合領域54、54と、このアポタイズ複合領域54、54の外側に形成された間引き複合領域55、55と、から構成されている。このドッグレッグ領域51は、バスバー14と平行となるように形成された浮き電極52によって、この例ではアポタイズ複合領域54及び間引き複合領域55のいずれについても弾性波の伝搬方向と平行方向に複数段例えば9段の伝搬路であるトラック50に区画されている。従って、各トラック50において発生する弾性波の最大振幅強度は、アポタイズ領域31において発生する弾性波の最大振幅強度の1/9となるように重み付けされていることになる。
【0025】
この浮き電極52には、図4に示すように、弾性波の伝搬方向に対して直交して上下方向に伸びる多数本の電極指53が接続されており、各トラック50においてバスバー14と浮き電極52との間あるいは浮き電極52、52同士の間で2本の電極指15(52)が組になり、これらの組が互い違いに櫛歯状に交差するように構成されている。このドッグレッグ領域51における電極指15(53)の幅や電極指15(53)、15(53)間の距離は、アポタイズ領域31と同様の寸法に設定されており、またバスバー14及び浮き電極52から相対向するように伸びる電極指15、53の先端部同士の間の間隙Dについてもアポタイズ領域31と同様の寸法に設定されている。
【0026】
このドッグレッグ領域51と既述のアポタイズ領域31とは、隣接するアポタイズ領域31の電極指15とドッグレッグ領域51の電極指15との間において発生する弾性波と、隣接するアポタイズ領域31の電極指15とドッグレッグ領域51の電極指53との間において発生する弾性波と、の干渉を抑えるために、第1の境界61において例えば2本分の電極指15(1タップ分)の寸法だけ離間して配置されている。つまり、この第1の境界61では、重み付け量がゼロに設定されていることになる。
【0027】
アポタイズ複合領域54には、浮き電極52により区画された各トラック50において、既述のアポタイズ領域31と同様に複数個例えば4つのサイドローブSが形成されている。このサイドローブSは、アポタイズ領域31から離れるにつれて、夫々のサイドローブSにおける最大開口長Lが徐々に小さくなるように配置されている。従って、このアポタイズ複合領域54は、浮き電極52によりドッグレッグ方式の重み付けがなされると共に、アポタイズ方式により重み付けがなされていることになる。また、このアポタイズ複合領域54における重み付け量は、後述するようにアポタイズ領域31から連続的に減少していくように設定されている。尚、この図4は、アポタイズ領域31の左側における上側のバスバー14近傍の入力側IDT電極12を拡大して示したものであり、浮き電極52により区画された各トラック50はいずれも同様に構成され、またアポタイズ領域31の右側についても当該左側と対称に構成されている。
【0028】
このアポタイズ複合領域54の側方位置には、第2の境界62を介して間引き複合領域55が配置されており、この間引き複合領域55は、浮き電極52により区画された各トラック50内において間引き法により重み付けがなされている。この間引き法は、具体的には例えば一方のバスバー14あるいは浮き電極52から連続的に同じ向きの電極指15(53)を配置することによって、つまり電極指15(53)、15(53)同士の交差する位置を間引いて弾性波の発生する位置を減らすことによって重み付けを行う方法であり、この例では入力側IDT電極12の端部に向かうにつれて弾性波の発生する位置が徐々に少なくなるように設定されている。また、この間引き複合領域55における開口長Lは、当該領域55において一定となっており、例えば間引き複合領域55に隣接するアポタイズ複合領域54における開口長Lとほぼ同じ値に設定されている。そのため、間引き複合領域55における開口長Lは、各トラック50内をアポタイズ方式により重み付けを行った場合よりも大きく設定されていることになる。
【0029】
また、この間引き複合領域55における重み付け量は、アポタイズ複合領域54から連続的に減少するように重み付け量が調整されており、そのため図5に示すように、この入力側IDT電極12では、メインローブMの中央において電極指15の重み付け量が当該電極12における最大値となり、このメインローブMから離れるにつれて各ローブの中央の電極指15の重み付け量が徐々に小さくなるように多数のサイドローブSが形成されていると言える。尚、境界61、62やドッグレッグ領域51においても、発生する弾性波の位相が反転するように、各ローブ間の境界における間隙Dの配置位置が調整されている。
この例では、メインローブMの中央における重み付け量を1とすると、アポタイズ複合領域54におけるアポタイズ領域31に隣接するサイドローブSの中央の重み付け量を0.124、間引き複合領域55におけるアポタイズ複合領域54に隣接するサイドローブSの中央の重み付け量を0.035としている。尚、この図5における楕円形状は、各ローブにおける重み付け量を模式的に示したものである。
【0030】
ここで、このように入力側IDT電極12にアポタイズ領域31、アポタイズ複合領域54及び間引き複合領域55といった重み付け方式の異なる複数の領域を形成するにあたって、夫々の領域54、55の大きさ(第1の境界61あるいは第2の境界62のメインローブMからの距離)や、夫々の領域54、55の重み付け量を以下のように設計している。この時、例えばアルミニウムなどの金属膜を圧電基板11上に一面に形成して、この金属膜の上にパターニングされたフォトレジストマスクを積層し、このマスクを介して金属膜をエッチングしてフィルタを形成する例において、当該フォトレジストマスクのパターンの設計方法について説明する。
【0031】
先ず、きめ細かな設計のできるアポタイズ方式によって入力側IDT電極12の全ての領域を重み付けした場合の各ローブの位置と夫々のローブの重み付け量とを検討する。そして、所定のしきい値よりも大きな重み付けの領域には、アポタイズ方式による重み付けを適用する。また、このしきい値よりも小さな重み付け量のサイドローブSからアポタイズ複合領域54を形成するようにして、また更に別のしきい値よりも小さなサイドローブSの位置から間引き複合領域55を形成するようにする。この時、各領域54、55における重み付け量は、初めにアポタイズ方式により検討した重み付け量と同じ重み付け量となるように、トラック50の分割数、アポタイズ複合領域54における各サイドローブSの最大開口長L及び間引き複合領域55における電極指15、53の間引き量を設定する。
【0032】
このような設計方法により形成したマスクを介して金属膜をエッチングすることによって、既述の図5に示すように、入力側IDT電極12における各ローブの重み付け量は、入力側IDT電極12の全ての領域をアポタイズ方式により重み付けを行った場合とほぼ同様に、メインローブMから連続的に徐々に小さくなるように設定されることになる。尚、これらのしきい値としては、例えばアポタイズ方式では回折の影響が大きくなる重み付け量や、あるいは通過周波数帯域において例えば信号レベルの平坦度や減衰特性などの特性値に与える影響が大きくなる重み付け量などに応じて、つまり求める周波数特性に応じて適宜設定される。上記の例では、このようなしきい値として既述のように0.124、0.035といった値を用いている。
【0033】
既述の出力側IDT電極13は正規型の電極であり、図6に示すように、一方のバスバー14から伸びる電極指15の先端部と他方のバスバー14とが近接するように開口長Lが設定され、またこの開口長Lが各電極指15において一定となるように構成されている。この出力側IDT電極13における開口長Lは、既述のメインローブMにおける最大開口長Lと同じ値であり、そのためこの電極13における間隙Dは、入力側IDT電極12の間隙Dと同じ長さに設定されている。
【0034】
次に、このトランスバーサル型フィルタにおいて電気信号が弾性波に変換され、再度電気信号として受信される様子について、以下に説明する。
先ず、入力ポート21に電気信号を入力すると、入力側IDT電極12の電極指15(53)、15(53)間の交差領域であるタップにおいて電界が生じて、この電界により圧電基板11が歪み、弾性波例えば表面弾性波(SAW(Surface Acoustic Wave))が生じる(励振される)。この入力側IDT電極12では、既述の図1〜図4に示すように、電極指15(53)、15(53)間の交差領域が多数箇所に形成されているので、図7(a)に示すように、弾性波の伝搬方向に対して多数の弾性波が発生する。
【0035】
また、これらの弾性波は、夫々の交差領域において励振されることから、アポタイズ領域31では夫々の電極指15、15間の開口長Lに応じて、連続的に励振強度が変化するように形成される。アポタイズ複合領域54においては、既述のようにドッグレッグ方式により重み付けされていることから、最大振幅強度が上記のアポタイズ領域31における最大振幅強度の1/9となっており、また更に各トラック50内がアポタイズ方式により重み付けされているため、当該1/9の振幅強度内において連続的に振幅強度が変化するように弾性波が形成される。また、間引き複合領域55においては、同様にドッグレッグ方式により重み付けされているので、最大振幅強度がアポタイズ領域31の1/9となり、また各トラック50ではこの領域55においても当該1/9の振幅強度内において間引き法により段階的に振幅強度が変化するように弾性波が形成される。この時、この領域55ではドッグレッグ方式及び間引き方式といったいずれも離散的な重み付け方式により重み付けされているので、この領域55における重み付け量は上記の領域31、54よりも僅かに離散的となる。
【0036】
以上のことから、入力側IDT電極12において生じる弾性波は、既述の図5に示した各ローブの重み付け量に応じた振幅強度となり、また既述のように各ローブ間では弾性波の位相が反転することから、図7(b)に示す弾性波が励振されることになる。尚、境界61では重み付け量をゼロとしており、当該境界61では弾性波が励振されないので、互いに干渉しあう波長の弾性波の生成が抑えられる。また、図7(a)における斜線は、模式的に示す弾性波を見やすくするためのものである。
【0037】
そして、これらの弾性波は、順次例えば図1中右側の出力側IDT電極13に向かって伝搬していくこととなる。アポタイズ複合領域54では、電極指15の重み付けをアポタイズ方式だけでなくドッグレッグ方式でも行っているので、回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していく。また、間引き複合領域55では、既述のように各トラック50において開口長Lがアポタイズ方式により重み付けを行った場合よりも大きく設定されているので、同様に回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していく。従って、既述の図7(a)に示すように、入力側IDT電極12の右端から出力される弾性波は、回折が抑えられた状態で出力側IDT電極13に向かって伝搬していく。
【0038】
出力側IDT電極13に弾性波が到達すると、当該出力側IDT電極13における電極指15、15間において電界が形成され、この電界に応じた大きさの電気信号が受信されることとなる。既述のように、夫々の弾性波の発生場所(タップの位置)と出力側IDT電極13例えば当該出力側IDT電極13の左端との距離が各々の弾性波によって異なるので、出力IDT電極13では、先ず入力側IDT電極12の右端にて発生した弾性波が受信され、その後当該右端の左側から発生した弾性波が順次受信されることとなる。従って、この出力側IDT電極13において受信される電気信号は、既述の図7(b)に示すように、時間の経過と共に各ローブの重み付け量に応じた振幅強度の波形となる。
【0039】
尚、出力側IDT電極13では、入力側IDT電極12から伝搬してきた弾性波のうち、一部が受信されて電気信号に変換され、残りの弾性波が当該出力側IDT電極13にて反射して入力側IDT電極12に戻っていくこととなる。そして、入力側IDT電極12に戻された弾性波は、再度入力側IDT電極12にて反射して出力側IDT電極13に伝搬していき、出力側IDT電極13においてその一部が受信されて電気信号に変換され、残りが入力側IDT電極12に向かって反射される。こうして弾性波は、出力側IDT電極13にて全てのエネルギーが電気信号に変換されるか、あるいは電極12、13を介して圧電基板11の端部側に伝搬してダンパー16a、16bにおいて吸収されるまで、入力側IDT電極12と出力側IDT電極13との間において反射を繰り返すこととなる。この時においても、入力側IDT電極12からは同様に回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していくこととなる。
【0040】
そして、出力側IDT電極13にて受信された時間応答がフーリエ変換されることによって、図8(a)、(b)に示す周波数応答が得られる。尚、この図8は、実際に本発明のトランスバーサル型フィルタにおいて得られた信号(太線)を示したものであり、従来の固定通信用のトランスバーサル型フィルタで得られる特性(細線)についても付記してある。この図8(a)は同図(b)の通過周波数帯域付近を拡大して示したものであり、この図8(a)から分かるように、従来のフィルタと比べて、通過周波数帯域の両端部では振幅強度が増加して、その結果帯域内での周波数特性の平坦度が向上していることが分かる。また、同図(b)に示すように、帯域の境界においては振幅強度の減衰勾配が急峻となり、また帯域外においては減衰量が大きくなっていることが分かる。また、本発明のフィルタにより得られた特性は、図9に示すように、デジタル放送中継局用のバンドパスフィルタの規格内に収まっていることが分かる。
【0041】
上述の実施の形態によれば、入力側IDT電極12において、出力信号の強度に影響を及ぼす領域である電極指15の重み付け量が最大値となる区域(メインローブM)を含む領域ではアポタイズ方式により開口長Lに重み付けを行っている。そのため、この領域31では電極指15の重み付けをきめ細かに連続的に行うことができるので、目的とする強度となるようにフィルタを正確に設計できる。
そして、このアポタイズ領域31に隣接する領域に、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を複数のトラック50に分割し、さらにこのトラック50内をアポタイズ方式により重み付けしたアポタイズ複合領域54を配置するようにしている。そのため、このアポタイズ複合領域54では、アポタイズ方式のみにより重み付けを行った場合よりも開口長Lを大きく取ることができるので、この領域54における弾性波の回折を抑えることができる。また、この領域54も出力信号の強度に影響を及ぼす領域であるため、アポタイズ方式により各トラック50内を重み付けすることにより、目的とする強度の信号となるようにフィルタを正確に設計できる。
【0042】
更に、このアポタイズ複合領域54の外側には間引き複合領域55を配置しており、この領域55ではドッグレッグ方式及び間引き方式といったいずれも離散的(連続的ではない)重み付け方式を採っているが、この領域55はメインローブMから大きく離れており、従って出力信号の強度に及ぼす影響は極めて小さく、一方弾性波の回折により通過周波数帯域における信号レベルの平坦性や減衰特性に及ぼす影響の方が遙かに大きい。従って、この領域55では重み付け量が離散的であっても開口長Lを大きく取ることによって、出力信号の強度への悪影響が極めて小さく抑えながらも、弾性波の回折を抑制できる。そのため、回折により失われる弾性波のエネルギーを小さく抑えることができるので、得られる通過周波数における信号レベルの平坦性を高めることができ、また周波数の選択性(減衰特性)を高めることができる。
【0043】
更にまた、アポタイズ複合領域54においてはトラック50の数を増やすことにより、また間引き複合領域55においてはトラック50の数を増やしたりあるいは交差する電極指15(53)同士の位置を間引いたりすることにより、開口長Lを長く取りながらも重み付け量を小さくすることができる。そのため、弾性波の回折損を増やすことなく入力側IDT電極12におけるサイドローブS(タップ)の数を増やすことができるので、フィルタの通過周波数帯域を広げることができる。
【0044】
また、ドッグレッグ領域51においては各トラック50内をアポタイズ方式あるいは間引き方式により更に重み付けしているので、ドッグレッグ方式のみにより重み付けした場合と比較して、例えばアポタイズ領域31に近接する位置から入力側IDT電極12の端部位置に亘ってトラック50の分割数を増やさなくとも良い。そのため、電極指15(53)を形成せずに重み付けをゼロとする境界(第1の境界61)の数を少なくできるので、既述の図21に示す帯域内におけるうねりを抑えることができる。
更に、このように入力側IDT電極12の重み付けを行うにあたり、既述のように、予めアポタイズ方式により重み付け量を設計しておき、この重み付け量と同じ重み付け量となるように各領域31、54、55のトラック50数、開口長L及び電極指15(53)の間引き量を調整している。そのため、従来のアポタイズ方式とほとんど同様に連続的な重み付けを行うことができる。
【0045】
各領域54、55の分割数は、9段以外にも複数段例えば2段以上であれば良い。また、ドッグレッグ領域51において、アポタイズ複合領域54及び間引き複合領域55における夫々の分割数を変えるようにしても良い。図10は、このような分割方法の一例を示しており、アポタイズ複合領域54を7段、間引き複合領域55を9段のトラック50に分割している。また、図11に示すように、アポタイズ複合領域54あるいは間引き複合領域55において複数の分割領域を設けるようにしても良い。尚、これらのようにトラック50の分割数を変更する場合には、分割数の異なる領域の境界63に2本(1タップ)分の電極指15を設けずに重み付け量をゼロとすることが好ましい。
【0046】
更に、既述のように、所望のフィルタ特性に応じて、各領域54、55の大きさ(第1の境界61、第2の境界62のメインローブMからの位置)を適宜変更するようにしても良い。また、上記の例ではアポタイズ領域31に複数のローブを配置するようにしたが、メインローブMだけを形成し、その両側にアポタイズ複合領域54を配置するようにしても良い。
【0047】
上記の例においては、間引き複合領域55では、ドッグレッグ方式及び間引き方式により重み付けを行うようにしたが、間引き方式のみにより重み付けを行った間引き領域としても良い。この場合であっても、開口長Lを大きくとりながら重み付け量を小さくすることができるので、弾性波の回折を抑えて上記の例と同様の効果を得ることができる。
また、ドッグレッグ領域51をアポタイズ複合領域54と間引き複合領域55とに分けるようにしたが、図12に示すように、アポタイズ複合領域54だけで構成するようにしても良い。この例においても、入力側IDT電極12の端部における開口長Lは、当該領域54をアポタイズ方式のみにより重み付けを行った場合よりも大きく取ることができるので、弾性波の回折を抑えることができる。
【0048】
また、上記の例ではメインローブMを中心として左右方向に対称となるように入力側IDT電極12を配置したが、例えば左右非対称の周波数特性のフィルタを構成する場合には、例えば各領域54、55のトラック50数やサイドローブSの数などについて、図13(a)に示すように、メインローブMの中心位置を対称軸として左右非対称に形成しても良い。この時、既述の図5に示す重み付け量は、メインローブMを軸として左右対称にしても良いし、非対称にしても良い。
【0049】
また、入力側IDT電極12の中心位置にメインローブMを配置して、更にこのメインローブMの中心位置で開口長Lが最大となるように電極指15を形成したが、この入力側IDT電極12においてメインローブMの位置を横方向にずらしても良い。更に、入力側IDT電極12の中央領域にアポタイズ領域31を形成したが、例えば横方向にずらして入力側IDT電極12の概略中央位置に形成しても良いし、あるいはこの入力側IDT電極12の端部にアポタイズ領域31に形成しても良い。つまり、本発明では、入力側IDT電極12において重み付け量が最も大きなメインローブMが形成された領域を含むようにアポタイズ領域31を形成すれば良い。
【0050】
また、各ローブM、Sについて、夫々の中央において開口長Lが最も大きくなるようにしたが、この最大開口長Lの位置を横方向にずらしても良い。更に、図13(b)に示すように、入力側IDT電極12の右側あるいは左側だけにドッグレッグ領域51を配置するようにしても良い。この場合でも、ドッグレック領域51を配置した領域から伝搬する弾性波は、回折が抑えられた状態で出力側IDT電極13に向かって進んでいくこととなる。
【0051】
更にまた、弾性波の伝搬方向と概略平行となるように各ローブSを配置したが、メインローブMから離れるにつれて上(下)方向に配置して概略V字形状としても良いし、あるいはメインローブMの右側の領域及び左側の領域のいずれについても弾性波の伝搬方向において例えば左側から右側に向かうにつれて上(下)側から徐々に下(上)側に配置して弾性波の伝搬方向に対して傾斜するようにしても良い。また、本発明を一方向性のフィルタに適用しても良い。
【0052】
また、出力側IDT電極13として正規型の電極を配置したが、ドッグレッグ型の電極あるいは間引き型の電極としても良い。更に、入力側IDT電極12に正規型の電極、ドッグレッグ型の電極あるいは間引き型の電極を配置し、上記の各例のように弾性波の回折が抑えられるように電極指に複合的に重み付けを行った本発明の電極を出力側IDT電極13として配置するようにしても良い。この場合には、入力側IDT電極12にて発生する弾性波は、先ず出力側IDT電極13の左端の電極指15(53)、15(53)間において受信され、次いで当該左端から右側の電極指15(53)、15(53)間において順次受信されていくので、重み付けにより弾性波の受信強度が時間の経過に応じて変わることになり、従って上記と同様の時間応答が得られる。そして、既述のように出力側IDT電極13では、入力側IDT電極12から伝搬してきた弾性波の一部が受信されて電気信号に変換され、残りの弾性波が入力側IDT電極12に向けて反射されるが、この出力側IDT電極13の右端及び左端の少なくとも一方には間引き複合領域55が配置されているので、回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していくことになる。
【0053】
更に、入力側IDT電極12及び出力側IDT電極13としてアポタイズ型あるいは既述のように複合的に重み付けを行った本発明の電極を用いる場合には、例えば図14に示すように、入力側IDT電極12と出力側IDT電極13とを電極指15の長さ分だけ縦方向(弾性波の伝搬方向に対して直交方向)にずらして、これらの入力側IDT電極12と出力側IDT電極13との間に例えば電極12、13の夫々の電極指15と平行に交差するように長く伸びる多数本の電極指からなるマルチストリップカプラ70を配置するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のトランスバーサル型フィルタの一例を示す概略平面図である。
【図2】上記のフィルタの入力側IDT電極におけるアポタイズ領域の一例を示す平面図である。
【図3】上記のフィルタの電極における電極指の配列パターンの一例を示す概略平面図である。
【図4】上記のフィルタのドッグレッグ領域の一例を拡大して示す平面図である。
【図5】上記のフィルタの入力側IDT電極における電極指の重み付け量の一例を示す模式図である。
【図6】上記のフィルタの出力側IDT電極の一例を示す平面図である。
【図7】上記のフィルタにおいて弾性波が伝搬していく様子を示す概略図である。
【図8】上記のフィルタにおいて得られた周波数特性の一例を示す特性図である。
【図9】上記のフィルタにおいて得られた周波数特性の一例を示す特性図である。
【図10】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図11】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図12】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図13】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図14】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図15】デジタル放送中継局用のバンドパスフィルタに求められる規格の一例を示す特性図である。
【図16】トランスバーサル型フィルタにおいて電気信号が受信される原理を概略的に示した模式図である。
【図17】トランスバーサル型フィルタにおける電極指の構成例を示す概略図である。
【図18】アポタイズ方式の電極における弾性波の回折現象を概略的に示す模式図である。
【図19】上記の弾性波の回折により悪化する周波数特性について説明する特性図である。
【図20】トランスバーサル型フィルタにおける電極指の構成例を示す概略図である。
【図21】通常のドッグレッグ方式の電極により得られる周波数特性の一例を示す特性図である。
【図22】電極指の重み付け方法の異なる電極において得られる特性の概要を示した概略図である。
【符号の説明】
【0055】
11 圧電基板
12 入力側IDT電極
13 出力側IDT電極
15 電極指
31 アポタイズ領域
50 トラック
51 ドッグレッグ領域
54 アポタイズ複合領域
55 間引き複合領域
L 開口長
M メインローブ
S サイドローブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW(Surface Acoustic Wave)等の弾性波を利用したトランスバーサル型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
SAWデバイスは、弾性表面波を利用したものであり、圧電基板上にIDT(インターディジタルトランスデューサ)と呼ばれる電極を配置し、電気信号と弾性波との間の電気−機械相互変換を行って周波数選択(帯域フィルタ)特性を持たせたものである。このようなSAWデバイスの一つであるSAWフィルタは、例えばテレビ放送用中継局などの各種通信機用のバンドパスフィルタとして利用されている。近年においては、2011年のアナログ放送からデジタル放送への移行が決定されており、このデジタル放送中継局用のバンドパスフィルタの特性としては通過周波数帯域が広いことが求められている。また、このフィルタは、図15に示すように、他の固定通信用のバンドパスフィルタの規格と比べて通過周波数帯域における信号レベルの平坦性が高く、また選択性が高い(減衰傾度が急峻である)ことが求められている。そこで、このフィルタとしては、周波数特性の振幅と位相とが独立して設計可能であることから、一般的にトランスバーサル型フィルタが用いられている。
【0003】
このフィルタ100は、例えば図16(a)に示すように、圧電基板101上に形成された入力側(送信側)IDT電極102と出力側(受信側)IDT電極103とを備えている。この電極102、103は、弾性波の進行方向に向き合うように形成されており、夫々弾性波の伝搬方向に平行となるように形成された一対のバスバー104、104と、弾性波の伝搬方向に対して直交方向にこのバスバー104、104から交互に櫛歯状に伸び出す多数本の電極指105と、を備えている。尚、電極102、103の外側(圧電基板101の長手方向両端)に形成されたダンパー106、106は、電極102、103から伝搬する不要な弾性波を吸収するためのものである。また、電極102、103間には、この電極102、103間におけるカップリングを抑えるための図示しないシールド電極が形成されている。
電極102、103の一方例えば出力側IDT電極103においては、図17(a)に概略的に示すように、互い違いに伸び出す電極指105、105の交差幅である開口長Lができるだけ長くなるように、つまり電極指105の先端とバスバー104との間の間隙Dができるだけ小さくなるように、また開口長Lが各々の電極指105において一定となるように形成されて正規型電極をなしている。
【0004】
一方、電極102、103の他方例えば入力側IDT電極102においては、同図(b)に概略的に示すように開口長Lが弾性波の伝搬方向において連続的に変化するように形成されてアポタイズ型電極をなしている。具体的には、この入力側IDT電極102における電極指105は、既述の図16(a)に示すように弾性波の伝搬方向において中央部にて開口長Lが最大値である幅Aとなり、この両側において開口長Lが例えばほぼゼロとなるまで徐々に小さくなるように形成されている。従って、この領域においては、多数の間隙Dにより概略楕円形の図形が描かれていると言える。この概略楕円形の領域をメインローブMと呼ぶと、このメインローブMの両側には、最大開口長Lが幅Aよりも小さい寸法例えば幅Bとなるように電極指105が形成された領域(サイドローブS1と呼ぶ)が配置されている。このサイドローブS1、S1の外側(電極102の端部側)には、同様に最大開口長Lが幅Bよりも小さいサイドローブS2、S2が形成されており、また図示を省略しているが、このサイドローブS2、S2の外側には、このサイドローブS2よりも最大開口長Lが徐々に小さくなるサイドローブS3、S4、、、、、Snが配置されている。尚、弾性波の伝搬方向において、各ローブ内では間隙Dが上下交互に順番に形成されているが、各ローブ間の境界ではこの順番を逆転させるために間隙Dを上下の一方に連続して2カ所配置することによって、隣接するローブ間において発生する弾性波の位相を反転させるようにしている。
【0005】
このフィルタ100では、入力側IDT電極102に電気信号が入力されると、当該入力側IDT電極102において交差する電極指105、105間毎に電界が形成されて圧電基板101が歪み、弾性波例えば表面弾性波(SAW(Surface Acoustic Wave))が生じる。この電界は電極指105、105の交差領域であるタップで形成されるので、この入力側IDT電極102では夫々の開口長Lに応じた強度の多数の弾性波が生じることとなる。これらの弾性波は、例えば出力側IDT電極103に向かって伝搬していくが、弾性波の発生するタップの位置と出力側IDT電極103例えば当該出力側IDT電極103の左端との距離が各々の弾性波によって異なる。そのため、入力側IDT電極102の右端で発生した弾性波が初めに出力側IDT電極103に到達し、その後当該右端よりも左側で発生した弾性波が順次出力側IDT電極103に到達していくこととなる。
【0006】
そして、これらの弾性波が出力側IDT電極103において電気信号に変換されるので、時間の経過と共に連続的に強度の変化する信号(時間応答)が取得される。そのためこの時間応答は、図16(b)の右側に示すように、入力側IDT電極102の左端から右端までの開口長Lに対応する振幅強度を持つ波形となる。このように、入力側IDT電極102では、各々の開口長Lを変化させることによって電極指105に重み付けして、所望の振幅強度の時間応答が得られるようにしている。尚、出力側IDT電極103では、入力側IDT電極102から伝搬してきた弾性波のうち、一部が受信されて電気信号に変換され、残りの弾性波が当該出力側IDT電極103にて反射して入力側IDT電極102に戻っていくこととなる。そして、入力側IDT電極102に戻された弾性波は、再度入力側IDT電極102にて反射して出力側IDT電極103に伝搬していき、出力側IDT電極103においてその一部が受信されて電気信号に変換され、残りが入力側IDT電極102に向かって反射される。こうして弾性波は、出力側IDT電極103にて全てのエネルギーが電気信号に変換されるか、あるいは電極102、103を介して圧電基板101の端部側に伝搬してダンパー106において吸収されるまで、入力側IDT電極102と出力側IDT電極103との間において反射を繰り返すこととなる。
【0007】
そして、図16(b)の左側に示すように、この時間応答をフーリエ変換することにより、特定の周波数領域が取り出された周波数応答が得られる。この時、入力側IDT電極102における各々のローブの重み付け値によって、出力側IDT電極103にて取り出される周波数の振幅強度(フィルタ100の挿入損失)が変わることになる。一方、所定のしきい値よりも重み付け値が小さくなる程、つまり例えば入力側IDT電極102の端部側に向かう程、その領域にて励振される弾性波は、周波数の振幅強度へ及ぼす影響よりも、帯域内での平坦度(図16中の「C」)及び減衰特性(図16中「D」)に及ぼす影響が大きくなっていくことになる。
【0008】
このようなフィルタ100において、既述のように通過周波数帯域を広げるためには、一般的には例えばサイドローブSの数(タップの数)を多くする手法が採られる。しかし、上記のようにメインローブMからサイドローブSnに向かって最大開口長Lが徐々に小さくなっていることから、サイドローブSの数が多くなると、入力側IDT電極102の両端部における開口長Lが極めて小さくなる。そのため、図18(a)、(b)に示すように、弾性波は、例えば入力側IDT電極102の右端から出力されるとき、回折によって弾性波の伝搬方向に対して直交方向に大きく広がってしまう。また、例えば入力側IDT電極102の左端において発生した弾性波についても、当該入力側IDT電極102内を右側に向かって伝搬していく時に、同様に回折により弾性波の伝搬方向に対して直交方向に大きく広がってしまう。そして、この回折により出力側IDT電極103のバスバー104、104間の領域から例えば上下方向に外れた領域に弾性波が伝搬した場合には、受信されない弾性波が生じてエネルギーの損失となってしまう。その結果、図19に点線で示すように、回折がない場合(実線)と比べて、平坦度及び減衰特性が劣化してしまう。尚、既述のように、入力側IDT電極102の左側に向かうほど、出力側IDT電極103に至るまでの弾性波の伝搬距離が長くなるので、入力側IDT電極102の左端では右端よりも回折損が大きくなってしまう。
【0009】
一方、電極指105に重み付けを行う方法としては、上記のアポタイズ法以外にも、例えば図20(a)に示すように、例えば一方のバスバー104(この例では下側のバスバー104)から複数本の電極指105を連続的に形成することによって、弾性波が発生する間隔(位置)を調整するようにした間引き法が知られている。また、同図(b)に示すように、開口長Lが1/n(n:正数)となる位置にバスバー104と平行に伸びる浮き電極107を配置して、バスバー104、104間の領域である伝搬領域をn個の伝搬路であるトラックに分割すると共に、バスバー104と直交方向に伸びる電極指108をこの浮き電極107に形成して、各トラックにおいて電極指105(108)を互い違いとなるように配置することで発生する弾性波の振幅を1/n化するドッグレッグ法なども知られている。これらの方法であれば、既述のアポタイズ法よりも開口長Lを長くとることができるので、弾性波の振幅が小さくなるように重み付けを行った場合であっても弾性波の回折を抑えることができる。
【0010】
しかし、間引き法では電極指105の有無により重み付けを行っているので、アポタイズ法のように連続的に重み付けを行うことができず、重み付け量が離散的となってしまうため特性の表現力に欠ける。そのためこの方法だけでは通過周波数帯域の広帯域化や、通過周波数帯域における信号レベルの平坦性の向上、あるいは減衰特性の向上(選択性を高める)を図るには不向きである。また、ドッグレッグ法では伝搬領域の分割数(トラックの数)により重み付けを行っているので、同様に重み付け量が離散的となってしまう。更に、浮き電極107は外部(入力ポート、出力ポートあるいはアース)に接続されていないので、電極指105(108)の交差幅が同じであっても、電極指105及び電極指108間において励振される電界(k1)と、電極指108及び電極指108において励振される電界(k2)と、には僅かながらも差が生じてしまう。そのためこれらの電界により発生する弾性波同士の干渉を抑えるために、分割数の異なる領域間に例えば電極指105(108)を形成せずに、強制的に重み付け値をゼロとする隙間Kを設けることが好ましい。従って、多数の分割領域を形成すると、つまり重み付け量の異なる領域を多くすると、この隙間Kが多くなるので、図21に示すように、帯域内に不要なうねりが生じてしまう。
【0011】
以上の重み付け法は、図22に示すように一長一短があり、どの方法も既述の規格を満たすには不十分である。また、電極102、103の双方の電極指105に上記のいずれかの方法により重み付けを行う方法や、あるいは一方の電極102(103)のメインローブMに近い領域をアポタイズ法により重み付けし、サイドローブSnつまり電極102(103)の端部に近接する領域を間引き法により重み付けして回折損を抑える方法が知られているが、どちらの方法も既述の規格を満たすには不十分である。特許文献1〜6には、ドッグレッグ法などの重み付け法について記載されているが、上記の課題については検討されていない。
【0012】
【特許文献1】特開2004−320714
【特許文献2】特開昭56−132807
【特許文献3】特開平5−29874
【特許文献4】特開平5−183371
【特許文献5】特開平7−50548
【特許文献6】特開平10−303692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような事情に基づいて行われたものであり、その目的は、圧電基板上に設けた入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方の電極指に重み付けを行ったトランスバーサル型フィルタにおいて、この重み付けを行ったIDT電極から出力される弾性波の回折を抑えて、通過周波数帯域が広く、またこの通過周波数帯域における信号レベルの平坦性が高く、更に選択性が高い(減衰傾度が急峻である)トランスバーサル型フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のトランスバーサル型フィルタは、
多数本の電極指を備えた入力側IDT電極から伝搬する弾性波を多数本の電極指を備えた出力側IDT電極にて受信するように構成され、電極指間にて励振あるいは受信される弾性波の振幅の大きさが各々の電極指間で変化するように前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の電極指に重み付けを行ったトランスバーサル型フィルタにおいて、
入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方は、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ領域と、弾性波の伝搬方向において前記アポタイズ領域に隣接する領域の少なくとも一方に形成され、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画したドッグレッグ領域と、を備え、
前記複数の伝搬路の各々には、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ複合領域が形成されており、
前記アポタイズ領域は、電極指の重み付け量がこのアポタイズ方式により重み付けを行った入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方における最大値となるように交差幅が調整された少なくとも2本の電極指を含んでいることを特徴とする。
【0015】
前記アポタイズ領域は、前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、前記ドッグレッグ領域は、前記アポタイズ領域における弾性波の入力側及び出力側のうち少なくとも一方に接続されていることが好ましい。
前記アポタイズ領域は、弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するメインローブと、このメインローブの両側のいずれか一方の領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するサイドローブと、を備え、
前記サイドローブの中央における電極指の重み付け量は、前記メインローブの中央における電極指の重み付け量よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0016】
前記ドッグレッグ領域における前記アポタイズ領域の反対側の領域には、間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き領域が接続されていてもよいし、あるいはドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域が当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画され、当該伝搬路の各々において間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き複合領域が接続されていても良い。
前記アポタイズ領域と前記ドッグレッグ領域との間及び前記ドッグレッグ領域と前記間引き複合領域とにおいてドッグレッグ方式により区画された伝搬路の数が異なる領域間の境界には、電極指の重み付け量がゼロの領域が介設されていることが好ましい。
前記入力側IDT電極と前記出力側IDT電極との間には、当該入力側IDT電極と出力側IDT電極との間におけるカップリングを抑えるためのシールド電極が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のトランスバーサル型フィルタによれば、圧電基板上に形成した入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方において、電極指の重み付け量がこの電極における最大値となる領域にアポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ領域を形成すると共に、弾性波の伝搬方向において当該アポタイズ領域に隣接する領域の少なくとも一方には、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画したアポタイズ複合領域を形成し、更に各々の伝搬路では、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行っている。そのため、アポタイズ領域では、電極指の重み付けをきめ細かに連続的に行うことができ、またアポタイズ複合領域では、アポタイズ方式のみにより電極指に重み付けを行った場合よりも電極指同士の交差幅を大きく取ることができるので、電極指の重み付けをきめ細やかに連続的に行いながらも当該アポタイズ複合領域から出力される弾性波の回折を抑えることができる。そのため、フィルタ全体としては、出力信号が目的とする強度となるように当該フィルタを正確に設計でき、更に回折により失われる弾性波のエネルギーを小さく抑えることができるので、通過周波数帯域における信号レベルの平坦性を高めることができ、また信号の選択性(減衰特性)を高めることができる。
【0018】
また、このアポタイズ複合領域におけるアポタイズ領域の反対側の領域には、間引き方式により電極指の交差位置を間引いた間引き領域を形成しているので、電極指の交差幅を長く取ることができ、弾性波の回折を抑えることができる。更に、例えば上記のアポタイズ複合領域では、伝搬路の区画数を増やすことによって、また間引き領域では電極指の交差位置を間引くことによって、電極指同士の交差幅を長く取りながらも重み付け量を小さくすることができるので、電極指の本数を増やして弾性波が励振あるいは受信される電極指の交差領域を多く形成できる。そのため、弾性波の回折を抑えると共にフィルタの通過周波数帯域を広くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態であるトランスバーサル型フィルタについて、図1〜図6を参照して説明する。このトランスバーサル型フィルタは、圧電基板11の表面に当該圧電基板11の長手方向に離間して形成された入力側(送信側)IDT電極12と出力側(受信側)IDT電極13とを備えている。これらの電極12、13間には、電極12、13間におけるカップリングを抑えるためのシールド電極17が形成されている。このシールド電極17は、例えば金属が一面に形成された膜や、あるいは弾性波の伝搬方向に対して直交方向に伸びる多数本の電極指とこれらの電極指の両端を接続するための一対のバスバーとを備えたグレーティング電極などとして構成される。圧電基板11の長手方向の両端側における電極12、13の側方位置には、電極12、13を介して当該両端に伝搬してきた不要な弾性波を吸収するためのダンパー16a、16bが夫々配置されている。
【0020】
電極12、13は、夫々弾性波の伝搬方向に平行となるように形成された一対のバスバー14、14と、弾性波の伝搬方向に対して直交方向にこのバスバー14、14から交互に櫛歯状に伸び出す多数本の電極指15と、を備えている。この一対のバスバー14、14間の領域は、弾性波の伝搬領域をなす。この電極指15は、例えば2本ずつが組となって互い違いに配置されているが、後述の図2、図4、図6では一部図示を省略している。入力側IDT電極12では、一方のバスバー14は入力ポート21に接続され、他方のバスバー14は接地されている。出力側IDT電極13では、一方のバスバー14は出力ポート22に接続され、他方のバスバー14は接地されている。尚、図1においては、この電極指15を模式的に示している。
【0021】
入力側IDT電極12は、弾性波の伝搬方向に対して直交方向に概略的に3つの領域に区画されており、中央部にはアポタイズ領域31が形成され、このアポタイズ領域31の両側に隣接する領域には、このアポタイズ領域31を挟むようにドッグレッグ領域51、51が形成されている。図3に示すように、電極指15の交差幅を開口長Lとすると、このアポタイズ領域31は、図2に示すようにこの開口長Lが弾性波の伝搬方向(図1中右方向)に連続的に変化するように形成されている。また、一対のバスバー14、14からは、相対向するように電極指15、15が伸び出しており、この相対向する電極指15、15の先端部同士の間には、間隙Dが形成されている。そして、各々の電極指15、15間において、この間隙Dが同じ開口寸法となるように、一方のバスバー14から伸び出す電極指15の長さに応じて、他方のバスバー14から伸び出す電極指15の長さが調整されている。
【0022】
従って、入力側IDT電極12の中央領域では、多数の間隙Dにより概略楕円形状の図形が描かれていると言える。この概略楕円形状の領域をメインローブMと呼ぶこととすると、このメインローブMでは、このアポタイズ領域31の中心位置において開口長Lが当該アポタイズ領域31における最大値となり、その両側では開口長Lがほぼゼロとなるまで徐々に小さくなるように電極指15が配置されている。このメインローブMの両側には、同様に間隙Dが概略楕円状に配置された領域であるサイドローブSが例えば夫々複数個例えば4つずつ形成されており、これらのサイドローブSにおける開口長Lの最大値は、メインローブMから離れるにつれて、メインローブMの開口長Lの最大値から徐々に小さくなるように重み付けされている。
【0023】
尚、この図2においては、図を判別しやすくするためにバスバー14や電極指15の太さ、交差する一組の電極指15、15の本数などを簡略化して示しているが、実際には図3や図17、図20のように所定の幅を持ち、また2本の電極指15、15同士が一組となって交差している。また、この図2ではサイドローブSの数や位置、開口長Lなどについても模式的に示している。以下の図4、図6についても同様である。また、弾性波の伝搬方向において、各ローブ内では間隙Dが上下交互に順番に形成されているが、各ローブ間の境界ではこの順番を逆転させるために間隙Dを上下の一方に連続して2カ所配置することによって、隣接するローブ間において発生する弾性波の位相を反転させるようにしている。
【0024】
アポタイズ領域31の両側には、ドッグレッグ領域51、51が配置されており、このドッグレッグ領域51は、既述の図1に示すように、アポタイズ領域31に隣接するアポタイズ複合領域54、54と、このアポタイズ複合領域54、54の外側に形成された間引き複合領域55、55と、から構成されている。このドッグレッグ領域51は、バスバー14と平行となるように形成された浮き電極52によって、この例ではアポタイズ複合領域54及び間引き複合領域55のいずれについても弾性波の伝搬方向と平行方向に複数段例えば9段の伝搬路であるトラック50に区画されている。従って、各トラック50において発生する弾性波の最大振幅強度は、アポタイズ領域31において発生する弾性波の最大振幅強度の1/9となるように重み付けされていることになる。
【0025】
この浮き電極52には、図4に示すように、弾性波の伝搬方向に対して直交して上下方向に伸びる多数本の電極指53が接続されており、各トラック50においてバスバー14と浮き電極52との間あるいは浮き電極52、52同士の間で2本の電極指15(52)が組になり、これらの組が互い違いに櫛歯状に交差するように構成されている。このドッグレッグ領域51における電極指15(53)の幅や電極指15(53)、15(53)間の距離は、アポタイズ領域31と同様の寸法に設定されており、またバスバー14及び浮き電極52から相対向するように伸びる電極指15、53の先端部同士の間の間隙Dについてもアポタイズ領域31と同様の寸法に設定されている。
【0026】
このドッグレッグ領域51と既述のアポタイズ領域31とは、隣接するアポタイズ領域31の電極指15とドッグレッグ領域51の電極指15との間において発生する弾性波と、隣接するアポタイズ領域31の電極指15とドッグレッグ領域51の電極指53との間において発生する弾性波と、の干渉を抑えるために、第1の境界61において例えば2本分の電極指15(1タップ分)の寸法だけ離間して配置されている。つまり、この第1の境界61では、重み付け量がゼロに設定されていることになる。
【0027】
アポタイズ複合領域54には、浮き電極52により区画された各トラック50において、既述のアポタイズ領域31と同様に複数個例えば4つのサイドローブSが形成されている。このサイドローブSは、アポタイズ領域31から離れるにつれて、夫々のサイドローブSにおける最大開口長Lが徐々に小さくなるように配置されている。従って、このアポタイズ複合領域54は、浮き電極52によりドッグレッグ方式の重み付けがなされると共に、アポタイズ方式により重み付けがなされていることになる。また、このアポタイズ複合領域54における重み付け量は、後述するようにアポタイズ領域31から連続的に減少していくように設定されている。尚、この図4は、アポタイズ領域31の左側における上側のバスバー14近傍の入力側IDT電極12を拡大して示したものであり、浮き電極52により区画された各トラック50はいずれも同様に構成され、またアポタイズ領域31の右側についても当該左側と対称に構成されている。
【0028】
このアポタイズ複合領域54の側方位置には、第2の境界62を介して間引き複合領域55が配置されており、この間引き複合領域55は、浮き電極52により区画された各トラック50内において間引き法により重み付けがなされている。この間引き法は、具体的には例えば一方のバスバー14あるいは浮き電極52から連続的に同じ向きの電極指15(53)を配置することによって、つまり電極指15(53)、15(53)同士の交差する位置を間引いて弾性波の発生する位置を減らすことによって重み付けを行う方法であり、この例では入力側IDT電極12の端部に向かうにつれて弾性波の発生する位置が徐々に少なくなるように設定されている。また、この間引き複合領域55における開口長Lは、当該領域55において一定となっており、例えば間引き複合領域55に隣接するアポタイズ複合領域54における開口長Lとほぼ同じ値に設定されている。そのため、間引き複合領域55における開口長Lは、各トラック50内をアポタイズ方式により重み付けを行った場合よりも大きく設定されていることになる。
【0029】
また、この間引き複合領域55における重み付け量は、アポタイズ複合領域54から連続的に減少するように重み付け量が調整されており、そのため図5に示すように、この入力側IDT電極12では、メインローブMの中央において電極指15の重み付け量が当該電極12における最大値となり、このメインローブMから離れるにつれて各ローブの中央の電極指15の重み付け量が徐々に小さくなるように多数のサイドローブSが形成されていると言える。尚、境界61、62やドッグレッグ領域51においても、発生する弾性波の位相が反転するように、各ローブ間の境界における間隙Dの配置位置が調整されている。
この例では、メインローブMの中央における重み付け量を1とすると、アポタイズ複合領域54におけるアポタイズ領域31に隣接するサイドローブSの中央の重み付け量を0.124、間引き複合領域55におけるアポタイズ複合領域54に隣接するサイドローブSの中央の重み付け量を0.035としている。尚、この図5における楕円形状は、各ローブにおける重み付け量を模式的に示したものである。
【0030】
ここで、このように入力側IDT電極12にアポタイズ領域31、アポタイズ複合領域54及び間引き複合領域55といった重み付け方式の異なる複数の領域を形成するにあたって、夫々の領域54、55の大きさ(第1の境界61あるいは第2の境界62のメインローブMからの距離)や、夫々の領域54、55の重み付け量を以下のように設計している。この時、例えばアルミニウムなどの金属膜を圧電基板11上に一面に形成して、この金属膜の上にパターニングされたフォトレジストマスクを積層し、このマスクを介して金属膜をエッチングしてフィルタを形成する例において、当該フォトレジストマスクのパターンの設計方法について説明する。
【0031】
先ず、きめ細かな設計のできるアポタイズ方式によって入力側IDT電極12の全ての領域を重み付けした場合の各ローブの位置と夫々のローブの重み付け量とを検討する。そして、所定のしきい値よりも大きな重み付けの領域には、アポタイズ方式による重み付けを適用する。また、このしきい値よりも小さな重み付け量のサイドローブSからアポタイズ複合領域54を形成するようにして、また更に別のしきい値よりも小さなサイドローブSの位置から間引き複合領域55を形成するようにする。この時、各領域54、55における重み付け量は、初めにアポタイズ方式により検討した重み付け量と同じ重み付け量となるように、トラック50の分割数、アポタイズ複合領域54における各サイドローブSの最大開口長L及び間引き複合領域55における電極指15、53の間引き量を設定する。
【0032】
このような設計方法により形成したマスクを介して金属膜をエッチングすることによって、既述の図5に示すように、入力側IDT電極12における各ローブの重み付け量は、入力側IDT電極12の全ての領域をアポタイズ方式により重み付けを行った場合とほぼ同様に、メインローブMから連続的に徐々に小さくなるように設定されることになる。尚、これらのしきい値としては、例えばアポタイズ方式では回折の影響が大きくなる重み付け量や、あるいは通過周波数帯域において例えば信号レベルの平坦度や減衰特性などの特性値に与える影響が大きくなる重み付け量などに応じて、つまり求める周波数特性に応じて適宜設定される。上記の例では、このようなしきい値として既述のように0.124、0.035といった値を用いている。
【0033】
既述の出力側IDT電極13は正規型の電極であり、図6に示すように、一方のバスバー14から伸びる電極指15の先端部と他方のバスバー14とが近接するように開口長Lが設定され、またこの開口長Lが各電極指15において一定となるように構成されている。この出力側IDT電極13における開口長Lは、既述のメインローブMにおける最大開口長Lと同じ値であり、そのためこの電極13における間隙Dは、入力側IDT電極12の間隙Dと同じ長さに設定されている。
【0034】
次に、このトランスバーサル型フィルタにおいて電気信号が弾性波に変換され、再度電気信号として受信される様子について、以下に説明する。
先ず、入力ポート21に電気信号を入力すると、入力側IDT電極12の電極指15(53)、15(53)間の交差領域であるタップにおいて電界が生じて、この電界により圧電基板11が歪み、弾性波例えば表面弾性波(SAW(Surface Acoustic Wave))が生じる(励振される)。この入力側IDT電極12では、既述の図1〜図4に示すように、電極指15(53)、15(53)間の交差領域が多数箇所に形成されているので、図7(a)に示すように、弾性波の伝搬方向に対して多数の弾性波が発生する。
【0035】
また、これらの弾性波は、夫々の交差領域において励振されることから、アポタイズ領域31では夫々の電極指15、15間の開口長Lに応じて、連続的に励振強度が変化するように形成される。アポタイズ複合領域54においては、既述のようにドッグレッグ方式により重み付けされていることから、最大振幅強度が上記のアポタイズ領域31における最大振幅強度の1/9となっており、また更に各トラック50内がアポタイズ方式により重み付けされているため、当該1/9の振幅強度内において連続的に振幅強度が変化するように弾性波が形成される。また、間引き複合領域55においては、同様にドッグレッグ方式により重み付けされているので、最大振幅強度がアポタイズ領域31の1/9となり、また各トラック50ではこの領域55においても当該1/9の振幅強度内において間引き法により段階的に振幅強度が変化するように弾性波が形成される。この時、この領域55ではドッグレッグ方式及び間引き方式といったいずれも離散的な重み付け方式により重み付けされているので、この領域55における重み付け量は上記の領域31、54よりも僅かに離散的となる。
【0036】
以上のことから、入力側IDT電極12において生じる弾性波は、既述の図5に示した各ローブの重み付け量に応じた振幅強度となり、また既述のように各ローブ間では弾性波の位相が反転することから、図7(b)に示す弾性波が励振されることになる。尚、境界61では重み付け量をゼロとしており、当該境界61では弾性波が励振されないので、互いに干渉しあう波長の弾性波の生成が抑えられる。また、図7(a)における斜線は、模式的に示す弾性波を見やすくするためのものである。
【0037】
そして、これらの弾性波は、順次例えば図1中右側の出力側IDT電極13に向かって伝搬していくこととなる。アポタイズ複合領域54では、電極指15の重み付けをアポタイズ方式だけでなくドッグレッグ方式でも行っているので、回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していく。また、間引き複合領域55では、既述のように各トラック50において開口長Lがアポタイズ方式により重み付けを行った場合よりも大きく設定されているので、同様に回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していく。従って、既述の図7(a)に示すように、入力側IDT電極12の右端から出力される弾性波は、回折が抑えられた状態で出力側IDT電極13に向かって伝搬していく。
【0038】
出力側IDT電極13に弾性波が到達すると、当該出力側IDT電極13における電極指15、15間において電界が形成され、この電界に応じた大きさの電気信号が受信されることとなる。既述のように、夫々の弾性波の発生場所(タップの位置)と出力側IDT電極13例えば当該出力側IDT電極13の左端との距離が各々の弾性波によって異なるので、出力IDT電極13では、先ず入力側IDT電極12の右端にて発生した弾性波が受信され、その後当該右端の左側から発生した弾性波が順次受信されることとなる。従って、この出力側IDT電極13において受信される電気信号は、既述の図7(b)に示すように、時間の経過と共に各ローブの重み付け量に応じた振幅強度の波形となる。
【0039】
尚、出力側IDT電極13では、入力側IDT電極12から伝搬してきた弾性波のうち、一部が受信されて電気信号に変換され、残りの弾性波が当該出力側IDT電極13にて反射して入力側IDT電極12に戻っていくこととなる。そして、入力側IDT電極12に戻された弾性波は、再度入力側IDT電極12にて反射して出力側IDT電極13に伝搬していき、出力側IDT電極13においてその一部が受信されて電気信号に変換され、残りが入力側IDT電極12に向かって反射される。こうして弾性波は、出力側IDT電極13にて全てのエネルギーが電気信号に変換されるか、あるいは電極12、13を介して圧電基板11の端部側に伝搬してダンパー16a、16bにおいて吸収されるまで、入力側IDT電極12と出力側IDT電極13との間において反射を繰り返すこととなる。この時においても、入力側IDT電極12からは同様に回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していくこととなる。
【0040】
そして、出力側IDT電極13にて受信された時間応答がフーリエ変換されることによって、図8(a)、(b)に示す周波数応答が得られる。尚、この図8は、実際に本発明のトランスバーサル型フィルタにおいて得られた信号(太線)を示したものであり、従来の固定通信用のトランスバーサル型フィルタで得られる特性(細線)についても付記してある。この図8(a)は同図(b)の通過周波数帯域付近を拡大して示したものであり、この図8(a)から分かるように、従来のフィルタと比べて、通過周波数帯域の両端部では振幅強度が増加して、その結果帯域内での周波数特性の平坦度が向上していることが分かる。また、同図(b)に示すように、帯域の境界においては振幅強度の減衰勾配が急峻となり、また帯域外においては減衰量が大きくなっていることが分かる。また、本発明のフィルタにより得られた特性は、図9に示すように、デジタル放送中継局用のバンドパスフィルタの規格内に収まっていることが分かる。
【0041】
上述の実施の形態によれば、入力側IDT電極12において、出力信号の強度に影響を及ぼす領域である電極指15の重み付け量が最大値となる区域(メインローブM)を含む領域ではアポタイズ方式により開口長Lに重み付けを行っている。そのため、この領域31では電極指15の重み付けをきめ細かに連続的に行うことができるので、目的とする強度となるようにフィルタを正確に設計できる。
そして、このアポタイズ領域31に隣接する領域に、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を複数のトラック50に分割し、さらにこのトラック50内をアポタイズ方式により重み付けしたアポタイズ複合領域54を配置するようにしている。そのため、このアポタイズ複合領域54では、アポタイズ方式のみにより重み付けを行った場合よりも開口長Lを大きく取ることができるので、この領域54における弾性波の回折を抑えることができる。また、この領域54も出力信号の強度に影響を及ぼす領域であるため、アポタイズ方式により各トラック50内を重み付けすることにより、目的とする強度の信号となるようにフィルタを正確に設計できる。
【0042】
更に、このアポタイズ複合領域54の外側には間引き複合領域55を配置しており、この領域55ではドッグレッグ方式及び間引き方式といったいずれも離散的(連続的ではない)重み付け方式を採っているが、この領域55はメインローブMから大きく離れており、従って出力信号の強度に及ぼす影響は極めて小さく、一方弾性波の回折により通過周波数帯域における信号レベルの平坦性や減衰特性に及ぼす影響の方が遙かに大きい。従って、この領域55では重み付け量が離散的であっても開口長Lを大きく取ることによって、出力信号の強度への悪影響が極めて小さく抑えながらも、弾性波の回折を抑制できる。そのため、回折により失われる弾性波のエネルギーを小さく抑えることができるので、得られる通過周波数における信号レベルの平坦性を高めることができ、また周波数の選択性(減衰特性)を高めることができる。
【0043】
更にまた、アポタイズ複合領域54においてはトラック50の数を増やすことにより、また間引き複合領域55においてはトラック50の数を増やしたりあるいは交差する電極指15(53)同士の位置を間引いたりすることにより、開口長Lを長く取りながらも重み付け量を小さくすることができる。そのため、弾性波の回折損を増やすことなく入力側IDT電極12におけるサイドローブS(タップ)の数を増やすことができるので、フィルタの通過周波数帯域を広げることができる。
【0044】
また、ドッグレッグ領域51においては各トラック50内をアポタイズ方式あるいは間引き方式により更に重み付けしているので、ドッグレッグ方式のみにより重み付けした場合と比較して、例えばアポタイズ領域31に近接する位置から入力側IDT電極12の端部位置に亘ってトラック50の分割数を増やさなくとも良い。そのため、電極指15(53)を形成せずに重み付けをゼロとする境界(第1の境界61)の数を少なくできるので、既述の図21に示す帯域内におけるうねりを抑えることができる。
更に、このように入力側IDT電極12の重み付けを行うにあたり、既述のように、予めアポタイズ方式により重み付け量を設計しておき、この重み付け量と同じ重み付け量となるように各領域31、54、55のトラック50数、開口長L及び電極指15(53)の間引き量を調整している。そのため、従来のアポタイズ方式とほとんど同様に連続的な重み付けを行うことができる。
【0045】
各領域54、55の分割数は、9段以外にも複数段例えば2段以上であれば良い。また、ドッグレッグ領域51において、アポタイズ複合領域54及び間引き複合領域55における夫々の分割数を変えるようにしても良い。図10は、このような分割方法の一例を示しており、アポタイズ複合領域54を7段、間引き複合領域55を9段のトラック50に分割している。また、図11に示すように、アポタイズ複合領域54あるいは間引き複合領域55において複数の分割領域を設けるようにしても良い。尚、これらのようにトラック50の分割数を変更する場合には、分割数の異なる領域の境界63に2本(1タップ)分の電極指15を設けずに重み付け量をゼロとすることが好ましい。
【0046】
更に、既述のように、所望のフィルタ特性に応じて、各領域54、55の大きさ(第1の境界61、第2の境界62のメインローブMからの位置)を適宜変更するようにしても良い。また、上記の例ではアポタイズ領域31に複数のローブを配置するようにしたが、メインローブMだけを形成し、その両側にアポタイズ複合領域54を配置するようにしても良い。
【0047】
上記の例においては、間引き複合領域55では、ドッグレッグ方式及び間引き方式により重み付けを行うようにしたが、間引き方式のみにより重み付けを行った間引き領域としても良い。この場合であっても、開口長Lを大きくとりながら重み付け量を小さくすることができるので、弾性波の回折を抑えて上記の例と同様の効果を得ることができる。
また、ドッグレッグ領域51をアポタイズ複合領域54と間引き複合領域55とに分けるようにしたが、図12に示すように、アポタイズ複合領域54だけで構成するようにしても良い。この例においても、入力側IDT電極12の端部における開口長Lは、当該領域54をアポタイズ方式のみにより重み付けを行った場合よりも大きく取ることができるので、弾性波の回折を抑えることができる。
【0048】
また、上記の例ではメインローブMを中心として左右方向に対称となるように入力側IDT電極12を配置したが、例えば左右非対称の周波数特性のフィルタを構成する場合には、例えば各領域54、55のトラック50数やサイドローブSの数などについて、図13(a)に示すように、メインローブMの中心位置を対称軸として左右非対称に形成しても良い。この時、既述の図5に示す重み付け量は、メインローブMを軸として左右対称にしても良いし、非対称にしても良い。
【0049】
また、入力側IDT電極12の中心位置にメインローブMを配置して、更にこのメインローブMの中心位置で開口長Lが最大となるように電極指15を形成したが、この入力側IDT電極12においてメインローブMの位置を横方向にずらしても良い。更に、入力側IDT電極12の中央領域にアポタイズ領域31を形成したが、例えば横方向にずらして入力側IDT電極12の概略中央位置に形成しても良いし、あるいはこの入力側IDT電極12の端部にアポタイズ領域31に形成しても良い。つまり、本発明では、入力側IDT電極12において重み付け量が最も大きなメインローブMが形成された領域を含むようにアポタイズ領域31を形成すれば良い。
【0050】
また、各ローブM、Sについて、夫々の中央において開口長Lが最も大きくなるようにしたが、この最大開口長Lの位置を横方向にずらしても良い。更に、図13(b)に示すように、入力側IDT電極12の右側あるいは左側だけにドッグレッグ領域51を配置するようにしても良い。この場合でも、ドッグレック領域51を配置した領域から伝搬する弾性波は、回折が抑えられた状態で出力側IDT電極13に向かって進んでいくこととなる。
【0051】
更にまた、弾性波の伝搬方向と概略平行となるように各ローブSを配置したが、メインローブMから離れるにつれて上(下)方向に配置して概略V字形状としても良いし、あるいはメインローブMの右側の領域及び左側の領域のいずれについても弾性波の伝搬方向において例えば左側から右側に向かうにつれて上(下)側から徐々に下(上)側に配置して弾性波の伝搬方向に対して傾斜するようにしても良い。また、本発明を一方向性のフィルタに適用しても良い。
【0052】
また、出力側IDT電極13として正規型の電極を配置したが、ドッグレッグ型の電極あるいは間引き型の電極としても良い。更に、入力側IDT電極12に正規型の電極、ドッグレッグ型の電極あるいは間引き型の電極を配置し、上記の各例のように弾性波の回折が抑えられるように電極指に複合的に重み付けを行った本発明の電極を出力側IDT電極13として配置するようにしても良い。この場合には、入力側IDT電極12にて発生する弾性波は、先ず出力側IDT電極13の左端の電極指15(53)、15(53)間において受信され、次いで当該左端から右側の電極指15(53)、15(53)間において順次受信されていくので、重み付けにより弾性波の受信強度が時間の経過に応じて変わることになり、従って上記と同様の時間応答が得られる。そして、既述のように出力側IDT電極13では、入力側IDT電極12から伝搬してきた弾性波の一部が受信されて電気信号に変換され、残りの弾性波が入力側IDT電極12に向けて反射されるが、この出力側IDT電極13の右端及び左端の少なくとも一方には間引き複合領域55が配置されているので、回折が抑えられた状態で弾性波が伝搬していくことになる。
【0053】
更に、入力側IDT電極12及び出力側IDT電極13としてアポタイズ型あるいは既述のように複合的に重み付けを行った本発明の電極を用いる場合には、例えば図14に示すように、入力側IDT電極12と出力側IDT電極13とを電極指15の長さ分だけ縦方向(弾性波の伝搬方向に対して直交方向)にずらして、これらの入力側IDT電極12と出力側IDT電極13との間に例えば電極12、13の夫々の電極指15と平行に交差するように長く伸びる多数本の電極指からなるマルチストリップカプラ70を配置するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のトランスバーサル型フィルタの一例を示す概略平面図である。
【図2】上記のフィルタの入力側IDT電極におけるアポタイズ領域の一例を示す平面図である。
【図3】上記のフィルタの電極における電極指の配列パターンの一例を示す概略平面図である。
【図4】上記のフィルタのドッグレッグ領域の一例を拡大して示す平面図である。
【図5】上記のフィルタの入力側IDT電極における電極指の重み付け量の一例を示す模式図である。
【図6】上記のフィルタの出力側IDT電極の一例を示す平面図である。
【図7】上記のフィルタにおいて弾性波が伝搬していく様子を示す概略図である。
【図8】上記のフィルタにおいて得られた周波数特性の一例を示す特性図である。
【図9】上記のフィルタにおいて得られた周波数特性の一例を示す特性図である。
【図10】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図11】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図12】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図13】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図14】上記のフィルタの他の構成例を示す平面図である。
【図15】デジタル放送中継局用のバンドパスフィルタに求められる規格の一例を示す特性図である。
【図16】トランスバーサル型フィルタにおいて電気信号が受信される原理を概略的に示した模式図である。
【図17】トランスバーサル型フィルタにおける電極指の構成例を示す概略図である。
【図18】アポタイズ方式の電極における弾性波の回折現象を概略的に示す模式図である。
【図19】上記の弾性波の回折により悪化する周波数特性について説明する特性図である。
【図20】トランスバーサル型フィルタにおける電極指の構成例を示す概略図である。
【図21】通常のドッグレッグ方式の電極により得られる周波数特性の一例を示す特性図である。
【図22】電極指の重み付け方法の異なる電極において得られる特性の概要を示した概略図である。
【符号の説明】
【0055】
11 圧電基板
12 入力側IDT電極
13 出力側IDT電極
15 電極指
31 アポタイズ領域
50 トラック
51 ドッグレッグ領域
54 アポタイズ複合領域
55 間引き複合領域
L 開口長
M メインローブ
S サイドローブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の電極指を備えた入力側IDT電極から伝搬する弾性波を多数本の電極指を備えた出力側IDT電極にて受信するように構成され、電極指間にて励振あるいは受信される弾性波の振幅の大きさが各々の電極指間で変化するように前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の電極指に重み付けを行ったトランスバーサル型フィルタにおいて、
入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方は、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ領域と、弾性波の伝搬方向において前記アポタイズ領域に隣接する領域の少なくとも一方に形成され、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画したドッグレッグ領域と、を備え、
前記複数の伝搬路の各々には、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ複合領域が形成されており、
前記アポタイズ領域は、電極指の重み付け量がこのアポタイズ方式により重み付けを行った入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方における最大値となるように交差幅が調整された少なくとも2本の電極指を含んでいることを特徴とするトランスバーサル型フィルタ。
【請求項2】
前記アポタイズ領域は、前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、前記ドッグレッグ領域は、前記アポタイズ領域における弾性波の入力側及び出力側のうち少なくとも一方に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項3】
前記アポタイズ領域は、弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するメインローブと、このメインローブの両側のいずれか一方の領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するサイドローブと、を備え、
前記サイドローブの中央における電極指の重み付け量は、前記メインローブの中央における電極指の重み付け量よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項4】
前記ドッグレッグ領域における前記アポタイズ領域の反対側の領域には、間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き領域が接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項5】
前記ドッグレッグ領域における前記アポタイズ領域の反対側の領域には、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域が当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画され、当該伝搬路の各々において間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き複合領域が接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項6】
前記アポタイズ領域と前記ドッグレッグ領域との間及び前記ドッグレッグ領域と前記間引き複合領域とにおいてドッグレッグ方式により区画された伝搬路の数が異なる領域間の境界には、電極指の重み付け量がゼロの領域が介設されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項7】
前記入力側IDT電極と前記出力側IDT電極との間には、当該入力側IDT電極と出力側IDT電極との間におけるカップリングを抑えるためのシールド電極が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項1】
多数本の電極指を備えた入力側IDT電極から伝搬する弾性波を多数本の電極指を備えた出力側IDT電極にて受信するように構成され、電極指間にて励振あるいは受信される弾性波の振幅の大きさが各々の電極指間で変化するように前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の電極指に重み付けを行ったトランスバーサル型フィルタにおいて、
入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方は、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ領域と、弾性波の伝搬方向において前記アポタイズ領域に隣接する領域の少なくとも一方に形成され、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域を当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画したドッグレッグ領域と、を備え、
前記複数の伝搬路の各々には、アポタイズ方式により電極指の交差幅に重み付けを行ったアポタイズ複合領域が形成されており、
前記アポタイズ領域は、電極指の重み付け量がこのアポタイズ方式により重み付けを行った入力側IDT電極及び出力側IDT電極の少なくとも一方における最大値となるように交差幅が調整された少なくとも2本の電極指を含んでいることを特徴とするトランスバーサル型フィルタ。
【請求項2】
前記アポタイズ領域は、前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方の弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、前記ドッグレッグ領域は、前記アポタイズ領域における弾性波の入力側及び出力側のうち少なくとも一方に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項3】
前記アポタイズ領域は、弾性波の伝搬方向における中央領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するメインローブと、このメインローブの両側のいずれか一方の領域に形成され、電極指の重み付け量が中央から両側に向かってなだらかに減少するサイドローブと、を備え、
前記サイドローブの中央における電極指の重み付け量は、前記メインローブの中央における電極指の重み付け量よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項4】
前記ドッグレッグ領域における前記アポタイズ領域の反対側の領域には、間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き領域が接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項5】
前記ドッグレッグ領域における前記アポタイズ領域の反対側の領域には、ドッグレッグ方式により弾性波の伝搬領域が当該弾性波の伝搬方向と平行に複数の伝搬路に区画され、当該伝搬路の各々において間引き方式により電極指の交差位置が間引かれた間引き複合領域が接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項6】
前記アポタイズ領域と前記ドッグレッグ領域との間及び前記ドッグレッグ領域と前記間引き複合領域とにおいてドッグレッグ方式により区画された伝搬路の数が異なる領域間の境界には、電極指の重み付け量がゼロの領域が介設されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【請求項7】
前記入力側IDT電極と前記出力側IDT電極との間には、当該入力側IDT電極と出力側IDT電極との間におけるカップリングを抑えるためのシールド電極が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載のトランスバーサル型フィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図17】
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【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−10961(P2010−10961A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166431(P2008−166431)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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