説明

トランスフェクションマイクロアレイ

(a)疎水性エリアに囲まれた少なくとも1つの試料スポットエリアを含む基剤を用いること;
(b)試料分子が前記少なくとも1つの試料スポットエリアに適用され、それによって前記試料分子を前記試料スポットエリアの不連続な位置に置くこと;
(c)トランスフェクションすべき細胞を、基材に適用し、試料分子の前記細胞への進入に適する条件下でインキュベートすること;
(d)それによって少なくとも一部の前記試料分子が前記細胞に導入されること
:を含む、試料分子を細胞へ導入するトランスフェクション法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
たとえばsiRNAといった規定の試料分子の、細胞へのトランスフェクションを可能にする、疎水性光学細胞アレイの設計案が提示される。本発明は、細胞機能および特に遺伝子機能の高処理量分析に適する戦略を提供する。本発明の一態様は、目的の細胞表現型を生じるかまたは影響するものについて、試料分子の大きな組を迅速にスクリーニングするのに適する、トランスフェクションマイクロアレイを作製するための方法およびアレイを提供する。
【背景技術】
【0002】
従来の細胞アレイスクリーニング方法は、目的のsiRNAといった試料分子を含む、ガラス表面上にスポットされたキャリヤーを利用するかまたは、マイクロタイタープレートを用いる。基本的に、細胞RNAiスクリーニングに用いられる2つの従来のおよび一般的な「細胞アレイプレート」法がある:
【0003】
1つの方法は、ウェルを基礎とする標準的なマイクロタイタープレート(たとえば96または384ウェルマイクロタイタープレート)を用いる。この方法は、試料化合物の高処理量は実行可能でないという欠点がある。前記方法は、トランスフェクション試料の受容能力が相対的に低い(最大スポット数がウェル/プレートの量に限定される)。これらの方法はまた、相対的に多量の材料(たとえばsiRNAおよび細胞)を必要とする。さらに、個々のウェルを多数のプレート上で取り扱う必要があるため、特に大規模スクリーニング中に、均一性が低下する。
【0004】
たとえば、遺伝子23000個および1遺伝子当たり4個のsiRNAを用いる全ゲノムスクリーニングを利用者が実施したい場合、96ウェルプレート1枚当たり82個のsiRNA(各プレート上の対照)はたった1つの実験について1122枚の96ウェルプレートを結果として生じる。これは明らかに実施時間およびコストに関して短所である。また、保管室が提供されなければならない。
【0005】
しかし、適当な代替物が無いため、この形式は現在用いられるRNAiスクリーニングで幅広く使用される形式である。1000プレート以上を取り扱う作業負荷のため、RNAiスクリーニングは適当なサイズおよび設備を有する少数の研究室に限定される。
【0006】
別のトランスフェクション法は、(ガラス)スライド上の壁の無い標準アレイを用いる (たとえば非特許文献1および2、特許文献1)。この方法もまた、しかし、いくつかの短所を有する。懸濁細胞の使用が不可能であり、およびスポット上処理(たとえば以降の生化学試験のための細胞溶解)を実施する可能性はかなり限定される。さらに、側方拡散およびそのようにしての実験中の汚染を防ぐために核酸をスポット上に固定する必要がある(たとえばマトリクスまたはゼラチンを用いることによって)。たとえばsiRNAといった試料核酸のスポッティングは、遺伝子発現プロファイリング研究用のDNAマイクロアレイのために開発されたスポッティング装置を用いて実施される。そこで、DNAスポッティングは信頼性の高い実験のためにあまり頑健でないことが証明されている。いくつかの限定因子を挙げれば、たとえばスポットのサイズ、スポット形式およびガラススライドの純度が変動し、これらは限定のない因子として挙げられる。DNAスポッティングを基礎とするマイクロアレイの市場浸透は、これらの問題のために約50%からおよそ5%へ減少している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 02/0777264
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ジャウディン(Ziauddin)およびサバチニ(Sabatini),2001
【非特許文献2】ムース(Mousses)他,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
改良されたトランスフェクション法およびマイクロアレイトランスフェクションアレイ系を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、少なくとも下記の段階を含む、細胞へ試料分子を導入するトランスフェクション法によって解決される:
(a)疎水性エリアに囲まれた少なくとも1つの試料スポットエリアを含む基材を用いること;
(b)試料分子を前記少なくとも1つの試料スポットエリアに適用し、それによって前記試料分子を前記試料スポットエリアの不連続な位置に置くこと;
(c)トランスフェクションすべき細胞を基材に適用し、および試料分子の前記細胞への進入に適する条件下でインキュベートすること;
(d)それによって少なくとも一部の前記試料分子が前記細胞へ導入される。
【0011】
本発明の中核は、疎水性エリアに少なくとも一部が囲まれた試料スポットエリアを含む、トランスフェクションに適するマイクロアレイ基材の使用である。好ましくは、試料スポットエリアは、疎水性エリアによって完全に包含されおよびしたがって囲まれる。これは、たとえば試料スポットエリアの周りに疎水性の環を配置することによって達成されうる。しかし、好ましくは、濡らすことができおよびしたがって好ましくは親水性および/または親油性である試料スポットエリアを除いて、基本的に基材表面全体が疎水性である。
【0012】
それによって、試料スポットエリアを囲む疎水性エリアの存在のために、試料スポットエリアが互いに安全に隔離されている、壁の無い疎水性トランスフェクションアレイが作製される。標準的なトランスフェクションアレイと比較した場合、本発明に記載のトランスフェクションアレイは、試料スポットエリアの周囲の疎水性エリアのために、交差汚染のリスクが相当に低い。これらの性質は、溶液および細胞培地が隣接するエリアへ拡散するのを防ぎ、それによって交差汚染を回避する。各試料スポットエリアは、周囲の疎水性エリアによって他の試料スポットエリアから隔離されている自身の液体区画によって接触される。試料スポットエリア上に置かれた試料分子を載せたトランスフェクションアレイ基材は、有利に供給者によって提供でき、およびしたがって必要に応じて製造前でありうる。前記トランスフェクションアレイは、したがって、利用者が基本的にトランスフェクションすべき細胞を適用するだけでよく、すぐ使える製品として利用者へ提供されうる。
【0013】
試料スポットに置かれおよび通常その上で増殖するトランスフェクション細胞は、試料分子を取り込み、それによって試料スポットエリア上に局所化したトランスフェクション(トランスフェクションされた細胞のスポットを生じる。しかし、本発明に記載のトランスフェクションアレイによれば、細胞は、先行技術のトランスフェクションアレイについて知られるようには、基材表面全体に一面の細胞を生じない。代わりに、細胞は主に、試料スポットエリアの疎水性エリアの境界内に集中する。
【0014】
試料スポットエリア間の交差汚染の回避に関する長所の他に、本発明に記載のアレイトランスフェクション系の長所は、不連続なおよび分離した試料スポットエリアのためにスポット数を顕著に増加させうる点である。これらの性質は、非常に多数の試料から成るアレイの構築を可能にする。一実施形態によると、基材は少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも250、少なくとも500、少なくとも1,000、少なくとも5,000、少なくとも7,500、少なくとも10,000、少なくとも15,000、または少なくとも20,000個の試料スポットエリアを含む。好ましくは、親水性および/または親油性エリアは特定のパターンにしたがって基材上に配列される。そのようにして、たとえば、親水性および/または親油性試料スポットエリアが次いでたとえば機械によって連続試験に向けて容易に移されうる、ラスター、いわゆるアレイが、製造されうる。本発明に記載のトランスフェクションアレイはたとえば自動的に読み取りされうる。マイクロタイタープレート形式でプレート当たり最小384スポットを有することが好ましい。アレイのサイズに応じて、最大数千のスポット数(25,000およびさらにそれ以上)が一般的に可能である。マイクロタイタープレート(面積約120x80mm2)当たり望ましい25,000(以上)スポットについて、たとえば試料ピッチ620μmを与え、スポット直径約300μmを可能にする。
【0015】
本発明に記載のトランスフェクションアレイ法は、たとえば、自動処理としての多数の異なる試料分子のスクリーニングおよび特にHTS(高処理量スクリーニング)に有用である。
【0016】
はるかに少ない数の試料スポットについてさえ、本発明に記載のトランスフェクションアレイ設計は、調製処理を実施することができる試料位置の明瞭な空間的定義を可能にする。この機能は典型的には、テフロン(Teflon)コーティングといった従来の撥性表面とは異なる極度の撥液体性を必要とする。したがって、疎水性エリアはまた疎油性であることが、本発明によると好ましい。疎水性および疎油性を有する表面は、水によっても油性液体によっても濡らすことができない。
【0017】
疎水性および疎油性を有する表面は、本発明によると「超疎」または超疎性と称する。
【0018】
ウェルを基礎とするプレートと比較した本発明に記載の系の別の長所はまた、実験操作にピペット段階を使用する必要が低減されることである。これは、試料分子がアレイ基材の試料スポットエリアに予め固定または予め適用されて利用者へ提供されうるためである。利用者は、トランスフェクションすべき細胞を適用するだけでよく、ここで細胞は、疎水性および/または超疎性エリアの撥性のために、自動的に試料スポットエリア上に集中する。
【0019】
本発明に記載のトランスフェクション法はまた、懸濁細胞をスクリーニングする可能性を開く。試料スポットの厳密な分離はまた、必要に応じて同一プラットホーム上での異なる実験条件の使用を可能にする(たとえば異なるトランスフェクション試薬、細胞型、siRNA濃度といった試料分子、トランスフェクション剤、細胞培地など)。多様性は、したがって、顕著に増大する。
【0020】
好ましくは、前記試料スポットエリアだけが、アレイ上で濡らすことができる場所である。したがって、前記試料スポットエリアは親水性および/または親油性を有する。前記親水性および/または親油性エリアは、好ましくは水滴または油滴を置くことができるエリアである;すなわちたとえばピペットシステムによって親水性および/または親油性エリアと接触させられた水滴または油滴がそこに留まり、およびピペットシステムから離れるかまたは容易に離すことができる。好ましくは、親水性およびまたは親油性エリア上の体積10μlの水滴または油滴は接触角<120°、好ましくは<110°、特に好ましくは<90°を有し、および/またはこの滴の後退角は10°を上回る。
【0021】
試料スポットを囲むエリアは、試料調製中にアレイに適用される液体に対して極めて撥性である。これらのエリアはしたがって好ましくは超疎である。したがってアレイ全体がウェル無しマイクロアレイとして働き、試料区画は、その他の濡らすことができない環境における、濡らすことができるエリアとして定められる。
【0022】
超疎性非湿潤性環境で囲まれた濡らすことができる試料スポットエリアに置かれた試料材料の分布は、従来の疎水性表面と比較してはるかに均一であることもまた示されている。後者の場合には、乾燥試料スポットの付着材料の不均一性は主に、溶媒が蒸発する際のスポットの周縁と中心との間で異なる蒸発条件により、より多くの材料が周縁の付着を生じる。したがって、超疎周囲エリアは本発明との関連(context)で好ましい。
【0023】
さらに、スポット外のエリア上の試料の非特異的結合を、液体試料が一時的にそれらのエリアと接触するとしても、試料スポットを囲むエリアの極端な撥性は、最小化する。したがって、試料スポットエリア外のエリア上の、細胞培養培地の成分および試料分子の非特異的結合は最小限だけである。三相界面を有する超疎性表面は、液体−固体界面に捕捉された気体から成り、それによって真の液体−固体接触面積を幾何学的接触面積のわずかな割合に低減する。たとえば、接触角178°にて固体−液体の割合は幾何学的接触面積のわずか0.1%である。
【0024】
一実施形態によると、前記疎水性または超疎性エリアは、水に対して少なくとも140°、好ましくは少なくとも150°の接触角を示す。本発明の目的のための超疎性表面は、好ましくは表面上にある水滴および/または油滴の接触角が150°より大、好ましくは160°より大、および特に好ましい170°より大である。好ましくは、後退角は10°を超えない。後退角とは、体積10μlの静止した水滴および/または油滴が表面の傾斜のための重力が原因で動く際の、基本的に平面のしかし構造化された表面の傾斜の水平からの角度を意味する。そのような超疎性表面は、たとえば、参照により本開示に含まれおよび本発明の開示の一部と見なされる、WO98/23549、WO96/04123、WO96/21523、WO99/10323、WO00/39368、WO00/39239、WO00/39051、WO00/38845およびWO96/34697で開示される。
【0025】
本発明に記載のトランスフェクションアレイを作製するために使用されうる前記疎水性および/または超疎性エリアは、好ましくはナノ構造を示す。好ましくは、前記疎水性または超疎性エリアは、各フーリエ成分の位相周波数fおよび積分範囲log(f1/μm-1)=−3およびlog(f2/μm-1)=3間で計算される積分S(log(f))=a(f)・fで表されるその振幅a(f)が少なくとも0.3である表面構造を有し、および疎水性または特に疎油性材料製であるかまたは耐久性疎水性および/または特に耐久性疎油性材料でコーティングされている。そのような超疎性表面は、参照により本開示に含まれおよび本発明の開示の一部と見なされる、WO00/39249に記載される。
【0026】
親水性および/または親油性試料スポットエリアは、好ましくはレーザーによる前記撥性層の層厚みの少なくとも一部の化学的および/または機械的除去を通じて疎水性または超疎性表面上に作製されうる。それらはまた、疎水性または超疎性層上に沈着されうる。好ましくは、親水性および/または親油性エリアは、しかし、疎水性または超疎性表面の最上分子層のみの修飾によって形成される。好ましくは、この修飾は機械的および/または熱アブレ−ションであり、それによって好ましくは疎水性または超疎性の最大で1分子層が除去される。さらに、修飾は好ましくは超疎性表面の熱的または化学的変化を通じて進行し、しかし、その除去を含まず、たとえば、参照により本開示に含まれるDE 199 10 809に記載される通りである。この修飾によって、超疎性表面はその層厚みに関して著しく変化しないままである。別の好ましい一実施形態では、親水性および/または親油性エリアは超疎水性表面上の一部に可逆的に作製されうる。
【0027】
超疎性材料を作製するために使用されうる好ましい超疎性材料は、たとえばナノ構造化ZrO2またはAl23層である。それらはスパッタ成膜によって基材に適用することができる。ナノ構造層上部の表面化学として、SAM分子が使用されうる。適当な例はたとえばフッ化シラン、フッ化リン酸およびホスホン酸塩、フッ化ヨウ化物およびフッ化脂肪酸である。好ましくは、表面化学は少なくとも、異なる長さを有する(分子スケールで混合された)鎖の2成分混合単層である。一実施形態によると、表面はC10:C12フッ化アルキル鎖の混合単層を構成する。別の一実施形態によると、C10:C20フッ化アルキル鎖の混合単層が用いられる。フッ化アルキル鎖はらせん状立体配座を含みおよび硬性である。フッ化単層の長所は、それらが相分離しないことである。
【0028】
試料スポットエリアは好ましくは、SAMを含むかまたはSAMから成り、SAMは単成分または多成分でありうる。それらはまた、フィブロネクチンといったペプチドでコーティングされうる。親水性表面化学は、好ましくは、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピル−トリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシルトリエトキシ−シランおよび3−(フェニルアミノ)プロピルトリメチルジエトキシシランから成る群から選択される1つの化合物を含む。好ましくは、化合物は3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3メルカプトプロピル−トリメトキシシランおよび3−(フェニルアミノ)プロピルトリメチルジエトキシシランから選択され、なぜならこれらの化合物はHeLaS3、MCF−7、HEK293、HUVEC、CaCO−2およびHepG2といった幅広い細胞の細胞増殖を可能にするために適することが証明されているためである。細胞は良好に接着した。
【0029】
トランスフェクション反応のために試料スポットエリアに適用されうる試料分子の例は、下記を含むがそれらに限定されない:
−核酸、その下位にDNA、RNAおよびDNA/RNAハイブリッド、ここで核酸は1本鎖または2本鎖および直鎖または環状でありうる;
−ペプチド
−タンパク質
−糖
−脂質
−多糖
−有機分子、特に低分子。
【0030】
試料分子は、たとえばピンツールを用いるスポッティング、分注ウェルプレートといった分注技術、またはインクジェット技術といった任意の適当な方法によってアレイに適用されうる。
【0031】
RNA分子および特にsiRNAまたはshRNA分子といったRNAi媒介化合物は、本発明のトランスフェクションアレイのための特に好ましい試料分子である。siRNAといったRNAi媒介化合物のライブラリを本発明に記載のトランスフェクションアレイに適用することによって、前記siRNAによって媒介される作用のスクリーニングおよびしたがって分析が顕著に改善される。本発明のアレイによればゲノムライブラリを与えることさえ可能である。
【0032】
siRNA分子(2ヌクレオチドの末端3’オーバーハングを有する長さ21〜30ヌクレオチド(nt)を有する2本鎖(すなわち二重鎖)分子干渉短RNA)を、哺乳類細胞において転写後に遺伝子発現をサイレンシングするために使用できることが知られている(エルバシル(Elbashir)他,Nature 2001,411:494−498)。適当なトランスフェクション試薬とのsiRNAの複合体化およびこれらの複合体の細胞への適用は、siRNA複合体のエンドサイトーシス取り込みを結果として生じる。siRNAは最終的に細胞質へ放出され、およびsiRNA分子は認識されおよびRISC(RNA誘導サイレンシング複合体)と呼ばれる複合体に組み込まれる。RISC関連ATP依存性ヘリカーゼ活性は二重鎖をほどき、および2本の鎖の両方が独立して標的mRNA認識を導くことを可能にする(ツシュル(Tuschl),MoI.Interv.2002,2:158−167)。
【0033】
RISC複合体は次いで、siRNA配列が相補的であるmRNA内の領域を認識し、およびmRNA中のこの領域と結合する。mRNAは次いでヌクレオチド鎖切断によって、RISC複合体が結合しているその位置で切断され、最後の段階では、ヌクレオチド鎖切断によって切断されたmRNAがエキソヌクレアーゼによって分解される。siRNA媒介性遺伝子サイレンシング(RNA干渉、RNAi)のこの機構は、真核細胞培養においてノックダウン実験を実施するために広く用いられている。
【0034】
すべてのsiRNA二重鎖がmRNAレベルを同程度にノックダウンできるわけではないこともまた知られている。一部のsiRNAは初期レベルを約10〜20%へ、別の一部は中程度のレベル(20〜70%)へノックダウンでき、およびさらに別のものはmRNAレベルを測定可能なレベルに全くノックダウンできない。siRNAの設計については一定の設計規則(いわゆる「ツシュル(Tuschl)則」)が存在するが、しかしこれらの規則にしたがって設計されたsiRNAさえ上記の変動性を示す。この観察の理由は知られていない。二重鎖の熱力学的安定性もまた、siRNAがサイレンシングを誘導する効率に関与しうると考えられている。この変動性、および「良い」siRNAさえすべてのmRNAを完全にノックアウトできないという事実は、siRNA技術の重大な短所である(ゴング(Gong)D.,Trensd.Biotechnol.2004,22:451−454;クホロバ(Khvorova)A,Cell 2003,115:209−216; シュワルツ(Schwarz)D.S.,Cell 2003,115:199−208;レイノルズ(Reynolds)A.,Nat.Biotechnol.2004,22:326−330)。細胞への取り込みの促進によるかまたはより強力な細胞内siRNA二重鎖による、より強力な遺伝子サイレンシングの検索は、したがってsiRNA研究の分野の中心である。
【0035】
さらに、siRNA分子がサイレンシングを誘導する能力を高めるため、およびまたそれらの安定性を高めるために、いくつかの化学修飾が試験されていることが知られている。siRNA分子またはオリゴヌクレオチド(ODN)の化学修飾は、これらの分子のヌクレアーゼ安定性、または標的mRNAとのそれらの親和性に影響する(マノハラン(Manoharan)M.,Curr.Opin.in Chem.Biol.2004,8:570−579)。血清ヌクレアーゼに対する安定性を改善するためおよび/または標的との親和性を改善するための、さまざまな種類の修飾が記載されている。a.ハロゲン、アミン、−O−アルキル、−O−アリル、アルキル基での2’−OH修飾;b.オルトエステル、リン酸エステル、ホスホジエステル、ホスホトリエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホナート、ホスホノチオエート、ホスホロチオトリエステル、ホスホロアミデート、ホスホロチオアミデート、ホスフィナートおよびボロネート結合、エーテル、アリルエーテル、アリルスルフィド、ホルムアセタール/ケタールスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルファマート、スルホンアミド、シロキサン、アミド、陽イオン性アルキルポリアミン、グアニジル、モルホリノ、ヘキソース糖またはアミド含有結合、または2から4原子結合といったヌクレオチド間結合;c.接合体(conjugate)、たとえばアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖、糖質、脂質、ポリマー、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、およびその組み合わせ、コレステロール接合体を用いる受動輸送が記載される。
【0036】
通常の(非保護)siRNAは、細胞培地中および血清といった体液中で、低い安定性を示しうる。これは、トランスフェクションまたは全身配送中のsiRNAの分解の危険を結果として生じる。したがって、分解のために、効率的なサイレンシングのための細胞におけるより少ないsiRNAが残り、および分解された(短縮された)siRNAは非特異的塩基対形成のために、細胞中で標的効果を損なうことを導きうる。siRNAの細胞へのトランスフェクションは、標的効果を損なうことを導きうることが示されている。具体的には、多量のsiRNAはPKR活性化に繋がりうる(PKR:プロテインキナーゼR;2本鎖RNA活性化プロテインキナーゼ)。また、RISC中のアンチセンス鎖でなくセンス鎖の認識および組み込みもまた、標的効果を損なうことを導きうる。
【0037】
したがって、本発明によると、分解に対して保護されている改良されたsiRNA分子を試料分子として使用することが好ましく、そのためsiRNA分子の遺伝子サイレンシング活性、およびしたがってトランスフェクション効率が改善され、および効率的な遺伝子サイレンシングおよびしたがってトランスフェクションの成功に必要なsiRNA分子の量が減少する。
【0038】
化学的に修飾されたsiRNA分子は、培養培地中でのこれらの分子の安定性を高める。siRNAの分解は効果的に抑制され、および完全長siRNAはより活性でありおよび標的効果を損なうことを導きえない。さらに、siRNAの感度が向上する。本発明に記載のトランスフェクション法において高レベルの遺伝子サイレンシングを達成するためには、より少ない量のsiRNAが必要である。siRNAはRISCに正しい方向で組み込むことができ、そのためアンチセンス鎖だけがサイレンシングを誘導でき、それはより高い特異性に繋がる。加えて、センス鎖は修飾のために不活性化され、結果として標的効果が損なうことを消去する。本発明に記載のsiRNAは、より効率的なsiRNA二重鎖の巻き戻し、および標的mRNAとのハイブリダイゼーションを可能にし、改善された標的結合親和性に繋がる。さらに、siRNAのトランスフェクション効率が向上する。
【0039】
siRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方のよく定義された位置に下記の基および結合の組み合わせを有する、化学的に修飾されたsiRNA分子は、siRNAの安定性、感度および特異性を改善する:
(a)2’−デオキシ修飾ヌクレオチド;
(b)2’−メトキシ修飾ヌクレオチド;
(c)3’→5’または2’→5’ホルムアセタール結合によって結合した2個のヌクレオシド;
(d)−0−CH2−O−(CEb)2−OH基によって2’位で修飾されたヌクレオチド;および
(e)3’位([rho]osition)に−O−CH2−O−(CH2)7−CH3基を含むヌクレオチド。
【0040】
本発明に記載のトランスフェクション法において試料分子として使用されうるsiRNAのさらなる有利な性質は、参照により本開示に含まれるWO2006/102970に記載される。
【0041】
細胞にトランスフェクションすべき試料分子は、試料スポットエリアと共有結合によってまたは非共有結合的に結合/付着している。試料分子、たとえばsiRNA分子といった核酸は、試料スポットエリアへの適用の前に合成されうる。アレイ表面への適用は、優先的に試料分子含有溶液の単純なスポッティングによって実施され、任意に次いで乾燥過程が実施される。代替的に、スポッティングはさまざまな表面化学および/または化学キャリヤー材料またはマトリクスによって支持されうる。
【0042】
試料スポットエリアへの試料分子の結合/付着を促進するために、試料分子はたとえば適当なマトリクスまたはポリマーと混合されうる。マトリクスのそれぞれのポリマーはまた、試料分子が添加される前に予め適用されうる。一実施形態によると、前記試料分子は試料スポットエリアにてマトリクスに埋め込まれている。これらのマトリクスは合成または天然でよく、および、試料スポットエリアへの試料分子の結合を促進するために、ゼラチン、アガーまたはアガロース、シラン、ポリDリジン、(ポリ)アクリルアミド、抗体またはその断片、合成(ポリ)ペプチド、脂質、細胞タンパク質の粗調製物または精製調製物、糖または多糖、細胞外マトリクス成分、たとえばコラーゲン、フィブロネクチン、マトリゲル、無機イオン、他のポリマーから選択されうる。
【0043】
また、別の試薬、たとえば細胞毒性低減試薬、細胞結合試薬、細胞増殖試薬、細胞刺激試薬または細胞阻害試薬、または特定の細胞を培養するための化合物/培地もまた、試料スポットエリアに適用または添加されうる。
【0044】
試料スポットエリアは、細胞増殖を促進するためにトランスフェクション細胞がそこに接着するように設計されうる。一実施形態によると、試料スポットエリアへの細胞の接着を促進するために、少なくとも1つの前記試料スポットエリアの表面特性が修飾される。したがって、適用/トランスフェクションアッセイの具体的必要性に応じて、スポットエリアは細胞結合および増殖を増大させるように修飾されうる。これは、たとえば、ジルコニウムアルコキシド複合体を用いた(マレイミド)−アルコキシカルボキシレート中間体を介した細胞誘引性ペプチド誘導体RGDCの結合を可能にするための、スポットの表面に曝露された少量のホスホン酸によって達成されうる。そのようなRGDCで修飾された表面は、骨芽細胞結合および増殖に有効であることが示されている(M.P.ダナヒー(Danahy),M.J.アバルトロニ(Avaltroni),K.S.ミドウッド(Midwood),J.E.シュワルツバウエル(Schwarzbauer),J.シュワルツ(Schwartz);『α−ω−ジホスホン酸のTi上の自己組織化単層は完全なまたは空間的に制御された表面誘導体化を可能にする』(Self−assembled Monolayers of alpha−omega−Diphosphonic Acids on Ti Enable Complete or Spatially Controlled Surface Derivatization);Langmuir 20,5333 (2004))。
【0045】
特に試料分子としての核酸について使用されうるin situ合成プロトコルによると、siRNA核酸といった核酸は、たとえばフォトリソグラフィー法またはヌクレオチドのインクジェット印刷によって、スライドの表面上に直接合成されうる。これは別個のスポッティング段階を回避する。
【0046】
試料分子取り込みを支持するために、いくつかのトランスフェクション法がsiRNA/NAといった試料分子の細胞への進入または取り込みを円滑化するために使用されうる。優先的に、これはリポフェクション法、デンドリマー法、または細胞膜透過ペプチド法といった化学的方法によって達成される。しかし、それはまた、物理的方法、たとえばエレクトロポレーション法、ショットガン法、またはレーザー支援トランスフェクション法によって、または生物学的方法、たとえばウイルスベクターまたは細菌ベクターまたは孔形成毒素によって実施されうる。トランスフェクション試薬またはデリバリー試薬は、好ましくは核酸、タンパク質、ペプチド、糖、多糖、有機化合物、および他の分子といった試料分子を細胞へ導入できる陽イオン性化合物である。好ましい実施形態は、陽イオン性オリゴマー、たとえば低分子量ポリエチレンイミン(PEI)、低分子量ポリ(L−リジン)(PLL)、低分子量キトサン、または低分子量デンドリマーを用いる。それらのモジュール組成によると、試薬は下記の通り分類されうる:脂質、ポリマー、脂質−ポリマーおよび/またはそれらの組み合わせおよび/またはそれらの誘導体であって、細胞−標的化または細胞内−標的化部および/または膜不安定化成分、およびデリバリーエンハンサーを含む。また、エレクトロポレーション、膜透過性ペプチドおよびナノ粒子が使用されうる。
【0047】
好ましくは、スポットおよびスポット周囲エリアの表面化学は、pH7.5±1にて安定である。さらに、チップ/アレイ全体が水系細胞培養培地中で5日間37℃にて安定であることが好ましい。さらに、試料と接触する材料は細胞毒性でない。
【0048】
特に、試料スポットは、下記の化合物のうち少なくとも1つを含む水系トランスフェクション試薬の適用と互換性がある:脂質、たとえばDOPE(ジオレイルホスファチジルエタノールアミン);DOTMA(臭化1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−トリメチルアンモニウム);DMRIE(臭化1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウム);DDAB(臭化ジメチルジオクチルデシル(dimethyldioctyldeyl)アンモニウム);DOTAP(1,2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン);DC−CHOL((3β[N´,N´−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]−コレステロール);DOGS(5−カルボキシスペルミルグリシンジオクタデシルアミド);DPPES(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン−6−カルボキシスペルミルアミド);ピリジニウム両親媒性物質、たとえば塩化N−メチル−4−(ジオレイル)メチルピリジニウム。好ましい試薬はキアゲン社(Qiagen)が販売するRNAifect(登録商標)およびHiPerfect(登録商標)である。
【0049】
一実施形態によると、トランスフェクション試薬は、細胞が基材に適用される前に、または細胞と一緒にトランスフェクション試薬/細胞混合物の形で、基材に適用される。この実施形態は、利用者が、トランスフェクションすべき細胞に最も良く作用する、自分で選択するトランスフェクション剤を使用しうるという長所を有する。別の一実施形態によると、トランスフェクション試薬は試料分子と一緒に試料スポットエリア上に適用され、およびしたがってまた試料スポットエリアにそれぞれ予め固定され予め適用される。この実施形態は、利用者は細胞をアレイに適用するだけでよいという長所がある。さらに、この実施形態によって、試料分子の安定化が達成されうる。
【0050】
非常に好ましい一実施形態によると、少なくとも前記試料スポットエリアは光学的に透明または半透明である。しかし、また基材全体も光学的に透明または半透明でありうる。この性質は、試料スポットエリアが透過光顕微鏡法といった光学分析法に適するよう設計されるという特別の長所を有する。したがって、少なくとも1つ試料スポットエリア、または少なくとも2つまたは実質的にすべての試料スポットエリアさえも、光学的に透明または半透明であり、および光学顕微鏡および蛍光リーダーによる結果の分析を可能にするために従来の顕微鏡スライドと同様の光学特性を提供する。この点で、アレイ形式が透過光学顕微鏡および蛍光リーダーといった機器と適合するよう設計されることもまた有利である。これはまた自動処理を可能にする。
【0051】
記載されたスクリーニング処理を実施できるために、明らかに、各試料スポットは異なる試料分子を含みうる。たとえば本発明に記載のトランスフェクションアレイ基材の各試料スポットエリアは、異なるsiRNAの細胞に対する影響を分析するために、異なるsiRNAを含みうる。別の一実施形態によると、少なくとも2つの異なる種類の試料分子が1つのトランスフェクション反応に用いられる。この一実施形態は、組み合わせトランスフェクションアッセイが実行可能であるという長所を有する。一実施形態によると、さまざまな種類の試料分子がすべて試料スポットエリアへ適用されおよびしたがってそれぞれ予め固定され予め沈着されている。たとえばsiRNAといった核酸を、試料スポットエリア上に別のsiRNAまたは医薬、たとえば低分子といった、別の試料分子と一緒に適用することができる。2つの異なる試料分子が1つの試料スポットエリアにしたがってそれぞれ予め固定され予め沈着されている。たとえば低分子といった医薬を用いる後者の実施形態は目的の遺伝子発現に対して、適用されるsiRNAが完全なサイレンシング作用を提供しない場合に特に有利である。siRNAを、同一経路に影響する別の試料分子と組み合わせることによって、改善されたかまたは完全な干渉およびしたがってサイレンシング作用が達成されうる(たとえば モーガン・ラッペ(Morgan−Lappe)他,Oncogene(2006)25,1340−1348;ギウリアノ(Giuliano)他,Journal of Biomolecular Screeneng 9(7);2004を参照)。また、異なる試料分子の交差相互作用もそれによって分析されうる。この実施形態はまた、より低濃度の前記siRNA(第1の試料分子の例として)および前記第2の試料分子を使用することを可能にする。この性質は、化合物のうち一方の阻害作用が、前記化合物の毒性濃度でしか達成されない場合に特に有利である。
【0052】
前記第2の分子を予め試料スポットエリアへ適用する代替として、前記第2の試料分子はまた、細胞を基材へ適用する前または後に適用することができ、または細胞と予め混合されうる。この実施形態は、適当な第2の試料分子を利用者が自由に選択できるという長所を有する。
【0053】
別の一実施形態によると、試料分子の細胞活性に対する影響は、本発明に記載のトランスフェクション方法を用いることによって観察されうる。一実施形態では、トランスフェクションスクリーニングを用いて、寄生虫またはたとえばウイルスといった感染病原体が目的細胞に適用された際の、増殖不能または生存不能について分析できる。この場合、選択は細胞が感染した際にだけ必須である、細胞内のウイルス機能または寄生虫機能の一部の側面に特異的に必須である遺伝子を標的とするノックアウトを対象とする。一部のウイルス感染は、生存因子(たとえばCrmA、p35)の誘導を結果として生じるため、おそらく少なくとも一部の細胞機能はウイルス、寄生虫増殖中に異なりおよび潜在的に選択的に必要とされる。したがって、ウイルスサイクルをより詳細に研究することが可能である。一実施形態によると、siRNAといった試料分子を試料スポットエリア上に含むトランスフェクション基材が用いられる。細胞は次いでトランスフェクション基材に置き、およびトランスフェクションが起こるようにインキュベートする。作用を与えるのに十分長く、試料分子が細胞にトランスフェクションされた後、ウイルスを細胞に適用する。この設定は、たとえばウイルスサイクル、およびウイルス増殖サイクルに対する特定のメッセンジャーの影響をより詳細に研究することを可能にする。
【0054】
本発明の教示によるとトランスフェクションすべき細胞は任意の性質のものでよい。例は、真核細胞、たとえば哺乳類細胞(たとえば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウシ、またはマウス細胞)、細菌、昆虫または植物細胞である。真核細胞は好ましくは哺乳類細胞である。哺乳類細胞は、分裂細胞または非分裂細胞でよく、および細胞は形質転換細胞または初代細胞でよい。哺乳類細胞は体細胞または幹細胞でよい。試料分子が移送されている細胞の検出は、試料分子自体、その産物、その標的分子、触媒された産物、または試料分子によって調節される産物、または細胞の表現型に対する作用を検出することによって実施されうる。細胞は、試料分子を有する表面上へ、十分な密度で、および試料分子の細胞への導入/進入に適した条件下で、および作用を与えるのに必要な細胞成分との相互作用を可能にするように、平板播種(配置)される。
【0055】
細胞は好ましくは試料分子が試料スポットエリアに既に配置された際に適用される。たとえば輸送台を用いる液体の並列移動、スタンプ技術およびスポッティング技術といった、任意の適用様式を用いることができる。
【0056】
レシピエント細胞(トランスフェクションによって導入された前記試料分子を含む細胞)に対する作用の検出は、目的タンパク質(たとえば、トランスフェクションされたDNAによってコードされると考えられるタンパク質、または導入された試料分子の作用を介して発現または機能が変化するタンパク質)と結合する蛍光標識された抗体を用いて細胞に対する作用を測定する免疫蛍光といった、さまざまな公知の方法を用いて実施されうる。試料分子取り込みの結果および多くの実施形態では、導入された分子の発現(少なくとも転写)、または試料分子によって媒介される作用(たとえばsiRNAの場合には干渉)を検出するためにさまざまな方法が使用できる。一般的な意味で、アッセイは試料分子が、試料分子を欠く同一細胞と比較して細胞の表現型に変化を与えることができるかどうかを判定する手段を提供する。そのような変化は、細胞形態の変化(膜ラフリング、有糸分裂速度、細胞死の速度、細胞死の機構、色素取り込みなど)といった細胞全体レベルで検出されうる。別の実施形態では、細胞の表現型の変化があれば、2、3例を挙げると、特定タンパク質(たとえば選択可能なまたは検出可能なマーカー)のレベル、またはmRNAまたは二次メッセンジャーのレベルの検出といった、より集中した方法によって検出される。細胞の表現型の変化はまた、レポーター遺伝子(β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質、β−ラクタマーゼ、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)を分析すること、イムノアッセイ、色素(たとえばDAPI、カルコフロール)での染色を用いて酵素を分析すること、電気的変化を分析すること、細胞形状の変化を特徴づけること、タンパク質立体配座の変化を試験すること、および細胞数を計数することによっても測定されうる。他の目的変化は、化学アッセイ、光学顕微鏡法、走査型電子顕微鏡法、透過型電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、共焦点顕微鏡法、画像再構成顕微鏡法、スキャナ、オートラジオグラフィー、光散乱、光吸収、NMR、PET、パッチクランプ、カロリメトリー、質量分析法、表面プラズモン共鳴法、時間分解蛍光法といった方法によって検出されうる。データは単一または複数の時点で回収でき、および適当なソフトウェアによって分析されうる。
【0057】
したがって、試料分子デリバリーの結果は、さまざまな方法によって分析されうる。さらに、トランスフェクションされた細胞は、特に標準的なアレイ形式(上記参照)が用いられる場合は、直接さらに処理されうる。たとえば配送された試料分子が遺伝子発現を調節できる場合、標的遺伝子発現レベルはまた、オートラジオグラフィー、in situハイブリダイゼーション、およびin situPCRといった方法によって測定されうる。同定/処理方法は、配送された試料分子、その発現産物、それによって調節される標的、および/または試料分子のデリバリーの結果として生じる最終産物の性質に依存する。
【0058】
試料分子を加えそれぞれ接着するのに用いることができる任意の適当な表面が、本発明の目的に使用されうる。試料分子の結合は、共有結合でも非共有結合でもよい。たとえば、表面は、ガラス、プラスチック(たとえばポリテトラフルオロエチレン、ポリ二フッ化ビニリデン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン)、シリコン、金属、(たとえば金)、膜(たとえばニトロセルロース、メチルセルロース、PTFEまたはセルロース)、生物材料および無機物(たとえばヒドロキシアパタイト、グラファイト)でありうる。好ましい実施形態によると、表面はスライド(ガラスまたはポリ−Lリジン被覆スライド)である。上記で外接する通り、透明または半透明材料を使用するのが特に好ましく、ここで少なくとも1つ、それぞれすべての試料スポットが光学的に透明または半透明である。適当な透明または半透明材料は、たとえばホウケイ酸または半透明金属である。
【0059】
一実施形態によると、総散乱損失≦7%、好ましくは≦3%、特に好ましくは≦1%である、光散乱の低減された、超疎性表面を有する透明または半透明基材が用いられる。前記基材は好ましくは水に関して接触角が少なくとも140°好ましくは少なくとも150°および転がり角(roll−off angle)≦20°、好ましくは≦10である。それぞれの低減された光散乱表面は、たとえば、参照により本開示に含まれるUS2006/0159934、特にパラグラフ24から26に記載される。この文書はまた、それぞれ超疎性表面を作製するのに適したナノ構造化された表面を得るための適当なコーティングを記載する。たとえばジルコニウム、チタン、アルミニウム、およびタンタルといった金属の、酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、セレン化物製のコーティング。酸化ジルコニウム層といった酸化物が特に好ましい。前記層を適用するための材料および可能な工程についての詳細はまた、参照により本開示に含まれるUS2006/0159934、パラグラフ89から150に記載される。
【0060】
試料スポットエリア周囲の前記エリアの疎水性および/または超疎性を改善するために、基材に疎水性または疎油性撥化剤の追加のコーティングを提供することが好ましい。
【0061】
疎水性または疎油性撥化剤は通常は、任意の分子量の表面活性化合物である。これらの化合物は、たとえば辞典『表面活性剤ヨーロッパ、ヨーロッパで得られる表面活性剤要覧』("Surfactants Europa,A Dictionary of Surface Active Agents available in Europe),ゴードン・L・ホリス(Gordon L.Hollis)編,英国化学会(Royal Society of Chemistry),ケンブリッジ(Cambridge),1995に挙げられるもののような、好ましくは陽イオン性、陰イオン性、両性または非イオン性表面活性化合物である。
【0062】
陰イオン性撥化剤の例を挙げると:アルキル硫酸塩、エーテル硫酸塩、エーテルカルボン酸塩、リン酸エステル、スルホスクシネート、スルホスクシネートアミド、パラフィンスルホナート、オレフィンスルホナート、サルコシナート、イソチオナート、タウレートおよびリグニン化合物である。
【0063】
陽イオン性撥化剤の例を挙げると、:四級アルキルアンモニウム化合物およびイミダゾールである。
【0064】
両性撥化剤の例は、ベタイン、グリシナート、プロピオナートおよびイミダゾールである。
【0065】
非イオン性撥化剤は、たとえば:アルコキシエート、アルキルアミド、エステル、アミンオキサイドおよびアルキルポリグリコシドである。たとえば脂肪アルコール、脂肪アミン、脂肪酸、フェノール、アルキルフェノール、スチレンフェノール縮合物のようなアリールアルキルフェノール、カルボン酸アミドおよび樹脂酸といった、アルキル化に適した化合物とのアルキレンオキサイドの転換産物もまた可能である。
【0066】
特に好ましいのは、水素原子の1から100%、特に好ましくは60から95%がフッ素原子で置換された撥化剤である。例を挙げると、パーフルオロアルキル硫酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸塩、パーフルオロアルキルホスフィン酸塩、パーフルオロアルコキシシラン、パーフルオロクロロシラン、パーフルオロアルコキシクロロシラン、パーフルオロチオールおよびパーフルオロカルボン酸である。
【0067】
適当な撥化剤のさらなる詳細は、参照により本開示に含まれるUS2006/0159934、パラグラフ108から112に開示される。
【0068】
また本発明で提供されるのは、試料スポットエリアが疎水性エリアで囲まれておりおよび前記試料スポットエリアが試料分子を含み、それによって前記試料分子が前記試料スポットエリアの不連続な位置に配置されるアレイ形式に配列されたいくつかの試料スポットエリアを含む基材を含む、試料分子を細胞へ導入するためのトランスフェクションアレイ基材である。
【0069】
各トランスフェクションアレイの好ましい性質および使用は、上記のトランスフェクション法に関連して詳細にすでに概説した。そこにまた、トランスフェクションアレイ基材の異なるエリアに適する表面性質も詳細に記載され、およびしたがってここで繰り返されない。我々は、トランスフェクションアレイにもまた適用される上記の考察を参照する。上記で概説する通り、siRNAは、好ましくはアレイ基材に適用される試料分子として用いられる。スクリーニング法を可能にするために、好ましくは少なくとも一部の前記試料スポットエリアは、異なる種類の試料分子を含む。光学分析を可能にするために、透明または半透明基材が好ましい。しかし、一部の実施形態については、試料スポットエリアを透明または半透明にすれば十分でありうる。
【0070】
利用者による容易な取扱を可能にするために、マイクロアレイおよびその機能規格は、100℃まで安定であり、滅菌可能であり、および凍結可能(少なくとも−20℃)であることが好ましい。
【0071】
本発明の詳細を、単に例として提示する下記の図面に概説する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】好ましい一実施形態による本発明に記載の提案されるマイクロアレイの断面の模式図.
【図2】疎水性および/または超疎性エリアを作製するのに適したナノ構造化ZrO2層の走査型電子顕微鏡像。θは約155°である(水、SAMパーフルオロデカントリエトキシシラン)。
【図3】一実施形態に記載の表面化学の詳細。
【図4】本発明の好ましい一実施形態に記載の製造工程のフローチャート。
【図5】siRNAといった試料分子を含む試料滴が適用される、本発明に記載のアレイの設計の略図を示す。見られる通り、試料滴は超疎性表面上を濡らすことができるスポットによって閉じ込められている。
【図6】本発明の好ましい一実施形態に記載のアレイの寸法の設計略図。
【図7】本発明の別の好ましい一実施形態に記載のアレイの寸法の設計略図。
【図8a】図6および7にも示される通りの、本発明の好ましい一実施形態に記載の試料スポットでの表面化学を示す。
【図8b】図6および7にも示される通りの、本発明の好ましい一実施形態に記載の試料スポット外の表面化学を示す。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図1に示すマイクロアレイの異なる層は下記の番号で示される:
(1)基材、好ましくはガラス
(2)n−ZrO2層、約100nm
(3)切断可能フッ化化合物の自己組織化単層、好ましくは約1nm
(4)固定化試料分子、好ましくはRNA(siRNA)のスポット
【0074】
図1の実施形態に記載の基材(1)は、個別のパートとして使用および処理される最終寸法の従来のフロートガラス基材である。材料選択は、基材の望まれる厚み、およびバックグラウンド蛍光といった光学特性に応じて通常作製される。すべてのさまざまなガラス材料が同一の方法で以降の処理に使用されうる。ガラス材料は、トランスフェクション結果の光学的検査を可能にするため、光学特性および特に透明性のために、本発明に記載の好ましい基材材料である。
【0075】
基材(1)の上に、ナノ構造化酸化ジルコニウム層(2)が適用される。この例でn−ZrO2層は、ボロフロートガラス基材(1)上に590Kにて反応性電子ビーム蒸着によって成膜された。同様の表面トポグラフィーがDCスパッタ成膜によって基材温度300Kにて得られ、水接触角最大155°を与える。前記層(2)は、適当な単層(3)によって化学的に疎油化される際、超疎性を示すトポグラフィーを与える。
【0076】
反応性電子ビーム蒸着によって、または反応性DCスパッタ成膜によって、成膜されたn−ZrO2層(2)は、静止水接触角最大155°を与える。ZrO2は、特に長期曝露中の、酸性および塩基性環境の両方における安定性のため、ナノ構造化層に好ましい材料と見なされる。対照的に、一部の実施形態に適するにもかかわらず、スパッタ成膜Al23は光学品質において、両性のために、蛍光DNAアレイに十分でないという試験結果が得られている。
【0077】
第2の層として、自己組織化フッ化物単層(3)がナノ構造化層(2)に適用される。それは2つの機能を有する。表面化学に密に充填したフッ化鎖を提供し、n−ZrO2表面トポグラフィーと組み合わせて超疎水性表面特性を与える。さらに、単層のフッ化鎖はUV切断可能であるため、空間的および化学的の両方で、定義された方法で表面化学を変化させることができ、必要なまたは望ましい機能(たとえば試料分子の結合、トランスフェクション細胞の接着)を有する試料スポットエリアを与える。
【0078】
非スポットエリアAの単層の構造を図3に示す。ここで、置換トリクロロシランといったシランが吸着されており、ポリシロキサン単層を与える。これらの化学吸着された部分は、試料スポットおよび非スポットエリアの両方に存在する示されている一実施形態に記載される。
【0079】
酸化物表面上の高品質シロキサン単層は、再現可能な方法で作製するのが困難と一般的に考えられている。これは主に吸着溶液中の非常に少量の水の不完全な調節のためであると示唆されている(B.M.シルバーマン(Silverman),K.A.ウィークハウス(Wieghaus),J.シュワルツ(Schwartz);『重要なチタン合金上におけるシロキサンとホスホン酸塩の単層の性質の比較』(Comparative Properties of Siloxane vs Phosphonate Monolayers on A Key Titanium Alloy); Langmuir 21,225 (2005))。ここで工程安定性の大きな改善が、規定の水圧の存在下で二酸化ケイ素を基材として用いて、トリクロロシランおよびジメチルシランの共蒸着によって得られている(A.ウルマン(Ulman);『自己組織化単層の形成および構造』(Formation and Structure of Self−Assembled Monolayers);Chem.Rev.96,1533 (1996))。
【0080】
しかし、有機シリコン誘導体をホスホン酸塩で置き換えることが、その優れた加水分解安定性(H.シフト(Schift),S.ザクサー(Saxer),A.パーク(Park),C.パデステ(Padeste),U.ピーレス(Pieles),J.ゴブレヒト(Gobrecht);『ナノインプリントスタンプのためのシランの調節共蒸着』(Controlled co−evaporation of silanes for nanoimprint stamps);Nanotechnology 16,171 (2005)),および有望なより良好な工程安定性のために有利でありうる。
【0081】
疎水性または超疎性エリアの脱濡れ性質は、自己組織化フッ化単層(3)から得られる分子の粗さによってさらに最適化されうる。たとえば1.8Åしか高さ差のない、無作為に混合されたパーフルオロカーボン鎖は、すでに極めて粗い表面を示す場合、表面張力の低い液体について表面上の撥性を顕著に低下させる。非常に高い空間的頻度を有するそのような「追加の」粗さは、ナノスケールのトポグラフィー上に組み立てることができ、それによって脱濡れ性質を高める。
【0082】
そのような最適化は、パーフルオロアルキル鎖(図3AでRfで示す)を用いて実施されうる。ここで、異なる長さの鎖が分子スケールで混合される際に脱濡れを顕著に増大させうる。それらは、異なる長さのパーフルオロ酸塩化物として導入されうる。必要な中間体はさまざまな鎖長(C4−C18)で市販されている。
【0083】
試料スポットエリア(4)は、紫外光によって開始されるフッ化単層の調節された化学修飾によって、示される通り形成されうる。フォトリソグラフィー・マイクロパターン化のための異なる化学構造を用いるさまざまなそのような化合物が公知であり、たとえば(J.D.ジェヤプラカシュ(Jeyaprakash),S.サムエル(Samuel),J.リューエ(Ruehe);『マイクロ構造化フッ化表面の作製のための容易な光化学表面修飾』(A Facile Photochemical Surface Modification Technique fort he Generation of Microstructured Fluorinated Surfaces); Langmuir 20,10080 (2004);K.リー(Lee),F.パン(Pan),G.T.キャロル(Caroll),N,J.ツロ(Turro),J.T.コバースタイン(Koberstein);『表面の直接光化学修飾および化学マイクロパターン化のためのフォトリソグラフィー法』(Photolithographic Technique for Direct Photochemical Modification and Chemical Micropatterning of Surfaces);Langmuir 20,1812(2004))を参照のこと。記載の例では、パーフルオロエステルがこの目的のために提案される。イソプレン−スチレン・ブロック共重合体にパーフルオロ側鎖として存在するそのようなエステル部は、約340℃にて選択的に熱によって切断でき、熱的に可能であるペリ環状レトロ・エン反応によって、対応するオレフィンを与えることが示されている(A.ベーカー(Boeker),K.ライス(Reihs),J.ワング(Wang),R.ステッドラー(Stadler),C.オベル(Ober);『選択的に熱的切断可能なフッ化側鎖ブロック共重合体:表面化学および表面特性』(Selectively Thermally Cleavable Fluorinated Side Chain Block Copolymers: Surface Chemistry and Surface Properties); Macromolecules 33,1310 (2000))。カルボン酸およびアルファン酸部分といった他の構造が、同様の温度で切断可能である(A.ベーカー(Boeker),T.ヘルウェク(Herweg),K.ライス(Reihs);『フッ化側鎖の熱切断によるポリマー表面の選択的変化』(Selective Alteration of Polymer Surfaces by Thermal Cleavage of Fluorinated Side Chains);Macromolecules 35,4929(2002))。この熱処理はUV照射によって同様に開始されうる。
【0084】
試料スポットエリアの限定的化学官能化に使用されうる選択的分解の結果として、オレフィンBが生じる(図3参照)。
【0085】
シロキサン単層は、CH3(CH2n鎖から成るアルキルシロキサン自己組織化単層が真空で約740Kまで鎖長(n=4、8、18)にかかわらず安定であるため、そのような条件下で安定である可能性が高い(G.J.クルト(Kluth),M.M.スン(Sung),R.マボージアン(Maboudian);『アルキルシロキサン自己組織化単層の酸化 Si(100) 表面上での熱挙動』(Thermal Behavior of Alkylsiloxane Self−Assembled Monolayers on the Oxidized Si(100)Surface);Langmuir 13,3775(1997))。
【0086】
オレフィンB(図3参照)をエポキシド化して、共有結合によってだけでなく、たとえばsiRNA含有溶液といった試料分子をスポット上で乾燥することによってまたは代替的に試料分子をポリマーまたはマトリクス化合物内に埋め込むことによって非共有結合によっても、RNA Cの固定化に用いられる表面を与えることができる。試料分子を表面上に固定するためのこれらの工程についてはさまざまな手順が存在する。
【0087】
用途の特異的な必要事項に応じて、試料スポットエリアは、細胞結合および増殖を高めるように修飾されうる。これは、たとえば、Zrアルコキシド複合体を用いた(マレイミド)−アルコキシカルボキシレート中間体を介した細胞誘引性ペプチド誘導体RGDCの結合を可能にするための、スポットの表面に曝露された少量のホスホン酸によって達成されうる。そのようなRGDCで修飾された表面は、骨芽細胞結合および増殖に有効であることが示されている(上記参照)。
【0088】
マイクロアレイ設計について概説される製造工程の概観を図4に示す。
【0089】
図6は好ましい一実施形態に記載のアレイの寸法の模式図を示す。アレイ面積は127.76mmx85.48mmである。アレイの厚さは約1.1mm(標準)であるが、しかし近い距離を必要とする浸漬対物レンズに用いる場合は0.145mmである。スポットの総数は200x136=27,200スポットである。各行および列の最外側のスポットは好ましくは試料に使用されない。試料スポットの数は192x128=24,576スポットである。スポット直径は0.300mmであり;スポット間距離(中心から中心)は0.5625mmである。スポットの密度は、27,200スポットが112.238mmx76.238mm=318スポット/cm2上にある。試料体積は液体適用の方法に依存する。通常は、使用される体積は7nL未満である(半球)。典型的な体積は約4nL(高さ約100μm)であり、スポット直径は約300μmである。
【0090】
図7は別の好ましい一実施形態に記載のアレイの寸法の模式図を示す。アレイ面積は127.76mmx85.48mmである。アレイの厚さは約1.1mm(標準)であるが、しかし近い距離を必要とする浸漬対物レンズに用いる場合は0.145mmである。スポットの総数は100x68=6,800スポットである。各行および列の最外側の2スポットは、エッジ効果を回避するために、試料には使用されない。試料スポットの数は96x64=6,144スポットである。スポット直径は0.600mmであり;スポット間距離(中心から中心)は1.125mmである。スポットの密度は、6,800スポットが111.975mmx75.975mm=80スポット/cm2上にある。試料体積は液体添加の方法に依存する。通常は、使用される体積は55nL未満である(半球)。典型的な体積は約35nL(高さ約200μm)であり、スポット直径は約600μmである。
【0091】
図8aは試料スポットでの表面化学を示す。最も好ましい構造は、3−アミノプロピル−トリエトキシルシラン(1)または3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン(2)から成り、(2)が非常に好ましい。単層はCVD処理によって100℃〜150℃にて調製される。
【0092】
図8bは試料スポット外の表面化学を示す。構造は1H,1H,2H,2Hパーフルオロデシルジメチルクロロシラン(n=7)の化学吸着由来の単層から成ることができる。好ましくは、構造は、n=7およびn=19の等モル組成物の1H,1H,2H,2Hパーフルオロアルキルジメチルクロロシランの二元混合単層から成る。単層はCVD処理によって100℃〜150℃にて調製されうる。
【0093】
図面および好ましい実施形態の上記の説明によって示される通り、アレイは次の機能規格を有する。試料分子は試料スポットに固定化され、好ましくは試料スポットに化学的に結合している。細胞が試料スポットに適用および接着される。試料スポットの周囲の疎水性または超疎性エリアのために、試料スポットの外側のエリアで核酸および細胞培養培地成分の非特異的結合が最小限起こる。技術的規格に関して、アレイの試料スポットは、透過光顕微鏡法での使用のために設計され、すなわち、スポットは光学的に透明または半透明であり、および従来の顕微鏡スライドと同様の光学特性を提供する。試料プレートは好ましくは、透過光学顕微鏡および蛍光リーダーといった機器に適合している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)疎水性エリアに囲まれた少なくとも1つの試料スポットエリアを含む基剤を用いること;
(b)試料分子が前記少なくとも1つの試料スポットエリアに適用され、それによって前記試料分子を前記試料スポットエリアの不連続な位置に置くこと;
(c)トランスフェクションすべき細胞を、試料分子の前記細胞への進入に適する条件下で基材に適用すること;
(d)それによって少なくとも一部の前記試料分子が前記細胞に導入されること
:を含む、試料分子を細胞へ導入するトランスフェクション法。
【請求項2】
前記試料スポットエリアが試料分子によって濡らされうる、請求項1に記載のトランスフェクション法。
【請求項3】
前記試料スポットエリアが親水性および/または親油性を有する、請求項2に記載のトランスフェクション法。
【請求項4】
前記疎水性エリアが疎水性および/または疎油性、好ましくは超疎性である、請求項1から3のうち1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項5】
前記超疎性エリアが水に対して接触角が少なくとも140°、好ましくは少なくとも150°を示す、請求項4に記載のトランスフェクション法。
【請求項6】
前記超疎性エリアがナノ構造化されている、請求項4または5に記載のトランスフェクション法。
【請求項7】
前記超疎性エリアが、各フーリエ成分の位相周波数fおよび積分範囲log(f1/μm-1)=−3およびlog(f2/μm-1)=3間で計算される積分S(log(f))=a(f)・fで表されるその振幅a(f)が少なくとも0.3である表面構造を有し、および疎水性または特に疎油性材料製であるかまたは耐久性疎水性および/または特に耐久性疎油性材料でコーティングされている、請求項4から6のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項8】
前記試料分子が前記試料スポットエリアと共有結合によってまたは非共有結合によって結合している、請求項1から7のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項9】
前記試料分子がマトリクスに埋め込まれている、請求項1から8のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項10】
トランスフェクション試薬が基材に適用されるかまたはトランスフェクションすべき細胞と混合される、請求項1から9のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項11】
少なくとも前記試料スポットエリアが光学的に透明または半透明である、請求項1から10のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの試料スポットエリアの表面特性が、トランスフェクション細胞の試料スポットエリアへの接着を促進するように修飾されている、請求項1から11のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項13】
前記基材が、アレイ形式に配列されているいくつかの試料スポットエリアを含む、請求項1から12のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項14】
少なくとも2つの異なる種類の試料分子が、少なくとも1つの試料スポットエリアに適用される、請求項1から13のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項15】
前記試料分子が核酸、ペプチド、低分子から成る群から選択され、および好ましくはRNA分子、より好ましくはRNAi媒介化合物またはsiRNA分子である、請求項1から14のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクション法。
【請求項16】
試料スポットエリアが疎水性エリアで囲まれ、および試料スポットエリアがトランスフェクションアッセイに有用な試料分子を含み、それによって該試料分子が試料スポットエリアの不連続な位置に配置される、アレイ形式に配置されているいくつかの試料スポットエリアを含む基材を含む、試料分子を細胞へ導入するためのトランスフェクションアレイ。
【請求項17】
siRNAが試料分子として用いられる、請求項16に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項18】
試料スポットエリアが親水性および/または親油性を有する、請求項16または17に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項19】
試料スポットエリアの表面化学が、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピル−トリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルトリエトキシ−シランおよび3−(フェニルアミノ)プロピルトリメチルジエトキシシランから成る群から選択される化合物を含み、好ましくは該化合物が3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリメトキシシランおよび3−(フェニルアミノ)プロピルトリメチルジエトキシシランから選択される、請求項16から18のうちの1項に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項20】
前記疎水性エリアが疎水性および/または疎油性,好ましくは超疎性である、請求項16から19のうちの1項に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項21】
前記超疎性エリアがナノ構造化されており、および水に関して接触角が少なくとも140°、好ましくは少なくとも150°を示す、請求項20に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項22】
前記超疎性エリアが、各フーリエ成分の位相周波数fおよび積分範囲log(f1/μm-1)=−3およびlog(f2/μm-1)=3間で計算される積分S(log(f))=a(f)・fで表されるその振幅a(f)が少なくとも0.3である表面構造を有し、および疎水性または特に疎油性材料製であるかまたは耐久性疎水性および/または特に耐久性疎油性材料でコーティングされている、請求項20または21に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項23】
少なくとも前記試料スポットエリアが光学的に透明または半透明である、請求項16から22のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項24】
少なくとも一部の試料スポットエリアが細胞接着促進剤を含む、請求項16から22のうち少なくとも1項に記載のトランスフェクションアレイ。
【請求項25】
請求項1から15に記載のトランスフェクション法における、請求項16から24のうちの1項に記載のトランスフェクションアレイの使用。
【請求項26】
ゲノムスクリーニングアッセイを実施するための、請求項25に記載のトランスフェクションアレイの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【公表番号】特表2010−512155(P2010−512155A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540661(P2009−540661)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010961
【国際公開番号】WO2008/071430
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TEFLON
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】