説明

トランスミッション用転がり軸受およびトランスミッション

【課題】トランスミッション内での使用に際し、鋼材に特殊材料を用いることなく水素脆化に起因する早期剥離を効果的に抑制できるトランスミッション用転がり軸受およびトランスミッションを提供する。
【解決手段】トランスミッション内に配置され、入力軸、出力軸、またはこれらの回転に伴い回転する部材を回転自在に支持するトランスミッション用転がり軸受1であって、鋼材からなる内輪2および外輪3の少なくとも一つの軌道輪に所定の表面処理が施され、該軌道輪の転走面表面から 4 nm 以内の所定深さの層において、(Crの原子数)/(Feの原子数+Crの原子数)で求められるCr存在比が 0.50 以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCVTなどのトランスミッションに使用される転がり軸受に関し、特に軸受転走面に生じる特異性のある剥離現象を防止して長寿命化を図ったトランスミッション用転がり軸受、およびこの軸受を用いるトランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションは、エンジンの動力を最適なトルク、回転数に変速して車軸に伝達する装置であり、そこに使用される軸受は大きな負荷容量や高い回転性能、特に変速に伴う回転数の急激な変化などに追随できるように設計されている。さらに、トランスミッションケース内の異物を軸受が噛み込むため、密封シール付きや特殊熱処理を施すことによって異物の侵入を防ぎ耐久性向上を図っている。なお、密封シール付きとはいえ、該密封シールは異物侵入防止に主眼をおいており、流体の浸入を止める機能を持たせていないことから、トランスミッション内に充填されたオイルが密封シールの隙間から軸受内部に浸入する。オイルが軸受内部に浸入してくるまでは、予め軸受内部に封入したグリースで潤滑を行なう。
【0003】
近年において、CVT(無段変速機)のようにトランスミッションオイルとして粘度の低い潤滑油が使われる環境下で、疲労や異物噛み込みによる剥離よりもはるかに早期に剥離が軸受軌道輪に発生する事例(脆性剥離)が見られるようになった。脆性剥離した箇所の表層には、従来の剥離では見られなかったミクロ組織的に変化した無数の亀裂が走っていることが特徴である。この脆性剥離は、軌道輪と転動体の間ですべりが生じ、軸受内部のグリースや、該軸受に浸入したトランスミッションオイルの成分の分解によって発生した水素が鋼に侵入して鋼の脆化を引き起こし、剥離が生じたものと考えられている。潤滑油成分の粘度が低いほどすべりは発生しやすいので、該成分が分解しやすく、上記の脆性剥離が生じやすい。
【0004】
脆性剥離の発生防止には、軌道輪の材質としてステンレス鋼や、クロム(以下、「Cr」と一部記す)含有率を高めた軸受鋼などを用いることが有効であるが、前者は負荷能力が低下して軸受本来の寿命を全うしないという問題がある。後者は鋼材中で含有率を高められたCrが転走面表面の酸素と結合し、転走面表面にCrの酸化被膜を形成し、この酸化被膜が鋼中への水素の侵入を防ぎ、延いては脆性剥離を防止するものである。しかし、鋼材に特殊材料を用いることは製造コスト上、またはグローバル規模での輸送が必要となる等、材料調達面において安定性に欠けるという問題がある。これらのことからステンレス鋼やクロム含有率を高めた軸受鋼の使用は実用性に欠ける問題があった。
【0005】
したがって、実用的な対応策として、通常の軸受鋼を用い、表面処理によって脆性剥離を防止する手法が要求される。表面処理によって脆性剥離を防止する手法については、例えば転がり軸受の軌道輪の軌道面もしくは転動体の転動面のうち少なくとも一つに、酸化鉄クロム系からなる厚さ 1〜1000 nm の酸化皮膜を形成する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では酸化鉄クロム系からなる厚さ 1〜1000 nm の酸化皮膜を形成するには軸受材質や熱処理履歴等により再加熱酸化処理や浸炭、浸炭窒化処理、研磨処理等の数次にわたる加工が必要であり、コストがかかるという問題がある。
【特許文献1】特再2000−11235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題に対処するためになされたものであり、トランスミッション内での使用に際し、鋼材に特殊材料を用いることなく水素脆化に起因する早期剥離を効果的に抑制できるトランスミッション用転がり軸受およびトランスミッションの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトランスミッション用転がり軸受は、入力軸の回転と出力軸の回転とを変速して伝達するトランスミッション内に配置され、上記入力軸、上記出力軸、またはこれらの回転に伴い回転する部材を回転自在に支持するトランスミッション用転がり軸受であって、該転がり軸受は、鋼材からなる内輪および外輪と、これら内外輪の転走面間に介在する複数の転動体とを備え、上記内輪および外輪の少なくとも一つの軌道輪の転走面に表面処理を施され、上記表面処理を施された転走面表面から 4 nm 以内の所定深さの層において、(クロムの原子数)/(鉄の原子数+クロムの原子数)で求められるクロム存在比が 0.50 以上であることを特徴とする。
【0009】
上記軌道輪の表面処理は、該軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれらの塩から選ばれた少なくとも一つの物質を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20 KHz〜100 KHz の超音波を付与して電解エッチングした後、電解エッチングした軌道輪を、クロム酸 15 g/l〜300 g/l と、硫酸 30 g/l〜850 g/l または硝酸 40 g/l〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し上記軌道輪に被膜を形成した後、被膜を形成した軌道輪を陰極とし、クロム酸を 50 g/l〜150 g/l と、りん酸および/または硫酸を 0.1 ml/l〜100 ml/l と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解する処理であることを特徴とする。
【0010】
上記電解エッチングで使用する硫酸およびりん酸は 50〜150 g/l 、硝酸は 50〜500 g/l 、これらの塩は 60〜800 g/l であることを特徴とする。
【0011】
上記トランスミッションが、上記入力軸の回転と出力軸の回転とを無段階変化で変速して伝達する無段変速方式であることを特徴とする。
【0012】
本発明のトランスミッションは、入力軸、出力軸、またはこれらの回転に伴い回転する部材を転がり軸受で回転自在に支持し、上記入力軸の回転と上記出力軸の回転とを変速して伝達するトランスミッションであって、上記転がり軸受が、本発明のトランスミッション用転がり軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトランスミッション用転がり軸受は、軌道輪の転走面に表面処理を施し、軌道輪の転走面表面から 4 nm 以内の所定深さの層において、(クロムの原子数)/(鉄の原子数+クロムの原子数)で求められるクロム存在比を 0.50 以上とするので、軸受転走面の表層にクロムが集中し、軸受本来の負荷能力を損なうことなく、鋼中への水素の侵入を防止でき、脆性剥離を防止することができる。
【0014】
上記表面処理としては、例えば、以下に示す軌道輪表面にエッチング処理、不動態被膜形成処理および電解処理の3段階の表面処理を施すことができる。一般鋼材(SUJ2等)である軌道輪の表面には活性転移の多い塑性変形組織を有する欠陥層が形成されているが、この欠陥層を、まず電解エッチングにより除去することができ、極めて防錆性に優れた被膜を形成するための下地処理ができる。次に、不動態被膜形成処理においてクロム酸を所定量含有する処理液に軌道輪を浸漬することにより、軌道輪表面に十分な厚さの不動態被膜(酸化クロム被膜)を形成することができる。最後に電解処理において、Ca2+、Mg2+、Ba2+ イオンを含有する電解液を用いて、電解処理することにより上記不動態被膜に優れた防錆性を付与させることができる。この結果、CVTのようにトランスミッションオイルとして粘度の低い潤滑油が使われる環境下において、軌道輪に一般鋼材を用いる場合でも、軌道輪表面に形成された上記不動態被膜により、鋼中への水素の侵入を防止でき、脆性剥離を防止することができる。
【0015】
本発明のトランスミッションは、入力軸、出力軸、またはこれらの回転に伴い回転する部材を、上記のトランスミッション用転がり軸受で回転自在に支持するので、該軸受における脆性剥離を防止でき、トランスミッション自体の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のトランスミッション用転がり軸受は、軌道輪に所定の表面処理が施され、軌道輪の転走面表面から 4 nm 以内の所定深さの層において、(Crの原子数)/(Feの原子数+Crの原子数)で求められるCr存在比が 0.50 以上である。より好ましくは、Cr存在比が 0.60 以上である。上記のCr存在比が 0.50 以上であると、該Crが転走面表面の酸素と結合し、転走面に不動態被膜(酸化クロム被膜)が形成されやすく、鋼中への水素の侵入を防止でき、耐脆性剥離性に優れる。Cr存在比が 0.50 未満であると、上記被膜が形成されにくく、耐脆性剥離性に劣る。
【0017】
軌道輪の表面処理としては、該軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれらの塩から選ばれた少なくとも一つの物質を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20〜100 KHz の超音波を付与して電解エッチングした後、電解エッチングした軌道輪を、クロム酸 15〜300 g/l と、硫酸 30〜850 g/l または硝酸 40〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し軌道輪に被膜を形成した後、被膜を形成した軌道輪を陰極とし、クロム酸を 50〜150 g/l と、りん酸および/または硫酸を 0.1〜100 ml/l と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解する処理を採用することが好ましい。
【0018】
本発明のトランスミッション用転がり軸受の軌道輪(内輪および外輪)は、軸受に一般に使用される鋼材からなり、特にCr含有量が 1.6 重量%未満の軸受鋼からなる。Cr含有量が上記範囲の鋼材であっても、本発明における表面処理により優れた耐脆性剥離性を付与できる。
【0019】
本発明において上記エッチング処理では、軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれらの塩から選ばれる1または2以上を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20 KHz〜100 KHz の超音波を付与しながら該軌道輪を電解エッチングする。
【0020】
硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれらの塩としては、硫酸、りん酸、硝酸、およびこれらの酸のナトリウム塩またはカリウム塩を用いることができる。硫酸とりん酸は 50〜150 g/l 、硝酸は 50〜500 g/l が好ましく、これらの酸のナトリウム塩またはカリウム塩は 60〜800 g/l が好ましい。また電解は、電解電圧が 2〜50 V で、電解電流が 0.1 A/dm2 から 50 A/dm2 で、電解時間は 10 秒〜120 秒とすることができる。
【0021】
軌道輪の表面には活性転移の多い塑性変形組織を有する欠陥層が形成されているが、この欠陥層は後の表面処理にて付与する防錆性の効果を低減する。上記エッチング処理においてこの欠陥層を電解エッチングにより除去する。その結果、後述する不動態被膜形成処理および電解処理において、極めて防錆性に優れた被膜を形成することができる。本発明では 20 KHz〜100 KHz の超音波振動を付与しながら電解エッチングを行なうが、この超音波振動によって短時間で欠陥層を除去することができる。
【0022】
本発明において不動態被膜形成処理では、エッチング処理した軌道輪を、クロム酸 15〜300 g/l と硫酸 30〜850 g/l または硝酸 40〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し軌道輪に被膜を形成する。この処理液に 10〜120分間浸漬すると軌道輪の表面には十分な厚さの不動態被膜が形成される。
【0023】
本発明において電解処理では、不動態被膜が形成された軌道輪を陰極にし、クロム酸を 50〜150 g/l とりん酸 0.1〜100 ml/l および/または硝酸を 0.1〜100 ml/l とマグネシウム、カリウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれる1つ、または2つ以上の過飽和量と界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解する。この電解は、例えば電解電圧を 0.1〜20 V 、電解電流を 0.5〜2 A/dm2 とし、電解時間を 10分〜300分とする。
【0024】
本発明において軌道輪に形成された被膜は、十分に厚い不動態被膜であるため、優れた耐脆性剥離性を有する。電解処理はこの不動態被膜に優れた防錆性能を付与するために行なう。すなわち電解処理にはCa2+、Mg2+、Ba2+ イオン含有する電解液を用いる。この結果、陰極では水素雰囲気が形成され、優れた防錆性が付与され、延いては耐脆性剥離性が向上する。
【0025】
本発明のトランスミッション用転がり軸受の実施例について図面にしたがって説明する。図1は本発明の一実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。図1に示すトランスミッション用転がり軸受1は、同心に配置された内輪2および外輪3と、内輪転走面と外輪転走面との間に介在する転動体4と、この転動体4を保持する保持器5と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材6と、軸受空間に封入された潤滑グリース7とからなり、外輪外周面3a、外輪内周面3b、外輪端面3cに上記表面処理による不動態被膜(酸化クロム被膜)が形成されている。
【0026】
トランスミッション内に充填されたトランスミッションオイルが、シール部材6の隙間から軸受内部に浸入する。このオイルが軸受内部に浸入してくるまでは、予め軸受内部に封入した上記潤滑グリース7で潤滑を行なう。
【0027】
上記表面処理による不動態被膜(酸化クロム被膜)は、内輪および外輪の少なくとも一つの軌道輪の転走面に形成されていればよい。図2および図3に本発明の他の実施例として、該被膜の他の形成位置を示す。図2に示すトランスミッション用転がり軸受11では、内輪内周面12a、内輪外周面12b、内輪端面12cに上記表面処理による被膜が形成されている。図3に示すトランスミッション用転がり軸受21では、外輪外周面23a、外輪内周面23bおよび外輪端面23cと、内輪内周面22a、内輪外周面22bおよび内輪端面22cとに上記表面処理による被膜が形成されている。
【0028】
本発明のトランスミッション用転がり軸受としては、上記深溝玉軸受の他、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受なども採用することができる。
【0029】
本発明のトランスミッションの実施例について図面にしたがって説明する。図4は本発明のトランスミッション(CVT)の一実施例を示す図である。図4に示すように、このトランスミッションは、入力軸31の回転を無段階変化で変速して出力軸34の回転に伝達するものである。
【0030】
入力軸31は、エンジン等の駆動源(図示せず)により、トルクコンバータ40および遊星機構部41を介して回転駆動される。入力軸31と同期回転する駆動側プーリ32が入力軸31に設けられ、この駆動側プーリ32の溝幅は、駆動側アクチュエータ33により拡縮自在に制御される。また、出力軸34と同期回転する従動側プーリ35が出力軸34に設けられ、この従動側プーリ35の溝幅は、従動側アクチュエータ36により拡縮自在に制御される。また、この従動側プーリ35と駆動側プーリ32とは、選ばれた溝幅に対応する径の部分で掛け渡された無端ベルト37を介して、それぞれの径に対応する速度で回転し、入力軸31に伝達された動力は、駆動側プーリ32から無端ベルト37を介して、従動側プーリ35に伝達される。従動側プーリ35に伝達された動力は、出力軸34から減速歯車列38、デファレンシャル39を介して駆動輪(図示せず)に伝達される。これら入力軸31と出力軸34とを回転自在に支承する転がり軸受30として、上述の本発明のトランスミッション用転がり軸受が用いられる。
【0031】
入力軸31に対して出力軸34を増速する場合には、駆動側プーリ32の溝幅を小さくし、かつ従動側プーリ35の溝幅を大きくすることで、無端ベルト37を掛け渡された部分の径が、駆動側プーリ32部分で大きく、従動側プーリ35部分で小さくなり、入力軸31に対する出力軸34の増速が行なわれる。
入力軸31に対して出力軸34を減速する場合には、駆動側プーリ32の溝幅を大きくし、かつ従動側プーリ35の溝幅を小さくすることで、無端ベルト37に掛け渡された部分の径が、駆動側プーリ32部分で小さく、従動側プーリ35部分で大きくなり、入力軸31に対する出力軸34の減速が行なわれる。
【0032】
ミッションオイルは図示しないオイルポンプによりミッション内を循環している。通常、CVTではトランスミッションオイルとして、動粘度が 30〜38 mm2/sec(40℃)、7〜7.2 mm2/sec(100℃)程度である粘度の低い潤滑油が使用されている。
【実施例】
【0033】
実施例1
SUJ2材(Cr 1.0 重量%含有)からなる軌道輪を陽極にし、硫酸 100 g/l を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 50 KHz の超音波を付与しながら該軌道輪を電解エッチングした。また電解は、電解電圧 10 V で、電解電流 10 A/dm2 で、電解時間 20秒の条件にて実施した。エッチング処理した軌道輪を、クロム酸 100 g/l と硫酸 50 g/l とを含有した 60℃の処理液に 20 分間浸漬し軌道輪に被膜を形成した。被膜を形成した軌道輪を陰極にし、クロム酸を 100 g/l と、硫酸 1 ml/l と、炭酸カルシウムの過飽和量と界面活性剤とを含む水溶液を電解液として、電解電圧 10 V 、電解電流 1 A/dm2 、電解時間 20 分の条件にて電解を行なった。
【0034】
得られた軌道輪の転走面表面層の深さ 0 nm、1.3 nm、2.6 nm、3.9 nm におけるCr存在比を下記式に基づいて測定した。測定にはX線光電子分光分析装置(ESCA)を使用し、上記の各深さまでエッチングを繰り返して測定を行なった。結果を表1に示す。

Cr存在比=(Crの原子数)/(Feの原子数+Crの原子数)

【0035】
比較例1
表面処理を施さなかった軌道輪(SUJ2材(Cr 1.0 重量%含有))の転走面表面層の深さ 0 nm、1.3 nm、2.6 nm、3.9 nm におけるCrの存在比を実施例1と同様に測定し、それぞれの結果を表1に併記した。
【0036】
【表1】

【0037】
本表面処理を施したSUJ2(Cr 1.0 重量%含有)は、処理前後での表層部のCr存在比が飛躍的に向上しており、脆性剥離に対する防止効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のトランスミッション用転がり軸受は、内外輪の少なくとも一つの軌道輪に不動態被膜を有するので、水素脆化による軸受軌道輪の表面剥離を防止する効果を有する。このため、高速回転と高荷重をともに受ける自動車用トランスミッションに用いられる軸受として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図4】本発明のトランスミッション(CVT)の一実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1、11、21 トランスミッション用転がり軸受
2、12、22 内輪
3a、23a 外輪外周面
3b、23b 外輪内周面
3c、23c 外輪端面
3、13、23 外輪
4、14、24 転動体
5、15、25 保持器
6、16、26 シール部材
7、17、27 潤滑グリース
12a、22a 内輪内周面
12b、22b 内輪外周面
12c、22c 内輪端面
30 転がり軸受
31 入力軸
32 駆動側プーリ
33 駆動側アクチュエータ
34 出力軸
35 従動側プーリ
36 従動側アクチュエータ
37 無端ベルト
38 減速歯車列
39 デファレンシャル
40 トルクコンバータ
41 遊星機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転と出力軸の回転とを変速して伝達するトランスミッション内に配置され、前記入力軸、前記出力軸、またはこれらの回転に伴い回転する部材を回転自在に支持するトランスミッション用転がり軸受であって、
該転がり軸受は、鋼材からなる内輪および外輪と、これら内外輪の転走面間に介在する複数の転動体とを備え、前記内輪および外輪の少なくとも一つの軌道輪の転走面に表面処理を施され、
前記表面処理を施された転走面表面から 4 nm 以内の所定深さの層において、(クロムの原子数)/(鉄の原子数+クロムの原子数)で求められるクロム存在比が 0.50 以上であることを特徴とするトランスミッション用転がり軸受。
【請求項2】
前記軌道輪の表面処理は、前記軌道輪を陽極にし、硫酸、りん酸、硝酸および/またはそれらの塩から選ばれた少なくとも一つの物質を含有する水溶液を電解液とし、周波数が 20〜100 KHz の超音波を付与して電解エッチングした後、
電解エッチングした軌道輪を、クロム酸 15〜300 g/l と、硫酸 30〜850 g/l または硝酸 40〜500 g/l とを含有した室温〜120℃の処理液に浸漬し前記軌道輪に被膜を形成した後、
被膜を形成した軌道輪を陰極とし、クロム酸を 50〜150 g/l と、りん酸および/または硫酸を 0.1〜100 ml/l と、マグネシウム、カルシウム、バリウムの炭酸塩または硫酸塩から選ばれた少なくとも一つの物質の過飽和量と、界面活性剤とを含む水溶液を電解液として電解する処理であることを特徴とする請求項1記載のトランスミッション用転がり軸受。
【請求項3】
前記電解エッチングで使用する硫酸およびりん酸は 50〜150 g/l 、硝酸は 50〜500 g/l 、これらの塩は 60〜800 g/l であることを特徴とする請求項2記載のトランスミッション用転がり軸受。
【請求項4】
前記トランスミッションが、前記入力軸の回転と前記出力軸の回転とを無段階変化で変速して伝達する無段変速方式であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のトランスミッション用転がり軸受。
【請求項5】
入力軸、出力軸、またはこれらの回転に伴い回転する部材を転がり軸受で回転自在に支持し、前記入力軸の回転と前記出力軸の回転とを変速して伝達するトランスミッションであって、
前記転がり軸受が、請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載のトランスミッション用転がり軸受であることを特徴とするトランスミッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275275(P2009−275275A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129901(P2008−129901)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】