説明

トリメブチン及びN−脱メチル化トリメブチンの塩類

【解決手段】 内蔵痛の治療に有用な改善鎮痛特性を有する、トリメブチン及びN−モノ脱メチル化トリメブチン、及びそれらの対応立体異性体の独特な塩類が提供される。本発明の塩類は特に、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、糖尿病性胃不全麻痺、及び胃腸障害などの、腹痛によって特徴付けされる症状の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連文献の相互参照
本出願は、2006年6月6日付けで出願された米国仮出願第60/804,067号に対して優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、トリメブチン及びN−モノ脱メチル化トリメブチンの独特な塩類、及びそれらの対応立体異性体に関するものであり、これらは一般的な内蔵痛の治療において、及び特に、例えば炎症性腸疾患(IBD)及び過敏性腸症候群(IBS)、糖尿病性胃不全麻痺、及び胃腸障害などの腸疾患を患った患者における腹痛によって特徴付けされる症状の治療において有用である改善された鎮痛特性を有しているものである。
【背景技術】
【0003】
トリメブチン[3,4,5−トリメトキシ安息香酸2−(ジメチルアミノ)−2−フェニルブチルエステル及びそのマレイン酸塩]は、IBSを含む機能的腸疾患の治療に対して1969年から多くの国で使用されてきた。腹痛を軽減するトリメブチンの有効性は、様々な臨床研究において示されてきた(例えば、Ghidini et al(1986)Single drug treatment for irritable colon:Rociverine versus trimebutine maleate.Curr Ther Res 39:541−548を参照のこと)。トリメブチンは、機能的腸疾患、特にIBSを患った患者における急性及び慢性腹痛の治療において、300〜600mg/日の範囲の用量で有効であるように改善された。さらに、腹痛を示す小児にも有効である。
【0004】
胃腸管に対するトリメブチンの作用は一部、(i)末梢性ミュー、カッパ及びデルタオピエート受容体に対するアゴニスト効果、及び(ii)モチリンなどの胃腸ペプチドの放出、及び血管作動性腸ペプチド、ガストリン及びグルカゴンを含む他のペプチドの放出の調節を介して仲介されていると考えられる。さらに、トリメブチンは、胃内容排出を促進し、腸内の伝播性運動複合体の早期相IIIを誘導し、結腸の収縮活動を調節する。最近、トリメブチンは動物における腸管内腔の膨満によって誘導される反射を軽減し、内蔵感受性を調節することも示された。
【0005】
一酸化窒素(NO)は最近、血管内皮への白血球粘着の減少(Gauthier et al(1994)Nitric oxide attenuates leukocyte−endothelial interaction via P−selectin in splanchnic ischemia−reperfusion.Am J Physiol 267:G562−G568)、及び様々な走化性因子の産生の抑制(Walford and Loscalzo(2003)Nitric oxide in vascular biology.J Thromb Haemost 1:2112−2118)を含む、多くの抗炎症性作用を発揮することが示された。更に、NSAIDs、アセトアミノフェン及びウルソデオキシコール酸などの特定の薬剤へのNO放出部位の取り込みによって、これらの薬剤の活性を増強し、親薬剤と比較して毒性が減少することが示された。
【0006】
硫化水素(HS)は、抗炎症性効果を発揮する別のタイプのガスメディエーターである。最近、HS放出因子は内蔵痛のモデルにおいて鎮痛作用を示すことが見出された(Distrutti et al(2005)、Evidence that hydrogen sulfide exerts antinociceptive effects in the gastrointestinal tract by activating KATP channels.J Pharmacol Exp Ther 316:325−335)。さらに、HSは腸組織において平滑筋弛緩薬となることが示された(Teague,B.et al.(2002)The Smooth Muscle Relaxant effect of Hydrogen Sulfide In Vitro:Evidence for a Physiological Role to Control Intestinal Contractility.Br.J.Pharmacol.137:139−145を参照のこと)。
【0007】
本発明者らは本出願において、トリメブチン或いはN−モノ脱メチル化トリメブチンの塩類及びそれらの対応立体異性体が様々なNO−放出、HS−放出、若しくは混合性NO及びHS放出部位と共に形成された場合、トリメブチンの活性は有意に増強されることを示した。特に、トリメブチン及びN?モノ脱メチル化トリメブチンのこれらNO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出塩類の投与は、トリメブチン(トリメブチンマレイン酸)或いはその代謝産物N−モノ脱メチル化トリメブチン単独と比較した場合、及びNO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位単独と比較した場合、改善された鎮痛特性を生じる。これらの塩類は特に、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、糖尿病性胃不全麻痺、胃腸障害及びそれらと同等のものなどの腹痛によって特徴付けされる症状の治療に有用である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般的に、トリメブチン(TMB)及びその活性代謝産物N−脱メチル化トリメブチン(Nor−TMB)の塩類、及びそれらの対応立体異性体である(R)−TMB、(S)−TMB、(R)−Nor−TBM及び(S)−Nor−TBMが提供され、ここにおいて前記塩類はNO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位を用いて形成されるものである。NO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位と智に塩類を形成することによって、TNB及びNor−TMBの抗侵害受容効果は驚く程増強された。
【0009】
特に、本発明のTMB及びNor−TMB塩類は、結腸直腸膨満に関連した内蔵痛の軽減において、TMB及びNor−TMB単独、及びNO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位単独と比べて優れている。NO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位単独では、単独で投与した場合、結腸直腸膨満に関連した内蔵痛に対して有意な効果を有しているようには見えなかった。従って、本発明の一観点において、本発明の塩類は腹痛に関連する消化器系のあらゆる疾患に関連した痛みを軽減するのに有用である。
【0010】
大まかに述べると、本発明の塩類は以下の一般式であり:
・X(式I)
ここにおいて、Aは、
【化1】

【0011】
及びそれらの対応立体異性体であり;
Xは、NO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位である。
【0012】
好ましい実施形態において、Xは、以下の群:
【化2】

【0013】
から選択されるものである。
【0014】
無毒で有効的なNO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位は、本発明において使用され得ることが理解される。
【0015】
好ましい化合物は、以下の式で表される化合物である。
【0016】
【化3】

【0017】

【0018】

【0019】

【0020】
更に、新規混合性NO−及びHS−放出部位は、前記一般式を有するように提供され、ニトロアルギニン−Rは好ましくは:
【化4】

【0021】
であり、ここにおいてRはHS放出部位である。好ましい実施形態において、Rは、5−p−ヒドロキシフェニル−1,2−ジチオン−3−チオン、システイン、及び4−(チオカルバモイル)安息香酸から成る群から選択されるものである。
【0022】
更に、そのような治療を必要とする対象における内蔵痛を治療する方法が提供され、この方法は、内蔵痛を軽減する量の本発明の化合物を対象へ投与する工程を有するものである。1実施形態において、前記内蔵痛は腹痛である。別の実施形態において、前記腹痛は、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、糖尿病性胃不全麻痺、及び胃腸障害などの胃腸疾患に起因するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1aは、溶媒及びトリメブチンマレイン酸を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける認知スコア(AWRスコア)を示したものである。 図1bは、溶媒及びトリメブチンマレイン酸を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける結腸直腸圧(mmHg)を示したものである。
【図2】図2aは、溶媒及びニトロアルギニン単独を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける認知スコア(AWRスコア)を示したものである。 図2bは、溶媒及びニトロアルギニン単独を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける結腸直腸圧(mmHg)を示したものである。
【図3】図3aは、溶媒及びトリメブチンニトロアルギニナート(塩I)を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける認知スコア(AWRスコア)を示したものである。 図3bは、溶媒及びトリメブチンニトロアルギニナート(塩I)を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける結腸直腸圧(mmHg)を示したものである。
【図4a】図4aは、L−NAMEによる前処理をした或いはしていない、溶媒及びトリメブチンニトロアルギニナート(塩I)を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける認知スコア(AWRスコア)を示したものである。
【図4b】図4bは、L−NAMEによる前処理をした或いはしていない、溶媒及びトリメブチンニトロアルギニナート(塩I)を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける結腸直腸圧(mmHg)を示したものである。
【図5a】図5aは、トリメブチンマレイン酸及びトリメブチンチオカルバモイル安息香酸(塩III)を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける認知スコア(AWRスコア)を示したものである。
【図5b】図5bは、溶媒及びチオカルバモイル安息香酸(TBZ)単独を用いた、内蔵痛認知のラットモデルにおける認知スコア(AWRスコア)を示したものである。
【図6】図6は、4−(チオカルバモイル)安息香酸(TBZ)及び5−(4−アミノ−フェニル)−[1,2]ジチオール−3−チオン(ADT−OH)のHS産生を示した棒グラフを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、本明細書に記載された好ましい実施形態に関して記載されるであろう。しかしながら、これらの実施形態は、本発明を例示する目的のためのものであり、請求項によって定義されたような本発明の観点を制限すると解釈されるものではないことが理解されるべきである。
【0025】
本発明の化合物は、2つの活性部位である(1)TMB或いはNor−TMB、若しくはそれらの立体異性体、及び(2)NO−放出、HS−放出或いは混合性NO−及びHS−放出部位、を含むものである。多くの場合において、本発明の塩類は、既知の開始物質及び試薬を用いて製造され得る。
【0026】
本発明の化合物は、これに限定されるものではないが、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、感染性大腸炎(例えば、クロストリジウム・ディフィシル大腸炎、サルモネラ小腸炎、シゲラ感染症、エルシニア感染症、クリプトスポリジウム症、微胞子虫感染症、及びウイルス感染症などの偽膜性大腸炎)、放射線誘導性大腸炎、免疫低下宿主における大腸炎、糖尿病性胃不全麻痺及び胃腸障害を含む様々な疾患に関連した、腹痛などの内蔵痛の治療に利用される。
【0027】
治療される特異的症状或いは疾患に依存して、対象は、本分野の当業者に予め決定されるような、あらゆる適切な治療上有効で安全な投与量で本発明の化合物を投与される。これらの化合物は、治療される前記対象の体重及び症状、及び選択された投与の特異的経路に依存して必要に応じて変更がなされるが、最も望ましくは1日約1〜約2000mgの範囲の投与量で、一回或いは分割用量で投与される。しかしながら、投与量レベルは、約0.1〜約100mg/kgの範囲、好ましくは約5〜90mg/kgの間の範囲、最も好ましくは約5〜50mg/kgの間の範囲内であることが最も望ましい。しかしながら、治療される人の体重及び症状、及び前記薬物に対する個々の反応、さらには選択される薬学的処方のタイプ及び期間、そのような投与が実行される間のインターバルに依存して変更がなされる。いくつかの場合においては前述の範囲の下限以下の投与量レベルがより十分である一方、他の場合においてはより大量な投与量はあらゆる有害な副作用を引き起こさず使用されるが、そのような大用量はまず一日を通していくつかの小容量へ分割されるという条件である。
【0028】
本発明の化合物はあらゆる薬学的処方の形態で投与され、その種類は投与の経路に依存するものである。これらの薬学的組成物は、適合性で薬学的に許容可能な賦形剤或いは溶媒を用いて、従来の方法によって調合され得る。そのような組成物の例としては、即時溶液、注入可能製剤、直腸、経鼻、眼球、膣内などの調合のための、カプセル、錠剤、経皮パッチ、薬用キャンディー、トローチ剤、スプレー、シロップ、粉末、顆粒、ゲル、エリキシル剤、坐薬、及びそれらと同等物を含む。投与の好ましい経路は、経口及び直腸経路である。
【0029】
経口投与に対して、結晶セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及びグリシンなどの様々な賦形剤を含有する錠剤は、デンプン(好ましくはコーン、ポテト或いはタピオカデンプン)、アルギン酸及び特定の複合ケイ酸などの様々な錠剤分解物質に加えて、ポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチン及びアラビアゴムのような顆粒結合剤と共に使用する。付加的に、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルクなどの潤滑剤は錠剤化目的のために使用され得る。同様な種類の固形組成物はさらにゼラチンカプセルにおける注入剤としても使用され;この関連における好ましい物質はさらに、ラクトース或いは乳糖、更には高分子量ポリエチレングリコールも含む。水性懸濁液及び/若しくはエリキシル剤が経口投与に望ましい場合、前記活性成分は、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン及びそれらの様々な組み合わせなどの希釈剤と共に、甘味料或いは調味料、着色物質、及び望ましい場合乳化及び/若しくは懸濁剤と組み合わされる。
【0030】
剤形は、即効型、徐放性、持続放出性、遅延放出性或いは標的遅延放出性に対して設計され得る。これらの用語の定義は本分野の当業者に既知である。更に、剤形放出性プロファイルは、ポリマー混合組成物、コーティングマトリックス組成物、多粒子組成物、コーティング多粒子組成物、イオン交換性樹脂ベース組成物、浸透ベース組成物、或いは生分解性ポリマー組成物によって影響を受ける。あらゆる理論に束縛されることを望むことなく、前記放出性は、有利な拡散、溶解、浸食、イオン交換、浸透或いはそれらの組み合わせから影響を受ける。
【0031】
非経口的な投与に対して、セサミ或いはピーナッツオイルにおける、或いは水性プロピレングリコールにおける活性塩の溶液は使用され得る。前記水性溶液は、必要ならば適切に緩衝されるべきであり(好ましくはpHは8以上)、等張にするためにまず液体希釈剤を提供する。前記水性溶液は、静脈内注射目的に適切である。無菌状態での全てのこれら溶液の調合は、本分野の当業者によく知られている。
【0032】
以下に非制限的な実施例が記載してあり、これは本分野の当業者が本発明を行い使用することを可能にするものである。
【実施例1】
【0033】
トリメブチンニトロアルギニナート(I)の合成
【化5】

【0034】
H−Arg(NO)−OH(0.1モル)及びトリメブチン(0.1モル)の混合物へ水(200mL)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を透明になるまで室温でかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【0035】
H−NMR(400MHz,DMSO−d):δ0.60(t,3H),1.45−1.75(m,4H),1.80−1.90(m,2H),2.25(s,6H),2.90−3.40(m,2H),3.75(s,9H),3.95(m,1H),4.64(dd,2H),7.15(s,2H),7.22(t,1H),7.35(t,2H),7.46(d,2H).
13C−NMR(400MHz,DMSO−d):δ9.07,22.8,26.4,28.9,29.1,47.9,56.4,60.8,64.4,65.8,107.3,125.2,127.4,128.0,128.5,141.7,142.5,153.4,158.3,165.9,170.2.mp183°C(dec)。
【実施例2】
【0036】
トリメブチンシステイニル−ニトロアルギニナート(II)の合成
【化6】

【0037】
2−(2−アミノ−3−メルカプト−プロピオニルアミノ)−5−ニトログアニジノ−ペンタン酸(b)の合成
1時間0℃でかき混ぜながら、50mLのジメチルホルムアミド中のBoc−Cys(Trt)−OH(3.0ミリモル)の溶液へヒドロキシベンゾトリアゾール(3.3ミリモル)及びDCC(3.3ミリモル)を添加した。次にその反応混合物へ、H−Arg(NO)−OtBu(3.0ミリモル)を添加し、3時間0℃で、24時間室温で機械的にかき混ぜた。濾過後、その濾液を減圧下で蒸発させ、溶媒を除去した。次に得られた油状残留物を酢酸エチルに溶解し;有機層は鹹水で洗浄し、無水MgSO上で乾燥させ、濾過し前記溶媒を蒸発させた。未精製中間体aは、ジクロロメタン(DCM中の40%TFA)中のトリフルオロ酢酸の溶液で処理した。1時間後、前記溶媒を除去し、H−Cys−Arg(NO)−OHを得た。未精製残留物としてのTFAはジエチルエーテルで沈殿させ;得られた固形物は水に溶解させ、1N NaOHをゆっくり添加し、濾過によって回収された白い固形物として2−(2−アミノ−3−メルカプト−プロピオニルアミノ)−5−ニトログアニジノ−ペンタン酸(b)を得た。
【0038】
トリメブチンシステイニル−ニトロアルギニナート(II)の合成
2−(2−アミノ−3−メルカプト−プロピオニルアミノ)−5−ニトログアニジノ−ペンタン酸(b;0.1モル)及びトリメブチン(0.1モル)の混合物へ、水(200mL)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を透明になるまで室温でかき混ぜた。次に、その溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【実施例3】
【0039】
トリメブチンチオカルバモイル安息香酸(III)の合成
3,4,5−トリメトキシ安息香酸2−(ジメチルアミノ)−2−フェニルブチルエステル4−チオカルバモイル安息香酸(トリメブチンチオカルバモイル安息香酸)の調合
【化7】

【0040】
4−(チオカルバモイル)安息香酸(0.1モル)及びトリメブチン(0.1モル)の混合物へ、水(200mL)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を透明になるまで室温でかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【0041】
H−NMR(400MHz,DMSO−d):δ0.60(t,3H),1.45−1.75(m,4H),1.80−1.90(m,2H),2.28(s,6H),2.90−3.40(m,2H),3.69(s,9H),3.95(m,1H),4.73(dd,2H),7.01(s,2H),7.22(t,1H),7.35(t,2H),7.46(d,2H)7.93(dd,4H),9.65(bs,1H,NH),10.05(bs,1H,NH).
13C−NMR(400MHz,DMSO−d):δ9.07,28.9,56.5,60.8,64.5,65.7,107.1,125.3,127.4,128.1,128.6,129.5,129.7,132.3,141.8,142.5,148.5,153.4,154.8,165.9,169.4,172.5,188.6.
mp66−68°C(dec)。
【0042】
4−(チオカルバモイル)安息香酸の合成
前記化合物は既に文献(Fairfull,E.S.,Lowe J.L.,Peak D.A.J.Chem.Soc.1952,742)で報告された手順に従って合成し、この文献はこの参照によって本明細書に組み込まれるものである。
【0043】
【化8】

【0044】
4−(チオカルバモイル)安息香酸(2)
3gの4−シアノ安息香酸1(20.4ミリモル)を40mLのピリジン中に溶解し、2.1mLのトリエチルアミン(20.4ミリモル)を添加した。乾燥水素スルフィドは、定常蒸気中の前記溶液を4時間通過させた。次に前記混合物を水へ注ぎ、固形物を濾過によって回収した。石油エーテルからの再結晶によって、2.51gの純粋化合物2(68%収率)を得た。
【0045】
MS(ESI),m/e 182.2(M
H NMR(DMSO−d):δ7.92(dd,4H),9.68(s,1H,NH),10.12(s,1H,NH),13.25(s,1H,OH)
13C NMR(DMSO−d):δ127.3,129.6,132.0,148.5,169.4,188.6
m.p.296−298°C(dec.)。
【実施例4】
【0046】
トリメブチンADT−ニトロアルギニナート(IV)の合成
【化9】

【0047】
炭酸4−ニトロ−フェニルエステル4−(5−チオキソ−5H−[1,2]ジチオール−3−イル)−フェニルエステル(a)の合成
CHCl(10ml)中のADT−OH(1.04ミリモル)のかき混ぜた懸濁液へ4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、1.16ミリモル)及び4−ニトロフェニルクロロギ酸(1.15ミリモル)を添加した。この反応混合物を10時間室温でかき混ぜた。薄層クロマトグラフィによって、望ましい産物の形成が完了したことが示された。溶媒を除去し、その残留物をジエチルエーテルで処理した;産物aを濾過によって回収し、更なる精製をせずに使用した(収率81%)。
【0048】
5−ニトログアニジノ−2−[4−(5−チオキソ−5H−[1,2]ジチオール−3−イル)−フェノキシカルボニル−アミノ]−ペンタン酸(b)の合成
50mLのCHCl中のa(1.04ミリモル)の溶液へ4−ジメチルアミノピリジン(1.16ミリモル)及びH−Arg(NO2)−OtBu(1.02ミリモル)を添加し、その溶液を20時間室温でかき混ぜた。次に、その反応混合物をCHClで希釈し、飽和NaHCO及び飽和NaClで洗浄し、MgSOの上で乾燥させた。未精製中間体を、ジクロロメタン(DCM中の40%TFA)中のトリフルオロ酢酸の溶液で処理した。1時間後溶媒を除去し、未精製残留物としてジエチルエーテルで沈殿させた産生物bを得た;この得られた固形物は水に溶解し、1N NaOHをゆっくり添加し、濾過によって回収された白い固形物として5−ニトログアニジノ−2−[4−(5−チオキソ−5H−[1,2]ジチオール−3−イル)−フェノキシカルボニル−アミノ]−ペンタン酸(b)を得た。
【0049】
トリメブチンADT−ニトロアルギニナート(IV)の合成
5−ニトログアニジノ−2−[4−(5−チオキソ−5H−[1,2]ジチオール−3−イル)−フェノキシカルボニル−アミノ]−ペンタン酸(b;0.1モル)及びトリメブチン(0.1モル)の混合物へ水(200mL)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を透明になるまで室温でかき混ぜた。次にその鼕液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【実施例5】
【0050】
トリメブチンp−ヒドロキシチオベンズアミド−ニトロアルギニナート(V)の合成
【化10】

【0051】
炭酸4−ニトロ−フェニルエステル4−チオカルバモイル−フェニルエステル(a)の合成
CHCl(10ml)中のp−ヒドロキシチオベンズアミド(1.04モル)のかき混ぜた懸濁液へ4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、1.16ミリモル)及び4−ニトロフェニルクロロギ酸(1.14ミリモル)を添加した。その反応混合物を10時間室温でかき混ぜた。薄層クロマトグラフィによって、望ましい産物の形成が完了したことが示された。溶媒を除去し、その残留物はジエチルエーテルで処理した;産物aは濾過によって回収し、更なる精製をせずに使用した(収率81%)。
【0052】
5−ニトログアニジノ−2−(4−チオカルバモイル−フェノキシカルボニルアミノ)−ペンタン酸(b)の合成
50mLのCHCl中のa(1.04ミリモル)の溶液へ4−ジメチルアミノピリジン(1.16ミリモル)及びH−Arg(NO)−OtBu(1.02ミリモル)を添加し、その溶液を20時間室温でかき混ぜた。次にその反応混合物をCHClで希釈し、飽和NaHCO及び飽和NaClで洗浄し、MgSO上で乾燥させた。未精製中間体をジクロロメタン(DCM中の40%TFA)中のトリフルオロ酢酸の溶液で処理した。1時間後溶媒を除去し、ジエチルエーテルで沈殿させた未精製残留物としての産物aを得た;得られた固形物は水に溶解し、1N NaOHをゆっくりと添加し、濾過によって回収された白い固形物として5−ニトログアニジノ−2−(4−チオカルバモイル−フェノキシカルボニルアミノ)−ペンタン酸(b)を得た。
【0053】
トリメブチンp−ヒドロキシチオベンズアミド−ニトロアルギニナート(V)の合成
5−ニトログアニジノ−2−(4−チオカルバモイル−フェノキシカルボニルアミノ)−ペンタン酸(b;0.1モル)及びトリメブチン(0.1モル)の混合物へ、水(200mL)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を透明になるまでかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【実施例6】
【0054】
N−ジメチルトリメブチンニトロアルギニナート(VI)の合成
【化11】

【0055】
H−Arg(NO)−OH(0.1モル)及びN−脱メチル化トリメブチン(0.1モル)の混合物へ、水(200mL)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を透明になるまで室温でかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【0056】
H−NMR(400MHz,DMSO−d):δ0.72(t,3H),1.45−1.75(m, 4H),1.80−1.90(m,2H),2.07(s,3H),2.90−3.40(m,2H),3.75(s,9H),3.95(m,1H),4.64(dd,2H),7.07(s,2H),7.22(t,1H),7.35(t,2H),7.51(d,2H).
13C−NMR(400MHz,DMSO−d):δ9.07,22.8,26.4,28.9,29.1,47.9,56.4,60.8,64.4,65.8,107.3,125.2,127.4,128.0,128.5,141.7,142.5,153.4,158.3,165.9,170.2.
m.p.78−80°C(dec)。
【0057】
N−脱メチル化トリメブチンの合成
前記混合物は文献(Martin,A.,Figad?re B.,Saivin S.,Houin G.,Chomard J.M.,Cahiez G.Arzneim.−Forsch./Drug Res.2000(50),544)に報告された手順にわずかな修正を加えて合成した。
【0058】
【化12】

【0059】
フェニルグリシンエチルエステル塩酸(2)
【化13】

【0060】
22mLのSOClを無水エタノール中の30gのフェニルグリシン1(198.5ミリモル)の溶液へ液滴で添加した。穏やかな還流が自発的に生じ、それは3時間維持されていた。その反応によって室温まで冷却することができ、一晩中かき混ぜた。溶媒を真空下で除去し、白い粉末として41.8gの2を得た(98%収率)。MS(ESI),m/e 179.8(M)。
【0061】
エチルN−(フェニルメチレン)グリシナート(3)
【化14】

【0062】
10.6gのエチルフェニルグリシナート塩酸2(49.3ミリモル)の混合物に、100mLのジクロロメタン、5m;のベンズアルデヒド(49.2ミリモル)及び30gの硫酸マグネシウム(249.2ミリモル)を室温で添加し、窒素雰囲気下で21.25mLのトリエチルアミン(152.46ミリモル)を添加した。17時間かき混ぜた後、不均一な反応混合物はセライトを通して濾過し、その固形物を100mLのジクロロメタンで洗浄した。溶媒を減圧下で蒸発させ、得られた粘稠性油は80mLのジエチルエーテル及び80mLの水で溶解するまでかき混ぜた。デカンテーション後、有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、溶媒を真空下で蒸発させた。イミン(immine)エステル3(12.4g、94%収率)を淡黄色の油として得た。MS(ESI)、m/e268.3(M)。
【0063】
エチル2−フェニル−2−(N−フェニルメチレン)−ブタン酸(4)
【化15】

【0064】
窒素雰囲気下で、64mLの無水THF中の12.39g(46.4ミリモル)の3の溶液を、かき混ぜながら2.04の水素化ナトリウム(60%油分散、85ミリモル)、192mgのCuCl2及び128mLの無水THFへ液滴で添加した。室温で9時間後、4.66mL(57.7ミリモル)のエチルヨウ素をその反応混合物へ素早く添加した。18時間かき混ぜ続け、0.86mLの無水エタノールをその反応混合物へ注意しててんかした。かき混ぜている間、反応色が黄色〜赤〜オレンジへ変わり、次に緑に変わった。真空下でのその反応混合物の濃縮後、95.8mLのジエチルエーテル及び160mLの水を添加し、結果生じた混合物を10分かき混ぜ、次にセライトを通して濾過した。デカンテーション後、有機層を水で3回洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次にジエチルエーテルを減圧下で蒸発させ、5.82gの4(43%収率)を供給した。黄色−オレンジ油として得られた未精製産物は、更なる精製なしで使用するのに十分純粋であった。MS(ESI),m/e296.1(M)。
【0065】
エチル2−アミノ−2−フェニルブタノエート塩酸(5)
【化16】

【0066】
5.8gの4(19.73ミリモル)、17.6mLのTHF、35.17mLのジエチルエーテル、44mLの水及び2.64mLの濃縮HClを室温で24時間かき混ぜた。溶媒を真空下で反応混合物から除去し、結果生じた水性溶液をジエチルエーテルで2回洗浄した。次に水を減圧下で蒸発させ、オレンジの油として3.8gの5を得た(79%収率)。
【0067】
エチル2−アミノ−2−フェニルブタノエート(6)
【化17】

【0068】
未精製産物5を22mの無水THFに溶解し、2.64mLのトリエチルアミンを添加した。30分かき混ぜた後、その混合物はセライトを通して濾過し、その固形物を100mLの無水ジエチルエーテルで洗浄した。回転エバポレータを使用してその溶媒を濃縮し、青色の油として2.49gの6を得た(77%収率)。MS(ESI)、m/e208(M)。
【0069】
エチル2−ホルミルアミノ−2−フェニルブタノエート(7)
【化18】

【0070】
12.72mLのギ酸及び25.38mLの無水酢酸を液滴で、かき混ぜながら2.49g(12.03ミリモル)のアミン6へ添加した。室温で15時間後、溶媒を減圧下で除去し、緑色の粘稠性油として3.09gの7を得た(100%収率)。MS(ESI)、m/e236(M)。
【0071】
2−メチルアミノ−2−フェニルブタノール(8)
【化19】

【0072】
30mLの無水THF中の900mg(23.71ミリモル)の水素リチウムアルミニウム(LiAlH)の懸濁液へ液滴で、18mLの無水THF中の3.09g(13.15ミリモル)の7(以前調合した)の溶液を添加した。還流下で4時間後、その反応混合物は室温まで冷却され、付加的量の水素リチウムアルミニウム(900mg)を導入した。還流は4時間維持し、硫酸マグネシウムの水性飽和溶液を勢い良くかき混ぜながら、沈殿が形成されるまで−10℃でゆっくり添加した。その固形物を濾過し、THFで数回洗浄した。水性溶液が得られるまで、有機溶媒を減圧下で蒸発させた。その溶液を100mLのジエチルエーテルへ添加して、有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させた。溶媒の蒸発によって、黄色の油として1.84gの8を得た(78%収率)。MS(ESI)、m/e180.1(M)。
【0073】
(2−メチルアミノ−2−フェニルブチル)3,4,5−トリメトキシ安息香酸(N−脱メチル化トリメブチン(9)
【化20】

【0074】
28mLの無水THF中の1.84gの8(10.3ミリモル)の溶液へ液滴で、4.11mLのn−BuLi(ヘキサン中2.5モル/L)を−78℃で添加した。15分後、15.8mLの無水THF中の2.31g(10.01ミリモル)の3,4,5−トリメトキシベンゾイル塩化物の溶液を添加した。次にその反応混合物を−30℃(ca1時間)まで暖め、19mLの酢酸を注意しながら添加した。溶媒を真空下で除去し、55mLのジエチルエーテル及び55mLの水を以前得られた油へ添加した。完全に溶解するまでかき混ぜた後、結果生じた混合物をデカンテーションし、水性層を固形NaCOでアルカリ化し、ジエチルエーテルで再抽出した。有機層は炭酸ナトリウムの飽和水性溶液及び鹹水で2回洗浄し、次に硫酸ナトリウムの上で乾燥させた。ジエチルエーテルを真空下で蒸発させ、エステル9をシリカゲルカラム(酢酸エチル/n−ヘキサン、7:3)上のクロマトグラフィによって精製し、淡黄色の油として1.4gの純粋N−脱メチル化トリメブチン9を得た(49%収率)。MS(ESI)、m/e374.1(M)。
【0075】
H NMR(CDCl):δ0.72(t,3H),1.7(s,1H,NH),1.75−1.9(m,2H),2.6(s,3H),3.76(s,6H),3.80(s,3H),4.50(dd,2H),7.07−7.44(m,7H).
13C NMR(DMSO−d):δ7.4,28.5,28.6,55.9,60.1,61.1,66.3,100.5,126.5,127.0,129.3,128.0,142.0,142.5,152.7,165.6。
【実施例7】
【0076】
N−脱メチル化トリメブチンシステイニル−ニトロアルギニナート(VII)
【化21】

【0077】
2−(2−アミノ−3−メルカプト−プロピオニルアミノ)−5−ニトログアニジノ−ペンタン酸(b)
50mLのジメチルホルムアミド中のBoc−Cys(Trt)−OH(3.0ミリモル)の溶液へ、ヒドロキシベンゾトリアゾール(3.3ミリモル)及びDCC(3.3ミリモル)を1時間0℃でかき混ぜながら添加した。その反応混合物へ、H−Arg(NO)−OtBu(3.0ミリモル)を添加して、0℃で3時間、室温で24時間機械的にかき混ぜた。濾過後、濾過物を減圧下で蒸発させ、溶媒を除去した。得られた油状残留物を酢酸エチルへ溶解した;有機層は鹹水で洗浄し、無水MgSO上で乾燥させ、濾過し、溶媒を蒸発させた。未精製中間体aをジクロロメタン(DCM中の40%TFA)中のトリフルオロ酢酸の溶液で処理した。1時間後、溶媒を除去し、H−Cys−Arg(NO)−OHを得た。未精製残留物としてのTFAをジエチルエーテルで沈殿させた;得られた固形物は水に溶解し、1N NaOHをゆっくり添加し、濾過によって回収された白色の固形物として2−(2−アミノ−3−メルカプト−プロピオニルアミノ)−5−ニトログアニジノ−ペンタン酸(b)を得た。
【0078】
N−脱メチル化トリメブチンシステイニル−ニトロアルギニナート(VII)
2−(2−アミノ−3−メルカプト−プロピオニルアミノ)−5−ニトログアニジノ−ペンタン酸(b;0.1モル)及びN−脱メチル化トリメブチン(0.1モル)の混合物へ、水(200mL)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を室温で透明になるまでかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【実施例8】
【0079】
3,4,5−トリメトキシ安息香酸2−(メチルアミノ)−2−フェニルブチルエステル4−チオカルバモイル安息香酸(N−脱メチル化トリメブチンチオカルバモイル安息香酸(VIII))
【化22】

【0080】
4−(チオカルバモイル)安息香酸(0.1モル)及び脱メチル化トリメブチン(0.1モル)の混合物をエチルアルコール(20mL)及びアセトニトリル(20mL)中に溶解し、次に水(200mL)を添加し、結果生じた懸濁液を室温で透明になるまでかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【0081】
H−NMR(400MHz,DMSO−d):δ0.72(t,3H),1.70−1.80(m,4H),1.80−1.90(m,2H),2.08(s,3H),2.90−3.40(m,2H),3.69(s,9H),3.95(m,1H),4.41(dd,2H),7.07(s,2H),7.22(t,1H),7.33(t,2H),7.52(d,2H)7.93(dd,4H),9.63(bs,1H,NH),10.02(bs,1H,NH).
13C−NMR(400MHz,DMSO−d):δ9.07,28.7,56.5,60.5,64.6,65.8,107.2,125.5,127.2,128.2,128.6,129.5,129.4,132.5,141.9,142.4,148.5,153.5,154.7,165.7,169.4,172.5,188.6.
mp65−67°C(dec.)。
【実施例9】
【0082】
N−脱メチル化トリメブチンADT−ニトロアルギニナート(IX)の合成
【化23】

【0083】
CH2Cl2(10ml)中のADT−OH(1.04ミリモル)のかき混ぜた懸濁液へ4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、1.16ミリモル)及び4−ニトロフェニルクロロギ酸(1.15ミリモル)を添加した。その反応混合物を10時間室温でかき混ぜた。薄層クロマトグラフィによって、望ましい産物の形成が完了したことが示された。溶媒を除去し、その残留物をジエチルエーテルで処理した;産物aを濾過によって回収し、更なる精製をせずに使用した(収率81%)。
【0084】
5−ニトログアニジノ−2−[4−(5−チオキソ−5H−[1,2]ジチオール−3−イル)−フェノキシカルボニル−アミノ]−ペンタン酸(b)の合成
50mLのCHCl中のa(1.04ミリモル)の溶液へ4−ジメチルアミノピリジン(1.16ミリモル)及びH−Arg(NO2)−OtBU(1.02ミリモル)を添加し、その溶液を20時間室温でかき混ぜた。次にその反応混合物をCHClで希釈し、飽和NaHCO及び飽和NaClで洗浄し、MgSO上で乾燥させた。未精製中間体をジクロロメタン(DCM中の40%TFA)中のトリフルオロ酢酸の溶液で処理した。1時間後、溶媒を除去し、ジエチルエーテルで沈殿させた未精製残留物として産物bを得た;得られた固形物は水に溶解し、1N NaOHをゆっくり添加し、濾過によって回収された白色の固形物として5−ニトログアニジノ−2−[4−(5−チオキソ−5H−[1,2]ジチオール−3−イル)−フェノキシカルボニル−アミノ]−ペンタン酸(b)を得た。
【0085】
N−脱メチル化トリメブチンADT−ニトロアルギニナート(IX)の合成
5−ニトログアニジノ−2−[4−(5−チオキソ−5H−[1,2]ジチオール−3−イル)−フェノキシカルボニル−アミノ]−ペンタン酸(b;0.1モル)及びN−脱メチル化トリメブチン(0.1モル)の混合物へ、水(200ml)及びエチルアルコール(20mL)を添加し、結果生じた懸濁液を室温で透明になるまでかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【実施例10】
【0086】
N−脱メチル化トリメブチンp−ヒドロキシチオベンズアミドニトロ−アルギニナート(X)の合成
【化24】

【0087】
カルボン酸4−ニトロ−フェニルエステル4−チオカルバモイル−フェニルエステル(a)の合成
CHCl(10ml)中のp−ヒドロキシチオベンズアミド(1.04ミリモル)のかき混ぜた懸濁液へ、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、1.16ミリモル)及び4−ニトロフェニルクロロギ酸(1.15ミリモル)を添加した。その反応混合物を室温で10分かき混ぜた。薄層クロマトグラフィによって望ましい産物の形成が完了したことが示された。溶媒を除去し、その残留物をジエチルエーテルで処理した;産物aは濾過によって回収し、更なる精製をせずに使用した(収率81%)。
【0088】
5−ニトログアニジノ−2−(4−チオカルバモイル−フェノキシカルボニルアミノ)−ペンタン酸(b)の合成
50mLのCHCl中のa(1.04ミリモル)の溶液へ4−ジメチルアミノピリジン(1.16ミリモル)及びH−Arg(NO)−OtBU(1.02ミリモル)を添加し、その溶液を室温で20時間かき混ぜた。次にその反応混合物をCHClで希釈し、飽和NaHCO及び飽和NaClで洗浄し、MgSO上で乾燥させた。未精製中間体をジクロロメタン(DCM中の40%TFA)中のトリフルオロ酢酸の溶液で処理した。1時間後、溶媒を除去し、ジエチルエーテルで沈殿させた未精製残留物として産物bを得た;得られた固形物は水に溶解し、1N NaOHをゆっくり添加し、濾過によって回収された白色の固形物として5−ニトログアニジノ−2−(4−チオカルバモイル−フェノキシカルボニルアミノ)−ペンタン酸(b)を得た。
【0089】
N−脱メチル化トリメブチンp−ヒドロキシチオベンズアミド−ニトロアルギニナート(X)の合成
5−ニトログアニジノ−2−(4−チオカルバモイル−フェノキシカルボニルアミノ)−ペンタン酸(b;0.1モル)及びN−脱メチル化トリメブチン(0.1モル)の混合物へ、水(200ml)及びエチルアルコール(20ml)を添加し、結果生じた懸濁液を室温で透明になるまでかき混ぜた。次にその溶液を凍結させ、望ましい塩(定量的収率)を供給するように凍結乾燥させた。
【0090】
化合物のテスト
【実施例11】
【0091】
内蔵痛認知のラットモデルにおける、塩Iであるトリメブチンニトロアルギニナートの効果対トリメブチン単独及びニトロアルギニン単独の効果の比較
過敏性腸症候群の前臨床モデルである内蔵痛認知のラットモデルは、以下の実施例で使用した。ラット(雄、Wistar、200〜250g、Charles River(Monza、イタリア)から購入)はプラスティックケージに収容し、12時間明/暗サイクルで7:00AMにライトが付くという調節条件下で維持した。水道水及び標準実験室固形飼料は自由に与えた。実験前、ラットには個々に、2〜3日間プレキシガラスにおいて1日2〜3時間費やして訓練させた。これによってラットは移動−制限環境に適用できた。食べ物は結腸直腸膨満(CRD)記録を実行する前12時間は控えた。実験は覚醒ラットで行い、観察者が各動物へ投与した薬剤の正体が分からないような盲検で行った。
【0092】
テスト当日、ラットはエーテル吸引で鎮静させ、2cm長ラテックスバルーンを肛門端から2cmの直腸内に挿入し、尾の基部で固定した。そのバルーンは二重バレルカニューレを介して、コンピュータ(PowerLab PC,A.D.Instruments,Milford,マサチューセッツ州、米国)によって直腸圧力を連続的にモニタリングする圧力トランスデューサー、及び前記バルーンの膨張/収縮に対するシリンジへ連結した。次に上昇Plexiglas(商標)プラットホーム上の小さなケージ(20x8x8cm)にラットを収容し、1時間覚醒及び適用させた。鎮静から回復した後、動物にCRD手順を施し、行動反応をテストした。実験前の夜、前記バルーンは膨張させ一晩放置したので、ラテックスは伸展し前記バルーンは適合した。
【0093】
5分毎に実行された20秒のCRDは、0.4mlから始めて1.6mlの水になるまで0.4mlずつの増加を適用させた。結腸パラメータ及び認知の正確な測定を達成するために、各強度において2回膨満を繰り返し、各動物のデータは解析用に平均化した。各動物はCRDの二重セットを施された。第一セットのCRD(0.4mL〜1.6mLの水)後20分で、薬剤を腹腔内(i.p,)へ投与し、第二セットのCRDを実行した。第一及び第二セットのCRDの間、行動反応を評価し比較した。
【0094】
CRDに対する行動反応は、半定量的スコア(1)を用いた腹部離脱性反射(abdominal withdrawal reflex:AWR)を測定することによって評価した。AWRは、内蔵運動反射と同様な不随意運動反射であるが、後者と比較した場合、付加的な感作を引き起こす腹筋壁に記録電極及びワイヤを移植する場合に腹部手術を必要としないという点で有意な利点を有している(Ness,T.J.and Gebhart,G.F.(1990)Pain41:167−234を参照のこと、これはこの参照により本明細書に組み込まれるものである)。
【0095】
AWRの測定は、盲検観察者による段階CRDに対する動物の反応の視覚的観察、及びAI−Chaer,E.D.et al.(2000)Gastroenterology 19:1276−85(これはこの参照によって本明細書に組み込まれるものである)に以前記載されたような、CRDに対する行動反応がないということに対応する段階0、刺激の開始時の短時間の頭部運動とそれに続く不動に対応する段階1、ラットの腹部をプラットホームから持ち上げていないにも関わらず生じる腹筋の穏やかな収縮に対応する段階2、プラットホームからの腹部の持ち上げを伴う腹筋の強い収縮に対応する段階3、及び身体アーチ及び腹部の持ち上げや骨盤構造及び陰嚢の持ち上げによって明らかになる腹筋の重度の収縮に対応する段階4といった行動スケールに従ったAWRスコアの割当値から成る。
【0096】
結腸コンプライアンス及び感受性に対するトリメブチンマレイン酸、ニトロアルギニン及びトリメブチンニトロアルギニナートの効果は、総数15匹の絶食ラットを用いて決定した。トリメブチンマレイン酸、ニトロアルギニン及びトリメブチンニトロアルギニナートの投与がCRDによって誘導された痛みを軽減できるかどうかを調査するために、第一セットのCRD(溶媒処理)後に5匹のラットを10mg/kg i.p.の用量のトリメブチン、6kg/ml i.p.の用量のニトロアルギニン、或いは16mg/kg i.p.の用量のトリメブチンニトロアルギニナートで処理し、その後第二セットのCRDを繰り返した。これらの実験の結果は図1(a)、2(a)及び3(a)に示した。
【0097】
結腸平滑筋に対するトリメブチンマレイン酸、ニトロアルギニン及びトリメブチンニトロアルギニナートの工科を決定するために、CRD中の結腸−肛門のコンプライアンスは、結腸内−肛門容積及び圧力から得て、mL/mmHgとして表現した。これらの結果は、図1(b)、2(b)及び3(b)に示した。
【0098】
トリメブチンニトロアルギニナートの内蔵鎮痛効果におけるNOの役割を決定するために、トリメブチンニトロアルギニナート(16mg/kg i.p.)或いは溶媒の投与10分前にラットをメチレンブルー(1mg/kg i.p.)、L−NAME(25mg/kg i.v.)或いは溶媒で前処理するという実験を行った。その結果は図4(a)及び4(b)に示した。
【0099】
全てのデータは、平均±SEMとして示し、サンプルサイズは5匹ラット/群であり;データの統計学的比較はスチューデント対応t検定(Student’s paird t−test)によって行った。5%以下の有意確率(p値)は有意とみなし、アステリスクによって示した。
【0100】
図1(a)、2(a)及び3(a)では、トリメブチンニトロアルギニナートは、結腸直腸膨満に対する反応における内蔵痛を軽減する点でトリメブチンマレイン酸或いはニトロアルギニンより効果的であることが示された。しかしながら、図1(b)、2(b)及び3(b)に示されたように、どの化合物も直腸内圧力を軽減する点では特に効果的ではなかった。図4(a)及び4(b)では、トリメブチンニトロアルギニナートの内蔵鎮痛効果は、一酸化窒素シンターゼの阻害剤(L−NAME)での前処理或いは可溶性グアニル酸シクラーゼの阻害剤(メチレンブルー)での前処理によって大部分は消失することが示された。これらの結果によって、トリメブチンニトロアルギニナートからの一酸化窒素の放出及び可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激は、この化合物の内蔵鎮痛効果に著しく貢献することが示唆された。
【0101】
従って、トリメブチンニトロアルギニナートは、消化管の様々な炎症性症状に関連した腹痛、さらには増加内蔵痛覚(付随炎症を有する或いは有さない)によって特徴付けされる過敏性腸症候群、胃腸障害などの機能的胃腸疾患を治療するのに有用である。
【実施例12】
【0102】
内蔵痛認知のラットモデルにおける、塩IIIであるトリメブチンチオカルバモイル安息香酸の効果対トリメブチン単独及びチオカルバモイル安息香酸単独の効果
各5匹ラットの群を溶媒、トリメブチンマレイン酸(10mg/kg)で処理した、或いはトリメブチンチオカルバモイル安息香酸(塩III)或いはチオカルバモイル安息香酸単独で処理したという例外以外は、実施例11で記載したように実験を行った。
【0103】
図5(a)及び5(b)では、トリメブチンチオカルバモイル安息香酸は、結腸直腸膨満に対する反応における内蔵痛を軽減する点でトリメブチンマレイン酸或いはチオカルバモイル安息香酸より効果的であることが示された。
【0104】
従って、トリメブチンチオカルバモイル安息香酸は、消化管の様々な炎症性症状に関連した腹痛、さらには増加内蔵痛覚(付随炎症を有する或いは有さない)によって特徴付けされる過敏性腸症候群、胃腸障害などの機能的胃腸疾患を治療するのに有用である。
【実施例13】
【0105】
4−(チオカルバモイル)安息香酸及び5−(4−アミノ−フェニル)−[1,2]ジチオール−3−チオンによるHSの産生
S産生に対する3つの異なる条件下でHSを産生するために5−(4−アミノ−フェニル)−[1,2]ジチオール−3−チオン(ADT−OH)及び4−(チオカルバモイル)安息香酸(TBZ)という2つの化合物をテストした。特に、1mM濃度ADT−OH及びTBZから1時間以内で産生されたHSの濃度を測定した。HS放出は3つの条件下でテストした:(i)化合物が緩衝液中に存在する場合、(ii)化合物が肝臓ホモジネート中に存在する場合、及び(iii)化合物が、シスタチオニン−γ−リアーゼ(PAG=DL−プロパルギルグリシン;2mM)の阻害剤である酵素の活性を阻止するHSシンターゼの阻害剤と共に、肝臓ホモジネートに存在する場合、である。結果は図6に示した。アステリスク(*)は、対応溶媒処理群と比較して有意な(p<0.05)増加を意味する。アルファ(α)は、PAGの存在下でのインキュベーションの結果としてのHS合成の有意な減少を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
・X
の化合物であって、
Aは、
【化25】

及びそれらの対応立体異性体であり;
Xは、NO−放出、HS−放出部位、或いは混合性NO−及びHS−放出部位である、化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物において、Xは、
【化26】

から成る群から選択されるものである。
【請求項3】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はトリメブチンアルギニナート(trimebutine argininate)である。
【請求項4】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はトリメブチンシステイニル−ニトロアルギニナート(trimebutine cysteinyl−nitroargininate)である。
【請求項5】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はトリメブチンチオカルバモイル安息香酸(trimebutine thiocarbamoyl benzoate)である。
【請求項6】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はトリメブチン5−フェニル−1,2−ジチオン−3−チオン−ニトロアルギニナート(trimebutine 5−phenyl−1,2−dithione−3−thione−nitroargininate)である。
【請求項7】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はトリメブチンp−ヒドロキシチオベンズアミド−ニトロアルギニナート(trimebutine p−hydroxythiobenzamide−nitroargininate)である。
【請求項8】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はN−脱メチル化トリメブチンニトロアルギニナート(N−desmethyltrimebutine nitroargininate)である。
【請求項9】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はN−脱メチル化トリメブチンシステイニル−ニトロアルギニナート(N−desmethyltrimebutine cysteinyl−nitroargininate)である。
【請求項10】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はN−脱メチル化トリメブチンチオカルバモイル安息香酸(N−desmethyltrimebutine thiocarbamoylbenzoate)である。
【請求項11】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はN−脱メチル化トリメブチン5−フェニル−1,2−ジチオン−3−チオン−ニトロアルギニナート(N−desmethyltrimebutine 5−phenyl−1,2−dithione−3−thione−nitroargininate)である。
【請求項12】
請求項2記載の化合物において、前記化合物はN−脱メチル化トリメブチンp−ヒドロキシチオベンズアミド−ニトロアルギニナート(N−desmethyltrimebutine p−hydroxythiobenzamide−nitroargininate)である。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1つに記載された化合物及び薬学的に許容可能な賦形剤或いは担体を有する、薬学的組成物。
【請求項14】
治療を必要とする対象における内蔵痛を治療する方法であって、
請求項1〜10のいずれかに記載された化合物を内蔵痛が軽減する量で前記対象に投与する工程を有する、方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、前記内蔵痛は腹痛である。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記腹痛は炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、糖尿病性胃不全麻痺、及び胃腸障害などの胃腸疾患に起因するものである。
【請求項17】
一般式ニトロアルギニン−Rを有する化合物であって、Rは、トリメブチン及びN−モノ脱メチル化トリメブチンの塩を調合するためのHS−放出部位である、化合物。
【請求項18】
請求項17記載の化合物において、前記Rは、5−p−ヒドロキシフェニル−1,2−ジチオン−3−チオン、システイン、及び4−(チオカルバモイル)安息香酸から成る群から選択されるものである。
【請求項19】
治療を必要とする対象における内蔵痛を治療するための薬物の調合における、請求項1〜10に記載された化合物の使用。
【請求項20】
請求項19記載の使用において、前記内蔵痛は腹痛である。
【請求項21】
請求項20記載の使用において、前記腹痛は炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、糖尿病性胃不全麻痺、及び胃腸障害などの胃腸疾患に起因するものである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−539777(P2009−539777A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513524(P2009−513524)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001008
【国際公開番号】WO2007/140611
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(507391133)アンタイブ セラピューティクス インク. (4)
【Fターム(参考)】