説明

トルク変動吸収ダンパ

【課題】トルクを、その変動を吸収しながら伝達可能であって、しかもベルトスリップの発生を防止可能なトルク変動吸収ダンパを提供する。
【解決手段】ハブ1と、このハブ1に相対回転可能に支持されたプーリ2と、外周がプーリ2側の内周に摺動可能に接触された状態に配置されたスプリングクラッチ8と、一端がハブ1に取り付けられ、他端がスプリングクラッチ8の一端に連結されたカップリングゴム5を備え、スプリングクラッチ8が、ハブ1の正方向の回転に対するプーリ2の遅角差動において拡径され進角差動において縮径されるように巻かれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等の回転駆動装置の出力軸から、他の回転機器へトルクを伝達するプーリに、伝達トルクの変動を吸収する機構を設けたトルク変動吸収ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関で発生する駆動力の一部は、クランクシャフトの先端に設けられたプーリから、これに巻き掛けられたベルトを介して例えばオルタネータやウォーターポンプ等の補器に与えられるが、クランクシャフトはトルク変動を伴って回転されるので、前記プーリには、トルク変動を吸収して伝達トルクの平滑化を図るためのトルク変動吸収機構が設けられる。図6は、このようなトルク変動吸収ダンパの典型的な従来技術を示すものである。
【0003】
すなわち、この種のトルク変動吸収ダンパは、自動車用内燃機関のクランクシャフトの軸端に取り付けられて一体に回転するハブ100と、このハブ100に取り付けられたダイナミックダンパ部110及びフレキシブルカップリング部120を備える。
【0004】
ダイナミックダンパ部110は、ハブ100の外筒部101と、その外周に配置した環状質量体112の間に、第一の弾性体111を圧入した構造を有する。また、カップリング部120は、環状質量体112の外周にラジアルベアリング123を介して支持されたプーリ121と、このプーリ121からハブ100の背面側(図6における右側)を内径方向へ向けて延在された内向きフランジ部121aとハブ100の外筒部101の間に介在されたスラストベアリング122と、プーリ121の内向きフランジ部121aの内径からハブ100の外筒部101の内周側へ延びるスリーブ部121bの間に介在されたラジアルベアリング123と、ハブ100の内筒部102の外周面に嵌着されたスリーブ103と前記プーリ121のスリーブ部121bとの間に加硫接着された第二の弾性体124とからなる。
【0005】
すなわち、この種のトルク変動吸収ダンパは、クランクシャフトからハブ100へ入力されたトルクを、フレキシブルカップリング部120において、第二の弾性体124の捩り方向剪断変形作用によってトルク変動を吸収しながらプーリ121へ伝達すると共に、第一の弾性体111及び環状質量体112で構成されるばね−質量系からなるダイナミックダンパ部110が、クランクシャフトの共振周波数域で捩り方向へ共振することによって、クランクシャフトの共振を動的吸収する制振機能を発揮するものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第2605662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のトルク変動吸収ダンパは、内燃機関を急激に減速させたり停止させたりする際に、プーリ121と、これに巻き掛けられた不図示のベルトとの間に滑りを生じる問題がある。そしてこのようなベルトスリップを生じると、「ベルト鳴き」と呼ばれる異音が発生するばかりか、ベルトが摩耗してその耐久性を低下させ、走行に支障を来たすなどの懸念がある。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、トルクを、その変動を吸収しながら伝達可能であって、しかもベルトスリップの発生を防止可能なトルク変動吸収ダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、ハブと、このハブに相対回転可能に支持されたプーリと、外周が前記プーリ側の内周に摺動可能に接触された状態に配置されたスプリングクラッチと、一端が前記ハブに取り付けられ、他端が前記スプリングクラッチの一端に連結されたカップリングゴムを備え、前記スプリングクラッチが、前記ハブの正方向の回転に対するプーリの遅角差動において拡径され進角差動において縮径されるように巻かれたものである。
【0010】
上記構成において、ハブに入力された正回転方向のトルクは、カップリングゴム及びスプリングクラッチを介してプーリへ伝達される。カップリングゴムは、スプリングクラッチの一端とハブとの間で捩り変形を受けることによって、ハブからの伝達トルクの変動を吸収し、スプリングクラッチの一端へ作用するトルクの変化を緩和するものである。また、スプリングクラッチは、その一端にハブからカップリングゴムを介して伝達されるトルクと、プーリ側の内周との摩擦力によって捩り変形を受け、その捩り変形によって拡径させる方向のトルクを伝達し、縮径させる方向のトルクを遮断するワンウェイクラッチ機能を奏するものである。
【0011】
すなわちハブに正回転方向のトルクが入力されることにより、プーリにハブとの遅角差動を生じると、スプリングクラッチは、拡径するように捩り変形を受けてプーリ側に圧接し、その摩擦力が増大するので、ハブからカップリングゴム及びスプリングクラッチを介しての正回転方向のトルクの伝達が行われる。また、正方向の回転の減速時には、プーリ側の慣性によってプーリにハブとの進角差動を生じると、スプリングクラッチは縮径するように捩り変形を受けるので、スプリングクラッチとプーリ側との摩擦力が減少し、これによってプーリが自由回転状態となってプーリとその外周に巻き掛けられるベルトの滑りが防止される。
【0012】
請求項2の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1に記載の構成において、スプリングクラッチとプーリの内周面との間に、拡径・縮径可能な摩擦部材が摺動可能に介装されたものである。
【0013】
上記構成によれば、正回転方向のトルクによって、プーリにハブとの遅角差動を生じると、スプリングクラッチは、拡径するように捩り変形を受けて摩擦部材をプーリの内周面に押し付けるので、スプリングクラッチ、摩擦部材及びプーリ間の摩擦力が増大して、プーリへの正回転方向のトルクの伝達が行われる。また、正方向の回転の減速時には、プーリ側の慣性によってプーリにハブとの進角差動を生じると、スプリングクラッチは縮径するように捩り変形を受けるので、スプリングクラッチ、摩擦部材及びプーリ間の摩擦力が減少し、これによってプーリが自由回転状態となってプーリとその外周に巻き掛けられるベルトの滑りが防止される。
【0014】
請求項3の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1又は2に記載の構成において、プーリの軸方向両側に一対のスラストベアリングが配置され、カップリングゴムが、前記一対のスラストベアリング及びプーリをハブに設けたフランジ側へ押圧する手段を兼ねるものである。
【0015】
上記構成によれば、カップリングゴムが、プーリ及びその軸方向両側に配置した一対のスラストベアリングをハブのフランジ側へ押圧することによって、プーリがカップリングゴムとフランジとの間でスラストベアリングを介して軸方向両側から挟持されるので、プーリが軸方向に対して安定して支持される。
【0016】
請求項4の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1〜3のいずれかに記載の構成において、プーリに、スプリングクラッチの外側を包囲するダストカバーが設けられ、カップリングゴムに、前記ダストカバーと摺動可能に密接されるシールリップが形成されたものである。
【0017】
上記構成によれば、プーリに設けたダストカバーと、これに摺動可能に密接されるシールリップによって、スプリングクラッチの摺動部へのダスト等の侵入が防止される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るトルク変動吸収ダンパによれば、カップリングゴム及びスプリングクラッチを介してハブとプーリ間での正方向のトルク伝達が行われ、減速時には逆方向のトルク伝達が遮断されるので、プーリとその外周に巻き掛けられるベルトの滑りを有効に防止することができる。しかもカップリングゴムが捩り変形を受けることによって、伝達トルクの変動が吸収されると共に、スプリングクラッチの破損が防止される。
【0019】
また、スプリングクラッチとプーリとの間に摩擦部材を摺動可能に介装することによって、スプリングクラッチの耐久性が高まり、カップリングゴムはスラストベアリングを介してプーリを支持する支持手段を兼ねることができ、また、スプリングクラッチの摺動部へのダスト等の侵入を防止するシールリップを設けることで、初期の機能を長期にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図2】図1に示す実施の形態におけるカップリングゴムの一部を示す断面斜視図である。
【図3】図1に示す実施の形態における第二のスラストベアリングを示す斜視図である。
【図4】図1に示す実施の形態における摩擦部材を示す斜視図である。
【図5】図1に示す実施の形態におけるスプリングクラッチを示す斜視図である。
【図6】従来の技術によるトルク変動吸収ダンパの一例を、軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において用いられる「正面側」とは、各図における左側、すなわち車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、各図における右側、すなわち不図示の内燃機関が存在する側のことである。
【0022】
まず図1において、参照符号1は、自動車の内燃機関のクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられるハブである。このハブ1は、金属材料の鋳造等により製作されたものであって、クランクシャフトに固定される内筒部11と、その正面側の端部から外径側へ展開する中間部12と、その外径端部から背面側へ延びる外筒部13と、さらにその正面側の端部から外径方向へ延びる外径フランジ14を有する。なお、参照符号11aは、内筒部11の内周の軸孔に形成されたキー溝であり、外径フランジ14は、請求項3に記載された「ハブに設けたフランジ」に相当するものである。
【0023】
ハブ1の外周側には、プーリ2が同心的に近接配置されている。このプーリ2は、金属材料の鋳造等により製作されたプーリ本体21と、金属板のプレス成形等により製作され前記プーリ本体21に一体的に嵌着されたダストカバー22からなる。
【0024】
プーリ2におけるプーリ本体21は、外周面にポリV溝が形成された巻き掛け筒部21aと、その内周から内径方向へ延びてハブ1の外径フランジ14に背面側から軸方向に対向する被支持フランジ部21bと、さらにこの被支持フランジ部21bの内径端部から背面側へ向けて延びてハブ1の外筒部13の外周面と径方向に対向する被支持筒部21cとを備える。ポリV溝が形成された巻き掛け筒部21aの外周面には、不図示のベルトが巻き掛けられるようになっている。
【0025】
ハブ1の外筒部13と、これに外周側から径方向に対向するプーリ本体21の被支持筒部21cとの間には、ラジアルベアリング3が摺動可能な状態で介在している。このラジアルベアリング3は摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの合成樹脂材料からなるものであって、円筒状に成形されており、すなわちプーリ本体21(プーリ2)は、ラジアルベアリング3を介して、ハブ1の外筒部13に相対回転可能な状態で径方向に支持されている。
【0026】
ハブ1の外径フランジ14と、これに背面側から軸方向に対向するプーリ本体21の被支持フランジ部21bとの間には、第一のスラストベアリング4が摺動可能な状態で介在している。この第一のスラストベアリング4は摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFEなどの合成樹脂材料からなるものであって、平ワッシャ状に成形されている。
【0027】
プーリ本体21の被支持フランジ部21bから見てハブ1の外径フランジ14と軸方向反対側、すなわち前記被支持フランジ部21bの背面側にはカップリングゴム5が配置されている。このカップリングゴム5は、図2の斜視図にも示すように、ハブ1の外筒部13の内周面に圧入・嵌着された嵌着筒部51a及びその背面側の端部からハブ1の外径フランジ14の背面側の空間へ向けて径方向へ展開する円盤部51bからなる金属製のホルダ51と、このホルダ51における前記円盤部51bの正面側にあってプーリ本体21の被支持フランジ部21bと軸方向に対向する平ワッシャ状のリテーナ52と、このリテーナ52とホルダ51の円盤部51bの間に一体に設けられたカップリングゴム本体53からなる。また、カップリングゴム本体53の外周面には、シールリップ53aが形成されている。なお、ホルダ51は請求項1に記載されたカップリングゴムの一端に相当するものであり、リテーナ52は請求項1に記載されたカップリングゴムの他端に相当するものである。
【0028】
カップリングゴム本体53は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるものであって、すなわちカップリングゴム5は、不図示の金型内にホルダ51及びリテーナ52を同心的にセットし、このホルダ51とリテーナ52の間に前記金型の型締めによって画成される環状のキャビティに、未加硫ゴム材料を充填して加熱・加圧することによって、カップリングゴム本体53を前記ホルダ51及びリテーナ52に一体に加硫成形(加硫接着)したものである。
【0029】
カップリングゴム5のリテーナ52と、これに対向するプーリ本体21の被支持フランジ部21bの間には、第二のスラストベアリング6が摺動可能な状態で介在している。この第二のスラストベアリング6は摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFEなどの合成樹脂材料からなるものであって、平ワッシャ状に成形されている。リテーナ52には、正面側へ向けて打ち出された複数の係合突部52aが所定間隔で形成されており、第二のスラストベアリング6には、図3に示すように複数の係合穴6aが前記係合突部52aと対応する位置に開設されており、図1に示すように両者52a,6aが互いに嵌合されることによってリテーナ52と第二のスラストベアリング6の相対回転が規制されている。
【0030】
カップリングゴム5のカップリングゴム本体53は、予圧縮されることによってその反力としての軸方向付勢力が与えられており、この軸方向付勢力によって、リテーナ52が第二のスラストベアリング6に圧接している。このため、第二のスラストベアリング6、プーリ本体21の被支持フランジ部21b、及び第一のスラストベアリング4がハブ1の外径フランジ14へ向けて押し付けられ、これによって、第一のスラストベアリング4及び第二のスラストベアリング6に、プーリ本体21の被支持フランジ部21bに対する所定の軸方向拘束力が付与されている。
【0031】
プーリ2におけるダストカバー22は、プーリ本体21の巻き掛け筒部21aの内周面に圧入・嵌着されたスリーブ部22aと、その背面側の端部から内径側へ延びる背面部22bと、さらにその内径端部から正面側へ折り返された内径筒部22cからなる。
【0032】
プーリ2におけるダストカバー22の内側には、摩擦部材7が、前記ダストカバー22の内周面と摺動可能な状態で配置されている。すなわちこの摩擦部材7は全体として円筒状であると共に背面側の端部が内径側へ屈曲した、軸心Oを通る平面で切断した断面形状が略L字形をなすものであって、摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFEなどの合成樹脂材料からなる摩擦部材本体71と、その内周に一体的に接合された金属スリーブ72からなり、図4に示すように、円周方向一個所が切断7aされることによって拡径・縮径変形が可能となっている。
【0033】
摩擦部材7における摩擦部材本体71の外周面及び背面側の端面は、プーリ2におけるダストカバー22のスリーブ部22aの内周面及び背面部22bの内側面と摺動可能に接触されている。
【0034】
プーリ2におけるダストカバー22の内側であって摩擦部材7の内周側には、スプリングクラッチ8が配置されている。このスプリングクラッチ8は、図5に示すような円筒コイル状のものであって、正面側の端部に形成された係合突部8aがカップリングゴム5のリテーナ52に図2に示すように開設された係合穴52bに挿し込み係合することによって、このリテーナ52に円周方向に連結されている。すなわちスプリングクラッチ8は、正面側の端部がカップリングゴム5を介してハブ1に連結されていると共に、外周が摩擦部材7における金属スリーブ72の内周面に弾性的にかつ摺動可能に接触されている。
【0035】
そしてこのスプリングクラッチ8は、その一端の係合突部8aにカップリングゴム5を介してハブ1から伝達されるトルクと、摩擦部材7における金属スリーブ72の内周面に接触していることによる摩擦力によって捩り変形を受け、その捩り変形によって拡径させる方向のトルク(図5に示すR1方向のトルク)を伝達し、縮径させる方向のトルク(図5に示すR2方向のトルク)を遮断するものである。したがってこのスプリングクラッチ8の巻き方向は、係合突部8aに与えられるハブ1の正方向(図5に示すR1方向)の回転に対するプーリ2の遅角差動が生じた場合(ハブ1の回転速度がプーリ2より速くなった場合)に拡径され、ハブ1の正方向の回転に対するプーリ2の進角差動が生じた場合(ハブ1の回転速度がプーリ2より遅くなった場合)に縮径される螺旋方向となっている。
【0036】
カップリングゴム5におけるカップリングゴム本体53の外周面に形成されたシールリップ53aは、プーリ2におけるダストカバー22の内径筒部22cの内周面と摺動可能に密接されており、このため、摩擦部材7及びスプリングクラッチ8が配置された空間が、ダストカバー22とその内径筒部22cに密接したシールリップ53aによってシールされている。
【0037】
以上の構成を備えるトルク変動吸収ダンパは、ハブ1の内筒部11が不図示のクランクシャフトの軸端に装着されることによって、このクランクシャフトと共に回転されるものである。このとき、クランクシャフトの正回転方向の駆動トルクは、ハブ1からカップリングゴム5を介して、そのリテーナ52に開設された係合穴52bからスプリングクラッチ8の係合突部8aへ伝達されるので、ハブ1がプーリ2に対して正回転方向へ先行することによって、プーリ2がハブ1との遅角差動を生じると、スプリングクラッチ8は摩擦部材7における金属スリーブ72の内周面との摩擦力によって拡径する方向の捩り変形を受ける。このため円周方向一個所が切断7aされた摩擦部材7は、拡径するスプリングクラッチ8に押圧されて摩擦部材本体71の外周面がプーリ2におけるダストカバー22のスリーブ部22aの内周面に圧接するので、スプリングクラッチ8と摩擦部材7とスリーブ部22aとの摩擦力が増大して、ハブ1からスプリングクラッチ8及び摩擦部材7を介しての正回転方向のトルク伝達が行われる。
【0038】
なお、ハブ1への入力トルクの一部は、ハブ1の外筒部13とプーリ本体21の被支持筒部21cとの間に介在するラジアルベアリング3の摩擦力と、ハブ1の外径フランジ14とプーリ本体21の被支持フランジ部21bとの間に介在する第一のスラストベアリング4の摩擦力と、前記被支持フランジ部21bとカップリングゴム5のリテーナ52との間に介在する第二のスラストベアリング6の摩擦力によってもプーリ2へ伝達される。
【0039】
そしてプーリ2に伝達された駆動トルクは、そのプーリ本体21の巻き掛け筒部21aに巻き掛けられたベルトを介して、冷却水循環ポンプや、オルタネータや、冷却ファン等の補機の回転軸に伝達される。
【0040】
ここで、内燃機関ではシリンダ内のピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換しているため、クランクシャフトには回転に伴ってトルク変動を生じており、したがってその軸端に取り付けられたハブ1には捩り方向の振動が入力されて振れ回りを生じることになるが、このようなトルク変動は、ハブ1とスプリングクラッチ8の間で、カップリングゴム5によって吸収される。詳しくは、ハブ1に嵌着されたホルダ51と、スプリングクラッチ8に結合されたリテーナ52との間で、カップリングゴム本体53が捩り方向の剪断変形を受けることによって、トルク変動による運動エネルギが、カップリングゴム本体53の内部摩擦により熱エネルギとして消費されるので、スプリングクラッチ8の係合突部8aに作用する急激なトルク変動が緩和され、スプリングクラッチ8の破損が防止される。
【0041】
なお、ハブ1からの伝達トルクの変動は、ラジアルベアリング3、第一のスラストベアリング4、及び第二のスラストベアリング6の滑りによっても一部が吸収される。
【0042】
また、正方向の回転の減速時には、プーリ2におけるプーリ本体21の巻き掛け筒部21aに巻き掛けられたベルト及びこれによって駆動される補機が、慣性によって等速回転を継続しようとすることによって、プーリ2がハブ1との進角差動を生じると、スプリングクラッチ8は摩擦部材7における金属スリーブ72の内周面との摩擦力によって縮径する方向の捩り変形を受けるので、スプリングクラッチ8と摩擦部材7とプーリ2(ダストカバー22のスリーブ部22a)との摩擦力が減少し、これによってプーリ2が自由回転状態となって、プーリ本体21とその外周に巻き掛けられるベルトの滑りが防止される。したがって、回転数0から常用回転域までのすべての領域で、ベルトスリップやこれによる「ベルト鳴き」の発生及びベルトの耐久性低下を防止することができる。
【0043】
しかもプーリ2におけるダストカバー22の内径筒部22cの内周面には、カップリングゴム5のカップリングゴム本体53に形成されたシールリップ53aが摺動可能に密接されていることによって、摩擦部材7及びスプリングクラッチ8が配置された空間Sがシールされているため、摩擦部材7及びスプリングクラッチ8の摺動部、ひいてはラジアルベアリング3及び第二のスラストベアリング6の摺動部へのダスト等の侵入が防止され、初期の機能を長期にわたって維持することができる。
【0044】
そして上記構成によれば、カップリングゴム5は、上述のように伝達トルクの変動を緩和してスプリングクラッチ8の破損を防止する手段であると共に、第一のスラストベアリング4及び第二のスラストベアリング6によるプーリ本体21の被支持フランジ部21bへの軸方向拘束力を付与する手段、及び摩擦部材7やスプリングクラッチ8の摺動部等へのダスト等の侵入を防止する手段を兼ねるものである。
【0045】
なお、上述した実施の形態では、摩擦部材7を円周方向一個所で切断したC字形としたが、複数個所にスリットを入れたコレット型とし、あるいは円周方向複数個に分離したセグメント状としたものなども適用可能である。
【0046】
また、上述した実施の形態では、摩擦部材7(摩擦部材本体71)の外周面がプーリ2におけるダストカバー22のスリーブ部22aの内周面に密接されているが、プーリ本体21の巻き掛け筒部21aの内周面に摺動可能に密接された構成とすることもできる。
【0047】
さらに、スプリングクラッチ8とプーリ本体21の間に摩擦部材7を介装せず、スプリングクラッチ8の外周面は、ダストカバー22のスリーブ部22aの内周面又はプーリ本体21の巻き掛け筒部21aの内周面に直接接触させても良いが、この場合はダストカバー22の内側の空間Sに潤滑用の油脂類を封入することが望ましい。
【符号の説明】
【0048】
1 ハブ
14 外径フランジ
2 プーリ
21 プーリ本体
22 ダストカバー
3 ラジアルベアリング
4 第一のスラストベアリング(スラストベアリング)
5 カップリングゴム
51 ホルダ
52 リテーナ
53 カップリングゴム本体
53a シールリップ
6 第二のスラストベアリング(スラストベアリング)
7 摩擦部材
71 摩擦部材本体
72 スリーブ
8 スプリングクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、このハブに相対回転可能に支持されたプーリと、外周が前記プーリ側の内周に摺動可能に接触された状態に配置されたスプリングクラッチと、一端が前記ハブに取り付けられ、他端が前記スプリングクラッチの一端に連結されたカップリングゴムを備え、前記スプリングクラッチが、前記ハブの正方向の回転に対するプーリの遅角差動において拡径され進角差動において縮径されるように巻かれたことを特徴とするトルク変動吸収ダンパ。
【請求項2】
スプリングクラッチとプーリの内周面との間に、拡径・縮径可能な摩擦部材が摺動可能に介装されたことを特徴とする請求項1に記載のトルク変動吸収ダンパ。
【請求項3】
プーリの軸方向両側に一対のスラストベアリングが配置され、カップリングゴムが、前記一対のスラストベアリング及びプーリをハブに設けたフランジ側へ押圧する手段を兼ねることを特徴とする請求項1又は2に記載のトルク変動吸収ダンパ。
【請求項4】
プーリに、スプリングクラッチの外側を包囲するダストカバーが設けられ、カップリングゴムに、前記ダストカバーと摺動可能に密接されるシールリップが形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトルク変動吸収ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7437(P2013−7437A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140507(P2011−140507)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】