説明

トレーサビリティが表示されたPGコート製品およびその製造方法

【課題】PGコート製品に適用可能な新規有用なトレーサビリティ表示手法を提供する。
【解決手段】PBNなどで本体1を製造した後、該本体表面の任意箇所に純化黒鉛でトレーサビリティ表示2を設け、該トレーサビリティ表示を含めた本体表面を膜厚100μm以下のPG膜3で被覆して、PGコート製品4が製造される。PG膜厚を100μmとすれば、本体表面に表示した製品シリアル番号を読み取るに十分な透明性を与えることができるので、トレーサビリティ表示手法として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体表面をPG(熱分解グラファイト)膜で被覆したPGコート製品に関し、より詳しくは、トレーサビリティが表示されたPGコート製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレーサビリティは対象製品の流通履歴を確認できる追跡性を意味し、食品の安全性を示す指標として食品分野で多用されているほか、近年は工業製品においてもその必要性ないし重要性が認識されている。
【0003】
PGは、熱伝導性・耐熱性・化学的安定性・耐衝撃性などの物性においてきわめて優れており、たとえばPBNなどの電気絶縁材料から所定の容器形状に形成された本体の表面をPG膜で被覆したPGコート製品が各種製造され、使用されている。
【0004】
たとえば、電子部品等の基板に金属薄膜を蒸着(いわゆるイオンプレーティングを含む)させる際の蒸発源として電子ビームを用いる電子ビーム蒸着では、水冷された銅製のハース(るつぼ)に蒸着材料を充填して電子ビームを照射しているが、近年では、ハース内にハースライナーを収容してこのハースライナーに蒸着材料を充填して電子ビーム照射することが主流となっており、このハースライナーについて、PBN(熱分解窒化ボロン)からなる本体の表面をPGなどの導電性膜で被覆した構成のものが知られている(特許文献1)。
【0005】
層構造を有するPBN単体でハースライナーを構成すると、これに蒸着材料としてのアルミニウムを充填して電子ビームを照射したときに、溶融したアルミニウムが表面張力によってハースライナーの容器壁の頂面まで這い上がり、該容器壁頂面に断面として露出しているPBN層内に浸透してしまい、これが冷却後に固化することによってPBN層を拡げてハースライナーに層剥離による割れを生じさせることが懸念されるが、その表面をPGコーティングすることによって、上記問題を解決することができる。
【0006】
このようなPGコート製品についてもトレーサビリティは重要であり、製品ごとにシリアル番号などで製造年月日や製造工場、検査成績などをコンピュータ管理することにより、品質管理、クレーム対応、返品管理、耐用期限管理などに役立てることができる。
【0007】
従来、PGコート製品に対するトレーサビリティ表示は、完成したPGコート製品の底面などにシリアル番号を手書きまたは刻印することによって行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−059766
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ハースライナーのようなPGコート製品が過酷な条件下で繰り返し使用および洗浄されると、手書きや刻印によるシリアル番号が徐々に不明確になり、視認することが困難になる。
【0010】
PGコート製品が先述の電子ビーム蒸着などの各種工程に使用される場合、製品ロットの異なる製品が混載されることが多く、また、特定のPGコート製品がある工程ないしある装置において常に同じ場所で使用されるとは限らない。このため、使用後にPGコート製品を取り出したときに、シリアル番号が判読できない状態になっていると、当該PGコート製品のトレーサビリティが完全に失われてしまう。
【0011】
また、シリアル番号を刻印することはPGコート製品にダメージを与えることになるので、その本来の機能や耐久性を損なうおそれがあり、好ましい手法であるとは言いがたい。
【0012】
したがって、本発明は、従来の刻印という手法に代えてPGコート製品に適用可能な新規有用なトレーサビリティ表示手法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、各種PGコート製品を製造していく過程で、従来は不透明であると認識されていたPG被膜も、その膜厚をコントロールすることによって透明性を与えることができることを知見し、この知見に基づいて研究と実験を重ねた結果、前記課題を解決し得るものとして本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、請求項1に係る本発明は、本体表面をPG膜で被覆したPGコート製品において、本体表面の任意箇所において黒鉛によるトレーサビリティ表示が設けられ、該トレーサビリティ表示が膜厚100μm以下のPG膜を通して外部から視認可能であることを特徴とする、トレーサビリティが表示されたPGコート製品である。
【0015】
請求項2に係る本発明は、本体を製造した後、該本体表面の任意箇所に黒鉛でトレーサビリティ表示を設け、該トレーサビリティ表示を含めた本体表面を膜厚100μm以下のPG膜で被覆することを特徴とする、トレーサビリティが表示されたPGコート製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PGコート製品の製造過程において本体とPGコートとの間にトレーサビリティ表示が設けられるので、繰り返し使用されてもトレーサビリティ表示が失われることがない。また、本体やPGコートにダメージを与えないので、PGコート製品本来の機能や耐久性が損なわれない。
【0017】
PG膜の膜厚を100μm以下とすることにより、本体表面に設けたトレーサビリティ表示を読み取るに十分な透明性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によりトレーサビリティが表示されたPGコート製品を製造する工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の一実施形態によるPGコートPBNハースライナー(PGコート製品)である。
【図3】本発明の実施例1においてPG膜厚を10μmとして製造したPGコートPBNハースライナー(PGコート製品)の製品シリアル番号(トレーサビリティ表示)の視認状態を示す写真図である。
【図4】本発明の実施例1においてPG膜厚を20μmとして製造したPGコートPBNハースライナー(PGコート製品)の製品シリアル番号(トレーサビリティ表示)の視認状態を示す写真図である。
【図5】本発明の実施例1においてPG膜厚を30μmとして製造したPGコートPBNハースライナー(PGコート製品)の製品シリアル番号(トレーサビリティ表示)の視認状態を示す写真図である。
【図6】本発明の実施例1においてPG膜厚を80μmとして製造したPGコートPBNハースライナー(PGコート製品)の製品シリアル番号(トレーサビリティ表示)の視認状態を示す写真図である。
【図7】本発明の実施例1においてPG膜厚を100μmとして製造したPGコートPBNハースライナー(PGコート製品)の製品シリアル番号(トレーサビリティ表示)の視認状態を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明によりトレーサビリティが表示されたPGコート製品を製造する工程を示すフロー図である。
【0020】
まず、PGコート製品の本体を製造する(S1)。たとえば、本発明により、トレーサビリティが表示されたPGコートPBNハースライナーを製造しようとするときは、PBNハースライナー本体をCVD(化学的気相成長法)による熱分解法で製造する。本体の材料は特に限定されないが、後に純化グラファイトでトレーサビリティ表示が付されること、およびその上にさらにPGコーティングされることから、グラファイト(黒鉛)による製品劣化を無視できる材料であることが好ましい。このような好適な材料としては、PBNのほか、SiC(炭化ケイ素)などを挙げることができる。
【0021】
次に、S1で製造された本体をマンドレルから取り外し、その表面の目立たない箇所、たとえば底面などに、当該製品のトレーサビリティを示す製品シリアル番号などを表示する(S2)。この表示には、次のS3でコーティングされるPG膜の物性に影響を与えないよう、黒鉛、好ましくは純化黒鉛を用いる。
【0022】
次に、トレーサビリティが表面に表示された本体の全表面(好ましくは表裏面)をPGでコーティングする。このとき、PG膜の膜厚が100μm以下となるように成膜条件をコントロールすることにより、本体表面に表示したトレーサビリティ表示を読み取るに十分な透明性を与えることができる。
【0023】
したがって、このようにして製造されたPGコート製品(S4)にあっては、その本体表面とPG膜との間に設けられたトレーサビリティ表示がPG膜を通して外部より読み取ることができるので、長期間の繰り返しの使用によってもトレーサビリティ表示が失われることがない。トレーサビリティ表示は黒鉛を材料とするので、PBNなどの本体およびPG膜の本来の物性や機能を何ら阻害しない。
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明を詳述する。
【実施例1】
【0025】
所定形状のマンドレルに熱CVD法によりPBNを蒸着させてPBNハースライナー本体1を製造した。より詳しくは、ハースライナー用マンドレルを電気炉内に設置し、真空ポンプを接続して炉内を1Torr以下に減圧した後、ここに三塩化ホウ素(BCl)1.0リットル/minおよびアンモニアガス(NH)3.0リットル/minをキャリアガスとともに導入し、1900℃で20時間反応させた。得られたPBNハースライナー本体1の壁厚は1mmであり、内径が70mm、外径が72mmのカップ形状を有する。
【0026】
このPBNハースライナー本体1をマンドレルから取り外し、その底面に、純化黒鉛製のペンでトレーサビリティを示す製品シリアル番号2を描いた。製品シリアル番号2は、上段に共通の数字列「12345」を表示すると共に下段にはPG膜3の膜厚(下記参照)を示す数字列として「01」〜「05」を表示するものとし、数字抜きされている市販の製図用テンプレートを用いて表示した。
【0027】
次いで、この製品シリアル番号2が表示されたPBNハースライナー本体1の全表面(表裏面)に、前述と同様の熱CVD法によりPGを蒸着させて導電性被膜3を形成して、図2に示すPGコートPBNハースライナー4(PGコート製品)を得た。このとき、PG膜3の膜厚が10μm、20μm、30μm、80μmおよび100μmの5通りとなるように成膜条件をコントロールし、これらを識別するために上述したように製品シリアル番号の下段に数字列「01」〜「05」をあらかじめ本体底面に表示した。
【0028】
このようにして製造された5種類のPGコートPBNハースライナー4について、製品シリアル番号が鮮明に読み取れるか否かを外部からの肉眼視によって観察した。その結果を下記表1および図3〜図7に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この結果から、従来は不透明であると認識されてきたPG膜も、膜厚を100μmとすれば、本体表面に表示した製品シリアル番号を読み取るに十分な透明性を与えることができ、トレーサビリティ表示手法として好適であることが判明した。PG膜厚が100μmの場合は製品シリアル番号をかろうじて読み取ることができる程度に透明性が低下するので、PG膜厚の上限値を100μmとする。より好適な上限値は80μmである。
【符号の説明】
【0031】
1 PBNハースライナー本体(本体)
2 製品シリアル番号(トレーサビリティ表示)
3 PG膜
4 PGコートPBNハースライナー(PGコート製品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体表面をPG膜で被覆したPGコート製品において、本体表面の任意箇所において黒鉛によるトレーサビリティ表示が設けられ、該トレーサビリティ表示が膜厚100μm以下のPG膜を通して外部から視認可能であることを特徴とする、トレーサビリティが表示されたPGコート製品。
【請求項2】
本体を製造した後、該本体表面の任意箇所に黒鉛でトレーサビリティ表示を設け、該トレーサビリティ表示を含めた本体表面を膜厚100μm以下のPG膜で被覆することを特徴とする、トレーサビリティが表示されたPGコート製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11000(P2013−11000A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145392(P2011−145392)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】