説明

トロリ線懸吊用ハンガの加工装置及び予備成形装置

【課題】携帯に便利で、不良品の発生する虞がないトロリ線懸吊用ハンガの加工装置を提供する。
【解決手段】トロリ線懸吊用ハンガ1の加工装置10は、U字形帯状ワークWを所定寸法に切断してその両端にトロリ線把持部材の連結部2をプレス成形するものであって、U字形帯状ワークWの両端を同時に切断する切断部11と、U字形帯状ワークWの両端部を別々にプレス成形する成形部12とを同一のハウジング13内に収容するとともに、切断部11と成形部12を直線運動により作動させる共通の電動式油圧駆動装置17をハウジング13の外部に一体に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、U字形帯状ワークを所定寸法に切断してその両端にトロリ線把持部材の連結部をプレス成形するトロリ線懸吊用ハンガの加工装置と、この加工装置に供給するU字形帯状ワークの予備成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電車のトロリ線は、図10に示すようなトロリ線懸吊用ハンガ1によって吊架線に支持されている。このハンガ1はステンレス製の帯材をU字状に屈曲成形したもので、その両端にトロリ線把持部材の連結部2を備えている。そして、湾曲部3に防振部材を装着してハンガ1を吊架線に懸吊し、連結部2にトロリ線把持部材を装着してトロリ線を把持している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3332816号公報(段落〔0005〕、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
トロリ線と吊架線の間隔は場所によって異なるため、ハンガ1の成形は作業現場で行わなければならない。その際、ボルトクリッパという工具で帯状ワークを所定の寸法に切断し、ボルトクリッパの先端部の付属工具で帯状ワークの両端に連結部2を成形し、帯状ワークを手作業でU字状に屈曲させている。しかし、ボルトクリッパは長尺であって、携帯に不便であるばかりでなく、ワークの端縁が斜めに切断されて、トロリ線把持部材の装着ができなくなる不良品の発生する割合が高い。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑み、携帯に便利で、不良品の発生する虞がないトロリ線懸吊用ハンガの加工装置と、この加工装置に供給するU字形帯状ワークの予備成形装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するためのトロリ線懸吊用ハンガの加工装置は、U字形帯状ワークを所定寸法に切断してその両端にトロリ線把持部材の連結部をプレス成形するトロリ線懸吊用ハンガの加工装置であって、前記U字形帯状ワークの両端を同時に切断する切断部と、前記U字形帯状ワークの両端部を別々にプレス成形する成形部とを同一のハウジング内に収容し、前記切断部と前記成形部を共通の駆動源の直線運動によって作動させるように構成したことを特徴とする。
【0006】
前記切断部を前記駆動源と前記成形部の間に配置するとともに、前記切断部の固定刃と前記成形部の固定金型を前記ハウジングに固設し、前記切断部の可動刃と前記成形部の可動金型を一体に構成するのが好ましい。
【0007】
前記ハウジングに、前記可動金型を移動自在に支持するガイド部材を固設するとともに、該可動金型に、ワーク挿通孔を有するワーク保持部材を固設し、該ワーク保持部材のガイド部材側端縁に前記可動刃を形成し、前記ガイド部材のワーク保持部材側端縁に前記固定刃を形成するのが好ましい。
【0008】
前記帯状ワークの切断部に送るべき寸法を示すガイド手段を設けるのが好ましい。
【0009】
前記課題を解決するためのトロリ線懸吊用ハンガの加工装置及び予備成形装置は、一端を枢支結合した一対のロッドと、該ロッドの結合点の両側に設けた一対のワーク保持部とを備え、該ワーク保持部と前記ロッドの間に帯状ワークを差し込み、前記ロッドを結合点を支点として回転させて前記帯状ワークをU字状に屈曲成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加工装置によれば、切断部と成形部を同一のハウジング内に収容するとともに、切断部と成形部を作動させる駆動源をハウジングに一体に設けてあるので、装置全体がコンパクトになり、携帯に便利になるとともに、直線運動する共通の駆動源で切断部と成形部を作動させているので、機構が簡素化し、コストの上昇が少なくて済む。さらに、ワークの端縁を斜めに切断して不良品になる虞がなくなり、歩留まりが良くなる。また、ワークの両端を同時に切断できるので、加工時間の短縮に役立つ。
【0011】
本発明の予備成形装置によれば、ワーク保持部とロッドの間に帯状ワークを差し込み、ロッドを結合点を支点として回転させるだけで、帯状ワークをU字状に屈曲成形することができるので、U字形帯状ワークを能率良く成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本実施形態に係るトロリ線懸吊用ハンガの加工装置を示す斜視図、図2は図1のハウジングの一部を切り欠いて示す正面図、図3は図1のA−A線断面図、図4は図3の成形部の作動状態を示す図、図5(a)は図3のワーク係止部を拡大して示す図で、同図を矢印B方向から見た図、図5(b)は図5(a)のC−C線断面図、図6は図2の右側面図である。
【0013】
この加工装置10は、図10に示すトロリ線懸吊用ハンガ1を製作するもので、図9に示すU字形帯状ワークWの両端を同時に切断する切断部11と、U字形帯状ワークWの両端部を別々にプレス成形する成形部12とを同一のハウジング13内に収容してある(図3参照)。ハウジング13の上部には、切断部11と成形部12を直線運動により作動させる電動式油圧駆動装置(駆動源)14が取り付けてある。
【0014】
ハウジング13はハウジング本体13aと表裏一対の側板13b,13cとからなり、これら側板13b,13cはボルト15でハウジング本体13aに締結固定してある。表側の側板13bには、U字形帯状ワークWを切断部11と成形部12に送り込むための開口16が形成してある。一方、裏側の側板13cには、切断部11で切断されたワーク片を排出したり、成形部2に対するU字形帯状ワークWのセット状態を確認したりするための開口17が設けてある。さらに、ハウジング13には脚18とグリップ19を取り付けてある。なお、図2は表側の側板13bの右半分を切り欠いて示し、図2ないし図4は電動式油圧駆動装置14を省略してある。
【0015】
ハウジング本体13aは矩形空間20を備え、その下部に固定金型である下型21を収容固定してある(図2参照)。また、矩形空間20の裏側板13c寄りで下型21の上方にはガイド部材22を収容固定してある(図3参照)。さらに、可動金型である上型23には、ワーク挿通孔24を有するワーク保持部材25を固設してある。なお、ワーク挿通孔24をU字形帯状ワークWの幅よりも若干大きく形成することで、U字形帯状ワークWがワーク挿通孔24内に斜めに挿入されるのを防止し、切断精度の向上を図っている。上型23とワーク保持部材25は、ハウジング本体13aとガイド部材22と表側板13bにガイドされて矩形空間20内を上下動する。上型23と下型21の間にはスプリング26を4個介装してある。また、ワーク保持部材25はガイド部材22側の端縁に可動刃11Aを形成する一方、ガイド部材22はワーク保持部材25側の端縁に固定刃11Bを形成してある。
【0016】
ガイド部材22は、ワーク保持部材25側のワーク挿通孔24と連なるワーク挿通孔27を形成するとともに、このワーク挿通孔27の下方に矩形の切欠部28を形成し、その内部に下型21のワーク位置決めピン29を収容してある。下型21の上面には、ガイド部材22の切欠部28よりも幅の広い溝30を形成してあり、これによって、下型21とガイド部材22の合わせ面に一対のワーク係止部31を形成してある(図5参照)。一方、下型21の上面で表側板13b寄りの箇所には、ワーク位置決め段部32を一対形成してある。なお、ワーク位置決めピン29は下型21の溝30の底面に植設してある(図3参照)。
【0017】
上型23は、図2に示すようにスプリング26で付勢されてワーク保持部材25を電動式油圧駆動装置14の出力ロッド33に当接している。電動式油圧駆動装置14は電動モータ部14aと油圧駆動部14bとからなり、電動モータ部14aを作動させて油圧を発生し、これを油圧駆動部14bに供給して出力ロッド33を作動させている。
【0018】
ハウジング13の側面には、図6に示すようにガイド手段としての巻尺装置34の計測基準となる基準プレート100が取り付けてある。この基準プレート100は2つの係止部100a,100bを備え、巻尺装置34から巻尺34aをU字形帯状ワークWの挿入方向に繰り出し、その先端を係止部100a,100bのうちの1つに係止しておくと、巻尺34aがU字形帯状ワークWの切断部11に送るべき寸法の目安となる。なお、2つの係止部100a,100bを設けてあるのは、図10に示すハンガ1には2種類のトロリ線把持部材が取り付けられ、その種類によりハンガ1の寸法が異なるためである。
【0019】
図7は加工装置10に供給するワークの予備成形装置を示し、図8はその作動状態を示し、図9は図7の予備成形装置で成形されたU字形帯状ワークWを示している。
この予備成形装置50は、一端をピン51で枢支結合した一対のロッド52と、これらロッド52のピン51の両側に設けた一対の断面L型のワーク保持部53とを備えている。なお、ロッド52の結合端は円弧状に形成されるとともに、ワーク保持部53とロッド52との間には、帯状ワークWの肉厚よりも若干大きな隙間が形成されている。
そして、図7に示すようにワーク保持部53とロッド52の間に帯状ワークWを差し込み、図8に示すようにロッド52をピン51を支点として回転させて帯状ワークWをU字状に屈曲成形する。これにより、図9に示すようなU字形帯状ワークWが成形されることになる。
【0020】
次いで、このU字形帯状ワークWを巻尺34aを目安として加工装置10の切断部11内に入れる。つまり、U字形帯状ワークWの開口端を表側板13bの開口16からワーク保持部材25のワーク挿通孔24に入れ、その先端をガイド部材22側のワーク挿通孔27内に突出させる。この状態で電動式油圧駆動装置14を作動させると、ワーク保持部材25が降下し、ワーク保持部材25の可動刃11Aとガイド部材22の固定刃11BがU字形帯状ワークWを規定寸法に切断する。切断が終了した段階で電動式油圧駆動装置14の作動を停止すると、油圧駆動部14bのシリンダ(図示せず)内の油圧が解除され、ワーク保持部材25がスプリング26で付勢されて図2の位置に復帰する。
【0021】
次いで、U字形帯状ワークWの開口端を側板13bの開口16から成形部12内に入れて、その先端をワーク位置決めピン29に当接させる。その際、U字形帯状ワークWの先端部両側をワーク係止部31に係合させるとともに、U字形帯状ワークWをその両側面をワーク位置決め段部32にガイドして下型21の型面に載せる。なお、ワーク係止部31に対するU字形帯状ワークWのセット状態の良否は、図5(b)に示す溝30のペイントマーカPMがU字形帯状ワークWの先端部により隠れているかどうかで判定すればよい。この状態で電動式油圧駆動装置14を作動させると、上型23が降下してU字形帯状ワークWを下型21との間でプレスする(図4参照)。つまり、ワーク係止部31とワーク位置決め段部32でU字形帯状ワークWをガイドしているので、U字形帯状ワークWを傾きのない状態でプレスすることができ、不良品の発生が防止される。プレス成形が終了した段階で電動式油圧駆動装置14の作動を停止すると、上述の切断の場合と同様、上型23がスプリング26で付勢されて図2の位置に復帰する。このようにしてU字形帯状ワークWの両端にプレス成形を順次施すと、図9に示すようなトロリ線懸吊用ハンガ1が成形される。
【0022】
この加工装置10は、切断部11と成形部12を同一のハウジング13内に収容するとともに、切断部11と成形部12を作動させる電動式油圧駆動装置14をハウジング13の外部に設けてあるので、装置全体がコンパクトであって、携帯に便利である。また、直線運動する共通の駆動源(電動式油圧駆動装置14)で切断部11と成形部12を作動させているので、機構が簡素化し、コストの上昇が少なくて済む。
【0023】
さらに、U字形帯状ワークWの端縁を斜めに切断して不良品を発生させる虞がなくなるので、歩留まりが良くなるばかりでなく、U字形帯状ワークWの両端を同時に切断できるので、加工時間の短縮に役立つ。さらに、U字形帯状ワークWをワーク保持部材25のワーク挿通孔24とガイド部材22側のワーク挿通孔27に通して切断しているので、ワーク保持手段を別に設ける必要がなく、機構が簡素化し、コストの低減にも役立つ。
【0024】
この予備成形装置50によれば、ワーク保持部53とロッド52の間に帯状ワークWを差し込み、ロッド52をピン51を支点として回転させるだけで、帯状ワークWをU字状に屈曲成形することができるので、U字形帯状ワークWを能率良く成形することができる。
【0025】
なお、以上の実施形態では、上型23に、ワーク挿通孔24を有するワーク保持部材25を取り付けてあるが、上型23にワーク挿通孔24を直接形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は本発明のトロリ線懸吊用ハンガの加工装置を示す斜視図である。
【図2】図1のハウジングの一部を切り欠いて示す正面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図3の成形部の作動状態を示す図である。
【図5】図3のワーク係止部を拡大して示す図で、(a)は図3を矢印B方向から見た図、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【図6】図2の右側面図である。
【図7】本発明の予備成形装置を示す斜視図である。
【図8】図6の作動状態を示す図である。
【図9】図6の予備成形装置で成形されたU字形帯状ワークを示す斜視図である。
【図10】トロリ線懸吊用ハンガを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 トロリ線懸吊用ハンガ
2 連結部
3 湾曲部
10 加工装置
11 切断部
11A 可動刃
11B 固定刃
12 成形部
13 ハウジング
13a ハウジング本体
13b 側板
13c 側板
14 電動式油圧駆動装置
14a 電動モータ部
14b 油圧駆動部
20 矩形空間
21 下型
22 ガイド部材
23 上型
24 ワーク挿通孔
25 ワーク保持部材
26 スプリング
27 ワーク挿通孔
28 孔
29 ワーク位置決めピン
30 溝
31 ワーク係止部
32 ワーク位置決め段部
33 出力ロッド
34 巻尺装置
34a 巻尺
50 予備成形装置
51 ピン
52 ロッド
53 ワーク保持部
100 基準プレート
100a 係止部
100b 係止部
PM ペイントマーカ
W U字形帯状ワーク
帯状ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
U字形帯状ワークを所定寸法に切断してその両端にトロリ線把持部材の連結部をプレス成形するトロリ線懸吊用ハンガの加工装置であって、前記U字形帯状ワークの両端を同時に切断する切断部と、前記U字形帯状ワークの両端部を別々にプレス成形する成形部とを同一のハウジング内に収容し、前記切断部と前記成形部を共通の駆動源の直線運動によって作動させるように構成したことを特徴とするトロリ線懸吊用ハンガの加工装置。
【請求項2】
前記切断部を前記駆動源と前記成形部の間に配置するとともに、前記切断部の固定刃と前記成形部の固定金型を前記ハウジングに固設し、前記切断部の可動刃と前記成形部の可動金型を一体に構成したことを特徴とする請求項1に記載のトロリ線懸吊用ハンガの加工装置。
【請求項3】
前記ハウジングに、前記可動金型を移動自在に支持するガイド部材を固設するとともに、該可動金型に、ワーク挿通孔を有するワーク保持部材を固設し、該ワーク保持部材のガイド部材側端縁に前記可動刃を形成し、前記ガイド部材のワーク保持部材側端縁に前記固定刃を形成したことを特徴とする請求項2に記載のトロリ線懸吊用ハンガの加工装置。
【請求項4】
前記帯状ワークの切断部に送るべき寸法を示すガイド手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のトロリ線懸吊用ハンガの加工装置。
【請求項5】
一端を枢支結合した一対のロッドと、該ロッドの結合点の両側に設けた一対のワーク保持部とを備え、該ワーク保持部と前記ロッドの間に帯状ワークを差し込み、前記ロッドを結合点を支点として回転させて前記帯状ワークをU字状に屈曲成形することを特徴とするトロリ線懸吊用ハンガの予備成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−12844(P2010−12844A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172923(P2008−172923)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000148243)株式会社泉精器製作所 (77)
【Fターム(参考)】