説明

トロンビン受容体アンタゴニストの活性代謝物

トロンビン受容体アンタゴニストとして有用な分子の活性代謝物(「M20」)が本明細書で開示される。この化合物の製剤、この化合物の合成経路、ならびに急性冠症候群および末梢動脈疾患を含む様々な心血管病態の治療方法、ならびに活性代謝物の経口投与により二次予防をもたらす方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年6月4日に出願され、かつ参照により全体として本明細書に組み入れられる米国仮特許出願第61/184,147号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、トロンビン受容体アンタゴニストの活性代謝物、医薬組成物、およびいずれかを用いる治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
Schering Corp.は、急性冠症候群の(「ACS」)の治療および二次予防を含む様々な心血管の適用に使用するトロンビン受容体アンタゴニスト(「TRA」)を開発している。活性医薬成分(「API」)であるSCH530348は、第一相および第二相の臨床試験を終了し、現在、第三相試験中である。SCH530348の代謝についての理解の発展は、望ましい科学の進行でもあり、このトロンビン受容体アンタゴニストの商業化に必要な段階でもある。
【0004】
トロンビンは異なる細胞型において多様な活性を有することが知られており、トロンビン受容体はヒトの血小板、血管平滑筋細胞、内皮細胞および線維芽細胞などの細胞型に存在することが知られている。そのため、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)アンタゴニストとしても知られるトロンビン受容体アンタゴニストは、血栓性、炎症性、アテローム性動脈硬化、および線維増殖性の疾患、ならびにトロンビンおよびその受容体が病理学的役割を果たす他の疾患の治療に有用であると見込まれる。
【0005】
米国特許第7,304,078号は、実施例2として同定され、本明細書ではSCH530348として同定された特定のトロンビン受容体アンタゴニスト化合物を含む化合物の属を開示している。SCH530348は、下記の構造
【化1】

【0006】
および下記の化学式を有する:エチル[(1R,3aR,4aR,6R,8aR,9S,9aS)−9−[(E)−2−[5−(3−フルオロフェニル)−2−ピリジニル]エテニル]ドデカヒドロ−1−メチル−3−オキソナフト[2,3−c]フラン−6−イル]カルバメート。SCH530348は、優れたトロンビン受容体アンタゴニストの活性(効力)および選択性を示し、現在、Schering Corp.により開発中である。参照により本明細書に組み入れられる同時係属中の米国特許出願第10/705,282号は、SCH530348を含むトロンビン受容体アンタゴニストについて様々な効能・効果および複合製剤を開示している。SCH530348の重硫酸塩の好ましい結晶形態は、米国特許第7,235,567号に開示されている。米国特許出願第11/771,571号、同第11/771,520号、および同第11/860,165号は、(それぞれ)SCH530348のカプセル製剤、錠剤製剤、および凍結乾燥製剤、ならびに上記の投与による様々な病態の治療方法を開示している。
【0007】
様々な病態および疾病を治療するために少量のトロンビン受容体アンタゴニストを使用することが米国特許出願第04/0192753号に開示されている。トロンビン受容体アンタゴニストの投与による心肺バイパス手術に関連する合併症の予防は米国特許出願第11/613,450号に教示されている。経皮的冠動脈形成術(「PCI」、例えば、血管形成、ステント導入)後の心イベントを予防する方法は米国特許出願第12/051,504号に開示されている。置換トロンビン受容体アンタゴニストは米国特許第6,063,847号、同第6,326,380号、および同第6,645,987号、ならびに米国特許出願第03/0203927号、同第04/0216437A1号、同第04/0152736号、および同第03/0216437号に開示されている。本明細書で引用される全ての参照文献は、全体として組み入れられる。
【0008】
投薬後に身体に留まるSCH530348の任意の活性代謝物を同定することは有益である。本発明は該代謝物および他の便益を提供することに努めており、これは説明が進むにつれ、明白になるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,304,078号
【特許文献2】米国特許出願第10/705,282号
【特許文献3】米国特許第7,235,567号
【特許文献4】米国特許出願第11/771,571号
【特許文献5】米国特許出願第11/771,520号
【特許文献6】米国特許出願第11/860,165号
【特許文献7】米国特許出願第04/0192753号
【特許文献8】米国特許出願第11/613,450号
【特許文献9】米国特許出願第12/051,504号
【特許文献10】米国特許第6,063,847号
【特許文献11】米国特許第6,326,380号
【特許文献12】米国特許第6,645,987号
【特許文献13】米国特許出願第03/0203927号
【特許文献14】米国特許出願第04/0216437A1号
【特許文献15】米国特許出願第04/0152736号
【特許文献16】米国特許出願第03/0216437号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
幾つかの実施形態において、本発明は、下記の式
【化2】

【0011】
の化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を対象とする。
【0012】
幾つかの実施形態において、SCH2046273化合物は遊離塩基の形態である。
【0013】
幾つかの実施形態において、SCH2046273化合物は薬学的に許容できる塩の形態である。
【0014】
幾つかの実施形態において、SCH2046273化合物は水和物の形態である。
【0015】
幾つかの実施形態において、SCH2046273化合物は、化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物の単離および精製された形態である。
【0016】
幾つかの実施形態において、本発明は、有効量のSCH2046273化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物、および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物を対象とする。
【0017】
幾つかの実施形態において、医薬組成物はさらに1つ以上の追加の血管作動薬を含む。
【0018】
幾つかの実施形態において、心血管作動薬は、アスピリン、クロピドグレル、およびプラスグレル、ならびにその薬学的に許容できる異性体、塩および水和物からなる群から選択される。
【0019】
幾つかの実施形態において、本発明は、有効量のSCH2046273化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を心血管病態の治療を必要とする哺乳動物に投与する工程を含む当該病態の治療法を対象とする。
【0020】
幾つかの実施形態において、心血管病態は、急性冠症候群、末梢動脈疾患、血栓症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、高血圧、狭心症、不整脈、心不全、心筋梗塞、糸球体腎炎、血栓性脳卒中、血栓塞栓性脳卒中、および脳虚血からなる群から選択される。
【0021】
幾つかの実施形態において、心血管病態は急性冠症候群である。
【0022】
幾つかの実施形態において、心血管病態は末梢動脈疾患である。
【0023】
幾つかの実施形態において、本発明は、冠動脈バイパス移植手術に関連する病態の予防方法であって、有効量のSCH2046273化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を当該手術の被験体に投与する工程を含む方法を対象とする。
【0024】
幾つかの実施形態において、冠動脈バイパス移植手術に関連する病態は、出血;血栓症、再狭窄などの血栓性血管事象;静脈生着不全;動脈生着不全;アテローム性動脈硬化、狭心症;心筋虚血;急性冠症候群、心筋梗塞;心不全;不整脈;高血圧;一過性脳虚血発作;大脳機能障害;血栓塞栓性脳卒中;脳虚血;脳梗塞;血栓性静脈炎;深部静脈血栓症;および末梢血管疾患からなる群から選択される。
【0025】
幾つかの実施形態において、本発明は、経皮的冠動脈形成術を受けた患者および主要心イベントの予防を要する患者において当該事象を予防する方法であって、治療に有効な量のSCH2046273化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を患者に投与する工程を含む方法を対象とする。
【0026】
幾つかの実施形態において、主要心イベントは、心筋梗塞、緊急血管再建、または入院を要する虚血である。
【0027】
幾つかの実施形態において、本発明は、二次予防を必要とする患者を治療する方法であって、治療に有効な量のSCH2046273化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を患者に経口投与することによる方法を対象とする。
【0028】
幾つかの実施形態において、本発明は、TRAP誘導性血小板凝集を阻害する必要がある患者において該凝集を阻害する方法であって、治療に有効な量のSCH2046273化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を該患者に投与する工程を含む方法を対象とする。
【0029】
幾つかの実施形態において、本発明は、化合物2
【化3】

【0030】
を調製する方法であって、
a)濃HClおよびAcOHの第一混合物をSCH530348−W(1)
【化4】

【0031】
に添加し、第二混合物を生成する段階;
b)第二混合物を約100℃から約140℃の温度に約10時間から約30時間の間加熱する段階;
c)第二混合物を室温まで冷却し、粗製油を生成する段階;
d)飽和NaHCO溶液を粗製油に添加し、約6から約10のpHの第三混合物を生成する段階;
e)CHClで該第三混合物を分配する段階;
f)CHClで第三混合物から有機層を抽出する段階;および
g)NaSOで該抽出有機層を脱水し、白色泡(2)を生成する段階
を含む方法を対象とする。
【0032】
幾つかの実施形態において、第一混合物は約1.8から約2.2の比率で存在するHClおよびAcOHを含む。
【0033】
幾つかの実施形態において、第二混合物は約115℃から約120℃の温度に加熱される。
【0034】
幾つかの実施形態において、該第三混合物のpHは約7.5から約8.5に至る。
【0035】
幾つかの実施形態において、本発明は、化合物4
【化5】

【0036】
を調製する方法であって、
a)化合物(2)を含むCHClおよび飽和NaHCOの混合物にトリホスゲンを添加する段階;
b)有機層を除去する段階;
c)CHClで水性層を抽出する段階;
d)NaSOで混合有機層を脱水し、透明泡としてイソシアネート中間体を生成する段階;
e)透明泡を無水CHClに溶解し、塩化銅(I)を添加する段階;
f)2−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)エタノールを添加する段階;および
g)水で洗浄し、NaSOで脱水し、化合物4
【化6】

【0037】
を生成する段階を含む方法を対象とする。
【0038】
幾つかの実施形態において、本発明は、SCH2046273(5)
【化7】

【0039】
を調製する方法であって、
a)無水EtOHに化合物(4)
【化8】

【0040】
を溶解する段階;
b)該溶液にp−トルエンスルホン酸ピリジニウムを添加する段階;
c)該溶液を約50℃から約60℃の温度に加熱する段階;
d)蒸発乾燥し、透明な粗製油を生成する段階
を含む方法を対象とする。
【0041】
本発明は下記の記載および特許請求の範囲からさらに理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】男性対象への20mgおよび40mgのSCH530348単回経口投与後に血漿および尿で検出された代謝物を図解する。
【図2】5mgのSCH530348を28日間投与した後にLC−MS親薬物応答の>0.2%を表すヒト血漿で検出された代謝物を図解する。
【図3】SCH530348からM20およびM19代謝物への合成経路を図解する。
【図4】SCH530348の質量スペクトル(「MS」)およびMS−断片化学構造を図解する。
【図5】M16代謝物の質量スペクトルおよびMS−断片化学構造を図解する。
【図6】M17代謝物の質量スペクトルおよびMS−断片化学構造を図解する。
【図7】M19代謝物の質量スペクトルおよびMS−断片化学構造を図解する。
【図8】M20代謝物の質量スペクトルおよびMS−断片化学構造を図解する。
【図9】M21代謝物の質量スペクトルおよびMS−断片化学構造を図解する。
【発明を実施するための形態】
【0043】
第一相臨床試験は、単回および複数回の漸増投与後、健常対象におけるSCH530348の薬物動態を評価するために策定された。本試験は、健常対象に経口投与されたSCH530348の無作為、評価者−盲検、プラセボ対照、漸増単回投与(「RSD」)研究および漸増複数回投与(「RMD」)の研究を含んだ。RSDおよびRMDの両研究の設計は表1で提示される。
【表1】

【0044】
本試験により、構造が推測される少なくとも15の異なる代謝物を同定した。本試験および結果の記載は下記の通りである。
【0045】
漸増単回投与研究
単回投与試験において、50人の健常男性が6回の連続コホートに参加し、無作為化され、漸増用量様式のプラセボ(n=2−3/群)または経口SCH530348(0.25、1、5、10、20および40mg;n=5−6/群)を服用した。この試験の目的は、健常な男性対象にSCH530348の単回経口用量(20mgまたは40mg、それぞれ5群および6群)を投与した後に選択される血漿および尿の試料におけるSCH530348代謝物を定性的に評価することであった。20mgおよび40mgのSCH530348またはプラセボを服用する対象からの血漿試料は、液体クロマトグラフィー−質量分析(「LC−MS」)を用いてプロファイルした。40mg用量群の尿試料のみをプロファイルした。薬物−およびプラセボ−投与対象の対応する血漿および尿のLC−MSプロファイルは薬物誘導成分と内因性物質とを識別するために比較した。次に、代謝物は液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(「LC−MS/MS」)方法を用いてさらに特性化した。ヒトにおけるSCH530348の代謝に関与する経路が提唱された。
【0046】
試料は、正電気スプレイイオン化モードで作動するTSQ Quantum(Thermo Electron Corp.,San Jose,CA)、HPLCモジュールAlliance2695(Waters Corp.,Milford,MA)、およびフロー・シンチレーション分析器500TRシリーズ(PerkinElmer Life and Analytical Science,Inc.,Boston,MA)からなるLC−MSシステムBを用いて分析した。
【0047】
試験の臨床相はPharma Bio−Research Group B.V.(Zuidlaren,The Netherlands)で行った。5群(20mg用量およびプラセボ)および6群(40mg用量およびプラセボ)から選択される血漿および尿の試料は輸送され、Schering−Plough Research Institute(「SPRI」)で凍結された。試料は代謝物の処理および分析まで−20±10℃で保存した。
【0048】
20mgおよび40mgの用量群でSCH530348またはプラセボを投与された対象の血漿試料は、下記の表に要約されるようにプールした。
【表2】

【0049】
抽出効率を測定するため、SCH530348(40mg用量群)を投与された対象から得られる全ての投与前血漿も対象を問わずプールした。2.0mLの血漿アリコートは10μLのシステム適合混合物(「SSM」)[SCH530348および14C−SCH530348(混合濃度40ng/μL、5000DPM/μL)、SCH540679(40ng/μL)、ならびにSCH609528(40ng/μL)]と混合し、タンパク質沈殿と溶媒抽出により処理した。3容積のアセトニトリルで1回抽出した後、上清を濃縮し、ジメチルスルホキシド(最終試料体積の約50%)で再構成し、続いて移動相AおよびBの1/1混合物を添加した。遠心分離後、試料のアリコートは、液体クロマトグラフィー−質量分析/フロー・シンチレーション分析(LC−MS/FSA)により分析した。抽出手順により、添加放射性炭素を96.4%回収した。
【0050】
薬物またはプラセボを投与した対象(20mgおよび40mgの用量群)の全血漿試料を処理するために同様な手順を用い、各再構成抽出物のアリコートはLC−MS分析に投入した。代謝物の存在を確認し、それらの構造を特性付けるための標的LC−MS/MS分析も実施した。
【0051】
40mg投与後の最初の24時間中に採取した尿試料は、全てのSCH530348投与対象(n=5)およびプラセボ対象(n=3)にわたってプールした。5ミリリットルの尿(入手できる尿の20%)を各対象からプールした。
【0052】
抽出効率を測定するため、SCH530348を投与されるべき対象から入手できる投与前尿の10%も対象にわたってプールした。アリコート(約3.15mL)は15μLのSSMと混ぜ、固相抽出により抽出した。尿試料は、調整されたSep−Pak Vac tC18(Waters Corp.)カートリッジに投入し、水で洗浄した。薬物由来物質は次いでメタノールで溶出した。この抽出手順により、混合した放射性標識薬物の定量的(110%)回収を達成した。抽出試料は、血漿試料について記載するように、濃縮し、再構成し、LC−MS/FSAにより分析した。6群の薬物またはプラセボを投与された対象の0−24時間尿試料を処理するために同様な手順を用いた。妥当な質量スペクトル・シグナルを得るため、40mgのSCH530348を投与した対象からの約3mLの尿を単一LC−MS分析用に抽出した。LC−MSにより尿で検出される代謝物の構造は標的LC−MS/MS分析によりさらに特徴付けられた。
【0053】
投与薬物の構造およびこの研究で検出された代謝物の提唱構造は図1に提示する。20mgおよび40mgのSCH530348を健常男性ボランティアに単回経口投与した後の血漿および尿の抽出物で検出され特徴付けられた全ての代謝物は表3に列挙する。
【表3】

【0054】
SCH530348およびその代謝物の抽出効率およびLC−MS応答が同様であると仮定して、未変化体は、ヒトに20mgまたは40mgのSCH530348を単回投与した後の最初の6時間の主要循環成分であった。微量のアミン(M19、SCH540679、m/z 421 Th)および2つのモノオキシ(M20およびM21、m/z 509 Th)代謝物も血漿で検出された。SCH530348の第三モノオキシ代謝物(M15、m/z 509 Th)は尿で検出された。SCH530348は検出されなかったが、モノオキシ−SCH530348の硫酸抱合体(M14、m/z 589 Th)、モノ−およびジオキシ−SCH530348のグルクロン酸抱合体(m/z 685 ThでM8/M10、m/z 701 ThでM9/M11)、カルボン酸代謝物(M16、SCH609528、m/z 523 Th)、およびアミン代謝物(M19)が、少レベルから痕跡レベルで尿で検出された。これらのデータは尿中の薬物関連成分の低クリアランスを示唆している。
【0055】
図1に要約されるように、ヒトの血漿および尿におけるSCH530348の生体内変換経路は、種々の位置でのカルバミン酸塩の加水分解および酸化、続いてグルクロン酸化および硫酸化に関与するらしい。
【0056】
下記の結論は漸増単回用量研究から得ることができる。
【0057】
第一に、SCH530348は、健常男性ボランティアにSCH530348の単回用量(20mgおよび40mg)を投与後1時間および6時間の血漿で検出された唯一の主要循環薬物関連成分であった。
【0058】
第二に、尿中の代謝物で観察された低質量スペクトル・シグナルおよび親薬物の無応答は、腎臓経路による限定されたSCH530348のクリアランスを示唆した。
【0059】
第三に、ヒトの血漿および尿で検出されたSCH530348代謝物は、種々の位置でのカルバミン酸塩の加水分解および酸化、続いてグルクロン酸化および硫酸化を経て形成された。
【0060】
漸増複数回投与研究
複数回投与研究において、36人の健常な対象は、3つの連続コホートに参加し、無作為化され、漸増用量様式でプラセボ(n=4/群)または経口SCH530348(28日間朝1,3および5mg OD、n=8/群)を服用した。同一の研究(n=12)における第4コホートは、無作為化され、第1日目に10mg(n=6)または20mg(n=6)の単回負荷用量のSCH530348、続いて6日間毎日1mgの維持量を服用した。測定し導出した薬物動態パラメータは、薬物動態プロファイルを評価するために用いた。RMD研究の企画は上記の表1に要約する。この研究の目的は、健常な対象に28日間5mgのSCH530348を一日一回経口投与(3群)した後、LC−MSによりヒト血漿の代謝物をプロファイルし、ならびに/または特徴付けることであった。5mgのSCH530348またはプラセボを連日服用する対象から選択された血漿試料(1、14および28日目)は、各治療内の対象でプールした後、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)を用いてプロファイルした。薬物およびプラセボを投与された対象の対応する血漿LC−MSプロファイルは、薬物由来成分と内因性物質とを識別するために比較した。次に、代謝物は液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)法を用いてさらに特徴付けた。ヒトのSCH530348代謝に関与する経路が提唱された。
【0061】
全ての試料は、正電気スプレイイオン化モードで作動するTSQ Quantum(Thermo Electron Corp.,San Jose,CA)、Alliance2695HPLCモジュール(Waters Corp.,Milford,MA)、および500TRシリーズ・フロー・シンチレーション分析器(PerkinElmer Life and Analytical Science,Inc.,Boston,MA)からなるLC−MSシステムBを用いて分析した。研究の臨床相はPharma Bio−Research Group B.V.(Zuidlaren,The Netherlands)で行った。3群(5mg用量およびプラセボ)から選択される血漿試料は輸送され、SPRIで凍結された。試料は代謝物の処理および分析まで−20±10℃で保存した。
【0062】
SCH530348(n=8)またはプラセボ(n=4)を投与した対象から入手できる全ての血漿は下記の表に要約されるようにプールした。
【表4】

【0063】
ヒト血漿からの親薬物の抽出効率は、システム適合性混合物[SSM、SCH530348および14C−SCH530348(混合濃度40ng/μL、5000DPM/μL)、SCH540679(40ng/μL)、およびSCH609528(40ng/μL)]をプールした投与前ヒト血漿に入れることにより漸増単回用量研究で予め測定した。手順により、添加放射性炭素を96.4%回収した。
【0064】
SCH530348およびプラセボを投与した対象から得られる全てのプール血漿は、漸増単回投与研究で記載したように、溶媒抽出により、タンパク質沈殿により処理した。つまり、3倍体積のアセトニトリルで1回抽出した後、上清は濃縮し、次いでジメチルスルホキシド(100−200μL)で再構成し、続いて移動相AおよびB(100−200μL)の1/1混合物を添加した。各再構成抽出物の100μLアリコートはLC−MS分析に投入した。代謝物の存在を確認するための標的LC−MS/MS分析も実施した。表5は、健常対象に5mgのSCH530348を複数回28日経口投与した後のSCH530348のLC−MS応答(抽出イオン・クロマトグラムまたは「XIC」による)に対して、ヒト血漿抽出物で検出された代謝物の該応答を提示する。
【表5】

【0065】
SCH530348およびその代謝物の抽出効率およびLC−MS応答が同様であると仮定して、親化合物(SCH530348、m/z 493 Th)は、全時点の血漿で検出された主要な薬物関連成分であった。14および28日目に、2つのモノオキシ代謝物(M20およびM21、m/z 509)から漸増LC−MS応答が観察され、親薬物のLC−MS応答の2−6.5%に及んだ。微量のアミン(M19、SCH540679、m/z 421 Th)およびカルボン酸代謝物(M16、SCH609528、m/z 523 Th)は、14および28日目に検出された。添加のモノオキシ代謝物(M15、m/z 509)は28日目に少量検出された。複数回投与後の血漿試料で検出された全ての代謝物は、SCH530348の単回投与後の血漿および/または尿で既に検出された。投与薬物およびLC−MS親薬物応答の>0.2%を示す推定代謝物の構造は図2で提示する。
【0066】
図2に要約されるように、SCH530348代謝物は、少量から痕跡量で検出されるだけだが、大半が未知の位置での一酸化(M+16)を経て形成された。
【0067】
漸増複数回用量研究から導出できる結論は下記の通りである。
【0068】
第一に、SCH530348は、1、14および28日目に検出された主な循環薬物関連成分であった。
【0069】
第二に、1日目と比較して、M20およびM21の相対量の増加が14日目に検出され、他の代謝物の蓄積は観察されなかった。
【0070】
第三に、ヒトの血漿で検出された少程度から痕跡程度の代謝物は、大半が未知の位置での一酸化を経て形成された。
【0071】
結局、他の検出代謝物と違って、血液中のM20代謝物の濃度は「主要代謝物」とみなすのに十分であると判断した。この研究結果はその活性評価をもたらした。活性を評価するために、SCH530348およびM20代謝物は、カルシウム流出に及ぼすトロンビン受容体アンタゴニスト・ペプチドTFLLRNPNDK−NH2(「TK」)の影響を測定するヒト冠動脈平滑筋細胞検定(「カルシウム一過性検定)にかけた。得られるIC50値はそれぞれ4.5および3.4nMである。M20代謝物を活性主要代謝物とみなすという結論は、さらにその構造および特徴の研究のきっかけとなり、SCH2046273と命名された。
【0072】
代謝物の特徴付けおよび構造
上記の分析方法を用いて、単離代謝物の質量スペクトルが作成された。質量スペクトルからの情報を用いて、代謝物の化学構造が推測された。図3は、SCH530348からM20およびM19の代謝物への合成経路を説明する。図4−9は、SCH530348ならびにM16、M17、M19、M20およびM21と呼ばれる単離代謝物の質量スペクトルおよびms断片化化学構造をそれぞれ示す。
【0073】
動物実験は、M20が単回および複数回の両投与後にウサギで形成されることを示した。多重露光は、0.5mg/kgの単回投与後のサルで10、75mg/kgの単回投与後のマウスで25、ならびに20mg/kgの複数回連日投与後7日目の雌ウサギで50を超えた。
【0074】
非緊急性経皮的冠動脈形成術(「PCI」)を受ける対象のSCH530348の安全性を評価するための多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照研究において、血液試料は、15、31、60、75および91日目に採取した。SCH530348の定常状態血中濃度は31日目までに到達した。31日目までに、M20代謝物は親(SCH530348)の30−40%の濃度で血液中に存在した。
【0075】
SCH2046273の合成
SCH2046273は、Miller(Miller,J.A.;Hennessy,E J.;Marshall,W.J.;Sciadone,M.A.;Nguyen,S.T.,J.Org.Chem.2003,68,7884−7886)の手法に従って、トリホスゲン、エチレングリコール、および塩化銅(I)触媒を用いてSCH500348Wから合成され、2段階反応順序を経て20%の初期収率で代謝物を得た。低収率はエチレングリコールのヒドロキシル基が関与する副反応によるものであった。改良手法が開発され、エチレングルコールの代わりに市販のテトラヒドロピラノシル保護化エチレングリコールを反応で用いて大量のSCH2046273を調製した。
【0076】
簡易な脱保護はp−トルエンスルホン酸ピリジニウム(PPTS)により穏やかな条件下で達成できる。確実に完了するため、イソシアネート中間体の形成を注意深く監視することにより、全収率は20%から60%まで増加した(実施例1参照)。
【0077】
反応での塩化銅(I)の使用をなくすために他の方法も調査し、大規模に検査中無機塩を除去することは困難であった。イソシアネートの形成(実施例1参照)の代わりに、SCH500348Wとクロロギ酸塩(4a)(テトラヒドロピラノシル保護化エチレングリコールに由来する)の直接反応を伴う方法が検討された(実施例2参照)。さらに、SCH2046273を直接生成するためにSCH530348とエチレン・カーボネート(5a)の反応を試みた(実施例3参照)。
【0078】
全部で3つの方法に取り組んだが、最終生成物のクロマトグラフィー分離が容易なため、実施例1の合成がSCH2046273の生産用に選ばれた。
【0079】
実施例1
(3R,3aS,4S,4aR,7R,8aR)−7−アミノ−4{(E)−2−(5−(3−フルオロフェニル)ピリジン−2−イル)ビニル}−3メチルデカヒドロナフト[2,3−c]フラン−1(3H)−オン(2)
SCH530348−W(1)(4.0g、8.12mmol)が入った250mL丸底フラスコに濃HCl:AcOHの2:1混合物(80mL)を添加した。得られる溶液は118℃で16時間加熱した。次いで、反応混合物は室温まで冷却し、濃縮乾燥し、粗製油を得た。飽和NaHCO溶液をpH8になるまで粗製油に添加した。次いで、溶液はCHClで分配した。有機層は分離し、水層はCHCl(1×50mL)で抽出した。混合有機層はNaSOで脱水し、濃縮乾燥し、さらに精製することなく白色泡として(2)を得た(3.4g、8.12mmol、定量的収率)。
【化9】

【0080】
実施例2
2−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)エチル(1R,3aR,4aR,6R,8aR,9S,9aS)−9−{(E)−2−(5−(3−フルオロフェニル)ピリジン−2−イル)ビニル}−1−メチル−3−オキソドデカヒドロナフト[2,3−c]フラン−6−イルカルバメート(4)
遊離アミン(2)(2.30g,5.52mmol)を含む1:1のCHCl:飽和NaHCO(56mL)混合物に0℃でトリホスゲン(0.573g,1.93mmol)を添加した。得られる溶液は0℃で30分間攪拌した後、有機層は取り除いた。水層はCHCl(1×28mL)で抽出した。次いで、混合有機層は、NaSOで脱水し、濃縮乾燥し、透明泡としてイソシアネート中間体を得た。透明泡は無水CHCl(70mL)に溶解し、塩化銅(I)(0.27g、2.76mmol)を添加した。得られる溶液は室温で10分間攪拌した後、2−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)エタノール(1.0mL,8.28mmol)を添加した。反応を23℃で16時間攪拌した後、反応はHO(1×50mL)で洗浄し、NaSOで脱水し、濃縮乾燥し、青色粗製油(4)を得た。次いで、生成物は、溶離液として0−3%MeOH勾配の塩化メチレンを用いて、Teledyne lsco 120 g Silica RediSep Rfカラムで精製し、80%の収率で2.58gの標的化合物を得た。
【化10】

【0081】
実施例3
2−ヒドロキシエチル(1R,3aR,4aR,6R,9S,9aS)−9−{(E)−2(5−(3−フルオロフェニル)ピリジン−2−イル)ビニル}−1−メチル−3−オキソドデカヒドロナフト[2,3−c]フラン−6イルカルバメート(5)
化合物(4)(2.49g、4.2mmol)を含む無水EtOH(74.5mL)溶液にp−トルエンスルホン酸ピリジニウム(1.58g,6.3mmol)を添加した。得られる溶液は55℃で16時間加熱した。反応が完了した後、反応は蒸発乾燥し、透明な粗製油(5)を得た。次いで、生成物は、溶離液として0−5%MeOH勾配塩化メチレンを用いて、Teledyne lsco 80g Silica RediSep Rfフラッシュ・カラムで精製した。分析HPLC(Supelco Ascentis Express C18,50mm×4.6mmカラム、320nm.移動相:0.05M水性酢酸トリエチルアミンpH4;アセトニトリル(60:40)、5分間等張、続いてアセトニトリル段階勾配、1.0mL/分)により測定されるように、100%の化学的純度で、合計1.70g、81%収率の純白色固体(5)を単離した。
【化11】

【0082】
医薬製剤
M20代謝物の医薬製剤は、固形または液状の薬学的に許容できる不活性担体を用いて調製できる。固形調製物は、粉末、錠剤、分散性顆粒、カプセル、カシェ剤および坐薬を含む。粉末および錠剤は約5から約95パーセントの活性成分から成り得る。適切な固体担体は、例えば炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、またはラクトースが当分野で知られている。錠剤、粉末、カシェ剤およびカプセルは経口投与に適した固体剤形として使用できる。薬学的に許容できる担体および様々な組成物の製造方法の例は、A.Gennaro(ed.),The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,(2000)で見出せ得る。
【0083】
液状調製物は、溶液、懸濁液および乳濁液を含む。例として、注射剤用の水もしくは水−プロピレングリコール溶液、または経口液剤用の甘味料および乳白剤、懸濁液および乳濁液の添加が挙げられ得る。液状調製物は鼻腔内投与用の溶液も含み得る。
【0084】
吸入に適したエアロゾル調製物は溶液および粉末状の固体を含み、これらは、例えば窒素等の不活性圧縮気体など、薬学的に許容できる担体と組み合わせ得る。
【0085】
経口投与または非経口投与用に使用直前に液状調製物に変換することを意図する固形調製物も含まれる。このような液状は、溶液、懸濁液および乳濁液を含む。
【0086】
本発明の化合物は経皮送達されてもよい。経皮組成物は、クリーム、ローション、エアロゾル、および/または乳濁液の剤形を採択でき、この目的では当分野で従来あるような基質の経皮パッチまたは貯留型に含むことができる。
【0087】
トロンビン受容体アンタゴニスト、およびとりわけSCH530348の即効錠剤製剤は米国特許出願第11/771,520号に開示されている。この出願は、40mg負荷用量にも2.5mg維持用量にも特異的な医薬製剤、ならびにそれぞれのより広範囲な製剤を開示する。SCH2046273の製剤はSCH530348の製剤を基にし得る。従って、SCH2046273の特異的製剤の例は、下記を含む:
負荷用量剤形:
成分 量(mg)
SCH2046273 40
ラクトース一水和物 383
微結晶性セルロース 120
クロスカルメロース・ナトリウム 36
ポビドン 18
ステアリン酸マグネシウム 3
維持用量剤形:
成分 量(mg)
SCH2046273 2.5
ラクトース一水和物 68
微結晶性セルロース 20
クロスカルメロース・ナトリウム 6
ポビドン 3
ステアリン酸マグネシウム 0.5
本発明の製剤は、上記に例示したものまたは組み入れられる参照文献に開示されるものに限定されない。M20の薬学的に許容できる薬物製品の要件に達する任意の製剤が本発明者達の構想範囲内である。
【0088】
効能・効果
幾つかの実施形態において、本発明は、急性冠症候群もしくは末梢動脈疾患の治療方法、または治療を必要とする患者に医薬製剤を経口投与することにより二次予防を要する患者を治療する方法を対象とする。
【0089】
トロンビン受容体アンタゴニストは、米国特許出願第10/705,282号において、様々な心血管病態の治療に有用な剤として開示されている。SCH2046273は同様な有用性を有する。従って、心血管病態の中でも、SCH2046273が有用な病態は下記の通りである:急性冠症候群、末梢動脈疾患、血栓症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、高血圧、狭心症、不整脈、心不全、心筋梗塞、糸球体腎炎、血栓性脳卒中、血栓塞栓性脳卒中、および脳虚血、深部静脈血栓症、静脈血栓栓塞症、ホルモン補充治療に関連する心血管病、播種性血管内凝固症候群、腎虚血、脳卒中、脳梗塞、片頭痛、腎血管恒常性および勃起障害。
【0090】
「二次予防」とは、潜在的に将来深刻な、おそらく致死的な他の心血管事象または脳血管事象を予防するための心臓発作または脳卒中などの有意な心血管事象を既に患う患者の治療を指す。
【0091】
トロンビン受容体アンタゴニストは、米国特許出願第11/613,450号に記載されるように、心肺バイパス手術に関連する心血管事象の予防に有用であり得る。活性なトロンビン受容体アンタゴニストとして、SCH2046273は用途に特に有効な剤であり得る。従って、本発明は、冠動脈バイパス移植手術に関連する病態を予防する方法であって、有効量のSCH2046273を該手術の対象に投与する工程を含む方法を対象とする。幾つかの実施形態において、病態は、出血;血栓症、再狭窄などの血栓性血管事象;静脈生着不全;動脈生着不全;アテローム性動脈硬化、狭心症;心筋虚血;急性冠症候群、心筋梗塞;心不全;不整脈;高血圧;一過性脳虚血発作;大脳機能障害;血栓塞栓性脳卒中;脳虚血;脳梗塞;血栓性静脈炎;深部静脈血栓症;および末梢血管疾患からなる群から選択される。
【0092】
非緊急性経皮的冠動脈形成術を受ける患者における出血事象の危険性を制御するためのトロンビン受容体アンタゴニストの使用は、米国特許第12/051,504号に開示されている。従って、経皮的冠動脈形成術を受けた患者の主な心血管事象(例えば、心筋梗塞、緊急血行再建、または入院を要する虚血)を予防する方法であって、治療に有効な量のSCH2046273を患者に投与する工程を含む方法は、本発明の範囲内である。また、PCIに関連し得るまたは関連し得ないTRAP誘導性血小板凝集を阻害する方法も本発明の範囲内である。
【0093】
上記で用いられるように、この開示を通して、下記の用語は、他に指示されない限り、下記の意味を有する特異的理解されるべきである。
【0094】
「患者」はヒトおよび動物の両方を含む。
【0095】
「哺乳類」とはヒトおよび他の哺乳動物を意味する。
【0096】
SCH2046273を含む本明細書で開示される代謝物の単離および精製された形態は、本発明の範囲内である。化合物についての「精製された」、「精製形態」または「単離および精製された形態」という用語は、合成工程(例えば、反応混合物から)、または天然源またはその組み合わせから単離された後の化合物の物理的状態を指す。従って、化合物についての「精製された」、「精製形態」または「単離および精製された形態」という用語は、本明細書に記載されるまたは当業者に周知である標準的分析技術により特徴付けするのに十分な純度で、精製方法または本明細書に記載の方法または当業者に周知の方法(例えば、クロマトグラフィー、再結晶化など)から得た後の化合物の物理的状態を指す。例として、本明細書に開示する精製技術(例えば、LC−MSおよびLC−MS/MS技術)により、当該代謝物の単離および精製形態が得られる。このような単離および精製の技術は、95重量%以上の生成物純度をもたらすことが予期される。
【0097】
本明細書で用いられるように、「組成物」という用語は、特定量の特定成分を含む生成物、ならびに特定量の特定成分の組み合わせに直接または間接的に起因する任意の生成物を包含することを意図する。
【0098】
本発明の1つ以上の化合物は、非溶媒和形態、ならびに水、エタノールなどの薬学的に許容できる溶媒との溶媒和形態で存在し、本発明が溶媒和および非溶媒和の両形態を包含することを意図する。「溶媒和」とは、1つ以上の溶媒分子と本発明の化合物との物理的結合を意味する。この物理的結合は、水素結合を含む、様々な程度のイオン結合および共有結合を含む。場合によっては、例えば、1つ以上の溶媒分子が結晶固体の結晶格子に組み込まれる場合、溶媒和物は単離でき得る。「溶媒和物」は、溶液相も単離可能な溶媒和物も包含する。適切な溶媒和物の非限定例は、エタノール付加物、メタノール付加物などを含む。「水和物」は、溶媒分子がHOである場合の溶媒和物である。水和物は活性部分の倍数または画分として生じ得る。従って、一水和物、二水和物、三水和物および半水和物は本発明の範囲内にある水和物の非限定例である。
【0099】
本発明の1つ以上の化合物は任意に溶媒和物に変換され得る。溶媒和物の調製は一般に知られている。従って、例えば、M.Caira et al,J.Pharmaceutical SCi.,93(3),601−611(2004)は、酢酸エチル中および水からの抗真菌フルコナゾールの溶媒和物の調製を記載している。溶媒和物、半溶媒和物、水和物などの同様な調製物は、E.C.van Tonder et al,AAPS PharmSciTech.,5(1),article 12(2004);およびA.L.Bingham et al,Chem.Commun.,603−604(2001)により記載されている。典型的な非限定的方法は、外気温より高い温度で本発明化合物を所望量の所望溶媒(有機または水またはその混合物)に溶解する工程、および結晶を形成するのに十分な速度で溶液を冷却した後、標準的方法により結晶を単離する工程を含む。例えば、I.R.分光法などの分析技術は、溶媒和物(または水和物)としての結晶における溶媒(または水)の存在を示している。
【0100】
「有効量」または「治療に有効な量」とは、上記の疾病を阻害し、ひいては所望する治療効果、改善効果、阻害効果または予防効果を生じるのに有効な本発明の化合物または組成物の量を意味する。
【0101】
SCH2046273は、本発明の範囲内にもある塩を形成できる。本明細書のSCH2046273の参照文献は、他に指示しない限り、その塩の参照文献を含むと理解される。本明細書で用いられるように、「塩」という用語は、無機酸および/または有機酸と形成される酸性塩、ならびに無機塩基および/または有機塩基と形成される塩基性塩を意味する。両性イオン(「内塩」)は本明細書で用いられる「塩」という用語に含まれる。薬学的に許容できる(即ち、非毒性、生理的に許容できる)塩が好ましいが、他の塩も有用である。SCH2046273の塩は、例えば、塩が沈殿する媒体などの媒体において、または水性媒体において、SCH2046273を同当量などの量の酸または塩基と反応させた後、凍結乾燥により形成され得る。
【0102】
例示的な酸付加塩は、酢酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳、カンファースルホン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩(トシラートとしても知られる)などを含む。さらに、塩基性医薬化合物からの薬学的に有用な塩の形成に適すると一般に考えられる酸は、例えば、P.Stahl et al,Camille G.(eds.)Handbook of Pharmaceutical Salts.Properties,Selection and Use.(2002)Zurich:Wiley−VCH;S.Berge et al,Journal of Pharmaceutical Sciences(1977)66(1)1−19;P.Gould,International J.of Pharmaceutics(1986)33 201−217;Anderson et al,The Practice of Medicinal Chemistry(1996),Academic Press,New York;およびThe Orange Book(Food & Drug Administration,Washington,D.C.on their website)により考察される。これらの開示物は参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
例示的な塩基性塩は、アンモニウム塩、ナトリウム、リチウム、およびカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウムおよびマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、ジシクロヘキシルアミン、t−ブチルアミンなどの有機塩基(例えば、有機アミン)との塩、ならびにアルギニン、リシンなどのアミノ酸との塩を含む。塩基性窒素含有基は、ハロゲン化低級アルキル(例えば、塩化、臭化およびヨウ化メチル、エチル、およびブチル)、硫酸ジアルキル(例えば、硫酸ジメチル、ジエチル、およびジブチル)、長鎖ハロゲン化物(例えば、塩化、臭化およびヨウ化デシル、ラウリルおよびステアリル)、ハロゲン化アラルキル(例えば、臭化ベンジルおよびフェネチル)などの剤で四級化され得る。
【0104】
このような全ての酸性塩および塩基性塩が本発明の範囲内の薬学的に許容できる塩であると意図され、全ての酸性塩および塩基性塩は本発明の目的に対応する化合物の遊離形態に等価であるとみなされる。SCH2046273の遊離塩基も本発明の範囲内である。
【0105】
本化合物の薬学的に許容できるエステルは、下記の群を含む:(1)エステル集団のカルボン酸部分の非カルボニル部分が直鎖または分岐鎖のアルキル(例えば、アセチル、n−プロピル、t−ブチル、またはn−ブチル)、アルコキシアルキル(例えば、メトキシメチル)、アラルキル(例えば、ベンジル)、アリールオキシアルキル(例えば、フェノキシメチル)、アリール(例えば、ハロゲン、C1−4アルキル、またはC1−4アルコキシまたはアミノで任意に置換されるフェニル)から選択される、ヒドロキシ基のエステル化により得られるカルボン酸エステル;(2)アルキル−またはアラルキルスルホニル(例えば、メタンスルホニル)などのスルホン酸エステル;(3)アミノ酸エステル(例えば、L−バリルまたはL−イソロイシル);(4)ホスホン酸塩エステル、および(5)モノ−、ジ−、またはトリ−リン酸エステル。リン酸エステルは、例えばC1−20アルコールもしくはその反応性誘導体により、または2,3−ジ(C6−24)アシルグリセロールにより、さらにエステル化され得る。
【0106】
SCH2046273の化合物、ならびにその塩、溶媒和物、およびエステルは、それらの互変異性型(例えば、アミドまたはイミノエーテルとして)で存在し得る。全ての当該互変異性型は本発明の一部として本明細書に意図される。
【0107】
SCH2046273は、非対称または不斉中心を含むため、異なる立体異性体で存在し得る。SCH2046273のあらゆる立体異性体、およびラセミ混合物を含むその混合物は、本発明の一部を成すことが意図される。さらに、本発明は全ての幾何異性体および位置異性体を包含する。例えば、SCH2046273のシスおよびトランス両型、ならびに混合物は、本発明の範囲内に包含される。
【0108】
ジアステレオマー混合物は、当業者に周知の方法により、例えば、クロマトグラフィーおよび/または分別結晶によるなど、物理化学的差異に基づいて、個々のジアステレオマーに分離できる。鏡像異性体は、適切な光学活性化合物(例えば、キラルアルコールまたはモシャー酸塩化物などのキラル補助基)との反応によって鏡像異性体混合物をジアステレオマー混合物に変換し、ジアステレオマーを分離し、ならびに個々のジアステレオマーを対応する純鏡像異性体に変換(例えば加水分解)することにより、分離できる。SCH2046273のアトロプ異性体(例えば、置換ビアリール)は本発明の一部とみなされる。鏡像異性体はキラルHPLCカラムの使用によっても分離できる。
【0109】
SCH2046273のあらゆる互変異性型が本発明の範囲内に包含される。また、例えば、SCH2046273のあらゆるケト−エノールおよびイミン−エナミン型も本発明に含まれる。
【0110】
本発明化合物の個々の立体異性体は、例えば実質的に他の異性体を含まない、または例えばラセミ酸塩として、または他の全ての立体異性体、もしくは他の選択される立体異性体と混合され得る。本発明のキラル中心は、IUPAC1974推奨により定義されるSまたはR立体配置を有し得る。「塩」、「溶媒和物」、「エステル」などの用語の使用は、SCH2046273の鏡像異性体、立体異性体、回転異性体、互変異性体、位置異性体、およびラセミ酸塩の塩、溶媒和物、およびエステルに等しく適用することを意図する。
【0111】
本発明はSCH2046273の同位体標識化合物も包含し、これは、1個以上の原子が通常天然で見出される原子質量または質量数と異なる原子質量または質量数を有する原子により置換されるという事実を別にすれば、本明細書に挙げるものと同一である。本発明の化合物に組み入れられ得る同位体の例は、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素および塩素の同位体を含み、それぞれH、H、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F、および36Clなどがある。
【0112】
SCH2046273のある同位体標識化合物(例えば、Hおよび14Cで標識された化合物)は、化合物および/または基質の組織分布検定に有用である。トリチウム化(即ち、H)および炭素−14(即ち、14C)同位体は、調製容易および検出能のため特に好ましい。さらに、重水素(即ち、H)などの重同位体による置換は、より優れた代謝安定性(例えば、インビボ半減期の増大または必要用量の減少)に起因する治療上の利点が得られ得るため、状況次第で好ましい。SCH2046273の同位体標識化合物は、一般に、以下のスキームおよび/または本明細書の実施例で開示される手法に似た下記の手法により、非同位体標識試薬を適切な同位体標識試薬と置き換えることにより、調製できる。
【0113】
SCH2046273、ならびにSCH2046273化合物の塩、溶媒和物、およびエステルの結晶形態は本発明に含まれることが意図される。
【0114】
SCH530348の商品化について検討された投与計画は、経口投与用の固体即効錠剤製剤で、10,20および40mgの負荷用量ならびに0.5,1,2.5および5mgの維持用量を含む。SCH2046273の同様な投与計画は本発明の範囲内にある。ACSについてのSCH530348の現行第三相臨床試験は、40mg負荷用量、続いて一日一回2.5mgの維持用量の投与計画を含む。凍結乾燥および発泡性の剤形を含む即溶性錠剤形も本発明の範囲内にある。
【0115】
上記の記載は、本発明のあらゆる変更および変形を詳述する意図はない。本発明概念から逸脱することなく上記の実施形態に変更が為され得ることは当業者に理解されるであろう。従って、本発明は、上記の特定の実施形態に限定されないが、下記の特許請求の範囲の記述により定義されるように、本発明の精神および範囲内にある変更を網羅する意図があると理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
【化1】


の化合物、または薬学的に許容できるその異性体、塩もしくは水和物。
【請求項2】
請求項1に記載の前記化合物の遊離塩基。
【請求項3】
請求項1に記載の前記化合物の薬学的に許容できる塩。
【請求項4】
請求項1に記載の前記化合物の水和物形態。
【請求項5】
請求項1に記載の前記化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物の単離および精製形態。
【請求項6】
請求項1に記載の有効量の化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物、および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の有効量の化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物、および1つ以上の追加の心血管作動薬を含む医薬組成物。
【請求項8】
前記心血管作動薬が、アスピリン、クロピドグレル、およびプラスグレル、ならびにその薬学的に許容できる異性体、塩および水和物からなる群から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
心血管病態の治療法であって、前記治療を必要とする哺乳動物に請求項1に記載の有効量の前記化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を投与する工程を含む方法。
【請求項10】
前記心血管病態が、急性冠症候群、末梢動脈疾患、血栓症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、高血圧、狭心症、不整脈、心不全、心筋梗塞、糸球体腎炎、血栓性脳卒中、血栓塞栓性脳卒中、および脳虚血からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記心血管病態が急性冠症候群である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
心血管病態が末梢動脈疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
冠動脈バイパス移植手術に関連する病態の予防方法であって、請求項1に記載の有効量の前記化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を前記手術の対象に投与する工程を含む方法。
【請求項14】
病態が、出血;血栓症、再狭窄などの血栓性血管事象;静脈生着不全;動脈生着不全;アテローム性動脈硬化、狭心症;心筋虚血;急性冠症候群、心筋梗塞;心不全;不整脈;高血圧;一過性脳虚血発作;大脳機能障害;血栓塞栓性脳卒中;脳虚血;脳梗塞;血栓性静脈炎;深部静脈血栓症;および末梢血管疾患からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
経皮的冠動脈形成術を受け、主要心イベント(major cardiac event)の予防を必要とする患者における前記事象の予防方法であって、治療に有効な量の請求項1に記載の前記化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を前記患者に投与する工程を含む方法。
【請求項16】
前記主要心イベントが、心筋梗塞、緊急血管再建、または入院を要する虚血である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
二次予防を必要とする患者の治療方法であって、治療に有効な量の請求項1に記載の前記化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を前記患者に経口投与する工程を含む方法。
【請求項18】
TRAP誘導性血小板凝集を阻害する必要がある患者における前記凝集の阻害方法であって、治療に有効な量の請求項1に記載の化合物、またはその薬学的に許容できる異性体、塩もしくは水和物を前記患者に投与する工程を含む方法。
【請求項19】
化合物2
【化2】


を調製する方法であって、
a)濃HClおよびAcOHの第一混合物をSCH530348−W(1)
【化3】


に添加し、第二混合物を生成する段階;
b)前記第二混合物を約10時間から約30時間の間約100℃から約140℃の温度に加熱する段階;
c)前記第二混合物を室温まで冷却し、粗製油を生成する段階;
d)飽和NaHCO溶液を前記粗製油に添加し、約6から約10のpHの第三混合物を生成する段階;
e)CHClで前記第三混合物を分配する段階;
f)CHClで前記第三混合物から有機層を抽出する段階;および
g)NaSOで前記抽出有機層を脱水し、白色泡(2)を生成する段階
を含む方法。
【請求項20】
前記第一混合物が約1.8から約2.2の比率で存在するHClおよびAcOHを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第二混合物が約115℃から約120℃の温度に加熱される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記第三混合物のpHが約7.5から約8.5に至る、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
化合物4
【化4】


を調製する方法であって、
a)化合物(2)を含むCHClおよび飽和NaHCOの混合物にトリホスゲンを添加する段階;
b)該有機層を除去する段階;
c)CHClで該水性層を抽出する段階;
d)NaSOで該混合有機層を脱水し、透明泡としてイソシアネート中間体を生成する段階;
e)該透明泡を無水CHClに溶解し、塩化銅(I)を添加する段階;
f)2−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)エタノールを添加する段階;および
g)水で洗浄し、NaSOで脱水し、化合物4を生成する段階
を含む方法。
【請求項24】
SCH2046273(5)
【化5】




を調製する方法であって、
a)無水EtOHに化合物(4)を溶解する段階;
【化6】


b)前記溶液にp−トルエンスルホン酸ピリジニウムを添加する段階;
c)前記溶液を約50℃から約60℃の温度に加熱する段階;
d)蒸発乾燥し、透明な粗製油を生成する段階
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−528868(P2012−528868A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514059(P2012−514059)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/036984
【国際公開番号】WO2010/141525
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(596129215)メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション (785)
【氏名又は名称原語表記】Merck Sharp & Dohme Corp.
【住所又は居所原語表記】One Merck Drive,Whitehouse Station,New Jersey 08889,U.S.A.
【Fターム(参考)】