説明

トロンビン基質として使用するための多糖類−ペプチド複合体

【課題】 トロンビン生成試験で使用するために好適な高分子トロンビン基質の提供。
【解決手段】 10kDaより大きい分子量を有する多糖類−ペプチド複合体であって、ペプチド部分が少なくとも3個のアミノ酸残基からなり、そのC−末端に配列Ala−Gly−Arg−Rを含み、ここでRが分解され得るシグナル基である、新規なトロンビン基質を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は診断の技術分野、殊に凝固診断の技術分野におけるものであり、そしてトロンビンで分解されるアミノ酸配列を含んでいるペプチド部分を含む多糖類−ペプチド複合体の調製及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固(止血)の調節は、種々の活性因子、阻害因子、及び正の又は負のフィードバック調節機構により行われている。このシステムにおける欠陥は、止血システムにおける不均衡をもたらし、そしてその結果、出血又は血栓症のいずれかとなる。トロンビン(因子IIa、F IIa)は、セリンプロテアーゼであり、血漿の血餅形成の中心酵素である。トロンビンの最も重要な作用は、フィブリンのポリマー化の誘導であり、そしてそれ故、凝固形成にとっては必須なものである。トロンビンは、酵素的に不活性な前駆体分子プロトロンビン(因子II、F II)の活性化によって形成される。損傷の部位に凝固形成の進行を限定するために、トロンビンの阻害因子が同様に活性化される。阻害を経由して又は遊離トロンビンの複合化によって、例えば、アンチトロンビン又はα2−マクログロブリン(α2−M) のような阻害因子が凝固形成の進行を限定し制限する。トロンビンの形成及び阻害の過程における不均衡により、過剰凝固又は低凝固の状態に至り、そしてそれ故に病理学的な凝固疾患に至ることとなる。このようにして、トロンビンの形成及び阻害の測定は、個々の患者の特定の凝固状態について非常に大きな意義があるということが明らかとなる。
【0003】
トロンビン生成試験は、血漿又は血液中におけるトロンビンの形成及び阻害を測定する包括的な凝固試験である。試料固有の能力、血漿試料の場合は血漿に本来備わっている能力であるが、酵素的に活性な遊離型のトロンビンの形成及び阻害のための試料固有の能力もまた、内因性トロンビン産生能(ETP)として示すことができる。試験材料中に含まれそしてトロンビンの形成及び阻害に影響する全ての生物構成物は試料の内因性トロンビン産生能に影響するが故に、ETP測定は、止血システムの多くの構成要素を測定することができる包括的な試験として、また治療評価測定のモニターのための両方にとって好適なものである。ETP測定により、低凝固及び過剰凝固の状態の診断をすることが可能となる。更なる指摘としては、遺伝性の及び後天性の凝固障害 (血友病、因子II、V、VII、VIII、IX、X、XIの欠乏、播種性血管内凝固障害)及び血栓性(thrombophilic)危険因子 (プロトロンビン突然変異、因子V疾患、プロテインS、プロテインC及び抗トロンビン欠乏)も含まれる。例えば、妊娠又は経口避妊薬の使用、及び喫煙のような後天性のそして一時的な危険因子もまたETP測定値の増大により反映される。ETP測定の更なる興味ある側面は、抗凝固治療の管理である。トロンビン形成の能力は直接的に測定することができるが故に、患者の凝固潜在能力は使用された抗凝固薬の如何によらずに測定することができる。それ故、パラメター ETPはまた、過剰投与及び投与不足を回避するために、抗凝固治療の遷移期及び安定期をモニターすることができる可能性を提供するものである。
【0004】
最初に、トロンビン生成の測定のために、試料をプロトロンビン活性化因子で処理し、そしてその一部を一定の時間間隔で当該混合物から取り出した。その個々の部分的試料中のトロンビン濃度を、色素形成性トロンビン基質の分解を測定することにより検定した。そのような方法は、また「部分標本抽出法(subsampling method)」として知られており、例えば、Hemker ら、(1986) 「トロンビン崩壊過程に依存せずに全血漿中のプロトロンビン活性化速度を測定するためのコンピュータによる測定法」(A computer assisted method to obtain the prothrombin activation velocity in whole plasma independent of thrombin decay process.)Thromb Haemost. 56 (1) 9-17頁中の10頁の段落「Determination of the Time Course of Amidolytic Activity」に記載されている。
【0005】
EP 420 332 B1には、反応バッチ中におけるトロンビン濃度の連続測定ができるトロンビン測定の改良法が記載されていて、その方法によれば、上記に記載されている多くの部分的試料の抽出を省くことができる。反応バッチ中におけるトロンビン濃度の連続測定に関しては、用いられたトロンビン基質はトロンビン阻害が完了する前に使い果たされないことが絶対に必要である。比較的ゆっくりと反応するが、しかしそれにもかかわらずトロンビンの存在量に比例しているような反応速度論的特性を有するトロンビン基質の使用により、単一の反応バッチにおけるトロンビン濃度の連続的測定が可能となる。トロンビン生成の測定のため、トロンビン基質の変換反応速度は、凝固可能な血液又は血漿試料中における検出可能なシグナル基の遊離により測定されている。トロンビン基質濃度は、当該基質が反応過程で完全には使い果たされないように調節されているが故に、遊離した指示薬の量は、理想的には凝固反応の過程で形成されたトロンビンの酵素活性に比例している (Hemker, H. C. ら(1993、「血漿におけるトロンビン生成の連続的記録、そのトロンビン潜在能力の測定のための使用」(Continuous registration of thrombin generation in plasma, its use for the determination of the thrombin potential)、Thromb Haemost. 70 (4) 617-624頁を参照)。
【0006】
トロンビン生成試験においては、慣用的に、低分子量の小さいトロンビン基質が使用され、それには検出可能なシグナル基が結合しているオリゴペピチドが含まれる。トロンビンの酵素活性によってペプチドとシグナル基との間の結合が加水分解され、そしてシグナル基が遊離する。シグナル強度を測定することにより、トロンビン活性を定量化することができる。トロンビンによって切断される既知のオリゴペプチド基質の例としては、例えば、配列 Ala−Gly−Arg−pNA、Ala−Arg−pNA、Gly−Arg−pNA 又は Pro−Arg−pNAのパラ−ニトロアニリド(pNA)−結合ペプチドがある。
【0007】
しかしながら、8kDより小さい分子量を有するトロンビン基質を用いることにより、遊離トロンビンの生理的関連活性に加えて、α2−マクログロブリン−トロンビン複合体(α2MT)の生理的非関連の活性もまた測定されることが知られている。長時間遊離したシグナル基の量を測定することにより、反応速度は連続して進行しそして最終的には遊離トロンビンを完全に阻害したにもかかわらず、プラトー期に達することなく、更に増大する。低分子量の小ペプチド基質は、α2−マクログロブリン−トロンビン複合体(α2MT)を通って、トロンビン分子の活性中心に浸透することが明らかに可能であり、そしてそれ故にまた複合体中のトロンビンによってさらに切断される。それ故、切断された基質の量は、遊離トロンビンの量に対して厳密には比例しておらず、遊離及びα2−マクログロブリン結合のトロンビン活性の結果として生じたものである。遊離トロンビンの量を計算するための種々の技法は知られてはいるが(例えば、EP 1669 761 A2、WO 2004/016807 A1)、これらはある場合にはかなり複雑である。それ故、実験データを基礎として遊離トロンビンを直接測定することができる代替的な解決が望まれている。
【0008】
EP 1 159 448 B1には、トロンビン生成試験における高分子オボアルブミン結合−トロンビン基質の使用が記載されている。オボアルブミン結合−トロンビン基質は10kDaより大きい分子量を有しているが故に、それらはα2−マクログロブリン結合−トロンビンによっては切断されず、遊離トロンビンによってのみ切断される。しかしながら、高分子基質の調製のためのペプチド基質とオボアルブミンとを結合させる場合に、しばしば技術的な問題があって、不利である。オボアルブミンの架橋反応によるものとおもわれるが、時として、反応溶液は非常に高度に粘着性である。それ故、オボアルブミン結合−トロンビン基質の使用は、これらの基質調製における問題により不満足なものとみなされており、そしてそれ故、該基質の利用可能性は限定的なものである。タンパク質結合−高分子基質の使用における更なる不利な点は、沈殿反応およびそれ故に反応バッチ中に濁りが生じるために、より高い濃度では添加することができないという点である。これは、殊に光学的方式を用いて評価を行っている試験方法においては不利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、トロンビン生成試験に使用するのに好適な更なる高分子トロンビン基質を提供する目的に基づいていた。好ましくは、高分子基質はα2−マクログロブリン結合−トロンビンによっては切断されてはならない。加えて好ましくは、高分子トロンビン基質は、連続的トロンビン生成試験においてトロンビン阻害が完了する前にはトロンビン基質が使い果たされないというような反応速度論的特性を有していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多糖類部分及びペプチド部分から構成されており、そして10kDaより大きい分子量を有する多糖類−ペプチド複合体に関するものである。当該ペプチド部分は、少なくとも3個のアミノ酸のペプチドからなり、そのC−末端に配列Ala−Gly−Arg−Rを含み、ここにおいてRは分解され得るシグナル基である。
【0011】
驚くべきことに、他のトロンビン特異的−ペプチド部分を有する他の多糖類−ペプチド複合体は、その反応速度論的特性から、連続的トロンビン生成試験におけるトロンビン基質としての使用に好適でないのに対し、ペプチド部分のC−末端に配列Ala−Gly−Arg−Rを有する多糖類−ペプチド複合体は、その反応速度論的特性から、トロンビン生成試験におけるトロンビン基質としての使用に好適なものであることが分かった。本発明に係る基質は、遊離トロンビンによって切断されるが、α2−マクログロブリン結合−トロンビンによっては切断されない。更に有利な点は、問題に悩まされることの多い、先行文献から既知のオボアルブミン結合−トロンビン基質の調製よりも、本発明に係る多糖類−ペプチド複合体の調製が、より効率的であるということである。
【0012】
本発明の趣旨の範囲内において、本発明に係る多糖類又は複合体の多糖類部分は、同一の又は異種の単糖単位から構成され(ホモ多糖類又はヘテロ多糖類)、それらは互いに配糖体結合により結合されている。該多糖類分子の構造は、直鎖又は分枝鎖のいずれであってもよい。本発明に係る多糖類−ペプチド複合体の調製のためには、好ましくは、隣接するジオール又はヒドロキシル基/アミノ基又はヒドロキシル基/カルボニル基又はカルボニル基/カルボニル基を含んでいる単糖単位から構成された多糖類が用いられる。殊に好ましい多糖類は、例えば、デキストラン、ガラクタン、アラビノガラクタン及びマンナンである。
【0013】
好適には、本発明に係る複合体の多糖類部分は、約10,000から約40,000g/mol、好ましくは約12,000から約20,000g/mol、殊に好ましくは約15,000g/molのモル質量を有する。
【0014】
本発明に係る多糖類−ペプチド複合体のペプチド部分は、少なくとも3個のアミノ酸長であるペプチドから構成されていて、そのC−末端には配列Ala−Gly−Arg−Rを含み、ここにおいてAlaはアラニン、Glyはグリシン、Argはアルギニンであり、そしてRは分解され得るシグナル基である。該ペプチドはそのN−末端に幾つかの更なるアミノ酸残基を含むことができる。好適には、該ペプチドは合計3から5個のアミノ酸残基の配列を含むが、該ペプチドは合計8個より多くのアミノ酸残基を含まない方が有利である。殊に好ましくは、該ペプチドはトリペプチドAla−Gly−Argを含む。
【0015】
当該C−末端のシグナル基Rは、トロンビンによって切断されるシグナル基であり、それはアルギニン残基から脱離した後に検出可能なシグナルを生成する。該シグナル基は、例えば、光度測定法により探知することができる色素原又は蛍光色素原の基である。好ましい色素原のシグナル基は、パラニトロアニリン(pNA)であり、その黄色はλ=405nmの波長において測定することができる。好ましい蛍光色素原の基は7−アミノ−4−メトキシクマリン(AMC)である。
【0016】
表1は、非結合のペプチド基質H−β−Ala−Gly−Arg−pNA 又はデキストランと結合している複合体 デキストラン−D−CHG−Ala−Arg−pNA 及びデキストラン−D−CHG−Gly−Arg−pNAの反応速度論的特性と比較したときの、本発明に係るデキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNA複合体の反応速度論的特性を表示している。
【表1】

【0017】
トロンビン生成の連続的測定を保証するためには、基質はトロンビンにより特異的に反応するが、しかし可能な限りゆっくりと反応することが必要である。酵素の半飽和に必要な基質濃度(Km)は、またミカエリス(Michaelis)定数とも称されるが、トロンビンに対する基質親和性の指標である。高い親和性の場合は、基質濃度(Km)は小さく、即ち、小さいKm値は、それぞれの基質に対して高い親和性を示している。触媒定数(Kcat)は、また代謝回転数とも称されるが、酵素の変換速度又は酵素分子の各活性中心により単位時間当たりに反応した基質分子の数を表している。比 Kcat/Kmは触媒効率を定義している。この値は基質特異性の指標とみなされ、高い値は高い基質特異性を特徴付けるものとみなされる。最大反応速度Vmaxは、基質濃度を更に増加しても速めることができない(反応の飽和状態)反応条件(例えばpH、温度)の関数としての最大変換速度を示す。
【0018】
非結合のペプチド基質 H−β−Ala−Gly−Arg−pNA 及びデキストランと結合している基質であるデキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNA は高いKm値(トロンビンに対する小さい親和性)そして少ない代謝回転数Kcatという必要性を満たしている。これとは対照的に、デキストラン−ペプチド複合体であるデキストラン−D−CHG−Ala−Arg−pNA 及びデキストラン−D−CHG−Gly−Arg−pNA は、明らかに小さいKm値(トロンビンに対する高い親和性)そして高い代謝回転数Kcatを示している。トロンビン生成試験においてこれら二つの高速度基質を用いたときは、非結合のペプチド基質H−β−Ala−Gly−Arg−pNA 又は本発明に係る基質であるデキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNAを用いたときよりも、反応速度はより急速であり、そして基質の消耗は急速に起こり、そしてそれによって基質変換とトロンビン濃度の平衡はもはや保証されない。
【0019】
本発明に係る多糖類−ペプチド複合体の調製は、Rがトロンビンで分解され得るシグナル基である配列Ala−Gly−Arg−RをC−末端に含んでいるペプチドを多糖類に結合することができる方法であれば、当業者に既知である如何なる望ましい方法によってでも行うことができる。多糖類−ペプチド複合体の調製の工程は、例えば、特許US6,011,008、WO01/70272A1及びUS6,949,524B2に記載されている。 好ましい方法としては、アミン−反応性基を有する活性化された多糖類を使用するものがある。ポリアルデヒド−多糖類が使用され、そしてペプチド部分がシッフ塩基(Schiff's base)の形成を経由して活性化された多糖類に結合している方法が有利である。典型的には、多糖類の活性化は第一に例えばアルデヒド基のようなアミン−反応性基を多糖類分子中で生成するために必要である。
【0020】
殊に好ましい方法としては、多糖類分子当たり40から60個、好ましくは45から55個のアルデヒド基を有する活性化された多糖類を使用するものがある。アルデヒド基の生成は、例えば、過ヨウ素酸及びその塩、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4) (例えば、Hermanson, G. T., Bioconjugate Techniques, Academic Press 1996、618-622頁参照)のような好適な酸化剤を用いた酸化作用、又は例えば、グリシジルエーテル(US 6,949,524 B2参照)のようなアルキル化剤の使用により遂行することができる。
【0021】
本発明に係る多糖類−ペプチド複合体の調製のための工程の好ましい実施態様においては、アルデヒド基の生成のために10%濃度のメタ過ヨウ素酸ナトリウム溶液中でインキュベートした約15,000から約20,000g/molのモル質量を有する活性化されたデキストランが使用される。この仕方で活性化されたデキストランは、約40から55個のアルデヒド基を有する。活性化の程度は、プルパルド法(Purpald(R)法 )(Dickinson, R. G. and Jacobsen, N. W. (1970)「アルデヒド測定のための新しい高感度及び特異的な試験: 6−メルカプト−3−置換−s−トリアゾロ[4,3−b]−s−テトラジンの形成」(A new sensitive and specific test for the detection of aldehydes: formation of 6−mercapto−3−substituted−s−triazolo[4,3−b]−s−tetrazines)、J. Chem. Soc. D, 1719-1720)を用いて、光度測定として測定することができる。その方法においては、カラムクロマトグラフィーによる精製工程の後に、とりわけ過剰のメタ過ヨウ素酸ナトリウムを除去し、そして炭酸塩の緩衝液(pH8.5)中で再緩衝化処理し、7.5-倍から20-倍、殊に好ましくは10-倍モル過剰のペプチドを活性化したデキストランに添加する。例えばホウ化水素ナトリウム又はホウ化水素カリウムのような還元物質を反応バッチに加えて、シッフ塩基をより安定な第二級アミン基に変換することができる。サイズ排除クロマトグラフィーによる精製工程において、とりわけ、非結合のペプチドを除去した後に、複合体を、例えば、凍結乾燥することができる。この仕方で調製された複合体の場合は、デキストランの1分子当たり、約7から10個のペプチド分子が結合している。この結合結果は、HPLC 分析(高速液体クロマトグラフィー)を用いて調べることができる。
【0022】
多糖類−ペプチド複合体は、多糖類分子当たり、少なくとも5個の、好ましくは少なくとも10個の、ペプチド分子が結合しているのが好ましい。
【0023】
多糖類−ペプチド複合体は、そのペプチド部分が第二級アミン結合を介して多糖類に結合しているのが更に好ましい。
【0024】
本発明の更なる側面は、トロンビン生成を測定する方法において、本発明に係る多糖類−ペプチド複合体をトロンビン基質として使用することに関する。少なくとも10kDaの分子サイズの故に、本発明に係る複合体の使用は、反応バッチ中にα2−マクログロブリンのようなトロンビン阻害物質が含まれているときには殊に有利である。このことは、血液又は血漿の標本においてトロンビン生成を測定するときには、日常的にみられる。トロンビン生成を測定する典型的な方法においては、患者の血液又は血漿の試料をトロンビン基質と混合し、そして適当な活性化因子の添加により凝固を誘導する。時間とともに遊離してくるシグナル基の量を測定して、反応速度をプロットすると、健常者においては初期の遅滞期の後に、トロンビン形成の指数期に入る最初の変化そして最終的にはトロンビン阻害が増加しているプラトー期に達する。本発明に係る多糖類−ペプチド複合体の殊に好ましい使用は、例えば、EP 420 332 B1に記載されているような、トロンビン生成を測定するための方法におけるトロンビン基質としての使用である。
【0025】
図1は、非結合の低分子トロンビン基質β−Ala−Gly−Arg−pNAの基質変換曲線を表示している。血漿試料におけるトロンビンの形成及び阻害の終了の後に、該反応曲線は、プラトー期に到達することなく、一様に一定しそして直線的な増加に変わる。この増加はα2−マクログロブリン結合トロンビンによる低分子ペプチド基質の切断に基づくものである。
図2は、高分子トロンビン基質 デキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNAの基質曲線を表示している。血漿試料におけるトロンビンの形成及び阻害の終了の後に、該反応曲線は平衡状態に変わりそして基質変換はもはや起こらず、そして吸光度は一定値を維持するプラトー期に到達する。この場合の基質変換は遊離トロンビンの量に直接的に比例する。
図3は、通常の血漿プール、トロンビン形成の低下した血漿プール(欠乏プール)及びトロンビン形成の増加した血漿プール(過剰プール)の基質曲線を表示している。該反応曲線の行程及び反応終結における吸光度の変化の末端は、試料におけるトロンビン形成に依存している。
【0026】
実施例
実施例1:デキストラン−結合のトロンビン基質 デキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNAの調製
a)デキストランの酸化
製品情報(Fluka, Buchs, Switzerland)により15から20kDaの分子量を有するデキストラン1500mgを10%濃度のメタ過ヨウ素酸ナトリウム溶液30mlに溶解し、そして室温(19〜26℃)で24時間遮光してインキュベートした。過剰のメタ過ヨウ素酸ナトリウム及び副産物を、PD−10既製カラム(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)上で、0.1Mの炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.5)中で再緩衝化処理して、反応バッチから分離した。
b)酸化デキストランへのβ−Ala−Gly−Arg−pNAの結合
β−Ala−Gly−Arg−pNAペプチド(Pefa 5134, Pentapharm, Basle, Switzerland)の10倍モル過剰を酸化したデキストランへ添加し(実施例1a参照)、そしてこの溶液を室温で24時間遮光してインキュベートした。反応開始15分後に、反応溶液1ml当たり1Mの水素化ホウ素酸ナトリウム溶液0.2mlを添加した。最終濃度が0.2mol/lとなるようにTRIS 溶液(pH8.0)を加えてこの反応を終了させた。
c)デキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNA複合体の精製
所望するデキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNAから非結合のペプチド又は遊離のpNAを除去するために、該複合体をセファクリル(Sephacryl(TM))S-200 カラム (GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより、0.1%酢酸中で精製した。凍結乾燥の後、デキストランと結合した基質の収量は、850から1400mgであった。この方法により調製したデキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNA複合体は約20kDaの分子量を有していた。
該ペプチド基質 H−D−CHG−Ala−Arg−pNA (Pefa 5114, Pentapharm, Basle, Switzerland) 及び H−D−CHG−Gly−Arg−pNA (Pefa 081−04, Pentapharm, Basle, Switzerland) は、同様の仕方でデキストランに結合させそして引き続き精製した。
【0027】
実施例2:酸化デキストランの活性化の程度の測定
酸化されたデキストランの活性化の程度を測定するために、デキストランの酸化(実施例1a参照)の後に得られた反応溶液から一部分を取り出し、そしてこれを10mM燐酸ナトリウム/300mM 塩化ナトリウム緩衝液で希釈した。この希釈したデキストラン溶液の100μlを1N水酸化ナトリウム溶液中の1% 濃度 のプルパルド(Purpald(R))溶液の500 μlで45分間反応させた。この反応は、次いで2mg/ml のシアノホウ化水素ナトリウム(sodium cyanoborohydride)溶液 の400μlを加えて終了させ、そして540nmにおける吸光度を測定した。アルデヒド濃度は標準曲線の吸光度と比較することにより決定し、そして活性化の程度は、アルデヒド濃度/デキストラン濃度の比率から計算した。
実施例1aに記載されている方法に基づき、デキストラン分子当たり40から55個のアルデヒド基の活性化の程度を有する酸化されたデキストランが得られた。
【0028】
実施例3:結合の結果の測定
実施例1bに記載されている酸化デキストランへのβ−Ala−Gly−Arg−pNAの結合の結合結果を測定するために、タンパク質KW−803 カラム (Shodex, Japan)を用いたHPLC分析により、そしてペプチド標準曲線と比較することにより、結合前後の非結合ペプチドを定量化した。結合前後の遊離ペプチドの定量的な相異から結合したペプチド画分を計算したところ、これはデキストランの量に関連していた。
デキストラン分子当たり、7から10個のペプチド分子が結合していた。
【0029】
実施例4:内因性トロンビン産生能を測定するためのトロンビン基質としての、本発明に係るデキストランβ−Ala−Gly−Arg−pNA複合体の使用
内因性トロンビン産生能を測定するために、凍結乾燥したトロンビン基質 デキストランβ−Ala−Gly−Arg−pNA (実施例1を参照)をTris HCl緩衝液[50mM]、pH7.4の1mlに溶解した。次いで、繊維素を除去した血小板欠乏の血漿(PPP)の135μlを該基質溶液の80μlと一緒に37℃で予備インキュベートした。イノビン(Innovin(R))(組換えヒト組織因子及び合成リン脂質を含んでいる試薬); Dade Behring Marburg GmbH, Germany) 30μl 及びCaCl2 [250mM]の15μlを加えてトロンビン生成を開始させた。測定も同時に開始した。吸光度の変化は、ベーリング(Behring)凝固システム、BCS(R)システム (Dade Behring Marburg GmbH, Marburg, Germany)中で、λ=405nmの波長で少なくとも20分間モニターした (図2参照)。
比較する目的で、非結合の基質H−β−Ala−Gly−Arg−pNAを用いて、内因性トロンビン産生能の測定を平行して行った。このために用いた基質溶液は1mM H−β−Ala−Gly−Arg−pNAを含んでいた(図1を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】非結合の低分子トロンビン基質β−Ala−Gly−Arg−pNAの基質変換曲線を示す。
【図2】高分子トロンビン基質 デキストラン−β−Ala−Gly−Arg−pNAの基質曲線を示す。
【図3】通常の血漿プール、トロンビン形成の低下した血漿プール(欠乏プール)及びトロンビン形成の増加した血漿プール(過剰プール)の基質曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が10kDaより大きく、ペプチド部分のC−末端に配列Ala−Gly−Arg−Rを含み、ここにおいてRはトロンビンで分解され得るシグナル基である、多糖類−ペプチド複合体。
【請求項2】
ペプチド部分が合計3から5個のアミノ酸残基、好ましくは合計8個より多くはないアミノ酸残基からなる、請求項1に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項3】
複合体の調製のために、隣接するジオール又はヒドロキシル基/アミノ基又はヒドロキシル基/カルボニル基又はカルボニル基/カルボニル基を含んでいる単糖単位から構成された多糖類を使用した、請求項1または2に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項4】
多糖類部分がデキストランを含んでいる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項5】
多糖類部分が約10,000から約40,000g/mol、好ましくは約12,000から約20,000g/mol、殊に好ましくは約15,000g/molのモル質量を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項6】
分解され得るシグナル基Rが色素原の基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項7】
色素原の基がパラニトロアニリン(pNA)である、請求項6に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項8】
分解され得るシグナル基Rが蛍光色素原の基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項9】
多糖類分子当たり少なくとも5個、好ましくは少なくとも10個のペプチド分子が結合している、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項10】
ペプチド部分が第二級アミン結合を介して多糖分子に結合している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多糖類−ペプチド複合体。
【請求項11】
試料中のトロンビン生成の測定方法において用いる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の多糖類−ペプチド複合体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−137988(P2008−137988A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−196949(P2007−196949)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(398032751)デイド・ベーリング・マルブルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (36)
【Fターム(参考)】