説明

トー角度測定装置及び測定方法

【課題】車両の設置位置が標準位置から大きくずれている場合であっても確実且つ高精度にトー角度を測定する。
【解決手段】トー角度測定装置10における測定ユニット18は、車両14のハブ16を着座台48に着座させると共に、第2ベース部材36に対して車幅方向及び平面視回転方向に移動自在な着座テーブル46と、該着座テーブル46から外側方に向かって延在する鉛直な測定面68を備える被測定部材70と、第2ベース部材36を基準として測定面68に対向するように設けられ、間隔y1だけ離れた2箇所から測定面68に対する距離x1、x2を計測する非接触距離センサ62a、62bとを有する。測定面68は、車幅方向に対して角度βの鋭角をなす向きに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における車輪のトー角度を測定するトー角度測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両における車輪のトー角度を測定する際、セットした車両の平面視回転方向のずれを反映して測定する装置として、車両の前後左右4つの車輪に対してそれぞれ外方に設置される測定ユニットを有する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
該装置における各測定ユニットは、車輪の外側面に接触する傾斜可能な検出板を先端に有し、進退可能な支持ロッドを有する計測手段と、これらの検出板が各車輪に接触したときの前記支持ロッドの進出量から、全体装置中心を基準とした車両の傾き角である補正角θを算出している。この後、各計測手段の検出板の傾斜角から補正角θを減算して各車輪のトー角度を算出している。これにより、車両の位置ずれに基づくトー角度の補償が可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−109462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載された装置では、支持ロッドの進出量に基づいて車両の傾き角である補正角θを求めているため、該補正角θが過大である場合には支持ロッドの進出量が足りなくなりトー角度の測定が困難となる懸念がある。また、補正角θが0であっても、車両が左右のいずれか一方に極端に偏位している場合には同様の懸念が生ずる。
【0006】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、車両の設置位置が標準位置から大きくずれている場合であっても確実且つ高精度にトー角度を測定することのできるトー角度測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両における車輪のトー角度を測定する測定ユニットを備えるトー角度測定装置において、前記測定ユニットは、前記車輪又は該車輪の取付部を定位置に着座させると共に、所定のベース部材に対して少なくとも車幅方向及び平面視回転方向に移動自在な着座テーブルと、前記着座テーブルから外側方に向かって延在する鉛直な測定面を備える被測定部材と、相互に所定間隔だけ離れた2箇所から前記測定面に対する距離を前記ベース部材を基準としてそれぞれ計測する一対の距離計測手段と、前記距離計測手段の計測値に基づいて前記トー角度を算出するトー角度算出手段とを有し、前記被測定部材の前記測定面は、少なくとも測定時に、車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きに設定されていることを特徴とする。
【0008】
このように、被測定部材の測定面を車輪又は車輪の取付部を基準となるようにして外側方に向かって延在し、且つ車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きに設定することにより、車幅方向における車輪又は取付部の大きな変位が車長方向における測定面の微小な変位に変換されることになる。したがって、車両の設置位置が標準位置から大きくずれている場合であっても確実且つ高精度な測定が可能となり、車両の姿勢を限定することなくトー角度を計測することができる。また、所定距離だけ離れた2箇所に距離計測手段を配置して距離を計測することによりトー角度が求められる。
【0009】
さらに、本発明は、車両における車輪のトー角度を測定するトー角度測定方法において、ベース部材に対して少なくとも車幅方向及び平面視回転方向に移動自在な着座テーブルにおける定位置に前記車輪又は該車輪の取付部を着座させる第1工程と、前記着座テーブルから外側方に向かって延在し、少なくとも測定時に、車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きに設定されている鉛直な測定面が設けられた被測定部材を前記車輪又は前記取付部の側面に対して付勢する第2工程と、相互に所定距離だけ離れた2箇所から前記測定面に対する距離を前記ベース部材を基準としてそれぞれ計測する第3工程と、前記第3工程における計測値に基づいて前記トー角度を算出する第4工程とを有することを特徴とする。
【0010】
車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きに設定されている測定面では、車幅方向における車輪又は取付部の大きな変位が車長方向における測定面の微小な変位に変換される。したがって、車両の設置位置が標準位置から大きくずれている場合であっても確実且つ高精度な測定が可能となり、車両の姿勢を限定することなくトー角度を計測することができる。また、測定面に対して所定距離だけ離れた2箇所に距離計測手段を配置して距離を計測することにより補正前のトー角度が求まり、トー角度算出の基礎値とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るトー角度測定装置及び測定方法によれば、被測定部材の測定面を車輪又は車輪の取付部を基準となるようにして外側方に向かって延在し、且つ車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きに設定することにより、車輪又は取付部の車幅方向における大きな変位が測定面の車長方向における微小な変位に変換されることになる。したがって、車両の設置位置が標準位置から大きくずれている場合であっても距離計測手段が計測レンジオーバを発生する事態がなく、車両の姿勢を限定せずに確実な測定が可能となる。
【0012】
また、距離計測手段として小レンジのものを採用することができるため単位長さ当たりの計測精度が向上し、補正角として車両のスラスト方向のずれ角が正確に求まり、得られた補正角による適切な補正を行うことによりトー角度を高精度に算出することができる。
【0013】
さらに、所定距離だけ離れた2箇所に距離計測手段を配置してそれぞれ測定面までの距離を計測することによりトー角度を求めることができ、距離計測手段を補正角検出用及び補正前のトー角度検出用に兼用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るトー角度測定装置及び測定方法について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図15を参照しながら説明する。
【0015】
図1及び図2に示すように、本実施の形態に係るトー角度測定装置10は、ハンガー12によって懸架されながら搬送される車両14における各ハブ(車輪の取付部)16の補正前のトー角度α0を測定する4台の測定ユニット18と、該測定ユニット18を制御するとともに、得られた測定結果に基づいて実際のトー角度αを算出するための制御部(トー角度算出手段)20とを有する。4台の測定ユニット18のうち、後方に配置された2台はレール21上に設置されており、車両14のホイールベースに応じて車長方向にスライド移動可能である。
【0016】
車両14は基本的には左右二対の測定ユニット18の中間に搬送されるが、ハンガー12によって懸架されているため、平面視におけるスラスト回転方向のずれとして補正角θが発生し、又は左右のいずれか一方に偏位した状態で搬送されるという事態が発生し得る。
【0017】
図3〜図5に示すように、測定ユニット18は、鉛直方向に立設されたメインシリンダ30と、該メインシリンダ30のロッド先端に固定された第1ベース部材32と、該第1ベース部材32に対して一対の第1レール34に支持され車長方向に滑らかにスライド移動可能な第2ベース部材36と、該第2ベース部材36に対して一対の第2レール38に支持され車幅方向に滑らかにスライド移動可能な水平面移動板40と、水平面移動板40の上面に設けられた4つの回転可能な鋼球42に支持され、中心軸44を基準として滑らかに回転する着座テーブル46とを有する。このような構成により着座テーブル46は、水平面上で車幅方向、車長方向及び回転方向に対して滑らかに移動可能であり、いわゆるフローティング状態となる。メインシリンダ30及び後述するサブシリンダ54、プッシュロッド56は制御部20の作用下にロッドを伸縮させることができる。
【0018】
また、測定ユニット18は、着座テーブル46の上面略中央部に設けられた着座台48と、着座テーブル46に対してステー46aを介して設けられるスライダ50と、該スライダ50により車幅方向に案内されるハブ側面押圧部52とを有する。測定ユニット18は、さらにステー46aに取り付けられてハブ側面押圧部52を駆動するサブシリンダ54と、第2ベース部材36の端部に取り付けられて水平面移動板40を車幅方向に駆動するプッシュロッド56と、第2ベース部材36の端部から延在するブラケット58及び該ブラケット58から上方に延在する2本のステー60を介して設けられる2つのレーザ式の非接触距離センサ(距離計測手段)62a、62bとを有する。着座台48は上部に円板状のハブ16の下面が着座する定位置である側面視鈍角の凹部48a(図6参照)を有する。
【0019】
ハブ側面押圧部52は、スライダ50の端部に固定されて上方に延在する接続部材64と、該接続部材64の上部に接続され、ハブ16に対向するように設けられたハブ押圧円板66と、接続部材64から外側方に向かって延在する測定面68を備える被測定部材70とを有する。
【0020】
ハブ押圧円板66は、120°間隔でハブ16に向かって突出する3本の接触片66aを有し、サブシリンダ54の作用下にハブ側面押圧部52が移動することにより、各接触片66aはそれぞれ着座台48に着座しているハブ16の側面に接触する。被測定部材70は、平面視(図4参照)で先端鋭角の三角形状であって外側方に向かって延在しており、軽量化のために抜き孔70aが設けられている。測定面68は被測定部材70における車長方向後方に設けられた鉛直面であり、水平横長形状である。また、測定面68は車幅方向に対して鋭角をなす向きに設定されており、具体的には、平面視で車幅方向と測定面68とのなす角である測定面傾斜角βは基準姿勢時で5°に設定されている。なお、図1、図4、図12及び図13においては、理解を容易にするために測定面傾斜角βを誇張的に約20°に図示している。
【0021】
測定面傾斜角βは、車両14の搬送状況等を勘案して適宜設定すればよく、後述するように、例えば基準姿勢時で1°〜10°の範囲から選択設定すればよい。なお、ここでいう基準姿勢とは、平面視で中心軸44を基準とた着座テーブル46の回転角度が0°である場合であり、実際にはスライダ50の進退方向を基準に設定される。また、着座テーブル46は平面視で回転可能となっているが、測定面68は、少なくとも測定時において車幅方向に対して鋭角となっていればよい。
【0022】
2つの非接触距離センサ62a、62bは、水平に所定の間隔y1だけ離れた位置で測定面68に対向するように設けられており、非接触距離センサ62aが外方、非接触距離センサ62bが内方となるように配列されている。このような配置により、非接触距離センサ62a、62bは2箇所から測定面68に対する法線の距離x1、x2を非接触で測定することができ、測定された距離x1、x2は制御部20へ供給される。なお、車両14が正確に標準位置に搬送されて補正角θが0°であって、且つトー角度αが0°である場合には、x1=x2であるものとする。
【0023】
また、図3〜図5に示す測定ユニット18は、左前輪及び左後輪に対して適用される左用を例にして説明したが、右前輪及び右後輪に対して適用される右用のものは左用に対して対称構造として構成されることから、その詳細な説明を省略する。
【0024】
図7に示すように、制御部20は、車両14の右前輪、右後輪、左前輪及び左後輪の各ハブ16について測定を行う各測定ユニット18に対して制御及び所定の演算処理を行う右前輪制御部72a、右後輪制御部72b、左前輪制御部72c及び左後輪制御部72dと、補正角θを演算する角度補正値算出部74と、補正角θに基づく補正を行う補正部76とを有し、該補正部76により算出されたトー角度αはモニタ78の画面上に表示される。右前輪制御部72a、右後輪制御部72b、左前輪制御部72c及び左後輪制御部72dは、それぞれ、距離x1、x2に基づいて補正前のトー角度α0を求める補正前のトー角度算出部80と、ハブ16の車幅方向の位置Wを求める車幅方向位置算出部82と、メインシリンダ30及びサブシリンダ54等の制御を行うアクチュエータ制御部84とを有する。角度補正値算出部74では車幅方向位置算出部82から供給される各位置Wに基づいて補正角θを算出し、補正部76では各補正前のトー角度α0から補正角θを減算することによりトー角度αを求める。
【0025】
制御部20は、主たる制御部としてのCPU(Central Processing Unit)と、記憶部としてのRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)及びドライバ等を有しており、上記の各機能部は、CPUがプログラムを読み込み、記憶部等と協動しながらソフトウェア処理を実行することにより実現される。
【0026】
次に、このように構成されるトー角度測定装置10を用いて、車両14におけるハブ16のトー角度αを測定、及び算出する方法について説明する。以下に示す処理は主に制御部20の作用下に行われ、図7に示す各機能部が協動して処理を行う。また、表記したステップの番号順に処理が実行されるものとする。
【0027】
先ず、図8のステップS1において、車両14がトー角度測定装置10による測定位置まで搬送されてきたことを所定手段により確認した後、図9に示すように、プッシュロッド56によって水平面移動板40を車幅方向に移動させ、着座台48がハブ16の下方に配置されるように位置決めを行う。
【0028】
この位置決めを行った後、所定の解放手段によってプッシュロッド56と水平面移動板40とを切り離して水平面移動板40が拘束されないようにし、第2レール38に沿って移動自在にする。
【0029】
ステップS2において、図6及び図10に示すように、メインシリンダ30のロッドを上昇させて着座台48の凹部48aにハブ16を着座させる。このとき、着座台48と一体の着座テーブル46はフロート状態となっていることから調芯的な作用が働き、着座台48及び着座テーブル46はハブ16の下面に対して正しい向きとなるように移動する。
【0030】
また、メインシリンダ30はレギュレータにより圧力制御されており、ハブ16を所定の力で持ち上げながらサスペンション86(図5参照)を多少圧縮させた位置で停止する。車両14は搬送時にハンガー12によって懸架されていてサスペンション86には車重が加わることがないため実際の使用状態とは異なっているが、メインシリンダ30によって下方から制御された適当な力を加えることにより、使用状態に近づけた測定が可能となる。
【0031】
サスペンション86を適度に圧縮させるための手段としては、圧力制御に限らず、例えば高さ制御に基づいて行ってもよい。高さ制御を行う場合、簡便な手段としては、第1ベース部材32から突出するストッパを設け、該ストッパを車両14の下面における所定位置に当接させることにより高さを規定するとよい。
【0032】
ステップS3において、図11に示すように、サブシリンダ54の作用下にハブ側面押圧部52をスライダ50に沿って移動させ、ハブ押圧円板66の3つの接触片66aをそれぞれハブ16の側面(図6参照)に当接させる。これにより、ハブ16とハブ押圧円板66は、接触片66aの長さだけ離間して正確に平行配置された位置に設置されることとなり、ハブ押圧円板66と一体的となった被測定部材70の位置、姿勢に基づいてハブ16のトー角度αを正確に測定することが可能となる。
【0033】
ステップS4において、非接触距離センサ62a及び62bにより被測定部材70における測定面68までの距離x1及びx2を計測し、得られた計測値を制御部20へ供給する。
【0034】
ステップS5において、制御部20は得られた距離x1及びx2に基づいて、ハブ16の補正前のトー角度α0を演算する。この場合の補正前のトー角度α0は、スラスト回転方向のずれである補正角θによる補正を行う前のトー角度であり、4輪のハブ16に対してそれぞれ独立的に算出する。
【0035】
具体的には、図12に示す模式図から理解されるように、非接触距離センサ62a及び62bから測定面68までの距離x1と距離x2との差x1−x2と、非接触距離センサ62a及び62bの間隔y1とに基づいて、次の(1)式により算出される。
【0036】
【数1】

【0037】
なお、図12においては、被測定部材70の動きを理解しやすいように、当初の原位置及びステップS2においてハブ16が着座台48に着座した状態の位置を、二点鎖線及び破線で示している。
【0038】
ステップS6において、4輪のハブ16についてそれぞれ車幅方向の位置Wを求める。この位置Wは、図13に示す模式図から理解されるように、非接触距離センサ62a及び62bから測定面68までの距離x1と距離x2の平均値に基づいて、次の(2)式により算出される。
【0039】
【数2】

【0040】
つまり、位置Wの変位量ΔWに対する距離x1及び距離x2の変位量Δxの比はsinβとなり、ハブ16の車幅方向における大きな変位量ΔWが測定面68の車長方向における微小な変位量Δxに変換されることになる。例えば、測定面傾斜角βを5°とし、変位量ΔWを1としたとき、距離x1及び距離x2の変位量Δxは0.087(=sin5°)に変換され好適である。実際上、測定面傾斜角βが30°以下であれば、ハブ16の変位量ΔWを1としたとき距離x1、x2の変位量Δxは半分の0.5(=sin30°)以下に抑えられて好適である。また、測定面傾斜角βが10°以下であれば、変位量Δxは0.174(=sin10°)以下となり、十分に小さくなるため一層好適である。
【0041】
さらに、測定面傾斜角βの下限値は非接触距離センサ62a、62bの分解能や、想定される変位量Δxに基づいて設定され、一般的に1°以上とするとよい。
【0042】
これにより、非接触距離センサ62a、62bで用いられる計測レンジは十分に小さくなり、レンジオーバで測定不可能となるおそれがない。また、非接触距離センサ62a、62bに限らず一般的なセンサでは、計測レンジが広がるほど単位長さ当たりの計測精度が低下する傾向があるが、トー角度測定装置10では、必要とされる計測レンジが十分小さいために、非接触距離センサ62a、62bとして小レンジのものを採用可能であり、距離x1及びx2を高精度に計測することができる。
【0043】
なお、図13及び(2)式から理解されるように位置Wの計算上の基準点Pは、被測定部材70が原位置にあるときの距離x1及びx2が、x1=x2=x0と表されるとして、W=W0=x0/sinβとなる点であり、具体的には、距離x1及び距離x2の各計測点の中間点である。
【0044】
また、図13では理解が容易となるように補正前のトー角度α0が、α0=0である例を示しているが、α0≠0である場合にも(2)式が成立することはもちろんである。
【0045】
このステップS6においては、4輪のハブ16についてそれぞれ位置Wを計算することから以下の説明では区別をして、右前輪については位置WFR、右後輪については位置WRR、左前輪については位置WFL、左後輪については位置WRLとして表す。
【0046】
ステップS7において、車両14のスラスト回転方向のずれである補正角θ(図1参照)を求める。補正角θを求めるために、先ず図14に示す補正角正接値Dを次の(3)式により求める。
【0047】
【数3】

【0048】
ここで、パラメータaは左右の基準点P間の距離、パラメータbは左右前輪間の距離、パラメータcは左右後輪間の距離である。次に、求められた補正角正接値Dを用いて、補正角θを、θ=Tan-1(D/y2)として求める。ここで、パラメータy2は車両14のホイールベース距離である。整理すると補正角θは次の(4)式により算出される。
【0049】
【数4】

【0050】
ステップS8において、4輪のハブ16に対してそれぞれ補正前のトー角度α0を補正角θにより、α←α0−θと補正してトー角度αを求める。
【0051】
また、上記のとおり、サスペンション86は適度に圧縮されていて実使用状態に近づけて測定を行っているが、トー角度αを一層正確に算出するためにサスペンション86の圧縮量に対応するトー角度αの傾向を示す所定のトーカーブデータを参照しながらさらに補正を行ってもよい。
【0052】
ステップS9において、所定の測定後処理を行う。すなわち、サブシリンダ54のロッドを縮退させて接触片66aをハブ16から離間させるとともにメインシリンダ30の作用下にハブ側面押圧部52を下降させる。この後、車両14はハンガー12によって次の工程へ搬送される。また、求められたトー角度αは、モニタ78に表示するとともに記録を行い、規定範囲を超える値である場合にはその旨を知らせる情報を図示しない管理コンピュータに送信する。
【0053】
上述したように、本実施の形態に係るトー角度測定装置10及び測定方法では、被測定部材70の測定面68をハブ16を基準となるようにして外側方に向かって延在し、且つ車幅方向に対して鋭角をなす向きに設定することにより、ハブ16の車幅方向における変位量ΔWが測定面68の車長方向における微小な変位量Δxに変換されることになる。したがって、車両14の設置位置が標準位置から大きくずれている場合(補正角θが大きい場合又は補正角θが0であっても、車両14が左右のいずれか一方に極端に偏位している場合)であっても、ハブ16の位置Wを確実且つ高精度に求めることができ、位置Wに基づく補正角θ及びトー角度αを高精度に算出することができる。また、間隔y1だけ離れた非接触距離センサ62a及び62bで測定面68に対する距離x1、x2を計測することにより、トー角度αの基礎値としての補正前のトー角度α0を求めることができ、非接触距離センサ62a及び62bを位置Wの検出と、補正前のトー角度α0の検出に兼用することができる。
【0054】
さらに、ハブ側面押圧部52は車幅方向に移動しながら付勢手段として作用し、被測定部材70をハブ16の側面に対して付勢するため、着座テーブルに対するハブ16の着座姿勢が一層適切となり、トー角度α0をより高精度に測定することができる。さらにまた、測定ユニット18は車両14における各車輪に対して設けられ、各測定ユニット18における非接触距離センサ62a、62bの計測値に基づいて車両14の平面視回転角度である補正角θを求めて補正することにより、トー角度αを一層高精度に測定することができる。
【0055】
なお、上記の例では、測定面68は車幅方向を基準として前方に傾斜している面として説明したが、車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きであればこれに限る必要はなく、例えば、図15に示すように、車幅方向を基準として後方に傾斜している面であってもよい。また、測定ユニット18により測定を行う対象物としてはハブ16に限らず、ディスクブレーキ、ホイール又はタイヤ(車輪)に対して測定を行ってもよい。
【0056】
本発明に係るトー角度測定装置及び測定方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施の形態に係るトー角度測定装置の平面図である。
【図2】本実施の形態に係るトー角度測定装置の正面図である。
【図3】測定ユニットの正面図である。
【図4】測定ユニットの平面図である。
【図5】測定ユニット及び車両の斜視図である。
【図6】ハブを着座台に着座させた状態を示す側面図である。
【図7】制御部のブロック構成図である。
【図8】本実施の形態に係るトー角度測定方法の手順を示すフローチャートである。
【図9】水平面移動板移動させ、着座台がハブの下方に配置されるように位置決めを行う工程を示す模式図である。
【図10】ロッドを上昇させて着座台の凹部にハブ16を着座させる工程を示す模式図である。
【図11】被測定部材をハブの側面に対して付勢する工程を示す模式図である。
【図12】補正前のトー角度と、2つの非接触距離センサにより測定される距離との関係を示す模式図である。
【図13】ハブの車幅方向の位置と、2つの非接触距離センサにより測定される距離との関係を示す模式図である。
【図14】4輪のハブの車幅方向の各位置と、補正角との関係を示す模式図である。
【図15】トー角度測定装置の変形例に係る平面図である。
【符号の説明】
【0058】
10…トー角度測定装置 14…車両
16…ハブ 18…測定ユニット
32…第1ベース部材 34…第1レール
36…第2ベース部材 38…第2レール
40…水平面移動板 42…鋼球
46…着座テーブル 48…着座台
52…ハブ側面押圧部 54…サブシリンダ
56…プッシュロッド 62a、62b…非接触距離センサ
66…ハブ押圧円板 66a…接触片
68…測定面 70…被測定部材
P…基準点 W、WFL、WFR、WRL、WRR…位置
x1、x2…距離 y1…間隔
2…ホイールベース α…トー角度
α0…補正前のトー角度 β…測定面傾斜角
θ…補正角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車輪のトー角度を測定する測定ユニットを備えるトー角度測定装置において、
前記測定ユニットは、
前記車輪又は該車輪の取付部を定位置に着座させると共に、所定のベース部材に対して少なくとも車幅方向及び平面視回転方向に移動自在な着座テーブルと、
前記着座テーブルから外側方に向かって延在する鉛直な測定面を備える被測定部材と、
相互に所定間隔だけ離れた2箇所から前記測定面に対する距離を前記ベース部材を基準としてそれぞれ計測する一対の距離計測手段と、
前記距離計測手段の計測値に基づいて前記トー角度を算出するトー角度算出手段と、
を有し、
前記被測定部材の前記測定面は、少なくとも測定時に、車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きに設定されていることを特徴とするトー角度測定装置。
【請求項2】
車両における車輪のトー角度を測定するトー角度測定方法において、
所定のベース部材に対して少なくとも車幅方向及び平面視回転方向に移動自在な着座テーブルにおける定位置に前記車輪又は該車輪の取付部を着座させる第1工程と、
前記着座テーブルから外側方に向かって延在し、少なくとも測定時に、車幅方向に対して平面視で鋭角をなす向きに設定されている鉛直な測定面が設けられた被測定部材を前記車輪又は前記取付部の側面に対して付勢する第2工程と、
相互に所定距離だけ離れた2箇所から前記測定面に対する距離を前記ベース部材を基準としてそれぞれ計測する第3工程と、
前記第3工程における計測値に基づいて前記トー角度を算出する第4工程と、
を有することを特徴とするトー角度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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