説明

ドグクラッチシステム

【課題】クラッチの係合時に発生する打音を低減することが可能なドグクラッチシステムを提供する。
【解決手段】第1歯列9を有する第1係合部材5と、第1歯列9と噛み合わせることが可能な第2歯列11を有する第2係合部材6とを共通の軸線Axの回りに相対回転可能に配置したクラッチ1と、第1係合部材5を駆動装置7にて軸線Ax方向に移動させることにより、クラッチ1を第1歯列9と第2歯列11とが噛み合う係合状態と第1歯列9と第2歯列11とが離間する解放状態とに切り替える制御装置20とを備えたドグクラッチシステムにおいて、制御装置20は、クラッチ1を解放状態から係合状態に切り替える過程において第1歯列9と第2歯列11とが噛み合う前に第1係合部材5の軸線Ax方向への移動が一時停止するように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とを衝突させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達経路に設けられて動力の断続を行うことが可能なドグクラッチシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載される変速機には、歯車同士の係合がスムーズに行われるように噛み合わせるべき歯車同士の回転を同期させる同期装置が組み込まれている。このような同期装置において、ハブスリーブとスプラインピースとの間に配置されるシンクロナイザリングにハブスリーブの第1チャンファに対応する第2チャンファを設け、この第2チャンファのチャンファ角を第1チャンファのチャンファ角よりも小さく設定するとともにこの第2チャンファを所定量回動可能に設けることにより、ハブスリーブとシンクロナイザリングとの接近時にまず第2チャンファの先端と第1チャンファとを当接させ、その後第2チャンファの回動により第1チャンファと第2チャンファとを面接触させることにより、両者間の面圧を低減させるものが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開平6−173970号公報
【特許文献2】特開2006−207621号公報
【特許文献3】特開2007−120723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、互いに歯列が設けられた一対の係合部材を係合させたり離間させたりすることにより動力の断続を行うドグクラッチが知られている。このドグクラッチにおいても一対の係合部材を係合させる際には離間している互いの歯列を噛み合わせる必要があるため、特許文献1の同期装置に使用されている機構を適用し、これら一対の係合部材の互いの歯列に作用する面圧を低減できる。しかしながら、特許文献1の機構では、離間している一対の係合部材を係合させる際に一方の係合部材の歯が他方の係合部材の歯底部に衝突するまで互いの移動速度が高い状態に維持されるので、この歯と歯底部との衝突時に大きな打音が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、クラッチの係合時に発生する打音を低減することが可能なドグクラッチシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のドグクラッチシステムは、周方向に並べられた複数の歯にて形成される第1歯列を有する第1係合部材と、周方向に並べられた複数の歯にて形成され、かつ前記第1歯列と噛み合わせることが可能な第2歯列を有する第2係合部材とを共通の軸線の回りに相対回転可能に配置したクラッチ手段と、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくともいずれか一方を直線駆動手段にて軸線方向に移動させることにより、前記クラッチ手段を前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う係合状態と前記第1歯列と前記第2歯列とが離間する解放状態とに切り替えるクラッチ制御手段と、を備えたドグクラッチシステムにおいて、前記クラッチ制御手段は、前記クラッチ手段を前記解放状態から前記係合状態に切り替える過程において前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う前に前記直線駆動手段にて駆動される駆動対象の係合部材の前記軸線方向への移動が一時停止するように前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させる速度低減手段を備えることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明のドグクラッチシステムによれば、第1歯列と第2歯列とを噛み合わせる前に第1歯列の歯と第2歯列の歯とを衝突させ、これにより直線駆動手段の駆動対象の係合部材を一時停止させるので、係合部材の移動速度をそこで一旦0にすることができる。そして、その後第1歯列と第2歯列とを噛み合わせるので、係合部材の一時停止を行わない場合と比較して第1歯列と第2歯列とが噛み合うときの係合部材の移動速度を低下させることができる。これにより、噛み合い時における第1係合部材と第2係合部材の衝突エネルギを小さくすることができる。なお、第1歯列と第2歯列とを噛み合わせる前に第1歯列の歯と第2歯列の歯とを衝突させるときは係合部材の移動距離がまだ短いため、係合部材同士を衝突させても発生する打音は小さい。係合部材を移動させるために係合部材に付与する駆動力を一定にしても、係合部材の移動速度は移動距離の2乗で増加する。そのため、このように移動距離が短い時点で一旦移動速度を0にし、その後第1歯列と第2歯列を係合させることにより、係合部材の移動速度の増加を抑制することができる。従って、クラッチ手段の係合時に発生する打音を低減することができる。
【0008】
本発明のドグクラッチシステムの一形態において、前記直線駆動手段は、前記駆動対象の係合部材を前記軸線方向に移動させる駆動力を変更可能であり、前記速度低減手段は、前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させるまでは前記駆動対象の係合部材が前記軸線方向に所定の初期駆動力で駆動され、前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させた後は前記駆動対象の係合部材が前記軸線方向に前記初期駆動力よりも小さい駆動力で駆動されるように前記直線駆動手段を制御してもよい(請求項2)。このように第1歯列の歯と第2歯列の歯とを衝突させた後の駆動力を小さくすることにより、第1歯列と第2歯列とが噛み合ったときの係合部材の移動速度をさらに低下させることができる。そのため、クラッチ手段の係合時に発生する打音をさらに低減できる。
【0009】
この形態において、前記速度低減手段は、前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させた後、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが接近するに従って前記駆動対象の係合部材を前記軸線方向に移動させる駆動力が漸次小さくなるように前記直線駆動手段を制御してもよい(請求項3)。このように駆動力を漸次小さくすることにより、クラッチ手段の係合時に発生する打音をさらに低減できる。
【0010】
本発明のドグクラッチシステムの一形態においては、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくともいずれか一方の回転数を変更可能な回転数変更手段をさらに備え、前記速度低減手段は、前記クラッチ手段を前記解放状態から前記係合状態に切り替える過程において、まず前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とが互いに対向した状態で前記第1係合部材及び前記第2係合部材が同期して回転するように前記回転数変更手段を制御し、その後同期して回転している前記第1係合部材と前記第2係合部材とが接近するように前記直線駆動手段を制御して前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させてもよい(請求項4)。このように第1歯列の歯と第2歯列の歯とを互いに対向させた状態で第1係合部材と第2係合部材とを接近させることにより、第1歯列と第2歯列とが噛み合う前に第1歯列の歯と第2歯列の歯とを衝突させることができる。
【0011】
本発明のドグクラッチシステムの一形態において、前記第1歯列を形成する複数の歯及び前記第2歯列を形成する複数の歯には、当接した相手側の歯が自らの歯と歯の間に誘導されるようにチャンファがそれぞれ設けられていてもよい(請求項5)。この場合、第1歯列の歯と第2歯列の歯とが衝突するとそれぞれの歯に設けられたチャンファにて相手の歯が自らの歯と歯の間に誘導されるので、第1歯列と第2歯列とを速やかに噛み合わせることができる。
【0012】
この形態においては、前記チャンファの先端がそれぞれ丸められていてもよい(請求項6)。この場合、歯同士を衝突させたときにチャンファの先端が欠けることを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明のドグクラッチシステムによれば、第1歯列と第2歯列とを噛み合わせる前に直線駆動手段の駆動対象の係合部材を一時停止させ、その後第1歯列と第2歯列とを噛み合わせるので、第1歯列と第2歯列とが噛み合うときの係合部材の移動速度を低下させることができる。そのため、クラッチ手段の係合時に発生する打音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1及び図2は、本発明の一形態に係るドグクラッチシステムが適用されたハイブリッド車の動力伝達装置の一部を模式的に示している。クラッチ手段としてのクラッチ1はハイブリッド車の変速を実現するための装置の一つとして動力伝達装置2に組み込まれている。なお、図1は解放状態のクラッチ1を示し、図2は係合状態のクラッチ1を示している。動力伝達装置2の全体構成等の詳細な構造は本発明の要旨と直接関係しないため説明を省略する。
【0015】
クラッチ1はドグクラッチとして構成されており、動力伝達装置2が持つモータジェネレータ(MG)3からアクスルシャフト4までの動力伝達経路内に配置される。クラッチ1は、MG3側に連結する回転軸5aに装着された第1係合部材5と、アクスルシャフト4側に連結する回転軸6aに装着された第2係合部材6とを備えている。これらの回転軸5a、6aが同軸に配置されることにより、各係合部材5、6は共通の軸線Axの回りに相対回転可能に配置される。MG3側の回転軸5aは軸線Ax方向に移動可能な状態で支持されており、回転軸5aは直線駆動手段としての駆動装置7にて第1係合部材5とともに軸線Ax方向へ駆動される。また、クラッチ1が解放状態の場合は回転軸5aとアクスルシャフト4との連結が解除されているため、MG3にて第1係合部材5の回転数を制御できる。そのため、MG3が本発明の回転数変更手段に相当する。なお、第2係合部材6は軸線方向Axに移動不能な状態で支持されている。
【0016】
第1係合部材5は複数の歯8が周方向に並べられた第1歯列9を持っており、第2係合部材6は第1歯列9と噛み合うことができる複数の歯10が周方向に並べられた第2歯列11を持っている。各歯8、10は軸線Axの方向に突出している。図1の状態は各歯列9、11が互いに離間している解放状態であるため、MG3側からアクスルシャフト4側への動力伝達が遮断される。図1の状態から駆動装置7によって第1係合部材5と第2係合部材6とを接近させると、図2に示すように、第1係合部材5の第1歯列9と第2係合部材6の第2歯列11とが噛み合う係合状態となる。これにより、第1係合部材5と第2係合部材6とが結合され、MG3側の動力がアクスルシャフト4側へクラッチ1を介して伝達される。
【0017】
図3の各図は各係合部材5、6の歯8、10を拡大して示している。また、第1工程P1〜第5工程P5は、クラッチ1を解放状態から係合状態に切り替えるときの第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10との位置の時間変化の一例を順に示している。図3に拡大して示したように各歯8、10の先端にはそれぞれチャンファ8a、10aが設けられている。チャンファ8a、10aは、その先端が噛み合うべき相手の歯列9、11に向くように設けられている。また、各チャンファ8a、10aの先端は丸められている。
【0018】
図3を参照して、本発明のドグクラッチシステムにおいてクラッチ1を解放状態から係合状態に切り替える手順の概要について説明する。クラッチ1を解放状態から係合状態に切り替える場合、まず図3の第1工程P1に示したように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端同士が対向するように第1係合部材5の回転数をMG3で制御する。次に第2工程P2に示したように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端同士が対向した状態で駆動装置7にて第1係合部材5を第2係合部材6側に移動させ、各歯8、10の先端に設けられたチャンファ8a、10a同士を衝突させる。これにより、第1係合部材5を一時停止させ、第1係合部材5の移動速度を一旦0にすることができる。
【0019】
その後、駆動装置7にて第1係合部材5を第2係合部材6側にさらに移動させる。これにより、第3工程P3に示したように各歯8、10を当接したチャンファ8a、10aの斜面によって相手側の歯と歯の間に誘導することができる。なお、この際駆動装置7は、歯8、10同士を衝突させる前よりも小さい駆動力で第1係合部材5を第2係合部材6側に移動させる。図3の第4工程P4に示したように各歯8、10が噛み合うべき相手側の歯と歯の間に誘導された後、すなわち各歯8、10が噛み合うべき相手側の歯の歯底部と対向した後は、第5工程P5に示したように第1歯列9と第2歯列11とが噛み合うまで駆動装置7にて第1係合部材5を第2係合部材6側に駆動する。これにより、クラッチ1が解放状態から係合状態に切り替わる。
【0020】
このようにクラッチ1の状態を制御するべくクラッチ制御手段としての制御装置20がMG3及び駆動装置7のそれぞれの動作を制御する。制御装置20は、マイクロプロセッサ、及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータであり、RAM、ROM等の記憶装置に保持された各種プログラムに従って動力伝達装置2の各部に対する制御を実行可能なように構成されている。図示は省略したが制御装置20には、車両の速度に対応する信号を出力する車速センサ、アクセル開度に対応する信号を出力するアクセル開度センサなど各種センサが接続されており、制御装置20はこれらセンサの出力信号を参照して動力伝達装置2の各部の制御を行う。図4及び図5は、制御装置20がクラッチ1を解放状態から係合状態に切り替えるために実行するクラッチ係合制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは、制御装置20の動作中に所定の周期で繰り返し実行される。なお、図5は図4に続くフローチャートである。この制御ルーチンを実行することにより制御装置20が本発明の速度低減手段として機能する。
【0021】
図4の制御ルーチンにおいて制御装置20は、まずステップS11でクラッチ1が係合状態か否か判断する。クラッチ1が係合状態であると判断した場合はステップS12に進み、制御装置20はこの制御ルーチンにて使用する第1フラグFlg_icchi及び第2フラグFlg_icchi2をそれぞれオフの状態に切り替えてリセットする。その後、今回の制御ルーチンを終了する。なお、第1フラグFlg_icchiは、第1係合部材5と第2係合部材6とが図3の第1工程P1に示したように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とが互いに対向する状態で第1係合部材5が第2係合部材6側に駆動されていることを示すフラグである。一方、第2フラグFlg_icchi2は、第1係合部材5と第2係合部材6とが図3の第4工程P4に示したように各歯8、10が相手側の歯の歯底部と対向する状態で第1係合部材5が第2係合部材6側に駆動されていることを示すフラグである。これらのフラグは制御装置20のRAMに記憶され、次にこの制御ルーチンが実行されたときにも記憶されている値が使用される。
【0022】
一方、クラッチ1が係合状態ではない、すなわち解放状態又は解放状態から係合状態への切り替えの途中であると判断した場合はステップS13に進み、制御装置20は車両の走行状態を取得する。車両の走行状態としては、例えば車速、アクセル開度などが取得される。続くステップS14において制御装置20は、クラッチ1を解放状態から係合状態に切り替える所定の係合条件が成立したか否か判断する。所定の係合条件は、例えばアクセル開度が増加した場合などMG3の動力をアクスルシャフト4に伝達する必要がある場合などに成立したと判断される。所定の係合条件が不成立と判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。
【0023】
一方、所定の係合条件が成立したと判断した場合はステップS15に進み、制御装置20は第1フラグFlg_icchiがオフか否か判断する。第1フラグFlg_icchiがオフであると判断した場合はステップS16に進み、制御装置20は図3の第1工程P1に示したように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とが互いに対向するように第1係合部材5の回転数を調整する先端一致制御を実行する。この先端一致制御は、例えば第1係合部材5の各歯8の位置を検出するセンサ及び第2係合部材6の各歯10の位置を検出するセンサを設け、これらのセンサの検出結果に基づいてMG3を制御することにより行う。また、例えば第1歯列9の歯8と歯8の間隔(ピッチ)及び第2歯列11の歯10と歯10の間隔(ピッチ)に基づいて予め第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とが互いに対向した状態になる第1係合部材5の回転角度及び第2係合部材6の回転角度をそれぞれ求めておき、第2係合部材6の回転角度に基づいてMG3の回転数を変更して第1係合部材5の回転角度を調整することにより、先端一致制御を実行してもよい。
【0024】
続くステップS17において制御装置20は、図3の第1工程P1に示したように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とが互いに対向したか否か判断する。以降、図3の第1工程P1のように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とが対向した状態を先端が一致した状態と称することがある。この判断は、例えば上述したように各歯8、10の位置をセンサで検出している場合はこのセンサの検出値に基づいて行えばよい。一方、各係合部材5、6の回転角度で各歯8、10の位置を制御する場合は、この回転角度が予め求めておいた先端が一致する回転角度に調整された場合に先端が一致したと判断すればよい。第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端が一致していないと判断した場合はステップS18に進み、制御装置20は第1フラグFlg_icchiをオフの状態に切り替える。なお、既にオフの状態であった場合は、その状態を維持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0025】
一方、第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端の位置が一致したと判断した場合はステップS19に進み、制御装置20は図3の第2工程P2に示したように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端の位置が一致した状態で第1係合部材5が第2係合部材6側に移動するように駆動装置7を制御する。以下、この制御を係合制御と称することがある。この際、制御装置20は、第1係合部材5が所定の第1駆動力で第2係合部材6側に駆動されるように駆動装置7に指示を出力する。所定の第1駆動力としては、例えば駆動装置7が出力可能な駆動力の最大値が設定される。次のステップS20において制御装置20は、第1フラグFlg_icchiをオンの状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
一方、ステップS15において第1フラグFlg_icchiがオンの状態であると判断した場合は図5のステップS21に進み、制御装置20は第2フラグFlg_icchi2がオフの状態か否か判断する。第2フラグFlg_icchi2がオンの状態であると判断した場合はステップS22に進み、制御装置20はクラッチ1が解放状態から係合状態に切り替わったか否か、すなわちクラッチ1の係合が完了したか否か判断する。この判断は、例えば第1係合部材5の移動距離に基づいて行ってもよいし、MG3の負荷の変化に基づいて行ってもよい。クラッチ1の係合がまだ完了していないと判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、クラッチ1の係合が完了したと判断した場合はステップS23に進み、制御装置20は駆動装置7による第1係合部材5の軸方向への移動を停止させる。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0027】
一方、第2フラグFlg_icchi2がオフの状態であると判断した場合はステップS24に進み、制御装置20は図3の第4工程P4に示したように各歯8、10の先端に設けられているチャンファ8a、10aに誘導されて第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端同士が半ピッチα分ずれたか否か判断する。この判断は、例えば各歯8、10の位置をセンサで検出している場合はこのセンサの検出値に基づいて行えばよい。一方、各係合部材5、6の回転角度で各歯8、10の位置を制御する場合は、予め第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端同士が半ピッチずれる各係合部材5、6の回転角度を求めておき、各係合部材5、6の回転角度がこの予め求めておいて回転角度に変化したばあいに半ピッチα分ずれたと判断すればよい。第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端同士が半ピッチα分ずれていないと判断した場合はステップS25に進み、制御装置20は第2フラグFlg_icchi2をオフの状態に切り替える。なお、既にオフの状態であった場合はその状態に維持する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0028】
一方、第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端同士が半ピッチα分ずれたと判断した場合はステップS26に進み、制御装置20は係合制御を実行する。この際、制御装置20は、第1駆動力より小さい第2駆動力で第1係合部材5が第2係合部材6側に駆動されるように駆動装置7に指示を出力する。続くステップS27において制御装置20は第2フラグFlg_icchi2をオンの状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0029】
この制御ルーチンによれば、第1フラグFlg_icchiがオンの状態に切り替えられてから第2フラグFlg_icchi2がオンの状態に切り替えられるまでの間、第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10の先端が一致した状態で第1係合部材5が第1駆動力で第2係合部材6側に駆動されるので、図3の第2工程P2に示したように第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とを衝突させ、第1係合部材5を一時停止させることができる。その後、さらに第1係合部材5を第2係合部材6側に移動させることにより、各歯8、10の先端に設けられたチャンファ8a、10aにて相手側の歯を自らの歯と歯の間に誘導することができるので、第1係合部材5と第2係合部材6の状態を図3の第3工程P3、第4工程P4の順に変化させることができる。そして、第1係合部材5と第2係合部材6の状態が図3の第4工程P4に示した状態に変化した後、すなわち第2フラグFlg_icchi2がオンの状態に切り替わった後は、第1駆動力より小さい第2駆動力にて第1係合部材5が第2係合部材6側に駆動される。
【0030】
このように第1歯列9と第2歯列11とを噛み合わせる前に第1歯列9の歯8と第2歯列11の歯10とを衝突させて第1係合部材5を一時停止させ、その後それまでの駆動力よりも小さい駆動力で第1係合部材5を第2敬語部材6側に移動させることにより、図3の第5工程P5に示したように第1歯列9と第2歯列11とが噛み合うときの第1係合部材5の移動速度を低下させ、この際に発生する打音を低減することができる。
【0031】
以上に説明した形態では、制御装置20にてMG3及び駆動装置7の動作を制御してクラッチ1を制御するため、クラッチ1、MG3、駆動装置7及び制御装置20の組み合わせにより本発明のドグクラッチシステムが実現されている。
【0032】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、第1歯列の歯と第2歯列の歯とを衝突させた後に第1係合部材に対して付与する駆動力は、一定でなくてもよい。例えば、第1係合部材と第2係合部材とが接近するに従って駆動力が漸次小さくなるように駆動力を変化させてもよい。
【0033】
上述した形態では、両方の係合部材が回転可能に設けられているが、係合部材の一方が回転不可に固定されていてもよい。本発明のドグクラッチシステムが適用されるドグクラッチは、歯が軸線の方向に突出するものに限定されない。例えば内周に歯列が設けられた円筒状の第1係合部材とその第1係合部材の内部に嵌り、かつ外周に歯列が設けられた第2係合部材とで構成されるドグクラッチに本発明を適用してもよい。また、第1係合部材と第2係合部材の両方が軸線方向に移動して係合状態及び解放状態に切り替わるドグクラッチに本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一形態に係るドグクラッチシステムが適用されたハイブリッド車の動力伝達装置の一部を模式的に示した図。
【図2】図1のクラッチの係合状態を示した図。
【図3】図1のクラッチを解放状態から係合状態に切り替えるときの第1係合部材と第2係合部材の位置の時間変化の一例を示す図。
【図4】制御装置が実行するクラッチ係合制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】図4に続くフローチャート。
【符号の説明】
【0035】
1 クラッチ(クラッチ手段)
3 モータジェネレータ(回転数変更手段)
5 第1係合部材
6 第2係合部材
7 駆動装置(直線駆動手段)
8 歯
8a チャンファ
9 第1歯列
10 歯
10a チャンファ
11 第2歯列
20 制御装置(クラッチ制御手段、速度低減手段)
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並べられた複数の歯にて形成される第1歯列を有する第1係合部材と、周方向に並べられた複数の歯にて形成され、かつ前記第1歯列と噛み合わせることが可能な第2歯列を有する第2係合部材とを共通の軸線の回りに相対回転可能に配置したクラッチ手段と、前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくともいずれか一方を直線駆動手段にて軸線方向に移動させることにより、前記クラッチ手段を前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う係合状態と前記第1歯列と前記第2歯列とが離間する解放状態とに切り替えるクラッチ制御手段と、を備えたドグクラッチシステムにおいて、
前記クラッチ制御手段は、前記クラッチ手段を前記解放状態から前記係合状態に切り替える過程において前記第1歯列と前記第2歯列とが噛み合う前に前記直線駆動手段にて駆動される駆動対象の係合部材の前記軸線方向への移動が一時停止するように前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させる速度低減手段を備えることを特徴とするドグクラッチシステム。
【請求項2】
前記直線駆動手段は、前記駆動対象の係合部材を前記軸線方向に移動させる駆動力を変更可能であり、
前記速度低減手段は、前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させるまでは前記駆動対象の係合部材が前記軸線方向に所定の初期駆動力で駆動され、前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させた後は前記駆動対象の係合部材が前記軸線方向に前記初期駆動力よりも小さい駆動力で駆動されるように前記直線駆動手段を制御する請求項1に記載のドグクラッチシステム。
【請求項3】
前記速度低減手段は、前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させた後、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが接近するに従って前記駆動対象の係合部材を前記軸線方向に移動させる駆動力が漸次小さくなるように前記直線駆動手段を制御する請求項2に記載のドグクラッチシステム。
【請求項4】
前記第1係合部材及び前記第2係合部材の少なくともいずれか一方の回転数を変更可能な回転数変更手段をさらに備え、
前記速度低減手段は、前記クラッチ手段を前記解放状態から前記係合状態に切り替える過程において、まず前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とが互いに対向した状態で前記第1係合部材及び前記第2係合部材が同期して回転するように前記回転数変更手段を制御し、その後同期して回転している前記第1係合部材と前記第2係合部材とが接近するように前記直線駆動手段を制御して前記第1歯列の歯と前記第2歯列の歯とを衝突させる請求項1〜3のいずれか一項に記載のドグクラッチシステム。
【請求項5】
前記第1歯列を形成する複数の歯及び前記第2歯列を形成する複数の歯には、当接した相手側の歯が自らの歯と歯の間に誘導されるようにチャンファがそれぞれ設けられている請求項1〜4のいずれか一項に記載のドグクラッチシステム。
【請求項6】
前記チャンファの先端がそれぞれ丸められている請求項5に記載のドグクラッチシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−127852(P2009−127852A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307242(P2007−307242)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】