説明

ドットラインプリンタ

【課題】 潤滑材の劣化や枯れが発生しない低コストで信頼性の高いドットラインプリンタを提供する。
【解決手段】 複数個の印字ハンマ10を搭載したハンマバンク1と、印字用紙3を搬送するための紙送り機構と、印字ハンマ10の印字力を支持するプラテン5と、プラテン5が印字用紙3に対して直角方向に往復移動するために回転軸に対し偏芯した偏芯カム12aをプラテン5またはそれを保持する部材に突き当てて位置決め、移動を行うプラテン開閉機構を有するドットラインプリンタで、偏芯カム12aが金属粉を主成分とする多孔質焼結体に含油させた材料で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドット印字用ハンマによりドットマトリクス形式で印字を行うドットラインプリンタに係り、さらに詳しくはドット印字用ハンマの打撃を受けるプラテンの開閉機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2及び図3を用いてドットラインプリンタの印字機構部の概要を示す。
【0003】
複数の印字ハンマ10を有するハンマバンク1は、図示しないシャトル機構部により桁方向(図中矢印A方向)に往復運動する。また、ハンマバンク1は、矢印Cの方向に移動するインクリボン2と印字用紙3とを間に挟み、印字力を支持するためのプラテン5と対向した状態で配置されていて、ハンマバンク1が往復運動している状態で、印字ハンマ10が適時駆動される毎にドットマトリクスの形で文字、図形等が印字用紙3に印字される。
【0004】
印字用紙3は、印字の過程で適時トラクタ4、紙送りモータ7を搭載した紙送り機構部6により、垂直方向(図中矢印B方向)に送られる。トラクタ4は、印字用紙3の両端に連続的に配置される送り穴にピンを嵌合させ、印字用紙3を搬送する。
【0005】
近年のドットラインプリンタにおいては、プラテン5は用紙厚の異なる多種の印字用紙3に対応するため、また印字用紙3の交換、インクリボン2の交換を容易に行うため、特開2002−52767号公報に記載されているように印字用紙3に対して直角方向に開閉動作を行う機構(プラテン開閉機構)を備えたものが多い。
【0006】
図3に偏芯カムにてプラテン開閉動作を行うドットラインプリンタの概略側面図を示す。プラテン5は、図示していないバネ部材により上下方向に拘束され、プラテン5とステー14に取り付けられた引張りコイルバネ13の張力によって、偏芯カム12に突き当てられている。偏芯カム12自体はプラテン5の左右両端付近に配置され、プラテン5の位置決めの基準になっている。
【0007】
偏芯カム12を回転軸中心に回転させることにより、偏芯カム12の外形プロフィールに従いプラテン5を前後方向(図中矢印D方向)に移動させ、いわゆるプラテン5の開閉動作を行うことができる。偏芯カム12の回転軸はタイミングベルト15などと、回転量を制御できるモータ16で連結され、モータ16の回転量によりプラテン5の開閉を行うこともできる。
【0008】
また、従来の他のプラテン開閉機構としては、特許第2903619号公報に示されるような機構を使用しているものもある。
【0009】
【特許文献1】特開2002−52767号公報
【特許文献2】特許第2,903,619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように偏芯カム12の回転によりプラテン5の開閉を行うために、プラテン5をD方向に動かすようにしている。偏芯カム12はカム外形のプロフィールを保持した形状であり、なおかつ高精度の寸法を必要としているため、切削加工にて製作することが望ましい。しかし、切削加工では非常にコストが高いという問題があり、粉末の金属紛を熱処理にて成形する焼結加工を用いることが多くなっている。偏芯カム12の外周は、プラテン5やプラテン5を保持するフレームに突き当てて摺動させるため、グリース17などを塗布して摺動抵抗を小さくし、各々の磨耗を防止する必要がある。
【0011】
しかし、近年のドットラインプリンタは中国市場などで使用することも多くなり、使用される用紙も粗悪なものが増えてきている。特に紙送り動作により用紙の送り穴やミシン目などから紙粉を排出する粗悪な用紙を使用すると、紙粉が偏芯カム12の外周に塗布されたグリース17に混入し、グリース17を凝固させるなど劣化させたり、グリース17が枯れて潤滑性能を保持できないことがある。これにより、偏芯カム12の摺動時の異音や磨耗が促進する上、偏芯カム12を駆動するモータ16の動作障害を引き起こす場合もある。このことにより、紙粉による劣化が促進しにくい高価なグリース17にする必要があり、また定期的にグリース17の追加塗布を実施するなど、保守面でもコストがかかるなどの問題があった。
【0012】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、潤滑材の劣化や枯れが発生しない低コストで信頼性の高いドットラインプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため本発明は、複数個の印字ハンマを搭載したハンマバンクと、印字用紙を搬送するための紙送り機構と、前記印字ハンマの印字力を支持するプラテンと、前記プラテンが印字用紙に対して直角方向に往復移動するために、回転軸に対し偏芯したカム部材を前記プラテンまたは前記プラテンを保持する部材に突き当てて位置決め及び移動を行うプラテン開閉機構を有するドットラインプリンタにおいて、前記偏芯したカム部材が金属粉を主成分とする多孔質焼結体に含油させた材料で構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、偏芯カム自体から潤滑材が必要時摺動部へ供給され続けることで、従来使用していたグリースなど外部の潤滑材が不要となることから、潤滑材の劣化や枯れが発生しない低コストで信頼性の高いドットラインプリンタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では偏芯カムを安価に製作できる焼結加工としながら、FTカム自体に潤滑材を含浸させることができる材質及び加工方法を用いる。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図1に基づき説明する。
【0017】
複数の印字ハンマ10を有するハンマバンク1は、インクリボン2と印字用紙3とを間に挟み、印字力を支持するためのプラテン5と対向した状態で配設されている。印字用紙3は、印字の過程で適時トラクタ4、紙送りモータ7を搭載した紙送り機構部により搬送される。
【0018】
プラテン5は、ステー14に取り付けられた引張りコイルバネ13の張力によって、プラテン開閉用の偏芯カム12aに突き当てられる。偏芯カム12aはプラテン5の左右両端付近に配置され、プラテン5前後方向の位置決めの基準になっている。偏芯カム12aを回転軸中心に回転させることにより、偏芯カム12aの外形プロフィールに従いプラテン5を前後方向(図中矢印D方向)に摺動しながら移動させ、プラテン5の開閉動作を行うことができる。プラテン5の開閉をモータ16で行う場合は、偏芯カム12aの回転軸をタイミングベルト15などで、回転量を制御できるモータ16で連結し、モータ16の回転量によりプラテン5の開閉を行う。
【0019】
次に偏芯カム12aの加工方法及び材質について説明する。偏芯カム12aは安価な加工方法として焼結加工とし、含油材を浸透させることができる多孔質焼結体を適用する。含油焼結の部品の他の用途として滑り軸受などが代表される。銅系や鉄系の金属紛を主成分とする多孔質焼結体に含油させるため、注油の手間が省け、コスト安などのメリットが得られる。しかし最大の特長としては、多孔質焼結体自体が必要に応じ潤滑油を染み出させたり、吸収したりする作用があることである。
【0020】
例えば偏芯カム12aが静止している場合においては、偏芯カム12aとプラテン5の接触部近傍にはわずかな隙間ができており、毛細管作用によって潤滑材が網の目のように互いにつながり合って詰まっている状態となる。このためいつ動いても正常な潤滑作用が得られる。さらに連続的に動作する場合に潤滑材が多く染み出たとしても、偏芯カム12aが停止した際には、毛細管力により再び多孔質焼結体の元の気孔へ余分な潤滑材を吸収する。このため、偏芯カム12aに含浸する潤滑剤は枯れることがなく、なおかつグリースなど外部の潤滑材を補給する必要がなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
ドットラインプリンタに関わらず、プラテン開閉を行う他の印字装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る偏芯カムとプラテン開閉機構を示した概略構成図である。
【図2】従来例の印字機構部全体を示した斜視図である。
【図3】従来例の偏芯カムとプラテン開閉機構を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0023】
1はハンマバンク、2はインクリボン、3は印字用紙、4はトラクタ、5はプラテン、7は紙送りモータ、10は印字ハンマ、12、12aは偏芯カム、13は引張りコイルバネ、14はステー、15はタイミングベルト、16はモータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の印字ハンマを搭載したハンマバンクと、印字用紙を搬送するための紙送り機構と、前記印字ハンマの印字力を支持するプラテンと、前記プラテンが印字用紙に対して直角方向に往復移動するために、回転軸に対し偏芯したカム部材を前記プラテンまたは前記プラテンを保持する部材に突き当てて位置決め及び移動を行うプラテン開閉機構を有するドットラインプリンタにおいて、前記偏芯したカム部材が金属粉を主成分とする多孔質焼結体に含油させた材料で構成されていることを特徴とするドットラインプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−121758(P2008−121758A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305137(P2006−305137)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(302057199)リコープリンティングシステムズ株式会社 (1,130)
【Fターム(参考)】