説明

ドラムブレーキ

【課題】ドラムブレーキ制動時にシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力によって傾くブレーキシューの傾きを抑制するドラムブレーキを提供する。
【解決手段】ブレーキシュー20は、ドラムブレーキ10の非制動時にシューホールドダウンピン66がパーキングブレーキレバー28との当接により傾斜させられて押圧中心Bがシュー安定領域72から外れて傾くが、ドラムブレーキ10の制動時にパーキングブレーキレバー28の先端部28bが矢印F方向に回動してパーキングブレーキレバー28がシューホールドダウンピン66から離間すると、シューホールドダウンピン66がコイルスプリング68の付勢力によって自立させられ押圧中心Bがシュー安定領域72内に移動するようにシューホールドダウンスプリング62が移動するので、ドラムブレーキ10の制動時に押圧中心Bがシュー安定領域72内に戻りブレーキシュー20の傾きが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、特にそのドラムブレーキの制動時の性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、例えば特許文献1乃至3に示すように、(a) バッキングプレート上にシューホールドダウン装置により拡開可能に装着された円弧状の一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一方の一端部に相対回転可能に連結された長手状のブレーキレバーと、(c) 前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうちそのシューリムの両端部および中央部において前記バッキングプレートと摺接するために設けられたレッジ部とを備え、(d) 前記ブレーキレバーの先端部が前記一対のブレーキシューの一方から離間する方向に回動されることによって前記一対のブレーキシューの一端部が拡開するものである。
【0003】
また、特許文献1乃至3に示すように、前記ドラムブレーキの前記シューホールドダウン装置は、シューホールドダウンスプリングと、そのシューホールドダウンスプリングと前記ブレーキシューのシューウェブに貫通された貫通穴とを通して前記バッキングプレートの所定位置に連結するためのシューホールドダウンピンとを有し、そのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて前記ブレーキシューを前記レッジ部を介してそのバッキングプレートに押圧することにより拡開可能に保持するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−56334号公報
【特許文献2】実開昭56−12140号公報
【特許文献3】実開昭53−106579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記ドラムブレーキにおいて、前記シューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて前記ブレーキシューの両端部のレッジ部それぞれに均等な力を加えるために前記シューホールドダウン装置は前記ブレーキシューの中央に取り付けられるのが好ましいが、そのようにするとそのブレーキシューの一端部に連結された前記ブレーキレバーと前記シューホールドダウン装置のシューホールドダウンピンとが接触してしまい取り付けることができないため、前記シューホールドダウン装置は前記ブレーキレバーとの接触を避けるように前記ブレーキシューの中央から前記ブレーキシューの他端部側に外れた位置に取り付けられる。
【0006】
そのため、前記ブレーキシューにおいて、前記シューホールドダウンスプリングの弾性復帰力による前記ブレーキシューを前記バッキングプレート側に押圧する力の押圧中心が前記レッジ部それぞれを頂点として結ぶ三角形状のシュー安定領域から外れるので、そのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力によって前記シューリムの一端部側の前記レッジ部が前記バッキングプレートから浮いて前記ブレーキシューが傾くことがあった。それにより、ドラムブレーキ制動時にその傾いたままの状態のブレーキシューでブレーキドラムを制動させることになり例えばブレーキシューの摩擦材の一部が過度に偏摩耗してしまう等の問題があった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ドラムブレーキ制動時にシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力によって傾くブレーキシューの傾きを抑制するドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) バッキングプレート上にシューホールドダウン装置により拡開可能に装着された円弧状の一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一方の一端部に相対回転可能に連結された長手状のブレーキレバーと、(c) 前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうちそのシューリムの両端部および中央部において前記バッキングプレートと摺接するために設けられたレッジ部とを備え、(d) 前記ブレーキレバーの先端部が前記一対のブレーキシューの一方から離間する方向に回動されることによって前記一対のブレーキシューの一端部が拡開するドラムブレーキであって、(e) 前記シューホールドダウン装置は、シューホールドダウンスプリングと、そのシューホールドダウンスプリングと前記ブレーキシューのシューウェブに貫通された貫通穴とを通して前記バッキングプレートの所定位置に連結するためのシューホールドダウンピンとを有し、そのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて前記ブレーキシューを前記レッジ部を介してそのバッキングプレートに押圧することにより拡開可能に保持するものであり、(f) 前記シューウェブの貫通穴は、前記ブレーキシューの長手方向に伸びる長穴であり、(g) 前記シューホールドダウンピンは、前記貫通穴内において非制動時の前記ブレーキレバーとの当接により傾斜させられることによって、前記シューホールドダウンスプリングが前記ブレーキシューの他端部側に移動しそのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力による前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心が前記ブレーキシューにおいて前記レッジ部それぞれを頂点とする多角形を成すシュー安定領域から外れるものであり、(h) 前記シューホールドダウンピンには、そのシューホールドダウンピンが自立するように常時付勢する弾性部材が備えられているものであり、(i) 前記シューホールドダウンピンは、制動時前記ブレーキレバーが離間し前記弾性部材の付勢力により自立させられることによって、前記押圧中心が前記シュー安定領域内に移動するように前記シューホールドダウンスプリングが移動するものである。
【0009】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記シューホールドダウンピンは、基端部と、軸部と、その軸部の径よりも小さい厚みとその軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部とを有するものであり、(b) 前記バッキングプレートの所定位置には、前記シューホールドダウンピンの基端部が取り付けられる取付穴を有するものであって、(c) 前記取付穴は、前記バッキングプレートにおいて前記レッジ部それぞれを頂点として結ぶシュー安定領域内に配置されるものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のドラムブレーキによれば、(e) 前記シューホールドダウン装置は、シューホールドダウンスプリングと、そのシューホールドダウンスプリングと前記ブレーキシューのシューウェブに貫通された貫通穴とを通して前記バッキングプレートの所定位置に連結するためのシューホールドダウンピンとを有し、そのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて前記ブレーキシューを前記レッジ部を介してそのバッキングプレートに押圧することにより拡開可能に保持するものであり、(f) 前記シューウェブの貫通穴は、前記ブレーキシューの長手方向に伸びる長穴であり、(g) 前記シューホールドダウンピンは、前記貫通穴内において非制動時の前記ブレーキレバーとの当接により傾斜させられることによって、前記シューホールドダウンスプリングが前記ブレーキシューの他端部側に移動しそのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力による前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心が前記ブレーキシューにおいて前記レッジ部それぞれを頂点とする多角形を成すシュー安定領域から外れるものであり、(h) 前記シューホールドダウンピンには、そのシューホールドダウンピンが自立するように常時付勢する弾性部材が備えられているものであり、(i) 前記シューホールドダウンピンは、制動時前記ブレーキレバーが離間し前記弾性部材の付勢力により自立させられることによって、前記押圧中心が前記シュー安定領域内に移動するように前記シューホールドダウンスプリングが移動するものである。そのため、前記ブレーキシューは、ドラムブレーキ非制動時に前記シューホールドダウンピンが前記ブレーキレバーとの当接により傾斜させられて前記シューホールドダウンスプリングの前記押圧中心が前記シュー安定領域から外れて傾くが、ドラムブレーキ制動時に前記ブレーキレバーの先端部が前記一対のブレーキシューの一方から離間する方向に回動して前記ブレーキレバーが前記シューホールドダウンピンから離間すると、前記シューホールドダウンピンが前記弾性部材の付勢力によって自立させられ前記シューホールドダウンスプリングの前記押圧中心が前記シュー安定領域内に移動するように前記シューホールドダウンスプリングが移動するので、ドラムブレーキ制動時に前記シューホールドダウンスプリングの前記押圧中心が前記シュー安定領域内に戻り前記ブレーキシューの傾きおよびその傾きに起因する前記ブレーキシューの偏摩耗が好適に抑制される。
【0011】
請求項2に係る発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記シューホールドダウンピンは、基端部と、軸部と、その軸部の径よりも小さい厚みとその軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部とを有するものであり、(b) 前記バッキングプレートの所定位置には、前記シューホールドダウンピンの基端部が取り付けられる取付穴を有するものであって、(c) 前記取付穴は、前記バッキングプレートにおいて前記レッジ部それぞれを頂点として結ぶシュー安定領域内に配置されるものであるため、前記シューホールドダウンピンから前記ブレーキレバーを離間させることによって好適に前記シューホールドダウンスプリングの前記押圧中心を前記シュー安定領域内に移動させるように前記シューホールドダウンスプリングを移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用されたドラムインディスクブレーキを示す正面図である。
【図2】図1の実施例のドラムインディスクブレーキに備えられた一対のブレーキシューの他方のブレーキシューを説明する図である。
【図3】図2のIII-III視断面図である。
【図4】図1の実施例のドラムインディスクブレーキに備えられた一対のブレーキシューの一方のブレーキシューを説明する図である。
【図5】図4のV-V視断面図である。
【図6】ドラムブレーキの制動時における図1の実施例のドラムインディスクブレーキに備えられた一対のブレーキシューの一方のブレーキシューの状態を説明する図である。
【図7】図6のVII-VII視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例のパーキングブレーキ用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10を中央部に備えたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ12のハット型ディスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスクは、円板状外周部と有底円筒状中央部とを備え、その円板状外周部がディスクブレーキの摩擦板として機能し、その有底円筒状中央部がブレーキドラムとして機能するように構成されている。図1の1点鎖線で示す円は上記有底円筒状中央部の内周面14を示している。
【0015】
ドラムブレーキ10は、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16を備えている。このバッキングプレート16の外周部には、前記ハット型ディスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー18が固定されている。
【0016】
ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー20,22と、その一対のブレーキシュー20,22の一端部すなわち図1の上端部間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられた円柱形状のアンカ部材24と、一対のブレーキシュー20,22の一端部間に張設されてそれら一端部を互いに接近する方向に常時付勢してアンカ部材24に当接させるためのリターンスプリング26と、ブレーキシュー20の一端部に基端部28aがピン30により相対回転可能に連結された長手状のパーキングブレーキレバー(ブレーキレバー)28と、そのパーキングブレーキレバー28およびブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー22の一端部との間に架け渡されたストラット32と、一対のブレーキシュー20,22の他端部すなわち図1の下端部間に介在させられたアジャストホイール34aの回転に伴って伸長させられることにより一対のブレーキシュー20,22と前記ブレーキドラムの内周面14との間すなわちシュー間隙を調節する間隙調節装置34と、一対のブレーキシュー20,22の他端部間に張設されてそれら他端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置34を挟圧するためのスプリング36とが備えられている。
【0017】
一対のブレーキシュー20,22は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ38,40と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された円弧形状のシューリム42,44と、それらシューリム42,44のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそれらシューリム42,44の両端部および中央部においてバッキングプレート16と摺接するためにバッキングプレート16の内周側に突き出るように曲成されたレッジ部42a,44aと、シューリム42,44の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング46,48とを備えてそれぞれ構成されている。また、図1に示すように、シューリム42,44のレッジ部42a,44aは、シューリム42,44のバッキングプレート16側とは反対側の円弧状側縁においてもそれらシューリム42,44の両端部および中央部に設けられているため、一対のブレーキシュー20,22において使用されるシューリム42,44の形状を一致させて部品の共通化をすることができる。つまり、ブレーキシュー20にシューリム44を使用することやブレーキシュー22にシューリム42を使用することができる。
【0018】
また、一対のブレーキシュー20,22は、シューウェブ38および40にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置50および52によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。上記バッキングプレート16、シューウェブ38および40、シューリム42および44は、いずれも鋼板から打ち抜かれかつ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【0019】
シューホールドダウン装置52は、図2、図3に示すように、ばね材から成る断面円形の線材がコイル状に複数回巻回されたシューホールドダウンスプリング54と、そのシューホールドダウンスプリング54上に載置された略円板状のカップ部材56と、そのカップ部材56の中心部に貫通されて設けられた長手状の掛止穴56aと、バッキングプレート16の所定位置に貫通されて設けられた円状の取付穴16aと、シューウェブ40の中間部の所定位置に貫通されて設けられた貫通穴40aと、一端部である大径基部58aが取付穴16aの周縁に取り付けられるとともに他端部である扁平頭部58bがシューホールドダウンスプリング54の中心部を通りカップ部材56の掛止穴56aを挿通する略円柱形状のシューホールドダウンピン58とによって構成されており、予圧されたシューホールドダウンスプリング54の弾性復帰力を用いてブレーキシュー22をレッジ部44aのレッジ面44bを介してバッキングプレート16に常時押圧することによってブレーキシュー22を拡開可能に保持する。
【0020】
図3に示すように、シューホールドダウンピン58は、バッキングプレート16からシューウェブ40方向に伸びる略円柱状の軸部58cと、その軸部58cのバッキングプレート16側とは反対側の端部をヘディング加工することによって略円柱状の軸部58cの径よりも小さい厚みと略円柱状の軸部58cの径よりも大きい幅寸法を有した略半円板形状の扁平頭部58bと、軸部58cのバッキングプレート16側の端部に設けられたバッキングプレート16の円状の取付穴16aの径よりも大きい略円板形状の大径基部58aとによって構成されている。また、図3に示すように、バッキングプレート16には、ブレーキシュー22すなわちシューリム44のバッキングプレート16側の円弧状側縁のレッジ部44aを支持するためにそのレッジ部44a側に突き出すように曲成させられた支持部16bが備えられている。
【0021】
シューホールドダウン装置52は、ドラムブレーキ10の非制動時および制動時にブレーキシュー22のシューウェブ40において、図2に示すように予圧されたシューホールドダウンスプリング54の弾性復帰力によるブレーキシュー22を押圧する押圧中心Aがシューリム44のバッキングプレート16側の円弧状側縁に設けられたレッジ部44aそれぞれを頂点とする三角形を成すシュー安定領域内60にあり、そのシューリム44のバッキングプレート16側の円弧状側縁に設けられたレッジ部44aとバッキングプレート16の支持部16bとがそれぞれ当接するので、シューホールドダウンスプリング54の弾性復帰力によってシューリム44のレッジ部44aがバッキングプレート16の支持部16bから浮くブレーキシュー22の傾きが抑制される。また、シューホールドダウンスプリング54は、シューホールドダウンピン58の軸部58c回りに線材がコイル状に複数回巻回されたものであるため、予圧されたシューホールドダウンスプリング54の弾性復帰力によるブレーキシュー22を押圧する押圧中心Aをその線材の巻回中心或いはシューホールドダウンピン58の軸心Cとして位置付けることができる。
【0022】
シューホールドダウン装置50は、図4、図5に示すように、ばね材から成る断面円形の線材がコイル状に複数回巻回されたシューホールドダウンスプリング62と、そのシューホールドダウンスプリング62上に載置された略円板状のカップ部材64と、そのカップ部材64の中心部に貫通されて設けられた長手状の掛止穴64aと、バッキングプレート16の所定位置に貫通されて設けられた円状の取付穴16cと、シューウェブ38の中間部の所定位置にブレーキシュー20の長手方向に伸びるように長穴状に貫通された貫通穴38aと、一端部である大径基部66aが取付穴16cの周縁に取り付けられるとともに他端部である扁平頭部66bがシューホールドダウンスプリング62の中心部を通りカップ部材64の掛止穴64aを挿通する略円柱形状のシューホールドダウンピン66とによって構成されており、予圧されたシューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力を用いてブレーキシュー20をレッジ部42aのレッジ面42bを介してバッキングプレート16に常時押圧することによってブレーキシュー20を拡開可能に保持する。
【0023】
図5に示すように、シューホールドダウンピン66は、バッキングプレート16からシューウェブ38方向に伸びる略円柱状の軸部66cと、その軸部66cのバッキングプレート16側とは反対側の端部をヘディング加工することによって略円柱状の軸部66cの径よりも小さい厚みと略円柱状の軸部66cの径よりも大きい幅寸法を有した略半円板形状の扁平頭部66bと、軸部66cのバッキングプレート16側の端部に設けられたバッキングプレート16の円状の取付穴16cの径よりも大きい略円板形状の大径基部66aとによって構成されている。また、図5に示すように、バッキングプレート16には、ブレーキシュー20すなわちシューリム42のバッキングプレート16側の円弧状側縁のレッジ部42aを支持するためにそのレッジ部42a側に突き出すように曲成させられた支持部16dが備えられている。
【0024】
シューホールドダウン装置50は、図4、図5に示すドラムブレーキ10の非制動時において、そのシューホールドダウンピン66がパーキングブレーキレバー28との当接により扁平頭部66bがブレーキシュー20の他端部側に移動されて傾斜しており、そのシューホールドダウンピン66にはそのシューホールドダウンピン66がバッキングプレート16に対して略垂直に自立するように常時付勢するコイルスプリング68が備えられている。
【0025】
図4、図5に示すように、コイルスプリング68は、ばね材から成る断面円形の線材がコイル状に複数回巻回されたものであり、その線材の一端部にはバッキングプレート16の所定位置に固設された掛止部材70を掛け止めるようにその線材の一端部が曲成された掛止部68aと、その線材の他端部にはシューホールドダウンピン66の軸部66cの一部が湾曲された湾曲部66dを掛け止めるようにその線材の他端部が曲成された掛止部68bとを備えるものである。そのため、コイルスプリング68がシューホールドダウンピン66の湾曲部66dと掛止部材70との間に張設されると、シューウェブ38の貫通穴38a内においてシューホールドダウンピン66の扁平頭部66bがブレーキシュー20の一端部側に移動させられてシューホールドダウンピン66がバッキングプレート16に対して略垂直に自立するように常時付勢される。
【0026】
パーキングブレーキレバー28の先端部28bには、図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによってパーキングブレーキレバー28の先端部28bがブレーキシュー20から離間する方向すなわち図1に示す矢印F方向に回動させる図示されていないパーキングブレーキケーブルが備えられている。また、前記パーキングブレーキケーブルには、そのパーキングブレーキケーブルの周囲にばね材から成る線材がコイル状に複数回巻回され且つそのコイル状の線材が圧縮されることによりパーキングブレーキレバー28の先端部28bが矢印F方向と逆方向Gへ戻るように常時付勢される図示されていないリターンスプリングが備えられており、ドラムブレーキ10の非制動時おいてパーキングブレーキレバー28の先端部28bが上記リターンスプリングの付勢力により矢印F方向と逆方向Gへ回動することによってシューホールドダウンピン66と当接しそのシューホールドダウンピン66に備えられたコイルスプリング68に抗じてシューホールドダウンピン66の扁平頭部66bをブレーキシュー20の他端部側に移動させることによってシューホールドダウンピン66が傾斜させられシューホールドダウンスプリング62がブレーキシュー20の他端部側に移動する。
【0027】
図4、図5に示すドラムブレーキ10の非制動時において、シューホールドダウン装置50は、ブレーキシュー20のシューウェブ38において予圧されたシューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力によるブレーキシュー20を押圧する押圧中心Bがパーキングブレーキレバー28との当接によりシューホールドダウンピン66が傾斜させられることによってブレーキシュー20の他端部側に移動してシューリム42のバッキングプレート16側の円弧状側縁に設けられたレッジ部42aそれぞれを頂点とする三角形を成すシュー安定領域72から外れるため、そのシューリム42のバッキングプレート16側の円弧状側縁に設けられたブレーキシュー20の一端部側のレッジ部42aがバッキングプレート16の支持部16dから浮きブレーキシュー20が傾く。
【0028】
図6、図7に示すドラムブレーキ10の制動時において、前記パーキングブレーキ操作装置が操作されることによってパーキングブレーキレバー28の先端部28bがブレーキシュー20から離間する方向すなわち矢印F方向に回動すると、シューホールドダウンピン66からパーキングブレーキレバー28が離間しシューホールドダウンピン66はコイルスプリング68の付勢力によってシューホールドダウンピン66がバッキングプレート16に対して略垂直に自立させられてシューホールドダウンピン66の扁平頭部66bがブレーキシュー20の一端部側に移動させられるのでシューホールドダウンスプリング62もブレーキシュー20の一端部側に移動させられる。そのため、ドラムブレーキ10の制動時において、シューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力によるブレーキシュー20を押圧する押圧中心Bがシュー安定領域内72に戻るので、シューリム42のバッキングプレート16側の円弧状側縁に設けられたレッジ部42aとバッキングプレート16の支持部16dとがそれぞれ当接しシューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力によってレッジ部42aがバッキングプレート16の支持部16bから浮くブレーキシュー20の傾きが抑制される。また、シューホールドダウンスプリング62は、シューホールドダウンピン66の軸部66c回りに線材がコイル状に複数回巻回されたものであるため、予圧されたシューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力によるブレーキシュー20を押圧する押圧中心Bをその線材の巻回中心或いはシューホールドダウンピン66の軸心Dとして位置付けることができる。
【0029】
バッキングプレート16の取付穴16cは、バッキングプレート16においてシュー安定領域72内に配置させられているため、コイルスプリング68の付勢力によりシューホールドダウンピン66をバッキングプレート16に対して略垂直に自立させるとドラムブレーキ10の制動時に押圧中心Bをシュー安定領域72内に好適に配置させることができる。さらに、バッキングプレート16の取付穴16cは、バッキングプレート16においてシュー安定領域72内にあるブレーキシュー20のシューウェブ38の中央に配置されるものであるため、ドラムブレーキ10の制動時に押圧中心Bを好適にブレーキシュー20のシューウェブ38の中央に配置することができシューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力を用いてブレーキシュー20の両端部のレッジ部42aそれぞれに均等な力を加えることができる。
【0030】
以上のように構成された本実施例のドラムブレーキ10においては、ドラムブレーキ10の制動時には、図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによってパーキングブレーキレバー28の先端部28bが矢印F方向へ回動させられることにより、ストラット32を介してブレーキシュー22がバッキングプレート16の外周側に移動させられると共にピン30を介してブレーキシュー20がバッキングプレート16の外周側に移動させられて一対のブレーキシュー20,22の一端部が拡開し、一対のブレーキシュー20,22のライニング46,48が前記ブレーキドラムの内周面14に押し付けられる。そのため、一対のブレーキシュー20,22の拡開時において車輪すなわち前記ブレーキドラムが回転しようとすると一対のブレーキシュー20,22のいずれか一方の一端部がアンカー部材24に受け止められてドラムブレーキ10に制動力が発生させられる。
【0031】
ドラムブレーキ10の制動時、上述のようにブレーキシュー22のシューウェブ40においてシューホールドダウンスプリング54の押圧中心Aがシュー安定領域60内にあり且つシューホールドダウンピン66がコイルスプリング68の付勢力により自立させられることによってシューホールドダウンスプリング62の押圧中心Bがシュー安定領域72内に戻るので、ブレーキシュー20,22の傾きが抑制されたブレーキシュー20,22で前記ブレーキドラムを制動することができる。そのため、ブレーキシュー20,22の摩擦材であるライニング46,48の一部が過度に偏摩耗する等の問題が好適に解消される。
【0032】
ここで、本実施例のドラムブレーキ10によれば、シューホールドダウン装置50は、シューホールドダウンスプリング62と、そのシューホールドダウンスプリング62とブレーキシュー20のシューウェブ38に貫通された貫通穴38aとを通してバッキングプレート16の所定位置に連結するためのシューホールドダウンピン66とを有し、そのシューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力を用いてブレーキシュー20をレッジ部42aを介してそのバッキングプレート16に押圧することにより拡開可能に保持するものであり、シューウェブ38の貫通穴38aは、ブレーキシュー20の長手方向に伸びる長穴であり、シューホールドダウンピン66は、貫通穴38a内において非制動時のパーキングブレーキレバー(ブレーキレバー)28との当接により傾斜させられることによって、シューホールドダウンスプリング62がブレーキシュー20の他端部側に移動しそのシューホールドダウンスプリング62の弾性復帰力によるブレーキシュー20を押圧する力の押圧中心Bがブレーキシュー20においてレッジ部42aそれぞれを頂点とする三角形を成すシュー安定領域72から外れるものであり、シューホールドダウンピン66には、そのシューホールドダウンピン66が自立するように常時付勢するコイルスプリング68が備えられているものであり、シューホールドダウンピン66は、制動時バーキングブレーキレバー28が離間しコイルスプリング68の付勢力により自立させられることによって、押圧中心Bがシュー安定領域72内に移動するようにシューホールドダウンスプリング62が移動するものである。
【0033】
そのため、ブレーキシュー20は、ドラムブレーキ10の非制動時にシューホールドダウンピン66がパーキングブレーキレバー28との当接により傾斜させられてシューホールドダウンスプリング62の押圧中心Bがシュー安定領域72から外れて傾くが、ドラムブレーキ10の制動時にパーキングブレーキレバー28の先端部28bがブレーキシュー20から離間する方向Fに回動してパーキングブレーキレバー28がシューホールドダウンピン66から離間すると、シューホールドダウンピン66がコイルスプリング68の付勢力によって自立させられシューホールドダウンスプリング62の押圧中心Bがシュー安定領域72内に移動するようにシューホールドダウンスプリング62が移動するので、ドラムブレーキ10の制動時にシューホールドダウンスプリング62の押圧中心Bがシュー安定領域72内に戻りブレーキシュー20の傾きおよびその傾きに起因するブレーキシュー20の偏摩耗が好適に抑制される。
【0034】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、シューホールドダウンピン66は、大径基部66aと、軸部66cと、その軸部66cの径よりも小さい厚みとその軸部66cの径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部66bとを有するものであり、バッキングプレート16の所定位置には、シューホールドダウンピン66の大径基部66aが取り付けられる取付穴16cを有するものであって、取付穴16cは、バッキングプレート16においてレッジ部42aそれぞれを頂点として結ぶシュー安定領域72内に配置されるものであるため、シューホールドダウンピン66からパーキングブレーキレバー(ブレーキレバー)28を離間させることによって好適にシューホールドダウンスプリング62の押圧中心Bをシュー安定領域72内に移動させるようにシューホールドダウンスプリング62を移動させることができる。
【0035】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0036】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10では、シューリム42,44のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそのシューリム42,44の両端部および中央部の3箇所にレッジ部42a,44aを設けていたが、シューリム42,44のバッキングプレート16側の円弧状側縁に3箇所以上のレッジ部42a,44aが設けられても本発明に適用することができる。また、本実施例のドラムブレーキ10では、シュー安定領域60,72は三角形状であったが、上記のようにレッジ部42a,44aの数が増えてシュー安定領域60,72の形状が変化して多角形となっても本発明に適用することができる。
【0037】
また、本実施例のドラムブレーキ10おいて、レッジ部42a,44aは、シューリム42,44のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそれらシューリム42,44の両端部および中央部においてバッキングプレート16と摺接するためにそのバッキングプレート16の内周側に突き出るように曲成されたものであったが、バッキングプレート16と摺設することができるものであればどのような形状であっても良い。
【0038】
また、本実施例のドラムブレーキ10では、ばね材から成る断面円形の線材がコイル状に複数回巻回されたコイルスプリング68が使用されたが、シューホールドダウンピン66がバッキングプレート16に対して自立するように常時付勢する弾性部材であればそのコイルスプリング68に変えて使用することができる。
【0039】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0040】
10:ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
16a,16c:取付穴
20,22:一対のブレーキシュー
38,40:シューウェブ
38a,40a:貫通穴
42,44:シューリム
42a,44a:レッジ部
28:パーキングブレーキレバー(ブレーキレバー)
28b:先端部
50,52:シューホールドダウン装置
54,62:シューホールドダウンスプリング
58,66:シューホールドダウンピン
58b,66b:扁平頭部
58c,66c:軸部
60,72:シュー安定領域
68:コイルスプリング(弾性部材)
A,B:押圧中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート上にシューホールドダウン装置により拡開可能に装着された円弧状の一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一方の一端部に相対回転可能に連結された長手状のブレーキレバーと、前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうち該シューリムの両端部および中央部において前記バッキングプレートと摺接するために設けられたレッジ部とを備え、前記ブレーキレバーの先端部が前記一対のブレーキシューの一方から離間する方向に回動されることによって前記一対のブレーキシューの一端部が拡開するドラムブレーキであって、
前記シューホールドダウン装置は、シューホールドダウンスプリングと、該シューホールドダウンスプリングと前記ブレーキシューのシューウェブに貫通された貫通穴とを通して前記バッキングプレートの所定位置に連結するためのシューホールドダウンピンとを有し、該シューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて前記ブレーキシューを前記レッジ部を介して該バッキングプレートに押圧することにより拡開可能に保持するものであり、
前記シューウェブの貫通穴は、前記ブレーキシューの長手方向に伸びる長穴であり、
前記シューホールドダウンピンは、前記貫通穴内において非制動時の前記ブレーキレバーとの当接により傾斜させられることによって、前記シューホールドダウンスプリングが前記ブレーキシューの他端部側に移動しそのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力による前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心が前記ブレーキシューにおいて前記レッジ部それぞれを頂点とする多角形を成すシュー安定領域から外れるものであり、
前記シューホールドダウンピンには、そのシューホールドダウンピンが自立するように常時付勢する弾性部材が備えられているものであり、
前記シューホールドダウンピンは、制動時前記ブレーキレバーが離間し前記弾性部材の付勢力により自立させられることによって、前記押圧中心が前記シュー安定領域内に移動するように前記シューホールドダウンスプリングが移動するものであることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記シューホールドダウンピンは、基端部と、軸部と、該軸部の径よりも小さい厚みと該軸部の径よりも大きい幅寸法を有する扁平な扁平頭部とを有するものであり、
前記バッキングプレートの所定位置には、前記シューホールドダウンピンの基端部が取り付けられる取付穴を有するものであって、
前記取付穴は、前記バッキングプレートにおいて前記レッジ部それぞれを頂点として結ぶシュー安定領域内に配置されるものである請求項1のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−38618(P2011−38618A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188775(P2009−188775)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】