説明

ドープされたポリアニリン水分散体の製造方法

【課題】ドープ率が高く、高濃度のポリアニリンを含む水分散体を安定に製造する方法の提供。
【解決手段】ポリアニリンを含む水性媒体中で、酸基含有モノマー(a)を、反応液の全質量の0.5質量%以下の乳化剤の存在下または非存在下で水溶液重合する際に、ポリアニリンに酸基含有モノマー(a)をドープさせてから、水溶液重合を開始することを特徴とするドープされたポリアニリン水分散体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープされたポリアニリンが高濃度に水中で分散された水分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリンは酸成分をドープすることにより導電性となるため、二次電池の正極、固体電解質コンデンサー、透明導電膜、電磁波シールド材、帯電防止剤等として適用することが検討されている。これらの用途の多くにおいて、ポリアニリンは種々の基材にコーティングして使用される。コーティングに際しては、常温固体のポリアニリンを液状体にする必要があるが、ポリアニリンは溶解性に乏しく、N−メチルピロリドン等の高極性溶媒にしか溶解しない。また、ドープされたポリアニリンは一層溶解性が低下する。
【0003】
こういったことから、ポリアニリンにスルホン酸基を導入することで水溶性のポリアニリンを得る試みもなされている(例えば、特許文献1等)が、得られる塗膜の耐水性が著しく劣るため、水と接触する用途では使用することができない。
【0004】
そこで、ポリアニリンを各種溶媒に分散させた分散体として取り扱うことで、コーティング可能にすることが考えられた。分散媒としては有機溶媒に比べて環境に優しい水が好適であり、また、ポリマー型ドープ剤の使用で塗膜形成能を高めることができ、かつ、塗膜化後のドープ剤の離脱も抑制できるので、近年は、ポリマーでドープされたポリアニリンの水分散体の開発が多数行われている。
【0005】
例えば、特許文献2には、ドープ用ポリマーである酸基を有するポリマーを溶液状態で得て、これにポリアニリンを分散させることにより、ドープされたポリアニリン分散体を得る方法が記載されている。しかしこの方法では、ドープ剤がポリマーであるためモビリティが小さいことが災いしてか、ドープがうまく行われず、導電性を充分に発現することができない。
【0006】
一方、ドープ用ポリマーであるポリスチレンスルホン酸の存在下でアニリンを重合する方法(特許文献3)、スルホン酸基および/またはリン酸基含有エマルジョン中でアニリンを重合する方法(特許文献4)等も検討されている。これらの技術では、ドープ率の高いポリアニリンが得られるが、有害なアニリンモノマーが水分散体中に残存してしまうという問題がある。
【0007】
ポリアニリンをN−メチルピロリドンに溶解させた後にアクリル酸をドープさせ、その他の疎水性モノマーと共に水系で懸濁重合を行って、ポリアニリンの分散体を得る方法(特許文献5)があるが、分散媒の中にN−メチルピロリドンが残存するため、分散媒が水である分散体を得るという課題を解決することにはならない。
【0008】
また、ポリアニリンを高極性モノマーであるN−ビニルピロリドンやアクリロイルモルホリンに溶解させてから、疎水性モノマーと乳化重合する方法も検討された(特許文献6、7)が、反応系で、親水性が高い高極性モノマーの水溶液重合と疎水性モノマーの乳化重合とが並行して進行するため、重合安定性が低下しやすく、高濃度のポリアニリン水分散体を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−140930号公報
【特許文献2】特開2002−265781号公報
【特許文献3】特開2004−523623号公報
【特許文献4】特開2004−307722号公報
【特許文献5】特開2002−367433号公報
【特許文献6】特開2006−241339号公報
【特許文献7】特開2004−315581号公報(特許第3997174号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、従来技術の各種問題点を考慮して、有害物や不要物を含まず、ドープ率が高く、高濃度のポリアニリンを含む水分散体を安定に製造する方法の提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のドープされたポリアニリン水分散体の製造方法は、ポリアニリンを含む水性媒体中で、酸基含有モノマー(a)を、反応液の全質量の0.5質量%以下の乳化剤の存在下または非存在下で水溶液重合する際に、ポリアニリンに酸基含有モノマー(a)をドープさせてから、水溶液重合を開始することを特徴とする。
【0012】
酸基含有モノマー(a)に加えて、酸基含有モノマー(a)以外の水溶性モノマー(b)を水溶液重合させてもよい。この場合、反応液中の酸基含有モノマー(a)がアクリル酸を含み、水溶性モノマー(b)がアクリロイルモルホリンを含むことが好ましい。
【0013】
ポリアニリンは、反応液の全質量中、2質量%以上含まれていることが好ましい。なお、本発明における「反応液の全質量」とは、反応系内の水性溶媒、酸基含有モノマー(a)、水溶性モノマー(b)、乳化剤、ポリアニリンおよび重合開始剤の合計質量を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、酸基含有モノマーをポリアニリンにドープさせた後に、この酸基含有モノマーを水溶液重合するため、重合安定性が良好であり、ドープ量が多いポリアニリンを高濃度に含む水分散体を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の製造方法は、ポリアニリンを含む水性媒体中で、酸基含有モノマー(a)を、反応液の全質量の0.5質量%以下の乳化剤の存在下または非存在下で水溶液重合する際に、ポリアニリンに酸基含有モノマー(a)をドープさせてから、水溶液重合を開始するするものである。以下、まず、各構成成分について説明する。
【0016】
<ポリアニリン>
本発明では、ポリアニリンを導電性ポリマーとして用いる。ポリアニリンとしては、一般的なエメラルジン型が好ましく、導電性を阻害しない限り置換基を有しているポリアニリンであってもよい。なお、ポリアニリンは、窒素が水素結合を作るため凝集力が高く、常温粉体状のものを水に分散させても、なかなか一次粒子にまで分散しないため、超音波発生装置を利用して超音波で分散させることが好ましい。超音波を用いて分散させることで一次粒子にまで分散させることができるが、本発明法で得られる水分散体中でのポリアニリン粒子の沈降を抑制する点からは、ポリアニリンの一次粒子径は小さい方が好ましい。具体的には数平均粒子径として10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0017】
ポリアニリンは、水溶液重合を行う際の反応液の全質量に対し、2質量%以上加えることが好ましい。得られる水分散体中のポリアニリン量が多ければ多いほど、少ない塗工液量でポリアニリンを所定量含む塗膜を形成できるため、効率的である。ポリアニリン量は、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。ただし、添加量が多すぎると、水性媒体中で凝集したり、重合安定性を低下させるおそれがあるので、15質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
<酸基含有モノマー(a)>
酸基含有モノマー(a)は、ポリアニリンにドープさせて導電性を発現させるために用いる。また、水溶液重合によってポリマー化するので、得られるポリアニリン水分散体の塗膜化の際のバインダー樹脂としても作用する。また、低分子量のドープ剤とは異なり、酸基含有モノマー(a)がポリマー化した後は、水と接触しても塗膜から離脱したりすることはない。
【0019】
具体的な酸基含有モノマー(a)としては、(メタ)アクリル酸、ケイ皮酸およびクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸、およびこれら不飽和ジカルボン酸のモノエステル等のカルボキシル基含有モノマー;ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−3−クロロアシッドホスフェート、アシッドホスホキシポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシッドホスフェート等のリン酸基含有モノマー等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、重合性基として(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが反応性の点で好ましく、アクリル酸が最も好ましい。これらの酸基含有モノマー(a)はポリアニリンにドープさせるために用いるという目的からすれば塩になっていないことが好ましいが、一部が塩になっていても良い。
【0020】
酸基含有モノマー(a)は、後述する水溶性モノマー(b)との合計を100質量%としたときに、50〜100質量%の使用が好ましい。酸基含有モノマー(a)量が少ないと、得られたポリマーの水溶性が高くなり過ぎて、コーティング剤としたときの塗膜の耐水性が低下するため好ましくない。より好ましい酸基含有モノマー(a)の量は、60〜95質量%である。
【0021】
本発明法では、酸基含有モノマー(a)をポリアニリンにドープさせてから、水溶液重合を行うが、このときのドープ量は、ポリアニリン1ユニット当たり、酸基含有モノマー(a)を0.8〜5当量とすることが好ましく、0.9〜4当量がより好ましく、1〜3当量がさらに好ましい。ドープ量が0.8当量より少ないと、充分な導電性を確保できないおそれがあり、5当量を超えると、過剰のドープ剤の存在によって塗膜の耐水性が低下することがあり好ましくない。なお、ベンゼノイドの分子量が182、キノイドの分子量が180であり、ベンゼノイドとキノイドとが0.5:0.5(モル比)でポリアニリン1ユニットを構成しているので、ポリアニリン1ユニットの分子量を181として、ドープ量を計算した。具体的には、酸基含有モノマー(a)1モルの分子量をMとして下記式で求めた。
ドープ量(当量)=[酸基含有モノマー(a)の質量(g)÷酸基含有モノマー(a)1モルの分子量M]/[ポリアニリンの質量(g)÷181]…式1
【0022】
また、既にドープされたポリアニリンの水分散体におけるドープ量を求めるには、以下の方法を用いることができる。まず、ドープされたポリアニリン水分散体に、アンモニア等のアルカリを添加し、pHを7以上にすると、ドープ剤がポリアニリンから脱離する。遠心分離によって、ドープ剤が外れたポリアニリン粒子を沈降させて固液分離し、液相を加熱乾燥する。乾燥後、液相から得られた固体物を酢酸等で酸側に調整したヘキサン溶液で洗浄し、中和に使用したアンモニア等のアルカリを除去する。続いて、普通のヘキサンで洗浄し、過剰な酢酸等の酸を除去する。その後、固体物を水に再溶解させ、フェノールフタレインを指示薬としたKOH水溶液による滴定を行えば、固体物(ドープ剤)の酸価がわかるので、ドープ剤の当量がわかる。一方、遠心分離により回収されたポリアニリンを乾燥すればポリアニリンの質量が測定できることから、ドープ量が計算できる。
【0023】
<水溶性モノマー(b)>
水溶性モノマー(b)は、酸基含有モノマー(a)以外のモノマーであって、23℃の水100gに25g以上溶解し、均一な溶液を形成し得るモノマーである。水溶性モノマー(b)としては、23℃の水100gに50g以上溶解するモノマーが好ましく、23℃の水100gに100g以上溶解するモノマーが最も好ましい。
【0024】
水溶性モノマー(b)は、酸基含有モノマー(a)との合計を100質量%としたときに、0〜50質量%の範囲で使用することが好ましい。すなわち、水溶性モノマー(b)は使用しなくてもよい。ただし、酸基含有モノマー(a)のみでポリマーを合成すると、酸基含有モノマー(a)はドープされた状態で重合することになるので、通常の酸基含有モノマー(a)の水溶液重合の場合に比べて、反応系内での動きやすさ(モビリティ)が小さくなり、結果として酸基含有モノマー(a)の残存量(残存モノマー量)が多くなることがある。水溶性モノマー(b)はドープに関与しないためモビリティが大きく、反応系内を自由に動くことができる結果、効率よく重合が進行し、残存モノマーが少なくなるため、5質量%以上用いることが好ましい。ただし、本発明法で得られる水分散体を塗膜化した後に、残存モノマーが除去されるような条件で乾燥することができるのであれば、酸基含有モノマー(a)単独で重合しても構わない。
【0025】
水溶性モノマー(b)の具体例としては、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−(1,1‘−ジメチル−2−フェニル)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(1−メチルブチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の窒素含有モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、フタル酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0026】
これらの中でもポリアニリンの分散性が向上することから、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、(メタ)アクリロイルモルホリンが最も好ましい。
【0027】
<乳化剤>
本発明の製造方法において水溶液重合をする際には、乳化剤を用いてもよいし、用いなくてもよい。乳化剤を用いる場合は、反応液の全質量に対し0.5質量%以下とする。本発明法では水溶液重合を行うため、乳化剤を用いてミセルを形成する必要はなく、乳化剤を用いなくても構わないが、乳化剤を使用すると、ポリアニリン分散下での水溶液重合の安定性が向上するため好ましい。ただし、乳化剤が0.5質量%を超えると、重合安定性を高める効果は飽和し、却って凝集物量が増加することがあるため、乳化剤は0.5質量%以下とする。より好ましい上限は0.3質量%である。
【0028】
乳化剤としては、酸基含有モノマー(a)のポリアニリンへのドープを阻害することのないノニオン系の乳化剤が好ましい。カチオン系乳化剤では酸基含有モノマー(a)を中和するためドープを阻害するおそれがあり、アニオン系乳化剤では酸基含有モノマー(a)の代わりに、自らがドープするおそれがある。
【0029】
ノニオン系乳化剤としては、特に限定されず使用可能である。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの縮合生成物;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリアミド、エチレンオキサイドと脂肪族アミンとの縮合生成物等が挙げられる。市販品としては、例えば「ノイゲン(登録商標)」シリーズ(第一工業製薬社製;EA−157,EA−167,EA−177等)、「ノニポール(登録商標)」シリーズ(三洋化成工業社製)、「エレミノール(登録商標)」シリーズ(三洋化成工業社製;STN−6,STN−8,STN−13,STN−20,STN−45等)、「エマルゲン(登録商標)」シリーズ(花王社製;A−60,A−66,A−90等)、「アクアロン(登録商標)」シリーズ(第一工業製薬社製;RN−10,RN−20,RN−30,RN−50等)等がある。
【0030】
<本発明の製造方法>
本発明の製造方法においては、反応容器にポリアニリンを添加する前に、水性媒体と酸基含有モノマー(a)を、水溶性モノマー(b)を用いる場合はこの水溶性モノマー(b)も、先に反応容器に添加して、撹拌機でよく撹拌しておくことが好ましい。水性媒体としては、水単独が好ましいが、水にアルコールやケトン等の親水性溶媒を加えたものであってもよい。
【0031】
水性媒体と酸基含有モノマー(a)および水溶性モノマー(b)が均一に混合したモノマー水溶液が得られたら、ポリアニリンの粉体を添加する。ここで、酸基含有モノマー(a)、水溶性モノマー(b)およびポリアニリンは、水性媒体とこれらの合計100質量%中、酸基含有モノマー(a)、水溶性モノマー(b)およびポリアニリンの合計が、3〜50質量%とすることが好ましい。3質量%より少ないと、酸基含有モノマー(a)(ドープ剤)の量やポリアニリン量が少なすぎて、希薄な水分散体しか得られないおそれがある。一方、50質量%を超えると、ポリアニリンが凝集しやすくなり、分散安定性が維持できないおそれがある。
【0032】
ポリアニリンの添加に際しては、通常、ポリアニリンの粉体は二次凝集しているので、モノマー水溶液を撹拌しながら添加することが好ましい。モノマー水溶液中でポリアニリンを一次粒子まで分散させるには、ビーズミル、ディスパー撹拌、ペイントシェーカー等の手法があり、充分に分散させることができれば特に限定されないが、重合装置に備えられた通常の撹拌機による撹拌に加えて、超音波発生装置を用いて超音波を反応容器に照射して、モノマー水溶液を微細に振動させることが好ましい。
【0033】
上記撹拌作用によって、ポリアニリンが一次粒子に分散すると共に、酸基含有モノマー(a)がポリアニリンにドープする。酸基含有モノマー(a)がドープしたかどうかは、反応容器の内液が濃緑色に変化することで確認できる。ドープさせる時間は特に限定されず、数十分から数時間である。ドープ時は、加温してもよいが、常温で構わない。
【0034】
酸基含有モノマー(a)がポリアニリンにドープしたら、水溶液重合を開始する。具体的には、超音波発生を止め、通常の重合装置に用いられる撹拌羽根で反応液を撹拌しながら、重合開始剤を反応容器に添加して、昇温する。
【0035】
重合開始剤としては、ポリアニリンが酸化されるおそれの少ないアゾ系の重合開始剤が好ましく、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド〕、2,2’−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕等が挙げられる。
【0036】
重合開始剤の使用量は、酸基含有モノマー(a)と水溶性モノマー(b)との合計100質量部に対し、0.1〜5質量部が好ましい。
【0037】
重合反応温度や反応時間等の反応条件は、特に限定されず、例えば、モノマーの組成や量等に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0038】
重合が終了すれば、本発明のポリアニリン水分散体が得られる。この水分散体は、酸基含有モノマー(a)のホモポリマーまたは酸基含有モノマー(a)と水溶性モノマー(b)からなるコポリマーの水溶液中に、ポリアニリンが分散した状態となっており、また、ポリマー中の酸基はポリアニリンにドープしている。重合後は、得られた水分散体を冷却してから、凝集物を取り除くために300メッシュ程度の濾材で濾過を行うことが好ましい。
【0039】
本発明法で得られるドープされたポリアニリンの水分散体には、必要に応じて、コーティング材の慣用配合に使用される原材料や各種添加剤を加えても構わない。例えば、顔料、無機系または有機系充填剤、増粘剤、滑剤、親水化剤、水溶性または水分散性樹脂、分散剤、耐水化剤、架橋剤、成膜助剤、熱可融性物質、pH調整剤、酸化剤、還元剤、防腐剤等が添加可能なものとして挙げられる。顔料としては、二酸化チタン、リトポン、酸化鉄、酸化クロム等の公知の無機顔料や、公知の有機顔料等の塗料用顔料が使用できる。また、充填剤としては、炭酸カルシウム、バライト、マイカ、珪砂等が使用できる。増粘剤としては、酸化ポリエチレン系、アマイド系、架橋ポリアクリル系、シリカ系等のチキソトロピック性付与効果のある公知の増粘剤が好適である。
【0040】
本発明法で得られるドープされたポリアニリンの水分散体には、塗膜の耐水性を高めるため、水溶性または水分散性の架橋剤を添加してもよい。架橋剤としては、エポキシ系、イソシアネート系、オキサゾリン系、シラン系等が挙げられる。例えば、「デナコール(登録商標)」シリーズ(ナガセケムテック社製)の「EX-614B」、「EX-313」、「EX-314」、「EX-512」、「EX-521」、「EX-810」、「EX-850」等のエポキシ系架橋剤;「バイヒジュール(登録商標)」シリーズ(住化バイエルウレタン社製)の「3100」、「VPLS2319」、「VPLS2336」、「VPLS2150BA」、「VPLS2306」、「BL5140」、「BL5235」、「VPLS2319」等のイソシアネート系架橋剤;「エポクロス(登録商標)」シリーズ(日本触媒社製)の「WS-500」、「WS-700」、「K-2010E」、「K-2020E」、「K2030-E」等のオキサゾリン系架橋剤;「ポバールR1130」(クラレ社製;アルコキシ変性ポリビニルアルコール)、「アクリセット(登録商標)EX-102SI」(日本触媒社製;シリル化変性アクリルエマルション)等のシラン系架橋剤等が市販されており、容易に入手できる。これらは、適量、塗膜化の前にポリアニリン水分散体に配合すればよい。
【実施例】
【0041】
以下実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。また、特性評価方法は、以下のとおりである。
【0042】
<ポリアニリン水分散体の不揮発分>
各合成例で合成したポリアニリン水分散体を約1g秤量し、熱風乾燥機で110℃で1時間乾燥させる。乾燥後の残存質量を乾燥前の質量に対する比率として%で表した。
【0043】
<重合安定性>
300メッシュの金網を漏斗状に折り曲げた後にアセトンで洗浄し、110℃のオーブンで乾燥させてから、精密天秤で金網の質量を測定しておく。各合成例で合成したポリアニリン水分散体の全量を金網で濾過し、濾物を流水で洗浄する。濾物を金網ごと110℃のオーブンに入れ、1時間乾燥させてから金網と濾物の質量を測定し、濾物(凝集物)のみの質量を算出した。総仕込み量(反応液の質量)に対する凝集物の質量%を算出し、以下の基準で評価した。
○:凝集物が総仕込み量の0.1%未満
△:凝集物が総仕込み量の0.1%以上、1%未満
×:凝集物が1%以上または濾過不能
【0044】
合成例1
撹拌機、滴下口、窒素導入管、温度計、還流冷却器を備えたガラス製の反応容器中に窒素ガスを吹き込みながら、脱イオン水50部、酸基含有モノマー(a)としてのアクリル酸(AA;日本触媒社製)3.0部および水溶性モノマー(b)としてのアクリロイルモルホリン(ACMO;興人社製)1.0部を反応容器に入れて撹拌した。均一に溶解した透明な溶液が得られた。
【0045】
ポリアニリンの粉体(「PANIPOL PA」;エメラルジンベースポリアニリン;Panipol社製)4.0部を、反応容器内部を撹拌しながら添加し、撹拌を続けながら超音波発生装置を用いて、超音波を反応容器の内液に照射した。反応容器内液が次第に濃緑色へと変化していった。超音波を1時間照射したところで照射を止め、撹拌しながら70℃に昇温した。
【0046】
続いて、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩の10%水溶液1.0部を反応容器内に添加し、70℃で3時間、水溶液重合反応を行った。得られたドープされたポリアニリン水分散体を室温まで冷却し、前記した方法で不揮発分を測定した。また、ドープ量は仕込み量から下記式にて計算した。評価結果等を表1に示した。
ドープ量=(アクリル酸の仕込み量÷72)/(ポリアニリン仕込み量÷181)
【0047】
合成例2
反応容器にモノマー(a)と(b)を仕込む際に、乳化剤として、「ノイゲン(登録商標)EA−177」(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル;第一工業製薬社製)0.06部を加え、超音波を30分間照射して乳化剤を完全に溶解させた後に、ポリアニリンを添加した以外は合成例1と同様にして、ドープされたポリアニリン水分散体を得た。評価結果等を表1に示した。
【0048】
合成例3
「ノイゲンEA−177」の量を0.2部に増量した以外は合成例2と同様にして、ドープされたポリアニリン水分散体を得た。評価結果等を表1に示した。
【0049】
合成例4(比較用)
「ノイゲンEA−177」の量を0.6部に増量した以外は合成例2と同様にして、ドープされたポリアニリン水分散体を得た。評価結果等を表1に示した。
【0050】
合成例5(比較用)
非水溶性のブチルアクリレート(BA;日本触媒社製)を0.5部を仕込みモノマーに追加した以外は合成例2と同様にして、水とモノマーと乳化剤とを混合したところ、ポリアニリン添加前の溶液は、白くなっており、乳化されていた。続く操作を合成例2と同様に行ったが、ポリアニリンが凝集して300メッシュ金網で濾過することができず、ポリアニリン水分散体を得ることができなかった。評価結果等を表1に示した。
【0051】
合成例6(比較用)
ポリアニリン2.0部をアクリロイルモルホリン20部とスチレン(St)5.0部の混合物に均一に溶解させて、青紫色のポリアニリン溶液を得た。スチレン20部、ブチルアクリレート15部、アクリル酸5.0部の混合液中に、上記のポリアニリン溶液をホモジナイザで撹拌しながら滴下して、ポリアニリンが均一に分散した濃緑色のモノマー混合物を得た。
【0052】
別途、温度計、冷却管、窒素導入管、滴下ロートおよび撹拌機を備えた反応容器に、イオン交換水140部と「ノイゲンEA−177」3.0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら撹拌して、乳化剤を溶解させた。滴下ロートに上記モノマー混合物を入れ、その1/10を反応容器に滴下した。続いて、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)に塩酸塩の10%水溶液6.0部を投入し、70℃で30分間、乳化重合反応を行い、残りのモノマー混合物を4時間かけて滴下した。さらに、滴下終了後、同温度で1時間重合を続け、ドープされたポリアニリン水分散体(エマルジョン)を得た。評価結果等を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
<塗膜評価実験>
合成例1〜3で得られたポリアニリン水分散体No.1〜3と合成例6で得られたポリアニリン水分散体No.4とを用いて、以下の方法で塗膜性能を評価した。評価結果を表2に示した。
【0055】
<塗膜乾燥性>
ガラス基板上に、ポリアニリン水分散体を、ポリアニリン換算の膜厚(0.26〜0.27μm)が同じになるようにバーコーターで塗布し、室温(約23℃)で乾燥させて、10分後に指で塗膜を触ってみて下記基準で評価した。なお、バーコーターNo.3では、乾燥前の膜厚が約4μmに、バーコーターNo.22では、乾燥前の膜厚が約29μmとなる。
○:ベタツキがない。
×:指が塗膜に付着する。
【0056】
<表面抵抗率>
ガラス基板上に、ポリアニリン水分散体を、ポリアニリン換算の膜厚(0.26〜0.27μm)が同じになるようにバーコーターで塗布し、室温(約23℃)で一晩乾燥させて塗膜を形成し、JIS K6911に準拠して、抵抗測定装置を用いて表面抵抗率を測定した。
【0057】
【表2】

【0058】
表2から明らかなように、本発明のドープされたポリアニリン水分散体No.1〜3はポリアニリン濃度が高いため、塗工膜厚を薄くすることができ、その結果、得られた塗膜は、塗膜乾燥性に優れ、導電性も満足できる値であった。一方、比較用のエマルジョンタイプのポリアニリン水分散体No.4はポリアニリンの含有量が小さいため、厚膜にせざるを得ず、乾燥に時間がかかる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明法は、ドープされたポリアニリンを塗膜化する場合に好適に用い得るポリアニリン水分散体の製造方法として有用である。このポリアニリン水分散体から得られるポリアニリンの塗膜は、二次電池の正極、固体電解質コンデンサー、透明導電膜、電磁波シールド材、帯電防止剤等の用途に適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニリンを含む水性媒体中で、酸基含有モノマー(a)を、反応液の全質量の0.5質量%以下の乳化剤の存在下または非存在下で水溶液重合する際に、ポリアニリンに酸基含有モノマー(a)をドープさせてから、水溶液重合を開始することを特徴とするドープされたポリアニリン水分散体の製造方法。
【請求項2】
酸基含有モノマー(a)に加えて、酸基含有モノマー(a)以外の水溶性モノマー(b)を水溶液重合するものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応液中の酸基含有モノマー(a)がアクリル酸を含み、水溶性モノマー(b)がアクリロイルモルホリンを含む請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ポリアニリンが、反応液の全質量中、2質量%以上含まれている請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−265432(P2010−265432A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120207(P2009−120207)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】