説明

ドープの評価方法及び溶液製膜方法

【課題】 貯蔵しているドープが溶液製膜に適するかを評価する。
【解決手段】 ポリマーと溶媒とから膨潤液42を得る。冷却装置44で冷却溶解させる。加熱装置46で膨潤液を加熱してポリマーの溶解を進行させてドープ56を得る。ドープ56をろ過装置47でろ過した後にフラッシュ装置51で濃縮する。ろ過装置55でろ過した後にストックタンク50に貯蔵する。貯蔵前のドープ56の所定ろ過量をt1(m3)を測定する。2週間経時後のドープ56の所定ろ過量t2(m3)を測定する。ドープろ過量比(t2/t1)が0.5以上であれば、フィルム中の異物の原因となる微小未溶解物の発生が抑制されており、溶液製膜に適するドープであると評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープの評価方法及び溶液製膜方法に関し、より詳しくは溶液製膜方法に用いられるドープの評価方法並びに偏光板保護フィルム及び視野角拡大フィルムなどの光学機能性フィルムに用いられるフィルムを製造する溶液製膜方法するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料などのフィルム用支持体として利用されている。また、TAフィルムは光学等方性に優れていることから、近年市場の拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルム)などに用いられている。
【0003】
TACフィルムは、通常溶液製膜方法により製造されている。溶液製膜方法は、溶融製膜方法などの他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性に優れたフィルムを製造することができる。溶液製膜方法は、ポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を調製する。そのドープを流延ダイより支持体上に流延して流延膜を形成する。その流延膜が自己支持性を有するものとなった後に、支持体から膜(以下、湿潤フィルムと称する)として剥ぎ取り、乾燥させた後にフィルムとして巻き取る(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2001−1745号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶液製膜法においては流延製膜されたフィルムの異物の有無は、フィルムの品質を決めるうえで極めて重要である。特に近年、液晶表示装置などに用いられる光学機能性膜は異物や膜光学特性の不均一性にはとりわけ鋭敏であり、高い品質が求められている。特に異物やそれに基づく光学特性のばらつきは流延製膜工程での付着などで発生すると同時に流延するドープの品質に依存している。
【0005】
従来、ドープ品質についてはドープ内の異物を除去することで十分な品質のフィルムが得られると考えられている。すなわち流延するために調製したドープの透明性や流動性により判断している。しかしながら、それらのドープの品質を確保したとしても製膜したフィルムが必ずしも異物の少ない均一な光学特性のフィルムが得られない問題が生じている。
【0006】
本発明の目的は、製膜されるフィルムが良好な品質ものを得られる否かの評価を製膜前に行うことが可能なドープの評価方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、光学特性に優れるフィルムを製膜できる溶液製膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、溶液製膜法に用いられるドープは、調製した後の物性と共に一定期間経時した後に物性変化とから製膜されるフィルムの光学特性の優劣が生じるこを見出した。また、ドープを調製して貯蔵、送液する際に微細不溶解物やゲルの核をろ過によって除去することによりドープの経時安定性は著しく良化することも見出した。さらに、溶液製膜法により良好な品質のフィルムを得るためにはドープの経時安定性が重要であり所望の経時安定性を有することが必要であることをも見出した。
【0009】
本発明において、経時安定性とは一定の経時後にドープの流動性が一定値以上低下しないこと、また透明度が一定値以上低下しないこと、およびろ過性が悪化しないことを指す。これは調製されたドープが工程内で保存、移送される間に滞留してドープ中に存在する不溶解物、ゲルなどの微小不溶解物が核となり粗大粒子が形成されるためであることを見出した。それを防止して高品質のフィルムを得るためには流延するドープの経時での安定性を一定以上高めておくことが必要である。すなわちドープ中の微小不溶解物を貯蔵前に除去しておき、貯蔵中に前記微小不溶解物を核とする粗大粒子の発生を抑制でき、経時安定性を高めることができる。また、ドープの増粘を抑制することで、粗大粒子形成を促進することを防止できる。その結果として流延工程で流延膜にスジの発生を抑制したり、フィルム中に異物が含有したりすることを防ぐことができる。
【0010】
微小不溶解物の除去の程度については光散乱などの方法による評価も定性的には可能である。しかしながら、一定のろ材を使った定量ろ過によるろ過寿命を評価することにより高い精度得られることを本発明者は見出した。ドープをろ紙または不織布あるいは金属製のろ材により定量送液して一定量のろ過液を得た後のろ過差圧を比較する方法や一定のろ過差圧になるまでにろ過されたろ液の量を比較する方法などがある。また、ポリマー溶液のろ過の多くの場合は標準閉塞ろ過機構で近似できることから、モデル式に最小二乗近似したろ過差圧曲線の傾きを比較する方法もある。
【0011】
本発明では、2週間経時後のろ過性の変化、粘度の変化を所望の範囲内とすることで微小不溶解物の発生はフィルム品質に影響を及ぼさない程度に抑えられることが分かった。さらにドープを調製して流延するまでのドープの滞留時間Tとの関係で言えば15×Tの時間経過後の変化を所望の範囲内とする。
【0012】
本発明のドープの評価方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを用いて溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記ドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt1(m3)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3)とした場合に、t2/t1が0.5以上である。
【0013】
本発明のドープの評価方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを少なくとも2回ろ過した後に溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記ろ過した後のドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt1(m3)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3)とした場合に、t2/t1が0.5以上である。前記第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記第2ドープの2週間経時後の粘度をV2(Pa・s)とした場合に、粘度比(V1/V2)が0.8以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のドープの評価方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを用いて溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、前記ドープの一部である第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後の前記第2ドープの粘度をV2(Pa・s)とした場合に、粘度比(V1/V2)が0.8以上である。前記ポリマーが、セルロースアシレートであることが好ましく、より好ましくはセルロースアセテートであり最も好ましくはセルローストリアセテートである。前記溶媒に酢酸メチルを含むことが好ましい。
【0015】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを用いる溶液製膜方法において、絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記ドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt1(m3)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3)とした場合に、t2/t1が0.5以上であるドープを流延してフィルムを製膜する。
【0016】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを用い、少なくとも2回のろ過を行った後に支持体上に前記ドープを流延し、フィルムを製膜する溶液製膜方法において、前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により初期圧力を0.1MPaになるように流量を決めて前記ろ過した後のドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt1(m3)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3)とした場合に、t2/t1が0.5以上のドープを流延する。前記第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記第2ドープの2週間経時後の粘度をV2(Pa・s)とした場合に、粘度比(V1/V2)が0.8以上のドープを流延することが好ましい。
【0017】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを用いる溶液製膜方法において、前記ドープの一部である第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープのろ過を行い、2週間経時させた後の前記第2ドープの粘度をV2(Pa・s)とした場合に、粘度比(V1/V2)が0.8以上であるドープを流延する。
【0018】
少なくとも2回のドープろ過工程を行う場合であって、絶対阻止孔径P1(μm)のろ紙又は不織布をろ材とするろ過する工程と、絶対阻止孔径P2(μm)の金属製ろ材でろ過する工程とを含みP1≦0.7×P2の関係を有することが好ましい。少なくとも2回のドープろ過工程を行う場合であって、前記ドープを濃縮する工程を含み、前記ドープ濃縮工程の前と後にそれぞれ少なくとも1回のドープのろ過工程を行うことが好ましい。少なくとも2回のドープろ過工程を行う場合であって、少なくとも1回のドープろ過工程を行う際に、ろ材とろ過助剤とを用いることが好ましい。前記ポリマーがセルロースアシレートであることが好ましく、セルロースアセテートであることがより好ましく、最も好ましくはセルローストリアセテートである。前記溶媒に酢酸メチルを含むことが好ましい。
【0019】
本発明には前記溶液製膜方法により製膜されるフィルムも含まれる。前記フィルムを偏光板の保護フィルムとしたものも本発明には含まれる。前記フィルムを保護フィルムとした偏光板も本発明には含まれる。前記フィルムを用いて構成される光学機能性膜も本発明には含まれる。前記光学機能性膜を用いて構成される液晶表示装置も本発明には含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のドープの評価方法によれば、前記ドープのろ過量比(t2/t1)が0.5以上であれば、前記ドープを用いた溶液製膜法により製膜されるフィルムは光学特性に優れていると推定できる。
【0021】
本発明のドープの評価方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを少なくとも2回ろ過した後に溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、前記ドープのろ過量比(t2/t1)が0.5以上であれば、前記ドープを用いた溶液製膜法により製膜されるフィルムは光学特性に優れていると推定することができる。
【0022】
本発明のドープの評価方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを用いて溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、前記ドープの一部である第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後の前記第2ドープの粘度をV2(Pa・s)とした場合に、粘度比(V1/V2)が0.8以上であれば、前記ドープを用いた溶液製膜法により製膜されるフィルムは光学特性に優れていると推定することができる。
【0023】
本発明のドープの評価方法によれば、前記ドープのろ過量比(t2/t1)であり、且つ前記粘度比(V1/V2)が0.8以上であれば、前記ドープを溶液製膜法により製膜されるフィルムは光学特性に優れていると推定することができる。
【0024】
本発明の溶液製膜方法によれば、前記ドープのろ過量比(t2/t1)が0.5以上であるドープを流延してフィルムを製膜するから、前記ドープを貯蔵中に微小未溶解物を核とする粗大粒子の発生が抑制されているため、光学特性に優れるフィルムを製膜することができる。
【0025】
本発明の溶液製膜方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを用い、少なくとも2回のろ過を行った後に支持体上に前記ドープを流延し、フィルムを製膜する溶液製膜方法において、前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、前記ドープのろ過量比(t2/t1)が0.5以上であるドープを流延してフィルムを製膜するから、ドープを調製する際に、原料に含有している異物が除去されると共に前記ドープを貯蔵中に微小未溶解物を核とする粗大粒子の発生が抑制されているため、光学特性に極めて優れるフィルムを製膜することができる。
【0026】
本発明の溶液製膜方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを用いる溶液製膜方法において、前記ドープの一部である第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記ドープの他の一部である第2ドープのろ過を行い、2週間経時させた後の前記第2ドープの粘度をV2(Pa・s)とした場合に、粘度比(V1/V2)が0.8以上であるドープを流延するから、増粘に伴う前記ドープの滞留箇所を減少させることができる。ドープ滞留に伴う粗大粒子の成長が抑制される。そのため、前記ドープを溶液製膜法に用いて得られるフィルムの光学特性は優れている。
【0027】
本発明の溶液製膜方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを用い、少なくとも2回のろ過を行った後に支持体上に前記ドープを流延し、フィルムを製膜する溶液製膜方法において、前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、前記ドープのろ過量比(t2/t1)が0.5以上であり、且つ粘度比(V1/V2)が0.8以上のドープを流延してフィルムを製膜するから、ドープを調製する際に、原料に含有している異物が除去されると共に前記ドープを貯蔵中に微小未溶解物を核とする粗大粒子の発生が抑制されている。また、増粘に伴う前記ドープの滞留箇所を減少させることができ、ドープ滞留に伴う粗大粒子の成長が抑制される。そのため、前記ドープを溶液製膜法に用いて得られるフィルムの光学特性は極めて優れている。
【0028】
本発明の溶液製膜方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを用い、少なくとも2回のろ過を行った後に支持体上に前記ドープを流延し、フィルムを製膜する溶液製膜方法において、少なくとも2回のドープろ過工程を行う場合であって、絶対阻止孔径P1(μm)のろ紙又は不織布をろ材とするろ過する工程と、絶対阻止孔径P2(μm)の金属製ろ材でろ過する工程とを含み、P1≦0.7×P2の関係を有し、前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、前記ドープのろ過量比(t2/t1)が0.5以上であるから、前記ポリマー中に含まれている異物の除去を効率良く行うことが可能となると共に前記ドープを貯蔵中に微小未溶解物を核とする粗大粒子の発生が抑制されている。このため前記ドープを流延製膜して得られるフィルムの光学特性は優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[原料]
セルロースアシレートは、セルロースの水酸基への置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するセルロースアシレートを用いることが好ましい。以下、このセルロースアシレートをTACと称する。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表わしている。Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子を用いることが好ましい。
【0030】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0031】
炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0032】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いる。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していても良い。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していても良い。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良い。
【0033】
セルロースアシレートの詳細については、特願2003−319673号の[0141]から[0192]に記載されている。これらの記載は本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤などの添加剤は、同じく特願2003−319673号の[0193]から[0531]に詳細に記載されている。
【0034】
溶液製膜方法は、仕込み工程11、膨潤工程12、冷却工程13、加熱工程14、第1ろ過工程15,濃縮工程16,第2ろ過工程17,第1測定工程18及び貯蔵工程19を行いドープを調製する。その後に第2測定工程20、さらにそのドープを支持体上に流延する流延工程21及び乾燥延伸工程22を行い、フィルムを得る。本発明に係るろ過工程は、前記以外の冷却工程13,貯蔵工程19の工程を終えた後に行っても良い。
【0035】
図2にドープ製造ライン30を示す。始めに仕込み工程11を行う。溶媒タンク31からバルブ32を開き、溶媒を溶解タンク33に送る。次にホッパ34に入れられているTACを溶解タンク33に計量しながら送り込む。添加剤タンク35から添加剤溶液をバルブ36の開閉操作を行って必要量を溶解タンク33に送り込む。なお、添加剤は溶液として送り込む方法以外にも、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク33に送り込むことも可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパを用いて溶解タンク33に送り込むことも可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク35中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。また、多数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンク33に送り込むこともできる。
【0036】
前述した説明においては、溶解タンク33に入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。TACを計量しながら溶解タンク33に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク33に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物をドープと称する場合がある)に混合させることもできる。
【0037】
次に、膨潤工程12を行う。溶解タンク33を包み込むようにジャケット37が備えられている。モータ38により回転する第1攪拌翼39が取り付けられている。さらに、モータ40により回転する第2攪拌翼41を備えていることが好ましい。なお、第1攪拌翼39は、アンカー翼であることが好ましく、第2攪拌翼41はディゾルバータイプであることが好ましい。ジャケット37に熱媒体を流して溶解タンク33内を−10℃〜55℃の範囲に温度調整することが好ましい。第1攪拌翼39,第2攪拌翼41を適宜選択して回転させることでTACが溶媒中で膨潤した膨潤液42を得ることができる。
【0038】
そして、冷却工程13を行う。膨潤液42をポンプ43を用いて冷却装置44に送液する。冷却装置44には、スクリュー付き押出機を用いることが好ましい。スクリューは、冷媒を流通させるジャケット付きである。冷媒にはブライン(登録商標),フロリナート(登録商標)などが好ましく用いられる。冷却温度は、特に限定されるものではないが、−100℃以上−10℃以下の範囲とすることが好ましい。膨潤液42は、高粘度であるため流動性に劣る液となっている。そのため、スクリューを用いて膨潤液42に高剪断(例えば、1(1/sec)〜1000(1/sec))をかけることにより溶質であるポリマーが溶媒に溶解し易くなる。このときには、膨潤液42は加圧状態になることで溶解性が向上するさらに、スクリューを回転させることで、送液をも同時に行うことができるため連続して冷却溶解を進行させることができる。なお、冷却工程13を行った後に静止型混合器45で常圧混合を行うことで溶解性の向上を図ることができる。なお、冷却工程13で用いられる冷却装置はスクリュー付き押出機に限定されるものではなく、例えばジャケット付き配管と送液ポンプとを組み合わせた装置を用いることもできる。
【0039】
次に加熱工程14を行う。溶解が進行している膨潤液42を加熱装置46に送液する。加熱装置46には、ジャケット付き配管を用いることが好ましく、更に膨潤液42を加圧できる構成であることがより好ましい。膨潤液42を加熱または加圧加熱条件下でTACなどの溶質を溶媒に溶解させてドープを得る。なお、この場合に膨潤液の温度は、0℃〜97℃であることが好ましい。なお、本発明においてドープの製造においては、膨潤工程12を行った後に加熱工程14を行い、その後に冷却工程13を行っても良い。また、冷却工程13,加熱工程14を繰り返すことで溶解性を向上させることもできる。
【0040】
冷却工程13,加熱工程14を行いドープを得た後に、ドープをろ過する第1ろ過工程15を行う。第1ろ過工程15で用いられるろ過装置47のろ材は特に限定されるものではないが、ろ紙,不織布を用いることが好ましい。これらろ材を用いることでTACの原料であるセルロースに含まれている不純物を効率良く除去することができる。また、ろ材の絶対阻止孔径P1(μm)も特に限定されるものではないが、1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下のものであることが好ましい。また、ろ過流量は、50L/hr以上5000L/hr以下の範囲であることが好ましい。
【0041】
前記ドープは、後述する溶液製膜用ドープとして用いることが可能である。しかしながら、膨潤液42を調製した後にTACを溶解させる方法は、TACの濃度を上昇させるほど時間がかかりコストの点で問題が生じる場合がある。その場合には、目的とするTAC濃度より低濃度のドープを調製した後に目的とする濃度のドープを調製する濃縮工程16を行うことが好ましい。濃縮工程16では、ろ過装置47でろ過されたドープをバルブ48を介してフラッシュ装置51に送液する。フラッシュ装置51内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発した溶媒は、凝縮器(図示しない)により液体とした後に回収装置52で回収する。その溶媒は、再生装置53によりドープ調製用の溶媒として再生を行い再利用することがコストの点から好ましい。
【0042】
濃縮されたドープをフラッシュ装置51からポンプ54を用いて抜き出す。さらに、ドープ中の泡抜きを行うことが好ましい。泡抜きは、公知のいずれの方法により行っても良く、例えば超音波照射法が挙げられる。その後にろ過装置55に送液して第2ろ過工程17を行う。ろ過装置55によりドープ中の異物の除去を行う。ろ過装置55のろ材は特に限定されるものではないが、金属製(例えば、ステンレス,窒化綱,ハステロイなど)のものを用いることが好ましい。金属製のろ材を用いると、他のろ材よりも寿命が長いためろ材の取り替え頻度が低下して生産性の向上を図ることができる。また、絶対阻止孔径P2(μm)も特に限定されるものではないが、1μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上50μm以下である。また、ろ過装置47のろ材の絶対阻止孔径P1(μm)との関係をP1≦0.7×P2とすることが好ましい。この際にドープの温度が0℃〜200℃であることが好ましい。そして、ストックタンク50にドープを入れる。
【0043】
ろ過装置47,55の少なくともいずれか一方にろ過助剤を用いることが好ましい。特に上流側のろ過装置47に用いることが好ましい。ろ過助剤により膨潤液42中に含まれる微粒子未溶解物、ゲル状物質を吸着または包含させることでろ過抵抗を減少させることができると共にろ材の目詰まりを抑制できる。本発明においてろ過助剤は特に限定されるものではないが、ケイソウ土,パーライト,セルロースなどを用いることが好ましく、最も好ましくはケイソウ土を用いることである。
【0044】
なお、本発明においてフラッシュ装置51を用いる濃縮工程16は省略することも出来る。この場合には、ろ過装置47を用いる第1ろ過工程15を行った後に3方バルブ48のコック位置を調整しろ過装置55にドープを送液して第2ろ過工程17を行う。
【0045】
前記方法によりTAC濃度が5質量%〜40質量%のドープを製造することができる。なお、製造されたドープ(以下、原料ドープと称する)56は、ストックタンク50に貯蔵され、貯蔵工程19が行われる。ストックタンク50には、モータ61が接続された攪拌翼62が備えられている。貯蔵工程19では、攪拌翼62を原料ドープ56中で回転させることにより原料ドープ56中の脱泡を行う。原料ドープ56中に気体が含有しているの後の流延工程21,乾燥延伸工程22を行う際に、原料ドープ56から気体が発泡してフィルムの面状悪化の原因となるおそれがあり、これらを防止できる。さらに、常に原料ドープ56を攪拌しておくことで、微小未溶解物を核とする粗大粒子が成長することが抑制される。
【0046】
粗大粒子の成長を抑制するため、原料ドープ56の温度調整を行うことも有効な方法である。ストックタンク50にジャケット58を取り付けて、その中に熱媒体を供給することで、所望の温度に調整することが可能となる。熱媒体には、水,シリコンオイル,鉱油類などが好ましく用いられ、特に好ましくは水を用いることである。また、温度は、原料ドープ56の主溶媒が酢酸メチルの場合には、20℃以上50℃以下の範囲であることが好ましい。主溶媒にジクロロメタンを用いている場合には、20℃以上40℃以下の範囲であることが好ましい。
【0047】
調製された原料ドープ56を貯蔵工程19を行う前に第1測定工程18を行う。原料ドープ56の一部を抜き出してろ過量の変化を測定する。絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下で所望の絶対阻止孔径を有するろ過装置を用意する。初期送液圧力が0.1MPaとなるように流量(例えば、0.001m3/min〜0.1m3/min)を規定する。その後に、連続して原料ドープ56のろ過を行い送液圧力が1MPaに到達するまでのろ過流量を測定する。そのろ過流量のろ材単位面積あたりの容積をt1(m3 )とする。また、貯蔵工程19を行う前の原料ドープ56の粘度をキャピラリーレオメーターにより25℃での粘度V1(Pa・s)を測定する。
【0048】
貯蔵工程19で2週間、原料ドープ56を貯蔵した後に第2測定工程20を行う。第2測定工程20では、第1測定工程18で用いられているろ過装置と同じものを用いる。初期送液圧力が0.1MPaとなるように流量(例えば、0.001m3/min〜0.1m3/min)を規定し、連続して原料ドープ56を送液して送液圧力が1MPaとなるまでの流量を測定する。その流量をろ材の単位面積あたりの容積t2(m3)を算出する。また、原料ドープ56の粘度を前述と同様の装置で25℃での粘度V2(Pa・s)を測定する。
【0049】
本発明において、ドープろ過量比(t2/t1)が0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることが最も好ましい。なお、上限値は1以下である。ドープろ過量比(t2/t1)が0.5以上であれば、粗大粒子の成長の進行が抑制されていると推定され、その原料ドープ56を用いて後述する溶液製膜を行って得られるフィルムの光学特性は優れている。
【0050】
本発明において、粘度比(V1/V2)が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることが最も好ましい。なお、上限値は特に限定されるものではないが、1.0である。粘度比(V1/V2)が0.8以上であれば、粗大粒子の進行が抑制されていると推定され、その原料ドープ56を用いて後述する溶液製膜を行って得られるフィルムの光学特性は優れている。また、ドープろ過量比(t2/t1)と粘度比(V1/V2)のいずれもを前記範囲内とすることでフィルム製膜に最も適するドープであると推定することができる。
【0051】
なお、第1測定工程18と第2測定工程20との経時は、2週間に限定されるものではない。貯蔵工程19で原料ドープ56が貯蔵される時間Tに対して1×T以上50×T以下であることが好ましく、2×T以上40×T以下であることがより好ましく、最も好ましくは、5×T以上20×T以下の範囲の中で所望の時間である。
【0052】
本発明で用いられる原料ドープ56の製造方法は、前述した方法に限定されるものではない。例えば、冷却工程13,加熱工程14を行った後に第1ろ過工程15又は第2ろ過工程17のいずれか一方のろ過工程を行った後に第1測定工程18,貯蔵工程19及び第2測定工程を行っても良い。また、貯蔵工程19と流延工程21との間でろ過工程を行うためにろ過装置63をストックタンク50の下流側に取り付けても良い。この場合のろ過装置のろ材などは、ろ過装置47,55のいずれか一方のものと同じものを用いることが好ましい。
【0053】
TACフィルムを得る溶液製膜法での、素材,原料,添加剤の溶解方法,濾過方法,添加方法などについては、特願2003−319673号の[0514]から[0608]に詳細に記載されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0054】
図3にフィルム製膜ライン60を示して、流延工程21及び乾燥延伸工程22について説明する。ストックタンク50にはろ過装置63を介して中間層用ドープ流路64,支持体面用ドープ流路65,エアー面用ドープ流路66が接続されている。なお、中間層,支持体面,エアー面とは、3層からなるフィルムを製膜する場合において、支持体上に直接流延される層を支持体面と称し、その上の層を中間層と称し、さらにその上の層であってその表面が露出している層をエアー面と称する。原料ドープ56は、それぞれの流路64,65,66に設けられているポンプ67,68,69により各流路に送液される。
【0055】
ストックタンク70には、中間層用添加液71が入れられている。中間層用添加液71は、ポンプ72により中間層用ドープ流路64中の原料ドープ56に送液される。その後に静止型混合器(スタティックミキサ)73により攪拌混合されて均一となる、以下、このドープを中間層用ドープと称する。中間層用添加液71には、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤などの添加剤が予め含まれた溶液(または分散液)が含有されている。
【0056】
ストックタンク75には、支持体面用添加液76が入れられている。支持体面用添加液76は、ポンプ77により支持体面用ドープ流路65中の原料ドープ56に送液される。その後に静止型混合器78により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを支持体面用ドープと称する。支持体面用添加液76には、流延バンド92からの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フィルムをロール状に巻き取った際にフィルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)などの添加剤が予め含有されている。なお、支持体面用添加液76には、可塑剤,紫外線吸収剤などの添加剤が含まれていても良い。
【0057】
ストックタンク80には、エアー面用添加液81が入れられている。エアー面用添加液81は、ポンプ82によりエアー面用ドープ流路66中の原料ドープ56に送液される。その後に静止型混合器83により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープをエアー面用ドープと称する。エアー面用添加液81には、マット剤(例えば、二酸化ケイ素など)などの添加剤が予め含有されている。なお、エアー面用添加液81には、剥離促進剤,可塑剤,紫外線吸収剤などの添加剤が含まれていても良い。
【0058】
中間層用ドープ,支持体面用ドープ,エアー面用ドープは、フィードブロック90にそれぞれ所望の流量で送液される。フィードブロック90内で各ドープが合流した後に流延ダイ91から支持体である流延バンド92上に流延される。
【0059】
流延ダイ91の材質は、析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましい。その熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の素材を用いることが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験ではSUS316と略同等の耐腐食性を有するものを用いることが好ましい。さらに、その素材はジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものであることがより好ましい。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ91を作製することが好ましい。これにより、流延ダイ91内を流れるドープの面状が一定に保たれる。流延ダイ91及びフィードブロック90の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。スリットのクリアランスは自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いる。流延ダイ91のリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下のものを用いる。また、流延ダイ91内での剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
【0060】
流延ダイ91の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の0.8倍〜2倍程度のものを用いることが好ましい。また、製膜中は、所定の温度に保持されるように温調機を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ91にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を所定の間隔で設けてヒートボルトによる自動厚み調整機構を取り付けることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)67〜69の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フィルム製膜ライン60中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0061】
リップ先端に硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ91と密着性が良く、ドープと密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al23,TiN,Cr23などが挙げられるが特に好ましくはWCを用いることである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0062】
流延ダイ91のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)を流延ビード端部とスリットとの気液界面に供給することが好ましい。端部の片側それぞれに0.01mL/min〜10mL/minの範囲で供給することが流延膜中に異物が混合することを防止できるために好ましい。なお、この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いることが好ましい。
【0063】
流延ダイ91の下方には、回転ローラ93,94に掛け渡された流延バンド92が設けられている。流延バンド92は、図示しない駆動装置により回転ローラ93,94が回転することに伴い無端で走行する。流延バンド92の移動速度、すなわち流延速度は、10m/分〜200m/分であることが好ましい。また、流延バンド92の表面温度を所定の値にするために回転ローラ93,94に伝熱媒体循環装置95が取り付けられていることが好ましい。流延バンド92の表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。回転ローラ93,94内には伝熱媒体流路が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより回転ローラ93,94の温度を所定の値に保持できる。
【0064】
流延バンド92の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.05倍〜1.5倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは10m〜200m、厚みは、0.5mm〜2.0mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド92の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。
【0065】
回転ローラ93,94が駆動する際に流延バンド92に生じるテンションが1.5×104kg/mとなるように調整することが好ましい。また、流延バンド92と回転ローラ93,94との相対速度差は、0.01m/min以下となるように調整する。流延バンド92の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド92が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を制御するために流延バンド92の両端を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づきフィードバック制御を行うことがより好ましい。さらに、流延ダイ91直下における流延バンド92表面の回転ローラ93の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。
【0066】
なお、回転ローラ93,94を直接支持体として用いることも可能である。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転させることが好ましい。この場合には、回転ローラ93,94の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、クロムメッキ処理などを行い十分な硬度と耐久性を持たせる。なお、支持体(流延バンド92や回転ローラ93,94)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下とすることが好ましい。
【0067】
流延ダイ91、流延バンド92などは流延室96に収められている。流延室96内の温度を所定の値に保つため温調設備97が取り付けられている。流延室96の温度が−10℃〜57℃であることが好ましい。また、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)98が設けられている。凝縮液化した有機溶媒は、回収装置99により回収され再生させた後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0068】
流延ダイ91からドープ(エアー面用ドープ,中間層用ドープ,支持体面用ドープ)を流延ビードを形成させながら流延バンド92上に共流延して流延膜100を形成する。なお、このときのそれぞれドープの温度は、−10℃〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードの形成を安定化させるため減圧チャンバ101が流延ビード背面に取り付けられ、所望の圧力に調整されていることが好ましい。ビード背面は、前面との圧力よりも1Pa〜800Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ101の温度を所定の温度に保つため、ジャケット(図示しない)を取り付けることが好ましい。減圧チャンバ101の温度は特に限定されるものではないが、20℃〜70℃の範囲であることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つため流延ダイ91のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。エッジ吸引風量は、1L/min〜100L/minの範囲であることが好ましい。
【0069】
流延膜100は、流延バンド92の走行とともに移動する。このときに流延膜100中の溶媒を蒸発させるため送風口102,103,104を設けることが好ましい。送風口の取り付け位置は、流延バンド92の上部上流側102,下流側103,流延バンド92下部104に設けられている形態を図示しているがこれに限定されるものではない。また、形成直後の流延膜100に乾燥風が吹き付けられることによる膜面の面状変動を抑制するために遮風装置105が設けられていることが好ましい。なお、図では支持体として流延バンドを用いている例を示しているが、流延ドラムを用いることも可能である。流延ドラムの表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。
【0070】
流延膜100が自己支持性を有するものとなった後に、剥取ローラ106で支持しながらフィルム(以下、湿潤フィルムと称する)107として流延バンド92から剥ぎ取る。その後に多数のローラが設けられている渡り部110を搬送させた後にテンタ120に送り込む。渡り部110では、送風機111から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フィルム107の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部110では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フィルム107にドローを付与させることも可能である。
【0071】
テンタ120に送られる湿潤フィルム107は、その両縁がクリップで把持され搬送されつつ乾燥される。また、テンタ120内を異なった温度ゾーンに区画して乾燥条件を調整することが好ましい。テンタ120を用いて湿潤フィルム107を幅方向に延伸させることも可能である。このように、渡り部110及び/またはテンタ120で湿潤フィルム107の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5%〜300%延伸することが好ましい。
【0072】
テンタ120で所定の残留溶媒量まで乾燥された湿潤フィルム107は、フィルム121として送り出される。フィルム121の両端を耳切装置122により切断する。切断されたフィルムは、図示しないカッターブロワーによりクラッシャー123に送られる。クラッシャー123によりフィルムの縁部は、粉砕されてチップとなる。このチップをドープ調製用に再利用することがコストの点から有利である。なお、このフィルムの両縁を切断する工程は、省略することもできるが、前記流延してからフィルムを巻き取るまでのいずれかで行うことが好ましい。
【0073】
次にフィルム121は、多数のローラ124が備えられている乾燥室125に送られる。乾燥室125内の温度は、特に限定されるものではないが、80℃〜180℃の範囲であることが好ましい。乾燥室125でフィルム121は、ローラ124に巻き掛けられながら搬送され溶媒は揮発して乾燥する。また、乾燥室125には、吸着回収装置126が取り付けられている。揮発溶媒は、吸着回収装置126により吸着回収される。溶媒成分が除去された大気は乾燥室125内に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室125は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置122と乾燥室125との間に予備乾燥室(図示しない)を設け、フィルム121の予備乾燥を行うことがフィルム温度が急激に上昇することによるフィルムの形状変化を抑制できるためにより好ましい。
【0074】
フィルム121は、冷却室127に搬送され、略室温まで冷却される。なお、乾燥室125と冷却室127との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。調湿室でフィルム121の所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付ける。これにより、フィルム121のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制できる。
【0075】
フィルム121が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように強制除電装置(除電バー)128を設けている。図では、冷却室127の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ129を設けて、フィルム121の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0076】
最後に、フィルム121を巻取室130内の巻取ローラ131で巻き取る。この際に、プレスローラ132で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフィルム121は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、幅方向が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、1800mmより大きい場合にも効果がある。フィルムの厚みは、15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも適用できる。
【0077】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、図3に示されているようにフィードブロック90を取り付けた流延ダイ91を用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さ及び/又は支持体側の層の厚さがそれぞれ全体のフィルム厚さ中で0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープを低粘度ドープで包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に内部のドープは、そのドープよりもアルコールの組成比が大きなドープで包み込まれることが好ましい。
【0078】
図3に示したように3種類のドープを共流延することによりフィルム121の目的とする特性を容易に得ることができる。すなわち、フィルム121をロールとして巻き取る際に、フィルム面間での密着を防止する必要がある。そのため、ドープ中にマット剤を添加することが好ましいが、通常マット剤は光学特性の悪化(例えば、ヘイズの増加など)を招く。そこで、本実施形態のようにフィルムの表裏面となる支持体面用ドープとエアー面用ドープとにマット剤を含有させ、中間層用ドープには含有させないことにより、表面密着性を低下させると共に所望の光学特性を得ることが可能となる。
【0079】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特願2003−319673号の[0610]から[0842]に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0080】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特願2003−319673号の[0113]から[0140]に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
【0081】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0082】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0083】
さらに前記セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0084】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特願2003−319673号の[0843]から[1079]に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0085】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを貼り合わせた偏光板を、通常は2枚を液晶層に貼り合わせ液晶表示装置を作製する。但し、この配置はどの位置でも良い。特願2003−319673号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用できる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用できる。特願2003−319673号の[1080]から[1252]に詳細が記載されている。
【実施例1】
【0086】
以下に実施例1を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。使用した原料の質量部を下記に示す。
[組成]
セルローストリアセテート(置換度2.80、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 14.5質量部
酢酸メチル 67.69質量部
アセトン 6.69質量部
エタノール 5.85質量部
n−ブタノール 3.34質量部
可塑剤A:(トリメチロールプロパントリアセテート) 0.29質量部
可塑剤B:(トリフェニルフォスフェート) 0.91質量部
可塑剤C:(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 0.54質量部
可塑剤D:(エチルフタリルグリコールエチルエステル) 0.091質量部
UV剤a:(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン) 0.05質量部
UV剤b:(2(2' −ヒドロキシ−3' ,5' −ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール) 0.05質量部
UV剤c:(2(2' −ヒドロキシ−3' ,5' −ジ−tert−アミルフェニル)−ベンゾトリアゾール) 0.1質量部
【0087】
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が58ppm、Mg含有量が42ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンが15ppm含むものであった。また6位アセチル基の置換度は0.91であり全アセチル中の32.5%であった。また、アセトン抽出分は8質量%、重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、イエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。このセルローストリアセテートAは、綿から採取したセルロースを原料としてセルローストリアセテートを合成した。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0088】
また、主溶媒である酢酸メチルは、溶解性パラメーターは19.6、誘電率6.68、酸素分率0.43、双極子モーメント1.61Dであり、分子量は74、沸点は57℃、I/O値は2.13であり、本発明の好ましい溶媒の範囲の溶媒である。さらに併用されるアセトンは、溶解性パラメーターは20.3、誘電率20.7、酸素分率0.28、双極子モーメント2.69Dであり、分子量は58、沸点は56℃、I/O値は1.08であり、本発明の好ましい溶媒の範囲である。
【0089】
図2に示すドープ製造ライン30を用いた。攪拌翼39,41を有する4000Lのステンレス性溶解タンク33に、前記複数の溶媒を混合して混合溶媒としてよく攪拌・分散しつつ、セルローストリアセテート粉体(フレーク)をホッパ34から徐々に添加し、全体が2000kgになるように調製した。なお、溶媒である酢酸メチル,n−ブタノール,アセトン,エタノールは、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。まず、セルローストリアセテートの粉末は、分散タンクに紛体を投入した。攪拌剪断速度を最初は15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2)の周速で攪拌するディゾルバータイプの攪拌翼41および、中心軸にアンカー翼39を有し、その周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2)で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼39の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、セルローストリアセテートフレークを膨潤させて膨潤液42を得た。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際の溶解タンク13内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.3質量%であった。
【0090】
膨潤液42を溶解タンク33からギアポンプ43で冷却装置(スクリュー押出機)44に送液した。このときのスクリュー1次圧は0.55MPaであった。スクリューは、冷媒を流通させるジャケットつきで、冷媒は3M社製フロリナートFC−77(登録商標)を用いて−80℃で送液した。冷媒は直膨式冷凍機によって冷却した。ジャケット内平均流速は2m/secとし、スクリュー内部での溶液平均滞留時間は35秒であった。そして、添加液をドープに対して3重量%添加した。添加液は、n−ブタノール:混合溶媒(酢酸メチル:アセトン:エタノール:1−ブタノール=81:8:7:4(質量比))57=50:50(重量比)に調整したものを用いた。添加液をドープに添加した後に、30分間静止型混合器45内に滞留させて、調製した。そして、得られたドープ(以下、このドープを濃縮前ドープと称する)の水素イオン指数(pH)が5となるように調整した。添加液を添加し、滞留させた後の濃縮前ドープには微小ゲルの発生は全く見られなかった。その後に濃縮前ドープを静止型混合器を挿入したジャケット付き配管46により50℃まで加熱し、公称孔径10μmの燒結金属繊維フィルタを有するろ過装置47を通過させドープを得た。この際、濾過1次圧は1.5MPa、2次圧は1.2MPaとした。
【0091】
濃縮前ドープを120℃で常圧に調整されているフラッシュ装置51内でフラッシュさせて、蒸発した溶剤を凝縮器で液化して回収装置52で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、21.8質量%となった。なお、回収された溶媒は再生装置53で再利用のために調整された。フラッシュ装置51のフラッシュタンクは、中心軸にアンカー翼を有しており、周速0.5m/secで攪拌して脱泡を行った。フラッシュタンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採集して25℃で測定した剪断粘度は剪断速度10(sec-1)で450(Pa・s)であった。
【0092】
つぎに、このドープに弱い超音波照射することで泡抜きを実施した。その後にポンプ54を用いてろ過装置55に送液した。ろ過装置55では、最初公称孔径10μの焼結金属フィルタを通過させ、ついで同じく10μの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次圧は0.4MPa,0.4MPaであり、2次圧は0.1MPa,0.1MPaであった。ろ過後のドープの温度を25℃に調整して2000Lのステンレス製のストックタンク50内に貯蔵した。以下、このドープを原料ドープ56と称する。ストックタンク50は、中心軸にアンカー翼62を有して周速0.3m/secで常時、原料ドープを攪拌した。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0093】
図3に示すフィルム製膜ライン60を用いてフィルム製膜を行った。ストックタンク50内の原料ドープ56をろ過装置(ろ材;ステンレス製焼結金属フィルタ(公称孔径10μm))63を介して1次増圧用のギアポンプ67,68,69で高精度ギアポンプの1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモータによりフィードバック制御を行い送液した。高精度ギアポンプは容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.5MPaであった。
【0094】
流延ダイ91は、幅が1.8mであり共流延用に調整したフィードブロック90を装備して、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフィルムを成形できるようにした装置を用いた。以下の説明において、主流から形成される層を中間層と称し、支持体面側の層を支持体面と称し、反対側の面をエアー面と称する。なお、ドープの送液流路は、中間層用ドープ流路64,支持体面用ドープ流路65,エアー面用ドープ流路66の3流路を用いた。
【0095】
レターデーション制御剤であるトリメチロールプロパントリアセテート(15質量部)と混合溶媒(85質量部)とから作成した中間層用添加液71をストックタンク70に入れた。中間層用添加液71をポンプ72により中間層用ドープ流路64中の原料ドープ56に送液した。そして静止型混合器(エレメント数48個)73を介して混合させて、中間層用ドープとした。全固形分濃度が21.8質量%,レターデーション制御剤がフィルム形態で4.0質量%となるように混合量の調整を行った。
【0096】
マット剤である二酸化ケイ素(粒径20nm モース硬度 約7)と剥離促進剤であるクエン酸エチルエステル(クエン酸:エチルアルコール=1:1(モル比)の混合物)と混合溶媒57に溶解または分散させて支持体面用添加液76とした。支持体面用添加液76をストックタンク75に入れて、ポンプ77を用いて所望の流量で支持体面用ドープ流路65中に流れている原料ドープ56に送液した。そして、静止型混合器(エレメント数48個)78で混合させて、支持体面用ドープを作製した。添加量は、添加量は、全固形分濃度が20.5質量%,マット剤濃度が0.05質量%,剥離促進剤濃度が0.03質量%となるように行った。
【0097】
マット剤である二酸化ケイ素(粒径15nm モース硬度 約7)を混合溶媒57に分散させてエアー面用添加液81を調製しストックタンク80に入れた。エアー面用添加液81をポンプ82によりエアー面用ドープ流路66中の原料ドープ56に送液した。そして、静止型混合器(エレメント数48個)83を介して混合させて、エアー面用ドープを作製した。添加量は、全固形分濃度が20.5質量%,マット剤濃度が0.1質量%となるように行った。
【0098】
そして、目的とするTACフィルムの膜厚(エアー面,中間層,支持体面)がそれぞれ4μm, 73μm, 3μmであり、製品厚みが80μmとなるように、流延速度(ライン速度)を50m/minとし、流延幅を1700mmとしてそれぞれのダイ突出口のセルローストリアセテートドープの流量を調整して流延を行った。各ドープの温度を25℃に調整するため、流延ダイ91にジャケットを設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を25℃とした。
【0099】
流延ダイ91、フィードブロック90、配管は製膜時にはすべて25℃に保温した。ダイ91はコートハンガータイプのものを用い、厚み調整ボルト(ヒートボルト)が20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。ヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フィルム製膜ライン60に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフィルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は両外層が±2%以下、主流が±1%以下に制御され、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0100】
流延ダイ91の1次側には減圧するための減圧チャンバ101を設置した。減圧チャンバ101の減圧度は、流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差を印加できるようになっていて、流延スピードに応じて調整が可能なものである。その際に、ビードの長さが6mm±0.5mmとなるように圧力差を設定した。また、減圧チャンバ101の温度は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高く設定できる機構を具備したものであった。ビード前後、後部にラビリンスパッキン(図示しない)を設けた。また、両端には開口部を設けた。そこから、流延ビードの両縁の乱れを調整するためにエッジ吸引装置(図示しない)が取り付けられているものを用いた。
【0101】
流延ダイ91の材質は析出硬化型のステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。また、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する素材を使用した。さらに、鋳造後1ヶ月以上経時したものを研削加工することとし、セルローストリアセテート溶液の面状の一定化に保った。流延ダイ91及びフィードブロック90の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは自動調整により1.5mmに調整した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲であった。また、流延ダイ91のリップ先端には、溶射法によりWCコーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0102】
さらに流延ダイ91のスリット端には流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープを可溶化する前記混合溶媒57を流延ビード端部とスリット気液界面に片側で0.5ml/minで供給した。この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いた。また、減圧チャンバ101によりビード背面の圧力を150Pa低くした。減圧チャンバ101の温度を一定にするために、ジャケット(図示しない)を取り付けた。そのジャケット内に55℃に調整された伝熱媒体を供給した。エッジ吸引風量は、1L/min〜100L/minの範囲で調整可能なものを用い、本実施例では30L/min〜40L/minの範囲で適宜調整した。
【0103】
支持体として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを流延バンド92として用いた。流延バンド92の厚みは1.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下になるように研磨した。材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものとした。流延バンド92の全体の厚みムラは0.5%以下であった。流延バンド92は2個の回転ローラ93,94により駆動させた。その際の流延バンド92のテンションは1.5×104kg/mに調整し、流延バンド92と回転ローラ93,94との相対速度差が0.01m/min以下となるように調整した。また、流延バンド92の速度変動は0.5%以下であった。また1回転の幅方向の蛇行は1.5mm以下に制限するように流延バンド92の両端位置を検出して制御した。また、流延ダイ91直下におけるダイリップ先端と流延バンド92との上下方向の位置変動は200μm以下とした。流延バンド92は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室96内に設置した。この流延バンド92上に流延ダイ91から3層のドープ(エアー面,中間層,支持体面)を共流延した。
【0104】
回転ローラ93,94は、流延バンド92の温度調整を行えるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ91側の回転ローラ93には15℃の伝熱媒体(ナイブライン水溶液)を流し、他方の回転ローラ94には40℃の伝熱媒体(ナイブライン水溶液)を流した。流延直前の流延バンド92中央部の表面温度は15℃であり、両端の温度差は6℃以下であった。流延部のドラムは支持体を冷却するように内部に伝熱媒体(冷媒)を循環させる設備を有しているものを用いた。また、他方のドラムが乾燥のための熱を供給するために伝熱媒体が通水できるものである。それぞれの伝熱媒体の温度は5℃(流延ダイ側)と40℃とした。流延直前の支持体中央部の表面温度は15℃であった。両端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド92は、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm未満のピンホールは2個/m2以下である表面欠陥がないものを用いた。
【0105】
流延室96の温度は、温調設備97を用いて35℃に保った。流延バンド92上に流延されたドープから形成された流延膜100は、最初に平行流の乾燥風により乾燥した。乾燥する際の乾燥風から流延膜100への総括伝熱係数は24kcal/m2・hr・℃であった。乾燥風の温度は流延バンド92上部の上流側を135℃とし、下流側を140℃とした。また、流延バンド92下部は、65℃となるように送風口102〜104から送風した。それぞれの乾燥風の飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。流延バンド92上の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室96内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)98を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
【0106】
流延後5秒間は遮風装置105により乾燥風が直接ドープ及び流延膜100に当たらないようにして流延ダイ91直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜100中の溶媒比率が乾量基準で150質量%になった時点で流延バンド92から剥取ローラ106で支持しながら湿潤フィルム107として剥ぎ取った。このときの剥取テンションは10kgf/mであり、剥取不良を抑制するために流延バンド92の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜105%の範囲で適切に調整した。湿潤フィルム107の表面温度は15℃であった。流延バンド92上での乾燥速度は平均180質量%乾量基準溶媒/minであった。乾燥して発生した溶媒ガスは−10℃の凝縮器98で凝縮液化して回収装置99で回収した。回収された溶媒は調整がなされた後に、ドープ調製用溶媒として再利用した。その際に、溶媒に含まれる水分量を0.5%以下に調整した。溶媒が除去されたガスは、再度加熱して乾燥風として再利用した。湿潤フィルム107を渡り部110の3本のローラを用いて搬送し、テンタ120に送った。このときに送風機111から40℃の乾燥風を湿潤フィルム107に送風した。なお、渡り部110のローラで搬送している際に、湿潤フィルム107に約30Nのテンションを付与した。
【0107】
テンタ120に送られた湿潤フィルム107は、クリップでその両端を固定されて乾燥ゾーン内を搬送されて乾燥が進行した。クリップには、20℃の伝熱媒体を供給して冷却した。テンタの駆動はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンタ120内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃, 100℃, 110℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃の飽和ガス濃度とした。テンタ120内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶媒)/minであった。テンタ120の出口ではフィルム内の残留溶媒の量は7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。また、テンタ120内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。テンタ120に搬送された際の湿潤フィルム107の幅を100%としたとき拡幅量を103%とした。剥取ローラ106からテンタ120入口に至る延伸率(テンタ駆動ドロー)は、102%とした。テンタ120内の延伸率は、テンタ噛み込み部から10mm以上離れた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点の延伸率の差異は5%以下であった。ベース端のうちテンタで固定している長さの比率は90%とした。テンタ120内で蒸発した溶媒は、−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(図示しない)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。溶媒に含まれる水分量を0.5質量%以下に調整して再使用した。そして、テンタ120からフィルム121として送り出した。
【0108】
そして、テンタ120の出口から30秒以内にフィルム121の両端の耳切を耳切装置122で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワー(図示しない)によりクラッシャー123に風送して平均80mm2程度のチップに粉砕した。チップは、ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際に原料として利用するために耳サイロに収納した。耳サイロ内には、溶媒濃度計が設けられており、常に耳サイロ内の溶媒濃度をモニタリングしている。耳サイロ内の溶媒濃度が爆発下限値(LEL)である25体積%を超えると爆発する場合がある。しかしながら、本製膜においては、常に25体積%未満であり爆発の可能性は全く無かった。このチップが前述したチップTACである。テンタ120の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室125で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフィルム121を予備加熱した。
【0109】
フィルム121を乾燥室125で高温乾燥した。乾燥室125を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フィルム121のローラ124による搬送テンションは100N/巾として、最終的に残留溶剤量が0.3質量%になるまでの約10分間乾燥した。前記ローラ124のラップ角度は、90度および180度とした。前記ローラ124の材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ124の表面形状は、フラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ124の回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラー撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0110】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置126を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量0.3質量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスのほか、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点化合物が含まれるので冷却除去する冷却機及びプレアドソーバーでこれらを除去して再生循環使用した。搬送中のフィルム帯電圧は、常時−3kV〜3kVの範囲となるように工程中に強制除電装置(除電バー)を設置した。
【0111】
乾燥風に含まれる溶剤ガスは吸着剤を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶剤は水分量0.3質量%以下に調整して仕込み溶剤として再利用した。乾燥風には溶剤ガスの他、可塑剤、UV吸収剤、その他の高沸点物がふくまれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再製循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0112】
乾燥されたフィルム121を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室125と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃,露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルム121のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフィルム121を搬送した。第2調湿室では、フィルム121に直接90℃, 湿度70%の空気をあてた。
【0113】
調湿後のフィルム121は、冷却室127で30℃以下に冷却して両端耳切りを行った。搬送中のフィルム帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)128を設置した。さらにフィルム121の両端にナーリング付与ローラ129でナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
【0114】
そして、フィルム121を巻取室130に搬送した。巻取室130は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。さらに、フィルム帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。このようにして得られたフィルム(厚さ80μm)121の製品幅は、1475mmとなった。巻取ローラ131の径は169mmのものを用いた。巻き始めテンションは360N/巾であり、巻き終わりが250N/巾になるようなテンションパターンとした。巻き取り全長は3940mであった。巻き取りの際のオシレート周期を400mとし、オシレート幅を±5mmとした。また、巻取ローラ131にプレスローラ132を押し圧50N/巾に設定した。巻き取り時のフィルムの温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶剤量は0.3質量%であった。全工程を通しても平均乾燥速度は20質量%(乾量基準溶媒)/minであった。また巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、ロール外観も良好であった。
【0115】
フィルム121のフィルムロールを25℃、55%RHの貯蔵ラックに1ヶ月間保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。さらにロール内においても接着も認められなかった。また、フィルム121を製膜した後に、流延バンド92上にはドープから形成された流延膜100の剥げ残りは全く見られなかった。
【0116】
(1−11)評価と結果
実施例で得られた試料の評価方法について下記に示す。
【0117】
(1)溶液の安定性
(1−3)で得られたろ過,濃縮後のドープを採取し、30℃で静置保存したまま観察し以下のA、B、C、Dの4段階に評価した。
A:20日間経時でも透明性と液均一性を示す。
B:10日間経時まで透明性と液均一性を保持しているが、20日で少し白濁が見られる。
C:液作製終了時では透明性と均一な液であるが、一日経時するとゲル化し不均一な液となる。
D:液は膨潤・溶解が見られず不透明性で不均一な溶液状態である。
【0118】
(2)フィルム面状
フィルムを目視で観察し、その面状を以下の如く評価した。
A:フィルム表面は平滑である。
B:フィルム表面は平滑であるが、少し異物が見られる。
C:フィルム表面に弱い凹凸が見られ、異物の存在がはっきり観察される。
D:フィルムに凹凸が見られ、異物が多数見られる。
【0119】
(3)フィルムの耐湿熱性
試料1gを折り畳んで15ml容量のガラス瓶に入れ、温度90℃、相対湿度100%条件下で調湿した後、密閉した。これを90℃で経時して10日後に取り出した。フィルムの状態を目視で確認し、以下の判定をした。
A:特に異常が認められない
B:かすかな分解臭が認められる
C:かなりな分解臭が認められる
D:分解臭と分解による形状の変化が認められる
【0120】
(4)フィルムの透湿係数
フィルムの透湿係数は、フィルムを60℃,95%RHで1日(24時間)曝した後に測定を行った。そして、以下の判定を行った。
透湿度◎:1250(g/m2・day)未満
透湿度○:1250(g/m2・day)以上2000(g/m2・day)未満
透湿度△:2000(g/m2・day)以上2750(g/m2・day)未満
透湿度×:2750(g/m2・day)以上
【0121】
得られたフィルム121は、溶液の安定性はAであり、フィルム面状もA、フィルム引裂試験では16gであり、フィルムの耐折試験は71回であり、耐湿熱性はAであり、すべて優れたものであった。また、残存酢酸量は、0.01質量%未満であり、Caを0.05質量%未満、Mgを0.01質量%未満含有し、フィルム121の厚さは、全領域に渡り80μm±1.5μmであった。この時、長さ方向のトップ、中間部とラストのそれぞれについて、さらにその幅方向の両端部と中央部の評価を実施し、そのデータは誤差が0.2%以下であることを確認した。また、フィルムの縦横平均熱収縮(実験条件;90℃, 24時間)は、−0.085%であり、熱収縮が生じ難いフィルムが得られた。また、テンタ出口での残留溶媒量は7質量%であり、そのときの耳サイロLELは25%未満と良好であった。
【0122】
またフィルム121は、ヘイズが0.3%、透明度(透明性)が92.4%、傾斜幅は19.6nm、限界波長は392.7nm、吸収端は374.1nm、380nmの吸収は2.0%であり、Reは1.2nm、Rthは48nmであり、分子配向軸は1.4°、弾性率は長手方向が3.54GPa,幅方向が3.45GPa、抗張力は長手方向が142MPa,幅方向が141MPa、伸長率は長手方向が43%,幅方向が49%であり、キシミ値(静止摩擦係数)は0.65、キシミ値(動摩擦係数)は0.51、アルカリ加水分解性はAであり、カール値は25%RHで−0.4,ウェットでは1.7であった。また、含水率は1.4質量%であり、残留溶媒量は0.3質量%であり、透湿係数は1540g/(m2・day)、熱収縮率は長手方向が−0.09%であり、幅方向が−0.08%であった。異物はリントが5個/m未満であった。また、輝点は、0.02mm〜0.05mmが10個/3m未満, 0.05〜0.1mmが5個/3m未満, 0.1mm以上はなかった。これらは、光学用途に対しては優れた特性を有するものであった。また、塗布後の接着も見られず(○)、透湿度も良好(○)であった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のドープの評価方法は、濃厚溶液の経時変化による物性の変化を推定する方法に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明に係る溶液製膜方法の工程図である。
【図2】本発明に係る溶液製膜方法を実施するためのドープ製造ラインの概略図である。
【図3】本発明に係る溶液製膜方法を実施するためのフィルム製膜ラインの概略図である。
【符号の説明】
【0125】
30 ドープ製造ライン
42 膨潤液
56 原料ドープ
60 フィルム製膜ライン
121 フィルム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを用いて溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、
絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記ドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積
をt1(m3)とし、
前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3 )とした場合に、
t2/t1が0.5以上であることを特徴とするドープの評価方法。
【請求項2】
ポリマーと溶媒とを含むドープを少なくとも2回ろ過した後に溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、
前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、
絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記ろ過した後のドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt1(m3)とし、
前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3)とした場合に、
t2/t1が0.5以上であることを特徴とするドープの評価方法。
【請求項3】
前記第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記第2ドープの2週間経時後の粘度をV2(Pa・s)とした場合に、
粘度比(V1/V2)が0.8以上であることを特徴とする請求項1または2記載のドープの評価方法。
【請求項4】
ポリマーと溶媒とを含むドープを用いて溶液製膜方法を行う際に、前記ドープが前記溶液製膜法に適するものであることを評価するドープの評価方法において、
前記ドープの一部である第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、
前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後の前記第2ドープの粘度をV2(Pa・s)とした場合に、
粘度比(V1/V2)が0.8以上であることを特徴とするドープの評価方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、セルロースアシレートであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載のドープの評価方法。
【請求項6】
前記溶媒に酢酸メチルを含むことを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つ記載のドープの評価方法。
【請求項7】
ポリマーと溶媒とを含むドープを用いる溶液製膜方法において、
絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記ドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt1(m3)とし、
前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3)とした場合に、
t2/t1が0.5以上であるドープを流延してフィルムを製膜することを特徴とする
溶液製膜方法。
【請求項8】
ポリマーと溶媒とを含むドープを用い、少なくとも2回のろ過を行った後に支持体上に前記ドープを流延し、フィルムを製膜する溶液製膜方法において、
前記ドープのろ過を少なくとも1回行った後に、
絶対阻止孔径が5μm以上50μm以下のろ材により初期圧力を0.1MPaになるように流量を決めて前記ろ過した後のドープの一部である第1ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまでに前記ろ材を通過した前記第1ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt1(m3)とし、
前記ドープの他の一部である第2ドープを2週間経時させた後に、前記第1ドープのろ過に用いたろ材と同じ絶対阻止孔径のろ材により、初期圧力が0.1MPaになるように流量を決めて前記第2ドープのろ過を行い、ろ過圧力が1MPaに上昇するまで前記ろ材を通過した前記第2ドープの前記ろ材単位面積あたりの容積をt2(m3)とした場合に、
t2/t1が0.5以上のドープを流延することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項9】
前記第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、前記第2ドープの2週間経時後の粘度をV2(Pa・s)とした場合に、
粘度比(V1/V2)が0.8以上のドープを流延することを特徴とする請求項7または8記載の溶液製膜方法。
【請求項10】
ポリマーと溶媒とを含むドープを用いる溶液製膜方法において、
前記ドープの一部である第1ドープの粘度をV1(Pa・s)とし、
前記ドープの他の一部である第2ドープのろ過を行い、2週間経時させた後の前記第2ドープの粘度をV2(Pa・s)とした場合に、
粘度比(V1/V2)が0.8以上であるドープを流延することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項11】
少なくとも2回のドープろ過工程を行う場合であって、
絶対阻止孔径P1(μm)のろ紙又は不織布をろ材とするろ過する工程と、
絶対阻止孔径P2(μm)の金属製ろ材でろ過する工程とを含み、
P1≦0.7×P2の関係を有することを特徴とする請求項7ないし10いずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項12】
少なくとも2回のドープろ過工程を行う場合であって、
前記ドープを濃縮する工程を含み、
前記ドープ濃縮工程の前と後にそれぞれ少なくとも1回のドープのろ過工程を行うことを特徴とする請求項7ないし11いずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項13】
少なくとも2回のドープろ過工程を行う場合であって、
少なくとも1回のドープろ過工程を行う際に、ろ材とろ過助剤とを用いることを特徴とする請求項7ないし12いずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項14】
前記ポリマーがセルロースアシレートであることを特徴とする請求項7ないし13いずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項15】
前記溶媒に酢酸メチルを含むことを特徴とする請求項7ないし14いずれか1つ記載の溶液製膜方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−241208(P2006−241208A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55344(P2005−55344)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】