説明

ナトリウム硫黄電池

【課題】電流密度が大で信頼性の高いナトリウム硫黄電池を提供する。
【解決手段】負極活物質にナトリウムを、正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池において、正極と負極を分ける隔壁8の一部に伸縮自在な蛇腹機構を設け、該蛇腹機構の伸縮で正極室と負極室の容積を変化させ、正極室と負極室の圧力を平衡化する。また、蛇腹機構の表面を絶縁材14で覆うことや、蛇腹機構に絶縁性の素材を採用することで、ナトリウム硫黄電池の正極と負極の短絡を防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ナトリウム硫黄電池。
【背景技術】
【0002】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池は、正極と負極の隔壁にナトリウムイオンに透過性があるベータアルミナ固体電解質が用いられ、負極のナトリウムが固体電解質を透過して正極に移動し硫黄と結合して硫化ナトリウムになることで放電し、正極の硫化ナトリウムからナトリウムが分離して固体電解質を透過して負極にナトリウムが移動して充電される。
ナトリウム硫黄電池は最高温度が350℃前後で運用される。
ナトリウム硫黄電池の電流密度を上げるには電解質の薄膜化が要請される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−178991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ナトリウム硫黄電池を350℃で運用すると、硫黄の蒸気圧は約20KPaに達し、負極室のナトリウムの350℃での蒸気圧は10Pa程度であり、固体電解質を薄膜化したときに正極と負極の圧力差が大きすぎて活物質の封止に失敗し、ナトリウム硫黄電池の長期信頼性の維持が困難である。
ナトリウム硫黄電池の正極と負極の間には電位差があり、隔壁には絶縁性が要請される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ナトリウム硫黄電池の正極室と負極室を分ける隔壁の一部に蛇腹機構を設ける。
隔壁の蛇腹機構を薄い金属やカーボングラファイトで作成し、隔壁の蛇腹機構の表面を絶縁材で覆う。もしくは絶縁性の材料で隔壁の蛇腹機構を作成する。
【発明の効果】
【0006】
ナトリウム硫黄電池の隔壁の一部に蛇腹機構を設けることで、正極室と負極室の圧力差は少なくなり、ナトリウム硫黄電池の隔壁の一部である固体電解質やその他隔壁部材には大きな圧力は掛からなくなり、薄膜の固体電解質を採用しても正極活物質の負極室への流入を防げるので、薄膜の固体電解質を採用したナトリウム硫黄電池の信頼性が高まる。
該蛇腹機構の表面を絶縁材で覆うことや、該蛇腹機構に絶縁性の素材を採用することで、ナトリウム硫黄電池の正極と負極の短絡が防げる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】電池の断面図。 (実施例1)
【図2】鍍金蛇腹機構。 (実施例2)
【図3】溶接蛇腹機構。 (実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0008】
当発明の電池の構造や構成や有効性を実施例とともに説明する。
【実施例1】
【0009】
図1はナトリウム硫黄電池の断面図である。
負極板1は底のある容器で、負極板1の開口部は正極板2と集電板3が蓋となり封止材12で電気的に絶縁し内部を密閉する。正極板2には筒状の集電板3が接続され、集電板3の反対側の開口部は隔壁8で塞いでいる、集電板3には外周に刻んだ流路4と内側に刻んだ流通口21があり正極活物質の流通路になる。
負極板1の底には凹部があり、正極板2の凸部と咬合する、咬合部により電池9を直列に接続できる。
集電板3の外周には対流層6電解質5緩衝材7の順に積層する。電池9の内部は封止材12と電解質5と隔壁8により正極室10と負極室11に分離される。
【0010】
電池9の組立て前に、セラミックス等の絶縁性の封止材12には予め集電板3と枠13を溶着しておき、電池9の組立て時に負極板1と枠13を溶接して、電池9内部を封止する。
隔壁8は伸縮自在な蛇腹機構とし、表面にガラスやセラミックス等を被せて絶縁を確保する。隔壁8の蛇腹機構の折返し端には複数のスライダ15を取り付け、スライダ15が集電板3に触れて滑り、蛇腹機構の折返し端が集電板3と触れて磨耗しないよう保護する。
【0011】
電池9の完充電時には、負極室11には最大容積のナトリウム23が収容され、正極室10は硫黄24のみが収容され、空間26は無くなるか僅かしか残らない、
電池9の完放電時には、負極室11は最小容積になり、正極室10の硫黄24は硫化ナトリウム25に変化し、負極のナトリウムの減少容積より正極の硫化ナトリウムの増加量が不足して、空間26が最大容積になる。
電池9の温度と硫黄24と硫化ナトリウム25の蒸気圧と空間26の封止ガス圧により正極室10の圧力は決まり、隔壁8の蛇腹機構が伸縮して負極室11に正極室10の圧力が伝わり、ナトリウム23の蒸気圧は低いために負極室11の蒸気は押しつぶされる。
【0012】
電解質5には隔壁8の蛇腹機構により、蛇腹機構の伸縮に必要な僅かな圧力差しか掛からなくなり、電池9の隔壁を構成する封止材12と電解質5と隔壁8の周囲の封止にはガラス等が採用でき、簡略な封止機構で正極活物質が負極室11に流れないよう封止できる。
隔壁8の蛇腹機構で、充放電に伴う正極活物質と負極活物質の増減をある程度相殺でき、蛇腹機構無しの電池より容積当りの電池容量を増やすことができる。
負極板1の底の凹部の深さを、隔壁8の蛇腹機構が縮んだ時の長さに合わせておくと、完放電時の負極室11の残留ナトリウム量を最小に抑える事ができる。
電池9の負極板1を円筒形にすると、電池9内の圧力変化に伴う、電池9の容器の変形を最小に抑える事ができる。
【実施例2】
【0013】
図2は鍍金で作成した隔壁8の蛇腹機構の部分断面図である。
隔壁8の鍍金型に鍍金で隔壁8を作成し、鍍金型を取り除き、隔壁8の表面に絶縁材14を施して絶縁性を確保している。
鍍金で作る隔壁8は緻密にでき信頼性の高い隔壁8が得られる。図2では蛇腹の折返し位置を変化させ、隣接する折返しが重ならないようにして、蛇腹機構の縮み長さを減らしている。
図2では正極室10側に絶縁材14を施しているが、隔壁8にクロム鉄合金を鍍金して耐食性を確保し、負極室11側に絶縁材14を施すこともできる。
クロム鉄合金を鍍金する代わりに、隔壁8にプラスチック等を薄く被覆し、プラスチック等を高温でカーボングラファイトに変換して耐食性を確保することもできる。
【0014】
隔壁8の製造は、金属の元型を作り、金属の元型をゴム型に転写し、ゴム型にパラフィン等の溶材を流し込んで鍍金型とし、固まった鍍金型をゴム型から外し、鍍金型に無電解鍍金し、無電解鍍金後に電解鍍金で必要な厚さの鍍金を施し、鍍金型を溶かし、表面に絶縁材14を施して隔壁8を得ることもできる。ゴム型と溶材は再利用できる。
隔壁8の原材料にタールやプラスチック等を採用し、射出加工等で隔壁8に成型し、成型品をハロゲンのガスやイオンで脱水素化し、脱水素化した成型品を高温でカーボングラファイトに変換し、表面に絶縁材14を施して、隔壁8を得ることもできる。
【実施例3】
【0015】
図3は溶接して作成した隔壁8の蛇腹機構の部分断面図である。
中空の皿型の蛇腹材を交互に向き合わせ、内外の両端面を溶接して蛇腹機構にする。溶接後に絶縁材14を施して隔壁8の絶縁性を確保している。
蛇腹材はプレスで作成でき、多数の蛇腹材を高速に溶接できれば大量生産が可能である。溶接部分の総延長は長いため、信頼性を確保するには精確で均一な溶接が欠かせない。
図3では正極室10側に絶縁材14を施しているが、材料にクロム鉄合金やカーボングラファイトを採用して耐食性を確保し、負極室11側に絶縁材14を施すこともできる。ただし、カーボングラファイトは溶接できないのでガラス等で接着する。
図3の皿型の蛇腹材にガラスやセラミックス等を採用し、材料の絶縁性で絶縁材14を不要とし、材料の硫黄や硫化ナトリウムへの高い耐食性を利用する事もできる。セラミックス等は溶接できないのでガラス等で接着する。
【産業上の利用可能性】
【0016】
当発明により、固体電解質に薄膜を採用したナトリウム硫黄電池において、長期間に渡る高い信頼性が得られ、自動車等の高い電流密度が要請される電力源にナトリウム硫黄電池が利用可能になる。
【符号の説明】
【0017】
1 負極板、2 正極板、3 集電板、4 流路、5 電解質、6 対流層
7 緩衝材、8 隔壁、9 電池、10 正極室、11 負極室
12 封止材、13 枠、14 絶縁材、15 スライダ、21 流通口
23 ナトリウム、24 硫黄、25 硫化ナトリウム、26 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質にナトリウムを正極活物質に硫黄と硫化ナトリウムを用いるナトリウム硫黄電池において、正極と負極を分ける隔壁の一部に伸縮自在な蛇腹機構を設け、蛇腹機構の伸縮で正極室と負極室の容積を変化させ、正極室と負極室の圧力を平衡化する事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項2】
請求項1の蛇腹機構の片面又は両面に、絶縁を施す事を特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項3】
請求項1の蛇腹機構の表面もしくは素材に、硫黄や硫化ナトリウムに耐食性の高い材料を使用することを特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項4】
請求項3の蛇腹機構の表面もしくは素材に、クロム鉄合金又はカーボングラファイトを使用することを特徴とするナトリウム硫黄電池。
【請求項5】
請求項1の蛇腹機構等の製造に、タールやプラスチック等を射出成型等で成型し、ハロゲンのガス又はイオンで成型品の表面又は一部又は全部を脱水素化し、脱水素化した成型品を高温でカーボングラファイトに変換して、成型品を得る事を特徴とするカーボングラファイトの製造法。
【請求項6】
請求項1の蛇腹機構の素材に、絶縁性の高い材料を使用することを特徴とするナトリウム硫黄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−15034(P2012−15034A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152560(P2010−152560)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(391049781)
【Fターム(参考)】