説明

ナノコンタクトインプリンティングによる絹フィブロインフォトニック構造の作製

電子ビームリソグラフィを用いて基板上にカスタマイズしたナノパターンマスクを形成する工程、バイオポリマーマトリックス溶液を供給する工程、基板上にバイオポリマーマトリックス溶液を堆積させる工程、およびバイオポリマーマトリックス溶液を乾燥させて、固化したバイオポリマー膜を形成する工程を含む、ナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。膜の表面がナノパターンマスクで形成されるか、または、バイオポリマー膜が電子ビームリソグラフィナノパターンに対応するスペクトルシグネチャを呈するような電子ビームリソグラフィを用いて、ナノパターンが膜の表面上に直接機械加工される。得られる生体適合性のナノパターン化バイオフォトニック構造は、絹で作製されてもよく、生分解性であってもよく、かつバイオセンシングデバイスであってもよい。バイオフォトニック構造は、非周期フォトニック格子に基づくナノパターン化マスクを採用してもよく、かつバイオフォトニック構造は、タンパク光の形で光学活性を示すことを含む、生体物質をプローブする際に使用するための特定のスペクトルシグネチャでデザインされてもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「Method for Fabrication of Silk Photonic Crystals by Noncontact Imprinting」という名称の2007年11月5日に出願された米国仮特許出願第60/985,310号の優先権の恩典を主張し、同出願は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府の補助金
本発明は、空軍科学研究所助成金番号第FA95500410363号および米国陸軍研究所契約番号第W911 NF-07-1-0618号の助成金を受けて米国政府の研究補助金を利用してなされたものである。米国政府は、本発明の一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、膜および結晶などのバイオポリマーフォトニック構造、ならびにナノコンタクトインプリンティング(ナノインプリンティング)を用いて、このようなフォトニック結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
光学分野は十分に確立されている。光学の下位分野には、回折光学、マイクロ光学、フォトニックス、および導波光学などが含まれる。研究および商業的な応用目的で、上記および他の光学下位分野において、様々な光学デバイスが作製されてきた。例えば、一般的な光学デバイスには、回折格子、フォトニック結晶、流体光学デバイス、導波路などが含まれる。
【0005】
使用される既存のフォトニック膜、結晶および他の光学デバイスは、ガラス、金属、半導体、およびエラストマー基板からの作製に基づいたものである。材料は、応用および所望の光学特性に基づいて選択されてもよい。これらのデバイスは、従来の光学デバイスの需要に対して十分に機能するが、一般に、非生分解性材料が多量に使用されており、光学デバイスが使用を中止され廃棄された後、長期間にわたって環境に残る。さらに、これらの従来の材料は、加工および作用中の生体適合性が低いとともに、分解性も低い。さらに、量子ドットや機能性金属ナノ粒子などの化学染料またはラベルを利用する従来のラベリング技術では、生体マトリックス内に外部作用物が入り込み、求められる生物学的機能を乱す可能性が生じる。
【0006】
したがって、生分解性があり、生体適合性があり、かつ環境への負の影響を最小限に抑えるバイオポリマーに基づくフォトニック膜および結晶などのフォトニック構造が必要とされている。加えて、従来のフォトニック構造では提供されないさらなる機能性特徴を与え得るフォトニック構造が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、ナノインプリンティングを用いてバイオポリマーをフォトニック構造へと加工することである。バイオポリマーに基づくナノインプリンティングされたフォトニック構造、すなわち「バイオフォトニック構造」、およびこのようなフォトニック構造の製造法は、ナノデバイスの限界を「生体」または生物学的要素まで近づけ、生物学的な分子認識(例えば、酵素、細胞)に由来する正確な選択肢を、材料の必要性に応えるための従来のフォトニクスデバイスと融合させる。例えば、生分解性が低い従来のバイオセンシングデバイスの問題が、生分解性フォトニック構造により解決されることもあり得る。
【0008】
さらに、本発明のナノインプリンティングプロセスにより、新しい種類の能動バイオフォトニックナノデバイスが得られ、これによって、蛍光タグまたは化学標識を必要とすることなく生体適合性の有機構造においてスペクトル情報をカスタマイズ可能であるバイオセンシングおよびバイオ応用への新しい可能性が切り開かれる。
【0009】
本発明により、全体的に有機のバイオフォトニックナノ材料およびデバイスを実現するための主要なタンパク質に基づく膜として、絹フィブロインが提供される。適切なナノスケールの幾何学的形状により、タンパク質膜内の光散乱体制を規定し、それにより、従来のフォトニック結晶散乱(Braga散乱)から、ナノテクスチャのサブ波長バイオフォトニック構造由来の増強されたタンパク光までの範囲にわたる、特別に操作された共振現象が生じる。ナノパターンの幾何学的形状を制御することで、本発明により、カスタムスペクトル応答の設計が可能となり、生体試料を通る光の流れが制御される。
【0010】
本発明の1つの態様において、バイオフォトニック膜、結晶、および他のバイオフォトニック構造の作製を提供するために、誘電体または金属-誘電体の代わりに、絹が使用される。本発明の1つの局面によれば、生体適合性のあるナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法が提供される。1つの態様において、本方法は、電子ビームリソグラフィを用いて調製された、ナノインプリンティングされた基板を供給する工程、基板上にバイオポリマーマトリックス溶液を堆積させる工程、およびバイオポリマーマトリックス溶液を乾燥させて、固化したバイオポリマー膜を形成する工程を含む。バイオポリマー膜が、基板の表面上に形成された電子ビームリソグラフィナノパターンに対応するスペクトルシグネチャを呈するように、基板上で電子ビームリソグラフィを用いてカスタマイズされたナノパターンマスクが膜表面上に形成される。バイオフォトニック構造は、フォトニック膜、フォトニック結晶、バイオフォトニック構造などであってもよい。基板は、基板溶液をキャストすることによって、または基板溶液をスピンコーティングすることによって堆積されてもよい。
【0011】
ナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法は、電子ビームリソグラフィナノインプリンティングを用いてナノパターンを形成する工程を含んでもよい。さらに、ナノパターンは、電子ビームリソグラフィナノインプリンティング技術を用いて、バイオポリマー膜の表面上に直接機械加工されてもよい。さらに、ナノパターンマスクは、周期フォトニック格子および非周期フォトニック格子または格子の組み合わせに基づいて形成されてもよい。
【0012】
本発明の態様によるナノパターン化バイオフォトニック構造は、生分解性であってもよく、タンパク光の形で光学活性を呈してもよい。バイオフォトニック構造は、ナノテクスチャのサブ波長バイオフォトニック構造であってもよい。
【0013】
本発明の1つの態様によれば、ナノパターン化バイオポリマー膜は、絹、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカン酸、プラン(pullan)、デンプン(アミロースアミノペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマーを含む。別の態様において、本方法はまた、ナノパターン化バイオポリマー膜に有機材料を埋め込む工程を含む。例えば、有機材料は、ナノパターン化バイオポリマー膜に埋め込まれてもよく、かつ/またはナノパターン化バイオポリマー膜の表面上にコーティングされてもよい。バイオポリマーフォトニック結晶の所望のタイプに応じて、生体物質または他の材料を含む他の材料をバイオポリマーに埋め込んでもよく、コーティングに使用してもよい。認識および応答機能をさらに与えるために、デバイスを、デバイスの表面に結合したバイオポリマー膜内で加工してもよく、または層内に挟んでもよい。有機材料は、赤血球、西洋ワサビペルオキシダーゼ、フェノールスルホンフタレイン、核酸、色素、細胞、抗体、酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ、細胞、ウイルス、タンパク質、ペプチド、小分子(例えば、薬剤、色素、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤)、DNA、RNA、RNAi、脂質、ヌクレオチド、アプタマー、糖質、発色団、発光性有機化合物、例えばルシフェリン、カロチンおよび発光性無機化合物(化学色素など)、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、集光性化合物、例えばクロロフィル、バクテリオロドプシン、プロトロドプシン(protorhodopsin)、およびポルフィリン、ならびに関連する電子的に活性な化合物であってもよく、またはそれらの組み合わせが添加され得る。
【0014】
さらに、基板は、バイオポリマーマトリックス溶液が基板のナノパターン化された表面上に堆積されると表面にナノパターンをもつ固化されたバイオポリマー膜が形成されるような、ナノパターン化された表面を含んでもよい。この点に関して、基板は、バイオセンサ、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、ビーム再形成器、または開口、ピットなどの他の適切な配置の幾何学的特徴のような光学デバイスであってもよい。本発明による1つの方法において、バイオポリマーマトリックス溶液は、約1.0重量%〜30重量%の絹を有する絹フィブロイン水溶液である。
【0015】
本発明の別の態様において、ナノパターン化バイオポリマー膜は、固化されたバイオポリマー膜上にナノパターンを機械加工することによって、例えば、電子ビームリソグラフィを用いて開口および/またはピットのアレイを機械加工することによって提供される。
【0016】
本発明の上記および他の利点および特徴は、添付の図面と組み合わせて参照すると、本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明からさらに明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明によるナノスケール精度の二次元パターンに対して電子ビームリソグラフィを利用して、ナノテクスチャのバイオフォトニック構造を作製する方法を表した流れ図を示す。
【図1B】本発明による電子ビームリソグラフィを用いてパターン化されたフォトレジストの略図を示す。
【図2】1つの態様による生体適合性のあるバイオポリマーフォトニック構造を作製するために使用されるバイオポリマー膜を製造する方法を示す概略流れ図である。
【図3】図3Aおよび図3Bは、絹フィブロインに対するナノインプリント用の電子ビーム作製されたマスクを示す。
【図4】本発明によるナノテクスチャのバイオフォトニック構造の作製プロセスのシステム概略図を示す。
【図5】図5(a)〜図5(d)は、絹フィブロインに対するナノインプリンティング用の電子ビームで作製されたマスクを示す。
【図6】図6(a)は、周期的な絹ナノテクスチャのバイオフォトニック構造の走査型電子顕微鏡写真を示す。図6(b)は、周期的な絹ナノテクスチャのバイオフォトニック構造表面からの光反射を示す光学顕微鏡写真を示す。図6(c)は、非周期的なR-S絹ナノテクスチャのバイオフォトニック構造のタンパク光を示す光学顕微鏡写真を示す。図6(d)は、非周期的なR-S絹の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図7】図7(a)は、位置合わせ矢印の間でナノパターンが互い違いになるマスクデザインの略図を示す。図7(b)は、Thue-Morse BNSからの実験的に測定した反射パターンを示す。図7(c)は、様々なサイズのBNSからの実験的に測定した反射パターンを示す。
【図8】本発明の1つの態様による生体適合性のあるバイオポリマーフォトニック結晶を製造する方法を示す概略流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、本明細書において記載した特定の方法、プロトコル、および試薬などに限定されるわけではなく、したがって、様々なものであり得ることを理解されたい。本明細書において使用する用語は、特定の態様を記載する目的でのみ使用されるものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ規定される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「1つの」、「ある」、および「その」は、文脈において特段の指定がない限り、複数の対象物を含む。したがって、例えば、1つの賦形剤を参照することは、当業者に公知の均等物を含む、一つまたは複数のこのような賦形剤を参照することである。動作例や特段の指示がある場合を除き、本明細書において使用する成分または反応条件の量を表すすべての数は、すべての場合において、「約」という用語で修飾されているものと理解されるべきである。
【0020】
特定されるすべての特許および他の刊行物は、例えば、本発明と組み合わせて使用されてもよいこのような刊行物に記載された方法を記載および開示する目的で、参照により本明細書に組み入れられるが、本明細書に提示したものと一貫性のない用語の定義を与えるためのものではない。これらの刊行物は、本出願の出願日よりも前の開示物に対してのみ提供される。これに関して、本発明者らには、先行する発明により、または任意の他の理由で、このような開示に先行する資格がないという承認として解釈されるべきではない。これらの文献の日付または内容に関する表現についてのあらゆる言及は、出願人らが入手可能な情報に基づいたものであり、これらの文献の日付または内容の正確性についていかなる承認もしていない。
【0021】
特段の規定がない限り、本明細書において使用するすべての技術および科学用語は、本発明に関連する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0022】
本発明により、生体物質における光輸送および制御技術、フォトニック膜と結晶光学系の統合、トップダウンナノファブリケーション技術、および生体適合性有機材料が提供される。無機材料に基づく従来のフォトニック構造とは対照的に、生体物質は、屈折率が低いため特に困難を伴う。それにもかかわらず、透明な生体テンプレート上でフォトニック格子をナノパターン化することにより、バイオポリマーの屈折率が低くても空気/キチンナノ構造によるチョウの羽の虹色を含む自然界で起こる天然のタンパク光現象を模倣するための、新しい手法が提供される。
【0023】
まず、本発明のバイオポリマーフォトニック結晶は、生体適合性および生分解性がありかつ優れた機能特性および加工可能性を示す絹を用いて実現されるものとして、以下、本明細書において記載されることに留意されたい。この点に関して、特定の例示的態様は、カイコの絹を含む。しかしながら、クモの絹、トランスジェニック絹、組み換え絹、遺伝子操作されたキメラ絹、ならびにそれらの変異体および組み合わせを含む多くの様々な絹が存在し、これらは、当業者に周知であり、かつ本発明において提供されるようなバイオポリマーフォトニック構造の製造に使用されうる。
【0024】
絹に基づく材料は、ベータシート(βシート)としても公知である熱力学的に安定したタンパク質二次構造の天然の物理的架橋により、優れた力学的特性を達成する。このように、材料を安定化するために、外部からの架橋反応または加工後に架橋を行う必要がない。絹タンパク質鎖上に多様なアミノ酸側鎖化学種が存在することにより、絹を機能化させるためのサイトカイン、モルフォゲン、および細胞結合ドメインなどとの結合化学作用が容易になる。力学的プロファイル、水性加工、室温加工、機能化の容易さ、多様な加工様式、自己形成架橋、生体適合性、および生分解性を考慮すると、この範囲の材料特性または生物学的インターフェースを与える合成ポリマー系または生体由来ポリマー系は知られていない。
【0025】
絹について知られている特徴の範囲に一致するバイオポリマーまたは合成ポリマーは他にないが、絹と類似または同等の様々な特性を示すいくつかの他のポリマーが本発明者らにより特定されている。特に、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカン酸、プラン、デンプン(アミロースアミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマーを含む他の天然バイオポリマーが特定された。バイオポリマーおよび特に絹の上述した特徴を考慮すると、本発明により、新規のフォトニック構造、およびバイオポリマーから作製されたたこのようなフォトニック結晶の製造法が提供される。
【0026】
例えば、キトサンなどのいくつかのバイオポリマーは、所望の力学的特性を示し、水中で加工可能であり、かつ光学用途のためのほぼ透明な膜を形成する。これらのポリマーの中には、水中での加工が簡単に行えないものもある。にもかかわらずこのようなポリマーを単独で使用しても、絹と組み合わせて使用してもよく、かつ特定の用途のためのバイオポリマーフォトニック構造を製造するために使用してもよい。
【0027】
フォトニック結晶(PC)とは、所望の波長範囲内の光学波の分散および伝播を制御するようにデザインされた周期的な光学構造である。フォトニック結晶は、許容電子エネルギー帯および禁制電子エネルギー帯を規定する周期的な誘電体または金属-誘電体構造であってもよい。このようにして、フォトニック結晶は、半導体結晶の周期ポテンシャルが電子運動に影響を及ぼすのと同じ様式で電磁(EM)波の伝播に影響を及ぼすようにデザインされる。
【0028】
フォトニック結晶は、比誘電率が高いおよび低い領域の周期的繰り返し内部領域を含む。フォトンは、フォトンの波長に基づき、構造を通じて伝播する。構造を通じて伝播可能な光の波長を有するフォトンを、「モード」と呼ぶ。伝播不可能な光の波長を有するフォトンを、「フォトニックバンドギャップ」と呼ぶ。フォトニック結晶の構造は、許容電子エネルギー帯および禁制電子エネルギー帯を規定する。フォトニックバンドギャップは、波長範囲において構造内を伝播するEMモードが存在しないことを特徴とし、全フォトニックバンドギャップまたは部分フォトニックバンドギャップのいずれかであってもよく、かつ、自発的な発酵の抑制や強化、光のスペクトル選択性、または光の空間選択性など、独特な光学現象を引き起こす。
【0029】
操作されたフォトニック結晶は、光の波長に匹敵する長さスケールにわたって屈折率が変調された人工誘電体である。これらの構造は、光波に関して半導体結晶として挙動する。実際、周期構造において、高度に規定された伝播方向への干渉は構成的なものであり、これによりブラッグ散乱および光屈折が生じる。十分に高い屈折率コントラストでは、特徴的な範囲内の周波数の全ての方向への光伝播が禁制される。上述したように、この現象は、半導体における電子バンドギャップと同様に、フォトニックバンドギャップと呼ばれる。フォトニック結晶の基礎物理はブラッグ散乱に依存しているため、結晶格子の周期性は、光の波長に相応する必要がある。基本構成材料(すなわち、屈折率コントラスト)および格子タイプ(格子の対称性、空間周波数)の特異的選択は、フォトニック結晶デバイスのスペクトル選択性および光輸送/散乱特性を決定する際に重要な役割を担う。
【0030】
実際、屈折率コントラスト(コア輸送媒体とクラッディング媒体の屈折率の相対差)は、高輝度のタンパク光、コヒーレントな多重散乱、光の局在化、および最終的には完全なフォトニックバンドギャップの形成など、フォトニック結晶の現象を強力なものにする重要なパラメータである。低屈折率コントラストにおける強いフォトニック結晶効果は、例えば、オパール原石の虹色またはチョウの羽の色など、自然界で頻繁に発生する。この効果は、色素および不純物などの固有の特性とは対照的に、材料の組成および構造に純粋に起因する「構造色」に基づくものである。
【0031】
このようなフォトニック結晶デバイス構造は、高反射全方位ミラーおよび低損失導波路に対して使用され得る。フォトニック結晶は、光の流れを制御および操作するための魅力的な光学デバイスである。フォトニック結晶はまた、基礎研究および応用研究で注目されており、商業的応用に向けて開発が進められている。二次元周期フォトニック結晶は、集積デバイスの応用を開発するために使用されている。
【0032】
低屈折率コントラストにおける強いフォトニック結晶効果は、オパール原石の虹色またはチョウの羽の色を含め、自然界で頻繁に発生する。例えば、モルフォチョウ(メネラウスモルフォ)の羽の虹色は、空気/バイオポリマー(n〜1.5)のナノ構造によるものである。例えば、Vukusic et al., 266 Proc.Roy.Soc.Lond.B 1403-11.(1999)を参照されたい。アセトン(n=1.36)を羽に垂らすと、空気の代わりにアセトンで満たされて、フォトニック格子の屈折率コントラストが低くなるため、虹色が青色から緑色に変化する。これらの効果は、色素および不純物などの固有の特性とは対照的に、材料の組成および構造に純粋に起因する「構造色」に基づくものである。
【0033】
リソグラフィ技術により、薄膜または基板の部分を選択的に除去することによってナノスケールデバイスの開発が容易になった。電子ビームリソグラフィは、膜で被覆した表面、いわゆる「レジスト」に対して、パターン状に電子のビームを走査する表面加工技術である。電子ビームリソグラフィは、「現像」技術としてレジストの露光領域または非露光領域のいずれかを選択的に除去する。電子ビームリソグラフィは、超小型の電子デバイスの作製などの様々な目的に応じて引き続き別の材料へと転写可能なレジストに超微細構造を作製するために使用されてもよい。電子ビームリソグラフィの利点は、光の回折限界を越えてナノメートル範囲で構造的特徴を作製するために使用できることである。
【0034】
本発明の電子ビームナノインプリンティングは、並進不変性をもたずに長距離秩序(および程度の異なる短距離秩序)を有する、準結晶、フラクタルおよび光学アモルファス構造などの非周期フォトニック構造を用いることにより、(例えば、シリコンのような無機誘電体と比較して)低い屈折率コントラストで達成され得る完全なフォトニックバンドギャップを提供する。
【0035】
本発明による方法を用いることで、生体物質を直接ナノパターン化して「試薬不要の」検出に新たな道を開くことが可能であり、ここでは外部標識の追加とは対照的に、デザインされたナノパターン(ナノテクスチャ)によって光学シグネチャが発生される。この目標を達成するために、フォトニック結晶構造の基礎として絹フィブロインを使用して、この最も強力かつ強靱な公知の天然ポリマー材料を活用する。さらに、(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)と比較した場合)アミノ酸側鎖の化学的性質による多用途の化学的性質、周囲条件でのあらゆる水系における制御された加工可能性、および酵素分解性による制御可能な寿命により、このような技術的進歩を遂げるための多用途性テンプレートが提供される。最後に、絹膜の光透過性および材料堅牢性は、光学プラットフォームの開発に適している。絹フィブロイン膜内に機能的な生物学的要素を埋め込むことによって、ナノパターン化バイオフォトニック結晶のさらなる拡張機能が得られ得る。
【0036】
同調する生物活性に応じて比色応答を調整することは、生体適合物質の加工、測定、制御、および検知の領域に根本的な影響を与える。高い光学的品質および生物活性を同時に示す一方で、制御されていない環境における室温での使用に耐えるための材料靱性を有する、生体マトリックスを利用できることが独特である。本発明は選択された分析物を「バイオポリマーナノフォトニックアッセイ」または「ナノテクスチャのバイオフォトニック構造」に直接埋め込むことによって、都合のよい環境における小型化および内蔵型の生体スペクトル分析を可能にする。レンズアレイ、ビーム再形成器、パターン発生器、一次元または二次元格子などのバルクデバイスとの間で光を結合する高度な光学インタフェースが、コンパクトパッケージに実現されてもよい。加えて、周囲条件でのあらゆる水系環境において、このプラットフォームシステムを調整、加工、および最適化できることで、ペプチド、酵素、細胞、または関連する系の形態の不安定な生物学的「レセプタ」を直接組み入れかつ安定化させることにより、多用途性が広がる。
【0037】
図4に示すように、コア焦点領域は、バイオフォトニックマスクのデザイン、および絹フィブロイン膜の最適化を含む。個々の特徴が直径250nmを含むCrまたはSiマスクなどの非周期構造が、ナノインプリンティング用のテンプレートとして使用された。基板は、透明性、低不純物、および平坦度について最適化されてもよい。得られる絹のパターン化構造は、Cr/Siテンプレートおよびソフトリソグラフィを用いて得られた。絹ナノテクスチャバイオフォトニック構造は、その光学応答が特徴的である。本明細書において示す結果は、白色光の照明下でインプリンティングされた絹のスペクトル選択性を示す。絹フィブロイン膜は、ナノ構造を含む1cm×1cm絹基板を含む。
【0038】
「ナノパターン化」という用語は、本明細書において使用する場合、バイオポリマー膜の表面上に設けられる非常に小さなパターニングを指し、このパターニングは、ナノメートルスケールで適切に測定され得るサイズの構造的特徴を有する。例えば、100nmから数ミクロンの範囲のサイズは、本発明により使用されるパターニングの典型である。
【0039】
図2は、本発明の1つの態様によるバイオポリマーフォトニック構造の製造に際し使用するためのナノパターン化バイオポリマー膜を製造するための1つの方法を示す概略流れ図20である。特に、工程22において、バイオポリマーが供給される。バイオポリマーが絹である例において、絹バイオポリマーは、カイコガ(Bombyx mori)の繭からセリシンを抽出することで供給されてもよい。供給されたバイオポリマーは、工程24において、バイオポリマーマトリックス溶液を生じるように処理される。1つの態様において、バイオポリマーマトリックス溶液は、水溶液である。他の態様において、供給されたバイオポリマーに応じて水以外の溶媒または溶媒の組み合わせが使用されてもよい。
【0040】
このように、絹の例において、バイオポリマーフォトニック結晶の1つの態様のバイオポリマー膜を製造するために使用される濃度の一例である例えば8.0重量%の絹フィブロイン水溶液が、工程24で処理される。あるいは、他の態様において、例えば浸透圧ストレスまたは乾燥技術による、希釈または濃縮のいずれかを用いることで、溶液濃度は、非常に低濃度(約1重量%)から非常に高濃度(最大30重量%)まで様々であってもよい。絹フィブロイン水溶液の生成に関しては、「Concentrated Aqueous Silk Fibroin Solution and Uses Thereof」という名称の国際公開公報第2005/012606号に詳細に記載されている。
【0041】
工程26において、バイオポリマー膜の製造に際してモールドとしてはたらく基板が供給される。次に、工程28において、バイオポリマーマトリックス水溶液を、基板上にキャストする。工程30において、バイオポリマーマトリックス水溶液を固相に転写するために、バイオポリマーマトリックス溶液を乾燥させる。これに関して、バイオポリマーマトリックス水溶液を、例えば24時間乾燥させてもよく、かつ任意で、バイオポリマー水溶液の乾燥を促すために低熱に供してもよい。恒温乾燥、ローラ乾燥、噴霧乾燥、および加熱技術のような他の乾燥技術が用いられてもよい。乾燥すると、基板の表面上にバイオポリマー膜が形成される。バイオポリマー膜の厚みは、基板に適用されたバイオポリマーマトリックス溶液の体積に依存する。
【0042】
乾燥が完了し、バイオポリマーマトリックス溶液の溶媒が蒸発したら、工程32において、任意で、バイオポリマー膜をアニールしてもよい。このアニール工程は、所望の材料特性に応じて、様々な期間、水蒸気で満たされたチャンバなどの水蒸気環境内で実行されてもよい。典型的な期間は、例えば、2時間〜2日間であってもよく、任意のアニールを真空環境において実行してもよい。次に、工程34において、アニールされたバイオポリマー膜を次に基板から取り出し、工程36において、さらに乾燥させる。上述した様式で製造された膜は、生体適合性および生分解性のフォトニック結晶として使用され得る。あるいは、膜をメタノールまたはエタノールの溶液に接触させることによりアニールを行ってもよい。加えて、図8の方法によるバイオポリマーフォトニック結晶を製造する際に、このような複数の膜が使用され得る。
【0043】
1つの態様において、固化したバイオポリマー膜が基板から取り出されると、その表面上に所望のナノパターンを有するバイオポリマー膜がすでに形成されているように、基板の表面には電子ビームナノリソグラフィによって提供された適切なナノパターンがある。このような実施において、バイオポリマー膜上で望まれるナノパターンに応じて、基板は、ナノパターン化された光学格子などの光学デバイスであってもよい。得られるバイオポリマー膜において高度に規定されたナノパターン化構造を形成するためのナノパターン化基板を用いるバイオポリマーキャスト法の能力を検証し、75nm程度に小さなナノ構造および5nm未満のRMS表面粗さを有する絹膜が実証された。
【0044】
光学的に平坦な表面上にキャストされた絹膜の粗さ測定値は、2.5nm〜5nmの二乗平均平方根の粗さ測定値を示し、この値は、633nmの波長で優にλ/50未満の表面粗さであることを意味している。パターン化された絹回折光学系の原子間力顕微鏡画像は、適切なモールドで絹膜をキャストしてリフトオフすることによって得られうるマイクロファブリケーションのレベルを示す。これらの画像は、数百ナノメートルの範囲の解像度を示し、コーナーの鮮鋭度は、最小数十ナノメートルの細かい忠実なパターニングの可能性を示す。
【0045】
厚みおよびバイオポリマー含有量などの膜特性ならびに光学特徴は、プロセスで使用されるフィブロインの濃度、堆積される絹フィブロイン水溶液の量、およびキャスト溶液を乾燥するための堆積後加工に基づいて変更されてもよい。得られるバイオポリマー光学デバイスの光学品質を確保し、かつ、透過性、構造上の剛性、または柔軟性などのバイオポリマー光学デバイスの様々な特性を維持するために、これらのパラメータを正確に制御することが望ましい。さらに、形態、安定性などのバイオポリマー光学デバイスの特徴を変更するために、グリセロール、ポリエチレングリコール、コラーゲンなどのような、バイオポリマーマトリックス溶液への添加物が使用されてもよい。
【0046】
構造上の安定性がありかつ表面にナノ構造を有することができることにより、上述した絹膜は、バイオフォトニック構造としての使用、およびバイオポリマーフォトニック結晶の製造における使用に適している。前述したように、絹膜の材料特性は、例えばソフトリソグラフィおよび電子ビーム機械加工技術を用いた、ナノスケールでのパターニングに十分に適したものである。適切なレリーフマスクを用いて、絹膜をキャストして放置し表面上で固化させた後、取り外してもよい。絹のキャストおよび固化プロセスにより、以下に記載するようにナノスケールの高度に規定されたパターン化構造を形成でき、これにより、バイオポリマーフォトニック結晶を製造するために使用可能なバイオポリマー膜を産生できる。
【0047】
単一の膜を組み込んでいるか、積層膜の集合体を組み込んでいるかに関わらず、本発明によるバイオポリマーフォトニック結晶によって、重要な利点および機能性を得ることができる。特に、任意で一つまたは複数の有機標識、生体細胞、有機体、マーカー、タンパク質などを埋め込むことによって、バイオポリマーフォトニック構造を生物学的に機能化できる。さらに具体的には、本発明によるバイオポリマーフォトニック構造は、有機材料、例えば、赤血球、西洋ワサビペルオキシダーゼ、フェノールスルホンフタレイン、核酸、色素、細胞、抗体、酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ、細胞、ウイルス、タンパク質、ペプチド、小分子(例えば、薬剤、色素、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤)、DNA、RNA、RNAi、脂質、ヌクレオチド、アプタマー、糖質、発色団、発光性有機化合物、例えば、ルシフェリン、カロチンおよび発光性無機化合物(化学色素など)など、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、集光性化合物、例えば、クロロフィル、バクテリオロドプシン、プロトロドプシン、およびポルフィリンなど、ならびに関連する電子的に活性な化合物、組織、または他の生体材料、他の化合物、またはそれらの組み合わせを埋め込んでも、コーティングしてもよい。埋め込まれた有機材料は、生物学的に活性であることにより、得られるバイオポリマーフォトニック構造に生物学的な機能性を追加する。
【0048】
バイオポリマーフォトニック構造への有機材料の埋め込みは、例えば、絹フィブロインマトリックス溶液などのバイオポリマー膜を製造するために使用されるバイオポリマーマトリックス溶液にこのような材料を追加することによって実行されてもよい。複数のバイオポリマー膜を積層することによってバイオポリマーフォトニック結晶が製造される実施において、一つまたは複数のバイオポリマー膜の機能化によって、フォトニック結晶を生物学的に機能化できる。あるいは、またはこれに加えて、このような追加される有機材料を、このような実施においてバイオポリマーフォトニック結晶を構成するバイオポリマー膜層の間に挟むことができる。
【0049】
得られるバイオポリマーフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップおよびスペクトル選択性が生物学的誘導により変動することを用いて、特定の物質の存在を決定することができ、かつ生物学的プロセスを、光学的に高感度にモニタできる。特に、スペクトル選択性の変化はフォトニック結晶構造の特徴および/またはそれに埋め込まれた有機材料に相関し得るため、このような物質はバイオポリマーフォトニック結晶の光学特性の変化に基づいて検出されうる。これは、認識および/または応答機能を提供するためのセンサとしてバイオポリマーフォトニック結晶が使用される応用において特に有益である。
【0050】
同様に、説明したように、従来のフォトニック結晶において使用される誘電体および金属-誘電体の代わりに本発明による絹または他のバイオポリマーを使用して、バイオポリマーフォトニック結晶を作製できる。加えて、本発明は、バンドギャップの変動性または生物学的バンドギャップの調整を可能にするすることによって生物光学フィルタとしての使用に合わせてカスタマイズされたバイオポリマーフォトニック結晶を提供するために使用されてもよい。
【0051】
さらに、本発明のバイオポリマーフォトニック結晶を混成させることによりバイオフォトニックバンドギャップ材料のさらなる作製および機能化が実行されうることも認識されたい。例えば、バイオポリマーフォトニック結晶および/またはフォトニック結晶を構成するバイオポリマー膜は、異なる光学特性を提供するための薄い金属層と共に堆積されてもよい。バイオポリマーフォトニック結晶のバルク率(bulk index)は、コントラスト因子を増大させスペクトル選択性を調整する様式で影響され得る。このような混成型のバイオポリマーフォトニック結晶は、バイオプラズモンセンサとして有益に使用され、これによって、生体適合性のある光学デバイスにおいて、電磁共鳴、光学系、および生物学的技術が統合される。
【0052】
NBSおよびバイオフォトニック結晶:ナノファブリケーションおよびデザイン
フォトニック結晶光学系、トップダウンナノファブリケーション技術、および生体適合性有機材料を統合することで、生体物質に対する光の輸送および制御の操作に関する究極の可能性が得られる。無機材料に基づいた従来のフォトニック結晶構造とは対照的に、生体物質は、屈折率が低いことによる特定の問題を示す。それにもかかわらず、透明な生体テンプレート上でフォトニック格子をナノパターン化することで、バイオポリマーの屈折率が低くても、自然界で起こる天然のタンパク光現象(例えば、チョウの羽)を再現する新しい手法が得られる。
【0053】
図1Aおよび図1Bに示すように、NBSを作製するための本発明のシステムおよび方法では、二次元パターンをナノスケールで規定するためにSiウェハ上で実行される電子ビームリソグラフィを利用し、これは、ソフトナノインプリントプロセスを介して透明な絹フィブロインに転写される。図1は、本発明によりフォトレジストにナノパターンが書き込まれ得る電子ビームリソグラフィシステム、およびこの方法を用いてパターン化されたフォトレジストの図を示す。電子ビームリソグラフィは、所望の幾何学的形状をもつ周期および非周期金属アイランドアレイを生成する。このプロセスを図1Aに示す。工程3303において、膜にフォトレジストがスピンコートされる。例えば、本発明の1つの態様において、200nmポリ(1-ビニルピロリドン-コ-2-ジメチルアミノ-エチルメタクリレート)(PMMA)フォトレジストの層が、石英(またはSiウェハ)上の30nm厚の酸化インジウムスズ(ITO)膜上にスピンコートされる。次に、工程3311において、フォトレジスト上に関心対象のパターンが書き込まれる。例えば、本発明の1つの態様において、関心対象のパターンが、Debenビームブランカーを備えたJeol JSM-6400 SEMを使用して書き込まれる。工程3321において、基板上に金属層が蒸着される。例えば、本発明の1つの態様において、フォトレジストパターン化の後、35nm厚の金属(例えば、Cr、Au、Ag、Al)層を基板に蒸着する。工程3331において、フォトレジストは、金属アイランドアレイを実現するために除去される。本発明の1つの態様において、フォトレジストはアセトンで除去され、これにより酸化インジウムスズ(ITO)表面の金属アイランドアレイを露光する。
【0054】
本発明の1つの態様において、図3および図4に示すようなCr/Siハードマスクを使用することによって、透明な絹上にNBSが作製された。図4は、絹フィブロイン上のナノインプリントに対して電子ビーム作製されたマスクを示す。(a)および(c)のマスクは、Si基板上に50nm間隔で、粒径100nm(高さ50nm)のCrナノ粒子を含む。図5に示す典型的な粒子間隔は、書き込み条件に応じて、50nm〜500nmの間で変動する。絹フィブロイン上の得られるナノプリントされたNBSは、図5の(b)および(d)に示される。Cr/Siハードマスクを用いて、光学活性が示された。本発明の方法により、蛍光タグまたは化学色素に依存する必要なく、生体物質表面上に無標識のスペクトルシグネチャが直接提供される。
【0055】
これは生物学的および生物医学的なイメージングにおいて特に重要であり、ここで、生物学的基板における構造色のデザインにより、物理的マーカーを用いることなく生物系の進化をモニターするための非侵入的な方法が与えられる。加えて、NBSを適切に機能化された基板と組み合わせた場合、生物光学的なセンシングおよびイメージングへの新規かつ強力な手法が与えられる。
【0056】
本発明のシステムおよび方法は、生体テンプレートの構造色を制御するための周期性、決定論的な不規則性、およびランダム性の役割を体系的に決定するために使用されてもよい。特に、本発明者らはNBSチップを作製して、NBSでのフォトニックギャップおよび強力なタンパク光/散乱の発生に関連してパターン形態(周期的対非周期的)、パターン次元、および特定のマスク材料をカスタマイズした。具体的には、本発明の方法は、50nm〜500nm間隔のサブ波長開口のアレイをプリントするために使用されてもよい。さらなる範囲の空間距離および粒子寸法を利用することで、単一のレイリー散乱およびミー散乱から多重散乱までの様々な散乱形態、ならびにコヒーレントブラッグ散乱(周期アレイ)を組み込むことができる。この手法は、非周期的秩序の新しい概念に基づいた決定論的アレイの作製まで拡張できる。決定論的非周期アレイは、並進不変性をもたない長距離秩序を特徴とする。すなわち、これらのアレイは、非周期的であるが、決定論的(規則的/秩序的)である。その結果、これらの物理特性は、ランダムかつアモルファスな固体のものに近づき、これにより大きなフォトニックバンドギャップおよび局在化された光状態が示される。
【0057】
さらに、誘電性の二次元決定論的非周期構造により、周期的な対照物と比べてより低い屈折率コントラストで、完全なフォトニックバンドギャップが形成され得る。さらに、本発明の方法は、周期格子、フィボナッチ準周期格子、Thue-Morse(TM)非周期格子、Rudin-Shapiro(RS)非周期格子、ランダム格子、および数論シーケンスに基づいた他の決定論的非周期格子を含んでもよい。フィボナッチ準周期格子、Thue-Morse(TM)非周期格子、およびRudin-Shapiro(RS)非周期格子の格子は、複雑性の程度が増す決定論的非周期格子の主な例である。特に、Rudin-Shapiro格子は、平坦なスペクトルの空間周波数を有し(白色のフーリエスペクトル)、「フォトニックアモルファスまたは流体構造」の類似体として単純に考えられ得る。以下にさらに記載するように、これらの「フォトニック流体」からの光散乱が劇的に増大し、これによって結晶タンパク光の類似性が得られる。
【0058】
ナノインプリントによる絹フィブロインNBSの強化されたタンパク光
本発明による方法を用いて、(改変)ソフトリソグラフィ手法により絹バイオフォトニックバンドギャップの光学要素が実現されうる。マスクとして可変のラインピッチを有するホログラフィック回折格子のようなパターン化された回折光学表面上に絹をキャストすると、200nm程度の小さな光学特徴が得られた。さらに、回折光学系に使用される同じプロトコルを電子ビーム書き込みマスクに対して適用してもよい。1つの態様において、絹溶液をマスク上でキャストし、2時間乾燥させる。次に、絹を、基板から発生した単純かつ機械的なMinaによってマスクから除去する。絹膜から格子を分離したら、得られるインプリンティングパターンを、走査型電子顕微鏡によって分析する。結果は、図3および図6に示されており、これにより、この手法で得られる忠実度が実証される。
【0059】
これらのナノパターン化能力を用いて、ナノパターンによって誘導されるスペクトル応答をカスタマイズするために、これらの構造の光学的特徴決定を実行してもよい。本発明によれば、インコヒーレント白色光源で照らし、表面からの反射画像を顕微鏡で収集することによって、膜を検査してもよい。これらの結果を、図3、図5、および図6に示す。膜上のインプリンティングされた領域は、強く光を散乱し、白色光照明の下で色を呈する。より高い倍率下では、衝突する白色光のスペクトル分布は、図7(c)に示すようなエッチングパターンをたどり、インプリンティングされた表面の様々な領域において異なるスペクトルバンドが選択される。NBSにおけるこの高輝度のタンパク光現象は、周期アレイから決定論的非周期アレイへと動くにつれ、強度が高まる。これにより、非周期構造における多量の空間周波数(無秩序)と、複数の光学ギャップの形成との間の関連性が自然に示唆される。R-S構造において観察されるこのような興味深い現象は、「フォトニック流体」における臨界タンパク光の光学的類似体として見なされうる。これは、R-Sシステムが特徴的な長さを有さず、かつしたがってスケールに影響を受けないという事実の結果であり、これによりすべての長さスケールで変動および散乱を示す。
【0060】
生体マトリックスに対して光学機能性を制御可能にし、かつパターン化領域を最大にするために、本発明のナノインプリンティングの手法を、絹溶液濃度、架橋結合およびアニール、マスターパターン基板、ならびにリフトオフ方法などの重要なプロセス変数を制御することによって、さらに最適化してもよい。制御されたナノパターン化膜形成は、いくつか例を挙げると、溶媒、溶液濃度、アニール時間、表面配向などを含む環境的および力学的パラメータを変更することによって、異なる条件下で実行されてもよい。同様に、ナノパターン化膜の形成を制御するために、結晶化膜の後処理が変更されてもよい。これらのパラメータは、生成された膜の光学品質(平坦度および透明性を含む)を最大にするため、ならびに加工と結晶サイズから導き出された材料関数との間の基本的な関係や、膜の両面およびバルク領域での分布および配向を理解するために、変更されてもよい。
【0061】
本発明によるさらなる方法は、生体物質上のナノパターン化されたインプリントに仲介される光物理学を利用することによって、光を操作するために使用されてもよい。さらに、光の局在化などの現象を用いるが、しかし、光バイオナノ構造を実現するための既存の技術がごく限られていることは、優れた光学特性および力学特性、熱力学的な安定性、制御可能な化学物質耐性、様々な基板との集積の容易さ、ならびに生体適合性を同時に包含することが可能な汎用基板の不足である。バイオポリマーフォトニクスに対して提唱された手法の目的は、このような長きにわたって存在した問題に体系的に取り組むことである。特に、この研究は、現在のバイオセンシング技術に対して最新技術を著しく進歩させる可能性を秘めている。絹内に生物学的活性をもつ光学要素のアレイを制御下で作製することにより、光学要素に埋め込まれた生体活性に関する情報を直交させて中継可能であり、または逆に、生体構造もしくは生体機能を通して光を操作し得る光学アッセイの革新的な領域への道を切り開くであろう。これらのデバイスの導入に成功すれば、生物科学と物理化学の境界で動作することによって、根本的に新しい光学センシング手法および光操作を開発可能である。
【0062】
本発明の局面および態様の上記記載は、図示および説明を提供するものであって、すべてを網羅することを意図したものでも、開示した正確な形態に本発明を限定することを意図したものでもない。当業者であれば、上述した教示に鑑みて、これらの態様の特定の修正、並べ替え、追加、および組み合わせが可能であること、およびこれらは本発明の実施から獲得されることを理解するであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲内にある様々な修正例および同等の配列を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法であって、
電子ビームリソグラフィを用いて基板の表面上にナノパターンマスクを形成する工程;
バイオポリマーマトリックス溶液を供給する工程;
基板上にバイオポリマーマトリックス溶液を堆積させる工程;および
バイオポリマーマトリックス溶液を乾燥させて、固化したバイオポリマー膜を形成する工程
を含み、バイオポリマー膜が、基板の表面上に形成された電子ビームリソグラフィナノパターンに応じてスペクトルシグネチャを呈する、方法。
【請求項2】
基板が、基板をキャストすることによってまたは基板をスピンコーティングすることによって形成される、請求項1記載のバイオポリマーナノパターン化フォトニック構造の製造法。
【請求項3】
ナノパターン化バイオフォトニック構造が生体適合性である、請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項4】
ナノパターン化バイオフォトニック構造が生分解性である、請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項5】
ナノパターンが、バイオポリマー膜の表面上に直接機械加工された、生体適合性のある請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項6】
ナノパターンが、少なくとも1つの開口およびピットのアレイを含む、生体適合性のある請求項5記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項7】
開口が50nm〜500nm間隔である、生体適合性のある請求項6記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項8】
ナノパターンマスクが、非周期フォトニック格子に基づいて形成される、生体適合性のある請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項9】
バイオポリマー膜がタンパク光の形で光学活性を示す、生体適合性のある請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項10】
バイオフォトニック構造が、ナノテクスチャのサブ波長バイオフォトニック構造である、請求項9記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項11】
バイオポリマー膜が絹を含む、生体適合性のある請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項12】
バイオポリマーマトリックス溶液が、約1.0重量%〜30重量%の絹を有する絹フィブロイン水溶液である、生体適合性のあるナノパターン化バイオフォトニック構造を製造する生体適合性のある請求項11記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項13】
基板が光学デバイス用のテンプレートである、生体適合性のある請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項14】
基板がバイオセンシングデバイス用のテンプレートである、生体適合性のある請求項13記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項15】
基板が、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、およびビーム再形成器のうち少なくとも1つのテンプレートである、生体適合性のある請求項13記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項16】
ナノパターンマスクが、Si基板上に粒径100nmのCrナノ粒子を含む、生体適合性のある請求項1記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項17】
Crナノ粒子が20nm〜250nm間隔である、生体適合性のある請求項16記載のナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法。
【請求項18】
ナノパターン化バイオフォトニック構造の製造法であって、
石英またはシリコンウェハの少なくとも1つの30nm厚の酸化インジウムスズ膜基板上に、200nmのフォトレジストをスピンコーティングする工程;
フォトレジスト上にナノパターンを書き込む工程;
基板に35nm厚の金属層を蒸着する工程;
ナノパターン化マスクを得るために、フォトレジストを除去して酸化インジウムスズ膜上の金属アイランドアレイを露光させる工程;
ナノパターン化マスク上にバイオポリマーマトリックス溶液を堆積させる工程;
バイオポリマーマトリックス溶液を乾燥させて、膜を形成する工程;および
バイオポリマー膜を除去する工程
を含み、バイオポリマー膜が、ナノパターン化マスクの表面上に形成された電子ビームリソグラフィナノパターンに応じてスペクトルシグネチャを呈する、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−504421(P2011−504421A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533214(P2010−533214)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/082487
【国際公開番号】WO2009/061823
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(303043726)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (26)
【出願人】(595094600)トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ (37)
【Fターム(参考)】