説明

ナノコンポジットを用いた複屈折分散の制御

面外複屈折において制御された分散あるいは同等のレターデーションを有するナノコンポジットフィルムを得る。該ナノコンポジットフィルムは、実質的にフラットな分散挙動、複屈折分散挙動、及び非複屈折分散挙動を有するフィルムを含む。該ナノコンポジットは、ポリマーマトリックス中に分散された金属酸化物のナノ粒子を含有するフィルムを含む。本発明は、また、有機−無機のナノコンポジットを使用してフィルムを作製し、該フィルムの面外複屈折分散を制御する方法を提供する。このナノコンポジット材料は、高い光学透過性、低いヘイズ値を示し、液晶ディスプレイの分野において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機−無機の複合化による複屈折分散の制御方法、そのような組成物の製造方法、及びフィルムに関する。本発明の組成物は、ディスプレイ及び他の光学的応用分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
液晶は電子ディスプレイに広く用いられている。こうしたディスプレイシステムでは、液晶セルは通常1対の偏光子と検光子との間に位置している。偏光子によって偏光された入射光は液晶セルを通過し、セルへの電圧の印加によって変化し得る液晶の分子配向によって影響される。この変換された光は検光子に入る。この原理を利用することによって、周辺光を含む外部光源からの光の透過を制御できる。
【0003】
コントラスト、色再現性、及び安定なグレースケール強度は、液晶技術を利用する電子ディスプレイの重要な品質属性である。液晶ディスプレイ(LCD)のコントラストを制限する主要因子は、暗又は「黒」の画素状態にある液晶素子又はセルを通じて光が「漏れる」傾向である。LCDのコントラストは、また、ディスプレイ画面の見る角度にも依存している。LCDの視野角特性を改善する一般的な方法の1つは、補償フィルムを使用することである。複屈折分散は、液晶ディスプレイの画質を改良するのに使用される補償フィルム等多くの光学部品において不可欠な特性である。補償フィルムを有していても、補償フィルムの複屈折分散が最適化されない場合、暗い状態では不適当な赤や青等の色合いを有する。
【0004】
少なくとも2つの異なる屈折率を表示する材料は、複屈折性であると言われている。一般に、複屈折媒体は、3つの屈折率、n、n、及びnで特徴付けられる。通常、面外複屈折は、Δnth=n−(n+n)/2で定義され、n、n、及びnは、それぞれx、y、及びz方向の屈折率である。屈折率は、波長(λ)の関数である。したがって、Δnth=n−(n+n)/2で与えられる面外複屈折は、λにも依存する。そのような複屈折のλへの依存性は、通常、複屈折分散と呼ばれる。
【0005】
複屈折分散は、液晶ディスプレイの画質を改良するために使用される補償フィルム等多くの光学部品において不可欠の特性である。n=nであると、媒体はC−プレートと呼ばれ、Δnth=n−nであり、また、Δnth=n−nと同値である。
【0006】
補償フィルム等の光学部品の性能を最適化するためには、面内複屈折分散(n−n)に加えて、Δnthの調整が重要である。図1に示すように、Δnthは対象の波長の全体にわたって、負(102)あるいは正(104)となり得る。殆どの場合、正の固有複屈折Δnintを有するポリマーをキャストして作製したフィルムは、負のΔnthを与える。その分散は、長波長側ほど、Δnth値がより負でなくなるような分散である(102)。一方、負のΔnintを有するポリマーをキャストした場合は、Δnthは長波長側ほどより正でないような正のΔnth値となる(104)。Δnthの絶対値が波長の増大につれて減少する分散挙動は、「正常」分散と呼ばれる。正常分散とは対照的に、可視波長λ(400nmと650nmの間)に対して実質的に一定のΔnthを有することは多くの場合望ましい(図1中、106と108の曲線)。以降、「実質的に一定の」という用語は、400nm<λ,λ<650nmであって、λ≠λであるような任意の2つの波長に対して、0.95<|Δnth(λ)|/|Δnth(λ)|<1.050であることを意味する。特に有用な媒体は、400nm<λ<650nmを満足する波長λに対して、|Δnth(λ)|<0.0001を満足する低い、一定のΔnthを有するものである(図1における曲線110)。すなわち、そのような媒体は、実質的にゼロの複屈折を示す。
【0007】
さらに他の場合においては、Δnthの絶対値が、より長波長側で増加することが望ましい。そのような挙動は、「逆」分散と呼ばれる(図2における202と204の曲線)。
【0008】
これらのΔnthに関する特異な挙動は、原則として異なる分散を有する2以上の層の適切な組み合わせによって達成される。しかしながら、そのようなアプローチは、注意深く各層の厚みを調節しなければならないので困難である。その上、生産方法に余分な工程段階が加えられることとなる。
【0009】
米国特許第6,565,974号は、ポリマーの主鎖及び側鎖グループの光学異方性のバランスを取ることによって複屈折分散を制御することを開示している。この方法は、より短波長でより小さな複屈折(又は同等の位相差値)を有するポリマー、すなわち、逆分散物質の生成を可能とする。ポリマー材料は柔軟であり、加工処理するのが容易である。しかしながら、ポリマーの化学構造は主として炭素、水素からなるため、分散を含めた複屈折の挙動の範囲は制限されている。これによって、2つのポリマーの混合、共重合及び他の可能な方法によってさえも複屈折分散の制御は困難である。そのため、実在のポリマーのみで、複屈折の挙動を制御することには限界がある。
【0010】
無機材料は様々な固有複屈折挙動を有する。無機材料は、正の固有複屈折を示すものもあるが、他のものは負の固有複屈折を示すものもある。下記の表は様々な無機材料のλ=632nmにおける固有複屈折を示す。これらは一軸性材料であり、屈折作用の異常光屈折率(n)及び常光屈折率(n)を有し、固有複屈折Δnintは、Δnint=n−nとして定義される。
【0011】
【表1】

【0012】
上記の表が示すように、無機材料は広範囲の複屈折の大きさを示す。また、それらは様々な分散挙動を有するため、光学的用途においては、ポリマー材料より用途が広い。
【0013】
無機材料は用途の広い複屈折特性を提供するが、それらは高価であり、加工処理するのが難しい。それらの複屈折の挙動を利用するためには、どんな方法による場合であっても、無機材料は識別可能なサイズの単結晶でなければならなず、そうでない場合は単に平均化された等方性の効果が現れるだけである。
【0014】
Δnthの分散の制御に関する自由度をより大きくするためには、ポリマーの組合せを発見するよりも、ポリマーの加工性と無機材料の多用性を組み合わせた材料を発見することが非常に望ましい。特に望まれるのは、そのような材料を簡単にフィルムにすることができ、それをLCDの補償フィルムとして使用できることである。
【0015】
有機−無機のハイブリッド材料を作成するために多くの努力がなされてきた。1つの方法は、無機のナノ粒子を結合剤と混合することである。残念ながら、フィルムにしたとき、そのような材料中のナノ粒子が望ましくない凝集を生じるため、フィルムが非透明性となる。そのようなフィルムは、高い透明性及び低いヘイズ値が要求される光学的用途においては有用ではない。
【0016】
特許文献1及び特許文献2は、ハイブリッド材料を形成するためにポリマーと無機粒子を混合することについて記載している。これらの両特許文献においては、粒子サイズがよく制御され、表面処理された特別に調製された粒子を必要としている。これらの非常に特殊な必要条件は、ハイブリッド材料を形成するこれらの方法を低コスト化する観点において魅力を滅却させている。
【0017】
特許文献3において、Koikeは、ナノコンポジットから作成された非複屈折の光学フィルムを開示している。該フィルムでは、微細な無機物質が外力下で配向した樹脂の結合鎖と同じ方向に配向しているため、無機物質の複屈折が樹脂の複屈折を相殺している。分散性の問題を解決するために、無機物質は、樹脂材料と混練する前に、樹脂中での分散のための表面処理に付される。有効な複屈折を発現させるために、無機物質は、針状、円筒状、板状、円柱状、及び楕円状の形状を含む延伸された形状を有する粒子を含んでいる。
【0018】
【特許文献1】米国特許第6,599,631号明細書
【特許文献2】米国特許第6,656,990号明細書
【特許文献3】米国特許第6,586,515号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、ポリマーと無機材料とを組み合わせることにより、Δnthの分散挙動を制御する方法を開発するのは、望ましいΔnthの分散挙動を有する材料を得るために望ましいことである。表示装置での使用においては、所望のΔnthの分散挙動を有するC−プレートを得ることはさらに望ましい。
【0020】
本発明の目的は、面外複屈折、あるいは等価のレターデーションが逆分散特性を有するフィルムを得ることである。
【0021】
本発明の別の目的は、面外複屈折、あるいは等価のレターデーションが実質的にフラットな分散特性を有するフィルムを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のこれらの目的及び他の目的は、ポリマー及び金属酸化物のナノ粒子からなるナノコンポジットにより達成される。
【0023】
さらに詳しくは、1つの実施形態において、少なくとも1種のポリマーを含むポリマーマトリックス中に分散した金属酸化物ナノ粒子を含有するナノコンポジットフィルムに関するものであり、該フィルムは、同時に以下の3つの条件を満たす。
(i)400nm<λ<λ<650nmに対して、
|Δnth(λ)|−|Δnth(λ)|>0
(ii) |n−n|<0.0001
(iii)Δnth(450nm)/Δnth(550nm)<0.98、好ましくは0.95
【0024】
そのようなナノコンポジットは、光学フィルムが逆分散挙動を得るために有用である。
【0025】
本発明の別の態様は、少なくとも1種のポリマーを含むポリマーマトリックス中に分散された金属酸化物ナノ粒子からなるナノコンポジットフィルムに関し、該フィルムは以下の条件を満たす。
(iv)λ≠λを満足する全ての400nm<λ,λ<650nmに対して、
0.95<|Δnth(λ)|/|Δnth(λ)|<1.050
【0026】
そのようなナノコンポジットは、光学フィルムが比較的フラットな複屈折分散を得るために有用である。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、少なくとも1種のポリマーを含むポリマーマトリックス中に分散された金属酸化物ナノ粒子を含有するナノコンポジットフィルムに関し、該フィルムは、以下の条件を満たす。
(v)400nm<λ<650nmに対して、
|Δnth(λ)|<0.0001
【0028】
そのようなナノコンポジットは、光学フィルムが実質的にゼロの複屈折分散を得るために有用である。
【0029】
本発明は、また、有機−無機のナノコンポジットを使用してフィルムを作製し、該フィルムの面外複屈折分散を制御する新規な方法を提供する。このナノコンポジット材料は、高い透過率及び低いヘイズを示す。
【0030】
実施形態は、次の詳細な記載を添付図面と共に読めば最もよく理解される。様々な特徴は必ずしも正確な縮尺では描かれていないことを強調しておく。実際、寸法は任意に増加又は減少してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の好ましい実施形態を参照ながら記載してきたが、当業者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、そのような実施形態の変更/改変を行うことが理解できよう。
【0032】
上記したように、本発明は、望ましい面外複屈折(Δnth)挙動を有する材料の簡単な形成方法を提供する。さらに、本発明は、そのような材料を加工して、所望のΔnthの分散挙動を有する塗膜、自己支持性フィルム、又は物品を作製する方法を提供する。本発明は、高い光透過率あるいは透明性及び低いヘイズ値を有する柔軟なフィルムを形成するために用いることができる。これらの、及び他の利点は下記の詳細な記載から明らかとなる。
【0033】
図3に関して、以下の定義が、本明細書の記載に適用される。
【0034】
文字「x」、「y」及び「z」は、得られたフィルム(301)に関する方向を定義しており、xとyがフィルム面内で互いに垂直にあり、及びzはフィルム面に垂直である。
【0035】
用語「光軸」は、伝播光が複屈折を感じない方向を意味する。ポリマー材料では、光軸はポリマー鎖と平行である。
【0036】
用語「n」、「n」及び「n」は、それぞれx、y及びz方向のフィルム屈折率である。
【0037】
「C−プレート」は、n=nであり、nがn及びnとは異なる板又はフィルムを意味する。通常、材料がフィルムに形成される場合、該フィルムはC−プレートの特性を持つ。
【0038】
ポリマー又は鉱物に関して「固有複屈折(Δnint)」の用語は、(n−n)で定義された数量を意味し、n及びnはポリマーあるいは鉱物の異常光屈折率(n)及び常光屈折率(n)をそれぞれ有する。ポリマーの固有複屈折は、ポリマー鎖に関しての、官能基の偏光性及びそれらの結合角等の要因によって決まる。フィルム等のポリマー製品の屈折率n、n、及びnは、製品の生産工程の条件及びポリマーのΔnintに依存する。
【0039】
フィルムに関して「面外位相のレターデーション(Rth)」の用語は、[n−(n+n)/2]dによって定義される数量であり、dは図3に示すフィルム301の厚みである。数量[n−(n+n)/2]は、「面外複屈折(Δnth)」を指す。
【0040】
用語「面内複屈折」は、フィルム301に関して|n−n|で定義される。
【0041】
用語「非晶質」は、長距離秩序を欠いていることを意味する。したがって、非晶質ポリマーは、X線回折のような技術によって測定されるような長距離秩序度を示さない。
【0042】
ポリマー材料について、指数n、n及びnは、材料のΔnint及びフィルムを形成するプロセスから生じる。様々なプロセス(例えばキャスト、延伸、アニーリング)は、ポリマー鎖の配向が異なった状態を与える。これによって、Δnintと共に、n、n及びnが決定される。一般に、溶液キャスト高分子フィルムは、小さい面内複屈折(λ=550nmにおいて<10−4から10−5)を示す。しかしながら、加工条件及びポリマーの種類によっては、Δnthはより大きくなる場合がある。
【0043】
Δnthが発生するメカニズムは、秩序パラメータSの概念を用いることで説明できる。当業者に周知のように、ポリマーフィルムの面外複屈折は、Δnth-=SΔnintにより得られる。上記したように、Δnintはポリマーの特性によってのみ決定され、一方で、Sは、基本的に、フィルムを形成するプロセスによって制御される。図4Aに示すように、ポリマーフィルム中のポリマー鎖(402)が統計的に平均化された配向方向(404)を有する場合、Sは通常、正であり、そしてS≦1である。一方、図4Bに示すように、ポリマーフィルム中のポリマー鎖(406)がランダムに配向し、それが統計的にx−y面に内にある場合、Sは負の値を取る。例えば、ポリマーの溶液キャストは、そのようなポリマー鎖のランダムな面内配向を生成させることができる。この場合、2つの屈折率n及びnがあるが、これらはフィルム面(図3中のx−y面)内のランダム性のため実質的に等しい。しかしながら、ポリマー鎖がx−y面に多かれ少なかれ限定されるため、nは異なる。負のΔnthを得るために、正のΔnintを有するポリマーが用いられ、正のΔnthを得るためには、負のΔnintを有するポリマーが用いられる。どちらの場合も、n=nであるC−プレートの特性を有する。本発明によるナノコンポジットフィルムは、図4BのようなSが負であるフィルムに関し、ポリマーマトリックスは、Koikeの米国特許第6,586,515号中の押出し成形又は射出成形によって作成されたフィルムと異なり、外力の下では配向していない。他方、本発明でのナノ粒子のインシチュ(in situ)形成は、外力を加えずとも、複屈折に寄与するように粒子を配向させることに貢献するものと考えられる。
【0044】
ほとんどのポリマー材料におけるΔnintの分散挙動は正常である。すなわち、複屈折の絶対値は図1の曲線102、104のようにより長波長λにおいて減少する。これによって、Δnthもまた、正常な分散挙動を有する。本発明によれば、フィルムの分散挙動は、ポリマーと無機のナノ粒子との組み合わせにより制御される。ヘイズ値の望ましくない増加を回避するためには、無機のナノ粒子のサイズがλより十分に小さいことが重要である。ポリマー及び無機のナノ粒子の様々な組み合わせは、複屈折分散の制御のために考慮し得る。上述のように、Δnthはフィルムの面に限定されたポリマー鎖、あるいはポリマーセグメントの光軸がランダム配向であることによって発生するものであり、これは図4Bに示されている。そのため、通常はポリマー鎖及び無機のナノ粒子と平行であるポリマーの光軸の相対的な方向が、うまく定義できない場合がある。また、各成分の光軸のx−y面上での限定の程度だけは定義することができる。これは面内レターデーションの場合とは異なり、x−y面における光軸の相対的な配向及び無機及び有機材料のΔnintの符合の組み合わせによって、分散を制御する4つの可能な方法が与えられる。多数の成分の場合については、生じるΔnthは、ポリマー及び無機のナノ粒子のΔnintの各成分のSが加重された体積付加平均から求められる。
【0045】
例えば、ポリエステルとTiOの組み合わせにおいては、ポリエステルとTiOの両方が、正のΔnthを有しているため、それらの光軸がx−y面内に限定されたランダム配向をしている場合には、負のΔnthとなる。そして、両者がのSが同じ場合には、2つの成分の複合体は、すべてのλにおいて、体積分率加算平均がΔnthとなる。一方で、ポリスチレンとTiOの組み合わせにおいては異なっている。ポリスチレンは負の固有複屈折を持つので、正のΔnthを有する。したがって、十分なTiOが添加された場合には、TiOの添加によって、ポリスチレンの分散挙動だけでなく負のΔnthの符合も変わることとなる。
【0046】
上記したように、有機−無機のナノコンポジットを形成するキーポイントは、混合のスケールである。ポリマーマトリックス中の無機のナノ粒子の典型的なサイズが、光のλより十分に小さくない場合、そのようなナノ粒子が光を散乱してヘイズを発生させるために、透過性が低下する。LCDやその他のディスプレイのmsのような可視光線を含む用途においては、λは350nmのような短波長である。種々の要因を考慮すると、ナノ粒子の好ましいサイズは、すべての方向において200nm未満というべきである。
【0047】
本発明に用いられるナノコンポジット材料は、ポリマー材料のマトリックス中に分散されたナノ粒子を含む。ナノ粒子がポリマー材料内にインシチュで形成されることは特筆すべきである。前記方法の1つの実施形態によれば、ポリマー材料及びナノ粒子前駆体は、単一有機溶剤、あるいは混合有機溶媒中で混合されて、コーティング溶液を形成する。かかる溶媒は実質的にポリマーを溶解し、ナノ粒子前駆体分子がコーティング溶液中で互いに反応するのを実質的に防いでいる。かかるコーティング溶液中では、ナノ粒子前駆体又はその後の中間生成物の凝集が、実質的に回避されており、好都合である。
【0048】
1つの実施形態によれば、ナノコンポジット材料は、以下のように、ポリマーマトリックス中にインシチュで無機のナノ粒子を生成させることによって作成される。
(a)ナノ粒子前駆体及びポリマーが、1種以上の有機溶媒を含む実質的に非水性のキャリア液体に溶解されたコーティング溶液を形成し、該ナノ粒子前駆体は、金属原子と少なくとも2つの加水分解可能な脱離基とを含む重縮合性の反応性金属化合物であり、さらに、該コーティング溶液の成分は、ナノ粒子前駆体がコーティング溶液を基材上に塗布してフィルムを形成する前では実質的に安定及び未反応であるようなものから選択される。
(b)該コーティング溶液を基材に塗布して液体流動塗膜を形成し、次いで、該塗膜から有機溶媒を除去し、ゲルを形成し、
(c)ナノ粒子前駆体を、ポリマーマトリックス中で加水分解及び重縮合反応によりナノ粒子に変換してナノコンポジットを形成し、そして、
(d)該ナノコンポジットを乾燥して残存する有機溶媒を該ナノコンポジットから除去する(その間、さらに縮合反応が起こる場合がある)。
【0049】
ナノ粒子の形態はポリマーマトリックス中での充填率に依存する場合がある。第1の実施形態においては、通常はポリマーマトリックス中のナノ粒子材料の充填率は比較的低く、最終生成物中のナノコンポジットは、該ナノコンポジット中のナノ微粒子縮合生成物の重量で2.0%より高い濃度において、最大寸法が50nm以下のナノ粒子が多数存在することが好ましい。
【0050】
第2の実施形態においては、通常はポリマーマトリックス中のナノ粒子材料の充填率は比較的高く、最終生成物中のナノコンポジットは、該ナノコンポジット中のナノ微粒子縮合生成物の重量で5.0重量%より高い濃度において、短径が50nm未満のナノ粒子が多数存在することが好ましい。様々な形態の中で、多くのナノ粒子は、延伸ストランド又は密充填の形態であってよい。
【0051】
かかる理論に制限されるわけではないが、ポリマーマトリックス内で均質に混合される間は、そのようなナノ粒子によって、有機溶媒がある程度蒸発した後のポリマー材料のゲル形成が実質的に遅らせられるために、ナノ粒子が形成されると考えられる。ゲル中では拡散が遅くなるために、重縮合物は、より大きな粒子へと凝集することが妨げられる。コーティングの前、望ましくはゲル化の前においては、ナノ粒子前駆体又は中間生成物の反応、及び特にナノ粒子の形成を回避すべきである。同様に、コーティング前のコーティング溶液、より好ましくはコーティング溶液をゲル化させる前のコーティング溶液には、5nmを越えるナノ粒子、より好ましくは、2nmを越えるナノ粒子は、実質的に存在していないことが好ましい。
【0052】
ナノ粒子の均質な混合物を得ること、及びそれらのフィルム中での形成及び/又は凝集を遅らせることは、種々の要因によって達成、あるいは促進することができる。そのような要因としては、(1)比較的反応性の低い前駆体、(2)ナノ粒子形成の間、前駆体又は中間体とより相互作用又は相溶性のポリマー、(3)以下に記載するような、より有利な溶媒、及び/又は(4)前段階での加水分解を防止又は制限するアルコールが挙げられる。触媒の使用を回避すること(あるいは制限すること)は、特により反応性の高い前駆体を用いて本発明のナノコンポジットを得る際のさらなる因子となり得る。本発明のナノコンポジットを得るために用いられる別の因子は、前駆体の加水分解に必要な水の存在を制御(あるいは制限)することである。例えば、下記のように、コーティング溶液から水を厳密に除外し、代わりに周囲の水分を利用することで、コーティングされたフィルムに水を導入して、反応を遅らせることができる。前駆体に対する水の割合は、ナノ粒子形成のスピード又はタイミングに影響を与える場合がある。
【0053】
ナノ粒子が比較的大きなサイズであることや、あるいは、移動ウェブ上へコーティングする場合において、ウェブ移動方向にナノ粒子が伸びていることは、ウェブ上に塗布する際、既にナノ粒子が実質的にコーティング溶液中で形成されていることを示しているが、このことによって、望ましくない反応、あるいはナノ粒子形成が十分に遅くないことが立証される場合がある。
【0054】
遷移金属アルコキシド等は元来非常に高い反応性を有するため、気相の水分(湿気)の存在下及び触媒(複数可)の非存在下で加水分解を受けることがある。好ましい1つの実施形態においては、本発明の方法で使用されるナノ粒子前駆体は、その均質な混合物を基材にコーティングした後に、コーティングにおける加水分解に必要な水として周囲の湿気を用いることによって実行される加水分解反応に付される。そのため、加水分解に必要な水は、コーティングの前にはコーティング溶液に含まれていないことが好ましい。加水分解は、ナノ粒子前駆体のナノ粒子中間体への転換を促進する。さらなる縮合反応によって、ナノコンポジット材料が形成される。本明細書の記載が進むにつれてより明らかになるように、加水分解と縮合反応は、必ずしも逐次的に起こる必要はなく、むしろ実質的に同時に起こる場合がある。
【0055】
1つの実施形態では、ナノコンポジットのための反応混合物を形成するために使用されるコーティング溶液は、ポリマー全量に対して、少なくとも5重量%、好ましくは6重量%から33重量%の量のナノ粒子前駆体を含む。より高い充填率、あるいはナノ粒子が望まれる第2の実施形態では、ナノコンポジットのための反応混合物の形成に使用されるコーティング溶液は、ポリマー全量に対して、少なくとも5重量%、好ましくは6重量%から33重量%の量のナノ粒子前駆体を含む。通常、コーティング溶液は、カーテンコーティング、キャスティング又は他の従来の又は公知の技術により基材に塗布されてナノコンポジットの材料を形成する。「コーティング」という用語は、コーティング溶液の薄いフィルムを作成するためのこれら全ての方法に対して一般的な意味で用いられる。
【0056】
本発明の方法は、さらに、基材にコーティング溶液を塗布した後に溶媒を除去することを含む。該基材は移動ウェブであってよい。好ましい実施形態を例証すると、溶媒の除去は、コーティング溶液のフィルムを形成した後に実質的に連続的に行われる。しかしながら、溶媒の除去は、該溶液を形成した後に、実質的に連続的に、又は個々の工程若しくは段階で起こり得る。フィルムを形成する前にコーティング溶液がゲル点に達していないのであれば、任意に、フィルムを形成する前に溶媒を部分的に除去してもよい。
【0057】
コーティングにおける前駆体の実質的な反応又は凝集の前に、ゲル点に到達するように、溶媒は比較的急速に除去するのが好ましい。したがって、溶媒を比較的急速に除去することは、形成される粒子の均質な分散を発生させ、その状態を実質的に維持するのを助長する。
【0058】
加水分解と縮合は、コーティング溶液からの溶媒の除去の間に起こる。ごくわずかではあるが、少しでもあるとすれば、加水分解あるいは縮合は、十分な量の溶媒が除去されてゲル混合物を形成する前に溶液中で起こることが好ましい。従って、溶媒が激減した溶液がゲル形態であるときには、大半の加水分解及び縮合反応が好ましく起きる。(加水分解及び縮合反応は、連続する工程あるいは反応として、しばしば前記したが、通常はある程度、並行的である)。
【0059】
好ましい実施形態では、ナノ粒子前駆体は触媒の非存在下で反応させる。ナノ粒子前駆体が非常に反応性の高い有機金属化合物である場合、触媒の使用は回避すべきである。しかしながら、比較的反応性が弱いナノ粒子前駆体化合物の場合は、有効量の触媒をコーティング溶液に加えてもよいが、その場合においても、ゲルが形成されるまでナノ粒子の形成を遅らせるために、コーティング溶液から水を除去することが望ましいことがある。
【0060】
触媒とは、ナノ粒子形成の反応速度を変える化合物を指す。例えば、触媒は酸性又は塩基性の化合物であってよい。より具体的には、酢酸、HCl、硝酸、KOH、アミン類及びその他、当業者に公知のものが挙げられる。
【0061】
好ましいナノ粒子前駆体に関しては、ナノ粒子への転換が早くなり過ぎるのを防ぐためには、コーティング溶液に所定量の液体の水を直接添加することを回避すべきである。むしろ、ナノ粒子前駆体の加水分解に必要な水の総量を、コーティング前にコーティング溶液に添加しないことが好ましい。より好ましくは、分散した前駆体を含むゲルが形成された後に、十分に少量あるいは微量の水をコーティング溶液に加えるのが望ましい。しかしながら、水は加水分解の反応物質としてだけでなく開始剤としても作用するため、注意深く制御されるべきである。また、水は縮合反応の副生成物でもある。
【0062】
上記したように、コーティング溶液でのナノ粒子前駆体の加水分解を制御する好ましい方法は、環境中の制御された湿気から加水分解用の水を添加することであり、この水は、蒸気拡散あるいは凝縮のどちらかにより、溶媒が蒸発したコーティング溶液表面のゲルに取り込むことができる。
【0063】
湿気を水源として加水分解に用いることによって、コーティング溶液は、ナノ粒子前駆体に対して25重量%未満、好ましくは10重量%未満の水を含有することができる。(それに対して、Okuboらの米国公開特許第2004/004127号は実施例1において、45%の水を使用しているが、ナノ粒子前駆体及び生成するナノ粒子が少量であることを考慮すれば全溶液に対しては0.2%である)。
【0064】
ナノ粒子前駆体が遷移金属アルコキシドである好ましい1つの実施形態では、環境の含水率は、1.0%の相対湿度(RH)から80.0%のRHの範囲が適切である。1つの特定の実施形態においては、相対湿度は5.0%から50.0%RHである。
【0065】
いかなる場合でも、ナノ粒子前駆体が溶液のポリマーマトリックス中で均質に分散されるまでは、任意の形態(液体又は湿気)の水の添加を避け、ナノ粒子、又はそのゲルを生成させることを回避すべきである。上記したように、ナノ粒子前駆体及び/又はその中間体は、実質的なナノ粒子への変換が生じる前は、ポリマーマトリックスのゲル中に存在することが好ましい。
【0066】
加水分解された前駆体は、加水分解が進行するにつれてより親水性になり、比較的疎水性のポリマーから離れて凝集する傾向がある。加水分解反応は非常に速いが、加水分解された前駆体又は中間体の、溶液中での拡散は、ゲルが形成されると非常に遅くなるため、ナノ粒子への変換前においては、ゲルのポリマーマトリックス中での、該粒子前駆体又はその中間体の分散が維持される。それゆえ、形成されたナノ粒子の過度の凝集が防止される。
【0067】
溶媒が蒸発するにつれて、ポリマー鎖がもつれるため、コーティングされた溶液(すなわち、固化前の液体コーティング)中でゲル点に到達する。ポリマー鎖のもつれによって前駆体が広範囲に粒子に変換される前に、溶液の粘度が増大するため、ナノ粒子前駆体又は中間体の拡散は、制限されるか、あるいは遅くなる。また、ナノ粒子前駆体又は中間体の拡散は、金属アルコキシドあるいは他のタイプの前駆体が反応して流動を妨げる3次元構造を形成するゲル化によっても制限される。しかしながら、前駆体の伸びきった鎖のクラスタは、ゲル形成の前にポリマーのもつれによって制限されることが好ましい。というのも、そうでない場合は、ポリマーがクラスタの前駆体と非相溶性であるために巻き戻るかもしれないためである。
【0068】
ゲルは、物性の集結度、及び動的レオメータを使用した1s−1の発振周波数で、10cp(10Pa・s)という高い粘度によって特徴づけられる。
【0069】
上記したように、ナノコンポジットフィルムは、ポリマーマトリックス中に分散されたナノ粒子を含む。このナノ粒子は縮重合性の反応性金属酸化合物の生成物であって、金属原子及び少なくとも2つの加水分解可能な脱離基を含む。
【0070】
本発明によるナノ粒子は、明瞭な境界、あるいはナノ領域の形態でのナノ粒子のいずれかによって特徴づけることができ、暗いコントラスト及び不明瞭な境界を示すか、あるいはTEM顕微鏡写真においてその(解像度による)度合いを変える。
【0071】
ナノ粒子は、ポリマーマトリックスとは異なる(通常はより暗い)電子密度を有し得るために密度勾配が生じ、さらに、ナノ粒子あるいはナノ領域によるそれほど明瞭でない境界が生じる。別々のナノ領域は、個々に又は別々に分散されているナノコンポジットを実質的に含むが、場合によっては互いに融合しているように見える場合がある。
【0072】
かかる理論に制限されるわけではないが、ナノコンポジットにおけるそれほど明瞭でないナノ粒子あるいは曇ったナノ領域は、5nm未満、より好ましくは2nm未満の非常に細かい粒子であってよく、また、完全に縮合あるいは凝集して、より大きなあるいはより明確に境界を示す粒子とはなっていない範囲で固まりとなっていてもよい。電子密度コントラストによって明確にされるように、ナノ粒子及びポリマーマトリックスの境界面は、急な場合も緩やかな場合もある。急な電子密度変化の場合には、より鋭い境界面があり、また、伝送電磁波は2つの異なる媒体で減衰する。一方、緩やかな電子密度変化の場合には、境界面はより捕らえ難くなり、また、例えば、屈折率の変化による散乱が減少するといったより連続的な交替のために、伝送電磁波は減衰する。したがって、ある実施形態、特に比較的より大きなナノ粒子においては、電子密度コントラストがより緩やかであることが有用である。
【0073】
1つの好ましい実施形態において、透過型電子顕微鏡(TEM)によって示されるように、ナノコンポジットは、好ましくはナノコンポジット中のナノ粒子縮合生成物の濃度が2.0重量%超の場合に、平均最大寸法が50nm以下のナノ粒子が存在するという特徴を有することが好ましい(ナノ粒子の濃度は熱重量分析によって測定するか、あるいは、前駆体を100%収率と仮定した理論値よりやや少ない濃度とできる。)。また、そのような好ましいナノコンポジットは透過型電子顕微鏡によって測定されるように、ナノ粒子の平均当量粒径が50nm以下であるという特徴を有し、50nmより大きい最少の寸法を有するナノ粒子は、実質的に存在しないかあるいは比較的数が少ない。
【0074】
第2の実施形態、特により高い充填率の場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって示されるように、ナノコンポジットは、50nm以下のより短い寸法を有する多数のナノ粒子が存在するという特徴を有する。この場合、ナノコンポジット中のナノ粒子の全体の濃度は、通常は少なくとも5.0重量%であり、その濃度は熱重量分析によって測定するか、あるいは、前駆体を100%収率と仮定した理論値よりやや少ない濃度である。関連する実施形態においては、ナノ粒子の濃度は、ナノコンポジットの5.0重量%から25重量%、より好ましくはナノコンポジットの10重量%から20重量%である。ナノ粒子は、延伸ストランド又は密充填のナノ領域の形態を取ることができるが、その形態はナノ粒子縮合生成物及びナノコンポジットの作成に用いられる特定の材料に依存し得る。透過型電子顕微鏡(TEM)によって示されるように、かかる実施形態におけるナノコンポジットは、ナノ粒子がより短い寸法、すなわちTEMの面において50nm以下の幅を持つ不明瞭な境界を有するとの特徴を有し得る。さらに、そのような実施形態におけるナノ粒子は、TEM顕微鏡写真において暗いコントラスト及び不明瞭な境界を示すナノ領域の形態を取り得る。ある特定の実施形態において、ナノコンポジットは、延伸ストランドの形をしている多数のナノ粒子を含み、その幅は、延伸方向に沿って実質的に一定であり、その幅は5nmから50nm、好ましくは10nmから25nmである。第2の特定実施形態では、透過型電子顕微鏡で測定されるように、ナノコンポジットは、濃密に密集しており、50nm以下のより短い寸法を有し、全ての寸法が200nm未満である多数のナノ領域を含むナノ粒子を含有する。そのような実施形態では、TEM顕微鏡写真の50%を超える部分が暗いコントラスト領域を示す場合があるが、これは金属酸化物とポリマーの混合物を示している。
【0075】
延伸ストランドによって特徴づけられたナノコンポジットの場合には、ナノ領域は、繊維状の雲、ウールの糸及び/又はビーズの短鎖の形状に見えたり、あるいはそのようなものとして記述される場合がある。濃密に密集したナノ領域により特徴づけられるナノコンポジットの場合には、ナノ領域は、少なくとも2つの側面がほぼ実質的に平坦な略長方形又はブロック状に見えたり、あるいはそのようなものとして記載される場合がある。ナノ粒子は、ポリマーのマトリックスとは異なる(通常、より暗い)電子密度を有し得るため、密度勾配が生じ、結果としてナノ粒子あるいはナノ領域のあまり明瞭でない境界が生じる。別々のナノ領域は、しばしば互いに融合する場合があり、例えば異なった深さのナノ領域が同じ面に現れるが、それは事実である場合もあれば、見せかけの場合もある。
【0076】
好ましくは、ナノ粒子が延伸ストランドの形状であるナノコンポジットは、平均アスペクト比が5より大きいという特徴を有し得る一方で、密充填のナノ粒子は5未満の平均アスペクト比を有し、その中の最大直径は好ましくは200nm未満であり、より好ましくは100nm未満であり、最も好ましくは50nm未満である。ナノコンポジット材料の光学的用途においては、多くの場合、ナノ粒子がナノコンポジットを横断する光の波長より大きな寸法を有しないことが有用であるので、言及した範囲のナノ粒子は、光の散乱を減少し、透明性等の光学的特性に有用である。
【0077】
5より大きいアスペクト比(延伸ストランド)によって特徴づけられるナノ粒子においては、最大の寸法は、好ましくは400nm未満、より好ましくは200nm未満である。ある実施形態において、かかるナノ粒子の最大の寸法は、10nmから100nmの範囲である。かかるナノ粒子の非延伸方向、あるいは短軸方向の好ましい最小寸法は、1nmから10nmまで変化し得る。
【0078】
本発明のナノコンポジットを作成するために用いられるナノ粒子前駆体は、金属アルコキシド、金属酢酸塩、金属アセチルアセトナート、又はハロゲン化金属であってもよいが、前駆体は有機金属化合物であることが好ましい。
【0079】
好ましい1つの実施形態によれば、ナノ粒子前駆体中の金属原子は、遷移金属である。該遷移金属は、Ti、Ta、Zr、Zn、Ta、Hf、Cr、V及びWであってよい。また、アルカリ土類金属、希土類金属及び3B族、4B族及び5B族の金属が有用である。例えば、金属はAl、Tl、Sn、Sb、Ba、In、Pb及びGe等の非遷移金属であってもよい。2A族金属のバリウムもまた、用いることができる(金属は、純粋な状態で電気伝導性を有し、シリコンのような半導体あるいは絶縁体を形成する元素を含まない元素として定義される。)。好ましい金属は、アルミニウム、インジウム、スズ、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムである。そのようなナノ粒子前駆体の反応から生成される本発明のナノコンポジット中のナノ粒子は、実質的にこれらの金属の対応する酸化物を含むが、これらは当業者に容易に理解できるものである。最も好ましい金属はチタンである。単一の金属酸化物は正のΔnintを有する。例えば、ルチル型酸化チタンは、Δnint=+0.287を示す。複合金属酸化物は負のΔnintにより特徴づけられる。例えばBaTiO、SrTiOアルミニウム酸化物は、負のΔnintを示す。ナノコンポジットを作成するために使用されるコーティング溶液中には、金属原子の代わりにシリコンを含むナノ粒子前駆体を実質的に含まないことが好ましい。シリコン酸化物は弱い複屈折しか有さない。
【0080】
加水分解される配位子、あるいは原子団としては、アルコキシド、アセテート及びハロゲンが例示される。前駆体化合物中で脱離又は加水分解される基は、3から6個の炭素原子を含む。
【0081】
加水分解されない任意の置換基としては、例えば、置換若しくは無置換のアルキル基及び置換若しくは無置換のアリール基を含む。これらのアルキル基及びアリール基の置換基としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基等);シクロアルキル基(例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等);アラルキル基(例えばベンジル基、フェニル基等);アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基等);複素環基(例えばフラニル基、チオフェニル基、ピリジル基等);アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等);アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等);アシル基;ハロゲン原子;シアノ基;アミノ基;アルキルチオ基;グリシジル基;グリシドキシ基;ビニル基;フッ素含有アルキル基;及びフッ素含有アリール基が例示される。
【0082】
ナノ粒子前駆体として有用なチタンを含む化合物としては、例えば、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウム−n−ブトキシド、テトラクロロチタン、チタニウムジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオナート)、チタニウムジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセタート)、チタニウム−ジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオナート)、チタニウムアセチルアセトナート、乳酸チタン、チタニウムトリエタノールアミネート、及びブチルチタニウム二量体が挙げられる。
【0083】
ナノ粒子前駆体として有用なジルコニウム含有化合物の例としては、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドアセチルアセトナート、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドビスアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート、四ヨウ素化ジルコニウム及び酢酸ジルコニウムが含まれる。
【0084】
ナノ粒子前駆体として有用なアルミニウム含有化合物の例としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウム−s−ブトキシド、アルミニウム−ジ−s−ブトキシドアセチルアセトナート、アルミニウム−t−ブトキシド、アルマトラン、アルミニウムフェノキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、及びアルミニウムエチルアセチルアセトナートが含まれる。
【0085】
ナノ粒子前駆体として有用な他の金属含有化合物の例としては、バリウムイソプロポキシド、カルシウムエトキシド、銅エトキシド、マグネシウムエトキシド、マンガンメトキシド、ストロンチウムイソプロポキシド、スズエトキシド、亜鉛メトキシエトキシド、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、アンチモンエトキシド、ヒ素トリエトキシド、ビスマスt−ペントキシド、クロムイソプロポキシド、エルビウムメトキシエトキシド、ガリウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド、鉄エトキシド、ランタンイソプロポキシド、ネオジムメトキシエトキシド、プラセオジムメトキシエトキシド、サマリウムイソプロポキシド、バナジウムトリイソブトキシド、イットリウムイソプロポキシド、テトラメトキシゲルマン、テトラエトキシゲルマン、テトライソプロポキシゲルマン、テトラn−ブトキシゲルマン、セリウムt−ブトキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウムn−ブトキシド、テルルエトキシド、モリブデンエトキシド、ニオビウムエトキシド、ニオビウムn−ブトキシド、タンタルメトキシド、タンタルエトキシド、タンタルn−ブトキシド、タングステン(V)エトキシド、タングステン(VI)エトキシド、及びタングステン(VI)フェノキシドが含まれる。一般論であり、これに限定されるわけではないが、単一の金属酸化物は通常は正の固有複屈折を示す。
【0086】
2種以上の前駆体、例えば異なる金属アルコキシドを、上記した含有量の範囲内で、本発明のナノコンポジットの形成に用いるコーティング溶液に加えてもよい。さらに、ナノ粒子前駆体は、分子に2つの金属原子を有する複合金属アルコキシドであってもよい。複合金属アルコキシドの例としては、アルミニウム銅アルコキシド、アルミニウムチタンアルコキシド、アルミニウムイットリウムアルコキシド、アルミニウムジルコニウムアルコキシド、バリウムチタンアルコキシド、バリウムイットリウムアルコキシド、バリウムジルコニウムアルコキシド、インジウムスズアルコキシド、リチウムニッケルアルコキシド、リチウムニオブアルコキシド、リチウムタンタルアルコキシド、マグネシウムアルミニウムアルコキシド、マグネシウムチタンアルコキシド、マグネシウムジルコニウムアルコキシド、ストロンチウムチタンアルコキシド、及びストロンチウムジルコニウムアルコキシドが挙げられる。この複合金属アルコキシドは、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群から選択される金属を有することが好ましい。一般論であり、これに限定されるわけではないが、多くの複合金属アルコキシドは、負の固有複屈折を示す。本発明によれば、インシチュ処理の後、複合金属酸化物ナノ粒子(例えばバリウムチタン酸化物ナノ粒子)を任意に含むナノコンポジットを形成することができる。ナノ粒子前駆体は、ポリマーと相溶性を有するように選択される。無機粒子前駆体が相溶することによって、ポリマーとの相互作用又は結合作用、あるいは以下にさらに記載されるようにポリマーのマトリックス中の前駆体の存在が促進される。
【0087】
金属酸化物ナノ粒子の中間体、例えば水酸化物の形態は、酸−塩基反応により、炭酸塩及び硫酸塩のような他の塩類にさらに変換することができる。例えば、インシチュで生成された水酸化バリウムは、炭酸バリウムに変換することができ、これは負の複屈折を示す。
【0088】
金属酸化物のナノ粒子は、加水分解及び縮合反応によって前駆体から形成されるが、この反応で水素化された脱離基は、加水分解されたナノ粒子中間体間の反応からの除去可能な生成物である。最初の縮合反応は加水分解と同時に起こる。最終の縮合反応は、加熱による溶媒の蒸発で起こる。最終の縮合反応は、溶媒の除去/乾燥の完了後であっても終了させることができる。最終のナノ粒子をアニールするために、任意にさらなる熱処理を行ってもよい。材料中の水の量、温度及び溶媒のすべては、縮合反応の速度に影響を与える。特定の例示的なプロセスパラメータを、後述する実施例で示す。
【0089】
縮合反応の完了時には、ナノ粒子は水酸基の表面グループ、リガンドの表面グループ、あるいはその両方を含んでいてもよい。そのような表面グループの量を測定するために固体NMRを用いることができる。レーザアブレーションあるいは他の高温プロセスによって作成された従来技術のナノ粒子と比較して、本発明のナノ粒子はより多量のかかる表面グループ、例えば未反応の脱離基を有する。
【0090】
より具体的には、加水分解は、1以上の水酸基が結合した金属を含むナノ粒子中間体を生産する交換反応である。生成するナノ粒子中間体は、ポリマーマトリックスに囲まれた分子の会合体の場合がある。水酸基及びリガンド基の両方は中間体中に存在してもよい。ナノコンポジット中間体中の水酸基が反応する場合に、縮合反応が起きる。
【0091】
好ましい1つの実施形態では、ナノ粒子前駆体は、有機金属の物質であり、例えば下記式で表される金属アルコキシドである。
M(OR) (1)
(式中、Mは金属であり、nは金属Mの原子価であり、典型的には2から5、好ましくは3又は4であり、x=2からnであり、y=0からn−xであり、R及びRは、それぞれ独立して選択される有機置換基である)。好ましい1つの実施形態では、ナノ粒子前駆体は、RM(OR)の式中、y=0及びx=4、すなわち、M(OR)である。好ましい1つの実施形態では、前駆体は、チタニウムアルコキシドであり、より好ましくは3から6個の炭素原子を有するチタニウムアルコキシドである。
【0092】
好ましい実施形態では、全てのR基は同じである。特に好ましい1つの実施形態では、x=2、3、又は4であり、y=0、1、又は2である。好ましいR基は、それぞれ独立して、1から12個の炭素原子を有するアルキル基又は置換アルキルである。好ましいR基は、置換若しくは非置換のアルキル、アリル、アクリレート及びアセトアセタートである。
【0093】
金属アルコキシド前駆体を含む特に好ましい1つの実施形態では、ナノ粒子前駆体からナノ粒子への変換をするための反応系列は、概略的に図示することができ、典型的な加水分解反応は以下の通りである。
M(OR)+HO→RM(OR)x−1OH+ROH (2)
同様に、典型的な縮合反応は以下の通りである。
X−OH + HO−Y → X−O−Y + HO (3)
(式中、X及びYは、独立してナノ粒子前駆体の反応中間体であり、式(2)の右辺の中間体、又はそれの縮合及び/又は加水分解生成物を含んでもよい)。したがって、化合物又は物質X−O−Yは、OH、OR又はR末端基を備えた3次元のネットワークの形態を取り得る。
【0094】
この反応シーケンスは、混合物中のポリマーの存在下で起こるが、結果としてポリマーマトリックス中にナノ粒子のナノコンポジットが生成するため、実質的に均質のナノコンポジット材構造が形成される。
【0095】
これによって、ナノ粒子前駆体が加水分解され、縮合反応前に、1以上のOR基が1以上のOH基、好ましくは少なくとも2個のOH基に変換される。その結果、この加水分解によって、1以上の加水分解された金属アルコキシドを含むナノ粒子の中間体が形成されるが、その大半が溶液中で会合している場合がある。副反応物としてはアルコールが生成する。その後、加水分解された金属アルコキシドのナノ粒子中間体は、縮合されてナノ粒子を形成する。金属水酸化物は、最初に金属酸化物のオリゴマーを形成し、最終的には、結果物たるナノ粒子に組み込まれる。
【0096】
好ましい1つの実施形態では、前駆体はチタニウムアルコキシドであり、該アルコキシドは3から6個の炭素原子を有することがより好ましい。
【0097】
好ましくは、充填率が比較的低い場合には、ナノ粒子は5未満の平均アスペクト比を有する。ある実施形態では、これらのナノ粒子の最大寸法は、1.0nmから50nm、より好ましくは20nmから40nmの範囲である。ナノコンポジット材料の光学的用途においては、ナノ粒子が、ナノコンポジットを横断する光の波長より大きな寸法を有しないことが多くの場合有用であるので、言及した範囲のナノ粒子は、光の散乱を減少し、透明性等の光学的特性に有用である。
【0098】
コーティング溶液のための溶媒を選択する際には、溶媒中のポリマーの溶解度のみならず、ナノ粒子前駆体及びその中間体が前段階で反応するのを防ぐためにナノ粒子前駆体を安定化させる能力を考慮すべきである。金属アルコキシド前駆体の場合には、該金属アルコキシド前駆体は非常に反応性が高いため、かかる安定化が特に望ましい。特に相対的に反応性が高い遷移金属アルコキシドの場合にはそのような安定化が望ましい。溶媒は、加水分解反応及び縮合反応の速度に影響を及ぼし得る。
【0099】
金属酸化物は、ポリマーとの親和性が前駆体より弱いため、凝集を防止するためには、ゲル形成前の前駆体及びその中間体を安定化することが好ましい。
【0100】
そのため、溶媒はナノコンポジット中のナノ粒子が望ましくないサイズに達するのを防ぎ、そして比較的より小さい寸法のナノ粒子の形成を促進するのに有用である。
【0101】
溶媒は、例えば測定可能な溶解度パラメータχに基づいて、所望の溶解度を有するポリマーを規定するように選択することができる。用語「溶解度パラメータ」は、次の方程式で定義されるポリマー−溶媒相互作用パラメータχを指す。
ΔG=RT[nlnφ+nlnφ+nφχ] (4)
(式中、ΔGは、混合ギブスエネルギーであり、Tは温度であり、Rは既知の定数である。下付き数字1及び2は、それぞれ、ポリマー及び溶媒を示す。nは、モル分率であり、φは、体積分率である)。特に、ΔGの値が低くなればなるほど、ポリマーと溶媒の間の相互作用は、ますます有利となる。したがって、χが小さいほど、相互作用が良好であることを表わす。χを測定には、散乱法、蒸気圧浸透法及び同様の方法等の多数の技術を用いることができる。χの値は、当業者に公知の標準試料からの情報に基づいて計算され得る。好ましくは、溶解度パラメータは、1.0未満である。
【0102】
コーティング溶液中で使用される溶媒は、ポリマー及びナノ粒子前駆体を溶媒和する、又は溶解する。溶媒は、ポリマー鎖が十分に伸び切ることができるポリマー溶液を供給するものであることが好ましく、伸び切ったポリマー鎖が無機粒子前駆体と十分に相互作用して該前駆体及びその中間体の均質な分散に寄与し得るポリマー溶液を供給するものであることがより好ましい。
【0103】
溶媒は様々な1以上の既知の有機溶媒を用い得る。溶媒は、コーティング溶液の他の成分によって、極性であっても非極性であってもよい。例えば、極性溶媒は、アルコール類、グリコール類、アミド類、エーテル類、ケトン類及びハロゲン化有機溶媒を含む。一方、非極性溶媒は、ベンゼン、キシレン、及びジオキサンを含む。THFやエタノール等の中間の極性を有するいくつかの溶媒を使用することもできる。
【0104】
良好な溶媒の例は、ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、及びシクロヘキサノン等;エーテル類、例えばテトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、及び1,2−ジメトキシエタン等;エステル類、例えばギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、及びγ−ブチロラクトン等;メチルセロソルブ;ジメチルイミダゾリノン;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセタミド;アセトニトリル;ジメチルスルホキサイド;スルホラン;ニトロエタン;及び塩化メチレンを含む。好ましい溶媒はブタノール、ジメチレンクロライド、ベンゼン及びTHFを含む。溶媒の混合物も用い得る。
【0105】
アルコール類は、遷移金属アルコキシドあるいは他の比較的反応性のナノ粒子前駆体のリガンドあるいは脱離基を保護するために使用し得る。該前駆体は反応性であり、加水分解されて重合する傾向がある。そのため、かかるアルコール類は、加水分解と縮合を遅くすることができる。好ましい実施形態においては、本発明のナノコンポジットを作成するために用いられるコーティング溶液用の担体液体は有機溶媒であり、かかる有機溶媒は、エチレングリコール、あるいは少なくとも3個の炭素原子及び少なくとも1個のヒドロキシ基を含み、例えばブタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等の化合物を含む。そのようなアルコール類は、1以上の他の有機溶媒と組み合わせて、少量がコーティング溶液中に存在することが好ましい。メタノール、あるいはエタノールは過剰量の水を含む傾向があるため、担体液体はこれらを実質的に含まないのが好ましい。
【0106】
本発明のナノコンポジットを作成するために用いられるコーティング溶液における担体液体、すなわち溶媒の濃度は、ポリマー鎖がほどけるような濃度である。コーティング溶液における溶媒の濃度は、例えば1重量%から50重量%までの範囲である。より例示的には、その濃度は2重量%から15重量%までの範囲である。
【0107】
本発明のナノコンポジットの作成に用いられるポリマー(又はマトリックスポリマー)は、付加重合体又は縮重合体のいずれであってもよい。ナノコンポジットは、単独のポリマー、2つのポリマー又は同一若しくは異なる複屈折の2以上の複数のポリマーを含み得るが、それらはナノコンポジットの総合的な複屈折分散を制御するための正負の複屈折の組み合わせを含む。本発明のナノコンポジットの複屈折に主として寄与するものは、それが単一ポリマー、あるいはある種のポリマー混合物の如何に関わらず、「複屈折ポリマー」あるいは「1次ポリマー」と呼ばれる。マトリックスポリマーにおける複屈折ポリマーは、発色団を有する非晶質の合成ポリマーを含む。
【0108】
ポリマーに関して、用語「非晶質」は、長距離秩序を欠いているものを意味する。したがって、非晶質ポリマーは、X線回折等の手法によって測定される長距離秩序を示さない。
【0109】
用語「発色団」は、光吸収の単位として作用する原子あるいは原子団として定義される(Nicholas J. Turro編、Benjamin/Cummings Publishing社 「Modern Molecular Photochemistry」 1978年、 カリフォルニア州 Menlo Park、 第77頁)。
【0110】
本発明に用いられるポリマーに有用な発色団基の典型例は、ビニル、カルボニル、アミド、イミド、エステル、カルボナート、芳香族基(すなわちフェニル、ナフチル、ビフェニル、チオフェン、ビスフェノール等の複素環芳香族基又は炭素環芳香族基)、スルホン、及びアゾ、又はこれらの発色団の組み合わせを含む。不可視発色団は、λ=400nmから700nmの範囲の外側に吸収極大を有するものである。
【0111】
ポリマー鎖の光軸に対する発色団の相対的な配向は、Δnintの符合を決定する。発色団が主鎖にあれば、ポリマーのΔnintは正となり、また、発色団が側鎖にあれば、ポリマーのΔnintは負となる。
【0112】
Δnintが負であるポリマーの例は、ポリマー主鎖から離れて不可視発色団を有する材料を含む。そのような不可視発色団は例えば、次のものを含む:ビニル、カルボニル、アミド、イミド、エステル、カルボナート、スルホン、アゾ、及び芳香族の複素環又は炭素環基(例えばフェニル、ナフチル、ビフェニル、ターフェニル、フェノール、ビスフェノールA及びチオフェン)。さらに、これらの不可視発色団の組み合わせ(すなわち、コポリマーの形態)が望ましい場合がある。そのようなポリマー及びそれらの構造の例は、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(4−ビニルビフェニル)(下記式I)、ポリ(4−ビニルフェノール)(式II)、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(式III)、ポリ(メチルカルボキシフェニルメタクリルアミド)(式IV)、ポリスチレン、ポリ[(1−アセチルインダゾール−3−イルカルボニルオキシ)エチレン](式V)、ポリ(フタルイミドエチレン)(式VI)、ポリ(4−(1−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)スチレン)(式VII)、ポリ(2−ヒドロキシメチルスチレン)(式VIII)、ポリ(2−ジメチルアミノカルボニルスチレン)(式IX)、ポリ(2−フェニルアミノカルボニルスチレン)(式X)、ポリ(3−(4−ビフェニリル)スチレン)(式XI)及びポリ(4−(4−ビフェニリル)スチレン)(式XII)を含む。
【0113】
【化1】

【0114】
【化2】

【0115】
【化3】

【0116】
【化4】

【0117】
【化5】

【0118】
【化6】

【0119】
【化7】

【0120】
【化8】

【0121】
【化9】

【0122】
【化10】

【0123】
【化11】

【0124】
【化12】

【0125】
正のΔnintのポリマーの例としては、ポリマー主鎖上に不可視発色団を有する物質が挙げられる。そのような不可視発色団は、例えば、次のものを含む:ビニル、カルボニル、アミド、イミド、エステル、カルボナート、スルホン、アゾ、及び芳香族の複素環若しくは炭素環基(例えばフェニル、ナフチル、ビフェニル、ターフェニル、フェノール、ビスフェノールA、及びチオフェン)。さらに、これらの不可視発色団の組み合わせを有するポリマーは望ましい場合がある(つまりコポリマー中で)。そのようなポリマーの例は、以下のモノマー類を含む、ポリエステル類、ポリカーボネート類、ポリスルホン類、ポリケトン類、ポリアミド類、及びポリイミド類である。
【0126】
【化13】


4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール
【0127】
【化14】


4,4’−ノルボルニリデンビスフェノール
【0128】
【化15】


4,4’−(2,2’−アダマンタンジイル)ジフェノール
【0129】
【化16】


4,4’−(ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン−5−イリデン)ビスフェノール
【0130】
【化17】


4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラクロロビスフェノール
【0131】
【化18】


4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラブロモビスフェノール
【0132】
【化19】


2,6−ジヒドロキシナフタレン
【0133】
【化20】


1,5−ジヒドロキシナフタレン
【0134】
【化21】


2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−フェニル)プロパン
【0135】
ポリマーは、熱力学的により好ましい均質の分散を促進する点から、ナノ粒子前駆体、ナノ粒子中間体、及び/又はナノ粒子生成物の表面に対する親和性を有することが好ましい。ナノ粒子の表面は典型的には、−OH又はリガンドの基(例えば、アルコキシド前駆体を使用する場合はOR基)を含むが、これら両方は良好な電子供与体である。したがって、ポリマー上に電子受容性官能基が存在することによって、ポリマーのナノ粒子表面への親和性を提供あるいは増強することができる。かかる親和性は水素結合を包含する。ポリマー中の、カルボニル、酸、アミド及びエステル等の官能基は、酸性水素の強い受容体として知られており、ナノ粒子中間体のOH基と水素結合を形成することができる。これらの基は、ナノ粒子やその中間体をポリマーマトリックスと適合させるために、ポリマーの主鎖、側鎖あるいは末端に存在させることができる。
【0136】
さらに、ファンデルワールス力は、ナノ粒子及びポリマーの親和性を増強することができる。ナノ粒子及びポリマーの間のそのような相互作用は、重縮合生成物の均質な分散を促進し、ナノコンポジットの透明性に悪影響を及ぼし、結果として不適当なヘイズをもたらす、より大きな粒子への望ましくない凝集を防止すると考えられる。
【0137】
ナノ粒子前駆体のポリマーとの相溶性は、化学結合と配位結合によってももたらされる場合がある。
【0138】
1つの特定実施形態においては、ポリマー鎖中に存在してナノ粒子前駆体及びナノ粒子中間体と反応して化学結合を形成し得る反応性の官能基は、次式によって表わされる金属アルコキシドの官能基を含む。
−C−M−R−OR’ (5)
式中、Mは、Si、又はSi、Ti、Zr及びSnからなる群から選択される金属原子であり、R及びR’はそれぞれ独立して有機基であり、xは0、1、2、又は3であり、yは、1、2、3、又は4であり、x及びyの合計は、4又は4未満である。かかる基は、ナノ粒子前駆体又はナノ粒子中間体と反応して化学結合を形成することができる。他の共役化学も同様に用い得る。
【0139】
以下の表2は、光学フィルムで使用される代表的なポリマーの固有複屈折Δnintの様々な値を示したものである。
【0140】
【表2】

【0141】
ポリメチルメタクリレートのΔnintの値から明らかなように、アクリルポリマー、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)は、本発明によるナノコンポジットにおけるゼロの複屈折分散を得るために好ましい。逆分散を得るための好ましいポリマーは、ポリ(ビニルカルバゾール)等の負のΔnintのビニルポリマー、又はポリエーテルイミド等の正のΔnintの重縮合ポリマーである。
【0142】
本発明のナノコンポジットフィルムにおいては、予備的に選択、制御された分散を得るために、ナノ粒子及びポリマーが各々、互いに符号の異なる固有複屈折Δnintを示してもよい。例えば、ポリマーの固有複屈折Δnintが負である一方で、無機のナノ粒子の固有複屈折Δnintを正とすることができる。あるいは、ポリマーの固有複屈折Δnintが正である一方で、無機のナノ粒子の固有複屈折Δnintを負とすることができる。
【0143】
ポリマー及びナノ粒子の適切な選択によって、複屈折分散が制御されて、逆分散を示し、以下の3つの条件を満たすナノコンポジットフィルムを得ることができる。
(i)400nm<λ<λ<650nmに対して、
|Δnth(λ)|−|Δnth(λ)|>0
(ii) |n−n|<0.0001
(iii)Δnth(450nm)/Δnth(550nm)<0.98、好ましくは0.95
【0144】
別の実施形態においては、複屈折分散が制御されて実質的にフラットな分散を示し、下記条件を満たすナノコンポジットフィルムを得ることができる。
(iv)λ≠λを満足する全ての400nm<λ,λ<650nmに対して、
0.95<|Δnth(λ)|/|Δnth(λ)|<1.050
【0145】
より好ましい実施形態においては、ナノコンポジットフィルムは下記の条件を満足する。
(iv−a)λ≠λを満足する全ての400nm<λ,λ<650nmに対して、
0.98<|Δnth(λ)|/|Δnth(λ)|<1.020
【0146】
ナノコンポジットフィルムが正の複屈折Δnthを示すように設計する場合においては、該フィルムは下記条件を満足する。
(vi)400nm<λ<650nmに対して、
Δnth(λ)>0
一方で、ナノコンポジットフィルムが負の複屈折Δnthを示すように設計する場合においては、該フィルムは下記条件を満足する。
(vii)400nm<λ<650nmに対して、
Δnth(λ)<0
【0147】
本発明のさらに別の実施形態においては、複屈折分散は、実質的にゼロの複屈折を示し、下記条件を満たすナノコンポジットフィルムを得るように制御することができる。
(v)400nm<λ<650nmに対して、
|Δnth(λ)|<0.0001
【0148】
以下の実施例により、本発明の実施を説明する。これらの実施例は、本発明の可能なすべての変形例を網羅することを意図するものでなない。特に断りのない限り、部と%は重量比によるものである。
【実施例】
【0149】
以下の実験では、面内複屈折Δnth及び透過率は、WOOLLAM−2000Vの分光エリプソメータを用いて測定した。
【0150】
用語「D」は、波長550nmにおける複屈折に対する波長450nmにおける複屈折の比率として以下のように定義される。
D=Δnth(450nm)/Δnth(550nm)
【0151】
[実施例1]
15重量%のポリスチレン(PS)(ミシガン州、Dow Chemical社製)のトルエン溶液を調製した。ついで、前記溶液を激しく攪拌しながら、チタニウムイソプロポキシド(TIP)(ペンシルバニア州Aldrich Chemical製)を滴下して加えた。得られたTIP:PSの重量比は10:90であった。透明な溶液が生成した。この溶液を、厚み100マイクロメートル(4ミル)のPET基材上に、室温、20%RHの周囲環境でドクターブレードを用いて塗布した。塗膜は周囲環境(20%RH、21℃)で、24時間乾燥させた。さらに、フィルムを100℃真空下で2時間アニーリングした。3重量%酸化チタンのナノ粒子及び20μmの厚みを有する自己支持性のナノコンポジットフィルムを剥離した。このフィルムは光学的に透明であった。このフィルムの複屈折を、M−2000V(登録商標)分光エリプソメータを用いて測定した。図5Aに示すようにミクロトームで切断した薄片のTEM分析は、酸化チタンのナノ粒子が混合物中で均一に分布していることを示し、該混合物において、酸化チタンリッチのコントラストが暗い領域は、主に50nm未満のサイズの形態であった。
【0152】
[比較例1]
15重量%のポリスチレン(PS)(ミシガン州、Dow Chemical社製)のトルエン溶液を調製した。この溶液を、厚み100ミクロン(4ミル)の剥き出しのPET基材上に、室温、20%RHの周囲環境でドクターブレードを用いて塗布した。塗膜は周囲環境(20%RH、21℃)で、24時間乾燥させた。ついで、20マイクロメートルの厚みのPSフィルムを剥離した。このフィルムは光学的に透明であった。TEM分析によれば、粒子サイズは、2nmから70nmの間であった。このフィルムの複屈折を、M−2000V(登録商標)分光エリプソメータを用いて測定した。
【0153】
実施例1及び比較例1のフィルムの複屈折スペクトルを、図5に示す。図5から、PSフィルムは正常な複屈折分散(曲線502)を示すのに対して、本発明によって実質的にフラットなΔnthの分散(曲線504)を達成できることがわかる。
【0154】
[実施例2]
2重量%のPVK(ポリ(9−ビニルカルバゾール))(ペンシルバニア州Aldrich Chemical製)のトルエン溶液を調製した。次に、20重量%のチタニウムイソプロポキシド(TIP)(ペンシルバニア州Aldrich Chemical製)のトルエン溶液を調製した。PVK溶液を激しく攪拌しながら、TIP溶液を滴下して加えた。得られたTIP:PVKの重量比は50:50であった。透明な溶液が生成した。この溶液を、25マイクロメートル(1ミル)のギャップのドクターブレードを使用して室温、20%RHの周囲環境でガラス上に塗布した。塗膜を周囲環境(20%RH、21℃)の下、2時間乾燥した。該塗膜を、さらに70℃、真空下で1晩乾燥して、酸化チタンのナノ粒子を22重量%有するナノコンポジットフィルムを生成した。このフィルムは光学的に透明であった。このフィルムの複屈折を、M−2000V(登録商標)分光エリプソメータを用いて測定した。
【0155】
[比較例2]
2重量%のPVK(ポリ(9−ビニルカルバゾール))(ペンシルバニア州Aldrich Chemical製)のトルエン溶液を調製した。この溶液を、25マイクロメートル(1ミル)のギャップのドクターブレードを使用して室温、20%RHの周囲環境でガラス上に塗布した。塗膜を周囲環境(20%RH、21℃)の下、2時間乾燥した。該塗膜を、さらに70℃、真空下で1晩乾燥した。このフィルムは光学的に透明であった。このフィルムの複屈折を、M−2000V(登録商標)分光エリプソメータを用いて測定した。
【0156】
実施例2と比較例2のフィルムの複屈折スペクトルを図6に示す。図6から、比較のPVKフィルムはΔnthが正常な複屈折分散(602)を示したのに対して、本発明によるナノコンポジットフィルムは、実質的にフラットな面外複屈折分散(604)を示したことがわかる。
【0157】
[実施例3]
5重量%のPVK(ポリ(9−ビニルカルバゾール))(ペンシルバニア州Aldrich Chemical製)のトルエン溶液を調製した。次に、PVK溶液を激しく攪拌しながら、チタニウムイソプロポキシド(TIP)(ペンシルバニア州Aldrich Chemical製)を滴下して加えた。得られたTIP:PVKの重量比は30:70であった。透明な溶液が生成した。この溶液を、25マイクロメートル(1ミル)のギャップのドクターブレードを使用して室温、20%RHの周囲環境でガラス上に塗布した。塗膜を周囲環境(20%RH、21℃)の下、2時間乾燥した。該塗膜を、さらに70℃、真空下で1晩乾燥して、酸化チタンのナノ粒子を22重量%有するナノコンポジットフィルムを生成した。このフィルムは光学的に透明であった。このフィルムの複屈折を、M−2000V(登録商標)分光エリプソメータを用いて測定した。
【0158】
図7に示されるように、塗膜のΔnthは逆分散(曲線702)を示す。
【0159】
表3は上記の実施例及び比較例の複屈折をまとめている。本発明によるナノコンポジットフィルムは、フラット分散又は逆分散のいずれかを示すことが示されている。
【0160】
【表3】

【0161】
[実施例4]
本実施例及び後述の実施例5は、フィルムが一定の低いΔnthを示す本発明の実施形態を説明する。重量比でDCM(ジクロロメタン)中20重量%のPMMAを含有する溶液を、COWELSミキサーを用いて激しく攪拌しながら、前駆体としてのTIP、及び残りの有機溶媒としてDCMを滴下して加えた。得られたTIPとPMMAの重量比は、5:95であった。TIP溶液の添加に続いて、超音波処理して気泡を取り除いた。次いで、超音波処理された混合物を、21℃の制御された温度及び30%RHで、ドクターブレードを用いて剥き出しのポリエステルシートに塗布した。乾燥速度を遅くするために、コーティング後すぐのポリエステルシートを、前もって準備しておいた箱を用いて覆った。
【0162】
60分後に、乾燥したフィルムにかみそりの刃で刻み目をつけて、ポリエステル担体シートから持ち上げた。得られた自己支持性のフィルムは50℃で真空オーブン中、1晩乾燥した。
【0163】
得られたフィルムは、光学的に透明であり、33マイクロメートルの厚みを有していた。
【0164】
[実施例5]
重量比でDCM中20重量%のPMMAを含有する溶液を、COWELSミキサーを用いて激しく攪拌しながら、前駆体としてのTIP、及び残りの有機溶媒としてDCMを滴下して加えた。得られたTIPとPMMAの重量比は、5:95であった。TIP溶液の添加に続いて、超音波処理して気泡を取り除いた。次いで、超音波処理された混合物を、21℃の制御された温度及び30%RHで、ドクターブレードを用いて剥き出しのポリエステルシートに塗布した。乾燥速度を遅くするために、コーティング後すぐのポリエステルシートを、前もって準備しておいた箱を用いて覆った。
【0165】
60分後に、乾燥したフィルムにかみそりの刃で刻み目をつけて、ポリエステル担体シートから持ち上げた。得られた自己支持性のフィルムは50℃で真空オーブン中、1晩乾燥した。得られたフィルムは、光学的に透明であり、74ミクロンの厚みを有していた。
【0166】
[比較例3]
20重量%PMMA溶液をDCM中で作製した。次に、この溶液を21℃の制御された温度及び30%RHで、ドクターブレードを使用して剥き出しのポリエステルシートに塗布した。乾燥速度を遅くするために、コーティング後すぐのポリエステルシートを、前もって準備しておいた箱を用いて覆った。
【0167】
60分後に、乾燥したフィルムにかみそりの刃で刻み目をつけて、ポリエステル担体シートから持ち上げた。得られた自己支持性のフィルムは50℃で真空オーブン中、1晩乾燥した。得られたフィルムは、光学的に透明であり、28ミクロンの厚みを有していた。
以下の表は、得られたフィルムの光学的透過率及び複屈折を示す。
【0168】
【表4】

【0169】
表3に示す結果から、実施例4、実施例5、及び比較例3は、実質的にゼロの面内複屈折を示しており、それらがC−プレートの特性を有することがわかる。さらに、Δnthは、実施例4及び5では実際上ゼロである。一方、比較例3は、Δnth=0.0002の有限値を有する。図8は、さらに、実施例4(802)及び実施例5(804)のフィルムのRthが、400nmから1100nmの波長範囲で2nm未満であることを示している。したがって、|Δnth|の対応する値は、400nmから1100nmの間のすべての波長において、0.0001未満である。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】正及び負の面外分散、及び実質的に一定の分散及び正常分散を含む様々な複屈折分散挙動を示すグラフである。
【図2】逆分散挙動を示す正及び負の面外複屈折を示すグラフである。
【図3】厚みd、及びフィルム面内でxとyが互いに垂直に位置し、かつ、zがフィルム面内に垂直である、「x」、「y」及び「z」方向の次元を有する典型的なフィルムを示している。
【図4A】ポリマー鎖が統計的に平均化された配向方向を有するポリマーフィルムを示している。
【図4B】ポリマー鎖がランダムに配向しているが、フィルムのx−y面内に統計的に限定されているポリマーフィルムを示している。
【図5A】実施例1のナノコンポジット材料の透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
【図5B】実施例1及び比較例1によるフィルムの複屈折スペクトルを示している。後者のフィルムは正常な複屈折分散を有し、前者のフィルムは、本発明によるものであり、Δnthが実質的にフラットな分散を有している。
【図6】実施例2及び比較例2によるフィルムの複屈折スペクトルを示している。比較例のフィルムは、Δnthが正常な複屈折分散を示すのに対し、本発明によるナノコンポジットフィルムは、実質的にフラットな面外複屈折分散を示した。
【図7】実施例3によるフィルムの複屈折スペクトルを示す。該フィルムは、Δnthが逆分散を示す。
【図8】本発明の実施例4及び5によるフィルムのレターデーションRthを示し、該レターデーションは、400nmから1100nmの波長範囲で2nm未満である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリマーを含むポリマーマトリックス中に分散されたナノ粒子を含有し、該ナノ粒子は該ポリマーマトリックス中にインシチュで形成されており、かつ、同時に以下の3つの条件を満たす、ナノコンポジットフィルム。
(i)400nm<λ<λ<650nmに対して、
|Δnth(λ)|−|Δnth(λ)|>0
(ii) |n−n|<0.0001
(iii)Δnth(450nm)/Δnth(550nm)<0.98
【請求項2】
少なくとも1種のポリマーを含むポリマーマトリックス中に分散されたナノ粒子を含有し、該ナノ粒子は該ポリマーマトリックス中にインシチュで形成されており、かつ、以下の条件を満たす、ナノコンポジットフィルム。
(iv)λ≠λを満足する全ての400nm<λ,λ<650nmに対して、
0.95<|Δnth(λ)|/|Δnth(λ)|<1.050
【請求項3】
少なくとも1種のポリマーを含むポリマーマトリックス中に分散されたナノ粒子を含有し、該ナノ粒子は該ポリマーマトリックス中にインシチュで形成されており、かつ、以下の条件を満たす、ナノコンポジットフィルム。
(v)400nm<λ<650nmに対して、
|Δnth(λ)|<0.0001
【請求項4】
前記フィルムが以下の条件を満たす、請求項2記載のナノコンポジットフィルム。
(iv−a)λ≠λを満足する全ての400nm<λ,λ<650nmに対して、
0.98<|Δnth(λ)|/|Δnth(λ)|<1.020
【請求項5】
前記フィルムが以下の条件を満たす、請求項1又は2記載のナノコンポジットフィルム。
(vi)400nm<λ<650nmに対して、
Δnth(λ)>0
【請求項6】
以下の条件を満たす、請求項1又は2記載のフィルム。
(viii)400nm<λ<650nmに対して、
Δnth(λ)<0
【請求項7】
前記ナノ粒子が金属酸化物である、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項8】
前記ナノ粒子及び前記ポリマーが、それぞれ互いに符号の異なる固有複屈折Δnintを有する、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項9】
前記ポリマーの固有複屈折Δnintが負であり、かつ、前記無機ナノ粒子の固有複屈折Δnintが正である、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項10】
前記ポリマーの固有複屈折Δnintが正であり、かつ、前記無機ナノ粒子の固有複屈折Δnintが負である、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項11】
ポリマーマトリックスが2種以上のポリマーを含み、かつ、ナノ粒子が2種以上の金属酸化物を含む、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、金属原子と少なくとも2つの加水分解可能な脱離基とを含む重縮合性の反応性金属化合物の生成物であり、かつ、前記ナノコンポジット中のナノ粒子が均一に分散されている、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項13】
前記ポリマーが付加重合ポリマー又は縮重合ポリマーである、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項14】
前記ポリマーが、負の固有複屈折を有し、かつ、ビニルカルバゾール若しくはスチレン、又はそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項1又は2記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項15】
前記ポリマーが、正の固有複屈折を有し、かつ、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン又はそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項1又は2記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項16】
前記ポリマーが、アクリルポリマーである、請求項3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項17】
前記ポリマーが、ポリ(メチルメタクリレート)である、請求項16記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項18】
50nm以下の最大寸法を有するナノ粒子を主として含む、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項19】
前記金属原子が、遷移金属又は周期律表の3B族又は4B族の金属である、請求項12記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項20】
前記金属原子が、アルミニウム、チタン、スズ、インジウム、及びジルコニウムからなる群から選択される、請求項19記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項21】
前記ナノコンポジットが、波長550nmの光に対して、少なくとも85%の透過率を有する、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項22】
前記ナノコンポジットフィルムの厚みが、10nmから200μmの範囲にある、請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項23】
前記ナノ粒子の濃度が、ナノコンポジットの5.0重量%から25重量%であり、ナノコンポジット中のナノ粒子が、均一に分散されており、透過電子顕微鏡法で測定した場合の短径が50nm以下である複数のナノ粒子を含み、延伸ストランド又は密充填の形態を有している、請求項1記載のナノコンポジットフィルム。
【請求項24】
請求項1のナノコンポジット材料をフィルムに形成する製造方法であって、下記工程によって前記ポリマーマトリックス内にインシチュでナノ粒子を形成させることを含むナノコンポジット材料の製造方法。
(a)ナノ粒子前駆体及びポリマーが、1種以上の有機溶媒を含む実質的に非水性のキャリア液体に溶解されたコーティング溶液を形成する工程であり、該ナノ粒子前駆体は、金属原子と少なくとも2つの加水分解可能な脱離基とを含む重縮合性の反応性金属化合物である;
(b)該コーティング溶液を基材に塗布して塗膜を形成し、次いで、該塗膜から有機溶媒を除去し、それによりゲルを形成する工程;
(c)該ナノ粒子前駆体を、ポリマーマトリックス中でナノ粒子に変換し、ナノコンポジットを形成する工程;及び
(d)該ナノコンポジットを乾燥して残存する有機溶媒を該ナノコンポジットから除去する工程。
【請求項25】
前記工程(a)におけるコーティング溶液の成分が、コーティング溶液を基材に塗布する前では、ナノ粒子前駆体は実質的に安定であり、未反応であるように選択される、請求項24記載の製造方法。
【請求項26】
少なくとも1つの請求項1、2、又は3記載のナノコンポジットフィルムを用いた表示装置。
【請求項27】
前記ナノコンポジットフィルムが、液晶ディスプレイの光学素子であり、該フィルムが透明な基材上にコーティングされている、請求項1、2、又は3記載の表示装置。
【請求項28】
前記基材が偏光子保護フィルムである、請求項27記載の表示装置。
【請求項29】
前記ナノコンポジットフィルムが偏光子保護フィルムである、請求項27記載の表示装置。
【請求項30】
少なくとも1つのフィルムが透明な補償フィルムである請求項1又は2記載のナノコンポジットフィルムを用いた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−505154(P2009−505154A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526987(P2008−526987)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/030776
【国際公開番号】WO2007/024463
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】