説明

ナノコンポジット磁石の製造方法

【課題】適切な粒径のFe粒子を含むナノコンポジット磁石を製造する方法を提供する。
【解決手段】界面活性剤を含む溶媒中のNd2Fe14B化合物粒子の分散液と、界面活性剤を含む溶媒中のFe粒子の分散液を混合し、次いで両親媒性溶媒を添加しながら攪拌してNd2Fe14B化合物粒子の表面上にFe粒子を担持させ、乾燥、焼結することによりNd2Fe14B化合物粒子の粒界にFe粒子を含むナノコンポジット磁石を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種モーター等において永久磁石として使用されるナノコンポジット磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石は、エレクトロニクス、情報通信、産業用・自動車用モーター等の広範な分野において用いられているが、近年、より一層の高性能化、小型軽量化が要求されている。現在、高性能磁石としてNd2Fe14B化合物(ネオジム磁石)が広く用いられているが、さらなる高性能化を目的として様々な提案がなされている。
【0003】
そのような高性能化の1つのアプローチとして、磁化の高い軟磁性相と保磁力の高い硬磁性相が同一金属組織内に均一に分布し、交換相互作用によって両者が磁気的に結合したナノコンポジット磁石が開発されている(例えば、特許文献1参照)。このナノコンポジット磁石は、原料合金の溶湯を急冷して急冷凝固合金を作製し、この急冷凝固合金を熱処理して硬磁性相の内部にFe微粒子を分散させることにより製造され、熱処理の条件を制御することで微細なFe相が内部に分散するとされている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−59708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法では、熱処理条件によってはFeの結晶粒子が粗大化したり、Nd2Fe14B化合物が分解してしまい、大量合成の必要な工業的手法には向かないという問題がある。本発明は、このような問題を解消し、適切な粒径のFe粒子を含むナノコンポジット磁石を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために本発明によれば、Nd2Fe14B化合物粒子の粒界にFe粒子を含むナノコンポジット磁石の製造方法であって、界面活性剤を含む溶媒中のNd2Fe14B化合物粒子の分散液と、界面活性剤を含む溶媒中のFe粒子の分散液を混合し、次いで両親媒性溶媒を添加しながら攪拌してNd2Fe14B化合物粒子の表面上にFe粒子を担持させ、乾燥、焼結することを含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Nd2Fe14B化合物粒子の分散液とFe粒子の分散液を混合し、両親媒性溶媒を添加しながら攪拌すると、界面活性剤で覆われているためNd2Fe14B化合物粒子同士又はFe粒子同士の衝突による凝集を防ぐことができ、徐々に添加する両親媒性溶媒によって界面活性剤が徐々に除去されることにより、ナノオーダーのFe粒子がサブミクロンオーダーのNd2Fe14B化合物粒子の表面上に担持されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のナノコンポジット磁石の製造方法を詳細に説明する。本発明のナノコンポジット磁石の製造方法においては、まずNd2Fe14B化合物粒子を、界面活性剤を含む溶媒中に加え分散させる。Nd2Fe14B化合物粒子は、グローブボックス中で単ロール炉で製造したNd2Fe14Bアモルファスリボンをカッターミルを用いて粉砕することにより得られる。このNd2Fe14B化合物粒子の粒径は軟磁性相を構成するFe粒子との複合化による効果を達成するためサブミクロンオーダー、すなわち500nm〜2μmであることが好ましい。Nd2Fe14B化合物粒子は溶媒に加える前に上記粒径となるよう粉砕してもよく、溶媒に加えた後、ビーズミル等によって粉砕してもよい。
【0009】
溶媒は、その後の混合、攪拌操作において安定であるものであることが好ましく、例えばケロシン、ヘキサン等を用いることができる。
【0010】
界面活性剤としては、オレイルアミン、オレイン酸、テトラエチレングリコール等を用いることができる。界面活性剤を添加することにより、Nd2Fe14B化合物粒子を溶媒中に安定に分散させた状態を保持することができ、また攪拌によるNd2Fe14B化合物粒子の凝集を防ぐことができる。
【0011】
この界面活性剤を含む溶媒中のNd2Fe14B化合物粒子の分散液とは別に、Fe粒子の界面活性剤を含む溶媒中の分散液を調製する。Fe粒子の粒径は、硬磁性相を構成するNd2Fe14B化合物粒子との複合化による効果を達成するため、ナノオーダー、すなわち2〜50nmであることが好ましく、2〜10nmであることが特に好ましい。Fe粒子の分散液は、Fe粒子を粉砕し、界面活性剤を含む溶媒中に分散させることによっても調製することができるが、Fe粒子をナノオーダーにまで粉砕することは困難である。従って、Fe先駆物質を還元や熱分解等によってFe粒子を析出させて調製することが好ましい。このFe先駆物質としては、還元や熱分解等によってFe粒子を析出させるものであればよく、例えば鉄アセチルアセトナート、ペンタカルボニル鉄、Feの塩(例えばFeCl3、FeSO4)等を用いることができる。
【0012】
例えば、Fe先駆物質として鉄アセチルアセトナートを用いる場合、鉄アセチルアセトナートは有機溶媒に溶解し、鉄はイオンとして存在するため、還元することによりFe粒子を析出させることができる。この場合、還元剤としてポリオールを用い、ポリオール還元を行うことが好ましい。このようなポリオールとしては、1,2−オクタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール等を用いることができる。
【0013】
このFe先駆物質を溶解させるため、及び還元を行うため、反応系を加熱することが好ましい。特に、還元を完全に行うため、200℃以上に加熱することが好ましい。加熱時間(還元時間)は、加熱温度によっても異なり、十分に還元し、Fe粒子が析出するように選択する。
【0014】
Fe先駆物質としてペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)を用いる場合、熱分解させることによりFe粒子を析出させることができる。この熱分解させる際の加熱温度は150℃以上にすることが好ましい。
【0015】
Fe先駆物質としてFeの塩を用いる場合、Feの塩は有機溶媒に溶解しないため、逆ミセルを形成し、これを溶媒中に分散させて還元することによってFe粒子を析出させる。一般的にミセルとは界面活性剤の作用で水相中に油滴を閉じ込めた系を意味するが、これに対して逆ミセルとは、界面活性剤の採用で油相中に水滴を閉じ込めた系を意味し、界面活性剤によってFeの塩を溶媒中に閉じ込め、分散させたものである。ここで界面活性剤としては、一般的に逆ミセルの形成において用いられているポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、AOT(ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム)等を用いることができる。
【0016】
以上のようにして溶媒中でFe粒子を析出させることにより、Fe粒子の分散液を調製することができる。こうして得られたNd2Fe14B化合物粒子の分散液とFe粒子の分散液を混合する。ここで、Nd2Fe14B化合物粒子分散液とFe粒子分散液の混合液中に存在するFe粒子のモル数で、0.04〜0.05モル/Lとなるように混合することが好ましい。混合液中のFeの濃度が0.04モル/Lより少ないと、十分なFe量を担持させることができず、また界面活性剤の付着量が少ないために両親媒性溶媒を添加した際に容易に界面活性剤の膜が破れ、Fe粒子の凝集による粗大化が起こる。また混合液中のFeの濃度が0.05モル/Lより多いと、Fe粒子の担持量が多くなるため、硬磁性相であるNd2Fe14B化合物粒子の間隔が広くなり過ぎ、ナノコンポジット磁石の特性が不十分となる。従って、この数値範囲外でもナノコンポジット磁石としての特性は得られないことはないが、十分な特性を得るためにはこの数値範囲内とすることが望ましい。
【0017】
Nd2Fe14B化合物粒子の分散液とFe粒子の分散液を混合した後、この混合液に両親媒生溶媒を徐々に添加しつつ、激しく攪拌する。この両親媒生溶媒はNd2Fe14B化合物粒子の表面及びFe粒子の表面に存在する界面活性剤を溶解除去することができる溶媒であり、例えばアセトン、THF(テトラヒドロフラン)、エチルアルコール等を用いることができる。この両親媒性溶媒を加えなければ、Nd2Fe14B化合物粒子及びFe粒子は界面活性剤により保護されているため、攪拌混合しても粒子同士が結合し、凝集することはないが、両親媒性溶媒を徐々に加えることにより、Nd2Fe14B化合物粒子の表面及びFe粒子の表面に存在する界面活性剤が徐々に除去され、界面活性剤が除去されたNd2Fe14B化合物粒子の表面上においてFe粒子が結合し、担持されることになる。ここで両親媒生溶媒を一気に添加すると、Nd2Fe14B化合物粒子の表面及びFe粒子の表面に存在する界面活性剤がすみやかに除去され、粒子同士の凝集が起こり、特にFe同士が凝集し、Fe粒子の粒径が大きくなってしまうため好ましくない。両親媒性溶媒の添加速度は、界面活性剤の種類は濃度等によっても異なるが、一般に1mL/min以下とすることが好ましい。
【0018】
こうして表面にFe粒子が担持したNd2Fe14B化合物粒子を乾燥し、焼結することにより、ナノコンポジット磁石を得ることができる。この焼結は、Feの自己拡散が促進される直上の温度、かつFe粒子の成長を抑制するため可能な限り低い温度(300〜550℃)で行うことが好ましい。焼結手法としては、SPS,ホットプレス等、水素還元雰囲気下で行うことが好ましい。
【実施例】
【0019】
グローブボックス中で単ロール炉を用いて作製したNd2Fe14Bアモルファスリボンをカッターミルを用いて粉砕した。さらにオクチルエーテルにオレイン酸及びオレイルアミンを加えた系に上記カッターミルで粉砕したNd2Fe14Bを加え、φ500μmのビーズを用いたビーズミルで6時間粉砕した。こうして得られたNd2Fe14Bの粒子0.3gを、10mLのオレイン酸及び10mLのオレイルアミンと共に、30mLのケロシン中に加え、超音波によってNd2Fe14B粒子を分散させた。図1に、光散乱法によって測定した、この分散液中のNd2Fe14B粒子の粒度分布を示す。
【0020】
次いで、鉄アセチルアセトナート5mmolをオレイン酸8mL、オレイルアミン8.5mLに160℃で溶解し、温度を230℃に上げた後、還元剤(ヘキサデカンジオール)7.5mmolを加えて1時間反応させた。その後ヘキサンを加えて全量を50mLとした。このように調製したFe粒子の分散液(50mL中にFe粒子0.28g)を、以下の表1に示す割合で加えた。すなわち、50mL中に0.3gのNd2Fe14B粒子を含む分散液50mLに対し、50mL中に0.28gのFe粒子を含む分散液の量を変えて添加することによりFe粒子の量を変えた。例えば、添加したFe分散液の量が35.7mLの場合、35.7/50×0.28=0.2gのFe粒子を添加したことになる。各粒子の量を体積比で表したもの及び混合液中のFe粒子のモル濃度もあわせて表1に記載した。図2に、SAXASにより測定した、このFe分散液中のFe粒子の粒度分布を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
この混合液にアセトンを1mL/minの速さで150mL加えた。粒子を沈降させて、上澄みを除去し、アセトンの添加、沈降を数回繰り返して粒子を洗浄した。
【0023】
得られたサンプルのTEM観察結果を図3に示す。また、このTEM像より、生成したFe粒子の粒径を測定し、結果を図4に示す。さらに、Fe粒子の投入量変化による、生成するFe粒子の粒径変化を図5に示す。いずれのサンプルにおいてもサブミクロンオーダーのNd2Fe14B粒子上に10〜20nm程度の球状のFeのナノ粒子の生成が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例において用いたNd2Fe14B粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図2】実施例において用いたFe粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図3】実施例において得られたNd2Fe14B/Fe複合粒子のTEM写真である。
【図4】実施例において得られたFe粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図5】Fe粒子投入量とFe粒子の平均粒径の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd2Fe14B化合物粒子の粒界にFe粒子を含むナノコンポジット磁石の製造方法であって、界面活性剤を含む溶媒中のNd2Fe14B化合物粒子の分散液と、界面活性剤を含む溶媒中のFe粒子の分散液を混合し、次いで両親媒性溶媒を添加しながら攪拌してNd2Fe14B化合物粒子の表面上にFe粒子を担持させ、乾燥、焼結することを含む方法。
【請求項2】
Fe粒子の量がNd2Fe14B化合物粒子分散液とFe粒子分散液の混合液中に存在するFe粒子のモル数で0.04〜0.05モル/Lである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Nd2Fe14B化合物粒子の粒径が500nm〜2μmである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
Fe粒子の粒径が2〜50nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
Nd2Fe14B化合物粒子とFe粒子の混合割合が体積比率で
VFe/VNd2Fe14B=0.1〜1.5
(上式中、VFeはFe粒子の体積であり、VNd2Fe14BはNd2Fe14B粒子の体積である)
である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−135634(P2008−135634A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321721(P2006−321721)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】