説明

ナノスケールセラミック複合材及び製造方法

【課題】 高温で安定なナノスケール寸法の階層的規則性セラミック材料及びその製造方法の提供。
【解決手段】 ナノスケールセラミック複合材(100)の製造方法は、一般に、ポリマーセラミック前駆体を改質する段階、改質ポリマーセラミック前駆体をブロック共重合体と混合して混合物を形成する段階、混合物から規則構造体を形成する段階であって、改質ポリマーセラミック前駆体がブロック共重合体の特定の種類のブロックと選択的に会合する段階、及びナノスケールセラミック複合材(100)の形成に有効な時間及び温度で規則構造体を加熱する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義にはセラミック材料に関する。具体的には、本発明はブロック共重合体支援集合によって製造されるセラミック材料のナノスケール規則複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
長距離規則性を有する複合材料は自然界に存在している。貝殻のような天然の複合材は、こうした材料の独特な階層的規則構造に由来する驚くべき機械的性質を示す。こうした認識を契機として、長距離規則構造をナノスケールレベルで構築することによって自然を模倣しようとする取組みがなされている。ナノスケールの規則性は、ナノメートルスケールからマイクロメートルスケール、さらにはミリメートルスケールの階層的規則構造への第一段階として使用できる。
【0003】
ナノスケール無機規則構造の製造技術には、「トップダウン」型方法(例えば、逐次堆積法及びナノリソグラフィー法)及び「ボトムアップ」型方法(例えば、イオン性及び非イオン性界面活性剤とブロック共重合体とに基づく自己集合)がある。ナノスケール規則性を有するシリカその他の酸化物のような無機セラミック材料は、有機化学種を構造規定剤(SDA; structure−directing agent)として用いる自己集合によって得られてきた。ポリマー前駆体は、窒化ホウ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素及び炭化ケイ素の繊維、コーティング、バルクセラミック、ナノチューブ及びナノファイバーの開発、並びにミクロン乃至サブミリメートル域の寸法の耐熱MEMS(microelectromechanical system)の製造に用いられている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0036931号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0159293号明細書
【非特許文献1】Philippe Miele et al.;“BORYLBORAZINES AS NEW PRECURSORS FOR BORON NOTRIDE FIBRES”;Journal of Organometallic Chemistry 690(2005)2809−2814
【非特許文献2】Carlos B.W.Garcia et al.;“SYNTHESIS AND CHARACTERIZATION OF BLOCK COPOLYMER/CERAMIC PRECURSOR NANOCOMPOSITE BASED ON A POLYSILAZANE”,Journal of Polymer Science:Pert B:Polymer Physics,Vol.41,3346−3350(2003)
【非特許文献3】Marleen Kamperman et al.;“ORDERED MESOPOROUS CERAMICS STABLE UP TO 1500℃ FROM DIBLOCK COPOLYMER MESOPHASES”,J.Am.Chem.Soc.2004,126,14708−14709
【非特許文献4】Vladimir Gevorgyan et al.;“A NOVEL B(C6F5)3−CATALYZED REDUCTION OF ALCOHOLS AND CLEAVAGE OF ARYL AND ALKYL ETHERS AND HYDROSILANES”;J.Org.Chem.2000,65,6179−6186
【非特許文献5】I.L.Rushkin et al.;“MODIFICATION OF A HYPERBRANCHED HYDRIDOPOLYCARBOSILANE AS A ROUTE TO NEW POLYCARBOSILANES”;Macromolecules 1997,30,3141−3146
【非特許文献6】James M.Blackwell et al.;“B(C6F5)3−CATALYZED SILATION OF ALCOHOLS:A MILD,GENERAL METHOD FOR SYNTHESIS OF SILYL ETHERS”;J.Org.Chem.1999,64,4887−4892
【非特許文献7】Thomas Wideman et al.;“AMINE−MODIFIED POLYBORAZYLENES:SECOND−GENERATION PRECURSORS TO BORON NITRIDE”;Chem.Mater.1998,10,412−421
【非特許文献8】Mario G/L.Mirabelli et al.;“TRANSITION−METAL−PROMOTED REACTIONS OF POLYHEDRAL BORANES AND ACETYLENES”;J.Am.Chem.Soc.1988,110,449−453
【非特許文献9】Kai Su et al.;“SYNTHESIS AND PROPERTIES OF POLY(B−VINYLBOAZINE) AND POLY(STYRENE−CO−B−VINYLBOAZINE) COPOLYMERS”;Macromolecules 1991,24,3760−3766
【非特許文献10】Zhencheng Zhang et al.;“SYNTHESIS AND IONIC CONDUCTIVITY OF CYCLOSILOXANES WITH ETHYLENEOXY−CONTAINING SUBSTITUENTS”;Chem.Mater.2005,17,5646−5650
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自己集合法のような現行の合成技術では、高温用途に適したナノスケール構造をもつ階層的規則性セラミック材料は未だ得られていない。したがって、高温で安定なナノスケール寸法の階層的規則性セラミック材料及びその製造方法に対するニーズは依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ナノスケールセラミック複合材の製造方法は、一般に、ポリマーセラミック前駆体を改質する段階、改質ポリマーセラミック前駆体をブロック共重合体と混合して混合物を形成する段階、混合物から規則構造を形成する段階であって、改質ポリマーセラミック前駆体がブロック共重合体の特定の種類のブロックと選択的に会合する段階、及びナノスケールセラミック複合材の形成に有効な時間及び温度で規則構造を加熱する段階を含む。
【0006】
別の態様では、かかる方法は、2種以上のポリマーセラミック前駆体を2種類以上のブロックを含むブロック共重合体と混合して混合物を形成する段階、混合物を自己集合させる段階であって、2種以上のポリマーセラミック前駆体がブロック共重合体の2種類以上のブロックと選択的に会合する段階、一方のポリマーセラミック前駆体の少なくとも一部を架橋させて規則構造を形成する段階、及びナノスケールセラミック複合材の形成に有効な時間及び温度で規則構造を加熱する段階を含む。
【0007】
ポリカルボシランの改質方法は、一般に、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン触媒の存在下でポリカルボシランをアルコール又はエーテルと反応させてシリル基の少なくとも一部を官能化することを含む。
【0008】
ポリカルボシランは概して次式の構造を有する。
【0009】
【化1】

式中、Rは炭素原子数8〜48のアルキル基であり、x、y及びzは各々独立に1を超える整数であり、a、b及びcはa、b又はcの少なくとも1つが1以上であることを条件として各々独立に0又は1以上の整数であり、aはx以下であり、bはy以下であり、cはz以下である。
【0010】
上記その他の特徴は、以下の図面及び詳しい説明で例示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書では、ナノスケール規則性セラミック複合材及び構造規定剤としてブロック共重合体を用いたその製造方法について開示する。従来技術とは対照的に、本明細書に開示されるセラミック複合材は高温(例えば、約800℃以上)で熱安定性であり、かかる温度にセラミック複合材が暴露される用途での使用に適している。例えば、かかるセラミック複合材は、タービンアセンブリ、ボイラー、燃焼器などの高温ガス経路アセンブリ用に設計された部品の少なくとも一部を構成し得る。こうした部品としては、特に限定されないが、センサー、メンブラン、並びにノズル、圧縮機ライナー、ブレード、シュラウドなどの高強度構造部品が挙げられる。
【0012】
本明細書で用いる「ナノスケール」という用語は、概して、ナノスケール構造(即ち、平均最長ドメイン寸法が約100ナノメートル(nm)以下の構造)を有する材料をいう。また、本明細書で用いる「第一」、「第二」などの用語は順序又は重要度を表すものではなく、ある構成要素を他の構成要素から区別するために用いられる。単数形で記載したものであっても、数を限定するものではなく、そのものが少なくとも1つ存在することを意味する。さらに、ある構成要素の所定の量又は測定値に関する範囲はすべて上下限を含み、独立に組合せ可能である。数量に用いられる「約」という修飾語は、記載の数値を含み、文脈から明らかな意味をもつか或いは少なくとも特定の数量の測定に付随する誤差程度を含む。
【0013】
セラミック複合材は2以上の異なる相からなり、その少なくとも1つはセラミック組成物である。例えば、複合材は、炭素(黒鉛形、ダイヤモンド形及び/又は無定形)とセラミック相からなるものでもよいし、或いは2以上のセラミック相からなるものでもよい。好適なセラミック組成物としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、オキシ炭化物、オキシ窒化物、炭窒化物などが挙げられる。セラミック組成物の具体例としては、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、炭窒化ホウ素ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭窒化ホウ素、ホウ化ハフニウム、炭化ジルコニウム、ホウ化ジルコニウムなどが挙げられる。
【0014】
ナノスケール規則性セラミック複合材(全体を符号100で示す)の例を図1に示す。具体的には、図1は無定形炭素とオキシ炭窒化ケイ素(C/SiCN(−O))とのナノスケール複合材100の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。セラミック組成物(SiCN(−O))110は、各々少なくともナノメートルスケールの周期性をもつ複数の規則性領域120を有していることが分かる。個々の領域120内では、約1〜約1000nm、さらに具体的には約10〜約100nmの周期的規則性が維持されている。複数の規則性領域120は、長距離周期性(例えば、約1μm〜約5mm)を呈するように配列していてもよく、全体として、ラメラ、ヘキサゴナル、キュービック、有孔ラメラ(perforated lamellar)、ジャイロイド(gyroid)、二重ジャイロイド、二重ダイヤモンド、共連続(bicontinuous)などの構造の複合材100を与える。
【0015】
ナノスケール規則性セラミック複合材100の製造方法は、一般に、セラミック組成物のポリマー前駆体をブロック共重合体(BCP)と混合する段階、ポリマーセラミック前駆体及びブロック共重合体を含む規則構造を形成する段階、及びナノスケール規則性セラミック複合材の形成に有効な時間及び温度で規則構造を加熱する段階を含む。
【0016】
ポリマーセラミック前駆体は、所定の温度に加熱したときにセラミック組成物を生じる固体又は液体組成物であればよい。例えば、ホウ化物組成物の前駆体としては多くのボラン含有構造体が適しており、窒化ホウ素又は炭窒化ホウ素の前駆体としては多くのボラジン含有構造体が適しており、炭化ケイ素の前駆体としては多くのカルボシラン含有構造体が適している。ポリマー前駆体の例としては、ポリシラザン、ポリカルボシラン、ポリボロカルボシラン、ポリボロカルボシラザン、ポリボラジレン、デカボランで官能化した開環ポリノルボルネン、ポリ(ジペンチルアミノボラジレン)、アルキルアミノボラジンなどが挙げられる。
【0017】
ブロック共重合体は、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、線状BCP、枝分れBCP、スターブロック共重合体などを始めとする任意のブロック共重合体でよい。BCPの好適な成分としては、ブタジエン(PB)、ポリイソプレン(PI)、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン(PS)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリラクチド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸などがある。
【0018】
ポリマーセラミック前駆体とブロック共重合体の混合は、溶液ブレンディング、溶融ブレンディングなどの技術によって達成できる。望ましくは、混合は均質又は実質的に均質な混合物を生じるのに有効なものである。かかる混合物を生成させるため、混合法は、剪断力、伸張力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー又はこれらの力又はエネルギーの1以上を含む組合せの使用を伴うものでもよい。
【0019】
溶液ブレンディングでは、ポリマーセラミック前駆体及び/又はブロック共重合体を溶媒に溶解又は分散させればよい。各々溶媒が同じ複数の別個の溶液を調製してから一緒にしてもよいし、或いはポリマーセラミック前駆体とブロック共重合体とを含む単一溶液を一段階で調製してもよい。混合又は規則化プロセスに実質的な悪影響を及ぼさない限り、様々な溶媒を使用し得る。
【0020】
例示的な極性溶媒としては、シエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ニトロメタンなど、又はこれらの溶媒の1種以上を含む組合せが挙げられる。例示的な非極性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、ヘキサンなど、又はこれらの溶媒の1種以上を含む組合せが挙げられる。さらに、極性溶媒と非極性溶媒との混合物のような混合溶媒も使用できる。
【0021】
得られた溶液は、約0.1〜約10重量%(wt%)のポリマーセラミック前駆体及び/又はブロック共重合体を含む。特定の実施形態では、溶液は約0.5〜約5wt%のポリマーセラミック前駆体及び/又はブロック共重合体を含む。一実施形態では、ポリマーセラミック前駆体とブロック共重合体との混合が十分になされたら、溶媒を除去(例えば、低温加熱、周囲温度での溶媒の蒸発などによって)してもよい。
【0022】
溶融ブレンディングでは、溶媒は全く使用しない。ブロック共重合体とポリマーセラミック前駆体を、ブロック共重合体の最低ガラス転移温度からブロック共重合体の分解温度までの温度に加熱し、上述の力及び/又はエネルギーのいずれかに付して混合を行う。
【0023】
混合物の形成後、(個々の前駆体の数とは無関係に)ポリマーセラミック前駆体の重量とブロック共重合体の重量との比は約5:95〜約95:5である。
【0024】
混合後、適宜、ブロック共重合体とポリマーセラミック前駆体の混合物を、流延、成形、押出、スピンコーティングなどによって、その後の加工処理のための所定の形状に賦形してもよい。
【0025】
ポリマーセラミック前駆体とブロック共重合体を含む規則構造の形成は、混合物を自己集合させ、ポリマーセラミック前駆体の少なくとも一部を架橋させることによって達成できる。混合物の自己集合に際して、ブロック共重合体はポリマーセラミック前駆体を特定の配列状態に組織化するための鋳型(テンプレート)として作用する。具体的には、混合物の自己集合は、前駆体とブロック共重合体との巨視的な相分離を起こさずに各ポリマーセラミック前駆体が相溶性を示すブロック共重合体の特定ドメイン又はブロックを選択的にターゲットとする(例えば膨潤する)ことに基づく。続くポリマーセラミック前駆体の架橋によって、自己集合で生成した規則構造が安定化される。
【0026】
混合物に1種類のポリマーセラミック前駆体が存在する場合、ポリマーセラミック前駆体は概してブロック共重合体の1種類のブロックだけをターゲットとする。しかし、ブロック共重合体との混合に先立って、ポリマーセラミック前駆体を化学的に改質すると、ブロック共重合体において未改質前駆体がターゲットとするものとは少なくとも異なるブロックをターゲットとする改質ポリマーセラミック前駆体を得ることができる(即ち、改質前駆体は2種類以上のブロックをターゲットとし得る)。例えば、セラミック相の量を増加(又は減少)させる必要があり、未改質ポリマーセラミック前駆体がターゲットとする種類のブロックとの混和性が別の種類のブロックとの混和性に比べて低い(又は高い)場合に、かかる改質が望ましいことがある。
【0027】
混合物に2種以上のポリマーセラミック前駆体が存在する場合、ポリマーセラミック前駆体は望ましくは各々ブロック共重合体の異なる種類のブロックを選択的にターゲットとする。或いは、これらのポリマーセラミック前駆体は、様々な用途で望まれる同一及び/又は異なる種類のブロックをターゲットとするものでもよい。これらのポリマーセラミック前駆体も、未改質前駆体がターゲットとするものとは少なくとも異なる種類(及び所望によって同じ種類)のブロックをターゲットとするように改質することができる。
【0028】
本発明では、(改質及び/又は未改質)ポリマーセラミック前駆体の数並びにブロック共重合体の異なる種類のブロックの数に応じて、様々な変更が可能であり、当業者には自明であろう。分かり易く説明するための例として、2種類の(改質及び/又は未改質)ポリマーセラミック前駆体を2種類の異なるブロックを有するブロック共重合体との組合せで用いる実施形態では、相ターゲティングに関して4通りの可能性が存在する。具体的には、各ポリマーセラミック前駆体が各々異なる種類のブロックをターゲットとする場合、2種類のポリマーセラミック前駆体が共に同じ種類のブロックをターゲットとする場合、2種類のポリマーセラミック前駆体が共に2種類のブロックをターゲットとする場合、又は一方のポリマーセラミック前駆体が1種類のブロックをターゲットとし、もう一方のポリマーセラミック前駆体が2種類のブロックをターゲットとする場合がある。上述の2種類のポリマーセラミック前駆体とブロック共重合体について、ポリマーセラミック前駆体の一方又は両方を化学的に改質すれば、上述の4通りのシナリオの各々を別のものに変更することが可能である。
【0029】
ポリマーセラミック前駆体の化学的改質は、改質した前駆体によって所望のセラミック組成物を形成することができる限り、様々な方法で実施できる。一実施形態では、ポリマーセラミック前駆体を官能化してその極性を変化させればよい。別の実施形態では、ポリマーセラミック前駆体を異なるモノマー又はポリマーと共に重合してポリマーセラミック前駆体を含む共重合体を形成することによって改質を行うことができる。
【0030】
例として、ポリカルボシラン(SiCの前駆体とすることができる)をアルコール又はエーテルで(いずれかのSiH含有基を)官能化すればシリルエーテル末端基が得られる。ある具体例では、ポリカルボシランをアルキルフェノールで官能化すればシリルアリールオキシ基が得られる。アルコール(例えば、アルキルフェノール)又はエーテルによる置換は、オルト位、メタ位又はパラ位のいずれでも行うことができる。さらに、二置換又は三置換アルコール又はエーテルも使用できるが、その際の置換基は(ヒドロキシ基に対して)メタ位又はパラ位にあるのが望ましい。このようにして、未改質のときには疎水性ブロック(例えば、PB、PI、PSなど)をターゲットとしないポリカルボシランが、これらの疎水性ブロックをターゲットとするようになる。ポリカルボシランの改質のための例示的な反応スキームを図2に示すが、ここではトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを触媒として用いて部分アリル改質ポリカルボシランをアルキル置換フェノール(図示した例ではm−ペンタデシルフェノール)と反応させる。この反応には、炭素原子数8〜48、特に炭素原子数12〜36の他のアルキル基も使用できるが、その選択はターゲットとするブロックの性状に依存する。反応に際しては、1以上の利用可能な水素を有するシリル基のいずれも置換できる。
【0031】
利点として、この種の反応は、外部からの加熱を行わずに、しかも改質ポリカルボシランの早期架橋をほとんどもしくは全く起こさずに実施できる。この種の反応のもう一つの利点は、合成後の精製段階が不要であることであり、改質ポリカルボシランは合成後直ちに使用できる。この種の反応のさらにもう一つの利点は、白金ヒドロシリル化触媒がポリカルボシランの改質にはほとんど有効でないことに存する。
【0032】
別の例を挙げると、ボラジン(BN又はBCNの前駆体とすることができる)をアセチレンで官能化してスチレン類似体(ビニルボラジン)を生じさせ、次いで重合すればポリスチレン類似体が得られるが、このポリスチレン類似体は、例えば、ブロック共重合体のポリエチレンオキシドブロックをターゲットとすることができる。別法として、ビニルボラジン類似体をスチレンと共重合して共重合体を生成させることもできる。さらに別の方法では、ボラジン含有スチレン類似体をブタジエンと共重合して共重合体を生成させれば、この共重合体はブロック共重合体のポリブタジエンブロックをターゲットとする。
【0033】
本明細書の開示内容から当業者には自明であろうが、ブロック共重合体の特定の種類のブロックを選択的にターゲットとするように他の前駆体を改質できる。
【0034】
混合物に2種以上のポリマーセラミック前駆体が存在する場合、2種以上のポリマーセラミック前駆体間の相互作用(例えば、反応又は架橋)を最小限又は完全に抑制するため、緩和添加剤を混合物に適宜添加してもよい。添加剤の選択は個々の添加剤によるが、本明細書の開示内容から当業者には自明であろう。
【0035】
例として、ポリシラザン(PSZ)(オキシ炭窒化ケイ素の前駆体である)とアルキルアミノボラジン(AABZ)及びポリ(ジペンチルアミノボラジレン)(DPBZ)(いずれも窒化ホウ素セラミックの前駆体である)の一方をポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)ブロック共重合体と混合すると、これらの前駆体(つまり、PSZ及び2種類のBN前駆体のいずれか一方)はいずれもブロック共重合体のPEOブロックをターゲットとする。AABZをBN前駆体として使用したときは、巨視的な相分離も、2種類の前駆体のいずれかによるPB相の汚染も起こらない。しかし、AABZに代えてDPBZを使用すると、痕跡量又は低レベルのPSZがPB相に認められる。自己集合に先立って任意成分としての添加剤(この事例ではトリエチルアミン(TEA))を混合物に添加すると、PB相にSiは存在しなくなるだけでなく、起こりかねない巨視的相分離が防止されるという効果が得られる。この事例では、巨視的相分離及び相汚染を防止するため、DPBZのホウ素原子と錯形成してPSZの他の官能基(例えばアミンやオレフィン)との相互作用を軽減する能力をもつTEAを選択した。
【0036】
混合物の自己集合後、ポリマーセラミック前駆体の少なくとも一部を架橋して安定化させ、自己集合の際に生成した規則構造が後段の加熱段階でも実質的に保存されるようにする。一実施形態では、「実質的に保存される」とは、例えばX線回折で測定したときに、構造体が認め得る形態的な変化を起こさずにナノスケール構造を保持することを意味する。別の実施形態では、「実質的に保存される」とは、規則構造が秩序−無秩序転移(ODT)を起こさないことを意味する。架橋の程度に応じて、安定化された規則構造体の形態は軟質ゴム様の形態から固体ガラス様の形態まで様々に変化する。
【0037】
ポリマーセラミック前駆体は、熱を用いて(例えば、約50〜約400℃の温度で)架橋することができる。かかる加熱は、空気、水素、アンモニア、不活性雰囲気(例えば、窒素又はアルゴン)中でも実施できるし、真空中でも実施できる。一実施形態では、架橋時の加熱は秩序−秩序転移を引き起こし、低温又は室温で観察されるものよりも加熱温度で安定な構造のものを生じる。そこで、この新しい種類の構造は規則構造であり、その規則構造は後段のセラミック複合材が形成される加熱段階でも実質的に保存される。
【0038】
熱に加えて(又は熱に代えて)、ポリマーセラミック前駆体をラジカル開始剤を用いて架橋させることもできる。ラジカル開始剤としては、有機ペルオキシド(例えばジクミルペルオキシドなど)、アゾビスアルキルカルボニトリル、アルコキシアミン、ジチオエステル、ジチオカルバメートなどがある。ラジカル開始剤は概して混合段階に添加され、架橋すべきポリマーセラミック前駆体に対して約10wt%以下の量で存在する。
【0039】
一実施形態では、ポリマーセラミック前駆体はアルコキシアミン、ジチオエステル、ジチオカルバメート、ペルオキシド、アゾビスアルキルカルボニトリルなどの加熱時に分解してラジカル開始剤を生じる原子団で官能化してもよい。例えば、上述のボラジン含有スチレン類似体を脂肪族アルコキシアミンをもつように官能化すれば、その炭素−酸素結合は約125℃で切断できる。
【0040】
ポリマーセラミック前駆体とブロック共重合体とを含む規則構造の形成後、規則性混合物をナノスケール規則性セラミック複合材100の形成に有効な時間及び温度で制御された熱処理に付す。この熱処理の際に、ブロック共重合体は分解され、ポリマーセラミック前駆体はセラミック化する。
【0041】
熱処理の温度は概して約500〜約1500℃である。熱処理の時間は約1分〜約7日であり、必要に応じてさらに延ばしてもよい。規則構造は概して毎分約0.1〜約20℃の速度で熱処理温度まで加熱される。一実施形態では、熱処理はアンモニア、窒素、アルゴンなどのガスの存在下で実施してもよい。
【0042】
熱処理を実施するための具体的条件は、個々のポリマーセラミック前駆体、ブロック共重合体及び/又は加熱雰囲気によって左右されるが、過度の実験を伴わなくても本明細書の開示内容に照らして当業者が容易に決定できる。例えば、ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザンを使用する場合、アンモニアの存在下で熱処理を行うと非晶質窒化ケイ素が生成し、窒素の存在下で熱処理を行うと炭窒化ケイ素が生成し、不活性ガス(アルゴンなど)の存在下で熱処理を行うと炭化ケイ素が生成する。同様に、熱処理が行われる雰囲気に応じて、ポリボラジレンを炭窒化ホウ素又は窒化ホウ素に転化させることができる。
【0043】
熱処理の際に、ブロック共重合体に由来する炭素残渣が残り、またブロック共重合体が例えばPEO又はPPOを含んでいればおそらく酸素も残る。表面張力の駆動力の下でのポリマーセラミック前駆体の局所的粘性流動によって、ブロック共重合体の分解で残ったボイド(空隙)はなくなる。さらに、ブロック共重合体に由来する炭素残渣によってセラミックの無構造モノリスの形成が防止される。ボイドの除去及び残留炭素の存在によって、自己集合した混合物の構造的特徴を受け継ぐラメラ状ナノ複合材が得られる。
【0044】
ナノスケール規則性セラミック複合材100全体における残留細孔又はボイドの体積分率は約95%以下である。高密度セラミック複合材が望まれる場合、ナノスケール規則性セラミック複合材100全体における残留細孔又はボイドの体積分率は約15%以下、特に約10%以下とすることができる。
【実施例】
【0045】
以下の非限定的な実施例で本発明をさらに例証する。
【0046】
実施例1:オキシ炭窒化ケイ素と無定形炭素の複合材
本実施例では、ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン(PSZ)を使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)を使用してC/SiCN(−O)の規則性セラミック複合材を製造した。
【0047】
PB−b−PEO、PSZ及びジクミルペルオキシド開始剤を、テトラヒドロフランとクロロホルムの1:1混液に溶解した。PB−b−PEOは分子量(M)が27000で、多分散度(M/M)が1.05のものであった。PEOの体積分率は、H NMR分析で測定して0.20であった。ジクミルペルオキシドの使用量はPSZの2wt%であった。PB−b−PEO、PSZ及びジクミルペルオキシド開始剤を溶解した溶液は、PSZ質量分率が0.17〜0.89までの数種類調製した。均質溶液が得られたら、各溶液から溶媒を蒸発させた。
【0048】
各混合物を独立に100℃で12時間アニールして、混合物を自己集合させるとともにPSZを架橋させた。図3(a)は、(PSZが全く存在しない)ブロック共重合体の代表的なTEM明視野像を示す。明るい相はPEOドメインに対応し、六方最密充填シリンダである。図3(b)〜(f)は、それぞれPSZを37、45、62、76及び83wt%含む一群の規則構造体の代表的なTEM明視野像を示す。これらの像では、明るい相はPBドメインに対応する。TEM像から明らかな通り、PSZの配合量が増すとPEO/PSZドメインの大きさが増して、シリンダ構造からラメラ構造、次いでミミズ様のミセル構造への形態変化として現われる。電子エネルギー損失スペクトルから、PBドメインには痕跡量のPSZも観察されなかった。
【0049】
チューブ炉で、規則構造体を窒素下で0.5〜20℃/分の一定速度で700〜1500℃の最終温度に別個に加熱することによって、セラミック複合材を形成した。質量分析から、ブロック共重合体の分解が、メタン、エタン、水素、一酸化炭素、アンモニア及び水の放出による漸増的減量を伴って起こったことが判明した。PBの分解又は熱分解(400〜500℃で起こった)で無定形炭素相が形成され、PEOの分解が350〜400℃で起こり、400〜800℃の温度域でPSZから非晶質炭窒化ケイ素相への転化が起こった。
【0050】
Brunauer−Emmett−Teller(BET)吸着−脱着実験から、約400℃までの温度では規則混合物は十分に緻密であることが判明した。約500℃で、ブロック共重合体の分解による多孔性が観察される。温度を高めると、セラミック化の過程にあるPSZの粘性流動によって細孔は塞がれる。初期PSZ含有量が62wt%の最終セラミック複合材における細孔体積分率は約0.02であった。初期PSZ含有量が45wt%の最終セラミック複合材では、細孔体積分率は約0.07であった。平均開放細孔径を測定したところ、約10nmであった。
【0051】
セラミック相(オキシ炭窒化ケイ素)の組成は、混合物のPSZ初期濃度に依存するものであった。例えば、初期PSZ含有量が62及び45wt%の最終セラミック複合材については、セラミック相はX線蛍光(XRF)分析で測定してそれぞれ約Si1.000.661.300.27及びSi1.000.601.170.48の実験式を有していた。
【0052】
図1は、初期PSZ含有量が45wt%のセラミック複合材を示す。図1と図3(c)とを対比すると、全体的なラメラ構造が保持されたことが分かる。この傾向は、本実施例に記載の各試料で観察された。
【0053】
この実施例が、混合物中のポリマーセラミック前駆体の濃度を変化させることによってセラミック複合材の形態を調整する方法を提供することは明らかである。
【0054】
実施例2:ポリマーセラミック前駆体の改質による相ターゲティング
本実施例では、ポリカルボシランをポリブタジエンと非相溶性のものからポリブタジエンと相溶性のものへと変えるため、ポリカルボシランの極性を変化させた。
【0055】
図4(a)及び(b)は、それぞれポリブタジエン及びポリシラザンとの部分アリル改質ポリカルボシランの相溶性を示す光学顕微鏡像である。図4(a)の相分離にみられるように、ポリカルボシランはポリブタジエンとは相溶性でない。また、図4(b)には、ポリシラザンとの非相溶性を示す兆候はみられない。したがって、ポリカルボシランとポリシラザンの両者をポリマーセラミック前駆体として使用すると、これらは所定ブロック共重合体の同じタイプのブロックをターゲットとすることができる。
【0056】
図2に示す反応スキームに従って部分アリル改質ポリカルボシランを反応させた。具体的には、0.5gのアリル改質ポリカルボシランを10mLのクロロホルムに溶解し、この溶液に0.75gのm−ペンタデシルフェノールを添加した。溶液が均質になったら、約30〜約50mgの固形トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを添加した。数分以内に、反応容器から水素ガスが発生した。発生が終わった時点で、ピリジンを約5滴添加してボラン触媒を錯化することによって反応を停止させることができた。H−NMR分析でSi−H部分(4.4〜3.4ppm)が消費されたことを確認し、29Si−NMR分析によってアリル改質ポリカルボシランのSi−H基のシリル化に起因するO−Si結合の形成を確認した。得られた反応混合物を相溶性の評価に直接使用した。さらに、反応混合物を適量のPB−b−PEO及びPSZと混合すると、ナノスケール構造を有する規則性セラミックを生じる配合物が得られた。
【0057】
フェノール改質ポリカルボシラン反応混合物にクロロホルムを添加して、ポリマー前駆体含有量を約2wt%に調整した。このフェノール改質ポリカルボシラン溶液を2wt%のポリブタジエンを含むクロロホルム溶液と混合して、1wt%のポリブタジエン及び1wt%のフェノール改質ポリカルボシランを含む溶液を調製した。この混合溶液をスライドガラス上に滴下流延し、乾燥し、減圧下で100℃で12時間加熱した。次いで、熱処理試料を光学顕微鏡で検査することによって、フェノール改質ポリカルボシランとポリブタジエンとの相溶性を評価した。上記のフェノール改質ポリカルボシランの2wt%溶液を2wt%のポリシラザンを含むクロロホルム溶液と混合して、1wt%のポリブタジエン及び1wt%のフェノール改質ポリカルボシランを含む溶液を調製した。この混合溶液をスライドガラス上に滴下流延し、乾燥し、減圧下で100℃で12時間加熱した。次いで、熱処理試料を光学顕微鏡で検査することによって、フェノール改質ポリカルボシランとポリシラザンとの相溶性を評価した。
【0058】
図4(c)及び(d)は、それぞれポリブタジエン及びポリシラザンとのフェノール改質ポリカルボシランの相溶性を示す。図4(c)にみられるように、化学的改質後のポリカルボシランはポリブタジエンとの相分離を示さなかった。しかし、図4(d)の明らかな相分離にみられるように、フェノール改質ポリカルボシランはポリブタジエンと相溶性ではなくなった。図4(a)と図4(c)との対比、図4(b)と図4(d)との対比から、それぞれポリブタジエン及びポリシラザンとのポリカルボシランの相溶性は化学的改質後に逆転した。したがって、改質ポリカルボシランとポリシラザンの両者をポリマーセラミック前駆体として使用すると、これらは所定ブロック共重合体の異なるタイプのブロックをターゲットとする。
【0059】
実施例3:改質前駆体を用いて製造したSiC/SiCN複合材
本実施例では、ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン(PSZ)及び実施例2で製造した改質ポリカルボシラン(m−PCS)を使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)を使用して、2種類のセラミック組成物を含む規則複合材を製造した。
【0060】
PB−b−PEO、PSZ、m−PCS及びジクミルペルオキシド開始剤を、テトラヒドロフランとクロロホルムの1:1混液に溶解した。PB−b−PEOは分子量(M)が27000で、多分散度(M/M)が1.05のものであった。PEOの体積分率は、H NMR分析で測定して0.20であった。ジクミルペルオキシドの使用量はPSZの2wt%であった。PB−b−PEO、PSZ、m−PCS及びジクミルペルオキシド開始剤を溶解したものは、PSZの質量分率が0.533で、m−PCSの質量分率が0.133であった。均質溶液が得られたら、溶媒を蒸発させた。
【0061】
混合物を100℃で12時間アニールして、混合物を自己集合させるとともにPSZ及びm−PCSを架橋させた。図5(a)は、規則構造体の代表的なTEM明視野像を示す。この像では、明るい相はPB/m−PCSドメインに対応する。チューブ炉で、規則構造体を窒素下で0.5〜20℃/分の一定速度で700〜1500℃の最終温度に加熱することによって、セラミック複合材を形成した。
【0062】
図5(b)は、最終セラミック複合材の代表的なTEM明視野像を示す。この像では、明るい相は炭化ケイ素に対応し、暗い領域はオキシ炭窒化ケイ素に対応する。
【0063】
実施例4:階層的規則性セラミック複合材
本実施例では、ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン(PSZ)及びポリ(ジペンチルアミノボラジレン)(DPBZ)を使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)を使用して、2種類のセラミック組成物を含む複合形態の規則複合材を製造した。複合構造体は、マクロ相分離領域に2つの長さスケールが異なる規則構造を含んでいた。
【0064】
PB−b−PEO、PSZ、DPBZ及びジクミルペルオキシド開始剤を、テトラヒドロフランとクロロホルムの1:1混液に溶解した。PB−b−PEOは分子量(M)が27000で、多分散度(M/M)が1.05のものであった。PEOの体積分率は、H NMR分析で測定して0.20であった。ジクミルペルオキシドの使用量はPSZの2wt%であった。溶解したPB−b−PEO、PSZ、DPBZ及びジクミルペルオキシド開始剤は、0.533のPSZ質量分率及び0.133のDPBZ質量分率を有していた。均質溶液が得られたら、溶媒を蒸発させた。
【0065】
混合物を100℃で12時間アニールして、混合物を自己集合させるとともにPSZ及びDPBZを架橋させた。図6(a)は、規則構造体の代表的な低倍率TEM明視野像を示す。図6(b)〜(d)は、図6(a)にみられる淡色領域の高倍率像を示す。これらの領域には、ラメラ(図6(b))、シリンダ(図6(c))及びスフェア(図6(d))の規則構造がみられる。規則構造のドメインサイズは、ブロック共重合体の鎖長によって規定されるドメインサイズと合致する。図6(e)〜(f)は、図6(a)にみられる暗色領域の代表的な形態を示す。予想よりも約2〜約3倍大きいドメインサイズをもつラメラ構造(図6(e))又はミミズ様のミセル構造(図6(f))が観察された。
【0066】
チューブ炉で、規則構造体を窒素下で0.5〜20℃/分の一定速度で700〜1500℃の最終温度に加熱することによって、セラミック複合材を形成した。
【0067】
図6(g)は、最終セラミック複合材の代表的なTEM明視野像を示す。2つの長さスケールの規則性を含む複合構造は加熱時にも維持された。具体的には、図6(g)の上左側に大きい構造的特徴が認められ、上右端に小さな構造的特徴が認められる。
【0068】
この実施例は、2種類のセラミック前駆体で1つの相をターゲットとし、2つの長さスケールの規則性を同時に得て、加熱後も2つの長さスケールの規則性を保持できることを例証するものである。
【0069】
実施例5:緩和添加剤を用いて製造したセラミック複合材
本実施例では、ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン(PSZ)及びポリ(ジペンチルアミノボラジレン)(DPBZ)を使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)を使用して、2種類のセラミック組成物を含む規則複合材を製造した。本実施例では、PSZとDPBZとの反応を軽減することため、トリエチルアミン(TEA)を添加してDPBZを錯化して一様なドメインサイズを有する規則構造を得た。
【0070】
TEA及びDPBZをクロロホルムに溶解して、2.5wt%のTEA及び2.5wt%のDPBZを含む溶液を調製した。5wt%のDPBZ−TEAを含む溶液(DPBZ−TEA)を不活性雰囲気中で4時間攪拌した。PB−b−PEO、PSZ及びジクミルペルオキシドをクロロホルムに溶解した。PB−b−PEOは分子量(M)が27000で、多分散度(M/M)が1.05のものであった。PEOの体積分率は、H NMR分析で測定して0.20であった。ジクミルペルオキシドの使用量はPSZの2wt%であった。PB−b−PEO、PSZを溶解したものを、DPBZ−TEA溶液に添加して混合物を形成した。混合物はPSZの質量分率が0.308でDPBZ−TEAの質量分率0.308であった。均質溶液が得られたら、溶媒を蒸発させた。
【0071】
混合物を100℃で12時間アニールして、混合物を自己集合させるとともにPSZ及びDPBZを架橋させた。図7は、規則構造体の代表的なTEM明視野像を示す。ラメラ構造が形成され、これは小角X線回折でも確認された。
【0072】
この実施例は、実施例4と対比すれば、ドメインのサイズ及び自己集合構造体の複雑さに対する緩和添加剤(例えば、TEA)の効果を明瞭に例証している。
【0073】
実施例6:多重規則構造領域を有するセラミック複合材
本実施例では、ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン(PSZ)及びアルキルアミノボラジン(AABZ)を使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)を使用して、2種類のセラミック組成物を含む規則複合材を製造した。この実施例で使用したポリマーAABZは、分子前駆体を不活性雰囲気下で130℃で24時間加熱した後180℃で36時間加熱することによって得た。
【0074】
PB−b−PEO、PSZ、AABZ及びジクミルペルオキシド開始剤を、テトラヒドロフランとクロロホルムの1:1混液に溶解した。PB−b−PEOは分子量(M)が27000で、多分散度(M/M)が1.05のものであった。ジクミルペルオキシドの使用量はPSZの2wt%であった。溶解したPB−b−PEO、PSZ、AABZ及びジクミルペルオキシド開始剤は、PSZの質量分率が0.3083でAABZの質量分率が0.3083であった。均質溶液が得られたら、溶媒を蒸発させた。
【0075】
混合物を100℃で12時間アニールして、混合物を自己集合させるとともにPSZ及びAABZを架橋させた。図8は、規則構造体の代表的なTEM明視野像を示す。この自己集合材料には、シリンダ構造(図8(a))とラメラ構造(図8(b))の混合構造が認められた。
【0076】
以上、例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲内で様々な変更及び均等物による構成要素の置換をなし得ることは当業者には自明であろう。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるため、本発明の本質的な範囲から逸脱せずに数多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は本発明を実施するための最良の形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に包含されるあらゆる実施形態を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】C/SiCN(−O)複合材の代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【図2】ポリカルボシランを改質するための例示的な反応スキームを示す。
【図3】混合物の総重量を基準にしてポリシラザン濃度が(a)0、(b)37、(c)45、(d)62、(e)76及び(f)83重量%の規則的ポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシドポリマー/ポリシラザン混合物の代表的なTEM像を示す。
【図4】ポリカルボシランと(a)ポリブタジエン及び(b)ポリシラザンとの相溶性、並びに改質ポリカルボシランと(c)ポリブタジエン及び(d)ポリシラザンとの相溶性を示す。
【図5】ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン及び改質ポリカルボシランを使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシドを使用して製造した(a)規則ポリマー構造体及び(b)セラミック複合材の代表的なTEM像を示す。
【図6】ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン及びポリ(ジペンチルアミノボラジレン)を使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシドを使用して製造した(a)〜(f)規則ポリマー構造体及び(g)セラミック複合材の代表的なTEM像を示す。
【図7】ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン及びポリ(ジペンチルアミノボラジレン)を使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシドを使用し、緩和添加剤としてトリエチルアミンを使用して製造した規則構造体の代表的なTEM像を示す。
【図8】ポリマーセラミック前駆体としてポリシラザン及びアルキルアミノボラジンを使用し、ブロック共重合体としてポリブタジエン−ブロック−ポリエチレンオキシドを使用して製造した規則構造体であって、異なる領域で(a)ラメラ構造と(b)シリンダ構造を有する規則構造体の代表的なTEM明視野像を示す。
【符号の説明】
【0078】
100 ナノスケールセラミック複合材
110 セラミック組成物
120 規則性領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノスケールセラミック複合材(100)の製造方法であって、
ポリマーセラミック前駆体を改質する段階、
改質ポリマーセラミック前駆体をブロック共重合体と混合して混合物を形成する段階、
混合物から規則構造を形成する段階であって、改質ポリマーセラミック前駆体がブロック共重合体の特定の種類のブロックと選択的に会合する段階、及び
ナノスケールセラミック複合材の形成に有効な時間及び温度で規則構造を加熱する段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
混合物から規則構造を形成する段階が、
混合物を自己集合させ、
改質ポリマーセラミック前駆体の少なくとも一部を架橋させる
ことを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
改質前のポリマーセラミック前駆体が、ブロック共重合体の異なる種類のブロックと選択的に会合するか、或いはブロック共重合体の特定の種類のブロックに対して改質後とは異なる親和性をもつ、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
規則構造を加熱する段階が、
ブロック共重合体を分解し、
ポリマーセラミック前駆体をセラミック化する
ことを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ポリマーセラミック前駆体を改質する段階が、ポリマーセラミック前駆体の極性を変化させること、ポリマーセラミック前駆体に官能基を付加すること、ポリマーセラミック前駆体を他のモノマー又はポリマーと共重合してポリマーセラミック前駆体を含む共重合体を形成すること、或いは分解してラジカル開始剤を生じる原子団でポリマーセラミック前駆体を官能化することを含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ナノスケールセラミック複合材(100)が、酸化物(110)、炭化物(110)、窒化物(110)、ホウ化物(110)、オキシ炭化物(110)、オキシ窒化物(110)、炭窒化物(110)又はこれらの1種以上を含む組合せを含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法で製造されるナノスケールセラミック複合材(100)。
【請求項8】
ポリカルボシランの改質方法であって、
トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン触媒の存在下でポリカルボシランをアルコール又はエーテルと反応させてシリル基の少なくとも一部を官能化することを含んでなる方法。
【請求項9】
反応前のポリカルボシランが次式の構造を有する、請求項8記載の方法。
【化1】

式中、x、y及びzは各々独立に1を超える整数である。
【請求項10】
次式の構造を有するポリカルボシラン。
【化2】

式中、Rは炭素原子数8〜48のアルキル基であり、x、y及びzは各々独立に1を超える整数であり、a、b及びcはa、b又はcの少なくとも1つが1以上であることを条件として各々独立に0又は1以上の整数であり、aはx以下であり、bはy以下であり、cはz以下である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−169153(P2007−169153A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342454(P2006−342454)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】