説明

ナノチューブの電気化学

本発明は、電気化学的分析のための電極であって、絶縁表面と、絶縁表面上に少なくとも0.1μmCNTμm-2の密度で置かれているカーボンナノチューブと、カーボンナノチューブに対し電気的に接触する導電性材料とを備え、カーボンナノチューブは絶縁表面の5.0%以下の範囲を被覆することを特徴とする電極に関する。また、当該の電極および当該の電極を用いた分析装置またはキットを製造するための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的な、特にアンペロメトリーの分析および/または検出における使用のための単層カーボンナノチューブ(SWNT)または多層ナノチューブ(MWNT)を含む電極、ならびにそれを使用して低濃度溶液を電気化学的に分析および/または検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的技術およびアンペロメトリー技術は、溶液中の化合物の特性の分析においてしばらくの間使用されてきた。しかしながら、何らかの意味のある測定値を取得する場合には、明確なデータ測定値を得るために、溶液は少なくとも一定の濃度である必要がある。分析される化合物の溶液が希薄すぎる場合には、信号がバックグラウンドの読みから識別可能とはならないであろう。
【0003】
電気分析においてアンペロメトリー検出を使用する際の主な制限の1つは、バックグラウンドおよび非ファラデー電気化学プロセスに対するこのような識別である。というのも、これらが低濃度検出の測定と痕跡レベルの分析を著しく妨害し得るからである。これらのバックグラウンドプロセスは、典型的には電極の面積に対応し、例えば表面の充電、電極表面での反応、および溶媒の分解に関連する容量効果に起因して起こりうる(電位窓の限界において)。この問題に取り組むための1つの手法として、電流信号を最大化しつつ表面積を最小化するよう配置された小面積の電極のアレイが使用されてきた。例えば、金を充填したナノ多孔性ろ過膜またはエポキシ樹脂もしくは酸化ケイ素で絶縁されたカーボンナノチューブ(50〜100nmのドメインザイズ)の束を垂直に整列させたアレイを含む様々な構造が今日まで採用されてきた。
【0004】
カーボンナノチューブは、グラファイトが長く細い中空円筒の形状で存在する炭素の同素体(グラフェンと称される)である。これらは厚さが複数の原子(MWNT)であるか、またはちょうど1原子(SWNT)の厚さであってもよく、後者は約1〜3nmのオーダーの直径を有する。これらは、炭素含有ガスを用いる炉内で、または蒸発により、または触媒を含浸させたグラファイトブロックの/グラファイトブロックでのアーク放電により成形でき、電気的特性を示すことが判明している。SWNTの場合には、典型的には3本のSWNTのうちの1本はバリスティックな金属導体であり、残りの部分は半導体特性を示すことから、これらは電位電極材料として同定されている。MWNTの場合には、MWNTが金属の特徴を示すためには、円筒状グラフェンの1つが事実上金属性であることのみが必要とされる。電子移動はナノチューブの末端または欠陥部位でのみ起こりうることが示唆されているが、未修飾(pristine)の(即ち、官能基化されていない)カーボンナノチューブが電極材料として良好な特徴を示すことの証拠が存在する。炭素は生物電気化学に一般に好まれる電極材料であるため、このことは、前記の系における化学物質検知のために特に重要であるサイクリックボルタンメトリー(CV)と共に意義深いものである。巨視的な炭素電極については、CVは典型的には約10μM〜10mMの幾分狭い濃度範囲に制限されている。
【0005】
未修飾の状態では、カーボンナノチューブの電気容量は小さい。SWNTおよびMWNTについての殆どの電気化学的な研究の場合には、ナノチューブは使用前に酸で洗浄され(採用される成長技術により必要)、開放端を修飾する酸で官能基化された基により、またおそらくチューブの長さに沿う欠陥部位においても、チューブが切断される結果となる。次いでナノチューブは、導電性支持体上に設置されるか、または絶縁体内にはめ込まれ、後部を接触させて研磨されナノチューブを露出させる。いずれの配置でも、酸処理により表面上に蓄積している基が荷電される結果となり、電気容量が増加する。非ファラデープロセスと、導電性支持体からのファラデープロセスも信号に寄与し得る。更に、ナノチューブとSWNTとの間の絶縁シールが漏れやすい場合には、二重層帯電(電気容量)が問題となり得る。
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、例えば触媒化学気相成長法(cCVD)を用いて絶縁表面上にSWNTまたはMWNTを直接成長させることにより、未修飾のナノチューブネットワークを製造することが可能である。重要なことには、cCVDを用いると試料が非常にきれいで、そのため未修飾の状態で残るため、試料の酸洗浄が不要となる。絶縁表面上のSWNTの成長はこれまで実施されてきており、かかる電極は単一チューブレベルならびに二次元のネットワークおよびアレイの両方で電子産業において使用されている。
【0007】
金属性SWNTの浸透限界を超える十分な高い密度においては、レドックス対の電気化学的な見掛け電位にかかわらず、SWNTの二次元ネットワークは金属性薄膜として挙動する。これは、SWNTの約0.1%という小さい表面被覆率(fractional surface coverage)においてさえ達成可能である。密度および約1%の表面被覆率(surface coverage)を有するSWNTを含む電極が存在し、特徴付けられてきており、mMレベル濃度の環境におけるそれらの電気化学的挙動が探索されてきた(Macpherson et al, Anal. Chem., 2006, 78, 7006-7015)。しかしながら、非常に低濃度の溶液の電気化学的な検出および/または分析では、金属の性質を有するが表面被覆率が低いレベルであるSWNT−ネットワーク電極の電位はこれまで全く認識されてこなかった。同じことは、二次元アレイの形式で配置されたSWNTまたはアレイもしくはネットワークのMWNTに当てはまる。
【0008】
SWNTを含む電極の使用に関する他の刊行物には、例えば、質量分析法におけるようなガスセンサーでのこれらの使用が記載されている(米国特許第6,918,284号、国際公開公報第2004/059298号、国際公開公報第2005/104179号)。
【0009】
カーボンナノチューブを含む他の電極は、ナノチューブと二酸化ケイ素基板(substrate)との間に位置する不動体化窒化チタン導体のような別の材料の層も含む(Gabay et al, Nanotechnology, Vol. 18, No. 3, pages 6-29, published 24 January 2007)。
【0010】
米国特許公開公報第2004/0043527号には、低濃度の分析物を検出するためのカーボンナノチューブが記載されているが、溶液を電気化学的に直接分析することよりもむしろ、分析物に応じたナノチューブネットワークの電気特性の変化の探索に関連しており、電気的な(ゲート応答および容量性の)用途に関連している。
【0011】
しかしながら、SWNTを含む電極の公知のいずれの研究にも、電極表面上のSWNTの低い表面被覆率と金属性の挙動を示すのに十分高い密度との組み合わせについては含まれていない。上述した各刊行物においては、使用される電極は(1)SWNTの高い表面積被覆率;または(2)修飾された(non-prestine nature)SWNTから生じる電気容量の増加、のいずれかの結果として生じるであろうバックグラウンドノイズのレベルのために、非常に低濃度での電気化学的分析には適切でないであろう。このことは電極をも制限してサイクリックボルタンメトリー(CV)における走査速度を遅くし、ポテンシャルステップクロノアンペロメトリーにおける短時間のアクセスが不能となる。このような電極により発生するバックグラウンドノイズは、非常に低濃度の溶液に由来する小信号を覆い隠すため、電極は上記分析に不適当となる。
【0012】
従って、(a)巨視的な炭素電極(≧1mm)または既存のマクロサイズのSWNT系電極を用いては測定できない非常に低濃度の溶液、(b)より速い走査CV、および(c)ポテンシャルステップクロノアンペロメトリーにおけるより短い時間での分析、の分析が可能な電気化学分析のための電極を開発することが望ましく、これにより上述した1または複数の課題が克服される。
【0013】
本発明の電極は、前例のない低いバックグラウンド電流を伴う電極材料として、絶縁表面上に二次元ネットワークまたはアレイ配置のSWNT(もしくはMWNT)を含み、これにより微量レベル(μM〜nM、またはこれよりも小さい)の濃度のCV測定が容易となる。
【0014】
従って、本発明に従い、
絶縁表面;
少なくとも0.1μmCNTμm-2の密度で前記絶縁表面上に位置するカーボンナノチューブ;および
前記カーボンナノチューブと電気的に接触する導電性材料;
を含む電気化学分析用の電極であって、
前記カーボンナノチューブが前記絶縁表面の約5%以下、または約2%以下、好ましくは約0.8%以下の面積を被覆する電極、を提供する。カーボンナノチューブにより被覆される前記絶縁表面の面積は、電気化学分析用の試料と接触するよう意図される電極の領域であってもよい。
【0015】
カーボンナノチューブは、SWNTまたはMWNTのいずれかであってよく、好ましくはSWNTである。
【0016】
約1%以下の表面被覆率を有する電極は、従来の電極よりも約100倍小さいバックグラウンドノイズを発生させることが可能であり、微量レベルの濃度の分析物に由来する信号を検出し分析することが出来る。
【0017】
好ましくは、絶縁表面上のカーボンナノチューブの被覆率は、絶縁表面の約1.00、0.75、0.70、0.65、0.60、0.55、0.50、0.45、0.40、0.35、0.30、0.25、0.20、0.15、0.10、0.05または0.01%以下である。
【0018】
カーボンナノチューブの密度は、好ましくは少なくとも約1μmCNTμm-2(即ち、表面1μm2当たりナノチューブ約1μm)、より好ましくは少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9または10μmCNTμm-2である。ナノチューブのアレイの場合には、密度は更に小さくてもよく、例えば約0.1μmCNTμm-2である。
【0019】
SWNTの場合には、カーボンナノチューブの密度は、少なくとも約2.0〜約3.0μmCNTμm-2が好ましい。
【0020】
カーボンナノチューブは、例えば図2aに図示されるように、好ましくは電極の小領域に局在化しているのではなく、低密度であるが電極全体に分散している。
【0021】
ナノチューブは、好ましくは前記絶縁表面と実質的に平行に配置される。SWNTネットワークの場合には、各SWNTは、好ましくは少なくとも3本の他のカーボンナノチューブと接触して金属のコンダクタンスを最大化する。これは、3本のSWNTのうち約1本が事実上金属性であるからであり、そのためこの相互作用の程度により、ネットワーク全体にわたり一定の金属−金属接触が存在し、それ故にコンダクタンスが存在することが保証される。より好ましくは、各SWNTは4本、5本または6本の他のSWNTのような3本を超える他のSWNTと接触する。しかしながら、平均すると各SWNTは、好ましくは少なくとも3本の他のSWNTと接触する。カーボンナノチューブ・アレイの場合には、単一チューブは典型的には金のバンドと平行に延びているため、好ましくは接触は要求されない。
【0022】
SWNTは、二次元であるネットワークまたはアレイの配置であってよい。
【0023】
ネットワークのSWNTの大きさは、通常長さが約5〜10μmであり、直径が約1〜3nmである。アレイの成長においては、SWNTの直径は同様であろうがそれらははるかに長くてもよく、何百ミクロンまでの長さである。
【0024】
ネットワークにおいては、電極上のカーボンナノチューブ間の空間は密度に依存し、この密度は制御される。この空間は、最少の表面被覆率0.1%の場合、約1/密度(ここで、密度は単位面積当たりのナノチューブの長さとして測定される)である(即ち、1μm2当たりチューブ長1μmの密度)。これは約10μmの間隔に関連する。アレイの場合には、最少の表面被覆率は0.01%という低さとなり得る。
【0025】
絶縁表面はいかなる絶縁材料から構成されてもよい。本発明の一態様によれば、前記表面は、ケイ素、特に酸化ケイ素、例えばSi/SiO2を含有する表面(即ち、酸化ケイ素コーティングを有するケイ素)、または石英を含んでいてもよい。あるいは、いかなる絶縁ポリマー性の表面を使用してもよい。最も好ましくは、Si/SiO2を含有する表面が使用される。
【0026】
電気的接続は、気化させた導電性材料のバンドを使用して、絶縁表面の一端で行うのが好ましい。もっとも、例えば気化またはスパッタされた導電性材料の一つ以上のバンド等によって、絶縁表面上の異なる個所において一つ以上の電気接点が提供されることがあっても構わないが。導電性材料は、十分の伝導性を有する限りどの材料でもかまわない。気化またはスパッタが可能な、あらゆる導電性材料の使用が許される。好ましい導電性材料として、例えば、金、白金、パラジウム、銀、チタンまたはクロム(もしくは、その組み合わせ)を挙げることができる。最も好適なものとして、金が使用される。良好な接触を確保するため、導電性層を定着させる前に、最初に、チタンまたはクロムのような接着(粘着)層を定着させることが好ましい。本構成において、ナノチューブの絶縁を行う必要はない。たとえ表面被覆率が約1%以下、または0.8%以下、すなわち低表面積の電極の場合であっても、十分に高い密度と、標準的なボルタンメトリーの時間スケールにおいて、ネットワークは、もっぱら金属薄膜に似た振舞いをする。それら薄膜のシート抵抗率は100キロオーム/平方未満である。アンペロメトリー応答の要因となる抵抗降下等の問題を回避するため、通常、ネットワークの小領域を溶液に曝す。これを最も一般的に実現するために、フォトリソグラフィーを使用する。しかしながら、ネットワーク処理を避けるため、溶液を充填した微小毛細管形状の電気化学セルを使用することも行った。重要なことであるが、低濃度検出に対しては、流れる電流は小さいと考えられるので、ネットワークの小領域のみを隔離する必要性はもはや問題でなくなる。以前のSWNTネットワークを使った電気化学的研究においては、ネットワーク抵抗率による影響を最小化するために小領域を溶液に曝露させた。決定的なこととして、低濃度検出に関連性を有している低い電流密度はもっと大きなネットワーク領域の使用を可能にし、その結果、実験装置を著しく単純化出来ることを意味する。
【0027】
本発明の一つの態様において、ナノチューブは未修飾である。本発明の別の態様において、ナノチューブは官能基化されている。官能基化する場合、もしできれば、当分野で一般的に知られているポリマー(例えば、イオン交換ポリマー、導電性ポリマーまたはレドックスポリマー)、酸化還元酵素(例えば、ブドウ糖酸化酵素、コレステロール酸化酵素、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)やドーパント(例えば、フェロセン)の中から選ばれた官能基および官能基部分を用いて行うのがよい。その代替として、ナノチューブを金属蒸着により部分的にコーティングしてもよい。蒸着用の好適な金属には、白金、金、銀、銅、水銀、パラジウム等の金属、および、チタン、窒化チタン、セレン化カドミウム、テルル化カドミウムまたは硫化カドミウム等の半導体材料、ならびに例えばP3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)、ペンタセン、ドープしたポリアニリン等の有機ポリマーが含まれる。これら材料の中のあるものは、自己組織化単分子層やドーパントを用いて更に官能基化が可能である。
【0028】
本発明の更に別の一つの態様によれば、ナノチューブは官能基化されることはない代わりに、ナノチューブが位置するところでこれに接する絶縁表面を官能基化することができる。官能基化された表面は、未修飾のナノチューブにおいて検出可能な種を生成するための役割をする可能性がある。官能基化は、導電性材料(例えば、金)の成長と追加の後に実行されるであろう。官能基を例えば酸化シリコンの表面上に移植するための方法は、当分野では周知である。
【0029】
また、本発明の範囲内において、上述のカーボンナノチューブ・アレイをその上に有する電極を作製する方法であって、
所定量の触媒ナノ粒子を絶縁表面上に蒸着させる工程;
前記絶縁表面を熱、水素ガス源および炭素含有ガス源に曝露させて前記ナノチューブを成長させる工程;ならびに
導電性材料を前記絶縁表面上に蒸着させて、導電性材料が前記カーボンナノチューブと電気的に接触するようにする工程、
を含み、
ここで、前記触媒ナノ粒子の蒸着前にはアニーリング工程を実施しない方法、が提供される。
【0030】
アニーリング工程を除外することによって、より良く整列した形での成長が得られ、その結果、ナノチューブのアレイ内であらゆるチューブ同士の接触を最小化する。アレイに対しては、チューブ同士の接触はできる限り少ない(全くないのが好ましいが)ことが望ましいが、反対にネットワークに対しては、チューブ同士の接触の程度が高いのが好ましい。
【0031】
導電性材料の蒸着は、できればナノチューブの成長後に実施するのが良い。
【0032】
カーボンナノチューブ・アレイを作成するための方法は、Rogers (J.A.Rogers et al.,
High Performance electronics using dense, perfectly aligned arrays of single-walled carbon nanotubes, Nature 2007年、第2巻、230頁)によって開発された。
【0033】
カーボンナノチューブ・アレイの効率的な成長のために、石英を基板として使用するのが好ましい。最も好適には、パターン処理をした石英(すなわち触媒を使って表面上にパターンを施した石英)を使用する。炭素含有気体はできればCH4が良い。
【0034】
本発明に従う、カーボンナノチューブ・アレイを作成するために開発した方法は、触媒ナノ粒子の蒸着に先立って石英のアニーリングを行わない点でRogersが使用した方法と異なる。更に、鉄系触媒を使用する場合、鉄は気化した鉄原子の電子ビームからのものよりも、むしろフェリチンの形で供給され(フェリチンはより著しく廉価であり、また、非常に洗練された電子ビームリソグラフィー法へのアクセスが不要であるとの理由による)、酸化および成長(還元)の条件も異なる。Rogersの方法において使用された異なる酸化および還元の条件は、本発明で使用したフェリチン触媒および石英基板に対しては有効ではない。
【0035】
本発明の一つの態様によれば、カーボンナノチューブの成長は、触媒化学気相成長法(cCVD)等の化学気相成長法を使用して行う。これによって未修飾のナノチューブの直接的成長が可能になる。使用する触媒で好適なものは、鉄系またはコバルト系触媒で、鉄系触媒が最も好適である。そのような鉄源の一種は、フェリチン、即ち鉄貯蔵タンパク質である。
【0036】
ナノチューブを絶縁表面上に成長させる工程の後に、ナノチューブを元の絶縁表面から、例えばポリマー表面のようなもう一つ別の絶縁表面に移動させることも可能である。
【0037】
本発明の更なる態様によれば、上で詳述した方法に従って、ただし、1層のレジスト層を更に追加し、共焦点レーザーまたはマークアライナーを用いて規定領域内にあるレジストの一部を除去するとの条件付きで、円盤が好適ではあるが、あらゆる幾何形状の超微小電極の形成が可能である。また、アレイ形成のため、リソグラフィーで金接触電極にパターンを施す必要である場合もある。
【0038】
また、本発明は、溶液濃度が約100μM以下(できれば、約10μM以下がよい)の場合に、上述のような電極を使用して電気化学的に溶液を分析する方法を提供する。該方法は以下のそれぞれを備える。
(i)少なくとも0.1μmCNTμm-2%の密度で絶縁表面上に位置するカーボンナノチューブを有する絶縁表面であって、前記カーボンナノチューブが約2.0%以下の面積を被覆する前記絶縁表面、および前記カーボンナノチューブと電気的に接触する導電性材料とを準備し、
(ii)前記溶液の試料を前記カーボンナノチューブと接触させること;ならびに
(iii)電極に電位を印加し前記試料を電気化学的に分析すること。
【0039】
ナノチューブの表面被覆率は、ナノチューブ・アレイに対しては僅か0.01%あれば十分であるが、ナノチューブネットワークに対しては0.1%のオーダーであることが好ましい。
【0040】
本方法は、できれば、濃度が約100μM以下または約10μM以下、好適には約5μM以下の溶液の電気化学的分析において使用するのが良い。
【0041】
カーボンナノチューブによる絶縁表面の被覆率は、できれば、絶縁表面の約2.00,1.00,0.75,0.65,0.60,0.55,0.50,0.45,0.40,0.35,0.30,0.25,0.20,0,15,0.10,0.05、または0.01%以下が良い。好適なカーボンナノチューブ密度は、少なくとも約1μmCNTμm-2、より好適には、少なくとも約2,3,4,5,6,7,8,9,10または20μmCNTμm-2である。ナノチューブ・アレイに対しては、更に低密度、例えば約0.1μmCNTμm-2でよい。好適な密度は、約20μmCNTμm-2以下、より好適には、約10μmCNTμm-2以下である。
【0042】
本発明の電極および/または方法は、約2.5μM以下、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、または100pM以下の濃度の電気化学的な検出および分析のために使用可能である。
【0043】
分析対象となる溶液に関しては、被分析物の濃度は、ナノモルまたはピコモルのスケール、より低くフェムトモルもしくはアトモルのレベルであってもよい。それでもなお、本発明の電極および方法を使用して、電気化学的分析を首尾よく行うことが可能である。
【0044】
本発明に従って溶液を分析する場合、溶液は、できればその一滴をナノチューブの上に添加して、溶液がナノチューブと接触状態を保つようにするのが好ましい。導電性材料に対して電気的な接触状態にある作業電極と、液滴の内部に位置する基準電極との間(例えばAg/AgCl)に電位を印加する。分析対象となる溶液の液滴は、絶縁表面上のナノチューブの上に置かれて、制御された密度のナノチューブの上全面にわたり、比較的大きな平面拡散領域を創出する。
【0045】
また、本発明の電極は、電極領域を規定するためのリソグラフィーを使用して、微小電極(即ち、特性寸法が100μm以下である電極)および微小電極のアレイにおける用途へと拡張することが可能である。そのような微小電極(または、超微小電極−UME)は従来の電極を超える興味ある特質を示す。長所として、高い物質移動速度、短い応答時間、低い抵抗降下および二重層帯電の減少が挙げられる。伝統的に、UMEは電着塗装またはマイクロリソグラフィー技術を利用して、細線を絶縁体の内部に閉じ込める方法で作製されている。それら有用な特性のため、UMEには、電解分析、センサーおよび走査型電気化学顕微鏡の分野において、広範な用途が見出された。
【0046】
また、本発明の電極は、液滴分析に加えて、例えばパルス・ボルタンメトリー法および流体力学的変調技術等、流れシステムや他の検出方法へと拡張することが可能である。更にまた、ポリマー(例えば、イオン交換、酸化還元の)、金属および半導体のナノ粒子等の被修飾層をその上に追加することが出来るような、一つのプラットフォームとしての機能を果たすことも可能である。このような新しいフォーマットへと移動することによって、高速走査CV分析および短時間クロノアンペロメトリーの可能性もまた現実のものとなる。
【0047】
また、本発明の電極は、バイオセンサー技術でも用途があると想定される。ナノチューブは、例えば、ブドウ糖酸化酵素、コレステロール酸化酵素、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド等の酵素により官能基化が可能であって、これには官能基化を補助するためのポリマーの使用が含まれる。官能基化されたナノチューブは、例えば、ブドウ糖等の糖または他の物質に関する分析および/または検出において使用することが可能である。
【0048】
(本明細書で述べた、未修飾または官能基化された)ナノチューブネットワークの電極は、アンペロメトリー法で検出さるべき被分析気体の進入を許すように作られている電解質(溶液またはポリマー)を含有するセル内で、作業電極として機能することを特徴とするが、本電極をアンペロメトリー法のガス検知において使用することも可能である。
【0049】
神経伝達物質(例えば、細胞内や組織環境下のドーパミン、セロトニン、アドレナリン)等の化学種に関連性を有する生体組織内の電気化学的な測定を、体外および体内で行うことを目的として、これら電極(単数または複数の)の用途が認識される。その中には、ナノチューブネットワークの(未修飾の、または官能基化された)電極が関心領域の近傍、および/または関心領域に直接接触して置かれる場合の測定が含まれる。
【0050】
従って、本発明はまた、上述のように、カーボンナノチューブベースの電極を備えた分析装置またはキットを想定する。分析装置またはキットは、更に、計数電極、基準電極、および随意でフロー・セル、同様にできればデータ取得のための記録手段も備えてよい。安定性を向上させるために、基準電極はポリマーの薄膜で保護してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
添付の図を参照して、本発明についてさらに詳しく説明を行う。
【0052】
【図1】SWNTのネットワーク電極を低濃度検出器として使用する、電気化学的セットアップの概念図を示す。
【図2a】電界放出走査電子顕微鏡(FE−SEM)による撮像結果を示す。(a)SWNTネットワークの密度は、約5μmSWNTμm-2(スケール・バーは2μmを表示)。
【図2b】電界放出走査電子顕微鏡(FE−SEM)による撮像結果を示す。;(b)典型的な、石英表面上SWNTアレイの写真。
【図3】(a)FcTMA+/2+ 対(0.1M NaCl)の、25nM(実線)、70nM(破線)および100nM(点線)の各濃度でのCVを示し、走査速度100mVs-1で記録;(b)0.1M NaCl溶液におけるGCE(ガラス状炭素電極)での背景応答を示し、走査速度100mVs-1で記録。赤線はSWNTネットワーク(0.1M NaCl)において記録した背景応答を示す。
【図4】ドーパミン(0.1M NaCl、0.1M酢酸の緩衝液内、pH5)の酸化に対するCVを示し、走査速度は100mVs-1;(a)濃度100nM(実線)、500nM(破線)および1μM(点線)におけるSWNTネットワーク電極;(b)濃度100nM(実線)、1μM(破線)および10μM(点線)におけるGCE。両場合とも、赤線はドーパミンなしでの背景応答を示す。
【図5】25nMから5μMの範囲で濃度可変するFcTMA+の酸化に対して、SWNTネットワーク電極における陽極ピーク電流対FeTMA+濃度を両対数目盛でプロット。電位走査速度は0.1Vs-1で、NaClは0.1M濃度の支持電解質としての機能を果たす。
【図6】FcTMA+(100nM)の酸化に対する、SWNTネットワーク電極における陽極ピーク電流密度対走査速度の平方根をプロット。
【0053】
本発明については、次の例の中でまた更に説明されることになるが、その意図するところは、事例は単に例証的なものであって、決して本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0054】
cCVDによるSWNTネットワークの成長に関しては、300nmの熱酸化物層を持つ、約1センチ四方の高濃度ドープしたシリコンの基板を1インチ(2.54センチ)の管炉の中に設置して、これに鉄を蒸着後、成長作業を実施した。H2流の下で、炉温度を室温から700℃まで10分で加熱し、次いで700℃から成長温度まで更に10分で加熱した。炉は5分間この温度に保持し、次いで所定の時間CH4を導入した。この導入期間は成長時間に相当する。成長後、基板は炉内でH2流のみの下で冷却させた。温度が200℃未満に達すると、試料を取り出した。全成長サイクルは約1時間を要し、任意の1回で最大8試料の成長が可能である(使用する管炉の内部温度の一様性によって制限される)。
【0055】
ネットワーク内の複数SWNTの位置決めを、基板表面上の特定領域内で制御するため、SWNTの成長前、成長後何れかにおいてこれを実施する。それぞれ、成長前パターニング、成長後パターニングと呼称する。成長前パターニングは、金属触媒を選択的に配置することによってSWNTネットワークの成長を一定範囲に限定することを伴う。これは、例えばフォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、‘ソフト’リソグラフィーまたはシャドー・マスキング等を使用して実行可能である。
【0056】
成長後パターニングは、成長後に、CO2雪噴流処理または酸素プラズマ処理のようにエッチング処理剤を使ってSWNTネットワークを選択的に除去することを伴う。SWNTネットワークの試料表面にフォトレジスト・パターンを作成するためフォトリソグラフィーを用いるが、これは所望の領域を除きSWNTネットワークを保護することになる。次いで、露光したSWNTを取り除くため酸素プラズマ処理(100ワットで1分間、6x10-1ミリバールで、Emitech社製K1050X Plasma Asher中)を使用し、フォトレジストを除去した。酸素プラズマは、これに曝されたナノチューブを完全に除去し、処理後に鋭い切離端が残る。成長後パターニングの有効分解能は、ネットワーク内のナノチューブ間の平均間隔で与えられる;結果的に、それは、リソグラフィーで規定可能なあらゆるパターンについて、サブミクロンの精度で容易に実現可能である。
【0057】
本発明の電極を使用して低濃度でのCV測定を実施する能力に関し、単純な外圏酸化還元種である(フェロセニルメチル)トリメチルアンモニウムFcTMA+を、0.1M NaCl(純度、99.99%超)を含有する溶液内で使用して評価を行った。
【0058】
材料:
(フェロセニルメチル)トリメチルアンモニウムのヘキサフルオロリン酸塩(FcTMA+PF6-)は、SzentirmayおよびMartinの報告(Anal.Chem.1984年、56巻、1898頁)に記載の手順に従い、(フェロセニルメチル)トリメチルアンモニウムの沃素塩(FcTMA+-、Strem Chemical社)のメタセシスにより入手した。NaCl(Trace SelectTM,
純度99.99%以上)およびドーパミンの塩酸塩はSigma社から購入し、受領した状態で使用した。酢酸/酢酸緩衝液(0.1Mの酢酸塩)は、酢酸ナトリウムと酢酸から調製した。水溶液はすべて、25℃での抵抗率が18MΩcm以上であるMilli-Q試薬水(Millipore社)から調製した。
【0059】
サイクリックボルタンモグラム(CV)の記録は、電気化学分析器(CH Instruments社、モデルCHI730A)を使用して行った。標準的な二電極構成を使用し、金のバンドを介して接触させられたSWNTネットワークが作業電極であって、Ag/AgClの細線(0.1M NaCl)が基準電極の役目を果たした。SWNTネットワーク上に10μLの溶液を置く場合、作業電極の範囲は、一連のCV測定の時間スケールの期間、全測定に亘って約0.125cm2と一定であった。
【0060】
図5は、25nMから5μMの濃度範囲に対して、SWNTネットワークにおける陽極ピーク電流対FcTMA+濃度を、両対数目盛でプロットしたものである。面積Aの電極に向かう平面拡散の結果生じるピーク電流ip(298Kにおける可逆的酸化還元過程に関連している)を予測するRandies Sevick方程式(式1)に従って、
p=(2.69x105)n3/2AD1/2Cν1/2 (1)
但し、nは酸化還元事象毎に移動した電子数、DおよびCは拡散係数および関連する酸化還元種の濃度、νは電位走査速度で、ピーク電流は25nMから5μMの範囲で濃度に対して線形性を示す。
【0061】
ネットワーク電極の電気接続は、導電性を有する金のバンドの上に置かれた鋭いプローバーを使用して行った。全実験に対して、5±1μmSWNTμm-2(μm2当たりのSWNTの長さとして定義)のSWNTネットワークを使用したが、これは約0.5±0.1%の表面被覆率に相当する。関連の電気活性種を含有する溶液を一滴(10μL;直径4mm)、金のバンドに接近して、但しバンドに接触させないようにネットワークの上に置いた。液滴の内部にAg/AgCl(0.1M NaCl)の基準電極が配置されて回路が完成し、異なる濃度のFcTMA+についてCVの記録を行った。
【0062】
図3aは、濃度25nM(―)、70nM(‐‐‐)、100nM(・・・)のFcTMA+/2+対に対して、電位走査速度100mVs-1で記録した典型的なCVを示す。明らかに、僅か25nMの濃度に対する応答が容易に認識される。ネットワークの被覆率が表面の1%未満であっても、電流応答はあたかも全表面が被覆されている場合の如くであるのを指摘しておくことは重要である。これは、隣接するナノチューブ間での拡散場の重なり合いによるものであって、応答が平面拡散によって支配される原因となる。しかしながら、低い表面被覆率は、ネットワーク電極における背景電流が、平面電極に対して期待されるよりも二桁以上小さいことを意味する。この点は、更に図3bで実証されるが、該図は、0.1M NaClを含有する溶液に対する、従来のガラス状炭素電極(GCE)およびSWNTネットワーク電極におけるCV応答を示す。
【0063】
FcTMA+の拡散係数を6x10-6cm2-1と仮定すると、100nM濃度のFcTMA+の場合、一様電極における酸化電流密度の期待されるピーク値は、(Randies - Sevick方程式に従って)約21nAcm-2であり、実験で測定したピーク電流と良い一致を示す。酸化還元メディエーターの特定濃度の場合に、ピーク電流が走査速度の平方根に対して示した通りに、25nM−5μMの全範囲で、FcTMA+の酸化に対するピーク電流は濃度に対して線形的に変化することが明らかになった。図3に示すFcTMA+のCVにおけるピーク−ピークの間隔は77mV(25nM);71mV(70nM)および71mV(100nM)であって、この一電子酸化還元過程ではほぼ可逆的であることは、理にかなっている。更に濃度を増すとボルタンメトリーの波はよりひずみを増し、約90mV(1μM)から約240mV(10μM)へと増大した。これは予想外であるというわけではなく、電流振幅の増大に従ってより顕著になるネットワーク内のオーミックな効果に主に起因して発生する。
【0064】
SWNTネットワーク電極の、より複雑な電極のプロセスに関する微量レベルでの測定への応用可能性を調べるため、2電子過程で酸化を受ける神経伝達物質ドーパミンのCV応答について調査を行った。ドーパミンの吸着は、該メカニズムの主要な工程であると考えられる。
【0065】
図3aは、ドーパミンの酸化の場合であって、ドーパミンオルト‐キノンを前進工程で形成する場合について、0.1M NaCl及びおよび0.1M酢酸を含有する溶液(pH5に緩衝)の濃度100nM(実線)、500nM(破線)及びおよび1μM(点線)に対して、走査速度100mVs-1で記録したCVを示す。比較のため図3bに、同一溶液におけるドーパミン濃度100nM(黒い実線)、1μM(破線)及びおよび10μM(点線)に対する、GCEにおけるCV応答を示す。
【0066】
該GCEは準可逆的電子移動特性を示すが(ΔEp〜80mV)、これは、濃度1μM以上においてのみ明白である。反対に、未修飾SWNTにおけるドーパミンの電解に対するCVは電気化学的に鈍いとはいえ、濃度100nMは容易に測定可能である。ドーパミンの酸化が行われていない電位での背景電流は、FcTMA+の酸化に対する場合に比べ僅かに高い。しかしながら、本明細書で使用したSWNTの著しく低減された表面領域および本来の性質の結果として、それらは、以前の報告にあるナノチューブで修飾された電極の場合よりもかなり低い。背景電流の少しの増大は、ドーパミンのナノチューブ表面上への吸着とそれに基づく電位走査期間中の容量性帯電効果の増大に起因するものと思われる。
【0067】
それにもかかわらず、これらCVは、未処理の炭素ベースの電極材料において最高のドーパミン検出感度を示し、自然のSWNTの電解分析における有望な性質を際立たせている。
【0068】
<ネットワーク密度および関連パラメータの計算>
SWNTネットワークのFE−SEM(電界放出‐走査電子顕微鏡)像の高いコントラストのため、標準的な像解析ソフトウエア(例えば、フリーウエアWSxM)を使用して、単位面積当たりのナノチューブの長さを‘フラッディング解析’により正確に抽出することが可能になる。これは、敏速にかつ試料の大きな領域に亘って実行できるので、その結果、ネットワークの密度および試料に横断的なネットワーク密度の変化について、正確な決定がもたらされる。単位面積当たりの長さについては、ネットワークに接続されたSWNTのみを算入することとし、また、複数束のナノチューブが存在する場合、束の長さのみを勘定し、束内の個々のナノチューブの長さを勘定しないこととする。結果として、本方法はナノチューブの存在量を低目に見積もることになるが、ネットワーク密度を適正に表示することになる。
【0069】
ネットワーク内部のSWNTの平均的な長さは、ナノチューブネットワークの全長Lを、FE−SEM像上で目に見える終端の数で割ることにより推定することが出来る。より詳細には、L=nρ/単位面積当たりの終端数(但し、ρはSWNT密度)であり、ナノチューブの終端の一つだけが存在する場合はn=1、両終端が存在する場合はn=2とする。ここでは、中間値であるn=1.5を用いる。これは推定であり、また、ナノチューブの終端をすべて数えることは時間の浪費である。結果として、あらゆるFE−SEM像に対してこれを行うことは、実際的でもないし適切でもない。
【0070】
AFMを基に判明している平均長さおよび平均直径に関する知見とともに、単位面積当たりのナノチューブの長さから、多くの他のパラメータを見積もることが可能である。例えば;
(i)単位面積当たりの個数=単位面積当たりの長さ/平均長さ
(ii)表面被覆率=単位面積当たりの長さ×平均直径
(iii)‘膜厚’=表面被覆率×平均直径
(従って、膜厚×面積=ナノチューブの体積)
ナノチューブ間の平均間隔は次の関係からも推定出来る:
(iv)単位面積当たりの長さ×平均間隔=1
【0071】
或る一つのナノチューブ対しては他の何れに対するよりも近いとされる領域の面積は、平均すると、ナノチューブ間の平均間隔とナノチューブの平均長さの積に等しい。これより、次のように粗く見積もることもできる:
(v)ナノチューブ当たりの平均交差数〜平均長さ/平均間隔
【0072】
平均直径約1nmおよび平均長さ約10μmの標準的な場合について、ネットワーク密度の既定値に対して以下のパラメータを見積もることが出来る。
【0073】
【表1】

【0074】
真っすぐで、長さ一様、高アスペクト比を有する導電性枝棒の浸透に関する理論的モデルにより、浸透限界ρthはρth=17.94/(π×l)で与えられることが予言されている。
【0075】
ナノチューブは必ずしも真っすぐではないし、長さ一様でもないことは明白であるが、しかし、浸透限界の見積もりを得るためこれを使用することは可能である。約10μmの平均長さに対して、ρthは約0.5μmSWNTμm-2を意味する(但しρthmetは、相互に接触状態を保つ金属のチューブについて一つの連続した金属経路が存在する場合の、金属の浸透限界である)。それ故、電導度の応答に照らして参照される‘低’密度の試料は、実際には浸透限界を上回っているのが妥当と考えられるが、ρthmetはρthの約3倍であると仮定するならば、金属の限界を下回るとするのが妥当である。‘高’密度の試料については、両方の浸透限界を十分上回っているとするのが妥当であろう。
【0076】
MWNTについては、ネットワーク配置の中で大多数は金属的であると考えられるので、ρthを上回ることだけが要求され、従って、若干低目の密度の使用が可能になる。ナノチューブ・アレイについては、チューブ間の接触が存在しないので、本分析は適用されない。
【0077】
ナノチューブネットワークは微量レベルのCV測定に対して有効であって、他の電極材料では手が届かないことが明らかになっている濃度レベルに到達するための、単純かつ実効的なルートを提供してくれる。表面の非共有性修飾、浮遊容量最小化のための努力、パルス電位技術および流体力学的手法等の利用を伴えば、これらネットワーク電極の検出感度および選択度を更に増大させる上でかなりの余地が存在する。加えて、微小電極形式(ナノチューブのネットワークまたはアレイ)の使用を通して、高速走査CV技術における分析時間の増大と、ポテンシャルステップクロノアンペロメトリーにおけるより短い時間スケールへのアクセスのための余地が発生する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁表面;
少なくとも0.1μmCNTμm-2の密度で前記絶縁表面上に位置するカーボンナノチューブ;および
前記カーボンナノチューブと電気的に接触する導電性材料;
を含む電気化学分析用の電極であって、
前記カーボンナノチューブが前記絶縁表面の約5.0%以下の面積を被覆する電極。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが前記絶縁表面の約0.8%以下を被覆する請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの前記密度が約20μmCNTμm-2以下である請求項1または2記載の電極。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ(SWNT)である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(MWNT)である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが前記絶縁表面と実質的に平行に配置される請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
各カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブネットワーク内の少なくとも3本の他のカーボンナノチューブと接触し、カーボンナノチューブ・アレイ内の他のカーボンナノチューブとは接触していない請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記絶縁表面が、酸化ケイ素コーティングを有するケイ素、または石英を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
前記絶縁表面が酸化ケイ素コーティングを有するケイ素を含む請求項8記載の電極。
【請求項10】
前記導電性材料が金を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブが未修飾である請求項1〜10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブが官能基化されている請求項1〜10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブが、ポリマー、オキシドレダクターゼ酵素およびドーパントから選択される基または部分により官能基化されている請求項12記載の電極。
【請求項14】
前記ポリマーが、イオン交換ポリマー、導電性ポリマーおよびレドックスポリマーから選択され、前記オキシドレダクターゼ酵素がグルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼおよびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドから選択され、前記ドーパントがフェロセンである請求項13記載の電極。
【請求項15】
前記カーボンナノチューブが材料の蒸着により部分的にコーティングされている請求項1〜10または請求項12〜14のいずれか一項に記載の電極。
【請求項16】
前記材料が、金属、半導体材料および有機ポリマーから選択される請求項15記載の電極。
【請求項17】
前記金属、半導体材料および有機ポリマーが、白金、銀、パラジウム、金、銅、水銀、チタン、CdSe、CdTe、CdS、P3HT、ペンタセンおよびドープポリアニリンから選択される請求項16記載の電極。
【請求項18】
カーボンナノチューブ・アレイを有する請求項1〜17のいずれか一項に記載の電極を作製する方法であって、
所定量の触媒ナノ粒子を絶縁表面上に蒸着させること;
前記絶縁表面を熱、水素ガス源および炭素含有ガス源に曝露させて前記ナノチューブを成長させること;ならびに
導電性材料を前記絶縁表面上に蒸着させて、導電性材料が前記カーボンナノチューブと電気的に接触するようにすること、
を含み、
ここで、前記触媒ナノ粒子の蒸着前にはアニーリング工程を実施しない方法。
【請求項19】
前記カーボンナノチューブを、触媒化学気相成長法を用いて前記絶縁表面上に成長させる請求項18記載の方法。
【請求項20】
鉄系触媒またはコバルト系触媒を使用する請求項19記載の方法。
【請求項21】
溶液を電気化学的に分析する方法であって、
少なくとも0.1μmCNTμm-2の密度で絶縁表面上に位置するカーボンナノチューブを有する絶縁表面であって、前記カーボンナノチューブが約2.0%以下の面積を被覆する前記絶縁表面、及び、前記カーボンナノチューブと電気的に接触する導電性材料とを準備すること、
前記溶液の試料を前記カーボンナノチューブと接触させること;ならびに
電極に電位を印加し前記試料を電気化学的に分析すること、
を含み、
ここで、前記溶液の濃度が約100μM以下である方法。
【請求項22】
前記溶液の濃度が約10μM以下である請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記カーボンナノチューブが、前記絶縁表面の約2.0%以下を被覆する請求項21または22記載の方法。
【請求項24】
前記カーボンナノチューブの密度が約20μmCNTμm-2以下である請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ(SWNT)である請求項21〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(MWNT)である請求項21〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記カーボンナノチューブが前記絶縁表面と実質的に平行に配置される請求項21〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
各カーボンナノチューブが、少なくとも3本の他のカーボンナノチューブと接触している請求項21〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記絶縁表面が酸化ケイ素または石英を含む請求項21〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記絶縁表面がSi/SiO2表面である請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記導電性材料が金を含む請求項21〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記カーボンナノチューブが未修飾である請求項21〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記カーボンナノチューブが官能基化されている請求項21〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記カーボンナノチューブが、ポリマー、オキシドレダクターゼ酵素およびドーパントから選択される基または部分により官能基化されている請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記ポリマーがイオン交換ポリマー、導電性ポリマーおよびレドックスポリマーから選択され、前記オキシドレダクターゼ酵素がグルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼおよびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドから選択され、前記酸化還元メディエーターがフェロセンまたは周知の他の酸化還元対である請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記カーボンナノチューブが材料の蒸着により部分的にコーティングされている請求項21〜31または請求項33〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記材料が、金属、半導体材料および有機ポリマーから選択される請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記金属、半導体材料および有機ポリマーが、白金、銀、パラジウム、金、銅、水銀、チタン、TiN、CdSe、CdTe、CdS、P3HT、ペンタセンおよびドープポリアニリンから選択される請求項37記載の方法。
【請求項39】
約100μM以下の濃度を有する溶液の電気化学分析におけるカーボンナノチューブの使用。
【請求項40】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の電極を含む分析装置またはキット。
【請求項41】
対電極、基準電極ならびに好ましくはフロー・セルおよび/もしくは記録手段を更に含む請求項40記載の分析装置またはキット。
【請求項42】
実質的に本明細書中に記載し、図面において例証したような電極。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−535333(P2010−535333A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518743(P2010−518743)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002634
【国際公開番号】WO2009/016389
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(501335276)ザ ユニバーシティ オブ ワーウィック (5)
【Fターム(参考)】