説明

ナノファイバシートの付着方法

【課題】ナノファイバのシートを、容易に対象物の表面に付着させる方法を提供すること。
【解決手段】高分子化合物のナノファイバから形成されるナノファイバ層11と、ナノファイバ層11の一方の面側に配された基材層12とを備えたナノファイバシート10を、対象物の表面に付着させるナノファイバシートの付着方法である。ナノファイバ層11の表面又は対象物の表面を湿潤させた状態下に、ナノファイバシート10におけるナノファイバ層11側の面を、該表面に当接させる。基材層12が、ナノファイバ層11と剥離可能に積層されており、ナノファイバシート10を前記表面に当接させた後、ナノファイバシート10から基材層12を剥離して、ナノファイバ層11を前記表面に転写することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバから構成されるナノファイバ層を備えたナノファイバシートを対象物の表面に付着させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバは、例えば、ナノサイズ効果を利用した高透明性などの光学特性が要求される分野に応用されている。一例として、ナノファイバの直径を可視光の波長以下にすることで、透明なファブリックを実現できる。また、ナノファイバの直径を可視光の波長と同じにすることで、構造発色を発現させることができる。また、超比表面積効果を利用して、高吸着特性や高表面活性が要求される分野や、超分子配列効果を利用して、引張強度等の力学的特性や高電気伝導性等の電気的特性が要求される分野にも応用されている。このような特徴を有するナノファイバは、例えば単繊維として用いられるほか、集積体(ファブリック)や複合材としても用いられている。
【0003】
ナノファイバの応用例として、多糖類を主原料とし、静電紡糸法によって得られ、直径が500nm以下である多糖類のナノスケールの繊維が提案されている(特許文献1参照)。同文献の記載によれば、この繊維は、再生医療における生体組織培養の基材及び生体組織の欠損、修復、再生、治療を目的とした生体材料(人工弁、人工臓器、人工血管、創傷被覆材等)の一部として用いられるとされている。
【0004】
また、高分子化合物のナノファイバからなる網目状構造体に、化粧料や化粧料成分を保持させてなる化粧用シートも提案されている(特許文献2参照)。同文献の記載によれば、この化粧用シートは、顔面や手足に対する密着性や装着感を向上させることができ、また、保存性も向上させることができるとされている。
【0005】
しかし、前記の各特許文献に記載のナノファイバから構成されるシートは、該ナノファイバの極細さに起因して剛性が低く(コシが弱く)、取り扱い性が良好とは言えない。したがって、それらのシートに由来する効能等を発現させることを目的として、該シートをヒトの肌を始めとする対象物の表面に付着させることは容易でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−290610号公報
【特許文献2】特開2008−179629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るナノファイバシートの容易な転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高分子化合物のナノファイバから形成されるナノファイバ層と、該ナノファイバ層の一方の面側に配された基材層とを備えたナノファイバシートを、対象物の表面に付着させるナノファイバシートの付着方法であって、
ナノファイバ層表面又は対象物表面を湿潤させた状態下に、前記ナノファイバシートにおける前記ナノファイバ層側の面を該表面に当接させるナノファイバシートの付着方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、高分子化合物のナノファイバから形成されるナノファイバ層と、該ナノファイバ層の一方の面側に配された基材層とを備えたナノファイバシートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、これまで取り扱い性が良好といえなかったナノファイバのシートを、容易に対象物の表面に付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のナノファイバシートの一実施形態の構造を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図2は、ナノファイバの構造の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、エレクトロスピニング法を実施するための装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の方法に用いられるナノファイバシートの構造の一例を模式的に示す縦断面図が示されている。同図に示すように、ナノファイバシート10は、2層構造の積層体から構成されている。詳細には、ナノファイバシート10は、ナノファイバ層11と、その一方の面に配された基材層12とを備えている。なお、図1はナノファイバシート10の構造を模式的に示すものであり、各層の厚みは実際の厚みを表すものではない。
【0013】
ナノファイバ層11は、ナノファイバから構成されている層である。ナノファイバ層11は、ナノファイバのみから構成されていることが好ましい。尤も、ナノファイバ層11が、ナノファイバに加えて他の成分を含むことは妨げられない。本実施形態で用いることができるナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定することができる。
【0014】
ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。また、ナノファイバは、ナノファイバ層11において、一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向を向いていてもよい。更に、ナノファイバは、一般に中実の繊維であるが、これに限られず例えば図2に示すように、中空のナノファイバ20を用いることもできる。
【0015】
ナノファイバは、高分子化合物を原料とするものである。高分子化合物としては、天然高分子及び合成高分子のいずれをも用いることができる。この高分子化合物は、水溶性のものでもよく、水不溶性のものでもよい。天然高分子としては、例えばキチン、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、変性コーンスターチ、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン等を用いることができる。
【0016】
合成高分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸グリコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド等を用いることができる。
【0017】
ナノファイバ層11の厚みは、ナノファイバシート10の具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシート10を、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバ層11の厚みを50nm〜1mm、特に500nm〜500μmに設定することが好ましい。ナノファイバ層11の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用することによって測定することができる。測定時にシートに加える荷重は0.01Paとする。
【0018】
ナノファイバ層11においては、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバ層11は、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバ層11の製造方法によって相違する。
【0019】
ナノファイバ層11の一方の面に配されている基材層12は、ナノファイバシート10の取り扱い性を高める目的で用いられているものである。具体的には、基材層12は、ナノファイバシート10の剛性を高める(コシを強くする)目的で用いられる。ナノファイバ層11を、基材層12と組み合わせて用いることで、剛性が低く、コシの弱いナノファイバ層11を、例えばヒトの肌等の対象物の表面に付着させるときの操作性が良好になる。
【0020】
ナノファイバシート10に適度な剛性を付与する観点から、基材層12は、そのテーバーこわさが0.01〜0.4mNm、特に0.01〜0.2mNmであることが好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
【0021】
テーバーこわさとともに、基材層12の厚みも、ナノファイバシート10の取り扱い性に影響を及ぼす。この観点から、基材層12の厚みは、該基材層12の材質にもよるが、5〜500μm、特に10〜300μmであることが好ましい。基材層12の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50Aを使用することによって測定することができる。
【0022】
基材層12は、ナノファイバ層11の上に直接積層されている。この場合、基材層12は、ナノファイバ層11に対して剥離可能に積層されていることが好ましい。ナノファイバ層11を、例えばヒトの肌に付着させた後に、基材層12をナノファイバ層11から剥離除去して、ナノファイバ層11のみをヒトの肌に残すことが可能になるという利点がある。したがって、ナノファイバ層11と基材層12との間には接着手段等を始めとする何らの層も設けられていないことが好ましい。
【0023】
基材層12としては、例えばポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂を始めとする合成樹脂製のフィルムを用いることができる。基材層12を、ナノファイバ層11に対して剥離可能に積層する場合には、フィルムにおけるナノファイバ層11との対向面に、シリコーン樹脂の塗布やコロナ放電処理などの剥離処理を施しておくことが、剥離性を高める観点から好ましい。フィルムの厚みやテーバーこわさは、先に述べた範囲に設定することが好ましい。
【0024】
基材層12としては、通気性を有するシートを用いることもできる。通気性を有するシートを用いることで、上述したシリコーン樹脂の塗布等の剥離処理をことさら行わなくても、基材層12を、ナノファイバ層11に対して剥離可能に積層することができる。この場合、基材層12の通気性は、JIS P8117に規定される透気抵抗度(ガーレー)で表して、30秒/100ml以下、特に20秒/100ml以下であることが好ましい。通気性を有するシートとしては、例えばメッシュシート;不織布、織布、編み地、紙などの繊維シート;及びそれらの積層体などを用いることができる。繊維シートを構成する繊維としては、繊維形成性の合成樹脂からなる繊維や、コットン及びパルプなどのセルロース系の天然繊維を用いることができる。繊維シートの坪量は、強度や取り扱い性を考慮して、0.1〜100g/m2、特に0.5〜50g/m2であることが好ましい。一方、通気性を有するシートとしてメッシュシートを用いる場合には、メッシュの目開きは、透気抵抗度が上述した範囲であることを条件として、20〜200メッシュ/インチ、特に50〜150メッシュ/インチとすることが好ましい。また、メッシュの線径は、10〜200μm、特に30〜150μmであることが好ましい。メッシュシートを構成する材料としては、上述したフィルムを構成する材料と同様のものを特に制限なく用いることができる。
【0025】
以上のとおり、本実施形態のナノファイバシート10は、その一方の面において、ナノファイバ層11が露出しており、他方の面において、基材層12が露出している。そして、ナノファイバシート10を対象物の表面に付着させるときには、ナノファイバ層11側の面を、該表面に当接させて付着させる。
【0026】
ナノファイバシート10を、対象物の表面に付着させるのに先立ち、該表面を湿潤状態にしておく。これによって、表面張力の作用を利用して、ナノファイバシート10を該表面に首尾良く付着させることができる。対象物の表面を湿潤状態にすることに代えて、ナノファイバシート10におけるナノファイバ層11側の面を湿潤状態にしてもよい。
【0027】
対象物の表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の流動体を該表面に塗布又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される流動体としては、ナノファイバシート10を付着させる温度において液体成分を含み、かつその温度における粘度が5000mPa・s以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような流動体としては、例えば水、水溶液及び水分散液等の水系液体、並びに非水系溶剤、その水溶液及びその分散液などが挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘性多糖類等を始めとする各種の増粘剤で増粘された液なども挙げられる。具体的には、ナノファイバシート10を例えば化粧料として用いる場合には、対象物の表面を湿潤させるための液体として、化粧水や化粧クリームを用いることができる。前記の粘度はE型粘度計を用いて測定される。
【0028】
流動体の塗布又は噴霧によって対象物の表面を湿潤状態にするには、該流動体の表面張力が十分に発現する、少量で十分であることが、本発明者らの検討の結果判明した。具体的には、ナノファイバシートの大きさにもよるが、その大きさが例えば3cm×3cmの正方形の場合、0.01cm3の量の流動体を対象物の表面に存在させることで、ナノファイバシート10を容易に該表面に付着させることができる。
【0029】
ナノファイバシート10における基材層12がナノファイバ層11から剥離可能である場合には、ナノファイバシート10を対象物の表面に付着させた後、ナノファイバシート10から基材層12を剥離することで、ナノファイバ層11のみを該表面に転写することができる。
【0030】
この転写を一層首尾良く行う観点から、前記の流動体は、ナノファイバシート10を付着させる温度において測定されたタック性が3〜2000gf、特に5〜1000gfであることが好ましい。このような流動体を用いることで、流動体を対象物に容易に塗布することができ、必要範囲に塗り広げることができる。そして、対象物とナノファイバ層11との間の接着力を、ナノファイバ層11と基材層12との間の接着力よりも十分に高めることができ、ナノファイバ層11の対象物表面への転写を一層首尾良く行うことができる。また、逆にナノファイバと対象物の接着力が強くなりすぎないために、容易に対象物からナノファイバを剥がすことができる。この観点から、流動体としては、そのタック性が上述の範囲内であることを条件として、増粘性多糖類の水溶液を用いることが好ましい。
【0031】
〔タック性の測定方法〕
23℃・50%環境下においてナノファイバシート10のタック性を測定する。前記の流動体をスライドガラス上にスポイトを用いて滴下し(0.01〜0.1g)、均して直径2cmの円形に塗り広げて流動体の塗膜を形成する。その後、タッキング試験機((株)レスカ社製)用いて、Preload 200gf、Press Time 10secの条件でタック性を測定する。
【0032】
ナノファイバシート10を付着させる対象物としては、ナノファイバの材質や、それに付着させる物質等に応じて適切なものが選択される。例えばヒトの皮膚、非ヒト哺乳類の皮膚や歯、枝や葉などの植物表面などが挙げられる。
【0033】
本実施形態で用いられるナノファイバシート10は例えば次に述べる方法に従い好適に製造される。すなわち、ナノファイバの製造方法としてエレクトロスピニング法を用い、基材層12の一面にナノファイバを堆積させてナノファイバ層11を形成する。
【0034】
図3には、前記のエレクトロスピニング法を実施するための装置30が示されている。エレクトロスピニング法を実施するためには、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備えた装置30が用いられる。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μmである。シリンダ31a内には、ナノファイバの原料となる高分子化合物の溶液が充填されている。この溶液の溶媒は、高分子化合物の種類に応じ、水又は有機溶媒とする。高電圧源32は、例えば10〜30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における高分子溶液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるニードル31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mmに設定されている。図3に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0035】
シリンジ31と導電性コレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端から高分子化合物の溶液を押し出す。押し出された溶液においては、溶媒が揮発し、溶質である高分子化合物が固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ33に引き寄せられる。このとき、導電性コレクタ33の表面に基材層(図示せず)となるべきシートを配置しておくことで、該基材層の表面にナノファイバを堆積させることができる。このようにして形成されたナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。このようにして、目的とする2層構造のナノファイバシート10が得られる。なお、図2に示したような中空のナノファイバを得るためには、例えばキャピラリを二重管にして芯と鞘に相溶し合わない溶液を流せばよい。
【0036】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、エレクトロスピニング法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
【0037】
また、図3に示すエレクトロスピニング法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0039】
〔実施例1〕
ポリ乳酸樹脂(東レ(株)製L101(商品名))を、クロロホルムとジメチルホルムアミド(80:20重量比)に溶解して、9%の溶液を得た。この溶液を用い、図3に示すエレクトロスピニング法の装置によって、基材層となるべきフィルムの表面にナノファイバ層を形成した。ナノファイバの製造条件は次のとおりである。
・印加電圧:17kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:150mm
・水溶液吐出量:1ml/h
・環境:25℃、30%RH
【0040】
基材層となるべきフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:25μm、テーバーこわさ:0.08mNm)の一面に、シリコーン剥離処理を施したものであった。ナノファイバ層は、剥離処理面に形成した。形成されたナノファイバ層の厚みは30μmであった。ナノファイバの太さは300nmであった。
【0041】
このようにして、図1に示す構造のナノファイバシートを得た。25℃において、このナノファイバシートを、予め水(タック性(23℃):0.75g、粘度(25℃、10rpm):10mPa・s以下)で湿潤させておいたヒトの上腕の肌に、ナノファイバ層が当接するように押し付けた。次いで、基材層をナノファイバ層から剥離した。この操作によって、ナノファイバ層をきれいに肌に転写することができた。
【0042】
〔実施例2〕
実施例1で用いたポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて、ポリエチレンテレフタレート製のメッシュシート(目開き:120メッシュ/インチ、線径:63μm)を用いた。このメッシュシートには剥離処理は施されていない。このメッシュシートの透気抵抗度は0.1秒/100ml以下、テーバーこわさは0.13mNmであった。これ以外は実施例1と同様にして、図1に示す構造のナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートを用い、実施例1と同様の転写を行ったところ、ナノファイバ層が首尾良くヒトの肌に転写した。
【0043】
〔実施例3〕
実施例1で用いたポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて、坪量78g/m2、厚さ0.09mmのPPC用紙を用いた。この紙の透気抵抗度は21秒、テーバーこわさは0.12mNmであった。これ以外は実施例1と同様にして、図1に示す構造のナノファイバシートを得た。また、実施例1で用いた水に代えて、15%プルランの水溶液(タック性(25℃):59.9g、粘度(25℃、10rpm):560mPa・s)を用いて、ヒトの上腕の肌を予め湿潤させた。得られたナノファイバシートを用い、実施例1と同様の転写を行ったところ、実施例1よりも一層首尾良くナノファイバ層がヒトの肌に転写した。
【0044】
〔実施例4〕
実施例3で用いた15%プルランの水溶液に代えて、10%プルランの水溶液(タック性(23℃):10.7g、粘度(23℃、10rpm):123mPa・s)を用いて、ヒトの上腕の肌を予め湿潤させた。これ以外は実施例3と同様にして、ナノファイバシートの転写を行ったところ、実施例1よりも一層首尾良くナノファイバ層がヒトの肌に転写した。
【0045】
〔実施例5〕
実施例3で用いた15%プルランの水溶液に代えて、30%プルランの水溶液(タック性(23℃):306.5g)を用いて、ヒトの上腕の肌を予め湿潤させた。これ以外は実施例3と同様にして、ナノファイバシートの転写を行ったところ、実施例1よりも一層首尾良くナノファイバ層がヒトの肌に転写した。
【0046】
〔実施例6〕
実施例3で用いた15%プルランの水溶液に代えて、ウレタン系溶液(アクゾノーベル(株)製、DynamX)(タック性(23℃):868g)を用いて、ヒトの上腕の肌を予め湿潤させた。これ以外は実施例3と同様にして、ナノファイバシートの転写を行ったところ、実施例1よりも一層ナノファイバ層が首尾良くヒトの肌に転写した。
【0047】
〔実施例7〕
実施例3で用いた15%プルランの水溶液に代えて、トリメチルシロキシケイ酸の水溶液(信越化学(株)性、KF−9021)(タック性(23℃):1862g)を用いて、ヒトの上腕の肌を予め湿潤させた。これ以外は実施例3と同様にして、ナノファイバシートの転写を行ったところ、ナノファイバ層が首尾良くヒトの肌に転写した。
【0048】
〔実施例8〕
実施例3で用いた15%プルランの水溶液に代えて、花王(株)製の化粧液である「ソフィーナ(登録商標)・リンクル・セラティ・エッセンス」(タック性(25℃):8.6g、粘度(25℃、10rpm):600mPa・s)を用いて、ヒトの上腕の肌を予め湿潤させた。これ以外は実施例3と同様にして、ナノファイバシートの転写を行ったところ、実施例1よりも一層首尾良くナノファイバ層がヒトの肌に転写した。
【0049】
〔実施例9〕
実施例1で用いたポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて、坪量40g/m2、厚さ0.28mmのスパンボンド不織布を用いた。この不織布の構成繊維は、芯がポリエチレンテレフタレートからなり、鞘がポリエチレンからなる芯鞘型複合繊維であった。この不織布の透気抵抗度は0.1秒/100ml、テーバーこわさは0.06mNmであった。これ以外は実施例1と同様にして、図1に示す構造のナノファイバシートを得た。また、実施例1で用いた水に代えて、15%プルランの水溶液(タック性(25℃):59.9g、粘度(25℃、10rpm):560mPa・s)を用いて、ヒトの上腕の肌を予め湿潤させた。得られたナノファイバシートを用い、実施例1と同様の転写を行ったところ、実施例1よりも一層首尾良くナノファイバ層がヒトの肌に転写した。
【符号の説明】
【0050】
10 ナノファイバシート
11 ナノファイバ層
12 基材層
20 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物のナノファイバから形成されるナノファイバ層と、該ナノファイバ層の一方の面側に配された基材層とを備えたナノファイバシートを、対象物の表面に付着させるナノファイバシートの付着方法であって、
ナノファイバ層表面又は対象物表面を湿潤させた状態下に、前記ナノファイバシートにおける前記ナノファイバ層側の面を該表面に当接させるナノファイバシートの付着方法。
【請求項2】
前記基材層が、前記ナノファイバ層と剥離可能に積層されており、
前記ナノファイバシートを前記表面に当接させた後、該ナノファイバシートから前記基材層を剥離して、前記ナノファイバ層を前記表面に転写する請求項1記載のナノファイバシートの付着方法。
【請求項3】
前記基材層のテーバーこわさが0.01〜0.4mNmである請求項1又は2記載のナノファイバシートの付着方法。
【請求項4】
前記ナノファイバの直径が10〜1000nmである請求項1ないし3のいずれかに記載のナノファイバシートの付着方法。
【請求項5】
前記基材層が、通気性を有するシートからなる請求項1ないし4のいずれかに記載のナノファイバシートの付着方法。
【請求項6】
通気性を有する前記シートの透気抵抗度(ガーレー)が30秒/100ml以下である請求項7記載のナノファイバシートの付着方法。
【請求項7】
ナノファイバ層表面又は対象物表面を湿潤させるために用いられる流動体のタック性が3〜2000gfである請求項2ないし6のいずれかに記載のナノファイバシートの付着方法。
【請求項8】
高分子化合物のナノファイバから形成されるナノファイバ層と、該ナノファイバ層の一方の面側に配された基材層とを備えたナノファイバシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−167780(P2010−167780A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293518(P2009−293518)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】