説明

ナノ結晶性アパタイトを含有する組成物

本発明は、骨−または好ましくは歯修復材料として有用なナノ結晶性アパタイトを含有する組成物について記載している。この組成物を用いて製造される材料は、審美性、硬度、透光性、表面研磨性、強度、および生物環境に関してイオンを放出し吸収する能力の各分野において向上した性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[序論]
本発明は、骨−または好ましくは歯修復材料として有用であるナノ結晶性アパタイトを含有する組成物について記載している。この組成物を使用して製造される材料は、審美性、硬度、透光性、表面研磨性、強度、および生物環境に関してイオンを放出し吸収する能力の各分野において向上した性質を有する。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
生物学的硬質組織合成オルトリン酸塩に対するその化学的および構造的類似性により、特にCa10(PO46(OH)2またはCa10(PO462などのアパタイトは、単独ならびにポリマー、ガラスなどの他の材料との組み合わせにおいて、医療用材料として特に興味深い。
【0003】
米国特許第4,778,834号は、μm範囲における粒子サイズを有するヒドロキシアパタイト充填剤、Ca10(PO46(OH)2を、重合性モノマーと最高70%の濃度において組み合わせることにより調製される歯科用材料について記載している。シリカまたはシリケート(ケイ酸塩)充填剤と対照的に、アパタイト充填剤は、重合性樹脂マトリックスとの機械的結合を増強させる目的でシラン化することはできない。しかしながら、混合前に、ヒドロキシアパタイト粒子をシリケートカバーでコーティングし、次いで歯科用材料を調製するための標準的方法でシラン化することができる。このように調製された材料の欠点は、シリケートカバーによる環境との限定されたイオン交換(カルシウム、ホスフェート(リン酸塩)など)である。
【0004】
もう1つの欠点は、歯科用充填材料に必要な透明性の達成における困難さである。これは、ヒドロキシアパタイトCa10(PO46(OH)2における屈折率1.62が、樹脂マトリックスのポリマー成分の1.45〜1.53の間の値と比較して高過ぎるためである。この屈折率の差により、透光性が低く、審美性に劣る、不透明な材料が得られ、従ってこれらの材料の通常の光重合は薄層においてのみ可能である。さらに、この材料は、歯科用材料の望ましい性質である、虫歯を防止するためにフッ化物イオンを放出することができない。
【0005】
国際公開WO A 94/23944号は、重合性モノマーを、サブミクロン〜ミクロンの範囲、特に0.5〜0.7μmの粒子サイズを有する結晶性焼結フルオロアパタイトCa10(PO462と、10〜70体積%の濃度で組み合わせることにより製造される歯科用材料について記載している。これらの歯科用材料は、その生物環境中にフッ化物イオンを放出するが、既に記載したように、フルオロアパタイトCa10(PO462の屈折率1.63がポリマー樹脂マトリックスの値と比較して高過ぎるため、歯科用材料に関して許容される、必要な透光性を有さない。この結果、低い光透過性により、審美性に乏しく、硬化の光重合の深さが低い不透明材料が得られる。
【0006】
この欠点を克服するために、Antonucci,J.M.Dent.Mat.7:124−129,1991は、屈折率を1.54〜1.59に減少させるためにフルオロアパタイトの代わりにカルシウム−メタホスフェート(Ca(PO32nを使用することを提案している。これらの充填剤は、選択された樹脂マトリックスとの組み合わせにおいて、透明性を向上させる歯科用材料を産生する。しかしながら、これらはフルオロアパタイトと比較して高い溶解性を示し、このために、口腔環境において低い安定性を示す。加えて、これらはフッ化物イオンを放出しない。
【0007】
従って、Antonucciの研究に関して、溶解性は低下するが、カルシウム−メタホスフェートと同じ範囲かまたはより低い屈折率を有する、フルオロアパタイトなどのフッ化物ドナーの添加により調製される透光性歯科用材料が特に望ましいことが結論づけられる。
【0008】
欧州特許第0193588B1号は、骨および歯の欠陥を修復するための0.1mmより大きな粒子サイズを有するカーボネート置換アパタイト類について記載している。これらのカーボネート置換アパタイト類は、歯のような透光性および高い咬合荷重負担を有する用途において充填材料として好適であるために必要な強度に欠ける。その高い不透明性により、これらの材料は光硬化性でない。その代わりに、インプランテーションの目的にのみ許容できる自己硬化性組成物が得られた。
【0009】
独国特許第2326100B2号及び独国特許出願公開第2501683A1号は、補綴目的で使用される生物活性を有する接着性材料、特に、ガラス相中に埋め込まれた結晶性アパタイト相から成る二相ガラスについて記載している。かかる材料をシラン化することができるが、通常のアクリル樹脂と共に使用される場合、この結果、得られた材料は不透明である。不十分な光学的性質により特徴づけられる低カーボネート置換アパタイト類も記載されている。記載された二相ガラスの放射線不透過性の欠如により、得られるアクリル化アパタイト/ガラス材料は、当然、歯科用修復材料として不適当である。
【0010】
米国特許第5,304,577号は、2〜10μmの範囲の粒子サイズを有するホスフェート−アパタイト類のみに関する。リン酸ストロンチウム−アパタイトは、リン酸カルシウム−アパタイトと同様に、屈折率1.63を示す。従って、屈折率における所望の減少は、カルシウムをストロンチウムで置換することにより達成できなかった。従って、本発明者らは、これらの材料は、あまり目に見えない部分、すなわち、骨欠損、根管、歯周治療においてのみ好適であると結論づけた。要約すると、記載された歯科用材料は、目に触れる機会がより多い高荷重負担部分の修復に好適なものとするためには不十分な強度と合わせて、容認し難いほどの高い不透明性を有することが特徴であった。
【0011】
Derwent−Abstract no.85−021 799[04]およびDerwent−Abstract no.85−022 140[04]は、純粋なホスフェート−アパタイト類とジメタクリレート類との反応から得られる不透明ペースト類の調製について記載している。低い光透過性により、これらの材料は容易に光重合することができない。これはさらに、それらが容認し難いほどの高い不透明性を有するものであることを示唆している。従って、2ペーストシステム、例えば、アミン/過酸化物は、満足できる硬化が可能となるように処方しなければならない。アパタイトが唯一の充填剤であるため、得られる材料の強度は非常に低かった。この欠点に加えて、この特許において用いられる記載されたカチオン置換も屈折率の減少につながらなかった。
【0012】
欧州特許出願公開第0832636A2号は、重合性歯科用材料におけるフッ化物含有混合アパタイト類の用途について記載しており、ここでは、これらの混合アパタイト類は、類似または同等に荷電したカチオン、または同一または異なるスルフェート、フルオロホスフェートまたはカーボネートアニオン、ならびにフッ化物、塩化物、水酸化物または酸化物アニオンの組み合わせを含み、それぞれ1.52〜1.66の範囲の屈折率および0.01μmおよび10μmの粒子サイズを有する。混合アパタイト類のこれらの添加により、材料の透光性が向上した。しかしながら、混合アパタイトの溶解性向上(純粋なアパタイトと比較において)による、口腔環境における重合した材料の溶解性に対する影響は議論されなかった。
【0013】
国際公開WO95/30402号において、Wictorinは、他の充填剤のなかでも、ミクロンサイズのアパタイトを硬化性エポキシ処方歯科用樹脂複合体充填材料において充填剤として使用することについて記載している。エポキシおよびメタクリレート樹脂の屈折率における類似性により、エポキシ樹脂から調製される、結果として得られる歯科用樹脂複合体は、同様に容認し難い高い不透明性を有するものであった。さらに、充填剤と樹脂マトリックスとの間の不十分な接着性により、得られる複合体の機械的性質は不十分であった。
【0014】
国際公開WO97/17285号は、吸収性合成骨材料として使用される250μmより大きい粒子サイズの異なる物理的形態における非結晶性ナノ結晶性リン酸カルシウムアパタイトの混合物について記載している。
【0015】
D.Res.Nat.Stand.Technol.,108,167−182(2003)において、D.SkriticおよびD.M.Antonucciは、生物学的アパタイトの前駆体として公知の非結晶性リン酸カルシウムの、生物活性を有する重合性樹脂複合体の調製における充填剤としての使用について記載している。これらの材料の生物活性は望ましいが、非結晶性のμm〜mmのサイズの凝集した充填剤構造のために、結果として得られる樹脂複合体の安定性、審美性および機械的性質は不十分である。
【0016】
国際公開WO00/03747号は、0.0005〜0.2μmのサイズのナノ結晶性アパタイトを含有する非硬化性歯科用組成物について記載している。これらのアパタイト組成物の主な目的は、エナメル質および象牙質の再ミネラル化を促進することである。加えて、その極端に小さいサイズのために、これらのナノ粒子は、象牙細管中深く浸透することができる。
【0017】
従って、従来技術において、審美性、硬度、透光性、表面研磨性、強度、および生物環境においてイオンを放出し吸収する能力の各分野において向上した性質を有する、骨および特に歯修復材料としての用途に好適な硬化性材料を得る問題の解決策は存在していない。公知の生成物は硬化状態において非常に不透明であるか、またはその機械的性質が不十分であるか、または修復材料と生物環境との間のイオン移動が阻害されるかのいずれかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、骨および特に歯の修復材料として有用な、より改善された材料を提供し、従来技術の欠点を克服することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、骨および特に歯修復材料として使用できる、審美性、硬度、透光性、表面研磨性、強度、および生物環境においてイオンを放出し吸収する能力の各分野において向上した性質を有する硬化性組成物を提供することにより解決される。本発明の組成物は、下記一般式:
Ca10-xx(PO46-yyz(OH)2-z
(式中、MはCa2+以外のカチオンであり、BはPO43-以外のアニオンであり、Aはそれぞれ独立してO2-、CO32-、F-またはCl-から成る群より選択され、0≦x≦9、0≦y≦5、0≦z≦2である。)
で表されるナノ結晶性アパタイトを含有する架橋性樹脂および/または硬化性酸/塩基セメントシステムの混合物を含み、前記アパタイト粒子の少なくとも50重量%が2〜200nmの範囲内の粒子サイズを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[本発明の説明]
前記組成物は、任意に追加成分との組み合わせにおいて、所望の歯のような透明性、良好な機械的性質、所望のイオン放出およびイオン吸収性を有する材料を提供する。好ましい追加の成分は、他の充填剤、例えば、ガラスまたは微粒ケイ酸、一般的に用いられる歯科用モノマー類および/または歯科用セメントシステムである。本発明の材料の屈折率の向上は、おそらく、アパタイト粒子のサイズによるものであろう。50重量%(wt%)より多くの粒子が200nmより小さな粒子サイズを有する場合、これらは400nm〜900nmの波長の可視光を散乱することができない。この性質は、本発明の材料の主たる利点である。
【0021】
本発明により提供される材料は、歯科補綴学、歯科保存学および予防歯科医学において、骨セメントまたは代用骨および特に充填材料、インレイまたはオンレイ、合着セメント、クラウンおよびブリッジのベニヤ、義歯用材料、象牙質およびエナメル質結合剤、アンダーフィリング材料(underfilling material)、コアビルドアップ材料、シーラント、根充填材料、または他のミセル状硬化性材料として使用することができる。
【0022】
本発明の組成物は、硬化性マトリックス(架橋性樹脂および/または酸/塩基セメント)およびナノアパタイト類および任意に他の充填剤材料およびミセル状添加剤を含有する。
【0023】
本発明の組成物は、重合性エチレン系不飽和モノマー類であって好ましくはアクリルおよび/またはメタクリル基を含有するものから調製される硬化性マトリックスに基づくことができる。
【0024】
重合性モノマーとして、当業者に公知のエチレン性不飽和モノマー類ベースの、これらすべての重合性モノマー類をこの用途に用いることができる。重合性モノマー類は好ましくはアクリルおよび/またはメタクリル基を有するものを包含する。
【0025】
好ましい重合性モノマーは:α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、ウレタン(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸およびイタコン酸の一価または二価アルコール類とのエステル類;(メタ)アクリルアミド類、例えば、N−イソブチルアクリルアミド;カルボン酸類のビニルエステル類、例えば、ブチルビニルエーテル;モノ−N−ビニル化合物、例えば、N−ビニルピロリドン;およびスチレン類ならびにその誘導体である。特に好ましいものは、以下に列挙される一官能性、二、三および多官能性(メタ)アクリルエステル類およびウレタン(メタ)アクリルエステル類である。
【0026】
a.一官能性(メタ)アクリレート類
メチル(メタ)アクリレート、n−またはi−プロピル(メタ)アクリレート、n−、i−またはtert−ブチル(メタ)アクリレート、および2−ヒドロキシエチル−(メタ)アクリレート。
【0027】
b.二官能性(メタ)アクリレート類
以下の一般式:
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立に水素またはメチルであり、nは3〜20の正の整数である。)
で表される化合物、例えば、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオールおよびエイコサンジオールのジ(メタ)アクリレート類、以下の一般式:
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立に水素またはメチルであり、nは1〜14の正の整数である。)
で表される化合物、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ドデカエチレングリコール、テトラデカエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびテトラデカプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレート;およびグリセリンジ(メタ)アクリレート、2−2’−ビス[p−(γ−メタクリルオキシ−β−ヒドロキシプロポキシ)フェニルプロパン]またはビス−GMA、ビスフェノールAジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1分子あたり2〜10個のエトキシ基を有する2,2’−ジ(4−メタクリルオキシポリエトキシフェニル)プロパンおよび1,2−ビス(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン。
【0028】
c.三官能性または多官能性(メタ)アクリレート類
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類およびペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート。
【0029】
d.ウレタン(メタ)アクリレート
1モルのジイソシアネートを用いたヒドロキシル基を含有する2モルの(メタ)アクリレートモノマーの変換生成物およびヒドロキシル基を含むメタクリルモノマーを用いた2個のN−C=O末端基を含むウレタンプレポリマーの変換生成物は、例えば、以下の一般式で表される:
【化3】

(式中、Rはそれぞれ独立に水素またはメチルを表し、nはそれぞれ独立して3〜20の正の整数であり、R2はそれぞれ有機残基、好ましくはアルキル基または水素を表し、R3はアルキレン基、好ましくはメチレン、エチレンまたはプロピレンを表す。)。

【0030】
e.シリカ−またはシリコーン系アクリレート類
シリカ−またはシリコーン系モノ−、ジ−またはマルチアクリレート類も好適である。
【0031】
記載されたモノマー類は、単独または2種以上のモノマーの混合物としての何れかで使用される。本発明に従って歯科用材料として好ましく使用されるモノマー類は、とりわけ、2,2−ビス−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)−フェニルプロパン(ビス−GMA)、3,6−ジオキサオクタメチレンジメタアクリレート(TEDMA)および/または7,7,9−トリメチル−4−13−ジオキソ−3,14−ジオキサ−5−12−ジアザ−ヘキサデカン−1−16−ジオキシメタクリレート(UDMA)を包含する。
【0032】
モノマー類は、塩基性基(例えば、アミン類)または米国特許第4,806,381号に記載の酸性基も含有することができる。
【0033】
用いられる触媒の種類に応じて、歯科用材料は、室温または高温下で重合可能、および/または光により重合可能でありうる。熱重合の触媒として、公知の過酸化物、例えば、ジベンゾイルパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、tert−ブチルパーオクトエートまたはtert−ブチルパーベンゾエートを使用することができる。α,α’−ビス(イソブチロエチルエステル)、ベンゾピナコールおよび2,2’−ジメチルベンゾピナコールも好適である。
光重合用触媒として、例えば、ベンゾフェノンおよびその誘導体、ならびにベンゾインおよびその誘導体も使用できる。他の好ましい増感剤は:α−ジケトン類、例えば、9,10−フェナントレンキノン、ジアセチル、フリル、アニシル、4,4’−ジクロロベンジルおよび4,4’−ジアルコキシベンジルまたはカンファーキノンである。光増感剤を還元剤と共に使用するのが好ましい。還元剤の例は、アミン類、例えば、シアノエチルメチルアニリン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N’−ジメチル−sym−キシリジンおよびN,N−3,5−テトラメチルアニリンおよび4−ジメチルアミノエチルベンゾエートである。
【0034】
室温での重合用触媒として、ラジカルを供給するシステム、例えば、ベンゾイルパーオキシド類またはラウロイルパーオキシドを、アミン類、例えば、N,N−ジメチル−sym−キシリジンまたはN,N−ジメチル−p−トルイジンとともに使用できる。また、例えば、光開始剤とアミン類およびパーオキシド類などの二重硬化システムを触媒として使用することもできる。光触媒として、UV光で硬化する触媒および可視光の範囲内で硬化する触媒の混合物も考慮することができる。歯科用材料におけるこれらの触媒の量は、習慣的に、0.01〜5重量%である。
【0035】
もう1つの可能な本発明に係る硬化性マトリックスは、開環メカニズムまたは重付加により重合可能な、開環モノマー類を含有するものである。このような重合性材料はエポキシド類とよばれ、一例として、オキシラン環:
【化4】

を含有することができる。
【0036】
重合性エポキシド類は、モノマー類またはポリマーエポキシド類であり、脂肪族、脂環式、芳香族または複素環であり得る。このようなエポキシド類は、例えば、欧州特許第1141094B1号および欧州特許第1117367B1号に記載されている。これらの材料は、一般の、1分子あたり平均して1個の重合性エポキシド基を含有する。さらに好ましくは、これらは1分子あたり少なくとも1.5個の重合性エポキシド基を含有する。重合性エポキシドは、1個のエポキシド末端基を有する直鎖ポリマー(ポリオキシアルキレングリコール類のジグリシジルエーテル)、分子の大部分においてオキシラン基を有するポリマー(ポリブタジエンポリエポキシド)およびポリマーの側鎖にエポキシ基を有するポリマー(グリシジルメタクリレートポリマーまたはコポリマー)であり得る。これらのエポキシド類は、純粋であるか、または1分子あたり1、2またはそれ以上のエポキシド基と混合することもできる。
【0037】
好適なエポキシド材料は、シクロヘキセンオキシド基、例えば、エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを含有することができ、典型的な例は:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロ−ヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレートおよびビス−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペートである(詳細な説明については、米国特許第3,117,099号参照)。
【0038】
さらなる好適なエポキシド類は、エポキシ官能基を有するシリコーン類、特に、分子塊中にシリコーンを有するシクロヘキシルエポキシ基である。この群に属する市販されている材料は、GE Bayer Siliconesから得られるUV9300、UV9315、UV9400およびUV9425である。
【0039】
特に好適であり生体適合性を有しているものは、独国特許第19860361号およびPCT/FR99/02345に記載の光、熱または冷重合に必要なスターターシステムを有するエポキシド類および有機骨格(直鎖または環状)を有するモノマー類である。ヒドロキシ含有材料またはビニルエーテル類もエポキシド樹脂に添加することができる。
【0040】
さらなる開環モノマーもオルト炭酸(一例として、スピロ−オルト炭酸塩の一般構造が、Beyerleyら、米国特許第5,556,896号に示されている)の誘導体:
【化5】

を含有することもできる。
【0041】
また、ormocerマトリックス、例えば、国際公開WO92/16571号、独国特許第4133494号または独国特許第10016324号に記載されているものも好適である。
【0042】
修復目的において好適な重合性モノマー類の新規な基は、シリコーンモノマーベースのものである。この基の例は、独国特許出願公開第3915592A1号において歯科用セメントとしての使用に関して記載されている樹脂マトリックスである。歯科用セメントは、硬化性液体としてカルボン酸基で修飾されたシリコーンオイルおよび促進剤として金属酸化物および/または金属水酸化物を含んでいた。
【0043】
シリコーンベースの樹脂マトリックスのもう1つ別の好適な例は、米国特許第3,127,363号に記載されている。このマトリックスは、オルガノシロキサンA(一般式XO−Si(R)2−[O−SiR2n−O−Si(R)2−OX)の三官能性架橋剤B(例えば、一般式RSi(OH)3を有するもの)での縮合重合により形成される。
【0044】
ビニルシリコーンオイルベースの二成分樹脂マトリックスも調製することができる。成分Iは、少なくとも1個のSi−H基を有する1以上のシリコーンオイルを含有するが、成分IIは少なくとも2個のビニル基を有する1以上のシリコーンオイルを含有する。加えて、何れかの成分はその硬化のための触媒を含有する。このようにして、欧州特許第0864312B1号に記載されるように、フッ化物(フルオリド)または全ナノアパタイト結晶を象牙質細管に輸送できるナノアパタイトを添加された根管充填剤を調製することができる。成分IIの添加は必須ではない。成分Iのみを用いて緩徐型硬化材料を得ることも可能であり、SiH基を加水分解してSiOHにし、次いで、SiOHを他のSiHでレクチキュレート(recticulate)する。ナノアパタイトで充填されたこのシステムを、国際公開WO02/11681号に記載されているものと類似の接着剤シーラントとして使用することができる。
【0045】
本発明に関連するもう1つ別の重要な基は、硬化性マトリックスがセメント(塩基性成分と架橋可能な酸)ベースである材料である。歯科または医療分野において用いられる古典的なセメントは、主に、酸および反応性アルカリ性ガラスまたは金属酸化物からなる。「古典的」なる用語は、樹脂のないセメントを示す意味で使用される。これらのセメントの樹脂修飾体は、重合性樹脂を組み入れることにより容易に調製される。セメントは、多くの異なる基を含む。
【0046】
「古典的な」歯科用ポリアルケノエートセメントは、微粉砕されたフルオロ−アルミノシリケートガラス粉末(または塩基性酸化物)、ポリアルケン酸類および水を含む。この水性処方から得られる水不溶性歯科用ポリアルケノエートセメントの処方は、多くの工程および期間にわたって行われる。まとめると、水の存在下で、ポリアルケン酸類はフルオロ−アルミノシリケート粉末をその酸感受性部位で攻撃し、その結果、イオン(特に、アルカリ土類金属イオンおよびアルミニウムイオン)を放出する。これらの放出された金属イオンは、ポリアルケン酸類のアルケン酸基とイオン結合して、架橋構造を形成する。このようにして、セメント「塩」はゲル化して、水不溶性硬質物体になる。この水不溶性ポリアルケノエートセメントの実現は、セメントミックスの開始後のはじめの数分にわたって急速に起こり、次いでさらに数時間および数日にわたってゆっくりと起こる。この時間、セメントは唾液の作用を受けやすい。
【0047】
例えば、ポリアルケノエートセメントの好適な架橋酸類は、ポリアクリル酸、ポリイタコン酸、ポリマレイン酸、乳酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ硫酸(polysulphoric acid)、ポリビニルホスホン酸およびポリビニルリン酸またはこれらのコポリマーであり得る。例えば、ポリアルケノエートセメントの塩基性成分は、例えば、ガラスの全重量基準で、10〜25重量%のAl、5〜30重量%のSi、1〜30重量%のF、0〜20重量%のSr、0〜20重量%のCa、および0〜10重量%のアルカリ金属イオン(例えば、Na+、K+等)の主な組成を有するフルオロ−アルミノシリケートガラス粉末であって、これらの成分を含有する原材料を混合し、混合物を融解させ、次いで冷却し、粉砕して、約0.2〜20μmの平均粒子サイズを有するようにすることにより調製されるものを含み得る。
【0048】
水性ポリアルケノエートセメントの塩基性酸化物のうち、好ましいものは、ポリカルボン酸亜鉛セメントの酸化亜鉛および不活化酸化亜鉛/酸化マグネシウムである。新規亜鉛ベースの歯科用組成物[欧州特許第0883586号、1997年]も好ましい。他の塩基性酸化物セメントは、Be、Cu、Mg、Ca、SrおよびBa並びにそれらの組み合わせから調製されるものを包含する。
【0049】
「古典的な」歯科用シリケートセメントは、ポリアルケノエートセメントにおいて用いられるものと類似の、微粉砕されたフルオロ−アルミノシリケートガラス粉末(または塩基性酸化物)、リン酸および水を含む。
【0050】
「古典的な」歯科用ホスフェートセメントは、微粉砕された修飾酸化亜鉛粉末(または塩基性酸化物)、リン酸および水を含む。
【0051】
他の古典的歯科用セメントは、主に酸化亜鉛または他の金属酸化物および弱有機酸またはフェノールタイプの化合物(例えば、オイゲノール)から成るセメントであってもよい。
【0052】
歯科用セメント組成物は、粉末、液体またはペースト形であり得る。本発明の歯科用セメント組成物に加えて、公知の紫外線光吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、殺菌剤、界面活性剤なども所望により添加することができる。
【0053】
前記硬化性マトリックスまたはセメントシステムにおける重要な成分として、本発明は特に、一般式:
Ca10-xx(PO46-yyz(OH)2-z
(式中、MはCa2+以外のカチオンであり、BはPO43-以外のアニオンであり、Aはそれぞれ独立してO2-、CO32-、F-またはCl-から成る群より選択され、xは0〜9の数であり、yは0〜5の数であり、zは0〜2の数であり、これらの数は小数であってもよく、ただし、CaおよびMカチオンの電荷の合計は、PO43-、B、AおよびOH-アニオンの電荷の合計と等しいとする。)
で表されるナノ構造アパタイトであって、前記アパタイト粒子の少なくとも50重量%が2〜200nmの範囲内の粒子サイズを有するナノ構造アパタイトを使用する。
【0054】
アパタイト類は正常組織(例えば、エナメル質、象牙質、セメント、骨)の石灰化の主な無機プロセスに関与することが知られており、これらは病的石灰化におけるリン酸および非リン酸ミネラルと関連することが見い出されている。これらの化合物の主な1つは、化学量論式Ca10(PO46(OH)2(またはCa5(PO43OH)を有するヒドロキシアパタイト(またはヒドロキシルアパタイト、HA)であり、その合成(生体適合性)形態において、歯科、整形外科および顎顔面手術におけるいくつかの適応症に関して市販品レベルで最も広範囲に活用されているアパタイト材料である。しかしながら、HAは生物組織において純粋な状態においては決して見い出されない。これは、Ca2+、PO43-およびOH-イオンの可能な同形置換のためである。カルシウムイオンは一般に(排他的ではないが)、+2の酸価数を有する多くのカチオンにより部分的に置換されていてもよく;ホスフェートイオン(サイトB)はカーボネート、酸ホスフェート、ピロホスフェート、スルフェート、アルミネートおよびシリケートイオンにより置換されていてもよく、水酸化物イオン(サイトA)はハロゲン化物、カーボネートおよび酸化物イオンにより置換されていてもよい。
【0055】
可能なホスフェート類およびアパタイト材料のうち、天然に存在するかまたは合成のアパタイト類のいずれかが、歯科口腔学および生物医学的分野において用いられる材料の製造において好適であり;ヒドロキシアパタイトは既に最も普及した材料である。その構造において、ホスフェートおよびカルシウムイオンは六角プリズムにほぼ従って配置され;縦方向(結晶軸C)において、プリズムは、直径3〜3.5Åを有し、任意のOH-基または他の可能な置換イオン(例えば、フッ素および塩素)を取り巻くチャンネルと交差している。HAは2つの形態:単斜形(空間基P21/b)および六角形(空間基P63/m)において結晶化する。単斜形において、一対の回転軸がC軸の周りに存在し、一方、六角形において、回転軸は六角形になる。アパタイト処方において可能なカチオン置換に関して、この問題は文献において考察されているが、興味深い唯一の情報は、置換カチオンのサイズが大きな場合、固溶体が構造的により整列しているということである。カルシウムが化学的および結晶学的に類似したイオンにより置換される能力を理論的に予測することは不可能である。加えて、このような場合、同形置換の程度は部分的である。しかしながら、調製法は置換の程度に実質的に影響を及ぼすことが確認されている。HA格子中に置換できる可能なカチオンは:Na+、K+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、Y2+、Ti2+、Zr2+、Mn2+、Fe2+、Pd2+、Cu2+、Ag+、Zn2+、Sn2+、Re2+、Re3+、Al3+、In3+および/またはY3+である。
【0056】
アパタイトにおける置換基として、本発明において特に好ましいものは、Sr、Ba、ZnおよびYである。
【0057】
歯科口腔学的使用に関して、アパタイト類中にストロンチウムが存在することは、その可能な抗齲蝕効果(象牙質感受性の低下という効果に加えて)に関連して重要であると考えられ、溶解性の低下とアパタイトに関する熱処理に対してより高い耐性を付与する。加えて、放射線不透過性が増大する。
先に記載したように、ヒドロキシルアパタイトの基本構造は、アニオン性基で置換されていてもよい。特に、カーボネート−アパタイトにおいて、カーボネートイオンはヒドロキシルイオン(サイトA)またはホスフェートイオン(サイトB)または両方を置換することができる。サイトBにおけるカーボネートイオンの置換は、生物学的サンプルにおいて好ましいが、合成により、高温反応により、タイプAのカーボネート−アパタイト類を得ることもできる。一方、タイプBまたは混合タイプA+Bのカーボネート−アパタイト類は、主に溶液からの沈殿により得ることができる。
【0058】
X線回折法において殆ど検出できない、異なる部位におけるカーボネートの存在は、カーボネートイオンの吸収帯の位置が占有部位に直接依存するため、IR分光分析法により証明することができる。ヒドロキシアパタイトの存在は、格子寸法を変更する:前記イオンがAサイトを占有する場合は、OH-イオンに関して、CO32-イオンのサイズの方がより大きくなる結果として、パラメータが増大し;反対に、カーボネートイオンがBサイトを占有する場合は、PO43-イオンに対してCO32-イオンにおける0−0距離が小さいため、同パラメータが縮小する。加えて、アパタイト中にカーボネートイオンが含まれる結果、結晶の形態が縮小し変化することが観察され、これは様々な結晶寸法において対応する長さの針状形態からその形状を変化させるようである。溶解性は向上し、熱安定性は減少する。
【0059】
フルオロ−およびクロロアパタイト類において、F-およびCl-イオンは、それぞれ、ヒドロキシイオンと置換し;前記置換は、理論的には、全体的であってよい。フルオロアパタイトは、結晶寸法の増大、単位セルのAパラメータにおける減少、溶解性の低下および熱安定性の向上という特徴を有する。フルオロアパタイト類の溶解性の低下、および格子安定性の向上は、骨疾患および齲歯の治療におけるフッ化物イオンの本発明の使用を実証している。
【0060】
x、yおよびzが0である前記定義の歯科用組成物(ヒドロキシアパタイト)が好ましい。
xおよびyが0であり、A=F-であり、z=2である前記定義の歯科用組成物(フルオロアパタイト)がさらに好ましい。
【0061】
ナノ構造アパタイト類は、ナノ結晶材料を製造するために既に使用されているいくつかの公知の方法、例えば、原子または分子前駆体からの合成法(例えば、化学的または物理的蒸着、気体における凝縮、化学沈殿、エアロゾルからの反応)、または前駆体集団からの製造法(例えば、機械的磨耗、非結晶状態からの結晶化、相分離による)のいずれかにより製造することができる。
【0062】
物理的および化学的方法により合成された原子クラスターから集成されたナノ相材料の製造の分野において、いくつかの新しい機会も存在する。例えば、化学沈殿は、例えばゾル−ゲル技術または逆ミセル法を適用することにより、寸法分布が狭いナノメートルサイズのクラスターを合成するためにうまく適用されてきた、超微細粉末またはコロイド状懸濁液を合成する一般法の1つを表す。また、多くの高温気体反応法がナノメートルクラスター、またはより大きなサイズのナノ構造粉末の合成に現在利用可能である(R.W.Siegel,1991,上記引用文)。
【0063】
ナノ結晶材料は、一般に、相互連結相としてまたは顆粒状形態において合成により製造され、200nm未満の長さを有することにより特徴づけられる。寸法に応じて、これらナノ結晶材料を分類することができる(R.W.Siegel,Materials,Science and Technology,第15巻;Processing of Metals and Alloys,R.W.Chan,583(1991))。
【0064】
ナノ結晶材料の特性の結果は、(i)200nm未満の小さなサイズ、(ii)粒子接点での粒子間の共有割合が大きいこと、および(iii)個別の粒子間の相互作用、の3つの特徴的性質である。ナノ粒子は、高い表面:体積比を有する。平均粒子サイズが10〜15nmの間である材料において、15〜50%の原子が粒子接点で共有される。ナノ結晶材料における粒子接点の数は、従来の材料と比較して非常に高い。この数は、粒子サイズと直接関連し、粒子と生物環境との間の相互作用を制御する。ナノアパタイトの合成の間の粒子サイズの制御は、この生物学的相互作用に直接影響を及ぼす。重合したマトリックスにおけるナノアパタイトとその生物環境との間の相互作用は、このマトリックスにおいて通常のサイズのアパタイトを用いて得られるものよりもはるかに興味深い。従って、本発明において、ナノアパタイトベースの材料は、骨セメント、骨充填材料および特に代替歯として有用であることが判明している。
【0065】
その非常に小さなサイズのために、ナノアパタイト粒子のもう1つ別の重要な性質は、400nm〜900nmの波長の光との不干渉であり、これらはより長い波長の光とも干渉しない。従って、本発明によると、約1.58〜約1.64の通常不適当な屈折率、および通常の樹脂マトリックスにおいて約1.45〜約1.54の屈折率を有するアパタイトなどの充填剤は、その結果、通常、白色不透明混合物および白色不透明硬化固体であり、ナノ粒子サイズの場合において、審美歯科的用途に有用なほぼ透明な混合物をもたらす。
【0066】
本発明によると、生体材料におけるアパタイトのナノ粒子のサイズは、大半の場合2〜200nmの範囲にあるべきであり、さらに好ましくは、2〜90nmの範囲である。特に好ましいものは10〜70nmの範囲である。
【0067】
本発明の好ましい態様において、ナノアパタイト粒子は、必要なマトリックス中へのその取り込みを向上させるために表面処理され、これにより結果として得られる硬化した材料の機械的性質が向上する。
【0068】
例えば、アパタイト充填剤は、リン酸、ホスホン酸、カルボン酸またはそれらの組み合わせの単官能性または多官能性のメタクリル化エステル類で表面処理することができる。特に、ヒドロキシエチルメタクリレート類およびグリセリンジメタクリレート類のエステル類が好ましい。
【0069】
さらに、ポリメタクリレート化ポリビニルリン酸、またはポリビニルホスホン酸またはポリ炭酸を表面修飾のために使用することができる。加えて、反応材料、例えば、ビニル基を有するリン酸エステル類、ホスホン酸エステル類およびカルボン酸エステル類がこの表面処理に関して有用である。マレイン酸も使用できる。表面処理反応材料の選択は、反応材料上に含まれるペンダント(pendant)基に依存する。例えば、メタクリレートペンダント基はメタクリレートベースの樹脂に好適であり、ビニルエーテルペンダント基またはエポキシド類はエポキシドベースの樹脂に好適であり、ビニル−またはSiH−ペンダント基はビニルシロキサンベースのマトリックスに好適である。もちろん、この表面処理の目的は、共有結合により、その有機マトリックス中への取り込みを向上させるために、無機充填剤上に有機表面処理を施すことであり、その結果、硬化した材料の機械的性質が向上する。
【0070】
表面処理のもう1つ別の目的は、分散性を向上させ、これにより、アパタイトの、例えば、ホスフェート類または非有機シロキサン類での無機表面処理により材料中のアパタイトの充填剤装入量を増大させることである。
【0071】
さらに別の表面処理法は、SiO2またはZrO2の層をナノメートルスケールで適用し、続いて、イオン交換特性が過度の影響を受けない限り、メタクリル−、グリシジル−、アミノ−またはビニルオルガノシランなどの官能性シランの処理を行うことである。
【0072】
ナノアパタイト充填剤も、関連する材料(樹脂マトリックス、またはセメント)中に組み入れることができ、硬化させ、粉砕し、前記表面処理の有無にかかわらず、充填剤として使用することができる。
【0073】
本発明の材料中に組み入れられるナノアパタイトの量は、良好な機械的特性を維持しつつ、口腔環境との適切なイオン交換を確実にするために十分でなければならない。これを考慮すると、アパタイト充填剤の重量百分率は、全硬化材料の1〜70重量%の間であるべきである。用途に応じて、良好な機械的特性に関してアパタイト充填剤含量は好ましくは1〜30%であり、高荷重負担領域材料に関してアパタイト充填剤含量は好ましくは1〜15%である。
【0074】
記載された必須かつ特徴的なナノアパタイト充填剤成分に加えて、本発明の硬化性材料は任意の他の充填剤を含有することができる。
【0075】
さらなる充填剤は、SiO2および/またはガラスセラミックおよび/またはガラスの粉砕された粉末、および/または0.2〜40.0μmの平均サイズの、1.45〜1.54の屈折率を有する微小球(マイクロスフェア)である。他の充填剤は、無機および/または有機繊維であり、他のナノ充填剤、例えば、ナノサイズのSiO2および金属酸化物、凝集したナノ充填剤、充填されていないかあるいは充填された予備重合(pre-polymerised)された材料、イオン放出されたガラスまたはこれらの反応生成物である。他の粉砕された粉末は、0.2〜2.0μmの範囲の平均粒子サイズおよび1.48〜1.53の屈折率を有するBa−、Sr−またはLi−Al−シリケートガラスである。これらの充填剤は、特別な望ましい特性、例えば、放射線不透過性またはイオン放出性(生物学的または医薬的放出)の増大に影響を及ぼすために選択することができる。
【0076】
好ましい微小球は、独国特許出願公開第A3247800号に記載されている充填剤である。平均粒子サイズは0.1〜1.0μmの範囲、特に0.15〜0.5μmの範囲である。
【0077】
使用できる無機または有機充填剤は、繊維強化材料を方向的に強化できる、ガラスの繊維、アルミナオキシド、ポリエチレンオキシドまたは炭素を包含する。
【0078】
他のナノ充填剤、例えば、SiO2ベースの凝集したナノ充填剤(金属酸化物でコーティングされているか、または金属酸化物を組み入れたもの)は、多分散または単分散されているか、または多分散および単分散された球の混合物である(W.Stoberら、in J.Colloid and Interface Sience 26,62(1968)および30,568(1969)、米国特許第3,634,588号、欧州特許第0216278号および欧州特許第0275688号)。
【0079】
任意に、欧州特許第0113926号において記載された、焼結された充填剤も同時に組み入れることができる。
【0080】
望ましいならば、例えば、放射線不透過性を増大させるために(DE−OS 35 02 594に記載されているように)他の充填剤を添加することができる。ただし、このような充填剤は好ましくは、5.0μm未満の粒子サイズであるとする。
【0081】
いずれにしても、これらの充填剤は、ナノアパタイト充填剤と類似の方法で表面処理して、材料中へのその取り込みを向上させ、これにより硬化材料の機械的特性を向上させることができる。
【0082】
ある望ましい粘度を達成するために、少量のシラン化超微粒粉末または発熱性または沈殿ケイ酸を歯科用材料中に、好ましくは(歯科用材料の)50重量%未満の量で組み入れることができる。さらに好ましくは、この量は、1〜25重量%の間であるべきで、最も好ましくは3〜10重量%の間である。
【0083】
他の可能な充填剤材料は、他の刊行物、例えば、PCT/US96/17871に記載の生物活性または抗生物質である。
【0084】
本発明の歯科用材料は、口腔内で唾液と直接接触して、その優れた光学的特性により、さらに目に見える領域でも使用することができる。
【0085】
これらの材料のアパタイト成分は、イオン(すなわち、フッ化物、ホスフェート、カルシウムなど)を周りのエナメル質および唾液に放出および吸収することができる。イオン吸収は、外部から、例えば、練り歯磨きから生じさせることが可能であり、放出および吸収は可逆的である。
【0086】
本発明の望ましい目的、すなわち、一方では、アパタイト含有歯科用材料と生物環境との間のイオン交換、他方では、生物活性材料の高い透光性および硬度は、ナノアパタイト充填剤を重合性システムおよびセメント中に組み入れることで可能である。
【0087】
低充填剤含量樹脂の歯科用処方、歯科用樹脂複合体、ormoceres、gionomers、コンポマー(compomers)、樹脂強化セメント、古典的なセメント(例えば、古典的なポリアルケノエートセメント、シリケートセメント、ホスフェートセメント)、オキシラン−、シロラン−およびシリコーン−処方における本発明のナノアパタイト添加剤は、歯充填物、インレイ、オンレイ、添加剤、セメント、クラウンおよびブリッジのコーティング材料、義歯材料、その部品またはベニヤ、象牙質およびエナメル結合剤、ライナー、コアビルドアップ材料、シーラント、根管充填材料または歯科補綴学、歯科保存学および予防歯科医学用の他の硬化材料の一部であり得る。
【0088】
骨セメントまたは骨充填材料として、天然物質と人工代替物質との間のより良好な生物学的相互作用、生物学的イオン交換および機械強度向上の可能性が存在する。
【0089】
本発明を以下の実施例により説明する:
【実施例1】
【0090】
ナノ結晶性Ca−フルオロアパタイトの調製
ナノ結晶性フルオロアパタイトを、非イオン性界面活性剤としてEmpilan KB6ZA(エトキシル化ラウリルアルコール、Albright & Wilson,Meuse,France)、油相としてオクタン(Sigma−Aldrich,Schnelldorf,Germany)および水相として1.0M CaCl2水溶液を含有する三成分ミクロエマルジョンから結晶化させた。三成分を激しいマグネティックスターラーでの撹拌下で混合した。固定された界面活性剤とオクタンとの比が30℃で3:7である3種のミクロエマルジョン組成物(サンプルI〜III)であって、30(I)、36.36(II)および50(III)重量%の1.0M CaCl2水溶液を含有するものを、フルオロアパタイト粉末を調製するために選択した。これらの溶液に、化学量論量の0.6M Na2HPO4/0.2M KF水溶液を、再び激しい撹拌下で添加した。混合物を30℃で24時間放置した。蒸留エタノールを使用して、界面活性剤および油相を洗浄除去し、遠心分離することにより粉末を分離した。沈殿をエタノールで2回、蒸留水で1回洗浄した。最後に、誘導されたフルオロアパタイト粉末を48時間凍結乾燥した。極微細な粉末をその結晶度、形状および粒子サイズに関して、XRDおよびEDXにより分析した。高解像度TEM写真では、明確な棒状結晶が認められた。粒子サイズは、20〜130nmの間であった。X線回折図は、高い値の結晶度を示した。
【0091】
(粒子サイズ)
【表1】

【0092】
図1〜3は、サンプルI〜IIIのフルオロアパタイトのTEM写真である。
図4は、サンプルI〜IIIのXRDパターンを示す。
比較として、図5は、非結晶性リン酸カルシウムのXRD図を示す。
【0093】
(ナノアパタイトのEDXデータ)
サンプルI〜IIIのSEM−EDXデータ(粉末のエネルギー分散性X線分光分析)は、カルシウムフルオロアパタイトの予想値に対応していた:
【0094】
【表2】

【0095】
(ナノアパタイトのIR分光分析)
3つのサンプルは全て、カルシウムフルオロアパタイトの特徴的波数を示した。
【0096】
IR波数[cm-1
3426/OH鎖、1638w/H2O 結晶水、1099vs/ν3 PO4反対称、1038vs/ν3 PO4反対称、965w/ν1 PO4対称、868w/CO3鎖、606s/ν4 PO4、567s/ν4 PO4、474w/ν2 PO4、326s/ν3 Ca3−F「副格子モード」、273/ν3 Ca−PO4「格子モード」、229/ν3 Ca−PO4「格子モード」
Ca10(PO462のFT−IRデータ。
強度:vs=非常に強い、s=強い、m=中程度、w=弱い
【実施例2】
【0097】
ナノアパタイト粉末の表面修飾
サンプルIのナノアパタイト粉末100gをアセトンとのスラリーに調製し、撹拌下、ヒドロキシエチルリン酸エステル6gで処理した。2時間撹拌し、遠心分離し、3回アセトンで洗浄した後、得られた粉末を乾燥した。
【実施例3】
【0098】
ナノアパタイト充填剤を使用した樹脂複合体の調製
ナノアパタイトとの異なる樹脂複合体を、実施例2のアパタイト粉末を用いて調製した。これにより、光硬化ジメタクリレートベースの樹脂マトリックスを、異なる量の充填剤を用いて調製した(下記参照)。得られたペーストの標本を調製し、Dentacolor XS硬化装置(Kulzer、Deuschland)を用いて光硬化させ、その異なる特性を調べた。
【0099】
樹脂−マトリックスを以下のようにして調製した:
トリエチレングリコールジメタクリレート 10部
Bis−GMA 10部
ウレタンジメタクリレート 10部
カンファーキノン 0.05部
ジメチルアミノエチルメタクリレート 0.05部
本出願において、部は特に記載しない限り重量部をさす。
【0100】
樹脂マトリックス20部をAerosil202 2部で充填し、以下の充填剤を追加的に作用させた:
【0101】
(FAP0(参考例))
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 72部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 0部
【0102】
(FAP4)
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 72部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 4部
【0103】
(FAP8)
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 68部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 8部
【0104】
(FAP16)
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 60部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 16部
【0105】
(FAP30)
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 47部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 30部
図6は、FAP30のTEM写真である。
【0106】
(FAP39)
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 37部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 39部
【0107】
(FAP48)
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 27部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 48部
【0108】
(FAP65)
バリウムアルミニウムボロシリケートガラス(0.6μ、メタクリル−シラン化) 0部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 65部
【0109】
(ナノ−アパタイト複合体の物理的データ)
【表3】

【0110】
結論
1.硬化の深さは適切であり、市販の複合体と同等である(FAP0について示すとおり)。
2.不透明性は審美的修復材料の調製に十分良好であり、市販の歯充填材料と同等である(比較として:12μフルオロアパタイトを有するFAP65タイプの充填ペーストはチョークのような白色であり、99%の不透明度を有する。)。
3.高荷重負担領域、例えば、咬合面または荷重負担骨領域についての曲げ強度は、充填剤値FAP30まで十分であり、根充填および骨充填に関しては、FAP65の充填剤値までも十分である(ナノアパタイトのみ)。
4.弾性率は、市販の歯科用充填材料および骨セメント(約3〜14GPa)の範囲にある。
5.直径引っ張り強度は、用途に応じて「良好ないし十分」である(3に記載したとおり)。
6.barcol硬度はナノアパタイトを含まない複合体と比較して若干上昇する。
7.水溶性は、FAP50の充填剤値まで、根充填領域に関してはFAP65の値までも「良好ないし許容できる」。
【0111】
生物活性作用について重要な、イオンの交換の重要な特性は、フッ化物イオン放出およびフッ化物イオンのリチャージを測定することにより証明することができ、本明細書において、複合体例FAP30〜FAP65の助けをかりて記載する。
これに関して、直径2cm、厚さ2mmの2つの標本を蒸留水中に入れた。フッ化物(フルオリド)の放出を測定した(表4参照)。3週間後、フッ化物の放出は極めて僅かな量にまで低下した。この後、標本を3日間、10重量%NaF溶液中で3日間保存し、3回十分に洗浄した後、水中で4時間保存した。フッ化物の放出を測定し、3週間後、再度極めて微量の放出があった。この手順をもう一度繰り返した。次のことがわかる(表4参照):
【0112】
1.フッ化物の放出およびリチャージ、そしてこれら2つの現象の速度は可逆的であることが判明した。
2.フッ化物放出の量および速度は、光硬化性ガラス−イオノマーセメント(この場合、Fuji II LC、GC Corp.日本)により示される速度と同等である。このガラス−イオノマーセメントもフッ化物のリチャージが可能であるが、記載された一成分ペーストと対照的に、これらのセメントは二成分粉末−液体システムである。
3.フッ化物放出の速度は、コンポマー(compomers)(この場合、Dyract,Dentsply)(ペースト形態の一成分光硬化性ガラスイオノマーセメント)においてより高い。
4.従来技術の複合体の状態を表す、ナノアパタイトを含まない処方(FAP0)は、極わずかなフッ化物放出速度およびフッ化物リチャージの可能性を示した。
【0113】
(フッ化物放出)
【表4】

【実施例4】
【0114】
あらかじめ成形されたベニヤを製造するための、ナノ−アパタイトで充填された熱硬化性樹脂の調製
以下の様々な粉末混合物:
Colacryl D150(Lucite,GB) 6部
Plex6690F(Rhom、ドイツ) 3部
MW332(Rhom) 1部
ベンゾイルパーオキシド 0.1部
実施例1(I)のナノ−フルオロアパタイト(実施例2の記載のように修飾) x部
(ここでは、xは0、0.2、0.6または1部を意味する)
を調製し、異なる粉末を混練して、
メチルメタクリレート 6.7部
テトラエチレングリコールジメタクリレート 7.3部
の混合物を有する高濃度のペーストを得ることにより、熱硬化性樹脂を製造した。
【0115】
ペーストをベニヤ型中に充填し、30バールの圧力下、120℃の温度で、15分間熱硬化させ、冷却し、型からはずした。
【0116】
結果:
ベニヤの透光性は良好であり、外観はエナメル様であった。これらの条件下で硬化させたベニヤの主な問題は、その高い二重結合変換性および添加剤樹脂による低い膨潤性により、歯表面への接着剤により強力に接着するようになる可能性が低いことであるため、接着の問題は、ナノアパタイトをベニヤ中に組み入れることにより改善されるものと予想することはできなかった。接着性は、ベニヤ材料の硬化した円筒と象牙質との間の剪断強度を測定することにより決定し、セルフエッチング性エナメル質象牙質(dentinoenamel)接着剤Revolcin One(Merz、ドイツ)により両面で、ベニヤおよび象牙質を接着させ、またその間に流動可能な複合体Starflow(Danville、米国)を用いて、歯科用硬化ライトTranslux(Kulzer、ドイツ)を用いて20秒間光硬化させた。サンプルの接着性を、37℃の水中で24時間保存した後に測定する(結果は表5参照)。
【0117】
【表5】

【0118】
結果は、セルフエッチング性接着剤Revolcin Oneを使用した場合にベニヤがナノアパタイトで充填された場合に歯と接着するようになる能力がより良好であること示す。
【実施例5】
【0119】
ナノ−アパタイトのセルフエッチング性エナメル質象牙質接着剤中への添加
エナメル質象牙質接着剤APOL SE BOND(BFC、Dentaire、フランス)のパートB中に、実施例2の記載のように修飾された、実施例1(I)の10%ナノ−フルオロアパタイト(本明細書において、「パートB 10%APA」と呼ぶ)、または未変化のままであるパートBのいずれかを組み入れた。接着剤試験のために、APOL SE BONDのパートA 1部を、パートB10%APA 1部または未修飾パートB 1部の何れかと混合し、メーカーの指示書にしたがって平坦な象牙質上ならびに平坦なエナメル質表面上に塗布し、これを光硬化性複合体APOLCOMP(BFC Dentaire)の円筒形の形態において、複合体をこのシリンダーマトリックスにおいて20秒Translux光により光硬化させることにより接着させた。
サンプルの接着性を剪断強度(MPa/mm2)として、37℃の水中で24時間保存した後に測定した(結果は表6参照)。
【0120】
【表6】

【0121】
わかるように、ナノフルオロアパタイト充填剤をエナメル質象牙質接着剤に添加することは、システムの接着性を劇的に向上させることができる。これは予測できないことであった。対照的に、フッ化物を結合剤に通常どおり添加することは、接着強度を低下させる。フッ化物のおよびカルシウムの放出の能力を有するナノアパタイトの添加は、接着強度を阻害することなく接着剤中に組み入れることができ、反対に接着強度を向上させることが重要である。
【実施例6】
【0122】
ナノアパタイトを用いた開環モノマーベースの複合体処方の調製
ナノアパタイトで充填された開環モノマーを有する組成物の一例として、次の流動性ペーストを調製した:
Silbione UV Polymer 30(Rhodia) 21部
Silbione UV Polymer 30 Photosensibilisator(Rhodia) 2部
Rhodorsil Photoinitiator 2074 1部
実施例1のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾) 16部
【0123】
大臼歯の咬合部分を、37%リン酸を含有する市販のエッチングゲルでエッチングし、水で濯ぎ、アルコール−およびカルボン酸基−含有接着剤で処理した(「Flowsive 2」、R−Dental、ドイツ)。
この後、実施例4の前記混合物を大臼歯の裂溝上にコーティングし、歯科用ハロゲンライトを用いて40秒間重合させた。混合物の層は裂溝を機械的だけでなく、歯みがきによりリチャージすることができるフッ化物イオンによっても保護することができる。
【実施例7】
【0124】
ナノアパタイトを含有する古典的セメントの調製
古典的セメントの一例として、以下の組成物を調製した:
【0125】
4.1 合着剤用ガラスイオノマーセメント(比較例)
Vitro Cem粉末(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)9部をVitro Cem液体(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)5部と混合して、セメントを形成した。
【0126】
4.2 合着剤用ガラスイオノマーセメント(本発明)
Vitro Cem粉末(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)8.1部を実施例1のナノフルオロアパタイト(実施例2において記載したようにして修飾)0.9部と予備混合し、次いでVitro Cem液体(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)5部と混合して、セメントを形成した。
【0127】
4.3 コアビルドアップ用ガラスイオノマー(比較例)
Core Vitro Fil粉末(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)9部をCore Vitro Fil液体(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)3部と混合して、セメントを形成した。
【0128】
4.4 コアビルドアップ用ガラスイオノマーセメント(本発明)
Core Vitro Fil粉末(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)8.1部を実施例1のナノ−フルオロアパタイト(実施例2に記載したようにして修飾)0.9部と予備混合し、次いでCore Vitro Fil液体(DFL、リオデジャネイロ、ブラジル)3部と混合して、セメントを形成した。
【0129】
硬化したセメントを、強度(曲げ強度)および口中での安定性(乳酸中の溶解性)について試験し、測定した。結果は表7を参照。
【0130】
【表7】

【0131】
結論:
ナノアパタイトの導入は、これらのナノフルオロアパタイトを含有する古典的ガラスイオノマーセメントについて、曲げ強度を向上させ、乳酸中の溶解性を低下させた。結果は、生物活性を有する態様に加えて、セメントの柔軟性および耐久性がナノアパタイトの添加により向上させれうることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】サンプルIのフルオロアパタイトのTEM写真である。
【図2】サンプルIIのフルオロアパタイトのTEM写真である。
【図3】サンプルIIIのフルオロアパタイトのTEM写真である。
【図4】サンプルI〜IIIのXRDパターンを示す(CuKα放射線)。Miller指数は、高い結晶性フルオロアパタイトを示す。
【図5】非結晶性リン酸カルシウムのXRDパターンを示す(出典:「Journal of Research of the National Institute of Standards and Technology」、第108巻、第3号、2003年5月〜6月)。
【図6】ナノアパタイト充填複合体(FAP30)のTEM写真である。粒子が個別であって、凝集していないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性樹脂および/または硬化性酸/塩基セメントシステム、アパタイト、および任意に追加の充填剤を含み、前記アパタイトが一般式:
Ca10-xx(PO46-yyz(OH)2-z
(式中、MはCa2+以外のカチオンであり、BはPO43-以外のアニオンであり、Aはそれぞれ独立してO2-、CO32-、F-またはCl-から成る群より選択され、0≦x≦9、0≦y≦5、0≦z≦2である。)
で表されるものであり、前記アパタイト粒子の少なくとも50重量%が2〜200nmの範囲内の粒子サイズを有する、骨および特に歯を修復するための組成物。
【請求項2】
前記架橋性樹脂が、フリーラジカル重合性モノマーベースである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記フリーラジカル重合性モノマーが(メタ)アクリレート類である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記架橋性樹脂が、開環機構により重合可能な樹脂ベースである請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記架橋性樹脂がエポキシモノマーベースである請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記架橋性樹脂が架橋性シリコーンベースである請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記架橋性樹脂が付加硬化ビニルシリコーン類である請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記硬化性酸/塩基セメントシステムがポリアルケノエートセメント類である請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記硬化性酸/塩基セメントシステムが、シリケートセメント類である請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記硬化性酸/塩基セメントシステムがホスフェートセメント類である請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記硬化性酸/塩基セメントシステムが、酸化亜鉛および/または他の金属酸化物および/または弱有機酸類および/またはフェノール誘導体ベースである請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記のアパタイトの一般式において、x、yおよびzが0である(ヒドロキシアパタイト)、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記のアパタイトの一般式において、xおよびyが0であり、A=F-であり、z=2である(フルオロアパタイト)、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記のアパタイトの一般式において、Mがそれぞれ独立して、Mg2+、Sr2+、Ba2+、Y2+、Ti2+、Zr2+、Mn2+、Fe2+、Pd2+、Cu2+、Ag+、Zn2+、Sn2+、Re3+、Re2+、Al3+、In3+、Y3+、Na+およびK+から成る群より選択される請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記アパタイトが表面処理されている請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記アパタイトが、リン酸、ホスホン酸類および/またはカルボン酸類のエステルで表面処理されている請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記アパタイト1〜70重量%を含有する請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記アパタイト1〜30重量%を含有する請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記アパタイト1〜15重量%を含有する請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
シリカ及び/又はガラスセラミックス及び/又はガラス及び/又はミクロビーズ及び/又は無機繊維及び/又は有機繊維の粉末のような追加の充填剤を含有する請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記の追加の充填剤の屈折率が1.45〜1.54である請求項20記載の組成物。
【請求項22】
アパタイトおよび追加の充填剤の合計装入量が1〜95重量%である請求項1〜21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
架橋性樹脂および/または硬化性酸/塩基−セメントシステム、アパタイト、および任意に追加の充填剤の混合物を硬化させ、0.2μm〜100μmの充填剤サイズに粉砕して、充填剤として使用する請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物の調製法。
【請求項24】
歯科用修復材料としての請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項25】
骨用修復材料としての請求項1〜24のいずれか1項に記載の組成物の使用。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−538019(P2007−538019A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516989(P2007−516989)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001159
【国際公開番号】WO2005/110339
【国際公開日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(501391869)エス ウント ツェー ポリマー ジリコーン ウント コンポジット シュペーツィアリテーテン ゲーエムベーハー (2)
【出願人】(506386262)メルツ デンタル ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】