説明

ニオブ縮合触媒又はタンタル縮合触媒を有するアルコキシ架橋性ゴム混合物

本発明の対象は、一般式(1)M(OR1n(OSiR235-n(1)の化合物、及び一般式(2)−SiR3a(OR43-a(2)の末端基を有するポリマーを含有するアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)であって、式中、Mは、Nb又はTaを意味し、R1、R2、R3及びR4は、1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基を意味し、nは、1、2、3又は4の値を、かつaは、0又は1の値を意味する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ化合物又はタンタル化合物及びアルコキシシリル末端基を有するポリマーを含有する、湿分により架橋するゴム混合物に関する。
【0002】
水の排除下で貯蔵安定性の、水の侵入に際しては室温でエラストマーへと架橋するシリコーンゴム混合物、殊に1成分シリコーンゴム混合物(RTV−1)が、久しい以前から公知である。これらの生成物は、大量に、例えば目地シーリング材料として建設工業で使用される。RTV−1系は、一般的に、高分子量の、たいてい線状のシロキサン、容易に加水分解可能な基を含有する架橋作用を示す化合物、可塑剤及び場合によりさらに別の添加剤、例えば架橋触媒、加工助剤、顔料及び充填剤を含有する。架橋触媒として、目下のところ、主にSn触媒、例えばジブチル錫ジアセテート又はジブチル錫ラウレートが使用される。しかしながら、これらの錫誘導体は、それらの新しい毒性分類に基づき、ますます厳密に評価され、かつ許容使用量は基準通り低下される。それゆえ、食品、医薬品又はプロテーゼと接触するエラストマー中でのSn触媒の使用は禁止されている。Sn含有触媒系が中期的に又は長期的に完全に禁止されることは排除されていない。それゆえ、錫触媒なしで加工されることができ、しかし、同時に慣用の錫系に比肩する硬化挙動を有する系の需要が存在する。
【0003】
特許文献中では、すでに種々のSn不含の触媒系、なかでもTi化合物及びZr化合物を有するSn不含の触媒系が公知である。例えば、US3,334,067の中では、標準Sn触媒と比較して改善された貯蔵安定性を有する、Ti(OiPr)2(acac)2又はチタン−ジイソプロポキシ−ビス(エチルアセトアセテート)といった触媒の使用が記載されている。さらに別のチタンキレート化合物が、なかでもUS3,542,901の中で言及されている。これらの触媒タイプの欠点は、アミンカップリング剤(aminische Haftvermittlern)による黄変及びそれとの不相容性から生じる。EP102,268の中では、Ti(OSiMe34又はTi(OSiMe32(On−Bu)4といったチタン−シロキシ化合物もしくはZr(On−Bu)4といったZr−アルコキシドの使用が特許請求されている。そのうえまた、シロキシ置換されたZr化合物が、JP2004−238617Aの中で縮合触媒として使用される。一般式
M(OR)5 M=Nb、Ta R=アルキル
の非常に加水分解感受性のニオブ−アルコキシ化合物及びタンタル−アルコキシ化合物が、JP2007−131799Aの中で記載されている。これらの全てのSn不含の化合物に共通していることは、一般に用いられているSn系と比べて、例えばゴム材料の着色又は高すぎる加水分解感受性又は低すぎる貯蔵安定性といった不利な特性が存在していることである。
【0004】
本発明の基礎を成している課題は、毒性学的に懸念がなく、かつ十分に高い速度及び不粘着性の硬化をもたらすSn不含のアルコキシ架橋性ゴム混合物を提供することである。
【0005】
本発明の対象は、一般式(1)
M(OR1n(OSiR235-n (1)の化合物、
及び一般式(2)
−SiR3a(OR43-a (2)の末端基を有するポリマー
[式中、
Mは、Nb又はTaを意味し、
1、R2、R3及びR4は、1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基を意味し、
nは、1、2、3又は4の値を意味し、かつ
aは、0又は1の値を意味する]
を含有するアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)である。
【0006】
湿分、殊に大気湿分によりアルコキシ架橋性のゴム混合物(M)は、Sn不含であり、毒性学的に懸念がなく、かつ高い反応速度及び不粘着性の硬化を示す。一般式(1)のNb化合物及びTa化合物は、それに加えて、JP2007−131799Aの中で記載される類似の有機官能性のニオブ化合物及びタンタル化合物より加水分解安定性である。
【0007】
炭化水素基R1、R2、R3及びR4は、置換、殊にハロゲン置換されていてよく、線状であってよく、環状であってよく、枝分かれしていてよく、芳香族であってよく、飽和又は不飽和であってよい。好ましくは、炭化水素基R1、R2、R3及びR4は、1〜6個の炭素原子を有し、特に有利なのは、アルキル基及びフェニル基である。有利なハロゲン置換基はフッ素及び塩素である。特に有利なのは、メチル、エチル、プロピル及びフェニルである。
【0008】
一般式(1)のNb化合物及びTa化合物の製造は、すでに記載されていた(D.C.Bradley,I.M.Thomas,JCS,1959,3403−3411)。例えばNb(OSiEt35又はTa(OSiEt35が、Nb(OEt)5又はTa(OEt)5とトリエチルシラノールとの反応によって得られることができる。
【0009】
一般式(1)のNb化合物及びTa化合物は、架橋触媒として、通常、そのつど全混合物(M)に対して、少なくとも0.1質量%、殊に少なくとも0.5質量%、かつ好ましくは高くても10質量、殊に高くても3質量%の量で添加される。
【0010】
アルコキシ架橋性ゴム混合物(M)は、アルコキシシリル末端基からのアルコールの脱離下でエラストマーへと架橋可能な任意の混合物である。これに関する例は、アルコキシシリル末端基を有するポリオルガノシロキサン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素及び、ポリオルガノシロキサン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン及びポリ尿素からのコポリマーを基礎とする混合物である。
【0011】
一般式(1)の記載されるNb化合物及びTa化合物は、アルコキシ官能性架橋剤によるα,ω−OH官能性ポリジメチルシロキサンの架橋に際しての縮合触媒として非常に良好な特性を有する。一般式(1)の化合物は、RTV−1系の良好な貯蔵安定性を保証する。従って、アルコキシ架橋性ゴム混合物(M)は、好ましくは1成分シリコーンゴム混合物(RTV−1混合物)である。
【0012】
RTV−1混合物(M)は、一般式(2)の末端基を有するポリマーとして、好ましくは一般式(3)
(R4O)3-a3aSiO(SiR2O)mSiR3a(OR43-a、 (3)
[式中、a、R3及びR4は、上で定義された意味を有し、
Rは、R3の意味を有し、かつ
mは、20〜2000の値をとる]
のアルコキシ末端ポリオルガノシロキサンを含有する。
【0013】
一般式(3)のアルコキシ末端ポリオルガノシロキサンは、一般式(4)
HO(SiR2O)mH (4)
の少なくとも1つのヒドロキシ末端ポリオルガノシロキサンと
一般式(5)
3aSi(OR44-a、 (5)
[式中、a、m、R、R3及びR4は、上記の意味を有する]の少なくとも1つのアルコキシシラン
との反応によって製造されることができる。
【0014】
その際に起こる縮合(アルコールの脱離)の間に、一般式(3)の所望のアルコキシ末端ポリオルガノシロキサンが形成される。
【0015】
通常、この反応のためにジヒドロキシポリジメチルシロキサンが使用され、その際、Rは、メチルの意味を有する。有利なアルコキシシランは、例えばメチルトリメトキシシラン及びビニルトリメトキシシランである。
【0016】
一般式(3)のアルコキシ末端ポリオルガノシロキサンは、好ましくは、そのつど25℃で測定して、少なくとも100mPa・s、殊に少なくとも20000mPa・s、かつ好ましくは高くても700000mPa・s、殊に高くても350000mPa・sの粘度を持つ。
【0017】
好ましくは、RTV−1混合物(M)は、一般式(3)のポリオルガノシロキサン少なくとも35質量%、殊に少なくとも45質量%、かつ好ましくは高くても80質量%、殊に高くても70質量%を含有する。
【0018】
RTV−1混合物(M)は、好ましくは、架橋剤、可塑剤、充填剤及び、場合により他の公知の添加剤、例えば安定剤及び顔料を含有する。
【0019】
混合物(M)の充填剤の例は、非補強性充填剤、すなわち、50m2/gまでのBET表面積を有する充填剤、例えばカルボン酸被覆白亜、石英、珪藻土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ゼオライト、金属酸化物粉末、例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄又は酸化亜鉛もしくはこれらの混合酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ガラス粉末及びプラスチック粉末、例えばポリアクリロニトリル粉末;補強性充填剤、すなわち、50m2/gを上回るBET表面積を有する充填剤、例えば熱分解により製造されたシリカ、沈降シリカ、カーボンブラック、例えばファーネスカーボンブラック及びアセチレンカーボンブラック及び大きいBET表面積のケイ素−アルミニウム混合酸化物;繊維状充填剤、例えばアスベスト並びにプラスチック繊維である。
【0020】
上述の充填剤は、例えば、オルガノシランもしくはオルガノシロキサンによる又はステアリン酸による処理によって又はアルコキシ基へのヒドロキシル基のエーテル化によって疎水化されていてよい。一種類の充填剤を使用することができ、少なくとも2種の充填剤の混合物も使用することができる。
【0021】
特定の機械的特性の達成のために、RTV−1混合物(M)に高比表面積を有する充填剤、例えば熱分解シリカ又は沈降炭酸カルシウムが添加される。
【0022】
充填剤として補強性シリカを単独で使用する場合、透明なRTV−1−アルコキシ材料を製造することができる。
【0023】
好ましくは、混合物(M)、殊にRTV−1混合物(M)は、充填剤少なくとも2質量%、殊に少なくとも5質量%、かつ好ましくは高くても40質量%、殊に高くても15質量%を含有する。
【0024】
RTV−混合物(M)の可塑剤として、例えば、アルキル芳香族化合物又は室温で液体の、トリメチルシロキシ基によって末端ブロック化されたジメチルポリシロキサンを使用することができる。
【0025】
有利なのは、シラン、殊にアミノアルキルシラン、酸無水物官能性及びエポキシ官能性のシランがカップリング剤として存在することである。
【0026】
好ましくは、混合物(M)は、カップリング剤少なくとも0.5質量%、かつ高くても5質量%、殊に高くても3質量%を含有する。
【0027】
混合物(M)、殊にRTV−1混合物(M)中の可塑剤は、有利には、0.1〜1Pa・sの粘度を有するメチル末端ポリジメチルシロキサンである。しかし、例えば特定の鉱物油といった他の有機化合物を可塑剤として使用することも可能である。混合物(M)中では、上述の成分の外に、使用目的に応じて、これまでにも同様の縮合反応で使用されてきたさらに別の全ての物質を使用することができる。
【0028】
上記式の全ての上記符号は、それらの意味を、そのつど互いに無関係に有する。全ての式中で、ケイ素原子は4価である。
【0029】
以下の実施例及び比較例では、そのつど他に記載がない場合には、全ての量表記及びパーセント表記は質量に対するものであり、かつ全部の反応は0.10MPa(絶対)の圧力及び20℃の温度にて実施される。
【0030】
実施例1:シロキシ官能性化合物Ta(OEt)4(OSiMe3)の使用下でのアルコキシ官能性架橋剤によるα,ω−官能性ポリジメチルシロキサンの縮合架橋
フラスコ中で、25℃にて80000mPasの粘度を有するα,ω−OH官能性ポリジメチルシロキサン3gを、トルエン9g(75質量%)、ビニルトリメトキシシラン0.24g(2質量%)及びTa(OEt)4(OSiMe3)30mg(触媒1質量%)と混合した。澄んだ、均質な材料が得られ、これは20分後には完全に架橋しており、かつ不粘着性のエラストマーをもたらす。
【0031】
実施例2:
25℃にて80000mPasの粘度を有するα,ω−OH官能性ポリジメチルシロキサン3g、トルエン9g(75質量%)、ビニルトリメトキシシラン0.24g(2質量%)及びTa(OEt)2(OSiMe3330mg(触媒1質量%)で再び適用した場合に、完全に架橋した材料が6時間後に存在する。
【0032】
Ta(OEt)5を用いた比較例:
フラスコ中で、α,ω−OH官能性ポリジメチルシロキサン3g(25質量%)を、トルエン9g(75質量%)、ビニルトリメトキシシラン0.24g(2質量%)及びTa(OEt)530mg(触媒1質量%)と混合する。澄んだ、均質な材料が得られ、これは16時間後には完全にかつ不粘着性で架橋している。
【0033】
RTV1−ベース混合物の組成:
25℃にて80000mPasの粘度を有するα,ω−OH官能性ポリジメチルシロキサン100質量部、−OSi(CH33末端基を有するポリジメチルシロキサン40質量部(25℃にて粘度1000mPa・s)、ビニルトリエトキシシラン3質量部及びモルホリノメチルトリエトキシシラン3質量部から成るRTV1−ベース混合物に、後続の実施例において、様々の架橋触媒を加えた。硬化を、24時間にわたって調査した。
【0034】
実施例3:
このRTV1−ベース混合物及びTa(OEt)2(OSiMe331質量部を用いて、室温にて18時間後に、完全に架橋した不粘着性のエラストマーが得られる。
【0035】
実施例4:
このRTV1−ベース混合物及びTa(OEt)4(OSiMe331質量部を用いて、室温にて18時間後に、完全に架橋した不粘着性のエラストマーが得られる。
【0036】
Ta(OEt)5を用いた比較例:
このRTV1−ベース混合物及びTa(OEt)51質量部を用いて、室温にて72時間後に、完全に架橋した不粘着性のエラストマーが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
M(OR1n(OSiR235-n (1)の化合物、
及び一般式(2)
−SiR3a(OR43-a (2)の末端基を有するポリマー
[式中、
Mは、Nb又はTaを意味し、
1、R2、R3及びR4は、1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基を意味し、
nは、1、2、3又は4の値を意味し、かつ
aは、0又は1の値を意味する]
を含有するアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)。
【請求項2】
前記炭化水素基R1が、メチル、エチル、プロピル及びフェニルから選択される、請求項1記載のアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)。
【請求項3】
前記炭化水素基R2が、メチル、エチル、プロピル及びフェニルから選択される、請求項1又は2記載のアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)。
【請求項4】
前記一般式(1)のNb化合物及びTa化合物が、そのつど全混合物(M)に対して0.1質量%〜10質量%の量で添加される、請求項1から3までのいずれか1項記載のアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)。
【請求項5】
1成分シリコーンゴム混合物(RTV−1混合物)である、請求項1から4までのいずれか1項記載のアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)。
【請求項6】
前記一般式(2)の末端基を有するポリマーが、一般式(3)
(R4O)3-a3aSiO(SiR2O)mSiR3a(OR43-a、 (3)
[式中、a、R3及びR4は、請求項1の中で定義された意味を有し、
Rは、R3の意味を有し、かつ
mは、20〜2000の値をとる]
のアルコキシ末端ポリオルガノシロキサンである、請求項1から5までのいずれか1項記載のアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)。
【請求項7】
Rがメチルの意味を有する、請求項6記載のアルコキシ架橋性ゴム混合物(M)。

【公表番号】特表2012−516366(P2012−516366A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546816(P2011−546816)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050850
【国際公開番号】WO2010/086299
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】