説明

ニッケル粉末およびその製造方法

【課題】積層セラミックコンデンサの内部電極を作製するために好適なニッケル粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】PdとAgの分散コロイド溶液と還元剤とアルカリ性物質とからなるアルカリ性コロイド溶液にNi塩水溶液を添加して、Ni粒子を生成させる。Ni塩水溶液として添加されるNi量に対して、Pd量を10〜500質量ppm、Ag量を0.1〜5質量ppm保護コロイド剤の添加量を0.02〜1質量%とする。PdとAgと保護コロイド剤の質量比を所定範囲内に制御することにより、これらの添加量をさらに減ずることが可能となる。かかる製法により、平均粒径が小さく、均一な粒度分布、良好な分散性を有し、かつ、粗大粒子が少ない球状ニッケル粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉末とその製造方法に関する。該ニッケル粉末は、積層セラミックコンデンサ(multilayer ceramic capacitors;MLCC)の内部電極として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
ニッケル粉末は、厚膜導電体を作製するための導電ペーストの材料として使用されている。厚膜導電体は、電気回路の形成や、積層セラミックコンデンサおよび多層セラミック基板等の積層セラミック部品の電極などに用いられている。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、電子回路に用いられている。積層セラミックコンデンサの構造は、内部電極層と誘電体層とが交互に積み重なり、両端に外部電極が設けられた構造となっている。
【0004】
積層セラミックコンデンサの内部電極層は、金属からできており、該金属として、銀やパラジウムなどの貴金属が用いられてきたが、現在では、低価格なニッケルへの転換が進んでいる。ニッケルを用いた内部電極は、微細なニッケル粉末を含む導電ペーストを用いて作製することが一般的であり、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷したものを積層した後、還元性雰囲気下で焼成して作製する。前記導電ペーストは、微細なニッケル粉末をエチルセルロース等の樹脂とターピネオール等の有機溶剤等に混練して製造されている。
【0005】
一方、電子機器においては、高性能化、小型化、高容量化、高周波化が進んでいる。このため、電子回路の設計においては、多層化、薄層化が進むとともに、異種材料による高積層化も進んでおり、積層セラミックコンデンサにおいても、これに対応した薄層化が進められている。
【0006】
具体的には、積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体層の薄層化が著しく進んでおり、これに伴い、積層セラミックコンデンサの内部電極の厚さは、従来の数μmから、1〜3μm程度に薄くなってきており、1μm以下の厚さのものも出現している。このため、積層セラミックコンデンサの内部電極の材料としては、平均粒径が小さく、単分散性の高い球状粉末が求められている。このために、平均粒径が0.1〜0.8μmで、単分散性の高い球状粉末が用いられてきている。
【0007】
これに対応して、粒径の小さいニッケル粉末の製造方法が多数提案されてきている。代表的なものとして以下のものがある。
【0008】
特許文献1では、所定濃度の塩化ニッケル水溶液に所定量のヒドラジンを還元剤として加えて反応させることにより、粒径および分散性において積層セラミックコンデンサの内部電極の作製に適したニッケル粉末を得る方法が提案されている。しかし、この方法では、分散性の良いニッケル粉末を得るために、液中のニッケル濃度を低くする、あるいはヒドラジン濃度を著しく高めるなど、還元条件の調整が必要である。また、平均粒径が0.3μmよりも小さいものを安定して製造することは、還元条件を最適化しても、困難である。
【0009】
また、特許文献2では、パラジウムを混合したニッケル塩水溶液に所定量のヒドラジンを加えて反応させて、粒径および分散性において積層セラミックコンデンサの内部電極の作製に適したニッケル粉末を得る方法が提案されている。この方法は、還元を促進する触媒としてパラジウムを用いており、パラジウムがニッケル粒子の析出の核として作用する。しかし、核となるパラジウムが凝集することがあり、この場合、凝集した核を中心にニッケルが成長し、単一の粒子が相互に連結した粒子や単一の粒子による粗大粒子が発生してしまう。また、ニッケル粉末の粒経を小さくするためには、核となるパラジウムが多量に必要となり、この点で経済的に不利である。
【0010】
さらに、特許文献2では、パラジウム添加量をニッケルに対して5〜5000ppmとしているが、ニッケル粉末の平均粒径を0.3μm以下とするには、200〜5000ppmのパラジウム量が必要とされており、最も好ましい添加量は1000〜3000ppmであるとしている。
【0011】
加えて、ニッケルの還元析出を進めるためには、反応温度を50〜90℃に保持する必要があり、さらに均一な粒度分布で分散性の良い球状粒子を得るためには、反応温度を70℃以上とすることが好ましいとしている。
【0012】
このように、積層セラミックコンデンサにおいて、さらなる高積層化が進み、内部電極がさらに薄層化した場合、粗大粒子や連結粒子が存在すると、内部電極同士で接触してしまい、短絡する箇所が生じてしまう可能性がある。
【0013】
このため、より粒径が小さく、かつ、均一な粒径を有し、粒度分布幅が狭く、連結粒子や粗大粒子がなく、さらに、分散性も高い球状粒子からなるニッケル粉末の出現が期待されている。特に、薄層化に十分に対応できるという観点から、平均粒径が0.3μm以下の微粒子からなるニッケル粉末の出現が期待されている。
【特許文献1】特開平06−336601号公報
【特許文献2】特開2004−332055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、積層セラミックコンデンサの内部電極を作製するために、好適なニッケル粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。具体的には、平均粒径が小さく、均一な粒度分布を有するとともに、良好な分散性を有し、連結粒子や粗大粒子が少ない球状ニッケル粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法の第1態様は、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法の第2態様は、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製し、該コロイド溶液に還元剤とアルカリ性物質を添加して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法の第3態様は、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤を含有するアルカリ性溶液とをそれぞれ作製し、前記コロイド溶液と前記アルカリ性溶液を混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることを特徴とする。
【0018】
かかる製造方法において、前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記パラジウムの量を10〜500質量ppmとすることが好ましい。
【0019】
また、前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記銀の量を0.1〜5質量ppmとすることが好ましい。
【0020】
さらに、前記コロイド溶液を作製する際に、保護コロイド剤を添加し、前記コロイド粒子を分散させることが好ましい。
【0021】
この場合、前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記保護コロイド剤の添加量を0.02〜1質量%とすることが好ましい。
【0022】
前記保護コロイド剤としては、ゼラチンを用いることが好ましい。
【0023】
また、前記パラジウム、銀、ゼラチンの質量比を、90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に固定し、作製した前記コロイド粒子を分散させることが好ましい。
【0024】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法の第4態様は、保護コロイド剤としてゼラチンが添加され、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させる方法において、該ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、該パラジウムの量を5〜10質量ppm未満、該銀の量を0.05〜0.1質量ppm未満、該ゼラチンの添加量を0.01〜0.02質量%未満とし、かつ、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御することを特徴とする。
【0025】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法の第5態様は、保護コロイド剤としてゼラチンが添加され、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製し、該コロイド溶液に還元剤とアルカリ性物質を添加して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させること方法において、該ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、該パラジウムの量を5〜10質量ppm未満、該銀の量を0.05〜0.1質量ppm未満、該ゼラチンの添加量を0.01〜0.02質量%未満とし、かつ、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御することを特徴とする。
【0026】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法の第6態様は、保護コロイド剤としてゼラチンが添加され、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤を含有するアルカリ性溶液とをそれぞれ作製し、該コロイド溶液と該アルカリ性溶液を混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させる方法において、該ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、該パラジウムの量を5〜10質量ppm未満、該銀の量を0.05〜0.1質量ppm未満、該ゼラチンの添加量を0.01〜0.02質量%未満とし、かつ、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御することを特徴とする。
【0027】
本発明に係るニッケル粉末は、前記製造方法のいずれかを用いて作製することができ、平均粒径が50〜300nmの範囲にあることを特徴とする。
【0028】
該ニッケル粉末を、走査型電子顕微鏡で倍率5000倍の縦19.2μm×横25.6μmの写真を20視野で撮影したとき、該20視野の写真において粒径が500nmを上回る粗大粒子の数が合計で20を超えないことが好ましい。
【0029】
また、該ニッケル粉末でインクを作製し、スクリーン印刷をして得られる乾燥膜の算術平均表面粗さ(Ra)が60nm以下となることが好ましい。
【0030】
さらに、該ニッケル粉末は、粒径の標準偏差の平均粒径に対する比率が25%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法では、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を用いて、ニッケルを析出させてニッケル粉末を得ているので、平均粒径が小さく、均一な粒度分布を有するとともに、良好な分散性を有し、粗大粒子や連結粒子が少ない球状ニッケル粉末を製造することができる。かかるニッケル粉末は、積層セラミックコンデンサ内部電極用として好適な材料となる。
【0032】
なお、本発明に係るニッケル粉末の製造方法では、高価な貴金属であるパラジウムおよび銀を用いているが、それらの添加量は微量であるため、低コストに前記ニッケル粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意研究開発を進めた。その結果、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と還元剤とアルカリ性物質とを合わせて、該複合コロイド粒子を分散させたアルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加することで、平均粒径が小さく、均一な粒度分布を有するとともに、良好な分散性を有し、粗大粒子や連結粒子が少ない球状ニッケル粉末が得られることを見出し、本発明に至った。
【0034】
なお、アルカリ性コロイド溶液の作製方法、すなわち、アルカリ性還元溶液中にパラジウムと銀の複合コロイド粒子を分散させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、(1)前記コロイド溶液と還元剤とアルカリ性物質を混合する、(2)前記コロイド溶液に、還元剤とアルカリ性物質を添加する、(3)前記コロイド溶液と、還元剤を含有するアルカリ性溶液とを混合する、という工程を挙げることができ、いずれかの工程も本発明に適用しうる。
【0035】
このように、本発明の製造方法は、アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加することによりニッケル粉末を製造するに際し、ニッケル塩水溶液を添加する前に、前記コロイド溶液と還元剤とアルカリ性物質の混合液である、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子を分散させた、アルカリ性コロイド溶液を作製しておくことを特徴とする。
【0036】
該アルカリ性コロイド溶液を用いることによって、還元生成するニッケル粒子が微細化する機構については、詳細は不明である。しかし、該機構は、以下のように推測される。
【0037】
パラジウムと銀は、ニッケルよりも酸化還元電位が高く、ニッケル粒子析出の際に核となり、この核にニッケルが析出し、成長して、ニッケル粒子になると考えられ、すなわち、ニッケル核は生成せず、ニッケル粒子が生成していると推測される。
【0038】
また、核となる複合コロイド粒子が均一に単分散状態のまま還元剤溶液中で存在しているために、ニッケル塩水溶液を添加すると、核となるコロイド粒子に対してニッケルは、均等に核成長を起こしやすいと考えられる。
【0039】
さらに、パラジウムのみならず、銀を添加することにより、パラジウムの凝集が抑制されるため、粗大粒子や連結粒子の形成が抑制される。特に、パラジウムと銀の質量比が適切な値の範囲内に制御されることによって、粒径がより均一で、単分散状態のパラジウムと銀の複合コロイド粒子が生成され、粗大粒子や連結粒子の形成が抑制される。
【0040】
この理由としては、詳細は不明だが、パラジウムの凝集抑制に効果を発揮する銀が不足すると、パラジウムの凝集過程で発生した連結した核が、成長することによって、連結粒子が発生していると考えられる。また、複数個の複合コロイドが凝集し核となり、その核を中心にして粒成長して粗大粒子が発生すると考えられる。逆に、銀が過剰量であると、銀のみの粗大なコロイド粒子が発生したりすることが、粗大粒子や連結粒子の発生に関与していると思われる。
【0041】
加えて、保護コロイド剤を用いることにより、コロイド粒子の凝集が一層抑制される。
【0042】
このため、生成したニッケル粒子が均一な粒径で、単分散状態になり、粗大粒子や連結粒子が形成されにくくなると考えられ、さらに、このコロイド粒子の数を変化させることによって、ニッケル析出の際の核の数を変化させることができ、ニッケル粒子の粒径を制御することができると推測される。
【0043】
このように、本発明は、ニッケル塩水溶液からニッケルを還元析出するに際して、ニッケルの還元析出の核となり、かつ、ニッケル粒子の核成長を促進する還元助剤として、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を用いることに特徴がある。以下、本発明をさらに具体的に説明する。
【0044】
本発明に用いるニッケル塩水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケルおよび硫酸ニッケル等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶液を用いることができる。これらの水溶液の中では、特に廃液処理が簡易である塩化ニッケル水溶液が好ましい。
【0045】
本発明に用いるコロイド溶液は、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液である。
【0046】
本発明の第1〜第3の態様においては、パラジウムの量は、後にニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、10〜500質量ppmとすること好ましい。パラジウム量が10質量ppm未満では、核となるコロイド粒子の数が少なくなり、得られるニッケル粒子の粒経が大きくなってしまう場合がある。一方、パラジウム量を500質量ppmよりも多くしても、得られるニッケル粒子の微細化に対する、さらなる効果がほとんど見られない。
【0047】
また、銀の量は、後にニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して0.1〜5質量ppmとすることが好ましい。パラジウムと銀を複合させてコロイド粒子とした場合、銀は少量で、ニッケル粒子の粗大粒子および連結粒子の生成を抑制する効果を発揮する。これは、銀が入ることによってパラジウムの凝集が抑制され、核として作用するコロイド粒子の数が増加するためであると考えられる。銀の量が0.1質量ppm未満では、上記の効果がほとんど得られない場合があり、5質量ppmより多くしても、得られるニッケル粒子の微細化に対する、さらなる効果がほとんど見られない。
【0048】
本発明に用いるコロイド溶液は、パラジウム塩水溶液と銀塩水溶液を所定量混合して作製した混合溶液を、保護コロイド剤の入った水溶性ヒドラジン化合物を用いて作製したヒドラジン水溶液等の還元剤溶液中に滴下することにより作製する。
【0049】
パラジウム塩水溶液は、特に限定されるものではない。例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶液をパラジウム塩水溶液として用いることができる。これらの中では、液調整が容易な塩化パラジウムが最も好ましい。一方、銀塩水溶液としては、例えば、硝酸銀水溶液を用いることができる。
【0050】
前記保護コロイド剤の添加により、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子を均一に分散させることが可能となる。保護コロイド剤としては、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子を取り囲み、保護コロイドの形成に寄与するものであればよく、特にゼラチンが好ましいが、その他、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリビニルアルコールを用いることもできる。具体的には、保護コロイド剤を添加した溶液に、パラジウムおよび銀を混合し、前記複合コロイド粒子を分散させる。
【0051】
保護コロイド剤の添加量は、後にニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、0.02〜1質量%とすることが好ましい。保護コロイド剤の添加量が0.02質量%未満であると、保護コロイドの形成が不十分となり、コロイド粒子が凝集してしまうことがあり、還元したニッケル粉末中に粗大粒子や連結粒子が発生してしまうおそれがある。一方、該添加量が1質量%よりも多くなると、保護コロイドが多くなりすぎ、未還元のニッケルが残留してしまうおそれがある。
【0052】
前記還元剤は、特に限定されるものではないが、前述のように、例えば、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、水素化ホウ素ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶性ヒドラジン化合物を用いて作製したヒドラジン水溶液等を用いることが好ましい。これらの水溶性ヒドラジン化合物の中では、特に不純物が少ない点で、ヒドラジン(N24)が最も好ましい。
【0053】
また、前記アルカリ性物質は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶性のアルカリ性物質であればよい。本発明においては、これらの水溶性のアルカリ性物質と、ヒドラジン、ヒドラジン水和物等の水溶性ヒドラジン化合物を純水中で混合して、アルカリ性のヒドラジン水溶液を作製することができる。
【0054】
なお、アルカリ性のヒドラジン水溶液としては、特にpHが10以上に調整された水酸化ナトリウムとヒドラジン水和物の混合水溶液であることが好ましい。一方、pHが10未満では、反応速度が遅くなるため、ニッケルの還元析出が起こりにくくなるので好ましくない。
【0055】
本発明者らは、本発明について、パラジウム、銀および保護コロイド剤の使用量を抑制させても、同様の効果を得ることができる手段について、継続的に研究開発を進めた。その結果、後にニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、パラジウムの量を10質量ppm未満、銀の量を0.1質量ppm未満、保護コロイド剤としてゼラチンを用い、かつ、該ゼラチンの添加量を、0.02質量%未満としても、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を適切な値の範囲内に制御することにより、同様の特性を有するニッケル粒子を生成させることができるとの知見を得た。
【0056】
すなわち、本発明に係るニッケル粉末の製造方法の第4〜第6態様においては、後にニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、パラジウムの量を5〜10質量ppm未満、銀の量を0.05〜0.1質量ppm未満、ゼラチンの添加量を0.01〜0.02質量%未満とした場合でも、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200に制御することにより、粒径がより均一で単分散状態の前記コロイド粒子を生成して、粗大粒子や連結粒子の形成を抑制することを可能としている。特に、パラジウム、銀、ゼラチンの添加量が極めて少なくなっても、平均粒径が300nm以下で、かつ、粗大粒子や連結粒子の数が少なく、さらには、均一な粒度分布、良好な分散性を有する球状ニッケル粉末を得ることができる。
【0057】
なお、パラジウムと銀とゼラチンの質量比が上記値の範囲外であると、ニッケル粉末における平均粒径の300nm超過や粗大粒子数の増加、粒度分布のばらつきを発生させてしまう。この理由としては、詳細は不明だが、パラジウムの凝集抑制に効果を発揮する銀が不足すると、パラジウムが凝集し複合コロイド粒子の量が不十分となり、逆に、銀が過剰量であると、銀のみの粗大なコロイド粒子が発生したりすることが関与していると思われる。また、保護コロイド剤であるゼラチンが不足すると、保護コロイドの形成が十分にできず、コロイド粒子の凝集によって、複合コロイド粒子の量が不十分となることや、凝集した粗大なコロイド粒子が発生することが関与していると思われる。加えて、保護コロイド剤であるゼラチンが過剰量であると、ゼラチンが塩化ニッケルのニッケルへの還元を抑制し、この効果が何らかの作用を促していると思われる。
【0058】
本発明に係るこれらの製造方法に従って、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散しているアルカリ性のヒドラジン水溶液に、ニッケル塩水溶液を添加することにより、連結粒子や粗大粒子の存在は極めて少なく、かつ、平均粒径が50nm〜300nmの範囲の所定値に制御されたニッケル粉末を得ることができる。
【0059】
なお、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察により計測したものである。具体的には、得られたニッケル粉末について、走査型電子顕微鏡で倍率5000倍の縦19.2μm×横25.6μmの写真を20視野で撮影し、撮影したそれぞれの写真について対角線を引き、その対角線が通過した粒子について対角線への投影長さを計測して算出したものである。
【0060】
かかるニッケル粉末の特性としては、かかる20視野の写真において、粒径が500nmを上回る粗大粒子の数が合計で20を超えることがなく、粗大粒子や連結粒子の発生が極めて少ないことがあげられる。
【0061】
また、該ニッケル粉末を用いて作製したインクをスクリーン印刷して得られる乾燥膜の算術平均表面粗さ(Ra)は60nm以下となる。なお、算術平均表面粗さ(Ra)は、JIS B0601−1994の規格に基づく。かかる算術平均表面粗さ(Ra)は、次のように測定する。エチルセルロース20質量%をターピネオール80質量%に添加し、撹拌しながら80℃に加熱してエチルセルロースの溶け込んだターピネオール溶液を作製し、この溶液45質量%と、本発明に係るニッケル粉末55質量%と混合し、さらに、この溶液とターピネオールとを各々70質量%と30質量%になるように混合し、3本ロールミルにて混練し、インクを作製し、該ニッケルインクを1インチ角のアルミナ基板上にスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥させ、10mm角、膜厚2μmの乾燥膜を作製し、この乾燥膜についてJIS B0601−1994の規格に基づき、測定する。
【0062】
本発明の範囲内で作成したニッケル粉末を用いて、上記条件で作製した乾燥膜は、算術平均表面粗さ(Ra)が60nm以下と小さい。このことから、本発明の範囲内で作成したニッケル粉末は、凝集が少なく、粒度が均一であり、分散性が向上していると判断できる。
【0063】
さらに、本発明により得られるニッケル粉末の特徴としては、粒径の標準偏差の平均粒径に対する比率が25%以下であり、本発明に係るニッケル粉末の粒径は非常に均一であることがあげられる。
【0064】
この粒径の標準偏差は、走査型電子顕微鏡による観察に基づいて得たものであり、具体的には、以下の方法で得たものである。走査型電子顕微鏡で倍率20,000倍の縦4.9μm×横6.5μmの写真を撮影し、該写真に対角線を引く。その対角線の両側にその対角線から0.5μmに相当する間隔を置いて、その対角線と平行に2本の線を引く。引かれた2本の線の間隔は1μmに相当する。そして、引かれた2本の線の間に全体が含まれているニッケル粉末粒子の全ての粒径を測定し、それらに基づいて標準偏差を求める。
【実施例】
【0065】
(実施例1〜27)
パラジウムと微量の銀からなる複合コロイド溶液に、アルカリ性のヒドラジン溶液を混合し、ニッケルを還元するために、アルカリ性コロイド溶液を作製した。
【0066】
上記アルカリ性コロイド溶液におけるパラジウム、銀、ゼラチンの含有量は、ニッケル塩水溶液中のニッケルの全質量に対して、パラジウム:5〜500質量ppm、銀:0.05〜5質量ppm、ゼラチン:0.01〜1質量%の範囲内で、それぞれ変化させた。なお、溶液中のパラジウムおよび銀の含有量は、ICP発光分光分析法により分析した。
【0067】
なお、実施例1〜3,16、29については、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を、90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御した。具体的には、パラジウムと銀とゼラチンの質量比は、これらの実施例においては、100:1:2000とした。
【0068】
ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液の作製は、具体的には、次のように行った。まず、純水6Lに所定量のゼラチンを溶解させた後、ヒドラジンの濃度が0.02g/Lとなるようにヒドラジンを混合した。次に、所定量のパラジウムと銀の混合溶液を作製し、ゼラチンとヒドラジンが含まれる前記溶液に滴下して、コロイド溶液を得た。
【0069】
このコロイド溶液に、水酸化ナトリウムを添加し、pHを10以上とした後、さらに、ヒドラジンの濃度が26g/Lとなるまでヒドラジンを添加して、パラジウムと微量の銀からなる複合コロイド粒子が混合されたアルカリ性ヒドラジン溶液を作製し、ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液とした。
【0070】
そして、このアルカリ性コロイド溶液に、ニッケル塩水溶液としてニッケル濃度が100g/Lの塩化ニッケル水溶液を0.5L滴下して、ニッケルの還元を行い、ニッケル粉末を得た。
【0071】
得られたニッケル粉末について、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−5510)倍率5000倍の写真(縦19.2μm×横25.6μm)を20視野で撮影した。撮影したそれぞれの写真について、対角線を引き、その対角線が通過した粒子の対角線への投影長さを測定し、該投影長さを粒径として平均粒径Dmeanを算出した。また、撮影したそれぞれの写真の全範囲について観察し、粒径が500nmより大きい粗大粒子の数を数えた。なお、連結粒子の直径は、粒子が最大径になる径を直径とみなし、上記数値を超えたものを粗大粒子として計測した。
【0072】
また、粒径の標準偏差σを求めた。この粒径の標準偏差は、走査型電子顕微鏡による観察に基づき得たものであり、具体的には、以下の手順により得る。走査型電子顕微鏡で倍率20,000倍の写真(縦4.9μm×横6.5μm)に対角線を引く。その対角線の両側にその対角線から0.5μmに相当する間隔を置いて、その対角線と平行に2本の線を引く。引かれた2本の線の間隔は1μmに相当する。そして、引かれた2本の線の間に全体含まれているニッケル粉粒子の全ての粒径を測定し、それらに基づいて標準偏差を求める。
【0073】
得られたニッケル粉末の平均粒径Dmean、粗大粒子の数および粒径の標準偏差σについての評価した結果を表1に示す。また、得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、縦9.6μm×横12.8μm)を、実施例1(図1)、実施例3(図2)、実施例16(図3)、および、実施例4(図4)について、それぞれ示す。
【0074】
また、実施例3、16として作製したニッケル粉末を用いて作製したインクをスクリーン印刷して得られる乾燥膜の算術平均表面粗さ(Ra)を測定した。まず、エチルセルロース20質量%をターピネオール80質量%に添加し、撹拌しながら、80℃に加熱して、エチルセルロースの溶け込んだターピネオール溶液を作製した。この溶液45質量%と、実施例3、16のニッケル粉末55質量%とを混合し、さらに、この溶液とターピネオールとを各々70質量%と30質量%になるように混合し、3本ロールミルにて混練し、ニッケルインクを作製した。次に、前記ニッケルインクを1inch(2.54cm)角のアルミナ基板上にスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥させ、10mm角、膜厚2μmの乾燥膜を作製した。この乾燥膜について算術平均表面粗さ(Ra)を測定した。その結果を表2に示した。なお、算術平均表面粗さ(Ra)は、JIS B0601−1994の規格に基づく。
【0075】
(比較例1)
パラジウム、銀、ゼラチンの含有量を、溶液中のニッケルの全質量に対して、それぞれ10質量ppm、0.1質量ppm、0.001質量%(質量比=100:1:100)とした以外は、実施例1と同様にして、アルカリ性ヒドラジン溶液を作製した。
【0076】
上記アルカリ性ヒドラジン溶液を用い、実施例1と同様に、ニッケル粉末を得た。得られたニッケル粉末の平均粒径Dmean、粗大粒子の数および粒径の標準偏差σについて実施例1と同様に評価を行った。評価した結果を表1に示す。
【0077】
また、図5に、得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、縦9.6μm×横12.8μm)を示す。
【0078】
(比較例2)
パラジウム、銀、ゼラチンの含有量を、溶液中のニッケルの全質量に対して、それぞれ10質量ppm、0.1質量ppm、1.5質量%(質量比=100:1:150000)とした以外は、実施例1と同様にして、アルカリ性ヒドラジン溶液を作製した。
【0079】
上記アルカリ性ヒドラジン溶液を用い、実施例1と同様に、ニッケル粉末を得た。得られたニッケル粉末の平均粒径Dmean、粗大粒子の数および粒径の標準偏差σについて実施例1と同様に評価を行った。評価した結果を表1に示す。
【0080】
また、得られたニッケル粉末を用いて、実施例3、16と同様にスクリーン印刷して得られる乾燥膜の算術平均表面粗さ(Ra)を測定した。その結果を表2に示す。
【0081】
(比較例3)
パラジウム、銀、ゼラチンの含有量を、溶液中のニッケルの全質量に対して、それぞれ2質量ppm、0.02質量ppm、0.004質量%(質量比=100:1:2000)とした以外は、実施例1と同様にして、アルカリ性のヒドラジン溶液を作製した。
【0082】
上記アルカリ性ヒドラジン溶液を用い、実施例1と同様に、ニッケル粉末を得た。得られたニッケル粉末の平均粒径Dmean、粗大粒子の数および粒径の標準偏差σについて実施例1と同様にして評価を行った。評価した結果を表1に示す。
【0083】
(比較例4)
パラジウム、銀、ゼラチンの含有量を、溶液中のニッケルの全質量に対して、それぞれ10質量ppm、0.05質量ppm、0.02質量%(質量比=100:0.5:2000)とした以外は、実施例1と同様にして、アルカリ性のヒドラジン溶液を作製した。
【0084】
上記アルカリ性ヒドラジン溶液を用い、実施例1と同様に、ニッケル粉末を得た。得られたニッケル粉末の平均粒径Dmean、粗大粒子の数および粒径の標準偏差σについて実施例1と同様にして評価を行った。評価した結果を表1に示す。
【0085】
(比較例5)
パラジウム、銀、ゼラチンの含有量を、溶液中のニッケルの全質量に対して、それぞれ5質量ppm、0.1質量ppm、0.02質量%(質量比=100:2:4000)とした以外は、実施例1と同様にして、アルカリ性のヒドラジン溶液を作製した。
【0086】
上記アルカリ性ヒドラジン溶液を用い、実施例1と同様に、ニッケル粉末を得た。得られたニッケル粉末の平均粒径Dmean、粗大粒子の数および粒径の標準偏差σについて実施例1と同様にして評価を行った。評価した結果を表1に示す。
【0087】
(従来例1)
溶液中のニッケルの全質量に対して5000ppmのパラジウムを含むニッケル濃度100g/Lの塩化ニッケル水溶液1Lを、アルカリ性ヒドラジン水溶液3Lに滴下して還元を行い、ニッケル粉末を得た。得られたニッケル粉末の平均粒径Dmean、粗大粒子の数および粒径の標準偏差σについて実施例1と同様にして評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0088】
また、得られたニッケル粉末を用いて、実施例3、16と同様にスクリーン印刷して得られる乾燥膜の算術平均表面粗さ(Ra)を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
実施例1、4〜29は、パラジウム、銀、ゼラチンの量が、パラジウム:10〜500質量ppm、銀:0.1〜5質量ppm、ゼラチン:0.02〜1質量%の範囲内にある例である。表1に示すように、得られたニッケル粉末の平均粒径Dmeanは、本発明に係るニッケル粉末の平均粒径についての要件である50〜300nmの範囲内にある。また、粒径が500nmより大きい粗大粒子の数も最大で11で、本発明に係るニッケル粉末の上限値である20を超えていない。さらに、粒径の標準偏差σの平均粒径Dmeanに対する比率は25%以下であり、非常に均一な粒径であることがわかる。
【0092】
また、実施例2および3は、パラジウム、銀、ゼラチンの量が、それぞれ10質量ppm、0.1質量ppm、0.02質量%を下回っているが、質量比が、90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に入っている例である。表1に示すように、得られたニッケル粉末の平均粒径Dmeanは、本発明に係るニッケル粉末の平均粒径についての要件である50〜300nmの範囲内にある。また、粒径が500nmより大きい粗大粒子の数も最大で15で、本発明に係るニッケル粉末の上限値である20を超えていない。さらに、粒径の標準偏差σの平均粒径Dmeanに対する比率は25%以下であり、非常に均一な粒径であることがわかる。
【0093】
これに対して、比較例1および2は、ゼラチンの量が0.01〜0.02質量%未満、または、0.02〜1質量%の範囲に入っていない。このため、平均粒径は、280nm、130nmであるものの、粒径が500nmより大きい粗大粒子の数が81および34と多く、本発明に係るニッケル粉末の粗大粒子の数についての要件の上限値である20を超えてしまっている。さらに、粒径の標準偏差の平均粒径に対する比率は、35.7%、40.0%と大きい値になっており、粒径が不均一となっていることがわかる。
【0094】
比較例3は、パラジウムと銀とゼラチンの質量比は100:1:2000であり、本発明の第4〜第6態様の範囲内にあるものの、パラジウム、銀、ゼラチンのそれぞれの量が、本発明の第4〜第6態様の下限値(パラジウム:5質量ppm、銀:0.05質量ppm、ゼラチン:0.01質量%)を下回っているため、平均粒径が300nmを超えており、かつ、粗大粒子の数が28と多くなっている。
【0095】
比較例4は、パラジウムの量とゼラチンの量は、それぞれ本発明の第1〜第3態様における好適含有量である10〜500質量ppm、0.02〜1質量%の範囲内にあるものの、銀の量が、第4〜第6態様における下限値である0.05質量ppmとなっている。しかも、パラジウム、銀、ゼラチンの質量比が、100:0.5:2000となっているため、平均粒径が300nmではあるものの、かつ、粗大粒子の数が45と多くなっている。
【0096】
比較例5は、銀の量とゼラチンの量は、それぞれ本発明の第1〜第3態様における好適含有量である0.1〜5質量ppm、0.02〜1質量%の範囲内にあるものの、パラジウムの量が、第4〜第6態様における下限値である5質量ppmとなっている。しかも、パラジウム、銀、ゼラチンの質量比が、100:2:4000となっているため、平均粒径が300nmを超えており、かつ、粗大粒子の数が109と極めて多くなっている。
【0097】
従来例1は、コロイド溶液に銀が含まれていないため、粗大粒子数が99と非常に多く、かつ、粒径の標準偏差の平均粒径に対する比率も38.0%であり、他の実施例の結果に比べて、大きい値を示している。
【0098】
なお、表2より、実施例3、16に係るニッケル粉末を用いて得た乾燥膜の算術平均表面粗さ(Ra)の値は、本発明の範囲内である60nm以下を満たし、良好な分散性を示している。しかし、比較例2、従来例1のニッケル粉末を用いて得た乾燥膜の平均表面粗さ(Ra)の値は、それぞれ70nm、80nmであり、本発明における上限値である60nmを超えており、分散性において劣っている。
【0099】
図1〜図4は、本発明に係るニッケル粉末の製造方法(図1:実施例1、図2:実施例3、図3:実施例16、図4:実施例4)により得たニッケル粉末の状態を示す走査型電子顕微鏡写真であるが、当該ニッケル粉末は、いずれも平均粒径が50〜300nmの範囲内にあり、かつ、粒径はほぼ均一であって、粒径が500nmより大きい粗大粒子や連結粒子は観察されない。
【0100】
一方、図5は、本発明の範囲から外れる比較例1により得たニッケル粉末の状態を示す走査型電子顕微鏡写真であるが、当該ニッケル粉末は、平均粒径が280nmであるものの、粒径が500nmより大きい粗大粒子や連結粒子がところどころに観察される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】平均粒径が280nmである実施例1のニッケル粉末の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、縦9.6μm×横12.8μm)である。
【図2】平均粒径が300nmである実施例3のニッケル粉末の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、縦9.6μm×横12.8μm)である。
【図3】平均粒径が100nmである実施例16のニッケル粉末の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、縦9.6μm×横12.8μm)である。
【図4】平均粒径が200nmである実施例4のニッケル粉末の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、縦9.6μm×横12.8μm)である。
【図5】比較例1のニッケル粉末の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍、縦9.6μm×横12.8μm)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製し、該コロイド溶液に還元剤とアルカリ性物質を添加して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤を含有するアルカリ性溶液とをそれぞれ作製し、該コロイド溶液と該アルカリ性溶液を混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させることを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記パラジウムの量を10〜500質量ppmとすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記銀の量を0.1〜5質量ppmとすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記コロイド溶液を作製する際に、保護コロイド剤を添加し、前記コロイド粒子を分散させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、前記保護コロイド剤の添加量を0.02〜1質量%とすることを特徴とする請求項6に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項8】
前記保護コロイド剤としてゼラチンを用いることを特徴とする請求項6または7に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項9】
前記パラジウムと前記銀と前記ゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御し、作製した前記コロイド粒子を分散させることを特徴とする請求項8に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項10】
保護コロイド剤としてゼラチンが添加され、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させる方法において、該ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、該パラジウムの量を5〜10質量ppm未満、該銀の量を0.05〜0.1質量ppm未満、該ゼラチンの添加量を0.01〜0.02質量%未満とし、かつ、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御することを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項11】
保護コロイド剤としてゼラチンが添加され、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製し、該コロイド溶液に還元剤とアルカリ性物質を添加して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させる方法において、該ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、該パラジウムの量を5〜10質量ppm未満、該銀の量を0.05〜0.1質量ppm未満、該ゼラチンの添加量を0.01〜0.02質量%未満とし、かつ、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御することを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項12】
保護コロイド剤としてゼラチンが添加され、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤を含有するアルカリ性溶液とをそれぞれ作製し、該コロイド溶液と該アルカリ性溶液を混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、該アルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させる方法において、該ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、該パラジウムの量を5〜10質量ppm未満、該銀の量を0.05〜0.1質量ppm未満、該ゼラチンの添加量を0.01〜0.02質量%未満とし、かつ、パラジウムと銀とゼラチンの質量比を90〜110:0.9〜1.1:1800〜2200の範囲内に制御することを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法で得られ、平均粒径が50〜300nmの範囲にあるニッケル粉末。
【請求項14】
走査型電子顕微鏡で倍率5000倍の縦19.2μm×横25.6μmの写真を20視野で撮影したとき、該20視野の写真において粒径が500nmを上回る粗大粒子の数が合計で20を超えないことを特徴とする請求項13に記載のニッケル粉末。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法で得られたニッケル粉末でインクを作製し、スクリーン印刷をして得られる乾燥膜の算術平均表面粗さ(Ra)が60nm以下となることを特徴とする請求項13または14に記載のニッケル粉末。
【請求項16】
粒径の標準偏差の平均粒径に対する比率が25%以下であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載のニッケル粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−138291(P2007−138291A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284285(P2006−284285)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】