説明

ニトリルゴム組成物

【課題】導電材料としての特性を維持するとともに、自動車などの転がり軸受用オイルシールなどに求められる耐泥水性、シール性を満足し、さらには低トルク性を達成しうるニトリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】ニトリルゴム100重量部に対して、カーボンブラック5〜50重量部、平均粒子径5μm以下のグラファイト5〜60重量部およびこれら以外の導電性カーボン5〜50重量部を含有してなるニトリルゴム組成物。このニトリルゴム組成物から加硫成形されたゴム加硫成形品は、耐泥水性、シール性、低トルク化を満足させる材料であるため、自動車の車輪用転がり軸受をはじめ各種産業機械、家電製品に用いられるシール材として有効に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム組成物に関する。更に詳しくは、耐泥水性、低トルク性などにすぐれた加硫成形品を与え得るニトリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球規模の環境問題から、自動車業界においては軽量化と低燃費化が強く望まれている。これを受けて、自動車部品のうちオイルシールのような回転系の部品に関しては、自動車の燃費向上のために低トルク化が求められている。かかる背景より、車輪用転がり軸受も低トルク化が望まれてはいるものの、車輪用転がり軸受は屋外で使用され、極端なケースでは泥水に曝されるような劣悪な環境で使用されるため、その弾性部材(オイルシール)には耐泥水性が求められ、トルク性能と相反する関係のため、低トルク化が非常に難しいのが現状である。
【0003】
転がり軸受用オイルシールに耐泥水性を付与することを目的として、ニトリルゴムにクレーを添加することが提案されている。しかるに、近年の転がり軸受用オイルシールには、ラジオノイズ対策として導電性が求められることが多く、クレーの添加は大幅に導電性を低下させるため、導電用途への適用はできないといった制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−194235号公報
【特許文献2】特開2003−222147号公報
【特許文献3】特開2002−372062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、導電材料としての特性を維持するとともに、自動車などの転がり軸受用オイルシールなどに求められる耐泥水性、シール性を満足し、さらには低トルク性を達成しうるニトリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ニトリルゴム100重量部に対して、カーボンブラック5〜50重量部、平均粒子径5μm以下のグラファイト5〜60重量部およびこれら以外の導電性カーボン5〜50重量部を含有してなるニトリルゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るニトリルゴム組成物から加硫成形されたゴム加硫成形品は、導電材料としての特性を維持するとともに、自動車などの転がり軸受用オイルシールなどに求められる耐泥水性、シール性を満足し、さらには低トルク性を達成しうるといったすぐれた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例において、トルク値の測定に用いられたシール試験機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
NBRとしては、結合アクリロニトリル含量が15〜48%、好ましくは22〜35%で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が25〜85、好ましくは30〜60のアクリロニトリル−ブタジエンゴムが用いられ、実際には市販品、例えばJSR製品N240S、N241等をそのまま用いることができる。このNBRに対しては、カーボンブラック、特定平均粒子径のグラファイトおよびこれら以外の導電性カーボンが添加されて、本発明のNBR組成物が調製される。
【0010】
カーボンブラックとしては、SRF、HAF等のカーボンブラックが、NBR 100重量部当り5〜50重量部、好ましくは20〜40重量部の割合で用いられる。カーボンブラックがこれより少ない割合で用いられると、材料強度が不足するようになり、一方これより多い割合で用いられると、材料硬度が高すぎるようになり好ましくない。
【0011】
グラファイトとしては、平均粒子径5μm以下、好ましくは1〜5μmのものが用いられる。グラファイトの平均粒子径がこれより大きいものを用いると、トルク値が大きくなり、本発明の目的とする低トルク化を達成することができない。かかるグラファイトは、このような平均粒子径を有するものとして一般に市販されているものをそのまま用いることができ、NBR 100重量部当り5〜60重量部、好ましくは10〜60重量部の割合で用いられる。グラファイトがこれより少ない割合で用いられると、トルク低減効果が得られないようになり、一方これより多い割合で用いられると、加工性が悪化するため好ましくない。
【0012】
カーボンブラックおよびグラファイト以外の導電性カーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどが挙げられ、これらはNBR 100重量部当り、5〜50重量部、好ましくは5〜40重量部の割合で用いられる。このような導電性カーボンがこれより少ない割合で用いられると、体積固有抵抗が高くなってしまい、一方これより多い割合で用いられると、材料硬度が高すぎるようになり好ましくない。
【0013】
カーボンブラック、グラファイトおよびこれら以外の導電性カーボンは、これらの合計量がNBR 100重量部当り10〜100重量部、好ましくは10〜80重量部の割合となるように用いられる。これらの合計量がこれより少ない割合で用いられると、体積固有抵抗が高くなってしまい、一方これより多い割合で用いられると、材料硬度が高すぎるようになり好ましくない。
【0014】
カーボンブラック、グラファイトおよびこれら以外の導電性カーボンを配合したNBRの加硫は、イオウ加硫、過酸化物加硫等任意の加硫系単独あるいはこれらの組み合わせで用いることができるが、好ましくはイオウ加硫系が用いられる。
【0015】
組成物中には、以上の必須成分以外に、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート等の多官能性不飽和化合物、シリカ、活性炭酸カルシウム等の他の補強剤、タルク、けい酸カルシウム等の充填剤、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の受酸剤、老化防止剤、ジオクチルセバケート(DOS)等の可塑剤などゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0016】
組成物の調製は、インタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練することによって行われ、その加硫は、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレス等を用い、一般に約160〜200℃で約3〜30分間程度加熱することによって行われ、更に必要に応じて約140〜160℃で約0.5〜10時間加熱する二次加硫も行われる。
【実施例】
【0017】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0018】
実施例1
ニトリルゴム(JSR製品JSR N240S;CN含量26%) 85重量部
ニトリルゴム(JSR製品JSR N241;CN含量29%) 15 〃
カーボンブラック(東海カーボン製品シーストG-SVH) 25 〃
ケッチェンブラック(ライオン製品EC-600JD) 7 〃
グラファイト(日本黒鉛工業製品HOP;平均粒子径 約3μm) 30 〃
酸化亜鉛(堺化学工業製品) 10 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品) 1 〃
ワックス(精工化学製品サンタイトR) 2 〃
老化防止剤(川口化学工業製品ODA-NS) 4 〃
可塑剤(ランクセス製品ブルカノールOT) 9 〃
イオウ(鶴見化学工業製品) 1 〃
加硫促進剤(大内新興化学製品ノクセラーTT) 2.8 〃
加硫促進剤(大内新興化学製品ノクセラーCZ) 3.8 〃
以上の各配合成分(2種類のニトリルゴムは耐油性と耐寒性とを調整するために用いられた)をニーダおよびオープンロールで混練し、混練物について170℃、10分間のプレス加硫および150℃、30分間のオーブン加硫を行ない、250×120×2mmテストピースを作製した。得られたテストピースを用いて、次の各項目の測定を行った。
常態物性:JIS K6253、K6251準拠
体積固有抵抗(Ω・cm):4端子法、JIS K7194準拠
トルク値:図1に示す試験機において、S45C円盤1をオイルシール2に押し付けて
400rpmまたは1000rpmで摺動させ、接触するシールリップ部のトルク値を ロードセル3にかかる荷重から算出した
【0019】
実施例2
実施例1において、カーボンブラック量が40重量部に、またグラファイト量が15重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0020】
実施例3
実施例1において、カーボンブラック量が15重量部に、またグラファイト量が60重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0021】
比較例1
実施例1において、グラファイトの代わりにカオリンクレー(白石カルシウム製品)が同量用いられた。
【0022】
比較例2
実施例1において、カーボンブラック量が50重量部に変更され、グラファイトが用いられなかった。
【0023】
比較例3
実施例1において、グラファイトとして日電カーボン製品グラファイトA-0(平均粒径 10μm以上)が同量用いられた。
【0024】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。

実施例 比較例
測定・評価項目
常態物性
硬さ (デュロメーターA) 76 78 80 75 79 77
100%引張応力 (MPa) 7.1 7.2 8.1 5.3 9.0 6.8
引張強さ (MPa) 15.6 16.9 15.4 17.2 19.4 16.0
切断時伸び (%) 240 230 210 310 210 260
体積固有抵抗(Ω・m:4端子) 25 28 21 ≧106 34 28
トルク値
400rpm時 (N・cm) 20 20 18 22 25 25
1000rpm時 (N・cm) 25 26 24 28 34 31
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のニトリルゴム組成物から加硫成形されたゴム加硫成形品は、耐泥水性、シール性、低トルク化を満足させる材料であるため、自動車の車輪用転がり軸受をはじめ各種産業機械、家電製品に用いられるシール材として有効に用いられる。
【符号の説明】
【0026】
1 S45C円盤
2 オイルシール
3 ロードセル
4 モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴム100重量部に対して、カーボンブラック5〜50重量部、平均粒子径5μm以下のグラファイト5〜60重量部およびこれら以外の導電性カーボン5〜50重量部を含有してなり、カーボンブラック、グラファイトおよびこれら以外の導電性カーボンの合計量が、ニトリルゴム100重量部に対して10〜100重量部であるニトリルゴム組成物。
【請求項2】
カーボンブラックがSRFカーボンブラックまたはHAFカーボンブラックである請求項1記載のニトリルゴム組成物。
【請求項3】
導電性カーボンがケッチェンブラックまたはアセチレンブラックである請求項1記載のニトリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のニトリルゴム組成物から加硫成形されたゴム加硫成形品。
【請求項5】
シール材として用いられる請求項4記載のゴム加硫成形品。
【請求項6】
転がり軸受用オイルシールとして用いられる請求項5記載の加硫成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−97213(P2012−97213A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247047(P2010−247047)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】