説明

ネットワーク構築装置および方法ならびにプログラム

【課題】医用画像データから、複数の構造物に対応する複数のネットワーク構造を精度よく構築する。
【解決手段】
複数のセグメントにおいて、構造物の交錯する部分に対応する部分が、1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて各セグメントが交差セグメントである交差セグメントらしさを算出し、各セグメントが直線をなすように各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという特徴を規定する直線接続条件に基づいて各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される直線らしさを算出し、交差セグメントらしさと直線らしさを用いて各セグメント間の接続強度を設定し、接続強度に基づいて各セグメントを接続して複数のネットワークを構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データから検出した特定の構造物をネットワーク構造として構築するネットワーク構築装置および方法ならびにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器(たとえば多検出器型CT等)の進歩により質の高い3D画像が画像診断に用いられる。3D画像は多数の2D画像から構成され情報量が多いため、医師が所望の観察部位を見つけ診断することに時間を要する場合がある。そこで、注目する臓器を抽出しMIP、VR、CPR等の表示を行うことにより、臓器全体や病変の視認性を高め診断の効率化を図ることが行われている。たとえば胸部CT画像に対する解析、特に肺の解析を行う際に、肺動脈と肺静脈の中心経路をそれぞれ独立したネットワーク構造として抽出することが要求される。
【0003】
非特許文献1において、肺領域の画像から血管をネットワーク構造として抽出し、抽出された絡み合うネットワーク構造を、それぞれ肺動脈・肺静脈に対応する肺動脈と肺静脈をそれぞれ独立したネットワーク構造として構築する方法であって、血管の構造物からそれぞれセグメントを生成し、生成したセグメントを肺動脈と肺静脈の肺門に近い部分を始点、肺門から遠ざかる方向に向かって有向ネットワーク構造を構築する方法が開示されている。また、非特許文献1では、肺動脈と肺静脈が接触している箇所で、肺動脈の一部と肺静脈の一部がそれぞれ別のセグメントとして抽出されるべきところ、一つのセグメント(以後、交差セグメントと場合により称す)として抽出されることにより肺静脈または肺動脈どうしがうまく接続されないという問題に対し、各血管芯線枝に走行方向を定義した先述の有向ネットワークにおいて、入次数が2以上である頂点について、その頂点またはその頂点から出て行く辺の終点において分割を行うことにより交差セグメントを分割し、交差セグメント周辺に存在する複数のセグメントを互いに内積が最大となる組合せで再接続してネットワーク構造を構築することを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中村、他4名「木構造解析による胸部X線CT像からの肺動脈・肺静脈の自動分類」、信学技報 MI2005−134、[online]、[平成22年2月4日検索]、インターネット<URL:http://www.murase.nuie.nagoya-u.ac.jp/~ide/res/paper/J05-kenkyukai-snaka-1.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された方法では、抽出された各セグメントの情報だけでなく、有向ネットワーク構造の進行方向を特定するためにネットワーク構造の根がどこであるかを示す情報が必要である。このため、ネットワーク構造の方向が分からない場合やネットワーク構造の方向が誤って指定された場合には、特許文献1に記載された方法では正しくネットワーク構造を構築することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、ネットワーク構造の根がどこであるかを示す情報がない場合であっても画像データから所定の構造物を精度良く検出することができるネットワーク構築装置および方法ならびにプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のネットワーク構築装置は、医用画像データから、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物をそれぞれ複数のセグメントとして抽出し、前記抽出された複数のセグメントを各構造物ごとに接続した複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構築装置であって、前記抽出された複数のセグメントにおいて、前記構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、かつ該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという前記交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて、前記各セグメントが前記交差セグメントである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出する交差セグメントらしさ算出手段と、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという前記各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する直線接続条件に基づいて、前記各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される蓋然性を表す直線らしさを算出する直線らしさ算出手段とを備え、前記抽出された各複数のセグメントについて、前記交差セグメントらしさと前記直線らしさとを用いて前記各セグメント間の接続強度を設定する接続強度設定手段と、前記設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して前記複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構造構築手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明のネットワーク構築方法は、医用画像データから、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物をそれぞれ複数のセグメントとして抽出し、かつ抽出された複数のセグメントを各構造物ごとに接続した複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構築方法であって、前記抽出された複数のセグメントにおいて、前記構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという前記交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて、前記各セグメントが前記交差セグメントである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出し、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという前記各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する直線接続条件に基づいて、前記各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される蓋然性を表す直線らしさを算出し、前記抽出された各複数のセグメントについて、前記交差セグメントらしさと前記直線らしさを用いて前記各セグメント間の接続強度を設定し、前記設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して前記複数のネットワーク構造を構築することを特徴とする。
【0009】
本発明のネットワーク構築プログラムは、医用画像データから、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物をそれぞれ分割された複数のセグメントとして抽出し、かつ抽出された複数のセグメントを各構造物ごとに接続した複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構築プログラムであって、コンピュータを、前記抽出された複数のセグメントにおいて、前記構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという前記交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて、前記各セグメントが前記交差セグメントである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出する交差セグメントらしさ算出手段と、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという前記各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する直線接続条件に基づいて、前記各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される蓋然性を表す直線らしさを算出する直線らしさ算出手段とを備え、前記抽出された各複数のセグメントについて、前記交差セグメントらしさと前記直線らしさを用いて前記各セグメント間の接続強度を設定する接続強度設定手段と、前記設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して前記複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構造構築手段として機能させることを特徴とする。
【0010】
また、ネットワーク構造とは、複数の頂点(節点)のつながり方を頂点とそれを結ぶ辺により構成される構造に抽象化したグラフ構造を意味する。なお、グラフ構造はループや多重辺を保持してもよい。また、本発明を肺における肺動脈と肺静脈、または、肝臓における門脈と冠動脈と肝静脈などの複数の血管に適用することにより構築された複数のネットワーク構造はそれぞれ木構造となり、ループや多重辺を含まない。
【0011】
ここで、所定の構造物とは、「前記複数のセグメントに対応する頂点(節点)とそれを結ぶ辺とによりネットワーク構造として形状モデル化可能なオブジェクト」であるとともに各セグメント同士が直線をなすように辺を用いて接続されるという特徴を有するものであり、さらに、複数の所定のオブジェクトのそれぞれが、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する構造物であれば何でもよい。例えば、複数の所定の構造物は、肺における肺動脈と肺静脈であってもよく、肝臓における門脈と冠動脈と肝静脈であってもよい。
【0012】
また、医用画像データとは、たとえばCT、MR、超音波装置、PET―CT、SPECT、4D-CT、OCT、X線撮影装置(CR、DR)により撮像された医用画像データであってもよいし、たとえばボリュームデータ等の3次元画像データであってもよい。
【0013】
ここでいう接続強度とは、各セグメント間の接続の強さを表す指標値を意味する。ネットワーク構造構築手段は、かかる接続強度に基づいて、各セグメント間の接続の強さが強くなるように各セグメントを接続できるものであればいかなるネットワーク構築方法を適用してもよい。例えば、接続強度をコストとするコスト関数を最小にするように最小全域木法や最短路木法などのスパニング木生成アルゴリズムを適用してネットワークを構築してもよい。
【0014】
また、複数の所定の構造物をそれぞれ複数のセグメントとして抽出する方法は、構造物を複数のセグメントとして抽出できるものであれば周知のいかなる方法も適用でき、例えば、本発明のネットワーク構築装置が、画像データから所定の構造物の画像的特徴を有する領域を検出し、検出された領域中を細線化して得られた細線を分岐点および所定の距離などにより分割して複数のセグメントを抽出し、抽出された複数のセグメントを用いて本発明のネットワーク構築処理を行ってもよく、すでに画像データからセグメント処理がされた複数のセグメントのデータを取得して本発明のネットワーク構築処理を行ってもよい。
【0015】
本発明のネットワーク構築装置において、前記接続強度設定手段は、前記交差セグメントらしさの大きいセグメントと他のセグメント間の接続強度を小さく設定するともに、前記直線らしさの大きい各セグメント間の前記接続強度を大きく設定するものであることが好ましい。
【0016】
ここで、「交差セグメントと他のセグメント間の接続強度を小さく設定する」とは、接続強度に基づいてネットワーク構造を構築する際に、交差セグメントと他の全てのセグメントが接続されない程度に十分小さい値に設定することを意味する。「前記直線らしさが大きくなるように各セグメント間の前記接続強度を設定する」とは、接続強度に基づいてネットワーク構造を構築する際に、直線らしさが大きいセグメント同士が接続されやすくなるように接続強度を相対的に大きく設定することを意味する。
【0017】
また、上記交差セグメント特徴条件は、前記該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、任意の条件で規定してよく、例えば、前記各セグメント間の距離と、前記各セグメント間の角度および/または前記各セグメントを所定の直線上に投影した線分間の重複度により規定するものであってもよい。
【0018】
また、前記交差セグメント特徴条件は、前記該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、任意の条件で規定してよく、例えば、前記交差セグメントの近傍に該交差セグメントと接続可能なセグメントが4以上存在し、該4以上のセグメントが直線的に接続可能な2組以上のセグメントのペアを構成するという特徴として規定するものであってもよい。
【0019】
また、前記交差セグメント特徴条件は、前記交差セグメントの近傍に該交差セグメントと接続可能なセグメントが存在するという特徴を、任意の条件で規定してよく、例えば、前記各セグメント間の頂点の最短距離および/または前記各セグメントを含む直線間の最短距離が所定のしきい値以下であり、前記各セグメント間に前記重複度が正でないことにより規定するものであってもよい。
【0020】
また、前記交差セグメント特徴条件は、前記直線的に接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、任意の条件で規定してよく、例えば、前記各セグメントを含む直線間の最短距離および前記各近傍セグメント間の角度が小さいセグメントのペアが2以上存在することにより規定するものであってもよい。
【0021】
前記直線接続条件は、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという特徴を、任意の条件で規定してよく、前記各セグメント間の頂点の最短距離および前記各セグメントを含む直線間の最短距離および前記各セグメントを所定の直線上に投影した線分間の重複度の少なくとも1つと前記各セグメント間の角度により規定するものであってもよい。
【0022】
また、本発明における前記接続強度設定手段は、前記ネットワーク構造の進行方向に沿って各セグメントが直線をなすように接続されるというさらなる条件にも基づいて接続強度を設定するものであってもよい。例えば、進行方向に向かって接続されるべきセグメントが直線をなすように接続するという条件に基づいて、所定のセグメントの頂点(親)からセグメントの中点に向かうベクトルの角度が小さいセグメントのペアの接続強度が大きくなるよう重み付けし、所定のセグメントの頂点(親)からセグメントの中点に向かうベクトルの角度が大きいセグメントのペアの接続強度が小さくなるよう重み付けしてもよい。
【0023】
また、本発明によるネットワーク構築装置において、前記抽出された複数のセグメントのうち、前記交差セグメントらしさが所定のしきい値以上のセグメントを表示装置に識別表示させる表示制御手段をさらに備えることが好ましい。
【0024】
ここで、かかるセグメントを識別表示には、周知の識別表示に適用できるあらゆる方法を用いることができ、例えば、交差セグメントらしさが所定のしきい値以上のセグメントを他のセグメントとは異なる色で表示してもよく、交差セグメントらしさが所定のしきい値以上のセグメントを識別表示するための表示ウィンドウを画面上に表示し、この表示ウィンドウ内で交差セグメントらしさが所定のしきい値以上のセグメントと、かかるセグメントの近傍セグメントとを拡大表示してもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のネットワーク構築装置および方法ならびにプログラムによれば、画像データから、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物をそれぞれ複数のセグメントとして抽出し、抽出された複数のセグメントを各構造物ごとに接続した複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構築方法であって、抽出された複数のセグメントにおいて、構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて、各セグメントが交差セグメントである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出し、各セグメントが直線をなすように各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する直線接続条件に基づいて、各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される蓋然性を表す直線らしさを算出し、抽出された各複数のセグメントについて、交差セグメントらしさと直線らしさを用いて各セグメント間の接続強度を設定し、設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して複数のネットワークを構築するため、各セグメントどうしの幾何学的な特徴のみによって交差セグメントが誤接続される問題を効果的に抑制できる。結果として、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物を複数のネットワーク構造として精度よく構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のネットワーク構築装置の好ましい実施形態を示すブロック図
【図2】構造物として検出された肺の血管領域のセグメント抽出処理を説明する図
【図3】構造物領域からセグメント抽出処理により抽出された交差セグメントを説明する図
【図4A】セグメント間の頂点間の最短距離の算出方法を説明する図
【図4B】セグメント間の角度の算出方法を説明する図
【図4C】各セグメントを含む直線同士の最短距離の算出方法を説明する図
【図4D】セグメント間の重複度の算出方法を説明する図
【図5】従来方法により構築されたネットワーク構造および本実施形態の方法により構築されたネットワーク構造を示す模式図
【図6】本発明のネットワーク構築装置の処理の流れを説明する図
【図7】走行方向の情報を利用してセグメント間の接続強度を設定する方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の医用画像表示装置の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施形態となるネットワーク構築装置1の概略構成図である。なお、図1のようなネットワーク構築装置1の構成は、補助記憶装置に読み込まれた構造物検出プログラムをコンピュータ上で実行することにより実現される。このとき、この構造物検出プログラムは、CD−ROM等の記憶媒体に記憶され、もしくはインターネット等のネットワークを介して配布され、コンピュータにインストールされる。図1のネットワーク構築装置1は、画像データからたとえば肺における肺動脈や肺静脈等の構造物Mを検出するものであって、構造物領域検出手段11、セグメント抽出手段12、交差セグメントらしさ算出手段13と直線らしさ算出手段14を備えた接続強度設定手段15と、ネットワーク構築手段16と表示制御手段17を備えている。
【0028】
構造物領域検出手段11は、画像データにおいて所定の構造物Mの一部を構成するか否かを判断することにより候補領域Rを検出するものである。なお、画像データ7は、データ記憶手段2に記憶されたたとえば撮影装置もしくは放射線検出装置により撮像された2次元の画像もしくは複数の2次元画像から生成された3次元のボリュームデータからなっている。図2は、所定の複数の構造物領域である血管の候補領域Rを抽出し、抽出された血管領域に基づいてセグメントSを抽出する様子を示す模式図である。
【0029】
ここで、構造物領域検出手段11はたとえば特開2010−200925号もしくは特開2010−220742号に開示された手法やその他公知の技術により候補領域を検出する。一例として、所定の構造物が肺における肺動脈と肺静脈であり、ボリュームデータから肺動脈と肺静脈の候補領域Rを検出する場合について説明する。
【0030】
まず、構造物領域検出手段11は、ボリュームデータ7を構成するボクセルデータの値に基づいて、肺動脈および肺静脈の芯線を構成する複数の候補点の位置と主軸方向とを算出する。あるいは、構造物領域検出手段11が、ボリュームデータ7についてヘッセ行列を算出し、算出されたヘッセ行列の固有値を解析することにより、肺動脈および肺静脈の芯線を構成する複数の候補点の位置情報と主軸方向とを算出するようにしてもよい。そして、構造物領域検出手段11は、候補点周辺のボクセルデータについて肺動脈および肺静脈らしさを表す特徴量を算出し、算出した特徴量に基づいてそのボクセルデータが肺動脈領域または肺静脈領域を表すものであるか否かを判別する。なお、特徴量に基づく判別は、たとえばマシンラーニングにより予め取得された評価関数に基づいて行なう。これにより、図2左図に示すように、画像データのうち肺動脈領域または肺静脈領域であると判断された画像データが候補領域Rとして抽出される。
【0031】
次に、セグメント抽出手段12は、構造物領域検出手段11において検出された候補領域Rから複数のセグメントS(p=1〜n:nはセグメントの抽出数)を抽出する。セグメント抽出手段12は、図2の左図に示すよう構造物領域検出手段11が検出した構造物領域を取得し、図2の中央図に示すように、取得した構造物領域を周知の方法により細線化し、図2の右図に示すように、細線化処理された線を分岐点において分割することにより複数のセグメントを抽出する。なお、ここでは、細線化処理された線を分岐点だけでなく、所定の間隔などの所定の条件で分割している。細線化処理された線のうち、ゆるやかな湾曲形状をなす部分を、湾曲に沿って適宜複数の線分に分割できるようにするためである。
【0032】
図3を用いて交差セグメントらしさ算出手段13と直線らしさ算出手段14を備えた接続強度設定手段15を用いて、接続強度を設定する方法の原理を説明する。
【0033】
図3左図は、構造物抽出処置により抽出された左図の肺動脈と肺静脈の重なった部分を表す図である。同右図は同左図をセグメント化した図であり、両側に端点(小さい白丸)を有する線分が、構築されるべきネットワーク構造の頂点に該当するセグメントであり、点(単体の白丸)が細線化処理された線の分岐点である。
【0034】
同右図では、肺動脈の一部と肺静脈の一部がそれぞれ別のセグメントとして抽出されるべきところ、一つのセグメント(以後、交差セグメントと場合により称す)として抽出されている。つまり、図3に示すように、図3左図の斜め方向に走行する血管は、図3右図の3つのセグメントSa、Si、Sdに相当し、図3左図の垂直方向に走行する血管は、図3右図の3つのセグメントSc、Si、Sbに相当し、図3左図で斜め方向に走行する血管と垂直方向に走行する血管の重なっている部分は、1つのセグメントSi(交差セグメント)として抽出されていることが分かる。従来のネットワーク構築方法では、交差する構造物のうち、一方の構造物に対応するSc、Si、Sbが順に接続される一方で他方の構造物に対応するSaとSdがうまく接続されなかったり、Sa、Sb、Sc、Sd、Siが誤った組合せで接続されたりと、交差セグメントに起因して精度よくネットワーク構造を構築できないという問題があった。なお、以下の説明において、図3右図のセグメントSa,Sb,Sc,Sdのような、交差セグメントSiを介して本来接続されるべき、交差セグメントSi近傍のセグメントを近傍セグメントと呼ぶ。
【0035】
ここで、本発明では、交差セグメントは以下のような幾何学的な特徴だけを用いて特定可能であることに着目した。すなわち、抽出された複数のセグメントにおいて、構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、かつ該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在する。そして、この特徴を、交差セグメントの近傍に交差セグメントと接続可能なセグメントが4以上存在し、4以上のセグメントが直線的に接続可能な2組以上のセグメントのペアを構成するという特徴としてさらに捉えることができる。本実施形態では、上記特徴を交差セグメント特徴条件T1として規定し、交差セグメントらしさ算出手段13は、交差セグメント特徴条件T1に基づいて、各セグメントが交差セグメントSiである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出する。
【0036】
また、本発明では血管などの構造物に対応するセグメントグラフは、各セグメントが直線をなすように連結する木構造に再構成可能であることにも着目した。具体的には、直線接続条件として、「各セグメントが直線をなすように各セグメントの近傍のセグメントと接続される」という各セグメント間の幾何学的な特徴を、直線接続条件T2として規定し、直線らしさ算出手段14は、直線接続条件T2に基づいて、各セグメントが他のセグメントと直線をなすように接続される蓋然性を表す直線らしさを算出する。さらに、直線接続条件T2を各セグメントの距離がしきい値以下であり、各近傍セグメントを含む直線間の最短距離が小さく、かつ各近傍セグメント間の角度が小さいことにより規定する。
【0037】
以下に本実施形態における、交差セグメント特徴条件T1と直線接続条件T2の規定について詳細に説明する。
【0038】
本実施形態では、以下の4つの評価項目により交差セグメント特徴条件T1および直線接続条件T2を具体化した。図4Aから4Dは、交差セグメント特徴条件T1および後述の直線接続条件T2を規定する4つの評価項目を説明する図である。図4Aから4Dを用いて、交差セグメント特徴条件T1を規定する4つの評価項目を説明する。
【0039】
図4Aは、2つのセグメントSk、Slの頂点同士の最短距離dmを示している。接続すべき2つのセグメント間では各セグメントの頂点が近傍に位置するため、2つのセグメント間の頂点同士の最短距離が小さい程、2つのセグメントが接続される蓋然性が高いと考えられる。
【0040】
図4Bは、2つのセグメントSk、Slの間の角度θを説明する図である。図4Bに示すように、接続すべき2つのセグメントSk、Slは直線的に接続されるため、角度θは小さくなるものと考えられる。2つのセグメントSk、Slの間の角度θが小さい程、2つのセグメントSk、Slが接続される蓋然性が高いと考えられる。このため、2つのセグメントSk、Slの間の内積が大きいほど、2つのセグメントの接続の蓋然性が高く、内積が小さいほど2つのセグメントの接続の蓋然性が低いと考えられる。
【0041】
図4Cは、2つのセグメントSk、Slを含む直線同士の最短距離da(以下、近接度と場合により称する。)を説明する図である。図4Cに示すように、接続すべき2つのセグメントは1つの直線にほぼ沿って存在すると考えられるので、接続すべき2つのセグメントを含む直線同士の距離は非常に小さくなると考えられる。このため、近接度が小さい程、2つのセグメントが接続される蓋然性が高いと考えられる。
【0042】
図4Dは、2つのセグメント間の重複度を説明する図である。図4Dに示すように、図4Dに破線で示したセグメントSkを含む直線に対し、セグメントSmを投影した線分Sm’は、セグメントSkと直線上で重複している部分を有する。本実施形態においては、2つのセグメントSk、Sl間の重複度はこの一方のセグメントを含む直線上(または直線ベクトル)に他方のセグメントを投影し、その直線上で、一方のセグメントと投影された他方のセグメントが重複している部分の長さdrを意味する。図4Dに示すように、2つのセグメントSk、Sm間において重複度dr>0となっており、2つのセグメントSk、Sl間においては重複度dr<0となっている。ここで、接続すべき2つのセグメントは互いになめらかに接続できるように、一方のセグメントの各頂点、他方のセグメントの各頂点の順になめらかに延びる経路に沿って頂点が配置されると考えられるため、一方のセグメントを含む直線上に両セグメントの重なり合いがないと考えられる。このため、図4Dに示すように、2つのセグメントSk、Sm間において重複度drが大きい場合には、2つのセグメントが直線をなすようになめらかに接続する可能性が低いと推定でき、接続すべき2つのセグメント間においては、重複度drがほぼ0になるものと考えられる。
【0043】
本実施形態では、交差セグメント特徴条件T1を、まず、交差セグメントSiの近傍に存在する、交差セグメントSiと直線をなすように接続可能なセグメントを、各セグメント間の頂点の最短距離dmが所定のしきい値以下であり、各セグメント間の重複度が正でない(各セグメント間の上述の重なり合う距離drが正でない)ことにより規定する。そして、1つのセグメントに対して4以上の上記特定されたセグメントが存在する場合、かかる4以上のセグメントのうち、直線的に接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、各近傍セグメントを含む直線間の最短距離daが所定のしきい値より小さくおよび各近傍セグメント間の角度θが所定のしきい値より小さいという条件を満たすセグメントのペアが2組以上存在することにより規定する。
【0044】
そして、接続強度設定手段15に備えられた交差部らしさ算出手段13は、上述したよう交差セグメント特徴条件T1に基づいて交差セグメントらしさを算出する。本実施形態においては、交差部らしさ算出手段13は、交差セグメントらしさとして、交差セグメント特徴条件T1をすべて満たす場合には「1」、それ以外の場合には「0」を算出する。
【0045】
そして、接続強度設定手段15は、以下の評価式(1)に示すように、交差セグメントらしさに基づいて、各セグメントに対し式(1)に示すデルタ関数δによる評価を行う。すなわち、注目セグメントが交差セグメントであると推定される場合には、他のセグメントと接続する接続強度の係数項を0、注目セグメントが非交差セグメントであると推定される場合には、他のセグメントと接続する接続強度の係数項を1とするデルタ関数δを適用することにより、交差セグメントをいずれのセグメントにも接続させない。
【数1】

なお、上記(i)、(ii)は、交差セグメント特徴条件T1を構成する下記条件である。
(i)頂点同士の最短距離がしきい値以下かつセグメント間の重なりを示す重複度が正でないセグメント(近傍セグメント)が4つ以上存在する。
(ii)近傍セグメントのうち、セグメントを含む直線間の距離(以下、近接度と称す。)およびセグメント間の角度がそれぞれしきい値以下であるセグメントのペアが2つ以上存在する。
【0046】
また、直線らしさ算出手段14は、各セグメントの距離がしきい値以下であり、各近傍セグメントを含む直線間の最短距離が小さく、かつ各近傍セグメント間の角度が小さいという直線接続条件T2に基づいて直線らしさを以下のように4つの実関数により構成される実関数fsにより算出する。
【0047】
まず、先述の4つの評価基準を用いて、2つのセグメント間の頂点同士の最短距離が大きい程0に近くなり、最短距離が小さい程1に近くなるように、区間[0,1]の連続する実関数である評価関数f1を定義する。また、2つのセグメント間の内積が大きい程0に近くなり、内積が小さい程1に近くなるように、区間[0,1]の連続する実関数である評価関数f2を定義する。また、2つのセグメントを含む直線同士の最短距離が小さい程1に近くなり、最短距離が大きい程0に近くなるように、区間[0,1]の連続する実関数である評価関数f3を定義する。そして、2つのセグメントの重複度が正であるときは0に近くなり、2つのセグメントの重複度が正でないときは1に近くなるように、区間[0,1]の連続する実関数である評価関数f4を定義する。
【0048】
そして、以下の式(2)に示す実関数fsにより直線らしさを算出する。以下の関数fsが1に近いほど直線らしさが大きく、0に近いほど直線らしさが小さいことを意味する。
【数2】

そして、各セグメントに対して、以下のように接続強度fを規定する。
【数3】

上記式(3)により、N個のセグメントから選択可能な全てのセグメントのペアの接続強度を個々に評価する、NXN行列のテーブルが設定される。
【0049】
そして、ネットワーク構築手段16は、上記式(3)に基づいて設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して複数のネットワーク構造を構築する。具体的には、先述の関数により定義したNXN行列により、N個のセグメントから組合せ可能な全セグメントのペアについて接続強度を評価し、接続強度の高いペアを互いに連結してネットワーク構造を構築する。例えば、周知の最小全域木法や最短路木法などのスパニング木生成アルゴリズムにより、maxΣfとなるように、最適経路を決定し、ネットワーク構造を構築することができる。図5左図は、従来の方法により構築された肺動脈を表すネットワーク構造(図5実線)と肺静脈を表すネットワーク構造(図5破線)であり、図5右図は本実施形態により構築された肺動脈を表すネットワーク構造と肺静脈を表すネットワーク構造である。従来の方法では、図5のC1に示すように、鎖線円の中に示された交差セグメントおよび近傍セグメントに対応する血管領域が、誤って接続されていたところ、本実施形態の方法では、同図C2に示すように、かかる血管領域が正しく接続されたことが分かる。
【0050】
続いて、表示制御手段17は、ディスプレイ3に、ネットワーク構築手段16により構築されたネットワーク構造を表示させる。本実施形態においては、図5右図に示すように、表示制御手段17は、上記交差セグメント算出処理の中で検出された交差セグメントらしさが「1」のセグメントおよび近傍セグメントを破線円形状の指標によりネットワーク構造上に識別表示する。
【0051】
図6は、第1の実施形態によるネットワーク構築装置1の処理の流れを表すフローチャートである。以下、図6に従って第1の実施形態によるネットワーク構築装置1の処理の流れを説明する。
【0052】
まず、構造物領域検出手段11が、ボリュームデータ7を取得して、構造物領域Rを検出する(S01、図2左図参照)。そして、セグメント抽出手段12により、構造物領域Rcを細線化し、かかる細線を分岐点および所定の距離などの所定条件に従って分割し、分割されたものをセグメントとして抽出する(S02、図2中央図および右図参照)。その後、接続強度設定手段15は、抽出されたN個のセグメントから組合せ可能な全てのセグメントのペアに対し、式(1)に基づいて交差セグメントらしさ算出手段13により交差セグメントらしさを算出するとともに式(2)に基づいて直線らしさ算出手段14により直線らしさを算出し(S03)、算出された交差セグメントらしさおよび直線らしさに基づいて式(3)により接続強度fを設定する(S04)。そして、ネットワーク構造構築手段16は、N個のセグメントから組合せ可能な全セグメントのペアについて接続強度fを評価し、接続強度fの高いペアを互いに連結してネットワーク構造を構築する(S05、図5右図参照)。ここでは、周知の最小全域木法により、maxΣfとなるように、最適経路を決定し、ネットワーク構造を構築する。そして、表示制御手段17は、ディスプレイ3に、ネットワーク構築手段16により構築されたネットワーク構造を表示し、さらに、交差セグメント算出処理の中で検出された交差セグメントらしさが「1」のセグメントおよび近傍セグメントを破線円形状の指標によりネットワーク構造上に識別表示して本実施形態の処理を終了する(S06、図5右図参照)。
【0053】
上記第1の実施の形態によれば、各セグメント間の幾何学的特徴のみに基づいてセグメントの誤接続を抑制し、画像データから精度良く構造物Mを検出することができる。よって、構造物の進行方向の情報が得られない場合であっても画像データから精度良く構造物を検出することができる。
【0054】
本発明のネットワーク構築装置1において、接続強度設定手段15は、交差セグメントらしさの大きいセグメントと他のセグメント間の接続強度を小さく設定するともに、直線らしさの大きい各セグメント間の接続強度を大きく設定するものであるため、交差セグメントを他のセグメントと接続させることを抑制することによって誤接続を防ぐと共に各セグメントを直線的らしさが高くなるように接続することができる。この結果、構造物に対応するネットワーク構造をより精度よく構築することができる。
【0055】
すなわち、本実施形態においては接続強度設定手段15が、抽出された各セグメントが交差セグメントであると推定される場合には、他のセグメントと接続する接続強度を0、抽出された各セグメントが該各セグメントが非交差セグメントであると推定される場合には、他のセグメントと接続する接続強度を1とするデルタ関数δを適用することにより、交差セグメントをネットワーク構造の接続に用いるセグメントから取り除き、残ったセグメント間で直線接続条件T2を用いてネットワーク構造を構築することにより、交差セグメントを挟んで直線をなすように対向する一対のセグメントを正しく接続できる可能性が高くなり、より精度よくネットワーク構造を構築することができる。
【0056】
また、本実施形態の応用例として、交差セグメント特徴条件をデルタ関数でなく実関数とし、式(3)に替えて、以下の式(4)を用いてもよい。例えば、fcは、交差セグメントである蓋然性が高い程0に近く、交差セグメントである蓋然性が低い程1に近い値を示す区間[0,1]の実関数とすることが考えられる。この場合、fは区間[0,2]の実関数となり、2に近い程接続強度が高いと判断できる。
【数4】

【0057】
また、上記交差セグメント特徴条件T1が、交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、各セグメント間の距離と、各セグメント間の角度および/または各セグメントを所定の直線上に投影した線分間の重複度により規定するものであるため、交差セグメントの蓋然性を好適に評価することができる。
【0058】
また、交差セグメント特徴条件T1が、交差セグメントの近傍に互いに接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、交差セグメントの近傍に交差セグメントと接続可能なセグメントが4以上存在し、4以上のセグメントが直線的に接続可能な2組以上のセグメントのペアを構成するという特徴として規定するものであるため、交差セグメントの幾何学的な特徴を良好に捉えることができ、交差セグメントの蓋然性を好適に評価することができる。
【0059】
また、交差セグメント特徴条件T1は、交差セグメントの近傍に交差セグメントと接続可能なセグメントが存在するという特徴を、各セグメント間の頂点の最短距離および/または各セグメントを含む直線間の最短距離が所定のしきい値以下であり、各セグメント間に重複度が正でないことにより規定するものであるため、交差セグメントの幾何学的な特徴を良好に捉えることができ、交差セグメントの蓋然性を好適に評価することができる。
【0060】
また、交差セグメント特徴条件T1は、直線的に接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、各セグメントを含む直線間の最短距離および各近傍セグメント間の角度が小さいセグメントのペアが2以上存在することにより規定するものであるため、交差セグメントの幾何学的な特徴を良好に捉えることができ、交差セグメントの蓋然性を好適に評価することができる。
【0061】
直線接続条件T2は、各セグメントが直線をなすように各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという特徴を、各セグメント間の頂点の最短距離および各セグメントを含む直線間の最短距離および各セグメントを所定の直線上に投影した線分間の重複度の少なくとも1つと各セグメント間の角度により規定するものであるため、セグメント間の幾何学的な特徴を良好に捉えることができ、セグメント同士の直線らしさを好適に評価することができる。また、非特許文献1に記載された方法のように、セグメント同士を角度のみで評価する方法よりも、本実施形態の直線らしさ算出処理は、複数の評価項目により直線接続条件を規定するため、より精度よく直線らしさを評価することができる。
【0062】
また、交差セグメント特徴条件は、抽出された複数のセグメントにおいて、構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定するものであれば、いかなる方法で定義してもよい。例えば、交差セグメント特徴条件のうち、近傍セグメントが直線をなすように接続可能であるという特徴を、セグメント間の角度が小さいという条件だけで規定してもよく、近接度だけで規定してもよく、これらの組合せにさらなる条件を付加してもよい。また、角度や距離を重複度をそれぞれ別の方法により算出してもよい。
【0063】
また、直線接続条件は、各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという各セグメント間の幾何学的な特徴を規定するものであれば、いかなる方法で定義してもよい。種々の定義で置換することができる。例えば、直線接続条件を、セグメント間の角度が小さいという条件だけで規定してもよく、近接度だけで規定してもよく、これらの組合せにさらなる条件を付加してもよい。
【0064】
また、本実施形態において角度の大きさを内積により判断したが、これに限定されず、角度の大きさを判断できるものであればいかなる方法により角度の大きさを判断してよいことは言うまでもない。
【0065】
また、本実施形態においては、抽出された複数のセグメントのうち、交差セグメントらしさが所定のしきい値「1」以上のセグメントをディスプレイに識別表示させる表示制御手段17をさらに備えたため、ユーザのネットワーク構造における交差セグメントの位置と周辺のセグメントを容易に把握することができる。
【0066】
また、表示制御手段17は、C2に示すように、交差セグメントらしさが「1」以上のセグメントに対応する血管領域を別ウィンドウで拡大表示することにより識別表示を行ってもよい。例えば、医師らが肺動脈と肺静脈をボリュームレンダリング法により表示させて、肺静脈にできた腫瘤の画像診断を行っている際に、マウス等の入力部を用いたマニュアル操作により腫瘤を選択すると、かかるマニュアル操作を検出して、選択された腫瘤が属する血管および選択された腫瘤から心臓までの血管経路を特定し、特定された血管経路上の交差セグメントおよびその近傍を、新たな表示ウィンドウ内に拡大表示する。腫瘤の属する血管が動脈と静脈のいずれに連結しているかを容易に把握でき、より精度よく画像診断を行えるよう支援できる。
【0067】
また、上記実施形態において、接続強度設定手段15が、ネットワーク構造の進行方向に沿って各セグメントが直線をなすように接続されるというさらなる条件にも基づいて接続強度を設定するものであってもよい。図7は、本実施形態の変形例による各セグメント間の接続強度を設定する処理を説明する図である。図7の実線で描かれた複数のセグメントは肺動脈に対応する複数のセグメントを表し、破線で描かれた複数のセグメントは肺静脈に対応する複数のセグメントを表している。図7においては、肺動脈と肺静脈が交錯する部分に対応する部分が、交差セグメントSiおよび近傍セグメントSa、Sb、Sc、Sdとしてセグメント化されている。
【0068】
ここで、肺動脈などの血管に対応するネットワーク構造は、根から血管の先端に向かって分岐しながら広がっていく根付き有向木構造をなすものであり、さらに、各接続するセグメント同士は走行方向に向かって直線的に接続するという特徴を有する。本変形例においては、図7に示すように、上記特徴に鑑み、注目セグメントの親となる頂点Pから注目セグメントの中点Aに向かうベクトルPAと、注目セグメントの親となる頂点から他の近傍セグメントの中点B,C,DにむかうベクトルPB,PC,PDとのそれぞれの内積に基づいて各セグメント間の接続強度を重み付けして設定する。すなわち、接続強度設定手段15は、注目セグメントの親となる頂点Pから注目セグメントの中点Aに向かうベクトルPAと、注目セグメントの親となる頂点から他の近傍セグメントの中点にむかうベクトルとのそれぞれの内積が大きいほど接続強度が大きくなるよう重み付けし、内積が小さいほど接続強度が小さくなるよう重み付けする。例えば、注目セグメントの親となる頂点Pから注目セグメントの中点Aに向かうベクトルPAと、注目セグメントの親となる頂点から他の近傍セグメントの中点にむかうベクトルの内積を、内積が大きくなるほど1に近づき、内積が小さくなるほど0に近づくような範囲[0,1]の実関数fpで定義し、上記実施形態の式(3)の評価関数にさらに実関数fpを線形結合または積算して、接続強度fを算出することが考えられる。
【0069】
図7に示すように、セグメントSaとセグメントSdは、本来は直線をなすものであるため、親Pから進行方向に向かって直線をなすように位置する。このため、ベクトルPAとPDの内積は大きくなる。上記の方法によれば、ベクトルPAとPDの内積が大きくなる程接続強度が大きくなるよう重み付けされるためセグメントSaとセグメントSdを接続できる可能性が高い。また、セグメントSaと、本来Sbと接続されるべきセグメントであるセグメントScのなす角が小さく(直線をなすように接続可能であり)、セグメントSaとScが誤って接続される可能性がある場合にでも、親Pの情報を用いることで、セグメントSaとセグメントScの接続強度よりも、セグメントSaとセグメントSdの接続強度を大きく重み付けできるため、セグメントSaとセグメントScが誤って接続される可能性を低くすることができる。また、上記方法において、走行方向を評価するベクトルの端点を、注目セグメントおよび近傍セグメントの中点に替えて、注目セグメントおよび近傍セグメント上の任意の点にしてもよい。
【0070】
また、かかる変形例のように、接続強度設定手段15が、ネットワーク構造の進行方向に基づくさらなる条件にも基づいて接続強度を設定するものである場合には、進行方向に向かって直線的に延びる構造物に対して、さらに精度よくネットワーク構造を構築することができる。
【0071】
また、ここでは複数の所定の構造物として肺動脈と肺静脈を例に説明したが、所定の構造物は点とそれを結ぶセグメントとによりネットワーク構造として形状モデル化可能なオブジェクトであるとともに各セグメント同士が直線状に接続されるという特徴を有するものであり、さらに、複数の所定のオブジェクトのそれぞれが、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する構造物であれば何でもよい。例えば、複数の所定の構造物は、肝臓における門脈と冠動脈と肝静脈であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 ネットワーク構築装置
11 構造物領域検出手段
12 セグメント抽出手段
13 算出手段
14 算出手段
15 接続強度設定手段
16 ネットワーク構築手段
17 表示制御手段
DV 画像データ
M 構造物
Si 交差セグメント
Sa,Sb,Sc,Sd 近傍セグメント
f 接続強度
f1,f2,f3,f4 評価関数
fs 実関数
δ デルタ関数
T1 交差セグメント特徴条件
T2 直線接続条件

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像データから、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物をそれぞれ複数のセグメントとして抽出し、前記抽出された複数のセグメントを各構造物ごとに接続した複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構築装置であって、
前記抽出された複数のセグメントにおいて、前記構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、かつ該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという前記交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて、前記各セグメントが前記交差セグメントである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出する交差セグメントらしさ算出手段と、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという前記各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する直線接続条件に基づいて、前記各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される蓋然性を表す直線らしさを算出する直線らしさ算出手段とを備え、前記抽出された各複数のセグメントについて、前記交差セグメントらしさと前記直線らしさとを用いて前記各セグメント間の接続強度を設定する接続強度設定手段と、
前記設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して前記複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構造構築手段とを備えたことを特徴とするネットワーク構築装置。
【請求項2】
前記接続強度設定手段が、前記交差セグメントらしさの大きいセグメントと他のセグメント間の接続強度を小さく設定するともに、前記直線らしさの大きい各セグメント間の前記接続強度を大きく設定するものであることを特徴とする請求項1記載のネットワーク構築装置。
【請求項3】
前記交差セグメント特徴条件は、前記該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、前記各セグメント間の距離と、前記各セグメント間の角度および/または前記各セグメントを所定の直線上に投影した線分間の重複度により規定するものであることを特徴とする請求項1または2記載のネットワーク構築装置。
【請求項4】
前記交差セグメント特徴条件は、前記該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、前記交差セグメントの近傍に該交差セグメントと接続可能なセグメントが4以上存在し、該4以上のセグメントが直線的に接続可能な2組以上のセグメントのペアを構成するという特徴として規定するものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のネットワーク構築装置。
【請求項5】
前記交差セグメント特徴条件は、前記交差セグメントの近傍に該交差セグメントと接続可能なセグメントが存在するという特徴を、前記各セグメント間の頂点の最短距離および/または前記各セグメントを含む直線間の最短距離が所定のしきい値以下であり、前記各セグメント間に前記重複度が正でないことにより規定するものであることを特徴とする請求項4記載のネットワーク構築装置。
【請求項6】
前記交差セグメント特徴条件は、前記直線的に接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという特徴を、前記各セグメントを含む直線間の最短距離および前記各近傍セグメント間の角度が小さいセグメントのペアが2以上存在することにより規定するものであることを特徴とする請求項5記載のネットワーク構築装置。
【請求項7】
前記直線接続条件は、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという特徴を、前記各セグメント間の頂点の最短距離および前記各セグメントを含む直線間の最短距離および前記各セグメントを所定の直線上に投影した線分間の重複度の少なくとも1つと前記各セグメント間の角度により規定するものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のネットワーク構築装置。
【請求項8】
前記接続強度設定手段は、前記ネットワーク構造の進行方向に沿って各セグメントが直線をなすように接続されるというさらなる条件にも基づいて接続強度を設定するものであることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載のネットワーク構築装置。
【請求項9】
前記複数の構造物は、肺動脈と肺静脈であることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のネットワーク構築装置。
【請求項10】
前記複数の構造物は、門脈と冠動脈と肝静脈であることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載のネットワーク構築装置。
【請求項11】
前記抽出された複数のセグメントのうち、前記交差セグメントらしさが所定のしきい値以上のセグメントを表示装置に識別表示させる表示制御手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載のネットワーク構築装置。
【請求項12】
医用画像データから、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物をそれぞれ複数のセグメントとして抽出し、抽出された複数のセグメントを各構造物ごとに接続した複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構築方法であって、
前記抽出された複数のセグメントにおいて、前記構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、かつ該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという前記交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて、前記各セグメントが前記交差セグメントである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出する交差セグメントらしさ算出手段と、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという前記各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する直線接続条件に基づいて、前記各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される蓋然性を表す直線らしさを算出する直線らしさ算出手段とを備え、前記抽出された各複数のセグメントについて、前記交差セグメントらしさと前記直線らしさを用いて前記各セグメント間の接続強度を設定し、
前記設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して前記複数のネットワーク構造を構築することを特徴とするネットワーク構築方法。
【請求項13】
医用画像データから、互いに交錯する直線状部分をそれぞれ有する複数の所定の構造物をそれぞれ複数のセグメントとして抽出し、抽出された複数のセグメントを各構造物ごとに接続した複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構築プログラムであって、
コンピュータを、
前記抽出された複数のセグメントにおいて、前記構造物の交錯する部分に対応する部分が1つのセグメントである交差セグメントとして存在し、かつ該交差セグメントの近傍に互いに直線をなすように接続可能なセグメントのペアが2以上存在するという前記交錯する部分近傍における各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する交差セグメント特徴条件に基づいて、前記各セグメントが前記交差セグメントである蓋然性を表す交差セグメントらしさを算出する交差セグメントらしさ算出手段と、前記各セグメントが直線をなすように該各セグメントの近傍のセグメントと接続されるという前記各セグメント間の幾何学的な特徴を規定する直線接続条件に基づいて、前記各セグメントが他のセグメントと直線状に接続される蓋然性を表す直線らしさを算出する直線らしさ算出手段とを備え、前記抽出された各複数のセグメントについて、前記交差セグメントらしさと前記直線らしさを用いて前記各セグメント間の接続強度を設定する接続強度設定手段と、
前記設定された接続強度に基づいて各セグメントを接続して前記複数のネットワーク構造を構築するネットワーク構造構築手段として機能させることを特徴とするネットワーク構築プログラム。

【図1】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−192125(P2012−192125A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60193(P2011−60193)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】