説明

ネットワーク解析システム及び方法

【課題】 通信タイミング制御信号のノード間の授受に基づき、自ノードからデータ信号を送信し得るタイムスロットを自律的に決定する手段を有する複数のノードにより構成された無線ネットワークの全域についてほぼリアルタイムに状態を観測できるようにする。
【解決手段】 本発明のネットワーク解析システムは、送信元ノード情報を含む通信タイミング制御信号を取得する通信タイミング制御信号取得手段と、各ノードについて、自ノードが受信できた通信タイミング制御信号を送信した近傍ノードの情報を含む受信範囲情報を記憶するノード情報記憶手段と、取得された通信タイミング制御信号に基づき、ノード情報記憶手段に記憶されている受信範囲情報を更新する情報更新手段と、ノード情報記憶手段に記憶されている情報から出力情報を形成する出力情報形成手段と、形成された出力情報を出力する出力手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネットワーク解析システム及び方法に関し、例えば、自律的にデータ送信タイミングを決定する無線ネットワークにおける、通信タイミング制御機能の試験や、稼動中ネットワークの状態解析に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2は、ネットワークに分散配置された複数のノードが自律的にタイムスロットを決定する方法について記述している。
【0003】
各端末(ノード)は、通信タイミング制御信号をほぼ周期的に送信する。また、周囲端末が送信した通信タイミング制御信号を受信し、受信タイミングを考慮して、自端末からの通信タイミング制御信号の送信タイミングを調整することで、データ送信タイムスロットの確保を行う。ネットワークにデータ信号を送信しようとする端末は、自端末からの通信タイミング制御信号を送信してから、他端末が通信タイミング制御信号を次に送信する直前までを、その端末のタイムスロットとし、データ送信権利を得る。
【0004】
広範囲にノードが設置されている環境では、あるノードから遠方のノードにデータを送信する場合は、中間のノードを中継するマルチホップ転送により実現する。マルチホップ転送環境では隠れ端末問題が生じ、信号の衝突が発生する可能性があるが、特許文献1の記載技術では、データ信号到達範囲の2倍以上の到達範囲に属する他ノードと直接的に通信タイミングを行うことにより、データ送信タイミングが重ならないようにしている。無線通信システムの電波到達範囲を正確に制御することは困難である。特許文献1の記載技術では、通信タイミング制御信号をデータ信号と同様な到達距離で送信し、受信したノードはさらに通信タイミング制御信号を転送することにより、データ信号の2倍以上の到達範囲に属するノードと通信タイミング制御を行っている。
【特許文献1】特開2006−211564
【特許文献2】特開2005−094663
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような通信タイミング制御を行うネットワークでは、通信タイミング制御信号の受信間隔を測定することでネットワーク状況を知ることができる。各ノードが狭い範囲に設置されているネットワーク環境では、パケットキャプチャ装置で全ノードの送信パケットを傍受することで可能である。
【0006】
しかし、広範囲にノードを設置されている環境では、設置位置によって到達範囲が異なる。そのため、パケットキャプチャ地点でノードからの送信タイミングを収集したとしても、各ノードの受信タイミングとは一致していない。全ノードにパケットキャプチャ機能を持たせることで受信タイミングを知ることはできる。しかし、ノードは、自ノード宛のパケット及びブロードキャストパケットしか通常受信しないようになっており、全パケットを受信するためにはノードに特殊な機能が必要となる。また、全パケットを処理することによる負荷もかかる。
【0007】
一般的に、ノード密度が低く均一である方がネットワークの効率が良いので、均一になるようにネットワークを設計してノードを設置すれば良い。ノード密度は、各ノードが何個のノードからパケットを受信するかを測定することにより把握することができる。ノード数が少ないときは、一部のノードの位置を移動させるなどして状態を変えた後に上述した測定を繰り返すことで、ノード配置を最適な状態にすることは可能である。しかし、ノード数が多くなると、上述のような試行錯誤的な作業を繰り返すのは困難である。そのため、ノードを追加したり移動したりする前に、どのようなネットワーク状態に変化するかを知る手段があれば良い。しかし、ノードの設置位置、ノード特性により電波到達距離が違うため、ノードが設置されていない位置も含め、ネットワーク内の全ての位置における受信ノード数を推定することは困難である。従って、各ノードをどのように移動させればネットワーク効率が最適化されるかを知ることは困難である。
【0008】
また、大規模なネットワークでは、全ノードが送信するパケットを唯一の装置でパケットキャプチャすることは困難であるため、一部の範囲の設置状況を変化させたときに、ネットワーク全体ではどのように変化するかを即座に知ることは困難である。
【0009】
そのため、無線ネットワークの全域についてほぼリアルタイムにネットワークの状態を観測できるネットワーク解析システム及び方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明は、通信タイミング制御信号のノード間の授受に基づき、自ノードからのデータ信号を送信し得るタイムスロットを自律的に決定する通信タイミング制御手段を有する複数のノードにより構成された無線ネットワークを解析するネットワーク解析システムにおいて、(1)上記無線ネットワーク上の送信元ノード情報を含む上記通信タイミング制御信号を取得する通信タイミング制御信号取得手段と、(2)上記各ノードについて、自ノードが受信できた通信タイミング制御信号を送信した近傍ノードの情報を含む受信範囲情報を記憶するノード情報記憶手段と、(3)上記通信タイミング制御信号取得手段が取得した通信タイミング制御信号に基づき、上記ノード情報記憶手段に記憶されている受信範囲情報を更新する情報更新手段と、(4)上記ノード情報記憶手段に記憶されている情報から出力情報を形成する出力情報形成手段と、(5)形成された出力情報を出力する出力手段とを有することを特徴とする。
【0011】
第2の本発明は、通信タイミング制御信号のノード間の授受に基づき、自ノードからのデータ信号を送信し得るタイムスロットを自律的に決定する通信タイミング制御手段を有する複数のノードにより構成された無線ネットワークを解析するネットワーク解析方法において、(0)通信タイミング制御信号取得手段、ノード情報記憶手段、情報更新手段、出力情報形成手段及び出力手段を備え、(1)上記通信タイミング制御信号取得手段は、上記無線ネットワーク上の送信元ノード情報を含む上記通信タイミング制御信号を取得し、(2)上記ノード情報記憶手段は、上記各ノードについて、自ノードが受信できた通信タイミング制御信号を送信した近傍ノードの情報を含む受信範囲情報を記憶し、(3)上記情報更新手段は、上記通信タイミング制御信号取得手段が取得した通信タイミング制御信号に基づき、上記ノード情報記憶手段に記憶されている受信範囲情報を更新し、(4)上記出力情報形成手段は、上記ノード情報記憶手段に記憶されている情報から出力情報を形成し、(5)上記出力手段が形成された出力情報を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通信タイミング制御信号のノード間の授受に基づき、自ノードからのデータ信号を送信し得るタイムスロットを自律的に決定する通信タイミング制御手段を有する複数のノードにより構成された無線ネットワークの全域についてほぼリアルタイムにネットワークの状態を観測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(A)第1の実施形態
以下、本発明によるネットワーク解析システム及び方法の第1の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0014】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態に係るネットワーク解析システムと解析対象の無線ネットワークとの概略構成を示すブロック図である。
【0015】
解析対象の無線ネットワークは、分散配置された複数(図1の場合、20個)のノードN1〜N20を有する。
【0016】
各ノードN(N1〜N20)は、例えば、特許文献1や特許文献2に記載のノードが該当し、基本的には、通信タイミング制御信号の授受によって自律的にタイムスロット(自己からの送信可能期間)を決定し、そのタイムスロットでデータを送信するものである。以下では、通信タイミング制御信号がパケットで授受されるとして説明する(なお、通信タイミング制御信号に係るパケットを制御用パケットと呼ぶこととする)。
【0017】
各ノードNは、5〜10程度の周囲ノードに到達するようにパケット(制御用パケット(後述する解析対象パケットを含む))を送信しているとする。例えば、ノードN1は、ノードN3、N4、N6、N7及びN11に到達するようにパケットを送信する。遠方のノードにパケットを送信する場合には、マルチホップ転送で送信するようにしても良い。例えば、ノードN1からノードN5に送信する場合、ノードN2、N3及びN4が順次中継してノードN5にパケットが到達する。
【0018】
第1の実施形態の場合、各ノードNは、特許文献1や特許文献2に記載されたようなタイムスロットの自律的な決定機能に加え、後述する解析対象パケットを形成して間欠的に送信する機能も担っている(例えば、所定期間毎に1回送信する)。
【0019】
第1の実施形態のネットワーク解析システム10は、複数(図1の場合、4個)のパケットキャプチャ装置11−1〜11−4、パケットアナライザ12、表示装置13及び入力装置14を有する。
【0020】
パケットキャプチャ装置11(11−1〜11−4)は、ネットワーク上のパケット(制御用パケット(後述する解析対象パケットを含む))を傍受し、パケットアナライザ12に入力するものである。各パケットキャプチャ装置11とパケットアナライザ12間の接続形態は、有線、無線のどちらでも構わない。パケットキャプチャ装置11は、1つのみで全ノードが送信するパケットを受信できるとは限らないので複数個おいても良く、図1は4個配置している例を示している(後述する第2の実施形態は複数存在することが要件となっている)。なお、1個のパケットキャプチャ装置11がある地点を測定した後、そのパケットキャプチャ装置11を移動させてパケットを受信するようにしても良い。すなわち、複数地点のパケットの傍受を実行できるのであれば、1個のパケットキャプチャ装置を用いても、複数個のパケットキャプチャ装置を用いても良い。
【0021】
パケットアナライザ12は、例えば、パソコン上のソフトウェアを中心として構成される。言い換えると、パケットアナライザ12は、例えば、通信機能を有するパソコンに、ネットワーク解析プログラムをインストールすることにより構成される。パケットアナライザ12は、機能的には、図2に示すように、パケット解析部21、ノード情報更新部22、到達範囲計算部23、表示制御部24、シミュレーション部25及びノード情報テーブル26を有する。
【0022】
パケット解析部21は、パケットキャプチャ装置11で受信したパケットについて、解析対象パケットであるかを判別し、解析対象パケットであればパケット内容を解析して所定の情報を抽出し、その結果を到達範囲計算部23及びノード情報更新部22に与えるものである。
【0023】
図3は、解析対象パケットのフォーマットを示す説明図である。図3において、解析対象パケットは制御用パケットの一種であり、宛先アドレス、送信元アドレス、近傍ノード数、近傍ノードアドレス及び近傍ノード情報の項目(フィールド)を有する。近傍ノードアドレス及び近傍ノード情報は、近傍ノード数分だけ設けられている。
【0024】
なお、制御用パケットは、宛先アドレス、送信元アドレスだけを含むものである。従って、近傍ノード数、近傍ノードアドレス及び近傍ノード情報の有無により、解析対象パケットか制御用パケットかを判別できるようになされている。なお、パケットの項目として、解析対象パケットか制御用パケットかを識別できるパケット種別の項目を設けるようにしても良い。
【0025】
宛先アドレスは、パケットの宛先のノードアドレスである。解析対象パケットも制御用パケットであるので、宛先アドレスにはブロードキャストアドレスが記述されるようになされている。但し、解析対象パケットをマルチホップで転送する場合は、次の転送先のアドレス等の転送の必要性などが分かる情報が記述される。解析対象パケットは、近傍のパケットキャプチャ装置11で傍受されることを意図した制御用パケットである。
【0026】
タイムスロットで通信されるデータ信号は、解析対象パケットや制御用パケットと異なる周波数等の異なる通信方式で通信され、解析対象パケットや制御用パケットと弁別できるようになされている。なお、データ信号に対しても同様な通信方式を適用した場合には、データ信号に係るパケットと解析対象パケットとを識別するための種別情報をパケットに盛り込むようにすれば良い。
【0027】
近傍ノード数は、解析対象パケットの送信元モードが制御用パケットを受信できる近傍ノードの数を表している。なお、電波状況によって、あるノードからの制御用パケットを受信できたりできなかったりする場合があるが、このような場合には、例えば、所定時間内の受信回数が閾値回数以上か否かによって近傍ノードか否かを決定する。
【0028】
近傍ノードアドレスは、近傍ノードのノードアドレスであり、近傍ノード情報は、例えば、近傍ノードからの制御用パケットの受信強度や、送信元ノードが一定周期を自律的に自ノード及び近傍ノードに割り付けた場合における(特許文献2参照)、自ノードの割付期間と近傍ノードとの割付期間とのタイミング差や、所定時間内のその近傍ノードからの制御用パケットの受信回数など、1つ以上の項目の情報が該当する。
【0029】
各ノードが通信タイミング制御信号として送信する制御用パケットも、図3に示す項目から構成されたものであっても良く、図3に示す以外の項目を含んでいても良い。なお、全ての制御用パケットが解析対象パケットとなっていても良い。言い換えると、制御用パケットと解析対象パケットとの区別がなくても良い。
【0030】
図2に戻り、到達範囲計算部23は、1又は複数の受信した解析対象パケットの情報及びノード情報テーブル26の保持情報を用いて、送信元ノードが送信した制御用パケットがどの範囲まで到達しているかを計算するものである。
【0031】
表示制御部24は、ノードの位置情報、受信解析対象パケットの送信元情報、パケットの到達範囲情報等を、表示装置13に表示制御するものである。
【0032】
ノード情報更新部22は、収集した受信解析対象パケットを解析して得たノード情報で、ノード情報テーブル26の格納情報を更新するものである。
【0033】
シミュレーション部25は、ノード情報テーブル26の格納情報、各ノードの位置と、各ノードからの送信パワー等の状態変化量を用いて、ノードの状態が変化することにより、ネットワークの状態がどう変化するかを予測計算(シミュレーション)するものである。シミュレーションを起動させる前に、入力させることを要する情報は、入力装置14から入力される。
【0034】
なお、この第1の実施形態では、各ノードの位置が予め測定され、パケットアナライザ12(のノード情報テーブル26)に、ノードの位置情報が登録されているものとする。
【0035】
図4は、ノード情報テーブル26の構成例を示す説明図である。図4において、ノード情報テーブル26は、ノード毎に、当該ノードのノードアドレス、設置位置情報、近傍ノード数、当該ノードの受信範囲情報を記述したものである。受信範囲情報には、そのノードが、制御用パケットを受信した近傍ノードのノードアドレスを、近傍ノード情報と共に記述する。近傍ノード情報として、その近傍ノードとの間の位置関係に関わる項目のうち、測定できる項目のいずれか1以上の項目の情報を記述する。近傍ノード情報として、当該ノードが送信元となっている解析対象パケットの近傍ノード情報をそのまま適用しても良く、解析対象パケットの近傍ノード情報を加工したものであっても良い(例えば、受信強度であれば複数の解析対象パケットにおける受信強度を平均化したものであっても良い)。
【0036】
ノードの設置位置情報は、入力装置14を介して入力したものであっても良く、また、各ノードにGPS受信機等を搭載し、ノードから取り込むようにしても良い。
【0037】
(A−2)各ノードでの通信タイミング(タイムスロット)の決定方法
次に、第1の実施形態に係るネットワーク解析システムの動作を説明する前に、第1の実施形態のネットワーク解析システムが前提としている各ノードが自律的にタイムスロットを決定する方法の一例(特許文献2に記載の方法)を説明する。なお、以下に説明する方法は一例であり、その方法の一部が変更された方法(例えば、特許文献1の記載方法)を各ノードが適用していても良い。
【0038】
各ノードは、上述したように、近傍ノード(当該ノードの発信電波が届く範囲に存在する他のノード)が送信した通信タイミング制御信号(制御用パケット)を受信できる。
【0039】
各ノードの通信タイミング計算手段(図示せず)は、受信した通信タイミング制御信号に基づき、当該ノードでの通信タイミングを規定する位相信号を形成するものである。ここで、当該ノードをノードiとし、その位相信号の時刻tでの位相値をθi(t)とすると、通信タイミング計算手段は、(1)式に示すような変化分ずつ位相信号θi(t)を変化させる。なお、(1)式は、非線形振動をモデル化した式であるが、他の非線形振動をモデル化した式を適用することも可能である。また、位相信号θi(t)は、当該ノードの状態変数信号と見ることができる。
【数1】

【0040】
(1)式は、受信した通信タイミング制御信号に応じて、自ノードiの位相信号θi(t)の非線形振動のリズムを変化させる規則を表している。(1)式において、右辺第1項ω(固有角振動数パラメータ)は、各ノードが備える基本的な変化リズムを表しており、右辺第2項が非線形変化分を表している。ここで、ωの値は例えばシステム全体で同一値に統一している。関数Pk(t)は、近傍ノードk(kは1〜Nまでとする)から受信した通信タイミング制御信号を表しており、関数R(θi(t),σ(t))は、他ノードからの通信タイミング制御信号の受信に応じて自己の基本的なリズムを変化させる応答特性を表現する位相応答関数であり、例えば、(2)式に従っている。
【0041】
(2)式は、時刻tにおける位相信号θi(t)の逆相にランダムノイズを重畳させた位相値の正弦波で位相応答関数を定めていることを表している。
【0042】
近傍のノード同士が逆相(振動の位相が反転位相)になろうとする非線形特性を実現し、その特性を用いて衝突回避を実行させようとしたものである。すなわち、近傍のノード間における通信タイミング制御信号の送信タイミングなどが衝突しないように、各ノードの位相信号の値が同じ値になるタイミングに、適当な時間関係(時間差)が形成させようとしている。
【0043】
(2)式において、関数σ(t)を表現する定数項π[rad]は、近傍のノード同士が逆相になろうとする非線形特性の働きをし、ランダムノイズ関数φ(t)は、その非線形特性にランダムな変動性を与える働きをする(関数φ(t)は、例えば、平均値が0のガウス分布に従う)。ここで、上記非線形特性にランダムな変動性を与えているのは、システムが目的とする安定状態(最適解)に到達せず、別の安定状態(局所解)に陥ってしまう現象に対処するためである。
【0044】
なお、(2)式では、位相応答関数R(θi(t),σ(t))の最も簡単な例としてsin関数を用いる形態を示したが、位相応答関数として他の関数を用いても良い。また、関数σ(t)の定数項πに代え、π以外の定数λ(0<λ<2π)を用いても良く、この場合、近傍のノード同士が逆相ではなく、異なる位相になろうと機能する。
【0045】
通信タイミング計算手段の上述した機能の意味合いを、図5を用いて詳述する。なお、図5に示す状態変化は、通信タイミング制御信号の送信機能も関係している。
【0046】
図5は、ある1つのノードiに着目したときに、着目ノード(自ノード)と近傍のノード(他ノード)jとの間に形成される関係、すなわち、それぞれの非線形振動リズム間の位相関係が時間的に変化していく様子を示している。
【0047】
図5は、着目ノードiに対して近傍ノードjが1個存在する場合である。図5において、円上を回転する2つの質点の運動は、着目ノードと近傍ノードに対応する非線形振動リズムを表しており、質点の円上の角度がその時刻での位相信号の値を表している。質点の回転運動を縦軸あるいは横軸に射影した点の運動が非線形振動リズムに対応する。(1)式及び(2)式に基づく動作により、2つの質点には相互に逆相になろうとし、仮に、図5(a)に示すように初期状態で2つの質点の位相が近くても、時間経過と共に、図5(b)に示す状態(過渡状態)を経て、図5(c)に示すような2つの質点の位相差がほぼπである定常状態に変化していく。
【0048】
2つの質点は、それぞれ固有角振動数パラメータωを基本的な角速度として回転している。ここで、ノード間で通信タイミング信号の授受に基づく相互作用が生じると、これらの質点は、それぞれ角速度を変化(緩急)させ、結果的に、適当な位相関係を維持する定常状態に到達する。この動作は、2つの質点が回転しながら相互に反発し合うことによって、安定な位相関係を形成するものと見ることができる。定常状態では、後述するように、それぞれのノードが所定の位相α(例えばα=0)のときに通信タイミング制御信号を送信するとした場合、互いのノードにおける送信タイミングは、適当な時間関係を形成していることになる。
【0049】
上述の安定な位相関係(定常状態)の形成は、近傍ノード数の変化に対して非常に適応的(柔軟)な性質を持つ。例えば、今、着目ノードに対して近傍ノードが1個存在し、安定な位相関係(定常状態)が形成されているときに、近傍ノードが1個追加されたとする。定常状態は一旦崩壊するが、過渡状態を経た後、近傍ノードが2個の場合における新たな定常状態を再形成する。また、近傍ノードが削除された場合や故障等により機能しなくなった場合においても、同様に適応的な動作をする。
【0050】
通信タイミング計算手段は、得られた位相信号θi(t)に基づいて、通信タイミング制御信号の送信タイミングを定めて送信を指示する。すなわち、位相信号θi(t)が所定の位相α(0≦α<2π)になると、通信タイミング制御信号の送信を指示する。ここで、所定の位相αは、予めシステム全体で統一しておくことが好ましい。以下では、α=0にシステム全体で統一されているとして説明する。図5の例で言えば、ノードiとノードjとでは、定常状態で相互の位相信号θi(t)及びθj(t)がπだけずれているので、α=0にシステム全体で統一しても、ノードiからの通信タイミング制御信号の送信タイミングと、ノードjからの通信タイミング制御信号の送信タイミングとはπだけずれる。
【0051】
通信タイミング制御信号は、通信タイミング計算手段の位相信号θi(t)が所定の位相αになったときに送信される。
【0052】
通信タイミング計算手段内の同調判定部は、自ノードや1又は複数の近傍ノードの間で行われる通信タイミング制御信号の送信タイミングの相互調整が、「過渡状態」(図5(b)参照)あるいは「定常状態」(図5(c)参照)のいずれの状態にあるかを判定するものである(同調判定を行う)。同調判定部は、通信タイミング制御信号の受信タイミング及び通信タイミング制御信号の自ノードからの送信タイミングを観測し、通信タイミング信号を授受し合う複数のノードの送信タイミング間の時間差が十分であって時間的に安定している場合に「定常状態」であると判定する。同調判定部は、自ノードからの通信タイミング制御信号の送信タイミングを捉えるための信号として、位相信号θi(t)を利用する。
【0053】
同調判定部は、同調判定結果が「定常状態」を示す場合に、位相信号θi(t)の周期毎に、当該ノードからのタイムスロットを定める。例えば、図5(c)の場合であれば、位相信号θi(t)が0〜πの期間内に自ノードiからのタイムスロットを定める。なお、位相信号θi(t)がπ〜2πの期間内は近傍ノードjがタイムスロットを設定すると認識することができる。
【0054】
(A−3)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態に係るネットワーク解析システムの動作(ネットワーク解析方法)を、特に、パケットアナライザ12の動作を説明する。
【0055】
ここで、第1の実施形態の場合、パケットアナライザ12の処理は、大きくは、(1)ノード情報テーブル26の作成、更新、(2)通信タイミングや到達範囲の解析、表示処理、(3)ノード状態変化後のシミュレーションの3つに分けることができる。
【0056】
図6は、第1の実施形態におけるノード情報テーブル26の作成、更新動作を示すフローチャートである。
【0057】
各パケットキャプチャ装置11が受信したパケットは、パケットアナライザ12に転送され、パケットアナライザ12のパケット解析部21に取り込まれる。パケットアナライザ12のパケット解析部21は、受信パケットが解析対象パケットであるか否かを判別する(S11)。解析対象パケットでなければ廃棄する。
【0058】
パケット解析部21は、受信パケットが解析対象パケットであれば、解析対象パケットから、近傍ノード数や近傍ノードアドレスや近傍ノード情報を抽出し(S12)、ノード情報更新部22は、受信した解析対象パケットの送信元アドレスをノードアドレスとしている、ノード情報テーブル26の該当行を検索し、その行の近傍ノード数や受信範囲情報をパケット解析部21が抽出した情報に更新する(S13)。
【0059】
なお、電波状況の変動が大きいと、受信した解析対象パケット毎に記述されている近傍ノードの情報の変化が起こる。このようなときは、過去の解析対象パケットの何割に近傍ノードが含まれているかという情報を近傍ノード情報に持たせ、所定の割合以上ならば近傍ノードとして有効とすることで変動の影響を抑えるようにすれば良い。
【0060】
図7は、第1の実施形態における通信タイミングや到達範囲の解析、表示処理を示すフローチャートである。図7は、上述した図6と同一の処理も改めて記載している。
【0061】
また、図8は、パケットアナライザの解析結果の表示例を示す説明図である。なお、図8(a)は、いずれの解析対象パケットの解析を実行する前の初期表示状態(表示がリセットされた際の状態)を示している。図8(a)において、表示されている小さな正方形はそれぞれノードを表しており、その表示位置は、各ノードの位置(図4の設置位置項目参照)に対応している。図8の表示例は、図1に示したような各ノードの設置位置に対応している。
【0062】
各パケットキャプチャ装置11が受信したパケットは、パケットアナライザ12に転送され、パケットアナライザ12のパケット解析部21に取り込まれ、受信パケットが解析対象パケットであるか否かが判別される(S21)。
【0063】
解析対象パケットでなければ後述するステップS25に移行する。なお、解析対象パケットでなければ廃棄するようにしても良い。
【0064】
解析対象パケットである場合には、パケット解析部21は、到達範囲を計算させるために、解析対象パケットから送信元ノードアドレスを抽出する(S22)。そして、到達範囲計算部23は、抽出された送信元ノードアドレスを、ノード情報テーブル26の近傍ノードアドレスとして含む他のノードを全て選択する(S23)。例えば、ノード情報テーブル26が図4に示すような場合であり、送信元ノードアドレスが「6」ならば、近傍ノードアドレスとしてノードアドレス「6」を含む他のノードを検索すると、ノードアドレス「1」、「2」、「7」、「8」の4つのノードが選択される。
【0065】
送信元ノードアドレスや到達範囲計算部23による選択情報は表示制御部24に与えられ、表示制御部24は、例えば、今回の解析対象パケットの送信元からのパケットが到達する範囲を視覚的に表示装置13上に表示させる(S24)。表示制御部24は、図8(b)に示すように、送信元ノードであるノードN6をマークし(図8(b)ではノード図形を黒塗りにしてマークしている)、ステップS2−3で選択した全ての他ノードN1、N2、N7、N8を含む範囲を、境界線を表す曲線表示することでマークする。境界線曲線は、送信元ノード及び選択された他ノードだけを含む最も大きな所定形状(例えば、円や楕円)の外形曲線としても良く、予め各ノード間の中間位置を繋げた境界線情報を設けておき、選択された他ノードとその他ノードの周囲の選択されなかったノードとの境界線情報とから形成するようにしても良い。図8(b)に破線で示しているのは、このような場合の境界線曲線である。
【0066】
なお、パケット到達範囲の表示方法は、上述のような境界線曲線で表示する方法には限定されず、他の方法でパケット到達範囲を示すようにしても良い。例えば、範囲内のノードを、初期状態におけるノードの表示色や、送信元ノードの表示色とは異なる色で表示するようにしても良い。また例えば、図9に示すように、想定到達範囲を予め設定しておき、受信パケットに係る送信元ノードからの想定到達範囲を円等で表示し、ノード情報テーブル26から抽出した到達範囲内のノードをマークするようにしても良い。この表示方法によれば、想定到達範囲より広範囲にパケット(電波)が到達してしまっている、又は、到達すべきノードで受信できていないことなどを一見して判別することができる。
【0067】
あるノードのパケット到達範囲の表示中に、別のノードからの解析対象パケットを受信し、電波到達範囲を表示すると、例えば、図8(c)に示すようになる。図8(c)は、ノードN6の到達範囲の表示中に、ノードN14の到達範囲を追加して表示したときの例である。ノードN8は、ノードN6及びノードN14の両ノードの到達範囲に重なっているが、これはノードN8が隠れ端末問題が発生していることを示している。ノードN6又はノードN14のどちらかがノードN8にデータを送信しようとしても、ノードN6、N14からのデータ信号の衝突が起きるようにノードN6、N14でタイムスロットの割付が行われることがあり、そのような割付がなされた場合にはノードN8では受信することができない。このような状態が発生している場合、ネットワークが正常な状態であれば、特許文献1の記載の方法では、ノードN8がタイミング調整を行うことで隠れ端末問題が解消される。
【0068】
表示制御部24は上述のように表示処理を行うと、表示時間タイマをセットする(S24の処理の一部)。表示時間は、各ノードに、データ信号の送信時間として、最低限割り当てられるべき最小タイムスロット時間とする。
【0069】
表示時間だけ表示がなされていなければ、パケットの到達範囲を表示中のノードがあるか否かを確認する(S25)。表示中のノードがなければ、ステップS21に戻り、受信パケットの監視を継続する。
【0070】
パケットの到達範囲を表示中のノードがあれば、表示中のいずれかのノードについての表示時間が経過したか否かを判別する(S26)。いずれのノードも表示時間を経過していなければ、ステップS21に戻り、受信パケットの監視を継続する。
【0071】
表示中のいずれかのノードの表示時間が経過した場合には、表示制御部24は、そのノードについての到達範囲の表示を終了させた後(S27)、ステップS21に戻り、受信パケットの監視を継続する。
【0072】
例えば、表示中のノードが1個の場合において、表示が所定の表示時間だけなされて表示が終了すると、表示状態は、図8(b)から図8(a)へのような変化となる。
【0073】
フレーム周期(ノードが自律的にタイムスロットを割り付ける周期(図5の1回転に対応している))が短いと、以上の表示を行っても到達範囲の表示時間が短く、隠れ端末問題が発生しているか判別し難い。フレーム周期を短く設定したような場合には、到達範囲の識別を行い易くなるように、隠れ端末問題が生じた時点の表示状態を所定時間だけ固定させるようにしても良く、また、受信パケットを収集し到達範囲の表示を開始した以降は、10分の1倍といったスロー再生麦示を行うようにしても良い。
【0074】
次に、ノード状態を変化させた場合のシミュレーション動作について説明する。
【0075】
図10(a)は、パケットアナライザ12による受信ノード数分布の解析結果の表示例を示す説明図である。図10(a)は、ノードを存在させる領域内の位置を座標化させ、それぞれの座標位置にパケットキャプチャ装置11を設置したとした場合に、周囲の何個のノードからの制御用パケットを受信できるかの解析結果を表している。
【0076】
パケットアナライザ12のシミュレーション部25は、入力装置14から、受信ノード数分布の解析結果が要求されたとき、ノード情報テーブル26の格納情報を参照しつつ、以下のようにして、受信ノード数分布の解析結果を得て、表示制御部24によって表示装置13に表示させる。
【0077】
実際に、ノードが位置している座標位置の受信ノード数は、そのノードが送信元の解析対象パケット中の近傍ノード数に、自ノードに係る「1」を足した値とする(パケットキャプチャ装置11での受信を考慮し、自ノードに係る「1」を足すこととしている)。例えば、座標「B2」の位置にノードが存在していた場合であって解析対象パケット中の近傍ノード数が「8」であれば、自ノードに係る「1」を足した結果の「9」が受信ノード数分布における受信ノード数とする。
【0078】
ノードが存在しない座標位置の受信ノード数としては、パケットキャプチャ装置11による制御用パケットの測定結果、又は、推定値を表示する。
【0079】
パケットキャプチャ装置11による制御用パケットの測定結果(受信ノード数)は、パケットキャプチャ装置11を用いて得た座標位置での受信ノード数をノード情報テーブル26に格納しておくことで、シミュレーション部25が利用する。ここで、作業員がパケットキャプチャ装置11を移動させながら収集作業して得た受信ノード数をノード情報テーブル26に格納しておくようにしても良い。また、パケットキャプチャ装置11が固定設置されている場合であれば、その固定設置されている座標についてのみ測定結果(受信ノード数)を利用するようにしても良い。この場合、各パケットキャプチャ装置11が、計測期間内で有効に受信した解析対象パケット又は制御用パケットの送信元ノードの種類数が受信ノード数となる(例えば、図7に示す処理の中にこのような計数ステップを盛り込むようにすれば良い)。
【0080】
図11は、ある座標位置での受信ノード数を推定する方法例の説明図である。各ノードに係る到達範囲から、任意の座標位置での受信ノード数を推定する。図11において、ノードNA及びNBの到達範囲が重なっている座標位置は受信ノード数2とし、ノードNA、NB及びNCの到達範囲が重なっている座標位置は受信ノード数3とするようにし、受信ノード数が未知の座標位置の受信ノード数を決定する。
【0081】
例えば、フレーム周期を8分割した時間を最小タイムスロット時間とするような場合、座標位置「B2」にノードが存在していれば、図10(a)の受信ノード数分布であれば、その存在ノードは、自ノードを含め、全9ノードとタイミング調整を行ってタイムスロットの割り当てを行うので、タイムスロットの割り当てを実行し難い。このノードの到達範囲のノード数を減少させれば、タイミング調整が行い易くなる。
【0082】
このような場合には、座標位置「B2」の到達範囲にある他ノード(全てであっても良く作業者が指示した一部であっても良い)のそれぞれについて、その1個の他ノードだけが出力を下げた状態(出力の段階が数段階であれば1段階下げる)での到達範囲をシミュレーションし、出力を調整させるのに最適なノードを選択する。ここで、最適なノードとは、出力を下げることにより、受信ノード数の分布が最も均一になるノードである。
【0083】
最適なノードをシミュレーション部25が決定する場合であれば、例えば、受信ノード数を削減したい座標位置又は調整座標位置を中心とした所定領域内に属する座標位置の受信ノード数の分散が最も小さくなる、調整結果(受信ノード数分布)をもたらす他ノードに決定すれば良い。また、出力調整の候補ノードを作業者に選択させる場合であれば、シミュレーション部25は、近傍ノード(受信ノード数)が多い他ノードの中から、又は、到達範囲が広い他ノードから選択すると良い。
【0084】
なお、シミュレーション部25は、出力を下げる段階数や調整候補などを作業者に指示させる場合であれば、表示装置13の指示を求めるような表示を行い、それに応じて、作業者が入力装置14に対して入力した内容を取り込めば良い。
【0085】
図10(b)は、座標位置「B2」の周囲のノードの送信出力を調整することで、到達範囲のノード数を減少させる場合の例であり、座標位置「D4」が調整ノードになっている例である。座標位置「D4」にノードがあり、このノードの送信出力を下げると、受信ノード数の座標毎の推定値は図10(b)のような分布になる。例えば、送信電力の調整前の到達範囲(を規定する境界曲線)を、所定割合で小さくした近似形を調整後の到達範囲とする。
【0086】
調整後の分布は、調整前の分布(図10(a)参照)において調整中心の座標位置(例えば「D4」)の到達範囲内にある座標で、調整後の到達範囲内には属さなくなった座標位置の受信ノード数は調整前より1だけ少なくし、調整前の到達範囲外であって調整後には到達範囲内になった座標位置の受信ノード数は調整前より1だけ多くし、調整の前後共に到達範囲内の座標位置の受信ノード数や、調整の前後共に到達範囲外の座標位置の受信ノード数は、調整前の受信ノード数をそのまま維持することで形成する。
【0087】
例えば、座標位置「D4」の出力調整により、座標位置「B2」は、座標位置「D4」のノードの到達範囲外になり、座標位置「B2」の近傍ノード数は減少する。
【0088】
なお、実際に、座標位置「D4」のノードの送信出力パワーを下げて運用し、座標位置「B2」の近傍ノード数が変化しない場合には、例えば、再度、座標位置「D4」のノードの送信出力を下げるか、又は、座標位置「B2」の到達範囲内の他のノードの送信出力を下げて対応する。
【0089】
ここで、図示は省略しているが、パケットアナライザ12から、パケットキャプチャ装置11を介して、ノードNに送信出力パワーの変更を指示できるようにしておくことは好ましいことである。
【0090】
また、到達範囲にある他ノード数(受信ノード数)が多いノードについてのタイムスロット期間に関する問題を、そのノードの設置位置を変更すること(ノードを移動すること)で解決することもできる。
【0091】
ノードの設置位置を変更することで到達範囲内の他ノード数を減少させようとするときには、シミュレーション部25が、どの位置にノードを移動すべきかを計算する。例えば、図10(a)に示すような座標位置「B2」のノードについては、シミュレーション部25は、到達範囲内の周囲座標のうち、近傍ノード数が最も少ない「7」の座標のいずれかに移動することに決定する。近傍ノード数が最も少ない「7」のどの座標に移動させるかは、各移動先候補での受信ノード数の分布を提示して作業者に選択させるようにしても良く、また、受信ノード数の分布が最も均一になる座標位置に自動決定するようにしても良い。図12は、座標位置「B2」のノードを座標位置「C2」に移動したときの座標毎の受信ノード数の分布である。
【0092】
この移動後の分布は、移動前の分布(図10(a)参照)において座標位置「B2」のノードの到達範囲内にある座標で、移動後の座標位置「C2」を中心とした到達範囲内には属さなくなった座標位置の受信ノード数は移動前より1だけ少なくし、移動前の到達範囲外であって移動後には到達範囲内になった座標位置の受信ノード数は移動前より1だけ多くし、移動の前後共に到達範囲内の座標位置の受信ノード数や、移動の前後共に到達範囲外の座標位置の受信ノード数は、移動前の受信ノード数をそのまま維持することで形成する。
【0093】
この移動のシミュレーションで、周囲のノードも全て、最小タイムスロット期間以上の期間を確保できることが判明できたならば(各ノードが位置する座標位置の受信ノード数が8以下であれば)、ノードを実際に移動させることに決定する。
【0094】
なお、移動のシミュレーションによる結果でも、最小タイムスロット期間を確保できないノードがあれば(当初よりできない場合だけでなく移動により新たに出現した場合を含む)、ノードを別の位置に移動させた状態のシミュレーションをさらに行う。
【0095】
以上のような各種のシミュレーションを利用しながら最適なネットワーク状態を予測しつつ、実際の解析結果をも参照しながら、ネットワーク状態を最適化する。
【0096】
(A−4)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、各ノードが、自ノードの近傍ノード情報を含むパケットを送信し、パケットアナライザがこのようなパケットを収集し、各ノードからのパケット(電波)の到達範囲やノード密度(各座標位置での受信ノード数)を解析するようにしたので、無線ネットワークの性能や障害状況をほぼリアルタイムに検知できるという効果を奏する。
【0097】
また、ノードの状態(位置や送信出力パワー)を変化させた後のネットワークの状態の推定機能を設けたので、広範囲にノードを設置している場合でも、最適なノード設置設計や障害回避対策を迅速に行うことができるようになる。
【0098】
(B)第2の実施形態
次に、本発明によるネットワーク解析システム及び方法の第2の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。以下では、上述した第1の実施形態との相違点を説明する。
【0099】
上述した第1の実施形態では、各ノードの位置や電波到達範囲(ノードからの出力パワー)をパケットアナライザ12に予め登録しておくことができる場合について説明したが、第2の実施形態では、パケットアナライザ12に各ノードの位置や電波到達範囲を予め登録できない場合に関し、各ノードの電波到達範囲やノードの位置を推定して解析しようとしたものである。
【0100】
第2の実施形態においても、解析対象の無線ネットワークの構成やネットワーク解析システムの構成などは図1で表すことができ、また、パケットアナライザ12の内部構成も図2で表すことができる。
【0101】
この第2の実施形態では、各パケットキャプチャ装置11に識別子を付与しておく。パケットアナライザ12において、各パケットキャプチャ装置11の識別子と位置とを予め対応付けておく。
【0102】
また、第2の実施形態の場合、各パケットキャプチャ装置11は、受信パケットの電界強度を計測する機能を有している。パケットキャプチャ装置11からパケットアナライザ12には、受信パケットと共に、パケットキャプチャ装置11の識別子及び電界強度も入力する。
【0103】
第2の実施形態の場合、ノード情報テーブル26は、図13に示すように、ノードが送信したパケットについて、受信可能なパケットキャプチャ装置11−iとそのパケットキャプチャ装置11−iにおける受信電界強度(例えば、実測値の平均値)を少なくとも1以上参照できるような構成としておく。
【0104】
図14は、第2の実施形態における電波到達範囲の推定動作を示すフローチャートである。
【0105】
パケットキャプチャ装置11がパケットを受信すると、パケットアナライザ12に入力し、パケットアナライザ12は、解析対象のパケットであるか否かを判定する(S31、S32)。
【0106】
解析対象パケットでなければ後述するステップS37に移行し、解析対象パケットであれば、ノード情報テーブル26の該当行を検索し、そのパケットキャプチャ装置11−iの識別子及び電界強度を記述する(S33)。
【0107】
図13のノード情報テーブル26では、パケットキャプチャ装置11の識別子及び電界強度を、3組まで記述できるようになっているが、4箇所目のパケットキャプチャ装置11が同一の送信元ノードからのパケットを受信したならば、最も電界強度の低い情報を削除する。ノード情報テーブル26を、パケットキャプチャ装置11の識別子及び電界強度を4組以上既述できるようにしても良い。
【0108】
次に、ノード情報テーブル26における複数組のパケットキャプチャ装置11の識別子及び電界強度の情報を用いて、パケットの送信元ノードの位置を計算する(S34)。所定位置での受信電界強度から、送信元の位置を推定する方法は、例えば、参考文献「沖テクニカルレビュー204号、Vol.72、No.4、pp24−27」に記載されている。受信電界強度と距離とは、図15のような関係になっているとする。仮に、3個のパケットキャプチャ装置での電界強度がRA、RB、RCであれば、これらの電界強度情報RA、RB、RCを距離dA、dB、dCに変換し、位置が分かっている各パケットキャプチャ装置からそれぞれ距離dA、dB、dCだけ離れた同一地点を、送信元ノードの位置として推定する。なお、この推定処理は、ノードの設置位置が固定ならば一度だけ実行するようにしても良い。
【0109】
送信元ノードの位置の推定方法は、上述した方法に限定されない。例えば、2個のパケットキャプチャ装置の受信時間差を用いて距離を推定し、このような距離の情報を、2個のパケットキャプチャ装置の組み合わせを変えることで複数得て、送信元ノードの位置を推定するようにしても良い。
【0110】
次に、電波到達範囲を推定する(S35)。推定方法は既存のいずれの方法を適用しても良い。
【0111】
例えば、ノード間の信号を利用する方法がある。特許文献1の記載技術では、通信タイミング制御信号を受信したノードはその通信タイミング制御信号を転送するようにしている。そこで、ある通信タイミング制御信号に対し、所定時間内に通信タイミング制御信号を転送したノードは元のノードの電波到達範囲内にあるノードとする。
【0112】
図16に示す例では、ノードN1が通信タイミング制御信号を送信した後、所定時間Δt内にノードN2、N3、N6が通信タイミング制御信号を転送送信している。これにより、3個のノードN2、N3、N6を含む範囲をノードN1の電波到達範囲とする。このような場合であれば、制御用パケットには転送を行ったノードアドレスや、転送前のパケットか転送したパケットを区別できる情報を盛り込んでおき、パケットアナライザ12は、パケットキャプチャ装置11から与えられた受信時刻情報が付与されたパケットに基づき、各ノードからの電波到達範囲を推定する。
【0113】
また、図15に示すキャリアの存在を認定する最小レベルであるキャリアセンスレベルCLに相当する距離を、電波到達範囲の限界距離とするようにしても良い。
【0114】
電波到達範囲を推定した以降は、第1の実施形態の場合(図7のS24〜S26)と同様な表示制御を行う(S36〜S38)。
【0115】
(B−3)第2の実施形態の効果
第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様な効果を奏することができ、さらに、以下のような効果を奏することができる。
【0116】
複数地点でパケットキャプチャし、パケットの送信元ノードの位置と電波到達範囲を推測することにより、ノードに特殊な受信機能を持たせることなく、また、入力装置を介して予め情報を登録することなく、ノード位置や電波到達範囲を把握して表示することができる。
【0117】
また、パケットアナライザが、あるノードが送信した信号に対する応答、転送を行うかを解析し、受信範囲(電波到達範囲)を判定する方法を適用した場合には、各ノードが、自ノードの通信範囲を周囲に通知するためのパケットを生成する必要なしに電波到達範囲を決定でき、信号のパケットサイズを小さくでき、ノードの簡易化を行うことができる。
【0118】
さらに、予めノード設置位置をパケットアナライザに登録する必要がないので、ノードが移動する場合でも、実際の位置と容易に対応付けることができる。
【0119】
(C)他の実施形態
上記各実施形態では、最小タイムスロット期間を考慮した閾値ノード数に比較して受信ノード数が多いときに、パケットアナライザ12のシミュレーション機能を利用してネットワーク構成を見直す場合を説明したが、ネットワーク構成の見直しを、他の判定基準によって行うようにしても良い。例えば、送信出力パワーから計算できる電波到達範囲と、実際に測定された電波到達範囲とが異なるときに、両範囲が近付くように、ネットワーク構成を見直すようにしても良い。
【0120】
第2の実施形態では、送信元ノードの位置の推定などに用いる受信電界強度はパケットキャプチャ装置でのもののみを示したが、解析対象パケットに挿入されている各ノードでの受信電界強度をも利用するようにしても良い。
【0121】
上記各実施形態では、通常時には、電波到達範囲を表示出力するものを示したが、作業者の選択などにより、通常時に、各座標位置での受信ノード数を表示するようにしても良い。また、出力方法は、表示出力に限定されず、印刷出力などの他の方法であっても良く、複数の出力方法を併用したものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】第1の実施形態に係るネットワーク解析システムと解析対象の無線ネットワークとの概略構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係るパケットアナライザの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態における解析対象パケットの構成を示す説明図である。
【図4】第1の実施形態におけるノード情報テーブルの構成を示す説明図である。
【図5】第1の実施形態の各ノードにおける通信タイミング計算方法の原理の説明図である。
【図6】第1の実施形態におけるノード情報テーブルの作成、更新動作を示すフローチャートである。
【図7】第1の実施形態における通信タイミングや到達範囲の解析、表示処理を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施形態におけるパケットアナライザの解析結果の表示例(その1)を示す説明図である。
【図9】第1の実施形態におけるパケットアナライザの解析結果の表示例(その2)を示す説明図である。
【図10】第1の実施形態におけるパケットアナライザによる受信ノード数分布の解析結果の表示例を示す説明図である。
【図11】第1の実施形態における任意位置でのパケットを受信できる送信元のノード数の推定方法例の説明図である。
【図12】第1の実施形態におけるノードの位置変化後の受信ノード数の分布の推定結果例を示す説明図である。
【図13】第2の実施形態におけるノード情報テーブルの構成を示す説明図である。
【図14】第2の実施形態における電波到達範囲の推定動作を示すフローチャートである。
【図15】第2の実施形態における送信元ノードの位置推定方法の説明図である。
【図16】第2の実施形態における送信元ノードからの電波到達範囲の推定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0123】
10…ネットワーク解析システム、11−1〜11−4…パケットキャプチャ装置、12…パケットアナライザ、13…表示装置、14…入力装置、21…パケット解析部、22…ノード情報更新部、23…到達範囲計算部、24…表示制御部、25…シミュレーション部、26…ノード情報テーブル、N1〜N20…ノード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信タイミング制御信号のノード間の授受に基づき、自ノードからのデータ信号を送信し得るタイムスロットを自律的に決定する通信タイミング制御手段を有する複数のノードにより構成された無線ネットワークを解析するネットワーク解析システムにおいて、
上記無線ネットワーク上の送信元ノード情報を含む上記通信タイミング制御信号を取得する通信タイミング制御信号取得手段と、
上記各ノードについて、自ノードが受信できた通信タイミング制御信号を送信した近傍ノードの情報を含む受信範囲情報を記憶するノード情報記憶手段と、
上記通信タイミング制御信号取得手段が取得した通信タイミング制御信号に基づき、上記ノード情報記憶手段に記憶されている受信範囲情報を更新する情報更新手段と、
上記ノード情報記憶手段に記憶されている情報から出力情報を形成する出力情報形成手段と、
形成された出力情報を出力する出力手段と
を有することを特徴とするネットワーク解析システム。
【請求項2】
上記出力情報が、送信元ノードからの、通信タイミング制御信号に係る電波到達範囲であることを特徴とする請求項1に記載のネットワーク解析システム。
【請求項3】
上記出力情報が、無線ネットワークの通信領域内の各位置における、通信タイミング制御信号を受信できると推測できる送信元ノードの数であることを特徴とする請求項1又は2に記載のネットワーク解析システム。
【請求項4】
上記出力情報形成手段は、上記各ノードの状態を変更したと仮定した際の上記出力情報を、上記仮定前の出力情報に基づいて形成する機能を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のネットワーク解析システム。
【請求項5】
通信タイミング制御信号のノード間の授受に基づき、自ノードからのデータ信号を送信し得るタイムスロットを自律的に決定する通信タイミング制御手段を有する複数のノードにより構成された無線ネットワークを解析するネットワーク解析方法において、
通信タイミング制御信号取得手段、ノード情報記憶手段、情報更新手段、出力情報形成手段及び出力手段を備え、
上記通信タイミング制御信号取得手段は、上記無線ネットワーク上の送信元ノード情報を含む上記通信タイミング制御信号を取得し、
上記ノード情報記憶手段は、上記各ノードについて、自ノードが受信できた通信タイミング制御信号を送信した近傍ノードの情報を含む受信範囲情報を記憶し、
上記情報更新手段は、上記通信タイミング制御信号取得手段が取得した通信タイミング制御信号に基づき、上記ノード情報記憶手段に記憶されている受信範囲情報を更新し、
上記出力情報形成手段は、上記ノード情報記憶手段に記憶されている情報から出力情報を形成し、
上記出力手段が形成された出力情報を出力する
ことを特徴とするネットワーク解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−153868(P2008−153868A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338699(P2006−338699)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度 総務省戦略的 情報通信研究開発推進制度「大規模ユビキタスセンサネットワークを自己組織化する相互適応通信制御方式の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】