説明

ネットワーク間干渉を制御する通信装置及び方法

【課題】 同一周波数帯を用いた複数のネットワーク間で生じる電力干渉の影響を、システムスループットの低下を抑制しつつ低減させる通信装置及び方法を提供する。
【解決手段】 自己が属する自ネットワーク以外の他ネットワークから送信される干渉電力を受信するOFDM復調部(受信部)22と、干渉電力と自ネットワークで生じる雑音電力との電力比をサブキャリア毎に求める伝送路評価部24と、自ネットワークが他ネットワークから受けている干渉の影響を示す干渉情報を電力比に基づいて生成する通信制御部25と、干渉情報を他ネットワークに通知するOFDM変調部(送信部)23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク間干渉を制御する通信装置及び方法に関し、より特定的には、マルチキャリア伝送方式を用いた通信システムにおける、同一周波数帯を利用する複数のネットワーク間で生じる干渉を制御する通信装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線LAN(Local Area Network)や電力線通信等の限られた周波数帯でマルチキャリア伝送を用いて高速伝送を実現する通信システムでは、隣接エリアで複数のネットワークを構成する場合にネットワーク間の電力干渉が問題となる。例えば、一般集合住宅で無線LANシステムや電力線通信システムを用いて家庭内ネットワーク(自ネットワーク)を構築することを考えた場合、隣家のネットワーク(他ネットワーク)の信号電力が自ネットワークまで届くことが容易に想定され得る。このようなネットワーク干渉を回避する手段として、システム内で複数の周波数帯を規定し、ネットワーク間で異なる周波数帯を使用する動的周波数選択方式(DFS)がある。例えば、非特許文献1を参照。
【0003】
ところが、システムによっては使用可能な周波数帯が1つに規定されているものや、複数の周波数帯が規定されているシステムでも既に全ての周波数帯を他ネットワークが使用している場合があり、同一周波数帯におけるネットワーク間の電力干渉を完全に避けることはできない。そこで、従来の同一周波数帯におけるネットワーク間の干渉制御方法としては、他ネットワークから受ける干渉電力レベルやSIR(Signal to Interference power Ratio:信号電力対干渉電力比)を推定し、マルチキャリアの全サブキャリアについて自ネットワークの送信電力を一律に制御する方法がある。例えば、非特許文献1を参照。
【非特許文献1】アイトリプルイー・スタンダード(IEEE Std)802.11h、「ワイヤレス ラン ミディアム アクセス コントロール アンド フィジカル レイヤ スペシフィケーションズ(Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layter(PHY) Specifications)」アメンドメント5(Amendment 5):スペクトラム・アンド・トランスミット・パワー・マネージメント・エクステンションズ・イン・5ギガヘルツ・バンド・イン・ヨーロッパ(Spectrum and Transmit Power Management Extensions in 5GHz band in Europe)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の同一周波数帯におけるネットワーク間の干渉制御方法では、適用するシステムの伝送路特性が周波数特性を持つ(すなわち、受信特性がサブキャリア毎に異なる)場合においても、全サブキャリアに関して一律に送信電力を制御する。その結果、一部のサブキャリアで過剰な干渉電力の影響を受ける場合、そのサブキャリアのSNR(Signal to Noise power Ratio)を保持するために全サブキャリアの送信電力を上げることになり、無駄な電力消費を招くという課題を有する。さらに、自ネットワーク内だけで電力制御を行うことにより、他ネットワークへの干渉電力を増大させる等、自ネットワークの制御により他ネットワークに対してどのように影響を及ぼすかを判定できないという課題も有する。
【0005】
それ故に、本発明の目的は、他ネットワークから受信できるデータ(伝送路評価フレームやパイロット信号等)を用いて自ネットワーク内のINR(Interference to Noise power Ratio)をサブキャリア毎に観測し、その結果を用いて他ネットワークにおいてサブキャリア毎に送信電力を制御させることにより、システムスループットの低下を抑制しつつネットワーク間の干渉を回避することができる通信装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、同一周波数帯を利用するネットワークを複数形成したマルチキャリア伝送方式を用いた通信システムを構成する通信装置に向けられている。そして、上記目的を達成させるために、本発明の通信装置は、干渉を受ける通信装置側が受信部、伝送路評価部、通信制御部、及び送信部を備え、干渉を与える通信装置側が受信部、及びサブキャリア電力制御部を備える。
【0007】
干渉を受ける通信装置側において、受信部は、自己が属する自ネットワーク以外の他ネットワークから送信される干渉電力を受信する。伝送路評価部は、干渉電力と自ネットワークで生じる雑音電力との電力比を、サブキャリア毎に求める。通信制御部は、自ネットワークが他ネットワークから受けている干渉の影響を示す干渉情報を、電力比に基づいて生成する。送信部は、干渉情報を他ネットワークに通知する。
【0008】
典型的には、干渉情報は、電力比が所定の閾値以下であるサブキャリアに関する情報であるか、電力比が所定の上限閾値以上であるサブキャリアに関する情報及び電力比が所定の下限閾値以下であるサブキャリアに関する情報である。
【0009】
また、受信部は、サブキャリア毎の伝送路特性が検出できる伝送路評価フレームを、他ネットワークから受信し、伝送路評価部は、伝送路評価フレームを用いて電力比を求めることが好ましい。また、受信部は、サブキャリア毎の伝送路特性が検出できるパイロット信号が挿入されたデータフレームを、他ネットワークから受信し、伝送路評価部は、データフレーム内に挿入されたパイロット信号を用いて電力比を求めることが好ましい。なお、受信部は、他ネットワークから干渉を受けている自ネットワークに属する他の通信装置から干渉情報を収集し、通信制御部は、自己及び他の通信装置で生成された複数の干渉情報を合成して1つの干渉情報を生成してよい。
【0010】
一方、干渉を与える通信装置側において、受信部は、自己が属する自ネットワーク以外の他ネットワークから送信される、サブキャリア毎に求められた自ネットワークが送信する干渉電力と他ネットワークで生じている雑音電力との電力比に基づいて生成された干渉情報を、受信する。サブキャリア電力制御部は、干渉情報に基づいて、自ネットワーク内での送信電力をサブキャリア毎に制御する。
【0011】
この干渉を与える通信装置側の受信部は、他ネットワークに属する複数の通信装置から複数の干渉情報を収集し、サブキャリア電力制御部は、複数の干渉情報を総合的に判断して自ネットワーク内での送信電力を制御することが好ましい。
【0012】
上述した通信装置の各構成が行うそれぞれの処理は、一連の処理手順を与える伝送路評価方法として捉えることができる。この方法は、一連の処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラム等のソフトウエア形式又はLSI等のハードウエア形式で提供される。このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で、コンピュータに導入されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サブキャリア毎の干渉情報に基づいて他ネットワークに対して送信電力を制御するように通知することができるので、他ネットワークのシステムスループット低下を抑制しつつ、自ネットワークへの干渉の影響を低減させることができる。また、サブキャリア毎の干渉情報に基づいて自ネットワークの送信電力を制御することができるので、自ネットワークのシステムスループット低下を抑制しつつ、他ネットワークへの干渉を軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る通信装置を構成に含む電力線通信システムの構成例を示す図である。図1に示す電力線通信システムは、マルチキャリア伝送方式を用いたシステムであり、通信装置A1、A2、A3…によって論理ネットワークAが、通信装置B1、B2、B3…によって論理ネットワークBが形成されている。各通信装置A1、A2、A3…の間、各通信装置B1、B2、B3…の間、及び論理ネットワークAと論理ネットワークBとの間は、通信媒体である電力線11で接続されている。よって、この電力線通信システムでは、一方の論理ネットワークA(又はB)が、他方の論理ネットワークB(又はA)から干渉電力を受けることになる。
【0015】
以下、論理ネットワークAが論理ネットワークBから干渉を受ける場合、すなわち論理ネットワークBに属する通信装置B1、B2、B3…(以下、与干渉通信装置41と記す)から送信されるフレームが論理ネットワークAに属する通信装置A1、A2、A3…(以下、被干渉通信装置21と記す)に干渉を与える場合(図1、矢印12の経路)を一例に挙げて、本発明の通信装置及び方法を説明する。なお、図1では、通信装置B1が干渉電力の発信源である場合を示している。
【0016】
(1)被干渉通信装置
図2は、論理ネットワークBから干渉を受ける論理ネットワークAに属する被干渉通信装置21の詳細な構成例を示す図である。図2において、被干渉通信装置21は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)復調部22と、OFDM変調部23と、伝送路評価部24と、通信制御部25とを備える。
【0017】
まず、図2に示した被干渉通信装置21の各構成の概要を説明する。
OFDM復調部22は、受信部の機能を兼ね備えており、電力線11を介してOFDM変調されたデータを受信すると共に、この受信データをOFDM復調する。伝送路評価部24は、受信データが、伝送路評価フレーム等の通信状態を把握できる情報を含んだデータである場合に、各サブキャリアのSNRを測定する。通信制御部25は、データ送受信の制御、データ種別の識別、及び伝送路評価部24における評価に従った干渉制御等を行う。OFDM変調部23は、送信部の機能を兼ね備えており、通信制御部25から出力される送信データをOFDM変調すると共に、変調後の送信データを電力線11上に送出する。
【0018】
通常、電力線通信システムでは、各論理ネットワーク内で高速伝送を実現するために、OFDM方式によるマルチキャリア伝送、かつサブキャリア毎に伝送路特性に対応した変調多値数を設定してデータ通信を行う、DMT(Discreat Multi Tone)方式を採用している。このとき、データ送信側の通信装置では、伝送路特性に対応した変調多値数を決定するために、伝送路評価のために既知系列(例えば、PN(Pesudo Noise)系列等)を含んだ伝送路評価用フレームを、データ受信側の通信装置に向けて送信する。一方、データ受信側の通信装置では、受信データをOFDM復調部22で復調した後、受信データが伝送路評価フレームであると通信制御部25で判断すると、伝送路評価部24で各サブキャリアのSNRを測定する。この測定結果から、通信制御部25が、各サブキャリアで使用すべき変調多値度を決定し、この決定した変調多値度をデータ送信側に通知するための通知フレームを生成する。OFDM変調部23は、この通知フレームを変調してデータ送信側の通信装置へ返信し、以後のデータ通信をこの決定した変調多値度を用いて行う。このシーケンスによりDMTを実現し、論理ネットワークA内での伝送路特性に応じた高速データ通信を実現している。
【0019】
次に、上述した一連のシーケンスにおいて、論理ネットワークA(自ネットワーク)に属する被干渉通信装置21が、論理ネットワークB(他ネットワーク)で使用される伝送路評価フレームを受信した場合を考える。この場合、論理ネットワークB用の伝送路評価フレームもフレーム内のデータは既知系列であるため、被干渉通信装置21は、上記と同様に伝送路評価部24での伝送路評価が可能となる。しかし、この場合における伝送路評価は、論理ネットワークA内での伝送路評価の場合と大きく異なり、その評価結果は各サブキャリアのSNRではなくINRとなる。すなわち、論理ネットワークBに属する通信装置から受ける干渉電力と、論理ネットワークAで生じている雑音電力との比になる。
【0020】
図3に、論理ネットワークBから伝送路評価フレームを受信した場合の伝送路評価部24におけるINRの評価結果の一例を示す。図3では、サブキャリア数がN(N:自然数)の場合であって、伝送路特性として各サブキャリアで異なるINRが得られた状態を示している。
【0021】
図3において、サブキャリア番号#1及び#2のようにINRが小さい値をとる場合としては、干渉電力が小さいか、又は干渉電力は大きいが雑音電力も大きいかのいずれかの状態が考えられる。しかし、このINR情報だけでは、上記いずれの状態であるかは判断できない。だが、いずれの状態であっても、論理ネットワークAの伝送路評価としては、サブキャリアのSNRが大きいか小さいかに関係なく、論理ネットワークBから受ける干渉の影響は小さいと判断できる。すなわち、論理ネットワークAにおける干渉電力が小さい場合はもとより、干渉電力が大きいとしても論理ネットワークA内の雑音電力が大きければ干渉電力が論理ネットワークAにおけるSNRに与える影響が小さくなるためである。このように、論理ネットワークAにおけるINRが小さいということは、論理ネットワークBが論理ネットワークAに与える影響が小さいということになる。
【0022】
一方、サブキャリア番号#3及び#4のようにINRが大きい値をとる場合としては、干渉電力が大きいと推定することができ、論理ネットワークBから受ける干渉の影響が大きいと判断できる。このように、被干渉通信装置21において、論理ネットワークBから伝送路評価フレームを受信して伝送路評価を行うことにより、各サブキャリアの論理ネットワークBからの干渉度合いを容易に判断することができる。
【0023】
なお、論理ネットワークAの通信制御部25は、INRの下限閾値及び/又は上限閾値を予め設定しておき、いずれかの閾値を越えたサブキャリアに関する情報のみを論理ネットワークB側に通知してもよい。例えば、図3に示すように下限閾値31と上限閾値32とを予め設定した場合には、INRが下限閾値31を下回るサブキャリア(サブキャリア番号#1及び#2)又はINRが上限閾値32を上回るサブキャリア(サブキャリア番号#3及び#4)に関する情報のみが、論理ネットワークBに対して通知されるように設定しても構わない。このようにすることで、電力制御レベルの柔軟性は劣るものの、少ないデータ量で論理ネットワークBに干渉情報を通知することができる。
【0024】
そして、被干渉通信装置21は、このようにして得られた各サブキャリアのINR情報を、通信制御部25においてフレーム化し、OFDM変調部23から送信し、論理ネットワークBに対して通知する。それにより、論理ネットワークBにおいてINRの小さいサブキャリアの送信電力を増加させる一方で、INRの大きいサブキャリアの送信電力を減少させるという、サブキャリア毎の電力調整を制御することが可能となる。
【0025】
なお、論理ネットワークAの通信制御部25から論理ネットワークBに対する通知は、論理ネットワークBの通信装置B1だけに対して行われてもよいし、論理ネットワークBに属する全ての通信装置B1、B2、B3…に対して行われてもよい。
【0026】
(2)与干渉通信装置
図4は、論理ネットワークAに干渉を与える論理ネットワークBに属する与干渉通信装置41の詳細な構成例を示す図である。図4において、与干渉通信装置41は、OFDM復調部22と、OFDM変調部43と、伝送路評価部24と、通信制御部45と、サブキャリア電力制御部46とを備える。図4のOFDM復調部22及び伝送路評価部24は、図2で説明した構成と同一である。
【0027】
まず、図4に示した与干渉通信装置41の各構成の概要を説明する。
OFDM復調部22は、電力線11を介して受信されるOFDM変調された受信データを復調する。伝送路評価部24は、受信データが、伝送路評価フレーム等の通信状態を把握できる情報を含んだデータである場合に、各サブキャリアのSNRを測定する。サブキャリア電力制御部46は、受信データが、通知フレーム等の干渉情報を含んだデータである場合に、サブキャリア毎の電力制御を行う。通信制御部45は、データ送受信の制御、データ種別の識別、伝送路評価部24における評価に従った干渉制御、及び通知フレームの干渉情報に従った電力制御等を行う。OFDM変調部43は、通信制御部45から出力される送信データを変調し、サブキャリア電力制御部46の指示に基づく送信電力によってデータを送信する。
【0028】
次に、上記被干渉通信装置21で説明した一連のシーケンスにおいて、論理ネットワークB(自ネットワーク)に属する与干渉通信装置41が、OFDM復調部22を介して、論理ネットワークA(他ネットワーク)から返送される干渉情報を含んだ通知フレームを受信した場合を考える。この場合、通信制御部45は、通知フレームに含まれる干渉情報(例えば、図3のINR情報等)から、サブキャリアが論理ネットワークAに干渉を与えているか否かをサブキャリア単位で判定する。そして、通信制御部45は、判定した結果に基づいて、各サブキャリアの送信電力を制御すべきかどうかを判断し、また送信電力をどれだけ増減させるかを決定して、その送信電力情報をサブキャリア電力制御部46に通知する。サブキャリア電力制御部46は、通知された送信電力情報を管理し、以降OFDM変調部43から送信される全てのデータについて送信電力情報に基づく電力制御を指示する。
【0029】
今、図3の各サブキャリアのINR値を干渉情報として受信したと仮定する。この結果に基づいて、例えば、下限閾値31を下回るサブキャリア番号#1及び#2のサブキャリアについて、下限閾値31と各INRとの差分だけそれぞれ送信電力を上げる制御が行われる。また、上限閾値32を上回るサブキャリア番号#3及び#4のサブキャリアについて、上限閾値32と各INRとの差分だけそれぞれ送信電力を下げるという制御が行われる。
【0030】
この制御を行うことにより、全てのサブキャリアに関して論理ネットワークAで観測されるINRが上限閾値32と下限閾値31との間に収まることになり、論理ネットワークAへの干渉の影響を軽減できる。さらに、論理ネットワークAへ与える干渉レベルを抑えながらINRを判断基準とするため電力増加も可能となり、システムレートの低下を抑制しつつ干渉制御を行うことが可能となる。なお、与干渉通信装置41が、論理ネットワークAに属する複数の被干渉通信装置21から複数の通知フレームを受信した場合には、各通知フレームに含まれる複数の干渉情報を総合的に判断して、例えば各サブキャリアについてINRの最大値を求めて干渉電力情報を生成すればよい。
【0031】
上記実施形態で説明したネットワーク間干渉を制御する方法は、各論理ネットワークが複数の子局及び当該複数の子局を集中的に管理/制御する親局で構成される集中制御方式を採用している場合にも、同様に適用することが可能である。図5は、集中制御方式の論理ネットワークを採用した電力線通信システムの構成例を示す図である。この図5では、論理ネットワークAの通信装置A1が親局A1に、通信装置A2、A3…が子局A2、A3…に、論理ネットワークBの通信装置B1が親局B1に、通信装置B2、B3…が子局B2、B3…である場合を示している。
【0032】
図5において、親局A1、子局A2、子局A3…は、親局B1が子局B2に送信した伝送路評価フレームをそれぞれ受信し、伝送路評価部24において各サブキャリアのINRをそれぞれ測定する。そして、親局A1、子局A2、子局A3…は、測定結果に基づく干渉情報を親局B1にそれぞれ通知する。
【0033】
ここで、伝送路特性には非可逆性を有する場合が一般的であるため、各被干渉通信装置21から返送される通知フレームが全て親局B1に到達するとは限らない。例えば、図5の子局A2から返送される通知フレームが伝送路の非可逆性のために親局B1に到達しない場合には、親局B1は、子局A2への干渉の影響を把握することができず、子局A2以外に及ぼす影響のみを考慮した電力制御を行うことになる。
【0034】
そこで、このような問題を回避するために、伝送路評価フレームを受信した全ての子局A2、A3…は、求めた干渉情報を親局A1に通知する。そして、親局A1が、通知された全ての干渉情報から各サブキャリアのINRの最大値を取得し、論理ネットワークAにおける干渉情報を生成して、通知フレームで親局B1に送信する。これにより、論理ネットワークA内の全ての被干渉通信装置21に対する影響を考慮した干渉情報を、確実に論理ネットワークBに通知することが可能となり、親局B1によるサブキャリア毎の電力制御も論理ネットワークA内の全ての被干渉通信装置21に応じた制御が可能となる。
【0035】
なお、論理ネットワークBに干渉情報を通知する被干渉通信装置21は、親局B1とデータ送受信が可能であれば、親局A1以外であってもよい。また、論理ネットワークBにおいても同様のことが言え、親局B1が論理ネットワークAからの受信が困難である場合には、任意の子局B2、B3…が通知フレームを代理で受信して、その後に親局B1に転送するようにしても構わない。
【0036】
以上のように、本発明の一実施形態に係る通信装置及び方法によれば、自ネットワーク内で求めたサブキャリア毎の干渉情報に基づいて、他ネットワークに対して送信電力を制御するように通知することができるので、他ネットワークのシステムスループットの低下を抑制しつつ、自ネットワークへの干渉の影響を低減させることができる。また、自ネットワーク内で求めたサブキャリア毎の干渉情報に基づいて、自ネットワークの送信電力を制御することができるので、自ネットワークのシステムスループットの低下を抑制しつつ、他ネットワークへの干渉を軽減させることができる。
【0037】
なお、上記実施形態では、論理ネットワークAに属する通信装置についてはサブキャリアの送信電力制御が行われない場合を説明した。しかし、論理ネットワークAでも論理ネットワークBと同様にサブキャリアの送信電力を制御する場合には、図2に示した被干渉通信装置21の構成は、図4に示した与干渉通信装置41と同様にサブキャリア電力制御部46を有する構成となる。この構成にすれば、ネットワーク間相互の干渉回避を実現することができる。
【0038】
また、上記実施形態で説明したネットワーク間干渉を制御する方法を実現できるシステムは、上述した電力線通信システムに限られるものではなく、無線LANをはじめとする無線通信システムにおいても同様の構成により実現が可能である。その場合、伝送路評価フレームが存在しないシステムも考えられるが、伝送路評価自体は特別な伝送路評価フレームを用いて行う必要はなく、伝送路評価用のパイロット信号が組み込まれたシステムであれば、このパイロット信号を複数収集して平均化する等の手法により、同様の伝送路評価結果を得ることができる。
【0039】
また、上記実施形態では、マルチキャリア伝送方式の一例としてOFDM伝送方式を用いて説明したが、この伝送方式はFFTベースのOFDMに限定されるものではなく、Wavelet変換を用いたWavelet−OFDMや、直交性を利用せず単に周波数帯を複数用いてデータ通信する方式等の、他のマルチキャリア伝送方式であってもよい。
【0040】
さらに、論理ネットワークBから論理ネットワークAへ伝送路評価フレームが送信される伝送経路と、論理ネットワークAから論理ネットワークBへ干渉情報を含む通知フレームが送信される伝送経路とが、異なる場合もあり得る。この場合、必要に応じて、フレームがOFDM復調部を介さずに通信制御部に外部から直接入力されることになる。
【0041】
図6に、本発明を適用した電力線通信システムの具体例を示しておく。図6では、本発明の機能を備えた、パーソナルコンピュータ、DVDレコーダ、デジタルテレビ、及びホームサーバシステム等のマルチメディア機器が備えるIEEE1394のインタフェースやUSBインタフェース等と電力線とを接続している。これにより、電力線を媒体としたマルチメディアデータ等のデジタルデータを高速伝送できるネットワークシステムを構築することができる。このシステムでは、従来の有線LANのようにネットワークケーブルを新たに設置することなく、家庭やオフィス等にすでに設置されてる電力線をそのままネットワーク回線として利用できるので、コスト面及び設置容易の面からその利便性は大きい。なお、本発明の機能は、マルチメディア機器に内蔵されてもよいし、電力線とマルチメディア機器との間に挿入されるアダプタ等に組み込まれてもよい。前者の場合には、IEEE1394ケーブルやUSBケーブル等が不要になり、配線が簡素化される。また、ルータを介したインターネットへの接続や、無線/有線LANにハブ等を用いて接続することができるので、本発明の高速電力線伝送システムを用いたLANシステムの拡張も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の通信装置及び方法は、マルチキャリア伝送方式を用いた通信システム等に利用可能であり、特に同一周波数帯を利用する複数のネットワーク間で生じる干渉を制御する場合等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る通信装置を構成に含む電力線通信システムの構成例を示す図
【図2】論理ネットワークAに属する被干渉通信装置21の詳細な構成例を示す図
【図3】図2の伝送路評価部24におけるINRの評価結果の一例を示す図
【図4】論理ネットワークBに属する与干渉通信装置41の詳細な構成例を示す図
【図5】集中制御方式の論理ネットワークを採用した電力線通信システムの構成例を示す図
【図6】本発明を適用した電力線通信システムの具体例を示す図
【符号の説明】
【0044】
A、B 論理ネットワーク
A1〜A3、21 通信装置(被干渉通信装置)
B1〜B3、41 通信装置(与干渉通信装置)
11 電力線
22 OFDM復調部(受信部)
23、43 OFDM変調部(送信部)
24 伝送路評価部
25、45 通信制御部
31 INRの下限閾値
32 INRの上限閾値
46 サブキャリア電力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一周波数帯を利用するネットワークを複数形成したマルチキャリア伝送方式を用いた通信システムを構成する通信装置であって、
自己が属する自ネットワーク以外の他ネットワークから送信される干渉電力を受信する受信部と、
前記干渉電力と自ネットワークで生じる雑音電力との電力比を、サブキャリア毎に求める伝送路評価部と、
自ネットワークが他ネットワークから受けている干渉の影響を示す干渉情報を、前記電力比に基づいて生成する通信制御部と、
前記干渉情報を他ネットワークに通知する送信部とを備える、通信装置。
【請求項2】
前記干渉情報は、前記電力比が所定の閾値以下であるサブキャリアに関する情報であることを特徴とする、請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記干渉情報は、前記電力比が所定の上限閾値以上であるサブキャリアに関する情報、及び前記電力比が所定の下限閾値以下であるサブキャリアに関する情報であることを特徴とする、請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記受信部は、サブキャリア毎の伝送路特性が検出できる伝送路評価フレームを、他ネットワークから受信し、
前記伝送路評価部は、前記伝送路評価フレームを用いて前記電力比を求めることを特徴とする、請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記受信部は、サブキャリア毎の伝送路特性が検出できるパイロット信号が挿入されたデータフレームを、他ネットワークから受信し、
前記伝送路評価部は、前記データフレーム内に挿入されたパイロット信号を用いて前記電力比を求めることを特徴とする、請求項1に記載の通信装置。
【請求項6】
前記受信部は、他ネットワークから干渉を受けている自ネットワークに属する他の通信装置から前記干渉情報を収集し、
前記通信制御部は、自己及び他の通信装置で生成された複数の干渉情報を合成して1つの干渉情報を生成することを特徴とする、請求項1に記載の通信装置。
【請求項7】
同一周波数帯を利用するネットワークを複数形成したマルチキャリア伝送方式を用いた通信システムを構成する通信装置であって、
自己が属する自ネットワーク以外の他ネットワークから送信される、サブキャリア毎に求められた自ネットワークが送信する干渉電力と他ネットワークで生じている雑音電力との電力比に基づいて生成された干渉情報を、受信する受信部と、
前記干渉情報に基づいて、自ネットワーク内での送信電力をサブキャリア毎に制御するサブキャリア電力制御部とを備える、通信装置。
【請求項8】
前記受信部は、他ネットワークに属する複数の通信装置から複数の前記干渉情報を収集し、
前記サブキャリア電力制御部は、前記複数の干渉情報を総合的に判断して自ネットワーク内での送信電力を制御することを特徴とする、請求項7に記載の通信装置。
【請求項9】
同一周波数帯を利用するネットワークを複数形成したマルチキャリア伝送方式を用いた通信システムを構成する通信装置が実行する通信方法であって、
自己が属する自ネットワーク以外の他ネットワークから送信される干渉電力を受信するステップと、
前記干渉電力と自ネットワークで生じる雑音電力との電力比を、サブキャリア毎に求めるステップと、
自ネットワークが他ネットワークから受けている干渉の影響を示す干渉情報を、前記電力比に基づいて生成するステップと、
前記干渉情報を他ネットワークに通知するステップとを備える、通信方法。
【請求項10】
同一周波数帯を利用するネットワークを複数形成したマルチキャリア伝送方式を用いた通信システムを構成する通信装置が実行する通信方法であって、
自己が属する自ネットワーク以外の他ネットワークから送信される、サブキャリア毎に求められた自ネットワークが送信する干渉電力と他ネットワークで生じている雑音電力との電力比に基づいて生成された干渉情報を、受信するステップと、
前記干渉情報に基づいて、自ネットワーク内での送信電力をサブキャリア毎に制御するステップとを備える、通信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−68007(P2007−68007A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253434(P2005−253434)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】